判例検索β > 平成30年(わ)第855号
談合被告事件
事件番号平成30(わ)855
事件名談合被告事件
裁判年月日令和元年9月20日
裁判所名・部東京地方裁判所  立川支部
裁判日:西暦2019-09-20
情報公開日2019-12-16 12:00:23
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令和元年9月20日宣告
平成30年(わ)第855号

談合被告事件
判決主文
被告人は無罪

第1


本件公訴事実及び争点

1
本件公訴事実
本件公訴事実は,被告人は,土木工事業等を目的とする株式会社Aの代表取締役であるが,東京都青梅市が平成29年4月21日に執行した「幹32号線改修工事(擁壁設置その2工事)の指名競争入札に際し,Aに同工事を落札させようと考え,同社従業員a及び別表記載のB株式会社代表取締役bほか4名と共謀の上,公正な価格を害する目的で,同表記載のとおり,同月7日頃から同月20日頃までの間,東京都青梅市内又はその周辺において,bらとの間で,口頭又は電話で通話するなどの方法により,A以外の入札参加業者がAの入札金額を上回る金額で入札し,又は入札を辞退することによりAに同工事を落札させる旨順次合意し,もって談合した。」というものである。2
争点
本件の争点は,本件公訴事実に係る東京都青梅市(以下青梅市とい
う。)発注の幹32号線改修工事(擁壁設置その2工事)(以下本件工事という。)の入札に関する,被告人の公正な価格を害する目的の有無,及び,被告人と共犯者らとの間における談合行為の有無である。
第2

前提となる事実関係
関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる。

1
被告人及び本件の関係者について


被告人は,平成2年頃から土木工事業等を目的とする株式会社Aの代
表取締役であり,また,平成22年頃からG協会の会長である(第3回公判調書中の被告人の供述部分,甲5,乙1)。Aでは,aが,工事部長としてAの工事を統括しており,また,被告人の妹であるgが,社員として経理事務や資金繰りなどを担当する立場にあった(第6回公判調書中の証人aの供述部分,甲8,9,10)。(以下,公判調書中の供述部分についても,便宜上,公判供述とする。)


B株式会社は,建築や土木工事を主たる事業内容とする会社で,bが,
その代表取締役を務めて,Bの業務全般の意思決定等を行っていた。また,bは,平成29年度のG協会の副会長も務めていた(以上につき,甲11)。⑶

C株式会社は,一般土木工事や建築工事を中心事業とする会社で,c
が,営業部主任として,官公庁からの入札対応業務を行っていた(甲12)。Cは,幹32号線改修工事(擁壁設置その1工事)(以下その1工事という。)を落札し,本件工事の入札時には,同工事を施工中であった。その工事には,hが専務取締役を務めるHが下請に入っていた。


D株式会社は,建築・土木工事を主たる事業内容とする会社で,被告
人の妻のいとこであるdが,その代表取締役を務め,業務全般の最終意思決定等を行っていた(証人dの公判供述,甲13)。


E株式会社は,民間及び公共工事を受注する建設会社で,eが,その
常務取締役として,同社の応札業務等の営業全般を担当していた。また,eは,平成29年度のG協会の会計理事も務めていた(以上につき,甲14)。⑹

株式会社Fは,東京都羽村市に本社を,青梅市に営業所を置いて土木
工事等の受注を行う会社で,fがその代表取締役,fの父親がその会長を務めていた(甲2,16)。
2
本件工事の内容
本件工事は,青梅市内の南北道路の整備計画に伴う工事で,その名称を幹
32号線改修工事(擁壁設置その2工事)とする,その1工事に続いて行われ
る擁壁設置等工事である。本件工事の工期は,平成29年4月21日から平成30年3月29日まで,工事場所は,青梅市(以下省略)内,契約金額(税込み)は,契約当初は1億0476万円であったが,平成30年2月の契約変更により1億2462万2280円となった(以上につき,甲2)。3
本件工事の落札に至る経緯等


本件工事を含む幹32号線改修工事は,平成26年から開始された青
梅市内の南北道路の整備計画の一環として進められている工事で,青梅市は,平成27年7月10日,その1工事の制限付一般競争入札を施行した。その1工事の予定価格は3億6189万8000円で,Aの他,C,B,E,F,I株式会社及びJ株式会社が入札し,Cが3億1828万1540円で落札した。Cは,その1工事の施工を開始したが,その後,青梅市との間で変更契約が締結され,最終的には契約金額が3億9302万4960円,工期が平成29年7月31日までとなり,同日,その1工事が完了した(以上につき,甲2)。⑵

