判例検索β > 令和1年(行ケ)第2号
事件番号令和1(行ケ)2
裁判年月日令和元年11月8日
法廷名福岡高等裁判所
裁判日:西暦2019-11-08
情報公開日2019-11-27 10:00:09
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求

1
原告A
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の福岡県選挙区における選挙を無効とする。

2
原告B
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の佐賀県選挙
区における選挙を無効とする。
3
原告C
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の長崎県選挙区における選挙を無効とする。

4
原告D
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の熊本県選挙区における選挙を無効とする。

5
原告E
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の大分県選挙区における選挙を無効とする。

第2
1
事案の概要
本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。)について,福岡県選挙区,佐賀県選挙区,長崎県選挙区,熊本県選挙区及び大分県選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条,別表第3
の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,定数配分規定
といい,公職選挙法の一部を改正する法律(平成30年法律第75号。以下平成30年改正法という。)による改正後の定数配分規定を本件定数配分規定という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

2
前提事実(認定根拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。なお,書証は,特記しない限り全て枝番を含む。以下,同じ。)


原告Aは本件選挙の福岡県選挙区の,原告Bは佐賀県選挙区の,原告Cは長崎県選挙区の,原告Dは熊本県選挙区の,原告Eは大分県選挙区の各選挙人である。



本件選挙施行日において,参議院の定数は248人であり,そのうち148人が選挙区選出議員,100人が比例代表区選出議員である。



本件選挙は,公職選挙法14条1項,別表第三の選挙区及び議員定数の定めに従って施行された。



本件選挙において,選挙当日の選挙区間における1議員当たりの選挙人数の最大較差(以下,選挙人数を基準とした較差を最大較差といい,人口を基準にしたそれを最大較差(人口)という。)は,選出される議員1人当たりの選挙人数が最小の福井県選挙区を1とした場合,最多の宮城県選挙区は,3.00(概数。以下に掲記する最大較差に関する数値は全て概数である。)である。(乙1)

3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,本件定数配分規定が違憲,無効であるかである。
【原告らの主張】
本件定数配分規定は,違憲,無効である。



昭和22年から平成17年の間,衆議院の多数の意見と参議院の多数の意見が異なったことが15件あるが,その全てで参議院の多数の意見が優越し
ている。このような強い参議院という現状の下では,参議院選挙における投票価値の平等の要請は,衆議院選挙における投票価値の平等の要請に劣後してはならないはずである。最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。)及び最高裁平成26年(行ツ)第155号,第15
6号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下平成26年大法廷判決という。)のとおり,参議院の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。したがって,参議院議員の選挙における最大較差は,衆議院議員の選挙における最大較差を超えることは許されず,最大較差が技術的に可能な限り1
倍に近い数値でない限り,違憲無効となる。そして,最大較差が1倍を超えていることが合理的であることの主張立証責任は,被告にある。


平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の
著しい不平等状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった2段階の判断の枠組み(以下2段階の判断枠組みという。)を前提として憲法適合性の審査を行っていた。

しかし,2段階の判断枠組みは,憲法98条1項に違反するものであり,無効である。
仮に,2段階の判断枠組みを採るとしても,平成24年大法廷判決は,上記①の段階では,最大較差という客観的な事情のみを考慮し,較差是正に関する立法措置に関する事項は,専ら上記②の段階で考慮していたところ,最
高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)は,上記①の段階
において,較差是正に関する立法措置に関する事項を考慮しており,これは,違憲状態となる結論を回避するための不当な判断基準の変更であり,判例変更にも当たる。判例変更する場合,予測可能性の保障と法的安定性の要請から,判例変更した旨の文言と判例変更した理由が判文において明示される必要がある(最高裁昭和43年(あ)第2780号同48年4月25日大法廷
判決・刑集27巻4号547頁の田中二郎裁判官ほかの意見参照)が,平成29年大法廷判決はこれをしておらず,判例変更としては無効である。⑶

