判例検索β > 平成28年(行ウ)第193号
退去強制令書発付処分取消等請求事件
事件番号平成28(行ウ)193
事件名退去強制令書発付処分取消等請求事件
裁判年月日令和元年10月3日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-10-03
情報公開日2019-10-30 12:00:08
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令和元年10月3日判決言渡

同日原本領収

平成28年(行ウ)第193号

裁判所書記官

退去強制令書発付処分取消等請求事件(以下甲事件という。)
平成30年(行ウ)第409号
訴えの追加的併合申立事件(以下乙事件とい

う。)
口頭弁論終結日令和元年6月11日
判決主文
1本件訴えのうち,下記⑴から⑸までの部分を却下する。⑴

東京入国管理局成田空港支局特別審理官が平成28年1月18日付けで原告に対してした上陸条件に適合していないとの認定の取消しを求める部分


法務大臣が平成28年1月21日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決の取消しを求める部分



東京入国管理局成田空港支局入国審査官が平成28年1月29日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法24条5号の2に該当する旨の認定の取消しを求める部分



東京入国管理局成田空港支局特別審理官が平成28年2月1日付けで原告に対してした上記⑶の認定は誤りがない旨の判定の取消しを求める部分


法務大臣が平成28年2月4日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決の取消しを求める部分

2
東京入国管理局成田空港支局主任審査官が平成28年1月21日付けで原告に対してした退去命令処分を取り消す。

3
東京入国管理局成田空港支局主任審査官が平成28年2月5日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

4
訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
1甲事件


主文第2項及び第3項と同旨



東京入国管理局成田空港支局特別審理官が原告に対して平成28年1月18日付けでした上陸条件に適合していないとの認定を取り消す。



法務大臣が原告に対して平成28年1月21日付けでした出入国管理及び難民認定法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決を取
り消す。


法務大臣が原告に対して平成28年2月4日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

2乙事件


東京入国管理局成田空港支局入国審査官が原告に対して平成28年1月29日付けでした出入国管理及び難民認定法24条5号の2に該当する旨の認定を取り消す。


東京入国管理局成田空港支局特別審理官が原告に対して平成28年2月1日付けでした上記⑴の認定は誤りがない旨の判定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,アメリカ合衆国(以下アメリカという。)国籍を有する外国人である原告が,本邦への上陸申請をしたものの,東京入国管理局成田空港支局(以下成田空港支局という。)特別審理官から出入国管理及び難民認定法(以下入管法という。また,以下特に断りのない限り平成30年法律第102号による改正前のものをいう。)7条1項2号に掲げる上陸条件に適合し
ない旨の認定(以下本件不適合認定)を受け,法務大臣から同法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決(以下本件退命裁決という。)を受け,同支局主任審査官から同法11条6項に基づく退去命令処分(以下本件退去命令という。)を受け,さらに,本件退去命令に従わなかったことから,同支局入国審査官から同法24条5号の2の退去強制事由に該当する旨の認定(以下本件認定という。)を受け,同支局特別審理官から本件認定は誤りがない旨の判定(以下本件判定という。)を受け,法務大臣から同法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決(以下本件裁決という。)を受け,同支局主任審査官から同条6項に基づく退去
強制令書発付処分(以下本件退令発付処分という。)を受けたため,本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分はいずれも違法であると主張して,これらの取消しを求める事案である。
1前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)


原告は,1939年(昭和14年)10月14日生まれの,アメリカ国籍を有する外国人男性である(乙1)。
原告は,平成15年9月以降平成27年1月まで,合計38回の本邦への出入国歴を有しており,在留資格はいずれも短期滞在であった(乙1)。


39回目(前回)の出入国状況
原告は,平成27年8月27日,成田国際空港(以下成田空港とい
う。)に到着し,入管法10条所定の口頭審理(以下前回口頭審理という。)を経て,成田空港支局入国審査官から,在留資格短期滞在,在留期間90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,同年9月16日,本邦から出国した(乙1,20,38の1・2。以下前回の入国という。)。



40回目(今次)の上陸手続の状況等


原告は,平成28年1月18日,成田空港に到着し,成田空港支局入国審査官に対し,観光を目的とする上陸申請(以下本件上陸申請という。)をしたが,同入国審査官は,活動内容が不明であるとして,原告を成田空港支局特別審理官に引き渡した(乙1,69)。


成田空港支局特別審理官のA(以下A特別審理官という。)は,平成28年1月18日,原告に係る口頭審理を行い(以下本件口頭審理という。),その結果,本邦において行おうとする活動に係る申請の内容についての立証がないとして,原告は入管法7条1項2号に掲げる上陸条件に適合していないとの認定(本件不適合認定)をした(乙1,2,24の1~3,69)。


原告は,平成28年1月19日,法務大臣に対して,入管法11条1項の規定による異議を申し出たが,法務大臣は,同月21日,上記異議の申出には理由がない旨の裁決(本件退命裁決)をし,成田空港支局主任審査官にその旨を通知した(乙1,3,4)。


上記ウの通知を受けた成田空港支局主任審査官は,平成28年1月21日,入管法11条6項に基づき,原告に対し,本件退命裁決を知らせるとともに,本邦からの退去を命じた(乙5。本件退去命令)。



退去強制手続の状況等

原告が,出国便として指定された航空機に搭乗せず,遅滞なく本邦から出国しなかったことから,成田空港支局主任審査官は,平成28年1月2
1日,収容令書を発付し,原告は,同日,成田空港支局収容場に収容された(乙1,6,7)。

成田空港支局入国審査官は,平成28年1月29日,原告につき入管法24条5号の2(退去命令違反者)に該当する旨の認定(本件認定)をした(乙1,8)。


原告は,平成28年1月29日,成田空港支局特別審理官に対し口頭審
理を請求し,同特別審理官は,口頭審理を経て,同年2月1日,本件認定は誤りがない旨の判定(本件判定)をした(乙1,9の1・2)。エ
原告は,平成28年2月1日,法務大臣に対して,入管法49条1項の規定による異議の申出をしたが,法務大臣は,同月4日,上記異議の申出には理由がない旨の裁決(本件裁決)をし,その旨を成田空港支局主任審
査官に通知した(乙1,10,11)。

上記エの通知を受けた成田空港支局主任審査官は,平成28年2月5日,入管法49条6項に基づき,原告に対し,本件裁決を知らせるとともに,退去強制令書の発付処分(本件退令発付処分)をした(乙12,13)。

原告は,平成28年2月5日,入管法59条に基づく送還により本邦から出国した(乙1,13)。



原告は,平成28年5月10日,本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求めて本件訴えを提起した(甲事件。顕著な事実)。
原告は,平成30年9月25日,行政事件訴訟法19条1項に基づく追加
的併合として,本件認定,本件判定及び法務大臣が本件裁決に当たり原告につき在留特別許可を付与しなかったことの各取消しを求める訴えを提起したが(乙事件),このうち上記在留特別許可を付与しなかったことの取消しを求める訴えについては,平成31年3月26日の第15回口頭弁論期日においてこれを取り下げた(顕著な事実)。

2争点


本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定及び本件裁決の各取消しの訴えについて,訴えの利益があるか否か



本件認定及び本件判定の各取消しを求める訴えが出訴期間を徒過したものか否か



本件不適合認定がされた時点で,原告が短期滞在の在留資格に該当し
ていたか否か


本件不適合認定の手続的瑕疵の有無



本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分が適法であるか否か

3
争点⑴(本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定及び本件裁決の各取消しの訴えについて,訴えの利益があるか否か)に関する当事者の主張

(原告の主張)

本件退令発付処分との間に,先行処分と後行処分の関係があることア
処分の本来的な効果(直接的効果)が消滅した場合であっても,いわゆる付随的な効果が残存している場合には,当該処分の取消しを求める利益は認められる。そして,先行処分の有効な存在を前提に後行処分がされ得る地位に置かれるという関係がある場合,上記地位に置かれることは,当該先行処分の付随的な効果と捉えることができるから,後行処分を排除する必要がある限り,先行処分の取消しを求める利益はあるというべきであ
る。

本件退令発付処分については,退去した日から5年間本邦への上陸を拒否され得る地位に置かれるという同処分の付随的な効果を除去する必要があるため,その取消しを求める利益がある。そして,本件退命裁決,本件
退去命令,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分は,それぞれ,先行処分と後行処分の関係にあるから,本件退令発付処分について取消しの利益が認められる限り,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定及び本件裁決についても,取消しを求める利益がある。
すなわち,本件認定,本件判定及び本件裁決の本来的な効果は,名宛人
を退去強制令書が発付されるべき地位に置くこと,すなわち後行処分として退去強制令書を発付するということにあるから,本件退令発付処分の取
消しの利益が存続する以上,本件認定,本件判定及び本件裁決の上記効果もなお残っている。
本件退去命令については,名宛人が退去したことによりその本来的な効果は消滅しているものの,その付随的な効果として,名宛人は,命令に応じず退去しない場合,退去強制事由に該当する旨の認定を受け,特別審理
官による判定,法務大臣による裁決という後行処分を受け得る地位に置かれる。したがって,本件裁決の取消しを求める利益が存続する限り,本件退去命令の上記効果はなお残っている。
本件退命裁決については,その本来的な効果は,退去命令を受けるべき地位に名宛人を置くこと,すなわち後行処分として退去命令をするという
ことにあるから,本件退去命令の取消しを求める利益が存続する限り,本件退命裁決の上記効果もなお残っている。

本件不適合認定については,これを取り消す旨の判決がされると,本件退命裁決の根拠が失われ,行政庁には本件退命裁決を職権で取り消す義務が生じる。そして,本件退去命令以降の処分又は裁決についても順次取消
判決がされることとなるから,本件不適合認定の取消しを求める利益はある。


本件退去命令を取り消すことにより退去強制事由が存在しないこととなること

本件退去命令については,これに従わないことが退去強制事由となるという付随的な効果があり,本件退去命令が取り消された場合,原告には退去強制事由が存在しないこととなるのであるから,本件退令発付処分の取消しが争われている本件においては,本件退去命令を取り消すことによる紛争解決の実効性がある。したがって,本件退去命令を取り消すことにつき法律上の
利益がある。
仮に出国により上陸手続における各処分又は裁決の取消しを求める利益が
消滅し,かつ,上陸手続と退去強制手続との間にいわゆる違法性の承継が認められないとすると,原告は本件不適合認定の違法性を争う機会を失ってしまうから,裁判を受ける権利を保障するためにも,上記の付随的な効果を有する本件退去命令につき取消しの利益を認める必要がある。


