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事件番号平成31(う)160
裁判年月日令和元年11月14日
法廷名福岡高等裁判所
結果破棄自判
裁判日:西暦2019-11-14
情報公開日2019-11-28 16:00:07
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令和元年11月14日宣告

福岡高等裁判所第3刑事部判決

平成31年(う)第160号
道路交通法違反被告事件
主文
原判決を破棄する
被告人は無罪
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人市原史雄及び弁護人鐘ケ江啓司共同作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官水上尚久作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。控訴理由は,事実誤認及び訴訟手続の法令違反である。
論旨は,要するに,①

原判決は,顔貌鑑定の信用性を誤って高く評価して本件

違反時における本件違反車両の運転者(以下犯人という。
)が被告人であると
認定したものであるから,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,②

原判決には,請求を却下した証拠をAの原審証言の信用性判断の基礎とした違
法があるほか,顔貌鑑定の信用性を弾劾するために原審弁護人が請求した証拠を却下した原裁判所の判断は,合理的な裁量の範囲を超えたものであって違法であるから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討すると(なお,論旨に鑑み,訴訟手続の法令違反の論旨に先立ち,事実誤認の論旨について検討した。,事実誤認の論旨は理由があり,)
犯人が被告人であることが合理的な疑いをいれない程度に立証されているとはいえないから,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。以下,その理由を説明する(略称は,特に断らない限り原判決の例による。。)
第1
1
控訴趣意中,事実誤認の主張について
本件公訴事実及び原判決の概要等
(1)本件公訴事実の要旨は,被告人が,平成27年1月14日午前0時36分頃,福岡県福津市(住所省略)付近道路において,法定の最高速度(60km毎時)を35km超える95km毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行した,というものである。
原審検察官は,本件オービス写真と被告人の運転免許台帳写真(平成27年11月18日交付のもの)及び被告人の頭顔部の三次元形状データ画像(平成29年5月28日撮影)との顔貌の異同識別を形態学的検査及びスーパーインポーズ法により鑑定し,犯人と被告人とはおそらく同一人であると考えられると結論付けるB鑑定(捜査段階で科学捜査研究所技官により行われたもの。原審甲6)等により,犯人が被告人であると強く推認できるなどと主張した。これに対し,原審弁護人は,犯人は被告人の友人であるAであるから,被告人は無罪であると主張し,A及び被告人は,原審公判廷において,その旨供述したが,原審検察官は,本件オービス写真とAの頭顔部の三次元形状データ画像(平成30年9月4日撮影)との顔貌の異同識別をスーパーインポーズ法により鑑定し,犯人とAとは別人と考えられると結論付けるC鑑定(原審公判段階で科学警察研究所技官により行われたもの。原審職1)により,犯人がAである可能性は明確に否定されるなどと主張した。(2)原判決は,要旨以下のとおり説示して,犯人が被告人であると認め,本件公訴事実のとおりの事実を認定し,被告人を罰金5万円に処した。

B鑑定の中核を構成するスーパーインポーズ法は,画素を単位とした座標に
顔の特徴点(計測点)を置き,そのずれを数値化して分析するというものであって,顔の凹凸や輪郭線の一致の程度を客観的に判断し得る合理的な手法といえるし,画像を重ね合わせる指標となる特徴点(計測点)は合理的に抽出されており,その上で抽出した各点の全てが最も良く一致するように画像同士を重ね合わせ,座標でずれを数値化するという分析過程にも格別不合理な点は認められず,Bの鑑定人としての資質の高さや経験,知見の豊富さ等を考慮すれば,B鑑定の信用性は高いといえる。本件オービス写真が不鮮明であること,本件オービス写真の撮影日と被告人の三次元形状データ画像の撮影日とでは時間的に隔たりがあること,鑑定手法等について定量的・定性的な基準が提示されていないことなど,原審弁護人の主張する点を検討しても,B鑑定の信用性に疑問を抱かせる事情は認められない。したがって,犯人は被告人であると強く推認できる。もっとも,B鑑定では,犯人と被告人との同一性についておそらく同一人であると考えられるという高い水準の結論を得てはいるものの,
同一人であると考えられるという最高水準の
結論を得るまでには至っていないことから,更に慎重に検討を加えることとする。イ
被告人及びAが,運転していたのがAであると供述していることや,客観的
な状況をみても,犯人が被告人本人か同人に近しい女性であると考えるのが合理的であることなどの事情に照らせば,本件違反車両の運転者は,事実上被告人かAのいずれかに絞ることができるのであって,Aが運転者である可能性が否定されれば,被告人が運転していたとの推認が更に強まるといった関係にある。ウ
自身が運転していた旨のAの原審証言には,直ちに信用性を肯定し難い面が
あるものの,それだけで虚偽であるとまで断定することはできないが,以下のとおり,犯人とAとは別人と考えられると結論付けているC鑑定は信用することができ,Aの原審証言及びこれと符合する被告人の原審公判供述は,そのいずれもが虚偽であるといえる。
すなわち,C鑑定がその判断の基礎としているスーパーインポーズ法は,上記アのとおり,高い客観性・信頼性の担保された合理的な人物の異同識別の鑑定手法であり,C鑑定における,画像を重ね合わせる指標となる特徴点(計測点)の抽出方法や,座標でずれを数値化するという分析過程についても特に不合理な点は認められず,Cの鑑定人としての資質の高さや経験,知見の豊富さ等を考慮すれば,C鑑定の信用性は高いといえる。本件オービス写真とAの三次元形状データ画像とでは撮影条件が異なり,撮影日にも時間的な隔たりがあることなど,原審弁護人の主張する点を踏まえても,C鑑定の信用性に疑問を生じさせる事情は見当たらない。したがって,犯人とAとの同一性は否定される。

