判例検索β > 令和1年(ネ)第10046号
特許権侵害行為差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和1(ネ)10046
事件名特許権侵害行為差止請求控訴事件
裁判年月日令和元年11月25日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)14753
裁判日:西暦2019-11-25
情報公開日2019-11-29 16:00:20
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令和元年11月25日判決言渡
令和元年(ネ)第10046号

特許権侵害行為差止請求控訴事件(原審

東京地

方裁判所平成28年(ワ)第14753号)
口頭弁論終結の日

令和元年9月18日
判控訴決人
クラウン精密工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

山口健司
同補佐人弁理士

三田大智被控訴人Y
同訴訟代理人弁護士

高酒匂禎裕村島大介大
同補佐人弁理士

崎森主仁泉文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

第2
1
事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
本件は,発明の名称をネジおよびドライバビットとする特許に係る特許権(特許第4220610号。本件特許権)の特許権者であった被控訴人
が,控訴人に対し,控訴人は業として原判決別紙被告製品目録記載の各ネジ(被告製品)を製造等することにより本件特許権を侵害したと主張し,特許法100条1項に基づく被告製品の生産等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の完成品,半製品及び生産用金型の廃棄を求めるとともに,民法703条に基づく平成20年11月21日から平成30年10月31日までの実施料相当額7200万円(一部請求)の不当利得金及びうち平成20年11月21日から平成28年11月30日までの実施料相当額に対する平成28年12月6日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2
原判決は,被控訴人の請求を一部認容したため,これを不服とする控訴人が控訴した。

3
前提事実
前提事実は,原判決事実及び理由第2の2(原判決2頁21行目から7頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

4
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2の3及び第3(原判決8頁1行目から31頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決8頁2行目本件発明を本件各発明と改める。

(2)

原判決9頁13行目外延を外縁と改める。

(3)

原判決29頁24行目この間を平成20年11月21日から平成30年10月31日までの間と改める。5
当審における補充主張
(1)

争点1-1(構成要件1D及び2Aの充足性)について

(被控訴人の主張)


構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分の意義(ア)本件各発明は食い付き部分を有する構成を含むこと
a
食い付き部分は周知技術であるところ,本件明細書等の記載によれば,構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分が,食い付き部分を有する構成を含まないことを意味すると解することはできないし,被控訴人が本件特許の出願後に出願した他の特許発明の存在によって,本件各発明の技術的範囲が影響を受けることはない。

b
本件意見書1は側壁面に食い付き部分が含まれないことを前提
とした記載を含んでおり,本件意見書1が,本件各発明から食い付き部分を有する構成を意識的に除外するものであるということはできない。

(イ)

構成要件1D及び2Aの基端側部分には食い付き部分が含まれ

ないこと
a
本件明細書等の記載からは,構成要件1D及び2Aの基端側部分
には食い付き部分が含まれないことが明らかであり,食い付き部分が実質的に回転トルクを伝達する部分であるか否かは,食い付き部分が本件各発明の基端側部分を構成するか否かとは関わりはない。

b
また,次のとおり,控訴人の指摘する証拠から,食い付き部分が実質的に回転トルクを伝達する部分であるということはできない。
乙99のネジは食い付き部分を有する被告製品とは構成が異なるから,食い付き部分が実質的に回転トルクを伝達する部分であることを示すものではない。
乙1には,食い付き部分,本件各発明において被控訴人の主張に
よる基端側部分,本件各発明の先端側部分に,いかなる場合

にどのような比重で回転力が伝達されるかについての記載はない。乙1(【0040】)によれば,被告製品において,ドライバビットの屈曲部とネジの屈曲部は接触し,回転トルクを伝達している。
被告製品についての控訴人のパンフレット(乙2)は,食い付き
部分が実質的にトルクを伝達する部分ではないことを前提とした説明を行っているし,控訴人提出の意見書(乙31)にも,カムアウトの発生や,何らかの影響により良好な食い付きが得られない場合はトルクの伝達ポイントが移動することの記載がある。
控訴人の指摘する乙100の記載は,食い付き部分のみの接触ではカムアウトしてしまうことが多いと記載されているだけであり,食い付き部分におけるトルクの伝達についての記載はない。

充足性
控訴人の主張は,食い付き部分が構成要件1D及び2Aの基端側部分に当たることを前提とするものであるが,食い付き部分は基端側部分には当たらない。
(控訴人の主張)

構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分の意義(ア)