仮に,平成29年大法廷判決の判断枠組みを採るとしても,平成29年大法廷判決は,平成27年公職選挙法の一部を改正する法律(平成27年法律
第60号。以下平成27年改正法という。)附則7条において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されていると評価した上で,選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著
しい不平等状態にあったとはいえないとしたものである。
しかし,その後にされた平成30年改正法は,平成27年改正法によって行われた鳥取県と島根県の合区と徳島県と高知県の合区を維持し,選挙区選出の議員定数を2人増加するにとどまるものであり,最大較差も3.08倍から3.00倍までわずかに減少するにすぎず,選挙制度の抜本的見直しと
は到底いえない。また,平成30年改正法には,平成27年改正法附則7条に相当する規定が定められておらず,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会(以下特別委員会という。)において平成30年7月11日にされた附帯決議(以下本件附帯決議という。)は,単なる委員会の決議にすぎないし,衆議院議員の定数削減と衆議院選挙に係る一票の較
差是正を図るための衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第49号)の附則5条は,具体性を欠く
もので平成27年改正法附則7条に替わるようなものではない。
このように,平成30年改正法は,平成27年改正法附則7条を無視するもので,平成29年大法廷判決が求めたものに応えるものとは到底いえないから,本件定数配分規定は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったことになる。



憲法56条2項,1条,前文第1段落の第1文冒頭は,厳格な人口比例選挙を要求するものである。
人口に比例する選挙の場合は,憲法56条2項に基づき,主権を有する国民が,人口に比例する選挙で選出された国会議員を通じて,出席議員の過半数で両議院の議事を決定するという方法で主権を行使することになり,憲法
56条2項,1条,前文第1段落第1文冒頭に合致するが,人口に比例しない選挙の場合は,これらに反する。本件定数配分規定における最大較差は,3.00倍であり,人口に比例していないから,本件定数配分規定は,憲法56条2項,1条,前文第1段落第1文冒頭に反する。


本件定数配分規定が,違憲無効の場合は,直ちに選挙無効判決をすべきである。選挙無効判決をしたとしても,混乱は生じない。
【被告らの主張】
本件定数配分規定は,合憲である。


憲法は投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法
14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地から見
て違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。

国会が,選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨判断した平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿い,一部の選挙区について2つの県を合わせた選挙区(以下合区という。)を創設することなどを内容とする平成27年改正を行ったことにより,最大較差(人口)は2.97倍(平成22年国勢調査日本国民人口による。)となり,前記不平等状態は解消され
た。
同改正による後の定数配分規定(以下本件旧定数配分規定という。)に基づいて初めて施行された通常選挙(以下平成28年選挙という。)に係る平成29年大法廷判決においても,最大較差が3.08倍であった平成28年選挙当時,投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著
しい不平等状態にあったものとはいえず,平成27年改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示された。さらに,平成30年改正は,参議院選挙区選出議員選挙に関しては,平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ,埼玉県選挙区の定数を2人増員するものであり,その結果,平成28年選挙時の最大較差である3.0
8倍から,平成27年国勢調査日本国民人口による最大較差(人口)として2.985倍にまで縮小した。
平成27年改正法に続いて平成30年改正法においても,参議院の選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持したことは,両議院の選挙制度が同
質的なものとなっている中で,参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多角的な
民意の反映を可能とするものであるから,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものといえる。
さらに,そもそも,選挙権は,民主主義国家において,治者でもあり被治者でもある国民が自らの意見等を国政に反映させることを可能にする極めて重要な権利であるところ,人口の多い都市部に居住する多数者のみなら
ず,山間部などのいわゆる過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることもまた,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となるものというべきである。
平成29年大法廷判決においても,選挙制度の仕組みを決定するに当たり,
政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することについては,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない旨判示されている。
さらに,立法府においては,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する
特別委員会の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせないという配慮がなされているものとして評価すべきである。
以上の諸点に,参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を
改選するものとされ(46条),定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。



憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,当該定数配
分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合において,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきである。そうすると,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会
の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,前記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
これを本件について見ると,平成29年大法廷判決において,都道府県単位の選挙区を一部改めて合区を創設した平成27年改正後の定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨判断が示された。本件選挙は,同大法廷判決後,さらには,最大較差の
更なる縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づく初めての参議院議員通常選挙である上,本件選挙当時における最大較差は3.00倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍から更に縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に前記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。

そうすると,仮に本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至ってい
たと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。

