判例検索β > 平成29年(わ)第115号
殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、窃盗
事件番号平成29(わ)115
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂,窃盗
裁判年月日令和元年10月21日
法廷名福岡地方裁判所
裁判日:西暦2019-10-21
情報公開日2019-11-25 16:00:08
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宣告日
令和元年10月21日

事件名
殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂,窃盗

裁判官
福岡地方裁判所第3刑事部

足立

勉,國分

進,加藤


(主文)
被告人を懲役20年に処する
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1【自治会長事件】
C,D,E,F,G及びHと共謀の上,
1
平成22年3月15日午後11時13分頃,北九州市a区のA2方敷地内において,D又はEのいずれか,あるいは両名が,A2方に在宅中の同人(当時75歳)及びA1(当時75歳)に対し,殺意をもって,所携の回転式けん銃を使用して,A2方台所勝手口から家屋内に弾丸2発を発射して台所壁に着弾させ,さらに,同人方玄関先から家屋内に弾丸4発を発射し,玄関に接した8畳和室空間を通してA2ら2名が在室していたA2方1階6畳寝室のふすまを貫通させて同室押し入れに着弾させるなどしたが,上記弾丸がいずれもA2らに命中せず,A2らの殺害の目的を遂げず,

2
法定の除外事由がないのに,上記日時場所において,上記けん銃1丁を,これに適合する実包6発と共に携帯して所持し,

第2【I事件】
C,J,K,F及びGと共謀の上,法定の除外事由がないのに,
1
平成23年2月9日午後7時12分頃,不特定若しくは多数の者の用に供される場所である北九州市b区c町d番eL移転新築工事作業所2階事務所において,Kが,M(当時50歳)に対し,殺意をもって,所携の回転弾倉式けん銃を使用して,弾丸3発を発射し,そのうち1発を同人の下腹部に命中させたが,同人に全治約23日間を要する下腹部挫創の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げず,
2
上記日時場所において,上記けん銃1丁を,これに適合する実包3発と共に携帯して所持し,

第3【窃盗事件】
Gと共謀の上,平成23年11月中旬頃,北九州市a区fg丁目h番i号N南側駐輪場において,同所に駐輪中のO所有の普通自動二輪車1台(時価約30万円相当)を窃取し,
第4【P事件】
C,K,Q,E,R,G及びSと共謀の上,法定の除外事由がないのに,1
平成23年11月26日午後9時頃,不特定若しくは多数の者の用に供される場所である北九州市b区のT方前路上付近において,Rが,上記T方敷地内にいた上記T(当時72歳)に対し,殺意をもって,所携の回転弾倉式けん銃を使用して,同人の身体を目掛けて弾丸2発を発射し,うち1発を同人の頚部に命中させ,よって,同日午後10時3分頃,同市a区jk丁目l番m号のU病院において,同人を右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離開に基づく失血により死亡させて殺害し,

2
同日午後9時頃,上記T方前路上付近において,上記けん銃1丁を,これに適合する実包2発と共に携帯して所持した。

(事実認定の補足説明)
第1

争点
被告人が窃盗事件の犯行に及んだことについては当事者間に争いがなく,関係証拠上も明らかである。自治会長事件,I事件及びP事件については,いずれも,被告人と他の共犯者らとの間の殺人及び銃砲刀剣類所持等取締法(以下銃刀法ともいう。
)違反の共謀の有無が争点であり,自治会長事件について
は更に,実行犯の殺意の有無も争点となっている。

第2

自治会長事件について
1
自治会長事件の概要について
関係証拠によれば,自治会長事件は,被告人が運転する自動車に乗りA2方付近まで移動したD又はEのいずれか,あるいは両名が,a区自治総連合会会長等を務めるA2及びその妻A1が在室するA2方家屋内にけん銃で弾丸6発を撃ち込んだ事案であること,犯行後,D及びEは,被告人が運転する上記自動車に乗り逃走したことが認められる。

2
実行犯の殺意の有無について


関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
自治会長事件の実行犯(D又はEのいずれか,あるいは両名)は,平成22年3月15日午後11時13分頃,A2方敷地内において,A2方の台所勝手口戸のガラスをコンクリートブロックで割った直後に,回転式けん銃を使用して,同勝手口付近から家屋内に向けて弾丸2発を発射し,次いで同人方の玄関先に移動し,家屋内に向けて弾丸4発を発射した。勝手口付近から発射された弾丸2発のうち1発と,玄関先から発射された弾丸4発は,いずれもほぼ水平方向に発射され,前者は台所の壁面(台所床面から約105センチメートルの高さ部分)に,後者はいずれも玄関のアルミ枠ガラス引き戸(玄関床面から約125ないし142センチメートルの高さ部分)を貫通し,
玄関内側の壁面やA2及びA1が当時在室していた居室内の押し入れ内等に着弾した。また,勝手口付近から発射されたもう1発の弾丸は,台所の天井で跳弾してその壁面に着弾した。



