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損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)1004
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年11月14日
法廷名東京地方裁判所  立川支部
結果棄却
裁判日:西暦2019-11-14
情報公開日2019-11-27 16:00:12
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平成30年(ワ)第1004号

損害賠償請求事件(以下第1事件という。


平成30年(ワ)第1539号

損害賠償請求事件(以下第2事件という。


以下においては,第1事件原告ら及び第2事件原告らを単に原告らといい,また,第1事件被告兼第2事件被告を単に被告という。
主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告は,原告らに対し,それぞれ50万円を支払え。

第2

事案の概要
本件は,原告らが,夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定める戸籍法74条1号の規定
(以下,
併せて
本件各規定
という。は,

憲法14条1項,
24条及び日本が批准した国際人権条約に違反すると主張し,

本件各規定を改廃する立法措置を採らないという立法不作為の違法を理由に,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める事案である。1
前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)



当事者

原告A及び原告B(以下,両者を併せて原告Aらという。
)は,平成
30年●月●日,●市役所において,同市長に対し,婚姻届の夫になる人の欄に原告Bの氏名を,妻になる人の欄に原告Aの氏名を記入し,
婚姻後の夫婦の氏の欄の夫の氏及び妻の氏の双方にチェック

を入れ,
夫は夫の氏,妻は妻の氏を希望しますと明記して提出したが,
同市長は,同年●月●日,本件各規定に違反するとの理由で,不受理処分とした(甲3の1,4の1)

原告Aらは,いずれも婚姻の意思を有し,平成12年●月に同居を開始し(甲2の1)
,原告Aが出産するに当たっては,子を嫡出子として届け出
るため,出産前に婚姻し,出産後に離婚している(甲1の1,2)。原告A
は看護師,原告Bは会社員である。


原告C及び原告D(以下,両者を併せて原告Cらという。
)は,平成
30年●月●日,●事務所において,●市長に対し,婚姻届の夫になる人の欄に原告Dの氏名を,妻になる人の欄に原告Cの氏名を記入し,
婚姻後の夫婦の氏欄の夫の氏及び妻の氏の双方にチェックを
入れ,
夫は夫の氏,妻は妻の氏を希望しますと明記して提出したが,同

市長は,同月●日頃,本件各規定に違反するとの理由で,不受理処分とした(甲3の2,4の2)

原告Cらは,いずれも婚姻の意思を有し,平成22年●月に同居を開始し,原告Cが出産するに当っては,出産前に婚姻し,出産後に離婚したほか,所得税及び住民税の配偶者特別控除を受けるなどのために,婚姻し,
離婚した(甲1の4)
。原告Cは会社員,原告Dは大学の准教授である。

原告F及び原告E(以下,両者を併せて原告Fらという。
)は,夫婦
別氏での婚姻を希望する者である。
原告Fらは,
いずれも婚姻の意思を有し,
昭和58年に同居を開始した。
原告Fは,平成8年●月●日に,原告Eとの間の子3人を認知した(甲1
の6)
。原告Eは会社員である。


関係法令の定め等

民法750条は,

夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。

と規定し,①夫婦の氏は,婚姻の際に夫婦の協議によって定
められること及び②その氏は,夫又は妻のいずれかが婚姻前に称していた氏から選択する必要があることを定めている。
民法739条1項は,

婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。

と規定し,戸籍法74条1号は,婚姻の届出において夫婦が称する氏を必要的記載事項としている。

法制審議会は,平成8年2月26日,民法750条の改正案として,婚姻の際に定めるところに従い,夫若しくは妻の氏を称し,又は各自の婚姻
前の氏を称するものとするという,いわゆる選択的夫婦別氏制度を提案する内容を含んだ民法の一部を改正する法律案要綱
(以下法律案要綱
という。を公表した

(甲13)この法律案は国会に提出されなかった。
が,

市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下自由権規約という。日本は昭和54年に批准し,
同年9月21日に日本について発効した。は,

この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。と規定し(2条1項)

この規約の各締約国は,次,のことを約束する。

として(同条3項)救済措置を求める者の権利が権,限のある司法上,行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。(同項(b))を挙げている。

また,同規約3条は,

この規約の締約国は,この規約に定めるすべての市民的及び政治的権利の享有について男女に同等の権利を確保することを約束する。

と規定し,同規約17条1項は,

何人も,その私生活,家族,住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。

と規定し,同規約23条は,

家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国による保護を受ける権利を有する。(同条1項)「婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ


家族を形成する権利は,認められる。(同条2項)婚姻は,両当事者の,
自由かつ完全な合意なしには成立しない。(同条3項)この規約の締約,
国は,婚姻中及び婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとる。(同条4項)と規定する。」

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下女子差別撤廃条約という。日本は昭和60年に批准し,同年7月25日に日本について発効した。
)は,同条約適用上の女子に対する差別の意義につい
て,
この条約の適用上,「女子に対する差別とは,性に基づく区別,排除又は制限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のいかなる分野においても,女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)

が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し,享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。と規定」
し(1条)
,さらに,

締約国は,女子に対するあらゆる形態の差別を非難し,女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により,かつ,遅滞なく追求することに合意し,及びこのため次のことを約束する。と規


定し(2条柱書)
,この約束の対象として,

女子に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。(同条(f)

)を挙げている。
また,同条約16条1項は,

締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。

と規定した上,同項(b)で自由に配偶者を選択し及び自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利,同項(g)で

夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。

と規定している。)


最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決
最高裁判所は,平成27年12月16日,民法750条の憲法13条,14条1項及び24条の適合性について,要旨,以下のとおり判示し,民法750条はこれらの憲法の規定のいずれにも違反しないと判断した(最高裁平成26年(オ)第1023号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586頁。以下平成27年最高裁判決という。なお,次のアないしウにおいて,本件規定とは,民法750条を指す。。


憲法13条適合性
氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構
成するものというべきである(最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁(以下昭和63年最高裁判決という。)参照)

しかし,氏は,婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから,氏に関する上記人格権の
内容も,憲法上一義的に捉えられるべきものではなく,憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられるものである。
したがって,具体的な法制度を離れて,氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し,違憲であるか否かを論ずることは相当では
ない。
そこで,民法における氏に関する規定を通覧すると,人は,出生の際に,嫡出である子については父母の氏を,嫡出でない子については母の氏を称することによって氏を取得し(民法790条)
,婚姻の際に,夫婦
の一方は,他方の氏を称することによって氏が改められ(本件規定),離

婚や婚姻の取消しの際に,婚姻によって氏を改めた者は婚姻前の氏に復する(同法767条1項,771条,749条)等と規定されている。また,養子は,縁組の際に,養親の氏を称することによって氏が改められ
(同法810条)離縁や縁組の取消しによって縁組前の氏に復する,
(同
法816条1項,808条2項)等と規定されている。
これらの規定は,氏の性質に関し,氏に,名と同様に個人の呼称としての意義があるものの,名とは切り離された存在として,夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。
そして,
家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから,
このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起さ
せるものとして一つに定めることにも合理性があるといえる。
本件で問題となっているのは,婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。

氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえない
ところ,上記のように,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。

以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。本件規定は,憲法13条に違反するものではない。

憲法14条適合性
憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを
禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)

