判例検索β > 令和1年(行ケ)第1号
事件番号令和1(行ケ)1
裁判年月日令和元年10月30日
法廷名福岡高等裁判所  宮崎支部
裁判日:西暦2019-10-30
情報公開日2019-11-13 16:00:08
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1請求
令和元年7月21日施行の参議院(選挙区選出)議員選挙の宮崎県選挙区及び鹿児島県選挙区における選挙をいずれも無効とする。
第2事案の概要
本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下本件選挙という。)について,宮崎県選挙区又は鹿児島県選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条1項,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,定数配分規定という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。1前提事実
当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおりである。
(1)

本件選挙の施行等

本件選挙は,平成30年法律第75号(以下平成30年改正法といい,同法による改正を平成30年改正という。)によって改正された定数配分規定(以下本件定数配分規定という。)に従って,令和元年7月21日に施行された。


本件選挙において,原告Aは宮崎県選挙区の選挙人であり,原告Bは鹿児島県選挙区の選挙人であった。


本件選挙当日の選挙区ごとの選挙人数及び本件定数配分規定における議
員定数は,別紙参議院選挙区別人口,定数,較差に記載のとおりで
あり,議員1人当たりの選挙人数の較差(以下,較差に関する数値は,全て,小数点以下3桁を四捨五入した概数である。)は,最小の福井県選挙区を1とすると,宮城県選挙区が最大の3.00であり,原告Aの属する宮崎県選挙区は1.42,原告Bの属する鹿児島県選挙区は2.12であった(乙1の1)。
(2)

参議院議員選挙に係る法改正と最大較差の推移,選挙無効訴訟における最
高裁判決の動向等

参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法における参議院議員の定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,後記イの平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下平成6年改正という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下昭和57年改正という。)により,参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出さ
れる選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正という。)により,参議院議員の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。

参議院議員選挙法の制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の選挙区間の最大較差というときは,この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが,人口変動により次第に拡大を続け,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙といい,この選挙を平成4年選挙という。)当時,
選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後,平成12年改正による3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成7年から平成19年までに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。


最高裁判所は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下昭和58年大法廷判決という。)において,後記第3の1(1)の基本的な判断枠組みを示した。その後,平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨の判断を示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集5
0巻8号2283頁[以下平成8年大法廷判決という。]),平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。

最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下平成24年大法廷判決という。)は,平成22年7月11日に選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(以下平成22年選挙という。)につき,結論において定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採るこ
とにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要請に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったこと等の事情を総合考慮すると,平成22年選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨の判断を示した。

平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年法律第94号。以下平成24年改正法という。),同月26日に施行された。平成24年改正法の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について3選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,平成28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
平成25年7月21日,平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下で通常選挙が施行された(以下平成25年選挙という。)。平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。


平成25年9月,参議院において,平成28年に施行される通常選挙に向けた参議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案と
して座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。そして,同協議会において,更に同年11月以降,意見集約に向けて協議が行われたが,各会派の意見が一致しなかったことから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。

このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,最高裁平成26年(行ツ)第155号,第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下平成26年大法廷判決という。)は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解
消される必要がある旨の判断を示した。

選挙制度の改革に関する検討会においては,前記カの報告書の提出を受けて協議が行われたが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする①4県2合区を含む10増10減の改正案と②20県10合区による12増12減の改正案とにおおむね集約され,同年7月23日,上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記①の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。
平成27年7月28日,上記①の改正案に係る公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成27年法律第60号。以下平成27年改正法という。),同年11月5日に施行された(以下,同法による改正後の定数配分規定を本件旧定数配分規定という。)。平成27年改正法による公職選挙法の改正(以下平成27年改正という。)の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。


