判例検索β > 平成31年(行ケ)第10026号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成31(行ケ)10026
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和元年12月11日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2019-12-11
情報公開日2019-12-19 12:00:17
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令和元年12月11日判決言渡
平成31年(行ケ)第10026号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和元年10月9日
判原決告
パスカルエンジニアリング株式会社

訴訟代理人弁護士

別城
信太郎

訴訟代理人弁理士

深見久郎
佐々木

眞人高橋智洋松田将治被告
株式会社コスメック

訴訟代理人弁護士

松井1司裕史上洋平文
原告の請求を棄却する。

2上田主本
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
特許庁が無効2018-800058号事件について平成31年2月5日にした審決を取り消す。

第2

前提となる事実
1
特許庁における手続の経緯等
(1)

原告は,平成28年4月11日,発明の名称を流体圧シリンダ及びクランプ装置とする特許出願
(特願2016-78545号。
以下
本件出願
といい,本件出願に係る願書に最初に添付されていた明細書〔甲1-1〕及び図面〔甲1-3〕を本件当初明細書,本件当初明細書及び特許請求の範囲〔甲1-2〕を本件当初明細書等という。)をした。
なお,本件出願は,平成23年10月7日を出願日とする特願2011-222846号の一部を平成25年7月26日に新たな出願とし(特願2013-155444号),更にその一部を平成27年9月24日に新たな出願とし(特願2015-186531号),更にその一部を新たな出願としたものである。
原告は,平成28年5月10日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正した(以下本件補正という。)。
原告は,平成30年2月16日,特許権の設定の登録(特許第6291518号。請求項の数は5。)を受けた(以下,この特許を本件特許という。)。
(2)

被告は,平成30年5月11日,本件特許につき無効審判を請求した(無
効2018-800058号)。
特許庁は,平成31年2月5日,

特許第6291518号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。

との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。
(3)

原告は,平成31年3月1日,本件審決の取消しを求めて,本件訴訟を提
起した。
2
特許請求の範囲の記載


本件補正前
本件補正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,特許請求の範囲に記載された発明を本件当初発明といい,個別に特定するときは請求項の番号に従って本件当初発明1などという。)。
【請求項1】
シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,
このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,
前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記流体室に流体圧が供給された状態において,前記開閉弁機構は前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態を維持し,
前記流体室の流体圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に,前記開閉弁機構は,前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態に切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。【請求項3】
前記流体室に流体圧が供給されている場合,前記開閉弁機構は前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態を維持し,
前記流体室の流体圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に,前記開閉弁機構は,前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態に切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成された前記装着孔に挿入螺合され且つ前記弁体が進退可能に挿入されたキャップ部材を備え,
前記キャップ部材に,前記出力部材側端部に前記弁座が形成され,前記キャップ部材と前記弁体との間に前記流体圧導入室が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記弁体は,弁体本体と,この弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体とを備え,前記弁体本体と前記可動弁体との間にシール部材が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の流体圧シリンダ。
【請求項6】
前記開閉弁機構の流体圧導入路は,前記弁体に貫通状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項7】
前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項8】
前記所定の位置が,前記出力部材の上昇限界位置,作動途中位置,下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項9】
前記出力部材からなるクランプロッドを備え,請求項8に記載の流体圧シリンダによりクランプロッドを駆動するように構成したことを特徴とするクランプ装置。


本件補正後
本件補正後の本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,
次のとおりである
(以下,特許請求の範囲に記載された発明を本件発明といい,個別に特定するときは請求項の番号に従って本件発明1などという。)。
【請求項1】
シリンダ本体と,
前記シリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,
前記出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室と,前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,
前記エア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備えた流体圧シリンダであって,前記開閉弁機構は,
前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され,小径軸部と前記小径軸部に対して前記流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を含む弁体と,
前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と,
前記シリンダ本体の前記装着孔の途中部に設けられ,前記弁体本体の前記小径軸部が挿通される貫通孔を有する環状部材と,
前記装着孔の開放側部分に固定され,前記弁体本体の前記大径軸部が内嵌される凹穴を有するキャップ部材と,
前記環状部材と前記キャップ部材との間に形成され,前記弁体を収容する収容室と,
前記環状部材の径方向に延びるように形成され,前記収容室を前記エア通路の前記一端部側に連通させる第1エア通路と,
前記キャップ部材に形成され,前記収容室を前記エア通路の前記他端部側に連通させる第2エア通路とを含み,
前記出力部材が所定の位置にない場合,前記開閉弁機構は,前記弁体を前記流体室に進出させた状態に保持し,前記第1エア通路と前記第2エア通路とを開く開放状態を維持し,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を前記第1エア通路と前記第2エア通路とを閉じる閉弁状態に切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記開閉弁機構は,前記弁体に当接可能な弁座をさらに備え,
前記弁体は,前記弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。【請求項3】
前記小径軸部の外周側に設けられ,前記流体室と前記収容室との間をシールする第1シール部材と,
前記キャップ部材により塞がれた前記装着孔の内部と外界との間をシールする第2シール部材とをさらに備えた,請求項1または請求項2に記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記所定の位置が,前記出力部材の上昇限界位置,作動途中位置,下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記出力部材からなるクランプロッドを備え,請求項4に記載の流体圧シリンダによりクランプロッドを駆動するように構成したことを特徴とするクランプ装置。
3
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりである。要するに,本件補正は,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,特許法17条の2第3項に規定される要件(新規事項の追加禁止)を満たしていない,また,本件発明は,本件当初明細書等による裏付けを欠くもので,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないとして,本件特許を無効とするというものである。

