判例検索β > 平成29年(わ)第1051号
損害賠償請求事件
事件番号平成29(わ)1051
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和元年10月8日
法廷名神戸地方裁判所
裁判日:西暦2019-10-08
情報公開日2019-10-24 16:00:09
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令和元年10月8日判決言渡
平成29年(ワ)第1051号

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償請求事件

口頭弁論終結日令和元年7月23日
判主決文
1被告は,原告Aに対し,10万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,10万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,10万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,10万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6訴訟費用はこれを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。
7この判決は,1ないし4項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1請求

1被告は,原告Aに対し,100万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,100万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,100万円及びこれに対する平成29年7月11日か
ら支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,100万円及びこれに対する平成29年7月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。第2事案の概要
1事案の概要
本件は,兵庫県三木市内に住所を有する住民である原告らが,三木市長等倫理条例(平成18年12月25日条例第48号,以下市長等倫理条例という。)
4条1項に基づき当時の被告市長に審査請求をした(以下本件審査請求という。
)ところ,同市長が,①同条例4条2項に反して,直ちに審査請求書及び添付書類の写しを三木倫理審査会に提出してその審査を求めず,
②これらの書類を審
査請求者代表者の原告Aに返却したことが,国家賠償法上違法であり,これによ
り原告らが精神的苦痛を被ったと主張して,被告に対し,同法1条1項による損害賠償請求権に基づき,各100万円及びこれに対する平成29年7月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2市長等倫理条例(甲71)及び同施行規則(甲72)
別紙1のとおり

3前提事実(末尾に証拠[枝番のあるものは枝番も含む。以下同じ。]等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。



当事者等

原告らは,いずれも兵庫県三木市内に住所を有する,地方自治法18条に定める選挙権を有する者(以下有権者という。
)であり,後記⑵の本件飲

食について事実関係を明らかにするため結成された
市長等倫理審査会の開催を求める署名有志の会
(以下有志の会という。
)の会員である。

被告は,地方公共団体であり,Eは,平成27年11月当時から平成29年5月に辞職するまで,被告の市長であった者である。



本件飲食
平成27年11月18日,被告の幹部職員懇親会の2次会に,被告から工事を受注している建設会社社長ら2名が参加し,E,副市長及び教育長並びに被告の部長級職員6名(以下当該部長らという。
)と共に飲食をした(以下
本件飲食という。。



記者会見及び広報

本件飲食は,地方公務員法3条2項の一般職である当該部長らについては,三木市職員倫理条例(甲69。以下職員倫理条例という。
)施行規則(甲
70)3条1項6号利害関係者から接待を受けること又は同7号利害関係者と共に飲食をすることに該当するか否かが問題とされ,市長,副市長及び教育長(以下市長等という。
)については,市長等倫理条例3条1
項1号に該当するか否か問題とされた。


Eは,
平成27年12月8日及び同月市議会で,
当該部長らは,事前に民間人の参加を知らされていなかったから,本件飲食は職員倫理条例施行規則3条1項6号及び同7号に抵触しないとの見解を表明し,被告が平成28年1月3日付で配布した三木市広報別冊(以下本件広報という。
)にも,
同じ見解が掲載された(甲4,6,7,10)




職員等倫理審査会
当該部長らについては,平成28年1月,職員倫理条例8条1項に基づく職員等倫理審査会が組織され,同審査会は,同月6日から4回にわたり,当該部長らに職員倫理条例違反があるか否かを審査し,
同年2月3日,
全員について,
職員倫理条例施行規則3条1項7号違反があるとする意見書をEに提出した。
当該部長らの処分については,これを受けて職員賞罰審査委員会が開催され,被告は,賞罰審査委員会の意見具申を受けて,平成28年3月4日付で当該部長らを処分した。

市長等倫理責任の自認及び減俸処分
Eは,平成28年3月4日,記者会見を開き,①一連の不祥事の発端は,Eが民間人の参加を知りながら当該部長らを本件飲食に誘ったことにあり,かかる行為は市長等倫理条例3条1項1号に違反する,②
イの発言等につい

ても,
市長が職員倫理条例施行規則の解釈を間違ってきたことの責任を認める等と述べた上で,
自らに対し給料の100分の20を3か月減額する処分を行
ったと発表した(乙1)



本件審査請求
原告らは,平成28年11月18日,Eに市長等倫理条例3条1項1号及び2号に違反する疑いがあるとして,同条例4条1項に基づき本件審査請求を行い,①審査請求書(甲58)
,②被告の有権者約1900名の署名簿(甲10
3,104。以下本件署名簿という。,③疎明資料(甲1~14,30。)
以下,①ないし③を併せて本件各書類という。)を被告企画管理部企画調整