以上の検討を踏まえ,健全な社会常識に照らして判断すると,犯人は被告人
をおいて他にはいないことが合理的な疑いをいれない程度に証明されているといえる。
2
当裁判所の判断

(1)犯人と被告人の同一性について
原判決は,犯人と被告人とがおそらく同一人であると考えられると結論付けるB鑑定に高い信用性を認め,同鑑定のみに依拠して,犯人が被告人であると強く推認できるとしているところ(前記1(2)ア)
,この原判決の判断は是認することが
できない。その理由は,以下のとおりである。

はじめに

本件においては,画像等による顔貌の異同識別をした顔貌鑑定の信用性が問題とされている(なお,原判決もB及びCの各鑑定が信用できるか否かが重要となるとしているが,後記のとおり,重要となるのは各鑑定の証明力の程度である。原判決が,このような意味で顔貌鑑定の信用性を問題としているのかは必ずしも明確ではない。。一般に,画像等による顔貌の異同識別は,鑑定資料となる画像に撮影さ)
れている人物の状況,撮影現場の明暗等を含めた撮影条件,撮影された画質の程度等に様々なものがあるなかで行われると考えられ,また,異同識別の根拠となる個々の顔貌の特徴の固有性の程度等にも様々なものがあると考えられる。このように様々な鑑定資料等を用いて行われている顔貌鑑定による個人の識別については,その前提となる鑑定資料の内容等に応じて,その証明力(識別力)の程度にかなりの幅が生じるものと考えられる。そうすると,顔貌鑑定については,鑑定の手法や分析過程等の合理性の検討を行うことは当然ではあるが,手法等に合理性があるというだけで顔貌鑑定に証明力(識別力)があるなどと速断することはできず,鑑定資料等がどのようなものであるかを具体的に踏まえた上で,特徴の一致等についての具体的な指摘内容を検討し,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を慎重に行うことが必要かつ重要であると考えられる。顔貌鑑定の評価に当たっては,DNA型鑑定や指紋による個人の識別に対する評価とは相当に異なる面があることを意識した検討が必要である。
そこで,以上を踏まえて,B鑑定に高い信用性を認めた原判決の判断過程を検討する。

原判決がB鑑定に高い信用性を認めたことについて

(ア)所論は,原判決がB鑑定の内容を根本的に誤解していると主張する。そこで,原判決の判断過程を検討する前提として,B鑑定の内容をみると,B鑑定は,①形態学的検査による異同比較を行った結果,本件オービス写真と被告人の運転免許台帳写真及び三次元形状データ画像との間で別人であることを明確に示す形態学的相違点は認められなかった一方で,複数の形態学的特徴所見が共通して得られた点,②

スーパーインポーズ法における合致度を総合的に考察した結果として,人物の
異同識別をおそらく同一人であると考えられるとするものである。(イ)原判決は,
顔貌鑑定の信用性を検討するに当たっては,当該鑑定がいかなる手法により,いかなる根拠に基づいて異同識別に関する結論を導いているのかについて分析することで,当該鑑定が鑑定人の主観を極力排し客観性が担保されたものになっているかを慎重に検討する必要があるとした上で,前記1(2)アのとおり,
B鑑定の中核を構成するスーパーインポーズ法は,画素を単位とした座標に顔の特徴点(計測点)を置き,そのずれを数値化して分析するというもの特徴,点(計測点)は合理的に抽出されており,その上で抽出した各点の全てが最も良く一致するように画像同士を重ね合わせ,座標でずれを数値化するという過程をとっているとし,スーパーインポーズ法の手法に合理性があり分析過程に不合理な点が認められないことを主たる根拠として,B鑑定の信用性が高いと説示している。しかしながら,B鑑定は,形態学的検査による異同比較も行っており,その結果も人物の異同識別の結論を導いた根拠としているのであるから,これを評価するに当たっては,形態学的検査による異同比較の手法や分析過程の合理性も検討する必要があるところ,原判決は,その検討をしないままB鑑定の信用性が高いと説示している。また,B鑑定で行われているスーパーインポーズ法は,上記説示とは異なり,画像を重ね合わせて目視等により確認したものである。B鑑定においては,本件オービス写真については不鮮明であるため,15の人類学的計測点(以下計測点という。
)を全く置くことができていないのであり,画像を重ね合わせた際の計測点の位置を座標で測り,そのずれを数値化するなどの過程もとられていない。したがって,原判決の上記説示は,所論のいうとおり,B鑑定で行われているスーパーインポーズ法の手法及び分析過程を正解しない不可解な説示といわざるを得ない(以上の点は,後記(2)ア(ア)のとおり,C鑑定に関する原判決の説示についても同様に当てはまる。。