第3
1
原告の主張
取消事由1(新規事項の追加に関する判断の誤り)
(1)

本件審決は,本件当初明細書等には,流体室の流体圧によって弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,流体室と流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備える開閉弁機構を有する流体圧シリンダの発明のみが記載されており,流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで,弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構についての記載は全くなく,示唆もされていないと認められると認定する。しかし,弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構は,本件当初明細書等に記載されているも同然の事項であるか,少なくとも示唆されているものである。その理由を,以下に説明する。
(2)

段落【0122】(本件当初明細書の段落番号。以下同じ。)には種々の開閉弁機構を採用することができると記載され,開閉弁機構の改変が示唆されている。
また,実施例2(本件当初明細書に記載のもの。他の実施例を含め,以下同じ。)においては,弁体を進出させる構成として,油圧導入室(流体圧導入室)と弾性部材とを併用することが明示されている。これは,実施例2においては他の実施例(油圧導入室(流体圧導入室)のみで弁体を進出させる構成)とは異なる構成で弁体を進出させること,すなわち弁体を進出させる構成を改変することが示されているといえる。さらには,その改変後の進出機構(実施例2)において,弾性部材を用いることも明示されているのである。
そして,小径軸部と前記小径軸部に対して流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を弾性部材単独で流体室側に進出させる構造(以下弾性部材単独構造という。)は,甲3-2に加えて,米国特許第3540348号明細書(甲11)及び米国特許第4632018号(甲12)にも示される周知技術ないし技術常識である。
また,弾性部材単独としても,その付勢力により弁体を油室側に付勢するという機能は併用構造と何ら変わるものではない。
よって,実施例2の改変にあたり,周知技術ないし技術常識である弾性部材単独構造を選択することは当業者にとって極めて自然であるといわなければならない。
そうすると,本件当初明細書等の記載を弾性部材のみで弁体を進出させるという技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が本件当初明細書等に含まれているというべきである。
(3)

また,
本件当初明細書の
発明が解決しようとする課題発明の効果

の欄の記載との関係で,流体圧導入室及び流体圧導入路が必須の構成といえるものでもない。
すなわち,本件当初明細書等には,


シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込み,出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を切り換える構造を採用することで,流体圧シリンダの小型化と,出力部材が所定の位置に達したことの確実な検知を図る発明(段落【0011】,
【0021】,
【0023】)


流体室の流体圧を利用して弁体を付勢する構造を採用することにより,出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性の向上を図る発明(段落【0011】,【0022】)

という,別個独立の少なくとも2つの発明が示されており,前記①の発明において,流体圧導入室及び流体圧導入路は必須の構成ではない。なお,段落【0021】における開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備えとの記載は,本件当初発明1に規定された開閉弁機構の構成を列挙したものにすぎず,流体圧導入室及び流体圧導入路が流体圧シリンダの小型化の為に必須の構成であることを意味するものではない。
よって,流体圧導入室及び流体圧導入路を備えず,弾性部材
のみで弁体を進出させる弾性部材単独構造は,段落【0122】でいうところの本発明の趣旨を逸脱しない範囲のものである。
(4)