上陸手続の途中で本邦から退去した外国人に対して上陸許可や上陸特別許可を与える余地があること
本件不適合認定を取り消す旨の判決が確定すると,原告が行った本件上陸申請は判断を受けないまま存続していることになり,行政庁に応答義務が生じることとなる。したがって,上陸手続の途中で本邦から退去した外国人に対して上陸許可や上陸特別許可を与える余地がない旨の被告の主張は誤りで
ある。
そうすると,本件不適合認定及び本件退命裁決のいずれについても,その取消しを求める利益はある。

原告は,本件不適合認定が違法であることが確定すれば,本邦に上陸することを企図している。その際,本件退令発付処分が取り消されていても,本件退去命令及び本件裁決が取り消されていなければ,新たな退去強制手続が開始される可能性がある。
また,本件不適合認定が違法であることが既判力をもって確定しない限り,原告がどのような上陸申請をしても,申請に係る活動内容が虚偽のものであ
るとして,上陸条件に適合しない旨の認定が繰り返されるおそれがある。加えて,原告は,今回の上陸審査において,様々な不当な扱いを受けて損害を被り,また人格を傷つけられたのであり,既判力をもって各処分及び裁決が違法であることが宣言されることにより,これらの被害を回復することができる。

以上の点でも,原告には,各処分及び裁決の取消しを求める利益がある。(被告の主張)



本件不適合認定及び本件退命裁決について

入管法は,上陸の申請をした外国人が,上陸手続の間,本邦に入国しているが上陸はしていない状態にあることを前提にしている。
上陸手続中に当該外国人が本邦から退去し,再び本邦に上陸しようとした場合,当該外国人について当初の上陸申請時とは異なった事情が生じ得
るものであるから,上陸条件に適合しているか否かについての結論が異なる場合も容易に想定される。また,このような場合に,手続を行う入国審査官や特別審理官及び法務大臣において,上記の事情を把握するのは困難であり,このような外国人について,改めて上陸審査を経ることなく上陸することを認めるとすれば,我が国の利益及び秩序維持の観点から好まし
くない外国人の上陸を阻止するという上陸審査の目的を十分に達することは困難である。
そうすると,入管法は,上陸手続完了前に本邦から退去した外国人については,当該手続によって付与された上陸許可の効果として改めて上陸審査を受けずに上陸することを認めないという立場を取っているものという
べきであり,上陸の申請をした外国人が上陸手続の途中で本邦から退去した場合,もはや当該外国人に対して上陸許可や入管法12条1項の上陸特別許可を与える余地はないというべきである。

原告は,本邦を出国したのであるから,仮に本件不適合認定及び本件退命裁決が取り消されたとしても,特別審理官が改めて上陸許可をしたり,
法務大臣が改めて異議の申出に理由があるとの裁決又は入管法12条1項の上陸特別許可をしたりする余地はない。

したがって,本件不適合認定及び本件退命裁決の各取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠く。



本件退去命令について

原告が既に本邦から出国した以上,本件退去命令の目的は達成され,そ
の法的な効果は消滅する。また,入管法11条6項の退去命令を受けたことは,本邦への上陸拒否事由に該当するわけでもない。したがって,本件退去命令の取消しによって回復すべき法律上の利益はないといえるから,本件退去命令の取消しの訴えは,訴えの利益を欠く。

原告が将来の上陸時において入管法5条9号ロの適用を受け得るという不利益を除去するためには,本件退令発付処分の取消しによることが直截であり,その意味では,かかる不利益は本件退令発付処分による付随的な効果とはいい得ても,これを本件退去命令による付随的な効果などと捉えて,あえてその取消訴訟の訴えの利益を肯定することはできない。


本件認定及び本件判定について
退去強制事由に該当する旨の認定が取り消され,非該当の認定がされた場合,又は当該認定に誤りはないとした判定が違法であるとして取り消され,当該認定に誤りがあるとの判定がされた場合には,当該容疑者は,収容令書に基づく収容から放免されるという法的利益を受けることとなるが,このことは,いずれも当該容疑者が本邦に在留し,現に収容されている場合に妥当
するものである。
原告は,既に出国しており,収容されているものではなく,本邦に在留しているものでもないから,本件認定及び本件判定の各取消しによって収容から放免されるという法的利益を受ける立場にない。
したがって,本件認定及び本件判定の各取消しを求める訴えは,いずれも
訴えの利益を欠く。


本件裁決について
原告は既に出国しているから,本件裁決を取り消したとしても,収容から放免される,あるいは,在留特別許可を受けて本邦に適法に在留することが
できるといった法的利益を受ける立場にない。
また,仮に本件裁決が取り消されれば,本件退令発付処分は遡ってその前
提を欠くことにはなるものの,入管法5条1項9号ロの適用を受けるという不利益は,直接的には本件退令発付処分によって生ずるものであり,本件裁決の取消しを経なくても,本件退令発付処分が違法であれば,直接その取消しを求めて終局的な解決を得ることができるのであって,現に原告は本件退令発付処分の取消訴訟を併合提起しているのであるから,本件裁決の取消し
を求める訴えは,訴えの利益がないというべきである。


原告の主張について

原告は,後行処分について取消しの利益が認められる限り,先行処分のいずれについても取消しの利益が認められる旨主張する。

しかしながら,原告の主張は,本来当該処分ごとに個別に判断すべき訴えの利益を,先行処分と後行処分という概念を用いて複数の処分をあたかも連続した手続として一体化することで,本来は訴えの利益が認められない先行処分にまで訴えの利益を拡大して認めることを企図した主張であり,訴えの利益により公権的解決を図るべき紛争を選別しようと
した行政事件訴訟法の趣旨に反するものである。
また,先行処分につき取消判決がされたとしても,直ちに後行処分の取消しの効果が生じて後行処分が無効となるものではなく,先行処分の取消判決の効果は,行政庁に後行処分を職権で取り消す義務を生じさせるにすぎず,同義務を行政庁が履行した場合には結果的に原告が期待し
た法的効果を得られることがあるにせよ,先行処分の取消判決により直ちに法律上保護された原告個人の権利利益が回復するという関係にはない。本件では,本件不適合認定,本件退命裁決及び本件退去命令を取り消す判決が確定したとしても,上陸手続の途中で退去した外国人に対して当初の申請に基づいて上陸許可を与える余地はなく,しかも当該外国
人を本邦から出国させるという退去命令の究極的な目的が達せられた以上,もはや同判決の趣旨に沿った職権取消義務の履行というものを観念
することはできないのであるから,取消判決によって回復すべき利益は想定され得ない。原告の立論は,当該行政実体法規による法的効力を出発点として検討すべき訴えの利益の問題を,行政庁に対する職権取消義務又は取消判決の拘束力という別次元の法概念で説明しようとする点で無理がある。

実質的にも,後行処分を排除する必要がある限り連鎖的に先行処分の全てに訴えの利益を認め得るとの立論は,これらの処分によって形成された法律関係を易々と覆す結果を招来するものであり,法的安定性の観点からも著しく不当な事態を生じさせることとなる。
原告の主張は,訴えの利益を否定されることにより実体判断がされな
いことの実質的不当性を論拠とするものとも解される。
しかしながら,原告は,本件退令発付処分等の執行について執行停止の申立てをすることにより,本邦にとどまった状態で本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定及び本件裁決を争うこともできたのに,このような手段を執ることなく本邦から出国したの
であるから,本邦からの出国により訴えの利益が失われたとして,これらの各処分及び裁決の取消しの訴えが不適法とされることが不当であるとはいえない。

原告は,本件退去命令を既判力をもって取り消しておかないと,今後の上陸申請の際に不利益を被るなどと主張する。しかしながら,入管法上,
同法11条6項の退去命令を受けたという事実をもって,上陸申請において当該外国人を不利益に扱うとする格別の定めは存しない。また,原告が将来上陸を許可され本邦に入国したとしても,その段階において,原告に対して,既に失効した本件退去命令の不遵守を退去強制事由とした退去強制手続を行う余地はない。

4
争点⑵(本件認定及び本件判定の各取消しを求める訴えが出訴期間を徒過し
たものか否か)に関する当事者の主張
(原告の主張)
原告が甲事件の訴えの提起の当初から一貫して本件不適合認定の違法性を主張してきたことからすれば,乙事件の本件認定及び本件判定の各取消しを求める訴えは,当初の訴えと実質的同一性を備えており,甲事件の訴えの提起の時に提起されたものと同視することができるから,出訴期間の遵守において欠けるところがないというべきである。
(被告の主張)


本件認定の取消しを求める訴えについて
本件認定は平成28年1月29日にされ,同日,原告にその旨が知らされ
ているから,平成30年9月25日に提起された本件認定の取消しを求める訴えは,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間を徒過しており,同条1項ただし書及び2項ただし書の正当な理由があるとも認められない。
また,原告は,本件裁決の取消しの訴えを出訴期間内に提起しているものの,本件裁決の取消しの訴えが前記3(被告の主張)⑷で述べたとおり訴え
の利益を欠き不適法であることからすれば,本件認定の取消しを求める訴えにつき,行政事件訴訟法20条を適用することはできない。
したがって,本件認定の取消しを求める訴えは,出訴期間を徒過している。⑵
本件判定の取消しを求める訴えについて
本件判定は平成28年2月1日にされ,同日,原告にその旨が知らされているから,平成30年9月25日に提起された本件判定の取消しを求める訴えは,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間を徒過しており,同条1項ただし書及び2項ただし書の正当な理由があるとも認められない。
また,特別審理官の判定は,入国審査官の認定に対する不服申立ての応答
であり,行政事件訴訟法3条3項の裁決に当たるものといえるのであって,退去強制事由に該当する旨の入国審査官の認定に誤りがないとする判定
は,同法10条2項にいう審査請求を棄却した裁決にほかならないから,本件判定の取消しを求める訴えにつき,同法20条が適用される余地はない。したがって,本件判定の取消しを求める訴えは,出訴期間を徒過している。5
争点⑶(本件不適合認定がされた時点で,原告が短期滞在の在留資格に該当していたか否か)に関する当事者の主張

(原告の主張)


原告は短期滞在の活動を行うことの立証を果たしていたこと

原告は,和歌山県東牟婁郡a町におけるイルカ漁を見学,記録して,その実情を世界に伝え,また,日本国内に人的ネットワークを築いてイルカ漁に関する啓発運動を支えてきたのであり,これらの活動は,本件上陸申
請において目的として申請した観光(tourism)に沿う活動である。ここでいう観光とは,単なる物見遊山(sightseeing)とは異なり,社会通念上旅行者が一般に行うことが許されている活動は,広い意味で観光に当たる。短期滞在の審査においては,報酬の有無,活動内容の信ぴょう性及び滞在予定期間に着目することとされているところ,以下の
とおり,これらに照らしても,原告は短期滞在の活動を行うことについて立証を果たしていた。

