判例検索β > 令和1年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年10月29日
法廷名名古屋高等裁判所  金沢支部
結果棄却
裁判日:西暦2019-10-29
情報公開日2019-11-20 10:00:12
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求
令和元年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の富山県選挙
区,石川県選挙区及び福井県選挙区における選挙をいずれも無効とする。第2

事案の概要

本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。)について,富山県,石川県及び福井県の各選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第二を含めて定数配分規定という。)は憲法に違反して無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づき,それぞれ上記各選挙区における選挙を無効とすることを求めた訴訟である。
1
前提事実(証拠を掲記しないものは争いがない事実又は公知の事実)当事者

原告Aは,本件選挙の富山県選挙区の選挙人である。


原告Bは,本件選挙の石川県選挙区の選挙人である。


原告Cは,本件選挙の福井県選挙区の選挙人である。
本件選挙


本件選挙は,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法とい
う。)による公職選挙法の改正(以下平成30年改正という。)後の定数配分規定(以下本件定数配分規定という。)の下で施行された。イ
本件選挙において,選挙当日の選挙区間における議員1人当たりの選挙1
人数の較差(概数。以下同じ。)は,選出される議員1人当たりの選挙人数が最少の福井県選挙区を1とした場合,最大の宮城県選挙区は3.00であり(なお,較差が3倍以上となったのは同選挙区のみである。),富山県選挙区は1.37,石川県選挙区は1.47であった。
参議院議員選挙制度の改正経緯,最高裁判所判決の推移等

参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出し,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,3年毎の半数改選を定める憲法46条に応じて,定数を偶数として最小2人とし,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,上記定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。
なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下昭和57年改正という。)により,参議院議員252人は,拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものであった。
(乙2,3)


選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,人口を基準2
とする場合は最大較差(人口)といい,選挙人数を基準とする場合は単に最大較差という。)は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが,昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙(当該選挙を昭和52年選挙といい,以下,参議院議員通常選挙を単に通常選挙という。)の時点では1対5.26に拡大した。最高裁昭和58年4月27日大法廷判決(民集37巻3号345頁)(以下昭和58年大法廷判決という。)は,昭和52年選挙について,人口変動により投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続して,このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の立法裁量権の限界を超えると判断される場合に,初めて定数配分規定が憲法に違反するに至ると解するのが相当であるとの基本的な判断枠組みを示したうえで,昭和52年選挙については,上記のような較差があり,あるいはいわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたとしても,それだけでは上記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足らない旨判示した。
平成4年7月に施行された通常選挙の時点では,最大格差は1対6.59にまで達した(乙4)。
最高裁判所平成8年9月11日大法廷判決(民集50巻8号2283頁)は,上記選挙について,昭和58年大法廷判決で示された基本的な判断枠組みを示した後,違憲の問題が生じる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示した。
その後,平成6年改正により,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数が83
増8減されたことにより,同改正後の平成7年7月に施行された通常選挙における最大較差は1対4.97,平成10年7月に施行された通常選挙における最大較差は1対4.98であった(乙2ないし4)。
最高裁判所平成10年9月2日大法廷判決(民集52巻6号1373頁)は,上記平成7年通常選挙について,最高裁判所平成12年9月6日大法廷判決(民集54巻7号1997頁)は,上記平成10年通常選挙について,いずれも,違憲の問題が生じる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとはいえない旨の判断を示した。

平成12年法律第118号による公職選挙法の改正により,参議院議員の比例代表選出議員の選挙制度が非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,選挙区選出議員の定数が6減(146人)され,同改正後の平成13年7月に施行された通常選挙(以下平成13年選挙という。)における最大較差は1対5.06,平成16年7月に施行された通常選挙(以下平成16年選挙という。)における最大較差は1対5.13であった(乙2ないし4)。
最高裁判所平成16年1月14日大法廷判決(民集58巻1号56頁)は,平成13年選挙について,同選挙当時,上記改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した。
最高裁判所平成18年10月4日大法廷判決(民集60巻8号2696頁)は,平成16年選挙について,結論において,同選挙当時,定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示したものの,投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会において,従来の制度の枠組みの見直しも含め投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが憲法の趣旨に沿う旨を指摘した。


