判例検索β > 令和1年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年11月7日
裁判所名・部名古屋高等裁判所  民事第4部
結果棄却
判示事項の要旨令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙当時における選挙区選出議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできないとして,選挙無効請求が棄却された事例。
裁判日:西暦2019-11-07
情報公開日2019-12-10 16:00:32
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨

1
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の愛知県選挙区,岐阜県選挙区及び三重県選挙区における選挙を無効とする。

2
訴訟費用は被告らの負担とする。

第2

事案の概要等

1
本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。)について,愛知県選挙区,岐阜県選挙区及び
三重県選挙区(以下,併せて本件各選挙区という。)の選挙人で
ある原告らが,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法
といい,同法による公職選挙法の改正を平成30年改正という。)による改正後の公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下本件定数配分規定という。)
は,人口比例に基づかず憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して,公職選挙法204条に基づき,本件各選挙区における選挙を無効とするよう求める事案である。

2
前提事実
当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。


当事者
本件選挙の選挙区選出選挙は,令和元年7月21日,平成30年
改正法14条及び本件定数配分規定に基づいて施行された。
原告らは,それぞれ,本件各選挙区のうち別紙当事者目録の原告欄記載の選挙区の選挙人である。


参議院議員選挙法制定当時の仕組みと立法趣旨
昭和22年に制定された参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,前者については全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,後者については,都道府県を単位とする選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,各選挙区において選出されるものとし,その議員定数については,半数改選という憲法上の要請(46条)を踏まえ,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で2人ないし8人までの偶数の議員定数を配分した。全国選出議員と地方選出議員の性格について,当時の内務大臣の提案理由説明によれば,全国選出議員は,学識経験ともに優れた全国的な有名有為の人材を簡抜することを主眼とするとともに,職能的知識経験を有するものが選挙される可能性を生ぜしめることによって,職能代表制の有する長所を採り入れようとする狙いを持つものであり,こうした全国選出議員が地域代表的性格を有する地方選出議員と相まって,参議院を特徴あらしめるとされていた(乙2,3)。



平成25年施行の参議院議員通常選挙までの公職選挙法の改正と投票価値の最大較差の推移,これに係る選挙無効訴訟における最高裁判決の動向

昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,前記昭和
22年制定の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数が2人増えたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下
昭和57年改正という。)により,参議院議員選挙について,
いわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区別されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正
という。)により,比例代表選出議員の選挙制度が,いわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた(乙2,3)。

参議院議員選挙法制定直後の昭和22年4月に施行された参議院
議員通常選挙時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は2.51倍であり,直近の国勢調査による人口を基準とした最大較差(以下,直近の国勢調査人口を基準とした選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を表すときには,人口で,(人口)などと付記して表示する。)は2.62倍であった。この最大較差は,人口変動により拡大を続け,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成4年選挙という。)
の際にはこれが6.59倍(人口で6.48倍)にまで達した。その後,平成6年改正によって参議院議員の総定数及び選挙区選出議員の定数を増減させないまま7選挙区で定数を8増8減した結果,同改正後の平成7年7月に施行された参議院議員通常選挙における最大較差は4.97倍(人口で4.81倍)に縮小し,平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙における最大較差も4.98倍(人口で4.79倍)となった(乙4)。
その後,平成12年改正において,3選挙区の議員定数を6減と
する措置,さらに,平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)における4選挙区の議員定
数を4増4減とする措置の前後を通じて,平成13年から同19年までに施行された各参議院議員通常選挙当時の最大較差は5倍前後で推移した(乙2ないし4,弁論の全趣旨)。

最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和
54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。)におい
て,後記第3の1

の基本的な判断枠組みを示すとともに,

昭和52年に施行された参議院議員通常選挙(最大較差は5.26倍)について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示した。
また,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷
判決(民集50巻8号2283頁)は,最大較差が6.59倍に達していた平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,最高裁大法廷は,平成6年改正による定数配分規定の下で施行された2回の参議院議員通常選挙については,昭和58年大法廷判決と同様に,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年
(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。
その後,最高裁大法廷は,平成12年改正による定数配分規定の
下で施行された2回の参議院議員通常選挙及び平成18年改正による定数配分規定の下で平成19年に施行された参議院議員通常選挙のいずれについても,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年
(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも,上記最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上記最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされた。

平成18年改正による定数配分規定の下で平成22年7月に2回
目の参議院議員通常選挙(以下平成22年選挙という。)が施
行されたところ,この時における最大較差は5.00倍に拡大していた。
このような状況の下で,平成22年選挙につき,最高裁平成23
年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。)は,
結論において同選挙当時の定数配分規定(平成18年改正によるもの)が憲法に違反するに至っていたということはできないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値に大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した(甲5)。

