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虚偽診断書作成、同行使
事件番号平成31(う)487
事件名虚偽診断書作成,同行使
裁判年月日令和元年11月8日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-11-08
情報公開日2019-11-27 18:00:10
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令和元年11月8日宣告

大阪高等裁判所第4刑事部

平成31年(う)第487号

虚偽診断書作成,同行使被告事件

主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,検察官鈴木眞理子作成の控訴趣意書及び検察官田中宏明作成の控訴趣意補充書に各記載のとおりであり,これらに対する答弁は,弁護人大杉光子(主任)及び宮本恵伸連名作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,事実誤認及び訴訟手続の法令違反の各主張である。
そこで,原審記録を調査して検討する(略語は,原判決のそれによる。)。1
事実誤認をいう控訴趣意について
論旨は,被告人が診療を担当したAが平成28年1,2月頃に重篤な心室
性不整脈であるなどの事実はなかったのに,虚偽の事実を記載した検察官宛の平成28年2月5日付の回答書(本件回答書)を作成して郵送により提出し,もって,公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載をし,それを行使したのに,被告人に対し,虚偽診断書作成及び同行使の事実を認めず,被告人を無罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
原判決は,本件回答書に記載された重症心室性不整脈が心臓突然死のリスク(危険性)のある心室性不整脈を指すことは当事者間に争いはなく,関係証拠からも認められるとした上で,虚偽性の判断の対象である本件回答書の記載内容は,原審検察官が主張するような,被告人がAの刑事施設への収容について否定的判断を示すものとして,刑事施設に収容することができない程度に重症心室性不整脈による心臓突然死のリスクが高い(危険性の程度が大きい)ということを確定的に示したものとはいえず,心臓突然死のリスク(危険性),すなわち心臓突然死に至る可能性のある重症心室性不整脈があり,刑事施設に収容し,過度のストレスがかかった場合には,それが更に悪化する可能性があるという予測的判断を示したものに止まるとした上で,本件回答書の記載内容が虚偽であることについて,以下のとおり検討の上,原審検察官は合理的な疑いを超えた立証をしたということはできないとした。
その理由の詳述として,原判決は,まず,本件を検討するに際して前提となる不整脈の意義・種類,その検査方法,致死性の心室性不整脈の発生要因・機序等に係る医学的知見等について認定し,次に,Aの主要な診療経過を認定した上で,被告人が本件回答書に示した前記判断に根拠があるかについて検討し,原判決の3成の時点で,Aに心室期外収縮の存在自体を認める医学的・客観的な根拠がなく,また,重症心疾患も心機能の低下もないからAの心室性不整脈が重篤と判断できる根拠がないとする原審検察官の主張に対しては,そのような検査結果等に基づく判断根拠がないことは認めつつも,被告人は,過去のAの心電図検査の結果等から本件回答書作成当時の心室期外収縮の出現を推察しているところ,その判断手法がおよそ不合理なものとは認められず,重症心疾患の存在及び心機能の低下は,生命予後改善のために治療が必要な心室期外収縮のうちのコアな部分を判断するための基準にすぎないとして,Aに重症心疾患の存在及び心機能の低下がないからといって,その推察が虚偽であるとはいえない,②被告人は,Aには心電図検査上,左軸偏位が確立したことから,末期腎不全を原因とした心筋の障害がある程度起こっていると考え,これが基質となると考え,また,心室期外収縮について心電図上は約3年前を最後に確認されていないが,前記基質が残存している以上,引き続き同程度の心室期外収縮が出現していると考え,さらに平成28年1月にクレアチニンの上昇により短期入院していることから,移植腎が定着したとはいえず,依然として環境因子も存在していると判断した旨を供述するところ,このような被告人の医学的な評価判断を前提にAの過去の心電図検査の結果やその自覚症状等を総合して検討した結果,本件回答書の記載が,医学的・客観的にみて真実に反することが明らかといえるほど不合理なものと断ずるには合理的な疑いが残るとした上で,B証言に依拠して左軸偏位があるだけでは心筋の障害の所見にはならず,心機能が正常である以上,心筋の障害を推測する根拠にはならないとする原審検察官の主張に対しては,被告人は,自らの研究や経験を通して獲得した専門的知見に基づきAの左軸偏位と重症心室性不整脈との関連性を判断したのであり,前記B証言と整合していなくても被告人の述べる根拠が医学的・客観的に真実に反することにはならない,③腎移植後のAに対する診察の回数の少なさや投薬や心電図検査の状況から,被告人にはAに対する適切な治療の前提となる正確な病状把握を行う姿勢が見られない上,重症であると診断しながら,本件回答書作成の直前になってアミオダロンの投与を開始していることやカテーテルアブレーション等の適切な治療をしていないことは,被告人自身が,Aが重症心室性不整