判例検索β > 平成28年(ワ)第889号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)889
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年10月3日
法廷名福岡地方裁判所
結果棄却
裁判日:西暦2019-10-03
情報公開日2019-11-06 16:00:12
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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,2297万2380円及びこれに対する平成28年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の設置する防衛大学校(以下防衛大という。
)に2学年時まで

在校し,その後,退校した原告が,防衛大を設置している被告に対し,在校中,防衛大の上級生や同級生ら8名
(以下
本件学生ら
という。から,

暴行,
強要,
いじめ等の11の行為を受けたこと(以下,これらの11の行為を併せて本件各行為という。その行為の内容については争いがある。)について,被告におい
て(防衛大の組織全体あるいは履行補助者である教官ら及び学生において),本

件各行為を予防し,
その再発を防止するなどの措置を講じることを内容とする安
全配慮義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったことから,精神的苦痛を受け,防衛大からの退校を余儀なくされたと主張して,安全配慮義務違反による債務不履行に基づき,
慰謝料及び防衛大の退校による逸失利益等2297万23
80円並びにこれに対する履行の請求を受けた日(訴状送達の日)の翌日である
平成28年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1前提事実
(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)


当事者等

原告
原告は,平成25年4月1日,防衛大に入校したが,平成26年8月31日から防衛大を休学し,平成27年3月21日,防衛大学校長に対し,退校願を提出したところ,同月30日付けで退校命令が発令された(甲A1,H11,12,13,乙チ80)

この間,原告は,防衛大の1学年であった平成25年4月1日から平成26年3月31日まで,第A大隊B中隊C小隊(以下,第A大隊B中隊のこと

AB中隊第A大隊B中隊C小隊のことを

ABC小隊
という。に,

同2学年であった平成26年4月1日から平成27年3月30日まで,第D大隊E中隊F小隊(以下,第D大隊E中隊のことをDE中隊
,第D大隊E
中隊F小隊のことをDEF小隊という。
)に所属していた(争いなし)


被告
被告は,防衛省設置法に基づき,幹部自衛官となるべき者の教育訓練をつかさどるなどの目的のため,防衛大を防衛省に設置している(争いなし)。


防衛大の指導教官
防衛大においては,学生を指導監督する者として指導教官が置かれており
(争いなし)
,本件において原告に関係した指導教官は,以下のとおりであ
る。
原告1学年時に関係した教官
a
G教官
G教官は,平成24年3月から平成26年3月まで,第A大隊B中隊H小隊(以下ABH小隊という。
)指導教官を務めていた者である

(弁論の全趣旨)

b
I教官
I教官は,平成25年3月から平成27年3月まで,ABC小隊指導教官を務めていた者である(弁論の全趣旨)


c
J教官
J教官は,平成24年8月から平成26年3月まで,AB中隊指導教官を務めていた者である(弁論の全趣旨)

d
K教官
K教官は,平成24年3月から平成26年3月まで,第A大隊L中隊M小隊指導教官を務め,平成25年6月14日,第A大隊の規律の維持等を任務とする当直勤務に当たった者である(当直勤務に当たったこと
は争いなし,その余は弁論の全趣旨)

原告2学年時に関係した教官
a
N教官
N教官は,平成25年8月から平成27年11月まで,DEF小隊指導教官を務めていた者である(弁論の全趣旨)


b
O教官
O教官は,平成25年3月から平成27年3月まで,DE中隊指導教官を務めていた者である(弁論の全趣旨)



原告をめぐる各学生隊及び学生舎の各室の構成員等の変遷については,別紙当事者等関係図のとおりである。



防衛大における学生間指導の在り方等

防衛大の設置目的,学生の身分等
防衛大は,
幹部自衛官となるべき者の教育訓練等をつかさどる機関であり,
原告及び本件学生らが在校時に属していた本科においては,幹部自衛官となるべき者の教育訓練が行われる(乙チ56,57,116)


防衛大の学生は,特別職の国家公務員であり,毎月,学生手当が支給されるほか,食事,被服等が貸与又は支給される(争いなし)


学生隊の編成
防衛大では,学生の融和団結等を図り,学生に部隊指揮等の基礎的能力を
修得させるために,学生自ら規律と服従を身につけ,リーダーシップ及びフォロアーシップを育成することを目的として,4個大隊の学生隊が編成される
(1個大隊は4個の中隊,
1個中隊は3個の小隊から構成される)
(乙チ5
5,65,116)

学生隊,各大隊,各中隊,各小隊にそれぞれ配置される学生隊学生長,大隊学生長,中隊学生長及び小隊学生長が,それぞれ,総括首席指導教官,首席指導教官(大隊指導教官)
,次席指導教官(中隊指導教官)及び指導教官

(小隊指導教官)
の指導監督の下に,
所属隊の指揮等の任務を行い,
同様に,
各大隊,各中隊,各小隊に配置される週番学生が,自習時間中に自習室の見回りをするなどの日課週課の遂行,学生隊の規律の維持等に当たる(乙チ60)


学生舎生活
学生は,敷地内にある学生舎内において,各学年が各数名ずつ,同一の自習室及び寝室で起居を共にし,各室の4学年が室長及び副室長を務めることとされている(甲A11,乙チ60,弁論の全趣旨)



学生間指導
防衛大においては,幹部自衛官としてのリーダーシップ及びフォロアーシップを涵養するため,主に中隊及び学生舎における室等を単位として,学生間で,規律を遵守させるように学生間指導が行われている(乙チ47添付資料2)

学生が行う作業指揮や規律の指導は,
将来自衛隊の幹部自衛官として必要な伸展性のある資質を育成することという防衛大の教育訓練の目的を達成するため,自主自律の精神の下,自己修練の一環として行うものであり,
法令に基づき一定の権限を行使する行為である自衛隊における指揮とは異なり,
強制を伴うものではなく,
強い遵法精神に則り,
法令,
規則,
確立した学生慣習に厳格に従うものであって,暴力的指導や下級生に対す
る不当な強制をもってする指導は厳に慎まなければならないとされている。学生間指導における各学年の役割について,4学年は,学生舎生活の最上級指導層であり,学年が一致して学生隊組織及び校友会活動を通じて積極的に下級生の指導を行わなければならず,その際は,各学年の特性に応じて二,三学年による間接指導を主用し,各学年の指導力向上に配慮するとともに,必要に応じ,直接指導を行うものとされている。3学年は,学生隊や各室の運営に関し,4学年の補佐を通じて次期最高学年として相
応しい拡張性のある指導力の習得に努めるものとされ,2学年は,1学年に対する直接的な指導を行う立場とされている。1学年は,最下級生として,大半の場合,指導を受ける立場となるが,単に受動的に強制されるのではなく,
進んで防衛大における規律や清掃等の作業の意味を理解するよ
う努めるべきであるとされている。
(乙チ47添付資料2・5から6頁,

付資料5・16頁,22頁)
防衛大内では,学生間指導の一環として,従前から,学生が何らかの規律に違反した場合等に,
上級生が当該学生に対し,
自身の問題点を整理し,
反省を深めさせることを目的として,反省文の提出を指示することが行われていた。また,中隊及び小隊の各学生長等の上級生が,同室の1学年に
対し,常日頃,部屋の整理整頓やベッドメイキングの方法等を指導する一方で,従前から,学生のベッド,ロッカー,机の上の物等の整理整頓ができていない場合には,あえて,これらを散らかして荒らす,「飛ばし」あるいは台風と呼ばれる行為(以下飛ばし行為という。
)が行われてい
た。
(防衛大内で反省文の提出指示及び飛ばし行為が行われていたことに
ついて争いなし,その余は甲A1,D1)


本件各行為等

原告1学年時
原告は,平成25年4月から同年8月24日まで,第a号学生舎b号室
(以下b号室という。
)で,副室長を務めるPほか1名の4学年,2名
の3学年及び5名の1学年と共に生活していたところ,
同室では,
Pから,
下級生に対し,
掃除ができていないなどの落ち度について
粗相ポイント
と称する点数を付け,一定程度点数が累積すると,当該下級生に対し,何らかの罰ゲームをするように指示するという粗相ポイント制が行われていた(甲A11,B2,3,5,C1)

a
原告は,粗相ポイント制の一環として,平成25年4月頃から同年6月頃までの間に,罰ゲームとして,カップ麺を硬いまま食べさせられたり,風俗店に行くことを指示されたりした(以下,これらの指示をP罰ゲーム指示行為という。(弁論の全趣旨))


b
原告は,平成25年6月14日,b号室の自習室において,Pから,粗相ポイントを解消する罰ゲームをすることを求められ,自らの陰毛に
消毒用アルコールを吹きかけられ,
ライターで火を点けられた
(以下
P陰毛着火行為という。(争いなし。ただし,その後,原告が,Pの指)
示により,陰毛を剃った行為〔以下剃毛行為という。
〕があったかに
ついては争いがある。。

原告は,平成25年9月17日,週番学生として見回りをしていたPか
ら,自習時間中に携帯電話を操作していたことを見とがめられ,反省文を作成するように指示されて,同年10月8日までの間,複数回のやり直しを含めて,反省文を提出させられた(以下P反省文提出指示行為という。(争いなし)


原告は,平成25年8月25日から同年12月27日まで,第a号学生
舎c号室(以下c号室という。
)で生活していたが,同室の3学年で
原告の所属するボクシング部の主将を務めていたQから
(甲A11,
C1,
4)

a
平成25年10月上旬頃,起床の際,原告がQら同室の上級生を起こさなかったことを理由として,左手拳で,右頬を一回殴られ(以下Q暴行行為という。(争いなし。ただし,これにより原告が傷害を負っ)
たかどうかについては争いがある。,

b
その頃,原告の陰部を掃除機で吸引される行為を複数回受けた(以下Q陰部吸引行為という。(争いなし。ただし,詳細な時期について)
は争いがある。。



原告2学年時
原告は,
平成26年四,
五月当時,
第d号学生舎e号室
(以下
e号室
という。
)で生活していたが,4学年でDE中隊の中隊学生長を務めてい
たRから(甲A11)

a
平成26年5月6日,
同日の着校時間の間際に外出先から防衛大内に

帰校したこと(なお,原告は,同日,特別外出の許可内容と異なり,福岡の実家に帰省したこと〔以下本件服務事故という。
〕から,同月2
3日,学生としての服務規律に違反したとして,大隊指導教官注意の処分を受けた)を契機として,DE中隊週番室において,顔面を右手の平で殴打され,その後,Rの自室である第d号学生舎f号室(以下f号室という。の自習室において,

腹部を右手拳で殴打され,
同月7日,
同室において,胸部を右手の平で押され,左足首を蹴られる暴行を受け(以下,これらの際の暴行をR暴行行為という。(争いなし。ただ)
し,上記記載以外の暴行の有無については争いがある。,

b
その頃,
飛ばし行為として,
原告の机を荒らす行為を複数回受けた
(以

下R飛ばし行為という。(争いなし。ただし,その程度,継続期間)
及び回数には争いがある。。

原告は,平成26年5月8日,DE中隊集会室及びf号室で,同中隊に所属する2学年であったSから胸部を手拳でたたかれ,
同じく同中隊に所
属する2学年であったTから胸倉をつかまれて壁に押し付けられる暴行
を受けた(以下,これらの際の暴行をSら暴行行為という。(争いな)
し。ただし,上記記載以外の暴行の有無については争いがある。。)
原告は,平成26年5月23日,DE中隊の原告とは別の小隊に所属していた3学年のUから,e号室の寝室に呼び出され,原告が,同月21日頃に,2学年のLINEグループに,大隊指導教官から注意処分を受けることを,
表彰を受けるという言葉で表現したメッセージ(以下本件メッセージという。を送信したことなどについて,注意された。その際,)

Uは,付近にあったロッカーを拳でガンガンたたいた(以下,原告を呼び出して注意した上記行為をU呼出し等行為という。。
)(争いなし)
原告は,平成26年5月13日頃より体調を崩し,発熱,下痢,胃痛等の症状が続き,同月27日には,防衛大を出て,同月30日,福岡の実家に帰省し治療を受けるなどしていたが
(原告が体調を崩したことにつき争

いなし,その余は甲H6,7,9)
,同年6月30日,DEF小隊に所属す
る2学年で原告と同室であったVから,
e号室の自習室のホワイトボード
に立てかけてある,原告の写真の枠を黒いビニールテープで囲んだもの(以下本件工作物という。
)に,Vが

夏期休暇へ移行。報告書今日中に出せじゃろ

との吹出しを付けて撮影した写真(以下本件写真とい
う。
)を,DE中隊の2学年全員がメンバーとなっているLINEグループ(以下本件グループという。
)に送信された(以下,吹出しを付けて
本件写真を送信した行為をV写真送信等行為という。(本件写真の送)
信につき争いなし,その余は弁論の全趣旨)

原告は,平成26年6月30日,V写真送信等行為がされ,本件グルー
プ内で本件写真を見ることができる状態となっているのを知った,DE中
隊に所属する2学年のWより,
本件グループから自主的に退会しない者を
強制的に退会させ,原告とWのみとなった状況で,本件グループに,短時間の内に,嘔吐,藁人形,怒り等の絵柄のスタンプを724個程度送信された(以下Wスタンプ送信行為という。(争いなし)





本件各行為等に関する被告の対応等

平成25年6月14日の対応(P陰毛着火行為に関するもの)
K教官は,平成25年6月14日,第A大隊の当直勤務に当たり,午後9時過ぎ頃,第a号学生舎の巡回を開始し,P陰毛着火行為後にb号室を見回った(争いなし)

その際,
K教官は,
学生らに対し,
騒がないように注意した
(争いなし)



平成25年10月8日頃の対応(P反省文提出指示行為に関するもの)平成25年10月8日頃,原告の母親より,I教官に対し,原告がPから反省文の提出を強要されている旨の情報提供がされた(争いなし)。
これを受けて,その頃,I教官及びG教官は,J教官の指示の下,それぞれ原告とPから,Pが原告に反省文を繰り返し書かせた事実を確認し,
G教官において,Pに対し,試験期間中に反省文を書かせることは不適切である旨指導して反省文の提出を中止させた
(乙チ134,
弁論の全趣旨)


平成25年10月14日の対応(Q暴行行為に関するもの)
平成25年10月14日,原告の母親より,I教官に対し,原告がQから殴られた旨の情報提供がされた(争いなし)


これを受けて,同日,I教官及びG教官は,原告,Q及び他の学生から事情聴取をした上,J教官も交えて,原告とQはじゃれあっていたものであり暴行事案ではないと判断し,Qに対し,手を出さないように指導し,暴行を中止させた(弁論の全趣旨。その際,G教官が,Qや他の学生に対し,
原告の母親から情報提供があったことを伝えたか否かについては争い
がある。。


平成26年5月9日頃の対応(R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為に関するもの)
平成26年5月9日,
原告より,
防衛大学生相談室
(以下
本件相談室

という。
)の相談員(以下本件相談員という。
)に対し,指導学生から
のペナルティーが厳しく,つらい旨の申告がされ(乙チ81)
,同日,原告
の母親より,O教官に対し,原告が上級生や同級生から暴行や飛ばし行為を受けている旨の情報提供がされた(争いなし)

a
同日,本件相談員は,原告に対し,話は聞いたものの格別の対応はしなかった(弁論の全趣旨)


b
同日,
原告の母親より情報提供を受けて,
O教官はR,
S及びTから,
N教官は原告から,それぞれ事情聴取を行い,O教官は,R,S及びTに対し,
原告への接触を一切禁止する旨指導した
(乙チ135,
136,
137,弁論の全趣旨)

平成26年5月中旬頃,O教官は,DE中隊に所属していた大隊学生長
から,
本件服務事故後の同中隊の悪い雰囲気を一掃するため走りたいとの
申し出を受け,これを許可し,同中隊の学生らと共に学生舎の周回走を2日間実施した(以下本件周回走という。(弁論の全趣旨)



