判例検索β > 令和1年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年10月16日
法廷名高松高等裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-10-16
情報公開日2019-11-18 16:00:08
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令和元年10月16日判決言渡
令和元年

第1号

口頭弁論終結日

同日原本交付

裁判所書記官

選挙無効請求事件
令和元年9月11日

判主1決文
原告Aの被告徳島県及び高知県参議院合同選挙区選挙管理委員会に対する請求を棄却する。

2
原告Bの被告香川県選挙管理委員会に対する請求を棄却する。

3
原告Cの被告愛媛県選挙管理委員会に対する請求を棄却する。

4
訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1
1
請求の趣旨
原告A
令和元年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の徳島県及び高知県参議院合同選挙区における選挙を無効とする。

2
原告B
令和元年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の香川県選挙区における選挙を無効とする。

3
原告C
令和元年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の愛媛県選挙区における選挙を無効とする。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,令和元年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員通常選挙(以下本件選挙という。)について,当該選挙において,それぞれ徳島県及び高知県参議院合同選挙区,香川県選挙区及び愛媛県選挙区の選挙人であ
る原告らが,各選挙区の選挙管理委員会を被告として,公職選挙法14条1項,別表第三の選挙区及び議員定数の規定が,人口比例に基づいた定数配分をしておらず,憲法14条,56条2項,1条,前文第1段第1文冒頭に基づく人口比例選挙の要請に反しており,憲法98条1項により無効であると主張して,公職選挙法204条に基づき,上記選挙のうち徳島県及び高知県参議院合同選挙区,香川県選挙区及び愛媛県選挙区における選挙をそれぞれ無効とすることを求めた事案である。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,末尾の括弧内掲記の証拠等により容易に認められる。
原告ら

原告Aは,本件選挙の徳島県及び高知県参議院合同選挙区の選挙人である。


原告Bは,本件選挙の香川県選挙区の選挙人である。


原告Cは,本件選挙の愛媛県選挙区の選挙人である。
本件選挙当時の参議院議員選挙の選挙制度
本件選挙施行日(令和元年7月21日)当時の選挙制度によれば,参議院
議員の定数は248人とされ,そのうち,100人が比例代表選出議員,148人が選挙区選出議員とされている(公職選挙法4条2項)。
本件選挙の根拠法令
本件選挙は,平成30年法律第75号による改正後の公職選挙法14条1項,別表第三の選挙区及び同法附則による選挙区及び議員定数の規定(以下本件定数配分規定という。)に基づいて施行された。
本件選挙当日の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差(以下,選挙人数を基準とした最大較差を単に最大較差といい,人口を基準としたそれを最大較差(人口)という。)

本件選挙当日の参議院(選挙区)議員一人当たりの選挙人登録者数(在外選挙人名簿者を含む。)は,最少の福井県選挙区(32万3488人)と最多の宮城県選挙区(97万1259人)との間で,その較差が3.002倍(以下,概数で3.00と表記する。)となっており,徳島県及び高知県参議院合同選挙区(62万3619人)との較差が1.928倍,香川県選挙区(41万2733人)との較差が1.276倍,愛媛県選挙区(58万0989人)との較差が1.796倍になっていた(乙1の1)。3
争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件定数配分規定が憲法に違反するか否かであるが,さらに分けると,

本件選挙時において,本件定数配分規定の下での選挙区間におけ

る投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っていたか,

仮に,上記状態に至っていたとして,本件選挙

までの期間内に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるに至っていたか(選挙を無効とすべきかを含む。)であるが,この点に関する当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。
本件選挙時において,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っていたか(争点



〔原告ら〕

憲法14条のみならず,憲法56条2項,1条,前文第1段第1文冒頭は,人口比例選挙を要求する。
投票価値の較差が合憲か,違憲かについては,これまで,最高裁判所は,憲法14条に基づく人権論の枠内で捉えて判断してきたところ,このような捉え方のみでは,主権を有する国民の主権行使の本質を欠
くという欠点を含んでいるので,憲法14条のみならず,憲法56条2項,1条,前文第1段第1文冒頭の点からも検討すべきである。

すなわち,主権を有する国民は,両議院の議事につき,憲法前文第1段第1文冒頭の定めに従って,正当に選挙された国会における代表を通じて,出席議員の過半数でこれを決する(憲法56条2項)という方法で,主権を行使する。
ところが,非人口比例選挙の場合は,国民の半数未満から選出されたにすぎない国会議員の過半数の投票が,主権を有する国民の過半数から選出された国会議員の半数未満の投票に優越して,主権の内容の一たる各議院の議事の可決・否決を決定し得ることになる。したがって,非人口比例選挙の場合,主権を有する国民ではなく,主権を有しない国会議員(しかも,主権を有する国民の国会における代表者でしかない地位に置かれているにすぎない国会議員)が主権,すなわち,国政のあり方を最終的に決定する権力を行使し得ることになる。この非人口比例選挙の結果は,憲法1条(主権の存する日本国民)及び同前文第1段第1文(主権が国民に存する)の各明文の規範に違反する。
他方で,人口比例選挙の場合は,憲法56条2項に基づき,主権を有する国民が,人口比例選挙で選出された国会議員を通じて,出席議員の過半数で,両議院の議事を決定するという方法で,主権を行使することになり,憲法1条(主権の存する日本国民)及び前文第1段第1文(主権が国民に存する)の各明文の規範に合致する。

