判例検索β > 令和1年(行ケ)第4号
選挙無効請求事件
事件番号令和1(行ケ)4
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和元年10月29日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-10-29
情報公開日2019-11-13 14:00:09
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令和元年10月29日判決言渡し
令和元年(行ケ)第4号

同日原本交付

裁判所書記官

選挙無効請求事件

口頭弁論終結日令和元年9月19日
判決
(当事者の表示部分は省略)

主文12
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1請求の趣旨
令和元年7月21日に施行された参議院(選挙区選出)議員選挙の滋賀県選挙区,京都府選挙区,大阪府選挙区,兵庫県選挙区,奈良県選挙区及び和歌山県選挙区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1
本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員選挙(以下本件選挙
という。について,

滋賀県選挙区,
京都府選挙区,
大阪府選挙区,
兵庫県選挙区,
奈良県選挙区及び和歌山県選挙区の各選挙人である原告らが,参議院選挙区選出議員の選挙(以下選挙区選挙という。
)の選挙区割りに関する公職選挙法等の
規定は憲法に違反し無効であるから,これらの規定に基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙が無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2前提事実



本件選挙の施行(争いがない。

令和元年7月21日,本件選挙が施行された。


当事者(争いがない。

アイ
原告Bは,本件選挙における京都府選挙区の選挙人である。


原告Cは,本件選挙における大阪府選挙区の選挙人である。


原告Dは,本件選挙における兵庫県選挙区の選挙人である。


原告Eは,本件選挙における奈良県選挙区の選挙人である。


原告Fは,本件選挙における和歌山県選挙区の選挙人である。

原告Aは,本件選挙における滋賀県選挙区の選挙人である。



本件選挙における投票価値の不均衡

平成30年9月登録日現在の選挙区間における議員1人当たりの登録有権者数の最大較差は,別表1のとおり,最少の福井県選挙区(議員1人当た
りの有権者数は32万5644人)
を1とした場合,
最多の宮城県選挙区
(議
員1人当たりの有権者数は97万1873人)では2.984であり,原告らが選挙人となっている選挙区(以下本件各選挙区という。
)の議員1人
当たりの登録有権者数の較差は,最少の福井県選挙区を1とした場合,別表2のとおりとなる(争いがない。。



他方,
本件選挙時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の選挙区間の最大較差というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)は,最少の福井県選挙区を1とした場合,最多の宮城県選挙区では3.
002
(以下,
概数で
3.00
と表記する。であり,

福井県選挙区と本件各選挙区との較差は,
別表3のとおりとなる
(乙1の1)




出訴期間内の提訴
原告らは,令和元年7月22日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著)。

3法令の定め等

公職選挙法の定め

選挙の単位
参議院(選挙区選出)議員は,各選挙区において,選挙する(12条1項)

参議院(比例代表選出)議員は,全都道府県の区域を通じて,選挙する(12条2項)


参議院(選挙区選出)議員の選挙区及び選挙すべき議員の数
参議院(選挙区選出)議員の選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員
の数は,公職選挙法14条1項に基づき,同法別表第3で定めるものとされているところ,
公職選挙法の一部を改正する法律
(平成27年法律第60号。
以下
平成27年改正法
という。は,
)上記別表第3を,
鳥取県及び島根県,
徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員するなどの
内容に改めた(以下,同法による改正後,公職選挙法の一部を改正する法律〔平成30年法律第75号。以下平成30年改正法という。
〕による改正
前の定数配分規定を本件旧定数配分規定という。)。
また,平成30年改正法は,上記別表第3中埼玉県6人を埼玉県8人に改めた(以下,同法による改正後の定数配分規定を本件定数配分規定という。)。

参議院議員の定数
本件選挙施行日当時,平成30年改正法により,参議院議員の定数は248人とされ,そのうち,148人が選挙区選出議員,100人が比例代表選出議員とされていた(4条2項)




近時の最高裁判所の判断の概要(公知の事実)

最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁
(以下
平成24年大法廷判決
という。は,
)選挙区間の最大較差が5.
00倍の状況において施行された参議院議員通常選挙(以下,単に通常選挙といい,この通常選挙を平成22年選挙という。)につき,結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえて次のとおり判示し,
都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を
しかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨指摘した。

参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。

都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,
都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しなが
ら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,
もはや著
しく困難な状況に至っている。
平成18年に行われた法改正後,投票価値の大きな不平等がある状態の
解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた。

最高裁判所平成26年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下平成26年大法廷判決という。
)は,選挙区選出議員について4
選挙区で定数を4増4減し,その附則に,平成28年に施行される通常選挙(以下平成28年選挙という。
)に向けて,選挙制度の抜本的な見直しに
ついて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれた公職
選挙法の一部を改正する法律(平成24年法律第94号。以下平成24年改正法という。)による改正後,平成27年改正法による改正前の定数配分規定(以下本件旧々定数配分規定という。)の下での初めての通常選挙(同選挙時の選挙区間の最大較差は4.77倍。以下平成25年選挙という。)につき,要旨次のとおり判示した。
参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について,最高裁判所大法廷は,これまで,①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至ってい
るか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組み
を前提として審査を行ってきた。
上記