平成18年法律第52号による公職選挙法の改正により,選挙区選出議員の定数が4選挙区で4増4減されたことにより,同改正後の平成19年4
7月に施行された通常選挙(以下平成19年選挙という。)における最大較差は1対4.86,平成22年7月に施行された通常選挙(以下平成22年選挙という。)における最大較差は1対5.00であった(乙2ないし4)。
最高裁判所平成21年9月30日大法廷判決(民集63巻7号1520頁)(以下平成21年大法廷判決という。)は,平成19年選挙について,結論において,同選挙当時,上記改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示したものの,上記較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨を指摘した。
最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決(民集66巻10号3357頁)(以下平成24年大法廷判決という。)は,平成22年選挙について,同選挙当時,上記較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはないが,平成22年選挙の約9か月前に言い渡された平成21年大法廷判決において指摘された選挙制度の仕組み自体の見直しは,事柄の性質上その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと,参議院において同判決の趣旨を踏まえ,上記見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたことなどを考慮すると,同選挙までの間に上記規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示した上,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに上記の不平等状態を解消する必要があると指5
摘した。

平成22年選挙以降,参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,平成25年7月に施行される通常選挙(以下平成25年選挙という。)に向けて選挙制度の見直しを行うため,平成24年7月まで協議が重ねられたが,各会派の意見は区々に分かれて全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかった。そこで,可及的に較差の是正を図るため,平成24年大法廷判決後の同年11月,選挙区選出議員の定数を4選挙区で4増4減する内容の公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第94号)が成立して施行されたが,その附則において,平成28年に行われる選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれた。もっとも,同改正後に施行された平成25年選挙の当日における最大較差は1対4.77であった。(乙2ないし4,5の1)
最高裁判所平成26年11月26日大法廷判決(民集68巻9号1363頁)(以下平成26年大法廷判決という。)は,平成25年選挙について,同選挙当時,上記較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,上記改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではあるが,平成24年大法廷判決の言渡しから平成25年選挙までの約9か月間の間における上記改正法の成立,見直しの検討状況等の諸事情に照らすと,平成25年選挙までの間に更に定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,同規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示するとともに,平成24年大法廷判決の説示と同様,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できる6
だけ速やかに現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要性を指摘した。

平成25年選挙後の同年9月12日に開催された参議院各会派代表者懇談会において,改めて選挙制度の改革に関する検討会(以下,単に検討会という。)を発足させることが了承され,引き続き同日に開催された検討会においては,実務的な協議を行うため,その下に選挙制度協議会(以下,単に協議会という。)を設置することとされた。
協議会は,同月27日から平成26年11月21日まで合計29回にわたり,諸外国の選挙制度の検討や参考人の意見聴取を行うとともに,選挙制度の枠組み,平成24年大法廷判決を踏まえた較差の許容範囲の解釈,2つの県を合わせた選挙区を創設する2県合区制や府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設するブロック選挙区制等,種々の選挙区制定方法等について協議を重ねたが,各会派の意見が一致しないことから,それまでの議論を踏まえて検討会に提出する報告書を取りまとめた。検討会は,上記報告書の提出を受け,平成27年2月25日から同年5月29日まで選挙制度の改革について協議を重ねたが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,協議に一区切りをつけ,今後,委員会及び本会議で結論を出していくこととされた。その後,選挙制度の改革について,各会派内及び各会派間における検討が進められ,4県2合区を含む10増10減を内容とする平成27年法律第60号(以下平成27年改正法といい,同改正法による公職選挙法の改正を平成27年改正という。)が成立し,同年11月5日施行された。
(乙3,5の1及び2)
平成27年改正法は,参議院創設以来初めて,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを改め,鳥取県と島根県,徳島県と高知県をそれぞれ合区し,これらの選挙区の定数を各2人とした上で,議員1人当たりの人口の7
少ない宮城県,新潟県及び長野県の定数を2人ずつ減員する一方,議員1人当たりの人口の多い東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県の定数を2人ずつ増員するものである。また,同法附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。との規定が置かれた。上記改正により,平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)は,1対2.97となり,平成28年7月10に実施された選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。
(乙3,4,5の3)
平成28年選挙に係る最高裁判所平成29年9月27日大法廷判決(民集71巻7号1139頁参照。以下平成29年大法廷判決という。)は,平成27年改正が,従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって,平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の人口の最大較差が2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのであり,この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた選挙制度の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入し,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度まで縮小したのであるから,この改正は,参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができること,平成27年改正法の附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る8
旨が定められていることにより,較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されていることからすると,同選挙当時,平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない旨判示した。