第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲5,7,9),当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。



参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出され
るものとした。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職
選挙法の定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員252人
は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分さ
れることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正という。)により,参議院議員の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。(乙2,3)



参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが,人口変動により次第に拡大を続け,平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙という。)当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後,
平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成7年から同19年までに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。

しかるところ,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。)において後記の基本的な判断枠組みを示した後,平成4年に施行された通常選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示し
た(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁)が,平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された
2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定
数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)
第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも,上掲最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21
年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,
較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。
(本項につき,乙2~4)

平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙につき,平成24年大法廷判決は,結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたもの
の,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府
県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年7月11日
の通常選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速や
かに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。(甲5,乙4)


平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年法律第94号。以下平成24年改正法という。),同月26日に施行された。平成24年改正法の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,同28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
平成25年7月21日,上記平成24年改正法による定数配分規定の下での初めての通常選挙が施行された(以下平成25年選挙という。)。同
選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。
(本項につき,乙2~4,乙5の1)


平成25年9月,参議院において同28年に施行される通常選挙に向けた参議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4
月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以
降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。そして,同協議会において,更に同年11月以降,意見集約に向けて協議が行われたが,各会派の意見が一致しなかったこ
とから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。(乙3,乙5の1)


このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改
正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわ
ざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平
等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。(甲7)



選挙制度の改革に関する検討会は,前記⑸の報告書の提出を受けて協議を行ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする4県2合区を含む10増10減の
改正案と20県10合区による12増12減の改正案とに概ね集約され,同年7月23日,上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ
減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。

平成27年7月28日,上記の改正案に係る平成27年改正法が成立し,同年11月5日に施行された。同法による公職選挙法の改正(平成27年改正)の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。(本項につき,乙3,5の1及び2)⑻

衆議院議員の定数削減と衆議院選挙に係る一票の較差是正を図るための衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平
成28年法律第49号,以下衆議院議員定数削減法という。)が,平成28年5月,成立した。同法の附則には,この法律の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,民意の集約と反映を基本としその間の適正なバランスに配慮しつつ,公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう,不断の見直しが行われるものとする。とする条項が規定された(同法附則5条)。同法の法案提出者は,同法に係る国会審議において,上記条項の対象は,衆議院のみならず参議院の選挙制度も含むことを前提とする旨説明した。(乙31の3~5)⑼

平成28年7月10日,本件旧定数配分規定の下での初めての通常選挙である平成28年選挙が施行された。平成28年選挙当時の選挙区間の最大較
差は3.08倍であった。(乙4,5の3)
平成28年選挙において合区された鳥取県,島根県,徳島県及び高知県の投票率は,島根県を除く各県で低下するとともに,当時における過去最低の投票率を記録した。無効投票率(当時)は,島根県を除いて全国平均(2.65%)を相当程度上回り,高知県(6.14%)は全国で最高となった。
(乙5の4及び5,乙18の8)

平成28年選挙につき,平成29年大法廷判決は,平成27年改正法につき,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続していた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができる
として,平成28年選挙当時,本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。(甲9)