平成26年6月30日の対応(U呼出し等行為に関するもの)
平成26年6月30日,原告の母親より,N教官に対し,原告がUから恫喝された旨の情報提供がされた(争いなし)


これを受けて,同日,N教官は,Uに対し,ロッカーをたたく行為は威圧的であり,相手が理解できるように丁寧に指導するようにと諭した(弁論の全趣旨)


平成26年7月1日の対応(V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為に関するもの)
平成26年7月1日,原告の母親より,N教官に対し,原告が同級生から嫌がらせを受けた旨の情報提供がされた(争いなし)

これを受けて,同日,N教官は,V及びWから事情聴取を行い,両名に対し,V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為は不適切であり,間違っている旨指導した(弁論の全趣旨)



平成26年11月以降の対応(P陰毛着火行為,Q陰部吸引行為等に関するもの)
防衛大は,
平成26年11月頃,原告が本件学生らを刑事告訴したとの報
道を受けて,それ以降,事情聴取等の調査を行い,P陰毛着火行為,Q陰部吸引行為のほか,同年4月中旬頃,中隊対抗のカッター競技会に向けたミーティングの際,Rが,DE中隊の他の4学年らと共に,原告を含む同中隊の
2学年全員に対し暴行等を行ったこと
(以下
カッター暴行事件
という。

を把握した(甲A1,H118,弁論の全趣旨)



平成26年8月のアンケートの実施等
防衛大は,平成26年8月,教育訓練及び学生舎生活を含む学校生活全般に
ついて,全大隊の学生1874名に対して,大隊及び学年ごとに聴き取り調査(以下本件アンケートという。
)を実施した。その結果は以下のとおりであ
る。
(甲H81,乙チ82,86)

防衛大に入校してから,
粗相ポイント制をやったと回答した学生

は,各大隊の約9%から29%,
やられたと回答した学生は,各大隊の約
29%から64%,
見た
と回答した学生は各大隊の約48%から74%,
聞いたと回答した学生は各大隊の約67%から87%であった。また,粗相ポイント制がどの程度の範囲で行われているかという質問に対して,部屋
と回答した学生は各大隊の約24%から46%,
学校全体
と回答
した学生は各大隊の約15%から44%であった。そして,
粗相ポイント制
がいつから行われていたものかという質問に対して,
伝統的なものである
と回答した学生は各大隊の約39%から52%であった。
さらに,
粗相ポイント制が完全に遊びと割り切れるか,一歩間違えば,あるいは受け取り方次第では,いじめと受け取られる可能性のあるものかという質問に対して,
遊びの一環である
と回答した学生は各大隊では約31%から47%,

1学年では27%,
2学年では54%,
指導の一環である
と回答した学生
は各大隊では約3%から13%,1学年では0.5%,2学年では6%,状況によると回答した学生は各大隊では約40%から43%,1学年では47%,2学年では27%,
許されないと回答した学生は各大隊では0.
2%から約1%,1学年及び2学年ではいずれも1%であった。
また,
粗相ポイント制は指導にどのような効果があったのかという質問に対して,
1学年では,
生活態度を改善できた
と回答した学生が29%,
わからない
と回答した学生が44%,
2学年では,
指導に関する効果はない
と回答した学生が32%,
3学年では,
1年の失敗を減らす抑止力
になっ
た旨回答した学生が91%,
コミュニケーションが促進した
と回答した学
生が84%,
指導ではなく効果がない
と回答した学生が5%,
4学年では,

同じミスをしないようになった
と回答した学生が66%,
コミュニケーションが促進したと回答した学生が37%,

わからない。効果がない


回答した学生が13%であった。そして,粗相ポイント制のような行為を上級生としてなぜ止められなかったかという,三,四学年を対象とした質問に対しては,
指導の一環であるため悪いという認識がない指標化するこ,とにより,被指導者に努力を促せるなどの回答がみられた。イ
ロッカー,机の引出し等の中の物を何度も飛ばす行為をやったと回答した学生は各大隊の約12%から20%,
やられたと回答した学生は約
26%から46%,体毛を燃やす行為についてやったと回答した学生は各大隊の約1%から2%,
やられたと回答した学生は各大隊の約4%か
ら9%,下級生のミスを点数にし,溜まったポイントにより罰ゲームをやら
せる行為について,
やった
と回答した学生は各大隊の約4%から11%,
やられたと回答した学生は各大隊の約18%から22%であった。ウ
学生間指導において殴るのを見たと回答した学生は各大隊の約28%から51%,
聞いた
と回答した学生は各大隊の約29%から48%,
学生

間指導において蹴るのを見たと回答した学生は各大隊の約25%から52%,
聞いたと回答した学生は各大隊の約22%から35%であった。


本件訴訟の経過等
原告は,平成28年3月18日,当裁判所に対し,本件学生らに対して,前記⑶の本件各行為により精神的苦痛を受けたとして,不法行為に基づき,慰謝料合計1400万円及びこれに対する各不法行為の日又はその後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴え(以
下本件学生ら損害賠償請求訴訟という。
)と併せて,本件訴訟を提起した。
当裁判所は,平成30年10月19日,本件学生ら損害賠償請求訴訟の弁論を本件訴訟の弁論から分離した上,平成31年2月5日,本件学生ら損害賠償請求訴訟について,Uを除く本件学生らの各行為が不法行為に当たると認定し,Uを除く本件学生らに対する請求をいずれも一部認容するとともに,Uの行為
は不法行為に当たらないとして,Uに対する請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した。
(当裁判所に顕著な事実)
2争点



被告の安全配慮義務違反と原告の防衛大退校との相当因果関係の有無


被告の安全配慮義務違反の有無

原告の損害額

3争点に関する当事者の主張


被告の安全配慮義務違反の有無
【原告の主張】


防衛大の組織上の安全配慮義務違反の有無
被告は,その設置する防衛大において,寮生活をする学生を24時間管理下に置いているから,教官や学生が行う指導と称する行為等により,学生の生命及び健康等が害されないように,教官や学生を監督し,学生を危険から保護するように配慮する義務を負う。
そして,
学生は,
教官と共に,

被告の安全配慮義務の履行補助者に当たり,被告が教官や学生に対する監督を怠った場合には,被告の安全配慮義務違反が認められる。
防衛大内では,平成25年及び平成26年当時,学生間指導の手段として,粗相ポイント制や飛ばし行為,殴る,蹴るなどの暴力行為,LINEを通じたいじめ行為等が蔓延していたのであるから,被告は,原告に対する本件各行為を早期に察知する体制を構築し,
いじめ被害を相談する学生
の心身をケアして改善策を立てる場所として本件相談室を整備し,個別の

いじめ事案が発生した場合,直ちに原告の心身の健康をケアし,事実関係を調査し,早期に本件学生らを処分するとともに,防衛大内におけるいじめの実態を調査し,原因を究明して,再発防止策を実施することなどを内容とする安全配慮義務を負っていたというべきである。

被告の本件各行為に関する安全配慮義務違反の有無
本件各行為は集団による一連のいじめ行為であるから,被告は,本件学生らが,原告に対して,暴行,強要等のいじめ行為としての本件各行為(①P罰ゲーム指示行為,②P陰毛着火行為,③P反省文提出指示行為,④Q暴行行為,
⑤Q陰部吸引行為,
⑥R暴行行為,
⑦R飛ばし行為,
⑧Sら暴行行為,
⑨U呼出し等行為,⑩V写真送信等行為及び⑪Wスタンプ送信行為)を起こ
すことを,当初の段階から予見することができたのである。仮に,当初の段階で予見ができなかったとしても,後記ウ,エのとおり,本件各行為が発生した各段階において,原告の生命,身体の健康への具体的危険が発生し,これを予見することが可能であり,また,本件各行為を把握した各段階において,その後の本件各行為の発生を予見することができたのであって,その都
度,調査や再発防止策を講じていれば,その後の本件各行為を未然に防止することができたのである。

原告1学年時における被告の安全配慮義務違反の有無
平成25年8月頃までの対応(P陰毛着火行為及びP罰ゲーム指示行為
に関するもの)
a
平成25年6月14日の対応(P陰毛着火行為に関するもの)
K教官は,P陰毛着火行為の二,三分後に,b号室を巡回し,原告が下半身を露出させて,痛みで転げ回り,その周囲に学生らが集まり,室内に陰毛の燃えた臭いが残っている状態を認識したのであるから,その原因を周囲の学生らから聴取し,原告の負傷の程度を確認した上で,他の教官に報告し,加害者であるPを処分するなどして,原告の心身に生
じた被害の回復を図らなければならなかった。
しかしながら,K教官は,事実確認を怠り,学生らに対し,騒がないように注意しただけで立ち去ったため,被告は,その直後に,原告がPの指示により陰毛を剃刀で剃る事態を防止することができず,その後に行われたP反省文提出指示行為も防止することができなかった。

b
平成25年8月頃までの対応(P罰ゲーム指示行為に関するもの)K教官は,前記巡回時に,P陰毛着火行為を把握し,さらに,b号室内のホワイトボードに記された1学年の氏名とその横に記された正の字(下級生の落ち度について点数〔粗相ポイント〕を数えるもの)の意
味を学生らに確認するなどしていれば,Pが粗相ポイント制を実施し,原告に対し,P罰ゲーム指示行為を行っていたことも把握することができたが,これを怠った。
平成25年10月7日の対応(P反省文提出指示行為に関するもの)被告は,平成25年10月7日,原告の母親の情報提供により,P反省
文提出指示行為を把握したのであるから,教官らにおいて,情報源を秘匿しつつ,原告やPから詳細に事情を聴取し,その報告を大隊指導教官等に行い,Pに対して相当な処分をして,原告の心身に生じた被害の回復を図らなければならなかった。
しかしながら,I教官及びG教官は,それぞれ原告とPから,反省文の
内容等を詳細に確認することを怠り,J教官は,中隊学生長等を通じてPに反省文の強要を中止させたことによって,学生らの間で,原告が教官にチクったという噂が拡散する事態を招いた上に,反省文の強要が違法な行為であると認識しながらも,意図的にPに対する懲戒処分の手続を執らなかった。
平成25年10月14日の対応(Q暴行行為及びQ陰部吸引行為に関するもの)

被告は,平成25年10月14日,原告の母親の情報提供により,Q暴行行為を把握したのであるから,教官らにおいて,情報源を秘匿しつつ,原告やQから詳細に事情を聴取し,原告の負傷状況を確認し,その報告を大隊指導教官等に行い,Qに対して相当な処分をして,原告の心身に生じた被害の回復を図らなければならなかった。

しかしながら,I教官及びG教官は,それぞれ原告とQから,暴行態様や負傷状況を詳細に確認することを怠り,原告の母親から,原告がQに殴られた旨の情報提供があったにもかかわらず,原告とQはじゃれあっていたものと判断し,その後,原告とQの部屋を替えるなどの措置も執らなかった。また,J教官は,I教官及びG教官に対し,更なる調査を指示する
こともなく,原告の負傷状況を自ら確認することもせず,大隊指導教官等にもQ暴行行為について報告しなかった。
さらに,G教官は,Qの事情聴取の過程で,原告の母親がQ暴行行為の情報源である旨伝えたため,その後,学生らの間で,原告が教官にチクったという噂が拡散する事態を招き,その結果,原告が,Qからチクリ
と呼ばれ,Q陰部吸引行為を受けることとなった。

原告2学年時における被告の安全配慮義務違反の有無
平成26年5月9日までの対応(R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為に関するもの)

a
被告は,本件相談室を,いじめ被害を相談する学生の心身をケアし,改善策を立てる場所として整備すべきであったが,
平成26年5月9日,
R暴行行為やR飛ばし行為について相談した原告に応対した本件相談員は,暴行等を我慢するように言うにとどまり,改善に向けて動くこともなかった。
b
N教官は,平成26年5月6日の本件服務事故により,上級生及び同級生による原告への指導が厳しくなることを想定していたのであるか
ら,
原告に対する学生間指導を行わせてはならなかったにもかかわらず,Rに対し,暴力的指導も含めて原告を指導するように指示し,同級生による指導も止めなかった。
c
N教官は,平成26年5月9日に,原告の母親からR暴行行為及びR
飛ばし行為について情報提供がされた後も,原告の服を脱がせて傷を確認せず,暴行の回数を確認することもなかった。また,O教官は,前記情報提供を受けて,直ちに原告に事実確認を行い,Rに対する懲戒処分手続を執らなければならなかったが,これを怠った。
d
O教官は,R飛ばし行為について,その現場である原告の寝室の様子
を確認することも怠り,結局,原告の被害を正確に把握しないままに,R,S及びTの懲戒処分の手続を執り,同人らが原告への行為について十分に反省していない状態で,原告に対する謝罪を行わせた。
e
O教官は,本件服務事故を起こした原告に対するR,S及びTの暴行等を把握した後である平成26年5月中旬頃,DE中隊の学生らに対し,
本件服務事故についての連帯責任を意識させるような本件周回走を許可してはならなかったにもかかわらず,これを許可した結果,他の学生らも原告に対して本件服務事故について非難する態度をとるようになり,防衛大内に原告の居場所がなくなる事態を招いた。
平成26年6月30日までの対応(U呼出し等行為に関するもの)
被告は,
平成26年6月30日,
原告の母親からU呼出し等行為につい
て情報提供がされるまで,Uによる恫喝の事実を察知せず,その後,原告が刑事告訴するまでUの処分を行わず,
原告に本件メッセージを送信する
よう唆した学生の処分も行わなかった。
平成26年7月1日までの対応(V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為に関するもの)
被告は,本件工作物が,e号室内に入れば誰でも発見できる位置に飾ら
れていたにもかかわらず,平成26年7月1日に原告の母親から情報提供がされるまで,V写真送信等行為及びそれに続くWスタンプ送信行為の発生を察知せず,V及びWの処分を行わなかった。
【被告の主張】

防衛大の組織上の安全配慮義務違反の有無
被告は,防衛大の学生に対し,教育的立場から,教育訓練及び学生舎生活を規律し,管理する権限に対応する範囲内で,学生の生命,身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う。もっとも,学生舎生活では,学生が自主自律の観点から,自ら秩序及び規律を保持することが
予定されており,
学生は物事の是非の判断について自制を十分に期待できる
年齢に達していることも踏まえれば,被告が学生舎生活において学生に対して負う安全配慮義務は,その生命,健康等を危険から保護するための安全管理体制及び指導監督教育体制を整えて,日々の教育の機会に,学生隊に対して,暴行等が許されない旨を指導,助言することや,具体的な暴行等が予測
可能であった場合に必要な指導等を行うことで足り,教官が学生を常時指導監督することまでは含まれない。なお,学生間指導を行う学生は,被告の安全配慮義務の履行補助者には当たらない上,防衛大は,学生長等の選任監督に当たり注意を尽くしてもいた。
被告は,防衛大において,安全管理体制及び学生に対する指導監督教育の
体制を整え,常日頃から学生に暴力,精神的圧迫,いじめ等は厳禁であるとの指導を行っていた。その上,被告は,粗相ポイント制等,本件アンケートの結果に表れたような実情を知らなかったから,本件各行為以前に,組織的に対策を講じることは安全配慮義務として求められていなかった。イ
被告の本件各行為に関する安全配慮義務違反の有無
予見可能な危険というためには,職場環境や公務内容,その職場における人的・物的構成等を総合して事故発生の客観的な予測性があったことを要す
るというべきであるところ,本件各行為は,それぞれ故意に,突発的かつ偶発的に行われたもので,相互に関連するものではないから,被告は,これらの発生する危険性を予見することはできなかった。
そして,
被告は,
後記ウ,
エのとおり,個別の本件各行為を認識した後,直ちに,加害学生に対する事実確認や必要な指導等を行い,再発防止に努めているのであるから,安全配
慮義務に違反したものではない。

