判例検索β > 令和1年(行ケ)第3号
事件番号令和1(行ケ)3
裁判年月日令和元年11月13日
裁判所名・部福岡高等裁判所  那覇支部
裁判日:西暦2019-11-13
情報公開日2019-12-19 12:00:07
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主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
令和元年7月21日に行われた参議院
(選挙区選出)
議員選挙の沖縄県選挙区

における選挙を無効とする。
第2

事案の概要

1
本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙における選挙区選出
議員の選挙(以下本件選挙という。)について,沖縄県選挙区(以下本件選挙区という。)の選挙人である原告が,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法といい,同法による改正を平成30年改正という。)による改正後の公職選挙法14条1項,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正
(以下平成6年改正という。)前の別表第2を含め,定数配分規定という。)は,憲法56条2項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の本件選挙区における選挙も無効であると主張して,
公職選挙法204
条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。
2
前提事実
(争いのない事実,
裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によって認

められる事実のほかは事実の末尾に証拠を掲記)


原告は,本件選挙における本件選挙区の選挙人である。



本件選挙は,令和元年7月21日,平成30年改正法(平成30年10月2
5日施行)14条及び別表第3の定数配分規定(以下本件定数配分規定という。)に基づいて施行された。


本件選挙当日の選挙区ごとの選挙人数及び本件定数配分規定における議員
定数は別紙記載のとおりであり,
選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大
較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)は,最小の福井県選挙区を1とすると,最大の宮城県選挙区は3.002(以下,較差に関する数値は,全て小数点以下第三位で四捨五入した概数で示す。)であった。なお,福井県選挙区と本件選挙区間の上記選挙人数の較差は1.80倍であった。(乙1の1)


参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定の変遷

制定当初(平成6年改正の前まで)
昭和22年に制定された参議院議員選挙法は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人
とに区分し,前者については全都道府県の区域を通じて選出されるとする一方,
後者については各選挙区における定数を別表で定め,
都道府県を単位
とする選挙区において選出されるという仕組みを採用した。選挙区ごとの議員定数は,半数改選という憲法上の要請(同法46条)を踏まえ,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下,昭和21年当時の各選挙区
の人口に比例するように2人から8人までの偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,参議院議員選挙法の同配分規定をそのまま引き継いだものであり,
その後,
沖縄返還に伴っ
て本件選挙区の議員定数2名が付加されたほかは,後記イの平成6年改正まで,同配分規定は変更されなかった。

なお,
昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,
従来の個
人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨から,参議院議員選挙について,
いわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,
各政党等の得票
数に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることに
なったが,この選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎず,同議員選挙の選挙制度の仕組み自体が変更されたものではなかった。

平成6年法律第47号による改正(平成6年改正)
参議院議員選挙法制定当時の選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが,その後次第に拡大し,
昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙
(以下
昭和52年選挙
という。)当時の選挙区間の最大較差は5.26倍に,次いで,平成4年7月に施行された同選挙(以下平成4年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は6.59倍となった。
平成6年改正は,
上記のように拡大した較差を是正する目的で行われ,

記選挙制度の仕組みに変更を加えず,できる限り増減の対象となる選挙区を減らし,
かつ,
有権者数の少ない選挙区により多くの議員定数が配分され
るといういわゆる逆転現象を解消することとして,
参議院議員の総定数
(2
52人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を維持したまま,7選挙区において定数を8増8減した。
平成6年改正の結果,
平成2年10月実施の

国勢調査結果による選挙区間の最大較差は,
6.48倍から4.81倍に減
少した。

平成12年法律第118号による改正
(以下
平成12年改正
という。

平成12年改正は,比例代表選出議員の選挙制度をいわゆる非拘束名簿
式比例代表制に改めるとともに,参議院議員の総定数を10人削減して242人とした。このうち選挙区選出議員の定数については6人削減して146人とし,比例代表選挙区選出議員の定数については4人削減して96人としているが,
選挙区選出議員の定数削減については,
平成6年改正の後
に再び生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,較差の拡大を防止す
るために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減したものであった。
平成12年改正の結果,
いわゆる逆転現象は消滅したが,
平成7年10月
実施の国勢調査結果による選挙区間の最大較差は,
改正前と変わらず4.
9
7倍であった。

平成18年法律第52号による改正(以下平成18年改正という。)平成12年改正後の定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参
議院議員通常選挙(以下平成13年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は5.06倍となり,次いで,平成16年7月に施行された同選挙(以下平成16年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は5.13倍となった。
平成18年改正は,これまでの選挙制度の仕組みに変更を加えることな
く,較差が5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区の較差の是正を図ることを目的とし,
4選挙区において,
選挙区選
出議員の定数を4増4減した。
平成18年改正の結果,
平成17年10月実
施の国勢調査結果による選挙区間の最大較差は4.84倍となった。オ
平成24年法律第94号による改正(以下平成24年改正という。)平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成19年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は4.86倍となり,次いで,平成22年7月に施行された同選挙(以下平成22年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は5.00倍となった。

