判例検索β > 令和1年(う)第1251号
被告人aに対する殺人、死体遺棄、被告人bに対する殺人幇助、死体遺棄
事件番号令和1(う)1251
事件名被告人aに対する殺人,死体遺棄,被告人bに対する殺人幇助,死体遺棄
裁判年月日令和元年12月10日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
原審裁判所名千葉地方裁判所
原審事件番号平成30(わ)1346
裁判日:西暦2019-12-10
情報公開日2020-01-09 16:00:10
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令和元年12月10日宣告東京高等裁判所第12刑事部判決
令和元年(う)第1251号被告人aに対する殺人,死体遺棄被告事件,被告人bに対する殺人幇助,死体遺棄被告事件
主文
原判決中被告人bに関する部分を破棄する
被告人bを懲役6年に処する
被告人bに対し,原審における未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
被告人aの本件控訴を棄却する。
被告人aに対し,当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入する。
理由
被告人aの主任弁護人内藤裕二郎及び弁護人島田亮の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反(審理不尽)及び量刑不当(量刑事情に関する事実誤認を含む。)の主張であり,被告人bの主任弁護人池田和郎及び弁護人山本祥平の控訴趣意は,事実誤認及び量刑不当の主張である。
第1本件の概要
1本件は,被告人aが同人の妻を殺害し,その際,被告人aの母である被告人bがこれを幇助し,被告人両名が被害者の死体を埋めて遺棄したという,被告人aに対する殺人及び死体遺棄,被告人bに対する殺人幇助及び死体遺棄の事案である。2原判決は,罪となるべき事実として,要旨,次の事実を認定している。第1被告人aは,強迫性障害を患っていた妻である被害者を殺害して行方不明を装うことを考え,平成30年3月4日(以下,特に断らない限り平成30年である。),千葉県柏市内の当時の被告人方において,当時30歳の被害者に睡眠導入剤入りのカレーを食べさせた上,同市内の路上に駐車中の自動車内において,被害者の頸部を両手及び延長コードで絞めつけて殺害し,第2被告人bは,息子である被告人aから被害者の殺害を打ち明けられ,上記第1の犯行に際し,その情を知りながら,12月下旬頃,被告人aに被害者の死体を埋める場所として茨城県内の被告人b方敷地の使用を提案して同所の提供を約束し,2被告人aの依頼に応じ,3月1日,ホームセンターで被害者の死体を埋める穴を掘る道具としてショベル等を購入し,33月2日,被告人b方敷地内において,被告人aに被害者の死体を埋める場所として同所を提供した上,被告人aと共に上記ショベル等を使用して被害者の死体を埋める穴を掘る作業を行い,第3被告人両名は,共謀の上,3月4日,被告人b方敷地内において,上記第2のとおり,あらかじめ掘った穴に被害者の死体を入れ,上から土をかけるなどして埋め,死体を遺棄した。第2被告人aの訴訟手続の法令違反(審理不尽)の主張について
論旨は,原審弁護人(当審弁護人と同じ)が量刑検索システムの量刑分布を使用する場合,本件は介護疲れの類型に類似すると主張したのに対し,原判決は,原審弁護人は,本件が介護疲れ類型に当たると主張するので検討するとした上で,本件は介護疲れ類型に該当しないから介護疲れ類型の量刑分布を使うべきでないとの結論を出している,しかし,これは,原判決が原審弁護人の主張を誤解し,原審弁護人の本来の主張を無視したまま量刑判断を行ったものであり,原判決には審理不尽の違法がある,というのである。
結局のところ,論旨は,本件においては,介護疲れ類型の量刑分布を使うべきであったのに,それを使わなかったという理由で原判決を論難するものである。この主張は,審理不尽の主張としてなされているが,要するに本件の社会類型は介護疲れの類型とみて量刑判断を行うべきなのに,原判決は社会類型の見立てを誤り,本来用いることのできない異なった社会類型の量刑分布を基礎として量刑判断をしていることを批判するもので,量刑事情に関する事実誤認の主張というべきである。原判決に論旨のいう誤解がないことは,後に被告人aの量刑事情に関する事実誤認の主張に対する判断で説示するとおりである。
弁護人の審理不尽の主張は採用できない。
第3被告人bの事実誤認の主張について
1論旨は,要するに,原審弁護人の主張と同じく,①殺人幇助については,被告人bは,被告人aが本気で殺害行為に及ぶとは考えていなかった,原判決が幇助行為と認定している被告人bによる被告人aへの対応は,被告人aと話を合わせることで,被告人aの精神状態を安定させるという目的に基づき,いわばその場しのぎの相づちのような対応が連綿と続いたものにすぎず,被告人bには,正犯の実行行為の可能性の認識がなかったから,殺人幇助の故意を欠き無罪である,②死体遺棄については,犯罪の成立は争わないが,被告人aとの共謀の成立時期は,被害者を殺害した後である,しかるに,③原判決は,原判示第2のとおり殺人幇助罪の成立を認め,かつ,殺害前に原判示第3の死体遺棄の共謀が成立したと認定しており,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。2⑴問題の所在
被告人bに原判示第2の殺人幇助罪が成立する場合には,殺害前に被告人bが被告人aと共に死体を埋める穴を掘る作業を行うなどの本件幇助行為を行ったこととなり,殺害前に原判示第3の死体遺棄罪の共謀が成立していたことになる。そこで,まずは,被告人bに殺人幇助罪が成立するか否かを検討する。
従犯は,幇助者が幇助意思に基づき幇助行為をすることによって成立する。幇助意思,すなわち,幇助の故意は,幇助者が正犯者の実行行為を認識し,かつ,自己の幇助行為が正犯者の実行を容易にするものであることを認識・認容することが必要である。そうすると,本件において,殺人幇助罪が成立するには,被告人bによる幇助行為時に,被告人bにおいて,被告人aが被害者を殺害することを認識していたこと(原判決がいう正犯の実行行為の可能性の認識)及び幇助行為が被告人aの殺害行為を容易ならしめることを認識・認容していたこと(原判決がいう行為の幇助性の認識)が必要である。