平成28年7月10日,本件旧定数配分規定の下で通常選挙が施行された(以下平成28年選挙という。)。平成28年選挙当時の選挙区間
の最大較差は3.08倍であった。

平成29年2月,参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,参議院議長の下に参議院改革協議会が設置され,同年4月,同協議会の下に,選挙制度改革について集中的に調査検討するため,選挙制度に関する専門委員会(以下専門委員会という。)が設置された。専門委員会では,同年5月から平成30年4月にかけて,平成28年選挙に関する評価や選挙制度改革に対する考え方について,参考人らからの意見聴取や論点整理を行って検討及び意見交換が行われ,特に,選挙制度の枠組みについては,比例代表選出議員及び選挙区選出議員の区分を維持するか否か,都道府県より広い地域を選挙区の単位とするブロック選挙区制を導入するか否か,連記制を導入するか否かなどの選挙制度の仕組みに関する議論,各選挙区に奇数の定数を配分することの可否,比例代表選出議員から選挙区選出議員へ定数を移譲することの可否などの定数配分のあり方に関する議論等が行われた。そして,専門委員会は,平成30年5月7日,選挙制度改革に関する各会派の意見を併記した報告書を参議院改革協議会に提出した。
(乙6~11[以下,特に断らない限り,枝番号があるものは各枝番号を含む。],16)


このような協議が行われている状況の中で,平成28年選挙につき,最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。)は,後記第3の1の基本的な判断枠組み及び立場を示した上,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続していた状況の下では,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は,上記較差が継続することを正当化する理由として十分なものとはいえないが,各選挙区の区域を定めるに当たり,都
道府県という単位を用いること自体が不合理なものとして許されないものではないとした上で,平成27年改正法は,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区を合区するという手法を導入して,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成25年選挙当時まで数十年間にわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったものであり,また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得る旨を定め,更なる較差の是正を指向するものと評価することができるとして,平成28年選挙当時,平成27年改正後の本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨の判断を示した。

参議院改革協議会では,専門委員会から前記コの報告書の提出を受けた後,平成30年6月から選挙制度改革に関する協議が行われ,自由民主党から,選挙区選出議員の定数を2人増加して148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加し8人として,平成27年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差を2.99倍とするとともに,比例代表選出議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙においては,候補者に順位を付する拘束式名簿に一定の特定枠を設けることができる制度を導入することなどを内容とする案(以下自民党案という。)が提示されて,自民党案についての各会派による検討と協議が行われ,参議院議長にその議論の状況が報告された。その後も,各会派代表者懇談会における協議及び参議院議長による各会派からの個別の意見聴取などが行われたが,各会派の意見に隔たりがあったことから,参議院議長は,
同年7月4日,具体案のある会派がそれぞれ法律案を提出し,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において議論を進めることを要請した。
これを受け,自民党案と同内容の法律案(以下本件法案という。)や,全国を11の区域に分けて大選挙区制を採用する法律案,議員1人当たりの人口が最も少ない福井県とその隣県のうち最も人口の少ない石川県を合区して定数を2減し,これを埼玉県選挙区に配分する法律案などの5つの公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出され,質疑及び討論が行われた結果,同年7月18日,このうち本件法案を内容とする平成30年改正法が成立し,同年10月25日に施行された。
(乙13,14,16)

平成30年改正法は,選挙区選出議員の定数を2人増加し148人とした上で,埼玉県選挙区の定数を2人増加し8人とするとともに,比例代表選出議員の定数を4人増加し100人とし,比例代表選出議員の選挙において,政党その他の政治団体が,候補者とする者のうちの一部の者について,優先的に当選人となるべき候補者として,その氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位をその他の候補者とする者の氏名と区分して名簿に記載することができるという特定枠の制度を導入するものであった。平成30年改正法については,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことが附帯決議(以下本件特別委員会附帯決議という。)された。
平成30年改正の結果,平成27年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.99倍となった。
(乙14~17)

2原告らの主張
(1)

憲法は,主権者である国民が正当に選挙された国会議員を通じて多数決で両議院の議事を決する旨を定めているから(憲法56条2項,1条,前文第1文),憲法が人口比例選挙を要求することは明らかである。

(2)