平成24年改正は,
上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,
平成
25年に施行される参議院議員通常選挙
(以下
平成25年選挙
という。

に向けて,
較差の是正を図るため,4選挙区において,選挙区選出議員の定
数を4増4減した。
平成24年改正の結果,
平成22年10月実施の国勢調
査結果による選挙区間の最大較差は4.75倍となった。


平成27年法律第60号(以下平成27年改正法という。)による改正(以下平成27年改正という。)
平成24年改正後の定数配分規定の下で平成25年7月に施行された平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍となった。
平成27年改正は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,定数2人の選挙区のうち鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県の各選挙区をそれぞ
れ合区し,
定数2人の1つの選挙区とした上で,
議員1人当たりの人口の少
ない3県(宮城県,新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員し,議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員した(10増10減)。
平成27年改正法の附則7条には,平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。との規定が置かれた。平成27年改正の結果,
平成22年10月実施の国勢調査結果による選挙
区間の最大較差は2.97倍となった。


平成30年法律第75号による改正(平成30年改正)
平成27年改正後の定数配分規定の下で平成28年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成28年選挙という。)当時の選挙区間の最大較差は埼玉県選挙区における3.08倍であった。

平成30年改正は,
選挙区選出議員については,
平成27年改正による選
挙制度の基本的仕組みに変更を加えることなく,2つの合区を維持するとともに,
埼玉県選挙区の定数を2人増員して148人とし,
比例代表選出議
員については,
その定数を4人増員して100人とした上で,
政党その他の
政治団体が候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選者と
なるべき候補者としてその氏名及びその順位をその他の候補者と区別して名簿に掲載することができるといういわゆる特定枠の制度を導入した。平成30年改正の結果,平成27年10月実施の国勢調査結果による選挙区間の最大較差は2.98倍となった。


参議院議員
(地方選出議員ないし選挙区選出議員)
選挙に関する定数配分規

定の憲法適合性に関する最高裁判所大法廷判決の推移

最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。)
昭和52年選挙当時の選挙区間の最大較差は5.26倍であったところ,昭和58年大法廷判決は,
次の判断枠組みの下に,
いまだ違憲の問題が生ず
る程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨
判示した。
憲法は,
選挙権の内容の平等,
すなわち議員の選出における各選挙人の投
票の有する価値の平等を要求していると解するのが相当であるが,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているから,
投票価値の平等は,
選挙

制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会は,正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をも斟酌して,その裁量により選挙制度の仕組みを決定することができる。
このため,
国会が具
体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められること
になってもやむを得ない。公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた選挙制度の仕組みは,国会が有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとはいえない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口異動の結果,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる
程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,
かつ,
それが相当期間継続して
いるにもかかわらず,
これを是正する措置を講じないことが,
上記人口異動
をいつどのような形で選挙区割り,議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題が複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもなお,
その許される裁量権の限界を超えると判断される場合には,
当該
定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下平成8年大法廷判決という。)
平成4年選挙当時の選挙区間の最大較差は6.
59倍であったところ,

成8年大法廷判決は,
昭和58年大法廷判決が示した判断枠組みの下,
違憲
の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものとい
わざるを得ないとしたが,上記程度に達したかどうかの判定は複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界に関わる困難なものであり,
かつ,
上記程度に達したと解される場合に
おいても,どのような形で改正するかについてなお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経る必要があること,
また,
同選挙当時ま

で最高裁判所が定数配分規定につき違憲状態にあるとの判断を示したことはなかったことなどを考慮し,
結論において,
同選挙までの間に国会が定数
配分規定を是正する措置を講じてこなかったことをもって立法裁量の限界を超えるものと断定することは困難であるとして,同規定が憲法に違反するに至ったとはいえない旨判示した。


最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁
平成6年改正後の定数配分規定の下で平成7年7月に施行された参議院
議員通常選挙当時の選挙区間の最大較差は4.97倍,次いで,平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間の最大較差は4.98倍であったところ,
上記各大法廷判決は,
いずれも昭和58年大法廷判決
が示した判断枠組みの下,平成6年改正により残った較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず,同改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,上記
定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。エ
最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下平成16年大法廷判決という。)
平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された平成13年選挙の選挙区間の最大較差は5.
06倍であったところ,
平成16年大法廷判決は,

平成12年改正は憲法が選挙制度の具体的仕組みの決定につき国会に委ねた立法裁量の限界を超えるものではないとして,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。
同判決には,
6名の裁判官の反対意見のほか,
漫然と同様の状況が維持さ
れるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する4名の裁判官の補足
意見が付された。

