判例検索β > 平成31年(行ケ)第10015号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成31(行ケ)10015
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和元年11月11日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2019-11-11
情報公開日2019-11-14 16:00:25
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令和元年11月11日判決言渡
平成31年(行ケ)第10015号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和元年9月11日
判原決告
湖北工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

宮嶋高田学彦延柏泰之砂徹永井浩之村行孝浅告井中被麗

同訴訟代理人弁理士

山野真理
株式会社アプトデイト

同訴訟代理人弁護士

根本
同訴訟代理人弁理士

赤堀龍吾遠田利明濱田
同訴訟復代理人弁護士
主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
浩慧
第1

請求
特許庁が無効2016-800109号事件について平成30年12月26日にした審決を取り消す。

第2
1
事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
特許庁における手続の経緯等
(1)

原告は,
名称を
電解コンデンサ用タブ端子
とする発明に係る特許権
(特

許第4452917号。平成15年12月25日出願,平成14年12月27日優先権主張,平成22年2月12日設定登録。請求項の数16。以下,同特許権に係る特許を本件特許という。)の特許権者である(甲24)。(2)

被告は,
平成28年9月16日に特許庁に無効審判請求をし,
特許庁は上

記請求を無効2016-800109号事件として審理した。原告は,平成30年4月10日付けで訂正請求(以下本件訂正という。)をした(甲26)。
(3)

特許庁は,上記(2)記載の訂正請求をいずれも認められないとして,平成
30年12月26日,

特許第4452917号の請求項1ないし13に係る発明についての特許を無効とする。

との審決(以下審決という。)をし,その謄本は,平成31年1月9日,原告に送達された。
(4)
2
原告は,
平成31年2月7日,
審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

特許請求の範囲の記載及び本件訂正
(1)

本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。以下,

各請求項に記載の発明を
本件発明1
などといい,
本件発明1~16を
本件発明と総称する。また,願書に添付した明細書を,図面を含めて本件明細書という。【請求項1】

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部

に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である,電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項2】

前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯

線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる,請求項1に
記載のタブ端子。
【請求項3】

前記の酸化スズ形成処理が,タブ端子を熱処理することにより

行われる,請求項1または2に記載のタブ端子。
【請求項4】

前記熱処理が,60~180℃の範囲において酸素雰囲気下で

行われる,請求項3に記載のタブ端子。
【請求項5】

前記熱処理が,80~150℃の範囲において酸素雰囲気下で

行われる,請求項3に記載のタブ端子。
【請求項6】

前記の酸化スズ形成処理が,溶剤処理により行われる,請求項

1または2に記載のタブ端子。
【請求項7】

前記溶剤処理が,リード線端部にアルミ芯線を溶接した直後に

行われるものである,請求項6に記載のタブ端子。
【請求項8】

前記溶剤が,珪酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,硫酸塩,およびこ

れらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液である,請求項6に記載のタブ端子。
【請求項9】前記溶剤が,
さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である,
請求項8に記載のタブ端子。
【請求項10】

前記水溶液の濃度が,1~10重量%である,請求項8また

は9に記載のタブ端子。
【請求項11】

請求項1~10に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程,および
前記溶接されたタブ端子を,熱処理する工程,
を含んでなる,タブ端子の製造方法。
【請求項12】

前記熱処理が,60~180℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】

前記熱処理が,80~150℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】

請求項1~10に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程,および
溶接直後に,前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程,
を含んでなり,
前記溶剤が,珪酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,硫酸塩,およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり,前記水溶液の濃度が,1~10重量%である,タブ端子の製造方法。【請求項15】

前記溶剤が,さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液であ

る,請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】

前記溶接部分に溶剤を塗布する際の,溶接部分の温度が,8

0~250℃である,請求項14または15に記載の製造方法。
(2)

本件訂正は,本件特許の特許請求の範囲の記載を,次のとおり訂正するも
のである。以下,各請求項に記載の発明を本件訂正発明1などといい,本件訂正発明1~23を本件訂正発明と総称する。
【請求項1】

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部

に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理であり,
前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなり,
JIS

C-0053

はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である,電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項2】

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部

に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理であり,
前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなり,
JIS

C-0053

はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下である,電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項3】

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部

に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,前記電解コンデンサ用タブ端子を熱処理することにより行われる酸化スズ形成処理であり,前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる
(但し,
前記電解コンデ
ンサ用タブ端子について,JIS

C-0053はんだ付け試験方法(平衡

法)
に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.
50秒以上のものを除く。,

電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】

請求項1に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程,および
前記溶接されたタブ端子を,熱処理する工程,
を含んでなる,タブ端子の製造方法。
【請求項12】

前記熱処理が,60~180℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】

前記熱処理が,80~150℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】

請求項1に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程,および
溶接直後に,前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程,
を含んでなり,
前記溶剤が,珪酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,硫酸塩,およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり,前記水溶液の濃度が,1~10重量%である,タブ端子の製造方法。【請求項15】

前記溶剤が,さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液であ

る,請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】

前記溶接部分に溶剤を塗布する際の,溶接部分の温度が,8

0~250℃である,請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端

部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,前記電解コンデンサ用タブ端子を熱処理することにより行われる酸化スズ形成処理であり,前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなり,
JIS

C-0053

はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下である,電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項18】

請求項17に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程,および
前記溶接されたタブ端子を,熱処理する工程,
を含んでなる,タブ端子の製造方法。
【請求項19】

前記熱処理が,60~180℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】

前記熱処理が,80~150℃の範囲において酸素雰囲気下

で行われる,請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】

請求項17に記載のタブ端子の製造方法であって,

芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程,および
溶接直後に,前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程,
を含んでなり,
前記溶剤が,珪酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,硫酸塩,およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり,前記水溶液の濃度が,1~10重量%である,タブ端子の製造方法。【請求項22】

前記溶剤が,さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液であ

る,請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】

前記溶接部分に溶剤を塗布する際の,溶接部分の温度が,8

0~250℃である,請求項21または22に記載の製造方法。
(3)

本件訂正
本件訂正において,
独立請求項として記載されている本件訂正発明1~3,

17に係る訂正事項は,次の訂正事項A~Dのとおりである(以下,訂正事項Aなどという。)。ア
訂正事項A(訂正事項1)
本件発明1に芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である,電解コンデンサ用タブ端子。とあるのを,本件訂正発明1のとおりに訂正する。
なお,訂正事項Aのうち,
JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正事項を訂正事項A-bという。イ
訂正事項B(訂正事項13)
本件発明2に

前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる,請求項1に記載のタブ端子。

とあるのを,独立項形式に書き換えるとともに,本件訂正発明2のとおりに訂正する。
なお,訂正事項Bのうち,
JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正事項を訂正事項B-bという。ウ
訂正事項C(訂正事項25)
本件発明3に

前記の酸化スズ形成処理が,タブ端子を熱処理することにより行われる,請求項1または2に記載のタブ端子。

とあるのを,請求項1を引用する本件発明3について独立項形式に書き換えるとともに,本件訂正発明3のとおりに訂正する。
なお,訂正事項Cのうち,

(但し,前記電解コンデンサ用タブ端子について,JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)

という発明特定事項を付加する訂正事項を訂正事項C-bという。

訂正事項D(訂正事項34)
本件発明3に

前記の酸化スズ形成処理が,タブ端子を熱処理することにより行われる,請求項1または2に記載のタブ端子。

とあるのを,請求項2を引用する本件発明3について独立項形式に書き換えるとともに,本件訂正発明17のとおりに訂正する。
なお,訂正事項Dのうち,
JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正事項を訂正事項D-bという。3
審決の理由の要旨
(1)

被告は,
本件発明について,
①特開2000-277398号公報
(甲1。

以下甲1文献という。)に基づく新規性(本件発明1~6,8,10~13)ないし進歩性(本件発明1~6,8~13)欠如(無効理由1),②実施可能要件違反(本件発明1~13)(無効理由2),③サポート要件違反(本件発明1~13)(無効理由3),④明確性要件違反(本件発明1~10)(無効理由4)を主張した。
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本件訂正は,
特許法134条の2第9項,
同法126条5項に適合しないとして,
本件訂正が認められないことを前提に,①本件発明1~6,8~13は,甲1文献に基づき進歩性を欠き,
②本件発明7は明確性要件に適合しないから,
本件発明1~13に係る特許は無効とすべきものであるというものである。(2)