平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年法律第94号によ
る公職選挙法の改正において,選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減した(以下平成24年改正という。)。しかし,
平成24年改正が行われた際の最大較差は4.75倍(人口)であった(乙2,3)。
平成25年7月21日,平成24年改正による定数配分規定の下
で初めてとなる参議院議員通常選挙(以下平成25年選挙とい
う。)が施行された。平成25年選挙の最大較差は4.77倍であった。
最高裁平成26年(行ツ)第155号外同年11月26日大法廷
判決・民集68巻9号1363頁(以下平成26年大法廷判決
という。)は,平成25年選挙につき,結論において平成24年改正による定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないとしたものの,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した(甲
7)。


平成27年の公職選挙法改正

参議院では,選挙制度の改革に関する検討会,同検討会の下に設
置された選挙制度協議会において,次の参議院議員通常選挙に向けて,選挙制度の見直しを行うべく,2県合区制,ブロック選挙区制(府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設するもの)等の種々の選挙区設定方法等について協議を重ねたものの,各会派が一致する結論を得ることができなかった。そして,議論が委員会及び本会議に移ると,平成27年7月,平成27年法律第60号(以下平成27年改正法という。)による公職選挙法の改正(以下
平成27年改正という。)が成立した。
平成27年改正法は,①参議院創設以来,初めて都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを改め,一部について合区を設けたものであり,具体的には,参議院選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県の各選挙区をそれぞれ合区し,定数2人の選挙区とし,②定数4の県のうち,議員1人当たりの人口の少ない3県(宮城県,新潟県及び長野県)の各選挙区の定数を2人ずつ減員するとともに,議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県)の各選挙区の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものである(4県2合区を含む10増10減)。これにより,最大較差は縮小した(平成22年の国勢調査人口を基準とした場合,2.97倍)。
なお,平成27年改正法の附則7条には平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。との規定が置かれていた(乙5の1)。イ
平成27年改正に至るまでの間には,選挙制度の改革について,
民意の反映という観点から人口比例のみに偏った選挙制度に疑問を呈する意見や,参議院を地方代表の府として積極的に位置づける考え方もあり得るとする意見など,様々な意見が出されていた(乙18の1ないし5)。また,平成27年改正に当たり,合区の検討対象とされた地方公共団体から,

選挙制度は,人口だけでなく,面積や行政区画のほか,地方が有する自然環境保護や食糧供給基地等の多面的機能等を総合的に考慮する必要がある。

(鳥取県議会の意見書・乙28の62),

東京一極集中を是正し,地方の活性化を図るためには当事者である地方の意見が最大限に活かされることが必要であり,人口により単純に区割りを決定することは,地方創生に逆行し,適当ではない。

(合区対象として検討されていた8県知事による地方創生にふさわしい参議院選挙制度改革に関する緊急提言・乙28の1),

合区案は,人口過疎の上に,政治過疎を引き起こすものであり,これらが国策として強行されるならば,地方切り捨てにつながり,国・地方全体の衰退を招く。

(鳥取県町村会・鳥取県町村議会議長会の緊急要請・乙28の71)などとして,合区に反対する旨の意見が出された(その他,乙28の8,10ないし12等)。

なお,平成27年改正法とあわせて,20県10合区による12増12減とする法案(参第12号)も審議されており,同法案には,合区対象となる県とそうでない県との不公平感が一層顕著になること,歴史的,地理的,社会的なつながり,条件がほとんどない合区による様々な矛盾が生じるなどといった意見が出されていたが,これは平成27年改正法の成立により議決を要しないものとなった(乙5の1,5の2・16頁)。



平成28年参議院議員通常選挙の施行
平成28年7月,平成27年改正による定数配分規定の下で初めての参議院議員通常選挙(以下平成28年選挙という。)が施行さ
れた。平成28年選挙当日の選挙区間における較差は,福井県選挙区を1とした場合,最大が埼玉県選挙区との間の3.08倍であり,それ以外の合区を含む選挙区間における較差はいずれも3倍未満であり,うち23選挙区間における較差は2倍未満であった(乙5の3)。他方,合区された4県(鳥取県,島根県,徳島県,高知県)における投票率は,島根県を除く各県で低下するとともに,当時における過去最低の投票率となった(乙5の4,18の8)。また,徳島県及び高知県選挙区では,立候補者全員が徳島県出身者であったところ(乙18の8),高知県は,投票率が全国で最も低くなった上,無効票が全国平均(2.65%)を大きく上回る6.14%と最も高くなった(乙5の4,5)。
最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)
は,平成27年改正による定数配分規定の下で施行された平成28年選挙につき,同改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が人口で2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができ,また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができるとし,そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができ,これらの事情を総合すれば,平成28年選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,平成27年改正法による定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと結論付けた(甲9)。