そこで検討すると,本件規定は,夫婦が夫又は妻の氏を称するものとし
ており,夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒
的多数を占めることが認められるとしても,それが,本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。
したがって,本件規定は,憲法14条1項に違反するものではない。ウ
憲法24条適合性
婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条,14条1項に違反しない場合に,更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざ
るを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。
以上の観点から,本件規定の憲法24条適合性について検討する。a
婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は,旧民法(昭和22年法律第222号による改正前の明治31年法律第9号)の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され,我が国の社会に定着してきたものである。前記のとおり,氏は,家族の呼称としての意
義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
そして,夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を
有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また,家族を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員である
ことを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに,夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。加えて,前記のとおり,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を
称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。
b
これに対して,夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ,婚姻によっ
て氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。さらには,夫婦となろうとする者のい
ずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために,あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。
しかし,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような
氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。c
以上の点を総合的に考慮すると,
本件規定の採用した夫婦同氏制が,
夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって,
本件規定は,憲法24条に違反するものではない。


最高裁平成27年12月16日大法廷判決後の事情等

総務省統計局が実施した平成29年就業構造基本調査によれば,次の事実が認められる(甲47の1)


女性の有業率
(15歳以上の人口に占める有業者の割合)
は全体で50.
7%となり,平成24年の同調査(以下平成24年基本調査という。)
における48.2%から2.5%上昇した。また,労働年齢である15歳ないし64歳の女性の有業率は68.5%であり,平成24年基本調査を5.4%上回り,過去最高となった。女性の全ての年齢階級において有業
率が上昇し,25歳ないし29歳は81.2%,30歳ないし34歳は74.
0%,
35歳ないし39歳は72.
9%,
40歳ないし44歳は76.
9%とそれぞれ5.8%ないし6.2%上昇した。
共働き世帯の割合は,全国で48.8%であり,平成24年基本調査の45.4%と比べ,3.4%上昇した。出産,育児を理由にした離職者の人数は,平成24年基本調査に比べ,23万1000人減少し,育児をしている女性の有業率は平成24年基本調査と比べ全ての年齢階級で上昇
した。

平成27年から平成29年までにおける平均初婚年齢は,各年とも男性31.1歳,女性29.4歳である(甲49)



内閣府が,平成24年12月及び平成29年12月に実施した家族の法制に関する世論調査の結果は次のとおりである(以下,平成24年に実施した調査を平成24年世論調査といい,平成29年に実施した調査を平成29年世論調査という(甲38))
。。
現在は,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっているが,『現行制度と同じように夫婦が同じ名字(姓)を名乗ることのほか,夫婦が希望する場合には,同じ名字(姓)ではなく,それぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めた方がよい。』という意見がある。このような意見について,どのように思うかとの問いについて,次の①ないし③及びわからないとの選択肢を設けたところ,①婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はないを選択した者の割合は,平成24年世論調査では36.4%,平成29年世論調査では29.3%であり,②夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわないを選択した者の割合は,平成24年世論調査では35.5%,平
成29年世論調査では42.5%であり,③夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては,かまわないを選択した者の割合は,平成24年世論調査が24.0%,平成29年世論調査が24.4%であった。
夫婦・親子の名字(姓)が違うと,夫婦を中心とする家族の一体感(きずな)に何か影響が出てくると思うかとの問いに対して,影響がないと思うと回答した者の割合は,平成24年世論調査では59.8%,平成29年世論調査では64.3%であった。

内閣府が,
平成28年8月25日から同年9月11日までに実施した
男女共同参画社会に関する世論調査
では,
女性が職業を持つことについて,
子供ができても,ずっと職業を続ける方がよい
と回答した者の割合は,
54.2%(平成26年8月に実施した女性の活躍推進に関する世論調査では44.8%)であり,子供ができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよいと回答した者の割合は,
26.
3%
(同31.

5%)であり,
子供ができるまでは,職業をもつ方がよいと回答した者
の割合は,8.4%(同11.7%)
,であり,
結婚するまでは職業をもつ方がよいと回答した者の割合は,4.7%(同5.8%)であった(甲51)

また,同調査では,
夫は外で働き,妻は家庭を守るべきであるという

考え方について,賛成と回答した者の割合は,40.6%(同44.6%)であり,反対と回答した者の割合は,54.3%(同49.4%)であった。
反対の理由については,
固定的な夫と妻の役割分担の意識を押しつけるべきではないからと回答した者の割合は,52.8%(同48.5%)であり,
妻が働いて能力を発揮した方が,個人や社会にとって良いと思うからと回答した者の割合は,46.8%(同42.6%)であり,男女平等に反すると思うからと回答した者の割合は,38.4%(同35.7%)であった(甲51)


平成27年12月18日から令和元年7月5日までに42の地方議会において,選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見書が採択され,平成31年1月10日までに19の地方自治体の議会から衆議院議長,参議院議長,内閣総理大臣,総務大臣,法務大臣等に宛てて意見書が提出されている(甲43
の1の1,甲43の2ないし17,甲52の1・2,甲53の1・2,甲79の1ないし11,甲99の1ないし12,弁論の全趣旨)


平成30年の女性活躍加速のための重点方針2018において,

社会における活動や個人の生き方が多様化する中で,働きたい女性が不便さを感じ,働く意欲が阻害されることのないよう,女性活躍の視点に立った制度等を整備していく必要がある。,

選択的夫婦別氏制度の導入に関し,平成29年12月に実施した家族の法制に関する世論調査の結果について分析を加え,引き続き検討を行う。

と明示された(甲56の4)。

婚姻前の氏の使用について,次の事情がある。
金融庁は,平成28年3月1日,金融庁への役員等の指名届出等に係る内閣府令等及び監督指針の改正を行い(同日公布,施行)
,金融機関が同庁
に対して,各種申請をする際,役員の氏名を記載する場合に,希望により戸籍名と婚姻前の氏を併記することができるようになった。さらに,改正により,平成29年4月には,前記のとおり併記が可能とされている書類
の一部につき,婚姻前の氏のみを使用することが可能となった。
平成31年4月17日,居住する市町村への届出により,住民票と個人番号カードに旧姓を併記できることを規定する政令が公布され,令和元年11月5日から施行されることとなった(甲93)

外務省は,平成29年9月14日,旅券への旧姓の併記の要件を緩和し
た(甲58の2)

平成29年5月現在における内閣府による調査では,事実上の運用で許容されているものを含めると,14の国家資格で旧姓の使用が可能との結果が示された(甲60)

平成29年7月,政府は,全国銀行協会に対し,可能な限り円滑に旧姓での口座開設が行えるよう協力を求めた
(甲62の1)全国銀行協会のウ

ェブサイトには,
旧姓で口座を維持する場合に関し,

ペイオフで保証される場合,現在の名前と口座が違えば本人とみなされない場合があります。定期預金なども下ろす時本人確認が必要となります。

などの記載がある(甲62の3)

国家公務員全般については,平成13年7月,各省庁人事担当課長会議申合せによって旧姓の使用が認められていたが,平成29年9月1日,国
家公務員が政府の公文書に名前を記載する際,旧姓使用を全面的に認めることとされた(甲63)
。最高裁判所は,平成29年7月3日,同年9月1
日から職場における呼称,
裁判関係文書等26項目の職務に関する文書
(給
与の支給及び共済組合の義務に関する文書を除く。について,

旧姓使用を
希望する者があらかじめ申出書を提出する方法で申し出て,所属庁の長か
ら旧姓使用通知書による通知を受けた場合には旧姓を使用することができることとした(甲64)
。平成30年7月1日現在,旧姓を使用する裁判官
は49人,裁判官以外の職員は279人である。また,最高検察庁は,平成29年10月1日以降,起訴状等の対外的な文書においても旧姓使用を認めている。

2
争点


民法750条及び戸籍法74条1号を改廃しなかったという立法不作為の違法性の有無(争点①)

