判例検索β > 平成30年(ワ)第7123号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)7123
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和元年10月24日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-10-24
情報公開日2019-11-05 12:00:18
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令和元年10月24日判決言渡

同日原本受領

平成30年(ワ)第7123号

特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和元年9月17日
判決原告
株式会社ヘリオス

同訴訟代理人弁護士

山田
威一郎

同柴田和彦
同補佐人弁理士

立花顕治同山下
未知子

被告
CinarraSystemsJapan株式会社

同訴訟代理人弁護士

武智克典同清水将博同大間京介主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

第1
1実及び理由
請求
被告は,別紙被告サービス目録記載の広告配信サービスを提供してはな
らない。
2
被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成30年9月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件は,発明の名称を無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提供方法とする特許権を有する原告が,別紙被告サービス目録記載のインターネット上の広告配信サービス(以下被告サービスという。)を提供してい
る被告に対し,被告が特許発明の生産又は使用行為をし,又は間接侵害行為(特許法101条1号,2号)をしたなどとして,同法100条1項に基づき,別紙被告サービス目録記載の広告配信サービスの提供の差止めを請求するとともに,特許権侵害の不法行為に基づき,損害の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成30年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者

原告は,インターネットを利用したショッピングモールの企画,開設等
を業とする会社である。

被告は,インターネット広告システムの販売等を業とする会社である。
(2)原告が有する本件特許権(甲1,2)

原告は,以下の特許(以下本件特許という。)に係る特許権(以下
本件特許権といい,本件特許に係る発明を請求項の番号により本件発明1などという。また,本件特許の出願の願書に添付された明細書及び図面を本件明細書という。)を有している。本件明細書の記載は本判決添付の特許公報のとおりである。
登録番号
発明の名称

無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提

出願日

平成12年9月5日

登録日

平成13年11月2日

特許請求の範囲

特許第3245836号

本判決添付の特許公報のとおり

供方法


原告は,本件特許権のうち請求項5ないし7,9,11ないし14,1
6ないし20,23,25,27ないし39,41ないし46及び48ないし50
に係る部分を放棄し,それらに係る登録が抹消された。
(3)本件発明1,2及び26の構成要件の分説
本件発明1,2及び26の構成要件は,次のとおり分説される(以下,次の各構成要件を構成要件○と表記する。)。

本件発明1
A
無線通信装置の利用者が,無線通信ネットワークを経由して,通信事
業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供システムにおいて,
BC
前記無線通信装置の現在位置を測定する位置測定手段と,
配信すべき広告情報および配信先情報を入手するとともに,前記広告
情報を前記無線通信装置に送信する広告情報管理サーバとを具備し,D
前記広告情報管理サーバは,前記位置測定手段が測定した前記無線通
信装置の現在位置と前記配信先情報に含まれる位置情報に基づいて,指定地域内の前記無線通信装置に対して前記広告情報を送信し,前記無線通信装置は,前記広告情報管理サーバが送信した前記広告情報の配信を受ける一方,
E
前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の
外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。イ
本件発明2
F
請求項1に記載の無線通信サービス提供システムにおいて,

G
前記広告情報管理サーバは,前記配信先情報に含まれる配信数に達す
るまで,無線通信装置に対して前記広告情報を送信すること,を特徴とする無線通信サービス提供システム。

本件発明26
H
無線通信装置の利用者が,無線通信ネットワークを経由して,通信事
業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,所定の利用料金を支払うと
ともに,
I
前記無線通信装置の現在位置を測定する位置測定手段と,

J
配信すべき広告情報および配信先情報を入手して,前記広告情報を前
記無線通信装置に送信する広告情報管理サーバとを具備する無線通信サービス提供システムで使用される無線通信サービス提供方法において,
K
前記位置測定手段が測定した前記無線通信装置の現在位置と前記配信
先情報に含まれる位置情報に基づいて,前記広告情報管理サーバが指定地域内の前記無線通信装置に対して前記広告情報を送信する送信ステップと,L
前記送信ステップで送信した広告情報の配信を,前記無線通信装置が
受ける受信ステップと,
M
その一方,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び
前記指定地域内に戻っても,前記広告情報管理サーバは同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しない非送信ステップと,を含むことを特徴とする無線通信サービス提供方法。
(4)被告の行為等(甲3の1,3の2)

被告サービス

被告は,平成29年9月以降,被告サービスを提供しているところ,このサービスは,
ウェブサイトを閲覧するスマートフォンのユーザーに訴求するための地域密着型スマホ広告配信サービスであり,広告主が指定した広告配信条件等に基づいて,スマートフォン上で稼働するブラウザ等のアプリにより表示されるウェブサイト上の広告枠に,広告主が提供した広告データ(バナー広告)を表示するサービスである(以下,被告サービスの提供のためのシステムを被告システム,被告サービスに基づく広告データの配信方法を被告方法という。)。被告は,広告代理店として,いわゆるアド・エクスチェンジと呼ばれるインター
ネット上の広告取引市場において,超高速でのデータ処理技術を利用した入札手続(リアル・タイム・ビッディング(RTB))により広告枠の買付けを行い,買付けに
成功した広告枠に広告情報の配信を行っている。
なお,被告が作成した被告サービスに関する媒体資料(甲3の2)では,通信キャリアのデータを活用していることが特徴の1つとして記載されており,主にWiFi位置情報(約45万箇所の国内最大級の商用Wi-Fiネットワークを用いて取得した位置情報)と契約者情報(契約時に記載する性別・年齢・居住地,親名義・子使用の場合は使用者情報)を活用可能であることが記載されている。イ
被告システム

被告システムにおける関係者は,別紙被告システム及び被告サービスの提供方法の構成の図面記載のとおりであり,同別紙にあるSSPとは,Supply10SidePlatformの略称であり,広告枠を提供するウェブサイトを開設する事業者から委託を受け,RTBの技術を利用してDSP業者と入札取引を行うことにより広告枠の販売を行うプラットフォームである。
これに対し,同別紙にあるDSPとは,
Demand-SidePlatformの略称であり,
広告主から広告データの配信の委託を受け,RTBを利用して広告枠の入札に参加し,
広告枠の買付を行うためのプラットフォームであり,被告はこのDSPを提供している。
そして,被告は,自らが提供するDSPと,Supership株式会社(以下スーパーシップという。)等が提供するSSP(スーパーシップが提供するのは広告配信プラットフォームAdGeneration(アドジェネ))とをRTBを利用して接続して,
広告枠の取引を行っていた。