①において,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っ

ている旨の司法の判断がされれば,
国会はこれを受けて是正を行う責務を
負うものであるところ,上記

②において,当該選挙までの期間内にその

是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解され
る。
平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,
現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じて
なお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡につい
て違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであった。したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,
都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方
式をしかるべき形で改めるなどの現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある。
参議院議員の選挙における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っており,その解消のために選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるとする最高裁判所大法廷の判断が示されたのは,
平成24年大法廷判決の言渡しがされた平成24年10月17
日であり,
国会において上記の状態に至っていると認識し得たのはこの時

点からであった。
平成24年大法廷判決の言渡しによって選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていることを国会が認識し得た平成24年10月17日の時点から平成25年選挙が施行された平成25年7月21日までの期間は約9か月にとどまると
ころ,
上記期間内に高度に政治的な判断や多くの課題の検討を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し,具体的な改正案の立案を経て法改正の手続と作業を了することは,実現の困難な事柄であった。
他方で,国会においては,上記期間内に,前記4増4減の措置に加え,附則において平成28年選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについ
て引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を併せて定めた平成24年改正法が成立するとともに,参議院の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において,平成24年大法廷判決を受けて選挙制度の改革に関する検討が行われ,上記附則の定めに従い,平成28年選挙までに選挙制度の仕組みの見直しを内容とする公職選挙法改正を目指すなどの
検討の方針や工程が示され,平成25年選挙後も,これらの参議院の検討機関において,上記附則の定めに従い,平成24年大法廷判決の趣旨に沿った法改正の具体的な方法等の検討が行われてきていることをも考慮に入れると,
平成25年選挙前の国会における是正の実現に向けた上記の取
組は,具体的な改正案の策定にまでは至らなかったものの,同判決の趣旨に沿った方向で進められていたものということができる。
以上に鑑みると,平成25年選挙は,前記4増4減の措置後も,平成2
2年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものではあるが,平成24年大法廷判決の言渡しから平成25年選挙までの約9か月の間の国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず,平成25年選
挙までの間に法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。

最高裁判所平成29年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下平成29年大法廷判決という。
)は,従前の改正のように単に一部

の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とし,これによって平成22年10月実施の国勢調査の結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,立法当時の選挙区間の最大較差とい
うときは,この人口の最大較差をいい,
最大較差(人口)と表現すること
がある。が2.

97倍にまで縮小した本件旧定数配分規定
(平成27年改正
法による改正後,平成30年改正法による改正前の定数配分規定)の下で施行された平成28年選挙につき,要旨次の

とおり判示した上で,

平成27年改正法による改正(以下平成27年改正という。)が,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県単位の選挙制度の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるほか,附則において,
次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き
続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,
再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮
されているものということができるとして,
本件旧定数配分規定の下での選

挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできないと判示した。
投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,
国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ない

し理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,
それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及
び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るもの
と考えられる。そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,
政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県
の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,
このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会
の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,上記のような選挙制度の構築についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,長年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,その変化として,
参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなっ

てきており,
国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに
加え,
衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げて,これらの事情の下では,最高裁判所昭和58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁
(以下昭和58年大法廷判決という。)が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,都道府県を各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むし
ろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,上記のように長期にわたり大きな較差が継続していた状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっていたとした。しかし,この判断は,都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大きな不平等状態を長期にわたって継
続させてきた要因であるとみたことによるものにほかならず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。
4争点
本件の争点は,

本件選挙時において本件定数配分規定が憲法に違反するか

(①本件定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要請に反する状態
〔違憲状態〕
に至っているか,
②上記の状態に至っている場合には,
憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとして本件定数配分規定が憲法の規定に違反するに至っているか)


本件定数配分規定が憲法に違反す

る場合には,選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか,である。
5原告らの主張


選挙区選挙における投票価値の較差に係る判断枠組みについて

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が判示するとおり,参議院議員の選挙であることから直ちに投票価値の平等の要求が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。これに対し,平成29年大法廷判決は,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲
法上3年ごとに議員の半数を改選することとされているなど,議員定数の配分に当たって考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制を採用している憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきであると判示し,参議院議員の選挙であることから投票価値の平等の要求が後退してよいと解する余地があるかのような判示をして
いる。しかしながら,憲法は,人口比例選挙を要求しているものであり,参議院議員の選挙であることをもって投票価値の平等の要求が後退してよいと解することはできないから,投票価値の不均衡が2倍を超えている本件選挙について,違憲状態にないと解することはできない。

平成26年大法廷判決は,参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について,それまでの最高裁判所大法廷判決が,①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か,②上記の状態に至っている場合に,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきた旨判示し,①の審査に当た
っては,客観的に,投票日を基準として,当該選挙における投票価値の較差(最大)
が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態であるか否かについて判断し,投票価値の較差是正のための立法措置に関する事項は,①の判断の考慮要素とはせず,②の判断の考慮要素として扱った。これに対し,平成29年大法廷判決は,①の審査に当たり,投票価値の較差是正のための立法措
置に関する事項を先取りして考慮しているが,
投票価値の較差の問題を検討
するに当たっては,上記の平成26年大法廷判決の判断枠組みによるべきである。