(ウ)そして,原判決は,B鑑定において行われたスーパーインポーズ法について,上記のような不可解な説示をするだけで,それ以外に,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を十分に行ったとみられる説示はしていない。なお,この点に関しては,原判決は,①

鑑定結果の客観性・普遍性が担保されていない

との原審弁護人の主張を排斥する判断を示す部分において,
スーパーインポーズ法が科学捜査研究所において一般的に実施されている手法であり,一定の研修を受けた者が統一化された機材やソフトウェアを用いて鑑定を行う資料に現れてい,ない情報は判断の基礎としないこと,比較対照する画像に映っている人物同士が別人であると考えないと説明がつかないような相違点が一つでも存在すれば,別人と判断することといった厳格な基準に基づき,いわば一定の資格,条件に基づき,誰が行っても同一の結果が得られるような客観的な分析方法により鑑定人の主観を極力排するような手法で鑑定を実施しているのであり,鑑定結果には客観性・信頼性が備わっているといえるなどと説示し,②
比較対照の前提に問題があるとの原

審弁護人の主張を排斥する判断を示す部分において,B鑑定が証拠価値を有している理由として,
本件オービス写真の画像が必ずしも鮮明ではないことや撮影角度等の影響から異同識別上の検査項目にはおのずと制約があり,顔貌の諸形態を詳細に把握することが困難であることは自覚しつつも,そのような制約がある中においても,別人であることを明確に示す形態学的相違点が認められない一方で,確立されたスーパーインポーズ法による合致度を総合的に考察して導き出せる確かな結論としては,最高水準である『同一人であると考えられる』との判断までには至らないものの,『おそらく同一人であると考えられる』との限りにおいては同一性が肯定できる,として分析結果に即した控えめな判断をしていると説示している。しかしながら,①の説示は,スーパーインポーズ法の手法や顔貌鑑定に関する科学捜査研究所での一般的取扱い,抽象的基準の一部,鑑定に当たっての姿勢をもって,鑑定結果に客観性・信頼性が備わっているといっているにすぎないし,②の説示は,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価というよりは,鑑定人の判断姿勢等を論じているにすぎず,いずれの説示も,鑑定の手法等の合理性について検討した説示とみることはできるが,本件における鑑定資料がどのようなものであるかを踏まえた上で特徴の一致等についての具体的な指摘内容を検討して,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価をした結果の説示とみることはできない。
結局,原判決は,本件において行うべき証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を行っているとはみられない(原判決のいうようないかなる根拠に基づいて異同識別に関する結論を導いているのかについて分析をした形跡はうかがえない。また,
鑑定人の主観を極力排し客観性が担保されてものになっているのかを慎重に検討することが,証明力(識別力)の程度についての評価にどのように影響すると考えているのか明らかでないけれども,少なくとも証明力(識別力)の程度に関わるような検討が行われた形跡もうかがえない。。

(エ)そもそも,B鑑定の資料となった本件オービス写真は,Bも認めるとおり画質が低く,不鮮明なものであるといわざるを得ないもので,鑑定資料の質は低い(後記のとおり,Cは,本件オービス写真の画質が低いため形態学的検査をほとんど行えなかった旨証言している。。また,そのことに起因するものであるが,本件)
オービス写真と被告人の運転免許台帳写真及び頭顔部の三次元形状データ画像とを見比べてみても,際立った特徴等の一致がみられるわけではなく,これらの写真及び画像を対比しただけで,常識に照らして,本件オービス写真に写る人物が被告人と相当程度似ているなどとはいえない。したがって,本件においては,前提となる鑑定資料の質が顔貌鑑定の証明力(識別力)の程度にかなりの幅を生じさせることを踏まえて,特徴の一致等についての具体的な指摘内容の検討を相当慎重に行うことが必要不可欠であるというべきである。この点,原判決は,原審弁護人が本件オービス写真は極めて不鮮明な画質であり,各部の境界は極めて曖昧であるなどとして比較対照の前提に問題があるなどと主張したのに対し,
一般論として科学捜査研究所における顔貌の異同識別鑑定に当たっては,鑑定困難な資料は鑑定嘱託を受けないことが原則とされていることからすれば,本件オービス写真は一応鑑定資料たり得る画像の鮮明度は備わっていることが前提とされていると説示している。しかしながら,この説示は,科学捜査研究所の行った鑑定の資料の適格性について,同研究所が鑑定しているから適格性があるとしているだけであり,説得力を欠く。やはり,本件において,顔貌鑑定の証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価は不可欠である。
(オ)そうすると,原判決は,B鑑定について,異同識別の結論を導く根拠の一部であり,中核を構成するというスーパーインポーズ法の手法に合理性があり分析過程に不合理な点は認められないという点を主たる根拠としてその信用性が高いとしているとみざるを得ないところ,上記のとおり,原判決が根拠とするところは,B鑑定で行われているスーパーインポーズ法の手法及び分析過程を正解しない不可解なものであって手法の評価に重大な誤りがある上,原判決は,B鑑定を評価するに当たって行うべき証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を行うことなく,専ら手法等の合理性を根拠としてB鑑定の信用性が高いとの評価を行ったものであって,このような原判決の判断は不合理であり,そのまま是認することができない。

