判例検索β > 平成29年(わ)第4352号
覚せい剤取締法違反
事件番号平成29(わ)4352
事件名覚せい剤取締法違反
裁判年月日令和元年9月25日
法廷名大阪地方裁判所
裁判日:西暦2019-09-25
情報公開日2019-10-25 18:00:06
戻る / PDF版
主文
被告人は無罪
理1由
公訴事実
本件公訴事実は,被告人は,法定の除外事由がないのに,平成29年10月7日頃から同月17日までの間に,大阪府内又はその周辺において,フエニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって覚せい剤を使用した。というものである。
2
本件の審理経過
弁護人は,平成29年10月17日に行われた被告人方に対する捜索差押(以下本件捜索という。)において押収された覚せい剤在中のチャック付きポリ袋3袋(このうち,洗面所で発見された2袋を本件パケという。)は,麻薬取締官が持ち込んだものであり,その持ち込みを直接の契機とする現行犯逮捕には重大な違法があって,現行犯逮捕後に採取された尿の鑑定書(以下本件鑑定書という。)もこれと密接に関連する証拠であるから,これらの証拠能力は認められるべきではないと主張した。
これに対し,検察官は,弁護人が主張するような違法捜査がされた事実はないとして,証拠採用を求めた。
当裁判所は,第4回公判期日において,弁護人が主張する違法捜査が行われた疑いが残る,その捜査の違法性は重大であり,本件鑑定書等はこれと密接に関連するものであって,これを証拠として許容することは将来における違法捜査抑止の見地から相当でないと認められるとして,本件鑑定書等の取調請求を却下する決定をし(以下本件証拠決定という。),本件証拠決定に対する検察官の異議申立ても棄却した。

3
本件鑑定書等の証拠能力について
当裁判所が本件鑑定書等の取調請求を却下した理由は決定書に記載したとおり
であるが,検察官が論告等で指摘する点を踏まえ,補足して説明する。本件パケの発見経過の不審点に関して
本件証拠決定は,本件パケを含む3袋が捜索開始から約1時間半も経って初めて発見されたことを違法捜査の疑いを強める事情の一つとしているところ,検察官は,洗面所の奥は,脱衣場と浴室しかなく行き止まりになっていることから,本件証拠決定が述べるように麻薬取締官らが頻繁に洗面所を通過するとは考え難く,発見までの間に何人もの麻薬取締官がその前を行き来したと考えられるとした点は事実を誤認していると指摘する(令和元年8月1日付け証拠調べ請求書)。
確かに,本件証拠決定が何人ものとした点については,そのようにはいい切れないという意味で指摘はもっともではある。しかし,麻薬取締官が捜索開始直後に洗面所付近を写真撮影しており,その際に本件パケがあった洗面台の前を往来していることは間違いない。本件パケが洗面台の上に容易に発見できるような状態で置かれていたことや,麻薬取締官が9人で本件捜索に従事していたことも併せ考えれば,捜索開始から約1時間半もの間本件パケが発見されなかったという経緯にはやはり不審な点が残るといえ,本件証拠決定の評価を揺るがすものとはいえない。
また,本件証拠決定は洗面台付近は,覚せい剤犯罪の性質上捜索において捜査官が注目する場所であると考えられるとしているところ,検察官は,捜査官が水回りに注目するとすれば,覚せい剤が便器の水で流されるなどして証拠を隠滅するおそれがある場合であるとし,本件ではそのような状況はなく,本件証拠決定の上記部分をおよそ根拠のない判断であるとする(同請求書)。しかし,本件捜索は,被告人方の門扉に対しドリルによる解錠を実施してからしばらくして,被告人が自ら解錠し開始されたのであり,このような経緯に照らせば,麻薬取締官が解錠作業をしている間に,被告人が室内の覚せい剤を水に流すなどして証拠隠滅を行い,それが一通り完了してから,自ら解錠した
ことを十分に疑い得る状況にあったといえ,証拠隠滅の形跡がないか,捜査官が早い段階で水回りを確認するのが自然であるし,仮に証拠隠滅を疑わなかったとしても,注射器その他の関連物件が洗面台を含む水回りに存在する蓋然性を想定することは自然であって,検察官が指摘するような根拠のない判断であるとはいえない。
画像データの消去について
検察官は,平成29年10月10日の防犯カメラ映像の画像データが消去されていることについて,同月13日の時点でこれ以上被告人の動静に関して内偵捜査をする必要がなくなったことから,画像データを消去したにすぎず,決定が疑問を呈するほどに不可解ないし特異なことではないと主張する。しかし,本件証拠決定は,画像データが消去されたことだけからその不自然さを指摘するものではなく,他の内偵捜査時の画像データが多数残っているなか,10月10日の防犯カメラ映像の画像データが消去されていること,しかも,それは,弁護人が公判前整理手続の中で証拠収集を伴うような内偵捜査が行われていたのではないかと指摘していた時期の画像であること,検察官は,消去した時期について,公判前整理手続において弁護人の求釈明に答えなかったこと(なお,検察官は,結審段階においても,消去した時期を回答しないとの態度を変えなかった。)などの一連の経緯も踏まえて判断したものであり,検察官の指摘は当たらない。
なお,

発見経過の不審点と画像データの消去について補

足して記したが,本件において,弁護人が主張するような違法捜査があったことを疑わせる主たる根拠は,捜索開始後間もない時点で撮影された写真に本件パケがあったとされる場所に本件パケが写っていないことにある。この点に関する検討は決定書において詳述したとおりである。上記の2点はあくまでその疑いを強める補助的な事情として指摘したにすぎない。
検察官は,最初に本件パケを発見したという麻薬取締官Aの供述内容を曲解
していると論難するが,その供述を前提としても,当初から本件パケが存在したかは別の問題である。曲解との批判は当たらない。
以上の次第で,本件証拠決定で示したとおり,本件鑑定書等については,証拠能力を認めることはできない。
4
取調済みの証拠による有罪認定の可否
被告人は,被告人質問において,平成29年10月上旬に覚せい剤を注射して使用し,同月9日にその注射器を捨てた旨供述し,捜査段階(乙5)においても,本件で逮捕される1週間前に覚せい剤を注射して使用した旨供述する。本件捜索の際,被告人方から血液様の液体が付着した注射器が発見され(被告人の免許証等の上に置かれていた),その注射器の内側から覚せい剤が検出されたという自白以外の証拠もあるけれども,この証拠によっても,注射器が使用された時期は定かでなく,本件において,被告人が公訴事実の期間内に覚せい剤を自己使用したとする上記自白の真実性を保証するに足りる補強証拠は存在しない。
5
結論
したがって,本件公訴事実については,結局,犯罪の証明がないことに帰する。そこで,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。よって,主文のとおり判決する。
令和元年9月25日
大阪地方裁判所第9刑事部

裁判長裁判官

渡部市郎
裁判官

辻󠄀

井由雅
裁判官

木内悠介
トップに戻る

saiban.in