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損害賠償請求事件 意匠権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)2439
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年11月14日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別意匠権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2019-11-14
情報公開日2019-12-16 16:00:17
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令和元年11月14日判決言渡

同日原本受領

平成30年(ワ)第2439号

損害賠償請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和元年9月10日
判決原告株
同訴訟代理人弁護士

森本
同訴訟代理人弁理士

田中被
株式会社静岡産業社

告式会社丸善純秀明
(以下
被告静岡産業社
という。

同訴訟代理人弁護士

大被
株式会社ヨコタ東北

告澤恒夫
(以下
被告ヨコタ東北
という。

同訴訟代理人弁護士

後藤邦春同後藤慎平主1文
被告らは,原告に対し,連帯して,5888万7589円及びこれに対する
平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2
3
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の,その余を被告らの連帯負担とす
る。
4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

第1
1実及び理由
請求の趣旨
被告らは,原告に対し,連帯して,7217万6858円及びこれに対する
平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2
被告静岡産業社は,原告に対し,394万1568円及びこれに対する平成
30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2

事案の概要

原告は,原告が意匠権を有している後記登録意匠について,被告らが,これと類似する意匠を用いて別紙被告意匠説明書記載の焼売用容器を製造販売したとして,・
意匠権侵害に基づく意匠法39条1項,民法709条による損害賠償,及び原告製品の値下げを理由とする民法709条に基づく損害賠償として,計7217万6858円及びこれに対する民法所定の遅延損害金(不法行為の後の日である平成30年3月30日を起算日とする。)について,民法719条1項前段により,被告らに連帯支払を求めた。

また,原告は,被告静岡産業社に対し,売買契約に基づく未払代金請求として,394万1568円及びこれに対する民法所定の遅延損害金(本件訴状の送達による催告の日の翌日である平成30年3月30日を起算日とする。の支払を求めた。)
1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)


当事者等

原告は,昭和46年10月4日に設立された株式会社であり,プラスチック製の食品包装容器の成形及び販売を業として行うものである。
被告静岡産業社は,昭和40年3月23日に設立された株式会社であり,包装用資材の製造販売・卸売販売を業として行うものである。
被告ヨコタ東北は,昭和54年4月23日に設立された株式会社であり,プラスチック製の食品包装用容器の製造販売を行うものである。


原告の登録意匠(甲1,2)


本件意匠権

原告は,下記の意匠権(以下本件意匠権といい,その登録意匠を本件意匠という。)を有している。
登録番号

第1297087号

意匠に係る物品
出願日

平成18年6月23日

登録日

平成19年2月23日

登録意匠
食品包装用容器

別紙公報記載のとおり


本件意匠の構成態様等

本件意匠は,食品包装用容器の底部に関する部分意匠(意匠法2条2項)であり,その構成態様は,以下のとおりである。
本件意匠に係る形状を備えた焼売用容器は,容器にラップをかけた購入時の状態のままで,電子レンジで温めることができるという特徴を有する。基本的構成態様

A
食品包装用容器に設けられた,焼売等を収容するための複数の収容部の底部
の形態である。
B
C
収容部の底部は,四隅に丸みを持たせた略方形状に形成されている。四隅にはポケット部が形成されている。

D
収容部の底部の中央部から各ポケット部に向けて,底部の対角線に沿って,
突条が形成されている。突条は,底面側から平面側に向けて突出して形成されている。
E
略方形状の底部の辺の中央近傍には凸部が形成されている。凸部は,当該辺
の両端に形成されたポケット部に接するように,かつ,収容部の側壁に接するようにして形成されている。
F
ポケット部,突条,凸部に囲まれて段部が形成されている。

G
突条と凸部は,段部に比して,平面側に突出して形成されている。ポケット
部は,段部に比して,底面側に向けて凹んで形成されている。
具体的構成態様
H
突条は平面視X字状に形成されている。

I
突条の先端は,丸みを帯びた形状であり,丸み部分がポケット部に入り込む
ように配されている。
JK
凸部は4個形成されている。

L
段部は4個形成されている。

M
突条と凸部の高さは同一である。

N
凸部は,平面視略三角形状に形成されている。

収容部は6個形成されている。



被告らが製造・販売した製品等(甲4,8,9)

被告らの行為

被告静岡産業社は,平成28年1月ころから平成30年2月ころまで,焼売及び餃子等の製造販売等を営む訴外株式会社浪漫亭(以下浪漫亭という。)に対し,別紙被告意匠説明書記載の被告製品1及び被告製品2(以下,被告製品1及び被告製品2を総称して被告製品といい,被告製品の底部に関する部分意匠を被告意匠という。)を,それぞれ少なくとも合計(中略)個及び(中略)個販売した。被告静岡産業社が浪漫亭に販売した被告製品は,被告ヨコタ東北が製造し,被告
静岡産業社に販売したものである。

被告意匠の構成態様等

被告製品の底部の意匠は,別紙被告意匠説明書に記載のとおりであり,その構成態様は以下のとおりである。なお,被告製品2は,被告製品1の平面側に木目調のフィルムが積層されたものであり,その底部の形状は,被告製品1と同一である。基本的構成態様

a
食品包装用容器に設けられた,焼売等を収容するための複数の収容部の底部
の形態である。
b
c
収容部の底部は,四隅に丸みを持たせた略方形状に形成されている。四隅にはポケット部が形成されている。

d
収容部の底部の中央部から各ポケット部に向けて,底部の対角線に沿って,
突条が形成されている。突条は,底面側から平面側に向けて突出して形成されてい
る。
e
略方形状の底部の辺の中央近傍には凸部が形成されている。凸部は,当該辺
の両端に形成されたポケット部に接するように,かつ,収容部の側壁に接するようにして形成されている。
f
ポケット部,突条,凸部に囲まれて段部が形成されている。

g
突条と凸部は,段部に比して,平面側に突出して形成されている。ポケット
部は,段部に比して,底面側に向けて凹んで形成されている。
具体的構成態様
h
突条は,中央部が非交差部とされており,当該非交差部は段部と同じ高さに
形成されている。
i
突条の先端は,丸みを帯びた形状であり,丸み部分がポケット部に入り込む
ように配されている。
j
k
凸部は,平面視略三角形状に形成されている。
凸部は3個形成されている。食品包装用容器の長辺側に位置する収容部の辺
には凸部が形成されていない。
当該辺においてポケット部と突条に囲まれた部分は,
段部よりも底面側に凹み,かつ,ポケット部よりも浅く形成されている。lm
突条と凸部の高さは同一である。

n
段部は中央部で連結し,一体となっている。

収容部は8個形成されている。



物品及び需要者(争いなし)

本件意匠に係る物品及び被告製品は,いずれも食品包装用容器(焼売用容器)であり,その取引者・需要者は,浪漫亭をはじめとする焼売等の食品メーカーである。⑸

原告製品の浪漫亭への納入の経緯等

原告は,平成19年2月ころから,本件意匠に類似する意匠を備えた焼売用容器を製造し,これを浪漫亭に対し販売してきた(原告の製造販売する焼売用容器の外観には,白と木目とがあり,以下,それぞれ原告製品1及び原告製品2と
いい,原告製品1及び原告製品2を総称して原告製品という。)。原告製品の底部の意匠は,別紙原告製品意匠説明書記載のとおりである。
原告は,浪漫亭以外に対しては原告製品を販売せず、後記のとおり被告製品が納入されるまで、浪漫亭に原告製品のような焼売容器を納入していたのは原告のみだった。


被告製品の浪漫亭への納入及び原告製品の販売数等

被告静岡産業社は,平成27年4月ころ,浪漫亭に対し,見積書(甲3。以下本件見積書という。)を提出し,平成28年1月以降,浪漫亭に対して被告製品を納入した。
原告製品1は平成29年12月以降,原告製品2は平成28年7月以降,販売数量が0となった。


原告と被告静岡産業社との間の売買(甲5,6)

原告は,平成27年7月ころ,被告静岡産業社に対し,浪漫亭に納入する餃子18粒用のトレイを10万個販売した。単価については,後述のとおり争いがある。被告静岡産業社は,浪漫亭を通じ,原告に対し,上記の対価として145万8432円を支払った。


本件訴訟に至る経緯(甲7ないし9)

原告は,被告静岡産業社に対し,平成30年1月19日付けで警告書を送付し,被告製品の製造販売の中止を求めるとともに,被告製品の販売数量等の開示を求めた。これに対し,被告静岡産業社の代理人弁護士及び弁理士は,被告製品の販売数量を開示するとともに,被告製品の製造のための金型を廃棄した旨回答し,損害賠償金の支払を提示したが,原告との合意には達しなかった。
2


争点
本件意匠と被告製品との類否



無効の抗弁


新規性欠如(争点⑵ア)




黙示の実施許諾



権利濫用・信義則違反



被告ヨコタ東北の過失



共同不法行為



損害の発生及びその額



創作容易性(争点⑵イ)

売買残代金請求

第3
1
争点についての当事者の主張
争点⑴(本件意匠と被告製品との類否)

【原告の主張】



本件意匠の要部

本件意匠に係る物品は,食品包装用容器であり,その取引者・需要者は,焼売等の食品メーカーである。
本件意匠は,焼売等の食品を収容する複数の収容部の底に配された凹凸状の底部の部分意匠であって,食品包装用容器に焼売等を収容した状態で電子レンジにより加熱すると,焼売等から水分や脂分が流出するところ,本件意匠の凹凸形状によって,焼売等は平面側に突出して形成された突条によって支えられる一方,水分や脂分は突条を囲むように配置された段部を経てポケット部にたまるため,焼売等の底が水分や脂分でベトつかず,おいしく食べることができるという特徴を有する。浪漫亭は,原告製品を使用して焼売を販売する際,パッケージにラップを外さずトレーのままレンジできると大きく強調した表示をしてきた。焼売等の食品メーカーである需要者は,上方あるいは斜め上方から食品包装用容
器を見下ろした際の底部の形状に着目するところ,本件意匠を上方あるいは斜め上方から見れば,収容部の底部の凹凸及び突条及びポケット部の形状が需要者の注意を引く。
したがって,本件意匠の要部は,①複数の収容部が形成されていて,②各収容部
の底部には,底部の中央部から各ポケット部に向けて,底部の対角線に沿って,平面側に突出して突条が形成され,③収容部の突条を囲むように段部が形成されるとともに,④底部の四隅に凹んだポケット部が形成されていて,⑤突条の先端が丸みを帯びていて,
丸み部分がポケット部に入り込むように配された形状に認められる。⑵

本件意匠と被告意匠の対比


共通点

本件意匠と被告意匠との共通点は,①基本的構成態様のすべて(本件意匠のAないしG,被告意匠のaないしg),並びに②具体的構成態様のうち,突条の先端が丸みを帯びた形状であり,丸み部分がポケット部に入り込むように配されている点(本件意匠のI,
被告意匠のi)凸部が平面視略三角形状に形成されている点

(本
件意匠のJ,被告意匠のj),及び突条と凸部の高さが同一である点(本件意匠のM,被告意匠のm)である。

差異点

本件意匠と被告意匠との差異点は,以下のとおりである。
突条について
本件意匠では,突条が平面視X字状に形成されているのに対し,被告意匠では,突条は,中央部が非交差部とされた平面視略X字状に形成されている点(本件意匠のH,被告意匠のh)。
凸部について

本件意匠では,凸部は底部の4辺にそれぞれ1個(合計4個)形成されているのに対し,被告意匠では,食品包装用容器の長辺側に位置する収容部の辺に凸部が形成されておらず,その余の3辺(合計3個)に形成されていて,凸部が形成されていない辺側のポケット部と突条に囲まれた部分は,
段部よりも底面側に凹み,
かつ,
ポケット部よりも浅く形成されている点(本件意匠のK,被告意匠のk)。
段部について
本件意匠では,段部は4個形成されているのに対し,被告意匠では,段部が中央
部で連結して一体となっている点(本件意匠のL,被告意匠のl)。収容部の数
本件意匠では,収容部は6個形成されているのに対し,被告意匠では,8個形成されている点(本件意匠のN,被告意匠のn)。


本件意匠と被告意匠とが類似すること

本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様のすべてが共通している上,具体的構成態様のうち,突条の先端の形状等,凸部の形状及び突条と凸部の高さが同一である点が共通している。
したがって,本件意匠と被告意匠は,前記要部のすべてにおいて,構成態様を共通にしている。
一方,本件意匠と被告意匠とは,上記⑵イにおいて差異があるが,これらの差異は要部ではなく,わずかな形状の差異にすぎず,それぞれの意匠を全体として観察したときに,需要者に対して異なる美感を起こさせるようなものではない。したがって,被告意匠と本件意匠とは,上記差異点を考慮しても,全体としての
美感が共通しており,被告意匠は本件意匠と酷似する。


被告らの主張について


被告静岡産業社の主張について
被告静岡産業社は,突条が平面視X字状に形成されていることが本件意匠の
要部の重要な一部をなしているが,被告意匠は突条がX字状をなしていないために中央部に空間があり,需要者はこの空間に注目すると主張する。
しかし,被告静岡産業社の上記主張は,底面の対角線の交点及びそのごく近傍に限って,突条が突出して形成されているか否かという差異にすぎず,意匠を全体として観察した際に,美感全体の共通性を損なわないことは明らかである。なお,焼売等から流出した水分や脂分は,上記空間の有無にかかわらず,段部を
経てポケット部に流入する。
被告静岡産業社は,被告意匠においては一辺において凸部と段部が形成され
ておらずシンメトリー性を喪失していると主張するが,これらの箇所はいずれも容器の長辺側に位置する収容部の辺に沿って位置しており,ことさらにシンメトリーを崩すように配置されているわけではない。また,被告意匠において凸部が設けられていない収容部の一辺のポケット部と突条に囲まれた部分
(以下
段差
という。