最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下平成18年大法廷判決という。)
平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された平成16年選挙当時
の選挙区間の最大較差は5.13倍であったところ,平成18年大法廷判決は,
平成16年大法廷判決の言渡しから平成16年選挙までの期間は約6か月で,その間,参議院では協議会を設けて定数較差の是正について議論を行い,平成16年選挙後には平成18年改正が行われたなどの事情を考慮し,平成16年選挙までの間に上記定数配分規定を改正しなかったことが国会
の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできないとして,
平成16年選
挙当時,
上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。
その上で,平成18年大法廷判決は,
投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそうと指摘した。
同大法廷判決には,
上記定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判
官の反対意見が付された。

最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下平成21年大法廷判決という。)

平成18年改正後の定数配分規定の下で施行された平成19年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.86倍であった。
同大法廷判決は,
平成19年選挙は平成18年改正の約1年2か月後に平
成18年改正後の定数配分規定の下で施行された初めての選挙であり,平成
16年選挙に比べて選挙区間の最大較差は縮小したものになっていたこと,
平成19年選挙後に参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど,
定数較差の問題について今後も検討が行われることとされ
ていること,
現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要
することは否定できないことなどを考慮して,
平成19年選挙までの間に上
記定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えた
ものということはできないとして,平成19年選挙当時,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。その上で,同大法廷判決は,平成18年改正の結果によっても残ることとなった上記較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,
選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図る

ことが求められる状況にあること,
現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,
各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,
選挙区間の最大較差の大
幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の見直しが必要となることは否定できないことを指摘するとともに,このよ
うな見直しを行うことには,参議院の在り方をも踏まえた,高度に政治的な判断が必要で,
事柄の性質上課題も多く,
その検討に相当の時間を要するが,
国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,
投票価値の
平等が憲法上の要請であることに鑑みると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,
適切な検討が行われることが望まれ
る旨指摘した。
同大法廷判決には,
上記定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判

官の反対意見が付された。

最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。)平成18年改正後の定数配分規定の下で二度目に施行された平成22年
選挙当時の選挙区間の最大較差は5.00倍であった。
同大法廷判決は,
都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら
投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っており,
このことは平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたこと,平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態で,
選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが平成21年大法
廷判決において特に指摘されていたこと,それにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正が行われることなく,
平成22年選
挙に至ったことなどを考慮し,平成22年選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等
状態に至っていたとした。

その一方で,
平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制
度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性が指摘されたのは平成22年選挙の約9か月前で,
見直しには参議院の在り方をも踏まえた高度
に政治的な判断が求められるなど事柄の性質上課題も多く,
検討に相応の時
間を要すること,参議院においては,同判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど,
選挙制度の仕
組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたことなどを考慮し,
平成22年選挙までに上記定数配分規定を改正しなかったことが
国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,
上記定数配分規定が
憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
その上で,平成24年大法廷判決は,国民の意思を適正に反映する選挙制
度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,国政の運営における参議院の役割に照らせば,
より適切な民意の反映が可能
となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ,
できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要があると指摘した。
同大法廷判決には,
上記定数配分規定は憲法に違反するとする3名の裁判
官の反対意見が付された。

最高裁平成26年(行ツ)第155号,第156号同年11月26日大法廷判決民集68巻9号1363頁

(以下
平成26年大法廷判決
という。

平成24年大法廷判決の言渡し後にされた平成24年改正による改正後の定数配分規定の下で施行された平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。
同大法廷判決は,
総定数の制約の下で偶数配分を前提に,
長期にわたり5

倍前後という投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが,長年にわたる制度及び社会状況の変化により,もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を維持し得なくなっていること,
その状態を解消するためには,
一部の選
挙区の定数の増減にとどまらず,上記制度の仕組み自体の見直しが必要であること,
ところが,
平成24年改正による4増4減の措置は,上記制度の
仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差(選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたので,上記の状態を解消するには足りないことなどを考慮し,
平成25年選挙当時,
選挙区間における投票価値の不均
衡は,
平成24年改正による上記の措置を経た後も,
平成22年選挙当時と

同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとした。その一方で,
同大法廷判決は,
平成24年大法廷判決の言渡しから約9か
月の間に,平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の附則を定めた平成24年改正がされ,
参議院の検討機関において,
上記附則の定めに

従い,同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきていることのほか,司法権と立法権との関係を踏まえ,
その考慮すべき諸事情に照らすと,
国会における是正の実現
に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行
使の在り方として相当なものでなかったということはできないなどとして,平成25年選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない旨判示した。
その上で,平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決と同様に,国
民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,先に述べた国政の運営における参議院の役割等に照らせば,
より適切な民意の反映が可能となるよう,
単に一部の
選挙区の定数を増減するにとどまらず,
国会において,
都道府県を単位とし
て各選挙区の定数を設定する方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消する必要があると指摘
した。
平成26年大法廷判決には,上記定数配分規定は憲法に違反するとする4名の裁判官の反対意見が付された。