審決の,本件発明1~6,8~13に関する進歩性欠如についての判断に
は争いがない。
4
取消事由
取消事由1:本件訂正についての訂正要件の判断の誤り
取消事由2:本件発明7に関する明確性要件違反の判断の誤り

第3
1
原告主張の取消事由
取消事由1(本件訂正についての訂正要件の判断の誤り)
(1)

取消事由1-1(訂正事項Aについて)
審決は,
訂正事項A-bJIS(C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正)について,概略,その上限値である2.50秒について訂正の根拠が存在しないこと,さらには下限値が特定されていないことから,訂正事項A-bは新規事項の追加に当たるとして,特許法134条の2第9項,126条5項に適合しないと判断したが,誤りである。

ゼロクロス時間に関する技術常識(甲20,21,47)
ゼロクロス時間はハンダ濡れ性を評価する際の指標であり,ゼロクロス時間が小さければ小さいほど部品を短時間ではんだ付けすることができ,ハンダ濡れ性が良いと評価され,ゼロクロス時間が2.5秒以下というのが一つの指標とされている。
他方,ゼロクロス時間は小さければ小さい程好ましいのであるから,その下限値には技術的な意味がないため,上限のみが指定されるのが関連する技術分野の技術常識である。


ゼロクロス時間の上限値について
(ア)

本件明細書の【表1】において,ウィスカの抑制とハンダ濡れ性という解決課題に関する作用効果のうち,ウィスカの抑制はウィスカの長さ(mm)により,ハンダ濡れ性はゼロクロス時間(ZCT値)によって評価を行っているから,【表1】に接した当業者であれば,試料1~5のハンダ濡れ性は,
試料2>試料1>試料5>試料3>試料4
の順に良好であると読み取れる。
上記アのとおり,ゼロクロス時間は小さい値であるほど好ましく上限のみが指定されるのが技術常識であるから,【表1】に記載の各ZCT値は,○○秒
単に
という点としての数値を意味しているに留まらず,
○○秒以下という上限値としての意味を含むものと当然に理解される。
(イ)【表1】
の試料1~3は
60~180℃の温度範囲【0026】


であり,試料4は180℃を超える温度において熱処理を行うと,スズの酸化が進みすぎるため,リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう(【0026】)場合である。また,
試料5は酸化スズ形成処理としての熱処理がなされていないから,酸化スズ形成処理がされていない比較例であると理解でき,試料5の2.50秒という値は,酸化スズ形成処理を行わない試料におけるゼロクロス時間を示す。そうすると,この数値以下であるということは,酸化スズ形成処理を行わない試料と比較してハンダ濡れ性が同等かそれ以上であることを意味する。同時に,この数値以下であるということは,上記アのJIS

C-0053における2.5秒以下と

いう基準と一致するから,JIS規格で好ましいとされる基準を満たすという意味も併せ持つことが理解できる。
(ウ)

本件明細書の
今般,スズメッキさたリード線の表面に酸化スズを形成することにより,ハンダ濡れ性を損ねることなく,ウィスカの発生が抑制できるとの知見を得たとの記載(【0011】)によれば,酸化スズ形成処理を行なっていないタブ端子におけるハンダ濡れ性の値は,ハンダ濡れ性を損ねることなくウィスカの発生を抑制するという課題ないし作用効果に関して,重要な指標であることが理解できる。試料1及び2は,ゼロクロス時間がそれぞれ2.35秒及び2.30秒であり,酸化スズ形成処理を行なっていない試料5の2.50秒と比較して良好な値になっているのに対し,試料3はゼロクロス時間が2.85秒であってハンダ濡れ性が一定程度損なわれているといえることによれば,本件明細書に接した当業者は,試料3は,ハンダ濡れ性の特性として許容限度内であるから

という評価になっているに過ぎず,
同じ

という評価の中でも,試料1及び2は試料3よりもさらに好ましいと考えるのが当然である。そして,本件明細書では,本件発明における熱処理を行なったタブ端子について,ゼロクロス時間が2.35秒,2.30秒,2.85秒のサンプル(試料1~3)を具体的に記載しているものの,熱処理時間と温度との相関等により,ゼロクロス時間が2.50秒の場合やその周辺も含めて,その値が連続的に変化することを当然に理解することができる。また,2.50秒というのは酸化スズ形成処理を行わない試料5の値であるから,50秒未満の場合は当然として,2.
2.50秒という値の場合においても,ハンダ濡れ性を損ねていないと評価できる。
(エ)

訂正の根拠として採用する数字に臨界的意義を要するものではないし,
本件発明では酸化スズ形成処理を行っていないタブ端子と比較してハンダ濡れ性を極力損ねることなくウィスカの発生を抑制することをその目的としているのであるから,酸化スズ形成処理を行なっていない試料5のハンダ濡れ性の値は,ハンダ濡れ性を損ねることなくウィスカの発生を抑制するという課題ないし作用効果と明確に対応するものであり,境界値としての2.50秒を採用することに関する課題や効果は明確である。
また,訂正の根拠となる数字は当該発明のすべてを充足する実施例の数字に限定されるものではない。本件明細書の【0026】のとおり,同じ熱処理時間であってもその温度によってスズの酸化の進行具合が異なり,ハンダ濡れ性が変化すること(高温にし過ぎると,スズの酸化が進みすぎてハンダ濡れ性が低下してしまうこと)が読み取れるところ,例えば,試料2と試料3では,同じ20分の熱処理時間におけるゼロクロス時間について,130℃で2.30秒,180℃で2.85秒となるのであるから,概ねこれらの間のいずれかの温度において2.50秒となる温度条件が存在すると読み取ることができる。したがって,ウィスカの成長抑制処理が施され,ゼロクロス時間が2.50秒となる条件の存在は,本件明細書の実施例の記載を基に極めて容易に理解できるから,ゼロクロス時間が2.50秒である直接の実施例が記載されていないからといって,訂正事項A-bが新規事項を追加するものということにはならない。

ゼロクロス時間の下限値について
(ア)

上記アのとおり,ゼロクロス時間については,小さければ小さいほど
好ましく,上限のみが意味を有するものである。ゼロクロス時間の下限値を設定することは,ハンダ濡れ性に優れた範囲を除外するという意味で,発明の技術的課題と相反するものである上,ウィスカの抑制という作用効果が生まれるわけではない。技術的課題の解決のために必要な構成要素を特定するという特許発明の範囲の性質上,ゼロクロス時間の下限を設定することには技術的意味がないから,
訂正事項A―bのように,
発明の技術的課題の解決に関連する上限値のみを規定するということは,十分に合理性がある。ハンダに関する技術分野において,ゼロクロス時間の下限値を規定することなく,上限値のみを規定するのが常識であることは,ハンダを含む特許においてゼロクロス時間について下限値を規定したものが存在しないこと(甲48)からも裏付けられる。
(イ)

本件明細書の
本発明においては,スズの結晶成長を抑制するために,溶接部分の残留応力を取り除き,かつ,スズを酸化スズに変性し,その結果としてウィスカの発生を抑制するものである。このように溶接部分のスズを酸化スズに変性することで,スズの結晶変態も起こらず,スズの結晶成長が効果的に抑制されることは予想外のことであったとの記載(【0025】)によれば,本件訂正発明1の前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理でありという構成を充足することにより,スズの結晶成長を抑制し,その結果としてウィスカの発生を抑制することができることが読み取れる。そして,ゼロクロス時間が0秒以上2.30秒未満の範囲にある場合には,ゼロクロス時間が〇と評価されている2.85秒よりも小さく,また,熱処理等の酸化スズ形成処理を行わないタブ端子である試料5の2.50秒(JISC-0053)よりもさらに良好な値となっているのであるから,ハンダ濡れ性が良好であることが明確に理解できる。
したがって,本件訂正発明1について,ゼロクロス時間が2.30秒以上2.50秒以下の領域においても,2.30秒未満の領域においても,ウィスカの発生抑制とハンダ濡れ性を両立できることが明確に理解できる。
また,本件訂正発明1の前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理でありとの記載によれば,本件訂正発明1においてウィスカの成長抑制が図られていることが読み取れるのであり,本件訂正発明1に関して,ウィスカの発生抑制とハンダ濡れ性との両立を図るための解決手段は明確に規定されており,かかる技術的課題の見地からゼロクロス時間の下限値を規定すべき理由は存在しない。
(ウ)