課長に提出した。
同課長は,
同日,
審査請求者代表者である原告Aに
預り証
を交付し,本件各書類について,

下記書類をお預かりしました。ただし,受け付けたものではありません。

と表明した(甲65)。


本件各書類の返却
Eは,本件各書類について,市長等倫理条例4条2項に従って三木倫理審査
会に提出して審査を求めることなく(以下本件不作為という。,これを原)
告らに返却すると判断した。
被告は,
上記判断に基づき,
平成28年11月25日,
企画管理部長の名で,
本件各書類を原告A宅に送付し返却した
(以下
本件返却
という。。
)その際,
被告は,同日付審査請求書及び添付書類の返却についてと題する文書(甲
66。以下本件返却文書という。
)を添付し,
受付しない理由として,
本件審査請求時点で,Eは,既に本件飲食に関する自身の言動が市長等倫理条例3条1項に違反することを認めて謝罪し,
自ら給料減額処分を市議会の議決
を経て課すことで市長の倫理の保持に資するため必要な措置を講じているので,
同条例4条1項に規定する
疑い
の余地はなくなっていると表明した。



Eの辞職Eは,平成29年5月15日,被告市議会の閉会挨拶において,自らの倫理責任を認め,被告の市長を辞任する旨を表明し,同日付で辞表を提出した(甲68,乙2)



本件提訴
原告らは,平成29年6月20日,本件訴訟を当庁に提起し,本件訴訟の訴
状は同年7月10日,被告に送達された(顕著な事実)

4争点


本件不作為及び本件返却は,国家賠償法1条1項にいう違法な行為か。アイ
市長等倫理条例は,
審査請求者個人の私的利益を保護しているか
(争点2)


本件不作為及び本件返却は,
市長等倫理条例4条2項に反するか
(争点1)




Eに故意・過失が認められるか(争点3)




原告らが被った損害及び損害額(争点4)

5争点に関する当事者の主張

争点1(市長等倫理条例4条2項違反)について

(原告らの主張)
本件不作為及び本件返却は,いずれも市長等倫理条例4条2項に違反する。ア
市長等倫理条例
市長等倫理条例4条1項及び2項,5条,6条によれば,連署で行った請求については審査会の審査がなされなければならず,審査請求者らは,後記
⑵(原告らの主張)のとおり,請求内容を市長等倫理審査会で審査される権利ないし法的利益を条例で明示的に保障されている。
また,被告においては,行政手続法と制定趣旨を同じくする三木市行政手続条例が制定されており,同条例37条は,届出が条例等に定められた形式上の要件に適合している場合は,当該届出が条例等により当該届出の提出先
とされている機関の事務所に到達したときに,当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものと定め,行政手続法37条と同様の規定をしている。本件各書類一式は形式上の要件に適合しており,これらが被告の事務所に提出
されたときに,
当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものと解すべき
である。したがって,被告としては,これらを受理しないとか受け付けないという扱いはできない。

本件不作為
前記アによれば,
原告らが本件各書類を事務所に提出した時点で,
Eには,
これを直ちに市長等倫理審査会に提出して審査を求める義務があった。にもかかわらず,Eは,本件各書類を審査会に提出せず,審査手続に入らなかったものであり
(本件不作為)このような対応は市長等倫理条例に違反する。

市長等倫理条例には,審査に至るまでの過程で,必要性の有無その他の判
断を入れて審査を不要とすることができる旨の定めはない。仮に,受付をしない理由が,
倫理審査会を開いても同一の結論がなされる蓋然性が高いとい
うものであるとしても,かかる判断ができるのは審査会だけである。市長等倫理条例には,市長又は補助機関に対し,審査の必要性がないと判断する権限や,書類を返送する権限を付与した定めはないし,そのような判断は,市
長の自覚(同2条)や自主規制(同3条)に委ねられた事項でもない。市長等倫理条例では,
審査会の開催と審査の必要が行為規範として定められてお
り,そのことは審査義務の存在を意味するから,審査に入らないことが同条例違反であり違法である。

本件返却
連署の提出は,市長等倫理条例上の根拠を持つ行為である。提出された署名を受け付けずに返却する権限を定めた規定は,同条例には存在しない。本件のように正規の審査手続に入らないだけでなく,規定にない預かりとした上で,ことさらに連署を返却することは,署名をした有権者及びそれを
提出した原告らに対する積極的な嫌がらせであり,市長等倫理条例に違反する。(被告の主張)
本件審査請求は,
本件飲食に関するEの倫理違反を主張して審査を求めるも
のであるが,Eは,本件審査請求時点で,既に,本件飲食に被告職員らを誘ったこと及び民間人と飲食したことが市長等倫理条例違反に当たることを認めて市民に謝罪し,
その倫理違反の責任に基づいて給料月額の10分の2を3か