憲法上,判例変更をする場合には,判決の中で判例変更した旨の文言を記載するほか,判例変更の理由を明らかにすることが必須である。ところ
が,平成29年大法廷判決においては,上記イの平成26年大法廷判決の判断枠組みを変更した旨の文言が記載されておらず,判例変更の理由も明らかにされていない。したがって,平成29年大法廷判決により平成26年大法廷判決が判例変更されたとは認められず,憲法適合性を審査するに当たって平成29年大法廷判決の判断枠組みによるべきではない。


なお,
平成29年10月22日に施行された衆議院議員選挙に係る最高裁判所平成30年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁は,上記選挙の投票日を基準として,当該選挙における投票価値の較差が客観的に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態であるか否かを判断するに当た
り,
衆議院議員選挙について将来アダムズ方式が実施されることを考慮に入れて憲法の投票価値の平等の要求に反する状態には至っていないと判断しているものと解釈される。しかし,上記判断に当たり,将来実施される予定の事項を先取りして考慮することは許されない。


本件定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っていることについて


昭和22年から平成17年までの間に限って国会における各法律の成立,不成立の歴史をみると,衆議院議員の多数の意見と参議院議員の多数の意見が異なったことが少なくとも15件あったが,それらのケースでは,全ての場合において,
参議院議員の多数の意見が衆議院議員の多数の意見に優越し
ており,参議院における多数意見に従って法律の成否が決せられている。このことからしても,憲法上,参議院議員の選挙における投票価値の平等の要
求が衆議院議員の選挙におけるそれに劣後してはならないことは明らかである。ところが,平成30年9月登録日現在の選挙区間における議員1人当たりの登録有権者数の最大較差は2.
984倍
(前記前提事実⑶ア)本件選

挙時の選挙区間の最大較差は3.00倍(同イ)であって,平成29年に施行された衆議院議員(小選挙区)選挙の小選挙区間の最大較差である1.9
79倍と比べても後退しており,憲法の要求に反することが明らかである。イ
平成29年大法廷判決は,平成27年改正法附則7条が平成31年の参議院議員選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得ると定めていることを考慮して,本件旧定数配分規定
の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていないとした。ところが,平成30年改正法による改正(以下平成30年改正という。
)は,平成27年改正法における鳥
取県と島根県,
徳島県と高知県の合計2個の合区をそのまま維持するにとど
まり,選挙区割りの抜本的な見直しをしていない。したがって,本件定数配
分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている。


憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとして本件定数配分規定が憲法の規定に違反するに至っていることについて
平成30年改正は,
平成27年改正法における2個の合区をそのまま維持す
るにとどまり,平成27年改正法附則7条に反して選挙区割りの抜本的な見直しをしていないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正せず,
選挙区割りの抜本的な見直しをしなかったことが国会の裁量権の限界を超えていることは明らかである。


本件定数配分規定が憲法に違反する場合には,選挙を無効とすべきことについて
仮に参議院議員の選挙区選挙について選挙無効判決がされたとしても,参議
院比例代表選出議員の選挙が無効になるわけではないから,憲法56条1項所定の定足数(3分の1)は満たされ,国会の機能・活動に支障はない。また,選挙無効判決の効力は,将来に向かって形成的に生ずるにすぎない(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁)そうすると,。
事情
判決の法理を適用しなくても社会的混乱が生ずることはないし,憲法の所期し
ない結果が生ずることもない。
したがって,本件定数配分規定が違憲の状態にあり,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超える以上は,憲法98条1項の明文の規範に従って,選挙無効判決をすべきである。6被告らの主張


選挙区選挙における投票価値の較差に係る判断枠組みについて

憲法は,投票価値の平等を要求する一方,選挙制度の仕組みの決定につき国会の広範な裁量を認めているから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実
現されるべきである。したがって,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られ,
国会が定めた具体的な選挙制度がその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定限度で譲歩を求
められることとなっても憲法に違反するものではない。そして,憲法が二院制を採用し,
予算の議決など一定の事項について衆議院の優越を認める反面,
参議院については,議員の任期をより長い6年とし,解散制度もなく,3年ごとに半数を改選する旨を定めている趣旨は,
立法を始めとする多くの事項
について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院には多角的
かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡ないし補完を図り,
国政の運営の安定性及び継続性を確保しようとしたものと解
される。このように,憲法は,衆議院が,国民の多数意思に基づいて国政の在り方を決定する機能を有するのに対し,参議院については,衆議院の行き過ぎ等を抑制ないし補完する良識の府再考の府として,衆議院と異,