このように,
本件補正は,
単に弾性部材単独構造が周知技術ないし技術常

識であるという事実のみに基づくものではなく,当該周知技術ないし技術常識をふまえつつ,本件当初明細書中における開閉弁機構の構造の改変の示唆(段落【0122】),並びに弁体を流体室側に進出させる進出機構を改変すること,及びその改変の具体例としての弾性部材を含む構造の記載(実施例2)等に基づいて行なったものであるから,それは,とりも直さず,本件補正が本件当初明細書等に記載した事項の範囲内で行なわれたものであることにほかならず,本件審決は,この点を看過し,誤った認定を行なっている。
2
取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)
本件審決は,

流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構についての記載は全くなく,示唆もされていない。

と認定する。
しかし,かかる認定が誤りであることは,前記1のとおりである。よって,本件審決におけるサポート要件違反の判断は,誤りである。
3
まとめ
以上のとおり,本件審決は,新規事項の追加(取消事由1)及びサポート要件(取消事由2)についての認定判断を誤り,その誤りが結論に影響していることは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。

第4
1
被告の主張
取消事由1(新規事項の追加に関する判断の誤り)に対し
(1)

弁体を出力部材側へ進出させた状態に保持する構成として,
スプリングで

例示された弾性部材を開示している実施例2は,流体圧を用いる技術的事項を必須構成としており,補助的な役割として弾性部材が記載されているにすぎない。しかも,実施例2の作用効果は,油圧によって弁体を進出状態に保持させることを前提とした実施例1の作用効果(信頼性と耐久性の面で有利である(段落【0072】))と,同一である(段落【0075】の最終文)。
さらには,実施例1及び2のみならず,実施例3ないし8の各実施例においても,全て,弁体を進出状態に保持させるために,油圧を用いることを必須の構成としており,油圧を用いない構成については記載も示唆もない。このように,本件当初明細書等には,弾性部材を補助的に用いる場合であっても,
弁体を出力部材側へ進出させてこれを保持するための構成としては,流体室の流体圧を用いる構成が必須のものとされているのである。(2)小径軸部と前記小径軸部に対して流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を弾性部材単独で流体室側に進出させる構造が周知技術ないし技術常識であるとの原告の主張は,否認する。当該技術は,本件出願時の公知技術の一つに過ぎない。
仮に,かかる構造が周知技術ないし技術常識であったとしても,明細書又は図面の記載を,
当該技術と結び付けて理解しようとするための契機
(示唆)
が必要である。
しかし,開閉弁機構において油圧導入室及び油圧導入路を有する
ことが必須の発明しか本件当初明細書等には開示されておらず,これらを不要とする発明は本件当初明細書等においては記載も示唆もされていない。したがって,本件当初明細書等の記載における油圧導入室及び油圧導入路に代えて弾性部材単独で弁体本体を流体室側に進出させた状態に保持する構造(技術)を,周知技術などに結びつけて理解しようとするための契機(示唆)は存在しない。
(3)

原告はまた,発明が解決しようとする課題及び発明の効果との関

係において,
流体圧導入室
は必ずしも必須の構成ではないとも主張する。
しかし,仮に原告の主張するように,2つの別発明があるとしても,それらの発明は,その課題を,いずれも弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え(段落【0021】),流体圧シリンダの流体室の流体圧を,開閉弁機構の流体圧導入室に流体圧導入路を介して導入可能な構成(段落
【0
022】)とすることによって実現しているものであることは自明である。すなわち,原告の主張する2つの発明(効果の並記)は,いずれも流体圧導入室と流体圧導入路を必須の構成とするものであるとしか,当業者は本件当初明細書等からは理解できない。
まして,弾性部材のみで弁体を進出状態に保持する発明が本件当初明細書等に記載されているとは,当業者は認識し得ない。
2
取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)に対し
弾性部材のみで弁体を進出状態に保持する発明は記載も示唆もされていないことは,前記1のとおりであり,原告の主張は理由がない。
3
まとめ
以上のとおり,原告の主張する取消理由はいずれも失当であり,本件審決の認定判断に,審決の結論に影響を及ぼす誤りは存在しない。

第5

当裁判所の判断

1
取消事由1(新規事項の追加に関する判断の誤り)について


本件補正の内容
本件補正は,弁体を有する開閉弁機構について,本件補正前の請
求項1から
この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備えという発
明特定事項を削除し,
前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と・・・を含むという発明特定事項を新たに導入する内容を含むものである。したがって,本件補正後の本件発明1には,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成として,
流体室の流体圧を利用するための流体圧導入
室及び流体圧導入路を備えることなく,
弾性部材のみとする構成も含まれる
こととなる。
また,
本件発明2ないし5は,
本件発明1を直接又は間接的に引用する従
属項であり,
弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成については
本件発明1に限定を加えていないから,
本件発明1と同様,
流体室の流体圧
を利用するための流体圧導入室及び流体圧導入路を備えることなく,弾性部
材のみとする構成も含まれることとなる。
かかる補正が,
当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項との関係において,
新たな技術的事項を導
入しないものであると認められるかを,以下検討する。