B鑑定の証明力(識別力)について
形態学的検査・スーパーインポーズ法とも手法等に明らかに合理性がないとはいえない。そこで,B鑑定において行われた形態学的検査及びスーパーインポーズ法について,所論がB鑑定に信用性がないとして,形態学的識別が不可能な画質であること,画像の重ね合わせ処理にも問題があること,定量的・定性的な基準を提示していないことなど,種々主張していることを踏まえつつ,証明力(識別力)の程度について分析,検討及び評価するという,原判決において検討が行われているとはみられない観点から検討する。
(ア)まず,科学警察研究所の技官であるCが,同人が行った鑑定において本件オービス写真の画質が低いため形態学的検査をほとんど行えなかった旨証言していることも踏まえると,B鑑定のうち形態学的検査の部分は重視することはできない。Bも,鑑定書において,不鮮明な画質等の影響から,顔面各部の形態学的所見を詳細に把握することは困難であったため,観察可能な範囲内で異同比較を行ったとしているところ,①

眉外側については,不鮮明な画質の影響から,不詳である,②
眼部については,不鮮明な画質の影響から,詳細な形態について言及し得ないなどとしているし,③

外鼻,口唇部及び耳介の形態の類似性や矛盾しないことを指摘

するに当たって,不鮮明な画質,撮影角度等の影響から,詳細な形態について言及し得ないと留保をしており,そもそも限定的な検査にとどまっていることが明らかである。そして,特徴の一致等についての指摘内容をみても,④
下顎角部の突出

の程度(比較的強い)及びオトガイ部の形状(緩やかな弧状)がおおむね類似し,⑤

頬骨部の突出の程度(中等度)及びペッヒの顔型分類(Ⅳ型(円型)に近い様
相)がおおむね類似し,⑥

外鼻の形態学的特徴所見(鼻翼の張り出しの程度,鼻

尖の形状を主とした全体観)が共通し,眉(形状,走向,叢生状態),眼部(眼瞼
裂の走向)等その他の部位についても類似ないし矛盾しない,というものであり,Bの原審証言を前提としても,鑑定人の主観的判断が入ることが否めないし,所論も指摘するように各特徴の固有性の程度等も不明であり,少なくとも,ほくろや傷の位置,形状といった特異な特徴の類似性が指摘されているものではなく,むしろ,特異性の低い特徴の指摘にとどまっているといえる。したがって,これらの特徴の類似性を前提としても,B鑑定のうち形態学的検査に関する部分の証明力(識別力)はかなり低いというべきである。また,B鑑定は別人であることを明確に示す形態学的相違点が認められなかったという点を,おそらく同一人であると考えられると結論付ける論拠の一つとしているが,上記のとおり,眼部,外鼻,口唇部,耳介等に関し詳細な形態について言及し得ないとしている点は,それらの部分について形態学的相違がある可能性が否定できないことを示しているといえるから,この点を軽視することはできないのであり,
別人であることを明確に示す形態学的相違点が認められなかったという指摘部分を,証明力(識別力)を検討する上で過大に評価することはできない。
(イ)次に,B鑑定のうちスーパーインポーズ法の部分についても,本件オービス写真が不鮮明であり,三次元形状データ画像も撮影機器の制約から目を閉じたものである上,そのような限界のある資料を重ね合わせて目視等により確認したものにすぎない。また,その内容をみても,①

