判例検索β > 平成30年(わ)第4641号
弁護士法違反
事件番号平成30(わ)4641
事件名弁護士法違反
裁判年月日令和元年10月18日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2019-10-18
情報公開日2019-12-03 16:00:07
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主文
被告人Aを懲役1年に,被告人弁護士法人B法律事務所を罰金300万円に処する
被告人Aに対し,この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人弁護士法人B法律事務所(以下被告人法人という。)は,訴訟事件,非訟事件及び審査請求等に関する行為その他一般の法律事務等を目的とする弁護士法人であり,被告人Aは,平成28年12月1日以降,被告人法人の社員弁護士として,被告人法人の業務に従事していたものであるが,被告人Aは,当時の被告人法人代表社員弁護士Cと共謀の上,被告人法人の業務に関し,株式会社Dの取締役であったEらが,弁護士又は弁護士法人でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,報酬を得る目的で,業として,別紙犯罪事実一覧表(掲載省略)記載のとおり,平成29年1月18日頃から平成30年8月8日頃までの間,大阪市(住所省略)所在の被告人法人事務所等において,Fほか11名から,G株式会社等の債権者に対する債務整理等の法律事件に関する依頼を受け,同事件の債務整理手続等につき前記Fらに助言,指導し,同人らの債権者との間で和解交渉をするなどの法律事務を取り扱った際,同事務所等においてこれらの法律事務を取り扱わせ,前記法律事件の和解書等に弁護士法人印又は弁護士印を押印させるなどし,もって法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業としていた者に自己の名義を利用させた。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1
被告人Aの弁護人は,同被告人の公判供述に基づき,同被告人が被告人法人の事務所等において弁護士資格のない者らに法律事務を取り扱わせることや,法律事務を取り扱わせるに当たり弁護士法人である被告人法人や弁護士である被告人Aの名義を利用させることにつき,
Cとの間で意思を通じ合っておらず,
正犯意思も欠いていたことから,共謀は成立せず無罪であり,仮に犯罪が成立するとしても幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。
そこで,以下,当裁判所が判示のとおり認定した理由を補足して説明する。2
関係各証拠によれば,判示のとおり,Cが代表社員弁護士,被告人Aが社員弁護士として業務に従事していた被告人法人の大阪事務所において,Eらが債務整理案件に関して判示のとおりの非弁活動を業として行い,その際,弁護士資格のない事務員らにより同事務所に保管されていた被告人法人名義の印鑑や被告人Aの弁護士印を用いて和解書等に押印がなされるなどした事実が明らかである。
また,関係各証拠によれば,本件に関し,以下の事実が認められる。司法書士法人H法務事務所は,平成28年6月以降,判例により,債権価額が140万円を超える債務整理につき受任できなくなったため,同事務所代表者Iや同事務所から広告収入を得ていた株式会社Dの取締役Eらが同事務所で事務員として勤務し,弁護士資格を有していたCらと相談し,Cを代表社員弁護士とする被告人法人を設立し,H法務事務所に持ち込まれた債務整理案件のうち,債権価額が高額のため受任できないものを受任させることとした。
ところが,
弁護士登録を抹消していたCの再登録が遅れたことから,
IやEらは,同年10月1日以降,H法務事務所に事務員として応募してきた被告人Aの了承を得て,一旦,同被告人名義の法律事務所(A法律事務所)を設立し,Cの弁護士登録が終了した後の同年12月1日以降は,Cを代表社員弁護士とし,
合流した被告人Aを社員弁護士とする被告人法人を設立し,
A法律事務所や被告人法人にH法務事務所が受任できない債権価額が高額な債務整理案件を受任させていた。
被告人Aは,
平成28年9月12日以降,
H法務事務所大阪本店に出勤し,
A法律事務所の設立に向けた準備や債務整理事件のうち破産再生案件書類の起案等を行っていたほか,Jらの指示に従い,面談方法を理解するためにH法務事務所の事務員と債務者との面談の様子を録音した音声データを聴くなどしていたが,H法務事務所においては,その当時から,債務整理案件につき,来所した債務者からの事情聴取や処理方針の決定,委任契約書の締結に至るまでの面談は事務員が自らの判断で行っていて,司法書士は面談の終了時に面談室に入って挨拶するだけで,任意整理案件の和解交渉等についても司法書士は関与せず,すべて事務員が行っていた。