幹32号線改修工事に係る青梅市の担当者は,早期着工や経費削減の
観点から,本件工事につきCとの随意契約締結の可否について内部検討を始め,Cの担当者に対し,随意契約を締結して本件工事を施工することを打診していた。しかし,同年3月9日の青梅市の競争入札等審査委員会(工事)において,Cとの間で本件工事を随意契約で締結することが認められなかったことから,指名競争入札に切り替えて入札を施行することとし,同月30日,その指名業者を,株式会社K,株式会社L,J,C,D,E,F,B,A及びIの10社とした(以上につき,甲2,3)。


青梅市の担当者は,同年4月7日(以下指名通知日という。),

上記10社の指名業者に対し,電子入札サービスにより,入札日時を同月21日正午,予定価格を税込みで1億0518万1200円(税抜価格は9739万円),支払方法を前払い有り(中間有り)完了後一括払いとすることなどが記載された指名通知書等を送信した(甲3)。



上記10社のうち,Cは,それまでの慣行等から,本件工事もその1
工事を受注している自社が随意契約により受注することになるのではないかと予測していたが,指名競争入札が行われることとなり,しかも予定価格が低かったことから,指名通知を受けてから同月18日までの間に,本件工事は赤字が見えているが,入札を辞退,不参加にすると青梅市から指名が入りにくくなるのではないかと考えて,設計変更により利益がでる可能性をも見越して満額入札することを決定した(甲12等)。Dは,本件工事の期間中に現場代理人の用立てが不可能であったことから指名通知日時点で落札する予定はなく(甲13),Eも,指名通知日時点で,当初から予定していなかった工事であることから応札する意思はなかった(甲14)。また,Fは,本件工事は,自社が不得意な分野であり,赤字が見込まれたことから,指名通知日時点で落札を目指さず,予定価額満額で入札することに決めた(甲16)。Bのbは,従業員から本件工事の入札指名業者に選定されたとの連絡を受けた指名通知日時点で,本件工事は営業計画に入っておらず,得意分野でもなく利益率も良くないことから辞退しようと考え,その旨を従業員に指示した(甲11)。


同月21日,本件工事の入札について開札が行われた。その結果,A
が9700万円,E,F,J及びCが予定価格満額の9739万円で入札し,K,L及びIは辞退,D及びBは入札に不参加で,Aが本件工事を落札した。なお,Kは,工事に適する技術者が確保できないため,Lは,現場調査をして施工困難と判断したため,Iは,現時点で手持ち工事があり技術者を配置できないことを理由に辞退をした(以上につき,甲2,3)。


被告人は,同年3月中旬頃から本件工事の入札期日前の同年4月20
日頃までの間に,Bのb,Cのc,Dのd,Fのf,Eのeとの間で,直接あるいは電話で,本件工事に関する話をした(証人b,同c,同d,同e,被告人の第3回公判供述,甲11ないし16,乙4等)。
第3

公正な価格を害する目的の有無

1
当事者の主張等


検察官の主張
本件工事は予定価格を一定程度下回ったとしても利益が見込める工事で
あり,被告人は,本件工事の受注によって,収益を得るとともに,Aの東京都や青梅市の入札参加資格である一般土木工事の格付等級を維持したり,資金調達を円滑にしたりするなどの目的から,本件工事を積極的に受注したいという意思を有していた。そのような被告人が,本件工事を落札しようとするのであれば,他に落札を希望する業者がいない場合であっても,そのことが被告人において確認されていない限り,被告人は,落札を希望する他の業者がいることを想定して,その者よりも低くなるであろうと考える金額で応札しなければならず,その低い金額が自由競争によって形成される公正な価格となる。ところが,被告人が,落札を希望する業者が自社のみであって,他に落札を希望する業者がなく,他社が辞退や満額入札となることを確認できれば,被告人は,他社の入札金額に配慮することなく予定価格をわずかに下回る価格で入札し,その金額で落札することができる。したがって,被告人が,落札を希望する業者が自社のみであることを他社との間で確認した上で,予定価格をわずかに下回る価格で落札することは,公正な価格を害することにほかならない。本件において,被告人は,Aがより高い価格で応札して本件工事を受注したいとの積極的意思を実現させようとして,他の指名業者に連絡を取ってその動向を確認し,その結果,予定価格をわずかに下回る価格で入札し,落札できたのであるから,被告人には,公正な価格よりも入札施行者に不利益な価格を形成させる認識があり,公正な価格を害する目的があったといえる。そして,被告人に積極的な受注意思があったということは,①本件当時のAの財務状況や経営状況は赤字が続いているなど芳しいものではなく,仮に,Aが本件工事を受注しなかった場合,赤字額は更に増加したことが見込まれた,②本件工事自体が利益を見込めるものであり,実際に売上総利益を出していた,
③本件工事を受注することで,金融機関からの融資を受けやすくなったり,東京都や青梅市の格付等級を維持することに資するなどの利益を見込むことができた,④被告人は,共犯者である他の業者の担当者らに対して,本件工事に関心を示す発言や受注意欲があることを前提とする発言をしていたことから認められる。
さらに,本件工事の落札率は,同種の工事を含む他の工事の落札率に比して極めて高いことから,被告人についても他の業者の受注意思が確認できていなければ,同種工事の落札率に近い割合の金額で入札したであろうことが推認され,落札率が高いこと自体が,公正な価格を害する目的があったことを推認させる。