最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)

平成27年改正後の定数配分規定の下で施行された平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であったところ,同大法廷判決は,平成27年改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して,
長年にわたり大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができるとして,
平成28年選挙当時,
上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていた
とはいえない旨判示した。
同大法廷判決には,上記定数配分規定は憲法に違反するとする2名の裁
判官の反対意見が付された。
3
争点及び当事者の主張
本件定数配分規定が議員定数を人口に比例して配分していない点において憲
法に違反して無効といえるか。


原告の主張

本件定数配分規定は,
議員定数の人口比例配分原則に違反する。
本件定数
配分規定は,
憲法56条2項,
1条及び前文第1文が保障する人口比例選挙
(各選挙区に人口比例によって定数を配分する)
に違反する。
本件定数配分
規定の下で施行された本件選挙の1票の投票価値は,選挙区間の最大較差が3.
00倍となっており,
少なくとも平成29年に施行された衆議院議員
選挙(小選挙区)の選挙区間の最大較差1.979倍と比較して,大幅に後
退している。
投票価値の平等の要請は参議院議員の選挙であること自体から後退してよいと解すべき理由はない。
都道府県を選挙区の単位としなければならない
という憲法上の要請はなく,
むしろ都道府県を選挙区の単位として固定する
結果,
その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,
都道府県の意義や実体等を
もって都道府県を選挙区の単位とする選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りないものというべきである(平成26年大法廷判決)。以上のとおり,
憲法に違反する本件定数配分規定により施行された本件選

挙は,憲法98条1項により無効となる。

本件定数配分規定は,平成27年改正において定められた選挙区割りをそのまま維持するにとどまっており,平成30年改正による較差の減少も微細である。
国会は,本件選挙までの期間内に,平成24年及び平成26年
大法廷判決が問題としていた都道府県を選挙区の単位とすることに起因する較差を残したまま,平成29年大法廷判決が合憲判断の理由とした平成
27年改正附則7条で定められた次回選挙に向けての選挙制度の抜本的見直しを一切行っていない。

本件選挙について無効判決がされても,同選挙は将来に向かって形成的に無効となるにすぎないし,
選挙区選出議員が不存在になったとしても,

例代表選出議員が存するため,国会の機能を害することにはならないから,社会的混乱は生じない。
本件選挙が無効とされる場合に,
事情変更の法理を
適用することは許されない。


被告の主張

憲法は,
投票価値の平等を要求する一方,
選挙制度の仕組みの決定につい
ては国会に広範な裁量を認めているから,
投票価値の平等は,
国会が正当に
考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的
に実現されるべきである。
そして,
憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の
偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会が定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に反して違憲であると評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地から見て違憲の問題が生ずる程度の著しい
不平等状態が生じており,
かつ,
当該選挙までの期間内にその是正がされな
かったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決において,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると判断された投票価値の不均衡は,
平成27年改正により解消された。
平成29年大法廷判決は,
平成27年改
正後の定数配分規定について,憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示している。
その後にされている平成30年改正は,
選挙区選出選挙に
関しては平成27年改正法による選挙区割りを維持しつつ,定数を2人増員するものであり,その結果,選挙区間の最大較差は,平成28年選挙当時
の3.08倍から,2.985倍に縮小した。
平成30年改正法が参議院議員の選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映されるとの意義ないし機能を原則として維持したことは,
両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,
参議
院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素
を付加し,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするものであり,二院制を採用している憲法の趣旨にも沿う。そもそも,選挙権は,民主主義国家において,治者でもあり被治者でもある国民が自らの意見等を国政に反映させることを可能とする極めて重要な権利であるところ,都市部に居住する多数者のみならず,いわゆる過疎地域を含む地域に居住する少数者の意見もまた十分に国政に反映させ得る定数配分規定を定めることもまた国会において正当に考慮することができる政策的目的又は理由となる。加
えて,
参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を改選するものとされ
(同法46条),定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,
本件選挙当時,
本件定数配分規定の下での選
挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,仮に同程度に達しているとし
ても,
これを正当化すべき理由があるというべきであるから,
違憲の問題が
生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。

憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,司法において,当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲
の問題を生ずる程度の著しい不平等状態に陥っている旨の判断がされれば,国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量の限界を超えるか否かの判断に当たっては,
単に期間の長短のみならず,
是正のために採るべき
措置の内容,
そのために検討を要する事項,
実際に必要となる手続や作業等