平成28年選挙後の参議院選挙制度改革に係る取り組み

平成28年選挙後の平成29年2月,参議院の組織及び運営に関
する諸問題を調査検討するため,参議院改革協議会が設置され,さらに同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるため,選挙制度に係る専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。専門委員会は,同年5月から平成30年4月までの間に17回にわたり協議を行い,その中で,参考人として合区となった徳島県知事,複数の大学教授,原告ら代理人弁護士である伊藤真の意見を聴取するとともに,選挙制度の枠組みについては,選挙区及び比例代表の2本立てとする場合と2本立てとしない場合における選挙制度の在り方,ブロック選挙区制,奇数配当の可否等について議論が重ねられた(乙6ないし10,11の1,11の2)。
専門委員会は,平成30年5月7日,議論された参議院のあり方,一票の較差,選挙制度の枠組みなどの論点ごとの意見をとりまとめ,参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記した参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を作成し,参議院改革協議会に提出した(乙11の2)。その後,各会派の一致する結論を得ることができず,7会派から
提出された5法律案が参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託されて,同年7月11日に開催された同委員会において質疑が行われ,その内の1法律案(参第17号)が多数決によって平成30年改正法案として可決され,これとあわせて今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする附帯決議が可決された(乙13の1ないし
3)。
そして,平成30年改正法は,同日の参議院本会議において,及
び同月18日の衆議院本会議において,いずれも多数決によって可決されて成立した(乙13の4,13の7)。
平成30年改正法は,①参議院選挙区選出議員の定数を2人増加し,148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加し8人とするとともに,②参議院比例代表選出議員の定数を4人増加し100人とした上で,参議院比例代表選出議員の選挙において,政党その他の政治団体が,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位をその他の候補者とする者の氏名と区分して名簿に記載することができるという特定枠の制度を導入するものであった(乙16)。

平成27年改正の後あるいは平成28年選挙の後も,地方自治体
(乙28の3ないし7,9等),全国知事会等の地方六団体から合区の早期解消を求める意見・決議が示され続けていた(乙21の2ないし6等)。平成30年改正法の法案提案においても,このような意見が同改正法の目的・趣旨と関係している旨答弁されていた
(乙13の1・4頁,5頁)。

平成30年改正の結果,参議院選挙区選出議員の選挙区間の,平
成27年の国勢調査人口を基準とした最大較差は2.99倍となった。


令和元年7月21日,本件定数配分規定の下で初めてとなる本件
選挙が施行された。本件選挙当日における最大較差は,福井県選挙区と宮城県選挙との間の3.00倍であり,福井県選挙区と比べて較差が3倍以上となった選挙区は宮城県選挙区のみであった(乙1の1)。また,本件選挙の投票率は高知県を除く全都道府県で低下したところ,特に合区となった鳥取県及び島根県では過去最低の投票率を記録した(乙1の2,19の7)。徳島県及び高知県選挙区では,高知県出身候補者の事実上の一騎打ちであったところ(乙19の8,9),徳島県は,投票率が全国で唯一40%を下回る最低の約38.59%を記録したほか,無効票も全国平均(2.53%)を大きく上回る6.04%となり全国で最も高くなった(乙1の2,3)。
このような本件選挙の結果を受け,鳥取県ら合区4県の知事は,
合区を解消し,都道府県単位による選挙制度の実現を求める緊急共同声明を発出した(乙28の2)。他方,合区となった鳥取県,島根県の有権者を対象として,新聞社が本件選挙期間中に実施した世論調査では,合区に反対する者が54.5%と,賛成する者17.5%を大きく上回っているものの,平成28年選挙時における世論調査と比較して合区に反対する者が14%減少していた(乙18の11)。

3
当事者の主張


原告らの主張

憲法は,国の政治のあり方を最終的に決定する主権を有する国民
が国会議員を通じて多数決で両議院の議事を決する旨を定めており(憲法56条2項,1条,前文第1文),人口比例選挙を要求している。本件選挙の最大較差は1対2.984倍であるから,人口比例選選挙ではなく,上記憲法の要求に違反している。