両眉,両眼部,外鼻,口唇部,両耳介等

の位置関係はおおむね合致した状態にあり,②
観の形状はおおむね合致しており,③

両眉,外鼻,口唇部,両耳介の概

前記の制約のなかで,三次元形状データ画

像に眼部以外の計測点を置いて本件オービス写真に重ねたところ,矛盾のない位置関係にあることが確認された,というものであり,位置関係や形状がおおむね合致しているという程度のものである上,眼については概観の形状についての判断には言及していないなど,顔の部位の全ての位置関係や形状が合致していると判断できたわけでもない。これらの重ね合わせの合致状況を前提としても,その証明力(識別力)は低く,犯人と被告人が同一であるとしても矛盾がないという程度にしか評価できないというべきである。
(ウ)このように,本件オービス写真の画質が低いことなど鑑定資料の質が低いことから,B鑑定における顔の部位の類似性についての評価は重視することができず,その内容をみても証明力(識別力)は低いといわざるを得ない上,画像の重ね合わせによる評価も,位置関係や形状がおおむね合致するという程度のものであり,合致した部分も限定的であることなどを踏まえると,B鑑定が指摘する特徴・重ね合わせの合致状況は,そのまま前提としたとしても,せいぜい犯人が被告人であるとしても矛盾はないという程度の価値を有する事実というべきである。B鑑定の指摘を踏まえて本件オービス写真と被告人の運転免許台帳写真及び頭顔部の三次元形状データ画像とを見比べてみても,明確な矛盾点があるとはいえないものの,本件オービス写真が不鮮明であり,特異な特徴の類似が指摘できるものではないことなどから,やはり犯人が被告人と相当程度似ているなどと評価することはできない。(エ)原判決は,前記のとおり,スーパーインポーズ法の手法の評価に誤りがある上,専ら手法等の合理性を根拠として,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価をしないままB鑑定の信用性を肯定している点で不合理なものであるが,証明力(識別力)の程度について分析,検討及び評価するという,原判決において検討が行われているとはみられない観点からB鑑定の内容を具体的に検討してみても,同鑑定の証明力(識別力)は低いというべきである。原判決は,B鑑定に高い信用性を認め,同鑑定のみに依拠して,犯人が被告人であると強く推認できるとしているから,同鑑定の証明力(識別力)を相当に高いとみているものとも理解できるが,そのような原判決の判断は是認することができず,したがって,B鑑定のみに依拠して犯人が被告人であると強く推認できるとした原判決の判断も是認することができない。所論は,この趣旨をいうものとして理由がある。エ
他の間接事実も併せた推認について

なお,原判決は,B鑑定のみによって犯人が被告人であると強く推認できるとしているが,前記のとおり,顔貌鑑定による個人の識別については,その証明力(識別力)の程度にかなりの幅が生じると考えられることにも照らすと,そもそも,本件において犯人と被告人の同一性を推認するに当たっては,顔貌鑑定以外の事情もよく踏まえる必要があるというべきであり,それらの事情を踏まえることなく,B鑑定のみに依拠して犯人と被告人の同一性が強く推認できるとした原判決の判断手法にも疑問がある。この点,原審検察官は,B鑑定により犯人が被告人であることが相当程度推認されることに加え,被告人の原審公判供述によれば,本件違反車両の使用者が被告人であることが認められ,この点は犯人が被告人であることを一定程度推認させるとし,これらを併せ考慮すれば,犯人が被告人であることが強く推認できると主張している。
そこで,この点についても検討すると,被告人の原審公判供述を含む関係証拠によれば,本件違反車両は,被告人の父親名義の車両であり,被告人が日常的に使用するものであったと認められる。しかしながら,被告人は,原審公判廷において,本件違反車両をAら友人に貸すなどして使用させることが頻繁にあった旨供述しており,これに反する証拠はない(Aは,原審公判廷において,この供述に沿う証言をしている。
)から,被告人が日常的に使用するものであったとは認められるものの,本件違反車両を運転する者が被告人しかいないとは認められない。したがって,本件違反車両の使用者が被告人であることは,原審検察官のいうとおり,犯人が被告人であることを一定程度推認させるにとどまる事情である。B鑑定により認められる事実は,前記のとおり,犯人が被告人であるとしても矛盾がないという程度の意味を持つにすぎないから,それと本件違反車両の使用者が被告人であるという事実を併せても,結局のところ,犯人が被告人であることが一定程度推認されるという程度にとどまるというべきである。
したがって,この点を検討しても,犯人が被告人であると強く推認できるとした原判決の判断はやはり是認することができない。
(2)犯人とAの同一性について
原判決は,B鑑定により犯人が被告人であると強く推認できることを前提に,①本件違反車両の運転者は事実上被告人かAのいずれかに絞ることができるとし,Aが運転者である可能性が否定されれば,被告人が運転していたとの推認が更に強まるとした上で(前記1(2)イ)
,②

犯人とAとは別人と考えられると結論付け

るC鑑定の信用性を認め,それに反するAの原審証言及び被告人の原審公判供述はいずれも虚偽であり,犯人とAの同一性は否定されるとしている(前記1(2)ウ)。
既に説示したとおり,B鑑定等により犯人が被告人であると強く推認することはできないから,犯人とAの同一性が否定されることをその推認を更に強める事情と位置付ける原判決の上記①の説示は前提を欠くことになるが,いずれにしても,原判決の上記②の判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。ア
原判決がC鑑定の信用性を認めたことについて