広告主による広告配信の設定

被告サービスを利用する広告主は,被告のウェブサイトにログインし,所定のテンプレートを利用して配信する広告データを作成した上で(そのデータは被告が管理する広告サーバに記録される。),地図から広告の配信エリアを設定するほか(被告サービスでは,半径1㎞~10㎞まで設定可能とされている。),広告の配信先となるスマートフォンのユーザーの性別・年齢,
広告配信期間等を設定する。

また,同一のスマートフォンに対して1日当たり同一の広告を何回配信するか,その回数の上限値を設定することも可能である。なお,被告サービスでは,広告主が予算を設定することにより,概ね,広告枠を落札することができる推定回数(推定配達回数)が決まる。
2
争点
(1)被告システムは本件発明1及び2の技術的範囲に属するか等(争点1)(2)被告方法は本件発明26の技術的範囲に属するか等(争点2)(3)被告の特許権侵害による原告の損害額(争点3)

第3
1
争点についての当事者の主張
争点1(被告システムは本件発明1及び2の技術的範囲に属するか等)
【原告の主張】
(1)被告システムの構成

被告サービスに基づく広告データの配信方法は,広告主の設定によって
変わってくるが,広告主が配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をした場合の被告システムの構成は,以下の構成からなるものと整理できる(以下,次の各構成を構成○と表記する。)。
a
スマートフォンのユーザーが,無線通信ネットワークを経由して,通
信事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供システムにおいて,
b
スマートフォンのユーザーが所持するスマートフォンの現在位置を
Wi-Fiアクセスポイントの設置場所からの電波の届く範囲をもとに検知する手段(以下,Wi-Fi電波検知手段という。)と
c
広告主が作成した広告データ及び配信エリア等の配信先情報を入手し,
管理するサーバ(DSPサーバ)と,広告データをスマートフォンのユーザーのスマートフォンに送信するサーバ(SSPサーバ)とを具備し,

d
SSPサーバは,Wi-Fi電波検知手段が測定したスマートフォンの現在
位置と広告主が設定した配信エリアの情報に基づいて,指定された配信エリア内のスマートフォンに対して広告データを送信し,当該スマートフォンは,SSPサーバが送信した広告データの配信を受け,
e
SSPサーバは,当該スマートフォンが一旦配信エリアの外に出た後,
再び配信エリア内に戻っても,同じ広告データを当該スマートフォンに送信しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム

また,被告システムにおいては,指定期間中に配信する広告の数を設定
するようになっており,被告システムは,以下の構成を備えている。g
広告主が設定した配信数に達するまで,配信エリア内のスマートフォ
ンに対して広告データを送信する
(2)本件発明1及び2と被告システムの対比

構成要件A

構成aによれば,
被告システムは構成要件Aを充足する。
なお,
本件発明は,
通信事業者と広告配信業者が異なる場合も想定した発明であり(本件明細書の【0059】),無線通信サービス提供システムの全体を1つの事業者が保有していることを必須の要件とするものではない。

構成要件B

構成bのWi-Fi電波検知手段は,構成要件Bの位置測定手段に当たるから,被告システムは構成要件Bを充足する。

構成要件C

被告システムにおいては,広告情報を管理するサーバが,広告主が作成した広告データ及び配信エリア等の配信先情報を入手し,管理するDSPサーバ(被告が保有)広告データをスマートフォンのユーザーのスマートフォンに送信するSSPと,
サーバ(スーパーシップが保有)とに分かれているが,DSPサーバとSSPサーバとの間では,瞬時にデータのやり取り及び制御が行われ,スマートフォンのユーザー
への広告データの配信が行われており,2つのサーバが一体となって広告情報管理サーバとして機能している。
なお,構成要件Cでは,広告情報を送信する方法については何ら限定されておらず,被告の下記主張は争う。
したがって,被告システムは構成要件Cを充足する。

構成要件D

構成dによれば,被告システムは構成要件Dを充足する。

構成要件E
(ア)構成要件の解釈について

そもそも,構成要件Eは,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻ったか否かの確認をすることを規定しておらず,被告システムがこのような処理をしていないことは,構成要件Eを充足しないことの理由にはなり得ない。
本件明細書の【0070】の記載によれば,構成要件Eは,広告情報管理サーバ
が,無線通信装置への広告の配信回数が0であるか1であるかを表す送信済フラグに基づいて,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻った場合には,
広告情報を再送しないようにする態様を含むものと解すべきである。本件特許の補正の経緯に鑑みても,構成要件Eの文言の解釈は,【0070】の記載内容を参酌して行うべきであり,そこに記載されている態様を含むことを当然の
前提として本件特許は認められたものというべきである。仮に構成要件Eについて出願前の公知技術等を参酌して限定解釈をするとしても,実施例の記載内容は特許請求の範囲に当然に含まれるように解釈すべきである。
なお,構成要件Eの文言で特定されているのは,一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に戻っても,同じ広告情報を無線通信装置に送信しないということの
みであり,指定地域内に留まり続けている無線通信装置に対して,再度の広告を送信するかどうかは何ら特定されていない。

したがって,指定地域内に入ったスマートフォンに対して,広告情報の配信回数を管理し,1回のみ広告情報を配信する構成を採用すると,本件発明1の技術的範囲に属することになる。
(イ)被告の主張について
被告が周知技術と主張する技術は本件発明の構成要件を充足するものではないし,そもそもその主張は構成要件Eの解釈とは無関係である。念のために付言すると,本件発明は,広告の配信回数を管理するなどして,指定地域内に入った無線通信装置に対して1回のみ広告情報を配信することを特徴とする発明であるところ,被告が指摘するDARTという名称の広告配信サービスは広告
の配信回数を管理するのみであり,DARTの仕組みのみで,一旦指定地域の外に出た後で再び前記指定地域内に戻っても同じ広告情報を再度送信しないことを実現することはできない。また,乙4の1,2の公知技術も単に広告の配信回数を管理するのみであり,一旦指定地域の外に出た後で再び指定地域内に戻っても同じ広告情報を再度送信しないという管理はなされていない。よって,DARTのような広告の配信
回数の管理の仕組みが仮に周知技術であったとしても,そのことが,本件発明が進歩性を欠くことの根拠となるものではない。
また,被告が指摘する従来技術はいずれも,本件発明の最大の特徴である構成要件Eを開示するものではなく,本件発明が進歩性を欠くことの根拠となるものではない。かかる状況下において,本件発明の権利範囲をその文言以上に限定解釈する
理由は皆無である。
原告は,特許請求の範囲に本件発明の作用・効果を記載することにより発明を限定しているが,
発明を限定することにはならない効果の
例示
などはしていない。
被告の主張は,構成要件Eの文言に沿った解釈とはいえず,失当である。さらに,原告は出願時から主張を何ら変えていないから,包袋禁反言に該当しよ
うがない。
被告のその余の主張は否認し,争う。