参議院の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等が後退してもよいと解すべき理由は見出し難い(最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁〔以下平成24年大法廷判決という。〕,最高裁判所平成26年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁〔以下平成26年大法廷判決という。〕)。
憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは
明らかであるから,参議院選挙(選挙区)について,投票価値の平等の要請の後退を許容する合理的な理由がない限り,参議院議員の選挙の投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難い。そして,参議院議員の選挙の投票価値の平等の要請が衆議院議員の選挙の投票価値の平等の要請に比べて後退してよいと解すべき合理的理由はおよそ見出し難い。
また,昭和22年から平成17年の間に,15個の法律案について,衆議院の多数の意見と参議院の多数の意見が異なったことがあり,いずれについても,参議院の多数意見によって,各法律が成立し(参議院の修正案を衆議院が丸呑みして成立した場合を含む。),又は廃案になった。このことは,参議院は,衆議院と全く同じレベルで,国権の最高機関として民意を国政に反映する責務を負っていることを示している。このことから,参議院議員の選挙の投票価値の平等の要請が,衆議院議員の選挙のそれに劣後してはならないことが憲法上の要求であることが示されている。
そして,本件選挙当時の選挙区間の投票価値の最大較差は3.00倍(前記前提事実

)であり,これは,少なくとも,平成29年衆議院選

挙(小選挙区)の選挙人数の最大較差である1.979倍に劣後するので,本件定数配分規定は憲法違反である。

最高裁判所平成29年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)は,公職選挙法の平成27年法律第60号による改正法(以下平成27年改正法という。)の改正附則7条が,次回の通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されていると評価し,関係する事情を総合して,
基準日たる平成28年参議院通常選挙(選挙区)投票日の時点での,選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない旨判示した。同判示は、上記基準日の時点で,平成27年改正法の示す更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が存在しないと評価される場合は,当該選挙を違憲状態と判示する趣旨であると解される。
公職選挙法の平成30年法律第65号による改正法(以下平成30年改正法という。)は,選挙区選出の議員定数を2人分増加(埼玉県2増)し,比例代表選出の議員の定数を,政党が決めた順位に従って当選者が決まる特定枠を設けて4人増加した。その結果,平成28年参議院通常選挙(以下平成28年選挙という。)当時の選挙区間の投票価値の最大較差3.08倍(ただし,平成22年の国勢調査の日本国民人口に基づく選挙区間の投票価値の最大較差は2.97倍)は,福井県と宮城県の間の2.984倍(ただし,総務省発表平成30年9月登録日現在有権者数)に変化した。
平成30年改正法は,平成27年改正法の鳥取県と島根県の合区と徳島県と高知県の合区の合計2個の合区(一部の選挙区について2つの県を合わせた選挙区をいう。以下同様)をそのまま維持するにとどまり,選挙区間の投票価値の最大較差3.08倍が2.984倍に変化するという微細な変化にとどまるものであり,平成27年改正法附則7条の平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るとの定めを遵守していない。これに加え,平成30年改正法附則は,平成27年改正法附則7条の平成31年の参議院選挙に向けて,抜本的見直しを検討し,必ず結論を得るの文言に相当する文言を欠いている。以上のとおり,平成30年改正法は,平成27年改正法が示す更なる是正の方向性と立法府の決意を全く欠如している。したがって,平成29年大法廷判決の投票価値の較差についての判示に従ったとしても,本件選挙は違憲状態であると解される。
〔被告ら〕

本件訴訟の判断枠組み
憲法は投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているのであるから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。


本件選挙時において,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
国会は,選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨判断した平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿い,一部の選挙区について2つの県を合わせた選挙区(合区)を創設することなどを内容とする平成27年改正法による改正(以下平成27年改正という。)を行ったことにより,最大較差(人口)は2.97倍(平成22年国勢調査日本国民人口による。)となり,前記不平等状態は解消された。
なお,平成29年大法廷判決においても,最大較差が3.08倍であ
った平成28年選挙当時,投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえず,平成27年改正後の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示されている。
平成30年改正法による改正(以下平成30年改正という。)は,参議院選挙区選出議員選挙に関しては,平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ,埼玉県選挙区の定数を2人増員し,比例区代表選出議員の定数を4人増加させるものであり,その結果,平成28年選挙時の最大較差である3.08倍から,平成27年国勢調査日本国民人口による最大較差(人口)として2.985倍(本件選挙時においても,3.00倍)にまで縮小した。
そして,平成30年改正は,このように投票価値の更なる是正を図るものであること,参議院の選挙区選出議員の選挙区を原則として都道府県単位とすることは,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものであること,都道府県が有する歴史,都道府県が我が国において果たしている政治的・社会的な役割・機能や,各国民が有する帰属意識に鑑みれば,我が国において,都道府県は,長年にわたる歴史を通じて,一つの行政単位としての歴史的,政治的,経済的,社会的及び文化的な一体感が醸成されているものといえるのであって,このような国会において正当に考慮することができる要素を考慮したものであること,少数者の声も国政に届くような選挙制度を定めることは,国会において十分に考慮されるべきものであること,平成30年改正が,平成27年改正による4県合区を含む選挙区割りを維持したことは,これ以上の合区を設けることについては,合区の検討対象とされていた各県間の人口差が大きいため,人口の大きい県の代表が選出されるなど,種々の問題や弊害があったこと,現行の合区でも,4県の合区対象県中,3県において過去最低の投
票率を記録するなど,合区による種々の弊害が指摘されていること,参議院議員の選挙制度においては,定数の3年毎の半数改選から,定数の偶数配分が求められるほか,選挙区選出議員が少ないなど,衆議院とは異なる憲法上の技術的制約等があり,較差の是正には限界があることからすれば,十分な合理性があり,平成29年大法廷判決において合憲とされた平成28年選挙当時の投票価値の不均衡を更に是正したものであり,その合憲性に疑いはない。
さらに,立法府においては,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせないという配慮がされているものとして評価すべきである。
以上の諸点からすると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
仮に,上記状態に至っていたとして,本件選挙までの期間内に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるに至っていたか(選挙を無効とすべきかを含む。)(争点