A法律事務所においては,KやJと共に被告人Aも債務整理案件における債務者との面談に入っていたが,同年11月20日には,Jが連絡ツールであるトークノートを利用して

挨拶のみが2件ありますのでよろしくお願いします。

と送信し,被告人Aが了解しましたと返信したこともあった。そして,E,Cのほか,株式会社DからH法務事務所に事務員として派遣されていたK及びJらは,同年9月下旬頃から同年10月中旬頃までの間に打合せを重ね,受任件数の増加が見込まれることから,被告人法人においては,H法務事務所と同様に債務整理案件につきKやJらの事務員が自らの判断で債務者との面談を行い,弁護士は挨拶のみを行うことを確認し,同月下旬ころ,Iらも交えた話し合いの中で,このような方針が再確認された。


被告人法人設立後,被告人Aは,被告人法人東京事務所で勤務し,債務整理案件については同事務所で相談を受け付けたものも含めてすべてCが勤務する被告人法人大阪事務所で処理されていた。また,被告人法人東京事務所における面談予定が立て込んでいて被告人Aのみでは対応できないときには,KやJが同事務所に派遣されることがあり,被告人Aは,トークノートを利用してCに対し,同年12月17日には面談はKさんと協力して,場合によっては挨拶のみになりますなどと,翌18日にはL様は現在Kさんが面談中です(挨拶済み)などと送信した。そして,被告人法人大阪事務所においては,事務員らは,H法務事務所と同様に事務員が自らの判断で債務者との面談を行い,Cは挨拶を行うだけであったほか,債権者との和解交渉等はすべて事務員が行い,同事務所に保管されていた被告人Aの弁護士印を用いて和解書が作成されており,平成29年2月16日には被告人Aも閲覧可能なトークノートにおいて,Cが被告人法人の体制につき,
基本的に,債務整理の面談は,K&Jで対応・・・※ウチは最初に挨拶任意整理チーム(人名省略)破産再生の受任通知も含めて任意整理の処理をすると連
絡していた。
3
このように被告人法人においては,被告人Aも勤務し,事務員による面談状況の音声データを聴取したこともあったH法務事務所の手法と同様に事情聴取や処理方針の決定,委任契約書の締結に至るまでの面談を事務員が自らの判断で行っていて弁護士は形式的な挨拶しか行っておらず,その後の和解交渉等もすべて事務員が行っていたところ,被告人Aも被告人法人設立後やその前身のA法律事務所で勤務する中で,弁護士としてJやKらの事務員にこれと同様の行動をとらせていたように解されるやりとりをJやCとの間で行っていた事実や,Cから改めて,債務整理案件につき,被告人法人における債務整理案件について,そのように弁護士が形式的にしか関与しない形態によることを知らされたように解される連絡を受けても異を唱えることがなかった事実に照らしてみても,被告人Aが被告人法人において弁護士資格を有しない事務員が債務整理案件につき単なる弁護士の補助の域を超えて実質的な判断を伴う方針の決定や和解交渉等まで行っていることを認識していたことがうかがわれるというべきである。
また,そもそも,関係各証拠によれば,被告人法人大阪事務所においては,1名の弁護士が加わっていた平成29年3月頃から5月頃までの期間を除き,勤務している弁護士はCしかいなかった反面,被告人法人では,設立後,平成30年8月までの約1年9か月間に2665件もの任意整理案件を受任しており,弁護士のみでは債務者との実質的な面談や和解交渉を到底行えない状況であったことは明らかであるところ,被告人Aの公判廷において述べるところによっても,同被告人は,グーグルカレンダーやトークノートを通じ,被告人法人における面談数や受任数を把握できていたというのである。このような被告人法人における任意整理案件の処理状況やこれについての被告人Aの認識は,上記のような推認を一層強めるというべきである。
そして,Cは,公判において,平成28年10月中旬のE,J,Kとの打合せで任意整理案件の受任後の和解交渉はKが主に行うことが決まったほか,11月頃のEらとの打合せでは被告人法人東京事務所で受任した債務整理案件の和解交渉は被告人法人大阪事務所の事務員が担当することが決まり,そのような打合せの内容はJを介して被告人Aに伝えてもらった。大阪で受任通知や和解書の作成等を行うのであるから,常駐要件に引っかからないように,東京の弁護士会に所属している自分ではなく大阪弁護士会に所属している被告人Aの弁護士印を使用したほうがよいと考え,被告人Aに直接その旨伝えた。旨証言している。また,Jは,公判において,EやKとの打合せでA法律事務所や被告人法人において受任後の和解交渉はKが担当することが決まり,平成28年10月26日のE,K,Cらとの打ち合わせでは,被告人法人において引き続き自分とKがメインで債務者との面談を行い,Cと被告人Aには挨拶をしてもらうことを確認した。また,被告人法人の設立後,被告人Aが東京事務所で勤務するに当たり,EやCとの打合せにおいて,東京事務所では被告人Aには面談等はしてもらうが,必要書類を大阪事務所に送付してもらい,和解交渉等は同事務所ですべて行うことが決まった。このような打合せの内容はすべて被告人Aにも伝えていた。旨証言している。さらに,Kは,公判において,平成28年10月末頃,A法律事務所で初めて和解書を作成した際,被告人Aの了解を得て和解書に同被告人の弁護士印を押印するとともに,今後の業務で印鑑を押す場面が多々あるので,今後も印鑑を借りてよいか確認し,同被告人の了解を得た。旨証言している。