(原告らの主張)
本件各規定は,憲法14条1項,24条,自由権規約,女子差別撤廃条約に違反するものであることが明白であり,それにもかかわらず,国会が正当な理由なく,長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っているから,国家賠償法1条1項の適用上,違法である。その理由は次のとおりである。ア
本件各規定が夫婦別氏を希望する者の婚姻を制約していること
民法750条は,民法第四編第二章第二節の婚姻の効力として夫婦同氏を定め,平成27年最高裁判決も,民法750条は,
婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではないとする。しかし,同法739条1項,742条2号の届出婚主義の下,戸籍法74条1号において夫婦が称する氏が婚姻届の必要的記載事項とされていることによって,婚姻の際に夫婦が称する氏を選択しなければならない
とされており,実際には婚姻の要件となっている。仮に要件でないとしても,夫婦同氏が婚姻の事実上の制約になっていることは,平成27年最高裁判決も認めており,本件各規定は,夫婦別氏を希望する者の婚姻を制約しているというべきである。

憲法14条1項に違反すること
夫婦双方が婚姻後も継続して生来の氏を使用し,かつ,互いのそうした希望を尊重し合って生きるか,あるいは,夫婦の一方が氏を変更することによって不利益を被る場面があるとしても同氏であることに一体感を感じて生きるかは夫婦としての在り方を含む個人としての生き方に関
する自己決定に委ねられる事項であり,憲法14条1項後段の信条にほかならない。本件各規定は,婚姻後に同氏を希望する者と別氏を希望する者の間に法律上の婚姻の可否という異なる取扱いを生じさせているから,信条による別異取扱いである。
被告は,本件各規定は,夫婦同氏を希望する者及び夫婦別氏を希望す
る者のいずれに対しても,婚姻をする場合には,夫又は妻の氏を称するものとすることを定めているものであるから,そもそも両者の間で別異取扱いを定めたものではないと主張する。しかし,法律は,一般的・抽象的な法規範として,不特定多数の人に対して,不特定多数の場合ないし事件に適用されることがその性質上当然に予想されているから,法律の規定が誰に対しても一律に適用されるのは当然のことである。被告の主張によれば,一律に適用した結果,ある類型に属する者とそれ以外の者の間に必ず差異が生じる場合であっても,別異取扱いでないという結論となり,憲法14条1項の意義を無にするものである。
この別異取扱いによって,夫婦別氏を希望する者は,最高裁判所(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・
民集69巻8号2427頁)が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重に値するものと認めた婚姻をするについての自由を制約され,その結果,婚姻関係にあることの戸籍による公証を受けられず,①法定相続人となることができない,成年後見・保佐・補助開始及びその取消しの審判の申立権がない,嫡出推定の適用がない,双方が子の親
権者となることができない,特別養子縁組における養親になれないといった民法上の不利益,②所得税及び住民税の配偶者特別控除を受けられないなどの税法上の不利益,③生命保険,住宅ローン及び医療の選択等において配偶者として扱われないなどの生活上の不利益,④社会的に承認を得ることが容易でないといった多くの不利益を被っている。

憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止している。本件における前記別異取扱いは,憲法14条1項後段の信条によるものであるから,厳格に判断されなければならない。本件各規定は,夫婦別氏を希望する者を婚姻制度から排除するものであるから,夫
婦別氏という選択肢を認めず,夫婦別氏を希望する者を婚姻制度から排除することが日本における婚姻制度という事柄の性質に応じたものとして正当化されるといえない限り,合理性がないというべきである。婚姻制度とは,前国家的な婚姻の自由を最大限尊重することを前提とした上で,国家が,家族の実態及び国民意識を踏まえた上で,必要最小限の要件や方式を定め,それに沿う婚姻に法的承認を与え,そのような法律婚を特別に保護し,尊重し,推奨するものである。かつては,婚姻が社会に対して持つ役割の重要性が婚姻への法的統制を正当化する根拠であったが,個人にとっての利益が重要性を増すと,婚姻に対する法的統制の根拠が問い直されざるを得なくなる。個人の利益を否定するに足る合理的根拠ある強力な国家的ないし社会的利益が存在しない限り,個
人の婚姻の自由を制約することは許されない。
現在の夫婦同氏制が昭和22年に導入された経緯を見ると,共同生活をするものは同じ氏を称しているという当時の習俗や慣習を継続し,当時の実態を表現したものにすぎず,目的をもって導入されたものではない。

平成27年最高裁判決は,

家族は社会の自然かつ基礎的な集合単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められるとするが,家族が社会の自然かつ基礎的な集団単位であることと呼称を一つにすることは直結しない。呼称を一つに定める合理性は,夫婦同氏制を認める合理性であって,別氏という選択肢を設けないことの合理性ではない。
平成27年最高裁判決は,
合理性の根拠として,

家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能(以下公示識別機能という。
)を挙げるが,現実の社会
においては,共に暮らしていても氏が異なる家族は例外といえない割合で存在しており,この機能は相当曖昧なものである。マイナンバーや住民票など今日の社会における個人及び家族の識別方法は多様化し,また,
個人の活動範囲が膨大に拡大しており,公示識別機能は著しく低下している。かえって,選択肢なき夫婦同氏制は,夫婦別氏を希望する者の法律婚を阻害することで戸籍等による公示識別機能を低下又は喪失させている。さらに,同判決は,公示識別機能の一内容として,
嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保する意義がある旨判示するが,嫡出子であるが同居の親と別氏である場合や嫡出でない子であるが親子同氏で同居している場合もあるから,親子の氏の異同は,嫡出子であるか否かを識別する機能を全くもたない。むしろ,嫡出であることを示すことに意義を見いだすこの機能は,裏を返せば,嫡
出でない子を示すことに意義を見いだすということになり,そのような機能を評価すること自体,
婚外子に対する差別意識に根差すものといえ,
憲法24条2項に反し,最高裁判所(最高裁平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁)の子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているという判示にも反するものである。
平成27年最高裁判決は,
前提事実⑶

夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいとも述べるが,このような不明確な利益のために,夫婦別氏を希望する者に前記不利益を被らせることを正当化し得るとは認められない。また同判決は,
家族を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるとするが,
別氏であっても家族であると実感できる者もいるのであり,同氏であることによって家族であることを実感する者が一定程度存在することが別氏を希望する者を含む全ての夫婦に同氏を強制することを正当化できるものではない。

憲法24条に違反すること
本件各規定は,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性
を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないから,憲法24条に違反していることが明らかである。その理由は次のとおりである。氏名は,
人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するもの(昭和63年最高裁判決)
であるところ,氏は,
名とあいまって,社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するほか,人が個人として尊重される基礎である
(平成27年最高裁判決)から,婚姻までの長期間の使用実績に裏付けられる生来の氏には高い人格的利益が認められる。
本件各規定は,平成27年最高裁判決が憲法24条につき氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき
人格的利益であると認めたアイデンティティの喪失感婚姻前の氏,を使用する中で形成してきた個人の信用,評価,名誉感情等を維持する利益等を合理的な理由なく制約し,かつ,最高裁判所が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重に値するものと認めた婚姻をするについての自由をも合理的な理由なく制約するものであるから,憲法
24条に違反することが明白である。
すなわち,前記イ