の諸般の事情を総合考慮して国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当であったといえるか否かという観点から評価すべきである。
そうすると,
当該選挙までの期
間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不
均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準として,前記諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件選挙は,平成27年改正による定数配分規定に基づいて施行された平成28年選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態には当たらない旨を判示した平成
29年大法廷判決後に行われた,選挙区間の最大較差の縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づいて施行された初めての参議院議員通常選挙であること,
本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.
00倍で
あり,
平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差3.
08倍から縮小したこ
となどを踏まえれば,
国会が,
本件選挙までの間に上記著しい不平等状態に

至っていたことを認識し得たとはいえない。
そうすると,
仮に本件定数配分
規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について上記著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断を踏まえた裁量権行使の在り方として相当なものでなかったとはいえない。本件選挙までの期間内に本件定数配分規定が改正
されなかったことをもって,国会の裁量権の限界を超えるとはいえない。第3

判断

1
認定事実
前提事実に加え,
末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば,
平成30年

改正の内容及び同改正の経緯等について,以下の事実が認められる。⑴

平成30年改正に向けての参議院における検討状況等
参議院においては,平成27年改正法が,その附則7条において,平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。と定めていることなどを踏まえ,平成28年選挙後の平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査,
検討するため,
参議院議長の下
に,各会派の代表からなる参議院改革協議会(以下改革協議会という。)が設置された。その後,同年4月,改革協議会の下に参議院選挙制度改革についての調査,
検討を集中的に進めるために,
各会派の代表による選挙制度に関
する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置され,同年5月12日から協議が始められた。
専門委員会は,
同年7月7日以降,
平成28年選挙に関する評価について7
名の参考人からの意見を聴取し,
同年10月6日,
平成29年大法廷判決に関
する説明を受け,また,同年11月9日以降,参議院選挙制度改革に対する考
え方についての論点整理を行うなどする中で,
一票の較差,
選挙制度の枠組み,
議員定数の在り方などについて協議を行った。
特に,
選挙制度の枠組みについ
ては,
選挙区及び比例代表の2本立てとする場合としない場合,
ブロック選挙
区制や奇数配当の可否,連記制の導入などがテーマとなった。専門委員会は,平成30年4月,
選挙制度改革の具体的な方向性について,
各会派の意見集約

の結果を聴取した上で,意見交換を行ったところ,各会派からは,統治機構や二院制,
とりわけ参議院の在り方や果たすべき役割について議論した上で選挙制度や議員定数の在り方を検討すべきであるという中長期的な観点からの意見,
現行の選挙区選挙制度について合区の弊害が生じているとの指摘の下,合
区の解消方法として選挙区単位を都道府県とするという意見やより広域なブ
ロックとするという意見など,
翌年の通常選挙を見据えた短期的な観点からの
意見が種々提出されたが,一致点を見出すことが困難な状況であった。専門委員会は,これまでの協議を踏まえ,一票の較差,選挙制度の枠組みなどの各論点についての意見を取りまとめ,
参議院選挙制度改革に関する具体的
な方向性についての各会派の意見を併記した参議院改革協議会選挙制度に関
する専門委員会報告書(以下報告書という。)を作成し,平成30年5月7日,改革協議会に提出した。(以上につき,乙6~10,11の1・2,16)
改革協議会では,
平成30年5月9日,
専門委員会の委員長から報告書の説
明を受け,各会派において持ち帰り検討することとなった。改革協議会は,同年6月1日,
自由民主党から示された平成30年改正法と同内容の改正法案に
ついて意見交換が行われ,
その後,
上記改正法案に対する協議が重ねられたが,
各会派間の意見の隔たりは解消されないまま,
参議院議長に同協議状況が報告
された。
参議院議長による各会派からの個別の意見聴取などを経ても,
選挙制度改革
の方向性についての各会派の意見の隔たりは解消されない状況であった。参議

院議長から,
各会派において具体的な法案を提出し,今後は委員会で議論を進
める旨の要請があり,最終的には,上記自民党案と同内容の自由民主党・こころ及び無所属クラブ案,選挙区選出議員について埼玉県選挙区の定数を8人(2増)
とし,
比例代表選出議員の定数を2人減少するなどという内容の国民
民主党・新緑風会案,
現行制度に代えて全国を11の区域に分けて大選挙区制

を採用するという内容の公明党案,
現行制度に代えて総定数を218人
(24
減)
とした上で全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用するという内容の日本維新の会案などを含む5つの法律案が7会派から発議され,
参議院政治倫
理の確立及び選挙制度に関する特別委員会(以下特別委員会という。)に付託された。

特別委員会では,
同年7月6日以降,
上記各法律案に関する質疑応答が行わ
れ,同月9日,公明党案については,採決の結果,否決すべきものとされ,同月11日,
自由民主党・こころ及び無所属クラブ案が多数をもって可決すべきものと決定された。その際,自由民主党及び公明党から,参議院は,今後の参議院選挙制度改革については,
憲法の趣旨にのっとり,
参議院の役割及び在り