本件各発明は食い付き部分を有する構成を含まないこと

a
本件明細書等の図面及び本件意見書1の記載から,構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分には,ネジの中心側に,食い付き部分を構成する曲面ないし屈曲部分を含まないという意味も込められていると解すべきであり,本件各発明には食い付き部分を有する構成は含まれない。
被控訴人は,本件各発明の構成に,食い付き部分を追加した構成の
発明について特許出願をし,特許を取得している(特許第53030
80号。乙100。以下,同特許に係る発明を後願発明とい
う。)。後願発明の明細書の記載は,本件各発明を先行技術として位置付けた上で(【0005】),それとは異なる発明として,食い付き部分を付加した構成をもって後願発明を出願し,特許庁もそれを前提に後願発明に特許を付与しているから,本件各発明は,食い付き部分を有する構成を含まない。
食い付き部分があるネジとないネジとでは,ネジの回動部(溝)内でのビットの挙動が全く違うものになることは明らかであり(例えば,食い付き部分がなければ,底部側でビットの先端はある程度自由に動けるのに対して,食い付き部分があれば,ビット先端の動きが固定・制約され自由に動けず,そのためにビットの屈曲部とネジの屈曲部が接触しなくなるなど,食い付き部分がない場合と同じ挙動にはならない。本件意見書2の図A(a)~(c)),食い付き部分を有するネジの場合に本件各発明の効果を奏するか否かは不明であるところ,本件明細書等に,食い付き部分を有するネジであっても本件各発明の効果を奏する旨を開示・示唆する記載はない。
b
被控訴人が,食い付き部分を有する構成が本件各発明の技術的範囲に属すると主張することは許されないこと
被控訴人は,本件意見書1において,例え予備的主張であっても,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)又はこれと同
様の構成を有する引用文献2~4のネジと,本件各発明のネジとは,ネジ穴の中心部付近における構成が全く異なる旨を明言している。したがって,本件意見書1は,各引用文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないということを説明するものであるとの原判決の解釈は誤りである。
本件意見書1の記載に触れた第三者は,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)又はこれと同様の構成を有するネジは,本件各発明の技術的範囲に属するとは解しないから,本件意見書1は,本件各発明の特許請求の範囲から,ネジの中心部に食い付き部分
(円弧面状の部分)を有する構成を意識的に除外するものであるか,又は少なくとも外形的にそのように解される記載をしたものであり,それにもかかわらず,被控訴人が,本件訴訟において,ネジ穴の中心部分に食い付き部分を有する被告製品を本件各発明の技術的範囲
に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されない。(イ)
a
食い付き部分は基端側部分に当たること
原判決は,従来技術に関する本件明細書等の【図1】が食い付き部分を側壁面に含めていないことを理由に,食い付き部分が本件各
発明の側壁面に含まれないと判断したが,本件各発明の側壁面
と従来技術の側壁面とが同じでなければならない理由はなく,む
しろ異なるからこそ新技術として認められるはずである。

b
次のとおり,食い付き部分は実質的に回転トルクを伝達する部分であり,ネジの中心部に位置する側壁面であるから,これが本件各発明にいう基端側部分を構成しないとする理由はない。食い付き部分
が実質的に締付け作業等における回転トルクを伝達する部分ということはできないとした原判決の判断は誤りである。
(a)

実開平7-6512号公報(乙99)には,図6(a),(b)は,十字穴3にドライバビット5が差し込まれた詳細な状態を示す拡大図である。図中に点6で示すのは,ドライバビット5と十字穴3との接触点である。そして,十字穴3の角部3aのRは0.02Rであり,ドライバビットの谷底5bのRはそれより大きい0.06Rであるから,角部3aの先端がドライバビットの谷底5aに接触点6で接触する。また,図6(b)に示すように,ドライバビット5は先端に向けて細くなっているが,その中心部は平行に近く,勾配は十字穴3における交差部の勾配より小さいので,接触点6は,図示のように,ドライバビット5のほぼ先端部になる。この状態から,図6(a)に示す矢印aの方向にドライバを回転してねじを締めつけることになる。((4)頁下から4行目~(5)頁5行目),また,ドライバビットの先端谷底部で十字穴と当接するので,ねじを締付ける際,ドライバがねじから軸方向の反発力を受けてカムアウトし易く,カムアウトを避けるために,より大きな軸方向の押圧力を加えて締付けなければならなかった。((5)頁13~16行目),

また,ねじ締め付けの際の力の作用点が,図6の接触点6であるから,ドライバビット5の中心からの距離が小さく,大きな締付力を必要とした。

(同18~19行目)と記載されているところ,十字穴3の角部3aは食い付き
部分である。これによれば,食い付き部分が回転トルクを伝
達する部分であることが明らかである。
(b)