平成28年選挙後の平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表による参議院改革協議会が設置され,さらに,同年4月,参議院改革協議会の下に,参議院選挙制度改革について
集中的に調査検討を進めるために,各会派代表による選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。(乙6~11,16)
専門委員会では,平成29年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり参議院の選挙制度に関する協議が行われ,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについて意見交換が行われた。選挙制度の枠組みについては,選挙区及び比例代表の2本立てとする場合並びに選挙区及び比例代表の2本立てとしない場合のそれぞれを検討するともに,ブロック選挙区制や奇数配当の可否,連記制の導入等などにつ
いても議論が行われた。(乙11)
専門委員会においては,合区の対象都道府県を増加させることについては,否定的な意見が多かった。(乙11の2・47頁)
専門委員会の委員長は,平成30年4月27日,選挙制度の見直しについては,中長期的な観点と短期的な観点の双方を意識して議論すべきという意
見があった,合区を積極的に支持する意見は少なかったが,合区解消の方法については,選挙区の単位を,都道府県単位とすべきという意見とより広域のブロック単位とすべきという意見があったが,都道府県単位とすべきという意見が多かった,現時点でなお意見の隔たりがあるが,各会派のお互いの意見は認識,整理されてきたという所感を述べた。(乙11の2・70~7
1頁)
専門委員会は,平成30年5月7日,参議院改革協議会に対し,各論点ごとの意見をとりまとめ参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書(以下専門委員会報告書という。)を提出した。(乙8,10,
11,16)
専門委員会報告書によれば,偶数配分を前提として合区を解消した場合,
最大較差(人口)を3.08倍以下とするには,選挙区選挙の定数を50議席増加する必要があるという試算がある。(乙11の2・117頁)⑿
参議院改革協議会においては,専門委員会報告書を受けて,会派から選挙制度改革の具体的な提案がされ,意見交換がされた。平成30年7月4日の各会派代表者懇談会において,各会派の意見には隔たりがある中,議長から,
具体案のある会派は,法案を提出し,委員会において議論を進めることを要請する旨の発言があった。(乙16)
これを受けて,五つの法律案が7会派から発議されることとなり,いずれも特別委員会に付託され,平成30年7月6日以降,質疑が行われた。(乙13,16)

そして,特別委員会において,平成30年7月11日にも各法律案に対する質疑が行われた後,最終的には,上記五つの法律案のうちの一つの法律案が多数を持って可決すべきものとされ,その際,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする附帯決議(本件
附帯決議)も多数をもって可決された。その後,同日の参議院本会議において,上記の法律案について討論が行われ,採決の結果,同案が可決された。(乙13の4,乙16)。
その後,上記法律案は,平成30年7月13日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されて質疑が行われ,同月17
日に質疑を終局し,採決の結果,多数をもって可決すべきものとされた後の,同月18日,衆議院本会議における討論を経て,多数をもって可決され,平成30年改正法が成立した。(乙13の5~7,乙16)

平成30年改正法は,参議院議員の総定数を248人(6人増)とすること,比例代表選出議員の定数を100人(4人増)とし,政党その他の政治団体が,一部の候補者を優先的に当選人となるべき候補者として名簿に記載
できるものとすること,選挙区選出議員の定数を148人(2人増)とし,埼玉県選挙区の定数を8人(2人増)とすることなどを内容とするものである。同法による改正の結果,平成27年実施の国勢調査結果による選挙区間の最大較差(人口)は1対2.985となった。(乙14,16,17)⒁
平成27年改正に当たり,その当時合区の対象とされていた地方公共団体から,地方自治法99条に基づき,合区創設に反対し都道府県単位の維持を求める旨の意見書が多数提出された。さらに,全国町村会や全国知事会からも,人口の多寡にかかわらず,都道府県単位の代表が国政に参加する仕組みや,地域の実情や声が国会に反映できる選挙制度の検討等を求める意見が示された。(乙28の1,8,10~12,22,23,29,31~34,
61,62,64~71,100,101,124~126,150,152,169,171~200)
平成27年改正から本件選挙に至るまでの間,全国知事会等の地方六団体から,投票率の低下,無効投票の増加などの平成28年選挙における合区による弊害の顕在化等を指摘し,合区の早期解消を求める意見や決議がされた。
また,地方六団体は,平成30年4月27日,合区の早期解消促進大会を開催し,前同様の意見を採択した。(乙21の2~6,乙22,23,24,25の2~6,乙26の2~6,乙27)
そのほか,各地方公共団体も,平成27年改正から本件選挙に至るまで,合区の早期解消や都道府県単位の選挙区制の堅持を強く求める意見が多数に
わたり,継続的に表明され続けている。(乙28の3~7,9,14~22,24~30,35~56,58~60,63,72~99,102~125,145~149,151,153~168,170,201~235)⒂
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下で初めての通常選挙として,本件選挙が施行された。本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.00倍であった。(乙1の1)

本件選挙の投票率は全体的に低下したが,特に合区対象県である徳島県で全国最低の約38.59%を記録したほか,鳥取県及び島根県でもそれぞれの過去最低の投票率を記録した。さらに,無効投票率でも,徳島県では全国平均を大きく上回る6.04%を記録した。(乙1の2及び3,乙19の6~9)