なる独自の機能を発揮することを予定しており,参議院の選挙制度について,人口比例を重視する衆議院とは異なる観点から,多角的な民意を反映するために必要とされる人口比例以外の政策的目的ないし理由についても十分に考慮することを求めている。こうしたことに,参議院については,3年ごとに半数を改選することとの関係で定数の偶数配分が求められ,少ない定数の
範囲で投票価値の不均衡に対する配慮を迫られることなど,
衆議院議員の選
挙制度には存在しない憲法上の技術的制約があることなどを踏まえると,憲法上,参議院議員の選挙制度においては,投票価値の平等の要請が衆議院と対比して一定程度後退することが予定されていることが明らかである。イ
衆議院議員の選挙制度において一人別枠方式が廃止されるなど人口比例選挙を徹底する改正がされた後において,参議院議員の選挙制度で人口比例選挙を徹底するような政策を採用すると,衆議院と参議院が同質化し,憲法が二院制を採用した趣旨が没却される。

平成29年大法廷判決が,
参議院議員の選挙であることから直ちに投票価
値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いとした上で,投票価値の平等につき,
憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る…憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであると判示しているのは,参議院議員の選挙における投票価値の平等については衆議院議員の選挙とは異なる評価をすべき要素が残
されていることを示唆している。

都道府県が歴史的,政治的,社会的な意義と実体を有し,国民が各都道府県に対して一定の帰属意識を持っているのが通常であることなどを踏まえると,都道府県という行政単位は,選挙制度の決定に当たって国会が考慮することができる基本的な要素といえるものである。
平成29年大法廷判決も,

選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することについては,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,直ちに国会の合理的裁量を超えるとは解されないとしている。


本件定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要請に反する状態(違憲状態)に至っていないことについて

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿い,一部の選挙区について2つの県を併せた選挙区(合区)を創設することなどを内容とする平成27年改正の結果,最大較差(人口)は2.97倍(平成22年国
勢調査日本国民人口に基づく。
)となったものであり,従前の不平等状態は
解消された。そして,平成29年大法廷判決は,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨の附則の定めのある平成27年改正法による改正後の本件旧定数配分規定に基づいて施行され,選挙時の選挙区間の最大較差が3.08倍であった平成28年選挙に係る投票価値の不均衡につき,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえないとしているところ,平成30年改正は,
立法時において,最大較差(人口)を本件旧定数配分規定より縮小し,2.985倍(平成27年国勢調査日本国民人口に基づく。
)と3を割り込む数
値にまで縮小させ,更なる是正を図ったものであるから,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとはいえない。


立法府においては,平成28年5月に成立した衆議院議員の定数削減と衆議院議員選挙に係る一票の較差是正を図るための衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第49号)附則5条において,
この法律の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方については,民意の集約と反映を基本としその間の適正なバランスに配慮しつつ,公正かつ効果的な代表という目的が実現されるよう,不断の見直しが行われるものとする。と規定されたほか,参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会の附帯決議として,
平成30年改正後も参議院選挙制度改革に向けた検討を継続し
ていく決意を表明しており,
過去にあったような大きな較差を再び生じさせ

ることがないよう配慮しているものと評価すべきである。

本件定数配分規定以上に合区を増加させることは,次の理由により困難である。
本件旧定数配分規定及び本件定数配分規定において合区の対象とされ
たのは,隣県同士で人口差が多くない(徳島県と高知県との有権者数の差は2万3204人であり,鳥取県と島根県との有権者数の差は10万2267人である。
)ことから,有権者数の少ない県を代表する議員が参議院
議員として選出される可能性を残しているが,他の人口が比較的少ない県と隣接県との有権者数の差はこれよりも多く,合区を増やすと人口が多い県を代表する候補者ばかりが参議院議員として選出されるおそれがある。合区の対象とされる両県は,明治4年の廃藩置県後,長年にわたり一つ
の行政単位として歴史的,政治的,経済的,社会的及び文化的に一体感が醸成されてきた都道府県とは異なり,その課題や利害が一致しているとは限らず,また,その県民性が親和的であるとも限らないため,利害が対立することも十分に考えられ,このように利害が対立する2つの県の意見を集約して国政に届けることは困難であるし,仮に人口の多い県の意見に沿
って意見が集約された場合には,人口の少ない県の意見が国政に届けられないこととなる。このような事態は,憲法が二院制を採用して参議院に多角的な視点からの民意を反映させようとした趣旨に沿わない。
本件選挙において,投票率は全国的に低下したところ,特に合区対象県では,徳島県で全国最低の38.59パーセントを記録したほか,鳥取県
及び島根県でもそれぞれの過去最低の投票率を記録した。また,徳島県においては,
合区反対等と記載された票を含む無効票の割合も全国平均
を大きく上回る約6パーセントに達した。各種報道や全国知事会等は,こうしたことも合区の弊害として指摘している。
合区の対象を拡大すると,
対象県の人口差が多くなることにより

