判例検索β > 平成31年(ネ)第255号
事件番号平成31(ネ)255
裁判年月日令和元年9月27日
法廷名福岡高等裁判所
原審裁判所名福岡地方裁判所  小倉支部
原審事件番号平成29(ワ)305
裁判日:西暦2019-09-27
情報公開日2019-10-30 10:00:07
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主1文
原判決を次のとおり変更する。


控訴人は,被控訴人に対し,1265万円及びうち1150万円に対する平成23年12月29日から,うち115万円に対する平成20年11月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


2
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

[以下,第2事案の概要の部分は,原判決を付加訂正した。下線を付した部
分が,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正等については,特に指摘していない。]
第2
1
事案の概要
本件は,石綿工場において石綿製品の製造に従事していた被控訴人が,石綿粉じんばく露により肺がんを発症したことについて,被控訴人の肺がん発症は控訴人が労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの。以下旧労基法という。)に基づく省令制定権限を行使して石綿工場に局所排気装置を義務付けるなどの措置を怠ったことが原因であると主張して,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料1150万円及び弁護士費用115万円の合計1265万円並びにこれに対する被控訴人が肺がんの診断を受けた日である平成20年9月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお,控訴人は,労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患防止のために旧労基法に基づく省令制定権限を行使しなかった
ことが国家賠償法1条1項の適用上違法であると最高裁判所が判断したことを受けて(泉南アスベスト第2陣訴訟についての上告審判決である最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁。以下最高裁平成26年判決という。),同判決で認められた控訴人の責任期間内に石綿工場等で作業し石綿関連疾患にり患した労働者又はその遺族に対し,訴訟上の和解手続により損害賠償を行うことを表明しており(以下控訴人の和解方針ということがある。),本件請求は,これに則ったものである。
原審は,被控訴人の請求を認容したため,控訴人が控訴した。
2
前提事実(認定根拠を掲記しない事実は争いがない。)


被控訴人は,昭和35年3月頃から平成8年12月頃までの間,北九州市a区bc丁目所在の浅野スレート株式会社(現在は株式会社エーアンドエーマテリアル)a工場建屋内において,石綿製品である石綿スレートの製造作業(具体的には,原料石綿の袋を破ってビーター(攪拌機)に投入する作業や成型後のスレート板を切断する作業)に従事した(作業に従事した期間について甲1)。



被控訴人は,上記⑴のとおり石綿粉じんが飛散する上記工場建屋内における作業に従事したことによって石綿粉じんのばく露を受けたため,肺がんにり患した。
被控訴人は,上記の肺がんについて,上記⑴の作業場における業務に起因するものとして,平成22年2月12日に労災認定を受けた。



控訴人は,最高裁平成26年判決を受けて,①昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に,局所排気装置を設置すべき石綿工場内において,石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと,②その結果,石綿による一定の健康被害を被ったこと,③提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であることの3つの条件を満たす場合には,訴訟上の和解により,下記の算定基準に基づいて,責任限度額2分の1の範囲で,慰謝料を支払うことを表
明した。

じん肺管理区分の管理二で合併症がない場合


管理二で合併症がある場合

1400万円


管理三で合併症がない場合

1600万円


管理三で合併症がある場合

1900万円


管理四,肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚の場合


石綿肺(管理二,三で合併症なし)による死亡の場合


石綿肺(管理二,三で合併症あり又は管理四),肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚による死亡の場合

1100万円

2300万円
2400万円

2600万円

被控訴人は,上記①ないし③の条件をいずれも満たしている。3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における争点は,本件請求についての遅延損害金の起算日を肺がん診断日とすべきか,労災認定時とすべきかである。

【被控訴人の主張】


不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に何らの催告を要せず遅滞に陥るところ,被災者が石綿肺,肺がんや中皮腫などの石綿関連疾患にり患したことによる損害は,これらの疾患を発症したことにより生じるものである。したがって,損害の発生時点は,被災者がこれらの疾患を発症した時と解するのが合理的である。そして,疾患発症の有無は医学的診断によりされることからすれば,これらの疾病についての診断がされた時をもって,損害の発生及びその賠償債務の遅滞を認めるのが相当である。
したがって,本件請求についての遅延損害金の起算日は,肺がん診断日(平成20年9月26日)か,遅くとも肺がんの確定診断日(確定診断のための生検がされた同年11月7日)とするのが相当である。