原告1学年時における被告の安全配慮義務違反の有無
平成25年8月頃までの対応(P陰毛着火行為及びP罰ゲーム指示行為に関するもの)

a
平成25年6月14日の対応(P陰毛着火行為に関するもの)
教官らは,P陰毛着火行為を事前に予測することはできなかった上,K教官は,P陰毛着火行為の10分から15分後にb号室に入室し,学生らから,
原告が陰部をぶつけて痛がっているとの報告を受けたのみで
あり,P陰毛着火行為が行われたことを事後に把握することも困難であった。そして,K教官は,上記報告に対して,原告に,打った箇所を処
置するようにと適切な指示を出しており,相当な措置を執ったといえる。b
平成25年8月頃までの対応(P罰ゲーム指示行為に関するもの)教官らは,粗相ポイント制の存在を知らなかったから,P罰ゲーム指示行為についても予測不可能であった。

平成25年10月8日頃の対応(P反省文提出指示行為に関するもの)教官らは,原告がPから再三の注意を受けたにもかかわらず,自習時間中に携帯電話のゲームを繰り返すことは想定できず,事前に,反省文を強要されているとの原告の申出もなかった以上,P反省文提出指示行為を予測することはできなかった。
そして,教官らは,P反省文提出指示行為を把握した直後に,Pに対して,
試験期間中に反省文を書かせることは不適切である旨指導して反省文
の強要を中止させ,その旨を原告の指導記録簿に記録しており,相当な措置を執ったといえる。
平成25年10月14日頃の対応(Q暴行行為及びQ陰部吸引行為に関するもの)
a
教官らは,Qが,朝,上級生を起こさなかったという原告の行動を理由に,Q暴行行為に及ぶことを予測できなかった。
教官らは,Q暴行行為を把握した直後に,原告,Q及び他の学生の事情聴取をしたところ,原告が,大げさなことではないと述べ,原告の顔が腫れている様子でもなかったことから,暴行事案ではないと判断し,Qに対し,
手を出さないように指導し,
暴行を中止させたのであるから,

相当な措置を執ったといえる。
b
そして,教官らは,前記事情聴取の際に,Qや他の学生らに,原告の母親がQ暴行行為の情報源であるなどと話したことはなかったから,Q陰部吸引行為は教官らの対応を原因とするものではない上に,教官らは,Qが,
原告がおかわりを置いていなかったなどの幼稚な理由によりQ陰

部吸引行為に及ぶことは,予測できなかった。

原告2学年時における被告の安全配慮義務違反の有無
教官らは,
原告の1学年時のP反省文提出指示行為及びQ暴行行為を認
識したものの,これに適切に対処していたところ,これらは個別の偶発的
な事件であるから,これらの時点で,事故報告を行い,原告に対するいじめ行為の有無を調査し,再発防止策を執る義務は負っていなかった。平成26年5月9日までの対応(R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為に関するもの)
a
本件相談室の対応については争う。

b
教官らは,
そもそも原告が本件服務事故を起こしながら反省の態度を
示さないこと自体,
容易に想定できず,
原告の態度が原因で,
原告がR,

S及びTから暴行等を受けることは予測できなかった。N教官は,Rに対して,暴力を伴う指導をするように指示したことはなく,常日頃から暴力は厳禁である旨教育していたことから,Rが原告に対して暴行に及ぶことは想定できなかった。
そして,教官らは,R,S及びTによる暴行等を把握した後,教官ら
において,原告,R,S及びTから事情聴取を行い,原告の負傷状況も確認の上,事故報告を作成して大隊指導教官等に報告するとともに,警務隊に通報し,直ちに原告に対する暴行行為を中止させたところ,その後,原告が暴行等を受けることはなくなったのであるから,相当な措置を執ったといえる。

c
また,本件周回走については,O教官が,学生らからの自発的な申出を受けて許可したものであり,予め,学生らに対し,DE中隊の雰囲気を一掃することが目的であり,連帯罰ではない旨説明した上で実施したのであるから,被告の対応に問題はなかった。

平成26年6月30日までの対応(U呼出し等行為に関するもの)について
教官らは,
そもそも原告が本件服務事故を起こしながら本件メッセージ
を送信すること自体容易に想定できず,これを原因として,Uが,原告に対する指導の際に,感情的になって,突発的にU呼出し等行為を行うこと
は予測できなかった。
そして,教官らは,U呼出し等行為を把握した後,N教官において,Uに対し,相手が理解できるように丁寧に指導するように諭しており,相当な措置を執ったといえる。
平成26年7月1日までの対応(V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為に関するもの)
教官らは,防衛大の学生らに対し,ソーシャルメディアを利用して他人
を誹謗中傷することのないように注意喚起を行っており,V及びWが,完全な私的空間において原告に対してソーシャルメディアを利用して嫌がらせを行うことは予測できなかった。


被告の安全配慮義務違反と原告の防衛大退校との相当因果関係の有無【原告の主張】

原告は,1学年時の被告の安全配慮義務違反により,強い恐怖やストレスを感じており,平成26年6月に実家に帰療した直後にも,Q陰部吸引行為がフラッシュバックするなど,ストレス反応に苛まれるほどであった。そして,原告は,2学年時の被告の安全配慮義務違反により,R,S及びTの暴行等を受けて,自殺を企図するほどの精神的苦痛を感じ,カウンセラーに相談したが,
十分な対応を受けられずに絶望し,
さらに,
本件周回走をさせられるなどして,
孤立していき,発熱,胃痛等により休務し,希死念慮を発症するに至った。その後,
原告は,
防衛大を休学していた間にも,
被告の安全配慮義務違反により,
V写真送信等行為やWスタンプ送信行為を受けたことで,精神疾患は悪化していき,結局,防衛大の退校を余儀なくされたものである。

【被告の主張】
仮に被告に安全配慮義務違反があったとしても,原告は自らの意思で防衛大を退校したのであるから,被告の安全配慮義務違反と,原告が心身の健康を害し,防衛大を退校したこととの間に相当因果関係はない。


原告の損害額
【原告の主張】
原告は,被告の安全配慮義務違反により防衛大の退校を余儀なくされ,以下のとおり,合計2297万2380円の損害を被った。

医療関係費

7万2740円


原告が防衛大を退校したことに伴う費用
退校に伴う郵便料金等

36万6725円

2万5931円

原告の母親が原告の下に駆けつけるのに要した交通費等及び本件学生らに対する刑事告訴のために要した交通費等

原告が防衛大退校後に受験した大学入試の費用及びその後入学した大学
の卒業までに要する費用

34万0794円

休業損害

379万5400円

16万2538円

原告は,
平成26年8月31日から平成27年3月30日までの7か月間,休学を余儀なくされ,その間,月額5万1361円の給与及び12万2721円の期末手当の80%に相当する31万9710円しか支給を受けられなかったのであるから,休業損害は,16万2538円である。
〔計算式〕
(5万1361円×7か月+12万2721円)
-31万9710
円=16万2538円

逸失利益
原告が防衛大を退校せずに卒業していれば支給を受けられた学生手当等
172万3548円

原告は,防衛大を退校せずに卒業まで在籍していれば,平成27年4月から平成29年3月までの間,月額5万1361円の給与及び1回当たり12万2721円の期末手当(年2回)の合計172万3548円の支給を受けることができた。
〔計算式〕
(5万1361円×12か月+12万2721円×2回)
×2年

=172万3548円
原告が防衛大を卒業し,幹部自衛官に任官していれば得られた俸給等776万3031円
原告が防衛大を卒業する22歳から54歳まで幹部自衛官として勤務した場合に得られる平均年収と全国の平均年収との差額は,22歳から24歳までの3年間に各年63万円,25歳から29歳までの5年間に各年53万円,30歳から34歳までの5年間に各年93万円,35歳から3
9歳までの5年間に各年96万円,40歳から44歳までの5年間に各年118万円,45歳から49歳までの5年間に各年161万円,50歳から54歳までの5年間に各年218万円であるから,合計776万3031円となる。
〔計算式〕
(63万円×3+53万円×5+93万円×5+96万円×5

+118万円×5+161万円×5+218万円×5)÷5.
0032(33年分の中間利息控除)=776万3031円

慰謝料

700万円

原告は,被告の安全配慮義務違反により,希死念慮を発現し,重度ストレス障害と診断され,
その後2年間にわたり社会復帰をすることができなかっ

たばかりか,
本件訴訟における被告の姿勢等により精神的ストレスを被り続
けた結果,潰瘍性大腸炎を発症するに至り,幹部自衛官となる夢を無残にも断ち切られたのであるから,原告の被った精神的苦痛を慰謝するには慰謝料700万円が相当である。

弁護士費用

208万8398円

前記アからカまでの合計は2088万3982円であり,弁護士費用はその10%である208万8398円である。

アからキまでの合計

2297万2380円

【被告の主張】
仮に被告に安全配慮義務違反があったとしても,原告は,自らの意思で防衛大を休学し,その後,退校したのであるから,被告の対応と原告の退校との間に相当因果関係はなく,以下のとおり,原告の主張する損害は,いずれも被告の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害ではない。

医療関係費について,否認ないし争う。


原告が防衛大を退校したことに伴う費用について,否認ないし争う。原告は,自らの意思で刑事告訴を行ったのであり,被告の対応と刑事告訴との相
当因果関係も認められない。

原告が防衛大退校後の大学入試及び大学への入学から卒業までに要する
費用について,否認ないし争う。原告は,自らの意思で防衛大を退校後,大学に入学したのであり,上記費用と被告の対応との相当因果関係は認められない。


休業損害について,否認する。


逸失利益について,否認する。原告は自らの意思で防衛大を退校したのであるから,被告の対応と逸失利益との相当因果関係は認められない上,原告は自らの意思で自由に就労することも可能であるから,逸失利益としての損害は確定的に発生していない。


慰謝料について,
否認ないし争う。
原告は,
自らの意思で防衛大を退校し,
自衛官に任官しないことにしたのであり,退校により何ら精神的苦痛が生じる余地はない。


弁護士費用について,否認ないし争う。

第3争点に対する判断
1争点⑴(被告の安全配慮義務違反の有無)について⑴

被告の安全配慮義務について

前記前提事実⑴イ,⑵ア,ウによれば,被告は,幹部自衛官となるべき者の教育訓練を行うため,防衛省に防衛大を設置し,学生に対し,学生舎等の
施設を供与し,学生手当等を支給した上,教育訓練を実施するとともに,学生舎生活を営ませているのであるから,被告と防衛大の学生は,特別な社会的接触関係にあり,被告は,信義則上,防衛大の学生の教育訓練及び学生舎生活を管理するに当たって,学生の生命,身体及び健康に対する危険を具体的に予見し,その予見に基づいて危険の発生を未然に防止するため,学校の体制や組織を適切に整え,教育訓練及び学生舎生活を含む学校生活全般において生じる危険を防止する上で特に必要な注意をする義務を負う。

そして,防衛大においては,学生の指導のため,総括首席指導教官,首席指導教官(大隊指導教官)
,次席指導教官(中隊指導教官)及び指導教官(小
隊指導教官)が置かれ,これらの教官により,学生への指導監督がされていたほか,学生隊,各大隊,各中隊及び各小隊において所属隊の指揮等の任務を行う学生隊学生長,大隊学生長,中隊学生長及び小隊学生長に対しても指
導監督がされていた(前記前提事実⑵イ)から,これらの教官が被告の安全配慮義務の履行補助者として,個別の事態に対して,安全配慮義務を負っていたということになる。
これに対して,学生の間では,学生間指導として,学生隊学生長,大隊学生長,中隊学生長及び小隊学生長のほか,各大隊,各中隊,各小隊に配置さ
れる週番学生が,日課週課の遂行,学生隊の規律の維持等に当たるという体制を執っている(前記前提事実⑵イ)ものの,学生が行う作業指揮や規律の指導は,防衛大の教育訓練の目的を達成するため,自主自律の精神の下,自己修練の一環として行うものであり,法令に基づき一定の権限を行使する行為である自衛隊における指揮とは異なり,強制を伴うものではなく(前記前
提事実⑵イ,エ)
,飽くまで上記目的を達成するための実践ないし修養の場
というものにすぎないのであり,学生らは被告の業務を管理,支配する立場にもないから,これら学生をもって,被告の安全配慮義務の履行補助者ということはできない。

そうすると,安全配慮義務の違反は,学生の生命,身体及び健康に対する具体的な危険があることを前提として,
危険の発生について予見可能性があ
り,かつ,これを防止することができた(回避可能性があった)場合に認められることになるが,安全配慮義務の具体的内容は,債務者自身あるいは履行補助者において,
それが問題となる具体的状況等に応じて定まるべきもの

判決・民集29巻2号143頁参照)
,以下,防衛大の組織全体としての安

全配慮義務違反(組織上の安全配慮義務違反)の有無と,履行補助者である教官らにおける安全配慮義務違反の有無とについて,
それぞれ具体的状況等
を踏まえ検討することとする。

防衛大における組織上の安全配慮義務違反について

防衛大は,被告が,幹部自衛官となるべき者の教育訓練を行うために設置した機関であり,その施設において,学生に対し,教育訓練を実施するとともに,学生舎生活を営ませているのであるから,被告は,学内の安全管理体制や組織を適切に整え,教育訓練及び学生舎生活を含む学校生活全般において生じる危険を防止する上で特に必要な注意をする義務を負っている。

後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
学生間指導に関する補導
防衛大は,大隊指導教官,中隊指導教官及び小隊指導教官を通じて,学生舎生活において,学生らに対し,幹部自衛官としての職責を理解させ,これに適応する基本的な資質を修得させるための補導を行っていた。そし
て,学生間指導に関する補導としては,中隊指導教官は,その中隊に所属する学生らに対し,各学年の特性に応じた学生間指導の在り方について,学生必携や学生間指導のガイドライン等に基づいて,暴力や威圧
による指導を禁止するなどの内容の共通補導科目の講義を行い,小隊指導教官を指揮して,適宜,各小隊の状況につき報告を受けるともに,毎
朝,中隊学生長及び中隊週番学生から学生らの状況につき報告を受け,必要があれば個々の学生と直接面談するなどしていた。また,小隊指導教官は,中隊指導教官の指導の下,共通補導科目の内容を補足する形で,朝礼や集会の際に,学生間指導の在り方について,その小隊に所属する学生らに機会教育を行うとともに,毎朝,小隊学生長及び小隊週番学生から学生らの状況につき報告を受け,学生間指導の内容に問題があれば,必要に応じて中隊指導教官の指示を仰ぎつつ,小隊学生長等を通じてこれを是正し,異変のある学生とは個別に面談するなどしていた。中隊指導教官及びその中隊に所属する小隊の小隊指導教官らは,いずれも同じ指導教官室で勤務し,適宜,各小隊及び中隊全体の状況につき情報を共有し,連携する体制をとっていた。
(甲H117・13から43頁まで,乙チ46,47添付資

料16,乙チ119から123まで,証人N,同J,同O,同I)当直勤務に当たる教官の対応
各小隊指導教官は交替で所属大隊の当直幹部を務め,毎晩,午後8時から午後9時まで及び午後9時10分から午後10時10分までの自習時間並びに消灯後の時間に,
所属大隊の学生舎を巡回し,
学生の規律の維持,

週番学生の服務の監督指導を行っていた。平成25年当時,当直勤務に当たる際のK教官の巡回方法は,主に,騒がしい自習室があれば,その出入口で,学生らに対し,静かにするように注意し,学生らが自習していない様子が窺われる場合など,更に詳細に様子を確認する必要があると認識した場合に限り,自習室の中に入って指導するというものであった。(乙チ