(ウ)被告システムについて
被告システムでは,広告主が配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をすると,当該スマートフォンが一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻っても,同じ広告データは当該スマートフォンに送信されないから,構成eを備えることになる。
したがって,被告システムは構成要件Eを充足する。

構成要件G

構成gによれば,被告システムは構成要件Gを充足する。
(3)小括
以上のとおり,被告システムは構成要件AないしEを充足しており,本件発明1の技術的範囲に属する。
また,
被告システムは構成要件F及びGも充足しており,
本件発明2の技術的範囲にも属する。
(4)被告による侵害行為の内容


被告システムは,通信事業者が提供している既存の無線通信サービス提供システムの中で,広告配信事業者が提供する広告配信サービスに使用される広告情報管理サーバを利用するシステムであるから,広告情報管理サーバ(DSPサーバ及び広告サーバ)を製造し,無線通信サービス提供システムの中で使用可能にする行為が本件発明1及び2の生産行為に当たる。したがって,被告は,本件発明1及び2の実施行為の主体となる。
仮に,通信事業者がかかる生産行為の実施主体であると考えた場合には,広告情報管理サーバを生産する行為は,特許発明に係る物の生産にのみ用いる物の生産をする行為(特許法101条1号),又は特許発明に係る物の生産に用いる物であって課題の解決に不可欠なものを生産する行為
(同条2号)
に当たることになるから,

被告が被告システムで利用される広告情報管理サーバ
(DSPサーバ及び広告サーバ)
を製造する行為は間接侵害を構成する。


被告は,通信事業者が保有する無線通信サービス提供システムに自らが
開発した広告情報管理サーバ(DSPサーバ及び広告サーバ)を組み込んだ被告システムを使用して,広告配信サービスを提供しているといえるため,本件発明1及び2の使用行為の主体にも当たる。
【被告の主張】
(1)被告システムの構成
被告サービスに基づく広告データの配信方法が広告主の設定によって変わってくること,原告主張の構成cのうち,被告において広告主が作成した広告データ及び配信エリア等の配信先情報を入手し,管理するサーバ(DSPサーバ)を保有し
ていることは認め,スーパーシップが広告データをスマートフォンに送信するサーバを有しているかについては不知。原告のその余の主張は否認し,争う。被告システム及び被告サービスの提供方法の構成は,別紙被告システム及び被告サービスの提供方法の構成記載のとおりであり,被告の具体的主張は次のとおりである。


原告主張の構成a及びb

被告は通信事業者ではなく,無線通信サービス提供システムを保有しておらず,これを提供する立場にはないし,被告システムはWi-Fi電波検知手段を有していない。通信事業者において取得しているスマートフォンの位置情報及び契約者の属性情報は,電気通信事業法及び個人情報保護法の下で厳格に管理がされており,これらの情報が,
被告システムにおいて被告のDSPサーバに配信されることはない。イ
原告主張の構成d

スーパーシップは,広告枠を含むウェブサイトを表示させようとしているスマートフォンのブラウザをクッキーID(IDFA(IdentificationForAdvertisers)やAdvertisingID等を含む。以下同じ。)により識別しているのであって,通信事業者が保有する位置情報によりスマートフォンを認識するのではない(通信事業者が保有する位置情報は厳格に管理され,業者を含む第三者に提供されていない。。DSP


また,スーパーシップは,スマートフォンに対し,広告データを配信していない。ウ
原告主張の構成e

被告が保有するDSPサーバは,
スマートフォンの位置情報を保有しておらず,
スマートフォンが,一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻ったか否かの確認をすることはできない。DSPサーバは,同日に同一の広告が同一のスマートフォンに何回表示されたかを管理しているに過ぎない。
なお,被告サービスにおいては,配信期間を1日以内とし,同一のスマートフォンに同一の広告を表示する回数を1日に1回と設定することができるが,バナー広告はその性質上,ある程度の回数は同一の広告を表示しないとその効果を得るこ
とができないから,そのような設定がされることはまれである。

原告主張の構成g

広告主は,ウェブサイト上の広告枠に広告を表示させる推定回数を予算により調整しており,被告は,広告主の設定した予算に達するまで,RTBを利用した入札に参加し,広告枠を購入しているにすぎない。
(2)本件発明1及び2と被告システムの対比

構成要件A

構成要件Aは,通信事業者により提供される無線通信サービス提供システムにより広告データの配信を行うものであることを明らかにするものである。本件発明1においては,通信事業者が保有する無線通信装置の位置情報を利用することが予定されているが,このような位置情報が通信事業者から被告システムに対して提供されることはない。それゆえ,本件発明1を実施することができるのは通信事業者に限られているのであり,まさに,構成要件Aは,そのことを述べているのである。
なお,本件明細書には,

通信事業者と広告配信業者が異なっていても何ら問題はない。

(【0059】)と説明されているが,開示された実施例において,広告配信業者が単独で本件発明を実施している例は示されていない。
したがって,被告システムは構成要件Aを充足しない。

構成要件B

通信事業者が保有しているスマートフォンの位置情報は,広告配信業者には提供されていないのであるから,広告配信業者である被告が運営する被告システムにおいて,構成要件Bにいうような位置測定手段を備えることはあり得ない。また,
被告システムは,
マッチングサーバにおいて広告配信条件(i)とクッキーID
とのマッチングをする際に使用されている情報にアクセスすることはできず,これを取得することはできないのであり,位置測定手段を備えていると評価する余地はない。