弁護人の主張
本件工事は,主に法面工事及び擁壁工事であるが,現場の条件が厳しく
難易度は高く,利益率は低いことなどから,工事部長のaからも受注に反対意見が述べられる工事で,Aにとって受注したい工事ではなかった。そして,被告人は,本件工事がその1工事の続きであるにもかかわらず,指名競争入札になるとの話を聞き,しかも,他の関係者から聞いた情報等からは,Cも受注を希望しないかもしれないとのことであったから,入札になれば不調になるおそれがあると考えた。
そうなるのであれば,発注者である青梅市に迷惑が掛かるので,それを避けるには,G協会の会長という被告人の立場上,Aで受注するしかないと考えた。被告人は,他の業者に連絡するなどして受注意思を確認し,会長としての責任感から本件工事の入札をしたものである。
したがって,被告人は,落札を希望する者がいない場合に,満額入札者間での抽選による落札(この場合は落札価格である予定価格が自由競争によって形成される価格であり,それが公正な価格である。)や再入札になる(この場合は予定価格の引き上げが考えられる)ことを避けようとして,他の業者の意向
を確認したのであるから,自由競争による価格より低い価格で落札するのであって,入札施行者に対して不利益な価格の形成をしようとの認識はなく,公正な価格を害する意思はない。また,被告人は,Aより低い価格で入札する業者がいるのであれば自らは落札を希望するつもりはないから,その業者の入札価格が公正な価格となり,被告人にはそれを排除する意思はない。


判断の視点
以上の検察官と弁護人の主張をみると,本件では,被告人が担当者と話
をした指名業者であるB,D,E及びFは,元々受注の意思はなく,Cも予定価格満額以下での入札の意思はなく,被告人が連絡を取らなかった他の指名業者も,予定価格での入札や入札辞退をしており,実質的に競争状態になかったことから,それを前提とすると,被告人に公正価格を害する目的があったか,すなわち,公正な価格よりも高い価格を形成させる認識を有していたかの判断の中心は,被告人が,そもそも本件工事をAで受注したいと考えていたのかという,被告人の本件工事の積極的な受注意思の有無ということになる。そして,検察官はそれを前記①ないし④の各事実をもって立証しようとしている。そこで,まず,これらの各事実について検討し,さらに,落札率や被告人の供述について検討していく。
2
被告人の積極的受注意思について


Aの財務状況等(検察官の主張①)

検察官は,本件工事の入札が行われた平成29年4月当時には,A
の経営状況が悪く,赤字覚悟で本件工事を落札できるような経営状況でなかったことは明らかであるから,被告人は,比較的規模の大きい本件工事の利益を見込んで,積極的に受注しようとしたはずであるという。