方を踏まえ引き続き検討を行うことなどの実現に努めるべきであるとする附帯決議が提出され,多数をもって可決された。同日,参議院本会議において,上記法案が可決された。(以上につき,乙13(枝番全て),14,16)その後,上記自由民主党・こころ及び無所属クラブ案は,衆議院における特別委員会において多数をもって可決すべきものと決定され,
同月18日,
衆議
院本会議における討論を経て,多数をもって可決された。
このようにして平成30年改正法は,同日成立し(同月25日公布),同年
10月25日施行された。
平成30年改正の内容は,
前提事実のとおりであり,
平成30年改正の結果,
選挙区間の最大較差は2.98倍(立法当時)となった。法案提出者からは,通常選挙が来年に迫っている中で,
今国会中に公職選挙法の改正を行う必要性
から,
参議院選挙区選出議員の選挙について,
選挙区間における議員一人当た
りの人口較差の縮小を図るため,
参議院選挙区選出議員の定数を増加して各選
挙区において選挙すべき議員の数の是正を行うとともに,
参議院比例代表選出
議員の選挙について,
全国的な支持基盤を有するとはいえないが国政上有為な
人材又は民意を媒介する政党がその役割を果たす上で必要な人材を当選しや
すくなることを目的とし,
現行の非拘束名簿を基本的に維持しつつ,
候補者の
一部について,
他の候補者と明確に区分する形で拘束式の枠を設けることがで
きるようにするため,特定枠の制度を導入し,及び,参議院比例代表選出議員の定数を増加させることとしたなどの説明がされている。
(以上につき,乙1
3の5,14,16)



平成30年改正に至るまでの各地方公共団体等の意見等の状況
平成27年改正に至るまでの間には,当時の合区の検討対象とされた地方
公共団体の知事等から合区案に反対し,
都道府県単位の選挙区の維持を求める
旨の意見や全国町村会からは合区案について慎重な検討を求める旨の意見が提出され,
全国知事会からは合区案に対する懸念表明が示されていた中,
同改
正の下で実施された平成28年選挙において,
合区対象4県のうち鳥取県,

島県及び高知県で当時における過去最低の投票率となり,
高知県では全国最高
の無効投票率を記録した。(乙5の4・5,18の8,21の1,25の1,28の1)
この結果を受け,平成28年選挙後から,全国知事会において,合区に起因する弊害が顕在化したなどとして,
合区を早急に解消するよう求める旨の決議
が,
全国市長会において,
上記投票率の低下を指摘し,
速やかに合区を解消し,

都道府県単位による代表が国政に参加できる選挙制度を求める旨の決議が,い
ずれも数次にわたって提出された。
そのほか全国市議会議長会,
全国町村長会,
全国町村議会議長会からも,
同様の意見が多く提出される中,
平成30年4月
27日,地方自治確立対策協議会(地方六団体)において,合区の早期解消を強く求める旨の大会アピールが表明された。
そのほか,
平成27年改正前から

平成28年選挙後まで,
複数の地方公共団体の議会や同議会議長から,
合区解
消を求める意見が継続的に提出されている。
(乙21の2・4,
23の1~3,
24の3・4,25の1~4,26の1~3,27の1・2,28の3~7・9・14~22,24~28,30,35~56,58~60,63,72~99,102~125,145~149,151,153~168,170,
201~235)


本件選挙の結果
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下での初めての参議院議員通常
選挙として,
本件選挙が施行された。
本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.
00倍であり,その余の選挙区の較差は,いずれも3倍未満で,そのうち23
選挙区では2倍未満であった。(乙1の1)
2
定数配分規定の憲法適合性に係る基本的な判断枠組みについて


憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の
投票の有する価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのようなものにするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価
値の平等は,
選挙制度の仕組みを決定する唯一,
絶対の基準となるものではな
く,
国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,
国会が具体的に定めた
ところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それにより
投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反
するとはいえない。
憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色ある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあ
ると解される。
前提事実⑷においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,こ
のような観点から,
参議院議員について全国選出議員
(昭和57年改正後は比
例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。
昭和22年の参議院議員選

挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,
このような選挙制度の
仕組みを定めたことが,
国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるも
のであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,
上記仕組みの下で投票価値の著
しい不平等状態が生じ,
かつ,
それが相当期間継続しているにもかかわらずこ

れを是正する措置を講じないことが,
国会の裁量権の限界を超えると判断され
る場合には,
当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当
である。


以上は,
昭和58年大法廷判決以降の参議院議員
(地方選出議員ないし選挙

区選出議員)
選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,
基本
的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
原告は,憲法上,人口比例選挙が保障されている旨主張するが,憲法が要求する投票価値の平等は,
選挙制度の仕組みを決定する唯一,
絶対の基準となる
ものではなく,
国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由
との関連において調和的に実現されるべきものと解されることは前記説示のとおりであるから,
同主張が投票価値の絶対的平等を要求する趣旨であるとす
れば,これを採用することはできない。