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,いずれも参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いと判示している上,昭和22年から平成17年までの間における国会での審議では,少なくとも15個の法律案を巡って衆議院の多数意見と参議院の多数意見が対立したことがあるところ,これらは必ず参議院の多数意見のとおり,修正した法律案が成立し又は法律案が廃案となっており,参議院は,衆議院と同様に民意を国政に反映しているから,参議院議員選挙における投票価値の平等の要請が,衆議院議員選挙のそれに劣後してはならないことが憲法上の要請であるといえる。本件選挙における選挙区間の最大較差は,少なくとも平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙に係る小選挙区選出議員の選挙における選挙区間の最大較差である1.98倍に劣後するから,そのことだけでも本件定数配分規定が投票価値の平等を要請する憲法に違反する状態であったことの主張立証は必要十分である。
平成29年大法廷判決は,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえ,二院制に係る憲法上の趣旨との調和の下に実現されるべきであるとしたが,これが参議院議員の選挙であること自体を理由に投票価値の平等の要請が衆議院議員選挙のそれより後退してよいとの趣旨であるとすると,理由の付記されていない判例変更として効力が否定されるべきである。

(3)

投票価値の較差の問題について,最高裁判所大法廷判決は,これまで,①定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が
生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否か,という判断枠組みを前提として審査を行ってきたが,平成29年大法廷判決は,上記②の段階で審査すべき較差の要因や将来の法改正に向けての国会の姿勢等の要素を上記①の段階で先取りして考慮し,本件旧定数配分規定が違憲状態に至っていないとの結論を導いており,上記判断枠組みの変更は,理由の付記されていない判例変更として効力が否定されるべきである。
(4)

平成27年改正法附則7条は,本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直
しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得ると定めたところ,これは,投票価値の較差の原因となっていた都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を改め,選挙制度の仕組みを見直すことを意味するものである。
それにもかかわらず,平成30年改正法は,平成27年改正法による4県2合区をそのまま維持し,埼玉県選挙区の定数を2増したにすぎないものであり,本件定数配分規定の下での選挙区間の最大較差も2.98倍と微細な変化にとどまり,選挙区割りの抜本的な見直しが行われたものではないから,極めて不十分なものである。平成30年改正法には,上記平成27年改正法附則7条に相当する附則はなく,本件特別委員会附帯決議も同旨の文言を欠くものであるから,更なる較差是正の方向性と立法府の決意が欠如したものである。
したがって,平成29年大法廷判決の判旨に従ったとしても,本件選挙における選挙区間の最大較差は違憲状態というべきである。そして,国会は,平成30年改正法の立法過程において,平成27年改正法附則7条を完全に無視し,抜本的な見直しを全く実行せずこれを怠ったことが明らかであるか
ら,違憲状態の是正に必要な合理的期間を徒過したかを改めて検討するまでもなく,直ちに本件選挙は違憲であると判断すべきである。
(5)

参議院の選挙区選出議員の選挙について違憲無効の判決が言い渡されても,
参議院は比例代表選出議員によって構成されており,3分の1の定足数が充たされるから,国会活動を有効に行い得る。また,選挙無効の判決が確定しても,当該選挙は将来に向かって形成的に無効となるから,過去に成立した法律が遡って無効となることはない。したがって,選挙無効の判決が言い渡されても,社会的混乱は生じないから,本件選挙の違憲無効の判決が直ちに言い渡されるべきである。
3被告らの主張
(1)

憲法は投票価値の平等を要求しているが,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。

(2)