平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,いずれも,
参議院は,衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っているのであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い旨判示している。また,昭和22年から平成17年までの間,衆議院が法律案について賛成多数であるものの,参議院で反対多数であることが15回あり,この時,参議院の決議(多数意見)に従って修正された法律案が成立し,又は廃案となっている(甲31)。
このことから,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適
切に民意を国政に反映させる責務を負っており,参議院議員選挙の投票価値の平等の要請が衆議院議員選挙における投票価値の平等の要請よりも劣後することはないというべきである。そして,参議院議員選挙における投票価値の較差は,衆議院議員選挙における投票価値の較差よりも上回っているから,憲法の投票価値の平等の要求に反しており,違憲であるというべきである。


平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決では,①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の状態が生ずる程度の著しい不均衡状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かという2段階の判断枠組みを採用していた。
しかし,②の判例法理自体,違憲と判断される選挙区割りを合憲として,同選挙区割りに基づく選挙を有効とし得るものであって,これは違憲であるというべきである。
また,平成29年大法廷判決における判断の枠組みは,上記平成
24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決で示された判断枠組みの②で考慮すべき投票価値の較差是正に関する要素を①で先取りして考慮するものであり,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決に反している。これを判例変更に当たるとしても,平成29年大法廷判決にはその理由が示されておらず,最高裁判例の変更についての最高裁判例(昭和48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)に反するものである。

人口比例選挙に基づく選挙区割りは,実務を踏まえた技術的観点
からみて合理的に実施可能である上,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組み自体を見直すことが必要になるとの指摘をしているのにもかかわらず,平成30年改正では43都道府県において都道府県を選挙区とする平成27年改正の選挙区割りが維持されているから,違憲状態というべきである。


平成29年大法廷判決は,平成27年改正法の附則7条が,本件
選挙である次回の通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されていることを指摘して,平成28年選挙の時点における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示したが,平成30年改正法は,選挙区選出議員の定数を2人増としたにとどまり,投票価値の較差も微細に変化しただけであるから,選挙区割りの抜本的見直しからほど遠いものとなった。また,平成30年改正法の附帯決議では,今後の選挙制度の抜本的見直しについて触れられておらず,更なる見直しに向けての方向性と立法府の決意が示されていない。したがって,平成29年大法廷判決の判示に忠実に従ったとして
も,本件選挙は違憲状態にあった。

以上のとおり,平成30年改正法による本件定数配分規定は,違
憲であるから,憲法98条1項により無効というべきであり,これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であるというべきである。


本件選挙が違憲・無効であるとしても,これにより事情判決の法
理で示された憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果が生じるという事情はなく,社会的混乱は生じないのであるから,国会議員の利益よりも主権者である国民の利益を尊重して,本件選挙を無効と判断すべきである。



被告らの主張

憲法は投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決
定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関係において調和的に実現されるべきものである。そして,国会が定めた具体的な選挙制度がその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するものではない。
国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して
違憲であると評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じている上,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。

参議院選挙の選挙区割りにつき,原則として都道府県単位とする
ことは,比較的広域の行政単位としての都道府県の歴史的,政治的,経済的,社会的,文化的な役割や機能などといった重要性を踏まえ,住民の意思を集約的に反映させるという都道府県の有する意義ないし機能を維持することで,その代表としての実質的内容ないし機能に衆議院議員と異なる独特の要素を持たせようとしたものであり,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものでもあるから,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となるものというべきである。
また,参議院選挙の選挙区割りにつき,原則として都道府県単位
とすることは,前記の行政単位としての都道府県の歴史的,政治的,経済的,社会的,文化的な重要性があることに加えて,合区が国民の投票意識に消極的な影響を与える可能性があり,地方に住む国民の意見が国政に反映されにくくなるなど合区の弊害があること,合区に反対する地方自治体の根強い意見があること,選挙区割りの恣意性を回避することができることなどを勘案すれば,国会において正当に考慮することができる要素であるというべきである。また,選挙区割りを都道府県単位とする選挙制度は,憲法制定当時から想定されており,今日も原則として維持することが憲法上許容されている。
そもそも,選挙権は,民主主義国家において,治者であり被治者
でもある国民が自らの意見等を国政に反映させることを可能にする極めて重要な権利であるところ,我が国の国民には,人口の集中する都市部に居住する者もいれば,山間部などのいわゆる過疎地域を含む県に居住する者もいる。過疎地域に住む少数者の意見を国政に反映する必要はないということにはならないのであって,そのような少数者の声も国政に届くような定数配分規定を定めることは,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となるものというべきである。
さらに,参議院議員については,憲法上3年ごとに議員の半数を
改選するものとされ(46条),定数の偶数配分が求められるなど,衆議院議員と比較して較差是正のための技術的制約が大きい。