〔原告ら〕

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,投票価値の較差について,

当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡

が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提に審査を行っ
ている。
しかし,

段階の審査で投票価値の較差が憲法の平等の要求に反する状態(違憲状態)と判断された以上,
段階の審査で較差是正のための合理的期間の末日が,基準日たる選挙投票日の時点で,徒過していないことを理由として合憲とすることは,憲法98条1項の明文の規範に反し,許されない。
本件選挙は,上記

の段階の審査で違憲状態と判断されるから,違憲で

ある。

本件選挙が無効になっても,非改選議員及び比例代表制選挙により選出された議員により参議院の定足数である3分の1(憲法56条1項)を満たすし,本件選挙は将来に向かって形成的に無効となるにすぎないから,選挙無効判決の言渡しにより社会的混乱は生じない。
したがって,本件定数配分規定が違憲の場合,事情判決をすべき理由はなく,本件選挙を無効とする判決をすべきである。

〔被告ら〕

仮に,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判
断されたとしても,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。
憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合において,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の
在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきである。
そうすると,当該選挙までの期間にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題を生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準(始期)として,前記の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件では,平成29年大法廷判決において,都道府県単位の選挙区を一部改めて合区を創設した平成27年改正後の定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡についての違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨の判断が示された。本件選挙は,平成29年大法廷判決後,最大較差の更なる縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づく初めての参議院議員通常選挙である上,本件選挙当時における最大較差は3.00倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍から更に縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に前記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。
そうすると,仮に本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。


第3
1
選挙無効判決は社会的混乱を生まないとの主張は争う。

当裁判所の判断
参議院議員選挙の定数配分規定の制定及び改正の経緯について
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
参議院議員の選挙制度創設当初の同制度の概要
昭和22年に制定された参議院議員選挙法は,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,前者については全都道府県の区域を通じて選出し,後者については都道府県を単位とする選挙区において選出する仕組みを採用した。同法案の提案理由説明において,当時の大村内務大臣は,全国選出議員は,学識経験ともに優れた全国的な有名有為の人材を簡抜することを主眼とするとともに,職能的知識経験を有するものが選挙される可能性を生ぜしめることによって,職能代表制の有する長所を採り入れようとする狙いを持つものであり,こうした全国選出議員が地域代表的性格を有する地方選出議員と相まって,参議院を特徴あらしめる旨説明したが,地域代表的性格とは,地方の事情に詳しい人に出てもらうという趣旨で言っており,日本の参議院においては地域代表という思想は採ることができない旨答弁した(乙2〔13,14頁〕)。
各地方区の議員定数は,昭和21年の人口調査に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の定数を配分した。当時の最大較差は2.62倍であった。法案審議においては,定員の各府県への割り方に不公平感がある。定数を最大6人までとし,2,3,4,5,6人区とすれば,(人口と定数配分の)凸凹が直るのではないか。偶数改選にするためには,3人区は2人・1人,または1人・2人と分けて,それらを適宜組み合わせる,ということも可能ではないかとの趣旨の指摘がされたが,政府は全国を通じて半数を改選する際に,各選挙区についても正確に半数ずつ改選することが望ましいと考えた旨答弁している(乙2〔14頁〕)。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,この仕組みをそのまま引き継いだものである。その後,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され,比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人に区分されることになった(乙2〔14,15頁〕,3)。
平成10年7月施行の参議院議員通常選挙までの最大較差
前記のとおり,昭和22年の参議院議員選挙法制定当時には最大較差(人口)が2.62倍であったが,昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙の時点では最大較差が5.26倍に拡大し,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙の時点では6.59倍にまで達する状況になった(乙4)。
同選挙については,大阪高等裁判所が平成5年12月16日,参議院定数訴訟で初めての違憲判決を言い渡した(乙2〔15頁〕)。
その後,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正により,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数が8増8減され,同改正後の平成7年7月に施行された参議院議員通常選挙における最大較差は4.97倍,平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙における最大較差は4.98倍であった(乙2~4)。
平成16年7月施行の参議院議員通常選挙までの最大較差の推移等平成12年法律第118号による公職選挙法の改正により,比例代表選出議員の選挙制度が非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,選挙区選出議員の定数が6減(146人)され,同改正後の平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成13年選挙という。)における最大
較差は5.06倍,平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成16年選挙という。)における最大較差は5.13倍であった(乙2~4)。
平成13年選挙に係る最高裁判所平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下平成16年大法廷判決という。)は,当該選挙における定数配分規定につき,国会にゆだねられた立法裁量の限界を超えるものではないとして合憲と結論付けたが,多数意見を構成した9名の裁判官中4名より,次回選挙も現状が漫然と維持されるなら,違憲判断の余地が十分にあるとの補足意見が付された。平成16年選挙に係る最高裁判所平成18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下平成18年大法廷判決という。)は,当該選挙における定数配分規定につき,国会の裁量を超えたものと断ずることはできず,憲法に違反してないと結論付ける一方,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそうものというべきと述べ,多数意見としては初めて,制度の枠組みの見直しを含めた検討を国会に求めた(乙2〔19頁〕)。
平成19年7月施行の参議院議員通常選挙における最大較差等
平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)により,選挙区選出議員の定数が2選挙区で各2増,2選挙区で各2減の4増4減され,同改正後の平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成19年選挙という。)における最大較差は4.86倍であった(乙2~4)。
同選挙に係る最高裁判所平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下平成21年大法廷判決という。)は,本件選挙までに定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものとはいえないとして合憲と結論付けたが,各選挙区の定数の振替だけでは最大較差の大幅な縮小は困難であり,これを行おうとすれば選挙制度の仕組み自体の見直しが必要と指摘し,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討を行われることが望まれると述べ,選挙制度の見直しを求めた(乙2〔19頁〕)。平成22年7月施行の参議院議員通常選挙における最大較差等
平成18年改正後の定数配分規定の下で2回目に施行された平成22年7月の参議院議員通常選挙(以下平成22年選挙という。)における最大較差は5.00倍であった(乙4)。
同選挙に係る平成24年大法廷判決は,