上記実行犯は,一般家屋の敷地内において,通常家人が就寝等のために在宅している時間帯に,いずれも家屋内に向けて6発の弾丸を発射していること,
当該発射行為に使用されたと推定される38口径の回転弾倉式けん銃は,人を殺傷する能力を十分に有するものであること,弾丸の発射角度は6発中5発がほぼ水平方向であり,実際にA2らが在室していた部屋の押し入れ内に弾丸が着弾していることなどからすると,実行犯は,いずれの発射行為の際も,A2方家屋内に所在する人物にけん銃の弾丸が命中し,最悪の場合死亡することとなっても構わないという認識,すなわち,未必的な殺意をもって犯行に及んだといえるのであって,実行犯に殺意があったことは優に認められる。
この点,弁護人は,通常家人が就寝しているであろう時刻に,通常就寝場所としては使用されない勝手口や玄関に銃弾を撃ち込んでいることからすると,実行犯としては人がいないことを想定していたと考えられるなどと主張して,実行犯の殺意を争っている。しかし,犯行時刻は当然に家人全員が就寝しているであろう時刻とまではいえないし,実行犯が,家人が家屋内のどこにいるかを確認した上でけん銃を発射したような形跡も全くうかがわれない。かえって,実行犯は,勝手口戸のガラスをコンクリートブロックで割った直後に犯行に及んでおり,物音に気付いた家人が勝手口や玄関などに出てくる可能性を生じさせてからけん銃を発射しているともみられることを併せ考えれば,実行犯において,発射した弾丸が家屋内にいる家人に当たるかもしれないとの認識を有していたことは明らかである。その他の弁護人の主張を踏まえて検討しても,実行犯に殺意があったとの上記判断は動かない。3
被告人と他の共犯者らとの共謀の有無について


関係証拠によれば,自治会長事件当時,暴力団組織である四代目甲會の傘下には四代目乙組が,さらにその傘下にはCを組長とする丙組が存在し,乙組や丙組の構成員として,乙組組長代行のH,乙組若頭補佐のD,乙組本部長兼丙組組長のC,乙組組員のE及びF,乙組組員兼丙組組員の被告人及びGらが在籍していたことが認められる。



Gは,公判で,自治会長事件に関与する前の出来事として,①乙組組員のVが,平成19年10月に甲會丁組の元組長に対してけん銃使用による殺人事件を起こし,一審で無期懲役の判決の言渡しを受けた前後頃の平成21年当時,被告人と二人でVに面会に行ったことがあったこと,②戊組組員のWが,平成15年頃,nの飲食店Xに手りゅう弾を投げ込んで店内にいた人を負傷させた事件で現行犯逮捕され,その際に死亡したところ,平成20年にGが出所した後に,甲會の上位者の指示により,被告人外1名と合計3名でWの墓参りをしたことがあったこと,③その他にも,甲會組長らが漁協組合の関係者を射殺して身柄を拘束され,無期懲役等の判決を受けたことなどを見聞きしたことを供述している。Gの上記供述は具体的で,特に不自然な点はなく信用できることから,Gが供述するとおりの事実があったと認められる。
そして,G及び被告人の各供述によれば,Gと被告人は,丙組に出入りするようになった時期が近く,その後いずれも丙組組員となって同様の立場で同様の活動をしてきたと認められるところ,Gが供述する①②は被告人も共に体験している事実であり,VやWがどのような事件を起こしたかを被告人だけが知らなかったということは考えにくい。また,被告人が丙組内でGと同様の立場にあることからすれば,③のような甲會組員がけん銃を使用して殺人事件を起こしたといった話を,被告人も周囲の組員から聞くなどして当然に知っていたことが推測される。
そうすると,被告人は,遅くとも自治会長事件が起きる平成22年3月時点までには,甲會がけん銃等を用いて人を殺傷することを含む重大な事件を起こすこともあり得る組織であることを認識していたものと推認できる。⑶