これらの証言は,いずれも2で認定した事実やそれらの事実から推認される事実,すなわち,被告人Aも被告人法人において非弁活動が業として行われていることを認識していた事実とよく整合する合理的な内容である。また,
C及びJの各証言は,
被告人法人大阪事務所における債務整理案件について,
弁護士が形式的な挨拶しか行わず,事務員が自らの判断で面談を行ったり,受任後の和解交渉等まで行うことを確認した打合せの内容を被告人Aにも伝えたという点で相互によく符合し,信用性を支え合っているといえる。さらに,C及びKの各証言は,被告人Aが和解書等への同被告人の弁護士印の押印につき包括的に了承していたという点において合致しており,
その内容も,
使用されることで後々,その持ち主である弁護士が責任を追及されかねない弁護士印の性質や前記2のとおり,事務員が任意整理の処理を行うという被告人法人の体制が被告人Aにも隠すことなく伝えられていた事実に照らし自然なものである。以上によれば,これらの証言はいずれも十分な信用性を備えたものといえる。
さらに,被告人Aは,捜査段階においては,検察官に対し,H法務事務所で目撃した債務者との面談状況や聴取した実際の事務員と債務者との面談状況の録音データの内容から,H法務事務所では司法書士資格のない事務員限りの判断ですべての業務が行われ,司法書士は委任契約の締結後に債務者に挨拶するという形式的な関与しか行っていないことがはっきり分かった。そして,Iから設立予定のA法律事務所においては,H法務事務所と同じやり方で債務整理案件を処理する予定であると伝えられていたことから,平成28年9月下旬頃までには,A法律事務所や被告人法人において,債務整理案件の受任から事件処理までの法律事務の大部分を事務員限りの判断で行い,弁護士は委任契約の締結後に債務者に挨拶するという形式的な関与しか行わないことをはっきりと理解した。その後,平成28年9月下旬頃,Jから,A法律事務所や被告人法人の業務の進め方について,『先々,事件数が増えてくると弁護士だけでは絶対に手が回らなくなります。だから,Hみたいな形で,弁護士は最後に挨拶するだけで,事務員にどんどん面談をやらせます。和解交渉も事務員がやりますから。』と説明を受けた。平成28年12月中旬頃に被告人法人の東京事務所に派遣される際,Jから『A先生の弁護士印はBの大阪で和解契約書等に押すのに使わせてもらいますので,東京には持っていかず,大阪に置いていってください。』などと指示され,事務員限りの判断で和解交渉,和解契約の締結,和解契約書への押印等を行うことになると分かりながら,以後,自分の弁護士印を大阪事務所に預けたままにしていた。このような被告人法人の業務の進め方が非弁行為に当たることは理解していたが,月額手取り35万円の報酬に完全に目がくらみ,覚悟を決めた。などと自白していた(乙14,15)。その自白の内容もまた,前記2の認定事実やそれらの事実から推認できる事実とよく整合するだけでなく,C,J,Kの前記各証言と整合し,あるいは矛盾せず,信用性が高いということができる。
5
以上に対し,被告人Aは,公判において,Jからは,債務者から事務員が聴取した上で,弁護士は問題がないかどうかのチェックをし,最終的な判断と挨拶を行うと聞いていた。被告人法人大阪事務所では,事務員が債務者から聴取した後,Cに報告し,その最終的な判断により委任契約が締結されており,和解交渉や和解書の作成に関してもCの監督下に行われているものと思っていた。しかし,平成29年8月下旬頃,大阪事務所に出向いた際,任意整理案件につき,債権者に提案する和解内容等につき確認を求められなかったことから,和解手続につき弁護士がほとんど関与していないのではないかと疑いを持つようになった。大阪事務所に置いていた弁護士印はJに頼まれ,平成28年10月5日に事務員が気軽に使えるように作成した二つ目の弁護士印であり,受任通知を作成するために使用することの了承を求められたことがあり,同事務所の机上に置いて必要なときに使える状態になっていたが,和解書に自分の弁護士印が使用されていることは知らなかった。と供述している。しかしながら,被告人法人大阪事務所における任意整理案件の受任件数に照らし,Cしか弁護士がいない状況下で方針の決定や和解交渉,和解内容の実質的判断が不可能であったことやこれを被告人Aも認識し得る状況であったことは先にみたとおりであり,まずもって,すべてCの監督下に事務員による債務整理手続が進められていたと認識していた旨いう被告人Aの供述は不合理な内容である。また,被告人Aは,Kが和解交渉を行うことを聞いたかどうかや,A法律事務所において,Kが和解書を作成するのを目撃したり,和解書に自分の弁護士印を押印することの了承を求められたりしたかどうかといった点については,記憶にないといえばないです,和解書の作成に自分が全部携わりましたかといわれると,ちょっと違うのではないかと,ちょっとそういったのが覚えておりませんので,何かKさんからそういうふうに,そうですね,和解書についてどうこうというのは,記憶にないですねなどと曖昧に供述している。その上,被告人Aは,捜査段階においては,前記