は,段部よりも底面側に凹み,かつポケット部よりも浅く形成されているから,段差には明瞭な輪郭が形成されており,容器を上方あるいは斜め上方から観察した際の段差の輪郭は,他の3辺における段部の輪郭とほぼ同一の形状となっている。したがって,被告意匠も概ねシンメトリーの形状となっており,意匠を全体として観察した場合,本件意匠との美感の差異は些細なものにすぎない。被告静岡産業社は,被告意匠では,各収容部のシンメトリー性が失われてお
り,同じ形状を有する繰り返し連続の意味が消滅しているから,収容部の数が異なることによって生じる美感が異なると主張する。
しかし,上記

のとおり,被告意匠においても各収容部のシンメトリー性や同じ

形状を有する繰り返し連続の美感は認められるし,収容部が6個(2×3)であるか,8個(2×4)であるかの差異は,意匠を全体として観察した際に異なる美感を起こさせるようなものではない。

被告ヨコタ東北の主張について
被告ヨコタ東北は,本件意匠の要部について,

ないし

の差異に

加え,収容部底面から立ち上がる面との接合部分がそれぞれ直線的に折り曲げられていることの組合せが需要者の注意を引く点であると主張するが,このような細かな個々の形状は,需要者の注意を引きやすい点ではなく,いずれも要部を構成しない。
被告ヨコタ東北は,被告意匠は突条のX字構造がなく四つ足の五徳用の形に突条が出ていると主張する。しかし,本件意匠と被告意匠とは,底部の対角線に沿って突出して形成されているという突条の全体的な形状が共通しているし,五徳は,通常,爪先の間隔及び爪のない中央部が相当程度大きく空けられている一方
で,被告意匠の突条において突出していないのは底面の対角線の交点及びそのごく近傍のみである。したがって,突条の形状の差異は,美感の共通性を失わせるようなものではない。
また,原告製品においても,水蒸気の対流により焼売の中心部まで短時間で加熱することができるし,被告ヨコタ東北の主張するような,突条に接する焼売の底部が全体的にベトつくといった現象が生じたことはない。
被告ヨコタ東北は,被告意匠は容器全体の長辺側8か所に凸部が設けられておらず,個別の収容部が上下対称のデザインではないと主張する。しかし,前記アのとおり,段差の輪郭は他の3辺における段部の輪郭とほぼ同一の形状となって
いるから,需要者が上方あるいは斜め上方から食品包装用容器を見下ろして意匠を全体として観察した場合の美感の差異は些細なものにすぎない。
被告ヨコタ東北は,凸部が設けられていない辺に接するポケット部及び段差が一体となって一つの凹部となっていると主張するが,凸部が設けられていない辺の両隅には,明らかにポケット部と看取される形状が形成されており,このポケッ
ト部と段差とは,輪郭線をもって視覚上明確に区別されるから,被告ヨコタ東北の上記主張には無理がある。
被告ヨコタ東北は,収容部の数及び縦横比が美感の差異をもたらすと主張するが,
縦横に連続して収容部が設けられるのが通常である食品包装用容器において,上記差異は収容部の数の差異に基づく些細な差異にすぎず,要部とはならない。
【被告静岡産業社の主張】


本件意匠の要部

本件意匠では,突条が平面視X状に形成されており,これが本件意匠の要部の重要な一部を成している。
本件意匠の要部は,以下の4点の形状に認められる。

各収容部の底部の中心には対角線上に設けられた角取りの長さが等しい×状
の突条が設けられている。


各収容部の底部には,独立した4つのポケット部が設けられている。

底部の各辺毎に凸部と段部が上下左右の4つシンメトリーに形成されてい
る。



6つの収容部が形成されている。
本件意匠と被告意匠との対比

本件意匠と被告意匠との間には,少なくとも原告主張のような差異がある。さらに,
被告意匠は,
上記⑴において主張する要部のいずれについても,下記のとおり,
本件意匠とは異なる特徴を有する。

突条について,被告意匠は4つの突条が各々独立して設けられ,中央に大き
な空間が形成されるため,平面視略X字状を形成するものではない。さらに,突条がX字状を成していないため,段部が中央部で連結して一体となっている。本件意匠に係る物品は食品包装用容器であり,より具体的には,ラップを外さずトレーのままレンジでできることを謳うような焼売等の食品包装用容器とし
て使用されるものであるところ,被告製品において,焼売等から流出した水分や脂分は上記空間を通ってポケット部に流入するため,原告製品に比べて機能性に優れることが明らかであるから,需要者である食品メーカーはこの空間に注目する。したがって,突条に関する差異は,本件意匠の要部における差異というべきである。

ポケット部は3つだけ設けられ,しかも,そのうちの1つは他の2つと異な
る形状の大きな凹部である。
凸部及び段部について,収容部ごとに見ると,本件意匠においては,凸部と段部が上下左右のシンメトリーになるのに対し,被告意匠は1辺において凸部と段部が形成されていない結果,このシンメトリーが喪失している。需要者である食品メーカーは,食品包装用容器についての高度な知識を有しており,上記差異は一目で判
別されるものであり,本件意匠と被告意匠とは美感が異なるということができる。ウ
収容部の数について,被告意匠は凸部を形成しない部分が容器をぐるりと取
り囲むように形成され,各収容部のシンメトリー性が失われたことにより,同じ形状を有する収容部の繰り返し連続の意味も消失しているから,本件意匠と被告意匠との類否判断は食品包装用容器全体の縦横比も考慮されるべきであるところ,本件意匠に比べて横長である被告意匠は,その美感を異にする。
以上のとおり,突条の中央部の空間の存在,凸部が一部形成されないことによる収容部のシンメトリー性の喪失,収容部の数の差異という各差異点は,いずれも要部に関するものであり,共通点を凌駕するものであるから,被告意匠は本件意匠の類似範囲には属さない。


被告ヨコタ東北の主張を援用する。

【被告ヨコタ東北の主張】


本件意匠の要部及び原告製品との類否等

本件意匠は,食品包装用容器に備えられた焼売等を収容するために6個設けられた収容部の底部の形状であるが,その美感・機能上の需用者の注意を引く部分は,①収容部中心に対角線上に設けられた角取りの長さが等しいX字の突条,②収容部の四辺全ての各中央に設けられた凸部,③収容部の四隅に突条を囲うように4箇所設けられた凹部(ポケット部),④これら①ないし③を2×3の配置で全く同じ上下左右対称の形状の収容部6個を並べた連続構造の各組合せのみならず,⑤収容部底面から立ち上がる面との接合部分がそれぞれ直線的に折り曲げられていることの組合せに求められる。

なお,本件意匠と原告製品には,差異があり,要部において美感を異にしているというべきであり,同一でも類似でもない。


本件意匠と被告意匠との対比

本件意匠と被告製品とを,上記要部の点において比較すると,別紙【本件部分意匠と被告製品との差異①】及び別紙【本件部分意匠と被告製品との差異②】のとおり,顕著な差異がある。以下,詳述する。

突条について,本件意匠において,X字状の突条は美感上も本件意匠を特徴
付ける部位となっているが,被告製品は,中心から火が出るガス台等の五徳の形状から着想を得た,放射状に独立した四つ足が出ているもので,中心部において突条が交差することはない。したがって,需要者にとって全く異なる印象を与える形状である。
本件意匠の機能は,電子レンジでトレイごと加熱調理することができる点にあり,需要者はこの機能に着目するところ,単に底部に凹凸形状があるだけではその目的を十分にかつ効率的に達することはできない。また,本件意匠では,突条のX字の中心部に水蒸気及び油脂等が滞留し,突条に接する焼売の底部が全体としてベトついてしまう。

一方,被告製品は,底部の中心に突条がないことから,水蒸気の対流によって熱の通りにくい焼売の中心部まで短時間に充分に加熱することができ,かつ,水蒸気及び油脂等が滞留する箇所がなく,中心の部分に余分な油脂等が流れ込み,凹部に流下させる構造であるため,効率的に水蒸気及び油脂等を落とすことができる。このため,突条についての差異は,需要者にとって格段の注目を受ける点である
から,かかる差異がもたらす美感の差異は著しい。

凸部及び凹部についても,本件意匠と被告製品とはその構造を著しく異にし
いる。被告製品においては,容器全体の長辺部に接する部分に凸部がなく,同箇所に接する段部が凹んで凹部と一体となっていることにより,収容する焼売等が加熱によって液体状になる油脂又は水分を多く含む製品であっても,その浸出及び付着する液体を受け止め,焼売本体がベト付くのを防ぐ効果があり,機能面でも著しく異なる。このため,上記差異も,需要者にとって格段の注目を受ける点であり,係る際のもたらす美感の差異は著しい。

収容部の数・配置についても,同様に大きな美感上の差異をもたらす。本件
意匠は,同一の収容部が上下左右対称に6個連続して並べられている態様において登録されていることから,2×3の6個並べられた形態的な一体性をもって登録されているものであって,収容部の個数が違うと,全く異なる美感を与える。需要者
にとって収容部がいくつ存在するかは,焼売を何個組みで販売するかという販売戦略に直結する点であるから,強い注意を惹く点であるからである。また,被告製品においては,本件意匠が有していた全く同一の収容部が上下対称に配置されているというデザインも失われているから,なおさら美感上の差異が大きい。エ
収容部底面から立ち上がる面の接続部分について,本件意匠においては収容
部底面から立ち上がる面との接合部分がそれぞれ直線的に折り曲げられているところ,被告製品は,底面と側面の接続部分及び凹部と突条の接する部分につき,円弧を描いている。このような差異も,被告ヨコタ東北が浪漫亭からの意向を受けて試行錯誤の上で独自に考案した効率的な対流を実現するための工夫であって,需要者が格別に注目するところである。

以上より,本件意匠と被告製品との間には,その要部において美感上に大幅
な差異があり,類似性は認められない。
2

争点⑵(無効の抗弁)
新規性欠如(争点⑵ア)

【被告静岡産業社の主張】
原告は,遅くとも平成18年2月から,本件意匠と類似した意匠のトレイを製造し,浪漫亭に納入していた。浪漫亭は,同年4月から,当該トレイに焼売を載せてスーパーマーケット等において販売した。
原告は,
甲10の意匠から,
同年2月1日,
同年4月18日,
同年6月1日と徐々

に変更を加え,同年8月19日に本件意匠の製品を納入したと主張するが,そうであれば,遅くとも同年6月1日の段階においては,本件意匠と相当類似したものとなっていたはずである
したがって,本件意匠は,遅くとも平成18年6月1日には,公然知られた意匠(意匠法3条1項)に該当するに至ったものであり,同月23日出願の段階で
は新規性を喪失していた。
【被告ヨコタ東北の主張】

被告静岡産業社の主張を援用する。
【原告の主張】

原告製品の意匠が決定された経緯等

前提として,原告製品の意匠は本件意匠と類似しているものの,同一ではない。原告は,浪漫亭が設立された当時(平成12年4月)から,浪漫亭に対し食品包装用容器を収めていたところ,浪漫亭は,平成17年夏ころから,新たに焼売の製造販売を行う計画を立て,原告に対し,焼売の製造工程を示し,ラップを掛けた状態のままで電子レンジで温めることができるトレイを作成してほしいと依頼した。原告は,当初より,焼売を配置する収容部の底部にX字状の突条部を設ける構想を
持っていたが,焼売の重量がX字状の突条部にかかり焼売の底が破れてしまうことを懸念し,いったん突条部が手裏剣状のトレイ(甲10)を考案し,平成18年1月31日付けで,同トレイを納入した。
その後,原告は,製造ラインとの適合性や焼売の蒸し上がりの状態をみて,同年2月1日,同年4月18日,同年6月1日に,適宜,収容部の間隔や側壁の傾斜角
等についてマイナーチェンジを加えていく中で,当初の構想であるX字状の突条部でも製造ラインとの適合性や焼売の荷重において問題はないと確信するに至り,X字状の突条部の方が手裏剣状よりもデザイン性に優れている上,蒸気の通りがよいことから,形状を変更することとし,本件意匠と同一の意匠を備えたトレイのための金型を新たに作製し,同年8月19日,同トレイの試作品を納入した。
原告は,その後も上記トレイの型についてマイナーチェンジを繰り返し,平成19年2月ころ,現在の形状の原告製品の販売を開始した。

新規性が欠如していないこと

原告は,従来品のマイナーチェンジを繰り返すなかで,当初より構想を有していた本件意匠につき商品化が可能であると確信し,平成18年6月23日付けで意匠登録出願をし,同年8月19日から本件意匠に類似する意匠を備えた製品の販売を開始したのであるから,本件意匠の出願時に新規性が欠如していたとの被告静岡産
業社の主張には理由がない。


創作容易性(争点⑵イ)