のとおり,選択肢なき夫婦同氏制における公示識

別機能及び家族の一員であることを実感する機能は,いずれも曖昧かつ抽象的であって,氏名ないし氏の人格的価値や婚姻前に築いた個人の信用,評価,名誉感情等を婚姻後も維持する利益という重要かつ具体的な人格的利益に到底優るものではない。
また,夫婦別氏を希望する者にとって,夫婦別氏での法律婚ができないことは,個人の生き方・家族の在り方に関する自己決定に決定的な影響を及ぼすのに対し,夫婦別氏を認めても,夫婦同氏を希望する者の自己決定には全く影響はない。
平成27年最高裁判決は,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状にあることについて,
この現状が,夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果によるものかについて留意が求められるところであり,仮に社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるのであれば,その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは,憲法14条1項の趣旨に沿うものであるといえる。そして,この点は,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の一つというべきであり・・・憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たっても留意すべきものと考えられる。としている。夫の氏を選択する夫婦が96%という偏頗な割合であることは,自由な選択が実現していないこと
の証左であり,実質的平等が考慮されておらず,間接差別そのものである。
立法事実の変化
明治9年には,妻の氏は所生ノ氏
(生来の氏を指す。
)を用いるこ
ととされていたところ,明治31年に成立し,公布された民法親族編・
相続編は,強力な家父長制である家制度を確立させ,
家ノ氏という観
念が登場し,妻は婚姻により夫の家に入り,夫の家ノ氏を称することとされたことによって別氏という選択肢のない夫婦同氏制が実現し,昭和22年に民法親族編・相続編が全面改正されたが,夫婦同氏制は維持された。その際の立法上の根拠は共同生活をする者は同じ氏を称する
のが一般の習俗となっていることであった。昭和51年には,婚氏続称制度(民法767条2項)が新設され,外国人と婚姻した日本人については同法750条が適用されず,夫婦同氏が認められていなかったが,昭和59年には戸籍法107条2項が新設され,夫婦同氏の選択が可能となったほか,昭和62年には,離縁後の縁氏続称も可能となり,平成8年には,
前提事実⑵イの法律案要綱が公表されている。
前提事実⑷ア,
イのとおり,婚姻後も就労を継続する女性が増え,晩婚化が進む中で,キャリア継続の観点から生来の氏を使用する必要性は高まっている。また,再婚割合の増加による氏の継続使用の要請,グローバル化やIT化に伴う氏による個人識別の有用性,重要性の高まりにより,氏の同一性を維持する必要性は増加し,さらに,前提事実⑷ウのとおり,選択的夫
婦別氏制度の導入に関する意識も賛成派が反対派を上回るなど変化している。国際的にみても,現在では,日本のように夫婦別氏の選択肢を法律が認めない国は見当たらず,後記のとおり,女子差別撤廃委員会は,日本に対して,夫婦別氏の選択肢を設ける法改正を実施すべきと勧告し続けている。また,通称使用は極めて不安定なものであり,救済として
不十分である。
このように,本件各規定は,社会変化とともにその合理性が徐々に揺らぎ,少なくとも現時点においては,夫婦が別の氏を称することを認めない点において,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っており,憲法24
条に違反する。
平成27年最高裁判決後の事情変更
a
平成27年最高裁判決が,民法750条を合憲と判断したため,女子差別撤廃委員会は,平成28年に実施された日本の第7回,第8回定期報告書の審査について同年3月7日付け総括所見において,2015年12月16日に最高裁判所は夫婦同氏を求めている民法第750条を合憲と判断したが,この規定は実際には多くの場合,女性に夫の姓を選択せざるを得なくしているとし,
女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正することを再び勧告した。さらに,同委員会は,民法750条を含む差別的規定の改正について,勧告を実施するために採った措置について書面による情報を2年以内に提出することを要請し,同規定の改正を厳しく迫ってい
る。
b
また,日本国内においても,前提事実⑷ア,ウのとおり,女性の有業率及び共働き世帯の割合は,平成27年最高裁判決以降更に増加したほか,選択的夫婦別氏制度の導入についても平成27年最高裁判決の前である平成24年世論調査では賛成派と反対派が拮抗していたが,
平成27年最高裁判決後の平成29年世論調査では,賛成派が反対派を上回り,特に婚姻による改姓の不利益を被る当事者である18歳ないし49歳の女性ではどの層でも導入に賛成が50%を超えるなど国民の考え方も変化している。
家族の一体感と氏の関係に関する意識についても,前提事実⑷ウの
とおり,平成27年最高裁判決後の平成29年世論調査では,家族の姓が違っても家族の一体感に影響がないと答えた者の割合は,64.3%にまで増加している。
前提事実⑷エのとおり,女性が婚姻後や出産後に職業を続けることに関する調査でも,結婚や出産により女性が職業をやめた方がよいと
いう回答者の割合はいずれも平成27年最高裁判決後に大きく減少し,夫は外で働き,妻は家庭を守るべきであるという考え方についても,賛成と回答した者の割合が減少し,反対と回答した者の割合が増加している。
c
さらに,前提事実⑷オのとおり,平成27年最高裁判決以降,平成27年12月18日から令和元年7月5日までに42の地方議会において,選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見書が採択され,平成31年1月10日までに19の地方自治体の議会から衆議院議長,参議院議長,内閣総理大臣,総務大臣,法務大臣等に宛てて意見書が提出されている。
d
前提事実⑷カのとおり,平成30年の女性活躍加速のための重点方針2018においては,

選択的夫婦別氏制度の導入に関し,平成29年12月に実施した家族の法制に関する世論調査の結果について分析を加え,引き続き検討を行う。

と明示された。
e
平成27年最高裁判決後には,前提事実⑷キのとおり通称使用の可能な範囲が急速に広がっているところ,このこと自体が,婚姻前の姓の高い人格的価値が社会において広く認識されるようになったことを意味している。他方で,通称使用の範囲が拡大したといっても,通称にすぎないため,その使用範囲には限界があり,通称使用の方法では婚姻による改姓の不利益を完全に解消することはできない。通称使用
をすると,氏が2つあることになり,本人にとっても所属する組織や周囲の人にとっても,使い分けの煩雑さや混乱があるほか,同一性の把握ができないといった新たな不利益が発生している。通称使用は日本特有の政策であるため,通称がパスポートに併記されたとしても,外国においては,入国審査時や滞在時に,これを説明し理解を得る必
要があり,犯罪の疑いをかけられるなどのトラブルが起こる可能性もある。また,通称による査証及び航空券の取得ができないなどの問題も指摘されている。さらに,通称使用により,婚姻しているという私的事項を絶えず開示しなければならないことにもなる。こうした様々な負担は,夫婦の一方のみが負わなければならず,婚姻の最初から,
配偶者間で生じる不利益の不均衡を民法が公序として強制し,実質的不平等を負わせていることになる。
f
以上のとおり,平成27年最高裁判決以降,刻々と事情は変化しており,本件各規定は,少なくとも現時点においては,夫婦が別の氏を称することを認めない点において,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っており,憲法24条に違反する。


自由権規約に違反すること
自由権規約委員会は,平成2年に採択した家族の保護,婚姻についての権利,及び,配偶者の平等(23条)に関する一般的意見19において,
自由権規約23条4項について,
各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利又は平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利は,保障されるべきであるとし,平成12年に採択した男女の権利の平等(3条)に関する一般的意見28において,同規約23条4項の義務を果たすために,締約国は,それぞれの配偶者が婚姻前の氏の使用を保持し,又は新しい氏を選択する場合に対等な立場で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないことを確実にしなければならないとして,婚姻の各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利があることを明確にした。
自由権規約は,国内的効力を持ち,原則として直接適用され得る条約であることが広く認められている。そして,自由権規約委員会は,自由
権規約によって設置された履行監視機関である。同委員会の一般的意見は,同委員会が各締約国の報告審査を通して得た経験を全ての締約国の利益に役立てることによって,締約国における規約の実施をさらに促進すること等を目的として公表しているものであり,同委員会の公式な条約解釈である。一般的意見は,法的拘束力を持たないものであるが,裁
判における解釈指針や解釈基準として,十分尊重されるべきである。そのような一般的意見において,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障されることが明示的に求められているから,これを保障していない現行の選択肢なき夫婦同氏制は,自由権規約2条1項,3項(b)
,3条,17条1項及び23条に違反している。