被告製品は特許第5021599号公報(乙1)記載の特許発

明の実施品であるところ,同公報には,被告製品の食い付き部分
に相当する基端部内側面11について,ドライバービット9を右回転又は左回転させると,ドライバービット9のウイング歯が上記ウイング溝の基端部内側面11と中間部内側面12と先端部内側面13に回転力が効率良く伝達され,螺子1の回転による確かな締結が図られる。(【0040】)と記載され,食い付き部分(基端部内側面11)がビットの回転力をネジに伝
達する部分であることが記載されている。
(c)

被控訴人の出願である特許第5303080号公報(乙100)

にも,従来の一般的な十字穴ねじの場合,現実には,ドライバビットの翼部とねじの翼係合部とが有効に接触せず,ドライバビットのビット側食い付き部とねじの十字穴の食い付き部とのみが接触している状態になりやすく,これによりカムアウトしてしまうことが多かった。(【0016】)と記載され,従来の一般的な十字穴ねじの場合,実際には,ドライバビットの回動中も,
食い付き部分のみで接触して回転していることを認めている。

充足性
本件各発明は食い付き部分を有する構成を含まないところ,被告製品は食い付き部分を有するから,本件各発明の技術的範囲に属しない。また,被告製品の基端側部分は食い付き部分である基端部内側面11と中間部内側面12を有し,平面状ではないから,構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分を充足しない。
(2)

争点1-2(構成要件1E及び2Bの充足性)について

(被控訴人の主張)

構成要件1E及び2Bの屈曲の意義
本件明細書等の【0008】の記載によれば,本件各発明の作用効果はカムアウトの抑制であるが,翼部と翼係合部の引っ掛かりがよくなるためのメカニズムは,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことに限定されない。
したがって,構成要件1E及び2Bの屈曲について,屈曲部において食い込みが可能な屈曲に限定解釈すべきであるということはできない。控訴人は,本件明細書等における食い込むは

深く内部に入り込む。

の意味であると主張するが,食い込むとは

他の領域へ入りこんで侵す。侵入する。

(乙101)の意味であり,回転力を加えてドライバビットとネジ穴が接触した際,引っ掛かりがよくなる程度に弾性変形
するといった意味合いにすぎない。

充足性
仮に,控訴人の主張のとおり屈曲を限定解釈すべきであるとして
も,被告製品は,ネジ穴の中間部内側面12と先端部内側面13
によって構成される屈曲部付近にドライバビットが接触するから,屈曲を充足する。控訴人は,被告製品は乙1の実施品であると説明しているところ,乙1の図6A乃至Dに示すように,上記ウイング溝の基端部内側面11とウイング歯の基端部外側面23,ウイング溝の中間部内側面12とウイング歯の中間部外側面24,ウイング溝の先端部内側面13とウイング歯の先端部外側面25は互いに密接乃至略密接状態にする。との記載(【0038】),ドライバービット9を右回転又は左回転させると,ドライバービット9のウイング歯が上記ウイング溝の基端部内側面11と中間部内側面12と先端部内側面13に回転力が効率良く伝達され,螺子1の回転による確かな締結が図られる。よってドライバービット9を徒に強く十字溝10内奥へ押し込むことを要せずに,所期の締結目的が達成できる。との記載(【0040】)及び【図5】と【図6】は,被告製品においてドライバビットとネジ穴が中間部内側面12(本件各発明の基端側部分)と先端部内側面13(本件各発明
の先端側部分)の屈曲部で接触することを示している。
検乙2の3D模型を用いた実験においても,屈曲部で接触することが判明している(甲19の1,19の2)。
以上のとおり,被告製品において,ネジ穴の中間部内側面12と
先端部内側面13によって構成される屈曲部付近にドライバビットが接触することについては,証拠上の裏付けがある。
先端部内側面に点状に接触している状態においても,ネジを締め

付けると弾性変形するから,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込む。控訴人は,専用ビットの翼部の先端が被告製品の先端部内側面に点状に接触している状態において,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むほど弾性変形が生じることはあり得ないと主張するが,回転力を加えればネジであっても弾性域の範囲で弾性変形するのは技術常識であり(控訴人も弾性変形すること自体は争っていない),弾性変形するということは,まさに食い込んでいるということである。
(控訴人の主張)

構成要件1E及び2Bの屈曲の意義
本件各発明の構成要件1D・1E及び2A・2Bの当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなるとは,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な屈曲の構成に限定して解釈されるべきである。
なぜなら,仮に,原判決のように,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込まない場合も本件各発明の特許請求の範囲に含まれるとするならば,後記(5)のとおり,本件各発明は,本件各発明の課題を解決し得ないものを特許請求の範囲に含むことになるので,サポート要件違反となるからである。


充足性
被告製品は,先端部内側面(20b,21b)と中間部内側面
(20a,21a)によって構成される屈曲部付近が,専用ビットの対応する屈曲部付近に接触せず,したがって食い込まない構成であるから,構成要件1E及び2Bの屈曲を充足しない。