平成27年改正に関し,全国知事会や全国町村会からは,人口の多寡にかかわらず,都道府県単位の代表が国政に参加する仕組みや,地域の実情や声が国会に反映できる選挙制度の検討等を求める意見が示されていたところ(乙21の1,25の1),平成27年改正後あるいは平成28年選挙後から本件選挙に至るまでの間も,全国知事会等の地方6団体や各地方公共団体から,合区の早期解消を求める意見・決議が示され続けており,例えば,全国知事会においては,同会参議院選挙における合区の解消に関する決議等として,投票率の低下や選挙区において自県を代表する議員が出せないことなどの合区に起因する弊害の顕在化を指摘し,同様に,全国都道府県議会議長会においても,平成28年選挙の結果,投票率の低下や直接候補者と接する機会の減少などの合区を起因とした弊害が顕在化したことを指摘し,早急に合区を解消して都道府県単位による代表が国政に参加できる選挙制度を求めている(乙21の2ないし6,22の1ないし5)。また,全国市長会からも,平成28年選挙の投票率について,平成25年参院選と比較すると,全国平均が2%伸びている中で,合区が実施された4県の合計では2%の減少となっており,国政への関心の低下が懸念されるなどと指摘がなされ,そのほかにも,全国市議会議長会,全国町村長会及び全国町村議会議長会が,同様に,合区を早急に解消して都道府県単位による代表が国政に参加することを可能とする選挙制度を要9
請する旨の意見を提示している(乙23の1ないし24の5,25の2ないし6,26の2ないし4)。
さらには,平成30年4月には,全国六団体により,合区の早期解消促進大会が開催され,前同様の意見が表明された(乙27の1及び2)。そのほかの各地方公共団体からも,同様に,平成27年改正後あるいは平成28年選挙後に至っても,合区の解消や,都道府県単位の選挙区制の堅持などを強く求める意見が多数にわたり,継続的に表明され続けている(乙28の3ないし7,9,14ないし22,24ないし30,35ないし56,58ないし60,63,72ないし99,102ないし125,145ないし149,151,153ないし168,170,201ないし235)。
平成30年改正の経過等について

平成28年選挙後の平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表による参議院改革協議会が設置され,さらに,同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるために,各会派代表による,選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。
専門委員会では,同年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり参議院の選挙制度に関する協議が行われ,その協議においては,平成28年選挙に関する評価について,参考人合計7人から聴取したり,参議院選挙制度改革に対する考え方について論点整理を行ったりしつつ,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについて意見交換が行われた。特に,選挙制度の枠組みについては,選挙区及び比例代表の2本立てとする場合並びに選挙区及び比例代表の2本立てとしない場合のそれぞれを検討するとともに,ブロック選挙区制や奇数配当の可否,連記制の導入などについて議論が行われた。その後,専門委10

員会は,平成30年4月13日及び同月27日の協議において,参議院選挙制度改革の具体的な方向性について,各会派における集約の結果を聴取した後,議論の整理をベースにして報告書を取りまとめ,参議院改革協議会に報告する時期が来た旨の専門委員長の発言を受け,報告書を取りまとめて同協議会に提出することを決定した。そして,専門委員会は,同年5月7日,専門委員会において議論を行った参議院の在り方,一票の較差,選挙制度の枠組みなどの各論点ごとの意見を取りまとめ,参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する形で作成した,参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を,同協議会に提出した(乙6ないし10,11の1及び2,16)。