本件発明は,
ハンダ濡れ性が悪化しない程度に加熱温度と加熱時間を

調整して熱処理を行うことを特徴とするものである。実施例1~3及び比較例1はいずれも熱処理を20分間行っている(【0034】)ところ,熱処理時間が長すぎるとスズの酸化が進みすぎてハンダ濡れ性が低下してしまう(ゼロクロス時間が長くなる)(【0026】)から,実施例1,2について,好ましいとされている10~60分の範囲(もしくは,特に好ましいとされている15~30分の範囲)
(【0026】)
で加熱時間を20分より短くすれば,ウィスカの成長を抑制しつつ実施例1,2よりもゼロクロス時間を短くできることが本件明細書から明確に理解できる。これによれば,本件明細書に,ウィスカの成長を抑制しつつも,ハンダ濡れ性を実施例2の2.30秒よりもさらに向上させる技術は記載も示唆もされていないとした審決の判断は,本件明細書の記載を正しく理解しないものであり,また,本件明細書から明確なゼロクロス時間の下限値を読み取ることはできない。
(エ)

訂正事項A-bにおいてゼロクロス時間が2.50秒以下である

と規定することによって生じる効果は,ゼロクロス時間が2.50秒を超える態様が除かれるということを意味するに過ぎず,本件訂正の前後を通じ,ゼロクロス時間が2.30秒未満となる態様についての侵害の成否の結論は異ならない。新規事項の追加に当たるか否かにおいては,訂正前後で実質的な差異が生ずる点,すなわち,ゼロクロス時間が2.50秒以下という上限値を設定することが本件明細書の記載から導き出される技術的事項に該当するか否かを判断すれば足りるのであり,本件明細書にウィスカの成長を抑制しつつ,実施例2よりもハンダ濡れ性を向上させて,ゼロクロス時間を2.30秒未満とする技術が記載されているか否かは問題とならない。

以上のとおり,訂正事項A―b(JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である)は,当業者において本件明細書の記載から明確に読み取れる発明特定事項であり,溶接部分からのスズウィスカが実質的に発生せずハンダ濡れ性も良好なタブ端子を提供するという発明の技術的課題及びこれに対応する酸化スズ形成処理という解決手段との関係で重要な意味を有する。したがって,かかる発明特定事項が明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に該当することは自明であり,また,発明の技術的課題の解決に寄与する技術的事項を本件明細書から読み取れる範囲で特定するに過ぎないものであるから,新たな技術的事項を導入したものではない。
(2)

取消事由1-2(訂正事項Bについて)
審決は,
訂正事項B-bJIS(C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正)について,【表1】及び【表2】に上限値である2.35秒よりもゼロクロス時間が大きい試料のハンダ濡れ性が○と記載され,2.35秒を上限とすることや,その課題や効果,特に臨界的意義の記載がないこと,さらには下限値が特定されていないことから,訂正事項B-bは新規事項の追加に当たるとして,特許法134条の2第9項,126条5項に適合しないと判断したが,誤りである。前記(1)イ(ア)のとおり,ゼロクロス時間は小さければ小さい値であるほど好ましく,上限のみが指定されるのが技術常識であるから,【表1】記載の各ZCT値は,○○秒以下という上限値としての意味を含むものと当然に理解される。したがって,実施例1の2.35秒と数値を基に,2.35秒以下という発明特定事項を読み取ることができる。上限値について臨界的意義があることは要しない。
また,数値の下限値については,前記(1)ウと同様のことが,訂正事項B-bにも妥当する。
(3)

取消事由1-3(訂正事項Cについて)
審決は,訂正事項C-b(

(但し,前記電解コンデンサ用タブ端子について,JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)

という発明特定事項を付加する訂正)について,訂正事項A-bと同様に新規事項の追加に当たるとして,特許法134条の2第9項,126条5項に適合しないと判断したが,この判断が誤りであることについては,前記(1)において述べたことが妥当する。
(4)

取消事由1-4(訂正事項Dについて)
審決は,
訂正事項D-bJIS(C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下であるという発明特定事項を付加する訂正)について,訂正事項A-bと同様に新規事項の追加に当たるとして,特許法134条の2第9項,126条5項に適合しないと判断したが,この判断が誤りであることについては,前記(1)において述べたことが妥当する。
(5)

以上のとおり,本件訂正の適法性についての審決の判断は誤っており,そ
の結果,無効理由の有無を判断すべき対象を誤っていることになるから,審決には,結論に影響する誤りがあることが明らかであり,取り消されるべきである。
2
取消事由2(本件発明7に関する明確性要件違反の判断の誤り)
(1)

製造方法の記載について
特許請求の範囲の記載の一部に見かけ上製造方法の記載が含まれていたとしても,明細書及び特許請求の範囲等の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが明らかであり,製造と生成物との対応関係が技術常識から明らかである場合は,当該物の構造及び特性は当業者にとって明確であるといえるので,明確性要件に適合する。
本件発明7の引用する,本件発明6の前記の酸化スズ形成処理が,溶剤処理により行われるは,本件発明1の酸化スズ形成処理を表したものであることが明らかであり,ウィスカ発生の抑制を目的とした酸化スズが形成されているというタブ端子の溶接部分の構造ないし特性を示す目的で,溶剤処理という用語を用いていることが読み取れる(【0011】,【0026】,【0028】)。このように,製造方法が物のどのような構造又は特性を表しているのかは明らかであるから,明確性要件に適合している。

仮に,本件発明において問題としている課題解決手段である酸化スズ形成処理を超えてその構造・特性や熱処理や溶剤処理を行う際にタブ端子に対して生じる変化を事細かに規定しなければならないとすれば,それは最高裁判決に示す不可能又は非実際的事情に該当する。

(2)

明確性要件の判断について
審決は何の留保もなく,明確性要件の判断に先立って,本件発明3及び6
についての進歩性の判断を行っているが,進歩性の判断においては,引用発明と本件発明をそれぞれ認定して両者を対比することが不可欠であるところ,本件発明が不明確であれば,その発明の要旨を特定することも引用発明と対比することもできないのであるから,審決の判断は,実質的に本件発明が明確であることを前提としているといえる。
(3)

以上のとおり,
審決の本件発明7の明確性要件違反についての判断は誤り

であり,審決には結論に影響する誤りがあることが明らかであるから,取り消されるべきである。
第4
1
被告の反論
取消事由1(本件訂正についての訂正要件の判断の誤り)
(1)

取消事由1-1(訂正事項Aについて)
特許請求の範囲における数値範囲の上限値や下限値といった境界値自体も特許発明の技術的範囲を分画する極めて重要な数値であるから,その境界値を特許請求の範囲に追加することが,特許法134条の2第9項,126条5項に適合するには,その境界値がその特許発明における数値範囲を決定し得る数値であることを当業者が認識できる程度に,特許明細書にその境界値が記載されている必要がある。


ゼロクロス時間の上限値について
(ア)