拡大し,民主政治の深刻な機能不全をもたらしかねない。


合理的期間内に是正がされなかったとはいえないことについて

当該選挙までの期間内に是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるかどうかを判断するに当たっては,期間の長短のみならず,
是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の努力に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるかどうかという観点から評価すべきである。イ
これを本件についてみると,平成29年大法廷判決において,都道府県単位の選挙区を一部改めて合区を創設した平成27年改正後の本件旧定数配分規定に基づき施行された平成28年選挙当時,選挙区間における投票価値
の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に当たらない旨の判断が示されたところ,平成30年改正後の本件定数配分規定は,更に最大較差を縮小したものであることを踏まえれば,国会が平成30年改正後の本件定数配分規定を更に改正しなければならない状態に至っていたことを認識することができたとはいえない。



本件定数配分規定が憲法に違反する場合には選挙を無効とすべきであるとの原告らの主張について
原告らの主張は争う。

第3当裁判所の判断
1選挙制度の改正経過(証拠〔以下に個別に掲げるほか,甲5,7,9〕及び弁論の全趣旨による認定事実)
及び投票価値の不均衡についての最高裁判所の判断
の概要(公知の事実)


参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,
参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに
区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,
都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし
た。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選
出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,
上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正
(以下
平成6年改正
という。まで,

上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公
職選挙法の改正により,
参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出
される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下平成12年改正
という。)により,参議院議員の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。


参議院議員選挙法制定当時,最大較差(人口)は2.62倍(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であったが,人口変動により次第に拡大を
続け,
平成4年に施行された通常選挙(以下
平成4年選挙という。)当時,
選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,選挙区間の最大較差(人口)は4.81倍(平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく。)に縮小した。その後,平成12年改正における3選挙区の
定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下平成18年改正という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,
平成7年から同19年までに施行された各通常選挙当時の選
挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。
しかるところ,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,昭和5
8年大法廷判決において,①憲法は,14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として,成年者による普通選挙を保障するとともに,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものとしており
(15条3項,
44条)この選挙権

の平等の原則は,選挙権の内容の平等,すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である,②憲法
は,国会の両議院の議員の選挙について,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし
(43条,
47条)どのよ

うな選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねている,
③投票価値の平等は,
選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正
当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解すべきである,④国会は,正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をも斟酌して,
その裁量により衆議院議員及
び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができ,国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認し得
るものである限り,
それによって投票価値の平等が損なわれることとなっても,
やむを得ない,
⑤公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて衆議院議員の選挙とは異なる定めをした趣旨,目的は,憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し,
各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けてい
るところから,参議院議員については,衆議院議員とはその選出方法を異なら
せることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に,全国選出議員と地方選出議員とに分け,そのうち地方選出議員については,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,
これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機
能を加味しようとしたものであると解することができ,上記のような選挙制度の仕組みは,国民各自,各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず,
国会の有する前記のような
裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできないと判示した後,平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁),平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,
最高裁平成12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。
その後,
平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及
び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成18年10月4日大法廷
判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも,上掲最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,
投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等
の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点
からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるよ
うになっていた。
⑶ア

平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(平成22年選挙)につき,平成24年大法廷判決は,結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとま
りを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくこ
とはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,
同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不
均衡は,
違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示すると
ともに,
都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,
できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状
態を解消する必要がある旨を指摘した。

もっとも,平成24年大法廷判決は,上記アの判示と併せて,投票価値の平等は,
選挙制度の仕組みを決定する唯一,
絶対の基準となるものではなく,
国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであって,それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それ
によって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても憲法に違反するとはいえない旨,昭和58年大法廷判決と同旨の判示もしている。


平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に平成24年改正法が成立し,同月26日に施行された。平成24年改正法の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,平成28年選挙に
向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
平成25年7月21日,平成24年改正法(本件旧々定数配分規定)の下での初めての通常選挙が施行された(平成25年選挙)。平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。



平成25年9月,
参議院において平成28年選挙に向けた参議院選挙制度改
革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の
見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の
案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。そして,同協議会において,
更に同年11月以降,
意見集約に向けて協議が行われたが,
各会派の意見が一致しなかったことから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。

⑹ア

このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったと
いわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,
選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕
組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。

もっとも,平成26年大法廷判決は,上記アの判示と併せて,前記⑶イのとおりの平成24年大法廷判決の判旨と同様の判示もしている。



選挙制度の改革に関する検討会は,前記⑸の報告書の提出を受けて協議を行ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする①4県2合区を含む10増10減の改正案と
②20県10合区による12増12減の改正案とに概ね集約され,同年7月23日,
上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記①の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区(宮城県,新潟県及び長野県)
の定数を2人ずつ減員し,5選挙区(東京都,北海道,愛知県,兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,
選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。
平成27年7月28日,上記①の改正案に係る平成27年改正法が成立し,
同年11月5日に施行された。
平成27年改正の結果,
選挙区間の最大較差
(人
口)
は2.
97倍
(平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく。

となった。


平成28年7月10日,平成27年改正後の本件旧定数配分規定の下での初めての通常選挙(平成28年選挙)が施行された。平成28年選挙当時の選挙
区間の最大較差は3.08倍であった。