脈の状態になかったと判断していたことを示すものであるという原審検察官の主張に対しては,本件回答書の記載が予測的な判断としての病名と解されることを踏まえ,被告人のAに対する診療経過等もみて,その判断が虚偽であったと推認できる力はそれほどのものとはいえない,④不整脈の出現頻度や受診の事実につき,不整脈の根拠となった慢性腎臓病の存在は,腎移植によりこの根拠が消失したにもかかわらず,特段の理由もなく,腎移植前に重篤と診断された根拠に用いられた当時の検査結果等をあたかも本件回答書作成当時の診断結果であるかのように記載したのは,本件回答書の記載内容が虚偽であることを示しているとする原審検察官の主張に対しては,この点は不適切な記載といえるが,被告人が以前の結果等を参考に,Aには過去と同様に現在も心室期外収縮が起きていると考えたことによる記載とも解し得るし,自覚症状があったとの記載が事実に反するものではなく,慢性腎不全の末期状態として,血液中に停滞する高濃度の尿酸による心筋の障害が生じていると考え,これが左軸偏位という形で心電図上に現れるようになっており,この左軸偏位が腎移植前後を通じて出ているので重症心室性不整脈であると判断した旨を述べる被告人の供述があることから,本件回答書の記載内容は虚偽であるとは断定できないとし,⑤被告人には,虚偽の回答をする動機があったという原審検察官の主張に対し,そのような動機の存在があるとしても,虚偽の回答をしたことを推認させる力は極めて弱いとし,⑥本件回答書が虚偽であると自認する旨の被告人の捜査段階の供述があるという原審検察官の主張に対しては,後日振り返って本件回答書の表現に問題があったことを認めたとは読めるが,重症としたことについてまでも虚偽であることを認めたものとは解されないなど判示して,これらを総合しても,本件回答書の記載内容が医学的・客観的に虚偽であると認定するに,なお疑いが残るとして,被告人に対し,無罪の判決をした。原判決が,以上のような認定説示をして本件回答書の記載内容が医学的・客観的に虚偽であると認定するには合理的な疑いが残るとしたことに誤りはない。以下,所論に従って,順次検討する。所論は,甲検察庁からの平成28年1月27日付裁判執行関係事項照会書(以下,「本件照会書という。)中,照会事項1ないし5は,その記載
ぶりなどから本件回答書作成時におけるAの病状等に対する確定的判断を回答として求める趣旨としか解し得ないものであり,このことは本件回答書の記載からも一目瞭然であるのに,原判決が,このような確定的判断が記載されたことを前提にして本件回答書の記載内容の虚偽性の判断をしなかったのは誤りであるという。
関係証拠からすると,原判決は,医師が診療過程で患者から聴取した自覚症状やそれまでの検査結果等を前提に病名を診断し,今後の治療予測等を立てたり,予後を予測するものと,それに加えて,各種検査を行った上でその時点における確定的な診断をしたものとを,その診断根拠等の相違によって区別して,予測的判断と確定的判断といった文言を用いていると認められること,本件照会書は,定型的で,照会目的のみならず回答を求める6つの項目も非常に簡単な内容に止まるものであることが認められ,このような照会を受けた医師の立場からすれば,一般的には,原判決のいう確定的判断が容易にできるものについてはその検査等の根拠に基づいた回答内容を記載し,そのような検査等がなされておらず今後の病状の予想も含む判断を求められていると理解した場合には,原判決のいう予測的判断に止まる記載をすることも十分考えられる状況にあったといえるから,当然に所論がいう確定的判断のみが記載されるとは限らないとみることができることからすると,その意味で,原判決が,同庁検察官からの本件照会が,そもそも,各種検査を行った上でその時点の診断をした確定的な診断に限定して回答を求めたものであったといえるかは疑わしいとの判断をしたと理解することができるから,この点に必ずしも誤りがあるとはいえない。
更に,原判決も説示するとおり,被告人作成の本件回答書の記載内容には曖昧さがあり,その趣旨が明確でない部分も多いことに照らすと,本件回答書の文面からも,被告人がその時点における予測的判断に止まる記載をした可能性が十分考えられるのであり,本件回答書の記載内容中,所論が主張するところの照会事項1ないし5に対応する部分に関し,その全てについて,その作成時におけるAの病状等に対する各種検査を行った上でその時点における確定的な診断を内容とするものを示したものとは当然にはいえないのであるから,原判決が,本件回答書に所論がいう確定的診断としての記載がなされていることを前提としなかったことに誤りはない。そして,原審の証拠調べの結果によっても,Aの不整脈出現に関する記載については,本件照会時頃の検査結果を根拠に用いたものではなく,以前の検査結果を記載したものであること,以前の検査結果やAから聴取した自覚症状を前提に診断し,治療や予後の予測が記載されていることが認められるから,原判決が,本件回答書はその確定的な判断を示したものではなく予測的判断を示したものに止まるとした点に誤りはない。
所論が事実誤認の理由として引用する被告人の原審公判供述部分については,被告人において,はっきりと診断を下したという趣旨で確定的診断をした旨の返答をしているものに過ぎず,原判決の前記判断と矛盾するものではない。
また,所論中には,その確定的の意味を原判決の説示するところとは別異に理解して,原判決には,事実誤認ないし論理矛盾があると批判している箇所が散見されるが,もとより,これらは当を得ないものである。所論は採用できない。