原告は,本件口頭審理において,活動目的が観光,特にイルカ漁ウォッチングであり,天候次第で静岡県伊東市b(以下bという。)を訪ね
る予定であると述べたが,これらの活動が報酬を伴わないものであることは明らかである。
次に,原告は,世界的に有名なイルカ漁に反対する活動を行う非営利団体であるB(以下Bという。)の設立者であり,1970年代か
らその活動に従事し,これまでも本邦においてイルカ漁見学を行ってきた
こと,本件上陸申請時,現金2500ドルを所持しており,滞在中にイルカ漁ウォッチングを行うのに要する費用を全て支払うだけの支弁能力があ
ったこと,宿泊先は滞在期間を通じて確保されており,その宿泊先はごく一般的な観光ホテルであったこと,帰国予定日(平成28年2月9日)の出国便の予約も済ませてあったこと等からすれば,活動内容の信ぴょう性もあった。
加えて,原告の滞在予定期間は,イルカ漁を見学する期間として合理的
なものであった。
本件口頭審理において,原告は,A特別審理官から前回の入国時における伊東市長(以下,単に伊東市長という。)との面会や現行犯逮捕に関する事情について聞かれたところ,これらについても説明をしており,それ以上は弁護士に聞いてほしいと述べたのもごく当然のことである。
以上によれば,原告は,短期滞在に該当する活動を行うことについて立証を果たしており,短期滞在の在留資格に該当していたといえる。⑵

被告は,原告の今次の入国に当たって,通常の審査に比して具体的かつ網羅的な立証が求められていたなどと主張する。
しかしながら,原告は,これまで平穏かつ適法にイルカ漁に関する啓発活
動を行ってきたのであり,今次の入国においても同様の活動を行う予定であった。原告がこれまでの活動と異なる活動を行う兆候はどこにもなく,短期滞在の活動範囲を超える活動を行うのではないかとの疑念を生じさせる事情は一切存在せず,被告の述べるような高度の立証が求められていたということはできない。

被告は,我が国の安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことの立証が不十分であったなどとも主張するが,外国人は,短期滞在の在留資格に該当することを立証することが求められているのであり,安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことの立証は求められていない。⑶

原告の経歴や前回の入国時の事情として被告が指摘する事項についてア
原告の経歴,原告がシー・シェパードとは無関係であること

原告は,シー・シェパードとは一切関係がなく,a町においてシー・シェパードのメンバーと行動を共にしたこともない。Bとシー・シェパードは,イルカ漁を批判する点で共通するが,Bは平和的に活動することを方針としており,実力行使も辞さないとするシー・シェパードとは,活動の内容や団体としてのポリシー等が全く異なる。シー・シェパードの創設者
が書いたインターネットの記事(乙55)は,同人が原告の名声を利用するため虚偽の記載をしたものである。
被告は,a町で行われているイルカの追い込み漁を描いたドキュメンタリー映画C(以下,単にCという。)への原告の関与を根拠に,
原告とシー・シェパードの間に何らかの接点があったと強くうかがわれる
などとも主張するが,そもそも,同映画はシー・シェパードとは無関係である。また,原告は,出演や取材協力に応じたにすぎず,同映画の監督,編集及び撮影には関与していない。

原告はa町において迷惑行為を行っていないこと
被告は,原告が漁業関係者を撮影したことを問題視するが,原告は,イルカ漁の実態を映像に記録するためにイルカ漁が行われている入り江近くを撮影していたにすぎず,撮影に抗議する漁業関係者が自らカメラの前に現れていたのである。原告は,挑発や嫌がらせのつもりで漁業関係者の容貌を撮影したわけではない。

また,原告は,侮辱的な内容の文面を付した映像をインターネットに伝播させたことはない。原告がイルカ漁師を盗撮して今私の後ろに恐ろしいイルカ殺しがいるとのコメントと共にフェイスブックにアップロードした旨の記載のある著書(乙57)については,上記コメントは誤訳であるし,写真を見ても漁師の容貌は分からない。Cの中で,a町漁業協
同組合職員のD(以下Dという。)の顔が映し出されるシーンに原告がコメントを付した点は,自らカメラの前に回り込んでカメラを覗き込む
Dを撮影した画像について,事実を指摘したにすぎない。
さらに,原告は,警察官を挑発するような行為をしていないし,指導を無視したこともない。

前回の入国時の行動について
ジャパン・ドルフィン・デー2015への参加について
原告は,前回口頭審理の時点では,渋谷で開催されるジャパン・ドルフィン・デー2015という反イルカ漁のイベント(以下渋谷のイベントという。)への参加を予定していなかったが,その後知人に誘われたため,予定を変更して参加することを決めたにすぎず,前回口頭審
理の際に意図的に虚偽の事実を告げ,あるいは事実を隠したのではない。原告は,a町で開催されるジャパン・ドルフィン・デーという反イルカ漁のイベント(以下a町のイベントという。)に参加する旨を特別審理官に告げていたのであるから,その時点で渋谷のイベントに参加する予定だったのであれば,虚偽の事実を述べたり隠したりする必要はな
い。加えて,渋谷のイベントは,世界各国で同時にイルカ漁に抗議するデモ行動の一つとして平和的に行われており,これに参加すること自体,短期滞在の目的に反するものではない。
伊東市長との面会について
原告は,前回の入国時,友人のE(以下Eという。)に誘われて

伊東市長を表敬訪問した。その際,Eが,伊東市長に,原告を紹介した上で,伊東市でスタンドアップパドルボーディング(以下SUPという。)を盛んにしようと提案し,SUPの彼は大使ということでご理解いただければと述べたところ,伊東市長は,ああ,うん,ねと述べた。その後,伊東市長は,SUPの発信地として多くの観光客を
呼ぶために自ら具体的な提案をするなどし,面会は終始和やかな雰囲気で行われた。このような伊東市長との面会の様子によれば,原告が通訳
を介して親善大使に任命されたと誤解したとしても不思議ではない。原告が意図的に虚偽の事実を投稿したのではないことは,原告が,フェイスブックへの投稿後,事実ではないと聞かされて,すぐに当該投稿を削除したことからも明らかである。
このように,原告は,意図的に虚偽の事実をフェイスブックに投稿し
たものではなく,この件を本件上陸申請の審査において消極的に考慮することは著しく不当である。
旅券不携帯の被疑事実により現行犯逮捕されたこと等について
原告が,平成27年8月31日に警察官から飲酒検査を受けた際,基準値を下回っていれば酒気帯び運転ではない旨弁明したとしても,道路
交通法上正しい弁明であり,その態度を本件上陸申請についての審査において消極的に考慮することは不当である。
次に,原告は,同日の職務質問において,ホテルに旅券を取りに帰ると繰り返し言っていたのであり,逃亡のおそれはなかったにもかかわらず,警察官は,1時間以上も原告をその場に留めおいた上,原告を旅券
不携帯の被疑事実(ただし,実際には旅券はレンタカーのダッシュボードに入っており,原告は旅券を携帯していた。)により現行犯逮捕したのであり,現行犯逮捕及びこれに先立つ職務質問は,必要性,相当性を欠く違法なものであった。
被告は,原告が現行犯逮捕後の取調べで供述を拒否したことを指摘す
るが,取調べにおける供述拒否は,憲法上認められた黙秘権を行使したものであって,正当な権利行使である。
以上によれば,前回の入国時の行動は,本件上陸申請時の原告の説明を否定する根拠にはなり得ない。


本件不適合認定が表現活動に対する弾圧であること
被告がa町の漁業関係者への悪影響等の主張をしていることからすれば,
被告の主張の実質は,原告の活動やCに原告が出演したことによって生じたa町への影響を理由に,本件不適合認定を正当化するものといえる。すなわち,本件不適合認定は,イルカ漁を批判する原告の表現行為の内容に着目してこれを規制するという恣意的な表現行為の弾圧にほかならず,許されるものではない。

(被告の主張)


上陸条件適合性及びその立証責任等

上陸審査を受ける外国人は,入管法7条1項各号に掲げる上陸条件に適合していることを自ら立証しなくてはならない。そして,その立証の程度は,単に上陸条件に適合することを主張するだけでは足りず,客観的資料
に基づき,社会通念上合理的な疑いを入れる余地のない程度にこれを証明しなければならない。また,入国審査官が本邦に上陸しようとする外国人の上陸条件への適合性について疑義を抱く場合には,当該外国人は,上陸条件に適合していることを入国審査官が納得できるように立証する必要がある。以上の点に加え,本邦に上陸しようとする外国人が立証の際に提出
すべき資料等は在留資格ごとに異なっているほか,個々の外国人によっても異なっていることからすれば,入国審査官は,本邦に上陸しようとする外国人の経歴やこれまでの来日状況,今次入国において本邦で行おうとする活動内容等を踏まえ,申請者に対し,上陸条件に適合していることについて,通常の審査に比してより具体的かつ網羅的な立証を求めることも可
能であるというべきである。
なお,申請者が本邦で行おうとする活動内容が犯罪性を伴わず,かつ,我が国の社会通念や公序良俗に著しく反するような態様でないことは,我が国の出入国管理制度の趣旨及び目的や入管法の諸規定に照らせば,当然の前提である。


在留資格短期滞在については,短期間滞在する中で,就労目的の活
動が禁じられているものの,犯罪性を伴わず,かつ,我が国の社会通念や公序良俗に著しく反するような態様でないことを前提としつつ,多種多様な活動が該当し得る。そして,在留資格短期滞在に係る上陸申請がされた場合,入国審査官は,報酬の有無,活動内容の信ぴょう性及び滞在予定期間に着目した審査を行うこととされている。



原告の経歴及びこれまでの来日状況等

原告が反イルカ漁運動の中心的存在であること
原告は,イルカ漁の反対運動等を行うことを目的とする団体であるBを設立した者であり,Cに出演し,同映画の中でイルカ漁に反対する意見を述べるなど,原告とその活動は本邦においても広く知られるようにな
っており,a町における反イルカ漁運動の中心的存在というべき者である。イ
原告がシー・シェパードと無関係であるとはいい難いこと
原告が平成15年の来日時に,捕鯨やイルカ漁に対して犯罪や海賊行為に及ぶ過激な妨害活動を行っているシー・シェパードのメンバーと行動を共にしていたこと,シー・シェパードの創設者が,2003年(平成15
年)当時,原告はシー・シェパードのクルーかつ顧問会議のメンバーであった旨,シー・シェパードのホームページ上で述べていること,Cにはシー・シェパードのメンバーが撮影した映像が使用されており,同映画の制作に深く関与していたと認められる原告は,その制作過程でシー・シェパードと何らかの接点があったと強くうかがわれること,原告がイルカ
漁の解禁日である毎年9月1日にシー・シェパードのメンバーと共にa町内で反イルカ漁を掲げる活動を展開してきたものであることなどからすれば,原告は,シー・シェパードと無関係とは認められない。