平成29年2月,
参議院の組織及び運営に関する諸問題を調査検討するため,
各会派代表による参議院改革協議会が設置され,同年4月には,同協議会の下に,各会派代表による選挙制度に関する専門委員会
(以下専門委員会という。
)が設置された(乙6~10,11の1・2,乙16)

専門委員会では,
同年5月から平成30年4月にかけて17回にわたり協議
が行われ,7名の参考人聴取,論点整理(

選挙区選挙及び比例代表選出選挙

の二本立てとする場合と二本立てにはしない場合とに分けた選挙制度の在り方の整理,二本立てとする場合,選挙区選挙につき,①全ての都道府県から少なくとも1名の議員が選出される都道府県選挙区とする考え方〔奇数配当を可能とする方法も含む。,②一部合区を含む都道府県選挙区とする考え方,③〕
ブロック選挙区とする考え方〔ブロック選挙区の範囲につき,衆議院比例代表と同じ11ブロックとするのか,異なるブロックも考え得るのかについての論点も含む。の整理,二本立てにしない場合,

ブロック選挙区における投票方

法を大選挙区制〔個人名投票〕と非拘束名簿式比例代表制のいずれにするかの整理)及び意見交換がされた上,同年5月7日,参議院選挙改革に関する具体的な方向性についての各会派の意見を併記する形で参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書が参議院改革協議会に提出された
(乙8,
10,
11の1・2,乙16)

参議院改革協議会においては,上記報告書の報告を受けた後,自由民主党から,参議院(選挙区選出)議員の定数を2人増加して148人とした上で,2
人を埼玉県に配分して選挙区間の最大較差(人口)を2.985倍とするとともに,参議院(比例代表選出)議員の定数を4人増加して100人とし,比例代表選挙において,
名簿に予め順位を付する拘束式の特定枠を設けることがで
きる制度を導入することなどを内容とする提案(以下自民党案という。)が
され,同年6月8日,自民党案につき,これに対する各会派からの意見や批判
を含め,現段階での協議の状況を参議院議長に報告することが了承された(乙16)その後,

各会派代表者懇談会における協議等がされたが,
各会派の意見
に隔たりがあり,同年7月4日の各会派代表者懇談会において,議長から,具体案のある会派は法律案を提出し,委員会において議論を進めることを要請する旨の発言があったところ
(乙16)自民党案と同内容の自由民主党・こころ


及び無所属クラブによる法律案(以下自民・無ク案という。,全国を11)
の区域に分けて大選挙区制を採用する公明党案や日本維新の会案,石川県・福井県を合区とすることなどを内容とする立憲民主党及び希望の党案などの5法律案が7会派から発議され,いずれも参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会に付託され,同月6日以降,質疑が行われた(乙13の1~
3,乙16)


同月11日,上記特別委員会で,自民・無ク案が多数をもって可決すべきものと決定されるとともに,
その際,
自由民主党及び公明党から,
今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことについてその実現に努めること等を内容とする附帯決議案が提出され,
同決議案も多数をもって可決された上
(乙13の3,
乙14~16)
,参議院本会議で自民・無ク案が可決された(乙13の4,乙1
6)

その後,自民・無ク案は,同月13日,衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会に付託されて質疑が行われ,同月17日,採決の結果,多数をもって可決すべきものと決定された後,同月18日,衆議院本会議
における討議を経て,多数をもって可決され,平成30年改正法(平成30年法律第75号)が成立した(乙13の5~7,乙14,16)

平成30年改正の結果,平成28年選挙当時の選挙区間の最大較差が3.08倍であったものが,2.985倍(平成27年実施の国勢調査の結果による人口に基づく。
)に縮小した(乙14,17)


2
参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題についての判断枠組みにつ
いて


前記第2の3⑵ウ,第3の1⑶,⑹で説示したとおり,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,選挙区間の最大較差が5倍前後で推移する状
態が継続する中で,
その大きな要因が従前からの都道府県を単位とする選挙区
割りをそのまま踏襲してきたことにあることを前提に,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情をもって5倍前後に及ぶ投票価値の著しい不均衡を正当化する理由とすることができるかどうかが問われた事案において,その点に関する判断を示したものである。これに対
し,平成29年大法廷判決は,参議院の創設以来初めての合区を行い,これによって最大較差(人口)が3倍未満に縮小した本件旧定数配分規定について,合区の対象とならなかった都道府県も含め,
なお都道府県を単位とする選挙区
割りを維持することが許容されるべきか否かが問われた事案であり,平成24
年大法廷判決及び平成26年大法廷判決とは,判断の前提となる事情及び判断
を求められた内容が異なるものと認められる。また,前記第2の3⑵ウ,第3の1⑵,⑶,⑹で説示したとおり,平成29年大法廷判決は,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決と同様に,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,
国会が具体的に定めた選挙制度の仕組みがその裁量権の行使
として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の
限度で譲歩を求められることになっても憲法に違反するとはいえない旨の昭和58年大法廷判決の判示を踏襲しており,投票価値の平等と憲法(43条2項,47条)が国会に選挙制度の仕組みを決定する裁量を与えたこととの関係について,
それまでの大法廷判決と同一の基本的な考え方に立脚していることが明らかである。そして,本件選挙に関しては,本件旧定数配分規定と同様の
合区を維持したままの本件定数配分規定の憲法適合性についての判断が求められていることからすると,
本件では平成29年大法廷判決の判示を踏まえた
検討・判断をするのが相当というべきである。