女子差別撤廃条約に違反すること
裁判規範性

a
憲法98条2項により,条約は批准・公布されれば,何ら特別な法的措置を取らなくとも,自動的に国内的効力を付与されるから,裁判所は,国内法上その条約解釈権限に特に制約がない限り,条約の規定に照らして法令や行政行為の合法性を判定できる。
国際法の適用の可否については,条約全体についての自動執行力の
有無ではなく,条約規定の明確性が基準になると考えられている。条約の内容が不明確な場合や,執行に必要な機関や手続の定めを欠く場合には,直接裁判で適用することができないが,それ以外の場合には裁判規範性が認められる。
憲法の観点からいえば,条約により国が一定の内容の法律の改廃義
務を負う場合には,条約の国内法的効力として,条約の国内実施のために立法措置を怠った立法不作為については国家賠償請求訴訟ができるといえるところ,本件訴訟は,国が条約違反の法令を条約に基づき改廃する義務を怠っていることにより,損害を受けた個人が国内裁判所において,国家賠償法という国内法に基づいて損害賠償請求という
形で司法救済を求める訴訟であるから,その違法性の判断は可能である。
b
仮に,立法不作為による国家賠償請求訴訟においても条約の裁判規範性が必要であるとする立場に立つとしても,後記のとおり被告が主
張する自動執行力の要件は,主観的要件が必要であるとする点及び厳格な客観的要件が必要であるとする点において誤りである。


多数国間条約が多い現状では,当事国の意思は存在しないことが
ほとんどであり,当事国の意思を基準とするとほぼ全ての条約は国内での裁判規範性がなくなってしまうから,条約の規定は,国内法的効力が与えられていることにより裁判規範性があると推定されるべきであり,主観的要件は不要である。仮に主観的意思によって条
約の裁判規範性が排除され得るとしても,自動執行力を否定するためには,当該締約国が条約を承認する際に,立法府が当該条約は国内における裁判規範性が認められないという意思を宣言したり,法律又は決議という形で明示したりすることが求められる。しかし,日本が女子差別撤廃条約を批准するに際し,このような意思を明示
した事実はなく,自動執行力を排除する意思はなかった。同条約の国内における実施について,国内法制を通じて行うことを前提とする答弁が繰り返し行われていたとしても,対外的に明示されていない国会答弁によって自動執行力を否定する意思が表示されたとは認められない。

国連で作成された人権条約は,例外なく全ての締約国に適用され
る基本的な条約履行確保制度として,締約国が条約の国内実施に関して定期的に条約機関に報告書を提出する報告制度を定めているが,これは裁判規範性の有無とは別の問題である。


客観的要件についても,私人の権利義務が明白,確定的,完全か
つ詳細に定められていて,その内容を具体化する法令を待つまでもなく国内的に執行可能な条約規定であることを求めるのは,不当に厳格な要件を課すものである。女子差別撤廃条約は,抽象的な原則を述べる日本国憲法に照らしても,
数々の具体的規定を置いている。



国際人権条約の趣旨及び目的は,個人の人権の保護にあり,締約
国に保障されるべき個人の人権を定めたものであるからこそ,締約国に対し条約上の人権を実現するための措置を採る等の義務を課し,条約上の権利の侵害に対して締約国の国内裁判所による司法的救済を行うことが条約上定められ,批准によりこれらの義務を負うことを約束したことになる。それにもかかわらず,国際人権条約を裁判で適用するために,前記主観的要件及び過度な客観的要件を課すこ
とは,前記趣旨及び目的の実現を阻み,当該条約の締約国が負う義務を回避するものである。
c
したがって,立法不作為に基づく国家賠償請求訴訟において女子差別撤廃条約を適用するにあたり,被告が主張するような自動執行力は
必要なく,同条約16条1項(b)及び(g)の規定には十分な明確性があるから,国内の裁判において直接適用することができる。
同条約2条(f)
,16条1項(b)及び(g)に違反すること
平成6年,
女子差別撤廃委員会は,
婚姻及び家族関係における平等に関する一般勧告21を採択し,その中で,同条約16条1項(g)に
ついて,
パートナーは,共同体における個性及びアイデンティティーを保持し,社会の他の構成員と自己を区別するために,自己の姓を選択する権利を有するべきである。法もしくは慣習により,婚姻もしくはその解消に際して自己の姓の変更を強制される場合には,女性はこれらの権利を否定されている。と述べている。また,女子差別撤廃委員会は,平
成27年最高裁判決後にも,前記ウ

aのとおり勧告した。

選択肢なき夫婦同氏制は,日本における根強い慣習の存在とあいまって,女性が氏の選択権を享有し,又は行使することを害する効果を有しており,
同条約1条に定義される
女性に対する差別
に当たり,
かつ,
前記一般勧告がいう自己の姓の変更を強制される場合に該当し,婚姻に際して氏の選択に関する夫婦同一の権利(16条1項(g)
)を侵害
している。また,姓を変更せずに維持しようとする場合には婚姻はできないのであるから,合意のみにより婚姻をする同一の権利(16条1項(b)
)を侵害している。したがって,本件各規定は,同条約2条(f),
16条1項(b)及び(g)に違反している。

長期にわたる立法の懈怠
被告は,遅くとも法務省法制審議会が選択的夫婦別氏制を含む法律案要
綱を答申し,法務省がこれを公表した平成8年2月26日には本件各規定の違憲性を認識しており,それから既に約22年の時が経過したにもかかわらず,
正当な理由なく
その改廃等の立法措置を怠っているのであ
るから,このような立法不作為が国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けることは明らかである。

(被告の主張)
民法750条が定める夫婦同氏制については,平成27年最高裁判決において,
憲法14条1項及び24条に違反しない旨の判断がなされているから,本件においても,同判決の判断枠組みを踏まえて,同判決後から現在までに原告らが主張するような事情変更があったか否か,また,同判決において審理の対象とされなかった新たな争点につき,原告らの主張に合理性が認められるか否かという観点で判断すべきである。

本件各規定が婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではないこと
民法750条は,婚姻の効力の1つとして夫婦が夫又は妻の氏を称する
ことを定めたものであり,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。

憲法14条1項に違反しないこと
本件各規定は,夫婦同氏を希望する者及び夫婦別氏を希望する者のいず
れに対しても,婚姻をする場合には,夫又は妻の氏を称するものとすることを定めているものであるから,そもそも,夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者との間で別異取扱いをしているものではない。
したがって,本件各規定は,その文言上,夫婦同氏を希望する者であるか,夫婦別氏を希望する者であるかについて,法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件各規定の定める夫婦別氏制それ自体に形式的な不平等が存在するわけではないから,憲法14条1項に反するものではな
い。

憲法24条に違反しないこと
婚姻をするについての自由については,平成27年最高裁判決に
おいて,
民法750条は,
婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。仮に,婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても,これをもって,直ちに上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。と判示されている。また,原告らが主張するその他の制約される利益ないし被る不利益についても,平成27年最高裁判決において,原告本人の個別損害として実質的に審理が尽くされている。すなわち,同判決は,

婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。などとして,個
別損害に関する主張を踏まえた上で,
夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。と判示している。民法750条の立法目的は,夫婦は,生活共同体を形成するものであるから,その統体性を示すために,同一の氏を称するものであるとか,氏による共同生活の実態の表現という習俗の継続や家族の一体感の醸成ないし確保にあるなどとされている。
前記立法目的は,習俗といった言葉を用いていることからしても,社会全体として夫婦同氏であることを前提とする制度によって達成し得るものであり,民法750条は,前記立法目的達成のための合理的な手段として夫婦同氏制度を採用した。平成27年最高裁判決も,前提事実⑶
夫婦同氏制は,旧民法(昭和22年法律第222号による改正前の明治31年法律第9号)の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され,我が国の社会に定着してきたものである。前記のとおり,氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。と判示している。婚姻夫婦は,法制度としてみれば,家族制度の一部として構成され,広く社会に効果を及ぼすことがあるものとして位置づけられる。このような法制度としての性格や現実に家族が広く社会の基本的構成要素となっているという事情などからすると,法律上の仕組みとしての婚姻夫婦
も個々の当事者の多様な意思に沿って変容させることに抑制的であるべきである。このような要請の中で,民法750条が嫡出推定との整合性を追求しつつ,婚姻する夫婦の氏をそのいずれかの氏とする仕組みを設けていることは,後記のとおり,社会の多数がこれを受け入れていることを踏まえると,十分に合理性を有する。夫婦が別氏のまま婚姻をする
ことができる制度を採用した場合に,その夫婦の間の嫡出子の氏がどのように定められるべきであるかについては多様な考え方があり得るから,選択的夫婦別氏制度の導入の是非を含め,氏の在り方やその法的取扱いについては,国会の広い立法裁量に委ねられるべき問題である。
夫婦同氏は,夫婦(家族)という生活共同体の共通の呼称であるファミリーネームとして国民に深く浸透している。前提事実⑷ウのとおり,平成29年世論調査においても,夫婦別氏制度の導入に対しては賛
否が分かれており,夫婦別氏制度の実現を是認する見解が多勢を占めているとはいえない。
前記(原告らの主張)ウ

において,原告らが指摘する各事情を踏ま

えてもなお,民法750条をめぐる社会情勢につき,平成27年最高裁判決から現在に至るまでに,原告らの主張を裏付けるような事情変更が
あったとは認められない。
したがって,本件各規定は,憲法24条に違反するものではなく,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合に当たらず,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものではない。

各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利が自由権規約により保障されていないこと

において,
原告らが指摘する一般的意見は,
法的拘束力を有するものでなく,これに従うことを自由権規約の締約国に義務付けているものではない。
最近の家庭裁判所における審判において,自由権規約の各規定に関する原告らの主張と同様の主張につき,当該各規定を独立の裁判規範とし
て用いることはできない,自動執行力を有しない,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障しているとはいえないとして,これらの主張を排斥している。
したがって,
各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利
が自由権
規約で保障されているとはいえない。

女子差別撤廃条約は日本国民に対して直接権利を付与するものではなく原告らの主張する権利が同条約により保障されているとはいえないこと
締結された条約は,仮に当該条約が何らかの形で個人の権利義務に言及している場合であっても,それだけでは,直ちに裁判所が個人の権利を認め,義務を果たすための裁判規範として用いることができるもので
はなく,そのような裁判規範性が認められるためには,当該条約が自動執行力を有することが必要である
(なお,
自動執行力を有する条約とは,
国内法による補完・具体化がなくとも,内容上そのままの形で国内法として直接に実施され,私人の法律関係について国内の裁判所および行政機関の判断根拠として適用することができる条約をいう。。


自動執行力のない条約は,締約当事国が何らかの国内的措置を採るよう義務付けられる内容のものであっても,その具体的な措置は各締約当事国の国内法に委ねられている。したがって,条約は,それが自動執行力のあるものでない以上,
各締約当事国の司法裁判所での裁判において,
私人と国家機関との間の法律関係を規律するものとして適用することは
できない。条約に自動執行力が認められるためには,①主観的要件として,私人の権利義務を定め直接に国内裁判所で執行可能な内容のものにするという締結国の意思が確認できること,②客観的要件として,条約の規定において私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定められていて,その内容を具体化する法令に待つまでもなく国内的に執行可
能な条約規定であることが必要となる。
女子差別撤廃条約は,実体規定(2条ないし16条)において,
締結国は・・・適法な措置を採る等と規定しており,締結国に対して,女子差別を撤廃するという目的を達成するために適当な措置を採る義務を課している。そして,同条約18条が,締結国が同条約実施のために採った措置及びこの措置によってもたらされた進歩に関する報告を委員会による検討のために国際連合事務総長に提出することを約束する旨規定
していることからも,締結当事国に対し,女子差別を撤廃するという目的を達成するために適当な国内的措置を採る義務を課す内容の条約であることは明らかである。
また,同条約の発効の経過における国会答弁において,同条約の国内における実施については,国内法制の整備を通じて行うことを前提とす
る答弁が繰り返し行われていることからも,政府が同条約を自動執行力のない条約として理解していたことは明らかであり,前記①の主観的要件を欠く。
において主張する同条約16条1項
(b)
及び(g)
(前提事実⑵エ)の各規定の内容を見ても,私人の権利義務が
明白,確定的,完全かつ詳細に定められているとか,その内容を具体化する法令を待つまでもなく国内的に執行可能な条約規定であるともいい難いから,前記②の客観的要件も満たさない。
したがって,同条約16条1項(b)及び(g)は自動執行力をもつ条約ということはできず,
日本国民に対し,
直接権利を付与するものではな

いから,
婚姻に際して氏の選択に関する夫婦同一の権利及び合意のみにより婚姻をする同一の権利が同条約によって保障されているとはいえない。

損害(争点②)

(原告らの主張)
前記⑴
(原告らの主張)
のとおり,
本件各規定が憲法14条1項,
24条,
自由権規約2条1項,3項(b)
,3条,17条1項,23条並びに女子差別
撤廃条約2条(f)
,16条1項(b)(g)の規定に違反するものであるこ

とが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったことにより,原告らは婚姻をするについての自由を制約され,
法律婚に認められる民法や税法等の権利ないし利益のほか,

事実上の様々な利益を受けることができず,夫婦であることの社会的承認を受けることができないという損害を被っており,それにより,多大な精神的苦痛を受けている。この精神的苦痛を金銭的に評価すれば,原告らそれぞれについて少なくとも50万円を下回ることはない。
(被告の主張)

争う。
第3

当裁判所の判断

1
争点①(民法750条及び戸籍法74条1号を改廃しなかったという立法不作為の違法性の有無)について



国家賠償法上の立法不作為の違法
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法
となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員
の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものではない。
もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為
は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成25年(オ)第1079
号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。


憲法14条1項
原告らは,夫婦別氏を希望するか,夫婦同氏を希望するかは夫婦としての在り方を含む個人としての生き方に関する自己決定に委ねられる事項であり,
憲法14条1項後段の信条に当たり,本件各規定は,婚姻後に夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者の間に法律上の婚姻の可否という異なる取扱いを生じさせているから,信条による別異取扱いであると主張する。ア
そこで,夫婦別氏を希望する考え方が信条当たるかについて検討すると,
信条は,宗教上の信仰のみならず,広く思想上・政治上の信念や
主義を含むと解されるから,夫婦別氏を希望する考え方も,
信条に該当