本件選挙の結果を受けて,合区対象4県の知事は,合区を解消し,都道府県単位による選挙制度の実現を求める緊急共同声明を発出し,全国知事会も,合区の確実な解消を強く求める意見を表明する決議を行った。(乙19の2~5,乙21の7,乙28の2)
2
争点に対する判断
原告らは,投票価値の平等を主張するものであるから,当然憲法14条1項等を根拠とするものと解されるので,以下,これを前提として検討する。⑴

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解
される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきもの
である。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによっ
て,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記1⑴において見た参議院議員の選挙制度の仕組みは,
このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選
挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらず,これを是正する
措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。⑵

憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は,立法を始
めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要
請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。


前記⑴のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政
策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,上記⑵のとおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を
加味する観点から,長年にわたり政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,上記のような選挙制度の構築についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,長年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,その変化として,参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに加え,衆議
院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げて,これらの事情の下では,昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正
当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,都道府県を各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請
はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,上記のように長期にわたり大きな較差が継続していた状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっていたとしたものである。しかし,この判断は,都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大きな不平等状態を長期にわ
たって継続させてきた要因であると見たことによるものにほかならず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。
もとより,参議院議員の選挙について,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民
意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,上記のような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調
和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである。⑷

そして,平成28年選挙は,平成26年大法廷判決の言渡し後に成立した平成27年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものである。同法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにと
どまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのである。
この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた上記の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区すると
いうこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものと見ることができる。また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度
の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記5倍前後というような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができる。

そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができる。


次に,平成30年改正法について検討する。
投票価値の較差の是正を図る具体的方策としては,以下のものが考えられる。

更なる定数の増加について
選挙人数の多い選挙区に対して定数を増加することにより投票価値の較差の是正を図ることについては,前記1⑾のとおり,仮に合区を解消して
最大較差を3.08倍以下に抑えるには,選挙区選挙の定数を50議席増加しなければならないというのであり,議員定数の削減が課題とされている近年の社会情勢の下では実現性が高いものとはいえない。

更なる合区について
更なる合区を行うことにより投票価値の較差の是正を図ることについては,平成28年選挙においては,合区対象となった都道府県において,現
実的に投票率の低下,無効票の増加等の弊害が生じていた(前記1⑼)。本件選挙においても,同様の弊害が見られるところである(前記1⒂)。そして,原告らの選挙区についていうと,平成28年選挙において議員1人当たりの人口が2番目に少なかった佐賀県を隣接県のうち最も人口の少ない長崎県と合区した場合,佐賀県と長崎県の有権者数の差異は47万
4174人となり(乙5の3及び5),本件選挙における長崎県の当選者の得票数が33万6612票であるのに対し,佐賀県の当選者の得票数は25万1601票にとどまるなど(乙5の8),人口差が大きい。そして,一般に,比較的多数の有権者は,地元都道府県の出身者であるなど地元地域との関係が深い候補者に投票する傾向があるため(乙18の8),人口
の少ない県から代表が選出されず,それが固定化するおそれがある。また,合区される都道府県は,隣接するがために,国政の運営上の課題について,ときに先鋭に利害が対立する場合があり,当該選挙区を構成する住民の意見を集約することが困難となるおそれもある。このように,更なる合区を行うことについては,上記のような合区に伴う弊害が拡大するおそれがあ
る。

都道府県より広域の地域を選挙の単位とすることについて
合区をすることなく投票価値の較差を是正する方法として,都道府県より広域の選挙区,いわゆるブロック制を導入することについては,これは,これまで長年にわたり継続されていた都道府県単位の選挙制度からの急激
かつ大規模な選挙制度の変更というべきものである。これを実現するとすれば相応の期間を要するものと認められる。