被告製品が本件各発明の効果を奏しないこと
(ア)

本件各発明のドライバビットがカムアウトしにくくなる効果は,

ドライバビットの翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことにより,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなることによって生じる効果であり,すなわち,ドライバビット翼部の屈曲部に,ネジの翼係合部の屈曲部が接触する(食い込む)ことによって奏する効果である。
すなわち,本件明細書等の

翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなる。

との記載(【0008】),ネジ3締め付け時は,ドライバビット6の翼部8の屈曲した締付側側面14に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の締付側側壁面10が食い込むので,側面14が側壁面10を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,ネジ3締め付け時にドライバビット6がカムアウトしにくくなる。との記載(【0014】),本実施例においては,ネジ3緩め時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した緩め側側面13に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の緩め側側壁面9が食い込むので,側面13が側壁面9を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,ネジ3緩め時にもドライバビット6がカムアウトしにくくなる。との記載(【0017】)及び本実施例においても,ネジ締め付け時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した締付側側面14に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の締付側側壁面10が食い込むので,側面14が側壁面10を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなる一方,ネジ緩め時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した緩め側側面13に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の緩め側側壁面9が食い込むので,側面13が側壁面9を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるので,ネジ締め付け時にも,緩め時にも,ドライバビット6がカムアウトしにくくなる。との記載(【0022】)によれば,本件各発明のドライバビットがカムアウトしにくくなる効果は,ドライバビットの翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことにより,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなることによって生じる効果であり,すなわち,ドライバビット翼部の屈曲部に,ネジの翼係合部の屈曲部が接触する(食い込む)ことによって奏する効果であることが明らかである。
このことは,本件意見書2が,本件各発明の効果が,ドライバビット翼部の屈曲部に,ネジの翼係合部の屈曲部が接触する(食い込む)ことによる効果であることを前提にしている(図A,図B等参照)ことからも裏付けられる。

乙20の図A(c)(加筆あり)
食い込むとは,

深く内部に入り込む。

(乙101)という意味の用語であるから,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むとは,ドライバビットの翼部の屈曲部分に,対応する形状に屈曲したネジの翼係合部の屈曲部分が深く内部に入り込むほど接触するという意味にしか解しようがないから,ネジとドライバビットが屈曲部分で接触することを要しない旨の原判決の判断は誤りである。
(イ)

被告製品は,ドライバビットに回転力を加えている間にネジとドラ
イバビットが屈曲部分で接触することはない(乙33,35,40,50,51)から,ドライバビットの翼部の屈曲部分に,対応する形状に屈曲したネジの翼係合部の屈曲部分が食い込むことがないので,本件各発明のドライバビットがカムアウトしにくくなる効果を奏
しないことが明らかである。
専用ビットの翼部の先端が被告製品の先端部内側面に点状に接触
している状態(下記の写真の状態)において,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込む(下記の写真の点線部分が食い込む)ほど弾性変形が生じることはあり得ない。

乙40・写真7(加筆あり)
被告製品(ネジ)も専用ビットも,非常に硬い鉄鋼から成るものであり,そんなに大きな変化をした後に元の形に戻れるほど弾性に富んだ素
材で出来ていないし,仮に,変形が生じるほどの力が加わったとしたら,塑性変形してネジ穴(回動部)の側壁面が破壊され,ネジとして使い物にならなくなる。
このように,原判決の翼係合部の側壁面において弾性変形が生じることを考慮すると,被告製品においても,ネジを締め付けると,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むと考えられるとの判断は,翼係合部の側壁面において弾性変形が生じるという前提において既に証拠がなく失当であり,また語尾が考えられるとあるように,単なる憶測にすぎない判断である。そもそも,被告製品は食い付き部分があるので,回動部内でのビットの挙動はかなり制限されているので,屈曲部同士が接触しうるような挙動は考え難いところ,原判決は,被告製品に対して専用ドライバビットが取り得る様々な挙動の中に,屈曲部同士が接触し得る挙動があり得ることを具体的に示していない。被告製品が屈曲部分で接触することを証明する積極的な証拠はない。
(3)