【被告静岡産業社の主張】
原告は,平成15年8月21日に,発明の名称を食品蒸し容器とする特許を出願し,平成17年3月17日に公開された(乙1)。同特許の明細書には,薄ものプラスチックシート成形品からなる食品蒸し器の底面に複数の突起と複数のスリットを設けてなる食品蒸し容器との記載があり,解決手段として,容器の底面に設けた複数の突起は,容器底面が蒸煮装置内の多孔棚板との間に上記通路を確保するためと,複数のスリットは,この突起に乗せ置かれた蒸しものの重みによる変形でスリットが開いて蒸気通路を形成する作用が得られるように配置する。ものと記載されている。同明細書の図1(以下乙1意匠という。)は,本件意匠に酷似しており,底面の凹凸の深さとスリットが設けられている点のみが本件意匠と異なる。
当業者である原告は,このような複雑な構造を創作することができ,また,乙1
意匠から,甲10に示された焼売用容器の意匠を創作することもできた。したがって,乙1意匠に比べれば単純なものである本件意匠は,乙1意匠や,前述の,原告が遅くとも平成18年6月1日までに納入し一般販売された焼売用容器の意匠から,容易に創作することができたものであり,意匠法3条2項により,本来意匠登録を受けることができないものであった。

【被告ヨコタ東北の主張】
被告静岡産業社の主張を援用する。
【原告の主張】



乙1号証には,以下の意匠(乙1意匠)が開示されている。
略四方形の底面に,対角線に沿ってX字状の凹部が形成されている。


X字状の凹部の中央には,平面視において円形の突起が形成されている。


X字状の凹部には,中央の円形の突起と底面の四隅との間に,上向き突起が
4個形成されている。


凹部には,上向き突起と四隅の間に,凹部を貫通する円弧状のスリットが4
個形成されている。

凹部と収容部の各側壁の間には三角形状の凸部が4個形成されている。


各凸部の略中央には,平面視において底面側に向けて凹んだ下向き突起が形
成されている。


中央の円形の突起は,上向き突起に比して,平面側に向けて,より高く突出
して形成されていて,下向き突起は,凹部に比して,底面側に向けて,より凹んで形成されている。
これに対し,
本件意匠は,
前記のとおりの構成態様及び要部を備えるものである。
乙1意匠と本件意匠とは,少なくとも,以下の差異点がある。
本件意匠にはX字状の凹部が設けられていないのに対し,乙1意匠には設けられている点。


本件意匠には突条を囲むように段部が形成されているのに対し,乙1意匠に
は段部が形成されていない点。


本件意匠には底部の四隅に凹んだポケット部が形成されているのに対し,乙
1意匠にはポケット部が形成されていない点。


本件意匠は,突条の先端が丸みを帯びていて,丸み部分がポケット部に入り
込むように配された形状を備えているのに対し,乙1意匠には,そのような形状が形成されていない点。
本件意匠は,凸部に下向き突起が形成されていないのに対し,乙1意匠は,凸部に下向き突起が形成されている点。


本件意匠は,突条と凸部が段部に比して平面側に突出して形成されていて,
ポケット部が段部に比して底面側に向けて凹んで形成されているのに対し,乙1意匠は,中央の円形の突起,上向き突起及び凸部がX字状の凹部に比して平面側に突出して形成され,中央の円形の突起と凸部が同じ高さに形成され,中央の円形の突
起及び凸部が上向き突起に比して平面側により高く突出して形成され,下向き突起がX字状の凹部に比して底面側に凹んで形成されている点。

被告静岡産業社は,これらの差異に係る各形状がそれぞれ公知であることを
示す副文献すら示しておらず,創作容易性の具体的な根拠が全く示されていない。ウ
本件意匠は,突条,段部,ポケット部等の形状を有機的に組み合わせること
による全体構成の美感が特徴を有する意匠である。これに対し,乙1意匠は,本件意匠のような突条,段部,ポケット部等を有機的に結合させた形態を有するものではないし,円弧状のスリットに特徴がみられる意匠である。
したがって,本件意匠は,乙1意匠と,全体構成によって生じる美感を大きく異にしている。

以上より,本件意匠は,乙1意匠に基づいて当業者が容易に創作できた意匠
ではない。
3
争点⑶(黙示の実施許諾)

【被告静岡産業社の主張】


平成27年春ころ,浪漫亭の専務取締役であるP1は,被告静岡産業社の埼
玉営業所副長であるP2に対し,餃子と焼売のトレイの見積を要請し,原告製品を示しながら,

特許だか何だか分からないが権利のようなものがあるようなので,デザインを少し変えないといけない。

と述べた。P2は,被告ヨコタ東北の担当者に原告製品を渡し,上記P1の言葉を伝えて見積を依頼した。その後,被告ヨコタ東北の担当者は,P2に対し,被告製品の試作品を見せ,Xの真ん中をなくせば大丈夫だと述べたため,P2はこれを了承した。
原告代表者は,同年8月ころ,P1から,原告製品は高い上にいろいろと問題があるため,今後被告静岡産業社にトレイを納入させることとなると言われた際,餃子18粒用のトレイと焼売8粒向けの木目のトレイからにしてもらいたいと申し入
れた。P1は,木目以外のトレイについても,原告代表者の了承があるものと認識した。

同月ころ,P2ら被告静岡産業社の担当者は,上記餃子18粒用トレイの納品が間に合わず原告に頼まざるを得なくなったことについてお礼をする趣旨で原告を訪問し,激昂する原告代表者に対し,原告製品と全く同じものは作らないと返答をした。この際,被告静岡産業社が焼売用容器を作って販売するという前提は,原告代表者及びP2らとの間において共通認識となっていた。


原告は,被告製品が浪漫亭に納入された当初(平成28年1月)から,これ
を知りながら容認し続けていた。
同時期から原告の売上は激減し,また,浪漫亭の焼売は一般的なスーパーマーケットにおいて販売されており,入手が容易であったことから,原告が静岡産業社による納入を知ったのが平成29年8月ころ以降であったことはあり得ない。⑶

以上の経緯からすれば,原告は,P1に対し,少なくとも被告製品程度にデ
ザインが変更された製品については,本件意匠権を行使しないという意向を示しており,その後も被告製品の納入を放置・容認することにより,被告製品の製造販売を許諾したものと解すべきである。


原告の主張について

原告は,平成27年7月ころ,原告と浪漫亭との間で協議がなされ,今後,浪漫亭が被告静岡産業社に対してトレイを発注することはしないとの確認がなされたと主張するが,原告と浪漫亭との間でそのような協議・確認が行われた事実はない。もしそのような協議・確認があれば,原告が被告静岡産業社による被告製品の納品を知った時点で,浪漫亭及び被告静岡産業社に対してその旨を告げて抗議等をするはずであるのに,原告はそのような言及をしなかったし,同年8月にP2らが原告本社を訪問した際にも,上記協議・確認への言及はなかった。
【被告ヨコタ東北の主張】


被告製品の製造・販売に至る経緯等について

平成27年4月1日から23日ころ,P2から,被告ヨコタ東北の関東営業所に勤務するP3に対し,浪漫亭で使用中の原告製品を見せられた上で,その単価に対
応できる単価で,同じような新容器を製造できるかとの見積依頼があり,試作品を制作することとなった。同年5月14日,P1,P2,P3及び金型製造者等が参加して,試作品の制作に関する打ち合わせが行われ,同月20日,試作品の納入及び修正が行われた。同年6月上旬,被告ヨコタ東北は,P2から,初めて,

容器の底部のX部分に何かわからないが権利のようなものがあるらしいから変更してほしい。

という指示を受けたため,P3は原告のホームページを確認の上,剥離性がよい特許を取得している旨の記載しか見当たらなかったため,本件意匠権の存在について認識することができないまま,変更についての話し合いを行い,底部を五徳状にすることとなった。同年10月中旬から11月中旬にかけて,試作品の改良
を重ねた後に被告製品が完成し,平成28年1月から,浪漫亭に対する被告製品の納入が開始された。
浪漫亭に納入する焼売用容器の特性として,浪漫亭の製造・梱包ラインに適合するものでなければならず,また,容器の底部が焼売に食い込まず,蒸気や熱が対流して蒸しあがるような形状でなければならないため,容器の形状を大きく変更する
ことができないことが前提となっていた。


原告による実施許諾


原告代表者は,平成27年8月ころ,P1に対し,被告静岡産業社に納入さ
せるトレイは餃子18粒用と焼売8粒用(木目)からにしてもらいたいと言った時点において,今後,被告静岡産業社が浪漫亭に対し,トレイを納入することを認識していた。
そして,同月7日にP2らが原告本社を訪問した際,原告代表者はP2らに対して原告の知的財産権を侵害することがないように厳しく求め,P2は焼売用の容器で同じものは作らないと答えたが,この時点における,原告代表者及びP2らの共通認識として,今後は被告静岡産業社が原告製品と同様の焼売用容器を浪漫亭に納
入することが前提となっていたからである。そして,原告は,被告静岡産業社に対し,

全く同じものは作らない。

という限度において,本件意匠権の実施許諾を
した。
以上より,原告は,同日の時点で,被告静岡産業社が,今後,浪漫亭に対し,原告製品と同様の焼売用容器を納入することを知っていたというべきである。イ
原告代表者や原告関係者は,平成28年ころ,約1か月半ごとに浪漫亭の焼
売工場を訪問していたところ,同工場には被告ヨコタ東北の名称が記載された被告製品が収納された段ボール箱が山積みになっており,原告製品1は同年1月ころから,原告製品2は同年7月ころから発注が激減していたのであるから,原告は,同年夏頃には,被告静岡産業社が被告製品を納入していることを認識し得た。それにもかかわらず,原告が,P2らに対して知的財産権を侵害しないよう求め
たこととは対照的に,長期間,法的措置を及ばないどころか異議すら述べなかったことは,原告が実施許諾をしていたことを強く裏付ける。


被告静岡産業社の主張を援用する。

【原告の主張】

黙示の実施許諾がないこと


被告静岡産業社は,平成27年4月ころから,浪漫亭に対し,原告製品に比
べて大幅に値下げした価格を提示して被告製品の販売を持ち掛けた。これによって,
原告は,同年5月以降,原告製品の単価の値下げを余儀なくされた。原告は,浪漫亭からさらなる値下げを求められたため,受注量・生産量ともに少ない餃子18粒用と焼売8粒用(木目)のトレイについて,試しに被告静岡産業社に製作させることを提案した。このとき,原告は,被告静岡産業社又は浪漫亭に対し,本件意匠権について実施許諾していない。

これを受け,浪漫亭は,被告静岡産業社に対し,同月末ころ,納期を同年7
月6日として餃子18粒用トレイを発注した。被告静岡産業社は,納期通りに上記トレイを製造する見込みが立たなかったため,原告に対し,同月3日に,上記トレイを製造するよう依頼した。
原告と浪漫亭は,再度協議を行い,浪漫亭は,今後,被告産業社に対しトレイを
発注することはしないことを約束し,原告は,被告静岡産業社からの発注に応じて上記トレイを納品した。これにより,原告は,以後,被告静岡産業社が浪漫亭に対し焼売用容器を納入することはないと認識していた。
同年8月7日,P2らは,原告本社を訪問し,上記経緯について謝罪した。原告代表者は,被告静岡産業社に対し,今後原告が有する本件意匠権を含む知的財産権を侵害することがないよう厳しく求め,万が一,侵害行為がなされれば法的措置に及ぶことを明言した。
ところが,被告静岡産業社は,その後も浪漫亭に対して営業活動を続け,平成28年1月から,継続して,被告製品を納入した。


原告は,平成29年8月ころ,浪漫亭からの焼売8粒用トレイの発注が途絶
えたことを不審に思ってP1に確認したところ,被告静岡産業社が被告製品を納入していることを知った。

そもそも,原告は,開発費用や意匠権の出願費用及び維持費用をかけて本件
意匠権を保有・維持しているのであって,これを浪漫亭の取引を奪おうとする競合他社に対して無償で実施許諾するはずがない。
以上のとおり,原告は,被告静岡産業社による被告製品の納入を容認する意思はなく,そのような事実もない。


被告らの主張について

被告らは,原告が被告製品の納入を同月よりも早い時期に知っていたと主張し,その根拠として原告製品の発注量の減少を挙げる。
しかし,原告製品の販売数量の増減は,浪漫亭の焼売の販売実績によるところであるし,仮に代替品が納入されていると認識できたとしても,それが侵害品であると認識することまではできないから,原告製品の受注が減ったからといって,被告製品の納入を認識するものではない。また,原告は浪漫亭に対し約50種類もの製
品を納品しているため,個々の商品の売上の推移までつぶさに把握していない。なお,原告製品2は,元から発注量が少ない製品であったため,発注が途絶えても,
原告において侵害品が製造販売されているとの認識の契機にはならなかった。また,仮に,侵害品が製造販売されていることを原告が認識していたとしても,認識と許諾は別個の問題である。

仮に,原告が,被告製品が浪漫亭に納入されている事実を知ってから被告静
岡産業社に対し警告書を送付するまでに一定の期間が経過したという事実があったとしても,権利行使を行うか否か,また,権利行使を如何なるタイミングで行うかは,権利者が自由に判断し得る事項である。
4
争点⑷(権利濫用・信義則違反)