最高裁平成26年判決により是認された原審判決(大阪高裁平成25年12月25日判決。以下大阪高裁平成25年判決という。)は,石綿肺が
進行の程度が予測できない特異的な進行性の疾患であり診断が難しいことから,石綿肺にり患した事実やその損害の質はこれらに関する行政上の決定がなければ通常は認め難いとして,上記⑴の例外として,石綿肺にり患した者の損害賠償請求の遅延損害金起算日を,確定診断日に代えて,行政上の決定(じん肺管理区分決定)を受けた時と判断しているが,肺がんにり患した者については,肺がんり患の事実は通常は医療機関の行う病理検査により確定的に診断することができることから,上記⑴に従い,その損害賠償請求の遅延損害金起算日を肺がんの確定診断日と判断している。このように控訴人の和解方針の前提となっている大阪高裁平成25年判決の判断によれば,本件請求についての遅延損害金の起算日は,肺がん診断日か,遅くとも肺がんの確定診断日となる。
控訴人は,大阪高裁平成25年判決が肺がんにり患した者につき確定診断日を遅延損害金起算日と判断したのは,労災保険給付の認定日が証拠上明らかではなかったためにすぎないし,びまん性胸膜肥厚にり患した者についても行政上の決定があった日を遅延損害金の起算日と判断していることからすると,同判決は石綿関連疾患の病名にかかわらず,行政上の決定があった日を遅延損害金起算日と判断していると指摘する。
しかし,同判決は,上記の肺がんにり患した者について,肺がんの確定診断を受けた組織診のために手術を受けた平成24年2月2日を遅延損害金起算日と判断しているところ,仮に同判決が肺がん患者についても行政上の決定日を遅延損害金起算日と判断しているとすれば,同年12月以降に労災保険支給決定がされたことが証拠上認定できるのであるから,それよりも早い上記手術日を遅延損害金起算日と判断していることと整合しない。また,びまん性胸膜肥厚にり患した者については,訴訟において,いずれも労災支給決定日を遅延損害金起算日とする請求をしていたため,それよりも前の日である確定診断日を遅延損害金起算日とする判断ができなかったにすぎない。
これらによれば,控訴人の上記指摘は当たらない。なお,控訴人は,大阪高裁平成25年判決が,肺がんや中皮腫を含め石綿関連疾患については最も重い行政上の決定日又は死亡日を損害発生日として統一的に理解し,その旨判示していると指摘するが,控訴人が指摘する判示部分は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間の起算点となる不法行為時を損害発生時ととらえるのが相当である旨を示したものであり,肺がんや中皮腫につき上記決定日をもって損害発生時とするとの判断を示したものではない。
また,控訴人は,控訴人の和解方針は,最高裁平成26年判決が是認した大阪高裁平成25年判決の判断枠組みに従ったもので,同判決が石綿関連疾患のり患による損害賠償請求については行政上の決定があった日を遅延損害金起算日と判断しているから,肺がんにり患した者につき確定診断日を遅延損害金起算日と扱うことは公平の観点から不適切であるとも指摘するが,上記に主張したとおり,控訴人の大阪高裁平成25年判決の理解が誤っているから,控訴人の上記指摘は理由がない。


また,労災保険給付手続においては,一般に,業務上疾病の診断確定日をもって,当該疾病について医学上療養を必要とするに至った時期とするものの,実際の発病時点よりも後に当該病名の診断がされる場合には,現実に療養が必要となった時期,すなわち当該傷病名を診断した医療機関の初診日をもって診断確定日とする扱いをする旨を定めており,石綿による肺がんについても同様の扱いがされているが,じん肺及びじん肺合併症は,これとは異なる例外的な取扱いがされている。これによっても,石綿粉じんに起因する肺がんについては,上記の例外的な取扱いが妥当する石綿肺やその合併症といった石綿関連疾患とは区別して,原則的な取扱いにより,肺がんを診断した医療機関の初診日又は遅くとも確定診断の根拠となった検査が実施された日を遅延損害金起算日とすべきである。