したがって,被告システムは構成要件Bを充足しない。

構成要件C

構成要件Cでいう広告情報を前記無線装置に送信するとの文言は,通信技術が高度化し細分化している現状においては単なる機能を特定する意味があるにすぎず,その内容は本件明細書に記載された実施例等においてサポートされる範囲に限定されなければならない。本件明細書においては,広告情報を電子メールにより配信することのみ開示されるにとどまり,被告システムのように,スマートフォンのブラウザを広告サーバにアクセスさせ,広告データをダウンロードさせる方法による配信方法はどこにも示唆されていない。それゆえ,構成要件Cにいう広告情報管理サーバとは,
広告情報及び配信先情報を入手する機能を備えるとともに,

電子メールにて位置情報を取得した無線通信装置に広告情報を送信する機能を備えるものをいうものと解すべきである。
被告システムにおいては,広告サーバとDSPサーバは別のサーバであって,両者のサーバの間では,広告データが共有されるが,それ以上の連携したデータのやりとり及び制御は行われていない。それゆえ,DSPサーバは,広告情報を無線通信装
置に送信しておらず,構成要件Cにいう広告情報管理サーバには該当しない。また,被告システムにおける広告データの配信方法は,構成要件Cに記載された
広告情報を前記無線装置に送信することを意味するものではなく,このような機能を有する被告の広告サーバは,構成要件Cの広告情報管理サーバには該当しない。
したがって,被告システムは構成要件Cを充足しない。

構成要件D

構成要件Dの現在位置に関する情報とは,携帯端末1Aが送信する電波を複数の基地局2Aによって測定し,各基地局2Aからの距離を計算することにより取得した位置情報,または,単に携帯端末1Aが位置登録している基地局2Aにより大雑把な位置を認識することにより取得した位置情報をいうと解すべきである(本件明細書の【0069】)。
また,構成要件Dにおいて特定された無線通信装置に広告情報を送信する処理とは,電子メールにより,無線通信装置に広告情報を送信することをいうものと解すべきである。
しかしながら,被告システムにおいては,DSPサーバが取得するクッキーIDによ
り広告データを配信すべきスマートフォンのブラウザを識別し,広告データの配信を行っているのであり,Wi-Fi検知手段により,広告データの配信先となるスマートフォンを特定する処理を行っていない。
DSPサーバが受領する情報は,マッチングが成立した1つ以上の広告データのキャンペーンIDであって,
構成要件Dにいう位置情報そのものではない。被告システ

ムにおいては,マッチングサーバとDSPサーバは,独立のサーバとして別々に管理及び制御が行われており,DSPサーバが位置情報を取得することができない体制をとることによって,位置情報の漏洩を防ぎ,その厳格な管理が行われている。また,被告システムにおいては,無線通信装置に広告情報を電子メールで送信する処理は行われていない。

したがって,被告システムは構成要件Dを充足しない。

構成要件E

(ア)構成要件の解釈について
特許法70条1項等を踏まえると,特許請求の範囲に記載された文言は,単に,本件発明の効果を例示するだけであるような無意味なものと解されてはならず,特許発明の範囲を画するものとして解釈されなければならない。特許発明の範囲の用語の意味を解釈するため,発明の詳細な説明に記載されている内容を斟酌することは許されるが,特許発明の範囲において,解釈の余地がない明確な文言で特許発明の範囲が特定されている場合において,その実施例の記載を以て特許発明の技術的範囲を拡大するような解釈は許されることがあってはならない。そして,構成要件Eの文言からは,一旦,広告情報を受信した無線通信装置が,
その後,広告配信条件とされている指定地域の外に出た後に,再び当該指定地域に戻っても,再度,同じ広告情報をその無線通信装置に配信しないことを意味するものと解さざるを得ない。
また,構成要件Eにおいては,無線通信装置の所在(指定地域の外にあるか中にあるか)によって違いが生じることを前提としていると解される。
無線通信装置に広告情報を配信した回数をカウントし,同一の無線通信装置に同一の広告情報を配信しないという技術は,当時,無線通信事業者においては周知であったのであり(DART(DynamicAdvertisingReporting&Targeting)という名称の広告配信サービス等。乙3の1の1ないし乙4の2参照),原告の主張を前提とすると構成要件Eは,本件発明の進歩性を特徴付けるものたり得なくなる。
原告は,本件特許の出願審査の過程において,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないという文言は,本件発明の技術的範囲を特定する重要な構成要素であると説明して,その特許性を主張するとともに,その特有の作用・効果がある旨主張していた。したがって,原告の主張は,いわゆる包袋禁反言の法理
に照らしても,到底許されるものではない。
(イ)被告システムについて

スマートフォンのブラウザに広告データをダウンロードさせる被告の広告サーバもDSPサーバも,スマートフォンの位置情報を保有しておらず,スマートフォンが,一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻ったか否かの確認をすることはできない。
被告が確認できるのは,当該スマートフォンのブラウザが,同日に同一の広告データを何回配信したことがあるスマートフォンのブラウザであるかという点のみであり,この確認は,当該スマートフォンの位置情報とは無関係に行われる。したがって,広告主が,配信期間を1日以内とし,1台のスマートフォンのブラウザに対して1日に同一の広告を配信する上限回数を1回に制限する設定をしたと
しても,被告システムは,構成要件E記載の処理を行っていない。以上より,被告システムは構成要件Eを充足しない。

構成要件G

構成要件Gにおいては,広告主が配信数を指定し,広告情報の送信は当該指定配信数に達するまで行われることとされているが,被告システムにおいては,広告主が設定する広告配信条件においては,予算により事実上配信数が制限されるのであり,広告枠に広告を表示する回数は当該予算に応じた推定回数に過ぎない。したがって,被告システムは構成要件Gを充足しない。
(3)以上のとおり,被告システムは構成要件AないしE及びGのいずれをも充足せず,原告の間接侵害の主張にも理由がないから,被告の行為は本件特許権の侵
害に当たらない。
2
争点2(被告方法は本件発明26の技術的範囲に属するか等)