124,証人K)
服務規律に違反した学生への対応
学生が服務規律に違反した場合には,その学生を担当する小隊指導教官が事故報告を作成して,中隊指導教官,大隊指導教官及び訓練部長に報告し,訓練部が,当該学生の処分について,訓練部長注意,大隊指導教官注
意等の訓練部内での指導とするか,退校,停学,戒告等の懲戒処分とするかを判断していた(甲H117・96から109頁,乙チ130)。
粗相ポイント制,学生間指導に伴う暴力等についての教官らの認識平成25年当時のK教官,I教官,G教官及びJ教官並びに平成26年当時のN教官及びO教官は,学生間で粗相ポイント制が行われていることは認識しておらず,
学生間に暴力や不適切な指導等も是とする認識が蔓延
しているとの認識まではなかったものの,教官らの会議等において,現に暴力的指導を理由に服務規律違反の処分を受ける学生が各年一定数いることを把握していたことから,一般に学生間指導の際に暴力が用いられることがあり得るという程度の認識はあった(甲A8の1,証人K,同I,同G,同J,同N,同O)


前記前提事実⑵イ,エ及び前記イ

の認定事実によれば,防衛大は,学

生の指導のため,総括首席指導教官,首席指導教官(大隊指導教官),次席
指導教官(中隊指導教官)及び指導教官(小隊指導教官)を置き,これらの教官により,学生への指導監督を行う体制を執り,併せて,学生舎生活において,学生隊内部で,自主自律の精神の下,主に上級生の下級生に対する生活指導等の学生間指導を行わせる体制を執っている。
防衛大が学生間指導を行わせる体制については,幹部自衛官としてのリーダーシップ及びフォロアーシップを育成することを目的として,学生の自主自律の下に行われる指導の特質や,防衛大の学生が18歳以上であり,通常は,
自ら善悪の判断を行うことが期待できる年齢であることを踏まえ

ると,学生を含む防衛大全体において学生間指導の意義や方法論,限界等が正しく共有され,かつ,不適切な学生間指導の是正が適時適切にされているのであれば,学生間指導を認めて,その運用を図ることは,その目的及び方法において合理的である。そして,学生間指導に関して,教官らにおいて行う指導等の業務としては,講義や集会等の際に,学生間指導の意
義や限界,具体的には,暴力や威圧を伴う学生間指導を禁止する旨学生を繰り返し教育し,教官らにおいて,不適切な学生間指導が行われていることが想定できる端緒を得た場合には,個別の指導の内容を把握し,是正することが想定されていたのであり,それが,特に不合理であるとは認められない。
そうすると,教官らにおいて,学生間指導が適切に行われるようにすることを含めた前記指導等を行うことが求められているということができるが,幹部自衛官となるべき者の教育訓練等を行う防衛大においては,これを超えて,日常的かつ一般的に,個別の学生間指導の内容を全て事前に把握し,その是非を吟味し,逐一,指導内容や方法に介入するなどして危険の発生を防止するよう,組織的に何らかの対応をすべき義務を負うもの
ではないと解すべきである(不適切な学生間指導が行われているなど格別の事情がある場合には,それを端緒と認識した教官らにおいて速やかに対応されることになる。。

その上で,
防衛大において組織上の安全配慮義務違反があったかをみる
と,前記前提事実⑸によれば,原告が防衛大に在校していた平成25年及
び平成26年当時,本件アンケートの結果に表れているように,防衛大内では,学生舎生活上の生活指導の手法として,その内容は大隊や部屋ごとに異なるにせよ,上級生が下級生の落ち度を点数にし,一定程度点数が蓄積すると罰ゲームの実施を指示する粗相ポイント制と呼ばれるような方法が,伝統的なものとして用いられることがあり,罰ゲームの内容は,下
級生も遊び感覚で応じられるようなものもあった一方で,体毛を燃やす行為等,遊び感覚の域を超えて,傷害行為あるいはいじめとなり得る態様の行為も行われていたことが認められる。そして,前記前提事実⑸アによれば,本件アンケートの結果において,指導を受ける側である一,二学年には,粗相ポイント制を遊びの一環と捉えていた者も一定数おり,指導とし
ての効果があるか分からないと述べる者が三,四割もいる一方で,指導をする側である三,
四学年には,
1学年の失敗を減らす抑止力になったとか,
コミュニケーションが促進したなどと,指導としての効果を挙げる者が半数を超えており,逆に効果を否定する者は少数であることが認められる。さらに,前記前提事実⑸ウ,
平成26年当時,教官らが学生らに対し,暴力や威圧を伴う学生間指導を禁止する旨指導していたにもかかわらず,実際には,学生間指導の際に,殴る,蹴るなどの暴力が用いられることがあったものと認められる。これらのことからすれば,
平成25年及び平成26年当時,
防衛大内で,
学生間指導に関して,その内容は大隊や部屋ごとに異なるにせよ,暴力を伴うものがみられるだけでなく,粗相ポイント制のような行き過ぎたもの,
あるいは指導の枠組みさえ超える不合理な手法であっても,
ゲームのよう
な遊び感覚であれば問題ないとして,これを指導の一環と受け止めるような認識が学生間の一部に存在していたことが推認される上に,それらの行為を指導として認識する程度が下級生よりも上級生で大きく,逆に,指導としての効果がないと認識する程度が上級生よりも下級生で大きいこと
が認められる。そして,このような認識が学生間の一部に存在していた背景には,学生間指導が,強制力を伴うものではないとされながらも,将来の幹部自衛官としての指揮能力を養成することを目的とされているという特質を有するところ,特に発達途上の未熟な学生においては,その本来の趣旨を十分に理解しないまま,事実上,上命下服の意識の下に,自身の
下級生に対する対応を指導として正当化する傾向があるのではないかと推察される。そうであれば,上記認識の下に行われる学生間指導は,指導として好ましいものではないばかりか(O教官は,暴力等では人を動かせない旨の指導をしているという〔証人O〕)
。,暴力の行使や威圧的態度等
の問題行為の原因となり得るのであり,学生間の一部に上記認識が存在す
る状況で学生間指導が行われる限り,学生の生命,身体及び健康に対する危険がないとはいえない。
しかしながら,
このように学生間の一部で暴力や行き過ぎた指導等も是
とする認識が存在することから,
抽象的には,
暴力や不適切な学生間指導,
あるいは諍いやいじめが発生し得るといえるとしても,平成25年及び平成26年当時,他に何かしらの端緒もない場合に,これらの事情から,直ちに本件各行為が発生する具体的な危険性があったということはできな
い。また,防衛大としては,前記のとおりの学生間指導の特質や,これを委ねられる学生がいまだ発達途上にあることを踏まえると,一般的に,上記認識を抱く学生が現れる事態は当然想定し得たというべきであるが,前学生間に暴
力や不適切な指導等が蔓延しているとの認識はなかったと認められる(平
成25年及び平成26年当時,原告が関係した教官らは,いずれも粗相ポイント制の存在を知らず,一般に学生間指導で暴力が用いられることもあり得るという程度の認識しかなかったという。。そして,前記認定事実イ)
教官らは,学生舎の部屋内での生活指導を学生の自主自
律に委ねており,自習室や寝室を訪れるのは,通常,自習時間や消灯後に
巡回する際に限られ,その際も,多くの場合は,出入口付近で指導するにとどまり,部屋の内部まで入ることは多くはなかったことも踏まえると,その当時,教官らが,粗相ポイント制をはじめ,本件アンケートの結果に表れた学生の行動を把握し,あるいはその端緒を得ることは困難であったといわざるを得ず,本件各行為についての予見可能性があるということも
できない。したがって,平成25年及び平成26年当時,防衛大の組織上
のアンケートを実施したり,一般に学生間指導そのものを禁止したり,教官が学生間指導の内容や方法に逐一介入する体制を執るなどの配慮をすべきであったということはできない。


これに対し,原告は,防衛大の組織全体として,本件各行為を含むいじめ行為を早期に察知し,
その再発を防止する体制を整備すべきであったなどの
主張をするが,前提となる,いじめ行為が発生する具体的な危険性についての主張が具体的にされていない上に,
安全配慮義務の具体的内容も明らかに
していない。しかるに,防衛大においては,担当指導教官により学生に対する面談や判定テスト等が行われる(乙チ52)とともに,学生に対するカウンセリングを行うための本件相談室が設置され(乙チ51)
,組織上,学生
らの相談等の機会が確保されており,これらは,いじめ行為の早期察知や,その再発防止につながる体制の整備に当たるということができる。したがっ
て,
いじめを防止する一般的な体制整備に係る安全配慮義務違反の主張は認
められない。
また,本件相談室を,いじめ被害を相談する学生の心身をケアし,改善策を立てる場所として整備すべきであったとする原告の主張は,前記の防衛大の組織上の安全配慮義務違反をいうものと解されるところ,後記認定事実⑷イ
のとおり,平成26年5月9日,原告が,本件相談室を訪れ,本件相談
員に対し,本件服務事故で処分を待っており,指導学生からのペナルティーが厳しく,つらい旨の相談をしたことについて,その当時,相談員が学生から相談を受けた内容は,少なくとも,当該学生を担当する教官らに対して,直接は伝わらない体制となっていた(甲A1,H95-1,乙チ81,証人O)ことから,原告が本件相談員に相談したことは,O教官やN教官に直接
には伝わっていなかったことが認められる。確かに,学生が相談員に対し,心身の深刻な不調を継続的に訴えているような場合にも,学生の相談内容が指導教官に一切共有されないようでは,いじめを含む学生間での問題等を早期に察知することが困難になり,問題があるといわざるを得ない。しかしながら,
本件において,
原告が本件相談室を訪れたのは1回にとどまるところ,

本件相談室と指導教官との間で,学生のプライバシーへの配慮も含めて,どのような連携体制を執っていれば,
同日以降の原告の体調の悪化を防止する
ことができたといえるのか,原告自身,具体的な安全配慮義務の内容を明らかにするものではない。したがって,同日の時点で,本件相談室が相談に訪れた学生の指導教官に対し,相談内容を直ちに情報提供して対策を促すなどの体制が執られていなかったことが,被告の安全配慮義務違反を構成するとは認められない。

したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。オ
そうすると,本件では,履行補助者である教官らにおける安全配慮義務違反の有無について,
原告の主張する本件各行為の最初の時期である平成25
年4月頃から,
被告が本件各行為を把握する前の各時点において本件各行為
が発生する具体的な危険性があったか,さらに,本件各行為を把握した各時
点において,
それ以降の本件各行為が発生する具体的な危険性があったか否
かを見た上,各教官において,本件各行為についての予見可能性及び回避可能性があったかを検討することになる。


原告1学年時の教官らの対応について
平成25年4月当時の対応について
前記⑵ウ

で検討したとおり,平成25年当時,学生間の一部に,暴力や

行き過ぎた指導等も是とする認識が存在する状況で学生間指導が行われる限り,暴力の行使や威圧的態度等の問題行為が生じ得るのであり,抽象的には学生の生命,身体及び健康に対する危険があると認められるところ,前記Pにより原告に対してされたP罰ゲーム指示行為

及びP陰毛着火行為は,
上記認識の下に行われたものと推察することができ
る。
しかしながら,平成25年4月及び同年6月当時,直ちに,Pによる前記各行為が生じる具体的な危険性があったということはできず,また,教官らにおいて,
学生間の一部に前記認識が存在し得ることは想定できたとしても,そのような抽象的な想定を超えて,
学生間に粗相ポイント制を含む不適切な
指導等が蔓延しているとの認識があったと認めることはできない
(前記認定
I教官,G教官及びJ教官は,平成25年当時,粗相
ポイント制の存在を知らなかった。
)上に,事前に,Pによる前記各行為の
具体的な端緒を得ることもできなかったのであるから,
予見可能性があった
ということもできない。


平成25年6月14日頃の対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
Pは,平成25年6月14日の午後9時から9時10分までの休憩時間中,b号室の自習室において,粗相ポイント制の一環として,原告に罰ゲームを行うよう求め,同室の1学年に対し,ドア付近で見張りに立
つことを指示した上,やむなく自ら下半身裸となった原告に対し,その陰部に消毒用アルコールを10プッシュ程度吹きかけ,その陰毛に着火した。
炎は,
程なく消されたものの,
原告は,
これによりやけどを負い,
同室の出入口とは反対側の壁の近くにあるPの机と壁の間にうずくまり,下半身にタオルケットを掛け,氷水を入れたボトルで陰部を冷やし
ていた。
(甲A1,B2,3,4,乙チ1,3,原告本人〔第1,2回〕

分離前相被告P本人)
b
それからほどなくして,当日の大隊当直幹部を務めていたK教官が,b号室を見回りに訪れ,室内が騒がしく,Pの机の背後に原告がうずくまっている様子を見たが,他の学生から,原告が陰部をぶつけて痛がっ
ていると聞いたことから,特段異常な事態とは考えず,P陰毛着火行為が行われたことには気付かないまま,打った箇所を処置するように指示して立ち去った(乙チ4から6まで,8,10,11,証人K)

c
その後,原告は,陰毛着火と剃毛行為はセットの罰ゲームであるというPの指示に従い,剃刀で陰毛を剃った(剃毛行為)ところ,陰部は,やけどに加え,剃毛行為によって出血し,治るまでに時間を要した(甲B3,原告本人〔第1回〕。

d
J教官,I教官及びG教官は,P陰毛着火行為について,平成26年11月以降に,
防衛大が原告による本件学生らの刑事告訴を受けて調査
を行うまで把握していなかった(証人G,同J,同I)


前記認定事実

b,cのとおり,P陰毛着火行為後ほどなくしてb号室

を訪れたK教官は,学生らが着席して自習していない様子を認めたが,周囲の学生の説明を受け,
格別の問題が生じているとの判断に至らなかった
というのであり,K教官の上記の判断は不合理とはいえない。ここで,K教官において,
b号室で原告に対して暴行等の問題行為がされたことを疑
う端緒があったとは認められないから,
K教官が,
原告や他の学生に対し,
その実態を更に追及し,
原告の負傷状況を確認する義務を負っていたとま
でいうことはできない。また,K教官は,原告に対する何らかの暴行等が行われたことを認識できなかった以上,自身が立ち去った後に,何らかの暴行等が行われることも予見することはできなかったと認められるから,
その後にPが原告に指示して陰毛を剃刀で剃らせる事態を防止する義務を負っていたということもできない。
そうすると,K教官は,相応の対応をとっており,また,P陰毛着火行為やその背景として存在した粗相ポイント制を察知し,
原告がPの指示に
より剃毛行為に及ぶことを防止するなどの指導をすることはできなかっ
たから,安全配慮義務に違反したということはできない。
a
原告は,

対し,K教官がb号室に入ったのは,P陰毛

着火行為の二,三分後であり,陰毛の燃えた臭いが漂っていたし,原告のそばまで来て,
原告が,
腰のあたりに掛けられたタオルケットをはだ
けさせて,足首まで下ろしたズボンや下着が見えた状態で床を転げ回っているところを見下ろしたのであるから,P陰毛着火行為を認識したはずである旨主張し,原告本人及び分離前相被告Pも上記主張に沿う事実関係を供述する部分がある。
しかしながら,P陰毛着火行為は午後9時から午後9時10分までの休憩時間に行われたこと(前記認定事実


,K教官は,通常,午

後9時10分の自習時間開始から5分程度して巡回を開始していたこと(乙チ124,証人K)からすれば,K教官が自習時間開始後最初にb号室を訪れたとしても,
P陰毛着火行為から二,
三分程度しか経過し
ていなかったとは考え難く,当時,同室にいた学生らも,P陰毛着火行為後,
10分から15分してから教官が来たと述べていること
(乙チ4,
6,8)も踏まえれば,少なくとも10分程度が経過していたと認める
のが相当である。
また,
P陰毛着火行為により原告はやけどを負ったも
のの,
炎は程なく消えたこと
(前記認定事実

a)
からすれば,
原告が,

それから10分もの間,
床を転げ回っていたとか,
同室内で傷害行為等
の問題行為が起きていたことがすぐに分かるような状況であったとは認め難い。仮に,強い臭いが充満していたとしても,それのみから直ちに,傷害行為等の問題行為が生じたものあるいはその可能性を認識できたとまでいうことはできない。
かえって,
前記認定事実