本件明細書には,
ウィスカの成長抑制処理が施された試料のゼロクロ

ス時間が2.50秒である実施例は示されておらず,また,ゼロクロス時間が2.50秒以下であることについて記載も示唆もなく,ゼロクロス時間の連続的な数値範囲についての記載も示唆もない。すなわち,本件特許において,2.50秒というゼロクロス時間は比較例のタブ端子の数値であるから,当業者は,その2.50秒が本件発明の範囲を決定する境界値であるとは認識しない。原告の,ゼロクロス時間が2.85秒以下の値であっても小さい値であるほど好ましいという趣旨の主張が仮に正しいとしても,2.85秒以下のいかなる数値,例えば,2.70秒,2.60秒,2.10秒といった数値を発明のゼロクロス時間の境界値として特定してよいわけではないことは明らかであり,
同様に2.
50秒も訂正の根拠とはなり得ない。
また,【表1】によれば,ゼロクロス時間が2.85秒のハンダ
濡れ性は2.50秒と同じく○と評価されており,2.50秒である場合よりも高い評価になっていないから,本件明細書に接した当業者は,2.50秒というゼロクロス時間は単に実験結果の一点の結果に過ぎず,ある連続的な数値範囲の上限等の境界値として記載されているとは認識しないし,2.50秒以下であることによってハンダ濡れ性が良好になると理解することができない。さらに,ゼロクロス時間が2.50秒である場合を境にして課題解決や効果が格別に異なるなど,2.50秒にいわゆる臨界性があるとも理解することはできないから,臨界性を考慮して2.50秒がある連続的な数値範囲の上限等の境界値として記載されていると認識することもない。
【表1】について,
ZCT値の欄の値の大小関係のみに着目して,
試料1~5のハンダ濡れ性が,試料2>試料1>試料5>試料3>試料4の順で良好であると読み取る合理的な根拠はない。比較例2の試料5は,熱処理を行った場合と行わない場合の比較をするための単なる一例にすぎず,本件明細書には,比較例2のZCT値(2.50秒)を備えている必要があることについては何ら記載も示唆もない。【表1】において,比較例である試料5のZCT値(2.50秒)を超えるZCT値(2.
85秒)
である試料3が比較例ではなく実施例とされていること,
及びそのハンダ濡れ性が〇と評価されていることから鑑みて,原告の主張する,本件発明のタブ端子が,従来のタブ端子のZCT値と同程度の2.50秒を少なくとも備える必要があるという技術思想を導き出すことはできない。
また,仮に当業者が,試料1~5のハンダ濡れ性を試料2>試料1>試料5>試料3>試料4の順で良好であると理解したとしても,本件明細書の記載を参照すれば,ゼロクロス時間が連続的な数値範囲として記載されていないのは明らかである。
さらに,ゼロクロス時間は,本件明細書の実施例以外の箇所に発明が有し得る発明特定事項として記載されておらず,実施例においても,発明が有し得る発明特定事項として記載されているものではなく,ハンダ濡れ性が良好であるという課題の一部が解決されたか否かを確認するための評価指標として記載されているに過ぎない。
(イ)

本件明細書には,ゼロクロス時間を測定するための方法として,JI
S
C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)を用いることが単に記
載されているだけであって,測定対象となる試料を作製する際に,JIS
C-0053の付属書Bの
2.50秒以下にすることが望ましい

という事項を満たすように作製することや,これを評価することは記載も示唆もなされていない。また,JIS

C-0053は本件発明のタ

ブ端子を予定して規定されたものではないのであるから,
このJIS

C
-0053に記載された数値を,新たな技術的事項を導入するものでないとする根拠にすることはできない。本件明細書には,比較例2における試料5のZCT値について,JIS

C-0053の上記2.5秒以下にすることが望ましいという記載に基づいて,2.50秒となるように調整されたものであることを示唆する記載もない。

ゼロクロス時間の下限値について
(ア)

本件明細書の実施例においては,ZCT値が2.50秒以下の数値と
して,2.40秒,2.35秒,2.30秒のときにウィ
スカの発生抑制とハンダ濡れ性を両立できたことが示されているのみで,ZCT値が0秒以上2.30秒未満の範囲にある場合に,本件明細書に記載の課題である,ウィスカの発生抑制とハンダ濡れ性を両立できたことについては一切示されていない。
原告は,ハンダ濡れ性とウィスカの抑制は相対立する概念である
と主張しており,ゼロクロス時間が小さければ,必ずウィスカの発生が抑制できるという課題が解決できるとはいえない。【表1】に,ウィスカの成長抑制処理として熱処理を行った場合の試料1ないし4(実施例1ないし3と比較例1)の熱処理温度とZCT値が記載されているが,それらの値の関係からみて,熱処理温度とZCT値との間には,単調増加あるいは単調減少のような単調性は認められない。したがって,実際に測定された110℃,130℃,180℃,200℃以外の熱処理温度において,どのようなZCT値をとるのかを予測することは当業者といえども困難である。
(イ)

JIS

C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)によれば,試験

の前に試料にフラックスを用いた前処理を行うことが規定されているが,フラックスの塗布時間やフラックスを塗布してから試料のゼロクロス時間を測定するまでの経過時間が変化すると,
同じ試料でも値が変化する。
そうすると,フラックスの塗布時間やフラックスを塗布してから試料のZCT値を測定するまでの経過時間を一義的に定めずに,ゼロクロス時間が2.50秒以下であれば,線材メーカー等から入手できる,鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を,そのままタブ端子に使用した場合であっても,溶接部分からのスズウィスカが発生せず,また,ウィスカ発生に起因する上記のような問題が解消され,しかもハンダ濡れ性も良好なタブ端子およびその製造方法を提供するタブ端子を得ることができるということはできない。

以上のとおりであるから,訂正事項A-bは新規事項の追加に当たるものであり,審決の判断に誤りはない。

(2)

取消事由1-2(訂正事項Bについて)
ゼロクロス時間の上限値について
【表1】の実施例3の試料3は,ZCT値が2.85秒でハンダ濡れ性は○,ウィスカの長さ0.16mmでその他の実施例1及び2と同程度か,良好である。また,
【表2】の実施例4の試料6は,ZCT値が2.
40秒でハンダ濡れ性は○,ウィスカの長さ0.15mmでその他の実施例1及び2より良好である。そうすると,ZCT値の上限が2.35秒であることを【表1】及び【表2】から読み取ることはできず,発明の課題のうちのハンダ濡れ性も良好なという点は,【表1】の実施例3においてハンダ濡れ性が○と評価されているZCT値が2.85秒である場合も解決されていると理解される。
このように,
ZCT値が2.
85秒のハンダ濡れ性は2.35秒の場合と同じく○と評価されているのであるから,本件明細書に接した当業者は,2.35秒というゼロクロス時間は単に実験データの一点の結果に過ぎず,その2.35秒が連続的な数値範囲の上限等の境界値として記載されているとは認識しないし,2.35秒以下であることによってハンダ濡れ性が良好になると理解することができない。さらに,ゼロクロス時間が2.35秒である場合を境にして,その上下で課題解決や効果が格別に異なるなど,2.35秒というZCT値にいわゆる臨界性があるとも理解することはできないから,この点からも,2.35秒がある連続的な数値範囲の上限等の境界値として記載されているとは認識できない。
そして,本件明細書等の記載を参照すれば,ゼロクロス時間が連続的な数値範囲として記載されていないのは明らかである以上,連続的な数値範囲を特定するJISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下であるという事項を導入することは,新たな技術的事項を導入することに他ならない。イ
ゼロクロス時間の下限値について
ゼロクロス時間の下限値については,
前記(1)ウに述べたところが妥当す
る。


以上のとおりであるから,訂正事項B-bは新規事項の追加に当たるものであり,審決の判断に誤りはない。

(3)

取消事由1-3(訂正事項Cについて)

ゼロクロス時間の上限値について
前記(1)と同様に,
ゼロクロス時間が従来のタブ端子のゼロクロス時間
(2.
50秒)よりも大きいということのみをもって,ハンダ濡れ性とウィスカ発生抑制とを両立し得ないということはできないし,従来のタブ端子のゼロクロス時間(2.50秒)を少なくとも備える必要があるということもできない。したがって,ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除くとの技術的特徴を【表1】及び【表2】から読み取ることはできない。また,【表1】の実施例3のハンダ濡れ性が○と評価されているから,ゼロクロス時間が2.85秒である場合も,本件発明の課題のうちのハンダ濡れ性も良好なという点が解決されていると解するのが妥当である。ゼロクロス時間が2.85秒である場合のハンダ濡れ性は○と評価されているのであるから,本件明細書に接した当業者は,ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除くとは認識しない。
また,ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除くとは,ゼロクロス時間が2.50秒未満であると同義であるところ,前記(1)のとおり,本件明細書において,ゼロクロス時間が連続的な数値範囲として記載ないし示唆されておらず,また,2.50秒というゼロクロス時間が境界値として記載されているということもできない。


