判例検索β > 令和1年(わ)第288号
過失運転致死傷被告事件
事件番号令和1(わ)288
事件名過失運転致死傷被告事件
裁判年月日令和元年10月3日
法廷名大津地方裁判所
裁判日:西暦2019-10-03
情報公開日2019-10-31 12:00:09
戻る / PDF版
令和元年10月3日宣告
令和元

288号

裁判所書記官
過失運転致死傷被告事件
判決主文
被告人を禁錮2年に処する
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,令和元年5月24日午後4時18分頃,大型乗用自動車を運転し,滋賀県草津市内の高速道路へ通じる付加車線を時速約90キロメートルで進行するに当たり,前方左右を注視し,進路の安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,考え事をし,前方左右を注視せず,進路の安全確認不十分のまま漫然前記速度で進行した過失により,折から進路前方で渋滞のため停止中のA(当時29歳)運転の普通乗用自動車を前方約四十数メートルの地点に迫って初めて認め,急制動の措置を講じるとともに,右にハンドルを切ったが間に合わず,同車右後部に自車左前部を衝突させ,その衝撃により同人運転車両を左前方に押し出して同車右側部をその前方で停止していたB(当時57歳)運転の普通乗用自動車右後部に衝突させ,その衝撃により前記A運転車両を転覆させるとともに,前記B運転車両を前方に押し出して同車前部をその前方で停止していたC(当時69歳)運転の普通乗用自動車後部に衝突させ,よって,前記A運転車両の同乗者D
(当時58歳)
に外傷性頭蓋内出血等の傷害を負わせ,
同日午後6時12分頃,
大津市所在のE病院において,
同人を同傷害により死亡させたほか,
別表のとおり,
前記Aら14名にそれぞれ傷害を負わせた。
(証拠の標目)
省略

(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,被告人が大型乗用自動車(観光バス)を運転して高速道路へ通じる付加車線を時速約90キロメートルで進行していたところ,考え事をして前方注視を怠った過失により,進路前方で渋滞のため停止していた車両に自車を衝突させ,車両4台が絡む多重追突事故を起こし,1名を死亡させ,14名に重軽傷を負わせたという過失運転致死傷の事案である。
被告人は,大型車であるバスを運転して高速道路上を時速約90キロメートルという高速度で進行しており,ひとたび事故になれば重大な結果を招くことになるから,特に注意して運転することが求められていた。そして,被告人は本件事故の少し前にジャンクション付近の渋滞を知らせる電光掲示板を見ており,かつ,バス運転手としての経験からもジャンクション付近は渋滞していることを予想できたのに,思いのほか交通量が少なく,渋滞している様子がなかったことから油断し,考え事をし始めて前方注視がおろそかになり,本件事故を起こした。本件事故現場は見通しの良い直線道路で,前方の車両が渋滞で停止していることは前方を見てさえいれば容易に認識できた上に,被告人が考え事をし始めてから前方の停止車両に気付くまでに進行した距離は約391.6メートルで,時速90キロメートルで換算すると被告人は約15秒もの間前方注視を怠っていたことになり,居眠り運転や携帯電話に脇見しながらの運転のように悪質な運転でなかったことを踏まえても,被告人の運転は危険で,過失の程度は大きい。
本件事故により,1名の被害者が死亡したほか,14名が重軽傷を負い,このうち1名は当初意識不明の重体に陥ったもので,結果は重大である。死亡した被害者は,子ら及び孫らとともに1台の車両に乗って旅行に行く途中,本件事故に遭ったものであるが,被害者の子らは,自ら本件事故に遭った者もそうでない者も含め,いずれも,大切な母親の命を奪われて,強い悲しみや憤りを感じ,被告人の厳重処
罰を求めているが,それも当然のことである。この点,弁護人は,死亡した被害者及び意識不明となった被害者を含む被害者の多くはシートベルトを装着していなかった可能性が高く,このことが被害の拡大に寄与したことを量刑上斟酌すべきである旨主張する。確かに,死亡した被害者及び意識不明となった被害者が車外に放り出されていたことに照らすと,シートベルトの不装着が被害の拡大に寄与した可能性は否定できない。しかし,本件事故の態様,すなわち自車以外に3台の車両を巻き込んだ多重追突事故であり,多数の被害者が出る危険性が高かったもので,現に15名の被害者を出したこと,及び過失の程度の大きさに照らすと,本件は過失運転致死傷事件の中でも重い方の事案であり,被害者らのシートベルト不装着が被告人の刑事責任を大幅に軽減させるものと考えることはできない。
そうすると,被告人の刑事責任は重く,本件は実刑が相当である。他方で,被告人が被害者らに謝罪文を送付し,一部の被害者に対しては直接謝罪して見舞金を交付し,当公判廷でも,被害者らには取り返しのつかないことをしてしまい申し訳ない気持ちで一杯であると謝罪の言葉を述べていること,被告人の勤務先のバス会社が加入する保険により,死亡した被害者とは別の車両に乗っていた被害者2名との間で示談が成立し,その他の被害者らに対しても同保険による適正な賠償が見込まれること,被告人には前科がなく,長年バス運転手として真面目に勤務する中で,交通違反歴はあるものの,これまで人身事故を起こしたことはないこと,被告人が今後は車を運転しないと述べ,同居の内妻も被告人が今後車を運転しないように見守っていく旨の書面を提出していること等,被告人のために酌むべき事情もあるので,主文のとおり刑を定めた。
(求刑

禁錮3年の実刑)

令和元年10月3日
大津地方裁判所刑事部

裁判官

横井裕美
トップに戻る

saiban.in