本件当初明細書の記載
本件当初明細書には,以下の記載がある(図1,3,11,12は別紙本件図面参照。)。

技術分野

【0001】本発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切換えエア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関する。

発明が解決しようとする課題

【0011】本発明の目的は,出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能で小型化可能な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること,出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること,等である。

課題を解決するための手段

【0012】請求項1の流体圧シリンダは,シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴としている。
【0018】請求項7の流体圧シリンダは,請求項1の発明において,前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に弾性付勢する弾性部材を有することを特徴としている。

発明の効果

【0021】請求項1の流体圧シリンダによれば,シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,この開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え,弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため,流体圧シリンダを小型化することができる。
【0022】前流体圧シリンダの流体室の流体圧を,開閉弁機構の流体圧導入室に流体圧導入路を介して導入可能に構成し,出力部材が所定の位置に達しない状態では,流体室の流体圧を利用して弁体を流体室側に突出した状態に保持することができ,開閉弁機構の開閉状態を保持することができる。流体室の流体圧を利用して弁体を付勢するため,信頼性と耐久性の面で有利である。
【0023】出力部材が所定の位置に達したとき,出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り換えるため,前記エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知可能である。【0029】請求項7の流体圧シリンダによれば,流体室の流体圧がドレン圧に切り換えられたとき,出力部材が所定の位置に達するまでは,開閉弁機構の開閉状態を維持することができる。

発明を実施するための形態

【0033】以下,本発明を実施するための形態について,実施例に基づいて説明する。
この実施例は,
流体圧シリンダとしての油圧シリンダにより出力部材
(ク
ランプロッド)を駆動するように構成したクランプ装置に本発明を適用した場合の例である。
(ア)