⑵原判決の認定
原判決は,被告人bの本件幇助行為として,原判示第2の1ないし3の事実,すなわち,被告人bが,①死体を埋める場所として自宅敷地の提供を提案(原判示第2の1),②死体を埋める穴を掘る道具の購入(同第2の2),③被告人aと共に死体を埋める穴を掘る作業(同第2の3),をそれぞれ行ったことを認定している。加えて,原判決は,幇助行為開始後の事情として,被告人bは,④被告人aから絞殺する旨聞き,頚動脈を絞めると苦しまない,喉仏は苦しめる旨助言した,⑤3月2日の穴掘り終了後,被告人aから雨が降ったら穴が水没してしまうので,そんなに長くはもたない,もし穴を使うのであれば早めにやらなければならないと言われ,また,その頃,やるなら3月3日か4日しかない旨言われた,⑥3月2日,被告人aから,被害者を殺害した場合の合図として妻が出ていった旨のメッセージを送るとの説明を受けた,⑦3月2日から3日にかけて,被害者を埋める際に使用した消毒用の石灰,消臭用の木炭,バスタオルを購入した事実を認定している。その上で,原判決は,まず,幇助の故意の要件の1つである幇助者が正犯者の実行行為を認識していたこと,つまり,原判決がいう正犯の実行行為の可能性の認識について,原判示第2の1ないし3の事実,すなわち,上記①ないし③の行為が客観的に被害者殺害を幇助する性質を持つことは明らかであり,被告人bにはその認識もあったから,被告人bは,自己の行為が加わることによって,殺害計画の実現可能性が高まっていく認識を有していたと推認されるとしている。そして,上記④の頚動脈を絞めると苦しまない等の助言は,実際に被告人aが殺害する場面を具体的に想定しなければできないものであり,上記③の穴掘り作業,上記⑤のやるなら3月3日か4日しかないという発言,上記⑥の殺害した場合の合図の説明は,いずれも被告人aによる殺害実行の時期が切迫しつつあることを認識させる事情であるとする。また,上記⑦の石灰購入等の準備行為は,被告人bが死体遺棄を具体的に想定し,これに積極的に取り組もうとしていたことを示す事情であるとする。以上を踏まえて,原判決は,被告人bは,幇助行為を行う中で,被告人aが実際に被害者殺害行為に及ぶ前に,その可能性が高いものと認識し,実際に殺害を前提とした行動をとっていたと認められると説示し,正犯の実行行為の可能性の認識があった旨認定した。
次に,原判決は,幇助の故意のもう1つの要件である自己の幇助行為が正犯者の実行を容易にするものであることを認識・認容すること,つまり,原判決がいう行為の幇助性の認識について,行方不明を装う本件殺害計画においては,被害者の死体は絶対に発見されてはならないから,死体が発見されないと思える場所が見つからなければ,被告人aは事実上殺害に着手できなかったと認められる,その意味で,殺害の可否が死体遺棄の成否に依存しており,殺害と死体遺棄は表裏一体だったと評価できるとしている。そして,被告人aが死体遺棄の場所として当初考えていた別荘地の選定が全く進んでいない状況において,被告人bによる自宅敷地の提案と提供は,状況を打破するブレイクスルーとなり,死体遺棄を物理的に可能とすることで,殺害を心理的に可能にしたと評価できるとしている。また,被告人aは多忙でショベル等を購入する時間がなかったが,被告人bが代わりに購入することでこの問題を解決できた。このように,被告人bの行為は,客観的に被告人aによる行方不明を装う本件殺害計画を補完しており,幇助効果を持つことは明らかであって,被告人bは,自身の行為が被告人aによる殺害計画の幇助となる旨認識していたことは優に認められると説示している。
⑶上記の原判決の認定,評価,判断には,論理則,経験則等に照らして不合理なところはない。
若干敷衍すると,被告人bが行った原判示第2の1ないし3の死体を埋める場所の提案及び提供,死体を埋める穴を掘る道具の調達及び現実に穴を掘る作業という行為は,直接的には死体遺棄に向けた準備行為のように見えるが,原判決がいうように本件における被害者の殺害と死体遺棄は表裏一体の関係にあったことに照らすと,被告人aによる殺害行為の幇助行為に当たることは明らかである。また,上記幇助行為は,行方不明を装った本件殺害計画における殺害後の死体隠ぺいに向けられた行為にほかならず,翻って死体隠ぺいの準備が整うことが,取りも直さず被告人aの有していた被害者殺害の決意を格段に強め,一気に殺害実行に進む結果となることは,被告人b自身当然認識できたはずである。したがって,被告人bは,被告人aが被害者を殺害することを認識し,かつ,自らの幇助行為が被告人aの殺害行為を容易ならしめるものであることを認識・認容していたことは明らかである。
被告人bに殺人幇助罪の成立を認めた原判決に誤りはなく,殺害前に死体遺棄の共謀が成立していたとの原判決の認定にも誤りはない。
3⑴所論は,原判決は,被告人bが被告人aから上記2⑵⑤のとおり雨が降ったら穴が水没するので長くはもたない,3月3日か4日しかない旨言われたと認定しているが,その事実認定は誤っている,という。しかしながら,被告人bは,原審公判廷において,被告人aと3月3日か4日しかない旨の話をしたこと自体はあったと供述している(原審被告人b供述調書79頁)。また,被告人aは,原審公判廷において,穴がもし雨が降ったら水没してしまうので,そんなに長くはもたないと思う,もし穴を使うんであれば早めにやらなければならないという話は被告人bとしたと思う旨供述している(原審被告人a供述調書73頁)。被告人両名の上記各供述の信用性を認め,上記事実を認定した原判決に誤りはない。所論は,非常に深い穴であれば,多少の雨が降っても水没することはない,本件のように十分な深さの穴であるにも関わらず,多少の雨で水没するというのは極めて不合理である,したがって,このような不合理な発言を被告人aがしたということ自体信用できない,という。しかしながら,被告人aが水没の程度をどのように考えていたかは不明であるが,水没を理由として早く殺害及び死体遺棄に及ぶ必要がある旨被告人bに話したとしても不自然ではない。所論は採用できない。⑵所論は,原判示第2の1の死体を埋める場所としての自宅敷地の提供の提案につき,仮に被告人bが被告人aに自宅敷地の話をしていなかったとしても,被告人aは別荘地を自分で探すか,他の場所を検討したであろうから,被告人bは自身の行為によって殺害計画の実現可能性が高まっていく認識を有していたと推認されるとした原判決は誤っている,という。しかしながら,原判決が適切に指摘しているとおり,被告人aが死体遺棄の場所として当初考えていた別荘地の選定が全く進んでいない状況下で,被告人bによる自宅敷地の提案と提供が状況を打破するブレイクスルーとなったことは明らかである。そして,死体遺棄の場所の確定は本件殺害計画が進展するか否かを決定付ける重要事項であり,このことは被告人bも認識できたはずである。所論は採用できない。