都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。

とし,このことは,平成17年10月の専門委員会の報告書においても指摘されていたところであり,前回の平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていたにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく,平成22年選挙に至ったものであるとした上で,これらの事情を総合考慮すると,本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても,本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかない。とした。しかしながら,最高裁判所が平成21年大法廷判決で参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは平成22年選挙の約9か月前のことであり,選挙制度自体の見直しについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断を
求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することや,平成21年大法廷判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていることなどを考慮すると,同選挙までの間に定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,同規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと結論づけた。その上で,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある旨付言した(甲5〔3369~3371頁〕,乙2〔19頁〕)。
平成25年7月施行の参議院議員通常選挙における最大較差等
平成24年法律第94号(以下平成24年改正法という。)による公職選挙法の改正により,選挙区選出議員の定数が4選挙区で4増4減され,同改正後の平成25年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下平成25年選挙という。)における最大較差は4.77倍であった(乙2~4,5の1)。
同選挙に係る平成26年大法廷判決は,同選挙は,平成24年大法廷判決言渡し後に成立した平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下で施行されたものであるが,平成24年改正法による4増4減の措置は,長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して,一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたものであるから,上記の状態を解消するには足りないものであったなどとして,平成25年選挙当時,投票価値の不均衡は,平成22年選挙当時と同様に違憲の問
題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきであるとした。しかしながら,平成24年大法廷判決の言渡しによって選挙区間における投票価値の著しい不均衡が違憲の問題を生ずる程度の著しい不平等であることを国会が認識し得た平成24年10月17日の時点から,平成25年選挙が施行された平成25年7月21日までの期間は,約9か月にとどまること,選挙制度改革に係る各会派等の意見は区々に分かれて集約されない状況にあったことなどに照らすと,同選挙までの間に,具体的な改正案の立案と法改正の手続を了することは,実現の困難なことであったものといわざるを得ないとし,他方,国会においては,4増4減の措置に加え,附則において平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨併せて定めた平成24年改正法が成立するとともに,参議院の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において,平成24年大法廷判決を受けて選挙制度の改革に関する検討が行われ,上記附則の定めに従い,選挙制度の仕組みの見直しを内容とする公職選挙法改正について上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程が示されてきていること,平成25年選挙後も同趣旨の検討が行われていることを考慮すると,平成25年選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,同規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと結論づけた。その上で,従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,国会において,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって前記の不平等状態を解消する必要がある旨付言した(甲7〔1375~1381頁〕)。
その後の定数配分規定の見直しに係る取組み