また,Gは,自治会長事件への被告人の関与等に関して,おおむね,以
下のとおり述べる。すなわち,
事件の三,四日前くらいの頃に親方(C)からバイクを用意するよう指示を受け,足のつかないバイクを用意することとし,Cの指示があった旨伝えるなどして被告人と相談し,盗めそうなバイクを探したが見つからず,被告人が知人からバイクを借り受けた。事件当日,被告人とはお互いに他人名義のいわゆる飛ばしの携帯電話を使うなどして連絡を取り合っており,午後4時頃にYの自動車(ゴルフ)に乗ってやってきた被告人と合流した後,Cから指示された駐輪場まで被告人と共に上記バイクを運んだ。バイクが使えない場合に備えて車も用意することにし,被告人と一緒に自動車(グロリア)を盗み,知人に電話で了解を得て,その知人の倉庫にグロリアを止めた。その後,Fからバイクが動かないと電話で連絡を受けたので,被告人が運転するゴルフで上記駐輪場まで戻ったが,その途中,Fが運転する自動車(ふだん乗っている車でない黒色の軽自動車)とすれ違った際にお互いに相手に気付き,横並びに並んで窓を開けて話した。上記駐輪場では,作業服を着てヘルメットをかぶったEが,エンジンがかからないと言ってバイクを押しており,車も用意していることを伝えると,Eは,Hと話をした後,車のところへ案内するよう指示をしてきたので,被告人が運転するゴルフに同乗し,EやHらが乗る自動車(ベンツ)を先導して上記倉庫まで案内した。同倉庫入口で,ベンツからは,Eや,Eと同様に作業服を着たDが降り,グロリアを見て,Hと協議した上で,私と被告人に対し,ゴルフで現場付近まで送っていくよう指示をした。そこで,被告人,私,D,Eがゴルフに乗り込み,4人で犯行後の逃走経路を話し合いつつ,その場で2時間ほど待機した後,Eが道案内をし,被告人がゴルフを運転して現場付近へ移動した。その途中,Eの指示で道に落ちていたコンクリートブロックを1個拾って,Dに渡すか,その足元に置いた。現場付近に着くと,DとEがゴルフから降りていき,被告人と共にゴルフの車内で待機していると,複数の発砲音が聞こえ,DとEがゴルフに戻ってきた。被告人がゴルフを運転して,先に話し合った経路のとおり逃走し,D及びEと別れた後,被告人に自宅まで送ってもらった。この間,Cとはお互いに他人名義の携帯電話を使って連絡を取り合い,逐次状況を報告していた。というのである。Gの上記供述は,全体として具体的かつ詳細である上,内容にも特段不自然,不合理な点は見当たらない(被告人自身,足のつかないバイク等を用意するよう指示した者からは,Gと一緒にその用意をするように言われた旨供述するところ,丙組組員であるGと被告人の両名に対して,犯行の際に用いるバイク等の調達を指示できる人物は,Gが述べるように,丙組組長のCであると考えるのが自然である。。Gの供述のうち,犯行当日に被告人と電話)
で連絡を取り合ったという点や,知人に倉庫の使用について電話で了解を得たという点,Fからバイクが動かない旨電話で連絡を受けたという点,Cに逐次状況を報告したという点については,いずれもこれら関係者との携帯電話の通話履歴により客観的に裏付けられており,Gがコンクリートブロック1個を拾ってDに渡すなどした点については,A2方の台所勝手口戸付近にコンクリートブロック1個が遺留されていた事実と整合している。被告人と極めて親しい友人関係にあったGには,虚偽の供述をして被告人を陥れるような事情は何ら見当たらないことも併せ考えると,Gの上記供述は全体として信用性が高いといえる。
これに対して弁護人は,犯行当日に関するGの供述のうち,①午後4時頃にゴルフに乗った被告人と合流した旨を述べる点は,ゴルフを被告人に貸し渡したYの供述と一致しているが,犯行当日の自身の行動に関するYの供述は,移動時間や買物時間を踏まえると無理があり,これに符合するGの供述も信用できない,②Fからバイクが動かないので戻ってほしい旨言われて移動途中にFの自動車とすれ違いFと話をしたという点は,Fがふだんと違う自動車に乗っていたなどのGの供述に照らすとその際にGがその自動車をF運転の自動車であると認識することは困難であるから信用できないなどとして,このように信用できない部分がある以上,Gのそれ以外の供述部分も信用できない旨主張する。
しかし,
上記①の点は,
弁護人の主張を踏まえても,
Yが供述する買物や移動等の行動が時間的に無理であるとまでは必ずしもいえず,Yの供述やこれに沿ったGの供述が直ちに不自然,不合理であるとはいえない。また,上記②の点も,GはFとすれ違う前に電話でFと数回会話しており,その際にお互いの位置関係を確認したのではないかとGが供述していることなども踏まえると,両名が自動車ですれ違った際に相手に気付いたとするGの供述が特に不自然,不合理であるとはいえない。その他の弁護人の主張を踏まえて検討しても,Gの供述の信用性を疑わせるような事情は見いだせない。
信用できるGの供述に他の関係証拠も総合すると,被告人は,自治会長事件において,Cからの指示を受けて,足のつかない(使用者が判明しない)バイクを探し,知人からバイクを借り受け,Gと共にグロリアを盗むなどしてこれらを用意したこと,犯行当日,他人名義の携帯電話を使用してGと連絡を取りつつ,Gと共に指示された駐輪場にバイクを移動させ,さらには,D及びEの送迎役を引き受け,自らが知人から借り受けたゴルフにD,E及びGを乗せて犯行後の逃走経路について話合いをしたこと,ゴルフを運転してD及びEを犯行現場付近まで移動させ,犯行後は両名をゴルフに乗せて逃走させていることが認められるから,遅くとも犯行後の逃走経路についてDらと話合いを遂げた時点において,被告人は,自らが関与している事件が,乙組の幹部や自身の上位者も含む複数の甲會組員による組織的な犯行であり,容易に使用者が判明しない車両や携帯電話を用い,かつ,犯行後直ちに逃走する必要がある重大な事件であることを認識していたものと認められる。このことに,上記⑵のとおり,被告人は,甲會がけん銃等を用いて人を殺傷することを含む重大な事件を起こすこともあり得る組織であることを認識していたことを併せ考えると,遅くとも上記話合いを遂げた時点において,被告人は,D又はEのいずれか,あるいは両名がけん銃を含む凶器を使用して人を殺傷する事件を起こすであろうことを少なくとも未必的には認識していたものと認められる。そして,被告人は,こうした認識の下,特段,CやGといった事件関係者に対して犯行計画について尋ねることもないまま,自らが知人から借り受けたゴルフを運転して,
D及びEを犯行現場付近まで送迎し,
犯行を終えた両名を逃走させるなどすることで,犯行に関して重要な役割を果たしたものであるから,被告人には,自治会長事件につき,他の共犯者らとの共謀による共同正犯が成立する。