かつ,心機能が低下しているため,心臓突然死の危険のある心室性不整脈が出現している場合しかないのに,A
等はみられなかったこと,Aを心室性不整脈とした主要な診断根拠である腎臓病は腎移植手術により,透析治療も不要となり,その根拠は消失したことからすると,本件回答書作成当時に,医学的に見て,Aに心室期外収縮の出現を推察する根拠はなかったというが,被告人は,Aの過去の心電図検査の結果等から本件回答書作成時の心室期外収縮の出現を推察したものであるから,判断の根拠がないわけではなく,その推察をおよそ不合理とは認めなかった原判決の判断が不当とはいえない。また,被告人は,B決が,B医師と見解を異にするからといって,虚偽であるといえるわけではないとしたのも誤りとはいえない。
被告人が前記のとおり医師としての診断に基づいて,Aに致死性の心室性不整脈の発生要因(基質,環境因子,引き金(トリガー)が相まって発生する)があることを認め,その発生原因としての環境因子や引き金を重視し,Aの自覚症状の訴えも重視して,Aが,心臓突然死の危険性のある心室性不整脈であり,刑事施設に収容し,過度のストレスがかかった場合には,それが更に悪化する可能性があるという判断をしたことについては,なるほどその左軸偏位の診断は,B医師らの所見とは一致しておらず,Aの自覚症状である動悸の評価などについては,他の病因等によるとの解釈の余地もあるのに,被告人において,患者側に一定の配慮を示して,従前の診断名をそのまま維持して,治療を続ける必要があると診断した可能性もないとはいえず,その診断根拠については脆弱さが認められるが,これが医学的・客観的に見て真実に反することが明らかといえるほど不合理なものと断ずるに合理的疑いが残るとした原判決の結論的判断が直ちに誤りであるということはできない。
さらに,所論は,B
機能の低下という条件を満たさない限り,重症心室性不整脈を考える余地はなく,これは不整脈専門医の常識であるのに,原判決が,それはコアの部分であり,例外があることを認め,それを前提とした判断をしたのは誤りであるというが,被告人の弁解供述によれば,被告人がこの基準によって判断したと述べているわけではないし,本件でした被告人の判断が不合理なもので,全く医学的な説明になっていないというならともかく,これまでの医師としての経験に基づく推論を中心として診断したというのであり,所論のいう常識に沿った医学的判断手法を採用しなかったからといって,被告人の弁解が全く信用できないということには必ずしもならず,その弁解を排斥しなかった原判決の判断が誤りということはできない。所論はいずれも採用できない。
所論は,被告人が,Aの症状の実態把握を行わず,重症心室性不正脈患者に対する有効な治療をしていなかったこと,本件回答書作成に当たり,必要な検査もせずにアミオダロンを処方したことからすると,被告人は,実際は,Aは重症心室性不整脈であると考えてはおらず,それに見せかける偽装工作としての前記薬物投与であったと主張する。なるほど被告人は本件回答書においてAに対して従前と同様に重症心室性不整脈という診断を維持しており,かつ,Aから自覚症状の訴えを聞いてもいたのであるから,長時間の心電図検査を行うことなくその検査を簡略化し,エコー検査の実施もせず,Aの病状の実態把握に十分に努めることなく,有効な投薬治療もしていなかったことは,被告人の診断名とは整合的な行動とはいえない。また,アミオダロンを投与するに当たり,特段の事情もなく,十分な検査がなされたとは認められないことも医療措置としては適切さを欠くものといえる。そうすると,被告人は,重症心室性不整脈の診断名を残しつつも,その重症ないし重篤さについては従前とは異なる評価や判断をしていたのではないかという疑いが残る。しかし,本件回答書の記載は,被告人が,環境因子等の変化を踏まえての予測的判断をしているところもみられることからすると,Aの刑事施設への収容により病状が重篤化するおそれが見込まれるならば,その基本となる診断名は維持し得るものと判断したとも考えられ,収容されていない段階では,経過観察に止め,直ちに適切かつ十分な治療に及んでいないからといって,そのような予測的判断をしていたことと整合しないとはいえず,原判決がその判断が虚偽であったと推認できる力はそれほど強いものとはいえないとした点を誤りということはできない。
所論は,Aの不整脈の出現頻度や受診の事実について,腎移植前に重篤とした根拠に用いられた当時の検査結果等を被告人が本件回答書に記載したことを虚偽の内容を記載したと原判決が認定しなかったのは誤りであるというが,被告人は本件回答書中にAの腎移植前の検査結果を現在の検査結果とあえて明示して記載したわけではなく,本件回答書作成時点でAは過去と同様に現在も心室期外収縮が起きていると推察したものの,その判断を根拠付ける最新の検査結果を示すデータがなかったことから,被告人がそのような推察をした根拠として検査時期を明示する必要性を十分に意識することなく,便宜的に古い検査結果をそのまま引用したとも解する余地があることからすると,あえて意識的に虚偽記載をしたわけではなく,診断過程について説明不十分な記載をしたに止まるとみることも可能なものであることなどから,原判決が,本件回答書の記載が不適切であることは否定できないとしつつも,直ちに本件回答書の結論部分が医学的・客観的に真実に反することにはならず,この記載自体が医学的・客観的に真実に反する検査結果を記載したものとはいえないとした点に必ずしも誤りがあるとはいえない。所論は採用できない。