争点2-1(乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による
進歩性の欠如)について
(控訴人の主張)
本件明細書等の図1の食い付き部分(屈曲した二平面)と,乙7第1図,乙8第3図の食い付き部分(R面)について,屈曲した二平面をR面で代替することは当業者の技術常識であり,その逆も然りである。すなわち,屈曲面であってもR面であっても,食い付き部分が接触する部分は点接触であるので(甲6,乙99),食い込むという効果において実質的な相違があるものではない。
したがって,乙13考案の半径Rの円弧E-FのR面を,上記の技術常識に照らして屈曲した二平面で代替し,本件各発明の相違点1ないし相違
点2に係る構成を想到することは,当業者にとって容易である。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張する技術常識を裏付ける証拠はない。また,仮に控訴人の主張する技術常識が存在したとしても,本件各発明と乙13考案の相違点は,食い付き部分に係る構成ではなく翼係合部に係る構成に関する相違点である。食い付き部分と翼係合部がそれぞれネジ穴の中で果たす機能は全く異なっており,食い付き部分の技術常識を乙13考案の翼係合部に適用しようとする動機付けは存在しない。(4)

争点2-2(乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示され
た周知技術による進歩性の欠如)について
(控訴人の主張)

乙12において,ビスが錆附いていても刃が切込溝3に喰込むと記載があることから明らかなとおり,乙12の効果は,本件各発明の食い込むことによりカムアウトがしにくくなる効果と実質的に同質の効果であることが明らかである。
したがって,乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能において共通するから,両者を組み合わせる動機付けは優に存在する。


乙12には,断面三角形の切込溝3としか記載されておらず,乙12の屈曲は直角であるとは記載されていない。また,仮に直角
であったとしても,本件各発明の特許請求の範囲の記載も,斜めに屈曲と特定するのみで,具体的な角度の範囲を規定しているものではないから,限りなく直角に近い屈曲も含むものである。
そして,直角と,直角ではない屈曲部とで,当業者に予測し得ないほどの効果の相違が生じるとは解されない。そもそも,斜めに屈曲の中に直角が含まれないとする理由も見当たらない。

いずれにせよ,屈曲の角度をどの程度にするかは,当業者が適宜設定すべき設計事項であるから,直角に屈曲を斜め(垂直でも直角でもない角度)に屈曲にする程度の変更は,当業者であれば容易に想到し得ることが,明らかである。
(被控訴人の主張)

乙12考案の課題・作用効果は,従来の十字ビスは締付けの場合は新らしいので,十字ドライバーが強く作用するが,抜く場合は錆附いていたり,十字ビスの頭部が錆びている為め,十字ビス全体に力が及ばず十字凹溝部の肉かげを生じ,十字ビスを抜くことが出来ない不便があった。本案は,其の十字凹溝部の肉かげを防止することを目的とするものである。(乙12・2頁)本案は叙述の様であるから,十字ビス1または十字ネジ釘の切込溝3に適合する三角の刃附十字ドライバーを用いて抜くと,ビスが錆附いていても刃が切込溝3に喰込むので,十字凹溝部の肉がかげることがないので,ビス等を容易に抜くことが出来る利益を有するものである。(乙12・3頁)と記載されているとおり,ビス等を容易に抜くことが出来るようにするというものであって,カムアウトとは全く関係がない。また,従来公知の十字溝型では,対應形状のドライバーで廻すときトルクが大であると十字側壁に対する作用の垂直成分の影響を受けて,ドライバーが押し上げられるか,又は溝の側壁が破壊される(乙13・2頁)という乙13の課題・作用効果とも異なるものである。


控訴人は,乙12の屈曲には直角と記載されていないと言うが,乙12には,まさに直角の構成が記載されており,これを斜めに
する動機付けはどこにもない。この点,控訴人は本件各発明の技術事項の斜めには限りなく直角に近い場合も含むというが,限りなく直角に近い場合とは,要するに実質的に直角ということである。
実質的に直角の屈曲にすればカムアウトを抑止できるなどという技術思想や,十字側壁に対する作用の垂直成分の影響を回避できるという技術思想は乙12に開示も示唆もないから,いずれにせよ乙12は本件各発明とは全く技術思想が異なる考案である。
(5)

争点2-3(補正要件違反又はサポート要件違反の有無)について
(控訴人の主張)
屈曲について,前記(2)(控訴人の主張)アのとおり限定解釈しない場合には,本件各発明には,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込まない場合も含まれることになる。
しかし,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込まない場合には,ドライバビットがカムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライバビットを提供するという本件各発明の課題(【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを特許請求の範囲に含むことになる。
したがって,本件各発明に係る特許には,補正要件違反及びサポート要件違反の無効理由がある。
(被控訴人の主張)
本件各発明の技術的範囲には周知技術である食い付き部分を有する態様の構成も含まれており,カムアウトしにくくなるという効果も明細書に記載されている。したがって,補正要件違反及びサポート要件違反であるとの控訴人の主張は成り立たない。
(6)