この点,被告人は,①自治会長事件にCは関与していない,②事件当日,逃走経路について話し合っている際に,実行役から,脅しに行く,コンクリートブロックを持って行くので探してくれ,と言われたので,コンクリートブロックだけを使って車を壊すような犯罪をすると思っていたと供述し,弁護人も被告人の供述を前提に,被告人とCら他の共犯者らとの間の殺人,銃刀法違反の共謀の事実は認められない旨主張する。
しかし,①の被告人の供述は,被告人に指示をしたという人物の氏名や素性を一切明らかにしないなど具体性を欠く極めて曖昧なものであるし,Cの関与を述べるGの供述についてはGが勘違いしているのではないかなどと根拠のない推測を述べるにとどまるものであって,信用できない。②の被告人の供述は,被告人としては,自らが関与している事件が,前述のとおり,乙組の幹部であるCやDも含む複数の甲會組員が関与し,入念な準備が必要となる事件であることを認識していたと認められるのに,現場に向かう直前に道で拾ったコンクリートブロックを使って車を壊すというような,これまで甲會が組織的に起こしてきた事件と比して格段に軽微で,場当たり的な犯行になるだろうとの認識を持ったというのであって,不自然,不合理というほかなく,
信用できない。
これらの点についての弁護人の主張は採用できない。

第3
1
I事件について
I事件の概要について
関係証拠によれば,I事件は,Jが運転するバイクの後部座席に乗りI株式会社の判示工事作業所付近まで移動したKが,同作業所2階の事務所に立ち入り,工事長である被害者に対して,けん銃で弾丸3発を発射し,うち1発を被害者の下腹部に命中させて傷害を負わせた事案であること(なお,けん銃の発射方向とその際の被害者の位置,被害者までの距離等に照らすと,3発いずれも被害者に向けて発射したものと認められ,
優に殺意が認められる。,
)犯行後,
Gがバイクを受け取り運転して隠匿し,KはC運転の自動車に,Jは被告人運転の自動車にそれぞれ乗り逃走したことが認められる。
2
被告人と他の共犯者らとの共謀の有無について


関係証拠によれば,I事件当時,甲會(四代目)傘下の乙組(四代目)には,乙組本部長兼丙組組長のC,乙組若頭補佐のJ,乙組直若のK,乙組組員のF,乙組組員兼丙組組員の被告人及びGらが在籍していたことが認められる。