参議院改革協議会においては,専門委員会長から同報告書の概要について報告を受けた後,自由民主党から,①参議院選挙区選出議員の定数を2人増加して148人とした上で,2人を埼玉県に配分してその改選定数を4人とし,選挙区間の最大較差(人口)を2.985倍とするとともに,②参議院比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙において,名簿にあらかじめ順位を付する拘束式の特定枠を設けることができる制度を導入することなどを内容とする制度の提案(以下自民党案という。)が提示され,同案についての意見交換がなされた。その後,同年6月8日の協議会において,自民党案につき,各会派からの意見や批判を含め,現段階での協議状況を参議院議長に報告することが了承された(乙16)。
その後も,各会派代表者懇談会における協議及び同議長における各会派からの個別の意見聴取などが行われたが,選挙制度改革に関する各会派の意見には隔たりがある中,同年7月4日の各会派代表者懇談会において,同議長から,具体案のある会派は法案を提出し,委員会において議論を進めることを要請する旨の発言があった(乙16)。
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これを受け,自民党案と同内容の自由民主党・こころ及び無所属クラブによる法律案(参第17号。以下自民・無ク案という。)や,現行の制度に代え,全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用する公明党案や日本維新の会案などの5法律案が7会派から発議され,これらはいずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託され,同年7月6日以降,質疑が行われた(乙13の1ないし3,16)。
そして,同月11日にも,同委員会において各法律案に関する質疑が行われた後,最終的には,自民・無ク案が,同委員会において,多数をもって可決すべきものと決定された。その際,自由民主党及び公明党から,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする附帯決議が提案され,同決議も多数をもって可決された(乙13の3,14ないし16)。その後,同日の参議院本会議において,自民・無ク案について討論が行われ,採決の結果,同案が可決された(乙13の4,16)。

その後,自民・無ク案は,同月13日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されて質疑が行われ,同月17日に質疑を終局し,採決の結果,多数をもって可決すべきものと決定された後,同月18日,衆議院本会議における討論を経て,多数をもって可決され,自民・無ク案である平成30年改正法が成立した(乙13の5ないし7,14,16)。
平成30年改正の内容及びその結果


平成30年改正の内容は,①参議院選挙区選出議員の定数を2人増加し148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加し8人とするとともに,②参議院比例代表選出議員の定数を4人増加し100人とした上で,参議院比例代表選出議員の選挙において,政党その他の政治団体が,候補12

者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位をその他の候補者とする者の氏名と区分して名簿に記載することができるという特定枠の制度を導入するものであった。
平成30年改正の趣旨について,平成30年改正法の法案提出者からは,平成27年改正法附則の検討条項を踏まえ,通常選挙が来年に迫っている中で,今国会中に公職選挙法の改正を行う必要性から,参議院選挙区選出議員の選挙について,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の縮小を図るため,参議院選挙区選出議員の定数を増加して各選挙区において選挙すべき議員の数の是正を行うとともに,参議院比例代表選出議員の選挙について,全国的な支持基盤を有するとは言えないが国政上有為な人材又は民意を媒介する政党がその役割を果たす上で必要な人材が当選しやすくなることを目的とし,現行の非拘束名簿を基本的に維持しつつ,候補者の一部について,他の候補者と明確に区分する形で拘束式の枠を設けることができるようにするため,(中略)特定枠の制度を導入し,及び参議院比例代表選出議員の定数を増加することとしたなどと説明されている(乙14,16,17)。

平成30年改正の結果,参議院選挙区選出議員の選挙区間の最大較差
(人口)は,1対2.985(平成27年国勢調査日本国民人口による)となった(乙14,16,17)。
本件選挙の施行及び選挙区間の較差について
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下で初めての通常選挙として,本件選挙が施行された。本件選挙当日の選挙区間における較差は,福井県選挙区を1とした場合,最大が前記のとおり宮城県選挙区との間の3.00であり,それ以外の合区を含む選挙区との間の較差はいずれも3倍未満であり,うち24選挙区との間の較差は2倍未満であった。(乙1)
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2
争点
本件定数配分規定が憲法の規定に違反し,無効であるか。