【原告の主張】
(1)被告方法の構成
被告サービスに基づく広告データの配信方法は,広告主の設定によって変わってくるが,広告主が配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をした場合の被告方法は,以下の
構成からなるものと整理できる。
h
スマートフォンのユーザーが,無線通信ネットワークを経由して,通信
事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,所定の利用料金を支払うとともに,
i
スマートフォンのユーザーが所持するスマートフォンの現在位置をWi-
Fiアクセスポイントの設置場所からの電波の届く範囲をもとに検知するWi-Fi電波検知手段と
j
広告主が作成した広告データ及び配信エリア等の配信先情報を入手し,
管理するDSPサーバと,広告データをスマートフォンのユーザーのスマートフォンに送信するSSPサーバとを具備する無線通信サービス提供システムで使用される無線通信サービス提供方法において,
k
Wi-Fi電波検知手段が測定したスマートフォンの現在位置と広告主が設
定した配信エリアの情報に基づいて,SSPサーバが指定された配信エリア内のスマートフォンに対して広告データを送信する送信ステップと,
l
前記の送信ステップで送信した広告データの配信を当該スマートフォン
が受ける受信ステップと,
m
当該スマートフォンが一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内
に戻っても,SSPサーバは同じ広告データを当該スマートフォンに送信しない非送信ステップと,を含むことを特徴とする無線通信サービス提供方法(2)本件発明26と被告方法の対比

構成要件H

通信事業者と広告配信業者が異なる場合の実施主体は,送信ステップ,受信ステップ,非送信ステップという3つのステップを行っている者であると解するのが相当であり,構成hによれば,被告方法は構成要件Hを充足する。イ
構成要件I

構成iのWi-Fi電波検知手段は,構成要件Iの位置測定手段に当たるか
ら,被告方法は構成要件Iを充足する。

構成要件J

被告方法においては,DSPサーバとSSPサーバが一体となって広告情報管理サーバとして機能している。したがって,被告方法は構成要件Jを充足する。エ
構成要件K

構成kによれば,被告方法は構成要件Kを充足する。

構成要件L

構成lによれば,被告方法は構成要件Lを充足する。

構成要件M

構成要件Mについては,構成要件Eと同じ解釈をすべきである。
被告方法では,広告主が配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をすると,構成mのステップを踏むことになる。
したがって,被告方法は構成要件Mを充足する。

(3)小括
以上のとおり,被告方法は構成要件HないしMを充足しており,本件発明26の技術的範囲に属する。
(4)被告による侵害行為の内容
本件発明26において,
通信事業者と広告配信業者が異なる場合の実施主体は,

送信ステップ,受信ステップ,非送信ステップという3つのステップを行っている者であると解するのが相当であり,被告方法においては,被告が,送信ステップ,受信ステップ,非送信ステップという3つのステップを行っているといえるから,本件発明26の実施主体は,被告であるというべきである。
【被告の主張】

(1)被告方法の構成
被告サービスに基づく広告データの配信方法が広告主の設定によって変わって
くること,原告主張の構成jのうち,被告において広告主が作成した広告データ及び配信エリア等の広告配信先情報を入手し,管理するサーバ(DSPサーバ)を保有していることは認め,原告のその余の主張は否認する。
被告の具体的主張は,前記1の【被告の主張】(1)に記載したのと同じである。(2)本件発明26と被告方法の対比

構成要件H

無線通信サービスの提供は,通信事業者が行っているものであり,被告方法は,無線通信サービスを提供するためのものではない。したがって,被告方法は構成要件Hを充足しない。

構成要件I

広告配信業者である被告が運営する被告方法において,構成要件Iにいうような位置測定手段を備えることはあり得ないし,位置測定手段を備えていると評価する余地もない。したがって,被告方法は構成要件Iを充足しない。ウ
構成要件J

構成要件Cと同じ解釈が妥当する。被告方法において,広告サーバとDSPサーバは別のサーバであり,
両者のサーバが一体となって機能しているとはいえない。
また,被告方法の広告配信方法は,構成要件Jの広告情報を前記無線通信装置に送信するに当たらない。したがって,被告方法は構成要件Jを充足しない。


構成要件K

構成要件Dと同じ解釈が妥当する。被告方法においては,Wi-Fi検知手段により,指定地域内にあるスマートフォンを特定する処理を行っていない。また,被告方法においては,構成要件Kにあるような,無線通信装置に広告情報を送信する処理は行われていない。
したがって,被告方法は構成要件Kを充足しない。

構成要件L

構成要件Cと同じ解釈が妥当する。被告方法においては,スマートフォンのブラウザに対し,広告サーバにアクセスさせ,広告データをダウンロードさせる方法がとられており,構成要件Lの構成とは異なる。したがって,被告方法は構成要件Lを充足しない。

構成要件M

構成要件Mについては,構成要件Eと同じ解釈をすべきである。
被告の広告サーバは,スマートフォンの位置情報を保有しておらず,スマートフォンが,一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻ったか否かの確認をすることはできない。
したがって,広告主が,配信期間を1日以内とし,1台のスマートフォンのブラウザに対して1日に配信する上限回数を1回に制限する設定をしたとしても,被告方法は,構成要件Mに記載のような,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に戻っても,広告情報を送信しないという非送信ステップは含んでいない。

したがって,被告方法は構成要件Mを充足しない。
(3)以上のとおり,被告方法は構成要件HないしMのいずれをも充足しないから,被告方法の実施は,本件特許権の侵害には当たらない。
3
争点3(被告の特許権侵害による原告の損害額)

【原告の主張】
(1)被告は,平成29年1月以降,被告サービスの提供により,広告主から,少なくとも2億円の広告料を得ているところ,原告が被告に対して本件発明の実施許諾をした場合の実施料率は広告料の5%を下らない。
したがって,特許法102条3項による損害額は,1000万円を下らない。(2)原告は,
本件訴訟に関し,
弁護士費用の負担を余儀なくされているところ,

被告の特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,
100万円を下らない。
【被告の主張】

原告の主張は否認し,争う。
第4
1
当裁判所の判断
本件発明の技術的意義について

本件明細書の記載によれば,
本件発明の技術的意義は,
次のとおりと認められる。
(1)発明の属する技術分野
本件発明は,無線通信装置,無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提供方法に係り,更に詳しくは,通信事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,利用者が所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供システムやそのシステムで使用される無線通信装置及び無線通信サービス提供方法に関する
ものである(【0001】)。また,本件発明は,それらの処理手順を実行させるプログラムを半導体メモリー,(レーザーディスク)HD
LD
,(ハードディスク)

FD(フロッピーディスク),MD(ミニディスク),CD(コンパクトディスク)又はDVD(デジタルビデオディスク)などに記録した情報記憶媒体に関するものである(【0002】)。