所論は,原判示第2の2の死体を埋める穴を掘る道具の購入や原判示第2の3の被告人aと共に死体を埋める穴を掘る作業の実施については,そもそも被告人bは,生ごみを入れて処理することを穴を掘る目的の一つとしていたから(原審被告人b供述調書68,74頁),被告人bには,これらの行為が殺害計画の実現可能性を高めるという認識は存在しなかった,という。確かに,被告人bは,原審公判廷において,穴は生ごみを処理するためという頭があったし,穴を掘ったこと自体は,被害者をそこに入れるという想定ではなくて,被告人aのストレスを発散するために掘ったものなので,深さについても被告人aが自分で決めてあの深さに掘ったんだと思うと供述している(同調書74,110頁)。しかし,この供述は信用できない。被告人bは,被告人aから被害者を殺害する旨言われ,死体を埋める場所を探すように言われていたところ,別荘地の選定が進んでいない状況下で,2月下旬頃,自宅敷地を提案し,被告人aもこの提案を受け入れ,2月終わり頃,被告人aは,被告人bに対し,自分が買いに行く時間がないのでショベルとか掘るのに必要な物を買ってほしい旨頼み,3月1日に被告人bはショベル及び鍬を購入したのである。しかも,2月27日には被告人aから被告人bに対し,被告人bと同居している父(被告人bの夫)が不在にする日を教えてほしい旨のメッセージを送っているが(原審甲62別紙12),被告人aは,このメッセージは穴を掘るに当たり,父がいない日を確認したものであると供述している(原審被告人a供述調書70頁)。そして,このメッセージに対し,被告人bは,被告人aに対し,父(被告人bの夫)の不在日や同居していない被告人aの弟が帰って来る日をメッセージで教えている(原審甲62別紙12)。このような一連の経過や自宅敷地内で穴を掘るに当たり父(被告人bの夫)の不在日等を教えていることなどを踏まえると,被告人aが被告人b方敷地内で掘る穴が生ごみを捨てる穴であると思ったとか,被告人aのストレス解消だと思ったという被告人bの供述は不自然,不合理で信用できない。
⑶所論は,原判示第2の1の死体を埋める場所としての自宅敷地の提供の提案及び上記2⑵④の頚動脈を絞めると苦しまない旨の助言につき,原判決は提案助言という表現及び認定をしているが,積極的に提案をしたわけでも助言をしたわけでもない,これらを含め,死体遺棄を容易にするような被告人bの行為は,全て受動的に行われたにすぎず,表面上は能動的,積極的に見える行為であっても,被告人aの精神状態を安定させるため,相づちのような対応であったから,被告人bは,自身の行為が被告人aの殺害行為を容易にするという認識はなかった,という。
しかしながら,原判決は,これとほぼ同旨の原審弁護人の主張に対し,被告人bが,頚動脈を押さえるという具体的殺害方法にまで踏み込んだ提案をしたり,被告人aによる死体遺棄ひいては殺害をより容易にするような行為を自発的に行ったりしていることからすれば,被告人bの関与や態度は,受容や被告人aの気持ちの鎮静化の範囲を明らかに超えており,積極的関与と評価すべきものであると説示している。原判決の上記説示に誤りはない。
若干補足すると,上記の死体を埋める場所としての自宅敷地の提供の提案は,死体を埋めるための別荘地の購入を考えていた被告人aに対し,被告人bは,急に別荘を買うのは不自然だし,遠い所に行ったら不自然なので,別荘地はやめた方がいい,自宅裏の隣家は空き家であり,自宅敷地内の裏庭なら父(被告人bの夫)も来ないなどと言って,被告人aが考えていなかった自宅敷地の提供を提案したというのである(原審被告人a供述調書57,60頁,原審被告人b供述調書21頁)。このような経緯に照らせば,被告人bの自宅敷地の発言は被告人aに対する積極的な提案というべきものであり,受動的であるとか,その場しのぎの相づちのような対応と評せないことは明らかである。
また,上記の頚動脈を絞めると苦しまない旨の助言は,原判決が指摘するように具体的な殺害方法にまで踏み込んだ発言であり,殺害方法の助言というべきである。確かに被告人aは,所論がいうように,その発言に対し,そんなのは当然だと思った旨供述しており(原審被告人a供述調書66頁),すでに知っていたことであった。しかし,被告人aから首を絞めるという話を聞いていた被告人bは,絞殺をインターネットで調べたら,頚動脈を絞めると苦しくない旨書いてあり,その知識が全く自分になかったので被告人aに伝えた旨供述している(原審被告人b供述調書74,75頁)。結果的には被告人aが既に知っていたにせよ,被告人bは,インターネットで調べて初めて知った絞殺方法なのであり,それを被告人aに伝えたというのであるから,被告人bにとってみれば,被告人aへの殺害方法の助言であったことは明らかである。受動的であるとか,その場しのぎの相づちのような対応であったとする所論は採用できない。