(ア)所論は,原判決がC鑑定の内容を根本的に誤解していると主張する。そこで,原判決の判断過程を検討する前提として,C鑑定の内容をみると,C鑑定は,本件オービス写真の画質は低く,全体ににじみが強く,顔の輪郭や顔面各部(眼,鼻,口等)の形状は不明瞭であるが,顔の輪郭のおおよその形状や顔面各部のおおよその位置は把握できるので,これらについて三次元形状データ画像との比較を試みた旨記載されていることなどからも明らかであるが,スーパーインポーズ法のみにより異同識別の判断をし(鑑定書に,B鑑定における形態学的検査に相当する記載はなく,同検査は異同識別の根拠となっていない。,両眼間の距離,下顎のオトガイ)
部下縁を含む全体的な形状,顔の上下方向の長さの違いが顕著であることを理由に,犯人とAとが別人と考えられるとするものである。
原判決は,C鑑定についても,B鑑定と同様に,
スーパーインポーズ法が,高い客観性・信頼性の担保された合理的な人物の異同識別の鑑定手法であるC鑑,定における,画像を重ね合わせる指標となる特徴点(計測点)の抽出方法や,座標でずれを数値化するという分析過程についても特に不合理な点は認められないと説示するが,C鑑定で行われているスーパーインポーズ法は,上記説示とは異なり,画像を重ね合わせて目視等により確認したものであり,計測点の位置を座標で測り,そのずれを数値化するなどの過程がとられていないことはB鑑定と同様であるから,この説示がC鑑定で行われているスーパーインポーズ法の手法を正解しない不可解な説示であることは,既に説示したところと同じである。そして,原判決は,C鑑定において行われたスーパーインポーズ法について,上記のような不可解な説示をするだけで,それ以外に,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を十分に行ったとみられる説示はしていない。なお,この点に関しては,原判決は,原審弁護人が撮影位置,焦点距離等の撮影条件が異なる写真を用いて鑑定が行われていることから信用性が乏しい,撮影日に時間的な隔たりがあり顔の輪郭等が変化している可能性が高いとして,C鑑定の信用性を争った点について,Cの説明に合理性があるとか,判断過程に誤りはないなどと説示している。しかしながら,前者の説示は,飽くまでCが行った鑑定の前提資料に問題がないこと,後者の説示は,眼,鼻,口,耳等の部位の位置関係までもが根本的に変容することは考えられないという一般論によるだけで,それ以上に判断過程の中身に立ち入ることをしないまま,C鑑定の判断過程に誤りがあるとはいえないと説示するにとどまるものであって,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を行った結果の説示と読み取ることはできない。
結局,原判決は,C鑑定についても,本件における鑑定資料がどのようなものであるかを踏まえた上で特徴の不一致等についての具体的な指摘内容を検討し,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価をしているとみることはできない。
(イ)B鑑定の検討の際に説示したとおり,そもそも本件オービス写真は,画質が低く,不鮮明なものであるところ,C鑑定においては,B鑑定が前提としたものよりも更に画質が低い画像が利用されており(当審における検察官の主張によれば,C鑑定においては,本件オービス写真のうち,車両全体が写っている写真から運転者の顔を拡大して使用したため,所論のいうとおり,B鑑定が前提としたものよりも更に画質が低いということになる。,鑑定資料の質はやはり低い。また,そのこ)
とに起因するものであるが,本件オービス写真とAの頭顔部の三次元形状データ画像及び運転免許証の写真(原審弁12。平成27年10月28日交付のもの)とを見比べてみても,特徴等の明らかな不一致があるとはいい難く,これらの写真及び画像を対比しただけで,常識に照らして,本件オービス写真に写る人物がAでないなどとはいえない。したがって,C鑑定についても,前提となる鑑定資料の質が顔貌鑑定の証明力(識別力)の程度にかなりの幅を生じさせることを踏まえて,特徴の不一致等についての指摘内容の検討を相当慎重に行うことが必要不可欠であるというべきである。
そうすると,原判決は,C鑑定について,そこで行われたスーパーインポーズ法の手法に合理性があり分析過程に不合理な点が認められないという点を主たる根拠として,その信用性が高いとしているとみざるを得ないところ,上記のとおり,原判決が根拠とするところはC鑑定で行われているスーパーインポーズ法の手法及び分析過程を正解しない不可解なものであって手法の評価に重大な誤りがある上,原判決は,C鑑定を評価するに当たって行うべき証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価を行うことなく,専ら手法等の合理性を根拠としてC鑑定の信用性が高いとの評価を行ったものであって,このような原判決の判断は不合理であり,そのまま是認することはできない。