平成24年改正法の附則には,平成28年選挙に向けた選挙制度の抜本的な見直しについての検討条項が設けられていたことから,平成25年選挙以降,参議院では,正副議長及び各会派の代表により構成される選挙制度の改革に関する検討会及び同検討会の下に選挙制度協議会が設置され,平成28年選挙に向けて選挙制度の見直しを行うべく,平成26年11月までの間,同協議会において,合計13人の参考人から意見を聴取するとともに,座長及び各会派から提示された2県合区制ブロック選挙区制(府県に代えてより広域の選挙区単位を新たに創設するもの)等の種々の選挙区設定方法等について協議を重ねたが,各会派の意見が一致するには至らなかった。その後,前記検討会においても,平成27年5月まで,選挙制度の改革について協議を重ねたものの,各会派が一致する結論を得られなかったが,委員会及び本会議に議論の場を移すと,各会派内及び各会派間における検討が進められ,最終的には,平成27年7月,4県2合区を含む10増10減を内容とする平成27年改正法が成立した(乙3,5の1・2)。平成27年改正法は,参議院創設以来,初めて都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを改め,一部について合区を設けたものであり,具体的には,参議院選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区し,定数2人の選挙区とした上で,定数4の県のうち,議員一人当たりの人口の少ない3県(宮城県,新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員するとともに,議員一人当たりの人口の多い1都1道3県(東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものであった。合区を設けた理由について,平成27年改正法の発議者からは,都道府県単位の選挙制度が地方の意見を国政に反映させる重要な役割を果たしてきたことを十分に踏まえ,都道府県単位の選挙区を極力尊重しつつ,最高裁判所判決を踏まえて較差是正を目指すという考え方に基づくものである旨説明された(乙5の1〔10頁〕,5の2
〔1頁〕)。
また,合区の対象を鳥取県,島根県,高知県及び徳島県とした理由については,人口の少ない都道府県は,少ない方から順に鳥取県,島根県,高知県,徳島県であり,これらは互いに隣接する人口の少ない県同士での組合せが可能である一方で,徳島県の次に人口の少ない都道府県は福井県であり,福井県に隣接する府県の人口はいずれもそれほど少ないわけではなく,これらの府県と福井県を合区することとした場合には,これらの府県と人口のより少ない県との間で不公平さを生じさせることとなるためと説明した(乙5の2〔8頁〕)。
他方で,平成27年改正法の法案と同時に審議された20県10合区などを内容とする法案(この当時の国勢調査人口を前提として,較差1.953倍)(参第12号。同法案については,平成27年改正法案の可決により,議決を要しないものとなった。)については,国会において,合区の対象は20県と全体の4割に及んでおり,単独の県と合区対象の県の不公平感は一層顕著になる,歴史的,地理的,社会的なつながり,条件がほとんどない合区による様々な矛盾を生じることになるといった意見が出されていた(乙5の2〔16頁〕)。
平成27年改正法附則7条は,平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。と規定していた。平成28年7月施行の参議院議員通常選挙における最大較差,平成29年大法廷判決の概要
平成27年改正法の定数配分規定の下で施行された平成28年7月の参議院議員通常選挙(平成28年選挙)における最大較差は3.08倍であった(乙4,5の3)。

平成28年選挙に係る平成29年大法廷判決は,平成27年改正法につき,同法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めの合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのである。この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた上記の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる。また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができる。そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができる。合区が一部にとどまり,多くの選挙区はなお都道府県を単位としたまま残されているとしても,このことは上記の判断を左右するものではない。と判示し,平成28年選挙当時,平成27年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配
分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示した(甲9〔1151頁〕,乙4)。
平成28年選挙後の参議院議員選挙制度改革に係る取組み
平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,各会派代表による参議院改革協議会が設置され,同年4月,同協議会の下に,参議院選挙制度改革について集中的に調査検討を進めるために,各会派代表による選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された(乙6~10,11の1・2,16)。
専門委員会では,同年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり参議院の選挙制度に関する協議が行われ,平成28年選挙に関する評価について,参考人7人から聴取したり,参議院選挙制度改革に関する考え方について論点整理を行ったりしつつ,参議院の在り方との関係,一票の較差,選挙制度の枠組み,議員定数の在り方などについての意見交換が行われた。選挙制度の枠組みについては,選挙区と比例代表の2本立てとする場合及び選挙区と比例代表の2本立てとしない場合のそれぞれを検討するとともに,ブロック選挙区制や奇数配当の当否,連記制の導入などについて議論が行われた。専門委員会は,平成30年4月13日及び同月27日の協議において,参議院選挙制度改革の具体的な方向性について,各会派における集約の結果を聴取した後,議論の整理をベースにして報告書を取りまとめ,参議院改革協議会に報告する時期が来た旨の専門委員長の発言を受け,報告書を取りまとめて同協議会に提出することを決定した。専門委員会は,同年5月7日,専門委員会において議論を行った参議院の在り方,一票の較差,選挙制度の枠組みなどの各論点の意見を取りまとめ,参議院選挙制度改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する形で作成した参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書を,同協議会に提出した(乙8,10,11の1・2,16)。

参議院改革協議会においては,専門委員長から同報告書の概要について報告を受けた後,自由民主党から,

参議院選挙区選出議員の定数を2人増加

して148人とした上で,2人を埼玉県に配分してその改選定数を4人とし,選挙区間の最大較差(人口)を2.985倍とするとともに,

参議院比例

代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選出において,名簿にあらかじめ順位を付する拘束式の特定枠を設けることができる制度を導入することなどを内容とする制度の提案(以下自民党案という。)が提示され,同案についての意見交換がされた。その後,同年6月8日の協議会において,自民党案につき,各会派からの意見や批判を含め,現段階での協議状況を参議院議長に報告することが了承された(乙16)。
その後も,各会派代表者懇談会における協議及び議長における各会派からの個別の意見聴取などが行われたが,選挙制度改革に関する各会派の意見には隔たりがある中,同年7月4日の各会派代表者懇談会において,議長から,具体案のある会派は法案を提出し,委員会において議論を進めることを要請する旨の発言があった(乙16)。
これを受け,自民党案と同内容の自由民主党・こころ及び無所属クラブによる法律案(参第17号。以下自民・無ク案という。)や,現行の制度に代え,全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用する公明党案や日本維新の会案などの5法律案が7会派から発議されることとなり,いずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託され,同月6日以降,質疑が行われた(乙13の1~3,乙16)。
そして,同月11日にも,同委員会において各法律案に関する質疑が行われた後,最終的には,自民・無ク案が,同委員会において多数をもって可決すべきものと決定された。その際,自由民主党及び公明党から,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことの実現に努めること等を内容とする
附帯決議が提案され,同決議も多数をもって可決された(乙13の3,乙14~16)。その後,同日の参議院本会議において,自民・無ク案について討論が行われ,採決の結果,同案が可決された(乙13の4,乙16)。その後,自民・無ク案は,同月13日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されて質疑が行われ,同月17日に質疑を終局し,採決の結果,多数をもって可決すべきものと決定された後,同月18日,衆議院本会議における討論を経て,多数をもって可決され,自民・無ク案である平成30年改正法が成立した(乙13の5~7,乙14,16)。
平成30年改正の内容及びその結果
平成30年改正の内容は,