月減額される処分を受けていた。そのため,Eは,同じ問題について重ねて市長等倫理審査会を開催する必要はないと判断し,同審査会に審査を求めなかったものである。
市長等倫理条例によれば,市長等倫理審査会は,市長等に倫理基準違反があるかどうかを審査した上で,その結果を報告書の作成・提出により表明し,市
長はその審査結果を尊重して市民の信頼を回復するために必要な措置を講じることになる。上記の制度設計に鑑みれば,既に市長等に倫理違反があったことが公に表明され,その者に対する処分も終了している問題については,もはや同条例4条1項にいう疑いがあるという段階を過ぎており,審査の必要がないから,同項所定の審査請求の要件を満たさないものと解すべきである。
また,市長等倫理条例施行規則2条6項が,市長等倫理審査会で過去に審査された事案について再び審査請求を行うことができない旨規定していることも,同条例及び同規則が不必要な市長等倫理審査会開催の回避を重視していることのあらわれであり,上記解釈を補強するというべきである。


争点2(法的保護に値する利益)について
(原告らの主張)

原告らには,市長等倫理条例が定める要件を履践して審査請求に及んだ審査請求者に対し,同条例が具体的権利として創設した審査を受ける権利があり,本件ではそれが侵害された。

市長等倫理条例の目的は,市長等の倫理の保持に資するため必要な措置を講じることにより,
市政に対する市民の信頼を確保することであるが
(1条)
,倫理が人間の内面的な事象であり,外在的な規制には馴染みにくいものであることから,同条例は,倫理の水準の確保を実現するための手段を,まず市長等の自覚(2条)と自主規制(3条)に委ねている。これに対する唯一の例外として,また,具体的規制手続として定められているのが,有権者の一定数の連署を伴う請求である。倫理の欠如については自覚と自主規制では十
分な結果が出ない場合があり,このような場合に対処すべく,民主主義的・住民監視的役割を持った仕組みを備えることが必要となった。そこで,住民に外的規制の主導権を与えることが各地で実施されるようになったのが政治倫理条例であり,市長等倫理条例も同様の趣旨によるものである。このように,市長等倫理条例は,政治倫理の管理者は自治の主人公である
という趣旨を一般的・抽象的に定めるにとどまらず,同条例及び施行規則で具体的な手続を定めることによって,連署による請求で審査会の審査を受けることを住民の権利として保障したものである。これは,市長等倫理条例に定められた一定の要件を履践して請求に及んだ審査請求者に対し具体的権利として同倫理条例が創設したものであり,市民全体の一般的・抽象的権利
を宣言した理念的なものではない。ただし,少数者の思いつきや,悪意による請求などによる濫用の弊害を避けるため,一定の連署を備えること,すなわち住民の中での一定の賛同を要することとしている。この意味で,連署を伴うことは,
倫理条例においてその目的を実現するために最も重要な位置に
あるものといえる。

ここで住民に保障される権利は,住民一般については抽象的一般的権利にすぎないとしても,
有権者の総数の50分の1以上の連署をもって審査請求
に及んだ審査請求人については具体的権利性が認められるのであり,本件で
は,このような条例の創設した権利が侵害されている。

人格権の侵害
人が社会生活において,他者から内心の静穏な感情を害されて精神的苦痛を受けることがあっても,一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが,
社会通念上その限度を超えるものについては人格的利益として法的に保護すべき場合があり,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度のいかんによっては不法行為が成立する余地があると解すべきである。原告らは,炎天下の中,約1900名もの市民からの署名を集めて本件審
査請求をしたにもかかわらず,本件不作為によって審査請求の手続に入らなかったばかりか,本件返却という予期せぬ嫌がらせにより,かけた労力が無になり,不服申立ての機会も奪われた。本件返却は,社会通念上の限度を超えて原告らに著しい落胆,不安,焦燥を与えるものであり,さらに,正規に取り扱われるとの期待が踏みにじられた。

(被告の主張)

市長等倫理条例は,審査請求人(原告ら)の私的利益を保護していない。私人が公的機関に対して何らかの申請又は申立て・請求(申請等)を行うことが法的に認められている場合でも,当該申請等に係る制度自体が,公的
利益を保護する趣旨のものであるに過ぎない場合には,申請者は,当該申請又は制度に関する運用等の違法を理由として損害賠償を請求することはできないと解すべきである。また,念のために付言すると,制度自体がそのようなものであるときは,申請等自体が不受理とされた場合であっても,それを理由とする損害賠償はできないというべきである。