控訴人は,石綿に起因する肺がんについては,じん肺の場合と同様に,行
政上の決定により損害の発生が認められると主張する。
しかし,石綿肺は,肺胞及びその周辺の繊維増殖性変化を基本的病変とする他のじん肺とは異なるものとされている上,石綿肺に合併する肺がんは,石綿肺の基本的病変を素地として発症するものともされていない。また,石綿自体の発がん性も指摘されている。石綿関連疾患についての国際的診断基準であるいわゆるヘルシンキ基準においては,石綿肺所見がある場合以外にも,石綿粉じんのばく露の程度に応じて石綿による肺がんの診断基準を定めており,これは,日本の労災認定基準にも取り入れられている。これらの事情からすると,石綿に起因する肺がんについて,じん肺と同様に,行政上の決定がなければ損害の発生が認められないということはできない。控訴人の上記主張は理由がない。
また,控訴人は,肺がんについても労災認定がなければ当該肺がんが石綿に起因するものであるとは通常認められないと主張するが,肺がんの原因が石綿粉じんのばく露にあるかどうかが判明することによって初めて損害の発生,すなわち肺がんを発症した事実が認められるものではないから,控訴人の上記主張は理由がない。
【控訴人の主張】


大阪高裁平成25年判決は,石綿肺を含むじん肺が肺内の粉じんの量に対して進行するという特異な進行性の疾患であり,その進行の程度について予測が困難であるという特質を踏まえ,じん肺管理区分に係る行政上の決定を受けた場合にはじん肺管理区分ごとに質的に異なる損害が発生したものと解すべきであり,また,被災者が死亡した場合には上記損害とは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきである旨を判示した最高裁判決(最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁(以下平成6年最判という。)など)を踏まえ,同判決の一審原告らが主張する損害が発生するのは,最も重い行政上の決定を受けた時又は石綿関連疾患により死
亡した時と解すべきであるとして,その遅延損害金の起算日は,最も重い行政上の決定を受けた時又は石綿関連疾患により死亡した時と解するのが相当である旨判示している。
また,同判決においては,肺がんと同様にじん肺管理区分決定とは無関係に慰謝料額が定められた疾患であるびまん性胸膜肥厚についても,最も重い行政上の決定日又は死亡日を損害発生時として,遅延損害金の起算日とする判断をしている。なお,被控訴人は,同判決がびまん性胸膜肥厚を発症した被災者につき行政上の決定日を遅延損害金起算日と判断したのは,同被災者らの主張に基づくものであったと主張するが,同判決は,同被災者らの主張する最初の行政上の決定日の主張を採用せず,あえて最も重い行政上の決定日又は死亡日と認定しているのであるから,被控訴人の上記主張は失当である。
これらによれば,大阪高裁平成25年判決は,肺がんを含めた全ての石綿関連疾患について,その損害が最も重い行政上の決定日又は石綿関連疾患による死亡日に発生し,同日が遅延損害金起算日になる旨を判示していることは明らかである。被控訴人は,大阪高裁平成25年判決においては,肺がんにり患した者1名については,肺がんの確定診断を受けた日を遅延損害金の起算日と認定されていることを指摘するが,同人については,労災保険支給決定がされた日が証拠上明らかでなかったために,例外的に,肺がんの確定診断を受けた日を遅延損害金起算日としたものと考えられ,上記判決が,肺がんについては,その遅延損害金の起算日を確定診断日とする旨を一般論として判示したものであるとは解されない。
また,控訴人の和解方針は,大阪高裁平成25年判決の上記判断に従ったものであり,他の多数の同種事案においても,その病名にかかわらず,最も重い行政上の決定日又は石綿関連疾患による死亡日を遅延損害金の起算日とする取扱いをしているから,公平の観点からも,本件の被控訴人のみにつき
控訴人の和解方針と異なる取扱いをすることはできない。


石綿に起因する肺がんと一般の肺がんは,臨床像や画像上の特徴において差異はないし,肺がんの要因は,喫煙を始めとして多々存在するから,被災者が肺がんの確定診断を受けたとしても,それだけでは直ちに石綿に起因する肺がんであるか否かが明らかになるものではない。そこで,石綿による肺がんが業務上の疾病と認めるには,石綿のばく露による肺がんの発症リスクが2倍以上の場合には肺がん発症の原因が石綿ばく露に起因するものとみなすとの考え方を前提に,厚生労働省労働基準局長発出の石綿による疾病の認定基準について(平成24年3月29日基発第2号,以下石綿疾病認定基準という。)において定める認定要件,すなわち,エックス線写真による所定の石綿肺の所見が得られていること,胸膜プラークが認められ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること,乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体の所見が得られ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あることなどのいずれかを満たす必要があるものとされている。そして,石綿ばく露作業の従事歴の認定は,事業主や同僚に対する確認を行うなど客観的に行う必要がある。
医師による肺がんの診断は,上記認定要件についての検討を経たものではないから,それだけでは石綿にさらされる業務による肺がんの発症であると認めることはできない。大阪高裁平成25年判決は,こうした理解も踏まえて,肺がんの場合も,他の石綿関連疾患と同様に,最も重い行政上の決定日又は死亡日を遅延損害金起算日としているものと理解できる。