原告がa町において数々の迷惑行為を行ってきたこと
原告は,a町において,嫌がる漁業関係者をビデオカメラ等で執拗に撮影するだけでなく,イルカ漁師達を盗撮した画像を,同人らが原告に危害
を及ぼすおそれがあるかのようなコメントを付してフェイスブックに投稿したり,Cの中でDの顔が映し出されているシーンにおいて

彼のあだ名は『プライベート・スペース』さ。これが彼の知っている唯一の英語だからね。

などと同氏を侮辱するような発言をしたりするなど,侮辱的な内容の文面を付した漁業関係者の映像を世界中に伝播させており,この
ような行為は,肖像権の侵害や侮辱罪に該当する可能性も否定し得ないし,仮に暴力的活動や違法行為に当たらないとしても,我が国の社会通念や公序良俗に反するとのそしりは免れない。
これらに加え,原告は,警察官から旅券の携帯義務について指導されながら,前回の入国時に旅券不携帯の被疑事実で逮捕されたり,警察車両に
対して挑発的な行為をしたりするなど,警察官からの度々の警告や指導を意に介していなかった。また,原告を始めとする外国人活動家の活動により,a町の漁業関係者は,精神的,経済的な悪影響を受けてきた。このように,原告は,数々の迷惑行為に及び,我が国の法秩序を軽視する態度を取ってきた。



とりわけ前回入国時における原告の行動は適切といい難いものであったことア
原告は,前回口頭審理において,渋谷のイベントには参加しないと述べていたのに,実際にはこれに参加し,口頭審理での陳述内容に反する行動を取った。


原告は,平成27年8月28日の伊東市長との面会に関して,同市長から親善大使に任命された旨の事実と異なる情報を自身のフェイスブックで発信した。これにより,伊東市長は非常に困惑し,原告に当該情報の削除要請をする事態となった。原告が親善大使に任命されたと誤解するような
状況は存在せず,原告は,我が国のイルカ漁に対して国際的なプレッシャーを掛けるための方策として,かつてイルカ漁が行われていた伊東市の親
善大使に任命されたとの事実に反する情報を自身のフェイスブックに故意に掲載したものと推認される。

原告は,平成27年8月31日,飲食店で飲酒したにもかかわらず直後に車両を運転し,呼気検査において,基準値には達していないもののアルコールが検出されたため,警察官から注意を受けたところ,グラス1杯飲
んだだけではアメリカでは法律違反にはならない,基準値を超えていないのであるから酒気帯び運転ではないなどと繰り返し申し立てた。
さらに,警察官が,旅券と国際運転免許証の提示を求め,着衣の所持品検査を実施して旅券等を所持していないことを確認すると,原告は,警察官がホテルまで同行して旅券の所在を確認することを頑なに拒み,1時間
近く態度を変えようとしなかった。警察官は,逃亡の可能性が否定できないこと,罪証隠滅のおそれもあったことから,原告を入管法違反(旅券不携帯)の被疑事実で現行犯逮捕したが,原告は,逮捕後の取調べにおいて,供述調書への署名押印に応じないばかりか,自身の経歴を知りたければ著書を読めなどと申し立て,身上及び経歴については供述調書の作成自体に
応じなかった。


本件上陸申請における原告の在留資格該当性に係る立証が不十分であったこと

原告に対しては,今次入国において本邦で行おうとする活動内容等につき具体的かつ網羅的な立証を求めることが合理的であったこと
A特別審理官は,前回の入国時における原告の適切とはいい難い行動(前記⑶アからウまで)を事前に把握していたから,本件口頭審理の際にこれらの各事情について説明を求めたが,以下のとおり,原告の説明内容には疑義があった。

まず,原告は,前回口頭審理における陳述内容に反して渋谷のイベントに参加した(前記⑶ア)経緯について,気が変わったから参加した旨説明
したが,世界的にも著名なイルカ保護活動家である原告が,口頭審理における陳述内容に反して反イルカ漁のイベントに参加したということは,一般の観光客が行き先を変えることとは大きく意味合いが異なる。渋谷のイベントは,Bにとっても重要なものであったとうかがわれ,気が変わって急遽参加することになったというのは不自然であり,原告が前回口頭審理において,同イベントに参加することをあえて隠していたとも疑われる状況であった。このように,前回口頭審理における陳述内容と異なる行動を取ったことにつき,原告から何ら詳しい説明がされなかったことは,今次入国において原告が本邦で行おうとする活動内容の信ぴょう性に係る心証
形成に大きな影響を与える事情である。
次に,原告は,伊東市長から親善大使に任命された旨の事実に反する情報を発信したこと(前記⑶イ)について,記事の掲載をしたとは述べるものの,その後のてん末については覚えていないと答えるのみであった。前記⑶イのとおり,原告が虚偽であることを認識しつつ親善大使に任命さ
れた旨の情報を発信したものと推認されることからすれば,原告には自己の立場が不利にならないよう,この騒動のてん末について意図的に隠す動機があったといえるのであり,てん末について原告から何ら詳細又は合理的な説明がなかったことも,今次入国において原告が本邦で行おうとする活動内容の信ぴょう性に係る心証形成に大きな影響を与える事情である。
さらに,原告は,旅券不携帯の被疑事実により現行犯逮捕されたことに関し,詳しいことは弁護士に聞いてほしいと述べるのみで何ら詳しい説明をしなかった(前記⑶ウ)。原告から詳細又は合理的な説明がない以上,A特別審理官が原告の行動について,日本に在留する外国人の行動として好ましいものでないと考えることは当然である。加えて,外国人が本邦で
行おうとする活動内容が犯罪性を伴わず,かつ,我が国の社会通念や公序良俗に著しく反するような態様でないことは当然の前提というべきである
ところ,原告は,日本の法律には違反していない旨の供述を繰り返していたのであり,その態様からは,法に触れなければ迷惑行為をしても構わないという姿勢が垣間見られ,原告が将来において,我が国の公序良俗に反するような行為を行う可能性も否定し得なかった。
以上のとおり,前回の入国時の不適切な行動につき,原告が十分な説明
をしなかったことからすれば,A特別審理官が,今次入国において原告が本邦で行おうとする活動内容等につき,より具体的かつ網羅的な立証を求めることは,合理的であったというべきである。

原告の在留資格該当性に係る立証が不十分であったこと
上記アのとおり,原告は,今次入国において本邦で行おうとする活動内
容等につき,より具体的かつ網羅的な立証を求められていたにもかかわらず,滞在予定期間中,いつどこで何をするのかとのA特別審理官からの質問に対し,イルカ漁ウォッチングと観光である旨述べ,それ以外のことについては,どこに行って何をしようと自身の勝手であるなどと述べ,イルカ漁ウォッチング以外に何か他のことをするともしないとも言わなかった
のであり,原告が自身の在留資格該当性について,十分な立証を行うことができていなかったことは明らかである。

我が国の安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことの立証が不十分であったこと

原告は,前記⑵及び⑶のとおり,a町における反イルカ漁運動の中心的存在であって,これまでも数々の迷惑行為を行ってきた者であり,過去の在留中に,警察官による警告や指導を受けても意に介さない態度を取り続けていたほか,飲酒直後にもかかわらず車両を運転したり,旅券を携帯することなく行動したりするなど,我が国の法秩序を軽視する数々の行動を
取っていた。原告の本件口頭審理における供述態度や過去の来日時における迷惑行為の数々を勘案すると,原告には,法に抵触しなければ,本邦で
地域住民の安寧秩序の保たれた日常生活を脅かすような迷惑行為を行っても構わないという姿勢が垣間見られるのであり,原告は,現に我が国の利益及び地域社会の秩序及び安寧を害し,かつ,将来においてもこれを害するおそれが否定できない者といえる。そうすると,イルカ漁等の妨害を目的とする外国人につき入国管理を厳格に行っている我が国において,原告
が我が国の安寧秩序を害するおそれのある行動を行わないことを立証しない場合,在留資格該当性の立証が不十分であることを理由として原告の上陸を許可しないことは,適法というべきである。
そうしたところ,前記イのとおり,原告は,本件口頭審理において,イルカ漁を見るということ以外の滞在時の行動予定について,具体的な説明
を拒絶し,むしろ,どこに行って何をしようと自身の勝手であるなどという供述に終始していたのであるから,我が国の安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことの立証は不十分であったというほかない。⑸

以上のとおり,原告の経歴やこれまでの来日状況,今次入国において本邦で行おうとする活動内容等を踏まえると,原告に対し,今次入国において本
邦で行おうとする活動内容等につき具体的かつ網羅的な立証を求めることは合理的であり,原告は,短期滞在の在留資格該当性につき十分な立証を行わなかったほか,我が国の安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことについて十分な立証を行わなかったものであるから,原告につき上陸条件に適合していたことの立証があったということはできない。

6争点⑷(本件不適合認定の手続的瑕疵の有無)に関する当事者の主張(原告の主張)


理由付記に不備があること
入管法10条10項は,特別審理官が口頭審理の結果,外国人が同法7条
1項に規定する上陸条件に適合していないと認定したときは,速やかに理由を示してその旨知らせるとともにと規定している。上陸条件に適合しな
いと認定された外国人の被る不利益が著しく大きく,特別審理官による判断の慎重や合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,当該外国人に十分に反論の機会を与える必要があることからすれば,上陸条件に適合しない旨の認定においては,いかなる事実関係を認めて当該認定をしたかの判断が具体的に示されなければならないというべきである。ところが,本件不適合認
定に係る通知書には,具体的な事実関係は何も示されていないのであるから,本件不適合認定は,同法10条10項の理由付記の要件を欠く。