市長等倫理条例によれば,市長等倫理審査会は,市長等に倫理基準違反があるかを審査した上で,その結果を報告書の作成・提出により表明し,市長はその審査結果を尊重して市民の信頼を回復するために必要な措置を講じることになっている。そして,同条例3条1項が倫理基準の内容として掲げる3つの事項にはいずれも
市民全体
の語が含まれていることに鑑みれば,

同基準は,
特定私人の利益を保護するためではなく,
抽象的な市民全体の利益(公益)を保護するために設けられているといえる。また,同条例3条2項の文言によれば,同条例は,市長等に疑惑の解明や責任を明らかにすることの努力義務を課したに過ぎない。さらに,同条例1条の文言によれば,
同条例によって問われる市長等の責任が
倫理責任
であって
法的責任ではないことを明らかにしているということができる。
以上の制度設計・制度内容に鑑みれば,同条例の各規定は,抽象的な市民
全体の利益(公益)を保護する趣旨の規定というべきであり,審査請求人の私的利益を保護する趣旨を含むものではない。そうすると,倫理審査会が開催されなかったことによって原告らに損害が発生したとしても,そのことを理由に原告らが被告に対し損害賠償請求をすることはできない。

原告は,本件返却により原告らの人格権が侵害されたと主張する。しかしながら,相手方から提出された書類を相手方に返却する行為は,それだけで相手方に苦痛を生じさせる性質の行為とはいえず,かかる主張は,結局,審査請求に対する行政側の対応により損害を受けたという主張にすぎない。そして,前記アのとおり,市長等倫理条例が審査請求人の私的利益を保護していない以上,
原告らが被告に対し損害賠償請求をすることはできないという

べきである。


争点3(故意・過失)について
(原告らの主張)

Eは,本件不作為及び本件返却によって,違法に原告らの権利を侵害し,損害を加えることについて故意がある。
Eは,市長等倫理条例の内容や手続を認識しており,平成27年12月11日の第332回三木市議会定例会では,市民が審査請求を行い,署名等を提出した場合には,
市長がこれを倫理審査会に提出してこの中で審理する方
針である旨言明し,平成29年5月15日の市議会閉会挨拶でも,本件各書
類を倫理審査会に提出せず返却したことは条例違反であると述べていた。しかも,Eは,三木市在住で市長在任期間も12年に及ぶことから,同市が都市部と比べて自治体の影響力が強く,長や市政に批判的な署名を行うことが後に不利益を伴うことが少なくないことを認識しており,原告らが署名活動を実施していたことも,自ら見聞し,あるいは被告職員らの報告を受けて認識していた。
しかるに,Eは,自らの判断で,原告らが炎天下の中集めた約1900名
分の署名を廃棄物であるかのように原告Aに返送し,
本件審査請求自体をな
かったこととして,原告らの不服申立ての機会を奪ったのであるから,本件返却によって,
原告らの人格的利益が侵害され精神的苦痛が生じることを認
識しつつ,その結果の発生を認容していたというべきである。

仮にEに故意が認められないとしても,
上記アの各事情によれば,
Eには,
少なくとも損害の発生について予見可能性がある。また,市長等倫理条例に準拠して審査の請求を行えば,
損害の発生を回避することもできた。
よって,
Eには過失がある。

(被告の主張)
前記⑴(被告の主張)のとおり,Eは,本件審査請求時点で,既に倫理責任
を認め,処分を受けた旨を公表していたことから,審査会の開催の必要がないと判断して本件返却を行ったものであり,そのような判断には注意義務違反がない。よって故意及び過失があるとはいえない。

争点4(損害の発生及び数額)について

(原告らの主張)
原告らは,前記⑵(原告らの主張)イのとおり,本件不作為及び本件返却によって,市長等倫理条例の手続を履行して審査請求をしたにもかかわらず,内心の静謐な感情を害されない利益を侵害され,精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料の額は90万円が相当であり,
違法行為と相当因果関係のある弁護

士費用としては10万円が相当である。
(被告の主張)いずれも争う。
前記⑵(被告の主張)で詳述した審査請求の手続によれば,市長等倫理条例による審査請求によって審査請求人が獲得する具体的な利益は,①市長等に倫理違反があったか否かの結論が公に表明されること(表明要求利益)と,②市長等に倫理違反があったという結論が出た場合に,
それに対応した措置
(処分)