のとおり,

Pは,
P陰毛着火行為に当たり,
同室のドア付近に見張りの学生を立た
せており,教官に原告の様子を見られないように警戒していたことからすれば,P陰毛着火行為後,自習時間が開始し,教官が巡回することが予想される中,原告が下半身裸でタオルケットをはだけさせて床を転げ回るという,一見して明らかに異常を察知し得る状態を放置していたとは認められない。そして,証人Kにおいて,平成25年6月14日の当直勤務時の出来事は記憶に残ってさえいないということも踏まえれば,原告が床を転げ回っているところをK教官が見下ろしたとい
う原告及び分離前相被告Pの前記供述はいずれも採用することができず,
原告の前記主張は,
K教官の認識した状況について異なる事実を前
提としたものであって,
採用することができない
よれば,K教官が,臭いが残っているなどの状況から,学生らが同室内で何かしらの悪ふざけをしていたと認識した余地はあるが(乙チ4から6,8)
,そうであるからといって,上記状況から,傷害行為等の問
題行為が発生していたことを認識することができたとはいえず,直ち
に,学生らに問い質すなどの義務があるとまではいえない。。

b
また,原告は,K教官がb号室を巡回した際,室内の様子を確認し,
不審な点を学生らに尋ねるなどしていれば,
粗相ポイント制の存在及び
P罰ゲーム指示行為が行われたことを認識し,
対処することができたの
に,これを怠った点で安全配慮義務違反があるとも主張する。

しかしながら,K教官がb号室を巡回した際に,実際に同室のホワイトボードに1学年の氏名と正の字が記載されていたことを裏付ける証拠はない上に,仮にそのような記載があったとしても,担当の小隊指導教官でもなく,単に当直として,学生が静かに自習をしているかどうか確認するために同室を訪れたK教官において,
その記載の意味を推測し

て何らかの不適切な学生間指導が行われているとの疑念を直ちに抱くことは困難である。そうすると,K教官において,学生間の遊びを超えて,
いじめとなり得るような手法の粗相ポイント制が行われていたことを認識できたとは認められず,学生らから事情聴取をして,P罰ゲーム指示行為が行われたことを把握する義務を負っていたとは認められな
い。したがって,原告の前記主張も採用することはできない。

平成25年10月8日頃の対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
Pは,
平成25年9月半ば頃,
週番学生として見回りをした際,
原告が,

以前の注意にもかかわらず,自習時間中の使用が禁止された携帯電話を操作していたことから,同月17日及び同月18日の二度にわたり,原告に対し,A4用紙2,3枚程度に反省文を書くように指示し,原告はこれに従って反省文を提出した。その後,Pは,原告が中休みに携帯電話を操作しているのを認め,同月24日から同年10月8日まで,ほぼ連日,日によっては日に数回,
反省文を作成,
提出させては書き直しを命じた。
また,
同時期に,Pは,原告に対し,名札が汚いからという理由で何度も縫い直しを命じた。
原告は,
試験期間中ではあったが,
Pの指示に対応したため,
睡眠時間が不足する状態が続いた。
(甲A1,
B4,H88,
6,
乙チ16,
17,原告本人〔第1回〕
,分離前相被告P本人)
,Pは,学生舎内での規律を維持する役職であ

る週番学生の立場において,原告に規律を遵守させるためには,時期や方法にかかわらず,
反省文を繰り返し提出させることに常に意味があるとの
誤った認識の下,
原告に過剰に反省文を提出させるという不適切な指導に
及んだものであるが,P反省文提出指示行為には,自身が考える規律の遵守を下級生に強く求める上級生としての意識が強く表れており,前記⑵ウ従前から学生間の一部に存在した,行き過ぎた指導

をも是とする認識の下に行われたものと推察することができる。
しかしながら,P反省文提出指示行為は,P一人が,原告の不適切な行動を原因として始めたものであり,その当時,P以外の学生が原告に不適切な学生間指導等を行っていたとの事実もないことも踏まえれば,P反省文提出指示行為がされる前の時点で,これが発生し得る具体的な危険性があったということはできず,また,教官らにおいて,具体的な端緒を得ることもできなかったから,その予見可能性も認められない。
したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したということはできない。

原告は,

,①P反省文提出指示行為と同時期に,P

から,何度も名札を剥ぎとられ,訓練必携の暗記を命じられ,さらに,腕立て伏せをさせられた際に手を蹴られた,②教官らの指導により,反省文の提出指示は,Pからはなくなったが,同部屋の他の上級生から受けるようになったなどとも主張し,原告もこれに沿う供述をする。
しかしながら,前記①については,原告の母親がI教官との会話(甲H88)において,原告が反省文の暗記と思われる行為を受けていることを
話題にしたことは認められるものの,それ以上に裏付けのないものであって,
原告の前記供述は採用することができない。
また,
前記②については,
原告の供述以外にこれを裏付ける証拠はなく,原告の母親も,教官らがPに指導した数日後である平成25年10月14日にQの件で教官らに電話した際に,
原告がP以外の学生から反省文を強要されている旨の相談は

していないこと(甲H89)も踏まえれば,原告の前記供述は採用することができない。したがって,原告の前記主張①及び②はいずれも採用することができない。

平成25年10月8日以降の対応
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
平成25年10月8日頃,I教官は,原告の母親より,原告がPから反省文の提出を強要されている旨の情報提供を受け,J教官の指示により原告に事情聴取をしたところ,原告は,自習時間中に携帯電話を操作していたことで,週番学生のPから,反省文をA4用紙に3枚程度書かされ,ま
た,些細なことで何度も書き直しを求められていると述べた。I教官は,原告に深刻そうな様子が見られなかったため,それ以上に,原告に対し,反省文の頻度や枚数を尋ねたり,反省文の現物を実際に確認することはせず,自習時間中に携帯電話を使用してはならない旨注意した。その頃,G教官は,J教官の指示によりPから事情聴取をしたところ,Pは,原告が
複数回にわたり自習時間中に携帯電話を操作しており,口頭で注意しても改善が見られなかったことから反省文を書かせたが,原告の考えが浅かったため何度も書き直しを命じた旨述べた。
そして,J教官は,I教官及びG教官から,原告及びPの言い分について報告を受け,Pが自習時間中に携帯電話を操作していた原告に反省文を書かせること自体は指導方法の一つであるが,定期試験中という時期及び些細なことで何度も書き直しをさせるという方法は不適切であると判断し,G教官に対し,Pや小隊学生長等にその旨指導するように指示した。これを受けて,G教官はPを,I教官はABC小隊の小隊学生長を指導した。Pは,原告に対し,反省文を提出させることをやめた。
その後,G教官は,複数回,Pに対し,原告に反省文を書かせることを
やめたかどうかを尋ね,これをやめた旨の返答を得たほか,ABH小隊の小隊学生長から,Pが原告に反省文を書かせている旨の報告もないことを,I教官は,ABC小隊の小隊学生長から,J教官は,DE中隊の中隊学生長から,同様の報告がないことをそれぞれ確認した。そこで,J教官,G教官及びI教官は,
学生に関わる問題をなるべく大事にしたくないとの思

いもあって,
P反省文提出指示行為が懲戒処分等に該当するような行為で
はないと判断し,
事故報告は作成せず,
大隊指導教官等に報告しなかった。
(甲H87,乙チ16,20,21,119,120,123,証人G,同J,同I,原告本人〔第2回〕

れば,平成25年10月8日に原告の母親から情報

提供を受けて,I教官は原告から,G教官はPから,それぞれ事情聴取をし,P反省文提出指示行為を把握したこと,G教官が,Pに対し,指導した結果,原告はPから反省文を提出させられることも,名札の縫い直しをさせられることもなくなったことが認められる。そして,その後の原告の防衛大での生活を通じて,Pが原告に対し,そのほか不適切な学生間指導
や暴行等の行為に及ぶことはなかったと認められること(弁論の全趣旨)からすれば,被告はP反省文提出指示行為をやめさせ,同種の行為の再発を防止するのに相当な措置を執ったということができる。
さらに,P反省文提出指示行為を把握した時点で,他の学生が原告に対して不適切な指導等を行っているなどの事実もなかったのであるから,その後の本件各行為が発生することについての具体的な危険性があったということはできないし,教官らにおいて,端緒を得ることができたわけでもないから,その後の本件各行為の予見可能性は認められない。
したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したということはできない。
a
教官らは,Pに対して相当な処分をし
なかったことにより,
P反省文提出指示行為による原告の心身の被害を

回復させる十分な措置を執らず,
被告は安全配慮義務に違反した旨主張
する。
しかしながら,そもそも,学生の懲戒処分の手続は,主に学生の規律違反を戒めるものであって,
被害者に対する慰謝を目的としたものとは
Pの原告に対する不適切な指導等はなくなった上に,その後,Q暴行行為の発生までの間に,
原告の精神状態が悪化したなどの事情もみられな
いのであるから,
教官らの対応が原告の心身の被害を回復させるに十分
でなかったということはできず,
原告の前記主張は採用することができ
ない。

b
また,原告は,教官らが,P反省文提出指示行為について正確に事実を把握せず,Pへの指導に当たり,中隊学生長等の他の学生を関与させたことによって,学生の間に,原告が教官に対してチクったとの噂が拡散する事態を招き,それがQ暴行行為につながったとか,本件各行
為のうちQ暴行行為以降のものを防止できない結果となったなどとも主張する。
I教官及びG教官による原告及
びPからの事情聴取の過程で,教官ら自ら,反省文の現物を見たり,その提出回数や分量を更に詳細に聴き取ったりすることはなかったと認められ,
名札の縫い直しについても事実確認をしたかには疑問があるか
ら,
教官らが一部の事実を正確に把握できていなかったことは否定できない。殊に,P反省文提出指示行為は,原告のみを対象としたものであり,場合によっては,指導を超えて,いじめとなり得るのか検討を要するデリケートな問題でもあり,原告の母親からの情報提供に対して,より慎重に対処すべきであったということはできる。また,教官らがPに
つき事故報告を作成しないと判断したことについても,従前の懲戒相当の事案との均衡等も考慮する必要があるから,一概に不適切であったとはいい難いものの,教官らが,学生間指導をより適切に運営することが期待される立場にあるにもかかわらず,消極的な態度であったとの印象は拭えない。

もっとも,P反省文提出指示行為は,下級生に規律の遵守を求めるP個人が,規律違反を重ねた原告に対して指導の必要性を強く感じ,時期や方法を問わず,反省文を繰り返し提出させることには教育上の効果があるという誤った認識の下に,
指導の範ちゅうを超えて行動したもので
あり,他の学生と共同して行った行為ではないこと,その当時,原告が
P以外の学生からも不適切な指導や暴行等を受けていたとの事実もなかったことからすれば,教官らが,P反省文提出指示行為がやんだかどうかを確認するために,他の学生を関与させたことが安全配慮義務に違反するということはできない。また,教官らのPに対する指導の後に,学生間で,原告が教官に対してチクったとの噂が拡散したとの原告
の供述には裏付けがなく,直ちには認められない上に,仮にこれが広がったとしても,その後の本件各行為,特に,Q暴行行為は,後記オのとおり,Qが原告ほか1名の1学年に対して,自分の指示を守らなかったことを理由に突発的に行ったものであって,Pの行為,あるいは,教官らの上記対応と関連するものとは認められないから,教官らの対応がQ暴行行為を招いたとの主張は採用することができない。そして,教官らが,P反省文提出指示行為の事故報告をしなかったことについても,仮
に事故報告をしたとしても,上記のとおりP反省文提出指示行為とは関連しない本件各行為(Q暴行行為以降のもの)を直ちに防止することができたということはできないから,被告が,この時点において,本件各行為のうちQ暴行行為以降のものについて安全配慮義務に違反したということはできない。したがって,原告の前記主張は採用することがで
きない。
c
さらに,原告は,P反省文提出指示行為を受けて,教官らが,中隊学生長や小隊学生長等の役付き学生に対し,いじめや暴力についての意識を変えるための再教育をする義務があり,これを怠ったために,その後
のQ暴行行為やQ陰部吸引行為を防止できなかった旨主張する。
しかしながら,
原告は,
役付き学生に対していかなる再教育をすれば,
個々の学生が原告に対して個別に行う暴行等を阻止することができたのか,具体的な安全配慮義務の内容を明らかにしない。そして,下級生に対して規律の遵守を求めるPは,時期や方法を問わず,反省文を繰り
返し提出させることにも教育上の効果があるという誤った認識に基づいてP反省文提出指示行為を行ったものであるが,その当時,他の学生の間にもPと同様に不適切な学生間指導を是とする意識が蔓延していたとまでは認められないから,教官らが,役付き学生らに特別な指導を行わず,従前のとおり,朝礼や集会等の機会に,暴力的指導を禁止する
旨の指導をするにとどまったことが安全配慮義務に違反するということはできず,原告の前記主張は採用することはできない。

平成25年10月11日当時の対応について
証拠(甲A1,甲C1,3,4,H89,乙ロ2,チ22,115,120,原告本人〔第1回〕
,分離前相被告Q本人)によれば,以下の事実が
認められる。

Qは,平成25年10月11日朝,c号室において,原告ほか1名の1学年が,Qの指示に反して上級生を起こさなかったことを受けて,従前から,1学年には生活態度全般に問題があり,これを注意しても改めないという思いを抱いていたこともあって,原告ほか1名の1学年に対し,なぜ先輩を起こさないのか,口で言っても分からないなら体で覚えてもらう,
歯を食いしばれなどと述べ,手加減してではあるが,利き腕ではない左手の拳で原告の右頬の唇の右側部分を一回殴り,もう1名の1学年の右頬も同様に殴った。これにより,原告は,倒れることはなかったが,口内は切れ,唇は腫れた。
前記認定事実

のとおり,Q暴行行為は,Qが,原告ほか1名の1学年

が指示に従って上級生を起こさなかったことを理由に,体で覚えさせようとして殴ったものであるところ,前記前提事実⑸ウによれば,平成26年8月に実施された本件アンケートの結果では,学生間指導において殴るのを見た聞いたと回答した学生は,各大隊の約3割から5割であっ

たことが認められ,Q暴行行為が行われた平成25年当時も,殴打の態様
や傷害結果に差はあるにしても,教官らが暴力的指導を禁止すると教育していたにもかかわらず,学生間指導の際に暴力が用いられることは相当数あったと推認するほかない。そして,Q暴行行為には,自身が考える規律の遵守を下級生に強く求める上級生としての意識が強く表れており,前記暴力や行き

過ぎた指導をも是とする認識の下に行われたものと推察することができる。しかしながら,Q暴行行為は,その直接的な契機としては,Q個人の自己中心的で幼稚な発想から,自身が起床に遅れたことを下級生に責任転嫁する形で突発的に行われており,さらに,それ以前にQが原告に対し暴行を加えた事実もないことからすれば,Q暴行行為がされる前の時点で,これが発生し得る具体的な危険性があったということはできない。また,

平成25年当時,教官らは,

一般的には学生が指導の際に暴力を振るう可能性があることから,常日頃から,学生らに対し,暴力的指導を禁止する旨,共通補導科目や朝礼等の機会教育を通じて指導しており,暴力的指導が蔓延しているとの認識はなく,教官のいないところで,自習室や寝室内で行われる学生間指導の実態は,学生からの報告や,個々の学生の明らかな異変等の端緒がない限り,把握することは困難であったところ,Q暴行行為が前記のとおり,個別的な事情を契機とする突発的なものであることからすれば,J教官,I教官及びG教官において,Q暴行行為が行われる端緒を得ることはできず,事前にその発生を具体的に予見することができたとは認められない。
したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したということはできない。
原告は,P反省文提出指示行為の後,J教官やG教官が,Pへの指導に中隊学生長等を関与させたことから,
学生間で,
原告が教官に
チクった
との噂が流れ,Qが原告に対する報復として,Q暴行行為を行ったのであ
るから,
教官らの上記対応においてQ暴行行為の発生を招いたという安全
配慮義務違反がある旨主張する。
しかしながら,前記認定事実