3
上記の判断枠組みを前提に,本件選挙当時の本件定数配分規定の憲法適合性
について,以下判断する。


憲法は,
二院制の下で一定の事項について衆議院の優越を認める反面,
参議

院議員につき任期を6年の長期とし,解散(同法54条)はなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(同法46条)ことを定めている。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,
参議院議員の任期をより長期とすることなどによって,
多角的かつ長期
的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる
具体的な選挙制度によって,
上記の憲法の趣旨を実現し,
投票価値の平等の要
請と調和させていくかは,
二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院
との異同をどのように位置付け,
これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させ
ていくかという点を含め,
国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきで
ある。このことも,前記2⑴と同様,累次の大法廷判決が基本的な立場として
示してきたところである。


前記2⑴のとおり,
投票価値の平等は,
選挙制度の仕組みを決定する唯一,

絶対の基準となるものではなく,
国会が正当に考慮することができる他の政策
的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,
前記⑴のとおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,
二院制の下で
の参議院の在り方や役割を踏まえ,
参議院議員につき衆議院議員とは異なる選
挙制度を採用し,
国民一般の多様な意見を反映させて,
参議院に衆議院と異な
る独自の権能を発揮させようとすることも,
選挙制度の仕組みを定めるに当た
って国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。
そして,
具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,
一定の地域の住民
の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,政治
的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値
の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,
このような要素を踏まえた選

挙制度を構築することが直ちに国会の合理的裁量を超えるものとは解されない。
平成24年及び平成26年各大法廷判決は,
上記のような選挙制度の構築
についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,
長年にわたる制
度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,
その変化として,
参議院
議員と衆議院議員の各選挙制度が同質のものとなってきており,
国政の運営に

おける参議院の役割が増大してきていることに加え,
衆議院については投票価
値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げ,これらの事情の下では,
昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大き
な較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,
数十年間にもわ

たり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,
都道府県を各選挙区の単
位としなければならないという憲法上の要請はなく,
むしろ,
都道府県を各選
挙区の単位として固定する結果,
上記のように長期にわたり大きな較差が継続
していた状況の下では,
上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制

度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているとしたものである。この判断は,
都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大き
な不平等状態を長期にわたって継続させてきた要因であるとみたことによるものにほかならず,
各選挙区の区域を定めるに当たり,
都道府県という単位を
用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。もとよ
り,
参議院議員の選挙について,
直ちに投票価値の平等の要請が後退してよい
と解すべき理由は見いだし難く,
参議院についても更に適切に民意が反映され
るよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,上記のような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,
憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとさ
れていることなど,
議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があるこ

とを踏まえつつ,
二院制に係る上記の憲法の趣旨と調和の下に実現されるべき
であることに変わりはないというべきである。
そして,
平成27年改正は,
平成24年及び平成26年の各大法廷判決が長
期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因として指摘した従来の選挙制度の仕組みを見直すべく,
人口の少ない一部の選挙区を合区するというこ

れまでにない手法を導入したものであり,
これによって選挙区間の最大較差が
これまでの5倍前後から2.97倍に減少したのであって,同改正は,参議院選挙の特性を踏まえ,
上記各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったも
のとみることができる(平成29年大法廷判決参照)。


本件選挙は,平成29年大法廷判決の言渡し後に成立した平成30年改正
法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものであるところ,同改
正は,前記のとおり,選挙区選出議員については,平成27年改正によって初めて導入された人口の少ない一部の選挙区を合区するという手法とその内容に変更を加えることなく,
平成28年選挙当時,
選挙区間の最大較差となった
埼玉県選挙区の定数を2人増員するなどしたものであり,
これにより,選挙区

間の最大較差は,平成28年選挙当時の3.08倍から2.98倍(立法時,本件選挙当時は3.00倍)となった。
ところで,平成27年改正が,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年及び平成26年の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができることは前記説示のとおりである一方,
平成27年改正に
際しては,
合区の検討対象となった地方公共団体の知事から合区案への反対意見が提出されたり,
全国町村会から合区案に対する慎重な検討を求める意見が
提出されるなど,
合区の導入については,
必ずしも地方公共団体等から全面的
な支持が得られていた状況にはなかった。そのような中,
同改正の下で施行さ
れた平成28年選挙において合区対象4県のうち3県で投票率が低下したことなどを受け,
平成28年選挙後から平成30年改正に至るまでには,
全国知

事会,全国市長会,全国市議会議長会,全国町村長会,全国町村議会議長会及び地方六団体のほか,
複数の地方公共団体の議会や議会議長から,
合区の早期
解消や都道府県単位で代表を選出できる選挙制度を要請する旨の決議や意見等が多数提出された。
参議院においては,
平成29年2月,
参議院議長の下に,参議院の組織及び運