【被告静岡産業社の主張】
上記3で主張したとおり,浪漫亭は,平成27年8月ころ,原告が本件意匠権の実施を許諾したことを信用して被告静岡産業社に被告製品を納入させた。原告は,
これを知りながら,何のクレームもせずに放置しており,浪漫亭及び被告静岡産業社は,被告製品の納入について原告に異存がないものと信じていたのであるから,原告が自らの容認を翻して本件訴訟を提起し,浪漫亭及び被告静岡産業社の信頼を
裏切ることは,著しく信義に反し,また権利濫用として許されない。【被告ヨコタ東北の主張】
浪漫亭に焼売用容器を納入する場合,浪漫亭の製造ラインに適合させる必要があるため,従来品である原告製品の形状に大きな変更を加えることはできないから,浪漫亭に原告製品以外の他社製品が納入された場合,その形状は原告製品とほぼ同
じとならざるを得ず,原告としては本件意匠権が侵害されているおそれがあることを認識できるから,速やかにこれを阻止するための何らかの措置を執ってしかるべきである。
しかしながら,上記3で主張したとおり,原告は,平成27年8月ころ,被告産業社が浪漫亭に納品することを認識し,遅くとも平成28年夏ころには実際に被告
製品が被告静岡産業社から浪漫亭に納入されていることを知ったにもかかわらず,被告らに対して問い合わせたり異議を申し立てたりすることはなかった。
原告は,権利侵害のおそれを認識し得た上,権利を守るため何らかの措置を執ることが容易にできたにもかかわらず,長期間にわたって被告製品が被告静岡産業社を通じて浪漫亭に納入されることを容認していたのであるから,被告らの創意工夫の努力によって原告製品に比べて機能性が著しく優れ,本件意匠と美感も異なるに至った被告製品について,被告らに対して本件意匠の侵害を主張することは,権利の濫用又は信義則に反して許されない。
被告静岡産業社の主張を援用する。
【原告の主張】
上記3のとおり,原告は,被告静岡産業社による意匠権侵害行為を容認した事実
も放置した事実もない。そもそも,権利行使を行うか否か,また,権利行使を如何なるタイミングで行うかは,権利者が自由に判断し得る事項であって,権利者の権利行使の選択やタイミングにおいて,
信義則違反や権利濫用がはたらくことはない。
5
争点⑸(被告ヨコタ東北の過失)

【被告ヨコタ東北の主張】
被告ヨコタ東北は,前記3のとおり,平成27年4月,被告静岡産業社から依頼を受け,浪漫亭との打ち合わせも行いながら被告製品の試作を行っていたところ,同年6月上旬,P2から,

Xの部分がだめなのでなんとかしてほしい。

との依頼を受け,X字状の部分を五徳状にした,外見上も機能上も原告製品とは異なる被告製品を制作し,浪漫亭の了解の下,同年10月中旬から11月中旬にかけて,被
告製品を完成させた。この間,容器の底部のX字状の部分に問題があることについて,詳細な説明はなかった。
なお,前記3のとおり,浪漫亭に納入する焼売用容器については,現行品の原告製品の形状を大きく変更することができないことが前提となっていた。被告ヨコタ東北は,被告静岡産業社からの発注に基づき,注文どおりに製造を行
い,被告静岡産業社に対して引き渡す義務を負っており,被告静岡産業社からは,本件意匠権の存在やその内容について,X字の突条があること以上に説明を受けた
ことはなく,上記完成の際に,被告静岡産業社から被告製品に問題がないことの確認を受けていた。原告代表者とP2らが平成27年8月7日に面談した際にも,本件意匠権について明確な説明はなかった。
したがって,被告ヨコタ東北は,調査を尽くしても本件意匠権を知り得なかったのであり,被告製品が浪漫亭から何の異議なく採用され,納入された後も,原告からは一度も警告も発せられることなく本件訴訟に至ったのであるから,過失の推定ははたらかない。
【原告の主張】
意匠権侵害行為については,意匠法40条により過失が推定されるものであり,
被告ヨコタ東北が主張するように,被告静岡産業社から問題がない旨の確認を得て被告製品の製造を開始したという事実があったとしても,過失の推定を覆滅するに足りるものではない。
また,浪漫亭は,平成27年ころ,焼売用のトレイの底部にX字状の突条を設ける形状について原告が権利を有していることを認識しており,このことは,被告静
岡産業社を通じ,被告ヨコタ東北にも伝わっていた。
したがって,被告らは,本件意匠権について調査することが十分に可能であったにもかかわらず,安易に本件意匠に類似する意匠を備えた被告製品を製造・販売してきたのであって,過失の推定の覆滅が認められる余地はない。
6
争点⑹(共同不法行為)

【原告の主張】
被告らの不法行為は,同一侵害品の製造販売と転売の関係に立つものであるから,客観的関連共同性が認められる。また,被告らは,被告ヨコタ東北が被告静岡産業社に対し,
丸善様の容器とは違うデザインにするので問題ない
と申し述べ,
その旨を静岡産業社が信じたことにより,被告製品の製造販売を開始したのである
から,主観的関連共同性も認められる。
したがって,被告らの侵害行為には,共同不法行為(民法719条1項前段)が
成立する。
【被告静岡産業社の主張】
争う。
【被告ヨコタ東北の主張】
争う。前記のとおり,被告ヨコタ東北は,被告製品の形状をすべて自らにおいて決定したとはいえないことが明らかである。
7
争点⑺(損害の発生及びその額)

【原告の主張】

意匠法39条1項に基づく損害賠償額


被告製品の販売数量

被告静岡産業社は,平成28年1月ころから平成30年2月ころまでの間,浪漫亭に対し,被告製品1及び被告製品2を,それぞれ(中略)個及び(中略)個販売し,被告ヨコタ東北は,同時期に,これと同数量の被告製品を,被告静岡産業社に対して販売した。

原告製品1の単位数量当たりの利益額
原告製品1の単価

原告は,被告静岡産業社が平成27年4月ころに本件見積書を浪漫亭に提示するまでの間は,
浪漫亭に対し,
原告製品1を単価
(中略)(消費税別。

以下の同様。

で販売していたから,同額を原告製品1の単位数量当たりの利益額の算定の基礎とすべきである。
仮に,原告製品1の単位数量当たりの利益の額が,本件見積書の提示以降,被告静岡産業社の不法行為により値下げを余儀なくされた後の原告製品1の単価に基づき算定されるのであれば,原告は,予備的に,その下落分に被告製品1の販売数量を乗じた額を民法709条に基づく損害賠償請求として請求するから,合計として
同一の金額が認容されるべきである。
控除経費

原告製品1について,単位数量当たりの利益額を算定する際,単価から控除されるべき費用は,
原材料費並びに梱包費及び運送費
(原告が100%子会社に委託し,
同子会社が外注先に再委託した経費の額。)である。
原材料費は,レジンの仕入経費であり,原告製品1個当たり(中略)円である。梱包費は,ビニル袋及び段ボールの費用であり,原告製品1個当たり(中略)円である。
原告製品1の1個当たりの運送費は,(中略)円である。
まとめ
よって,原告製品1の単位数量当たりの利益の額は,(中略)円である。
(計算式)(中略)円-((中略)円+(中略)円+(中略)円)=(中略)円なお,原告は,梱包費及び運送経費について,実際の額面に10%を上乗せした額(それぞれ,(中略)円及び(中略)円)を控除経費とすることについて,争わない。

原告製品2の単位数量当たりの利益額
原告製品2の単価

原告は,被告静岡産業社が浪漫亭に対して被告製品の見積を提示するまでの間,浪漫亭に対し,原告製品2を,単価(中略)円で販売していたから,同額が原告製品2の単位数量当たりの利益額の算定の基礎となる。
なお,原告製品2の単位数量当たりの利益の額が,被告静岡産業社からの上記申出の後に下落した原告製品2の単価に基づき算定されるのであれば,原告は,予備的に,その下落分に被告製品2の販売数量を乗じた額を,民法709条に基づく損害賠償請求として請求する。
控除経費
原告製品2について,単位数量当たりの利益額を算定する際,単価から控除され
るべき費用は,原告製品1と同様に,原材料費,梱包費及び運送費であるところ,原告製品2は原告製品1に木目用フィルムを貼付して制作されるため,同フィルム
費(1個当たり(中略)円)が原材料費として加算される。
まとめ
よって,原告製品2の単位数量当たりの利益の額は,(中略)円である。(計算式)(中略)円-((中略)円+(中略)円+(中略)円+(中略)円)=(中略)円

被告らの主張について

被告静岡産業社は,被告製品について本件意匠に相当する部分の寄与率(推定覆滅率)
は50%程度であると主張するが,
浪漫亭が被告製品を購入した動機は,
ラップを外さずトレーのままレンジでできるという必須の要件を,被告製品が本
件意匠と類似する底部の形状を備えることによって満たしたことにあるから,被告製品の販売に対する本件意匠の寄与度は100%であり,推定覆滅されるべき事情はない。
本件意匠は,浪漫亭から,焼売をトレイに投入した状態で蒸すことができるトレイを納品してほしいとの要請を受けて開発したものであるところ,この目的のため
にはトレイの底の形状を工夫する必要があり,本件意匠はこれを実現する形状として工夫して創作されたものである。したがって,本件意匠又はこれに類似する意匠を備えたトレイの底であることは,需要者である浪漫亭との取引において必須の前提となったものであるから,本件意匠が部分意匠であることは,意匠法39条1項但書の事情とはならない。

また,被告静岡産業社は,本件において,損害額の少なくとも90%超について過失相殺がなされるべきであると主張するが,その主張を基礎付ける事実は権利濫用の主張を基礎付ける事実と同一であるから,原告は,前記4で述べた権利濫用等の主張に対する反論を援用する。
被告ヨコタ東北は,原告主張の被告ヨコタ東北の譲渡数量が原告の実施能力を超
えると主張するが,原告の工場では,原告製品1以外にも,多数の種類の包装用容器を製造されており,受注状況に応じてラインを切り替え・調整したり,ラインの
稼働率を調整したりしているのであるから,被告製品の販売数量に相当する受注が追加的になされていれば,ラインを適宜切り替え・調整し,あるいはラインの稼働率を上げることによって,受注した製品を製造することは十分に可能である。オ
まとめ

以上より,被告らが被告製品を製造販売したことにより原告が被った損害額は,意匠法39条1項により,被告製品1につき5202万0490円,被告製品2につき424万1030円(合計5626万1520円(税抜き),6076万2441円(税込み))と算定される。
(計算式)
被告製品1

(中略)個×(中略)円=5202万0490円

被告製品2

(中略)個×(中略)円=

424万1030円

よって,被告らは,意匠法39条1項に基づき,原告に対し,連帯して,6076万2441円の損害賠償義務を負う。

原告製品の値下げによる損害賠償額


原告は,原告製品を浪漫亭に対してのみ販売していたところ,平成27年4
月ころ,被告静岡産業社が,浪漫亭に対し,月間41万円で年間492万円のコストダウンになりますと記載した本件見積書を提示した。本件見積書は,原告製品と同じ形状の商品を納入する前提で作成されたものであるため,本件意匠権に対する侵害品についての販売の申出に当たる。
これにより,原告は,別紙原告製品販売数量・単価一覧表のとおり,原告製品の単価の値下げを余儀なくされた。
特に,原告製品1については,本件見積書が浪漫亭に交付された直後に,被告静岡産業社が提示した見積単価と(中略)円への減額を余儀なくされたのである。被告静岡産業社が原告製品に比べて安価で被告製品を提供できたのは,被告製品
が当初より原告製品に代替する製品として,浪漫亭の焼売の製造ラインの乗せるための商品として製造されたものであって,被告らにおいては原告が要した成否に開
発コストや浪漫亭の製造ラインとの適合性の試験等の費用が不要であったからにすぎない。
したがって,被告静岡産業社の上記行為により,原告が原告製品の販売において被った損害(値下げ相当額の損害)は,被告静岡産業社の本件意匠権侵害行為によって通常生ずる,侵害行為との相当因果関係が認められる損害である。イ
上記被告静岡産業社の本件意匠権侵害行為による損害額は,上記別紙のとお
り,原告製品1につき合計441万2775円,原告製品2につき合計8万2056円であり,合計449万4831円(税抜き),485万4417円(税込み)である。
よって,被告らは,原告に対し,連帯して,485万4417円の損害賠償義務を負う。


弁護士・弁理士費用

被告らの上記不法行為により原告が被った損害額の合計は,6561万6858円であり,被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用は,656万円を下らない。
よって,被告らは,原告に対し,連帯して,弁護士費用・弁理士費用相当額の損害金として,656万円の損害賠償義務を負う。


まとめ

以上より,被告らは,原告に対し,本件意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,連帯して,7217万6858円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年3月30日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を負う。【被告静岡産業社の主張】


意匠法39条1項に基づく請求について
原告製品の限界利益算定のベースとなるべき価格

帝国データバンクのよる調査報告書(乙6)によれば,原告全社の平成28年7月期におけるプラスチック容器の販売事業の売上高は(中略)円であり,変動費合
計(中略)円を控除すると,(中略)円であるところ,原告の主張によれば,原告における原告製品の製造数量が全製品の製造数量に占める割合は(中略)%以下であるから,限界利益も,(中略)円程度にすぎないはずであり,原告が主張する限界利益の額(6076万2441円)は,明らかに過大である。
原告は,値下げ前の販売単価を基準として原告製品の単位数量当たりの利益の額を算定すべきと主張するが,原告製品の販売単価が値下げされたのは,原告製品の品質に問題があったからであり,被告製品の販売とは無関係である。したがって,原告製品の限界利益算定のベースとしては,あくまで値下げ後の実販売価格によるべきである。


控除経費の費目

限界利益を算定する上で,少なくとも原告製品の製造のために使われている直接労務費及び電気代は控除されるべきである。

推定覆滅(寄与率)