確かに,Aの本件工事の入札当時の財務状況をみると,関係証拠に
よれば,平成25年5月期から平成28年5月期までは,当期純利益(損失)は黒字を維持していたが,平成29年5月期の当期純利益(損失)は,205
8万2362円の損失となっており,平成28年5月期に2361万6129円であった繰越利益剰余金が303万3767円まで減っており,検察官が指摘するように,Aの経営状況が芳しくはなかったことが認められる(甲7)。ウ
しかし,後述のとおり,被告人が本件工事を採算の良い工事である
と認識していたとは認められないことからすると,被告人が本件工事を受注し,その利益によりAの財務状況が改善すると考えていたというのは疑問である。財務状況が良好とは言い難い状態であったAにあっては,むしろ,受注に消極的であったと考える方が整合的と思われる。
また,売上高をみても,Aの公共工事の落札状況に照らせば(甲34),本件工事の入札前の時点で,それまでと比較して工事の受注が明らかに減っているなどの事情が見受けられないことからすると,本件工事を受注しない場合に,他の工事を受注する可能性は十分にあったといえ,被告人が本件工事を受注しなければ売上高が不足するなどの問題が生じてしまうなどと認識していたとも考え難い。
さらに,資金繰りの観点でみても,本件工事は,比較的規模が大きいことから,利益率は悪くとも利益がでればその額は相応の金額になることが見込まれ,前払金及び中間前払金の支払も予定されていたことからすると,現金が必要であるなどの事情が存在する場合には,これを目的に本件工事を受注することも考えられないでもない。しかし,AのメインバンクであるM信用金庫N支店や取引のある株式会社O銀行P支店との取引において,本件工事の入札までにAが断られた融資はなく,返済が滞っていたこともうかがわれないことからすると,Aが資金繰りに困難を来していたとは認められず,被告人が,現金を得るために,本件工事を積極的に受注したいと考えていたとも認められない。なお,Aは,平成30年3月12日,O銀行で2000万円から3000万円の融資を,同月26日,M信用金庫で1000万円の融資をそれぞれ断られているが(証人i,同jの公判供述,甲35ないし37),本件工事の入札から約11
か月後のことであるから,このような事情は本件工事の受注意欲の判断資料とはならない。
以上によれば,本件入札当時のAの財務状況が良好ではなかったとしても,それが本件工事の積極的な受注意思に結びつくものといえるかについては疑問が残る。


本件工事の採算性(検察官の主張②)

検察官は,公共団体の行う積算は,東京都の標準積算基準単価等の
根拠に基づいて適正に行われており,本件工事についても,青梅市において適正に単価と数量を見積もった上で,算定されたものであるから,指名業者にとって利益を出し得る内容で算定されており(証人kの公判供述,甲18),Aは本件工事により,1267万0861円の売上総利益を計上している(甲8)ことからすると,本件工事は利益を見込める工事であったから,被告人は,その利益を見込んで積極的に本件工事を受注した旨主張する。

しかし,市の職員が行う積算は,実際の数量に規定された単価を掛
け合わせていくものであって,受注者側の事情は反映されていないから,その工事により利益を出すことができるか否かは,受注する各社の設備や人員,得意分野などによって異なり,行政側が適正に価格を算定したとしても,受注業者が利益を得ることができるかは不確定である(甲18)。
そして,Aは,本件工事の指名通知を受け,aが本件工事の積算をしたところ,積算の結果は9743万円となり,aは,被告人に対し,本件工事は無理に取りにいく工事ではない旨伝えている(証人aの第6回公判供述)。本件工事の採算は,本件工事の入札時点においては積算価格を中心に判断することになるところ,積算価格が予定価格を上回っており,その他,利益が出る特別の見込みがあった事情も見当たらない。この点は,本件工事は採算が悪い旨のcやbの公判供述等とも整合している。
また,結果として,本件工事によって,Aには請負金額の約10.17パー
セントに当たる約1267万円の売上総利益があったが,Aとしては満足のいく数値とはいえなかったこと(以上につき,証人gの第5回公判供述,甲8)に照らすと,事後的にみても,本件工事が他の工事と比較して十分な利益が出る工事であったとまではいえない。

そうすると,本件工事の入札後,積算価格を精査して実行予算書を
作成したり,工事の途中で変更契約が締結されるなどにより,本件工事の利益は変動し得る可能性もあり,被告人が,状況によっては,本件工事により一定程度の売上総利益が出ると考えていたとしても,十分な利益が見込めるような採算性の良い工事であると認識していたとは認められない。
以上によれば,本件工事の採算性は,被告人の積極的な受注意思を推認させるような事情にはなっていない。


本件工事の受注によるAの利益(検察官の主張③)ア
まず,検察官は,公共工事の受注実績は金融機関の融資の判断材料
となるところ,Aは,本件工事代金の一部を引き当てとして,M信用金庫から1300万円の融資を受けることができたことからすれば,被告人には,本件工事を積極的に受注する金融上の利益があった旨主張する。
しかし,M信用金庫が,Aに対して行った平成30年2月19日付けの1300万円の融資は,本件工事の追加工事が発生したことに伴う融資であり,本件工事を受注したことにより特段利益を受けたものとはいえず,これをもって,本件工事がもたらした利益というのはあたっていない。また,同信用金庫は,Aとは取引実績があり,経営状況の資料に信憑性があると考えていたため,本件工事の入札当時においても支援を継続していたというのであるから,被告人は,金融機関からの融資を有利にするために,本件工事を積極的に受注しなければならない状況にあったとは認められない(以上につき,証人iの公判供述,甲35,36)。