平成27年改正法は,平成24年大法廷判決及び平成26年大法
廷判決の趣旨に沿って,都道府県単位の選挙区割りを極力尊重しつつも,都道府県と選挙区割りとを完全に一致させる仕組みを改め,4県2合区を含む10増10減等を内容とするものであり,これにより,平成25年選挙時に1対4.77であった最大較差が3倍未満である1対2.97(人口)に大幅に縮小し,平成28年選挙当日の最大較差においても1対3.08と3倍をわずかに超えるにとどまったのであって,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態は解消した。
そして,平成28年選挙に係る平成29年大法廷判決においても,平成27年改正について,参議院議員選挙の特性を踏まえて,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って長年にわたり継続していた選挙区間における大きな投票価値の較差の是正を図ったものとみることができるとした上,平成27年改正法の附則7条において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨の検討条項が存在し,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されており,更なる較差の是正を指向するものと評価できるとし,結論として,平成27年改正による定数配分規定の下における投票価値の不均衡は,平成28年選挙の当時違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記定数配分規定が憲法に違反するに至ったということはできないとして合憲の判断をした。

平成30年改正法は,前記イのとおり,国会において正当に考慮
することができる政策的目的ないし理由,要素,技術的制約等を考慮して,平成29年大法廷判決によって合憲と判断された平成27年改正による選挙区割りを維持しながら,選挙区選出議員の定数を2人増とすることにより最大較差を1対3.08から1対2.985に縮小させて,更なる投票価値の較差の是正を図ることにより,調和的に投票価値の平等を実現したものであり,国会の裁量の範囲内のものであるというべきである。
さらに,平成30年改正は,種々の制約があるのにもかかわらず,参議院議員の定数を2増として投票価値の更なる較差の是正を実現したのであり,平成29年大法廷判決が指摘する投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意の現れであるというべきである。平成30年改正においても,選挙制度改革の検討を引き続き行う旨の附帯決議もなされたのであり,国会は,再び過去にあったような大きな較差を生じさせることのないよう配慮をしていることから,平成30年改正法の合憲性に疑いはない。

憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,当該
定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の司法の判断がされれば,国会は,これを受けて是正を行う責務を負うものであるところ,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量の限界を超えるということができるか否かを判断するに当たっては,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったということができるか否かという観点に立って評価すべきである。
これを本件についてみると,平成29年大法廷判決において,平
成28年選挙当時,平成27年改正による定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないと判断しており,本件選挙は,そのように評価された投票価値の均衡状態から,最大較差を更に小さくすることを目指した平成30年改正による本件定数配分規定に基づく初めての選挙であり,その最大較差も平成29年大法廷判決により合憲と判断された平成28年選挙時の最大較差を下回るものであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であると判断されることがあるとしても,国会において,本件選挙までの間に上記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いうことができない。加えて,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められない。
そうすると,仮に,本件定数配分規定の下での選挙区間における
投票価値の不均衡について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものではなかったとは認められないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって,国会の裁量権の限界を超えるものとはいうことができない。
第3
1
当裁判所の判断
判断の枠組みについて
憲法における投票価値の平等の要請と具体的な選挙制度の仕組み
を定めるに当たっての国会の裁量との関係に関する判断の枠組み
は,次のとおりである。

参議院議員につき,昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25
年の公職選挙法の制定当時において,国会が,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位とした選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできな
い。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

また,いかなる具体的な選挙制度によって,二院制を定める憲法
の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置づけ,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。


そして,具体的な選挙制度の仕組みを定めるに当たって,一定の
地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
のうち,アは,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員