以上に加えて,原審記録によれば,被告人bは,3月2日に店舗で石灰,スコップ等を購入していることが認められる(原審甲68)。なお,所論は,原判決は,被告人bが死体遺棄の際の消毒用に石灰を購入したと認定しているが誤っているとし,石灰は生ごみ処理に使うために購入した旨の被告人bの原審公判供述に依拠して,被告人bは石灰の購入について死体遺棄は一切想定していなかった,という。しかし,被告人aが被告人b方敷地内で穴を掘るのは,殺害した被害者の死体を埋めるためであることは被告人bも理解していたことはすでに説示したとおりである。そして,被告人bは,インターネットでペットの埋葬と調べたら石灰が必要と書いてあり,鳥インフルエンザのときに石灰をまいて処理したという話を聞いたこともあったので,被告人aにそれを報告したら,それも買ってと言われたと供述している(原審被告人b供述調書63頁)。被告人aにあえて石灰の話題を持ちかけている上記石灰購入経緯は,生ごみを処理するためであったとする被告人bの供述と整合しない。さらに,被告人aは,原審公判廷において,石灰は,被告人bのアイデアだったと思う,(被告人bが)石灰を使った方が掘り直したときにきれいに骨になっているということを言っていた旨供述している(原審被告人a供述調書69,70頁)。被告人bは石灰の購入について死体遺棄を一切想定していなかったとの所論は採用できない。以上を踏まえると,被告人bは,死体遺棄の際の消毒用として石灰を購入したとの原判決の認定に誤りはない。そして,被告人bは,被告人aが3月2日に被告人b方敷地内で穴を掘る以前に一度石灰を購入していたが,同日,被告人aが穴を掘っている最中に一人で店舗に行って石灰,スコップ等を追加購入し,被告人aはこれらも使っている。
以上を総合的に勘案すると,原判決が的確に指摘するように,被告人bが,頚動脈を押さえるという具体的殺害方法にまで踏み込んだ助言をしたり,被告人aによる死体遺棄ひいては殺害をより容易にするような行為を自発的に行ったりしていることは明らかである。そうすると,被告人bの関与や態度は,被告人aの精神状態を安定させるという目的に基づき,受動的であったとかその場しのぎの相づちのような対応であったとはいえない。所論は採用できない。
4弁護人が主張するその他の点を考慮検討しても事実誤認の論旨は理由がない。第4被告人aの量刑不当の主張について
1論旨は,被告人aを懲役15年に処した原判決の量刑は,重すぎて不当である,というのである。そこで,検討する。
2原判決の量刑理由の要旨
原判決は,本件が強迫性障害(不合理な考えが頭に浮かび,自分ではそれを考えまいと思っても繰り返してしまう病気で,たとえば,不潔恐怖は外の世界が汚れていて,外のばい菌を家に入れてはいけないと思ってしまい,その不潔恐怖を打ち消すために手洗いを何百回も行うなどし,その打ち消し行為を家族にも強いるという場合がある。)に罹患している被害者に悩まされていた夫の被告人aが被害者を殺せば被害者を排除して長女を確保できるなどと考え,母親である被告人bの助力を得ながら被害者が行方不明になったことを装う計画を綿密に練り上げ,被害者を絞殺し,被告人bと共にその死体を埋めて遺棄したという事案であるとする。その上で,本件の客観的犯情として,被告人両名は,アイデアを出し合いながら,上記計画を立て,死体が発見されない遺棄の場所として被告人b方敷地を選定し,あらかじめ穴を掘ってから殺害に及び,打合せの際も罪証隠滅にも配慮しながら慎重に事を運んでおり,用意周到かつ巧妙な犯行計画は完全犯罪を目論んだといっても過言ではなく,計画性の高さは同種犯罪の中でも際立っていると指摘する。殺害態様は,睡眠薬を飲ませた上,目を覚ました被害者の抵抗や懇願を残忍にも排し,両手や延長コードで首を絞め続けるというもので,結果発生の確実性が高く,強固な殺意をうかがわせるとする。被害者は,30歳という若さで殺害され,長女との生活を奪われ,長女は1歳5か月で母親を奪われており,遺族の悲しみも含め,結果の大きさは計り知れないとしている。
被告人aの個別情状については,原判決は,被告人aが被害者との間で共依存関係(病的な依存の関係にあること。たとえば,AがBに様々な要求をし受け入れてもらえることでBに依存し,BはAが苦しんでおり自分しか助けてあげられないという自己承認のためにAを依存対象とするもので,不健康な互いに互いが依存している関係性)にあったとは認められず,強迫性障害に罹患している被害者が長女を殺してしまうという危険が客観的に存在したとは認められない上,被害者が被告人aに課していたルールも不条理かつ厳格で,その言動が被告人aに大きなストレスを与え,被害者に対する悪感情の原因になったことが認められるが,被害者が強迫性障害に罹患したこと自体に落ち度はなく,仮に不条理な言動に激昂して突発的な殺意が生じた事案であれば酌むべきものがあるが,本件はそのような事案ではなく,被告人aに何らかの精神症状があったとしても,責任非難の程度に大きく影響するものではなかったと説示する。また,被害者の症状は,薬を指示どおり飲んでいるときは軽快しており,本件前の症状悪化は薬を減らした影響があるなど,改善策は容易であり,被害者に治療意欲もあったし,被害者の母は,4月から仕事を辞めて全面的に被害者や長女のサポートに入る予定であったから,3月さえ殺害を踏みとどまっていれば,事態は改善に向かった可能性が高いとしている。また,被告人aは,離婚を弁護士に相談する,別の病院に被害者を入院させるなど,他にも取り得る選択肢が複数あったのに,他の手段を十分に尽くさないまま短絡的に被害者殺害に及んだのであって,人を殺してはならないという最も基本的な倫理・規範を軽んじているといってよく,身勝手な意思決定過程は強い非難に値すると指摘する。以上を踏まえると,量刑検索システムのその他の家族関係を動機とする同種事案の中でも本件は重い部類に位置付けられるとし,被告人aが公訴事実を全て認め,謝罪文を作成し,社会復帰後の被害弁償を表明するなど,一定の反省を示していることや,父が出所後の同居を約束し,更生環境もある程度整っていること,他方で,遺族の処罰感情が非常に厳しいという一般情状を総合考慮すると,懲役15年の刑が相当であると判示している。
3量刑事情に関する事実誤認の主張について
⑴所論は,上記第2記載のとおり,原判決は,原審弁護人の本件は介護疲れの類型に類似するとの主張を誤解し,介護疲れ類型に該当すると解している,という。
確かに,原審弁護人は,本件が介護疲れ類型に該当するとは主張していない。原審弁護人は,本件には介護疲れ類型における3つの特徴(①介護者がその関係性から抜け出ることが困難であること,②介護者が精神的に追い詰められていたこと,③介護者には他に取り得る選択肢の幅が狭かったこと)が認められるから,その他の家族関係の量刑分布ではなく,介護疲れ類型の量刑分布を使うべきであると主張しているのである。しかし,原判決は,所論のいうような誤解はしていない。原判決には,