Gは,I事件への被告人の関与等に関して,おおむね,以下のとおり述べる。すなわち,
事件の1週間から10日前に,親方(C)からバイクを用意するよう指示を受けたので,上位者からの指示である旨告げて被告人と相談し,被告人と一緒にバイクを盗んだ。その旨Cに報告すると,Cからバイクの保管を命じられたので,車体を黒く塗り替え,知人の使用許可を得た倉庫に保管した。バイクを動かす際に使うヘルメットを用意しようと思ったが,自分で買いに行くと防犯カメラに映ってしまうので,被告人に相談し,被告人がZにヘルメットを買いに行かせ,Zからヘルメットを受け取った。また,事件前日までに,Cからの指示で,着替えが入っているというバッグをFから受け取り,これを保管しておくよう告げて被告人に預けた。そして,従前,Cからは,連絡を受けたらバイクを指定する場所まで移動させて実行役に引き渡し,被告人が運転する自動車に乗って待機し,バイクが戻ってきたらそれに乗り替わって一旦隠すなりした上で,処分するよう指示されていたが,事件当日,被告人から,飛ばしの携帯電話1台を渡され,この携帯電話に登録されている2つの番号は,Cと被告人の当日の連絡先の携帯電話番号(いずれも飛ばしの携帯電話)であり,この携帯電話にバイクで指定された場所まで向かうよう連絡が入る,と告げられた。夕方頃に連絡が入り,バイクを運転してCから指定されていた場所まで向かうと,同所には,Cが乗るZの自動車(カペラ)被告人が乗る被告人の知人の軽自動車が停車しており,と,カペラからいずれも作業服を着てフルフェイスのヘルメットを持ったJ及びKが降りてきて,いずれもヘルメットをかぶり,Jがバイクの運転席,Kが後部座席に乗車して,同所を出発した。Cが運転するカペラも出発したので,被告人が私の同乗する軽自動車を運転してカペラについて行き,2台の自動車は線路沿いの道に到着した。そこで10分前後待機していると,J及びKが乗ったバイクが現れ,Jは被告人が運転する軽自動車に,KはCが運転するカペラにそれぞれ向かった。私は軽自動車を降り,バイクを運転して,逃走先として決めていた団地の駐輪場に止めると,飛ばしの携帯電話で被告人と連絡をとり,迎えに来るよう依頼した。被告人は上記軽自動車で私を迎えに来たが,同車内に他の人は乗っておらず,後部座席にはヘルメットや着替えが置かれており,被告人は私に対し,Jが車内で狭そうに着替えていたと話した。その後,私と被告人は,Cの指示で焼鳥屋に向かい,近くのコインパーキングに軽自動車を止めたところ,そこにZのカペラも止まっていた。焼鳥屋でC,Jと食事をし,解散するに当たって,Cから着替え等の処分を指示されたので,被告人と共に,カペラと軽自動車に載っていた二人分の着替え等を一つのバッグにまとめ,翌日以降,被告人と二人でバイクと着替え等を処分した。というのである。Gの上記供述は,
全体として具体的かつ詳細であり,
内容にも特段不自然,
不合理な点は見当たらない。同供述のうち,ZがGのためにヘルメットを購入し,カペラが犯行に使用されたという点は,被告人に頼まれてヘルメットを購入し,カペラを貸し渡した旨のZの供述により裏付けられ,被告人から飛ばしの携帯電話を受け取ったという点は,同様に被告人に頼まれてプリペイドカード式の携帯電話3台を購入し,全て被告人に渡した旨のZの供述及びその契約状況に関する照会事項回答書等の客観証拠により裏付けられている。また,バイクの車体を塗り替えて知人の使用許可を得た倉庫に保管したという点は,Gがスプレーでバイクを塗り替えている様子を目撃したなどとして同旨を述べる上記知人の供述と整合している。前述したように,Gには虚偽の供述をして被告人を陥れるような事情は何ら見当たらないことも併せ考えると,Gの上記供述は全体としてその信用性が高いといえる。これに対して弁護人は,①被告人がZにヘルメットを購入させ,ZがヘルメットをGに渡したという点や,②GがFからバッグを受け取り,これを被告人に渡したという点は,
いずれも事実の経過として不自然,
不合理であり,
Gの供述及びこれと整合するとされるZの供述はいずれも信用できないと主張する。しかし,①の点については,Gの供述に弁護人が主張するほどの不自然さは感じられないし,被告人から依頼を受けてZが購入したヘルメットがGに渡ったという主要な部分については,G,Z,被告人の各供述は合致している。②の点についても,犯行に使用する道具等の受取役と保管役とを別々の人物に担当させるということ自体が特に不自然,不合理であるとはいえないし,Gは,Fから受け取ったバッグを被告人に渡したのは保管場所がなかったからかもしれないとも供述しているところ,このような経緯でGが被告人にバッグを保管させたとしても,やはり不自然,不合理であるとはいえない。その他にも弁護人は,G及びZの各供述の信用性には疑問があるとして,るる主張するが,主張を踏まえて検討しても,両名の供述の信用性を疑わせる事情は見いだせない。
信用できるGの供述に他の関係証拠も総合すると,被告人は,I事件において,Cからの指示を受けて,Gと共に犯行に使用するバイクを盗んで用意したほか,C,G及び被告人間の犯行当日の連絡用として,飛ばしの携帯電話3台をZに調達させ,うち1台をGに渡したこと,犯行当日には,Zから借り受けたカペラをCに提供するとともに,別途知人から軽自動車を借り受け,これを運転して,C,J,K及びGと集合した上で,作業着とヘルメットを着用したJ及びKが,Gが移動させたバイクに乗って集合場所から出発するのを見届けた後,カペラを運転するCに追従して,Gと共に犯行後のJ及びKとの合流場所に移動して待機したこと,犯行を終えて戻ってきたJを自らが運転する軽自動車に乗せて逃走させ,Cの指示により,J及びKが使用した着衣等をGと共に処分したことが認められ,遅くともC,J,K及びGと集合した時点において,被告人は,自身の関与している事件が,乙組の幹部や自身の上位者も含む複数の甲會組員が関与して行う組織的な犯行であり,
自治会長事件と同様,
容易に使用者が判明しない車両や携帯電話を用い,
かつ,犯行後直ちに逃走する必要がある重大な事件であることを認識していたものと認められる。そして,被告人は,I事件当時,過去に甲會組員が起こした事件についての認識に加えて
(上記第2の3⑵参照)自身がI事件の