(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,イについても,累次の大法廷判決が基本的な立場として承認してきたところであって,これらは判例法理として確立した判断の枠組みということができる。また,ウ
は,平成29年大法廷判決の法廷意見であるところ,平成27年改
まえて検討しても,現時点で上記法廷意見を変更すべき政治的・経済的・社会的な事情の変化が生じていると認めるには足りないというべきである。
したがって,本件選挙の効力については,以上のアからウまでの判断の枠組みを前提に検討するのが相当である。
2
判断の枠組みに関する原告らの主張について
原告らは,憲法は,国の政治のあり方を最終的に決定する主権を
有する国民が国会議員を通じて多数決で両議院の議事を決する旨を定めており(憲法56条2項,1条,前文第1文),人口比例選挙を要求していると主張する。
確かに,憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解されるが,同時に憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
したがって,原告らの主張する人口比例選挙の憲法上の要求が投票価値の絶対的な平等の下での選挙を要求する趣旨をいうのであれば,これを採用することはできない。
また,原告らは,参議院議員選挙における投票価値の較差は,衆
議院議員選挙における投票価値の較差を上回れば,憲法の投票価値の平等の要求に反しており違憲であると主張する。
確かに,原告らが指摘するように,過去に,衆議院が法律案について賛成多数であったが参議院が反対多数であった場合に,参議院の意向を踏まえて法案が修正され,時には廃案となって参議院の意向が国政に反映される事象がみられたなど,国政の運営における参議院の役割は重要なものであって,これを衆議院より軽いものとみることはできない。しかし,憲法が定める二院制の趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そうすると,いかなる具体的な選挙制度によって,参議院に多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させる等の憲法の趣旨を実現しつつ,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきこととなるのであって,参議院議員選挙における投票価値の較差が,衆議院議員選挙における投票価値の較差を上回ったことをもって,直ちにその選挙区割りが違憲であるということはできず,原告らの主張は採用することができない。
3
本件選挙について

選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであるが,平成30年改正は,平成27年改正による選挙区割りをそのまま維持しつつ,埼玉県選挙区の定員を2人増として最大較差(平成27年の国勢調査人口を基準としたもの)を2.99倍とすることにより,平成28年選挙当時の有権者数に基づく最大較差である3.08倍を僅かながら縮小させたものである。
平成30年7月11日に開催さ
れた参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において平成30年改正法の前提となる改正法案が可決された際に今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこととする附帯決議が付されており,これにより,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性が示されるとともに,平成27年改正以前のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているということができる。
そうすると,平成30年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめた平成27年改正の帰結を維持するとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができる。
以上によれば,平成30年改正による本件定数配分規定は,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものではなく,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものということはできない。
4
本件選挙の違憲状態に関する原告らの主張について
平成27年改正法では,本件選挙に向けて,参議院の在り方を踏
まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行
い,必ず結論を得るものとする旨の附則7条の定めがあるところ,原告らは,本件選挙まで投票価値の較差是正のための抜本的な改正がなされなかったことから,平成29年大法廷判決の判示に照らしても平成30年改正による選挙区割りに基づく本件選挙は違憲状態であると主張する。
しかし,前記

のとおり,参議院では,平成29年2月

以降,専門委員会等において,これまでの都道府県を単位として選挙区を定めて,各選挙区の議員定数を偶数配当することを改めてブロック選挙区制や,議員定数の奇数配当の導入という抜本的な改革案も含めて検討が重ねられていたものの,各会派が一致する結論を得ることができなかった。また,平成27年改正の際,20県10合区案も提出されたものの,4県2合区とする平成27年改正法が成立したという経緯,現在も合区となった4県が合区の早期解消を求めるなど地方自治体が合区に根強い反対の意思を示しているこ
と,合区の弊害もあることから,更に合区を進めることにより投票価値の較差の是正を図ることが容易ではなかった。このような状況において,更なる投票価値の較差の是正を進める平成30年改正法が成立した上,平成30年改正法に係る附帯決議において,今後も憲法の趣旨や参議院の役割や在り方も踏まえて,選挙制度改革を引き続き検討する旨決議がされていることを総合すれば,国会は,平成27年改正法の附則7条の定めに沿って投票価値の更なる是正に向けて行動しており,平成30年改正法を成立させて僅かながらであるもののそれを進めるとともに,再び平成27年改正前の投票価値の著しい不均衡状態に戻ることがないものとしたということができる。
そうすると,平成30年改正法の内容は選挙制度の更なる抜本的
な改正というにはほど遠く,平成27年改正法の附則において国会が国民に示した決意が実現されてはいないといわざるを得ないものの,そのことから,平成30年改正が更なる較差の是正を指向するとみることができないと評価されるとまではいえず,本件選挙当
時,選挙制度の更なる抜本的改正が実現していないことをもって,平成30年改正による本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったということはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
5
まとめ
以上のとおりであるから,本件定数配分規定は本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできない。
また,原告らのその余の主張について検討しても,上記判断を左右するに足りないといわなければならない。

第4

結論
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部

裁判長裁判官

戸田
裁判官

水谷美
裁判官

髙橋信久穂子幸
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