上記の点に関し,
原告らは,
憲法は人口比例選挙を要求しているのであって,
平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決も判示するとおり,参議院議員の選挙であることから直ちに投票価値の平等の要求が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いのに,平成29年大法廷判決は参議院議員の選挙であることから投票価値の平等の要求が後退してよいと解する余地があるかのような判示をしているとして,平成29年大法廷判決が示した判断枠組みによる
ことはできない旨主張する。
しかしながら,前記⑴で説示したとおり,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決も,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具
体的に定めた選挙制度の仕組みがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,
それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められる
ことになっても憲法に違反するとはいえない旨の昭和58年大法廷判決の判示を踏襲している点において,平成29年大法廷判決と変わるところはない。また,上記のような基本的立場に立つ以上,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が,
国会の裁量において参議院議員の選挙につき衆議院議員の
選挙とは異なる選挙制度の仕組みを設けることや,その結果として,両者の間
で投票価値の平等が譲歩を求められる程度が異なり得ることを容認しない趣旨の判断をしたものと解することはできない。
原告らの上記主張は,採用することができない。

原告らは,平成29年大法廷判決は,争点になっている定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか否かの判断をするに当たり,平成27年改正法附則7条に言及した上で,
投票価値の較差是正のための将来の立法措置に関する事項をも先取りして考慮した判断をしているが,そのような判断手法は従来の判例にも反しており,
平成29年大法廷判決が示した判断枠組みによることはできない旨主張
する。
しかしながら,前記⑴,⑵で説示したとおり,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるから,争点となっている定数配分規定がどのような経緯の
下に成立し,どのような性格を有する規定であるのかを踏まえた上で,それが違憲状態にあるか否かを判断する必要があることは明らかである。そして,平成29年大法廷判決は,
本件旧定数配分規定を含む平成27年改正法が平成2
4年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って投票価値の較差の是正を図ったものであり,これによって選挙区間の最大較差が縮小するととも
に,
今後における更なる較差是正と較差を再び大きく拡大させないことへの配慮もされていると評価した上で,そのような経緯と性格を有する本件旧定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要請に反する状態(違憲状態)
に至っているとはいえないことを明らかにしたものと解すること
ができる。
原告らの上記主張は,採用することができない。
3
本件定数配分規定が投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要請に
反する状態(違憲状態)に至っているかについて
前記2で説示したとおり,本件定数配分規定の憲法適合性については,平成29年大法廷判決の判示を踏まえた検討・判断をするのが相当である。そこで,
以下,平成29年大法廷判決の示した判断枠組みに沿って判断する。⑵

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,憲法
上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされており(43条2項,47条),国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定については,国会に広範な裁量が認められている。そうすると,国会が具体的に定めた選挙制度の内容がその裁量権の行使として合理性を有するものであ
る限り,
それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
また,
憲法が二院制の下で,
一定の事項について衆議院の優越を認める反面,
参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定め(46条等),衆議院議員の任期等と異なる規定
を設けている趣旨は,
それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによ
って,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関にしていくことや,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとすることにあるものと解されるところ,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。そして,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議
員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものであり,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味
する観点から,
政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や
実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。

平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が,都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっている旨判示したのは,参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,
国政の運営における参議院の役割が増大してきていること
に加え,
衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として
選挙区間の最大較差(人口)が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなど,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえると,
数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化するだけの十分な理由があるとはいえない状況になっている旨を指摘するとともに,
上記のように長期にわたり大きな較差が継続してきた主たる要因が都道府県を各選挙区の単位として固定することにあるとみたことによるものであって,最大較差(人口)が概ね3倍以下に縮小された場合において,なお,各
選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではないと解するのが相当である。⑶

以上の解釈を前提に,まず,本件旧定数配分規定に基づいて施行された平成28年選挙についてみてみると,平成28年選挙は,平成26年大法廷判決の
言渡し後に成立した平成27年改正法による改正後の本件旧定数配分規定の下で施行されたものであるところ,同法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成2
5年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差(人口)は2.97倍(平成28年選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至った。この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた上記の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによっ
て選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる。また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,
これによって,
今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と
立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができる。そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,
更なる較差の是正を指向するものと評価することがで
きる。合区が一部にとどまり,多くの選挙区はなお都道府県を単位としたまま
残されているとしても,そのことは上記の判断を左右するものではない。(以上につき,平成29年大法廷判決同旨)