するというべきである。

憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39
年5月27日大法廷判決民集18巻4号676頁,

最高裁昭和45年
(あ)
第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
民法750条は,夫婦が夫又は妻の氏を称するものとし,戸籍法74条1号は,夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項としており,これらは夫婦同氏を希望する者,夫婦別氏を希望する者のいずれにも適用されるのであって,その文言上,信条に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件各規定の定める夫婦同氏制それ自体に信条による形式的
な不平等が存在するわけではない。

したがって,本件各規定は,憲法14条1項に違反することが明白であるとは認められない。


憲法24条

原告らは,本件各規定によって婚姻の際に夫婦が称する氏を選択することが実際には婚姻の要件となっているから,本件各規定は,夫婦別氏を希望する者の婚姻を制約すると主張する。
憲法24条1項は,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻するかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣
旨を明らかにしたものと解される(平成27年最高裁判決参照)

そして,民法750条は,婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではなく,戸籍法74条1号も,民法750条を受けて,婚姻をする夫婦により定められた夫婦の称する氏を戸籍に反映させるため
の手続的規定であると解される。そうすると,婚姻の際に夫婦が称する氏を選択しなければ婚姻届が受理されず,その結果婚姻をすることができないとしても,このことにより直ちに,本件各規定が憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできず,本件各規定の存在により,夫婦別氏を望む者が婚姻をすることが事実上制約される状態とな
っていることは,後記の国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事情の一つにとどまるものというべきである。

原告らは,本件各規定は,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ず,憲法24条に違反することが明白であると主張する。

婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条,14条1項に違反しない場合に,更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざ
るを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきである(平成27年最高裁判決参照)

まず,夫婦同氏制度の趣旨について検討する。
婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は,旧民法(昭和22年法律第222号による改正前の明治31年法律第9号)の施行された
明治31年に我が国の法制度として採用され,改正後の民法(昭和22年法律第222号による改正後のもの。
昭和23年1月1日施行。にも

引き継がれ,
我が国の社会に定着してきたものである。
民法上,
氏には,
名と同様に個人の呼称としての意義があるものの,名とは切り離された存在として,夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称すると
することにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解が示されているものといえるところ,民法750条の立法目的も,生活共同体を形成する夫婦の統体性を示すことや,氏による共同生活の実態の表現という習俗の継続並びに家族の一体感の醸成及び確保を図ることにある(乙1,2)
。そして,戸籍法74条1号は,このような

旧民法の夫婦同氏制度を戸籍編成に反映させるために規定されたものと解される。
原告らは,選択肢なき夫婦同氏制における公示識別機能(家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能)及び家族の一員であることを実感する機能は,いずれも曖昧かつ抽象的であると主張するが,前記立法目的を前提とした夫婦同氏制が我が国において定着しており,現実に一定の公示識別機能を果たしていることは否定し難いことに加え,その価値について肯定的に捉える意見も少なからず存在していることからすると,直ちに当該機能の価値を否定することはできない。
次に,夫婦同氏制度を採用することにより生じる影響について検討す
る。
a
夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるため,
婚姻によって氏を改める者が,
そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉
感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。もっとも,氏名は,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであり
(昭和63年最高裁判決)氏も氏

名の一部として人格権の一内容を構成するものと解することができる
ものの,平成27年最高裁判決が指摘するとおり,婚姻による氏の変更は,婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改める場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることを強制するものではない。
族及び夫婦と深い関係を有し,名とは切り離された存在として社会の
構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が一定の身分関係を反映するため,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえ,氏が身分変動に伴う変更も許さないほどに高度の人格的利益として保障されているとも認められない。
b
また,夫婦同氏制により,原告らのように,夫婦となろうとする者のいずれかが氏の変更による上記の不利益を受けることを避けるために,あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することも認められるものの,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,上記の不利益は,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まることにより一定程度は緩和され
得るものである。
これに対し,原告らは,平成27年最高裁判決後の事情として通称使用の広まりについて,通称使用の拡大は,婚姻前の氏を維持することの重要性についての社会的認識・人格的価値の確立を裏付けるものであり,また他方で,通称使用の範囲が拡大したといっても,通称に
すぎないため,その使用範囲には限界があり,通称使用の方法では婚姻による改姓の不利益を完全に解消することはできないなどと主張する。
しかしながら,
職務等において通称使用を選択する理由には様々な
ものがあり得,
婚姻前の氏に人格的価値を見いだして通称使用をして

いる者もいれば,単に仕事上の便宜などのために通称を用いる者や,かえって,
夫婦が同じ氏を名乗るという夫婦同氏制によって家族とし
ての一体感を得ることに積極的な意義を感じながら,
仕事上は通称を
用いることで,キャリア(婚姻前に築いてきた個人の信用,評価等を含む。)の継続を図る者がいることも否定できず,通称使用の広がり
が見られることをもって,
直ちに婚姻前の氏を維持することの重要性
についての社会的認識・人格的価値が確立したと評価することはできない。また,平成27年最高裁判決後の社会における通称使用の広がりによって,同判決が指摘する夫婦同氏制による不利益について更に緩和が進んだと評価することも可能である。
原告らが主張するとおり,
通称使用は法制度でないため,一定の限界が存することは否定できないが,この点は後記のとおり国会等において,制度の採否及びその在り方を議論する中で検討されるべきことである。
原告らは,夫の氏を選択する夫婦が96%という偏頗な割合となっていることは自由な選択が実現していないことの証左であり,実質的平等が考慮されておらず,間接差別そのものであると主張する。

しかし,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられているから,本件各規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が前記

の不利益を受ける場合が

多い状況が生じているものと推認できることは,平成27年最高裁判決が指摘するとおりであるものの,原告らが主張する婚姻した夫婦の96%が夫の氏を選択しているという結果を前提としても,当該夫婦間における協議の経過及び内容や選択の理由及びその真意などは,この結果からは明らかでなく,
実質的な不平等があるとまでは認めるに足りない。

さらに,原告らは,前提事実⑷ウの平成29年世論調査において,選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合が反対する者の割合を上回ったこと,前提事実⑷オのとおり多数の地方議会において選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見書の採択等が行われていることなどから,少なくとも現時点においては,本件各規定の採用した夫婦同氏制は,夫婦が
別の氏を称することを認めない点において,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っていると主張する。
しかしながら,前提事実⑷ウのとおり,平成29年世論調査においては,平成24年世論調査と比較して,
夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわないを選択した者の割合が一定程度上昇し(35.5%から42.5%)
,他方,
婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はないを選択した者の割合は減少しているものの(36.4%から29.3%)夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望,していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては,かまわないを選択した者の割合は若干増加しており(24.0%から24.4%)
,後二者の立場は
夫婦同氏制を支持する立場と評価できるところ,これらの割合の合計は
50%を超えているのであるから,選択的夫婦別氏制を導入すべきとの意見が大勢を占めているとは認められない。また,憲法適合性を判断するに当たっては,社会情勢の移り変わりに伴う立法事実の変動を踏まえた検討が必要であるが,単純に意見の多寡によって結論を決するべきものではないことは当然であるし,国会や国民全体において,前記調査結
果や地方議会において採択され提出された意見書を踏まえた議論がなされることが望ましく,前記調査結果や地方議会による意見書の採択及び提出が憲法適合性の判断結果を直ちに左右するものではない。
以上で検討した事情を考慮すると,本件各規定の採用した夫婦同氏制が,直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠
く制度であり,憲法24条に違反することが明白であるとは認められない。
また,前提事実⑷カのとおり,平成30年の女性活躍加速のための重点方針2018において,
社会における活動や個人の生き方が多様化する中で,働きたい女性が不便さを感じ,働く意欲が阻害されることのないよう,女性活躍の視点に立った制度等を整備していく必要がある。・・・選択的夫婦別氏制度の導入に関し,平成29年12月に実施した家族の法制に関する世論調査の結果について分析を加え,引き続き検討を行う。と明示されているのであり,選択的夫婦別氏制度を導入する
か否かについては,現在,正に分析,検討が行われているというべきである。そして,当該制度が社会の基礎的な集団単位である家族に関する制度であり,国民の生活の根幹に関わり,多方面への影響が予想される
ことからすると,その検討は慎重に行われる必要があり,日々変化する社会の動向や多様な考え方にも配慮し,国民的な議論を深めることが求められているというべきである。したがって,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っているとはいえない。