C鑑定の証明力(識別力)について

スーパーインポーズ法の手法等に明らかに合理性がないとはいえない。そこで,C鑑定において行われたスーパーインポーズ法について,所論がC鑑定に信用性がないとして,鑑定資料に致命的な問題があること,正確な計測点を置けていないこと,顔画像が一致していないという鑑定に意味がないことなど,種々主張していることを踏まえつつ,証明力(識別力)の程度について分析,検討及び評価するという,原判決において検討が行われているとはみられない観点から検討する。(ア)C鑑定においては,前記のとおり,スーパーインポーズ法のみにより異同識別の判断をしている。そして,C自身,通常は,現場画像にパースの影響やレンズ形状に起因する歪みの影響等があることを考慮し,重ね合わせの合致度に偏重することなく,輪郭や顔面各部の位置や形状の類似性・相違性を加えた総合的な評価を行う旨,鑑定書に記載しているように,科学警察研究所における顔貌鑑定では,通常,形態学的検査とスーパーインポーズ法を総合して異同識別をしているところ,C鑑定では,本件オービス写真の画質が相当に低いという鑑定資料の限界があるなかで,スーパーインポーズ法のみによって異同識別をしているものである。したがって,Cがいうように,本件オービス写真にレンズによる歪み等がほとんどなかったとしても,その判断や結論の妥当性については,鑑定資料の質が低いという限界があることを踏まえて,より一層慎重に検討せざるを得ない。
(イ)C鑑定は,スーパーインポーズ法のみに依拠せざるを得ないものの,両眼間の距離,下顎のオトガイ部下縁を含む全体的な形状,顔の上下方向の長さの違いが顕著であることを理由に,犯人とAとが別人と考えられると判断している。しかしながら,本件オービス写真は画質が低く,全体的にかなりぼやけたものであって,Cのいうように,輪郭のおおよその形状や顔面各部のおおよその位置は把握できたとしても,その形状や位置を厳密に把握できるようなものとは思われない(したがって,本件オービス写真に計測点を置くことは不可能である。。耳については,)
画質が低いことに加え,髪により一部隠れているように見えることもあって,その形状を正確に把握できるとは思われない。このように,輪郭のおおよその形状や顔面各部のおおよその位置が把握できる程度の不鮮明な画像との対照による異同識別には,確実性について限界があることが明らかである。また,Cは,三次元形状データ画像との重ね合わせを左右外耳の位置を基準として行っているところ,原審公判廷において,本件オービス写真の輪郭がぼやけていて明確な点が置けなかったため,頬骨弓幅で合わせるという通常よく行われる方法ではなく,おおむね全体像が捉えられた耳で合わせて対応したと証言しており,画像の重ね合わせにおいても本件オービス写真の画質の低さによる限界があったとうかがわれるし,上記のとおり,そもそも耳の全体像がおおむね捉えられるといえるかも疑問であり,これらの影響により,三次元形状データ画像に置いた計測点と本件オービス写真の該当部位と思われる部分に画像上ずれが生じる可能性も否定はできないと思われる。その上でC鑑定の指摘をみると,確かに,両眼の位置(内・外眼角点)はAの三次元形状データ画像よりも本件オービス写真の方がやや外側にあるようにみえるし,顔の輪郭(左右の下顎角点)や上下方向の長さ(オトガイ点)についても若干異なるようにみえるが,本件オービス写真が全体的にかなりぼやけたものであって,計測点も置くことができていないことから,その差異は必ずしも明確ではないといえる。また,本件オービス写真が不鮮明で,運転者の表情は明確に把握できず,化粧の状況等も全く分からないことや,本件オービス写真の撮影日とAの三次元形状データ画像の撮影日に3年7か月余りもの隔たりがあること(なお,Aは,原審公判廷において,本件当時から身長が約3cm伸び,体重が約5kg増えたと証言しており,これに反する証拠はない。
)も考慮すると,三次元形状データ画像に置いた計測点
が体重変化等の影響を受けにくい部分であることなど,Cの原審証言を踏まえても,本件オービス写真の画質が低いことに,表情,化粧の状況,体重等の変化等の要因も相まって,画像上多少のずれが生じる可能性も否定できないように思われる。これを具体的にいうと,Aの運転免許証の写真(前記のとおり,平成27年10月28日交付のもの)と三次元形状データ画像(前記のとおり,平成30年9月4日撮影のもの)とでは眼の形状や顔の輪郭等の印象が異なることも考慮すると,取り分け,眼の形状については,表情や化粧の状況等による影響が,顔の輪郭や上下方向の長さについては,体重の変化等による影響が,それぞれ否定できないと思われる。Cの原審証言によっても,上記の種々の要因により,Cの指摘するようなずれが画像上生じているのではないかという疑問が解消されているとはいい難い。そうすると,少なくとも,C鑑定がいうように,顔型及び両眼間の距離に関する相違が顕著であると評価するには疑問が残る。C鑑定の指摘を踏まえて本件オービス写真とAの頭顔部の三次元形状データ画像及び運転免許証の写真とを見比べてみても,特徴等の明らかな不一致があるとまではいい難いことなどから,やはりこれらが明らかに別人であると評価することはできない。したがって,C鑑定が指摘する点のみをもって犯人とAとが別人であると断定することには疑問の余地がある。(ウ)他方で,本件違反車両をAが運転していたことについて,折尾でAを含む友人らと集まった後,友人の男性を福岡の方まで送ることになったが,眠たくて早く帰りたかったので,ガソリン代が掛かることを考慮し,被告人の車を使っていいから送ってほしいとAに依頼したなどと説明する被告人の原審公判供述に,信用性に疑問を抱かせるような点は特段見当たらない。原判決は,捜査機関に対して犯人がAであることを申告せず,起訴されるまでAに事情を確認するなどしていない被告人の行動は,身に覚えのない嫌疑をかけられた者の行動としてはそぐわない行動であるというが,捜査機関から本件オービス写真を見せられてAだと思ったが,運転をさせたAへの負い目等からAには言い出せず,Aをかばう気持ちもあって取調べでは運転者が誰か分からない旨供述し,携帯電話で調べるなどして3年で時効にかかると知っていたので,起訴されることが分かった平成29年12月頃にAに話した,などという被告人の原審公判供述が不合理であるとはいえない。