が市長により講じられること(処分要求利益)である。
しかるところ,Eは,平成28年3月4日の記者会見で,自らに倫理違反があったことを認め,処分の公表を行っている。また,Eは,平成29年5月15日の市議会閉会挨拶において,
更に広範な事項について自らに倫理責任があ
ったことを認めて市長を辞職する旨表明し,閉会挨拶の内容は,被告のウェブ
サイト上に掲載され,各種新聞等においても報道された。
以上によれば,本件審査請求において,原告らが倫理違反の有無について審査を求めた事項については,
倫理違反に当たる旨の表明がEから行われており,
表明要求利益が達成されているし,Eが自ら辞職したことによれば,処分要求利益も達成されている。よって,原告らの私的利益は達成されており,原告ら
に損害が生じているとはいえない。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠によれば,次の事実が認められる。


本件飲食発覚の端緒
平成27年11月19日午前1時20分頃,被告の理事が酒気帯び運転により現行犯逮捕され,これを機に本件飲食が発覚した。Eは,同年12月3日,神戸新聞社の取材に対し,当該部長らは民間人の参加を知らずに同席しただけ
で倫理規定違反にはならないと答え,同月4日朝刊にその記事が掲載された。しかし,当該部長らは,被告秘書課から同年11月11日送られた出欠確認メール(以下本件メールという。)により,本件飲食の参加者に民間人が含ま
れていることを事前に認識しており,
同年12月4日,
それを副市長に伝えた。
Eは,同日,副市長から当該部長らの発言を伝えられ,本件メールが関係部局にしか出されていないのであれば,なかったことにしてはどうかと指示し,副市長は,
上記指示に従って,
当該部長らにメールの消去を指示した
(甲1~3,

5,68,105)



記者会見及び本件広報
Eは,平成27年12月8日の記者会見で,前記第2の3⑶の見解を述べた上で,当該部長らについては,疑念を払拭するために職員倫理審査会を開き,市長等については,記者会見や市議会本会議で質問に答える中で責任を果たす
と発言し,
市民からの審査請求があれば市長等倫理審査会を設置するとも発言した。Eは,同月9日からの市議会定例会でも同趣旨の発言をし,市議会議員の質問に対し,市民への説明責任は広報のような形で説明したいと述べた。被告は,これを受けて,平成28年1月3日に市内約3万世帯に本件広報を配布した(甲4,7,10,96,105)




職員倫理審査会
平成28年1月6日,第1回職員倫理審査会が開催された。同月13日,新聞記者が本件メールを打ち直した書面を持参し,副市長に取材をした。Eは,同月14日,取材に対しメールの存在は知らなかったが,事実であると聞いていると回答したが,同月15日,同審査会事務局の理事に対し,同月16日の第2回審査会に備えて想定問答を作るよう指示した。
同月20日発行の読
売新聞及び同月21日発行の神戸新聞に,本件飲食の7日前に民間人を参加予定者とするメール(本件メール)が送られていたという記事が掲載され,同月28日の第3回審査会では,
当該部長らが民間人の参加を認識していたかにつ

いても意見聴取が行われた。当該部長らは,委員の質問に対し,民間人の参加は知らなかったと答え,本件メールについてもメールの詳細までは確認していない読んでいなかった等と答えたが,同審査会は,同年2月3日の第4回審査会で,当該部長ら全員について職員倫理条例施行規則3条1項7号に抵触すると判断し,その旨の意見書をEに提出した(甲8,9,30,45,78,85,105)



平成28年3月4日記者会見
Eは,平成28年3月4日,当該部長らに対する前記第2の3⑷の処分を受けて記者会見を行い,本件飲食に関する自分の行為について,前記第2の3⑸のとおり,
改めて市長等倫理審査会を開催するまでもなく市長の倫理責任を認めると述べた上で,自身に対する給料減額処分を発表した。このとき,Eは,本件メールにも言及し,
同市長としては同年1月14日に初めてその存在を知

ったものであるが,
本件メールが昨年11月11日に送信されていたにもかか
わらず,
同市長が平成27年12月定例会や新聞報道等により本件メールが存在しないことを前提とした発言をして世間を惑わせたことも反省すべきである旨発言した(甲8~13,30,乙1)



公文書公開請求

原告らは,平成28年1月に署名活動を始める予定であったが,同月20日及び同月21日の新聞報道で本件メールの存在を知り,情報を収集するために,同年2月16日以降,三木市情報公開条例(平成11年条例第1号)に基づく公文書公開請求を行った。その一環として,原告B,原告D及び原告Aは,同年3月22日以降,職員倫理審査委員会の議事録についてそれぞ
れ公文書公開請求をしたが,被告は,いずれの請求についても,三木市倫理審査委員会委員長Fの名で,
公文書の公開を行わない理由そのものが情報公開できない項目に該当するとの理由で非公開決定をしたので,
原告らは,
これらの処分の取消しを求めて審査請求をした
(甲32,
34,
36,
40,
41,79,80)