次に,検察官は,Aは,平成25年度及び平成26年度の資格年度
から,本件工事の入札当時も継続して東京都の格付けにおいて一般等級についてはB等級であり,東京都の格付けは,建設業法に基づいてなされる経営事項審査の総合評点値(P)を基本とする客観点数と過去6年間の受注した工事の金額で最も高い請負金額を基本とする主観点数により判断がなされるところ,本件工事は,主観点数C等級に該当する工事で,客観点数がB等級を維持することができていれば,救済措置により総合でB等級を維持することができる(証人lの公判供述,甲29)から,本件工事は,AがB等級を維持することに資する工事で,被告人の積極的な受注意思を推認させる事情であるという。しかし,Aの東京都発注の工事の受注状況によれば(弁35),Aは,これまで,発注標準金額が1億6000万円以上のB等級以上に該当する工事を受注しておらず,むしろ,C等級やD等級に該当する工事を受注してきたところ,Aの規模や実力からして,大きな規模の工事の入札参加資格を得ようとの経営方針ではなかったと認められること(被告人の第8回公判供述),格付けがB等級であるとD等級に該当する工事の受注が通常では難しいこと(証人lの公判供述)からすると,そもそも,Aにとって,B等級の格付けを維持することに利益があるのかについて疑問が残る。一方,Aの公共工事の落札状況によれば,Aは,平成28年から平成30年までの間,本件工事以外にもC等級に該当する工事を受注しており(甲34),本件工事を受注しなくともB等級を維持することが困難であったわけではない。
さらに,完成工事高が大きいほど,客観点数に係る経営事項審査の総合評点値にも影響を与えるものとは考えられるが,具体的にどれほど影響を与えるのかが明らかでなく,本件工事を受注しなければ,不都合が生じたかは明らかになってはいない。
以上によれば,被告人が,東京都の格付けへの影響のために,本件工事を受注しなければならなかったとは考えられない。

さらに,検察官は,青梅市では,東京都とは異なる独自に格付けを
付する制度を設け,客観等級及び主観等級のうち上位の等級を当該企業の格付け等級とし,客観等級は,経営事項審査の総合評点値(P)をもとに算出し,主観等級は,青梅市が発注した工事のうち,当該企業が,過去3年の間に青梅市と締結した最高工事契約額を基に算出し,技術職員数等による調整を行った上で,最終的な格付け等級を決定しているから,平成26年度以降,A等級を維持しているA(甲32)にとって,主観等級A等級に該当し,また,契約額も高額で,客観等級にも一定程度影響を与えると考えられる本件工事を受注することは,AがA等級を維持することに資する工事であるといえ,この事情は,被告人が本件工事を積極的に受注しようとしていることを推認させるという。
しかし,Aの公共工事の落札状況によれば(甲34),Aは,平成28年にも主観等級A等級に該当する工事を受注し,それまでも継続的に主観等級A等級に該当する工事を受注していることからすると,本件工事を受注しなければ,主観等級A等級を今後も維持していくことに支障があったとは考え難い。また,客観等級についても,本件工事の受注の有無が経営事項審査の総合評点値にどれほどの影響を与えるのかが明らかでなく,本件工事を受注しなければ,客観等級を維持することに困難を来すような影響があった事情も認められない。さらに,本件工事を受注した実績が,その後の指名を行う際に有利に考慮される要素となり,一定程度の影響を与えるといえるとしても(甲32),具体的にどの程度有利になるのか明らかではなく,Aがこれまで受注に困難を来していた事情はうかがえないことからすると,これらの事情が,採算が良いとは見込めない本件工事をあえて受注する積極的な受注意思を基礎付けるものとなるとは考えられない。
以上によれば,被告人が,青梅市の格付けへの影響のために,本件工事を受注しなければならないと考えていたとは認められない。


被告人の受注意欲を示す言動について(検察官の主張④)

検察官は,被告人が,平成29年3月頃,cに対して

幹32号線,今年も出るからよ。

などと言い,その頃,eに対しても

Cがやってる横が出る予定だよ。

などと,本件工事が入札になることを知るとともに,それに関心を示す発言をしていることから,このような発言は被告人が落札に意欲を示していることを推認させるという。
確かに,cは,被告人から,