ゼロクロス時間の下限値について
ゼロクロス時間の下限値については,
前記(1)ウに述べたところが妥当す
る。


以上のとおりであるから,訂正事項C-bは新規事項の追加に当たるものであり,審決の判断に誤りはない。

(4)

取消事由1-4(訂正事項Dについて)
ゼロクロス時間の上限値について
前記(1),(2)と同様に,
本件明細書の記載を参照すれば,
ゼロクロス時間
が連続的な数値範囲として記載されていないのは明らかであり,連続的な数値範囲を特定する
JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下であるという事項を導入することは,新たな技術的事項を導入することに他ならない。また,【表1】の実施例3の試料3は,ZCT値が2.85秒でハンダ濡れ性は○,ウィスカの長さは0.16mmでその他の実施例1及び2と同程度か良好である。【表1】の比較例1の試料4においては,ZCT値が2.99秒でハンダ濡れ性は×と評価されているものの,2.85秒から2.99秒の間のどのゼロクロス時間がハンダ濡れ性の○と×の境界値であるのか,本件明細書から読み取ることはできない。本件明細書に接した当業者は,2.85秒というゼロクロス時間は単に実験データの一点の結果に過ぎず,その2.85秒が連続的な数値範囲の上限等の境界値として記載されているとは認識しないし,2.85秒を超えて2.
99秒までの間にあるどのゼロクロス時間がハンダ濡れ性の

と×の境界値であるのか読み取ることはできないのであるから,2.85秒以下であることによってハンダ濡れ性が良好になると理解することができない。さらに,ゼロクロス時間が2.85秒である場合を境にして,その上下で課題解決や効果が格別に異なるなど,2.85秒というZCT値にいわゆる臨界性があるとも理解することはできない。

その余の原告の主張についても,前記(1)に述べたところが妥当する。

以上のとおりであるから,訂正事項D-bは新規事項の追加に当たるものであり,審決の判断に誤りはない。

(5)

以上のとおり,
本件訂正についての訂正要件に関する審決の判断に誤りは

ない。
2
取消事由2(本件発明7に関する明確性要件違反の判断の誤り)
(1)

製造方法の記載について

溶剤処理によってどのような構造や特性の酸化スズが形成されているのか不明であり,また,酸化スズを形成するためにタブ端子に対して熱処理や溶剤処理を行う以上,酸化スズを形成する以外にタブ端子に対して何らかの変化がもたらされると考えるのが自然であるところ,タブ端子やそこに形成される酸化スズがどのような構造や特性を有すれば,線材メーカー等から入手できる,鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を,そのままタブ端子に使用した場合であっても,溶接部分からのスズウィスカが発生せず,また,ウィスカ発生に起因する上記のような問題が解消され,しかもハンダ濡れ性も良好なタブ端子およびその製造方法を提供するのか明確でなく,不可能又は非実際的事情があることについての釈明もない。


原告は,審判手続において,平成29年9月27日の第1回口頭審理に際し,
特許庁審判官からの
訂正請求が認められないとした場合について,無効理由に対して意見があれば主張してくださいとの質問に対して,
訂正請求が認められないとした場合について,無効理由に対する意見は特にありませんと陳述しており,この陳述の内容を軽視することは,信義則に著しく反する。

(2)

以上のとおり,
本件発明7が明確性要件に適合しないとした審決の判断に

誤りはない。
第5
1
当裁判所の判断
本件発明について
(1)

特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の記載は上記第2の2(1)に記載のとおりであ
り,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,上記第2の2(2)に記載のとおりである。
(2)

本件明細書の記載

本件明細書には以下の記載がある(甲25)。
(ア)

【技術分野】

【0001】

本発明は,電解コンデンサに使用されるタブ端子に関し,

特に,鉛フリーのスズメッキが施されたタブ端子,およびその製造方法に関する。
(イ)

【従来技術】

【0002】

電解コンデンサは,タンタル,アルミニウム等の弁作用金

属からなる陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を形成し,このコンデンサ素子に,液状電解質または固体電解質を保持させて外装ケース内に収納して構成されている。このような電解コンデンサにおいて,陽極電極箔と陰極電極箔とには,それぞれの電極を外部に接続するためのタブ端子が,ステッチ,超音波溶接等の公知の手段により接続されている。
【0003】

当該タブ端子は,圧扁部,丸棒部,およびリード線部の三

つの部分から構成されている。すなわち,電極箔に接合される部分は,巻回型のコンデンサ素子内に巻き込まれる関係から圧扁部とされ,外装ケースを密封する封口体に貫通挿入される部分は,封口体との間のシール性と機械的強度を確保するために丸棒部とされている。また,回路基板に実装される引出し部分は,実装時の取扱性を確保するために柔軟性を持つリード線部とされている。
【0004】

このような三つの部分から構成されるタブ端子は,2種類

の部材を溶接することによって作製されるのが通常である。すなわち,アルミ材等からなる芯線を用いて圧扁部と丸棒部とを形成し,当該丸棒部にリード線を溶接することによって作製される。また,電解コンデンサは回路基板にはんだ付けで実装されることから,当該リード線は,はんだ付け特性の向上のため,その表面にスズや鉛を含有するスズでメッキが施されたものが使用されている。
【0005】

一方,近年,環境問題に配慮して,電子部品の電極端子の

無鉛化や電子部品の接合に無鉛はんだを使用する技術の開発がなされ始めている。電子部材として用いるリード線においても,従来の鉛含有スズメッキに替わり,鉛を用いない,いわゆる鉛フリーのスズメッキが使用され始めている。このような鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を用いたタブ端子では,アルミ丸棒部とリード線部との溶接部分にスズのウィスカが発生するという問題がある。該ウィスカは経時的に成長するため,タブ端子製造後にウィスカを除去しても,その後に徐々にウィスカが成長する。
従って,
電解コンデンサを回路基板に実装した後に,
陽極側のリード線から発生したウィスカと陰極側のリード線から発生したウィスカとが互いに接合したり,あるいは,リード線部に発生したウィスカが回路基板の表面まで達して,ひいては電解コンデンサの漏れ電流を増大させたり,ショートを発生させる恐れもある。
【0006】

このような問題に対し,溶接部からのスズウィスカの発生

を抑制するため,
特開2000-12386号公報には,5~10.
0.
0wt%のビスマス等の金属を含有するスズからなる金属層が形成されたリード線を使用することが開示されている。このように,スズにビスマス等の金属を含有させることにより,ウィスカの発生を抑制することができる。
【0007】

しかしながら,ビスマス等の金属を含有するスズが表面に

形成されたリード線を得るためには,当該金属を所定量含有するスズ合金のメッキを施す必要があるため,線材メーカー等から入手できる鉛フリーのスズメッキされたリード線をタブ端子の製造に直接用いることができない。このように線材メーカー等から入手できるリード線をそのまま使用してタブ端子を製造することができれば,製造工程も複雑とならず,製造コストを増大させることもないと考えられる。
【0008】

また,ウィスカが発生する部位はアルミ芯線とリード線と

の溶接部のみであるのに対し,ビスマス/スズ合金メッキはリード線全体に施されているため,ウィスカ発生と関係のない部分のメッキ処理が無駄になりコスト上昇を招く。
【0009】

さらに,スズに他の金属を含有させすぎると,スズのみか

らなるメッキと比較して,ハンダ濡れ性等のメッキ特性が変化してしまう。
(ウ)

【発明の概要】

【0011】

本発明者らは,今般,スズメッキさたリード線の表面に酸

化スズを形成することにより,ハンダ濡れ性を損ねることなく,ウィスカの発生が抑制できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0012】

したがって,本発明の目的は,線材メーカー等から入手で

きる,鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を,そのままタブ端子に使用した場合であっても,溶接部分からのスズウィスカが発生せず,また,ウィスカ発生に起因する上記のような問題が解消され,しかもハンダ濡れ性も良好なタブ端子およびその製造方法を提供することにある。【0013】