営に関する諸問題を調査,
検討するための改革協議会が設置され,同年4月に
改革協議会の下に設置された専門委員会において,
同年5月から参議院選挙制
度改革に関する調査,
検討が行われ,
同制度改革に対する考え方についての各
論点を協議し,各会派から,参議院の在り方や役割について議論をした上で,選挙制度や議員定数の在り方を検討すべきであるという中長期的な観点から
の意見,
来年の選挙を見据えた短期的な観点からの意見など種々の意見が提出されたが,
専門委員会において一致点を見出すのは困難な状況にあり,
平成3
0年5月にその検討調査の結果の取りまとめ及び各会派の選挙制度改革の方向性に関する意見を併記した報告書が改革協議会に提出された。
その後,
改革
協議会において,
自由民主党から平成30年改正法と同内容の法案が提示され,

同法案に対する意見交換が行われ,
参議院議長による各会派の個別の意見聴取
などを経たが,
結局,
各会派の選挙制度改革の方向性に関する意見の隔たりは
解消されないまま,
委員会で議論が進められることとなった。
最終的に7会派
から発議された5つの法律案が特別委員会に付託され,
同年7月6日以降,特
別委員会及び参議院本会議での質疑応答,審議を経て,同月11日,自民党・こころ及び無所属クラブ案が可決され,同月18日,
衆議院本会議において同
案が可決され,同日,平成30年改正法が成立した。
以上のとおり,
国会は,
平成28年選挙後,
全国知事会,
地方六団体など様々
な団体から合区解消を求める決議等が多く提出され,
参議院内においても,

挙制度改革の方向性に関する各会派の意見に一致点を見出すことが困難な状況にある中,
次回の通常選挙が約1年以内に予定されているという時間的制約

があることをも踏まえ,
参議院における協議及び検討並びに国会における審議
等を経て,平成30年改正法を成立させたものと認められる。
同法の内容は前提事実のとおりであり,
平成30年改正後の本件定数配分規
定の下で施行された本件選挙当日における選挙区間の最大較差は3.00倍,そのほかの合区を含む選挙区と最小の選挙区との較差はいずれも3倍未満,う
ち23選挙区と最小の選挙区との較差は2倍未満であって,
選挙区間の最大較
差については平成28年選挙当時から0.08減少した結果となる。このような平成30年改正に至る経緯,
改正の内容及び本件選挙の結果に照
らし,
また,
特別委員会において,
参議院は,
平成30年改正法施行に当たり,
今後の参議院選挙制度改革について,
憲法の趣旨にのっとり,
参議院の役割及

び在り方を踏まえ引き続き検討を行うよう努めるべきである旨の附帯決議がされていることをも考慮すると,
平成30年改正は,
前述の参議院議員の選挙
の特性を踏まえ,
平成24年以降の大法廷判決の趣旨に沿って,
再び大きな較
差を生じさせることのないよう平成27年改正により導入された一部の選挙区を合区するという手法及びその内容を維持した上で,
一選挙区の定数を増員

することによって,較差の是正を図るものであり,併せて,参議院における今後の較差是正に向けての検討の方向性と実現の姿勢が示されていると認めることができるから,
国会の裁量権の行使として合理性を有するものというべき
である。
この点,平成30年改正による較差の減少の程度は僅かであり,平成27年改正法の附則7条で定められた選挙制度の抜本的見直しがされたといい得る大きな見直しがされたとは評価し難い。
しかしながら,
参議院議員の選挙制度

の見直しには参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど事柄の性質上課題も多く,
検討には相応の時間を要すると解されるところ,
平成30年改正は,平成27年改正により初めて合区という手法が導入され,これに基づく平成28年選挙が施行された後の初めての改正であり,前記のと
おり,
平成28年選挙後,
全国知事会をはじめとする各団体等から合区に対す

る反対意見等が多く提出され,
参議院内においても,
選挙制度改革の方向性に
ついて,
各会派から種々の意見が提出され,
その隔たりが解消できない状況が
続く中,
次回の通常選挙に間に合わせるという時間的制約があったことをも考慮すれば,
較差の減少が僅かであるなどの上記事情をもって,
前記判断を左右
するものとはいえない。

以上のような事情を総合すれば,
本件選挙当時,
平成30年改正後の本件定
数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,
違憲の問題が生ず
る程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,
本件定数配分規定が憲法
に違反するに至っていたということはできない。
第4

結論
以上によれば,本件定数配分規定が本件選挙の当時において憲法に違反して
いるとは認められないから,原告の請求は,その余の主張について判断するまでもなく,理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。福岡高等裁判所那覇支部民事部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

久保正道本多智子平山俊輔
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