のとおり,Qは,原告ほか1名の1学年

の生活態度に不満を抱き,両名に対して暴行を加えたものであるから,Q暴行行為が,原告への個人的な報復等を目的として,原告のみを標的としたものであるということはできない。したがって,P反省文提出指示行為に対する教官らの対応がQ暴行行為を招いたということはできず,原告の前記主張は採用することができない。

平成25年10月14日以降の対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
平成25年10月14日,I教官は,原告の母親より,原告がQから
殴られた旨の情報提供を受け,J教官の指示により,原告に対し,事情聴取をしたところ,原告は,大したことではなく,母親が大げさに言っているだけである旨述べたことから,それ以上に,殴打の部位や態様を詳細に尋ねたり,原告の唇の様子を子細に見たりはしなかった。また,G教官は,I教官から原告の上記言い分を聞いた上で,Qに対し,情報
源を伝えることなく事情聴取をしたところ,Qが,殴ったことは認めながらも,原告が自分を朝起こさなかったので,おいと小突いただけである旨述べたことから,
両者がボクシング部の先輩と後輩であることも踏
まえて,
ふざけて,
じゃれあっていただけであると判断した。
その上で,
G教官は,Qに対し,朝起こすように下級生に指示すること自体誤りで
あり,ボクシング部の主将であるQが,じゃれあうという意識であったとしても,相手には暴力と受け取られることもあるから,今後,手を出さないようにと指導した。そして,J教官は,原告とQの言い分がおおむね整合しており,原告はQに小突かれたが,原告の顔にあざ等のけがはなく,大したことではないと判断した。その後,J教官,I教官及び
G教官は,中隊学生長やABH小隊の小隊学生長から,Qが原告に暴行を続けている旨の報告はなかった上に,従前から,学生に関わる問題をなるべく大事にしたくないとの思いを抱いていたこともあって,
Q暴行
行為は懲戒処分に該当するような事案ではないと判断し,
事故報告を作
成せず,大隊指導教官等にこれを報告しなかった。
(甲H89,乙チ1

6,20,21,119,120,123,証人G,同J,同I,原告本人〔第2回〕

b
Qは,Q暴行行為後の平成25年10月中旬から同年12月末までの間,同室の原告ほか1名の1学年の生活態度に不満を募らせ,悪ふざけの気持ちもあって,c号室において,原告ほか1名の1学年に対し,ズボンと下着を脱がせた上,掃除機でそれぞれの陰部を吸引する行為を複数回行った
(Q陰部吸引行為)
(甲A1,
乙チ22,
115,
原告本人
〔第

1回〕
,分離前相被告Q本人)

c
J教官,I教官及びG教官は,Q陰部吸引行為について,平成26年11月頃に,防衛大が原告による本件学生らの刑事告訴を受けて調査を行うまで把握していなかった(乙チ28,証人G,同J,同I)


原告の母親から,Q暴行行為の情報提供を
受けたI教官は,原告に対し,事情聴取を行ったが,原告が大したことはないと述べたことから,殴打の部位や態様,負傷状況を子細に確認せず,G教官も,殴ったことを認めたQに対し,殴打の部位や態様について詳細に尋ねなかったこと,
教官らは,
原告が,
大したことはないと述べ,
Qも,

おいと小突いたと述べたことをもって,両者はじゃれあっていただけであり,原告にけがもないと判断したことが認められる。
そうすると,教官らは,殴られた旨の情報提供とは異なり,大したことはないとか,
小突いただけであるなどと述べた原告及びQの言い分を直ち
に信用し,暴行の態様,部位,負傷の有無について詳細な事実確認を怠っ
たといわざるを得ない。そして,教官らが,Q暴行行為をじゃれあいと判断し,事故報告を作成しなかったことには,従前から,学生に係る問題を大事にしたくないとの思いを抱いていたこと(前記認定事実

)が影響

していることは否めず,学生間指導をより適切に運営することが期待される立場にあるにもかかわらず,消極的な態度であったとの印象は拭えない。aのとおり,G教官がQに対し,じゃれあ
いだとしても,今後は手を出さないように指導したことにより,その後,Qが原告を殴ることはなくなったものと認められるから,被告はQ暴行行為と同種の行為の再発を防止するのに相当な措置を執ったということができる。
したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したということはできない。
なお,証人G,同J及び同Iは,原告の顔にあざ等の傷がないことを確認した旨証言するが,Qはボクシング部の主将であるところ(前記前提事実

,Q自身,Q暴行行為の際に原告のあごの骨の感触があった旨

述べること(甲C4)からすれば,Q暴行行為は原告に傷害を負わせるに足る力加減であったと認められ,さらに,平成25年10月15日撮影の原告の写真には,原告の唇の右側付近が腫れた様子で映っていること(甲C3)も踏まえれば,Q暴行行為により原告の口内が切れ,唇が腫れたことが認められる。そして,上記写真にも映っているように,その当時は学生が風邪の流行によりマスクの着用を義務付けられていたこと(原告本人
〔第2回〕
)も踏まえれば,教官らは,前記認定事実

aのとおり,原告が

申告したように,
Q暴行行為を大したことではないと考えていたこともあ
って,原告にマスクを外させてまで,顔の様子を子細に確認しなかったと認めるのが相当であり,これに反する前記各証言は採用することができない。
a
原告は,

Q暴行行為を把握した教官らは,原告

とQの部屋を替え,Qについて相当な処分をしなかったことにより,原告の心身の被害を回復させるのに十分な措置を執らず,
被告は安全配慮
義務に違反した旨主張する。
なるほど,Q暴行行為を把握した教官らの指導の後,QはQ陰部吸引行為を行っており,部屋を替えることで,これを防止することができた可能性がある。
しかしながら,Q暴行行為は,原告のみを標的にしたものではない一回限りの行為であったところ,教官らがこれを把握した時点でも,その後Qを指導した後においても,その他にQが原告に対し,暴行やいじめを行っているなどの事実はなかったことを踏まえれば,その後,Qが原告ほか1名の学生の生活態度への不満や悪ふざけから,指導の外形すら
伴わない,
Q陰部吸引行為のような問題行為に及ぶことを予見できる端
緒があったとは認められない(なお,G教官及びJ教官は,当時,原告と同時にQから殴られた他学生がいることを認識していなかったようであるが,
このことは上記判断を左右するものではない。。
)そうすると,
教官らが,Q暴行行為を把握し,Qを指導した時点で,Qに暴力的指導
を禁止する旨指導することでは再発を防止できないと考えて,あるいは他にいじめ等の問題があり得るとの認識を持って,直ちに,原告とQの部屋を替えるまでの措置を執る義務を負っていたとは認められない。また,
教官らがQにつき懲戒処分等の手続を執らなかったことについ
官らのそのような対応により,Q陰部吸引行為の発生までの間に,原告の精神状態が悪化したなどの事情もみられないのであるから,原告の心身の被害を回復させるのに十分でなかったということはできない。したがって,被告が安全配慮義務に違反したということはできず,原告の前記主張は採用することができない。

b
また,原告は,Q暴行行為後,G教官がQに対し,情報源が原告の母親である旨伝えたことにより,Qが原告に対し,
チクリと言いなが
らQ陰部吸引行為を行うことになったのであるから,
G教官の上記対応
において安全配慮義務違反がある旨主張する。

しかしながら,G教官は,原告の母親から口止めされていたこともあって,
Qに対して情報源を明かさなかった旨証言するところ
(証人G)

これを覆す証拠は認められず,また,G教官がQに事情聴取をする際,殊更に情報源を明かす必要性もないことからすれば,G教官がQに対し,情報源を明かしたとは認められない。さらに,前記認定事実

のとお

り,Q陰部吸引行為は,原告ほか1名の生活態度への不満や悪ふざけの気持ちから行われたのであるから,教官にQ暴行行為を相談した原告へ
の個人的な報復等を目的としたものということはできない。したがって,Q暴行行為に対するG教官らの対応がQ陰部吸引行為を招いたということはできず,原告の前記主張は採用することができない。

平成25年10月14日以降,平成26年5月7日までの対応について原告は,
被告が,
P反省文提出指示行為及びQ暴行行為を把握した時点で,
P及びQにつき事故報告を行い,原告に対するいじめ行為の有無を調査し,再発防止措置を講じていれば,上記各行為に始まる集団的ないじめ行為の一環である原告2学年時の本件各行為を防止することができたから,被告には安全配慮義務違反がある旨主張する。

しかしながら,前記ウからカまでのとおり,P反省文提出指示行為及びQ暴行行為は,いずれも,従前から学生間の一部に存在した,暴力や行き過ぎた指導を是とする認識に基づき,下級生に規律の遵守を求める上級生が,規律や指示に違反した原告に対して行った行為であるということはできても,それぞれ,P及びQが独自に原告に対して抱いた不満等を発端としており,
本件全証拠によっても,PとQを含む学生らが,共謀して,原告を暴力や行き過ぎた指導の対象としようとしたものと認めることはできない。また,本件各行為のうち,原告2学年時に発生したものは,原告1学年時のP及びQによるものとは,時期も離れており,その発端も原告2学年時に発生した本件服務事故という別個のものであることからすれば,原告1学年時の本件各
行為と相互に関連するものと認めることはできない。したがって,教官らないし防衛大の組織全体として,Q暴行行為を把握した平成25年10月14日から,R暴行行為が発生した平成26年5月7日までの間に,Qへの指導のほかに,原告に対するいじめの有無を調査し,何らかの措置を講じるなどの義務を負っていたということはできず,原告の前記主張は採用することができない。


原告2学年時の教官らの対応について

平成26年5月8日当時の対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
平成26年4月中旬頃,防衛大内で,新2学年が気力,体力を向上させるとともに,
新4学年の指導の下に中隊全体が一致団結する機会とし
て位置付けられている中隊対抗のカッター競技会に向けて行われたミ
ーティングの際,Rは,同中隊の他の4学年らと共に,原告を含む同中隊の2学年全員に対し,
気合い入れと称して,
空気椅子
と呼ばれる行
為を強制し,姿勢の崩れた者に対して,頭をたたき,臀部を蹴り上げるなどの暴行を加えた(カッター暴行事件)(甲H118,乙チ47添付。
資料2・8頁,原告本人〔第1回〕


b
原告は,平成26年5月6日から同月7日にかけて,指導において暴力を振るうことも許されると認識していたRから,原告が同月6日の着校時間の間際に外出先から防衛大内に帰校したことを契機として,本件服務事故が発覚したことから,R暴行行為を受け,さらに,その頃,複数回にわたり,机,タンス,ベッド等を荒らされ,制服をしわくちゃに
されるなどの飛ばし行為(R飛ばし行為)を受けた。
(原告本人〔第1
回〕
,分離前相被告R本人)
c
原告は,平成26年5月8日,DE中隊の2学年に対して,本件服務事故の経緯や今後の対応等を説明する集会を開いた際に,本件服務事故
後,2学年全員が上級生から厳しい指導を受ける中,原告からは反省が見られないとの認識を抱いていたS及びTから,
Sら暴行行為を受けた
(甲A1,乙チ38,39,分離前相被告S本人,同T本人)

d
O教官は,平成26年当時,一般的には学生が指導の際に暴力を振るう可能性があることから,DE中隊の全学生に対し,共通補導科目において,暴力や威圧による指導は許されない旨指導しており,N教官も,常日頃,朝礼,集会等の機会教育において,同様に学生らを指導してお
り,教官らにおいて,学生間で暴力的指導が蔓延しているとの認識はなかった(乙チ121,122,証人N,同O)

e
N教官は,平成26年5月7日朝,原告が特別外出許可とは異なる外出行動をとった旨報告してきたRに対し,原告が申請期間の経過後に福
岡へ帰省したい旨申し出た経緯があることを伝え,同月8日頃,原告に対し,服務規律に違反したとして注意するなどしたが,これらの際,一般に,
服務規律違反を起こした学生に対する上級生や同級生の目が厳し
くなることは認識していた
(甲D1,
乙チ121,
分離前相被告R本人,
証人N)


前記認定事実

によれば,教官らの常日頃の教育にもかかわらず,R暴

行行為,R飛ばし行為(O教官は,通常の指導の範ちゅうを超える飛ばし行為であるという〔証人O〕)及びSら暴行行為が発生したところ,これ。
らは,
暴力や行き過ぎた指導をも是とする認識の下に行われたものと推察することができる。
しかしながら,そのような状況から,平成26年当時,直ちに,R,S及びTにより,暴行や通常の指導の範ちゅうを超える飛ばし行為が生じ得る具体的な危険性があったとまでいうことはできない。
また,その当時,教官らにおいて,学生間の一部に前記認識が存在し得
ることは想定できたとしても,教官らは,常日頃から,学生らに対し,暴力的指導を禁止する旨指導しており,抽象的な想定を超えて,具体的に,暴力や行き過ぎた指導が蔓延しているとの認識があったと認めることはできず,さらに,自習室や寝室内で行われる学生間指導の実態は,学生からの報告や,個々の学生の明らかな異変等の端緒がない限り,把握することは困難であった。もっとも,
eによれば,N教官は,規

律遵守の姿勢や団体での一致した行動が強く求められる防衛大において,一般に服務規律違反を起こした者に対する上級生や同級生の目が厳しくなることは理解していたと認められ,教官らにおいて,Rが,中隊学生長として,本件服務事故により中隊の規律を乱した原告に対し,厳しい指導を行うこと自体は想定できたものといえる。しかしながら,教官らは,R
に対し,常日頃から暴力的指導を禁止する旨指導しており,Rが,指導において暴力も許容されるとの発想の下,
従前から,
カッター暴行事件等で,
他の学生に対して暴行を振るっていたことを知る端緒もなかったことからすれば,原告への指導が,暴行や通常の指導の範ちゅうを超える飛ばし行為にまで及ぶことを予見することができたとは認められない。また,S
及びTについても,上記同様,教官らが,常日頃から暴力的指導を禁止する旨指導していた中で,S及びTが原告に対して暴行に及ぶことを予見する具体的な端緒がなかったことからすれば,Sら暴行行為も予見することができたとは認められない。
したがって,被告が,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為の発
生前の各時点において,安全配慮義務に違反したということはできない。原告は,

,平成26年5月7日夜から同月9日

にかけても,Rから,殴る蹴るなどの暴行を受け,坊主頭にすることなどを強要された旨主張し,これに沿う供述をするが,これを裏付ける具体的な証拠はなく,原告の上記供述部分を採用することはできない。b
また,原告は,N教官がRに対し,原告への暴力的指導を指示した旨
主張するが,N教官がRに対し,常日頃の指導方針に反して,原告に暴力的指導をしても構わない旨の発言をしたとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。
c
さらに,原告は,そもそも,カッター暴行事件においても,空気椅子をする際,原告のみ,4学年がおぶさるなどの負荷を掛けられ,腕立て伏せで嫌がらせを受けるなど,Rからいじめの標的にされていた背景が
あり,そのような中でR暴行行為及びR飛ばし行為が行われたとし,教官らにおいても予見可能性があった旨主張する。
しかしながら,
カッター暴行事件において原告が他の2学年よりも殊
更に負荷を掛けられていたことや,
Rが原告を継続的ないじめの標的と
していたことなどを裏付ける証拠はなく,平成26年5月当時にR暴行
行為及びR飛ばし行為が生じ得る具体的な危険性があったとはいえないし,その端緒もなかったのであるから,教官らにおいて予見可能性があったともいえず,原告の前記主張は採用することができない。
d
原告は,S及びTから,Sら暴行行為と同時期に,床掃除や靴墨落とし等を行うように強要された旨主張し,これに沿う供述をする。しかし
ながら,証拠(甲E5-2)によれば,Sが,原告に対し,今後の生活方針を尋ねる中で,原告が自ら申し出た靴墨落としのほかに,床のワックス掛けも行うよう提案し,原告が同級生等に対して反省の態度を示すために,
不本意ながら清掃活動を行うこととなったものと認めることは
できるが,本件全証拠によっても,それが,S及びTの違法な強要行為
によるものであるとは認められないから,原告の前記供述は採用できず,原告の前記主張は採用することができない。