代理人に理由を伝えなかった違法
入管法10条所定の口頭審理では,代理人の存在が当然に予定されており,代理人が選任されている場合には,当該外国人本人のみならず,代理人に対
しても上陸条件に適合しない旨の認定の理由が示されなければならない。原告は,F弁護士に委任する意思を有しており,既に同弁護士と契約していることも明確に述べていたが,A特別審理官は,同弁護士に対して本件不適合認定の理由の説明をすることを拒んだのであるから,重大な手続違反がある。(被告の主張)
原告の主張は争う。本件不適合認定につき,手続上の瑕疵はない。なお,入管法は,上陸申請者の代理人に対し,不適合認定の事実及びその理由を知らせなければならないとは規定していないから,仮にA特別審理官が,原告について,弁護士を代理人とする意思を有していることを知っていたとしても,そのことのみから,本件不適合認定の理由を当該弁護士に伝えなかった
ことが違法であるということはできない。
7
争点⑸(本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分が適法であるか否か)に関する当事者の主張

(被告の主張)


本件退命裁決が適法であること

前記5(被告の主張)のとおり,本件不適合認定に誤りはない。

また,原告に上陸を特別に許可しなければ入管法の趣旨に反するような極めて特別の事情があるとはいえず,原告に上陸特別許可をしなかった法務大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はない。

入管法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決には,そもそも理由を付記することが法令上求められていないから,本件退命裁
決につき理由付記の違法がある旨の原告の主張は失当である。



したがって,本件退命裁決は適法である。

本件退去命令が適法であること

主任審査官は,法務大臣から入管法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決をした旨の通知を受けた場合,速やかに当該外国
人に対し,本邦からの退去を命じなければならないのであるから(同条6項),本件退命裁決が適法である以上,本件退去命令も当然に適法である。イ
入管法11条6項の退去命令については,退去命令書によって行うものとされるが(入管法施行規則10条1項),理由に当たる内容を記載することは要求されておらず,退去命令書に理由を付記することが法令上求め
られていないから,本件退去命令につき理由付記の不備がある旨の原告の主張は失当である。



したがって,本件退去命令は適法である。

本件認定及び本件判定が適法であること
上記⑵のとおり,本件退去命令が適法である以上,原告が入管法24条5
号の2(退去命令違反者)に該当することは明らかであり,本件認定には手続的瑕疵もないから,本件認定は適法である。
また,本件認定が適法である以上,本件判定に誤りはなく,手続上の瑕疵もないから,本件判定も適法である。


本件裁決が適法であること

在留特別許可に係る法務大臣の裁量の範囲は極めて広範であるところ,
本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定及び本件判定はいずれも適法であって,他に原告に在留を特別に認めなければならない事情があるとは認められず,原告に在留特別許可をしなかった法務大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとはいえない。

法務大臣が入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決を行うに当たっては,容疑者が同法24条各号の一に該当する旨及び容疑者につき特別に在留を許可すべき事情があるとはいえない旨が明示されていれば,同法及び入管法施行規則の要求する理由付記として十分というべきであり,本件裁決につき理由付記の不備はない。


したがって,本件裁決は適法である。なお,後記⑹のとおり,本件裁決の取消訴訟において,本件認定の判断の誤りを主張することはできない。


本件退令発付処分が適法であること
法務大臣から入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がないとの裁決の通知を受けた場合,主任審査官は,速やかに退去強制令書を発付しなければならないのであり,退去強制令書を発付するか否かにつき全く裁量
の余地はないのであるから,本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も当然に適法である。なお,後記⑹のとおり,本件退令発付処分の取消訴訟において,本件認定の判断の誤りを主張することはできない。

本件裁決及び本件退令発付処分の各取消訴訟において,本件認定の判断の誤りを主張することはできないこと
本件裁決は,本件認定を原処分とし,これについての審査請求を棄却した裁決といえるから,行政事件訴訟法10条2項により,本件裁決の取消訴訟において,その違法事由として本件認定の判断の誤りを主張することはできないというべきである。

また,入管法が,入国審査官の認定について,口頭審理及び異議の申出という不服申立てにより早期の権利救済の道を設けていることからすると,同
法は,入国審査官による退去強制事由があるとの認定と同法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決との間に違法性の承継を認め,認定の誤りを裁決の取消訴訟等で争わせることによって救済を図ろうとする立法政策を採用しているとは解し難く,この理は,上記裁決に後続する退去強制令書発付処分との関係においても妥当するというべきである。
以上によれば,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消訴訟において,先行する本件認定に係る違法事由を主張することはできないというべきである。⑺

上陸手続の違法は退去強制手続に承継されないこと
原告は,本件不適合認定等の上陸手続における処分及び裁決が違法であるとして,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分が違法である
旨主張するが,上陸手続と退去強制手続は,別個独立の体系とされ,両手続を調整するような規定も置かれていないから,両手続について,同一の目的を追求する手段と結果の関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為とみることは困難であって,上陸手続の違法は退去強制手続に承継されないというべきである。

このように解したとしても,上陸手続における処分を受ける外国人に対しては,その内容及び理由を通知することとされており,当該処分の取消しを求めて訴えを提起することは可能であるから,手続保障は与えられている。(原告の主張)


本件退命裁決及び本件退去命令について

前記5及び6(原告の主張)のとおり,本件不適合認定が違法であることからすれば,これを前提にした本件退命裁決及び本件退去命令もまた違法である。


本件退命裁決に係る裁決書及び本件退去命令に係る命令書には,一切の理由が記されておらず,いかなる事実関係に基づいてされたものであるかが不明である。本件退命裁決及び本件退去命令が原告に極めて深刻な不利
益を与えるものであることに加え,行政庁による判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨からすれば,本件退命裁決及び本件退去命令には,理由付記の不備という違法があるというべきである。


本件認定及び本件判定について
本件不適合認定,本件退命裁決及び本件退去命令が違法であることからすれば,これらを前提にした本件認定及び本件判定もまた違法というべきである。
上陸手続と退去強制手続は,出入国の公正な管理を図るという同一の目的に向けられた手段と結果の関係にあるといえることからすれば,上陸手続に
おける処分や裁決の違法は,退去強制手続における処分や裁決にも承継されるというべきである。


本件裁決について

前記5(原告の主張)のとおり,本件不適合認定は,事実認定を誤るものであるから,本件判定に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認(入管
法施行規則42条3号)があるといえる。
また,前記6(原告の主張)で述べたとおり,本件不適合認定に手続的な瑕疵があることからすれば,審査手続の法令違反(入管法施行規則42条1号)があるというべきである。
加えて,原告については,下記イのとおり入管法50条1項の在留特別
許可が認められるべきであったことからすると,原告に対する退去強制が著しく不当な場合(入管法施行規則42条4号)に当たる。したがって,原告がした入管法49条1項の規定による異議の申出には理由があるから,これを看過した本件裁決は違法である。

原告が短期滞在の活動を行うことの立証を果たしていたことからすれば,原告には入管法50条1項の在留特別許可が認められるべきであり,
この点でも本件裁決は違法である。

本件裁決に係る裁決・決定書には,退去強制対象者に該当する理由及び在留特別許可に関する決定の理由として定型的な文言しか記載されておらず,具体的にどのような事実を認定して判断したのかが全く不明である。入管法施行規則別記第61号様式が理由の付記を求めていること,退去
強制処分を受けた外国人に甚大な不利益が生じること,口頭審理において証人尋問等が行われ,先行する上陸手続に違法があることや基礎となる事実関係に誤りがあることについても原告から具体的な主張がされたという経緯に鑑みれば,本件裁決については,その理由が具体的に付記されることが求められていたというべきであり,本件裁決に係る裁決・決定書に,
その理由として定型的な文言しか記載されなかったことは,本件裁決の違法事由となるというべきである。


本件退令発付処分について
前記⑶のとおり,本件裁決が違法であることからすれば,これを前提に行われた本件退令発付処分もまた違法である。

第3当裁判所の判断
1
争点⑴(本件不適合認定,本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定及び本件裁決の各取消しの訴えについて,訴えの利益があるか否か)について


処分の取消訴訟は,処分が有効なものとして存在していることによる法的効果の除去を目的とするものであるから,処分の取消訴訟における訴えの利益の有無は,当該処分が有効なものとして存するために生じている法的効果を除去することによって回復すべき権利又は法律上の利益が存在しているか否かという観点から検討するのが相当である。そして,期間の経過やその後
の事情の変化によって処分の本来的な効果が消滅したとしても,ある処分を受けたことが別の処分の要件とされているなど,処分がされたことを理由と
して法律上の不利益を受けるおそれがある場合には,なお,処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項括弧書)を有しているというべきである。
そして,本件退令発付処分については,原告が出国したことにより,退去強制令書が発付された外国人を本邦から退去させるという目的を達しており,
その本来的な効果は既に消滅しているが,原告は,本件退令発付処分を受けたことを理由に,退去した日から5年間,上陸を拒否され得る地位に置かれるという法律上の不利益を受けるのであるから(入管法5条9号ロ),本件退令発付処分を取り消すことによって回復すべき法律上の利益があるといえる(この点については当事者間に争いはない。)。



本件退去命令について
原告は,本件不適合認定が違法であるから,これを前提とする本件退命裁決及び本件退去命令も違法となり,入管法24条5号の2の退去強制事由に該当するとの本件認定も違法となって,これに続く本件判定,本件裁決及び
本件退令発付処分も違法となる旨主張して,これらの取消しを求めている。この点に関して,入管法24条5号の2の退去強制事由が,第11条第6項の規定により退去を命ぜられた者で,遅滞なく本邦から退去しないものと規定されていることからすれば,同号の退去強制事由に該当するというためには,同法11条6項の退去命令が有効なものとして存在することが
前提とされているといえる。そうであれば,本件退去命令が違法であるとして判決で取り消された場合,同法24条5号の2の退去強制事由に該当するとの本件認定は,前提を欠くものとして違法となるというべきである。そして,退去強制事由に該当する旨の本件認定が違法である場合,原告が退去強制事由に該当する者であることを前提にされた本件退令発付処分も,前提を
欠くものとして違法となるというべきである(なお,本件認定の取消訴訟を提起することなく,本件認定の違法を,本件退令発付処分の取消訴訟の中で
違法事由として主張することができるかについては,別途後記⑷イにおいて検討する。)。
ところで,上陸手続と退去強制手続は,入管法上別個独立の手続として定められており,その目的を異にするものといえることからすれば,両手続が同一の目的を追求する手段と結果の関係にあり,これらが相結合して一つの
効果を完成させるものとみることは困難であって,退去強制手続における処分や裁決の取消しを求める訴訟において,上陸手続における処分又は裁決が違法であることを主張することは許されないと解するのが相当であるから,原告は,本件退去命令が取り消されない限り,本件退去命令の違法を理由に,本件認定ひいては本件退令発付処分が違法であるとして,本件退令発付処分
の取消しを求めることはできないというべきである。
そうすると,将来の上陸拒否事由となるという本件退令発付処分の効果を除去するために本件退令発付処分を取り消すには,本件退去命令を取り消す必要があるといえるから,この点で,原告は,本件退去命令を取り消すことによって回復すべき法律上の利益を有しているということができる。被告は,
将来の上陸時において入管法5条9号ロの適用を受け得るという不利益を除去するために,かかる不利益を本件退去命令による付随的な効果などと捉えて取消しの利益を肯定することはできないなどと主張するが,以上の理由から,被告の主張を採用することはできない。
したがって,本件退令発付処分の取消しを求める利益がある限り,本件退
去命令の取消しについても,訴えの利益があるというべきである。⑶