自由権規約について

原告らは,自由権規約は,国内的効力を持ち,原則として直接適用され得ることが広く認められていると主張するため,原告らが指摘する自由権規約の各規定が,我が国の個々の国民に対し,直接権利を保障するものであるかについて検討する。

我が国においては,一般的に,条約は公布により当然に国内的効
力を有するものとなる(憲法7条1号,98条2項参照)
。しかし,
条約は,本来的には締約国相互の権利義務を発生させる国際法規であるから,特定の条約が,国内法による補完ないし具体化といった措置を採ることなく直接個人の国に対する権利を保障するものとし
て国内の裁判所において適用可能であるというためには,当該条約によって保障される個人の権利の内容が条約上具体的で明白かつ確定的に定められており,
更に,
条約の文言及び趣旨等から解釈して,
個人の権利を定め,国内の裁判所において直接適用可能なものにするという締約国の意思が確認できることが必要であると解するのが相当である。
前提事実⑵ウのとおり,
自由権規約2条1項は,
この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。と規定し,同条3項は,

この規約の各締約国は,次のことを約束する。

として,

救済措置を求める者の権利が権限のある司法上,行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。(同項


(b)
)を挙げ,同規約3条は,

この規約の締約国は,この規約に定めるすべての市民的及び政治的権利の享有について男女に同等の権利を確保することを約束する。

と規定し,同規約23条4項は,

この規約の締約国は,婚姻中及び婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置を採る。・・・

と規定している。しかしながら,同規約中には,

何人も・・・されない。

あるいは,

すべての者は・・・権利を有する。

といった文言を用いている規定も存在しているところ,前記各規定は,これらとは異なり,締約国が,当該権利を確保することを約束する,当該権利を確保するよう適当な措置を採ることを約束する,
権利が権限のある機関によって決定されることを確保することを約束する旨の文言にとどまることからすれば,前記各規定が,個人の権利を定め,国内の裁判所において直接適用可能なものにするという締約国の意思を確認し得るものとはいえない。
したがって,同規約2条1項,3項(b)
,3条,23条4項は,
締約国相互間において国内法制度の整備等を通じて権利を確保す
る旨約したものというべきであり,我が国の個々の国民に対し,

接,権利を保障するものということはできない。

これに対し,同規約17条1項は,

何人も,その私生活,家族,住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。と規定し,

同規約23条は,

家族は,社会の自然かつ基礎的な単位であり,社会及び国による保護を受ける権利を有する。(同条1項)「婚姻をすることができる年齢の男女が


婚姻をしかつ家族を形成する権利は,認められる。(同条2項)婚,
姻は,両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。(同条3」
項)と規定しており,前記各規定と比較して,その権利性をより進んで認めた趣旨とも解されるが,各配偶者の婚姻前の姓の使用の保持に
直接言及した規定は存在せず,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利が保障されているとは認められない。

また,原告らは,自由権規約委員会の公式な条約解釈を示す一般的意見が,
同規約23条4項について,
各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利又は平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利は,保障されるべきである,同規約23条4項の義務を果たす
ために,締約国は,
それぞれの配偶者が婚姻前の姓の使用を保持し,または新しい姓を選択する場合に対等な立場で決定する配偶者各自の権利に関して性別に基づく差別が起きないことを確実にしなければならないとしているから,同規定により各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利が保障されているとも主張する。
しかし,
仮に,
自由権規約23条4項が我が国の個々の国民に対し,
直接,権利を保障する趣旨のものであるとしても,原告らも自認するとおり,一般的意見は法定拘束力を持たないから,原告らの主張する一般的意見の存在によって,同規約23条4項が,各配偶者が婚姻前の姓の使用を保持する権利を保障しているとは認められない。




したがって,自由権規約を根拠とする原告らの請求は理由がない。女子差別撤廃条約について


前記⑷ア

に従い,女子差別撤廃条約2条(f)
,16条1項(b)

及び(g)が,我が国の個々の国民に対し,直接権利を保障するものといえるかについて検討する。
前提事実⑷エのとおり,
女子差別撤廃条約16条1項柱書は,

締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとるものとし,特に,男女の平等を基礎として次のことを確保する。と規定し,

その対象として,

自由に配偶者を選択し及び自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利(同項(b),

夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。

)(同項(g)
)を挙げている。また,前
提事実⑷エのとおり,同条約2条柱書は,

締約国は,女子に対するあらゆる形態の差別を非難し,女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により,かつ,遅滞なく追求することに合意し,及びこのため次のことを約束する。と規定し,

同条
(f)
は,
締約国が

女子に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。

を挙げている。

前記各規定の文言は,いずれも締約国が,前記各規定が挙げる権利を確保するよう適当な措置を採り,又は措置を採ることを約束するとの規定になっており,直接,権利を保障する旨の文言ではないから,個人の権利を定め,国内の裁判所において直接適用可能なものにするという締約国の意思が確認できるものではない。
したがって,同条約2条(f)
,16条1項(b)及び(g)が,我
が国の個々の国民に対し,直接,権利を保障するものということはで
きない。

原告らは,立法不作為に基づく国家賠償請求訴訟においては,国が条約違反の法令を条約に基づき改廃する義務を怠っていることにより,損害を受けた個人が国内裁判所において,国家賠償法という国内法に基づいて損害賠償請求という形で司法救済を求めるものであるから,
当該条約の裁判規範性は不要である旨主張する。
しかし,前記⑴の最高裁判決の趣旨に照らすと,国会議員の立法不作為が,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるのは,条約が,直接,当該条約締約国の国民に対し,具体的な権利として,婚姻に際して氏の選択に関する夫婦同一の権利(16条1項(g)
)ない

し,合意のみにより婚姻をする同一の権利(16条1項(b)
)を保障
しているにもかかわらず,国内法の規定が,その権利利益を合理的な理由なく制約している等により,当該条約の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠るなどの例外的な場合に限られると解すべきである。
したがって,原告らの主張は採用できない。

原告らは,被告が,女子差別撤廃委員会から民法750条を改廃するよう勧告を受けていること,平成27年最高裁判決後の平成28年に実施された定期報告書の審査についての総括意見において,同委員
会が女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正することを勧告したことを主張する。しかし,勧告自体には法的拘束力はなく
(甲26)これらのことが直ちに上記結論を左

右するものではない。

したがって,同条約2条(f)
,16条1項(b)及び(g)は,我
が国の個々の国民に対し,
直接権利を保障するものとはいえないから,
女子差別撤廃条約を根拠とする原告らの請求は理由がない。

2
以上のとおり,本件各規定は,原告らの主張する憲法14条1項,24条,自由権規約及び女子差別撤廃条約の各規定に違反するものであることが明白であるとは認められず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合に当たるとも認められないから,本件各規定の改廃を行わない立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるもので
はない。
第4

結論
以上検討したところによれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの被告に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用
の負担につき,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所立川支部民事第3部

裁判長裁判官

見米正
裁判官

原島麻由
裁判官

石黒瑠璃
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