のように自白し

ていた。そして,被告人Aは,公判において,上記のように供述するに至った理由について,幇助的な立場であったので,検察官の言うとおりに供述していれば罰金程度で済むのではないかと考え,検察官に言われるがままの内容の供述調書の作成に応じた。ところが,Cと共謀した共同正犯として起訴されて納得いかず,公判では本当の話をすることにした。旨供述している。しかしながら,被告人Aの述べるところによっても,検察官からの利益誘導等があったことは全くうかがわれないところ,そのような働きかけがないにもかかわらず,弁護士でもある被告人Aが自らの処分につき罰金刑程度で済むと軽信すること自体,不自然極まりない上,A法律事務所や被告人法人が業務として非弁行為を行っていることなどが外部に発覚した場合,弁護士の立場である自分が無事で済むはずがなく,最悪の場合,刑事処罰され,懲戒処分により弁護士資格をはく奪されるという不安が頭をよぎっていた。旨の被告人Aの検察官調書(乙14)における供述ともそぐわない内容である。そうすると,公判において,供述を変遷させた理由についての被告人Aの説明は不合理なものといわざるを得ない。
以上によれば,
被告人Aの前記公判供述は信用性に欠けるというべきである。
6
以上のとおり信用性を肯定できるC,J,Kの各公判供述や被告人Aの検察官調書(乙14,15)における自白によれば,被告人Aは,本件に至るまでに,Cから直接又はKやJを介して,被告人法人において,債務整理案件につき,受任時の面談における助言や指導,債権者との和解交渉や和解契約の締結等をKら事務員限りの判断で行うことや,弁護士は面談時に挨拶のみ行って形式的に関与するにとどまり,事務員限りの判断で自らの弁護士印を和解書に押印することなどを予め知らされ,これを了承していたのであるから,非弁活動を業とするEやKらに対し,被告人法人や被告人A自身の弁護士名義を利用させることを十分に認識しており,被告人法人代表社員弁護士であったCとの間で意思を通じ合っていたものと認められる。
また,本件において,被告人Aは,単に被告人法人の社員弁護士に就任しただけでなく,月額手取り35万円という少なくない報酬欲しさから,非弁活動における和解書への自らの弁護士印の押印を了承するなど,弁護士名義を利用させる行為そのものを行うなど,重要で不可欠な役割を果たしたものと認められる。
この点につき,弁護人は,被告人Aの報酬額が月額100万円というCの報酬と比較して僅少であり,しかも,その報酬は同被告人が担当した弁護士業務に対する正当な対価であり,本件による利得がないから,自己の犯罪として本件を行ったと評価すべきでない旨主張する。しかしながら,他の共犯者と比較して報酬額が少ないこと自体が共同正犯の成否に直ちに影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。また,被告人Aが公判において述べるところによっても,同被告人は,H法務事務所で勤務するに至るまで収入が途絶えており,本件への加担を拒否すれば被告人法人をやめざるを得ず,収入が失われてしまう状況であったため,そのような報酬欲しさから本件犯行に加担した点は明らかであって,被告人Aが弁護士業務にも従事しており,報酬はその対価である旨いう弁護人指摘の点は被告人Aに共同正犯が成立するという判断に何ら消長を来すものとはいえない。
以上によれば,被告人Aは,本件につき,Cと意思を通じ合い,自己の犯罪として本件に関与したものと認められるから,本件につき,被告人AがCと共謀した事実は合理的な疑いを容れることなく優に認定できる。
(法令の適用)
罰条
被告人Aにつき包括して刑法60条,弁護士法7
8条1項2号,77条1号,27条後段,30条の
21
被告人法人につき包括して弁護士法78条1項2
号,77条1号,27条後段,30条の21