被控訴人は,肺がん発症の有無が医学的に診断されるとして,石綿に起因する肺がんについては,肺がんの医学的診断を受けた日に損害が発生し,同日が遅延損害金起算日となる旨主張する。
しかし,石綿関連疾患については,いずれも,疾患の症候が生じた後に,その症候に対する医療機関の医学的な検査や診断が行われ,行政庁において
その医学的検査や診断を踏まえて,行政上の決定が行われるのであって,その手続は,肺がんとその他の石綿関連疾患とで何ら異なるところはない。また,じん肺においても,行政上の決定の根拠となったエックス線写真等の撮影時に,疾患の発生を認める余地がないわけではないが,当該決定がいつの診断に基づくかは証拠上認定し得ないことが多く,認定上,明白かつ確実である行政上の決定時をもって,じん肺の症状の発現を認めるのが相当であることから,平成6年最判は行政上の決定を受けた日に損害が発生したとしたものであり,行政上の決定がいつの時点を対象としてされたのかを証拠上認定することが困難であることは,肺がんもじん肺(石綿肺)も変わらない。
したがって,肺がんの場合に,医療機関の医学的な検査や診断が行われていることをもって,他の石綿関連疾患と区別して,確定診断日を遅延損害金起算日と扱うべき理由とすることはできない。
また,被控訴人は,労災保険給付手続においては,業務上疾病の確定診断日又は初診日をもって発病年月日とする取扱いが原則となっているところ,じん肺及びじん肺合併症のみがこれとは異なる例外的な取扱いがされているにすぎず,石綿粉じんに起因する肺がんについては,上記の例外的な取扱いが妥当する石綿肺やその合併症といった石綿関連疾患とは区別して,原則的な取扱いにより,肺がんを診断した医療機関の初診日又は遅くとも確定診断の根拠となった検査実施日を損害発生日すなわち遅延損害金起算日とすべきであると主張する。
しかし,被控訴人が指摘するのは,労働者の福祉の増進を目的として行われる労災保険における療養給付の範囲を画するものとなる確定診断日(発病年月日)の取扱いを説明したものであり,これとは大きく性質の異なる損害賠償債務に係る遅延損害金の起算日の取扱いを定めたものではない。また,労災保険給付手続においては,じん肺及びじん肺の合併症についても,行政
上の決定があった日から遡って診断確定日(発病年月日)とする取扱いがされており,肺がんについてのみ行政上の決定日と異なる日を診断確定日(発病年月日)としているわけではない。したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
[以下は,当審において書き下ろした。]
第3
1
当裁判所の判断
控訴人の責任について
労働大臣は,昭和33年5月26日には,旧労基法に基づく省令制定権限を行使して,罰則をもって石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり,それにもかかわらず,特定化学物質等障害予防規則(昭和46年労働省令第11号)が制定された昭和46年4月28日まで,労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは,旧労基法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである(最高裁平成26年判決)。
本件においては,控訴人は,被控訴人に対し,上記国家賠償法に基づく責任を負うこと,損害賠償金元金のうち責任限度額2分の1の範囲で支払義務を負うことは争っていないが,後記2のとおり,遅延損害金の起算日について争いがあるから,控訴人と被控訴人との間に支払の合意が成立しているものとみることはできない。
しかし,前提事実⑵のとおり,被控訴人は,石綿粉じんのばく露により肺がんを発症したのであるから,前提事実⑶に加えて上記控訴人の対応も併せ考慮すると,控訴人は,被控訴人に対し,損害賠償金(慰謝料)2300万円及びその遅延損害金に後記3の損益相殺をした残額のうち,責任限度額1150万円及び弁護士費用相当損害金115万円並びにこれらに対する遅延損害金の限度で損害賠償義務を負うというべきである。

2
争点(遅延損害金の起算日)について


認定事実
前記前提事実,証拠(甲1~3,5,6,15)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

被控訴人は,昭和35年3月頃から平成8年12月頃まで,浅野スレート株式会社に雇用され,そのa工場内において石綿スレート製品の材料配合,切断加工等,同製品の製造作業に従事し,石綿粉じんにばく露した。