国会は,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って,
一部の選挙区について合区を創設することなどを内容とする平成27年改正を行ったことにより,選挙区間の最大較差は2.97倍となり不平等状態は解消され,平成27年改正法による本件旧定数配分規定に基づいて施行された平成28年選挙に係る平成29年大法廷判決においても,最大較差が3.
08倍であった平成28年選挙当時,投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示された。平成30年改正は,選挙区選出議員の選挙に関し,平成27年改正による選挙区割りを維持しつつ,埼玉県選挙区の定数を2増するものであり,その結果,平成28年選挙時の最大較差である3.08倍から,平成27年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく最大較差が2.99倍にまで縮小した。平成30年改正法においても,選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持したことは,両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするものであるから,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものといえる。
また,人口の多い都市部に居住する多数者のみならず,山間部などのいわゆる過疎地域を含む地域に住む少数者の意見も十分に国政に届くような定数配分規定を定めることもまた,国会において正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となるものというべきである。平成29年大法廷判決においても,選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することについては,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的な裁量を超えるとは解されない旨判示された。
さらに,本件特別委員会附帯決議として,平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続していく決意を表明しており,このことは,再び過去にあったような大きな較差を生じさせないという配慮がされているものとして評価すべきである。
以上のほか,参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を改
選するものとされ,定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
(3)

仮に当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲
の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている場合でも,当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かは,単に期間の長短のみならず,裁判所において当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとの判断が示されるなど,国会が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを認識し得た時期を基準として,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである。
本件選挙は,平成29年大法廷判決において,本件旧定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨判断が示された後,最大較差の更なる縮小を目指した平成30年改正による定数配分規定に基づく初めての通常選挙であり,本件選挙当時における最大較差は3.00倍であり,平成28年選挙当時の最大較差3.08倍から更に縮小したことなどを踏まえると,国会において,本件選挙までの間に前記著しい不平等状態に至っていたことを認識し得たとはいえないから,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められず,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超える
ものとはいえない。
第3当裁判所の判断
1(1)憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関となるようにするところにあると解される。前記参議院議員の選挙制度の仕組み(前記第2の1(2))は,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(昭和57年改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかし,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会
の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
(2)

憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,
参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(憲法46条等)。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。
(3)

前記(1)のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,
絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,前記(2)のとおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとはいえないと考えられる。
そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,
政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
(以上1を通じ,昭和58年大法廷判決,平成8年大法廷判決,平成24年大法廷判決,平成26年大法廷判決,平成29年大法廷判決等参照)2平成27年改正から平成30年改正までの参議院通常選挙及び公職選挙法の改正について,以下の事実が認められる。
(1)

証拠(乙1の2・3,5の4・5・9,18~28)によれば,平成27年改正による合区を行って初めて施行された平成28年選挙における投票率は,平成25年選挙と比較して,合区とされた4県のうち鳥取県で-2.60%,徳島県で-2.31%,高知県で-4.37%と,全国平均の+2.09%と比較して明らかな低下が見られ(島根県では+1.31%上昇した。),徳島県及び高知県では過去最低の投票率となり,平成28年選挙における無効投票率は,鳥取県で4.04%,高知県で6.14%と全国平均の2.65%を相当程度上回り(島根県では2.03%と全国平均を下回ったが,徳島県では2.96%であり全国平均を上回った。),高知県の無効投票率は全都道府県で最も高い割合となったこと,これらの投票率及び無効投票率については,合区とされた2県のうち一方の県を支持基盤とする候補者が立候補しなかったため,他方の県では選挙への関心が高まらず,他県を支持基盤とする候補者への投票の判断が難しいなどの要因によるものであった可能性が指摘されていること,この傾向は,本件選挙においても継続し,平成28年選挙と比較すると,本件選挙における投票率は,全国平均が-5.90%の低下であったのに対し,合区とされた島根県で-8.16%,徳島県で-8.39%,鳥取県で-6.30%と,全国平均以上に低下したほか
(高知県では+0.82%上昇した。),本件選挙における無効投票率は,全国平均が2.53%であったのに対し,徳島県で6.04%,鳥取県で3.49%,島根県で3.75%,高知県で3.30%と,各県とも全国平均を上回り,徳島県は全都道府県で最も高い割合となったこと,平成27年改正法が導入した合区の手法については,全国知事会,全国都道府県議会議長会,全国市長会,全国町村会,全国町村議会議長会,地方自治確立対策協議会(地方六団体)や,多数の地方自治体議会等が,都道府県が政治的単位として機能してきたことを踏まえて早期に合区を解消するよう求める旨の決議や要望,意見等を繰り返し採決したこと,他方,平成28年選挙の施行前における合区に関する全国世論調査では,合区での較差是正を進める意見が19.8%,都道府県単位で代表を選ぶことを優先する意見が36.5%であったが,平成30年12月に実施された全国世論調査では,合区を増やす意見が33.5%,都道府県単位の選挙区とし合区を解消する意見が31.9%であったことが認められ,平成28年選挙の実施前に比べて合区を肯定的に受け止める意見が増加したことが認められる。
(2)