被告製品における本件意匠権の対応部分は,面積比で50%程度であるから,寄与率は50%程度と考えるべきである。


値下げによる損害について

原告は,被告製品が浪漫亭に納入されるようになった後(平成28年1月以降)も,平成29年12月までは,原告製品を納入していたのであり,少なくともその間は,原告製品と被告製品は浪漫亭に対して併売されていた。
原告製品には,品質上の問題点(製品の周りの縁の広狭にばらつきがあり,浪漫亭の製造ラインへのセッティングに支障があったこと,及び,縁の抜きが悪く,焼売の表面を覆うラップが切れてしまい,
再包装が必要となったこと)
があったため,
浪漫亭から納入単価の減額を求められ,最終的には取引を失うこととなったものと考えられ,被告製品の納入とは関係がない。

原告は,被告静岡産業社が本件見積書を提出したことが本件意匠権の侵害行為であると主張するが,同時期には被告製品のデザインは全く決まっておらず,当時,
本件意匠権の侵害に該当する行為は全くなかった。また,原告製品1の単価は,同年5月に(中略)円となった後,同年7月には(中略)円となり,被告製品の納入が開始された平成28年1月以降も同価格を維持していたことからも,被告製品の納入と原告製品の単価とは無関係であるといえる。


過失相殺

原告は,前記のとおり,平成28年1月から被告静岡産業社による被告製品の納入が開始された時点でその事実を了知していたものと考えられるが,原告は浪漫亭に対しても被告静岡産業社に対しても何らのクレームをせず,原告が主張するところの損害を拡大させた。これは,自招の危険といってよい事態であり,損害の少なくとも90%超について過失相殺がなされるべきである。


弁護士・弁理士費用相当額の損害について

争う。
【被告ヨコタ東北の主張】

意匠法39条1項に基づく請求について


相当因果関係の不存在

被告静岡産業社が被告製品を浪漫亭に納入し始めたのは平成28年1月であるが,これ以後も浪漫亭には原告製品が納入されていたのであるから,被告製品の製造販売により原告製品の取引が終了したという事実はない。
浪漫亭が被告製品を原告製品と並行して購入し始めたのは,原告製品にはない被告製品の特徴(前記1参照)が機能面で優れていた一方で,原告製品には機能上も品質管理上も問題があったからであり,被告製品が本件意匠と類似していたからではない。
したがって,浪漫亭が原告製品の購入を中止したとしても,原告が主張する意匠権侵害との間に相当因果関係はない。


原告の実施能力

原告製品1の販売数は,被告ヨコタ東北が納入する前の平成27年10月分は
(中略)個,同年12月分は(中略)個であり,被告ヨコタ東北の平均数量(50万3723個)よりもはるかに少ない数量であるから,原告の損害額の主張は,自己の実施能力を超えるものである。

意匠法39条1項但書(販売することができないとする事情)

被告製品には,原告製品よりも販売価格が廉価であり,ブランド力や製品そのものの品質が優れているという事情があったため,被告製品全量について,原告には販売することができないとする事情があったと解すべきである。

控除経費の費目

原材料費,梱包費,運送費以外にも,一般的には,シート加工賃及び金型成形加工賃並びに労務費及び電気代もかかるはずである。


値下げによる損害について

原告製品の価格は,原告と浪漫亭との間において,自由な意思に基づく交渉により決定されているというべきであり,被告静岡産業社が見積等の申出をしたこととの間には相当因果関係がない。
被告ヨコタ東北は,浪漫亭に対し,見積単価を提示して販売の申出をした事実はなく,試作品を作成して最終的に完成したのは,平成27年10月から11月であるところ,この時期に原告製品の販売数量が特段減少した事実は認められない。原告は,同年4月ころ,被告製品の販売の申出があったことを理由に原告製品が値下げされたと主張するが,同時期,被告製品のデザインは決定しておらず,販売
見込みもなかったのであるから,原告主張の単価の値下げは,被告製品の販売によるものでないことは明らかである。
原告製品の販売数量の減少は,原告製品に品質等の問題があり,浪漫亭において併販を躊躇するとの経営判断をしたことが原因ということができる。⑶

弁護士費用・弁理士費用相当額について

争う。
8
争点⑻(売買残代金請求)

【原告の主張】
被告静岡産業社は,平成27年7月3日,浪漫亭に対し納品するための餃子18粒用トレイを,同月6日までに納品するよう求めた。原告は,同月3日,1個当たりの単価50.0円であれば応ずる旨回答し,被告静岡産業社は,これを承諾し,同日,原告に対し,同製品を10万個発注した。
原告は,同製品を10万個製造し,被告静岡産業社の指示に応じ,同月6日に3万0400個を,その後6万9600個を,浪漫亭に対して納品した。被告静岡産業社は,上記3万0400個については単価14.2円,6万9600個については単価13.2円の計算で,浪漫亭を通じて支払を行ったが,残代金
394万1568円(税込み)については,いまだ支払がない。
(計算式)(50.0-14.2)×3万0400個×1.08+(50.0-13.2)×6万9600個×1.08=394万1568円
したがって,被告静岡産業社は,原告に対し,上記残代金394万1568円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を
負う。
【被告静岡産業社の主張】


代金額についての取決め

平成27年9月に,浪漫亭,原告及び被告静岡産業社の関係者が出席して行われた会議において,原告主張に係る原告製品10万個については,浪漫亭から原告に直接納入の指示と代金の決済を行うこと,代金は従前原告が浪漫亭に納入していた際と同一の価格として浪漫亭から原告に対して支払をすることが取り決められ,浪漫亭は原告に対してその代金を支払った。
したがって,被告静岡産業社が原告に対して支払義務を負う残代金はない。⑵

消滅時効

原告製品の納入は,遅くとも平成27年中には完了しており,平成29年末までには消滅時効が完成しているため,これを援用する(民法173条1号)。
第4

当裁判所の判断

1
認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)


原告と浪漫亭との取引の経緯等(甲1,2,11,原告代表者)

原告は,浪漫亭の設立時(平成12年4月)より,食品包装用容器を納入していたところ,平成17年夏ころ,浪漫亭が焼売の製造販売を行う計画が立ち上がった際,浪漫亭から,製造ライン上で,自動的に空のトレイに生の焼売が詰められ,その状態でトレイごと蒸して冷却後にラップで自動包装するという製造工程が示されるともに,トレイに焼売を載せたままで蒸すことができるトレイの開発を依頼された。浪漫亭からは,その他,焼売の形状(四角)及び寸法並びに1つのトレイに収
容する個数(6個及び10個の2種類)等についてはおおよその指示があったものの,焼売用容器の底の形状については特定されておらず,いったん原告が製造したトレイを納入して製造ライン上で焼売を製造し,不具合があれば随時改善することとされた。
原告は,当初,トレイの収容部の底部にX字状の突条を設ける構想を持っていた
が,焼売がそれ自体の重量と粘度によって突条部に食い込むことを懸念し,平成17年12月ころ,底が手裏剣状となった図面(甲10)を作成し,平成18年1月ころ,同図面に沿って製造した焼売6個用及び10個用のトレイの完成品を,当時浪漫亭の商品を製造していた飯野デリカ食品株式会社
(以下
飯野デリカ
という。

の工場に納入した。その後,原告は,同年2月から6月ころ,浪漫亭から,機械と
の適合性,機械にトレイを自動供給するためのスタッキング,高さ等々の改善点について相談を受け,その都度細かな修正を行った。
原告は,トレイの収容部の底部を手裏剣状ではなくX字状としても浪漫亭の製造ラインに使用することができ,
その方がデザイン性に優れ,
蒸す能力が高いと考え,
ポケット部や段部等のある本件意匠に類似する形状の金型を再制作し,同月19日
に焼売6個用及び10個用のサンプル品を納入し,同月23日,本件意匠権について出願するとともに,同月10月までの間に,従来品の手裏剣状のトレイからすべ
てX字状の新製品へ切り替えた。その後も,原告は,浪漫亭からの修正の要望に応じ,トレイの形状について細かな修正を行うなどし,平成19年2月ころ,焼売8個用の原告製品の販売を開始した。
浪漫亭は,原告製品に焼売を入れてスーパーマーケット等で販売する際,パッケージ上に,ラップを外さずトレーのままレンジでできるという文言を記載し
ていた(甲4参照)。


被告静岡産業社と浪漫亭の取引の経緯等(甲5,6,19,20,乙2ない
し5,丙1,原告代表者,証人P3,証人P2)

被告静岡産業社は,平成18年2月ころから,浪漫亭の焼売用容器用のラッ
プを飯野デリカに納入していたが,平成27年春ころ,P2がP1に対し,包材やトレイ等の新しい取引を要望したところ,P1は,P2に対し,原告製品を渡して同じような物が必要なので見積を出すよう告げた。
被告静岡産業社は,容器の製造を被告ヨコタ東北に依頼することとし,原告製品の価格よりも安い単価の見積を依頼し,同年4月6日,被告ヨコタ東北から受領し
た見積に基づき,P1宛てに本件見積書を提示した。本件見積書には,品名欄に,
焼売トレー8白使用量60万枚/月間,
焼売トレー8木目使用量5万枚/月間との記載があり,それぞれの単価欄には5.30円及び5.70円と記載されていた。また,備考欄には,

月間41万円で年間492万円のコストダウンになります。

との記載があった。イ
原告は,同月ころ,浪漫亭から本件見積書や被告静岡産業社による他の商品
に関する見積書を提示されたため,
同年5月以降,原告製品1の単価を,
従来の
(中
略)円から本件見積書と(中略)円に値下げし,同年6月以降,原告製品2の単価を,従来の(中略)円から(中略)円に値下げした。また,原告代表者は,浪漫亭に対し,被告静岡産業社には,試しに一度,納入数が少なく採算がとれない商品である餃子18個用及び焼売木目8個用の容器を作らせてみてはどうかと提案し,浪漫亭は,同年5月末,餃子18個用容器を被告静岡産業社に対して発注した。

同年5月14日,浪漫亭において,P1,P2,P3及び金型製造業者等が
参加し,打ち合わせが行われ,浪漫亭の製造ラインに適合させるため,容器の底面の凹凸やX字状の突条も含め原告製品と同じ形の試作品を製造することとなった。被告ヨコタ東北は,同月20日,試作品を完成して納品し,木目の色合いや柄について修正した。
P2は,P1から,底のX字部分の形状につき,原告には特許か何かわからないが権利のようなものがあるので,全く同じものにはしないようにと指示を受け,同年6月上旬,P3に対し,これを伝えて底の形状を変更してもらいたいと述べた。P3は,原告のホームページを確認し,原告がトレイの剥離性がよいという特許を
有することを把握したが,本件意匠権の存在については確知しないまま,底部の十字状の突条の中央部分を開けた形状の試作品に変更した。

同年7月3日,被告静岡産業社は,浪漫亭から発注を受けた餃子18個用容
器につき納期に間に合わなくなったため,原告に対し,期限を同月6日として単価50円で製造を依頼した。
原告は,
同日までに同容器を製造して浪漫亭に納入した。
同年8月7日,P2らが原告を訪問し,上記経緯について謝罪と礼を申し述べようとしたが,原告代表者は,P2らに対し,原告の知的財産権を侵害しないように強く求め,
もしそのようなことがあれば法的措置を執る旨述べ,
これに対しP2は,
原告製品と全く同じ容器は作らない旨を述べた。


被告製品の納入開始(乙2,丙1,証人P3,証人P2)

被告ヨコタ東北が,試作品の底部の形状を上記⑵ウのとおり変更した後,P1からは特に修正の指示はなく,平成27年10月中旬から11月中旬ころ,試作品のラインテストと改良を経た後,被告製品が完成し,平成28年1月以降,浪漫亭に納入された。当初,被告製品は月間18万6000個程度使用されていたが,平成29年以降は,月間70万個から80万個程度使用されるようになった。


原告製品の価格及び販売量の推移(甲19,20)


原告製品1

原告は,原告製品1を,別紙原告製品販売数量・単価一覧表のとおり浪漫亭に販売し,平成27年5月には単価を従来の(中略)円から(中略)円に変更し,同月及び6月には約
(中略)
個の売上があった。
同年7月から平成29年1月まで,
単価は(中略)円となり,毎月の売上は約(中略)個から(中略)個であった(販売数が0個であった平成28年12月を除く)。平成29年2月以降の単価は(中略)円,毎月の売上は約(中略)個から(中略)個であり,平成29年8月から10月及び同年12月以降の販売個数は0個である。

原告製品2

原告は,原告製品2を,別紙原告製品販売数量・単価一覧表のとおり浪漫亭に販売し,平成27年6月に単価が従来の(中略)円から(中略)円となり,同月から平成28年3月までの毎月の売上は約(中略)個から(中略)個であったが,同年4月及び5月と同年7月以降の販売個数は0個である。


被告製品の廃棄等(甲7ないし9)

原告は,平成30年1月19日付けで,被告静岡産業社に対し,警告書と題する書面を送付し,被告製品が本件意匠権を侵害するとして,被告製品の販売中止及び在庫廃棄を求めた。被告静岡産業社は,本件意匠と被告製品との類似については否認しつつ,円満解決のためとして,同年2月,浪漫亭への被告製品の納入を中止し,被告ヨコタ東北は,被告製品の在庫及び金型をすべて廃棄した。⑹