所論は,本件回答書の記載について,平成28年2月当時の実際の病状とは異なる内容の記載でしたとか,症状が重篤化することが容易に予測できるなどと断定するような重篤な状況になかった旨を述べた被告人の供述調書の証拠価値を大きいとはいえないとしたのは誤りであるというが,確かに原審乙2号証ないし乙4号証の被告人の供述調書中には,所論の指摘に沿う記載がみられ,あたかも虚偽記載を自認するかのようにも読める内容とはなっているが,被告人が本件公判前整理手続を含めて一貫して,本件回答書の虚偽性に関する主観・客観の両面から事実を全面的に争い無罪を主張しているなどの被告人の応訴態度や関係証拠の取調状況等に照らすと,本件回答書作成時点における検査結果に係る客観的な裏付資料がないこととの関係で述べたと解することができるものであったり,その表現にAの病状の悪さを強調しすぎたりしたところがあったとはいえるにしても,被告人が本件回答書の作成時点において実際に考えていた診断内容との関係で,その認識していたところと明らかに反する旨の記載をしたと述べているわけではないから,原判決が,これらの供述調書において被告人が虚偽であることを自認した供述とみることはできず,本件回答書が虚偽であることを示すものとしての証拠価値が大きいとはいえないとした点に誤りはない。所論は採用できない。
その余の検察官が所論として縷々述べる点について検討しても,本件回答書が虚偽内容を記載したものであることには合理的な疑いが残るとした原判決の判断が誤りということはできない。
論旨は理由がない。
2
訴訟手続の法令違反をいう控訴趣意について
論旨は,原判決が本件回答書の記載内容が検察官の主張するようなAを刑
事施設に収容することにつき否定的な判断をした趣旨と解するかどうか(論
上で,判断したことに対し,公判前整理手続において,論点
て顕在化させないままに審理判決した点で,原裁判所には釈明義務違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に該当すると主張する。
そこで,検討するに,原審検察官作成に係る証明予定事実記載書3(同7ページ)の第1の3の小括においては,Aについては,検察官からの受刑の可否を判断するための病状等の照会に対し,受刑できないような重篤な重症心室性不整脈であると診断される根拠がなく,今後Aを刑事施設に収容した場合に,不整脈が重症化すると判断できる根拠もなかった。しかし,被告人は,検察官からのAの受刑の可否を判断するための照会に対し,虚偽の診断事実を記載した上,Aを刑事施設に収容することについて否定的判断を示すことで,虚偽の診断結果と収容が不可能であるかのような虚偽内容の本件診断書を作成し,Cに指示して検察庁に回答した。と記載されており,原審検察官は,本件回答書中における虚偽の判断の対象について,単に虚偽の診断結果のみならず,収容に対する否定的判断ないし収容が不可能であるかのような虚偽内容の診断書を作成した点についても明示的に主張しており,第15回公判前整理手続の結果を示した争点整理(平成30年9月12日版)において,本件回答書の内容は,その結論部分においても,その根拠部分においても虚偽であり,これらのことを被告人が認識していたことも明らかであると主張し,これに対し,弁護人は,前記争点整理(平成30年9月12日版)において,反論として,被告人の診断に根拠がないことはない,Aの病状等からみて被告人が虚偽の記載をしたわけではないと主張して,主要な争点整理がなされたものである。
したがって
告人の当時のAの病状等に係る部分の評価に関するものであって,少なくとも争点の一部として,虚偽性の判断に関わるものとして当事者において当然の前提として認識することができていたものと認められる。
その上で,原審の審理の内容や状況をみると,原裁判所は,本件回答書の病名欄に記載された重症心室性不整脈とは,心臓突然死のリスク(危険性)のある心室性不整脈を指すことは争いのない事実と理解した上で,主要な争点を,本件回答書の虚偽性とし,Aの病状がそれに当たるか,その病状の根拠事実が客観的事実に合致するかを主張立証の対象として,これらに関する被告人の認識も含めて審理をしていたものであり,当事者双方とも,論
訟活動を展開してきたことが認められる。
このような状況にあったことから,
の必要はなかったとみるべきであるし,それを同手続内で意識的に顕在化させることにより,公判前整理手続において整理された事実主張や立証方針等が大きく変わるといった関係にもなかったものとみることができる。
として掲げて主張整理をしなかったことが,審理不尽を招くようなものとはいえないから,
原判決に,
判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反
(釈
明義務違反)があるとは認められない。

