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殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号平成29(あ)621
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日令和元年12月2日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果棄却
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号平成26(う)1006
原審裁判年月日平成29年3月9日
判示事項被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の刑の量定が維持された事例
裁判日:西暦2019-12-02
情報公開日2019-12-02 18:00:04
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平成29年(あ)第621号
令和元年12月2日

殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

第一小法廷判決

主文
本件各上告を棄却する
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらず,弁護人高山巌ほかの上告趣意のうち,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律に基づく裁判員裁判において死刑が選択されることに関して憲法18条後段,31条,36条違反をいう点は,死刑制度及び裁判員制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁平成22年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・刑集65巻8号1285頁)及びその趣旨に徴して明らかであるから,理由がなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
被告人に対する量刑について付言する。
1
本件は,覚せい剤中毒後遺症の状態にあって刺せ刺せなどという幻聴が
連続的に聞こえていた被告人が,頼ろうとしていた実兄に見捨てられ,知人に紹介された仕事も期待外れであったという思いから,将来に強い不安を抱く中,自殺することもできず自暴自棄となり,もう幻聴に従ってしまおうと考え,白昼の繁華街において,一人目の被害者(当時42歳)に背後から突進して包丁を突き刺した上,倒れた同人に馬乗りになって包丁を何回も突き刺し,その後,自転車を押しながら逃げようとしていた二人目の被害者(当時66歳)の背後から突進して包丁を突き刺した上,倒れた同人に包丁を何回も突き刺し,さらに,一人目の被害者が動いたことからその場に向かい同人に包丁を突き刺し,両名を殺害したという無差別殺人の事案である。
2
無差別殺人は,行為者が何ら関係のない不特定の者を殺害することを目的と
する犯行であり,多くの場合,被害者が無防備で,その生命侵害の危険性が高く,生命軽視の度合いが大きい類型の犯罪として,厳しい非難が向けられる。しかし,無差別殺人であっても,事案により,被害結果,特に死傷者の数が異なるほか,動機・経緯,計画性の有無・程度,犯行態様,犯行遂行の意思の強固さは様々であり,これらを総合して認められる生命侵害の危険性の程度や生命軽視の度合いも異なることから,非難の程度も事案ごとに異なるというべきである(なお,原判決が計画性の有無・程度をもって本件犯行に対する非難の程度を判断する指標であるかのように説示する部分は,以上に照らして是認することができない。)。3
本件の犯行態様は,被害者らに突然襲い掛かり包丁でめった刺しにした点
で,生命侵害の危険性が高かった上,執ようさ,残虐さが際立っており,生命軽視の度合いが甚だしいといわざるを得ない。突然の凶行によって被告人と何ら関係のない被害者2名の生命が奪われた結果は極めて重大であり,遺族の処罰感情は峻烈である。被告人の刑事責任は誠に重く,本件は死刑を選択することの当否を慎重に検討すべき事案である。
4
しかし,被告人は,19歳頃から覚せい剤を使用し始め,覚せい剤の使用又
は所持による累犯前科3犯を有し,被告人が本件犯行当時覚せい剤中毒後遺症の状態にあったのは,被告人自身による長期間の覚せい剤使用が原因であるというほかないが,覚せい剤中毒後遺症による幻聴が本件犯行に及ぶ一因となっていたことは,量刑上考慮すべき要素ではあるといえる。もとより,被告人が幻聴に従ってしまおうと決意し犯行に及んだことは誠に短絡的で身勝手であるというべきであるが,更生に向けて行動を起こしながらもそれらがかなわずに自暴自棄に至ったことが本件犯行の原因になっていることに斟酌の余地が全くないとまではいえない。また,被告人は,本件犯行の約10分前に包丁を購入しているものの,その時点では殺人の犯意がまだ確定していなかったといわざるを得ない。無差別殺人について特段の計画や準備をしたとも認められず,本件は場当たり的な犯行であることも否定できない。さらに,犯行現場に臨場した警察官から一喝されて犯行を終了し,その指示に従い抵抗せずに逮捕に応じ悔悟反省の態度を示しており,本件は衝動的な犯行であったことがうかがわれ,無差別殺人遂行の意思が極めて強固であったとも認められない。これらに照らすと,被告人の生命軽視の度合いが甚だしく顕著であったとまではいえない。
5
以上によれば,本件は被害者2名の殺人事件であり,被告人が無差別殺人
敢行したことは短絡的で身勝手であるというほかなく,犯行態様は執よう,残虐であって,被告人の刑事責任は誠に重大であるものの,死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行わなければならないという観点及び公平性の確保の観点を踏まえ,犯情を総合的に評価すると,本件について,被告人を死刑に処した第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の刑の量定が甚だしく不当であり原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めることはできない。よって,刑訴法408条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
山口


小池

裁判官


裁判官

池上政幸

深山卓也)
裁判官

木澤克之

裁判官

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