(2)従来の技術

近年,携帯情報端末や携帯電話機に代表される無線通信装置の普及は目
覚しく,特に携帯電話機では通話料金や本体価格の低下に伴い,一人に一台の時代となりつつあり,若者の間では既に必須アイテムとなっている(【0003】)。また,それらの無線通信装置では基本機能である通話機能に加え,文字送受信機能,テキストデータや各種ファイルを送受信する電子メール機能およびNTTドコモのiモードに代表されるインターネット接続機能を具備するものを各通信事業者が短期間に競って商品化しており,次々に性能アップと機能アップが図られている(【0004】)。

電機製品の量販店や百貨店などの大手小売業者,また日用雑貨品を販売
するスーパーマーケットなどの中規模小売業者,更には八百屋や果物屋などの個人小売業者が大売りや安売り広告を出す場合,広告費用が少なければ,日刊新聞に折
込チラシを入れ,
新聞購入者宅に直接配達することにより宣伝を行っている。
一方,
広告費用に十分余裕があれば,TVやラジオなどのマスメディアを用いて,コマーシャルという形式で視聴者に配信する(【0005】)。
(3)発明が解決しようとする課題
しかしながら,上述した従来の広告および宣伝方法では,折込み広告やコマーシャルが家庭には届くものの,広告情報がターゲットとする消費者に正しく伝わったか否かは不明である。例えば,街の魚屋が近隣の住人に折込み広告を配信し,午前10時から午後5時まで大売出しをする場合を考えると,主婦層が折込み広告を見てその時間帯に店まで来てくれれば広告は成功である。しかし,その地域に住む
単身サラリーマンの場合には,広告を見るかも知れないが,その時間帯には会社で仕事をしており当該魚屋からは離れた場所にいるので,大売出し商品を購入することは物理的に困難であり,広告は殆ど無意味なものになってしまう。また,マスメディアによるコマーシャルの場合も同様のことが言え,例えば,サラリーマンの勤務時間帯にそれをターゲットとするコマーシャルを流しても無駄になることの方が
多い(【0006】)。
本件発明は,上記の問題点を解決する為になされたものであり,無線通信装置の所有者をターゲットにして,的確な広告情報をタイムリーに配信することが可能な無線通信装置,無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提供方法を提供することを目的とする。また,その方法の手順を記録した情報記憶媒体を提供す
ることを目的とする。さらに,広告情報を受信した利用者は,利用料金の割引を受けることを目的とする(【0007】)。
(4)発明の効果
本件発明に係る無線通信装置,無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提供方法によれば,通信事業者や広告配信業者が送信した広告メッセージに
基づいて利用料金が割り引かれるので,利用者も喜んで契約し,広告メッセージを受け取ることに抵抗がなくなる(【0091】)。

また,広告メッセージは,広告主の商店を基準に所定距離以内にいるターゲットに対して送信されるので,広告配信の効果が非常に高い。さらに,商品の売れ行きに応じてタイムリーな広告メッセージを配信できるので,売れ残りの防止に貢献できる(【0092】)。
2
争点1(被告システムは本件発明1及び2の技術的範囲に属するか等)につ
いて
(1)事案に鑑み,まず,被告システムが構成要件Eを充足するかについて検討する。
被告は構成要件Eの文言を踏まえ,一旦,広告情報を受信した無線通信装置が,その後,広告配信条件とされている指定地域の外に出た後に,再び当該指定地域に戻っても,再度,同じ広告情報をその無線通信装置に配信しないことを意味するものと解すべきなどと主張する。
これに対し,原告は,構成要件Eは,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻ったか否かの確認をすることを規定しておらず,被告シ
ステムがこのような処理をしていないことは,構成要件Eを充足しないことの理由にはなり得ないと主張するとともに,
実施例の記載内容
(本件明細書の
【0070】

は特許請求の範囲に当然に含まれるように解釈すべきなどと主張する。(2)構成要件Eの解釈

そもそも,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の
記載に基づいて定めなければならないとされている(特許法70条1項)。そこで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1をみると,構成要件Eとして,次のように記載されている。

前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。

ここでは,

前記広告情報管理サーバは,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないこと,を特徴とする無線通信サービス提供システム。

と記載されるのではなく,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,という文言(以下
本件指定地域に関する文言
という。)がみられる。
このように,構成要件Eには本件指定地域に関する文言がわざわざ付加されているから,その文言には何らかの意味があるものとして理解すべきであり,構成要件Eについて本件指定地域に関する文言がない場合と同じ解釈をすることは許されず,その文言によって本件発明1の構成が特定(限定)されているものと理解するのが
相当である。

そこで,本件指定地域に関する文言の意義について検討すると,ここで
いう指定地域とは,構成要件C及びDの記載を踏まえると,広告提供者から入手した配信先情報に含まれる,広告提供者が広告情報を配信する地域として指定した地域のことである。
そして,構成要件Eは,構成要件Dにおいて,無線通信装置が少なくとも1回は広告情報の配信を受けたことを踏まえたものであるから,無線通信装置がその時点で上記指定地域内に存在していたことが前提となるが,無線通信装置は,その性質上,①その指定地域内に存在し続ける場合(①の場合)もあれば,②指定地域外に出る場合もあり,後者の場合については,指定地域外に出たままの場合(②-1の
場合)もあれば,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻る場合(②-2の場合)も想定される。
このうち,指定地域外に出たままの場合(②-1の場合)に,無線通信装置に同じ広告情報が送信されないことは明らかであるが(これは構成要件Eによるものではなく,指定地域内の無線通信装置に広告情報を送信するという構成要件Dの構成
による作用効果である。),指定地域内に存在し続けている場合(①の場合)及び一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合(②-2の場合)には,無
線通信装置に同じ広告情報が送信される可能性がある。
そうすると,本件指定地域に関する文言は,無線通信装置に同じ広告情報が送信される可能性がある場合のうち,上記②-2の場合だけを記載し,上記①の場合をあえて記載していないことになる。

以上のことを踏まえると,
構成要件Eは,
広告情報管理サーバが,
特に,

無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同じ広告情報を無線通信装置に送信しないことを特徴とするということを記載したものと解すべきこととなる。
もっとも,これは,広告情報管理サーバが広告情報を無線通信装置に送信するものであること(構成要件C)を踏まえ,同じ広告情報を再送信するかどうかという機能ないし作用効果に着目して記載されたものであり,その具体的構成について,当該広告情報管理サーバは,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないようにする構成を備えているだけでは足りず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しない
ようにする構成を備えていなければ,構成要件Eを充足するとはいえないと解すべきである。