幹32号線,今年も出るからよ。協会として頑張ろう。

と言われ,その後,

あれ頼むな。

と言われたことを,eも,被告人から

Cがやってる横が出る予定だよ。

と言われ,指名通知日に自社が指名された旨を伝えると

よろしく頼む。

と言われたことを捜査段階でも公判でも供述しており,その内容は一貫しており信用できるから,検察官が主張するように,被告人がその頃に本件工事に関心を持っていたことが認められる(証人c,同eの公判供述,甲12,14)。
しかし,弁護人の主張によっても,被告人は,本件工事が入札になるという話を聞き,しかも,Cの下請け業者のhからCに受注の希望がないようだなどの話も聞き,青梅市内の業者が落札せず,入札が不調に終わると青梅市とG協会との関係に悪影響がでるのではないかと協会の会長として危惧していたというのであるから,被告人が本件工事の入札に関心を抱いていたことは不自然ではない。
そうすると,被告人が,本件工事やその入札に関心を持つ発言をしていたとしても,それだけでは,被告人に積極的な受注意思があったということにはならない。

次に,検察官は,被告人が,指名通知日以降に,cに対して

あれ頼むな。

と,bに対して

他の皆さんがよければ,うちにやらせてもらいたいんだけど。

と,dに対して

その2工事について,うちでいきたいんだけど。

と,さらに,eに対して

32号いきたいんだよ。よろしく頼む。

と,fに対して

どうすんだい。

などと,Aにおいて落札したい旨の意向を示し
ており,このような発言は,被告人の受注意思を端的に表すものであるという。まず,c及びfに対する発言についてみると,cが,被告人から

あれ頼むな。

と言われたことは前記のとおり認められる。また,fは,被告人から,指名通知日の翌日に,

入ってるかい。

と聞かれ,

入ってます。

と答え,さらに,入札日前にも

どうすんだい。

と聞かれたので

満額で入れます。

と答え,積算資料をもらえるよう頼んだことが認められる(甲16)。
そもそもこれらの発言自体からでは,被告人の受注意思が示されているかは不明であるが,この時期に,あえて電話をかけて,このような発言をし,fに対しては,積算していることをも示していたことからすれば,被告人が受注意思を示していたと評価できないことはない。しかし,そうだとしても,このような確認が,被告人の積極的な受注意思を表しているものと評価することは無理がある。
次に,b,d及びeに対する発言についてみる。
bは,捜査段階においては,被告人が,

今日指名あったか,他の皆さんがよければ,うちにやらせてもらいたいんだけど。

と発言したと供述するが,公判廷においては,被告人から本件工事の入札の指名を受けているか尋ねられたので,青梅市から指名を受けたが積算をする予定はない旨伝えると,被告人は,

皆さんが取らないのならば,うちで取っても良いかな。

などと述べた旨供述し,dは,捜査段階において,被告人から,指名通知日に

その2工事について,うちで行きたいんだけど。

と言われ,協力を求められていると思い,

被告人の言うことならば,協力しますよ。

と答えた旨供述するが,公判廷においては,被告人から指名通知日に,本件工事をどうしたらよいのかなどと言われ,自分は本件工事を取る意思がなく,誰も取る気がないのであれば,G協会の長として考えなければいけない旨を言ったが,被告人からは,はっきりとした返事はなかった,被告人からうちでいきたいと言われた記憶はない旨
供述する。また,eは,捜査段階において,平成29年3月下旬頃に,被告人から,

Cがやっている横が出る予定だよ。

と言われ,協力を求められていると思い,協会には助け合いの文化があるので協力しようと思い,指名通知日に被告人に連絡し,本件工事の指名通知を受けたことを伝えると,被告人は,

分かった,よろしく頼むよ。

と答え,同年4月10日には,被告人から,

32号いきたいんだよ,よろしく頼む。

と言われ,協力するために

わかりました。

と言い,その後,Aから積算書を送ってもらったなどと述べていたが,公判廷では,指名通知日に

よろしく頼む。

などと言われたのは,被告人が動かざるを得ないのだと思ったこと,同月10日の被告人とのやり取りは覚えていない,助け合いの文化についても言っていないなどと供述する。以上からすると,被告人がb,d,eの3名に本件工事の話を持ちかけた際に,具体的にどのような言葉を述べたか,その趣旨をbらがどのように認識したのかについては,bら3名の捜査段階の供述と公判供述には違いがある。とはいえ,被告人自身も,同様の時期にbらに電話をかけるなどして,bに対してはうちで責任とるようにしようか旨を,eに対しては

32号線いきたいんだよ。

と述べて落札への意思を示すとともに,dとの間でも,被告人が落札する必要がある旨の話をしていることを認めている。
そうすると,被告人は,bら3名に対しては,本件工事を受注する意思があることを示していたと認めるのが相当である。しかし,その発言文言が,仮に検察官主張のような文言であったとしても,そのような発言は,被告人が,本件工事をできる業者がいなければ自分のところで責任を持ってやらざるを得ず,他の業者にもその旨断っておきたいと考えたとする弁護人の主張とも矛盾しないのであって,これらの発言があったことだけでは,被告人の積極的な受注意思を示す言動であるとまではいうことはできない。