事実認定に関する補足説明

原告は,平成27年7月,被告静岡産業社が浪漫亭から発注を受けた餃子18個用容器10万個について納期に間に合わなくなり,原告に対して納期を3日後として代わりに製造するよう求めてきた際,P1に電話を掛け,P1は,被告らにはトレイを二度と作らせないと約束したと主張する。
確かに,原告としては,競合相手である被告静岡産業社が,短い納期で大量の受
注をしたのであるから,いったん納入先である浪漫亭に対し,今後の取引の有無等について確認するのが自然であるとも思われる。

しかし,原告が上記発注を納入し終わった後の同年8月にP2らが原告本社を訪問した際,原告代表者がP2らに対し,上記P1との約束を持ち出すことなく,今後原告の知的財産権を侵害しないように強く求めたことや,平成30年以降,原告が被告らに対し本件意匠権の侵害について警告を行ったときに,上記P1との約束について言及しなかったこと,及び原告において浪漫亭が被告製品の納入を受けたことを知った後も浪漫亭に対し特にクレーム等をしていないといった事実から,平成27年7月の時点で,P1が原告代表者に対し,今後一切被告らにはトレイを作らせない旨を明確に約束したとまで認めることはできない。
2


本件意匠の要部について


争点⑴(本件意匠と被告製品との類否)

本件意匠は,食品包装用容器の複数の収容部の底に配された凹凸状の底部の
形状に関する部分意匠であるところ,同意匠は,食品包装用容器の各収容部にそれぞれ生の焼売等を収納した状態で電子レンジにより加熱した際,焼売自体はX字状の突条に支えられ,
熱や水蒸気が対流することにより焼売が蒸し上がるのと同時に,
焼売から流出した水分や脂分が,突条の周りの段部に流れ落ち,収容部の四隅のポケット部に溜まることにより,焼売の底が水分や脂分でベトつくことなく食べられるという機能的な特徴を備えるものである。
本件意匠に係る物品の需要者は,食品メーカーであるところ,上記特徴からすれば,本件意匠に係る物品のような食品包装用容器を見る際には,上方あるいは斜め
上方から見下ろした際の底部の形状,すなわち底部の突条を含む凹凸形状に注目するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の要部は,以下の形状であると認めるのが相当である。①

各収容部の底部の中心に,対角線上に長さが等しいX字状の突条が設けられ
ていること


各収容部の底部の四隅に,突条の各先端部を囲うようにポケット部が設けら
れていること




突条,ポケット部,凸部に囲まれた部分に段部が設けられていること


6個(3列×2段)の収容部が形成されていること


各収容部の底部の四辺の中心に凸部が設けられていること

被告ヨコタ東北は,これに加え,収容部底面から立ち上がる面との接合面が
それぞれ直線的に折り曲げられていることが要部であると主張する。しかし,本件意匠を上方又は斜め上方から観察した場合,上記①ないし⑤の凹凸形状とこれらが構成する模様及び収容部の数については容易に看取することができ,それによる機能的側面を推測することもできるが,収容部底面から立ち上がる面との接合面が直線的に折り曲げられている点については,一見して看取し難く,それ
によって生じる機能についても推測が容易ではなく,美感としての印象も希薄である。
したがって,被告ヨコタ東北の上記主張を採用することはできない。⑵

本件意匠と被告意匠の対比
共通点

本件意匠と被告意匠との共通点は,基本的構成態様すべて(本件意匠のAないしG,被告意匠のaないしg),及び具体的構成態様のうち,突条の先端が丸みを帯びた形状であり,丸み部分がポケット部に入り込むよう配されている点(本件意匠のI,被告意匠のi),凸部が平面視略三角形状に形成されている点(本件意匠のJ,被告意匠のj),突条と凸部の高さが同一である点(本件意匠のM,被告意匠
のm)である。
なお,被告ヨコタ東北は,被告製品の構成態様fポケット部,突条,凸部に囲まれて段部が形成されているについて否認するが,被告製品の各収容部の四辺のうち容器の長辺側の一辺については,凸部及び段部の代わりに,これらと同じ形状をした,段部よりも底面側に凹み,かつ,ポケット部よりも平面側に浅く形成され
た段差がある
(被告意匠のk参照。から,

上記fは段部の記述として正確である。

差異点

本件意匠と被告意匠との差異点は,以下のとおりである。
突条の形状について
本件意匠では,突条が平面視X字状に形成されているのに対し,被告意匠では,突条は交差せず,中央部に,段部と同じ高さで一体となった,突条の長さの4分の1程度の直径の空間がある点(本件意匠のH,被告意匠のh)。
凸部の数について
本件意匠では,凸部は底部の四辺にそれぞれ1個(合計4個)形成されているのに対し,被告意匠では,容器の長辺側に位置する収容部の辺に凸部が形成されておらず,その余の三辺にそれぞれ1個(合計3個)形成されており,凸部が形成され
ていない辺側の2つのポケット部と突条に囲まれた部分は,段部よりも底面側に凹み,かつ,ポケット部よりも浅く形成された段差となっている点(本件意匠のK,被告意匠のk)。
段部の形状について
本件意匠では,
段部は同一の形状で4個形成されているのに対し,
被告意匠では,

段部が中央部で連結して一体となっており,容器の長辺側に位置する収容部の辺側には段部ではなく段差がある点(本件意匠のL,被告意匠のl)。収容部の数について
本件意匠では,収容部は6個(3列×2段)形成されているのに対し,被告意匠では8個(4列×2段)形成されている点(本件意匠のN,被告意匠のn)。⑶

差異点についての評価


突条の形状について

上記差異点のうち,突条の形状に関する差異は,要部に関するものであって,収容部の中央に位置し,その形状から焼売等を直接支える機能をイメージさせることから,需要者が上方又は斜め上方から食品包装用容器を観察する際,最も注目を引く差異であると考えられる。
そして,2本のX字状の突条と,4本の非交差で中央に空間のある突条では,美
感が異なると言わざるを得ない。
しかし,被告製品の突条も,収容部の対角線上に位置し,その先端が丸みを帯びている点においては,本件意匠の突条と類似しており,突条の幅の太さにも顕著な差はない。また,被告製品の突条の中央部分にある空間の直径は,突条全体の長さの約4分の1であり,突条の空間側の突端も,先端側と同様に丸みを帯びているため,全体として,被告意匠の突条は,X字状の中央部分を欠くもの,X字が変化した形状という印象を与える。
被告ヨコタ東北は,被告意匠の突条が五徳状であると主張するが,一般的な五徳は,その中央部に鍋や薬缶等の調理器具を置くという機能上,比較的広い空間が設
けられており,突条の数も奇数であったり,より多数であることが多いと考えられるから,被告意匠を見た需要者の多くが五徳を想起するとは考え難い。被告らは,被告製品においては,焼売等から流出した水分や脂分が上記中央の空間を通ってポケット部に流入し,かつ,水蒸気の対流によって熱の通りにくい焼売の中心部まで短時間で加熱することができる一方,本件意匠に類似する意匠を備え
る原告製品においては突条のX字の中心部に水蒸気及び油脂等が付着し,焼売の底部がベトついてしまうから,突条の形状の差異が機能性の優劣につながっていると主張する。しかし,被告製品及び原告製品における,焼売等から流出した水分や脂分の経路や水蒸気や熱の対流の仕組みについては特に立証がなく,不明であるといわざるを得ないから,上記被告らの機能性の優劣に関する主張を採用することはで
きない。
以上より,上記突条の形状の差異は,意匠を全体的として観察した際に,美感に決定的な影響を与える差異であるということはできない。

凸部の数及び段部の形状について

凸部の数に関する差異は,要部に関する差異ではあるものの,被告製品の長辺側に位置する収容部の辺には,凸部及び段部の代わりに,被告製品を上方から観察した際,他の三辺における凸部及び段部と同じ位置に,両者を合体させた形状の段差
が存在するため,一見して,他の三辺における凸部がある部分と段差との高低差がないこと及び段差とポケット部との高低差が段部とポケット部との高低差よりも小さいこと(段差と突条との高低差が段部と突条との高低差よりも大きいこと)を除けば,凸部がないことにより他の三辺側と大きく異なる印象を与えるとまではいえない。
また,段部の形状についても,本件意匠においては突条によって中央で分断された4つの同じ形の段部が存在するのに対し,被告意匠においては,容器の長辺側を除く三辺側において同じ形の段部が突条の中央部でつながっているという差異があるものの,上記のとおり,突条の中央部の空間は比較的狭く突条が略X字状である
との印象を失わせるものではなく,段差と段部の高低の違いを除けば,本件意匠と被告意匠における突条及びポケット部を除いた部分(段部あるいは段差と凸部を合わせた部分)の印象が大きく異なるとまでいうことはできない。
被告静岡産業社は,
被告製品は本件意匠の持つ上下左右の対称性
(シンメトリー)
を喪失しているところ,需要者である食品メーカーは,食品包装用容器について高
度な知識を有しているため,上記相違は一目で判別されると主張する。確かに,被告製品の収容部には上下の対称性がないことは認められるが,左右の対称性はいまだ失われていないし,上記のとおり,上方から平面視した場合には,上下の対称性の喪失も取り立てて注目を引くということもない。
被告ヨコタ東北は,容器の長辺側の空間が一つの大きな凹部となっていることに
より,焼売等から流出する水分又は油脂を受け止め,焼売等がベトつくのを防ぐ効果があると主張するが,上記アと同様に,段部の形状の差異がそのような機能の優劣につながることの立証はなく,この点に需要者が注目すると認めることはできない。
以上より,凸部の数及び段部の形状に関する差異が美感に与える影響は些細なも
のというべきである。

収容部の数について

本件意匠及び被告意匠においては,同じ形状をした収容部が連続して縦横に並べられており,横に3列(合計6個)か4列(合計8個)かという点に差異があるところ,需要者である食品メーカーとしては,一つの容器に納められる焼売等の数に関心があるとしても,上記連続の仕方自体はいずれも食品包装用容器としてありふれたものであるし,容器全体の縦横比(収容部1列分)の違いにより美感に著しい違いが生じるということもできない。


まとめ

以上より,本件意匠と被告意匠との差異点は,いずれも要部に関するものではあるが,その差異が共通点を凌駕するものではなく,本件意匠と被告意匠は,全体として需要者に一致した印象を与えるものであり,美感を共通にするというべきであるから,被告意匠は,本件意匠に類似すると認められる。
意匠に係る物品が同一であることは,前述のとおり争いがないから,被告製品の製造・販売は,以下の抗弁等が認められない限り,本件意匠権の侵害となる。3
争点⑵(無効の抗弁)



新規性喪失(争点⑵ア)

前記認定事実によれば,原告が,底部の突条の形状を,甲10の図面記載の手裏剣状から,現状の原告製品に近いX字状の形状に切り替えた製品のサンプルを,飯野デリカに初めて納入したのは平成18年8月19日であり,
本件意匠の出願日
(同
年6月23日)後であると認められる。
被告らは,遅くとも同月1日には,本件意匠と相当類似した意匠の製品となっていたはずであると主張するが,甲11の別紙2によれば,平成18年2月1日,同年4月18日,
同年6月1日に行われた形状の変更はいずれも
マイナーチェンジ
とされているのに対し,同年8月19日には形状変更したサンプル品,同年10月4日及び同月6日には6ヶ入り(10ヶ入り)従来品の最終納品,以後新商品を納品と記載されていることから,平成18年2月から同年6月までの形状変更はいずれも細かな点の変更に過ぎず,金型の変更を伴って底部の突条の形状を大
幅に変更したのは,同年8月以降であったと解するのが相当である。したがって,
本件意匠権に,
意匠法3条1項の無効理由があるとは認められない。


創作容易性(争点⑵イ)
乙1意匠は,原告が主張する通りの特徴(前記第3の2⑴原告の主張ア①ないし
⑦)があると認められるところ,その中でも,(ⅰ)乙1意匠の各収容部には,X字状の凹部(底面)が設けられており,その中に,対角線上に非交差の4本の突条及びその間の中央部に平面視円形の上向き突起が設けられている点,(ⅱ)各突条の先端部と四隅との間に,凹部を貫通する円弧状のスリットが形成されている点,(ⅲ)凹部と各側壁との間に設けられた三角形状の凸部の略中央に,平面視におい
て円形の下向き突起が形成されている点等は,いずれも本件意匠の有しない特徴であり,かつ,本件意匠の要部に関わり,上方又は斜め上方から観察した際の美感に大きな違いを与えるものと考えられる。
また,乙1意匠は,各収容部に載せた焼売,餃子,饅頭等の蒸しものを蒸すときに,底面に設けられた複数の突起及び,複数のスリットが蒸しものの重みで開くこ
とにより,容器と蒸し器(蒸煮装置内部の多孔棚板)との間に蒸気通路が形成されるという作用が得られるように配置されたものであって(乙1),乙1意匠が表象する機能は,容器にラップを掛けたまま電子レンジで加熱した際,各収容部の底面の凹凸形状により収容部内に水蒸気を滞留させて焼売等を蒸し,焼売等から流出した水分や脂分がポケット部に溜まるようにして焼売等の底面がベトつかないように
するという本件意匠が表象する機能とは異なるといわざるを得ない。そうすると,乙1意匠と本件意匠とでは,美感や意匠によって表象される機能が大きく異なるというべきであるから,当業者が乙1意匠から本件意匠を容易に創作することができたということはできず,本件意匠権に,意匠法3条2項の無効理由があるとは認められない。