被控訴人は,平成20年3月に福岡労働局長から石綿健康管理手帳の交付を受け,同年8月28日,九州労災病院で健康診断を受けたところ,肺のCT画像に陰影が見つかり,再検査を受けることとなった。


被控訴人は,平成20年9月26日,九州労災病院で再検査を受けたところ,上記陰影が増大傾向にあったことから肺がんの疑いと診断された。

被控訴人は,その後,検査入院を重ね,平成20年11月7日,右肺下葉部を切除する手術を受け,その際に行われた生検により腺がんと確定診断された。被控訴人には,右肺尖部白色胸膜肥厚,右上葉外側限局性肥厚という胸膜プラーク,著名な胸膜癒着も認められた。


被控訴人は,平成20年12月,労災申請を行い,平成22年2月12日,浅野スレート株式会社における業務に起因するものとして,労災保険給付の支給決定を受けた。



医学的知見等
証拠(甲8~11,15,乙5~7,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

石綿との関連が明らかな疾病には,石綿肺,肺がん,中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚がある。


石綿肺は,石綿粉じんにばく露し,これを吸入することによって起こる肺のびまん性間質性肺線維症であり,じん肺の一種である。

吸入され気道や肺胞に沈着した粉じんは,繊毛運動による除去作用や肺胞による除去作用により除去され得るが,除去されなかった粉じんが主に呼吸細気管支や肺胞に貯留すると,それが基で疾病が発生する。粉じんの吸入によって起こる疾病のうち中毒を除いて代表的なものがじん肺である。じん肺は,不可逆性であり,元の健康な組織に戻ることはない。肺胞やその周辺に起こった線維増殖性変化によりじん肺結節ができるが,周辺の間質やリンパ腺の変化が進めば,その後に吸入した粉じんは,次第に肺胞内に蓄積され,周辺の病変も加わってじん肺結節は更に大きくなり結節の数も増加し,気腫性の変化や気道の慢性炎症性変化も進展する。これらの変化が進行すると,息切れや動悸等の症状が現れてきて,肺機能の障害も現れる。
石綿肺を含むじん肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんに対応する進行という特異な進行性の疾患であって,どの程度の速度でどの程度進行するかは患者によって多様であり,あらかじめ予測することはできない。

肺がんについては,主な4つの組織学的型(扁平上皮がん,腺がん,大細胞がん,小細胞がん)全ての肺がんが石綿に関連して惹き起こされ得る。肺がんについては,石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり,様々な要因があることが知られている。中でも,喫煙は,肺がんの最大の要因であるとされているが,喫煙に次いで石綿が多いとされている。数多くの信頼できる疫学調査から,肺がんの相対リスクと石綿への累積ばく露量との間には,累積ばく露量が増えれば発症リスクが上がるという量-反応関係があることも明らかにされており,これらの知見を否定する有力な見解は見当たらない。石綿による肺がんとそれ以外の肺がんとの間に,特に臨床像,画像上の所見に差異はない。
肺がん発症の原因が石綿ばく露によるものと判断する基準として,肺が
んの発症リスク2倍を基準とする考え方に否定的な見解を示す文献はなく,それ以外の考え方を明確に取り入れている国は見られない。肺がんの発症リスクが2倍になる石綿累積ばく露量に相当する指標としては,石綿肺所見,胸膜プラーク所見,肺内石綿繊維数,石綿作業ばく露期間が想定されている。

石綿疾病認定基準は,認定要件について次のとおり定めている。なお,石綿肺については,原則として,都道府県労働局長によってじん肺管理区分の決定がされた後に,業務上の疾病か否かが判断される。
石綿肺(石綿合併症を含む。)
石綿ばく露作業に従事しているか又は従事したことのある労働者(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第33条に規定する特別加入者を含む。以下石綿ばく露労働者という。)に発生した疾病であって,じん肺法(昭和35年法律第30号)第4条第2項に規定するじん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺又は石綿肺に合併したじん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号)第1条第1号から第5号までに掲げる疾病(じん肺管理区分が管理4の者に合併した場合も含む。)は,労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)別表第1の2(以下別表第1の2という。)第5号に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
肺がん
石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,次の⑴から⑹までのいずれかに該当するものは,最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き,別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。


(略)