本件不適合認定及び本件退命裁決について

入管法は,本邦に上陸しようとする外国人は,入国審査官に対して上陸の申請をし,上陸のための審査を受けなければならないとし(6条2項),
入国審査官は,上陸条件に適合しているか否かを審査し,これに適合していると認定したときは,当該外国人の旅券に上陸許可の証印をしなければ
ならないとする一方,適合していると認定しないときは,口頭審理を行うため当該外国人を特別審理官に引き渡さなければならないとする(9条1項,5項〔ただし,平成26年法律第74号による改正前のもの〕)。そして,特別審理官は,速やかに口頭審理を行い,上陸条件に適合していると認定したときは,直ちに旅券に上陸許可の証印をしなければならないとする一方,適合していないと認定したときは,その者に対して速やかに理由を示してその旨を通知しなければならないとする(10条1項,8項及び10項)。このように,同法は,上陸手続においては,上陸申請をした外国人が上陸しようとする出入国港又は仮上陸許可(13条1項)におい
て定められた場所に留まっていることを前提とする規定を置いている。そして,同法には,上陸手続が完了する前に当該外国人が本邦から退去した場合に当該手続を進めることを想定した規定は置かれていない。このような同法の上陸手続に関する規定に照らすと,同法は,上陸の申請をした外国人は,上陸手続中,本邦にいることを要するものとしているということ
ができる。
また,上陸審査の目的は,我が国の利益及び秩序維持の観点から上陸が好ましくない外国人の上陸を阻止するところにあるから,上陸しようとする外国人は,その上陸の時点で入管法所定の上陸条件に適合していなければならず,上陸手続が完了する前に当該外国人が本邦から退去して再び本
邦に上陸しようとする場合には,当初の上陸申請時とは異なる事情が生じ得ることから,改めて上陸審査を受ける必要があるというべきである。以上の点からすれば,上陸申請をした外国人が上陸手続の完了する前に本邦から退去した場合には,もはや当該外国人に対して当初の上陸申請に基づく上陸許可や入管法12条1項による上陸特別許可を与える余地はな
いと解するのが相当である。
そうすると,原告が既に本邦から出国している以上,本件不適合認定や
本件退命裁決が取り消されたとしても,改めて本件上陸申請に基づいて上陸許可や上陸特別許可がされる余地はないというべきであり,これと異なる原告の主張は採用することができない。

また,上陸条件に適合しない旨の認定,入管法11条1項の規定による異議申出には理由がない旨の裁決及び退去命令は,上陸条件に適合しない外国人の上陸を拒否するという同一の目的を達成するための一連の手続を構成する処分ということができる。そして,退去命令は,これを受ける外国人が上陸条件に適合しないことを前提とするものであって,上陸条件に適合しない旨の認定が正当なものであることによってその正当性が基礎付
けられるものということができる。そうすると,特別審理官による上陸条件に適合しないとの認定の違法は,一連の手続の最終処分とされる退去命令にも及ぶものと解するのが相当である。
さらに,上陸条件に適合しない旨の認定や入管法11条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決は,同条6項の退去命令とは別に独
立した争訟の対象となるものであるが,これは早期救済のため争訟の機会を付与するものというべきであって,当該認定等の取消訴訟を提起しなければ最終処分である退去命令の取消訴訟の中でこれらの違法を主張することができないとみることは相当でない。また,この点からすれば,同項は,異議の申出には理由がない旨の裁決の通知を受けた主任審査官に退去命令
の発出を義務付けているといえるものの,上記裁決が取り消されない限り退去命令の取消しを求めることができないとの法的効果を定めるものとまでは解されない。なお,退去命令は,不適合認定との関係でその処分についての審査請求を棄却した裁決に当たらないから,行政事件訴訟法10条2項所定の違法事由の主張制限は問題とならない。

以上の点に照らせば,原告は,本件不適合認定の取消訴訟を提起することなく,本件不適合認定が違法であることを主張して本件退去命令の取消
しを求めることができると解するのが相当である。そして,本件不適合認定の違法により本件退去命令が違法であることを理由として本件退令発付処分の取消しを求めるに当たっては,その前提として本件退去命令の取消しを求めれば足り,本件不適合認定や本件退命裁決の取消しを併せて求める必要はないということができる。

そして,上記アのとおり,本件不適合認定や本件退命裁決が取り消されたとしても,本件上陸申請に基づく上陸許可や上陸特別許可がされる余地がないことを考慮すると,本件退令発付処分の取消しを求めるために本件不適合認定や本件退命裁決の取消しを併せて求める実益は見当たらず,このような場合にまで,これらを取り消すことによって回復すべき法律上の
権利又は利益があるということはできないというべきである。

原告は,本件不適合認定が取り消されなければ将来も同様の処分が繰り返されるおそれがあることを理由に,その取消しの利益があると主張するが,入管法上,上陸条件に適合しないとの認定を受けたことを理由に,当該外国人を将来の上陸申請において不利に取り扱う旨の規定は存在しない
から,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件不適合認定を取り消すことにより,不当な扱いを受けたことによる損害を回復することができるなどとも主張するが,事実上の利益をいうものにすぎないから,これを理由に訴えの利益を肯定することはできない。


以上によれば,原告が既に本邦から出国している以上,本件不適合認定及び本件退命裁決の取消しの訴えは,訴えの利益を欠くものというべきである。


本件認定,本件判定及び本件裁決について

退去強制事由に該当する旨の認定や同認定に誤りがない旨の判定が取り消された場合,当該外国人は,収容令書に基づく収容から放免されるとい
う法律上の利益を受けることになるが,本件においては,原告は既に本邦から出国しており,収容されていないのであるから,そのような法律上の利益を得る余地はない。
また,入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決が取り消された場合,法務大臣は,特別審理官の判定に対する異議を再
度審査して改めて裁決することとなるところ,当該外国人は,異議の申出に理由がある旨の裁決を受けた場合には,収容令書に基づく収容から放免されるという法律上の利益を受けることとなり,在留特別許可を付与された場合には,更に一定期間適法に本邦に在留できる地位を付与されるという法律上の利益を受けることとなる。しかしながら,本件においては,原
告は既に本邦から出国しており,収容されているものでも本邦に在留しているものでもないから,原告には,もはや,これらの法律上の利益を得る余地はないというべきである。

ところで,退去強制事由に該当する旨の認定,同認定に誤りがない旨の判定,入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分は,退去強制という同一の行政目的を達成するための一連の手続を構成する処分ということができる。そして,退去強制令書発付処分は,これを受ける外国人が退去強制事由に該当することを前提とするものであり,退去強制事由があるとの認定が正当なものであるこ
とによってその正当性が基礎付けられるものということができる。そうすると,退去強制事由に該当する場合でないにもかかわらずこれに該当するとした認定の違法は,一連の手続の最終処分である退去強制令書発付処分にも及ぶと解するのが相当である。
さらに,入管法は,当該認定等の取消訴訟を提起しなければ,最終処分
である退去強制令書発付処分の取消訴訟の中でその違法を主張することができないこととするような規定を置いておらず,特別審理官による口頭審
理及び法務大臣に対する異議の申出という不服申立ての制度は,退去強制事由に該当する旨の認定等が誤ってされた場合に,収容令書による収容や退去強制などの不利益から当該外国人を早期に救済するために設けられたものと考えられるのであり,これらの制度に係る処分が独立した争訟の対象となるからといって,退去強制令書発付処分の取消訴訟において退去強制事由に該当する旨の認定が誤りであるなどとする主張が制限されると解することはできない。また,この点からすれば,同法49条6項は裁決の通知を受けた主任審査官に退去強制令書の発付を義務付けてはいるものの,当該外国人において,上記裁決が取り消されない限り退去強制令書発付処
分の取消しを求めることができないこととするものとまでは解されない。なお,退令強制令書発付処分は,退去強制事由に該当する旨の認定との関係でその処分についての審査請求を棄却した裁決に当たらないから,行政事件訴訟法10条2項所定の違法事由の主張制限は問題とならない。以上に照らせば,原告は,本件認定,本件判定及び本件裁決の取消訴訟
を提起することなく,本件認定が違法であることを主張して,本件退令発付処分の取消しを求めることができると解するのが相当であり,本件退令発付処分の取消しを求めるに当たっては,そのほかに前記⑶イのとおり本件退去命令の取消しを求めれば足り,本件認定,本件判定及び本件裁決の取消しを併せて求める必要はないということができる。

そして,上記アのとおり,本件認定や本件判定,本件裁決が取り消されたとしても,原告が既に本邦から出国しており,収容令書に基づく収容から放免される,あるいは在留特別許可を受けるという法律上の利益を得る余地はなく,原告が本件退令発付処分の取消しを求めることによって回復すべき法律上の利益は,退去した日から5年間上陸を拒否される地位に置
かれるという不利益を除去する点にあることを考慮すると,原告が本件退令発付処分の取消しを求めるために,本件認定,本件判定及び本件裁決の
取消しを併せて求める実益は見当たらず,このような場合にまで,これらを取り消すことによって回復すべき法律上の利益があるということはできないものと解するのが相当である。

原告は,本件裁決が取り消されなければ,将来本邦への上陸が許可されても本件裁決を前提に新たな退去強制手続が開始される可能性があるなど
と主張するが,原告が本邦から既に出国し,本件裁決がその目的を達している以上,本件裁決を前提に新たな退去強制手続が開始される余地はないから,原告の上記主張を採用することはできない。

以上によれば,原告が既に本邦から出国している以上,本件認定,本件判定及び本件裁決の取消しの訴えは,訴えの利益を欠くものというべきで
ある。


小括
以上のとおり,本件退令発付処分及び本件退去命令の各取消しを求める訴えについては,いずれも訴えの利益が認められるが,その余の訴えは,いずれも訴えの利益を欠くものであるから,不適法な訴えである(したがって,
本件認定及び本件判定の各取消しを求める訴えに関する争点⑵については,判断を要しない。)。
2
争点⑶(本件不適合認定がされた時点で,原告が短期滞在の在留資格に該当していたか否か)について