原審弁護人は,本件が介護疲れ類型に当たると主張するので,検討する。

との記載はあるものの,

原審弁護人は,介護疲れ類型の特徴が3つあるとした上で,それらが本件にも当てはまるなどと主張するが,独自の分析によるもので採用できない。

と結論付けており,原審弁護人の上記3つの特徴に関する主張を踏まえた上で判断を示している。結局のところ,この問題は,量刑判断をするに当たり,参考とする量刑分布の検索条件を介護疲れとするかその他の家族関係とするかの違いであり,原審検察官は介護疲れ類型の量刑分布を使うべきではないという前提で論告し,原審弁護人は介護疲れ類型の量刑分布を使うべきであると弁論していた。原判決は,本件が介護疲れ類型の量刑分布を参考として量刑判断を行う事案ではないと判断したのであって,その説明を行う前書きとして

原審弁護人は,本件が介護疲れ類型に当たると主張するので,検討する。

と記載したにすぎないと解される。
所論は,介護疲れ類型における3つの特徴が認められる本件においては,介護疲れ類型の量刑分布を使うべきであった,という。しかしながら,殺人の動機としての介護疲れという検索条件は,まさに介護者が介護に疲れて被介護者を殺害するという事例が一定程度あり社会的な類型といってよいため,その他の家族関係とは別個に類型化されているのである。したがって,この社会類型に当たるか否かは,被害者が要介護者に当たるか,被告人が介護者に当たるかという観点から介護疲れの有無,程度を総合的に判断して決せられるべきである。原判決は,このような観点から詳細な検討を加え,本件が介護疲れ類型には当たらないと判断したのであって,上記3つの特徴を踏まえた原審弁護人の主張が独自の分析によるものであるとの点も含め,その判断に誤りはない。
⑵所論は,原判決は,被告人aの原審公判供述のうち当時の過酷な状況等に関する有利な供述を取り上げず,不利な供述のみ取り上げており,被告人aの原審公判供述の取捨選択を誤っている,という。具体的には,①原判決は,原審弁護人が被告人aは,被害者と共依存に陥っており,長女が殺されてしまうかもしれないという恐怖により,被害者との関係から逃れることが難しかったと主張したのに対し,共依存関係にあった旨のc医師の原審証言は採用できないとし,被害者による長女への暴行についても,被告人aの原審公判供述によっても,長女をベッドのマットレス上に投げたというもので,重篤な傷害を負うようなものでなく,被害者が長女を殺してしまうという危険が客観的に存在したとは認められないと判断しているところ,原判決は共依存を認めなかった点で誤りがあるほか,被告人aの原審公判供述で述べられた被害者の長女に対する多くの暴言(暴言による長女の精神に対する危害)を認定していないし,長女を道連れにしてマンション屋上から投身自殺をしようとした事実を無視し,上記のとおり長女の生命には危険が生じていなかったことのみを認定して,原審弁護人の主張を排斥した点で,証拠の取捨選択を誤り,量刑に関する事実誤認がある,②被告人aは,日常的に被害者から暴言や暴力を受け続ける過酷な環境,長女への暴言や暴力が止まない環境に置かれ続けていたことが,被告人aの精神状態に悪影響を及ぼしたことは否定できない,しかも,そのような過酷な環境は,被害者が自ら服薬をやめてしまったこと等から,いつ終わるかもわからない先の見えない苦しみとして被告人aの被害者に対する悪感情を増大させていったのであり,そのような状況から逃れるために過酷な状況を作り出している被害者に殺意を抱いてしまうことは十分に想像できることであるのに,被害者の言動は,被告人aの精神状態に対して間接的にしか影響していないという原判決の評価は誤っている,というのである。
そこで,まず,上記①について検討する。
長女をベッドのマットレス上に投げたという点については,被告人aの原審公判供述によっても,バウンドはしていたが,けがはなかったというのであって(原審被告人a供述調書30頁),重篤な傷害を負うようなものではなかったという原判決の判断に誤りはない。次に,長女を道連れにしてマンション屋上から投身自殺をしようとした点については,被告人aは,一番最初に本気で被害者に別れたい旨の話をしたとき,被害者は突然長女を抱えてマンションを飛び出して階段を駆け上がって長女と一緒に飛び降りようとしたので,自分が2人を抱き締めて,謝り倒して止めたと供述している(同調書11頁)。しかし,そもそも被害者が本気で長女共々投身自殺を図ろうとしたか否かは定かでない上,被告人aの述べるところによっても,同様のことがその後起きたことは認められず,被害者が自殺を考えていたことをうかがわせる事情もない。被害者による長女への暴言については,成長過程における長女の精神面への不安を被告人aが感じていたとしても,それ自体が長女の生命への危険に直接結びつくものではない。したがって,被害者が長女を殺してしまうという危険が客観的に存在したとは認められないとした原判決に誤りはなく,被告人aがその危険を現実的に感じていたとまでは認められない。また,共依存については,原判決は,原審公判廷において,被告人aと被害者が共依存の関係にあると証言したc医師について,弁護人から個人的に依頼された協力医であり,鑑定経験もなく,判断資料も限られている上,被告人aが本件以前に被害者に対して離婚を提案していたにもかかわらず,本意ではなかったと解釈するなど,事実解釈が恣意的で説得力に乏しいとして,c証言は採用できず,共依存関係は認められないと判示している。しかし,弁護人から個人的に依頼された協力医であるからといって証言の信用性が否定されるわけではないし,鑑定経験がないからといって,直ちに医師としての医学的証言の信用性が否定されるわけでもない。c医師は,医師として20年以上の経験を有し,f市の嘱託医,f市医師会副会長,g大学講師を務めている精神科医であって,精神科医として十分な知識と経験を有している。証言内容を見ても,被告人aとの2回の面接は精神科の主治医と患者の面接ではなく,あくまで観察という形になり,担当医ではないので診断という目では見ないので難しいのだが,もし,何もなくて外来に来たら今回証言している所見を告げると思うなどと証言しており(原審c証人尋問調書49頁以下),証言内容も態度も殊更被告人aの有利になるように証言しているわけではない。原判決は,被告人aの離婚の提案が本意ではなかったと解釈するなど,事実解釈が恣意的で説得力に乏しいという。確かに被告人aは一度本気で別れ話を被害者にしたことがある旨供述しているが,対外的に離婚に向けた行動は起こしていないとも供述している(原審被告人a供述調書11頁)。c医師は,口で離婚とか別居とか言っても根本のところで離婚のアクションを一切起こしていないことを考えると,改心というか考え方を柔軟にしてほしいという手段として多分言っていたと思うので,いわゆる本心からかどうかは別だというふうに考えていると証言している(原審c証人尋問調書26頁)。このc証言は,精神科医としての一見解を示したものであり,これを直ちに恣意的な解釈で説得力に乏しいと断じることは躊躇せざるを得ない。他方で,原判決がいうようにc医師が判断の前提とした資料は,事件から1年以上後の2回の接見による面会と弁護人から提供された捜査資料の一部のみを基にするなど限定的であったことは否定できない。したがって,c医師の証言の証拠価値を鑑定がなされた場合と同列に論じることには限界があるが,同証言を否定する医学的な立証が全くなされていないことを考えると,c医師の証言は一応信用できるものとして考慮すべきである。
次に上記②について検討する。
原判決は,強迫性障害に罹患していた被害者から課せられたルールも不条理で厳格であり,被害者の言動が被告人aに大きなストレスを与え,被害者に対する悪感情の原因になったことは認めているから,被害者の言動は,時に被告人aにとって厳しいものがあり,それが被告人aの精神状態に悪影響を及ぼした可能性を否定するものではないと解される。とはいえ,被害者をしてそのような言動を起こさせるのは強迫性障害という病気なのであり,被害者がその病気に罹患したこと自体に落ち度がないというのも原判決が指摘するとおりである。原判決は,仮に不条理な言動に激昂して突発的な殺意が生じた事案であれば酌むべきものがあるが,本件はそのような事案ではないとするが,この点も原判決の判断に誤りはない。⑶以上を前提に,原判決の量刑判断を検討する。
被告人aが被害者と共依存の関係にあったことは否定できず,強迫性障害に罹患していた被害者から課せられたルール(外出後は割り箸で電気をつけ,シャワーを浴びなければ室内に入れない,玄関ドアノブやトイレの中などを素手で触ってはならず,外出後のシャワー前やシャワー後でも通勤カバン等の外から持ち帰った物を触った後に家の中の物を触った場合はそれをアルコールと次亜塩素酸で二度拭きすることを強いられるなど)も不条理かつ厳格であり,被害者の言動が被告人aに大きなストレスを与え,被告人aにすれば,被害者の長女に対する暴言等長女を育てる上での不安が募っており,これらが高じて,被害者に対する悪感情が生じたことが認められる。