争点3(不当利得返還請求権の有無及び額)について

(控訴人の主張)
控訴人は,ライセンス契約書(甲10,13,22及び30)の成立の真正について不知としているにもかかわらず,被控訴人は契約書の原本を持参するのみで,印鑑証明書等の成立の真正を証明するための証拠は何ら提出
しない。そもそも,これらの契約に基づいて実際に5%の実施料が被控訴人に支払われた実績がなく,これらの契約書は,偽造又は通謀虚偽表示である可能性を否定できない。
株式会社クラウンファスナーとの間で結ばれたライセンス契約(乙97,98)の実施料率は3%であり,支払実績のある契約においては,実施料率3%のものしかない(なお,乙98ではイニシャルペイメントとして150万円が支払われているが,これは,契約前の販売分に対する支払である。)。よって,本件各発明の実施料率は,最大限評価しても,3%を上回ることはない。
(被控訴人の主張)
ライセンス契約書の成立の真正には疑義はない。また,控訴人は,当該ライセンス契約書に基づいて実際に5%の実施料が被控訴人に支払われた実績はないと主張するが,被控訴人が株式会社CPMとイワタボルト株式会社から提出を受けたノジドライブ工業所有権の実施料報告書(甲31,32)に,実施料率が5%と記載されており,これらの報告書の末尾に記載された被控訴人の銀行口座に当該実施料が支払われたことが理解できる。また,クラウンファスナー株式会社との間で締結したライセンス契約書(乙97,98)の実施料率が3%であるのは,被控訴人と同社のライセンス契約の担当者との間の関係によるものであり,被控訴人と控訴人との間に特別に実施料率を低く設定するような関係にない。
第3
1
当裁判所の判断
本件各発明の概要
本件各発明の概要については,原判決第4の1(原判決31頁24行目から40頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
本件各発明の技術的範囲への被告製品の属否(争点1)について
(1)

構成要件1D及び2Aの充足性(争点1-1)について


構成要件1D及び2Aの充足性(争点1-1)についての判断は,次のとおり補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決第4の2前文及び同(1)~(4)(原判決40頁23行目から46頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア)

原判決41頁9行目から10行目にかけてのまた,の後に本件発明2に係るネジは,と付加する。(イ)

原判決41頁22行目末尾に改行の上,

加えて,段落【0002】には,「4つの翼係合部(ドライバビットの翼部(羽根部)が係合される部分)2が,ネジ3の径方向に延びている。

との記載があり,翼係合部はドライバビットの翼部が係合される部分であるこ
とを読み取ることができる。」と付加する。
(ウ)

原判決42頁18行目の各辺のうちを各辺を一方に延長した直線のうちと改め,同19行目から20行目にかけてののその余の部分を削る。(エ)

原判決43頁12行目「翼係合部は」の次にドライバビットの翼部(羽根部)が係合される部分であり,またと付加する。(オ)

原判決43頁15行目末尾に改行の上,

また,ドライバビットの翼部は,食いつき部分の谷の部分より外周方向に突き出した部分である(乙31)。

と付加する。(カ)

原判決44頁7行目であり,から13行目末尾までを,であるところ,食い付き部分は本件各発明の「側壁面に含まれず,基端側部分を構成しないことは,上記(1)に説示したとおりである。」と改める。
(キ)

原判決45頁1行目冒頭から2行目であり,までを,そして,本件各発明は食い付き部分の有無について何らの限定をしていないから,と改める。イ
当審における補充主張に対する判断
(ア)

構成要件1D及び2Aのネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分に,ネジの中心側に,食い付き部分を構成する曲面ないし屈曲部分を含まないという意味が込められているとの主張について
a
控訴人は,実施例の図面や本件意見書1の記載から,本件各発明が食い付き部分を有する構成を含まないことがいえると主張する。しかし,実施例の図面を含む本件明細書等から,本件各発明に係るネジが食い付き部分を備えることを排除する記載を読み取ることができないのは,前記引用に係る補正された原判決の第4の2(3)に説示したとおりである。本件意見書1における当初の明細書の図面に関する記載もこれを左右するものではない。
また,控訴人は,被控訴人の後願発明(特許第5303080号)
を根拠に,本件各発明は食い付き部分を有する構成を含まないと主張するが,後願発明は本件各発明の技術的範囲を画するものではないから,控訴人の主張は採用できない。
さらに,控訴人は,食い付き部分があるネジとないネジとでは,ネジの回動部(溝)内でのビットの挙動が全く異なり,本件明細書等に食い付き部分を有するネジであっても本件各発明の効果を奏する旨を開示ないし示唆する記載はないと主張する。しかし,本件各発明が食い付き部分を有する構成を除外するということができないのは上記引用に係る補正された原判決の第4の2(1)説示のとおりであり,本件明細書等には,食い付き部分の有無により,本件各発明の効果が左右されることをうかがわせる記載はない。
b
控訴人は,出願経過を根拠に,被控訴人が,本件訴訟において,ネ
ジ穴の中心部分に食い付き部分を有する被告製品を本件各発明の
技術的範囲に属すると主張することは許されないと主張する。しかし,本件意見書1における控訴人の指摘する記載は,引用文献2~4の円弧面状の部分と平面上の部分を有する構成と本件各発明の基端側部分と先端側部分を有する構成とが異なることを述べるものであり,食い付き部分と基端側部分と先端側部分とを有する構成
に言及したものではない。したがって,本件意見書1の記載について,本件各発明から食い付き部分を有する構成を意識的に除外するものと解することはできないから,控訴人の主張は採用できない。
(イ)