そのような状況の中で,前記第2の1(1)コ,シのとおり,各会派から選挙制度改革に関する多様な意見が示されて議論が収束せず,結果として5つの公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出され,それぞれが審議されることになり,平成30年改正法は,合区の手法が平成25年選挙までの大きな較差を相当程度解消する効果があることを肯定的に評価し,平成27年改正法による2つの合区を解消せず,選挙区選出議員の定数を2増やし,比例代表選出議員の定数を4増やすとともに,比例代表選出議員の選挙において特定枠の制度を導入し,その結果,本件選挙における選挙区間の最大較差は3.00倍と,平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差であった3.08倍から更に縮小した。なお,平成28年選挙当日及び本件選挙当日における福井県選挙区を1とした場合の選挙区間における較差は,いずれの選挙
においても,2倍未満となったのは23選挙区,2倍以上2.5倍未満となったのは10選挙区,2.5倍以上3倍未満となったのは10選挙区,3倍以上となったのは1選挙区であった(乙1の1,5の3)。
(3)

また,平成28年5月に成立した衆議院議員選挙の選挙区割の改定に関する衆議院議員選挙区画定審議会設置法等の改正法(平成28年法律第49号)の附則5条には,衆参両院の選挙制度の在り方について,民意の集約と反映を基本としその間の適正なバランスに配慮しつつ,公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう,不断に見直しを行う旨の条項が定められたほか(乙31の3~7),平成30年改正法については,本件特別委員会附帯決議として,今後の参議院議員選挙制度改革につき,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及びあり方を踏まえ引き続き検討を行う旨が示された(前記第2の1(2)ス)。

3以上を前提に,本件選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っているかについて検討する。
(1)

本件選挙は,平成28年選挙の施行後に成立した平成30年改正法による本件定数配分規定の下で行われたものであり,本件選挙当日の選挙区間の最大較差は3.00倍であった(前記第2の1(1)ウ)。なお,平成30年改正法は,平成27年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差を2.99倍としたものである(前記第2の1(2)ス)。この平成30年改正法による本件定数配分規定は,前記第2の1(1)ク及びシのとおり,選挙区選出議員の選挙については,平成27年改正法による本件旧定数配分規定の選挙区割りを変更することなく,そのうち埼玉県選挙区の定数を2増したものであって,平成27年改正法による本件旧定数配分規定の選挙区の見直しを行ったものではない。しかし,多様な民意を国政に反映するため,全国的な支持基盤を有するとはいえないが国政上有意といい
得る人材等が当選しやすくなることを目的として,比例代表選出議員に関する選挙制度である非拘束名簿について,拘束式の特定枠を設けることができる制度を新たに導入したものであって,特定枠については,人口的に少数派ともいうべき条件不利地域の声を国政に届けるような活用を想定したものであると説明されたものである。
(2)ア

前記第3の1のとおり,憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち投票価値の平等を要求するとともに,選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではない。投票価値の平等は,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が定めた選挙制度によって生じた投票価値の不均衡が,国会の裁量権の行使として合理性を有するものである限り,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているということはできない。


この点について,原告らは,憲法56条2項,1条,前文第1文は,人口比例選挙を要求していると主張する。これは,投票価値の絶対的な平等を要求する趣旨であるとも解することができる。
しかし,投票価値は選挙の仕組みと密接に関連し,その仕組みがどのようなものかによって,結果的に投票価値に一定の不均衡が生ずることは免れないのであり,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が絶対的に又は数値として同一であることまでを要求するものと解することはできない(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照。同判決は,衆議院議員選挙に関するものであるが,投票価値の平等に係る判断は衆参両議院の議員
の選挙についてのものであると解される。)。
したがって,原告らの主張が上記の趣旨のものであるとすれば,これを採用することはできない。