胸部エックス線検査,胸部CT検査等により,胸膜プラークが認められ,かつ,石綿ばく露作業への従事期間(石綿ばく露労働者としての従事期間に限る。以下同じ。)が10年以上あること。ただし,第1の2の⑶の作業に係る従事期間の算定において,平成8年以降の従事期間は,実際の従事期間の1/2とする。

⑶から⑹まで

(略)

じん肺管理区分の認定は,要旨,次のとおり行われる。
事業者は,常時粉じん作業に従事する労働者に一定期間ごとにじん肺健康診断(じん肺法3条,粉じん作業についての職歴の調査及びエックス線写真による検査等の方法によって行う。)を行うことを義務付け(同法7条,8条,9条,9条の2),じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者について,当該エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を都道府県労働局長に提出することを義務付けている(同法12条)。
じん肺管理区分を決定する具体的手続としては,都道府県労働局長が,①事業者からじん肺の所見があると診断された労働者のエックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等が提出されたときや,②常時粉じん作業に従事する労働者若しくは常時粉じん作業に従事する労働者であった者がじん肺健康診断を受けて行う申請又はこれらの者にじん肺健康診断を行った事業者が行う申請があったときは,エックス線写真等を基礎として,地方じん肺診査医(同法39条)の診断又は審査により,じん肺管理区分の決定をするものとされている(同法13条2項,15条,16条)。
この地方じん肺診査医の診断又は診査については,全国的に統一された基準に基づいてじん肺管理区分を行う必要があることから,じん肺について専門的知識を有する意思をじん肺診査医に任命し(同法39条4項),
じん肺診査医の的確かつ公正な診査結果により,都道府県労働局長が,行政処分としてじん肺管理区分の決定を行うこととされている。
じん肺のエックス線写真の像は,両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり,かつ,大陰影がないと認められるものは第1型に,両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり,かつ,大陰影がないと認められるものは第2型に,両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり,かつ,大陰影がないと認められるものは第3型に,大陰影があると認められるものは第4型に区分される(同法4条1項)。じん肺管理区分としては,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見がないと認められるものは管理一に,当該所見があると認められるものはその進展の程度に応じて,エックス線写真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものは管理二に,エックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものは管理三イに,エックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものは管理三ロに,エックス線写真の像が第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1を超えるものに限る。)と認められるもの,エックス線写真の像が第1型,第2型,第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるものは管理四に区分される(同法4条2項)。
事業者は,管理二及び管理三イの労働者に対し,粉じん作業に従事する時間の短縮等の措置を講じなければならず(同法20条の3),都道府県労働局長は,管理三イの労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは,事業者に対し,粉じん作業以外の作業に従事するよう勧奨することができ(同法21条1項),事業者は,上記勧奨を受けたとき又は管理三ロ
の労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは,粉じん作業以外の作業に従事させるよう努めなければならない(同条2項)。都道府県労働局長は,管理三ロの労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときは,地方じん肺診査医の意見により当該労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に従事させるよう指示することができる(同条4項)。
事業者は,同法21条1項の勧奨を受けた労働者,管理三ロの労働者及び同条4項の指示を受けた労働者が常時粉じん作業に従事しなくなったときは,転換手当を支払わなければならない(同法22条)。事業者は,管理三の労働者を粉じん作業以外の作業に従事させるため必要があるときは,作業転換のための教育訓練を行うよう努めなければならない(同法22条の2)。
管理四と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は,療養を要する(同法23条)。


争点に対する判断
被控訴人の請求は,国家賠償法1条1項に基づくものであるところ,不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥ると解される(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁)から,同債務については損害発生の日が遅延損害金の起算日となる。
本件においては,被控訴人に生じた石綿に起因する肺がんについて,その損害をどのようにみるのかが問題となる。
被控訴人が主張している損害は,石綿に起因する肺がんであるが,肺がんが石綿に起因するかどうかは,石綿が肺がんという健康被害を発症させた原因かどうかの問題として位置付けられるべきものであって,その損害は,肺がんという健康被害それ自体とみるのが自然かつ合理的である。そして,肺
がんを発症しているか否かは,通常は病理組織検査等の医学的診断に基づいて判断されるものであるから,肺がんの確定診断を受けた日が証拠上認定し得る者については,その日に損害が発生したものとみるのが相当である。本件においては,前記⑴エのとおり,被控訴人は平成20年11月7日の右肺下葉部切除手術の際受けた生検により腺がんと確定診断されたのであるから,同日に損害が発生したものと認めることができ,控訴人が被控訴人に対して負う損害賠償債務の遅延損害金の起算日は同日である。
被控訴人は,遅延損害金の起算日は同年9月26日である旨主張するが,同時点ではいまだ肺がんの疑いという診断にとどまっており(前記2⑴ウ),これをもって損害が発生していると認めることはできない。