前年に発生した自治会長事件に関与したことを通じて,甲會がけん銃等を用いて人を殺傷することを含む重大な事件を起こすこともあり得る組織であることを十分に認識していたと認められるから,遅くとも,上記集合時点において,被告人は,J又はKが実行役として,けん銃を含む凶器を使用して人を殺傷する事件を起こすであろうことを少なくとも未必的には認識していたものと認められる。被告人は,こうした認識の下,特段,CやGといった事件関係者に対して犯行計画について尋ねることもないまま,J及びKの逃走に備えて待機し,犯行後のJを逃走させたほか,Gと共に,J及びKが犯行の際に使用した着衣等の処分を行うなどすることで,犯行に関して重要な役割を果たしたものであるから,被告人には,I事件につき,他の共犯者らとの共謀による共同正犯が成立する。


この点,被告人は,①I事件にCは関与していない,②実行役が人を脅すとか,放火したりすることは想定したものの,けん銃を使った事件を起こすことは想定していなかったと供述する。しかし,①の被告人の供述については,自治会長事件で検討したのと同様に,Cの関与があった旨のGの供述は自然な内容で信用に値する一方で,Cの関与を否定する被告人の供述は,具体性を欠く極めて曖昧なもので信用できない。
②の被告人の供述についても,
甲會の上位者などの事件関係者に確認した上でそのように想定したと述べるものではなく,上記⑵で検討した結果も踏まえると,信用できない。第4

P事件について

1
P事件の概要について
関係証拠によれば,P事件は,平成23年11月中旬から開催されていた大相撲九州場所を観戦するために北九州市内の自宅と福岡市内のBセンターとをほぼ毎日往復していたP株式会社の会長である被害者を,数日間にわたり甲會組員らが追尾するなどして行動確認をした上,Eが運転するバイクの後部座席に乗り被害者方前路上付近まで移動したRが,被害者に対して,けん銃で弾丸2発を発射し,
うち1発を被害者の頚部に命中させて殺害した事案であること,
犯行後,Gがバイクを受け取り運転して隠匿し,E及びRは被告人が運転する自動車に乗って逃走したことが認められる。

2
被告人と他の共犯者らとの共謀の有無について


関係証拠によれば,P事件当時,Cは甲會(五代目)直若兼丙組組長,Kは乙組(五代目)若頭兼乙組内己組組長,Eは乙組組織委員長,Qは乙組筆頭若頭補佐,Rは乙組若頭補佐,Sは乙組組員兼己組預かり,G及び被告人は乙組組員兼丙組組員であったこと,Cを含め乙組出身者が組長を務める二次団体は乙組一門と称され,乙組一門の組員は乙組の幹部として登用されることがあったことが認められる。