このように,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであって,絶対的に又は数値として同一であることまでを要求するものではないと解される上,憲法が,二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けて,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関となるようにする趣旨であると解されることからすると,事柄の性質上,当該選挙当時における選挙区間の投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたかを判断する基準を一定の数値として示すことはできないというべきである。
もっとも,公職選挙法及び政治資金規正法の改正や政党助成法の制定にみられるとおり,議会制民主政治における政党の機能を重視した法律が整備される中で,前記第2の1(2)のとおり,衆議院議員及び参議院議員の選挙制度は,いずれも政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われたものといえる上,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙とより広い地域を選挙の単位とする比例代表選挙とを組み合わせるという類似した選出方法が採られており,同質的な選挙制度となってきているとみることができる。そして,衆議院については,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。加えて,社会的,経済的情勢が急速に変化する状況の中で,国政の運営における参議院の役割は一層大きなものとなってきているということができる(参議院の多数意見と衆議院の多数意見とが異なった15の法律案について,参議院の多数
意見のとおり,修正した法律案が成立し又は法律案が廃案となったとの原告らの指摘する事実は,上記のような参議院の役割の大きさを示すものであるということもできる。この点は,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決も,参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきていると指摘していた点において,既に実質的に考慮されていたということもできる。)。これらのことを踏まえれば,参議院についても,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差を2倍未満に近づける方向での選挙制度の仕組みの見直しが不断に行われることが期待されているということができる。ただし,参議院について,議員の任期を6年とし,3年ごとに議員の半数を改選し,解散されないとする旨の憲法の規定からは,憲法が,国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能を参議院に持たせようとしていると解するのが相当であり,したがって,参議院についての投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮は,必ずしも衆議院と同一のものである必要はなく,これをどのようなものとするかも,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるという選挙制度の目的に照らして合理的なものである限りにおいて,国会の裁量に委ねられていると解される。
なお,上記のような参議院の役割の大きさを根拠として,参議院議員の選挙における投票価値の平等の要請が衆議院議員の選挙のそれに劣後してはならないとする原告らの主張は,投票価値の平等が選挙制度の仕組みを決定する唯一の基準であるとする見解であるというほかはなく,採用することができない。

以上を前提に平成30年改正についてみると,前記第2の1(1)ク及びシのとおり,本件定数配分規定は,選挙区選出議員の選挙については,平成27年改正法による本件旧定数配分規定の選挙区割りを変更することなく,そのうち埼玉県選挙区の定数を2増したものであって,平成27年改
正法による本件旧定数配分規定の選挙区の見直しを行ったものではないが,比例代表選出議員の選挙については,その選挙制度である非拘束名簿について,拘束式の特定枠を設けることができる制度を新たに導入したものである。
平成27年改正法は,人口の少ない4県を隣接する2県ずつ合区して定数2人の選挙区とするほか,他の選挙区の定数を増減したものであって,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって,平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍)にまで縮小するに至ったのである。すなわち,平成27年改正法は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態を解消するとともに,更なる較差の是正を指向するものであったと評価することができるものである(平成29年大法廷判決参照)。平成28年選挙では平成27年改正により合区された選挙区において投票率の低下や無効票の増加という選挙制度の基盤を揺るがしかねない現象が生じた上,平成27年改正法については,様々な意見や評価があり,かつ,その内容が変化しつつあることがうかがわれ(前記2認定),各会派から選挙制度改革に関する多様な意見が示されて議論が収束せず,結果として5つの公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出され,それぞれが審議されることになった(前記第2の1(1)コ,シ)。そのような状況の中で,平成30年改正法は,合区の手法が平成25年選挙までの大きな較差を相当程度解消する効果があることを肯定的に評価し,平成27年改正法による2つの合区を解消せず,参議院議員の定数を増やし,比例代表選出議員の選挙においては,非拘束名簿に一定の特定枠を設ける方法を
採用したものであり,本件選挙における選挙区間の最大較差は3.00倍と,平成28年選挙における選挙区間の最大較差であった3.08倍から更に縮小したというのである(平成28年選挙当日及び本件選挙当日における福井県選挙区を1とした場合の選挙区間における較差は,いずれも,較差が2倍未満となったのは23選挙区,2倍以上2.5倍未満となったのは10選挙区,2.5倍以上3倍未満となったのは10選挙区,3倍以上となったのは1選挙区であった。[乙1の1,5の3])。

