判例検索β > 平成31年(わ)第413号
不正競争防止法違反
事件番号平成31(わ)413
事件名不正競争防止法違反
裁判年月日令和元年6月6日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第1部
裁判日:西暦2019-06-06
情報公開日2020-06-04 22:35:51
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主文
被告人を懲役1年2月及び罰金30万円に処する
未決勾留日数中40日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1
日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,超硬工具等の製造販売等を目的とするA株式会社の従業員として同社技術部門B部C課において勤務し,同社が管理する営業秘密が記録され,同社が管理する営業秘密記録媒体として構築されたサーバーコンピュータのアクセス権限及び同サーバーコンピュータ内に電磁的記録として蔵置された同社の営業秘密を閲覧し,ダウンロードする等の権限を付与されるなどして,同社の営業秘密を示されていた者であるが,不正の利益を得る目的で,その営業秘密の管理に係る任務に背き,平成31年1月29日午後1時47分頃から同日午後2時57分頃までの間,愛知県豊田市a町b番地所在の同社において,同社から貸与されていた業務用パーソナルコンピュータを操作して同社内に設置された前記サーバーコンピュータにアクセスし,同サーバーコンピュータ内に記録されていた同社の営業秘密であるA設計マニュアルデータ合計164件をダウンロードしてこれを前記パーソナルコンピュータに保存した上,同日午後3時16分頃から同日午後5時14分頃までの間,同社において,同パーソナルコンピュータに保存した前記A設計マニュアルデータ合計164件を,同パーソナルコンピュータに接続した電磁的記録媒体であるUSBメモリに記録させて複製を作成する方法により,同社の営業秘密を領得したものである。(法令の適用)
被告人の判示所為は,不正競争防止法21条第1項3号ロに該当するところ,所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役1年2月及び罰金30万円に処し,刑法21条を適用して,未決勾留日数中40日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被害会社の従業員(エンジニア)であった中国国籍の被告人が,転職活動中に,同社の営業秘密である超硬工具の設計マニュアルデータ等164件(以下,本件データ」という。を領得した事案である。
)本件データは,被害会社の保有する営業秘密の中でも同社の根幹をなす技術にかかわるとともに経済的価値も特に高いものであり,それが競業他社に渡った場合,被害会社の経営上大きな脅威となるから,被害会社のみならず日本の技術が国際競争にさらされる昨今,貴重な技術が違法に海外に流出することを防ぐ意味でも,本件データを保護する必要性が高い。被害会社は,営業秘密とその他の情報を区分した上,就業規則及びアクションマニュアル(行動倫理ガイド)で営業秘密の漏えいを禁止し,営業秘密へのアクセス制限及びアクセス履歴の監視を行うなどしているところ,営業秘密へのアクセスについて,被告人は,被害会社から示されている上記行動規範を遵守して適正に行わなければならなかったにもかかわらず,エンジニアとして特別に付与されていたアクセス権限を濫用し,被害会社が厳格に管理する重要な営業秘密を領得したもので,被害会社の信頼を大きく損なう背信性の高い卑劣で悪質な犯行といえる。本件の動機・目的についてみると,関係証拠によれば,被告人は,中国の求人サイトに登録し,被害会社と同種の事業を行う中国企業の求人を検索していること,転職先あっせん業者に対し,自らが切削加工の知識・経験を有し,資料も多数有しているなどとアピールし,同あっせん業者の紹介による転職活動の結果,実際に,被害会社と同種の事業を行う上海所在の企業から内定を得ていること,職を考え始めた平成30年10月以降,転6回(本件を含めれば7回)にわたり被害会社の営業秘密を大量にダウンロードしたことなどが認められ,これらの事実によれば,被告人は,高い経済的価値を有する本件データを保有していることをもって,待遇や処遇の良い転職先を確保し,るいは転職先における自己の地位,価を高め,あ評自らの待遇や処遇を利する目的であったと認められる。のような動機は,こ利欲的で,酌量の余地がない。この点について,被告人は,自宅で勉強するために本件データをダウンロードした旨述べるが,被害会社の営業秘密へのアクセス状況やメッセージアプリにおける被告人の発言内容等に照らせば,かかる弁解は信用できない。また,本件事案の性質・態様に照らせば,本件データが海外の競合他社等に流出する事態が懸念されるところ,被告人が当初本件データを保存していたUSBメモリ(以下,本件USBメモリという。は,現在に至)るまで発見されていない。この点に関し,被告人は,本件USBメモリは自宅で息子に破壊されたところ,約2週間自宅を留守にした間に,知人(留守の間植物の水やりを引受けてくれていた,被告人の妻の友人の姉)が,本件データを別のUSBメモリに移してくれ,本件USBメモリはその際破棄されたと思うなどと供述するが,内容自体が曖昧かつ極めて不自然で,信用することができない。むしろ,被告人が,本件犯行以前に,メッセージアプリにおいて,運がよければ高く売れるだろう。「これらの資料を売「れるなら売りたい。
」などと発言していたことも併せ考えると,本件データ
が流出する可能性は否定できない。もっとも,本件データの流出を認める(
に足りる証拠はなく,本件データの流出のおそれがなくなっていないと認定できるにとどまるものであるから,この点についてデータの流出を前提に被告人を非難することはできない。

以上のとおり,本件データが流出して被害会社に実害が生じたとは認め難いとはいえ,被告人は,被害会社の従業員の立場にありながら,転職に有利になるなどの私利私欲のため,被害会社の経営の根幹にかかわる重要な技術が記録されたデータを不正に領得したという背信行為に及んだものであって,このような本件犯行の罪質や態様などに照らすと,本件の犯情は悪く,告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。れに加え,被

不正競争防止法が,グローバル化する社会において企業の競争力を維持・強化するための技術的優位の重要性,アジア諸国の技術的台頭等を背景に改正されてきた経緯等にも鑑みると,本件のような貴重な技術の流出が懸念される事案においては,特に一般予防の見地から厳しい態度で臨む必要があるから,被告人に対しては,懲役刑については実刑はやむを得ないところであるし,また,本件の動機・目的にも照らすと,相当額の罰金刑の併科もやむを得ない。
他方,被告人は,前科前歴がなく,本件犯行の動機・目的について不合理な弁解をしてはいるものの被告人なりに反省の弁を述べていることや,被害会社に対して被害弁償(50万円)の意思を示したことなど,酌むべき事情も認められるから,これらの事情を考慮して,被告人を主文の刑に処することとした。
(求刑

懲役2年及び罰金50万円)

(参与判事補

白鳥葵)

令和元年6月6日
名古屋地方裁判所刑事第1部
裁判官

山田耕司
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