次に,本件定数配分規定に基づいて実施された本件選挙について検討する。平成30年改正法における本件定数配分規定は,平成27年改正における合
区を踏襲した上で,参議院(選挙区選出)議員の定数を2人増加し,これを埼玉県選挙区に割り振ることによって選挙区間の最大較差(人口)をより縮小したものである。また,国会においては,平成30年改正に至るまでに,参議院改革協議会等における協議・検討,その後の法律案の提出及びその審議の過程で,本件旧定数配分規定と同様の合区を維持しようとする立場だけでなく,
様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされ,大選挙区制(選挙区をブロック選挙区とする考え方)を採用する案を含む複数の法律案も提出・審議されたものであり,
本件旧定数配分規定と同様の合区を維持する考え方が先にあるといった形でおざなりの協議・検討がされたわけではないことが認められる。他方で,投票価値の較差の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由と
の調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを容易に見いだすことができるものと認めるべき事情や証拠はない。これらの諸事情,とりわけ,平成30年改正法における本件定数配分規定により,最大較差(人口)が,前記1⑽のとおり平成28年選挙当時の3.08倍から2.985倍(本件選挙時の最大較差は前記第2の2の前提事実⑶イの
とおり3.00倍)に縮小されたことからすると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
そして,
選挙区制を維持した上で,
多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを容易に見いだすことができるものと認めるべき事情や証拠がないことを踏まえると,合区が一部にとどまり,
多くの選挙区はなお都道府県を単位としたまま残され

ているとしても,
そのことが上記の判断を左右するものということはできない。


原告らは,
昭和22年から平成17年までの間に衆議院議員の多数意見と参
議院議員の多数意見が異なったことが少なくとも15件あったところ,それらの全ての場合に参議院議員の多数意見に従って法律の成否が決せられている
ことを指摘した上で,
参議院議員の選挙における投票価値の平等の要求が衆議
院議員の選挙におけるそれに劣後してはならないのに,本件定数配分規定による最大較差は平成29年に施行された衆議院議員(小選挙区)選挙の小選挙区間の最大較差である1.979倍より後退しており,憲法の要求に反する旨主張する。

しかしながら,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具体的に定めた選挙制度の仕組みがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,
それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められるこ

とになっても憲法に違反するとはいえないこと,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものであること,これらについては,昭和58年大法廷判決以降の参議院(地方
選出ないし選挙区選出)
議員選挙に関する累次の最高裁判所大法廷判決の趣旨
とするところであることは,前記第2の3⑵ウ,第3の2⑴,⑵で説示したとおりである。原告らの上記主張は,参議院が衆議院と同等の,あるいは場合によっては衆議院を上回る役割を果たしていることを指摘して,そうした役割に照らしても,
投票価値の平等につき参議院が衆議院に劣後することがあっては
ならない旨をいうものと解されるが,参議院が良識の府再考の府とし,
て衆議院と異なる独自の機能を発揮し得るかどうかが,選挙制度の仕組みを定
めるに当たって投票価値の平等を徹底するかどうかにかかっているということはできないし,参議院の役割の重要性から直ちに,選挙制度の仕組みを定めるに当たって投票価値の平等と他の政策的目的ないし理由との調和を考慮することが許されないと解することも相当でないというべきである。原告らの上記主張は,採用することができない。



原告らは,本件定数配分規定が,合区の対象について本件旧定数配分規定を踏襲したのみで,
平成27年改正法附則7条が定める選挙区割りの抜本的な見
直しをしたものではなく,本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨主張する。
この点については確かに,平成27年改正法附則7条に,平成31年に行われる通常選挙(本件選挙)に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていたことは,前記1⑺で認定したとおりであるところ,その後,本件
選挙の前に成立した平成30年改正法においては,参議院(選挙区選出)議員の定数を2人増加してこれを埼玉県に配分するなどの改正がされたにとどまっており(前記1⑼,⑽),およそ平成27年改正法附則7条にいう選挙制度の抜本的な見直しがされたとはいえない状況にあることが明らかである。しかしながら,他方で,既に認定・説示したとおり,平成30年改正法にお
ける本件定数配分規定は,平成27年改正における合区を踏襲しつつ,その上で上記の改正を行うことによって選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時から更に縮小したものであることに加え,国会においては,平成30年改正に至るまでに,
選挙制度の抜本的な見直しに向けて様々な立場に基づく幅の広い
意見交換がされてきたこと,平成30年改正法の成立に当たっては,今後の参議院選挙制度改革については,憲法の趣旨にのっとり,参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うことについてその実現に努めること等を内容とする附帯決議がされたことが認められ,また,投票価値の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由との調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを容易に見いだすことができるものと認めるべき事情や証拠はなく,平成27年改正法附則7条にいう選挙
制度の抜本的な見直しが実現されるまでには相応の年数を要することもやむを得ないと考えられることにも照らすと,平成27年改正法附則7条にいう選挙制度の抜本的な見直しがされていないからといって,直ちに平成30年改正法における本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。

原告らの上記主張は,採用することができない。
4以上の次第であるから,平成30年改正法における本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできない。
よって,
原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官


裁判官

和井久寛田明斉
裁判官

上田賀代
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