これに加えて,平成28年5月に成立した衆議院議員選挙の選挙区割の改定に関する衆議院議員選挙区画定審議会設置法等の改正法(平成28年法律第49号)の附則5条には,衆参両院の選挙制度の在り方について,民意の集約と反映を基本とし,その間の適正なバランスに配慮しつつ,公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう,不断に見直しを行う旨の条項が定められたほか,前記第2の1(2)スのとおり,平成30年改正法については,本件特別委員会附帯決議として,今後の参議院議員選挙制度改革につき,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及びあり方を踏まえ引き続き検討を行う旨が示された。
上記附則5条及び本件特別委員会附帯決議は,平成27年改正法附則7条が定めるような選挙制度の抜本的な見直しについて必ず結論を得るとの立法府の強い決意を示す表現や形式は用いられていないものの,国会は,平成29年大法廷判決が平成28年選挙当時の投票価値の不均衡につき違憲の問題を生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない旨判示したことにかかわらず,今後も参議院議員の選挙制度の見直しを怠ることなく,投票価値の較差の更なる是正に向けての不断の努力を行うことが示されているものということができる。
この点について,原告らは,更なる較差是正の方向性と国会の決意が欠如しているとし,本件定数配分規定による本件選挙における投票価値の不
均衡は違憲状態であるとも主張する(原告らは,投票価値の較差の要因や将来の法改正に向けた国会の姿勢等の要素は,投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否かの判断要素として考慮すべきものではないとも主張するので,その主張が排斥された場合の予備的主張であると解される。)。しかし,上記エの較差の実情並びに上記附則5条及び本件特別委員会附帯決議の内容に鑑みれば,平成30年改正において較差是正の方向性と国会の決意が欠如していると認めるには足りず,理由がない。仮に平成30年改正が平成27年改正法附則7条の趣旨に反するものであるとしても,そのことが直ちに投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であるとの結論を導くものではないから,失当である。
(3)

以上のとおり,国会は,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りに
おいて選挙制度を構築することについての裁量を有するものであり,その裁量権の行使は複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するところ,平成28年選挙では平成27年改正法により合区された選挙区において投票率の低下や無効票の増加という選挙制度の基盤を揺るがしかねない現象が生じ,平成27年改正法による選挙制度の改正自体についての評価が分かれ,しかも,その評価の内容が流動的な状況となっている中においては,本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討して結論を得るものとするとの平成27年改正法附則7条の規定ぶりが一切の例外を認めないものではなく,また,比例代表選出議員の選挙について,従来の非拘束名簿に拘束式の特定枠を設けることができる制度を新たに導入したことにより,上記附則にある抜本的な見直しに当たるとの評価も成り立たないわけではなく,しかも,平成28年選挙における選挙区間の最大較差を更に縮小することとなる平成30年改正法を成立させることは,国会の裁量権の行使として合理性に欠けるものであったと評価することはできないというべきであるから,本
件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。なお,原告らは,投票価値の較差の要因や将来の法改正に向けた国会の姿勢等の要素は,投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否かの判断要素として考慮すべきものではないとも主張する。しかし,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであると解する以上,採用することができない。
4したがって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4結論
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所宮崎支部

裁判長裁判官
髙橋文淸小崎賢司小川
裁判官

裁判官

(当事者の表示は省略)


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