4
争点⑶(黙示の実施許諾)



被告らが製造する製品の形状について

P2が本件見積書を提出する際,P1及び被告らの間では,被告らが,原告製品の代替品となるような,浪漫亭の製造・梱包ラインに適合するような焼売用容器のトレイを製造して納入することが前提とされていたのであるから,完成品のトレイの形状が,現行品である原告製品とある程度似通ったものになることは,当然に共通の認識となっていたものと考えられる。また,浪漫亭は,ラップを外さずトレーのままレンジできると,従来品である原告製品のパッケージに記載して焼売を販売していたのであるから,被告らの納入する焼売用容器にも,購入者がラップを外さずに電子レンジで蒸すことができるという機能が備わっていることは,被告らが浪漫亭に製品を納入する上で必須であったと考えられる。
もっとも,浪漫亭の製造ラインに適合し,かつ,上記のような機能を備える焼売用容器であっても,底部の形状が本件意匠と類似しない製品も無数に想定し得るのであるから,上記の事情から,被告らの製造する製品が,本件意匠権の侵害品となることが,当初から確定していたということにはならない。


平成27年4月ころの原告代表者の発言について

原告は,同月ころ,P1から本件見積書を示されたが,このころ,被告製品はまだ試作品も完成しておらず,
上記⑴のとおり,
浪漫亭の製造・梱包ラインに適合し,
ラップしたまま電子レンジで蒸すことのできる焼売用容器であっても,必ずしも原告製品の底部と同一又は類似した形状を備えるとは限らないから,このときに原告が具体的な被告製品の形状を知ったということはできない。

原告代表者は,このころ,P1に対し,被告静岡産業社に餃子18個用及び焼売木目8個用の容器を作らせてみてはどうかと発言しており,後者の容器については原告製品2と競合するものであると考えられるが,
原告代表者としては,
P1から,
原告製品よりも安い単価で焼売等の容器を製造するという内容の本件見積書を提示され,原告製品の単価を値下げせざるを得なくなったという状況の下で上記発言を
行ったのであるから,原告が,一定の試行錯誤を経て原告製品の意匠,形状を決定したように,被告静岡産業社においても,自力で容器のデザインや製造を行うこと
を前提としていたと考えることができる。
以上によれば,原告代表者の上記発言が,被告静岡産業社において,原告製品と同一又は類似の意匠を有する容器,あるいは本件意匠と同一又は類似の意匠を有する容器を製造,
販売することを許諾する趣旨までも含むと解することは困難である。⑶

P1による被告製品の形状変更の指示について

P1は,同年6月ころ,P2に対し,本件意匠権の存在や内容を明確に示すことなく,試作品の底部の形状について,原告製品には特許か何か分からないが権利のようなものがあるので,全く同じ物にはしないようにと指示し,P2は,これをP3に伝えた。
P3は,原告のウェブサイトを閲覧するなどし,原告がトレイの剥離性がよいという特許権を有することは知ったものの,本件意匠権の存在については認識しないまま,試作品の底の突条をX字状から現在の被告製品の底部の形状に近い形へと変更したところ,P1からはこれについて特に修正の指示がなかったため,さらに若干の改良を経た上で,平成27年10月中旬から11月中旬ころ,被告製品を完成
させ,平成28年1月以降,浪漫亭に納入した。
以上の経緯からは,被告らの担当者は,未確定ではあるものの,原告が原告製品の底部のX字状の形状につき何らかの知的財産権を有しており,これに抵触することは回避しようとしていたことになるが,本件意匠権の実施の許諾があったとすれば無用なことである。

以上より,本件意匠権の実施について,原告が黙示的に許諾していたと解することはできない。


原告本社における原告代表者とP2らとの面会について

被告らは,平成28年8月7日,P2らが原告本社を訪問して原告代表者と面会した際,原告代表者がP2らに対し,原告の知的財産権を侵害することのないよう強く求め,
P2らが焼売用の容器で全く同じものは作らないと答えたことによって,原告は,今後被告静岡産業社が浪漫亭にトレイを納入することを認識し,原告製品
と全く同じものを作らないという限度で実施許諾をしたと主張する。しかし,上記のやり取りの趣旨としては,P2は,原告代表者に対し,意匠権侵害となるような行為はしない旨を約したと解するのが自然であり,原告代表者が,本件意匠と同一でなければ,類似のものについては実施を許諾する旨を述べたと解するのは不合理である。


原告が被告製品の納入に気付いた時期について


被告らは,原告が,被告製品の納入を,平成28年夏ころに知りながら,浪
漫亭又は被告らに対して何らの異議を申し立てなかったことが,原告による実施許諾の事実を裏付けると主張し,原告が被告製品の納入について知った時期を裏付ける事情として,原告製品の販売数の減少や被告ヨコタ東北の名称を記載した段ボール箱が浪漫亭の焼売工場に積載されていたことを挙げる。

まず被告らは,原告は少なくとも平成28年夏ころには,原告製品の販売数
の減少から,被告製品の納入に気付いていたはずであると主張する。しかし,原告製品1は,同年11月までは毎月(中略)個以上の売上があったところ,毎月の販売数には増減がみられ,例えば,被告製品の納入前である平成27年7月の販売数は約(中略)個であるのに対し,納入後である平成28年9月の販売数は約(中略)個であり,必ずしも被告製品の納入(同年1月)に伴い原告製品1の売上が極端に減少したとか,それ以降毎月減り続けたとかいう事情はない。また,原告製品2は,もともと販売数量が毎月(中略)個前後と少なかった上,
同年3月までの間は,原告製品1と同様に,極端な売上減少や毎月減り続けるということがなかったのであるから,原告が競合品の納入に気が付かなかった,もしくは気が付いたとしても取り立てて問題としなかったことは,原告が原告製品以外のプラスチック製食品包装用容器を多種類製造しており,浪漫亭に対しても複数種類の容器を納入している
(甲3参照)
ことからも,
不自然とまでいうことはできない。

そうすると,平成29年2月以降,原告製品1の販売数量が毎月(中略)個前後となり,さらに同年8月に0個となった際,初めて原告代表者が浪漫亭に問い合わ
せを行い,被告製品の納入について知ったという原告の主張を排斥するまでの事情は認められない。

被告ヨコタ東北は,平成28年1月以降,原告製品と被告製品は,並列して
浪漫亭に納入されていたのであり,原告の担当者らが納入のために浪漫亭の工場を訪れた際には,
被告製品が入り,
被告ヨコタ東北の名称が記載された段ボール箱
(丙
4)を目にしていたはずであるから,そのころ,原告は被告製品の納入について知ったはずであると主張する。
しかし,原告の担当者らが実際に被告ヨコタ東北の名称が記載された段ボール箱を目にしていたこと,原告において被告ヨコタ東北が競合品の製造業者であること
を認識していたこと,当該段ボール箱の内容物が被告製品であると知り得たことについて,いずれも裏付ける証拠はない。

前述のとおり,被告らが,原告製品と競合する容器を浪漫亭に納入すること
と,本件意匠権の侵害がなされるかは全く別のことであり,仮に原告が前者を認識したとしても,そのことから同時に後者を認識したとまでいうことはできない。⑹

まとめ

以上より,原告が,被告ら及び浪漫亭に対し,本件意匠権につき実施許諾をしたと認めることはできない。このことは,被告ら又は浪漫亭が原告に対し,実施許諾料に相当する対価を支払ったとは認められないこととも整合する。5
争点⑷(権利濫用・信義則違反)

上記4のとおり,原告は,被告ら及び浪漫亭に対し,本件意匠権につき黙示の実施許諾をしたことはなく,被告ら及び浪漫亭が,原告による実施許諾があったと認識するような事情は認められないし,原告が,被告静岡産業社が被告製品を納入していることを知りながら,これを長期間放置したと認めるべき事情もない。したがって,原告が,本件意匠権に基づき,本件訴訟において被告らに対して権
利行使することが,権利濫用であるとか,信義則に反するということはできない。6
争点⑸(被告ヨコタ東北の過失)

被告ヨコタ東北は,被告静岡産業社及び浪漫亭から,本件意匠権について説明を受けたことはなく,被告製品の底部の形状について問題がないとの確認を受けていたのであるから,過失はないと主張する。
しかし,被告ヨコタ東北は,通常業務として製品を製造するに当たり,他人の知的財産権を侵害することのないよう調査する一般的な注意義務を負うのであって,まして,本件においては,原告が原告製品の底部のX字状の突条について何らかの権利を有しているということを被告静岡産業社を通じて知っていたのであるから,本件意匠権について調査することも十分に可能であったにもかかわらず,原告のウェブサイトを閲覧し,特許権の存在を知っただけで,安易に他に原告製品に係る知
的財産権はないと信じたものである。
このような事情からは,被告ヨコタ東北が,本件意匠の存在を知らなかったことについて相当の理由があるとは認められず,意匠法40条1項の過失の推定を覆す事情があるということはできない。
7
争点⑹(共同不法行為)

被告ヨコタ東北と被告静岡産業社は,被告ヨコタ東北が被告製品を製造して被告静岡産業社に販売し,被告静岡産業社がそれを需要者である浪漫亭に販売したという関係に立つところ,いずれの被告も原告製品の底部のX字状の突条の形状につき原告に何らかの権利があることを認識しながら,浪漫亭も交えて被告製品の試作・改良を行う中で,本件意匠権の存在について調査等することなく,安易に被告製品
には権利侵害がないと信じ,被告製品を完成させて販売に至ったものであるから,本件意匠権の侵害行為につき,
共同不法行為
(民法719条1項前段)
が成立する。
8
争点⑺(損害の発生及びその額)



原告の主張のまとめ及び検討の順序

原告は,被告らによる本件意匠権の侵害により生じた損害につき,①意匠法39条1項により推定される損害額,及び②民法709条に基づく原告製品の値下げによる損害額の2種類の損害額を合計した金額を請求し,具体的な算定方法につき,
①について,平成28年1月から平成30年2月までの被告製品の販売数に,平成27年4月以前の原告製品の単価(以下値下げ前の単価という。)を基準とした単位数量当たりの利益の額を乗じた金額,②について,同年5月(原告製品2については6月)以降の各月における原告製品の販売数に,値下げ前の単価から原告製品の各月の単価を控除した額を乗じた金額とすべきであると主張し,仮に,①の算定に,値下げ前の単価ではなく,被告らの行為によって値下げを余儀なくされた後の単価を用いるのであれば,その差額を民法709条に基づく損害賠償として,意匠法39条1項による推定額に加算する旨を主張する。
そこで,まず,被告らによる本件意匠権の侵害行為又は不法行為が開始された時
期について特定し,①及び②の損害の発生が認められるか否か,認められる場合にはその額について検討する。


被告らによる侵害行為又は不法行為の開始時期

原告は,被告静岡産業社が本件見積書を提示したことが,本件意匠権に対する侵害品についての販売の申出として侵害行為(意匠法37条1項)に当たると主張する。
しかし,前記認定事実によれば,被告静岡産業社が平成27年4月に本件見積書をP1に提示した時点においては,(原告製品と)同じような物が必要なので見積もりを出すようというP1からの指示があっただけであり,被告らの製造する製品は,いまだ形状も定まっておらず,実際に侵害品となる被告製品が完成するの
は,約半年後の同年10月から11月ころであった。また,被告らは,P1から,原告製品の特許か何かわからないが権利のようなものがあるので,全く同じものにはしないようにとの指示を受け,底部の突条の形状を変更することにより権利侵害を回避しようとしており,確定的に本件意匠権を侵害しようとする意図があったということはできない。

原告と競合する製品を製造販売する被告らが,原告の取引相手である浪漫亭に対し,原告よりも廉価で同品質の製品を提供できることを示して取引を誘引しようと
することは,それ自体正当な競争行為の範囲内の行為であり,不法行為に当たるということもできない。
したがって,被告静岡産業社が本件見積書を提示する行為が,侵害品の販売の申出として本件意匠権の侵害行為又は一般的な不法行為に当たると解することはできず,被告らによる侵害行為が開始されたのは,実際に侵害品である被告製品が完成し,浪漫亭に対して販売された平成28年1月であると解するのが相当である。⑶

意匠法39条1項による推定


被告製品の販売数量(争いなし)

平成28年1月から平成30年2月までの被告製品1の販売数量は,(中略)
個,
同期間における被告製品2の販売数量は(中略)個である。

原告製品の単位数量当たりの利益の額
算定の基礎となる原告製品の単価

原告と浪漫亭との間において定められた原告製品1の単価は,平成27年4月以前は(中略)円であったと認められるところ(甲19,20),同年5月からは(中略)円,同年7月の途中からは(中略)円となり,被告製品1の納入が開始された平成28年1月以降も同額を維持したものの,
同年2月から販売終了までの間は
(中
略)円に下落した(別紙原告製品販売数量・単価一覧表参照。)。また,原告製品2の単価は,平成27年5月以前は(中略)円であったところ(甲19,20),同月6月以降販売終了までの間は(中略)円に下落した。
前記認定事実によれば,原告は,P1から本件見積書を提示されたことにより,被告らの提示価格(原告製品1と競合する製品について(中略)円,原告製品2と競合製品について(中略)円。)と対抗するため,原告製品を値下げせざるを得なくなったという事情が認められる。
しかし,前記⑵で述べたとおり,この時点では,被告製品が本件意匠権を侵害す
るものとなるかは未確定であり,被告静岡産業社が本件見積書を示して浪漫亭との取引を誘引する行為自体には違法性がなく,これにより原告が原告製品の値下げを
余儀なくされたことも,それまで原告がこの種の製品について浪漫亭との取引を独占していたところに競業者(被告ら)が現れたため,対抗するために価格を改定したという原告の経営判断の結果であるということができる。
そうすると,被告らの本件意匠権の侵害行為による原告の損害を算定する際に基準となる原告製品の単価は,値下げ前の単価ではなく,侵害行為時,すなわち,平成28年1月時点の単価(原告製品1につき(中略)円,原告製品2につき(中略)円)であるとするのが相当である。
控除経費