職員倫理審査会の議事録については,被告が,平成28年2月の神戸新聞三木支局の公文書公開請求には個人情報部分を除いて開示したのに対し,同年3月の市議会議員の公文書公開請求には,
前記アと同一の理由で全面非開
示の決定をしたことが,異例の事態として新聞報道されていた(同非開示決定は,後に,前記アの理由が情報公開条例8条3号の除外事由に当たらない等の理由で,判決で取り消された〔甲85〕)
。。原告Aは,同年5月12日付

公開質問状をFに送り,Fから,同月14日付で,同委員会としては非公開決定を承認した事実はなく,追認する予定もない等の回答を得た(甲44,49,81,82)


被告企画管理部長は,
同年5月18日,
原告B,
原告D及び原告Aに対し,
情報提供として,一部を黒塗りにした職員倫理審査会議事録を送付し,
非公開決定通知をFの名で行ったことは誤りであったと謝罪した。原告Aは,
同年6月9日,Eに公開質問状を送り,非公開決定の取消しや公文書公開決定通知を求め,審査請求について情報公開審査会への諮問状況を尋ねたが,Eは,同月30日,既に情報提供として議事録を送付したことにより,非公開決定に対する審査請求の利益はなくなっていると回答した。原告Aは,同
年7月11日付で,被告企画管理部長を有印公文書偽造,同行使罪で神戸地方検察庁に告発した(甲45,52,54,56)



本件審査請求及びその後の経緯

原告らは,平成28年7月以降署名活動を行い,当時の有権者総数6万5406名の50分の1以上に当たる約1900名の署名を集め,
同年11月
18日,被告企画管理部企画調整課の受付カウンターで,同課長に本件各書類を交付した。このとき,原告らは,Eの市長等倫理条例3条1項1号違反の疑いがある行為として,①本件広報では,本件飲食に民間人が同席することを当該部長らに伝えていなかったとしながら,その後の新聞記事で本件メ
ールの存在が発覚し,本件広報の内容が虚偽であることが判明したこと,②自らが制定に深く関わった職員倫理条例施行規則に反する行為を部下に促したこと,③職員倫理審査会の開催直前に想定問答と称する口裏合わせとも取れる指示をメールで行ったことを挙げ,
同2号違反の疑いがある行為
として,
自らが呼びかけた幹部職員向け慰労会で特定の人物との会見が実現し,市幹部職員同席の前で会見を中断することなく行ったことを挙げた(甲58,95,98~104)



被告は,平成28年11月18日,前記第2の3⑹のとおり,企画管理部企画調整課長の名で預り証を出して本件各書類を受付しない扱いとし,同⑺のとおり,同月25日,Eの判断に基づき,企画管理部長の名で本件返却を行った。また,被告は,『審査請求の要旨』に対する市の見解」と題する文書を添付し,①Eが本件メールを知ったのは平成28年1月14日である,②想定問答については,倫理審査会を円滑に進行するに当たり市長として当然の指示をしたものであり,副市長に対する結論操作や,当該部長らに対する発言内容の助言ではない,③その他の行為については謝罪済みであると回答した。原告Aは,平成29年3月6日,Eに対し,本件返却の法的性質や,本件返却文書に記載された理由は,誰が,どのような法的根拠に基づき判断したものかなど,5項目について公開質問状を出したが,Eから回答はなかった(甲66,67)。⑺市長閉会挨拶Eは,平成29年5月15日,市議会閉会挨拶において,本件広報のうち,当該部長らが民間人の参加を知らされていなかったという部分は虚偽であり,平成27年12月8日の記者発表資料,同年12月市議会での市長答弁,平成28年3月4日の記者発表資料等にも虚偽の内容が含まれていることを認め,改めて謝罪するとともに,この時点で市長の職を辞し,辞職後の選挙に再立候補する決意を示した。このとき,Eは,①自分が本件メールの存在を知った時期が平成27年12月4日であったにもかかわらず,これを平成28年1月14日と偽ったことにより,当初から民間人の参加を知っていた当該部長らを,職員倫理審査会で虚偽の陳述をせざるを得ない状況に追い込んだことを認め,②本件審査請求も,本来であれば受付すべきものであったこと,③本件返却文書は,これまで被告が前提としてきた一連の流れでEが作成し,決済区分により企画管理部長名で出したことも認めて謝罪した(甲68,乙2,3)。⑻100条委員会Eは,平成29年7月2日に実施された三木市長選挙に立候補したが落選し,同年11月7日,被告市議会で開催された「前三木市長主催の幹部慰労会問題に関する調査特別委員会に証人として出席した。Eは,本件各書類を受付しないことを最終的に判断したのは前市長自身であると答え,その理由について,
同市長が平成28年3月4日の記者会見において,倫理審査会の開催を待つまでもなく,自らの行為が市長等倫理条例に違反することを認めているならば,改めて同審査会を開催してまで審査する必要がないと考えていた旨証言した(甲94)。
2争点1及び2(国家賠償法1条1項にいう違法な行為)について⑴