3
原告らの主張
令和元年7月21日現在有効の公職選挙法の参議院選挙の定数を配分する規
定が,人口比例に基づいて定数配分しておらず,憲法56条2項,1条,前文1項1文冒頭に基づく人口比例選挙の要求に反しているので,この規定は憲法98条1項により無効である。よって,令和元年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(本件選挙)のうち,富山県選挙区,石川県選挙区及び福井選挙区における選挙は無効である。
人口比例選挙の場合は,憲法56条1項に基づき,主権を有する国民が,人口比例選挙で選出された国会議員を通じて出席議員の過半数で両議院の議事を決定するという方法で,主権を行使することとなるが,立法は多数決で決せられるので,主権を有する国民の多数の意見と選挙で当選した国民を代表する国会議員の多数の意見が一致することが必要である。非人口比例選挙の場合は,国民の半数未満から選出されたにすぎない国会議員の過半数の投票が主権を有する国民の過半数から選出された国会議員の半数未満の投票に優越して主権の内容の一たる各議員の議事の可決・否決を決しうることになる。非人口比例選挙は,主権を有しない国会議員が主権を行使しうることになり,憲法1条,前文1項1文冒頭の規範に違反する。本件選挙の1票の投票価値の較差(最大)は,1対2.984(但し,総務省発表平成30年9月登録日現在有権者数)であり,本件選挙は,人口比例選挙(一人一票選挙)ではない。


参議院は,衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っており,参議院の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等が後退してよいと解する理由は見出しがたい。
1947年から2005年の間に限って,国会での各法律の成立,不成14

立の歴史をみると,衆議院議員の多数の意見と参議院議員の多数の意見が異なったことが,少なくとも15個あり,それらの場合,必ず,参議院議員の多数の意見が衆議院議員の多数の意見に優越して,各法律が成立したり,又は廃案となっている。これらの15個の歴史上の事実に照らして,参議院の投票価値の平等の憲法の要請が,参議院であるということ自体を理由として,衆議院のそれに劣後してよいとは,到底解されない。本件選挙の選挙区間の投票価値の較差(最大)は,1対2.984倍であり,これは,少なくとも,平成29年衆議院選挙(小選挙区)の小選挙区間の選挙人数の較差(最大)1対1.979倍と比べて,憲法の投票価値の平等の点で,後退し,劣後している。


とはいえ,憲法56条2項,1条,前文1項1文冒頭の要求する人口比例選挙は,実務を踏まえたうえでの技術的観点からみて,合理的に実施可能な限りでの人口比例選挙であれば,足りると解され,人口比例選挙による選挙区割りは,技術的に可能な限度で行えば足りる。



なお,当該選挙の各選挙区の投票価値の平等(1人1票等価値)からの乖離が合理的であることの立証責任は被告にある。



平成29年大法廷判決は,平成27年改正法の附則7条に今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されていることを評価して関係事情を総合し,平成28年選挙時点での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずるほどの著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。ところが,平成30年改正法の内容は,平成27年改正法の合区を維持するにとどまるものであって,選挙区画の抜本的な見直しはされていない。更に,選挙区間の投票価値の較差(最大)の是正をみても,微細な変化に止まり,選挙区割りの抜本的見直しからは程遠い。加えて,平成30年改正法附則は,平成27年改正法附則7条の平成31年の参議院選挙に向けて抜本的見直しを検討し,必ず15結論を得る文言に相当する文言を欠いている。平成30年改正法は平成27年改正法が示す更なる是正の方向性と立法府の決意を全く欠如している。
4
被告らの主張
判断枠組みについて
憲法は投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。本件選挙時において,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえないこと
平成30年改正は,参議院選挙区選出議員選挙に関しては,平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ,埼玉県選挙区の定数を2人増員するものであり,その結果,平成28年選挙時の最大較差である3.08倍から,平成27年国勢調査日本国民人口による最大較差(人口)として2.985倍にまで縮小した。平成27年改正法に続いて平成30年改正法においても,参議院の選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持したことは,両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多16