原告の主張について
(ア)原告は,本件明細書の【0070】の記載を指摘し,構成要件Eは,
広告情報管理サーバが,無線通信装置への広告の配信回数が0であるか1であるかを表す送信済フラグに基づいて,無線通信装置が一旦配信エリアの外に出た後,再び配信エリア内に戻った場合には,広告情報を再送しないようにする態様を含むものと解すべきであると主張する。
原告の主張のように,構成要件Eが,無線通信装置への広告の配信回数のみによって広告情報を再送信しないようにする態様を含むと解する立場をとると,無線通
信装置が一旦配信エリアの外に出た後,
再び配信エリア内に戻った場合だけでなく,
無線通信装置が配信エリア内に存在し続けている場合にも,同じ広告情報が再送信
されなければ構成要件Eを充足することになる。
しかしながら,一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻ってもという構成要件Eの用語は,一義的に明確というべきであるし,特許請求の範囲には,発明を特定するために必要な事項が記載され(特許法36条5項),特許発明の技術的範囲が,特許請求の範囲の記載に基づいて定められることは前述のとおりであるから(同法70条1項),前記②-1と②-2の態様を区別する構成なしに,広告情報の配信回数を制限し得ることをもって,構成要件Eを充足すると解することはできない。
(イ)本件明細書の【0070】では,広告情報管理サーバによる広告情報
(広告メッセージ)の配信方法等について記載されており,広告を配信する際,個人情報データベースに項目として本広告メッセージに対応する広告IDを追加し,送信済フラグを立てる。これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを重複して送信することがなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。と記載されている。この記載のうち,即ちよりも前の記載は,個人情報データベースに配信した広告メッセージに対応する広告IDを追加し,送信済フラグを立てると,その広告メッセージの配信を受けたユーザーに対しては,同一の広告メッセージを重複して送信することがなくなるとの当然の機能ないし作用効果を記載したものと解される
が,即ちの後ろの記載は,

携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。

というものであり,前記イで判示したとおり,携帯端末1Aが指定地域内に存在し続けており,同一の広告メッセージを重複して受信する可能性がある場合があえて除かれていることから,即ちの前の記載と同視し得るものと認
めることはできず,即ちの前の記載と後ろの記載とは,本来,即ちという接続詞を用いて接続することのできる関係にはないといわざるを得ない。
したがって,構成要件Eは,【0070】の即ちの後ろの記載に対応するものであるが,上記検討したところによれば,即ちの前の記載が,構成要件Eの意味内容である,あるいは,本件発明1の実施例であるということはできない。また,【0070】は【0069】の後に記載されているところ,【0069】では,広告情報管理サーバが,広告配信サービス契約を結んだ全てのユーザの携帯端末の位置情報を時々刻々更新しており,常にそれら端末の現在位置を把握していることが記載されている。そして,【0070】の即ちの後ろでは,無線通信装置が指定地域内に存在し続けている場合が除かれていることからすると,そこでは,特に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合
に,同じ広告メッセージを送信しないということを記載したものと読むのが自然である。
以上のことを踏まえると,【0070】の記載内容によって,前記ウの解釈は左右されないというべきである。
(ウ)本件特許の出願経過について

a
原告は,本件特許の補正の経緯に鑑みても,構成要件Eの文言の解
釈は本件明細書の【0070】の記載内容を参酌して行うべきであると主張するのに対し,被告は,原告が本件特許の出願経過において,構成要件Eの文言を本件発明の技術的範囲を特定する重要な構成要素であると説明していたとして,原告の主張は,いわゆる包袋禁反言の法理に照らし,許されないと主張する。b
そこで,まず,本件特許の出願経過について認定する。後掲の証拠
及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(a)本件特許の出願時の特許請求の範囲は,次のとおりであり(請求項1,3及び5以下は省略),発明の名称は無線通信装置,無線通信サービス提供システム及び無線通信サービス提供方法とされていた(甲9)。【請求項2】通信事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,
利用者が所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供システムにおいて,
前記通信事業者の無線通信ネットワークを経由して広告情報を送信する広告情報送信手段と,
前記広告情報を受信する受信手段と,
前記広告情報を表示する表示手段と,
前記表示手段が前記広告情報を表示する際,前記広告情報を表示したことを示す表示済情報を前記無線通信ネットワークを経由して送信する送信手段と,前記表示済情報を受信する表示済情報受信手段とを具備し,
前記利用料金は,前記表示済情報受信手段が受信した表示済情報に基づいて,割り引かれること,

を特徴とする無線通信サービス提供システム。
【請求項4】通信事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,利用者が所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供方法において,前記通信事業者の無線通信ネットワークを経由して広告情報を送信する第1ステップと,

前記広告情報を受信する第2ステップと,
前記広告情報を表示する第3ステップと,
前記第3ステップが前記広告情報を表示する際,前記広告情報を表示したことを示す表示済情報を前記無線通信ネットワークを経由して送信する第4ステップと,前記表示済情報を受信する第5ステップとを含み,

前記利用料金は,前記第5ステップが受信した表示済情報に基づいて,割り引かれること,
を特徴とする無線通信サービス提供方法。
(b)特許庁の審査官は,平成13年5月7日付けで,本件特許について拒絶理由通知をした。その理由は,当初の請求項2,4等に係る発明は,進歩性
が欠如しているから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであり,拒絶理由通知書には,特開平11-65434号公報(乙6)
等の引用文献には,広告情報を無線端末で受信し,表示する技術が記載されている一方,広告情報が受信されたことを確認することによって所定の割引を実施することは,極めて普通に行われていることと認められるから,引用文献に記載されたものに基づいて当初の出願時の発明のよう構成することは,当業者が容易に想到しえたと認められる旨記載されていた(甲7)。
(c)原告は,平成13年6月11日,特許庁長官に対し,本件特許の明細書を変更する手続補正書を提出した。この補正では,特許請求の範囲の請求項1,2が本件特許の設定登録時のもの(前記第2の1(3)ア及びイ参照)と同じ内容に変更され,この際に,特許請求の範囲に構成要件Eに係る構成が含まれるに至っ
たほか,請求項26が次のとおり変更された。また,発明の名称が本件特許の設定登録時のものに変更された(甲8)。
【請求項26】無線通信装置の利用者が,無線通信ネットワークを経由して,通信事業者から無線通信サービスの提供を受けることにより,所定の利用料金を支払う無線通信サービス提供方法において,