刑種の選択
被告人Aにつき懲役刑を選択

刑の執行猶予

被告人Aにつき刑法25条1項

訴訟費用の不負担

被告人A及び被告人法人につき刑事訴訟法181
条1項ただし書

(量刑の理由)
1
本件は,当初から,コストを抑えて暴利を得るために事務員ら限りで債務者との面談や和解交渉等までを行うことが予定され,非弁活動が行われていることを隠ぺいするための弁護士法人として設立された被告人法人の社員弁護士であった被告人Aが,
共犯者である当時の被告人法人の代表社員弁護士と共謀し,
被告人法人の業務に関し,その弁護士名義や被告人法人の名義を利用して,司法書士事務所では取り扱えなくなった債権価額が高額の債務整理案件に係る法律事務を業として取り扱いたいという非弁活動者らの求めに応じ,被告人法人の事務所において,事務員らが常時,被告人Aの弁護士印を和解書に押印することを容認するなどして弁護士資格を有する自身や共犯者が適法にこれらの法律事務を取り扱っているかのような外形を作出して非弁活動を助長したというものである。
このように本件は,弁護士である被告人Aや共犯者がほとんど法律事務に携わらないという形態であって,現に,依頼者である債務者の中には,債務整理に当たり,弁護士でない者の判断によって自己の希望と異なる内容で勝手に和解を成立させられた者も存在することや,本件における非弁活動が起訴されているだけでも約1年7か月間にわたり,実際に行われた個別の非弁活動が12件にも達し,
多数の事務員を使って行われた組織的かつ職業的なものであって,国民の公正円滑な法律生活を保持し,法律秩序を確立しようとした法の趣旨に真っ向から反するものであって違法性の程度が大きい上,弁護士や弁護士法人に対する社会的信頼も著しく損ないかねず,その社会的影響も軽視することができない。
2
そして,
たしかに,
被告人Aは,
司法書士事務所の事務員求人に応募した際,
非弁活動者らから本件犯行を誘われたに過ぎず,
取り込まれた面があることや,
被告人法人の代表社員弁護士であったCに比べ,被告人法人の業務の進め方等に関する打合せには直接参加しておらず,受領した報酬額も少なかった点は弁護人が指摘するとおりであるけれども,被告人Aは,本件犯行への誘いを拒むことに支障はなく,その社会的使命や弁護士に対する社会的信頼に思いを至らせてこれを拒絶することこそが強く求められていた。それにもかかわらず,被告人Aは,月額で手取り35万円の報酬を得られるとの利欲的な動機から弁護士としての社会的使命等を忘れ,非弁活動を業とするための隠れ蓑として設立された被告人法人の社員弁護士に就任し,摘発されるまでの長期間にわたって非弁活動を行う者らが常時自らの弁護士印を法律事務に使用することを容認するなどしていたのであるから,
やはり厳しい非難を免れないというべきである。
しかも,被告人Aは,公判において,不合理な弁解に終始しており,本件を反省する姿勢も十分とはいえない。
以上によれば,本件の発端は,上記のように被告人Aがすすんで名義貸しを企図したものではなく,非弁活動を行っていた者らに取り込まれた面があることや,非弁提携の枠組みに関する話し合いに参加するなどし,被告人法人の代表社員弁護士に就任したCと比べ,その果たした役割等が従属的なものにとどまっていることのほか,弁護士資格の喪失につながることなどを考慮しても,被告人Aにつき,懲役刑の選択は免れないというべきである。
そして,被告人Aには前科前歴がなく,本件発覚後,Cに代わって被告人法人の代表社員弁護士に就任し,残された債務整理案件等の残務整理を行っていることのほか,父親や大学の先輩に当たる弁護士が出廷し,今後の指導や監督を誓っていることなどの事情も併せて考慮すると,被告人Aに対しては主文の刑期を定めるとともに,その刑の執行を猶予するのが相当であり,前記のような本件の違法性の程度等を踏まえ,被告人法人の罰金額は主文のとおりとするのが相当と判断した。
(求刑-被告人Aにつき懲役1年2月,被告人法人につき罰金300万円,被告人Aの弁護人及び被告人法人代表者の科刑意見-いずれも上限の300万円から減額した罰金刑)

大阪地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

西川篤志
裁判官

荒井智也
裁判官

森朋美
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