また,Aの原審証言は,本件違反車両をAが運転して友人の男性をD駅まで送ったという経緯について,被告人の原審公判供述とおおむね整合する内容となっている。同証言には,Aの車の調子が悪かったとする点が,本件後にAが自身の車を使用して遠方まで赴いていることと齟齬することなど,原判決が説示するような疑問点もなくはないが,原判決もいうように,それらの点から直ちに証言の信用性が否定されるものではない。なお,原判決は,Aに偽証罪で訴追される不利益を上回る利益があると考えれば,虚偽の証言をすることはある以上,訴追のリスクがあるからといって直ちに虚偽証言の動機がないとはいえないというが,そのような利益は容易には想定し難い。(エ)本件では,C鑑定を除いては,本件違反車両をAが運転していたことを否定するような証拠はないから,原判決のように,専らC鑑定に依拠して,Aの原審証言及び被告人の原審公判供述を虚偽であるとして排斥し,犯人とAの同一性を否定するには,C鑑定が,犯人がAであるという疑いをいれる余地がないという程度に確かなものでなければならないはずである。しかしながら,顔貌の異同識別において,同一人と判断する場合と別人と判断する場合ではその評価に異なる面があり得ることを踏まえても,既に検討したとおり,C鑑定によっても,なお犯人がAであるという疑いをいれる余地があるというべきである。前記(ウ)のとおり,Aの原審証言及び被告人の原審公判供述がそれ自体で信用できないものとはいえないことも考慮すると,C鑑定によって,犯人がAであるとするAの原審証言及び被告人の原審公判供述を虚偽であると断定することはできず,結局のところ,それらを信用できないものとして排斥することはできないというべきである。
(オ)原判決は,前記のとおり,スーパーインポーズ法の手法の評価に重大な誤りがある上,専ら手法等の合理性を根拠として,証明力(識別力)の程度についての分析,検討及び評価をしないままC鑑定の信用性を肯定している点で不合理なものであるが,証明力(識別力)の程度について分析,検討及び評価するという,原判決において検討が行われているとはみられない観点からC鑑定の内容を具体的に検討してみても,同鑑定によっても,なお犯人がAであるという疑いをいれる余地があるというべきである。原判決は,C鑑定の信用性を肯定し,同鑑定のみによって,Aの原審証言及び被告人の原審公判供述を虚偽であると判断しているから,同鑑定の証明力(識別力)を犯人がAであるという疑いをいれる余地がないという程度に確かなものとみているものとも理解できるが,そのような原判決の判断は是認することができず,したがって,C鑑定のみによって,Aの原審証言及び被告人の原審公判供述を虚偽であると判断し,犯人とAの同一性を否定した原判決の判断も是認することができない。所論は,この趣旨をいうものとして理由がある。(3)犯人が事実上被告人かAに絞られるとする点について
なお,原審検察官は,本件の証拠関係の下では,犯人は,被告人かAかの二者択一であり,犯人がAである可能性を明確に排斥できる以上,犯人が被告人であると認定できる,などと主張している。しかしながら,前記(2)のとおり,C鑑定によっても犯人がAである可能性を排斥することはできないから,この主張は前提を欠くものである。また,原判決が,客観的状況からすると,犯人が被告人か同人に近しい女性であると考えるのが合理的であると説示するように,本件では,客観的状況等から,被告人かA以外に犯人となり得る人物が想定できないとまで認められるわけではない。本件で消去法的な認定が妥当するかのようにいう原審検察官の主張にも直ちに賛同することはできない。
(4)結論
以上のとおり,B鑑定により被告人が犯人であると強く推認し,C鑑定により犯人がAであるとするAの原審証言及び被告人の原審公判供述を排斥し,犯人とAの同一性を否定した原判決の判断はいずれも是認することができず,これらの点を総合して犯人が被告人であると認定した原判決の判断も是認することができない。また,B鑑定により認められる事実に,本件違反車両の使用者が被告人であるという事実を併せても,犯人が被告人であることが一定程度推認されるという程度にとどまり,犯人とAの同一性が否定されるともいえず(もとより,消去法的に犯人が被告人であると認定することもできない。,そのほか,記録を調査検討しても,)
被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない,あるいは,少なくとも説明が極めて困難である事実関係を認めることはできない。犯人が被告人であると認めた原判決の事実認定は,顔貌鑑定の証明力(識別力)の評価を誤るなどした結果,論理則,経験則等に照らして不合理な判断をしたものといわざるを得ず,関係証拠を総合しても,犯人が被告人であることが合理的な疑いをいれない程度に立証されているとはいえない。原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。
事実誤認をいう論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
第2

破棄自判

よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して被告事件について更に判決する。
本件公訴事実の要旨は,前記第1の1(1)のとおりであるところ,前記第1の2のとおり,同事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。令和元年11月14日
福岡高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

野島秀夫
裁判官

潮海二郎
裁判官

設樂大輔
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