本発明による電解コンデンサ用タブ端子は,芯材表面にス

ズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線部と前記アルミ芯線との溶接部表面に,ウィスカの成長抑制処理が施されていることを特徴とするものである。このように,ウィスカの発生場所であるアルミ芯線とリード線との溶接部分表面にウィスカ発生抑制処理を施すことにより(原文のまま),当該溶接部分からスズウィスカが経時的に成長するのを抑制することができる。
【0014】本発明の好ましい態様として,
前記のウィスカ抑制処理は,
酸化スズ形成処理である。このように溶接部表面に形成されたスズを酸化して,
少なくともSnOまたはSnO2に変性することによりすること
により,当該溶接部分から発生するウィスカを効果的に抑制することができる。
【0015】

また,前記酸化スズ形成処理は,タブ端子の熱処理により

行われることが好ましく,前記熱処理温度は60℃~180℃,特に80℃~150℃の範囲であることがより好ましい。かかる温度範囲において酸素雰囲気下でタブ端子を熱処理し酸化スズを形成することにより,タブ端子のハンダ濡れ性を損なわずに,ウィスカ発生が抑制されたタブ端子を得ることができる。
【0016】

さらに,前記酸化スズ形成処理は,溶剤処理によっても行

うことができる。酸化スズの形成を溶剤処理により行うことで,タブ端子中で,ウィスカ発生抑制処理が必要な部分のみを選択的に処理することができる。
【0017】

前記の溶剤は,珪酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,および硫酸

塩からなる群から選択される無機酸塩の水溶液であることが好ましく,さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液であることが好ましい。このような水溶液を用いて溶剤処理を行うことにより,ハンダ濡れ性を損なわない程度に,スズ表面に酸化スズを形成することができ,ウィスカ発生の抑制効果が得られる。また,溶剤によるウィスカ抑制処理は,上記の熱処理と併用して行うこともでき,このように熱処理と溶剤処理とを行うことにより更なるウィスカ抑制効果が得られる。
【0018】

本発明の別の態様として,本発明による電解コンデンサ用

タブ端子の製造方法は,芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程,および溶接直後に,前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程,を含んでなるものである。
【0019】

また,別の態様として,本発明による電解コンデンサ用タ

ブ端子の製造方法は,芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程,および前記溶接されたタブ端子を,熱処理する工程を含んでなるものである。
(エ)

【発明の具体的説明】

【0020】

以下,本発明の実施形態の一例に係るタブ端子およびその

製造方法について説明する。
本発明の電解コンデンサ用タブ端子は,芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されているものである。本発明のタブ端子を構成するスズメッキが施されたリード線は,スズメッキまでの工程は一般的に用いられている方法が採用され,特に限定されるものではなく,また市販の鉛フリーのスズメッキが施されたCP線(引き込み線)等を使用することができる。リード線の太さや長さも特に限定されるものではなく,電解コンデンサの要求特性に応じて種々のCP線を使用することができる。なお,CP線は,導電特性の観点から,鉄の周囲に銅が形成されたものが通常用いられる。
【0021】

本発明のタブ端子を構成するアルミ芯線も,従来のタブ端

子に使用されているものを使用することができる。当該アルミ芯線も市販のものを用いることができる。また,アルミ芯線は電解コンデンサの電極として機能するものであり,その一端部は扁平状に圧扁された形状を有している。かかる圧扁部は従来技術により形成することができる。例えば,アルミ芯線をプレス加工し所定形状に切断することにより,所定形状の圧扁部を有するアルミ芯線を作製することができる。圧扁部を所定形状に切断する工程は,プレス加工と同時に行うこともできる。【0022】

次に上記のリード線およびアルミ芯線を,従来の方法によ

り接合することにより,タブ端子の形状とすることができる。例えば,火花放電等によって高温状態を形成し,アルミ芯線とリード線との両端を溶解して接合する方法等により両者を接合することができる。
【0023】

このようにして作製されたタブ端子のアルミ芯線とリード

線との溶接部分にウィスカ成長抑制処理を施すことにより,本発明のタブ端子が完成する。本願発明者らは,タブ端子の溶接部分付近から発生するウィスカが,スズ金属単体からなるものであることを確認し,当該溶接部分に存在するスズをあらかじめ酸化スズに変成しておくことで,経時的に発生するウィスカを抑制できるとの知見を得た。すなわち,本願発明は,ウィスカ発生原因に着目し,タブ端子の処理方法とウィスカ発生との関係について鋭意検討をした結果,導き出されたものである。【0024】

本発明者らの知見によれば,当該ウィスカはスズからなる

単体金属で構成されており,リード線表面に設けられたスズメッキに由来するものと推定されるが,リード線全体にウィスカが発生することはなく,リード線とアルミ芯線との溶接部分に集中してウィスカは発生する。その理由は以下のように考えられる。すなわち,アルミ芯線とリード線との接合部分では,溶接時の残留応力が残されたままアルミ,銅およびスズ等の金属が固化する。しかしながら,アルミや銅と異なり,スズは融点が低く(232℃),また,低温(数十℃)において結晶変態を起こし得る。このような残留応力(ひずみ)が残されている状態においては,常温においてもスズの結晶変態が進み,針状のウィスカとなって溶接部分から現れるものと推定される。当該ウィスカの成長は,数ヶ月のオーダーで徐々に進行するため,タブ端子製造直後にウィスカ除去を行っても,根本的な解決にはならないことに留意されるべきである。すなわち,本発明者らの知見によれば,ウィスカの成長自体を抑制する必要があるということである。
【0025】

本発明においては,スズの結晶成長を抑制するために,溶

接部分の残留応力を取りのぞき,かつ,スズを酸化スズに変性し,その結果としてウィスカの発生を抑制するものである。このように溶接部分のスズを酸化スズに変性することで,スズの結晶変態も起こらず,スズの結晶成長が効果的に抑制されることは予想外のことであった。
【0026】

本発明では,60~180℃の温度範囲において,酸素雰

囲気下で,タブ端子を熱処理することにより,タブ端子の溶接部分のスズを酸化して,酸化スズを形成するものである。当該熱処理は,タブ端子製造後(アルミ芯線とリード線との溶接後)に行う。溶接前にスズメッキされたリード線のみを熱処理し,その後にアルミ芯線と溶接することもできるが,溶接してタブ端子とした後に熱処理を行うことにより,溶接部分の表面に現れたスズを効率的に酸化できる。また,60℃よりも低い温度において熱処理を行うとウィスカ発生抑制効果が十分には得られない。
一方,
スズを酸化するためには高温で行うことが好ましいが,
180℃を超える温度において熱処理を行うと,スズの酸化が進みすぎるため,リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう。すなわち,酸素雰囲気下での熱処理により,溶接部の表面付近に存在する金属スズのうち一部が酸化スズ(SnOまたはSnO2

に変化するが,
ウィスカ発生を抑制する目的からは酸化スズの存在は

好ましいものの,
金属スズのすべてが,
酸化スズに酸化されてしまうと,
ハンダ濡れ性が低下するため好ましくない。本願発明のタブ端子は,金属スズと酸化スズとが適度な割合で存在することが好ましいのである。このような,金属スズと酸化スズが適度な割合で存在できる熱処理温度としては,
特に,
80~150℃の温度範囲が好ましい。
熱処理時間は,
10~60分の範囲が好ましく,
特に,
15~30分の範囲が好ましい。
熱処理温度同様に60分を超えるとスズの酸化が進行しすぎて,ハンダ濡れ性に悪影響を及ぼす。
(オ)

【実施例】

【0033】

リード線としてスズ100%のメッキを施した,鉄/銅か

らなる引き込み線(CP線)とアルミ芯線とを,それぞれ所定の長さに切断し,切断されたリード線とアルミ芯線とをアーク放電にて溶接した後,アルミ芯線部分をプレス加工により圧扁することによりタブ端子1を得た。得られたタブ端子1をパラフィン系溶剤により脱脂洗浄処理を行い,80℃×12分,熱風乾燥を行った。
【0034】

脱脂処理を行ったタブ端子1を,表1に示す温度にて20

分間,恒温恒湿器(PVH-110:タバイエスペック製)を用いて熱処理を行った(実施例1~4,および比較例1)。また,熱処理を行わない試料を比較例2とした。
【0035】