食い付き部分が基端側部分に当たるとの主張について
控訴人は,本件各発明の側壁面と従来技術の側壁面とが同じ

でなければならない理由はないとも主張する。しかし,本件明細書等において,側壁面が異なる意味に用いられていると解すべき根拠はなく,採用できない。
控訴人は,食い付き部分は実質的に回転トルクを伝達する部分であり,ネジの中心部に位置する側壁面であるから,これが本件各発明にいう基端側部分を構成しないとする理由はないと主張する。しかし,特許請求の範囲及び本件明細書等の記載によれば,食い付き部分は本件各発明の基端側部分に当たらないところ(上記引用に係る補正された原判決第4の2(1)オ)参照),特許請求の範囲及び本件明細書等には,回転トルクを伝達する部分であれば必ず基端側部分に当たるとする記載はなく,そのように解すべき理由も見当たらない。したがって,食い付き部分が実質的に締付け作業等における回転トルクを伝達する部分であるか否かは,構成要件1D及び2Aの充足性に関する判断を左右するものではない。
(2)

構成要件1E及び2Bの充足性(争点1-2)について


構成要件1E及び2Bの充足性(争点1-2)についての判断は,原判決49頁25行目締め付け側側兵器面を締付側側壁面と改め,
後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決第4の3(原判決49頁21行目から50頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


当審における補充主張に対する判断
控訴人は,構成要件1E及び2Bの屈曲について限定解釈しない場合には本件各発明はサポート要件に適合しないことを屈曲を限定解釈すべき理由として主張するが,控訴人の主張する限定解釈によらなくても本件各発明がサポート要件を満たすことは,後記3(本判決第3の3)に述べるとおりである。

(3)

被告製品が本件各発明の効果を奏しないといえるかについて
以上によれば,被告製品は,構成要件1D及び2A並びに構成要件1E及び2Bを充足する。
そして,被告製品の構成によれば,その余の構成要件を充足するということができる(この点は控訴人も争っていない。)から,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するということができる。


控訴人は,被告製品が本件各発明に係る効果を奏しないと主張するところ,この点に関する判断は,原判決49頁10行目同シミュレーションから17行目末尾までを,次のとおり改め,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決第4の2(5)ア~ウ(原判決46頁26行目~49頁19行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
本件各発明の効果を奏するために,ドライバビットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネジの翼係合部の屈曲部(「基端側部分と先端側部分の連結箇所)が接触することが必須であるとはいえない
から,これを前提とする被告の主張は採用できない。」

当審における補充主張に対する判断
控訴人は,本件明細書等の記載によれば,本件各発明の効果は,ドライバビットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することによるものであるとし,これを前提に,被告製品は本件各発明の効果を奏しないと主張する。
(ア)

本件明細書等の段落【0003】,【0004】,【0008】,
【図1】の記載からは,従来技術においては,食い付き部分を有するネジを含む従来のネジにおいて,翼係合部とドライバビットの翼部との引っ掛かりが悪いことやドライバビットがネジに対して傾いた状態であることにより,ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象が生じ易いという課題が存するところ,本件各発明の側壁面の構
成を採用すると,対応する形状の翼部を有するビットを用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなり,上記課題が解決されることが理解できる。
そして,食い込むとは,

他の領域へ入りこんで侵す。侵入する。

(乙101)ことであるから,本件明細書等の段落【0008】の翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むとは,回転力を加えることにより,ドライバビットの翼部とネジの翼係合部が接触する箇所において,ドライバビットの翼部の側面がネジの翼係合部の側壁面を確実に把握し,引っ掛かりがよくなることを意味するものと解され,本件各発明の効果を奏するために,ドライバビットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することが必須で
あるということはできない。また,控訴人の指摘する本件明細書等の段落【0014】,【0017】及び【0022】にも,ドライバビットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することの記載はない。控訴人は,本件意見書2の図A,B等は,ドライバビットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することを裏付けると主張するが,本件明細書等の上記記載に照らせば,本件意見書2の各図は上記判断を左右するものではない。
(イ)