角的な民意の反映を可能とするものであるから,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものといえる。さらに,そもそも,選挙権は,民主主義国家において,治者でもあり被治者でもある国民が自らの意見等を国政に反映させることを可能にする極めて重要な権利であるところ,人口の多い都市部に居住する多数者のみならず,山間部などのいわゆる過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることもまた,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となるものというべきである。
平成29年大法廷判決においても,選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することについては,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない旨判示されている。さらに,立法府においては,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせないという配慮がなされているものとして評価すべきである。
以上の諸点に,参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を改選するものとされ(46条),定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないこと
憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,当該定数配分17

規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合において,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきである。そうすると,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,前記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件選挙は,平成28年選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨判断が示された平成29年大法廷判決後,最大較差の更なる縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づく初めての参議院議員通常選挙である上,本件選挙当時における最大較差は3.00倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍から更に縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に前記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。
そうすると,仮に本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認め18

られないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。第3
1
当裁判所の判断
参議院議員定数配分規定の憲法適合性についての基本的な判断枠組みについ

議会制民主主義を採る我が憲法の下においては,国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって,憲法は,その重要性にかんがみ,14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として,成年者による普通選挙を保障するとともに,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものとしている(15条3項,44条)。そして,この選挙権の平等の原則は,単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容の平等,すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。しかしながら,もともと右にいう投票価値は,議会制民主主義の下において国民各自,各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによってなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして,憲法は,国会両議院の議員の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条,47条),どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねている。それゆえ,憲法は,右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではなく,国会は,正当に19

考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしゃくして,その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであって,国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り,それによって右の投票価値の平等が損なわれることとなっても,やむをえないものと解すべきである(以上,昭和58年大法廷判決)。
しかるところ,公職選挙法は,上記第2の1のとおり,参議院議員の選挙については,衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け,参議院議員を全都道府県の区域を通じて選挙され全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙される地方選出議員とに区分し,選挙区選出議員については,その別表として,定数を偶数として最小2人とし,当初,定数150名について,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分する定数配分規定を定め,その後,沖縄県選挙区の議員定数2人を付加し,全国選出議員は比例代表選出議員とし,地方選出議員は選挙区選出議員と名称を変更した。選挙区選出議員については,その後の人口の異動につき,平成6年改正により,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減し,平成12年改正により,定数を6減(146人)し,平成24年改正により4選挙区で4増4減し,平成27年改正では,鳥取県選挙区と島根県選挙区,徳島県選挙区と高知県選挙区とをそれぞれ合区し,これらの選挙区の定数を各2人とし,議員1人当たりの人口の少ない宮城県,新潟県及び長野県の各選挙区の定数を2人ずつ減員する一方,議員1人当たりの人口の多い東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県の各選挙区の定数を2人ずつ増員し,平成30年法改正により,定数を2人増加して148人とし,埼玉県選挙区の定数を2人増加した。
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かように,公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて上記のような定めをし,その後の人口の異動につき,上記のような改正となった趣旨,目的は,結局,憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し,各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから,ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても,参議院議員については,衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下で,前記のように参議院議員を比例代表議員(当初は全国選出議員)と選挙区選出議員(当初は地方選出議員)とに分かち,前者については,全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによって,事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り,後者については,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし,これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができる。そうであるとすれば,公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた上記のような選挙制度の仕組みは,国民各自,各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず,国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものとはいえないのであって,その当否は,専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである。社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき,その政治的意味をどのように評価し,政治における安定の要請をも考慮しながら,これをいつどのような形で選挙区割,議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるべきか,また,これらの選挙制度の仕組みの変更にあたって予想される実際上の困難や弊害をどのような方法と過程によって解決するかなどの問題は,いずれも複雑21

かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって,その決定は,これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているということができる。
したがって,人口の異動が生じた結果,それだけ選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして,投票価値の不均衡が生じたとしても,その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく,その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続して,このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが,上記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても,その許される限界を超えると判断される場合に,初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である(以上,昭和58年大法廷判決)。2
上記基本的な判断枠組みに則って判断するに,当裁判所は,本件選挙当時,
平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不均衡状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
本件選挙当日の選挙区間における較差は,福井県選挙区を1とした場合,最大が宮城県選挙区との間の3.00であるが,まず,この1対3.00という投票価値の不均衡は,この数字のみから,直ちに,著しい不平等状態にあったものとはいえないということはできない。その理由は次のとおりである。

議会制民主主義を採る我が憲法の下においては,国
権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する22

権利は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって,憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当であること。イ
参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに加え,衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること。この点は,平成24年大法廷判決において指摘され,平成26年大法廷判決においても引き続き指摘され,これらの指摘がなされてから平成30年改正までに既に5年を超える期間が経過していること。

都道府県を各選挙区の単位とすることは,都道府県が歴史的にも,政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し1つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし,これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができるものではあり,最高裁大法廷判決においても違憲の問題が生じる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとはいえない旨の判断が示されていたが,参議院選挙において,都道府県を各選挙区の単位とすることは,憲法上の要請ではなく,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえないこと。この点の指摘は,平成18年大法廷判決において,平成16年選挙について,国会において,従来の制度の枠組みの見直しも含め投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが憲法の趣旨に沿う旨が指摘され,それ以降の最高裁大法廷判決においても,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しや選挙制度の抜本的な見直しといった同様の指摘がなされ,平成30年改正までに既に10年を超える期間が経過しており,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しや選挙制度の抜本的な見直しを貫徹23

しないままに,5倍前後が3倍程度になったからといって直ちにこれを是認できるものではないこと。

平成27年改正の附則においては,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨が定められており,国会自らが,平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)の1対2.97,平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差の3.08倍では,投票価値の較差の是正が不十分であることを明らかにしたこと。

平成29年大法廷判決は,上記平成27年改正の附則によって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されたとし,この事情をも総合して,平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示するものであったにもかかわらず,平成30年改正は,上記第2の1⑸のとおりであり,本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しがなされたものとはいえず,国会が自らに課した国民に対する約束を反故にしたものといわざるを得ないこと。しかしながら,上記⑴アないしオについては以下の点を指摘することが
できる。

参議院議員の選挙についても,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,憲法が,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的か24

つ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解されること等に照らすと,上記⑴アの参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないこと,そして,平成29年大法廷判決は,この参議院選挙の特性を踏まえて,上記第2の1⑶カのとおり判示するものであること。イ
国会において,都道府県を,歴史的にも,政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有する1つの政治的まとまりのある単位としてとらえ,これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を有するものとし,都道府県を基本的単位として選挙区割りを考えることは,適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量権の合理的行使として是認し得るものというべきであるが,選挙区間における投票価値の較差を平成27年改正におけるよりも更に縮小するには,更なる合区をすすめ,あるいは,都道府県を単位として選挙区割りを考え定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体を見直す必要があり,この点は,上記⑴ウのとおり上記各大法廷判決で指摘されているところ,そのためには,歴史的,政治的,経済的及び社会的見地から認められる各都道府県それぞれの意義と実体を調査検討し,どのように合区等して,1つの政治的まとまりのある単位としての選挙区とするのが相当か等,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるものというべきであり,また,上記第2の1⑶キの全国知事会等の地方6団体や各地方公共団体から出された意見や決議についても,その内容を分析し,各都道府県がそれぞれ有する意義と実体等を多角的な視点から把握することが必要であろうし,あるいは,平成27年改正のもと25

でなされた平成28年選挙での,合区により生まれた選挙区について投票率の低下の原因を分析しその対応策を検討するなど,上記判断をするにはなすべき課題も多く,そのうえで選挙区選出議員のすべての選挙区について,長期的な視点も踏まえ,投票価値の全体的な均衡を調整して区割りと定数の配分を決定することが求められるのであって(ちなみに,本件選挙の選挙区間における較差が最大であった宮城県選挙区は,平成27年改正で較差を減少させるために議員1人当たりの人口が少ないとして定数2名が減員された選挙区であり,投票価値の全体的な均衡を調整する作業は容易ではないというべきである。),そのために,相応の時間をかける必要があるといわざるを得ないから,平成30年改正が選挙制度の仕組み自体を見直すものとなっていないことをもって,国会に委ねられた裁量権を合理的に行使していないとはいえないこと。