前記無線通信装置の現在位置を測定する位置測定ステップと,
配信すべき広告情報および配信先情報を入手するとともに,前記広告情報を前記無線通信装置に送信する広告情報管理ステップとを含み,
前記広告情報管理ステップは,前記位置測定ステップが測定した前記無線通信装置の現在位置と前記配信先情報に含まれる位置情報に基づいて,指定地域内の前記無
線通信装置に対して前記広告情報を送信し,前記無線通信装置は,前記広告情報管理サーバが送信した前記広告情報の配信を受ける一方,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないこと,
を特徴とする無線通信サービス提供方法。

(d)原告は,同日,特許庁審査官に対し,意見書を提出し,上記補正後の特許請求の範囲の請求項1について,その内容を記載した上で,

特に,『前記広告情報管理サーバは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないこと』に特徴付けられるものであります。

本願発明は,かかる特徴的な構成を有機的に関連付けて具備することにより,明細書の段落0070に記載した通り,『これにより,同じユーザに対して同一の広告メッセージを重複して送信することがなくなる。即ち,携帯端末1Aが一旦指定地域の外に出た後,再び指定地域内に戻っても,この送信済フラグが立っていれば,同じ広告メッセージを送信しない。』という特有の作用・効果を奏するものであります。などと説明した。また,原告は,
拒絶理由通知における引用文献との対比の項目でも,
上記構成を含む構成を
最大の特徴とした上で,引用文献にはこの構成についての記載や示唆は一切なく,補正後の請求項に係る各発明は,引用文献に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものではないと結論付けていた(乙1)。
(e)その後,上記請求項26を本件特許の設定登録時のもの(前記第2の1(3)ウ参照)
と同じ内容に変更する補正がされるなどした後,
本件特許につい

て特許査定がされた。
c
前記bで認定した本件特許の出願経過に照らし検討すると,
確かに,

構成要件Eは本件明細書に【0070】の記載があることを踏まえて追加されたものであることがうかがわれるが,原告は,上記補正に当たって,構成要件Eの構成を特徴的な構成などと位置付けた上で,この構成を含む構成についての記載や示唆が引用文献には一切ないことを前提として,これを強調していた。他方で,乙3の1の1ないし乙4の2によれば,本件特許が出願された平成12年9月以前から,インターネットを利用した広告情報(バナー広告)の配信サービスの分野においては,ユーザー(利用者)に対して同じ広告が配信(表示)される回数をコントロール(制限)することによって,バナーバーンアウト(広告に
反応がなくなる状態)ないしバナー飽き(wearout)を防止し,効果的な宣伝広告を実現することが広く行われていたと認められる。この点,原告も,乙3の1の
1等で触れられているダブルクリック社のDARTや乙4の1,2の公知技術が,広告の配信回数を管理するものであることを認めている。
そうすると,原告が本件特許の出願経過において,単に,本件特許の出願前から広く行われ,公知技術でもあった同じ広告の配信回数を管理するという構成による機能ないし作用効果を構成要件Eに記載し,これを本件特許の特徴的な構成などとして強調していたとは考え難い。
むしろ,前記認定の原告による本件特許の出願経過における説明内容に加え,本件特許の出願当時,広く行われ公知とされていた技術を前提とすれば,原告は,特に,無線通信装置が一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻った場合に,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないようにする構成を強調していたと理解するのが自然である。
したがって,先に判示した構成要件Eの解釈は,原告による本件特許の出願経過における説明等とも整合的ということができ,これに反する原告の主張は採用できない。

(3)被告システムの構成と構成要件Eの充足の有無
原告は,被告システムでは,広告主が広告データの配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をすると,構成eを備えることになると主張するが(原告は,広告データの配信回数を2回以上と設定した場合に,被告システムが構成要件Eを充足する旨の主張
はしない。),この構成は,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないようにする構成にすぎず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻ったことを把握して,無線通信装置に同じ広告情報を再送信しないようにする構成を備えているとはいえない。そうすると,原告主張の上記構成は,構成要件Eを充足しないこととなる。

そして,その他に被告システムが構成要件Eを充足するとすべき事情は主張立証されていないから,被告システムは構成要件Eを充足せず,本件発明1及び同発明
の従属項に係る発明である本件発明2の技術的範囲に属さないこととなる。また,これを前提とすると,原告の間接侵害の主張も理由がない。
3
争点2(被告方法は本件発明26の技術的範囲に属するか等)について被告方法が本件発明26に係る構成要件Mを充足するかが当事者間で争われ
ているところ,この構成要件の非送信ステップは,前記無線通信装置が一旦前記指定地域の外に出た後,再び前記指定地域内に戻っても,前記広告情報管理サーバは同じ前記広告情報を前記無線通信装置に送信しないというものである。この文言は,構成要件Eの文言と同様のものであるから,前記2で判示した構成要件Eの解釈がそのまま妥当すると解すべきである(なお,請求項26の構成要件Mは
前記認定の平成13年6月11日の補正とは別の補正によってさらに変更されたものであるが,構成要件Eの文言と同様の文言が使用されていることからすると,構成要件Eと異なる解釈をすべき理由は見当たらない。)。
したがって,単に,同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないようにするものは,構成要件Mの非送信ステップには当たらず,これに当たるためには,一旦
指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しないものである必要があると解すべきである。この点につき,原告は,被告方法では,広告主が配信期間を1日以内とし,1人のスマートフォンのユーザーに対して1日に配信する回数を1回に制限する設定をすると,構成mのステップを踏むことになると主張するが,これだけでは,単に,
同じ広告情報を無線通信装置に再送信しないようにするものにすぎず,一旦指定地域外に出た後,再び指定地域内に戻ったことを把握して,当該無線通信装置に,同じ広告情報を再送信しないものではないから,構成要件Mの非送信ステップを含んでいると認めることはできない。
そして,その他に被告方法が構成要件Mを充足するとすべき事情は主張立証され
ていないから,被告方法は構成要件Mを充足せず,本件発明26の技術的範囲に属さないこととなる。

4
以上より,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
野上誠一島村陽子
裁判官

別紙以上
被告サービス目録


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