控訴人の主張によっても,専用ビットの翼部の先端が被告製品の

先端部内側面に点状に接触するというのであるから,被告製品に
おいても,ドライバビットに回転力を加えた際に当該接触した箇所で食い込みが生じ,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなり,ドライバビットがカムアウトしにくくなるという効果を奏すると解され,被告製品において本件各発明の効果を奏しないということはできない。3
本件特許に係る無効理由の有無(争点2)について
(1)

本件特許に係る無効理由の有無(争点2)についての判断は,次のとお
り補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決第4の4~6(原判決50頁8行目から57頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決56頁24行目動機を動機付けと改める。


原判決57頁19行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライバビットの食い付き部分は周知技術であり,出願当初の明細書等の実施例に当該周知技術について記載がされていないとしても,それは本件各発明が当該周知技術を備えることを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明の技術的範囲に当該周知技術の構成を備えたネジが含まれるとしても,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分との発明特定事項を追加する本件手続補正が新規事項の追加となるものではない。
また,本件明細書等の段落【0003】,【0004】,【0008】,【図1】の記載からは,本件各発明の側壁面の構成を備えることにより,対応する形状の翼部を有するビットを用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなるという本件各発明の効果が得られることが理解でき(本判決第3の2(3)ウ(ア)参照。),食い付き部分の有無は本件各発明の課題の解決に影響する構成とはいえない。したがって,控訴人主張の点は,サポート要件適合性を否定するものではないというべきである。」
(2)

当審における補充主張に対する判断


乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-1)について
控訴人は,食い付き部分に関し,屈曲した二平面とR面を相互に代替す
ることは当業者の技術常識であると主張する。しかし,食い付き部分と本件各発明の側壁面は,目的も機能も異なり,食い付き部分の構成に関する技術常識を側壁面に適用することはできないから,控訴人の主張は採用できない。

乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-2)について
控訴人は,乙12考案の効果は本件各発明の食い込むことにより
カムアウトがしにくくなる効果と実質的に同質の効果であるから,乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能にお
いて共通し,両者を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし,乙12考案の切込溝3は錆びついたビスを容易に抜くために設けたものであるのに対し,乙13考案の円弧E-Fからなる溝は,ドライバーのねじ込み力を完全に受け止めるために設けられたものであって,これらの考案の課題は全く異なることは,上記引用に係る補正された原判決第4の5に説示したとおりであり,乙13考案に乙12考案を組み合わせる動機付けがあるということはできない。

補正要件違反又はサポート要件違反の有無について(争点2-3)について
控訴人は,本件各発明の屈曲について,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な屈曲,すなわち,ドライバビットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネジの翼係合部の屈曲部が深く内部に入り込むほど接触することを要すると限定解釈しないとすると,本件各発明の課題であるドライバビットがカムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライバビットを提供する(【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを特許請求の範囲に含むことになると主張する。しかし,ドライバビットがカムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジとの課題を解決するにつき,ドライバビットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触する(食い込む)ことが必須であるといえないのは前記2(1)イ及び(2)に説示したとおりであり,これを前提とする控訴人の主張は採用できない。
(3)

小括
以上のとおり,本件各発明に係る特許について,特許無効審判により無効
にされるべきものと認めることはできない。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,実施料相当額を不当に利得しているということができる。

4
不当利得返還請求権の有無及び額(争点3)
(1)

不当利得返還請求権の有無及び額(争点3)についての判断は,後記の
とおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決第4の7(原判決58頁1行目から59頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)

控訴人は,実施料率5%とするライセンス契約書(甲10,13,22
及び30)は,偽造によるもの又は通謀虚偽表示に係るものである可能性を否定できず,上記各契約書に基づくライセンス料の支払実績がないことを主張する。
しかし,控訴人は上記ライセンス契約書の成立の真正を不知とするのみで,成立の真正を否認するものではなく,また,成立の真正に関する具体的な事実主張もしないところ,上記ライセンス契約書(甲10,13,22及び30)を見てもその成立の真正を疑わせる事情は見当たらないから,上記ライセンス契約書の成立の真正を認めることができる。また,上記ライセンス契約書の作成者の間の通謀虚偽表示について具体的な主張も立証もなく,通謀虚偽表示の事実は認められない。
控訴人は,株式会社クラウンファスナーとの間のライセンス契約における実施料率は3%であったことを主張するが,平成14年から平成29年にかけて成立した上記ライセンス契約書に係るライセンス契約において5%の実施料率が採用されていることに照らせば,本件各発明に係る実施料率を5%と認めるのが相当である。
控訴人の主張は採用できない。
第4

結論
以上によれば,被控訴人の請求は原判決が認容した限度で理由があるから,原判決は相当である。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦山門優高橋彩
裁判官

裁判官

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