告人が予測的判断をしたという可能性を踏まえてその診断内容について改めて検討した上で,本件回答書については,結局,確定的判断が記載されたものとまでは認められず,結果として予測的判断が記載されたものと認定したものであるところ,その区別は,原裁判所が判決の結論を導くに際しての論理の説明をするために用いられた区分に止まるものと理解することができる。
そのような原裁判所の視点や,虚偽性の判断対象に関する認識等を,当事者に明示して,争点整理等をしておく必要性があったか否かについて検討するに,本件の公判前整理手続における当事者の主張及び証拠の整理状況,原審の審理経過,取り調べられた証拠等によれば,原判決のいう予測的判断に係る医療データだけでなく,本件照会があった時点の頃の検査結果やその後の治療内容についても証拠化され,その証拠調べがなされており,被告人が以前の検査結果等と患者から聴取した自覚症状でもって判断したものなのか(予測的判断),その時点の検査データをも加えて検討した上での判断(確定的判断)となっていたかについては,いずれも審理の対象となっていて,これに関わる事実関係に関する主張及び証拠提出も適切かつ十分になされていたといえること,原審の審理内容をみても,本件回答書の記載内容が医学的・客観的に虚偽であるといえるかの虚偽性の判断に関する攻撃防御は当事者によって適切になされていたことが認められるのみならず,いずれも医師である被告人及び原審証人Bもそのような区別については十分に意識した上
よる釈明によって争点化等の手続が踏まれなかったからといって,虚偽性の判断に対する両当事者の訴訟活動が不十分となったという関係は認められない。
そうすると,本件公判前整理手続ないし公判手続の中で,審理の対象について原裁判所が前記のような考えや認識を持ったからといって,そこでそれらの点に関わる何らかの釈明をした上,争点化等しなかったことが審理不尽をもたらすという関係にあったとはいえないから,原判決に,判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反
(釈明義務違反)
があるとは認められない。
所論はいずれも採用できない。論旨は理由がない。
3
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のと
おり判決する。
大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官

樋󠄀

口裕晃
裁判官

森岡孝介
裁判官

加藤陽
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