平成26年5月9日から同月12日までの対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。

a
原告は,
平成26年5月9日,
本件相談室を訪れ,
本件相談員に対し,

本件服務事故で処分を待っており,指導学生からのペナルティーが厳しく,つらい旨の相談をしたところ,本件相談員からは,頑張るように言われただけであった(甲A1,H95-1,乙チ81)

b
O教官は,平成26年5月9日夜,同日に原告が本件相談室を訪れたことを知らないまま,原告の母親より,原告が中隊学生長や同級生から暴行や飛ばし行為を受けている旨の情報提供を受けた。そこで,O教官
は,自らR及びDEF小隊学生長を呼び出したところ,両名が原告への飛ばし行為(R飛ばし行為)を認め,Rが原告への暴行(R暴行行為)も認めたことから,Rに対し,私的制裁をしてはならないと注意し,原告との接触や他の学生への指導を一切禁止する旨指導したが,R飛ばし行為を受けた原告の寝室の様子を実際に見ることはせず,R飛ばし行為
の回数,程度等の詳細は把握しなかった。また,同日,O教官から,原告の事情聴取をするようにと指示を受けたN教官は,原告から,R暴行行為及びSら暴行行為を受けた旨聞き取り,原告の身体を確認したが,傷は見当たらなかった。これを受けて,O教官は,S及びTから事情聴取をしたところ,両名が原告への暴行(Sら暴行行為)を認めたことか
ら,原告との接触を一切禁止する旨指導した。その上で,O教官は,N教官に指示して,R暴行行為及びSら暴行行為を警務隊に通報させた。その後,O教官は,DE中隊の全学生に対し,暴力は絶対にしてはならない旨注意し,
原告に対する指導を控えるように指導した。
(乙チ15,
121,122,129,証人N,同O)

c
O教官は,平成26年5月12日,Rを中隊学生長から,Sを小隊学生長付からそれぞれ解任した上,同月13日,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為について,事故報告を作成した。そして,同日,O教官は,N教官に指示し,R,S及びTに,それぞれ原告に対して謝罪
させた。
(乙チ31,41,121,122)
平成26年5月23日,防衛大は,Rを訓練部長注意,S及びTを総括首席指導教官注意の処分とした(甲E2,乙チ31,41)

前記認定事実

aからcまでのとおり,O教官は,原告の母親から情報

提供を受け,自ら又はN教官を通じて,R,S,T及び原告から,事実の大要を聴取し,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為があったことを確認し,R,S及びTに対し,私的制裁は許されない旨指導し,原告への接触を一切禁止するとともに,警務隊へ通報し,Rを中隊学生長から,Sを小隊学生長付からそれぞれ解任し,原告に対し,謝罪をさせたこと,DE中隊の全学生に対し,暴力的指導は許されない旨注意し,原告への指導を控えるように指導したことが認められる。そして,その後は,R,S
及びTを含む防衛大の学生が原告に対して暴行や通常の指導の範ちゅうを超える飛ばし行為に及ぶことはなかったことが認められるから
(弁論の
全趣旨)
,教官らは,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為と同種
の行為の再発を防止するなどの措置を執ったということができる。したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したとい
うことはできない。
a
原告は,これに対し,O教官が,R暴行行為及びR飛ばし行為を把握した後,直ちに原告及びRに対する事実確認や警務隊への通報を怠り,安全配慮義務に違反したとも主張する。
O教官は,R飛ばし行為につい

ては現場を見るなどして,その回数や程度を正確に把握しなかったとい
わざるを得ないが,事実の大要は事情聴取をして把握し,速やかに警務隊へ通報したことに加え,事実確認が不十分であった点が,その後の同種の事件の再発につながったわけでもないから,原告の主張はその前提を欠くものであって,採用することができない。
b
また,原告は,教官らが,R,S及びTにおいて十分に反省をしていない状態で早期に原告に対する謝罪を行わせたことにより,被告は安全配慮義務に違反した旨主張する。
しかしながら,仮に,原告が,R,S及びTによる謝罪に対し不満を抱いたとしても,そのことが,その後の原告の体調の悪化に直ちに影響したとは認められない(原告自身,その後に発生したU呼出し等行為を恫喝されたものと受け止めて,授業に出席できなくなったと述べる〔原
告本人〔第1回〕。。また,仮に,R,S及びTが,謝罪させられたこ〕)
とに不満を抱いたとしても,それがその後の本件各行為(U呼出し等行為以降のもの)の発生に影響したとは認められないのみならず,少なくともR,S及びTに事の重大さを認識させ,再発防止につなげる効果はあったと認められるから,原告の前記主張は採用することができない。

平成26年5月13日当時の対応について
証拠(甲H98,乙チ34から37まで,122,証人N,同O)によれば,以下の事実が認められる。
平成26年5月13日及び同月14日,O教官は,DE中隊に所属して
いた大隊学生長から,本件服務事故及びそれに引き続くR,S及びTによる暴行等事案が発生した同中隊の悪い雰囲気を一掃するために同中隊全員で走りたい旨の申出を受け,これを許可し,走る前後に,同中隊全員に対し,今回走る目的は,同中隊全員に連帯責任として連帯罰を課すためではなく,同中隊の悪い雰囲気を一掃し,士気を高揚させるためである旨説
明し,N教官及び同中隊全員と共に,1学年及び2学年は軽装(作業服,半長靴,水筒,弾帯)で,3学年及び4学年には更に背嚢を背負わせ,自ら先頭に立って,学生舎及び教場の周りを各日2周程度,20分程度の時間をかけて走った。
前記認定事実

によれば,本件周回走は,教官らが,R暴行行為,R飛

ばし行為及びSら暴行行為を把握して,DE中隊の全学生に対し,原告への指導を禁止した後で行われたこと,O教官は,本件周回走の前後に,連帯罰ではないという趣旨を学生らに説明し,
本件周回走時の学生らの装備
は学年ごとに統一されていたことが認められる。
これらの事実を踏まえれば,本件周回走は,本件服務事故のみならず,R,S及びTが私的制裁を行い,教官らから指導を受けたことをDE中隊の学生らが認識した後で,原告のみが特別に負荷を掛けられるのではなく,学年ごとに一律の装備をするという形で実施されたものであるから,これを許可したO教官の認識としても,客観的にも,原告を唯一の責任原因とする連帯罰として実施されたものではなく,これによって,学生らの原告に対する不満や批判が高まったとは直ちには認められない。そして,前記
前提事実⑶イ

によれば,本件周回走後に発生したU呼出し等行

為は,原告が本件メッセージを送信したことを直接の契機とすること,V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為は,本件周回走から1か月以上が経過し,原告が実家に帰療している間に,V独自の行動を契機として行われたことが認められるから,本件周回走がU呼出し等行為,V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為の原因となったということもできない。したがって,本件周回走の実施により,原告が他の学生らから何らかの危害を加えられるようになったと認めることはできないから,被告が安全配慮義務に違反したものということはできない。
原告は,これに対し,本件周回走は,自分だけが水筒を持たされるなど
の負荷を掛けられる内容であり,本件服務事故を起こしたことへの連帯罰であり,これを実施した被告は安全配慮義務に違反した旨主張する。
みを原因とする連帯罰として実施されたものではなかったと認められる。もっとも,原告は,本件服務事故に対する処分に不安を抱える中,R,S及びTを刑事告訴するか否かの判断に悩むとともに,体調を崩していたこともあって,O教官の前記説明にかかわらず,本件周回走は自身の本件服務事故のみが原因であると思い詰め,連帯罰として受け止めたものということができるところ,O教官においても,原告の上記心情を慮れば,原告が自身に対する連帯罰として受け止める可能性を想定し得たというべきである。そして,原告のみならず,Rも自身の私的制裁による服務規律違反が本件周回走の原因と認識していたと述べていること(分離前相被告R本人)も併せ考慮すると,学生らの中には,防衛大における集団的規律の遵守や団体行動の重要性を意識する余り,O教官の前記説明を建前にすぎないと受け止め,
不満を抱く者もいる可能性があるから,
O教官において,

本件周回走の申出に対して慎重な対応をすべきであったといわざるを得ない。しかしながら,本件周回走の実施が,その後の原告の体調の悪化に直ちに影響したとは認められず(

のとおり,原告自身,その後

に発生したU呼出し等行為以降,授業に出席できなくなったと述べる〔原告本人〔第1回〕。,前記のとおり,その後の本件各行為を招いたもので〕)
もないから,原告の前記主張は採用することができない。
原告は,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為と,その後に発生したU呼出し等行為は,DE中隊において,本件服務事故を起こした原告を標的として,同級生のS及びT並びに上級生のR及びUが共謀の上,集団で,原告を標的として行ったいじめ行為であるから,教官らは,R,S
及びTによる上記各行為を把握した時点で,
原告に対する集団的ないじめ
行為の存在を想定し,U呼出し等行為の発生を予見することができ,これを回避することができた旨主張する。
しかしながら,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為は,いずれも,従前から学生間の一部に存在した,暴力や行き過ぎた指導を是とする
認識に基づき,下級生に規律の遵守を求める上級生が,規律に違反した原告に対して行った行為であるということはできても,R並びにS及びTが,それぞれ,独自に原告に対して抱いた不満等を発端としており,本件全証拠によっても,RがS及びTに原告に対する暴行を指示するなどして,共謀して,
原告を暴力や行き過ぎた指導の対象としようとしたものと認める
ことはできない。また,その後に発生したU呼出し等行為は,前記認定事R,S及びTの上記各行為を把握し,DE

中隊の全学生に対して原告への指導を控えるように指導した後で行われUが独
自に原告を指導する必要があると考えて行ったものであるから,R,S,T及びUの間で,
原告を暴力や行き過ぎた指導の対象としようとする共謀
があったとは認められず,U呼出し等行為が,R,S及びTの上記各行為
と関連するものとは認められない。したがって,教官らにおいて,R,S及びTの上記各行為を把握し,DE中隊の全学生に原告への指導を控えるよう指導した時点で,U呼出し等行為の発生する具体的な危険性はなく,その端緒を得ることもできなかったから,U呼出し等行為の予見可能性があったとは認められない。

したがって,この時点で,教官らにおいて,原告に対するいじめの有無を調査し,
何らかの措置を講じるなどの義務を負っていたということはで
きず,原告の前記主張は採用することができない。

平成26年5月21日当時の対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。

a
平成26年5月21日,原告は,本件服務事故について大隊指導教官から注意処分を受けることになった際,同室の3学年のX(以下X学生という。)から,
表彰を受けると説明すれば笑いがとれると促さ
れて,2学年のLINEグループに本件メッセージを送信した。
(甲A
11,H70,原告本人〔第1回〕。


b
その後,原告は,本件メッセージについて知った他の学生らから,調子に乗っているなどと更に非難を受けるようになった。その頃,原告とは学年も小隊も異なっていたUも,
原告が本件服務事故を起こして指導
を受けるなどしているにもかかわらず,本件メッセージを送信したことなどを聞き及び,当時,R,S及びTが原告に対する私的制裁で事故扱いとされた後で,教官から,原告への指導を控えるよう説明を受けており,U自身,それまでに原告と面識があったわけではなかったものの,なお独自に指導する必要があると考えた。そこで,平成26年5月23日,Uは,原告に対し,本件メッセージの内容や注意処分を受けた際の服装が不適切である旨注意したが,原告に期待したような反応がないこ
とから,ロッカーをガンガンたたき,声を荒げながら,軽率な行動を繰り返していると同期から見放される,今回指導したことが改善されるかどうかは今後も見ていくといった趣旨の発言をした(U呼出し等行為)。
(甲A1,乙チ42,原告本人〔第1回〕
,分離前相被告U本人)
によれば,Uは,原告と同じ中隊に属する3学年とし

ての立場から,
反省が見られないような原告の態度を注意する趣旨で行わ
れたものであり,それ自体違法なものとまでいうことはできないが,原告が圧迫感を受ける態様であり,
不適切なものであったといわざるを得ない。
そして,Uは,原告に注意する中で声を荒げ,ロッカーをたたくなどしており,指導の際に,相手の心情に十分配慮せず,自身の感情を抑えきれな
くなるという,
防衛大において指導能力の十分でない学生が陥りやすい傾
向を反映していることは否定できない。
しかしながら,U呼出し等行為の発生前において,直ちにこれが発生する具体的な危険性があったということはできず,O教官が,U呼出し等行為の発生前に,DE中隊の全学生に対して,原告への指導を控えるように
指導していたこと,Uは,従前,原告と面識もなかったことからすれば,O教官及びN教官において,
Uが原告に対して不適切な指導をすることを
想定することは困難であったというべきである。また,前記認定事実eのとおり,N教官は,原告に対しても,本件服務事故について反省を促していたことからすれば,その原告自身が本件メッセージを送信し,本件服務事故に係る処分(自衛官のみならず,防衛大の学生においても,行き先の明示,特に遠方外出の際の許可は,将来幹部自衛官となる学生のしつけ事項であるとして,
その違反は重く受け止められている
〔乙チ122〕)

を真剣に受け止めていないと他の学生から認識されるような事態を招くことを想定できたということはできない(なお,原告に本件メッセージの送信を促したX学生は,原告が本当にこれを送信するとは思わなかったな
どと述べている〔甲A1,乙チ75〕)
。。そうすると,教官らにおいて,原
告による本件メッセージの送信を契機としてU呼出し等行為が行われることの端緒を得ることはできず,これを予見することができたとは認められない。
したがって,被告が,この時点において,安全配慮義務に違反したとい
うことはできない。
原告は,

Uが,原告に対し,
舐めやがってな

どと発言し,終始威圧的に,今後もRらが行ったような厳しい指導を続けるという趣旨の恫喝をした旨主張し,これに沿う供述をする。
しかしながら,前記認定事実
のとおり,Uは,U呼出し等行為の時

点において,既に,原告への指導を控えるようにとの説明を教官から受けていたのであるから,原告とは面識がなく,同じ中隊に属する上級生というだけの立場において,意図的に前記のような恫喝を行う動機があったとも,およそ自制が困難な状況になったとも認め難い。原告の供述その他関係証拠によっても,恫喝を行っていないとのUの供述部分(分離前相被告
U本人)を否定することはできない。したがって,原告の前記供述及び主張は採用することができない。

平成26年5月26日から同年6月30日までの対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
a
平成26年5月26日,原告の母親から,原告が精神的に落ち込んでおり,一時帰省させたいので,それまで他の学生らから隔離してほしいと依頼されたO教官は,原告を他の学生らから隔離した上,原告と面接
させたメンタルヘルス係から,原告には希死念慮があり,心配であるとの報告を受け,見守りを続けるとともに,原告が退校意思を示したことから,N教官に指示し,原告が両親と進路の相談をできるように,外泊を伴う平日外出の措置を執らせた。そして,O教官は,原告の母親に対し,同月27日朝に原告を外出させる旨伝えた上で,同日朝,原告を帰
療のため外出させた。
(甲A11,H87,99-1,100-1,乙チ
15,121,122,証人N,同O)
b
原告は,平成26年5月30日,福岡の実家に帰省し,同年6月3日には,Y病院において,引き続き2週間の療養を要するとされる抑鬱状態と,同月5日には,福岡県飯塚市内の病院において,同年7月4日ま
で自宅療養及び通院加療を要する抑鬱反応兼自律神経失調症と,同年6月20日には,
同年7月5日から1か月間の静養加療を要するストレス
反応とそれぞれ診断された(甲H6から9まで)

c
N教官は,平成26年6月30日,原告の母親より,原告が本件メッ
セージを送信したことに関し,Uから恫喝を受けた旨の情報提供を受け,Uから事情聴取をしたところ,Uは,原告に対し,本件メッセージや大隊指導教官から注意処分を受けた際の服装について,反省が見られないことや同期の信頼を失う旨指導していたが,その際,貧乏揺すりのような形でロッカーをたたき,声を荒げた旨述べた。そこで,N教官は,U
に対しては,指導の趣旨は理解できるが,ロッカーをたたいたり,声を荒げたことは,威圧的であり,不適切である旨指導した。
(甲H87,乙
チ121,122,証人N,同O)
O教官は,平成26年5月26日に原告を
他の学生から隔離し,メンタルヘルス係と面談させて様子を確認する措置を執ったことが認められるところ
既に同月13日頃より体調を崩していたから,教官らが,原告の精神的健
康の回復を優先し,原告に対し,更なる精神的負担を生じさせることになりかねない,
他の学生による不適切な指導の有無等の事実確認を行わなか
ったことには相応な理由があるというべきであり,これが直ちに安全配慮義務に違反するものとはいえない。そして,仮に教官らが,この時点で,原告からU呼出し等行為について聞き出し,直ちにUを指導したとしても,
その1か月以上後に発生したV写真送信等行為及びWスタンプ送信行為は,後記