認定事実
前記前提事実及び後掲の各証拠等によれば,次の事実が認められる。ア
原告の経歴,活動状況等
原告は,1939年にアメリカで生まれ,1970年にBを設立し,イルカを捕獲する産業に対する反対運動を行うようになった(甲5,6,1
9の1・2)。
原告は,2009年(平成21年)に公開されたa町におけるイルカの
追い込み漁を描いたドキュメンタリー映画であるCに出演し,イルカ漁に反対する旨の意見を述べた。同映画がアカデミー賞を受賞したことなどから,原告とその活動は,日本においても広く知られるようになった(争いのない事実)。
原告は,平成15年9月1日以降平成27年1月までに,合計38回の
本邦への出入国歴があり(前記前提事実⑴),平成15年に初めてa町を訪れて以降,a町において,漁師がイルカ漁を行う様子をビデオやカメラで撮影し,ブログに掲載するなどしてきた。また,原告は,Bの代表者として,a町のイルカ漁の様子をビデオやカメラで記録するボランティアを募集するなどし,イルカ漁に反対する活動を継続的に行ってきた(甲11
の1・2,19の1・2,乙24の3)。
Cの中には,原告が撮影したと推測されるDの顔が映し出されたシーンが流れ,その映像には,

彼のあだ名は『プライベート・スペース』さ。これが彼の知っている唯一の英語だからね。

などという原告のコメントが付されていた(乙47,弁論の全趣旨)。

また,原告は,a町内のコンビニエンスストアにおいて,自身の顔を,その背後の人物が映るように撮影した上で,当該画像に

私の後ろで2人のイルカ漁師がコーヒーを買っている。警察がドアのすぐ外にいて良かった。

などとコメントを付してフェイスブックに投稿したことがあった(甲16の1,17の1)。


前回の入国時の状況等
原告は,平成27年8月27日に成田空港に到着して上陸申請をし,A特別審理官による口頭審理(前回口頭審理)を受けた。原告は,その際,来日目的は観光であり,同日から同年9月16日まで滞在予定であ
る旨述べ,同年8月28日と29日は伊東市で観光やマリンスポーツを楽しみ,同月30日以降は和歌山県東牟婁郡c町にある温泉施設に宿泊
し,観光名所やa町のGを訪れる予定であると述べたほか,同年9月1日にa町で開催される反イルカ漁のイベント(a町のイベント)に参加する予定であるが,同年8月29日に渋谷で開催される反イルカ漁のイベント(渋谷のイベント)には参加しない旨述べた(甲19の1・2,乙20,38の1・2,証人A〔2~4頁〕)。
もっとも,原告は,実際には,渋谷のイベントに参加した(甲19の1・2,乙59)。
原告は,平成27年8月28日,伊東市長と伊東市内で漁業や観光業を営むEの面会に,通訳人を伴って同席した。その際,Eが,伊東市長
に対して,原告の世界的なネームバリューを活用してSUPを伊東市で有名にしようなどと話し,SUPの彼(裁判所注:原告のこと)は大使ということでなどと発言すると,伊東市長は,ああ,うん,ねなどと返答し,明確に否定する発言をしないまま,その後もEが企画するSUP事業に関する話題を続けた。原告は,面会後,伊東市長から伊
東市の親善大使に任命された旨の記事を,伊東市長と一緒に撮影した写真とともに,自身のフェイスブックに掲載した。
その後,伊東市長から,Eに対し,親善大使に任命したことはないとして上記記事を削除するよう要請があり,これをEから伝えられた原告は,すぐに同記事を削除した。

(甲13の1・2,19の1・2,乙19,60,61)
平成27年8月31日,原告は,c町内の飲食店で飲酒をし,酒気を帯びた状態でレンタカーを運転して同町内のホテルに戻る途中,警察官に職務質問をされて呼気検査を受けた。検査の結果は,呼気1ℓ中のアルコール量が0.04mgというものであった。さらに,警察官は,旅券
の提示を求め,原告がホテルの部屋にあるなどと述べたことから,原告の身体につき所持品検査を実施した。原告は,ホテルの部屋から旅券を
取ってくる旨主張したが,警察官はこれを認めず,原告を入管法違反(旅券不携帯)の被疑事実で現行犯逮捕した。
翌日,原告の知人から,上記レンタカーのダッシュボード内に原告の旅券が入っていた旨の申出があり,捜索差押えの結果,ダッシュボード内から旅券が発見されたことから,原告は釈放された。

その後,警察官は,上記被疑事実につき取調べを行うため,原告に任意出頭するよう求めたが,原告は,自身の身上経歴を知りたいのであれば著書を読めなどと発言し,出頭には応じなかった。
(甲19の1・2,乙49,証人H〔2~10頁〕)

本件不適合認定に至る経緯等
原告は,平成28年1月18日,成田空港に到着し,入国目的は観光であるとして本件上陸申請をしたところ,成田空港支局入国審査官は,活動内容が不明であるとして,原告をA特別審理官に引き渡した(前記前提事実⑶ア,乙24の1,69)。
A特別審理官は,通訳を介し,原告につき口

頭審理(本件口頭審理)を行った(前記前提事実⑶イ,乙20,69,証人A〔2頁〕)。
本件口頭審理において,原告は,入国目的はイルカ漁ウォッチングと観光であり,行き先はbとa町の予定であるが,bに行くか行かないかは天候次第であること,滞在予定期間は平成28年1月18日から同年2月9日までであること,活動内容としては,今までと同様,イルカ漁をウォッチングして写真を撮ったりブログに掲載したりする活動が主であること,前回の入国時に参加したようなイベント活動はないことを述べた(乙24の3,証人A〔6,7頁〕)。また,宿泊先として,同年
1月18日は東京都内のIに,同月19日以降はc町内のJ(甲9)を予約していることを述べた。A特別審理官は,これらのホテルに問い合
わせ,原告名義で宿泊予約が入っていることを確認したほか,原告が出国便を予約していることを原告からスマートフォンの予約画面の提示を受けて確認した(乙20,24の3,弁論の全趣旨)。さらに,原告は,2500ドルを所持しているほか,2種類のクレジットカードを所持している旨述べた(乙20,24の3)。

A特別審理官は,原告に対し,前回の入国時,①口頭審理において渋谷のイベントに参加しない旨話していたのに,実際には参加したこと,②伊東市長との面会に関し,親善大使の任命を受けた旨の虚偽の情報をフェイスブックに掲載したこと,③現行犯逮捕されたことについて尋ねた。原告は,①について,滞在中に気が変わったため参加したなどと答
え,②について,伊東市長とどのような話をしたのか記憶にないなどと答え,③について,旅券を所持していなかったとして逮捕されたが,車の中から旅券が見つかったことで釈放されたとし,警察に関する話は弁護士に聞いてほしい,日本の法律には違反はしていないなどと答えた(乙20,24の3,証人A〔8~11頁〕)。

A特別審理官は,滞在予定期間中のより具体的な旅程について質問したが,原告は,これについて説明をしなかった(甲19の1・2,乙20,証人A〔7,8頁〕)。
A特別審理官は,帰国までの日程に関してイルカ漁以外に説明はなく,活動内容の立証も不十分である,前回口頭審理の陳述内容とマスコミな
どを通じて報道された活動内容に齟齬があり,今回の入国に係る活動内容に関しても疑義なしとしないとして,入管法7条1項2号に掲げる上陸条件に適合しない旨判断し,本件不適合認定をした(乙20,69,証人A〔11頁〕)。


前記前提事実及び

認定事実に基づき,原告が短期滞在の在留

資格に該当していたか否かについて検討する。

なお,原告が入管法7条1項各号のうち2号以外に該当することについては,被告もこれを争っておらず,原告は,同項2号を除く各号に掲げる上陸条件には適合していたものと認めるのが相当である。

短期滞在とは,入管法別表第一の三の表下欄において,本邦に短期間滞在して行う観光,保養,スポーツ,親族の訪問,見学,講習又は会合への参加,業務連絡その他これらに類似する活動をいうものと規定され,この在留資格をもって在留する者は,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行ってはならないとされている(同法19条1項2号)ところ,原告は,本件口頭審理において,活動内容につき,イルカ
漁を見て写真を撮ったりブログに掲載したりするのが主である旨説明しており,上記説明に係る活動内容は観光,〔中略〕見学〔中略〕その他これらに類似する活動に当たるといえる。また,原告の上記説明内容は,原告の経歴や過去の本邦における活動状況と整合するものであり,原告が滞在予定期間の全期間について宿泊先のホテルを確保しており,到着日以
外はa町に近いc町内のホテルに宿泊を予定し,出国便の予約もしていたことに照らしても,原告の上記説明内容が信ぴょう性を有することがうかがわれる。
そして,イルカ漁を見る等の上記説明内容や,原告の過去の本邦における活動状況等に照らせば,原告には,滞在予定期間中,a町や天候次第で
bに行き,これらの場所でイルカ漁を見るなどするという以上に詳細な予定がなかったとしても不自然とはいえず,原告の上記説明は,今次入国における活動内容の説明として相応に具体性を有していたということができる。さらに,原告は,上記説明内容に係る活動の費用を賄うのに十分な資力を有していたといえるし,原告の経歴や過去の活動状況等に照らして,
原告に本邦において収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行うおそれがなかったことは明らかである。

以上の点に加え,前回の入国の際は本件口頭審理と同程度の説明内容で上陸許可がされたことに鑑みれば,原告は,本件上陸申請に当たり,短期滞在の在留資格に該当することについて,立証を果たしたものということができ,原告は短期滞在の在留資格に該当していたものとみるのが相当である。