次に,熱処理を行った試料(実施例)および熱処理を行わ

なかった試料(比較例)のウィスカを観察するため,60℃×90%RHの条件において250時間加速試験を行った。加速試験後,各試料の溶接部に発生したウィスカを30倍の光学顕微鏡を用いて観察し,タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの長さを測定した。
【0036】

さらに,上記の加速試験を行う前の各試料のハンダ濡れ性

を調べるため,JISC-0053はんだ付け試験方法(平衡法)によりゼロクロス時間(ZCT値)を測定した。測定結果を表1に示す。【表1】

【0037】

次に,上記のタブ端子1を,1.0重量%のメタ珪酸ナト

リウム水溶液中に120℃で2分間浸漬して溶剤処理を行い,試料6を得た。得られた試料について,60℃×90%RHの条件において250時間加速試験を行った。加速試験後,上記と同様の測定方法により,タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの長さを測定した。また,上記と同様にして溶液処理した試料のハンダ濡れ性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0038】

また,上記のリード線とアルミ芯線とをアーク放電にて溶

接後300ms以内に,溶接部分に5重量%のケイフッ化アンモニウム水溶液を塗布して付着させた。その後,上記と同様にしてアルミ芯線部分をプレス加工により圧扁することによりタブ端子2
(試料7)
を得た。
得られたタブ端子2をパラフィン系溶剤により脱脂洗浄処理を行い,80℃×12分,熱風乾燥を行った。
【0039】

得られた試料6および7について,上記と同様にして加速

試験を行い,ウィスカの長さ,およびハンダ濡れ性について測定を行った。
【0040】

結果は表2に示される通りであった。

【表2】


本件発明の意義
上記アの記載によれば,本件発明は,①電解コンデンサに使用されるタ
ブ端子,特に,鉛フリーのスズメッキが施されたタブ端子及びその製造方法に関するものであり(【0001】),②鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を用いたタブ端子では,アルミ丸棒部とリード線部との溶接部分にスズのウィスカが発生するという問題があり,ウィスカの発生を防ぐためビスマス/スズ合金メッキをリード線全体に施すという従来技術においては,線材メーカー等から入手できる鉛フリーのスズメッキされたリード線をそのまま使用することができず,製造コストが増大し,スズのみからなるメッキと比較して,ハンダ濡れ性等のメッキ特性が変化してしまうとの問題があったところ(【0005】~【0009】),③スズメッキされたリード線の表面に酸化スズを形成することにより,ハンダ濡れ性を損ねることなく,ウィスカの発生が抑制できるとの知見に基づき,特許請求の範囲に記載の構成を採用し(【0011】,【0013】~【0019】),④線材メーカー等から入手できる,鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を,そのままタブ端子に使用した場合であっても,溶接部分からのスズウィスカが発生せず,また,ウィスカ発生に起因する問題が解消され,しかもハンダ濡れ性も良好なタブ端子およびその製造方法を提供することを目的としている(【0012】)ものであるということができる。
2
取消事由1(本件訂正についての訂正要件の判断の誤り)について(1)

訂正要件について
訂正が,当業者によって,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図
面(以下明細書等という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,特許法134条の2第9項の準用する同法126条5項における願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてするものということできる。また,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が明細書等に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてするものということができる。(2)

取消事由1-1について

アゼロクロス時間についての技術常識
(掲記した各証拠及び弁論の全趣旨)

(ア)

JIS

C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)により測定され

るゼロクロス時間(ZCT値)はハンダ濡れ性を評価する際の指標として用いられ,ゼロクロス時間が小さければ小さいほど部品を短時間ではんだ付けすることができ,
ハンダ濡れ性が良いと評価することができる。
(イ)JISC-0053(はんだ付け試験方法(平衡法))(甲2
1)附属書Bの1.1はんだ付け試験に平衡法を適用する指針B6.のぬれが始まる時間(276頁)の項
には,
ゼロクロス時間A(-t0により算出される時間)に関して次の記載がある。t0とAとの時間間隔がぬれが始まる時間である。
多数の部品を同時に
はんだ付けする工程で取り付けられる部品の場合,この時間は,フラックスの種類と供試品の熱特性に依存するが,2.5秒以下にすることが望ましい。
(ウ)

東京工業大学のA教授の鑑定意見書(甲20)には次の記載がある。短い時間でタブ端子を電子回路などの基盤に接着できることが好まし
いため,ZCT値は小さければ小さい程好ましいというのが技術常識であり,はんだ付け(ソルダリング)に供される製品の製造に携わる技術者は,ZCT値のできるだけ小さい電子部品を作ろうと絶えず努力しています。また,電子部品をはんだ付けする側のアセンブリ業者は,電子部品の発注の際に,ZCT値の上限を指定することで,製品の信頼性を維持しようとしています。従いまして,当然のことながら,ZCT値の下限は0秒ですが,上記の観点よりその下限値には技術的な意味がないので,上限のみが指定されるのが当該技術分野の常識です。

本件明細書の記載
本件明細書には,①酸化スズ形成処理は,タブ端子の熱処理により行われることが好ましく,前記熱処理温度は60℃~180℃,特に80℃~150℃の範囲であることがより好ましく,かかる温度範囲において酸素雰囲気下でタブ端子を熱処理し酸化スズを形成することにより,タブ端子のハンダ濡れ性を損なわずに,ウィスカ発生が抑制されたタブ端子を得ることができること,②熱処理温度を110℃,130℃,180℃と上昇させると,ウィスカの長さは0.16㎜,0.17㎜,0.16㎜,ゼロクロス時間は2.35秒,2.30秒,2.85秒となり,ハンダ濡れ性が○と評価できること(実施例1~3),③熱処理温度を200℃とすると,ウィスカの長さは0.15㎜,ゼロクロス時間が2.99秒となり,ハンダ濡れ性が×と評価されること(比較例1),④熱処理をしない場合には,
ウィスカの長さは0.
23㎜,
ゼロクロス時間は2.
50秒となり,
ハンダ濡れ性は○と評価できること
(比較例2)⑤酸化スズ形成処理は,

溶剤処理によっても行うことができ,酸化スズの形成を溶剤処理により行うことで,タブ端子中で,ウィスカ発生抑制処理が必要な部分のみを選択的に処理することができること,⑥処理溶剤としてメタ珪酸ナトリウムを使用すると,ウィスカの長さは0.15mm,ゼロクロス時間が2.40秒となり,ケイフッ化酸ナトリウムを使用すると,ウィスカの長さは0.086mm,ゼロクロス時間が2.35秒となり,いずれの場合もハンダ濡れ性が○と評価されること(実施例4及び5)が記載されている(【0015】,【0016】,【0036】~【0040】,【表1】,【表2】)。

事案に鑑み,ゼロクロス時間の下限値について判断する。
訂正事項A-bは,ゼロクロス時間の上限値を2.50秒と特定するのみで下限値を特定していないところ,これは,ゼロクロス時間を0秒以上2.50秒の範囲と特定して特許請求の範囲に限定を付加する訂正であるということができる。そこで,ゼロクロス時間が0秒以上2.50秒以下であることについて,特許請求の範囲又は本件明細書に明示的に記載されているか,その記載から自明である事項であるといえるかを検討する。まず,本件訂正前の特許請求の範囲にはゼロクロス時間に関する記載はない。
次に,本件明細書には,上記イのとおり,酸化スズ形成処理がされ,ゼロクロス時間が0秒以上2.50秒以下の範囲に該当するものとして,ゼロクロス時間が2.40秒,2.35秒及び2.30秒のタブ端子(実施例1,2,4,5)が明示的に記載されているということができるが,ゼロクロス時間が0秒以上2.30秒未満であるタブ端子についての明示的な記載はない。
そして,本件明細書の記載からは,ウィスカの成長抑制処理として熱処理を行った場合について,
①熱処理温度を110℃,
130℃,
180℃,
200℃と変化させると,ウィスカの長さは130℃で一旦長くなるが,200℃にかけて上昇させると短くなり,ゼロクロス時間は130℃で一旦短くなり,200℃にかけて上昇させると長くなること,②熱処理をしないウィスカの長さは0.23㎜であり,熱処理をした実施例1~3及び比較例1ではウィスカの長さはいずれも許容範囲であるが,200℃で熱処理した比較例1のゼロクロス時間は長すぎてハンダ濡れ性が不十分であることが理解できるものの,熱処理温度とゼロクロス時間との間に単調な相関関係があるとは認められず,実際に測定された各温度以外の熱処理温度においてどのようなゼロクロス時間をとるのかを予測することは困難である。
また,ウィスカの成長抑制処理として溶剤処理を行った場合について,実施例4及び5に関する前記イ⑥の記載から,ゼロクロス時間が2.30秒未満となる具体的な溶剤処理を推測することはできない。
このように,本件明細書の記載から,ゼロクロス時間を2.30秒未満とした上でウィスカの発生を抑制することが自明であるということはできないし,このことは,上記アの技術常識を勘案しても同様である。以上のとおりであるから,訂正事項A-bは,明細書等に明示的に記載されていないし,その記載から自明であるともいえないから,訂正事項A-bに係る訂正は,新たな技術的事項を導入しないものであるということはできず,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。(3)