なお,検察官は,入札が不調になることを避けるのであれば,被告
人自身も予定価格で応札すれば足りるにもかかわらず,予定価格をわずかに下
回る額で入札したのであって,そのことが本件工事の受注意欲があったことを裏付けるとする。しかし,業界として受注意欲がない場合でも満額で入札することがあること(証人d,同b,同c,同eの公判供述)からすると,被告人が供述するとおり,満額入札をした指名業者が複数いる結果抽選となり,受注を真に希望してはいない業者が落札することにもなりかねないことを避けようとした可能性は否定できない。被告人が予定価格満額をわずかに下回る額で入札したことをもって,積極的な受注意思を有すると評価することは困難である。3
本件工事と他の工事との落札率
検察官は,本件工事の落札率が,99.6パーセントであって,同種の擁
壁工事を含む工事の平均落札率94.9パーセントに比べて極めて高い落札率であること(甲3,39)自体が,被告人の公正な価格を害する目的を推認させる事情であるという。
関係証拠によれば,前記平均落札率は,入札情報検索サービスによって,検索期間を,平成26年4月1日から平成31年3月31日までに施行された入札,条件を擁壁築造工事,5000万円から2億円として検索すると,16件の工事が抽出され,うち13件が不調であり,残り3件の落札率の平均を割り出したものであるが,落札が不調に終わった工事件数からすると,統計としての工事数が少ないことから,落札額の一般的割合を決する指針になるかは疑問である上,擁壁設置工事には様々な工事があり,難易度や採算性,さらには,競り合いの状況もそれぞれ異なるものであるから,同種工事の落札率と比較し,本件工事の落札率がそれに比して高いからという結果だけで,被告人に公正な価格を害する目的があったと推認されるとはいえない。
4
被告人の供述について


以上からすると,本件工事の入札時において,Aにとって,積極的に
本件工事を受注しなければならないと考えられるような事情はなかったことが認められる。しかるに,被告人は,Aの受注を容認したのであるから,その被
告人の内心について説明する被告人の供述について検討しておく。⑵

まず被告人の供述する内容についてみる。
被告人は,平成30年7月13日付けの検察官調書等(乙2,3)にお
いて,工事部長のaから,本件工事は利益の上がりにくい工事であると聞いており,何が何でも本件工事を落札したいという思いがあったわけではない。しかし,入札が不調に終わった場合,市に迷惑が掛かることや,青梅市外の業者が落札すると,G協会の会長として地元業者を使うよう働きかけていた自身の努力が無駄になってしまうことから,Aが本件工事を落札すべきと思うようになった。ただ,本件工事を落札したい理由はそれだけではなく,企業のトップとして,会社の売上や利益を考え,工事価格が1億にも上る工事を受注したかったという気持ちがあったことは否定しない。などとAの利益のための意図で働きかけたことを供述した。
その後,被告人は,同月22日付けの検察官調書(乙4)において,指名業者の担当者等に対し,

うちがやりたい。

よろしく頼む。

などと本件工事を受注したい意向を示したことはない旨を供述し,さらに,公判廷(被告人の第3回公判供述)でも,平成29年3月中旬頃,Cが本件工事を受注しない方針である旨の情報を聞き,Cが受注しない場合に,他の企業も受注意思がなく,入札が不調になって,青梅市に迷惑を掛けたり,今後青梅市の仕事を他の地区の業者が取るようになることを心配し,本件工事が大規模なもので間違いがあれば大変であるし,本件工事の工事場所は東部地区であるから西部地区に所在するAが東部地区の工事を受けることは敬遠される上,本件工事場所が不吉な場所であることを聞いたことなどから,Aとして受注したくないと思ったが,もし,本件工事をできる業者がいなければ,自分のところで責任を持ってやらざるを得ないと考えた。とAの利益ではなく,会長としての責任感で落札を考えた旨を供述する。
そして,前記検察官調書(乙3)の作成における取調べの取調べ録音録画反
訳書をみると(甲40,41,弁37,38),被告人は,積極的に取りたいと思ったのではないかと問う検察官に対して,最後まで抵抗感を示していたのであって,その取調べで作成された検察官調書(乙3)の内容は,取調べにおける被告人の供述とはそぐわない。そうすると,取調べ及び公判廷における被告人の供述を全体としてみれば,被告人の内心を説明しているのは,7月22日付けの検察官調書(乙4)及び公判供述ということができる。