これに対し,被告は,前回の入国時の行動,具体的には,①前回口頭審理の際の陳述内容と異なる行動を取ったこと,②伊東市長との面会に関し虚偽の情報をフェイスブックに掲載したこと,③入管法違反で現行犯逮捕されたことにつき,原告から十分な説明がなかったことを根拠に,今次入
国において本邦で行おうとする活動内容等についてより具体的かつ網羅的な立証が必要とされるとした上で,原告による立証が不十分であった旨主張する。
しかしながら,①については,原告は,前回口頭審理において,a町のイベントには参加する旨申告しているのであるし,渋谷のイベントに
ついても,a町のイベントと比較して非常に過激であるなどといった出入国管理上の懸念を生じさせるようなものでないこと(証人A〔23,35,38頁〕)からすれば,前回の入国に当たって,渋谷のイベントに参加する旨述べたことにより上陸が拒否され得るといった状況にはなかったということができる。そうすると,原告において渋谷のイベント
に参加する予定があったのにあえてこれを秘匿する動機があったとは考え難いから,原告が前回口頭審理の際に,その時点での活動予定と異なる虚偽の陳述をしたものとは認められないというべきである。
したがって,原告が前回の入国時に前回口頭審理における陳述内容と異なる行動を取ったとの事実は,本件口頭審理における活動内容に関す
る原告の説明が虚偽であり,その説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動を行うことを疑わせる事情には当たらないと
いうべきである。
②については,確かに,原告を正式に親善大使として任命する手続があったと認めるに足りる証拠はないものの,一方で,前記認定事実イのとおり,面会時にEがSUPの彼(裁判所注:原告のこと)は大使ということでなどと発言したのに対し,伊東市長がああ,うん,ねなどと返し,明確にこれを否定することもないままSUP事業についての会話が続いており,原告が何らかの誤解をした可能性もないとはいえないこと,原告がEから伊東市長より親善大使に任命された旨の記事の削除要請があったことを聞き,すぐに当該記事を削除したことなど
を考慮すると,原告が伊東市長から親善大使に任命された旨の記事をフェイスブックに掲載したことが,意図的に虚偽の情報を流布したものであるとまでは認め難い。
そうすると,上記記事をフェイスブックに掲載したという事実は,本件口頭審理における活動内容に関する原告の説明が虚偽であり,その説
明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動を行うことを疑わせる事情に当たるとまではいえない。また,そうであるとすれば,原告が本件口頭審理において,伊東市長との面会に関して詳細な説明をしなかったとしても,このこと自体が,本件口頭審理における活動内容に関する原告の説明が虚偽であるとか,その説明内容の範疇を超え
た短期滞在に該当しない何らかの活動を行うことを疑わせる事情に当たるともいい難い。
③については,前回の入国時に旅券不携帯による被疑事実で現行犯逮捕されたことや,その経緯として飲酒した上で車両を運転したこと等について,原告が詳しい説明をしていなかったとしても,これらの出来事
は前回の入国時の一回的な事情にすぎず,その内容に照らしても入国後の活動内容についての説明を疑わせるような事情であるとはいい難いか
ら,原告が前回の入国時における上記の出来事について詳細な説明をしなかった事実をもって,本件口頭審理における活動内容に関する原告の説明が虚偽であり,その説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動を行うことが疑われるということはできない。
以上によれば,原告には今次入国において本邦で行おうとする活動内
容等についてより具体的かつ網羅的な立証が必要とされるとする被告の主張については,その根拠を欠くものといわざるを得ず,採用することができない。

また,被告は,原告が,本邦で行おうとする活動内容等についてのA特別審理官からの質問に対し,イルカ漁ウォッチングと観光である旨述べ,
それ以外のことについては,どこに行って何をしようと自分の勝手であるなどと述べて,何か他のことをするともしないとも言わず,自身の在留資格該当性について十分な立証を行うことができていなかった旨主張し,A特別審理官も原告が上記のとおり述べた旨証言する(証人A〔7頁〕)。しかしながら,原告の今次入国における本邦での活動内容の説明が不自
然なものではなく,相応に具体性を有していたことは,前記アのとおりである。そして,原告が従前の入国に際して,本邦での活動内容についてその時点での活動予定と異なる虚偽の説明をした事実は認められないこと(前記イ

)に加え,原告の本邦における過去の活動状況等に照らせば,

原告のA特別審理官に対する上記対応をもって,原告が上記説明内容の範
疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動をするのではないかとの疑念を生じさせるものであったとはいい難いから,このことをもって,原告が自身の在留資格該当性について十分な立証を行うことができていなかったとはいえない。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。


さらに,被告は,原告が我が国の利益及び地域社会の秩序及び安寧を害
し,かつ,将来においてもこれを害するおそれを否定し得ない者であるとした上で,原告が我が国の安寧秩序を害するおそれのある活動を行わないことの立証を十分にしなかったことから,在留資格該当性の立証が不十分であることを理由として上陸を許可しないことは適法である旨主張する。この主張は,要するに,原告には,本件口頭審理における自身の活動内容に関する説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動を行う疑いがあり,これによって我が国の安寧秩序を害するおそれがあることから,そのような活動を行わないことの立証を十分にしない以上,短期滞在の在留資格該当性についての立証がない旨をいうものと解さ
れる。そこで,以下,原告がそのような活動を行う疑いがある根拠として被告が主張する点について検討する。
まず,被告は,a町における反イルカ漁運動の中心的存在というべき原告について,捕鯨やイルカ漁に対して悪質,過激な妨害活動を行っている反捕鯨団体のシー・シェパード(乙63~66,72~74,7
6)と無関係とはいい難い旨主張する。
この点,確かに,シー・シェパードの創設者が,2003年(平成15年)当時,原告はシー・シェパードのクルーかつ顧問会議のメンバーであったとする記事をホームページに掲載しているものの,同記事によっても,同年にシー・シェパードのメンバーがイルカ漁の網を切るとい
う事件を起こしてからは,原告はシー・シェパードと一線を画するようになったとされており(乙55),Dも,平成16年以降,原告がシー・シェパードのメンバーと一緒に行動していなかった旨証言している(証人D〔14頁〕)。被告は,Cの制作過程で原告とシー・シェパードとの間に何らかの接点があったことがうかがわれるとも主張する
が,原告は,同映画に出演し,カメラマンやアドバイザーの役割も果たす一方,同映画では,シー・シェパードのメンバーが撮影した映像も使
用されている(乙47,証人D〔8頁〕)ものの,どのような経緯で当該映像が使用されるに至ったか定かではなく,同映画の制作における原告とシー・シェパードのメンバーとの関係も不明であり,少なくとも上記事実をもって,原告とシー・シェパードに密接な関係があったと認めることはできない。そして,他に原告とシー・シェパードが何らかの関係を有することを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件上陸申請の時点において,原告がシー・シェパードと関係があり,同団体が行っているような方法でのイルカ漁の妨害活動をするおそれがあったとはにわかに認め難い。

被告は,原告がa町において数々の迷惑行為を行ってきたとも主張する。
しかしながら,原告がa町において有形力を用いてイルカ漁を妨害した事実や,a町の漁業関係者等に対して暴力行為をした事実は認められない(証人D〔14,15頁〕参照)。Dは,原告又は原告の同行者に
よって,道にコードのようなものを張られて転倒させらそうになったことがある旨証言するが,コードのようなものが張られていたことについて客観的な証拠はなく,また仮に張られていたとしても原告又は原告の同行者が張ったことを裏付ける客観的な証拠がない以上,原告がDを故意に転倒させようとしたとの事実を認めることはできない。

被告は,原告が,嫌がる漁業関係者をビデオカメラで執拗に撮影し,侮辱的な文面を付して世界中に伝播させたと主張し,これに沿う証拠(乙47,48)を提出する。しかしながら,ビデオカメラで撮影した点については,原告がイルカ漁の様子を撮影している際に,これに反発した漁業関係者の姿が映り込んだという可能性も否定できず(甲26,
証人D〔17頁〕),撮影を拒む漁業関係者の容姿を原告が執拗に撮影したことを認めるに足りる適確な証拠はないといわざるを得ない。また,
Cにおいて侮辱的な文面を付した漁業関係者の映像を世界中に伝播させた点について,同映画におけるDの顔が映し出された映像に付された原告のコメントは,Dを揶揄する不適切なものであったといえるものの,原告が他にこのような不適切なコメントを付した映像を発信したことを認めるに足りる証拠はない。さらに,被告は,原告が,イルカ漁師達を盗撮した画像を同人らが原告に危害を及ぼすおそれがあるかのようなコメントを付してフェイスブックに投稿したとも主張するところ,同主張に係るa町内のコンビニエンスストアでの撮影画像を付した投稿には,警察がいて良かったなどとするコメントが付されており(前記
認定事実ア),この点は不適切とのそしりを免れないものの,このような投稿が単発的なものにとどまらず,反復して行われたことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,本件上陸申請の時点において,原告が漁業関係者等への嫌がらせなどを行うこと自体を本邦への入国の目的としていた疑いがあ
るということも困難である。
被告は,その他,原告が警察官による警告や指導を受けても意に介さない態度を取り続けていたなどと主張するが,いずれも,イルカ漁を見学するなどの本件口頭審理における活動内容に関する説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動を行うことを疑わせる事
情ということはできない。また,原告の本件口頭審理における供述態度についても,これをもって上記のような活動を行うことを疑わせる事情ということができないことは,前記ウのとおりである。
そして,他に,原告の言動について,本件口頭審理における活動内容に関する説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活
動を行うことを疑わせる事情があったことを認めるに足りる主張及び立証はない。

以上によれば,被告の主張する事情は,いずれも,本件口頭審理における活動内容に関する説明内容の範疇を超えた短期滞在に該当しない何らかの活動をする疑いがあるという事情に当たらないものといわざるを得ない。


以上のとおり,原告は,短期滞在の在留資格に該当していたと認められるから,本件不適合認定は,争点⑷について判断するまでもなく,違法である。

3
争点⑸(本件退命裁決,本件退去命令,本件認定,本件判定,本件裁決及び本件退令発付処分が適法であるか否か)について



本件退去命令について
前記2のとおり,本件不適合認定は違法であるから,原告が上陸条件に適合しないことを前提にしてされた本件退去命令は,その前提を欠くものとして違法となるというべきである。



本件退令発付処分について
上記⑴のとおり,本件退去命令は違法であり,取り消されるべきものであ
るから,その不遵守を理由としてされた入管法24条5号の2の退去強制事由に該当するとの本件認定は,前提を欠くものであり,違法というべきである。そして,本件認定が違法である以上,原告が同号の退去強制事由に該当する者であることを前提にしてされた本件退令発付処分も,その前提を欠くものとして違法となるというべきである。



以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件退去命令及び本件退令発付処分は違法であるから,取消しを免れないこととなる。
4結論
以上によれば,本件訴えのうち,本件不適合認定,本件退命裁決,本件認定,本件判定及び本件裁決の各取消しを求める部分は,不適法であるからこれらを却下し,原告のその余の請求は,いずれも理由があるからこれらを認容するこ
ととして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

三英川明弘持貫納有子
(別紙)
指定代理人目録
笠間那未果,星名大,大槻茂樹,吉岡聖剛,亀田友美,遠藤由美,小高真志村次香名子,酒匂慶,今泉尭之,迎雄二,白根聖子,佐藤志麻,清野理子谷川金広
以上
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