しかし,他方で,本件事案は殺人であり,しかも,原判決がいうように完全犯罪を目論んだといっても過言でないほど用意周到かつ巧妙な犯行計画により実行された悪質な犯行であることは無視できない。
被害者の症状は,薬を指示どおり飲んでいるときは軽快しており,本件前の症状悪化は薬を減らした影響があるなど,改善策は容易であり,被害者に治療意欲もあった上,被害者の母は,4月から仕事を辞めて全面的に被害者や長女のサポートに入る予定であり,被告人aもそれを知っていたから,3月さえ殺害を踏みとどまっていれば,事態は改善に向かった可能性も高かった。また,被告人aには,自身の親族や被害者の親族を交えて話し合う,別の病院に被害者を入院させるなど,殺人以外の他の選択肢が複数あったのに,他の手段を十分に尽くさないまま短絡的に被害者殺害に及んでいる。
そうすると,被告人aが被害者と共依存関係にあったことや大きなストレスを抱え,c医師が中等症のうつ病と判断するような精神症状があったことを考慮しても,他の回避手段を真剣に検討することなく,短絡的に被害者殺害を決め,周到な計画の下で殺害を実行に移した被告人aは,人を殺してはならないという最も基本的な倫理・規範を軽んじており,強い非難に値するといわざるを得ない。被告人aの意思決定過程に,さほど酌むべき事情があるとはいえないとし,客観的犯情の重さも考慮した上で,原判決の指摘する量刑分布(その他の家族関係)を参酌し,その中でも重い部類に位置付けられるとした原判決には,経験則等に照らし不合理なところはない。
その上で,原判決は,被告人aに有利に酌むことのできる一般情状をも考慮の上,懲役17年の求刑を2年減じて被告人aを懲役15年に処しているのであって,原判決の量刑判断に誤りはない。
4その他の量刑不当の主張について
所論は,原判決後,被告人両名が被害者の遺族に対し,300万円の弁償金の支払を打診したが,受領を拒絶されたため,300万円を供託(供託者名義は被告人aとなっている。)した事実を量刑上考慮すべきである,という。当審における事実取調べの結果によれば,所論のいう事実に加え,供託取戻権を放棄した事実も認められるが,この点を踏まえて原判決の量刑を再考しても原判決の量刑を変更する必要は認められない。
5小括
被告人aの量刑不当の論旨は理由がない。
第5被告人bの量刑不当の主張について
1論旨は,被告人bを懲役7年の実刑に処した原判決の量刑は,とりわけ刑の執行を猶予しなかった点で,重すぎて不当である,というのである。そこで,検討する。
2原判決の量刑理由の要旨
原判決は,上記第4の2記載のとおり,事案の内容及び客観的犯情を認定説示した上で,被告人bの個別情状として,幇助犯の量刑は,正犯の刑事責任を念頭に置き,加功の程度に応じて,どれくらいの割合の刑事責任を負うべきかを検討すべきであるとする。そして,被告人bの加功状況は,①被告人aが実際に殺害行為に及ぶ可能性が高いことを認識しつつ,それを前提として行動していたこと,②被告人bの幇助行為が被害者殺害の計画立案上障害となっていた点を解決するなど,犯行を手助けした程度が極めて大きいことが指摘できるとする。さらに,被告人bは,ただ一人,被害者殺害を止められ,親として冷静な観点から息子の誤った考えを正すべき立場にあったにもかかわらず,被告人aの依頼に応えたいとの心情とは別に,被害者殺害を容認する個人的な動機があったこともあり,悪感情を抱いていた被害者の殺害を積極的に手助けしたもので,d家の利益を優先する被告人bの考え方は,自己中心的で酌量の余地がないとする。以上によれば,被告人bの犯情は,幇助犯の中では最大級の非難に相当するというべきであり,正犯の半分程度の刑事責任が相当というべきであるとする。そして,当初は被害者殺害に反対したこと,死体遺棄については謝罪の言葉を述べていること,社会復帰後の支援を約束する友人や夫の存在など有利な一般事情もあるが,遺族の処罰感情は厳しいものがあり,その刑事責任は非常に重く,求刑を超えて主文の刑を科するのが相当であるとし,懲役6年の求刑に対し,被告人bを懲役7年に処している。
3当裁判所の判断
⑴原判決が懲役7年の刑を選択した理由は,被告人bの犯情が幇助犯の中では最大限の非難に値するというところにあり,最大限の非難に値するという評価は,被告人bの正犯行為に対する加功の程度が高いこと,及び,幇助行為に及んだ理由に酌量の余地がないことに基づいている。そして,原判決が認定した加功状況とは,上記のとおり,①被告人aが実際に殺害行為に及ぶ可能性が高いことを認識しつつ,それを前提として行動していたこと,②犯行を手助けした程度が極めて大きいことである。また,幇助行為に及んだ理由については,③被告人aの依頼に応えたいとの心情とは別に,被害者殺害を容認する個人的な動機があったこともあり,悪感情を抱いていた被害者の殺害を積極的に手助けしたと認定し,d家の利益を優先する被告人bの考え方は自己中心的で酌量の余地がないというものである。⑵このうち,上記②の犯行を手助けした程度が極めて大きいことについては,原判決が説示するように,被告人bが行った幇助行為のうち,死体を埋める場所の提案及び提供は,行方不明を装った本件殺害計画を実行する上で不可欠な行為であった。死体を埋める場所がなかなか見つからなかった状況下で被告人bの提案により一気に本件殺害計画が現実化していったのである。加えて,被告人bは,死体を埋める穴を掘る道具の調達や現実に穴を掘る作業もしている。殺害と死体遺棄が表裏一体の関係にある本件殺人において,被告人bの上記幇助行為が被告人aによる殺人の実行に向け,精神的にも物理的にも大きな支援となったことは明らかである。被告人bの幇助行為が被害者殺害の計画立案上障害となっていた点を解決するなど,犯行を手助けした程度が極めて大きいと指摘する原判決に誤りはない。⑶上記①の被告人aが実際に殺害行為に及ぶ可能性が高いことを認識しつつ,それを前提として行動していたことについては,被告人bが幇助行為に及んだ時点において,被告人aが実際に殺害行為に及ぶ可能性が高いことを認識していたことはすでに説示したとおりである。同じ従犯であっても正犯が実行行為に及ぶ可能性が低いと認識して幇助行為を行う場合より,正犯が実行行為に及ぶ可能性が高いと認識して幇助行為を行う場合の方が非難が強くなるのは明らかであるから,原判決の上記指摘に誤りはない。
もっとも,原判決は,事実認定の補足説明において,幇助行為開始前の状況について,2月12日に被告人bが被告人aから業務用冷凍庫を購入し,そこに水を入れ,被害者を溺死させた上,水辺での水難事故を装うという水難事故計画を打ち明けられたことや,それが中止となり,新たに穴に埋めて行方不明を装うという本件殺害計画に移行する過程等かなり詳細な認定をしている。その上で,原判決は,幇助行為開始前の被告人aの被告人bに対する殺害計画の説明は,相当具体性があるもので,被告人bにとって被告人aが殺害行為に出ることを予見できる程度に具体的であり,被告人bは,被告人aが殺害を本気で考え,それ以外の手段を考えようとしていないと判断できたと思われるし,幇助行為の開始前から被告人bは被告人aが殺害行為に及ぶ可能性を認識していたと認められるとしている。このような原判決の認定説示をみると,原判決は,本件幇助行為が行われるかなり前の段階,2月12日の水難事故計画を打ち明けられた頃から,被告人bは,被告人aの殺害意思が揺るぎないものであり,被告人aが殺害行為に及ぶ可能性が高かったことを認識していたのに,止めるどころか,それに同調する言動を取っていたことを,被告人bの加功状況としてとらえていると見る余地がある。
しかし,仮にそうであるとすれば,それは誤りというほかない。原審記録によれば,被告人bは,2月12日に被告人aから初めて被害者の殺害を考えている旨打ち明けられ,水難事故計画を説明されたが,翌13日に友人と会い,息子が妻を殺してしまうのではないかと話して相談し,精神科の病院の紹介を受けると共に被害者を早く精神科に連れて行くことを勧められたことが認められる(原審e証人尋問調書3,9,13ないし15,62頁以下。原審被告人b供述調書12,13頁)。被告人aが被害者殺害以外の手段を考えようとしておらず,被告人aの殺害行為に及ぶ可能性が高いと被告人bが認識し,かつ,それを手助けしようとの思いがあれば,被告人bが友人に上記のような相談をするとは思えない。むしろ,被告人aから被害者殺害の思いを打ち明けられ,冗談とは思えなかったが,なお,翻意の可能性もあると信じ,回避措置を模索したと考えるのが合理的である。また,2月13日,被告人bは被告人aに,