平成27年改正により,平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の人口の最大較差が2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったが,平成30年改正は,選挙区選出議員については,定数を2人増加し148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増員して8人とするにとどまるものとはいえ,選挙区間の最大較差(人口)は1対2.985(本件選挙当時は3.00倍)とわずかながらも是正されるものであり,再び5倍前後という大きな較差を生じさせることのないよう予め配慮したものといえなくはないこと。

平成30年改正に至る経過等は,上記第2の1⑷のとおりであり,国会においては,投票価値の較差の更なる是正に向けて専門委員会を設置して調査検討し,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについて意見交換などを行うなどしたうえ,平成30年改正に至っており,平成27年改正の附則で示された,今後における投票価値の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が失われたとはい26

えないこと。すなわち,平成28年選挙後の平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,参議院改革協議会が設置され,同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるために,専門委員会が設置され,同年5月から平成30年4月にかけて17回の協議が行われ,その協議においては,参考人合計7人から意見聴取し,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについて意見交換が行われ,同年5月7日,専門委員会において,参議院の在り方,一票の較差,選挙制度の枠組みなどの各論点ごとの意見を取りまとめ,参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を同協議会に提出し,参議院改革協議会において,自由民主党から平成30年改正と同旨の自由民主党案が提示され,公明党案や日本維新の会などからも5法律案が発議され,いずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託され,同年7月6日以降,質疑が行われ,同月11日,自由民主党案と同旨の自民・無ク案が,同委員会で可決され,その際,自由民主党及び公明党から,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする附帯決議が提案され可決されたこと,その後,衆議院本会議及び参議院本会議で,平成30年改正が可決されたもので,国会においては,平成29年大法廷判決以降,投票価値の更なる較差是正に向けて,検討,協議を続けたとはいえるもので,上記経過に照らすと,国会は自らが課した国民に対する課題を果たすことができず,かつ,平成30年改正に至る過程でなされた付帯決議は,平成27年改正時の附則と比較して,その決議機関及びその決意の内容において後退したものといわざるを得ないが,今後における投票価値の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が失われたとまではいえず,国会に委ねられた裁量権を合理的に行使していないとまではい27

えないこと。
以上の点を総合すると,本件選挙当時,平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不均衡状態にあったとまではいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないというべきである。原告らは,平成30年改正による定数配分規定は,人口比例に基づいて定数配分しておらず,憲法56条2項,1条,前文1項1文冒頭に基づく人口比例選挙の要求に反しているので,憲法98条1項により無効である旨主張する。
しかしながら,憲法43条1項は,両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると規定しており,ここにいう議員の国民代表的性格とは,本来的には,両議院の議員は,その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級,党派,地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて,選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味するから,右規定が両議院の議員の選挙の仕組みについてなんらかの意味を有するとしても,全国を幾つかの選挙区に分けて選挙を行う場合には常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一,絶対の基準とすべきことまで要求するものとは解されず(昭和58年大法廷判決),この論旨に照らせば,憲法56条2項,1条,前文1項1文冒頭についても,原告が主張する人口比例選挙を要求するものとは解されない。
また,原告らは,国会での各法律の成立,不成立の歴史をみると,衆議院議員の多数の意見と参議院議員の多数の意見が異なったことが,少なくとも15個あり,それらの場合,必ず,参議院議員の多数の意見が衆議院議員の多数の意見に優越して,各法律が成立したり,又は廃案となっているとも指摘するが,この点も上記論旨に照らし,上記判断を左右するものとはいえな28

い。
3
結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所金沢支部第1部

裁判長裁判官

田中寿生
裁判官

細川二朗
裁判官

峯金容子
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