参議院選挙区選出議員の定数を2人増加し1

48人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加し8人とするとともに,参議院比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とした上で,参議院比例代表選出議員の選挙において,政党その他の政治団体が,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位をその他の候補者とする者の氏名と区別して名簿に記載することができるという特定枠の制度を導入した。
平成30年改正の結果,参議院選挙区選出議員の選挙区間の最大較差(人口)は2.985倍(平成27年国勢調査日本国民人口による)となり,平成28年選挙当時の有権者数に基づく最大較差である3.08倍から縮小された(乙14,16,17)。
本件選挙の施行とその結果
令和元年7月21日,本件定数配分規定の下で初めての参議院議員通常選挙として本件選挙が施行された。
本件選挙当日における最大較差は,福井県選挙区と宮城県選挙区との間の
3.00倍であり,福井県選挙区と比べて較差が3倍以上となった選挙区は宮城県選挙区のみであったが,憲法施行当時の選挙人数の最大較差2.62倍以上となった選挙区は,千葉県(2.702),東京都(2.936),神奈川県(2.957),新潟県(2.967),長野県(2.696)及び大阪府(2.825)の6選挙区に及び全45選挙区のうちの1割を超えていた(乙1の1)。
2
参議院議員選挙における投票価値の平等の保障について
投票価値平等の要請
議会制民主主義を採用している我が国の憲法の下においては,国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹を成すものであり,憲法は,その重要性に鑑み,14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として,成年者による普通選挙を保障するとともに,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものとしている(憲法15条3項,44条)。そして,選挙権の平等の原則は,単に選挙人の資格における上記のような差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。
もっとも,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから(憲法47条),投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の
限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。これに対し,原告らは,憲法56条2項,1条,前文第1段第1文冒頭も,人口比例選挙を要求する旨主張する。
しかしながら,憲法56条2項は,両議院の議事が原則として出席議員の過半数で決せられることを,憲法1条は,主権が国民に存すること(国民主権)をそれぞれ規定しているにすぎず,それ自体で,人口比例選挙を要求する規定と解することはできない。また憲法前文第1段第1文冒頭は,日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動することと記載されているから,正当な選挙が実施されることを前提としていると解されるものの,他方で,憲法47条は,国会議員の選挙区,投票の方法その他両議院の選挙に関する事項は,法律でこれを定めると規定していることからすれば,憲法前文第1段第1文冒頭の要請が憲法14条の要請より厳格な人口比例選挙を想定しているとはいえず,基本的には上記の投票価値の平等の観点からの要請と異なるところはないものというべきである。
二院制における参議院の位置付け
憲法は,二院制を採用し,参議院はいわゆる第二院として位置付けられており,参議院議員の任期は衆議院議員(4年)より長い6年で,解散制度はなく,3年毎の半数改選制が定められており(46条),衆議院に比して安定性,持続性を有し,それをもって衆議院に対する補完的役割を果たすことが想定されていると考えられる。
しかしながら,参議院議員も衆議院議員と同様に全国民の代表(43条)とされており,法律案の再議決(59条2項),予算先議(60条),条約の承認(61条),内閣総理大臣の指名の優越(67条2項),内閣不信任決議(69条)等の点で衆議院が参議院に優越等が認められる場合を除き,憲法上,参議院と衆議院との間に優劣はない。そのため,原告らが主張して
いるように,昭和22年から平成17年の間に,15個の法律案について,衆議院の多数の意見と参議院の多数の意見が異なった際に,いずれについても,参議院の多数意見によって,各法律が成立し(参議院の修正案を衆議院が丸呑みして成立した場合を含む。),又は廃案になるという事態も生じている。加えて,参議院は,衆議院の解散中に緊急案件について臨時的に国会としての権能を果たすことが予定されている(54条2項,3項)。さらに,現在,参議院も衆議院とほぼ同様な政党化が進んでいること,両議院の議員がいずれも国民の直接選挙とされ,議員の選ばれ方に基本的な差異がないこと,憲法上読み取れる参議院の役割が抽象的であることなどの特徴も指摘できるところである。
以上のような参議院の権能やこれまで果たしてきた役割,議員の選ばれ方などからすると,参議院の選挙であるからといって,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難い。
3
議員定数配分規定の違憲判断の基準について
当裁判所の判断
上記のとおり,参議院議員選挙においても,憲法上,投票価値の平等が要請されているが,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有する限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。そうすると,人口の変動が生じた結果,それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして,当初における議員定数の配
分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても,その一事では直ちに憲法違反の問題を生ずるものではないとはいえるが,その人口の変動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続して,このような不平等状態を是正する何らかの措置を講じないことが,国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても,その許される限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。したがって,参議院議員選挙における定数配分規定の憲法適合性については,

当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違
憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,