最終手段はあるから,その前に精神病院に入院させよう。(中略)いい先生,教えてもらったから,一緒に相談しに行こう。

という内容のメッセージを送っており(原審甲62別紙4の21:42),被告人aからその提案はないからと返信されたのに対しなぜに?と返している(いずれも原審甲62別紙4の21:46)。さらに,2月18日のメッセージでは,被告人aから例の件も相談したいしというメッセージが送られてきたのに対し,被告人bはまだ気持ち変わらないの?と返信し(いずれも原審甲62別紙6の18:40),その直後にももう治らないのかな?と送っている(原審甲62別紙4の21:41)。加えて,原判決も指摘するように,被告人bは,水難事故計画で不可欠とされた業務用冷凍庫を探すよう被告人aに依頼されながら,全く探さなかったばかりか,長女に危害が及ぶことを理由に水難事故計画に反対して被告人aに断念させ,さらに,死体を穴に埋めて行方不明を装うという本件殺害計画を告げられ,遺体を埋める場所としての別荘地を探すように言われた際にも真剣に探すことはなかった。上記のような状況を踏まえると,2月下旬頃に被告人bが被告人aに対し,被害者の死体を埋める場所として自宅敷地を提案するという幇助行為がなされる前の段階では,被告人bとしては,被告人aが被害者を殺害する意思があることは認識しつつも,これに積極的に加担するまでの意思はなく,被告人aが被害者を精神科に入院させるなど殺害以外の選択肢をとる可能性を捨てておらず,かつ,そうなることを望んでいたとみるのが自然かつ合理的である(なお,この段階において,被告人bが被告人aの殺害計画を容認する発言やメッセージがあるものの,これらは,その内容に照らしてみても被告人aの気持ちや精神状態を慮って被告人aに話を合わせたものとみるのが自然である。)。
⑷上記③の幇助行為に及んだ理由,すなわち,原判決が,被告人bに被害者殺害を容認する個人的な動機があったこともあり,悪感情を抱いていた被害者の殺害を積極的に手助けしたなどと認定する点について検討する。
この点は,原審検察官が論告で述べておらず,原判決が求刑を超える刑を宣告した理由の1つと考えられる。
原判決は,㋐平成29年,被害者が被告人bの言動に怒っているとして,被告人aから謝罪を要請されたため,被告人bは,割り切れない気持ちで被害者に謝罪を余儀なくされたことがあったこと,㋑被害者は,d家との親戚づきあいを忌避しており,そのために被告人bは,孫に会ったり,自宅に連れてくることができないなど,被害者が,d家の孫に対するアクセスを阻害する存在となっていたことなどの事情から,被告人bは,被告人aとは別に,被害者に悪感情を抱いてもおかしくない状況にあったとし,㋒被告人bは,被告人aとのLINEのやり取りで,被害者の立場を弁護したり,理解を示すメッセージは皆無である一方,オカンも精神病んで対抗しようかななどと被害者の病を揶揄したり,