控訴人の主張について

控訴人は,要旨,大阪高裁平成25年判決は,肺がんを含めた全ての石綿関連疾患について,その損害が最も重い行政上の決定日又は石綿関連疾患によって死亡した日が遅延損害金起算日となる旨を判示していることは明らかである旨主張する。
しかし,証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,大阪高裁平成25年判決において,平成22年10月に肺がんが疑われ,平成24年2月2日に手術を受けて肺がんの確定診断を受けた同判決の一審原告(一審原告番号57番)が,同年12月に療養給付請求をしたところ,同月25日に上記肺がんの業務上疾病として取り扱う旨の調査結果復命書が作成され,労働基準監督署長の決裁印を得ていること,その決裁印の日付は判読しづらいものの平成24年中にされていること,大阪高裁平成25年判決は,その原告について,労災決定がされた平成24年12月25日から同月31日の間の日ではなく,それから約10か月も遡った同年2月2日を遅延損害金の起算日としていることが認められる。そして,同日は上記のとおりその一審原告が肺がんの確定診断を受けた日である。

次に,弁論の全趣旨によれば,大阪高裁平成25年判決は,びまん性胸膜肥厚にり患した同判決の一審原告らについて,労災保険決定日をもって遅延損害金の起算日としているが,当該一審原告らはそもそも労災保険決定日を遅延損害金の起算日として請求していたことが認められることからすれば,大阪高裁平成25年判決が,石綿肺以外の石綿関連疾患であるびまん性胸膜肥厚について,その損害賠償債務の遅延損害金の起算日を労災保険決定日と解していたかどうかは明らかではない。
また,確かに,大阪高裁平成25年判決は,遅延損害金の起算日について,平成6年最判を引用して,最も重い行政上の決定を受けた時又は石綿関連疾患により死亡した日と解する旨の説示があるが,この説示は,石綿関連疾患のうち代表的で,同判決の一審原告の中で最も多かった石綿肺を念頭に置いて説示したものと解される。
また,弁論の全趣旨によれば,大阪高裁平成25年判決には,除斥期間の起算点について,筑豊じん肺訴訟に係る最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁を引用し,石綿関連疾患においては,損害の発生時(…損害の発生時は,最も重い行政上の決定を受けた時又は石綿関連疾患によって死亡した時)が不法行為の除斥期間の起算点となる旨の説示はあるものの,除斥期間の適用によって請求を棄却したのは,死亡から既に20年以上が経過した者であり,肺がんにり患した原告について除斥期間を適用したものではないから,上記説示も,代表的な石綿関連疾患である石綿肺を念頭に置いたものと解する余地がある。これらによれば,大阪高裁平成25年判決が,石綿を起因とする肺がんについて,損害賠償債務の遅延損害金の起算日を労災決定の日としているものと解することはできない(かえって,個別の検討で,石綿を起因とする肺がんを発症した原告について,肺がんの確定診断を受けた日を遅延損害金の起算日としていることは,前記のとおりである。)。控訴人の上記
主張を採用することはできない。

次に,控訴人は,要旨,控訴人の和解方針は,他の多数の同種事案においても,その病名にかかわらず,最も重い行政上の決定日又は石綿関連疾患の死亡日を遅延損害金の起算日とする取扱いをしているから,公平の観点からも,本件の被控訴人のみにつき控訴人の和解方針と異なる取扱いをすることはできない旨主張する。
しかし,控訴人の和解方針が上記のようなものであるとしても,その和解方針が,客観的に認定されるべき遅延損害金の起算日を左右するものではない。また,これまでに多数の同種の事案において,上記和解方針に沿った和解が成立したとしても,それらの原告らは,早期解決等の観点から各自の判断において和解に応じたのに対し,本件の被控訴人は飽くまでも判決を求めているのであるから,当裁判所の判断が他の訴訟の原告らとの関係で公平に反するものとはいえない。控訴人の上記主張を採用することはできない。