国家賠償法1条1項にいう違法について
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,
国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定する
ものである
(最高裁判所昭和60年11月21日・民集39巻7号1512頁)。

そうすると,国家賠償法1条1項にいう違法性が認められるためには,国民が公務員の行為により侵害されたと主張する権利利益が,国家賠償法上保護に値する権利利益であると認められ,当該公務員が,当該個別の国民に対しそのような権利利益を保護する職務上の法的義務を負うにもかかわらず,これに違背したものと認められることが必要である。



原告らの権利利益についてア

まず,
原告らが本件不作為又は本件返却によって侵害されたと主張する権利利益が,
国家賠償法上保護に値する権利利益といえるかについて検討する。市長等倫理条例は,市長等の倫理の確保に資するため必要な措置を講ずることにより,
市政に対する市民の信頼を確保することを目的とする
(1条)

また,同条例2条及び3条によれば,同条例は,原則として,市長等がその
責務を強く自覚し(2条)
,同条例3号1項各号に定める倫理基準を自ら遵
守することによって,
市長等の倫理の保持を図り有権者との信頼関係を確保
する仕組みを取り,同条例3条2項によれば,市長等が倫理基準に違反するとの疑惑を持たれたときも,まずは,市長等が自ら誠実な態度によって市民に対する説明責任を果たし,
適時適切な形で情報を提供して事態を説明する

ことにより,市民の信頼を確保することを予定しているものと解される。その一方で,市長等倫理条例は,市長等に倫理基準に違反する疑いが認められる場合には,
有権者の総数の50分の1以上の連署を集めた市民に対し,
市長への審査請求(以下倫理審査請求という。
)を行う権限を付与してい
る(4条1項)
。倫理審査請求がなされたときには,市長は,直ちに審査請求

書及び添付書類を諮問機関である倫理審査会に送付して審査を求めなければならないとされており(4条2項)
,市長の判断で倫理審査会への審査を
求めないことを可能とする明文の規定は存しない。また,倫理審査会は,審査を求められたときには,
直ちに必要な審査を開始し
(6条1項)原則とし

て,
審査請求の日の翌日から60日以内に審査の結果及びその理由を報告し
た審査報告書を市長に提出しなければならないとされており(8条1項),
倫理審査会の判断で,審査を開始しないことを可能とする明文の規定は存在しない。

このように,市長等倫理審査条例は,市長等の倫理基準違反の解明を,原則として,
市長等の説明責任や適時適切な形の情報提供義務に委ねながらも,同条例が行使要件として求めた数の連署を集めた市民から倫理審査請求がされた場合には,審査対象者の倫理基準違反行為の有無について,客観的で公正な諮問機関である倫理審査会の審査がされなければならないと定めることによって,住民が行政過程に関与し,行政を監視する機会を設け,もって,市長等の説明責任や情報提供義務を補完し,市長等の倫理の保持という公益上の目的を図るものと解される。

もっとも,倫理審査会の審査が行われた後,審査請求者には,その代表者に報告書の内容が通知され,要旨が市民に公表されるのみであり(9条)報告書において倫理基準に違反している旨の指摘がされたときは,市長が,市民の信頼を回復するために必要な措置を講じる義務を負うとされている(10条)このように,

市長等倫理条例は,
市長等の倫理及び市政に対する市民

の信頼の確保という公益が,最終的に市長によって図られる仕組みを取っており,かかる制度設計・制度内容に鑑みれば,同条例が,倫理審査請求を行った市民らの権利利益を直接的な保護の対象としていると解することはできない。

しかしながら,市長等倫理条例には,倫理審査会に,審査期間の延長及びその理由を審査請求代表者に通知する義務を負わせた規定(8条3項)や,報告書が提出されたときに,市長にその内容を審査請求代表者に通知する義務を負わせた規定(9条)のように,倫理審査請求を行った者に配慮して,適正な手続を確保する趣旨を定めた規定が存在する。