控除経費として争いのない費目は,①原材料費,②梱包費及び③運送費であ
り,それぞれ,原告製品1個当たりの額は,以下のとおりである(甲13ないし18)。


原材料費

原告製品の原材料はレジンであり,原告製品は,仕入れたレジンをシート状に加工した後,金型成形して製造される。
よって,原告製品1の1個当たりの原材料費は,レジンの仕入費用をそこから製造される原告製品1の数で除し,
シート状に加工し金型成形する際のロス率
(10%)
を掛けた金額であり,(中略)円となる。
(計算式)レジン平均単価((中略)円/Kg)/1000(g当たり換算)×1シートのグラム数(83.5cm×97.5cm×0.045cm×比重0.9
1)×ロス1.05/1シート当たりの原告製品の数24個
=(中略)円
なお,原告製品2の原材料費は,(中略)円(原告製品1の原材料費に,木目状フィルム費(中略)円を足した額)である。
(計算式)木目用フィルム仕入単価(中略)m/円×0.975m/24個
=(中略)円


梱包費

原告は,原告製品1080個を1枚のビニル袋に入れ,これを段ボール1ケースに梱包しているところ,それぞれの仕入単価は(中略)円及び(中略)円である。原告は原告製品の梱包及び運送を100%子会社に委託しているところ,同会社が支払った費用に10%上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。よって,原告製品1個当たりの梱包費は,(中略)円となる。
(計算式)((中略)円+(中略)円)/1080個×1.1=(中略)円③

運送費

運送トラック1回の配送で,原告製品1080個の入った上記段ボール箱を126箱積載することが可能であり,1回当たりの運送費は(中略)円である。原告は,運送費についても上記梱包費と同様に,子会社が支払った費用に10%上乗せした額を原告の経費とすることを争わない。
よって,原告製品1個当たりの運送費は,(中略)円となる。
(計算式)(中略)円/126箱/1080個×1.1=(中略)円⒝

被告らは,原告製品の原材料につき,シート加工賃及び金型成型加工賃を含
めた金額とすべきであると主張し,また,上記⒜の経費に加えて,原告製品の製造のために使用されている直接労務費及び電気代を控除すべきであると主張し,これに沿う証人P3の供述(丙3)もある。
しかし,原告は原告製品を自己の工場内で製造しているものと解されるため,シート加工賃及び金型成型加工賃が通常の労務費とは別に発生するとは考えられない。
また,原告の製造する食品包装用容器全体のうち原告製品の占める割合はわずかである(甲18,原告代表者本人)ことからすれば,労務費及び電気代が原告製品の販売数量の増加に伴って追加的に発生する変動費であるということはできない。したがって,上記被告らの主張を採用することはできない。
まとめ

以上より,原告製品1の単位数量当たりの利益の額は(中略)円,原告製品2の単位数量当たりの利益の額は(中略)円となる。

(計算式)
原告製品1

(中略)円-((中略)円+(中略)円+(中略)円)=(中略)
原告製品2

(中略)円-((中略)円+(中略)円+(中略)円)=(中略)
円円ウ
被告らの主張について
推定覆滅



被告静岡産業社は,被告製品における被告意匠の占める部分は,面積比にお
いて約50%であるから,寄与度を50%とするか,被告製品の販売数量のうち50%について推定覆滅されるべきであると主張する。
しかし,被告意匠は,被告製品において,需要者の注意を引き,美感に訴えるという点で,最も重要な位置を占めているというべきであり,被告意匠としての面積比が製品全体に対して約50%であるからといって,寄与度を50%としたり,50%の推定覆滅を認めるべきことにはならない。



被告ヨコタ東北は,被告製品には原告製品よりも価格面,ブランド力及び製
品そのものの機能において優れていたことから,被告製品全量について原告には販売することができないとする事情(意匠法39条1項但書)があったと主張する。しかし,前記認定事実のとおり,原告製品及び被告製品は,いずれも浪漫亭の製造梱包ラインに合致するように製造され,

浪漫亭のみを納入先とするものであり,
被告製品の納入開始前は原告製品のみが浪漫亭に納入されていたのであるから,被告製品の販売がなければ,浪漫亭は同数の原告製品を購入したと考えられ,上記被告ヨコタ東北の主張を採用することはできない。
実施能力
被告ヨコタ東北は,原告の実施能力につき,被告製品納入前の原告製品1の販売
数量が,被告製品1の平均販売数量(約50万個)よりも少ないから,原告の損害額の主張は自己の実施能力を超えると主張する。

しかし,平成27年5月及び6月の原告製品1の販売数量はいずれも約51万個であるし(別紙原告製品販売数量・単価一覧表参照。),原告は,食品用包装容器を多種類製造しており,その中において原告製品の占める割合はわずかであることから,製造ラインを適宜調整することにより,被告製品の販売数量に相当する受注に応じることは可能であったと考えられるから,被告ヨコタ東北の上記主張には理由がない。
過失相殺
被告静岡産業社は,
原告が被告製品の納入に気が付きながら放置したことにより,
原告の主張する損害を拡大させたとして,
過失相殺の主張をするが,
前記のとおり,

原告において被告らが本件意匠権を侵害していることを知りながらそれを放置したとは認められないので,被告静岡産業社の上記主張には理由がない。エ
まとめ
以上より,被告らによる本件意匠権の侵害行為により原告が被った損害額と
して意匠法39条1項により推定される額は,被告製品1につき4555万0670円,
被告製品2につき397万4875円であり,
合計5348万7589円
(税
込。税抜4952万5545円。)となる。
(計算式)
被告製品1
被告製品2

(中略)個×(中略)円=4555万0670円
(中略)個×(中略)円=

397万4875円

被告静岡産業社は,株式会社帝国データバンクによる調査報告書(乙6)に基づき,原告主張のとおり,原告製品の製造数量が全製品の製造数量に占める割合が(中略)%であるとすると,原告製品の限界利益は870万円程度となるはずであり,上記の金額は過大であると主張する。
しかし,上記調査報告書は,公開情報等に加え上記会社が独自に調査した結果を
掲載したものであるところ,上記会社は原告から売上資料等の開示を受けているわけではないから(原告代表者本人),その情報の正確性には自ずと限界があるとい
わざるを得ない。また,被告静岡産業社は,原告製品の1個当たりの利益額の算定方法について,前記

具体的な問題点の指摘をせず,上記の算定結果が

不正確であることについての直接の主張・立証はない。
したがって,上記調査報告書に記載された情報のみから,上記原告の損害額(5348万7589円)が過大であるということはできず,被告静岡産業社の上記主張を採用することはできない。


値下げによる損害


平成27年5月から同年12月までの期間について

前記⑵のとおり,被告静岡産業社がP1に対し本件見積書を提示したことは,本件意匠権の侵害行為にもその他の不法行為にも当たらないから,平成27年5月以降,原告が原告製品の価格を値下げしたことで生じた値下げ前の単価との差額分の金額は,被告らの不法行為による損害であると解することはできない。また,意匠法39条1項の算定に,平成27年4月以前よりも下落した平成28年1月時点の原告製品の価格を用いたことは前述のとおりであるが,この下落が不
法行為によるものとは認められない以上,その差額分を民法709条による損害賠償として,意匠法39条1項による算定額に加算することはできない。イ
平成28年1月以降の期間について
平成28年1月以降の期間については,被告らに意匠権侵害が成立すると認
められるが,原告は,この部分について,前記検討した意匠法39条1項による損害賠償とは別に,原告が,被告らと並行して浪漫亭に販売していた原告製品についても,被告らの意匠権侵害行為により値下げを余儀なくされたとして,原告が販売した個数に値下額を乗じた額を,民法709条の損害賠償として請求する。そこで検討するに,意匠権侵害が行われた場合に権利者に生じ得る損害としては,権利者側の商品の販売数量の減少や販売価格の低下による逸失利益が典型的
には想定され,本来的には,権利者において損害の発生及び額,並びに権利侵害と損害発生との因果関係を立証しなければならないが,これらの立証が困難であるこ
とから,意匠法39条は,侵害者の譲渡数量に権利者の単位数量利益を乗じた額を権利者の損害とすること(1項),侵害者が侵害行為により受けた利益を権利者の損害と推定すること(2項),意匠の実施に対し受けるべき金銭に相当する額を,権利者は損害賠償として請求し得ること(3項)を定めた。
そうすると,意匠権者が,意匠権侵害による損害賠償として,自己の商品の販売数量の減少や販売価格の低下による逸失利益を個別具体的に立証することに替えて,意匠法39条各項が定める算定・推定規定を利用して損害賠償請求を行った場合,前記各項に基づく請求とは別に,民法709条による損害賠償請求をすることができるのは,意匠権により保護されるのとは別の法益が侵害されたり,前記各項が定
める算定・推定規定では評価されていない別の損害が生じたような場合であると考えられる(一例として弁護士費用)。
原告は,意匠法39条1項により,被告静岡産業社が浪漫亭に譲渡した被告製品の数量に,原告の単位利益を乗じた金額を,原告の損害として請求しているのであるから,同じ期間内に,被告らが被告製品を製造・販売したことによって原告
製品の販売数量が減少した,あるいは販売価格が低下したといった逸失利益については,既に評価されているというべきであり,意匠権により保護されるのとは異なる法益が侵害された,あるいは意匠法39条1項による算定では評価されていない損害が生じたと認めるべき事情は,本件では認められない。
また,仮に意匠法39条1項による算定とは別に,民法709条による損害
賠償請求を認めるべき場合であっても,被告らの意匠権侵害行為によって原告製品の価格が低下したとの因果関係については,原告が立証責任を負うべきものであるが,平成28年1月に被告製品が浪漫亭に納入された後,原告製品1の販売価格の低下は平成29年2月に生じているところ,この原因が何であるかは証拠上明らかではなく,この点についての因果関係の立証がなされているとは認められない。
以上より,平成28年1月以降の原告製品の価格の低下についての,民法709条に基づく損害賠償請求は,理由がないというべきである。



弁護士・弁理士費用

以上のとおり,被告らの不法行為により原告が被った損害につき,意匠法39条1項により推定される損害額及び値下げによる損害額の合計は,5348万7589円(税込)であり,被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士費用は,540万円とするのが相当である。


まとめ

以上より,被告らは,原告に対し,連帯して,5888万7589円の損害賠償義務を負う。
9
争点⑻(売買残代金請求)



原告は,被告静岡産業社から平成27年7月3日に発注を受け,同月6日及
びそれ以降に納入した餃子18粒用容器10万個の単価は50円であり,被告静岡産業社は,上記売買契約に基づき,浪漫亭が支払った残りの代金の支払義務を負うと主張する。
上記取引に関する見積書兼発注書(甲5)にも単価として同額の記載があることから,少なくとも,上記発注時点においては,原告と被告静岡産業社との間において,単価を50円とする合意があったものと解することもできる。しかし,原告が,同注文に係る製品を,同月6日及びそれ以降に直接浪漫亭に納入し,浪漫亭が,同月6日に納入した分(3万0400個)の単価を14.2円,その後に納入した分(6万9600個)の単価を13.2円として計算した代金1
45万8432円を支払ったことに争いはない。
そうすると,原告と被告静岡産業社との間において上記発注時に単価を50円とする合意があったとしても,その後,原告,浪漫亭及び静岡産業社は,上記単価の額を変更して14.2円又は13.2円とし,浪漫亭が原告に対し,直接その新しい単価を基に計算した代金を支払う旨を合意したと解するのが相当である。このこ
とは,原告が,本件訴訟に至るまで,被告静岡産業社に対し,残代金の支払を請求しなかったこととも整合する。

また,原告と被告静岡産業社が,上記浪漫亭による支払とは別に,残代金を支払うことを合意したと認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告静岡産業社は,原告に対し,売買契約に基づく残代金の支払義務を負わない。


消滅時効

仮に,被告静岡産業社が残代金の支払義務を負うとしても,原告は,上記餃子18粒用容器のうち,3万0400個を平成27年7月6日に,6万9600個をその後に,浪漫亭に対して納入したと認められるところ,上記の容器の納入はすべて同年内に行われたと認めるのが相当である。これは,当初予定されていた納期が同月6日であったこととも整合し,原告も積極的に争わない。
そうすると,上記容器の売買に係る代金請求権の消滅時効は,遅くとも平成29年内に完成したものと認められる(平成29年法律第44号による改正前の民法173条1号)。
10

結論

以上より,原告の請求は,被告らに対し,意匠法39条1項による損害及び弁護士・弁理士費用として,5888万7589円及びこれに対する平成30年3月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから認容し,被告らに対するその余の損害賠償請求及び被告静岡産業社に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
野上誠一島村陽子
裁判官

(※

別紙(意匠)公報,原告製品販売数量・単価一覧表は省略)

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