取消事由1-2~1-4について
訂正事項B-b,C-b及びD-bも,ゼロクロス時間に0秒以上2.3
0秒未満と限定することを付加する訂正であるということができるから,上記(2)に説示したところが妥当する(訂正事項C-bが,いわゆる除くクレームの記載の仕方となっていることはこの判断を左右するものではない。。)
(4)

原告の主張について


原告は,ゼロクロス時間は小さければ小さいほど好ましく,上限値のみを設定することで足り,ハンダに関する技術分野において,ゼロクロス時間の下限値を規定することなく,上限値のみを規定するのが技術常識であるから,特許発明の範囲においてゼロクロス時間の下限値を設定することには技術的意味がないことを主張する。
しかし,ハンダに関する技術分野において,ゼロクロス時間の下限値を規定することに意味がないとしても,そのことと,ゼロクロス時間を2.30秒未満とすることが,本件明細書又は特許請求の範囲に明示的に記載され,あるいは,その記載から自明である事項であるといえるか否かは異なる問題である。
また,原告は,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理でありという構成を充足することでウィスカの発生を抑制することができ,ゼロクロス時間が0秒以上2.30秒未満の範囲のハンダ濡れ性が良好であることが明確に理解できるから,本件訂正発明1のゼロクロス時間が2.30秒以上2.50秒以下の領域においても,2.30秒未満の領域においても,ウィスカの発生抑制とハンダ濡れ性を両立できることが明確に理解できるとして,ウィスカの発生抑制とハンダ濡れ性との両立を図るという技術的課題の見地からゼロクロス時間の下限値を規定すべき理由はないと主張する。しかし,本件明細書の記載から,ゼロクロス時間を0秒以上2.30秒未満とした上でウィスカの発生を抑制することが自明であるということはできないのは上記(2)ウに説示したとおりであり,
原告の主張は上記判断を
左右するものではない。

原告は,本件発明は,ハンダ濡れ性が悪化しない程度に加熱温度と加熱時間を調整して熱処理を行うことを特徴とするものであり,本件明細書の記載(【0026】,【0034】)から,実施例1及び2について,加熱時間を20分より短くすれば,ウィスカの成長を抑制しつつ実施例1,2よりもゼロクロス時間を短くできることが理解できるとして,本件明細書に,ウィスカの成長を抑制しつつも,ハンダ濡れ性を実施例2の2.30秒よりもさらに向上させる技術は記載も示唆もされていないとした審決の判断は誤りであることを主張する。
しかし,本件明細書から明確なゼロクロス時間の下限値を読み取ること
はできないし,本件明細書の60℃よりも低い温度において熱処理を行うとウィスカ発生抑制効果が十分には得られない。一方,スズを酸化するためには高温で行うことが好ましいが,180℃を超える温度において熱処理を行うと,スズの酸化が進みすぎるため,リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう。,本願発明のタブ端子は,金属スズと酸化スズとが適度な割合で存在することが好ましいのである。このような,金属スズと酸化スズが適度な割合で存在できる熱処理温度としては,特に,80~150℃の温度範囲が好ましい。,

熱処理時間は,10~60分の範囲が好ましく,特に,15~30分の範囲が好ましい。熱処理温度同様に60分を超えるとスズの酸化が進行しすぎて,ハンダ濡れ性に悪影響を及ぼす。

(【0026】)との記載を勘案しても,本件明細書の記載からは,ウィスカの成長を抑制しつつゼロクロス時間を0秒に近づけることと熱処理時間の相関関係を読み取ることはできないから,本件明細書の記載から,ゼロクロス時間を0秒以上2.30秒未満とした上でウィスカの発生を抑制することが自明であるということはできない。

原告は,訂正事項A-bは,ゼロクロス時間が2.50秒を超える態様を除くものに過ぎず,本件訂正の前後を通じ,ゼロクロス時間が2.30秒未満となる態様についての侵害の成否の結論は異ならないと主張するが,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合であっても,付加される訂正事項が明細書等に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合でなければ,当該訂正が新たな技術的事項を導入するものとなるのは,前記(1)に説示したとおりであり,原告の主張は採用できない。

(5)
3
以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由1には理由がない。
取消事由2(本件発明7に関する明確性要件違反の判断の誤り)
(1)

明確性要件について
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう発明が明確であることという要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
(2)

本件発明7について
本件発明7は,

前記溶剤処理が,リード線端部にアルミ芯線を溶接した直後に行われるものである,請求項6に記載のタブ端子。

として,請求項6の

前記の酸化スズ形成処理が,溶剤処理により行われる,請求項1または2に記載のタブ端子。

を引用するものであり,酸化スズ形成処理が溶剤処理により行われるとの記載は製造方法であるから,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。
そうすると,本件発明7について明確性要件に適合するというためには,出願時において本件発明7のタブ端子を,その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することを要するところ,原告はかかる事情について,具体的な主張立証をしない。
(3)

原告の主張について
原告は,本件明細書の記載(【0026】,【0028】)から,ウィスカ発生の抑制を目的とした酸化スズが形成されているというタブ端子の溶接部分の構造ないし特性を示す目的で溶剤処理という用語を用いていることが読み取れるとして,製造方法が物のどのような構造又は特性を表しているのかは,本件発明の記載及び本件明細書の記載から極めて明白であり,上記(1)の不可能又は非実際的事情について検討するまでもなく,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確といえないから,明確性要件に適合すると主張する。
しかし,本件明細書には,請求項3に係る熱処理及び請求項6に係る溶剤処理により酸化スズ形成処理が施されたタブ端子についての記載があるものの,これらの熱処理及び溶剤処理により形成された酸化スズが,それぞれどのような構造又は特性を有するものであるのかについての記載はない。そうすると,本件明細書の記載から,本件発明7の引用する請求項6に係る溶剤処理により形成された酸化スズがどのような構造又は特性を有するかが明らかであるとはいえないし,また,それが技術常識から明らかであるとみるべき証拠もない。
したがって,原告の主張は採用できない。


また,原告は,仮に,本件発明において問題としている課題解決手段である酸化スズ形成処理を超えてその構造・特性や熱処理や溶剤処理を行う際にタブ端子に対して生じる変化を事細かに規定しなければならないとすれば,
それは上記(1)の最高裁判決に示す不可能又は非実際的事情に該当すると主張する。
しかし,原告の主張する点は,本件発明7のタブ端子を,その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないことを示す事情を示すものではなく,
上記(2)の判断を左右するもので
はない。

さらに,原告は,審決が明確性要件の判断に先立ち,本件発明6についての進歩性の判断を行っていることは,実質的に本件発明が明確であることを前提としていると主張する。
しかし,進歩性の欠如と明確性要件適合性は,異なる無効理由であり,進歩性の判断と明確性要件適合性の判断に論理的な先後関係があるわけではないから,原告の主張は採用できない。

(4)
4
以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由2には理由がない。
結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
山門優高橋彩
裁判官

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