上記の状

態に至っている場合に,当該選挙までの期間に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かの観点から検討するのが相当である。
原告らの主張の検討
これに対し,原告らは,当該定数配分規定が違憲状態である以上,較差是正のための合理的期間の末日が,基準日たる選挙投票日の時点で,徒過していないことを理由として合憲とすることは,憲法98条1項の明文に反し,許されない旨主張する。
しかしながら,裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても,自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく,その是正は国会の立法によって行われることになるものであり,是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているのであるから,裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより,国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが,憲法上想定されているものと解される。このような憲
法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,上記

の審査をし,

国会の裁量権の限界を超えるとは認められないとして違憲ではないとの判断をすることは,憲法における司法権と立法権の関係に由来するものであり,憲法に適合したものというべきである。原告らの上記主張は採用できない。4
本件選挙時において,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っていたか(争点

)について

当裁判所の判断
前記前提事実

記載のとおり,本件定数配分規定によると,本件選挙当時,

議員1人当たりの登録有権者数の較差は,最少の福井県選挙区と最多の宮城県選挙区との間では,1対3.00であり,これは換言すると,福井県選挙区の投票価値は宮城県選挙区の投票価値の3倍であるということであり,このような較差は,常識的に考えても許容し難い。さらに,このような較差は,平成29年衆議院選挙(小選挙区)の選挙人数の最大較差である1.979倍(甲52〔1757頁〕)に大きく劣後している上,憲法施行当時の参議院議員選挙の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差1対2.62よりもなお大きい(昭和22年に制定された参議院議員選挙法の法案審議においても,2.62倍の最大較差があることなどについて定員の各府県への割り方に不公平感があるとの指摘がされている(前記1
)。)。なお,被

告らは,本件選挙において,3倍以上の較差があるのは宮城県選挙区のみであると強調しているが,憲法施行当時の較差2.62以上の較差のある選挙区は6選挙区に及び全45選挙区のうちの1割を超えていることからすると,決して本件選挙が人口較差の点で問題が少ない選挙ということはできない。加えて,今日,戦後まもなくの時期に比して,社会が成熟し,これに伴い,国民の権利意識が強くなっていることなどを考え併せると,仮に,選挙制度の違い等から,参議院議員選挙における投票価値の平等の要請が衆議院議員
選挙のそれに比してやや緩和されていると考えたとしても,本件選挙当時の上記定数較差は,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)にあったと認めるのが相当である。
平成29年大法廷判決について
ところで,前記認定のとおり,平成29年大法廷判決は,最大較差3.08倍であった平成28年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が結論として違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえないと判断しているので,上記