のとおりVの過失を直接の契機とするものであり,U呼出し

等行為とは直ちに関連するものでもないから,これらを防止することができたとは認められない。そうすると,教官らが,原告に対して,他の学生から不適切な指導等を受けていないか積極的に確認せず,U呼出し等行為
が行われたことを直ちに察知できなかったことが,原告に対する安全配慮義務に違反するものとは認められない。

平成26年7月1日までの対応について
後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。

a
Vは,原告が実家に帰療した後である平成26年6月上旬,e号室の他の学生らと共に,本件工作物を作成した上で,同室のドアと同じ壁面に設置され,
ドアを開けた際にはドアの陰に隠れる位置にあったホワイ
トボードにこれを立てかけ,その周りに鳥居の絵を描き,原告の口ぶりをまねて,

今日は支給日。ボーナスもらったじゃろ。

と記入した上,
Z大明神と呼んで合掌,礼拝するなどの遊びを行っていた。
(甲F
1,乙チ76,分離前相被告V本人)
平成26年当時,N教官は,毎日,DEF小隊の全部屋を巡回していたが,自習室の中まで入ることはほとんどなく,出入口で室内の状況を確認するだけであり,本件工作物がe号室のホワイトボードに立てかけられていることには気づかなかった(乙チ121,証人N,分離前相被告V本人)


b
Vは,平成26年6月30日,2学年の誰かが原告の帰宅療養に関する報告書を作成,提出する必要があったことから,原告ではない他の同級生個人に対し,
同報告書の作成,
提出を依頼するため,
本件工作物に,
報告書出せじゃろ原告の口ぶりをまねた吹出しを加えて撮影し,
と,
同日午後2時47分,宛先を誤ってこれを本件グループに送信し,同日
午後3時頃,本件グループを自ら退会した(甲A1,F1,G1,乙チ76,原告本人〔第1回〕
,分離前相被告V本人)

c
平成26年6月30日午後3時32分頃,Wは,本件グループ上にVが送信した本件写真に気付き,本件グループのメンバーで自主的に退会しない者を強制的に退会させ,Wと原告のみが残った状態で,午後3時
47分から午後4時頃まで,途中,原告による既読のマークがついたにもかかわらず,これに気付くことさえなく,嘔吐,藁人形,怒り等の絵柄のスタンプ合計724個程度を絶え間なく送信した上,
なんで退会せんの?とのメッセージを送信した。これに対し,原告が辞めさせたいわけ?やねまだ,おれ戻るきあるんやけどこれって,イジメてるんやろ?とのメッセージを送信したところ,Wは原告を本件グループから退会させた。
(甲A1,G1,2,3,5,乙チ44,77,
原告本人〔第1回〕
,分離前相被告W本人)
d
防衛大では,平成26年1月頃,学生らに対し,ソーシャルメディアの使用に関し,ネットで他人を誹謗,中傷することは行わないように指導していた(乙チ47添付資料4,同添付資料17,乙チ121,122,証人N,同O,分離前相被告W本人,同V本人)

e
N教官は,平成26年7月1日,原告の母親より,原告が同級生から嫌がらせを受けた旨の情報提供を受け,原告と同室の学生らから事情聴取をするなどした結果,V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為を把
握し,V及びWから事情聴取をしたところ,Vは,本件写真を他の同級生に送信するつもりで誤って本件グループに送信してしまった旨,Wは,本件写真を原告に見られないようにするためスタンプを送信した旨述べた。
これを受けて,
N教官は,
O教官に報告した上で,
Vに対しては,
原告を誹謗中傷するような写真をLINEで共有することは不適切で
ある旨,Wに対しては,大量のスタンプを送信する行為は相手に誤解を与え,不適切である旨,それぞれ指導した。
(乙チ121,122,証人
N,同O)
a,bによれば,Vは,原告が実家に帰療した後,同室
の他の学生らと共に,本件工作物を作成し,原告の口ぶりを揶揄する書き
込みを加え,合掌,礼拝する遊びを行っていたものであり,本件写真の送信自体はVの過失によるものであったが,
仲間内で原告を嘲笑の対象とす
る幼稚ないじめ行為の一種であるものということができる。もっとも,原告が防衛大で生活していた間に,
Vや同室の学生らが原告に対して何らか
のいじめ行為を行っていたとは認められないこと(弁論の全趣旨),教官

らはVを含む学生らに対しソーシャルメディア上で他人を誹謗,
中傷する
N
教官が,
Vらが療養中の原告を嘲笑の対象としていることを把握する端緒
はなく,
Vらが本件工作物を作成していたことを想定することができたと
は認められない。

そうすると,N教官が,e号室を巡回する際に,同室内にいじめの痕跡がないかどうか確認するために,室内に入ってホワイトボードの記載を確認し,本件工作物の存在を察知する義務を負っていたとは認められず,前
置にあったホワイトボードに本件工作物が立てかけられていたことに気づかなかったことにより,安全配慮義務に違反したということはできない。そして,本件写真の送信自体は,Vが送信先を誤った過失によるものであって,教官らがこれを事前に想定することもできないから,本件写真の送信を事前に防止する義務を負っていたとも認められない。
したがって,被告が,V写真送信等行為について,安全配慮義務に違反したとは認められない。
Wは,本件グループのメンバーを原

告とWのみとした上で,Wスタンプ送信行為を行い,原告を退会させたものであるところ,これは,原告のみを対象に,不快感を催させる絵柄のスタンプを短時間で大量に送信するという客観的態様からして,
療養中の原
告を本件グループから排除する趣旨のものと認められ,
V写真送信等行為
と同様,
原告に対する幼稚ないじめ行為の一種であるものということがで
きる。もっとも,原告が防衛大で生活していた間に,Wが原告に対して何らかのいじめ行為を行っていたとは認められないこと(弁論の全趣旨),
教官らはWを含む学生らに対しソーシャルメディア上で他人を誹謗,中傷
Wスタン

プ送信行為はVの過失による本件写真の送信を前提とすることからすれば,教官らは,Wスタンプ送信行為を事前に想定することはできず,これを事前に防止する義務を負っていたとは認められない。
したがって,被告が,Wスタンプ送信行為について,安全配慮義務に違反したということはできない。

原告は,これに対し,V写真送信等行為もWスタンプ送信行為も,本件服務事故を起こした原告を標的とするDE中隊における集団的ないじめ行為の一環であるから,教官らは,R暴行行為,R飛ばし行為及びSら暴行行為を把握した時点で,
原告に対する集団的ないじめ行為の存在を想定
し,
V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為の発生を予見することができ,これらを回避することができた旨主張する。
V写真送信等行為及びWスタ

ンプ送信行為は,Vの過失による本件写真の送信を直接の契機とするものであるし,そもそもVらが本件工作物を作成した時期は,R,S及びTが原告に対する私的制裁につき事故扱いされた後であり,仲間内で原告を嘲笑の対象とするという目的においても,本件服務事故を起こした原告に対する不満等を動機とするR,S及びTの前記各行為とは,性格を異にし,
関連するものではない。したがって,V写真送信等行為及びWスタンプ送信行為が,原告に対する集団的ないじめ行為の一環であるということはできず,これを前提として,教官らに上記各行為の予見可能性及び回避可能性があったとする原告の前記主張は採用することができない。


被告の安全配慮義務違反をいう原告の主張は,前記のとおり,多岐にわたる
が,その眼目は,防衛大が認める学生間指導において,学生間に様々な問題行為が見られる中,11件にも及ぶ本件各行為が行われたということから,これらが原告に対する上級生及び同級生による一連のいじめ行為であるとともに,学生間指導を始めとする防衛大の制度,体質に起因するというものと解される。しかしながら,前記⑶キ
その時期も発端も異なり,本件全証拠によっても,本件学生らが共謀をして,原告を暴行や行き過ぎた指導,いじめ行為の対象としようとした事実は認められず,相互に関連するものとは認められない。したがって,本件各行為が集団的な一連のいじめ行為であるとの原告の主張は採用することができない。本件各行為当時,防衛大内で,学

生間指導に関して,暴力を伴う指導や,行き過ぎた手法等であってもゲーム感覚で,あるいは規律維持等の目的達成のための手段,指導の一環と受け止めるような認識が学生間の一部にあったことが推認される上に,殊に,指導をする上級生の側において,自らを正当化する傾向が認められるところ,その背景には,学生間指導が,強制力を伴うものではないとされながらも,将来の幹部自衛官としての指揮能力を養成することを目的とされているという特質があり,特に発達途上の未熟な学生においては,その本来の趣旨を十分に理解しないまま,事実上,上命下服の意識の下に行動しているのではないかと推察される。すなわち,防衛大は幹部自衛官の教育訓練をつかさどる機関であるが,自衛隊においては,上命下服の指揮命令等の下に整然と行動することが求められると
ともに,特に幹部自衛官については,過酷な状況下にあっても,自ら秩序を維持し,任務を遂行していくことが求められており,そのような幹部自衛官として必要な伸展性のある資質を育成するため,防衛大においては,自らの意思で規律を維持し,学生としての任務を全うするという自主自律が重視されている(乙チ47添付資料5・22頁)
。このような観点から,学生間指導について

は,防衛大の発行する学生必携学生間指導に関するガイドライン及び,
学生間指導の留意事項等において詳細に定められ,実施されているのであり,将来の幹部自衛官の候補としての身分を有する学生らにおいて,学生間指導が相当程度重みをもつものと認識されていたことは容易に理解できる。その一方で,学生間指導は,学生の指導能力を段階的に養成しようとする修練の場
でもあるから(同16頁,18頁)
,防衛大としては,学生間指導において,指
導する者の中には,十分な指導能力が備わっていないまま,学生らの中に少なからずいるであろう,防衛大における団体行動や規律の維持という考え方に速やかに順応ないし対応することができない者らに対して,性急に指導の成果を求める者や,
指導の成果が現れないことから
(同18頁)自らの感覚や過去の


経験のみに基づく誤った理解や正義感を振りかざし,あるいは自らの感情を抑制することができずに,指導の名を借りて暴力や理不尽な対応等の行き過ぎた指導あるいは指導という枠組みさえ超える行為に至ったりする者が現れることも,容易に想定できる(自らも防衛大出身であろう教官らにおいては,学生舎生活における学生間指導を体験しており,中には,暴力行為が行われたことを聞いたことがある者もいるのであって,上記事情を十分理解できるものと思われる。。そして,防衛大における団体行動や規律の維持という考え方に速や)
かに順応ないし対応できない者らは,学生舎生活の中で,集団的規律に沿わない言動を反復することになり,指導に従って速やかに是正することもできないから,各場面において,周囲の学生らから,指導に素直に従わないと見られる危険性があり,結果として,その者らに学生間指導が集中してしまう事態も想
定される。他方で,指導を受ける者においては,不適切な学生間指導を受けた場合であっても,教官らに対して率直な申告等をしない可能性も否定できない(防衛大においては,指導する者が適切な指導を行っている前提で,指導を受ける者は,指導の細部の意味をその場では理解できなくても型から入ることを理解し,その指導に従うとともに,その後,指導の意味を理解する努力を継続
していくことが求められている
〔同20頁〕)
。。
り,防衛大における学生間指導という制度については,その必要性及び合理性は認められるものの,学生に対して適切な指導あるいは対応をしない限り,抽象的には上記のような危険性が内在しているといわざるを得ない。本件においては,前記のとおり,本件学生らが何らかの意思を通じて,原告を暴力や行き
過ぎた指導等の対象としようとしたものとは認められないが,本件各行為のうち,原告の指導を受ける態度や服務規律違反等を契機として生じたものは,本件学生らが,それぞれの立場で,それぞれが見聞きした各時点における原告の行動,態度について,規律を軽視し,団体行動を乱すものであって指導を必要とするものと判断し,個別に,独りよがりの正義感に基づき,あるいは感情の
抑制をきかせられず腹立ち紛れに,学生間指導の趣旨に沿うことなく,暴力行為に及ぶなどしたものであって,暴力的指導は許されないとする防衛大における指導にもかかわらず,従前から学生間の一部に存在した,暴力や行き過ぎた指導等も是とする認識の影響を受けたものと認められる。
したがって,教官らにおいては,これらの学生間指導の性質を踏まえて,学生間指導について問題が生じた際には,関係者から,事情を,形式的,表面的に聴取するのではなく,例えば,一本の線で一方的に見ないで,他の情報も含めた二線,三線の交叉点を求める方法により事実関係を把握するなどして,関連する他の情報との整合性を吟味する必要があり,その上で,指導する者の指導能力の養成や,暴力行為等を受けた者らの安心確保につなげていく必要があったというべきである。本件においても,原告自身から教官らに対する申出は
控えめであり,あるいは防衛大という組織に継続して所属することを慮って,事件性を否定するような態度をとっていたから,状況の把握は容易ではなかったものの,その母親からの情報提供があったのであるから,教官らにおいて,原告の言動を鵜呑みにすることなく,より積極的に対応することが望ましかったことは明らかである(O教官において,学生の身上把握のために,その家族
とも日頃からコミュニケーションをとるように努めることが大切である旨述べるところ〔証人O〕も同様の趣旨と思われる。。被告において,学生間指導)
について,
『仏を造って魂入れず』の状況となっている
(防衛大学校長発出に
係る平成26年12月25日付け通達学生間指導の在り方について〔乙チ
47添付資料5〕別冊12頁)という認識の下,学生間指導の在り方について
の検討が継続的に進められていることも,同様の問題意識に立つものと認められ,本件のような事態を再度発生させないために重要なことと思われる。このような観点からすれば,本件における教官らの対応については,学生間指導という制度の下での学生の自主自律を重んじようとする意識から,学生間の問題になるべく干渉しないという消極的なものではなかったかという疑問が生じ
るものである。そのような視点において,原告の前記主張における問題意識は理解できる。
このように,本件においては,原告が,1年余りの長期間にわたって,複数の者から異なった暴行等の被害を受ける中で,
教官らにおいて,
これを覚知し,
状況を把握する機会がいくつかあり,この際,教官らにおいて,より積極的に事態を調査し,当時,学生間の一部に暴力や行き過ぎた指導等も是とする認識が存在する中で行われていた学生間指導の在り方を是正するなどの対応をと
ることが望ましかったということがいえるものの,本件当時の具体的状況等に照らすと,本件各行為が発生する具体的な危険性があったとは認められず,教官らにおいて,本件各行為の端緒を認識し,その発生を予見するなどして,本件各行為を回避することは困難であったことから,前記⑶,⑷のとおり,教官らの対応が安全配慮義務に違反するとまでいうことはできない。



小括
よって,争点⑴(被告の安全配慮義務違反)が認められないから,原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

第4結論
以上によれば,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官

足立正佳
裁判官

大野健太郎
裁判官

上原ひとみ
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