Gは,P事件への被告人の関与等に関して,おおむね,以下のとおり述べる。すなわち,
平成23年11月に入った頃に,親方(C)からバイクを用意するよう指示を受けたので,上位者からの指示である旨伝えた上で被告人と相談し,被告人と一緒にバイクを盗んで,知人の倉庫に保管し,修理や塗装をした。同月17日には,Kに指示され,Cの自動車(ランサー)を運転し,KやRと共に,Bセンターでの相撲観戦を終え北九州市内の自宅へ帰る被害者が乗る自動車をその自宅付近まで追尾した。その後,Cから指示があり,事件当日に被告人と二人で被害者方付近の三差路で目立たない車に乗って待機し,同所にやってくるバイクに乗った二人組を被告人が上記車に乗せてその場から逃走させ,私が二人組からバイクを受け取り,そのバイクを隠した上で処分するよう言われた。事件当日以外の日にR,E及び被告人と集合した際,被害者の自宅近くの道路でEがバイクを試し乗りして転倒させ,バイクの左のクリアウインカーのところが割れたことがあった。事件当日は,被告人が知人から借りてきた自動車(ワゴンR)に私,R及びEが乗り,RとEが車内で作業着に着替えるなどして3時間から4時間くらい待機した後,被告人と共にR及びEをワゴンRでバイクの保管場所まで送り,Cから指示された三差路付近で待機した。Eが運転し,Rが後部座席に乗るバイクがやって来たので,バイクを受け取り,R及びEが被告人運転のワゴンRに乗るのを見た。バイクを別の場所に隠した後,被告人と連絡を取って,ワゴンRで迎えに来てもらった。ワゴンRにはけん銃や着替え等が乗せられていて,けん銃につき,被告人は,2発発射したが3発弾が残っているという趣旨のことを言っていた。Cの指示で,けん銃をCに渡すとともに,着替え等が入ったバッグをCの実家前に止められた車の中に隠し,後日,被告人と二人でワゴンRとバイクを海中に投棄して処分した。というのである。Gの上記供述は,
全体として具体的かつ詳細であり,
内容にも特段不自然,
不合理な点は見受けられない。同供述のうち,ワゴンRが犯行に使用されたという点については,被告人にワゴンRを貸し渡した旨の被告人の知人の供述により裏付けられ,被害者の行動確認状況については携帯電話の通話履歴やETCの使用履歴等と,犯行後の逃走状況については逃走経路付近の防犯カメラの映像等とよく整合している(なお,海中から引き揚げられたバイクには左ウィンカーカバーが装着されていなかったところ,これは弁護人が指摘するようにバイクが海面に落下する際などに破損した可能性も否定できないが,少なくともGが供述するEの転倒状況と矛盾するものではない。。前)
述したように,Gには虚偽の供述をして被告人を陥れるような事情は何ら見当たらないことも併せ考えると,Gの上記供述は全体として信用性が高いといえる。
これに対して弁護人は,Gの供述によると,犯行前にR,E,G,被告人の4人が被害者の自宅の近所で合流し,Eがバイクを試し乗りして転倒したということであるが,
余りにも軽率な行為であって不自然であるなどとして,
Gの供述は信用できないと主張する。しかし,P事件の犯行は,複数の甲會組員が関与して行う組織的・計画的な犯行であり,実行役には犯行を確実に遂行することが期待されていたものと推察されることからすると,犯行の実行や現場からの逃走に万全を期するために,犯行現場付近での待機時間を利用してEがバイクの試走を行ったとも考えられ,そのことが特に不自然であるとはいえない。
信用できるGの供述に他の関係証拠も総合すると,P事件において,被告人は,Cからの指示を受けて,Gと共に犯行に使用するバイクを盗んで用意したほか(窃盗事件)
,ワゴンRを知人から借り受けて用意したこと,犯行当
日には,ワゴンRを運転し,実行役のR及びEをバイクの保管場所まで送った上,事前に決めた場所で待機し,犯行を終えバイクで戻ってきた両名をワゴンRに乗せて逃走させたこと,Cの指示で,Gと共に,Eらが使用したけん銃や着衣等をCに渡すなどした上,後日,バイク及びワゴンRを海中に投棄して処分したことが認められ,犯行に先立ち,Rらと共にEによるバイクの試走の現場に居合わせるなどしていたことも踏まえると,自らが関与している事件が,自治会長事件及びI事件と同様,乙組の幹部や自身の上位者も含む複数の甲會組員が関与して行う組織的な犯行であり,容易に使用者が判明しない車両を用い,かつ,犯行後直ちに逃走する必要がある重大な事件であることを認識していたものと認められる。
そして,
被告人は,
P事件当時,
過去に甲會組員が起こした事件についての認識に加え
(上記第2の3⑵参照)