の判断が平成29年大法

廷判決に抵触しているのではないかという疑問が生じる。
そこで,その点について,以下で検討する。
平成29年大法廷判決は,前記で認定した判示内容から明らかなように,①平成27年改正により,一部の選挙区を合区して,数十年間にわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の人口の最大較差が2.97倍(選挙当時の選挙人数の最大較差は3.08倍)まで縮小したこと,②上記改正附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しを引き続き検討し必ず結論を得る旨が定められ,較差是正に向けた方向性と決意が示され,再び大きな較差を生じさせない配慮がされていることを挙げ,以上によれば,今回の較差は違憲状態にあったとはいえないと判示したものであって,最大較差3.08倍自体をもって,違憲状態にあったとはいえないと判示しているものではない。
そして,平成29年大法廷判決は,上記②をも違憲状態にあったとはいえない根拠としていることからすると,3.08倍まで較差が縮小され,それだけでは十分とはいえないとしても,それに加え,更なる較差是正が確実に行われようとしていることを併せて評価して,今回は違憲状態とはいえないという判断をしたものと解するのが相当である。
そうであるとすると,仮に,平成28年選挙の次の平成31年選挙までに
抜本的な較差是正という将来的な立法対応がされるという平成29年大法廷判決の前提が崩れ,較差是正が放置されたまま選挙を迎える事態になった場合には,上記較差をもって違憲状態と判断することは,平成29年大法廷判決に抵触するものではないと解される。
そこで,上記②の較差是正が実現したか否かを見るに,前記で認定したとおり,平成30年改正法は,4県2合区は平成27年改正法のままにしたうえで,選挙区選出議員の定数を2人増加したというもので,その内容からしても,とりあえず,最大較差3.08倍から3倍未満にするための弥縫策にすぎず,抜本的な見直しには程遠い内容であることは明らかである。そのため,本件選挙時には,既に最大較差は3.00倍に拡大してしまっている。このような立法が平成29年大法廷判決が上記②で想定した較差是正に該当しないことは明らかであるから,上記3.00倍の較差をもって違憲状態と判断することは,平成29年大法廷判決に抵触するものではないと解される。被告らの主張の検討
被告らは,平成30年改正法は,投票価値の更なる是正を図るものであること,参議院の選挙区選出議員の選挙区を原則として都道府県単位とすることは,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものであること,都道府県が有する歴史,都道府県が我が国において果たしている政治的・社会的な役割・機能や,各国民が有する帰属意識に鑑みれば,我が国において,都道府県は,長年にわたる歴史を通じて,一つの行政単位としての歴史的,政治的,経済的,社会的及び文化的な一体感が醸成されているものといえるのであって,このような国会において正当に考慮することができる要素を考慮したものであること,少数者の声も国政に届くような選挙制度を定めることは,国会において十分に考慮されるべきものであること,平成30年改正が,平成27年改正による4県合区を含む選挙区割りを維持したことは,これ以上の合区を設けることについては,合区の検討対象とされていた各県間の人口差が大
きいため,人口の大きい県の代表が選出されるなど,種々の問題や弊害があったこと,現行の合区でも,4県の合区対象県中,3県において過去最低の投票率を記録するなど,合区による種々の弊害が指摘されていること,参議院議員の選挙制度においては,定数の3年毎の半数改選から,定数の偶数配分が求められるほか,選挙区選出議員が少ないなど,衆議院とは異なる憲法上の技術的制約等があり,較差の是正には限界があることからすれば,十分な合理性があり,平成29年大法廷判決において合憲とされた平成28年選挙当時の投票価値の不均衡を更に是正したものであり,その合憲性に疑いはないなどと主張する。
まず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体が不合理なものということはできない。しかしながら,都道府県の単位に固執することによって,各選挙区間の人口較差の是正が困難になるのであれば,都道府県を単位とする点を含めて,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるのは明らかである。被告らは,我が国において,都道府県は,長年にわたる歴史を通じて,一つの行政単位としての歴史的,政治的,経済的,社会的及び文化的な一体感が醸成されているとか,少数者の声も国政に届くような選挙制度を定めることは,国会において十分に考慮されるべきものであるとか主張するが,国政選挙によって選出される議員は,いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず,全国民を代表して国政に携わることが要請されている上,都道府県に国会に対しその代表を派遣できる地位が憲法上保障されているわけではなく,いずれも,3倍もの較差のある投票価値をより平等に近づける要請に優先するものとは解されない。現に,国会自体,かつて,参議院議長が総議員につき,全国9つのブロック単位の選挙区に人口比例により定数配分するとのたたき台を示したことがあり(甲48),平成27年改正法においても,都道府県単位を基本的には維持しつつ,一部修正する合区を設けて較差を是正する方策を導入しており,その際には,合区
を増やすことにより,より較差を小さくするため,較差を1.953にする20県10合区などの案も検討されていたのである。
また,被告らは,合区には種々の弊害があるとか,これ以上の合区を設けることについては,合区の検討対象とされていた各県間の人口差が大きいため,人口の大きい県の代表が選出されるなど,種々の問題や弊害があるなどと主張している。しかしながら,合区は,平成27年改正法によって初めて導入された制度なのであるから,1,2回の選挙を経ただけで弊害ばかり強調するのは時期尚早であるし,弊害が多いとしながら,4県にのみその弊害を押し付けるというのでは,かえって,人口の少ない県のみが不利益を受けることになって妥当でない。そして,仮に,合区がどうしても,弊害が多い制度であるというのであれば,まさに立法府である国会において,都道府県という単位を離れた新たな選挙制度の仕組みを検討するべきなのであって,合区に弊害が多いから,現行の選挙制度を継続するというのであれば,何ら人口較差是正の抜本的解決にならないのは明らかである(しかも,時の経過とともに,より較差が拡大していくことになる。)。
さらに,被告らは,平成29年大法廷判決において合憲とされた平成28年選挙当時の投票価値の不均衡を更に是正した旨主張するが,前記で説示したとおり,平成29年大法廷判決は,3.08倍という較差自体をもって,違憲状態ではないという判断をしたわけではないから,前提を欠く主張であり,採用できない。
5
仮に,上記状態に至っていたとして,本件選挙までの期間内に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるに至っていたか(選挙を無効とすべきかを含む。)(争点

)について

当裁判所の判断
憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと,当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度
の著しい不平等状態に至っている場合において,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価するのが相当である。
そうであるとすると,当該選挙までの期間にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かは,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題を生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を参照して,前記の諸般の事情を総合考慮して判断せざるを得ないというべきである。
これを本件についてみると,前記認定のとおり,平成29年大法廷判決において,都道府県単位の選挙区を一部改めて合区を創設した平成27年改正後の定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡についての違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨の判断が示されたが,同選挙当時の最大較差は3.08倍であったこと,その後,国会は,抜本的見直しには程遠いものの,平成30年改正を実施した結果,本件選挙当時における最大較差は3.00倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍よりは縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に本件定数配分規定が違憲状態に至っていたことを認識し得たとまで認めるのは困難である。そうすると,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないという
べきである。
原告らの主張の検討
原告らは,平成30年改正法は,平成27年改正法の鳥取県と島根県の合区と徳島県と高知県の合区の合計2個の合区をそのまま維持するにとどまり,選挙区間の投票価値の較差(最大)3.08倍が2.984倍に変化するという微細な変化にとどまるものであり,平成27年改正法附則7条の平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るとの定めを遵守していないこと,平成30年改正法附則は,平成27年改正法附則7条の平成31年の参議院選挙に向けて,抜本的見直しを検討し,必ず結論を得るの文言に相当する文言を欠いていることから,平成29年大法廷判決の投票価値の較差についての判示に従ったとしても,本件選挙は違憲であると解される旨主張する。
しかしながら,前記で説示したとおり,国会において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得たか否かが問題なのであって,3.08倍の較差による選挙を結果として違憲状態ではないと判断し,3倍程度の較差が違憲状態であるなどという特段の判示もしていない平成29年大法廷判決を前提にすれば,国会において,本件選挙までの間に違憲状態に至っていたことを認識し得たとまで認めるのは困難であるというほかない。原告らの上記主張は採用できない。
6
結論
以上のとおりであって,本件選挙当時において,本件定数配分規定の下で,選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではあるが,本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
よって,原告らの被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

高松高等裁判所第2部

裁判長裁判官

神山隆一寺西和史横地大輔
裁判官

裁判官

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