実施例1

【0034】先ず,クランプ装置の全体構成について説明する。
図1~図10に示すように,クランプ装置1は,パレット等のベース部材2に上方へ突出状に組付けられている。クランプ装置1は,ベース部材2の固定面2aにワーク等のクランプ対象物を固定解除可能に固定するものである。以下,
油圧
(流体圧)は圧縮状態の油を意味する。
【0035】クランプ装置1は,鉛直姿勢の油圧シリンダ3(流体圧シリンダ)と,出力部材4と,油圧シリンダ3のシリンダ本体10に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通した第1,第2エア通路21,22と,この第1,第2エア通路21,22を夫々開閉可能な第1,第2開閉弁機構30,50とを有する。
【0036】第1開閉弁機構30は,第1エア通路21のエア圧を介して,出力部材4が上昇限界位置にあることを検出する為のものである。第2開閉弁機構50は,第2エア通路22のエア圧を介して,出力部材4が下降限界位置にあることを検出する為のものである。尚,出力部材4の上昇限界位置は,出力部材の所定の位置に相当する。同様に,出力部材4の下降限界位置は,出力部材の別の所定の位置に相当する。
【0048】次に,第1開閉弁機構30について説明する。
図2,図7,図9に示すように,第1開閉弁機構30は,第1挿通孔12bの上端部の外周側付近において上端壁部材12の壁部の内部に配設され,第1エア通路21の上流側エア通路21aの下流端部を開閉可能に設けられている。第1開閉弁機構30は,弁体31と,キャップ部材32と,弁座32aと,油圧導入室33(流体圧導入室)と,油圧導入路34
(流体圧導入路)内部のエア通路35a~35fとを備え,
と,
上端壁部材12の装着孔36にキャップ部材32と環状部材37を介して組み込まれている。
【0051】弁体31は,先端部がクランプ用油室14の筒状部14aに部分的に突出可能な弁体本体38と,この弁体本体38に可動に外嵌された可動弁体39とで構成されている。・・・
【0057】油圧導入室33が,前記凹穴32bのうちのキャップ部材32と弁体本体38との間に形成され,弁体本体38に貫通状に形成された油圧導入路34を介して,クランプ油室14の筒状部14aに接続されている。油圧導入路34の先端部分には複数の分岐油路34aが形成されている。クランプ油室14に油圧が供給されると,油圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,その油圧が弁体本体38を進出方向(ピストンロッド部4c側)へ付勢する。
【0058】次に,油圧シリンダ3と第1開閉弁機構30の作用について説明する。
クランプ油室14に油圧が供給され,ピストンロッド部材4aが下降途中又は下降限界位置(クランプ状態)のとき,小径ロッド部4dが第1開閉弁機構30に対向する。
そのため,第1開閉弁機構30においては,図9に示すように,油圧導入室33に導入された油圧を弁体31が受圧して弁体本体38が進出状態になり,弁面39vが弁座32aから離隔して閉弁状態から開弁状態に切換わり,エア通路35a~35fが連通状態となる。このとき,係合軸部38cの段部により環状係合部39cが奥方へ押動されるため,確実に閉弁状態から開弁状態になる。尚,閉弁状態から開弁状態への切換えが,開閉状態の切換えに相当する。
【0059】これに対して,クランプ装置1のクランプ用油室14の油圧がドレン圧に切換えられ,アンクランプ油室15に油圧が供給され,クランプ装置1がアンクランプ状態になったとき,図2に示すように,油圧導入室33の油圧がドレン圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体38がキャップ部材32側へ押動される。そして,弁体本体38と可動弁体39との間にはシール部材40の摩擦力が作用するため,弁体本体38と共に可動弁体39も移動し,弁面39vが弁座32aに当接して開弁状態から閉弁状態に切換わり,エア通路35cとエア通路35dの間が閉じられる。
【0062】次に,第2開閉弁機構50について説明する。
図1,図3,図8,図10に示すように,第2開閉弁機構50は,第1開閉弁機構30と同様の構造であるため,弁機構の構造については簡単に説明する。
【0063】第2開閉弁機構50は下端壁部材13の中央部分の装着孔56に鉛直姿勢に配設され,第2開閉弁機構50は,第2エア通路22の下流端部を開閉可能に設けられている。第2開閉弁機構50は,弁体51と,キャップ部材52と,弁座52aと,油圧導入室53(流体圧導入室)と,油圧導入路54(流体圧導入路)と,内部のエア通路55a~55dとを備え,下端壁部材13の鉛直の装着孔56にキャップ部材52と環状部材57を介して組み込まれている。
【0065】弁体51は,弁体本体58と可動弁体59とを備えている。・・・
【0069】次に,油圧シリンダ3と第2開閉弁機構50の作用について説明する。
図1,図3に示すクランプ装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15に油圧が充填されているため,油圧導入孔54から油圧導入室53へ油圧が導入され,油圧導入室53の油圧により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動し,環状係合部59cと小径軸部58cの段部の係合を介して,可動弁体59も上方へ移動し,環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態を保持する。
【0070】クランプ装置1のクランプ油室14に油圧を供給し且つアンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換えると,ピストンロッド部材4aが下降限界位置まで下降し,クランプ装置1がアンクランプ状態からクランプ状態に切換えられ,ピストン部4pが下端壁部材13の上面に当接状態になる。すると,図10に示すように,弁体本体58がピストン部4pにより下方へ押動され,シール部材62の摩擦力を介して可動弁体59も下方へ移動して,環状弁面59vが環状弁座52aに当接して開弁状態から閉弁状態に切換えられる。その結果,第2エア通路22のエア圧が上昇するため,圧力スイッチ22nによりピストンロッド部材4aが下降限界位置に移動してクランプ状態になったことを確実に検知することができる。
【0071】この油圧シリンダ1によれば,クランプ本体10内のエア通路21,22を開閉する第1,第2開閉弁機構30,50を,シリンダ本体10に形成した装着孔36,56に組み込むことで,第1,第2開閉弁機構30,50をクランプ本体10内に組み込むことができるため,出力部材4の上昇限界位置と下降限界位置を検出可能な油圧シリンダ1を小型化することができる。
【0072】第1開閉弁機構30では,クランプ油室14内の油圧を油圧導入室33に導入し,その油圧を弁体31に作用させて,弁体31を出力部材4側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利である。第2開閉弁機構についても同様である。
【0073】出力部材4が所定の位置に達したときに,出力部材4により弁体31,51を移動させて第1,第2開閉弁機構30,50の開閉状態を切換えるため,エア通路21,22のエア圧を介して出力部材4の所定の位置を確実に検知することができる。
(イ)

実施例2

【0074】実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更した第2開閉弁機構50Aについて説明する。
但し,
変更部分についてのみ説明し,
同様の部材に同じ符号を付して説明を省略する。図11,図12に示すように,弁体本体58Aの下端部分に下端開放の凹穴58dであって油圧導入室53に開口した凹穴58dが形成され,この凹穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aが装着された。弁体本体58Aは,油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢されると共に,圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されている。
【0075】圧縮コイルスプリング53aを設けたため,クランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に,アンクランプ油室15に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における,弁体51の作動確実性を高めることができる。尚,第1開閉弁機構30にも,上記と同様に,圧縮スプリングを組み込んでもよい。その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(ウ)