上記のとおり投票価値の較差是正のための諸方策には,いずれも一長一短があり,その実現は容易ではない。

また,前記1⒁のとおり,平成27年改正法によって生じた合区及びこれに基づいて施行された平成28年選挙を受けて,全国知事会等の地方六
団体や多数の地方公共団体から,投票率の低下,無効票の増加等の合区による弊害を指摘し,合区の早期解消を図ることを求める意見が多数出されていた。本件選挙後も,同様の意見が出されている(前記1⒂)。かかる状況下で,平成30年改正法は,投票価値の平等の観点から,従前のような大きな較差を再び生じさせることがないよう,平成27年改正
によって初めて設けられた合区制を維持しつつ,若干(2人)の定数増で較差の縮小を図ったものであり,その結果,最大較差は,平成28年選挙の3.08倍から本件選挙の3.00倍とわずかではあるものの減少している。
平成30年改正法は,投票価値の較差を大幅に縮小させた平成27年改
正法を踏襲しつつ,平成27年改正法のままで漫然と本件選挙を行うことはしないという立法府の意思を示したものであり,更なる投票価値の較差の是正を指向したものということができる。

次に,平成27年改正法の附則との関係について検討する。
平成27年改正法の附則には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定(7条)が置かれていたところ,平成30年改正法は,選挙区選挙については,選挙区選出議員の定数
を148人(2人増)とし,それを埼玉県選挙区に割り当て,同選挙区の定数を8人(2人増)とすることなどを内容とするものであり,これをもって平成27年改正法の附則に定める選挙制度の抜本的な見直しに当たるとまでいうことは困難である。
しかし,同附則は,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立
法府の決意等を示したものというべきであって,選挙制度の抜本的な見直しを必ず実現することまで,同附則をもって約諾したものと解することは
できない。
そして,平成30年改正法については,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする本件附帯決議がされていることも看過することはできない。また,前記1⑻のとおり,衆
議院議員定数削減法の附則においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,民意の集約と反映を基本としその間の適正なバランスに配慮しつつ,公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう,不断の見直しが行われるものとする。という規定が置かれているところ,この規定の適用は参議院を排除するもので
はないと解される。すなわち,立法府においても,参議院における更なる投票価値の不均衡の是正を指向しているものと見ることができる。平成29年大法廷判決は以上の趣旨をいうものと解すべきである。⑹

以上のような事情を総合すれば,本件選挙当時,平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について,違憲の
問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
3
原告らの主張について


原告らは,昭和22年から平成17年までの間,衆議院の多数の意見と参議院の多数の意見が異なった15件の全てで参議院の多数の意見が優越するという強い参議院という現状の下では,参議院選挙における投票価値の平等の要請は,衆議院選挙における投票価値の平等の要請に劣後してはならず,参議院議員の選挙における最大較差は,衆議院議員の選挙における最大
較差を超えることは許されない旨主張する。
確かに,参議院の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等が後退
してよいと解すべき理由は見いだし難いものの,参議院については,前記のような議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があり,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,二院制に係る前記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに照らすと,参議院議員の選挙における最大較差が衆議院議員の選挙における最大較差を超えることが許されないと解
することはできない。原告らの上記主張を採用することはできない。⑵

原告らは,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が採用した2段階の判断枠組みは,憲法98条1項に違反するものであり,無効である旨主張するが,独自の見解というほかなく採用の限りでない。
また,原告らは,平成29年大法廷判決は,2段階の判断枠組みにおいて,
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決と比較して各段階で考慮する要素を変えており,判例変更に当たるとした上で,判例変更する場合,予測可能性の保障と法的安定性の要請から,判例変更した旨の文言と判例変更した理由が判文において明示される必要があるがこれをしていないから無効な判例変更である旨主張する。

しかし,平成24年大法廷判決や平成26年大法廷判決においても,いわゆる違憲状態かどうかの判断において,客観的な最大較差の数値のみを考慮要素としていたものと解することはできず,平成29年大法廷判決が判例を変更したものと解することはできない。


原告らは,憲法56条2項,1条,前文第1段落第1文冒頭は,厳格な人口比例選挙を要求するものである旨縷々主張する。
しかしながら,憲法56条2項,1条,前文第1段落第1文冒頭が,いわゆる投票価値の平等を要求するものと解することはできない。原告らの上記主張は独自の見解をいうものにすぎず,採用の限りでない。

4
その他,原告らの主張に鑑み,証拠を検討しても,上記認定判断を左右しない。

第4

結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がなく,棄却を免れない。
よって,主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

西井和徒
裁判官

上村考由
裁判官

佐伯良子
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