控訴人は,要旨,肺がんの確定診断を受けたとしても,それだけでは直ちに石綿に起因する肺がんであるとはいえず,行政庁において専門的な判断を経た石綿疾病認定基準の認定要件を認定する必要があるという点で,石綿肺と変わらないから,その損害賠償債務の遅延損害金の起算日も,じん肺である石綿肺と同じであるべきであると主張する。
しかし,石綿肺(じん肺)について,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,肺内の粉じんに対応する進行という特異な進行性の疾患であることは,前記⑵イのとおりである。さらに,同オのとおり,じん肺についてはじん肺管理区分決定という行政上の決定が行われるが,このじん肺管理区分決定は,様々な法的効果を発生させるものであり,労使の権利義務に直接影響を与えるものであって,じん肺管理区分二の損害とじん肺管理区分四の損害とは質的に異なるものと評価することができる。また,じん肺
管理区分は,このような重大な効果を踏まえ,じん肺について専門的な知識を有するじん肺診査医の診断又は診査を経て決定がされることになる。このようなじん肺の疾患としての特殊性及びじん肺管理区分の法的性格等を考慮して,平成6年最判は,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効の起算点に関し,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生する旨判示したものと解される。
これに対し,石綿に起因する肺がんは,石綿肺(じん肺)のように特異な進行性の疾患であると認めることはできず,石綿肺(じん肺)のようなじん肺管理区分決定に相当する手続もないし,地方じん肺診査医の診断又は診査のような専門的な知見を有する医師による診断又は診査が行われるものでもない。したがって,本件のような石綿に起因する肺がんに関する損害の発生に係る解釈には,平成6年最判の射程が及ぶものではないと解される。控訴人の上記主張を採用することはできない。

また,控訴人は,じん肺においても,行政上の決定の根拠となったエックス線写真等の撮影時に,疾患の発生を認める余地がないわけではないが,平成6年最判は,明白かつ確実である行政上の決定時をもって,じん肺の症状の発現を認めたものであり,この法理は,石綿に起因する肺がんでも変わらない旨主張する。
しかし,平成6年最判は,上記ウのとおり飽くまでもじん肺に関する判例であり,石綿に起因する肺がんは,通常は病理組織検査等の医学的診断に基づいて判断され,じん肺とは異なるものといえる。控訴人の上記主張を採用することはできない。

3
損益相殺等について
調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば,株式会社エーアンドエーマテリアル(前浅野スレート株式会社)は,平成23年12月28日,被控訴人に対し,補償金名目で700万円及び特別補償金名目で700万円の合計1400
万円(以下企業和解金という。)を支払ったことが認められる。
そして,企業和解金1400万円のうち11分の1に相当する127万2727円(1円未満切捨て。以下同じ)は,弁護士費用相当分であると認められるから,これを控除した1272万7273円は,法定充当の規定(民法489条,491条)に従い,前記被控訴人が受領し得る確定遅延損害金,損害賠償金元金(慰謝料)2300万円の順序で充当されるべきである。そうすると,上記2300万円に対する平成20年11月7日から平成23年12月28日までの年5分の割合による確定遅延損害金は,361万3835円となり,上記1272万7273円を下回ることからすれば,企業和解金の受領により遅延損害金起算日から同日時点までの上記確定遅延損害金は既に全額充当済みとなり,損害賠償元金(慰謝料)は一部充当後1388万6562円となる。同金額は,責任限度額1150万円を上回るものであるから,控訴人は,上記責任限度額1150万円の範囲で支払義務を負うこととなる。また,本件請求は国家賠償法1条1項に基づく請求であるから,弁護士費用相当損害金も当然に認められるところ,控訴人が負担すべき弁護士費用相当額は,上記金額の1割相当額である115万円となる。
そして,慰謝料に相当する1150万円については企業和解金が支払われた日の翌日である平成23年12月29日が,弁護士費用に相当する115万円については肺がんの確定診断を受けた平成20年11月7日が,それぞれ遅延損害金の起算日となる。
4
その他,原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み,証拠を検討しても,当審における上記認定判断を左右するには足りない。

第4

結論
以上の次第で,被控訴人の請求は,控訴人に対し,1265万円及びうち1150万円に対する平成23年12月29日から,うち115万円に対する平成20年11月7日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部不当であって,本件控訴はその限度で理由がある。なお,原判決第3項前段の仮執行宣言は,控訴人が,平成31年3月12日,同項後段の仮執行免脱宣言に基づき供託したことにより,その執行力が消滅した。
よって,主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

西井和徒
裁判官

上村考由
裁判官

佐伯良子
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