実施例3

【0076】実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更した第2開閉弁機構50Bについて説明する。・・・環状部材57は省略されている。・・・
【0078】図13に示すアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15に油圧が供給されるため,
油圧導入室53に導入される油圧により,
弁体本体58と可動弁体59Bとが上方へ付勢されて上昇限界位置になるため,
環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態になる。
【0079】・・・その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(エ)

実施例4

【0080】実施例3の第2開閉弁機構50Bを部分的に変更した第2開閉弁機構50Cについて説明する。・・・
【0081】・・・キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cが固定され,弁体本体58の大径軸部58bがカップ部材52cの収容穴に摺動自在に装着されている。
【0083】図15に示すように,アンクランプ状態のときは,アンクランプ油室15の油圧が油圧導入室53に導入されるため,第2開閉弁機構50Bと同様に,環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態となる。クランプ状態のときには,第2開閉弁機構50Bと同様に,環状弁面59vが環状弁座52aに当接して閉弁状態になる。この第2開閉弁機構50Cでは,部品の精度要求が緩和されるため,製作面で有利である。その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(オ)

実施例5

【0084】このクランプ装置1Dにおいては,実施例1の第1開閉弁機構30の代わりに,第1開閉弁機構30Dが設けられ,実施例1の第2開閉弁機構50の代わりに,第2開閉弁機構50Dが設けられ,その他の構成は,実施例と同様であるので,同様の部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0085】前記第1開閉弁機構30Dは,出力部材4が上昇限界位置のとき開弁状態になり,出力部材4が下降限界位置のとき閉弁状態になる。
・・・弁体31Dは弁体本体38のみで構成され,弁体本体38は,小径軸部38aと大径軸部38bとを一体形成したものである。
【0089】上記とは反対に,クランプ状態になり,クランプ油圧14に油圧が供給されると,図23に示すように,油圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,弁体本体38が出力部材4(小径ロッド部4d)側へ進出するため,環状弁面38cが環状弁座37bに当接して閉弁状態になる。・・・
【0090】次に,第2開閉弁機構50Dについて説明する。・・・弁体51は弁体本体58のみで構成され,弁体本体58は,小径軸部58aと大径軸部58bとを一体形成したものである。・・・
【0092】図19に示すように,クランプ装置1Dがアンクランプ状態で,アンクランプ油室15に油圧が供給された状態で,ピストンロッド部材4aが下昇限界位置でないとき,油圧導入路54から油圧導入室53に油圧が導入され,
弁体本体58が上方へ僅かに進出移動するため,
環状弁面58cが環状弁座57bに当接して閉弁状態になる。・・・【0093】・・・その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(カ)

実施例6

【0094】クランプ装置に適用される油圧シリンダ3Eに本発明を適用した場合の例である。・・・
【0096】開閉弁機構76は,前記の開閉弁機構50Dと類似の構造のものである・・・
【0100】・・・その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(キ)

実施例7
【0106】この開閉弁機構50Fは,前記実施例1の第2開閉弁機構50とほぼ同様の構造である・・・。
【0111】・・・その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(ク)

実施例8

【0112】この実施例8に係るクランプ装置1Gについて,図33~図36に基づいて説明する。このクランプ装置1Gは,実施例7のクランプ装置1Fと同様のものであるが,開閉弁機構30Gの構造が相違している。・・・
【0113】・・・この開閉弁機構30Gは,出力部材4Fがツイスト動作中には閉弁状態になり,出力部材4Fがツイスト動作完了時以降に開弁状態になる。
【0118】・・・その他,実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。
(ケ)【0119】
前記実施例を部分的に変更する例について説明する。・


【0122】4)前記の種々の開閉弁機構の構造も例示であって,これらの開閉弁機構に限定されるものではなく,本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用することができる。
(3)

本件当初明細書等に記載された技術的事項
本件で主に問題とされているのは実施例2であるが,その検討の前提として,本件当初発明の意義及び実施例2の変更元である実施例1についてまず検討する。
本件当初発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切換え,エア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関するものであり(段落【0001】),流体圧シリンダの小型化,出力部材の位置検出の信頼性や耐久性の向上等を目的とするものである(段落【0011】,【0021】ないし【0023】)。
実施例1は,第1エア通路21のエア圧を介して,出力部材4が上昇限界位置にあることを検出する為の第1開閉弁機構30,第2エア通路22のエア圧を介して,出力部材4が下降限界位置にあることを検出する為の第2開閉弁機構50を備えるクランプ装置1である
(段落
【0036】。