そこで,その供述内容の信用性についてみる。

前述のとおり,本件工事は,Aにとっても難易度が高く,採算性も
高くない工事であり(証人aの第6回及び第8回,同b,同hの公判供述),入札当時のAの財政状況の改善やその他の利点も特別にはない状況であったことが認められ,このような状況は,被告人が本件工事を取りたくないと考えていたということと整合する。

また,青梅市の建設業者には1期目の工事を受注すると,2期目以
降がある場合には,他の業者は受注しようとせず,1期目の業者がそれらを仕上げていくという暗黙の了解があることから,Cをはじめとして青梅市内の業者にあっては,その1工事を行っているCが本件工事も続けて施工することになると考えており,本件工事が入札になること自体予想していない業者もいる状況であり(被告人の第3回公判供述,甲11,14,16),そのような中,被告人は,青梅市が本件工事について随意契約の方法を採らず,入札とする方針で,しかも,hからはCに受注の意思がないようである旨を聞いた(証人hの公判供述)ことからすれば,被告人が本件工事の入札が不調に終わるかもしれないと考えたことは自然なことである。

加えて,青梅市とG協会とは,協定を締結して,防災や除雪等に関
して協力関係を築くなど良好な関係にあり(証人kの公判供述),被告人は,青梅市内の公共工事の施工にあっては,地元業者を優先するようにしてほしい旨をG協会の会長として青梅市に申し入れていたこと(被告人の第3回公判供
述)が認められ,このような状況においては,会長の立場にある被告人が,入札が不調になり青梅市に迷惑が掛からないようにしたいと考えたことも理解できる。

さらに,被告人が連絡を取ったのはいずれも東部地区に位置する業
者で,西部地区に位置するIには連絡していないことからすると,本件工事の場所に近い東部地区の業者に西部地区のAが了解を得ておきたいと考えたこととも整合する。
被告人の供述を排斥することはできない。
5
小括
以上からすると,被告人は,積極的な受注意思を持っていたとはいえない
から,もともと低い価格で入札することは考えておらず,他の業者の動向を確認することで高い価格での入札ができたわけではない。また,他の業者が自由競争により低い価格で落札することを排除する意図もなかった。
よって,被告人には,自由な競争により形成される落札価格を引き上げているとの認識はなく,公正な価格を害する目的があったとは認められない。第4

被告人と共犯者らとの間の談合行為の有無
なお,被告人がbらと話した内容が談合行為に該当するのかについても争
点となっているので,付言する。
談合とは,公の競売又は入札において,競争者が互いに通謀してある特定の者をして契約者たらしめるため,他の者は一定の価格以下又は以上に入札しないことを協定することと解されている。前記第3の2⑷によれば,被告人とbらとのやり取りをみると,被告人は,b及びeに対しては落札への意欲を示すとともに,dとの間でも,Aが落札する必要がある旨の話をし,b,e及びdは異論を唱えていないことからすれば,少なくとも,被告人とこれら3名との間にはAを落札者とする合意が黙示的であったとしても認められる。一方,c及びfとのやり取りをみると,被告人の言動が被告人の受注意思を
示すものであったとしても,cがそれを肯定して,Aに落札させることを合意したとまでは認められないし,fは積算書を受け取っているが,応札する以上は積算書が必要なのであるから,それだけでは,Aに落札させることを合意したとみることには無理がある。
そうすると,談合したと認められるのは,指名業者10社のうち,Aを含めて4社である。もっとも,4社であるとしても談合行為が行われなければ,もっと低い価格で入札が行われたということが全くあり得ないとまではいえず,入札等の公正を害する抽象的危険がなかったとはいえない。
第5

結論
以上によれば,被告人については,公正な価格を害する目的を認定するに
足りる証拠はなく,談合罪の成立は認められないから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑

罰金100万円)

(検察官小山陽一郎,弁護人(私選)郷原信郎(主任),新倉栄子各出席)令和元年9月30日
東京地方裁判所立川支部刑事第2部

裁判長裁判官

野口佳子
裁判官

鎌田咲子
裁判官

荻原惇
別表

番号

氏名

役職

連絡時期

方法

(平成29年)
1b
B株式会社代表取締役

4月7日頃

電話

2c
C株式会社営業部主任

4月18日頃

口頭

3d
D株式会社代表取締役

4月7日頃

電話

4e
E株式会社取締役

4月10日頃

口頭

5f
株式会社F代表取締役

4月20日頃

電話

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