ムカムカしてきた。(被害者を)殴ってもいい?

などと立腹した様子のメッセージを送信していることからすれば,被告人bは,被害者への相当な悪感情を抱いていたと推認でき,被告人bに被害者の殺害を容認する動機があった旨認定説示している。
原審記録によれば,上記㋐の謝罪を余儀なくされた出来事というのは,被害者が,被告人aと口論した後に,被告人bに電話をかけて被告人aの悪口を長時間言ったところ,被告人bからたしなめられたため立腹し,被告人aに対し,被告人bが謝りにくるべきだと言ったことから,被告人aが,被告人bに対し,被害者の病気について説明した上,謝りに来てほしいと依頼するに至り,被告人bはやむなく謝罪したというものである(原審被告人a供述調書20,21頁。原審被告人b供述調書4,5頁)。被告人bにとって,謝罪は不本意ではあったとしても,被害者が病気であることを被告人aから初めて聞かされたことで,被害者の謝罪要求についてそれなりに理解を示すことができたはずであるし,わだかまりが残っていたとしても,謝罪を余儀なくされたことが,被害者の殺害を容認する動機に結び付くとは,考え難い。上記㋑の被害者がd家の親戚づきあいを忌避していたなどとする点も,これが被害者の殺害を容認する動機につながるとはいえない。上記㋒のLINEのやり取りは,2月12日及び2月18日のものであり,上記⑶のとおり,いずれも被告人bとしては,被告人aが被害者を精神科に入院させるなど殺害以外の選択肢をとる可能性を捨てておらず,かつ,そうなることを望んでいた時期のものである。そして,上記

ムカムカしてきた。殴ってもいい?

とのメッセージは,被告人bが,被告人aから,被害者が午後5時頃に出て行ったので帰って来るとしても夜中だと思う,行先は分からず,カラオケかもしれないなどという内容のメッセージを受け取っていたところ,

結局,aに頼ってるんじゃんね。

とのメッセージに続けて送ったものである(原審甲62別紙3の20:22,22:04ないし22:09)。また,上記オカンも精神病んで対抗しようかなとのメッセージは,被告人bが,被告人aから,被害者が金曜日の夜と今日のお昼にわーっとなったというメッセージを受け取ったことから,被害者が長女に怒鳴ったのかを尋ね,これに対し,長女にではなく被告人aに怒鳴ったという返信を受けた直後に送信したものであり,これに続けて1週間働いて疲れて帰ってきた旦那は労わるべきでしょ?等のメッセージを送っている(原審甲62別紙6の18:41,18:46,ないし18:53)。このようなLINEのやり取りを見ると,原判決が指摘する上記2つのメッセージは,いずれも被告人bが被告人aから近況報告のメッセージを受けて,被害者を非難したり揶揄したりすることにより被告人aに同情する意思を示したものと認められ,殺害を容認する動機に結び付けて考えるのは無理がある。
以上によれば,被告人bが被害者に対し,悪感情を抱いていたことは否定できないものの,それを被害者殺害に結び付けて考えることは合理性を欠くといわざるを得ない。よって,被告人bに被害者殺害を容認する個人的な動機があったことを幇助行為に及んだ理由として認定した原判決は是認できない。
⑸以上を踏まえて検討すると,被告人bの幇助行為が被害者殺害の計画立案上障害となっていた点を解決するなど,被告人aの犯行を手助けした程度が極めて大きい点は原判決が指摘するとおりであり,量刑不当の論旨のうち執行猶予を求める点は採用できない。しかし,原判決が幇助犯の中では最大級の非難に相当すると評価する根拠のうち,被告人aが実際に殺害行為に及ぶ可能性が高いことを認識しつつ,それを前提として行動していたことについては,上記のように仮に2月12日の水難事故計画を打ち明けられた頃から被告人bの加功状況をとらえているのであれば,誤りである。そして,原審検察官が論告で主張していない被告人bに被害者殺害を容認する個人的な動機があったことを認定した点については,事実を誤認しており,被告人bは,個人的な動機から被害者の殺害を積極的に手助けしたのではなく,母親として,息子である被告人aの依頼に応えたいとの心情から幇助行為に及んだものと認められる。そうすると,被告人bの犯情は,幇助犯の中では最大限の非難に相当するというべきであり,正犯の半分程度の刑事責任が相当というべきであるとする原判決の判断は支持できない。
加えて,原判決は,懲役6年を求刑した原審検察官の論告が本件の犯情を適切に評価しておらず,軽すぎるとして求刑を超える懲役7年を量定したものであるが,上記のとおりその判断の前提に誤りがあるといわざるを得ないし,他に論告の犯情評価が不十分で,求刑が軽きに失するという事情も認められない。被告人bの量刑不当の論旨は,執行猶予を求める点を除き理由があり,原判決は破棄を免れない。
第6結論
1被告人bについて
刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して被告事件につき更に判決することとする。
原判決が認定した事実に,原判決挙示の法令(刑種の選択,法律上の減軽を含む)を適用し,その刑期の範囲内で,上記諸事情(なお,上記第4の4で述べた供託等の点は被告人bについても同様である。)を考慮し,被告人bを主文掲記の刑に処し,原審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法21条を,原審における訴訟費用の処理(不負担)につき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
2被告人aについて
刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。
令和元年12月10日
東京高等裁判所第12刑事部

裁判長裁判官

平木正洋
裁判官

市川太志
裁判官

青木美

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