第1開閉弁機構30は,油圧導入室33が,油圧導入路34を介して,クランプ油室14に接続され,クランプ油室14に油圧が供給されると,油圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,その油圧が弁体本体38を進出方向へ付勢し,閉弁状態から開弁状態となる。逆に,クランプ装置1がアンクランプ状態になったとき,油圧導入室33の油圧がドレン圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体38がキャップ部材32側へ押動され開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0057】ないし【0059】)。第2開閉弁機構50は,クランプ装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15の油圧が,油圧導入孔(路)54から油圧導入室53へ導入され,油圧導入室53の油圧により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動して開弁状態となる。逆に,
アンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換え,ピストンロッド部材4aが下降限界位置まで下降すると,弁体本体58がピストン部4pにより下方へ押動され,開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0069】,【0070】)。また,本件当初明細書には,実施例1の効果として,エア通路のエア圧を介して,クランプ状態になったこと,又は,出力部材の所定の位置を確実に検知できること(段落【0070】,
【0073】),
第1,第2開閉弁機構をクランプ本体内に組み込むことができるため,油圧シリンダ1を小型化することができること(段落【0071】),第1,第2開閉弁機構では,クランプ油室内(第2開閉弁機構においてはアンクランプ油室内)の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利であること(段落【0072】)が記載されている。
イ(ア)

次に,本件当初明細書には,実施例2として,実施例1の第2開閉
弁機構50を部分的に変更し,弁体本体58Aの下端部分に形成した凹穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aを装着することで,弁体本体58Aが,油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢されると共に,圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されるようにした第2開閉弁機構50Aが開示されている(段落【0074】,【図11】,
【図12】)。ここで,圧縮コイルスプリング53aはクランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に,アンクランプ油室15に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における,弁体51の作動確実性を高める(段落【0075】)ものとされているから,
実施例2において,弁体本体58Aを上方へ付勢する力は,主としてアンクランプ油室15から油圧導入路54を通じて油圧導入室53に導入される油圧によるものであって,圧縮コイルスプリング53aは,油圧による付勢力が立ち上がるまでの間,補助的に用いられるものと認められる。
(イ)

発明の効果との関係で,第2開閉弁機構50Aは,実施例1の油圧シリンダと同様の効果を得られる(段落【0075】)ものであるとされている。ここで,実施例1の油圧シリンダの効果の1つとして,アンクランプ油室内の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利であることが記載されていることは,前記アのとおりである。よって,実施例2における油圧導入室53と油圧導入路54は,信頼性と耐久性の面で有利という発明の効果を奏するための必須の構成といえる。
また,油圧シリンダの小型化という効果について,段落【0071】には油圧を用いることとの関係は明記されていないものの,段落【0021】に,シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,この開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え,弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため,流体圧シリンダを小型化することができると記載されていることからすれば,実施例2において油圧導入室53と油圧導入路54とを備えることが,油圧シリンダの小型化に関係していると考えるのが自然である。原告は,段落【0021】の記載は,本件当初発明1に規定された開閉弁機構の構成を列挙したものにすぎないと主張するが,現に記載がある以上,それを無視することはできない。
このように,
実施例2において,
油圧導入室53と油圧導入路54は,
発明の効果と結びつけられた構成といえる。

実施例3は,実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更し,環状部材57を省略した第2開閉弁機構50Bとするものである(段落【0076】)。
実施例4は,実施例3の第2開閉弁機構50Bを部分的に変更し,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設けた第2開閉弁機構50Cとするものである(段落【0080】,【0081】)。実施例5は,開閉弁機構を,弁体31D,51を可動弁体なしで弁体本体38,58のみで構成するとともに,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を実施例1の場合と逆にした第1開閉弁機構30D,第2開閉弁機構50Dとするものである(段落【0084】,【0085】,【0089】,【0090】,【0092】)。
実施例6ないし8は,開閉弁機構については,実施例1または5と同様の構造である(段落【0096】,【0106】,【0112】,【0113】)。
このように,実施例3ないし8は,いずれも開閉弁機構については,実施例1と同様に,流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることのみによって,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である。また,実施例3ないし8は,いずれも実施例1と同様の効果が得られるとされている(段落【0079】,【0083】,【0093】,【0100】,【0111】,【0118】)