自身が上記両事件に関与したことを通じて,甲會がけん銃等を用いて人を殺傷することを含む重大な事件を起こすこともあり得る組織であることを十分に認識していたと認められることからすると,被告人は,R又はEが実行役として,けん銃を含む凶器を使用して人を殺傷する事件を起こすであろうことを少なくとも未必的には認識していたものと認められる(被告人自身,公判において,けん銃を使うことは知らなかったが,以前に2回発砲事件に関与しているので,そういうこと(けん銃を使うこと)も考えたのではないかと思うと供述している。。被告人は,こうした認識の下,特段,CやGとい)
った事件関係者に対して犯行計画について尋ねることもないまま,自らが知人から借り受けたワゴンRを運転して,犯行前に実行役のR及びEをバイクの保管場所まで送り,犯行を終えた両名を逃走させたほか,Gと共に,両名が犯行に使用するなどしたけん銃や着衣等を隠匿したり,バイクやワゴンRの処分を行うなどすることで,犯行に関して重要な役割を果たしたのであるから,被告人には,P事件につき,他の共犯者らとの共謀による共同正犯が成立する。なお,Cの関与を認めるGの供述が信用でき,これを否定する被告人の供述が信用できないのは,自治会長事件及びI事件で検討したのと同様である。
(量刑の理由)
本件は,被告人が暴力団組員として活動する中で関与した,けん銃を用いた殺人未遂2件(自治会長事件(被害者2名)及びI事件)並びにけん銃を用いた殺人1件(P事件)及びその犯行に使用するためのバイク盗1件(窃盗事件)からなる事案である。
被告人を含む甲會組員らは,複数名で実行役,その送迎役等の役割を分担し,犯行に使用するけん銃や移動用のバイク,自動車等を用意するなど周到な準備をした上で各犯行に及んでおり,とりわけP事件においては,犯行に先立ち,数日間にわたって被害者を追尾するなどして行動確認をしていたものであって,いずれの犯行も組織性・計画性が際立っている。
自治会長事件の実行犯は,被害者両名が在宅する家屋内に向けてけん銃で6発の弾丸を撃ち込み,I事件の実行犯は,工事関係者等が出入りする工事作業所内において,近距離から被害者に向けてけん銃で3発の弾丸を発射し,うち1発をその下腹部に命中させ,P事件の実行犯は,住宅街の路上付近において,近距離から被害者に向けてけん銃で2発の弾丸を発射し,うち1発をその頚部に命中させており,いずれも危険性が極めて高い凶悪な犯行というほかはない。これにより,I事件の被害者は全治約23日間を要する傷害を負い,P事件においては,被害者が搬送先の病院で死亡するという極めて重大かつ悲惨な結果が生じている。自治会長事件,I事件及びP事件のいずれについても動機は明らかではないものの,自治会長事件の犯行は,被害者がa区自治総連合会会長等として暴力団追放活動に取り組んでいたことから,甲會に対する反対運動への威圧等の目的で行われたことがうかがわれるし,I事件及びP事件の各犯行は,甲會の意に沿わない企業や個人に対する見せしめが動機であると推察されるのであって,反社会的な犯行として厳しく非難されなければならない。
このような犯行において,被告人は,組織の上位者の指示に従って行動し,実行行為には直接関与しておらず,Gを除く他の共犯者らとの関係では従属的な立場にあったといえるが,窃盗事件等により,犯行に使用するバイクや自動車の用意を行ったばかりでなく,
実行犯の送迎や,
犯行使用車両及び実行犯の着衣等の処分など,
各犯行の遂行に当たり重要な役割を果たしたものであるから,その犯情は相当に重い。
しかるに,被告人は,窃盗事件を除く上記3事件について,Cの関与を否定した上で,自らの認識につき曖昧な供述をして共謀を否認しており,各犯行に加わることとなった原因である甲會との関わりを今なお断ち切っていないことにも照らすと,真摯な反省を見て取ることはできない。また,被告人は,本件以前に上記累犯前科を含め3回にわたり服役したことがあるにもかかわらず,わずか約1年8か月余りの間に本件各犯行を敢行しており,法律を守る意識に著しく欠けている。そうすると,被告人が窃盗事件については犯行をおおむね認めていること,内妻が証人として出廷し,被告人の社会復帰を待ち続ける旨述べたこと,本件各犯行がいずれも上記確定裁判の余罪であることといった被告人に有利に斟酌できる事情を十分考慮しても,被告人の責任は重大であり,主文の刑を科すこととなるのはやむを得ないと判断した。
(求刑

懲役25年)

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