段落【0119】及び【0122】には,前記実施例を部分的に変更する例として,

本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用することができる。

とされているが,変更の具体的な内容は記載されていない。


本件当初発明7は,

前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。

というものである。本件当初発明7は,本件当初発明1を引用するところ,本件当初発明1は,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備えるものであるから,本件当初発明7も,流体圧導入室と流体圧導入路を備えるものであることは明らかであり,段落【0029】の記載も,かかる理解と整合的である。


以上のとおり,本件当初明細書等の記載のうち,実施例2の構成は,油圧導入室53と油圧導入路54を備えることによる油圧による付勢を主とし,圧縮コイルスプリング53aによる付勢を補助的に用いるものである(前記イ(ア))。かかる構成から,主である油圧による付勢に係る構成をあえてなくし,補助的なものに過ぎない圧縮コイルスプリングのみで付勢するという構成を導くことはできないというべきであり,実施例2においては,油圧導入室53と油圧導入路54が発明の効果と結びつけられて記載されていること(前記イ(イ))を考慮するとなおさらである。段落【0119】及び【0122】の記載は,具体的な変更内容を示すものではないから(前記エ),上記認定を左右しない。また,本件当初明細書のその他の実施例は,流体圧導入室及び流体圧導入路のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である(前記ウ)。本件当初明細書等のその他の部分にも,流体圧導入室及び流体圧導入路を備えない構成についての開示はない。
そのため,開閉弁機構に流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることなく,弾性部材のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とはいえない。
(4)

原告の主張について
原告は,段落【0122】において開閉弁機構の改変が示唆され,実施例2においては弁体を進出させる構成を改変することが示されていること,その改変後の進出機構(実施例2)において,弾性部材を用いることも明示されていること,弾性部材単独構造は当業者にとって周知技術ないし技術常識であることから,かかる構造を選択することは当業者にとって極めて自然であり,本件当初明細書等の記載を弾性部材のみで弁体を進出させるという技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が本件当初明細書等に含まれていると主張する。
しかし,段落【0122】の記載は,変更の具体的な内容を示すものでないことは前記(3)エのとおりである。また,開閉弁機構の変更は,環状部材57の省略,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設ける,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を逆にするというように,
弁体を進出させる構成に係る変更に限られない
(前記(3)ウ)

一方,実施例1及びそれと同様の効果を有するとされている実施例2ないし8においては,流体圧導入室(油圧導入室)と流体圧導入路(油圧導入路)は,発明の効果と結びつけて記載されているのである(前記(3)アないしウ)。そうだとすれば,段落【0122】の記載から,開閉弁機構を変更することは読み取れても,その変更の内容として,流体圧を用いない構成とすることは想定しがたい。
そのため,当業者にとって,流体圧を用いず弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁の構造が周知技術ないし技術常識であるとしても,段落【0122】等の記載から,本件当初明細書等に記載された発明に当該構造を結びつけ,現在ある流体圧を用いる構成をなくすことを導くことはできない。

原告は,本件当初明細書等には,①出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能で小型化可能な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供することと,②出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供することという2つの別個独立の発明が示されており,前者の発明においては流体圧導入室及び流体圧導入路は必須の構成ではないから,弾性部材単独構造は,本件当初明細書の段落【0122】でいうところの本発明の趣旨を逸脱しない範囲のものであると主張する。
しかし,仮に,①と②が別個独立の発明であると理解できるとしても,実施例2を含む各実施例は,①及び②の両者の課題を解決する構成となっているのであり(前記(3)アないしウ),そこから②の課題解決のための構成をあえてなくすことは,本件当初明細書等の記載から導けることではない。
また仮に①の課題だけが解決できれば良いのだとしても,①の効果との関係でも開閉弁機構が,流体圧導入室と流体圧導入路とを備える
ことが記載されている(前記(3)イ(イ))一方で,これらを備えない構成での解決手段については何ら記載されていないから,弾性部材単独構造を採用することにはならない。
ウ2
よって,原告の主張は採用できない。

結論
以上のとおり,本件補正は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められず,この点に関する本件審決の判断に誤りはないから,取消事由1は理由がない。そして,新規事項を追加する補正をしたことは,そのこと自体が無効理由とされているから(特許法123条1項1号),本件特許は,取消事由2(サポート要件)の理由の有無に関わらず,無効とされるべきものである。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
高橋石神彩
裁判官

有吾
(別紙)
本件図面
【図1】

【図3】

【図11】

【図12】

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