また,
倫理審査請求の行使要件である有権者の総数の50分の1以上の連署とは,
地方自治法上の直接請求の行使要件
(条例の制定又は改廃の請求
[同
法74条1項]及び監査請求[同法75条]
)と同じであり,市長等倫理条例
が倫理審査請求に連署を求める意味は,倫理審査請求が,直接請求権とは同視できないまでも,単なる公益保護を目的とする手続の端緒ではなく,住民
が行政過程に関与し,行政を監視する性格を有することから,住民の中で一定の賛同を得ていることの証明を求めることにあると解される。以上のような倫理審査請求の意義や趣旨に鑑みれば,市長等倫理条例が行
使要件として定めた連署を集めて倫理審査請求を行った市民には,当該倫理
審査請求について,
市長等倫理条例及び同施行規則に従った適正な手続を受
けられることに対する合理的な期待が生じており,
このような合理的期待は,
法律上の権利ないし法的利益として客観的に把握し得るような明確性を有
していることに鑑み,
国家賠償法上も保護されるべき権利利益に当たるもの
というべきである。


公務員の個々の国民に対する職務上の法的義務について

そこで,市長が,審査請求者となった個々の市民に対し,市長等倫理条例及び同施行規則に従った適正な手続に対する合理的期待を保護する職務上
の法的義務を負っているといえるかについて検討する。

倫理審査請求における受付の手続的意義
倫理審査請求の手続を定めた市長等倫理条例施行規則3条1項は,市長は,審査請求書を受け付けたときは,選挙管理委員会に対し,署名簿に署名
した者が有権者であることの確認を求めなければならないと定め,選管から
確認結果の報告を受けた場合には,審査請求書及び審査請求署名簿並びに疎明資料の写しを審査会に提出し,その審査を求めなければならないと定めている(同条例4条2項,同規則3条3項)

もっとも,市長は,同施行規則4条1項各号所定の却下事由が存在する場
合には,当該審査請求を却下することができるが(3条3項,4条1項),こ
れらの却下事由(4条1項各号)は,当該倫理審査請求の手続の適法性に関する事由に限られている。しかも,このうち市長が単独で却下することができるのは,形式的要件の不充足である施行規則4条1項1号,3号及び4号のみであり,同項2号倫理基準以外の事項について審査請求したものであるときについては,審査請求の対象の内容に係わることから,審査請求を却下しようとするときには,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならないと定められている(4条2項)。
このように,倫理審査請求について,市長には内容的要件審査権限がないことに鑑みれば,施行規則2条1項にいう審査請求書の提出は,三木市行政手続条例(平成9年3月28日条例第1号。以下行政手続条例という。甲110)
2条1項7号が定める
届出
(行政庁に対し一定の通知をする行

為であって,条例等により直接に当該通知が義務付けられているもの)の性質を有すると解するのが相当である。

届出の意義
行政手続条例37条は,届出について,
届出が届出書の記載事項に不備がないこと,届出書に必要な書類が添付されていることその他の条例等に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は,当該届出が条例等により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに,当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。と規定する。この場合,

出は形式上の要件が充足しているならば,到達したときに届出としての効果
をもつことになり,その限りにおいて,行政庁には,受理,すなわち,受付を留保したり,
申請書を返戻したりする権限の観念を入れる余地はないとい
うべきである。
これを倫理審査請求についてみると,市長等倫理条例施行規則2条1項所定の書類が被告の事務所に到達し,当該書類が客観的に被告の了知し得る状
態に置かれた時点で,同条例4条2項にいう審査の請求がなされたとき及び同施行規則3条1項にいう審査請求書を受け付けたときの要件が満たされることとなり,この時点で,市長は,同条例4条1項に基づく審査の請求があったものとして,直ちに審査請求書及び添付書類について形式的審査を行い,形式的要件に不備がなければ,これらの書類を倫理審査会に送付
して審査を求めなければならず,受付を留保したり,いったん提出された書類を返戻したりすることは許されないというべきである。エ

市長等倫理条例は,前記⑵ウのとおり,同条例及び同施行条例に従った適正な手続を受けられることへの合理的な利益を保護するものと解すべきである。したがって,市長は,行使要件として求めた一定数の連署を集めた市民から,形式的要件を満たした適法な倫理審査請求があった場合には,審査請求者である個別の市民との関係においても,前記イで詳述した,同条例に
基づく適正な手続を行うべき職務上の法的義務を負うというべきである。⑷

本件へのあてはめ
前記1の認定事実によれば,原告らは,平成28年11月18日,被告の企画管理部企画調整課の受付カウンターで同課長に本件各書類を交付したもの
であり
(同⑹)この時点で,

市長等倫理条例4条2項に基づき本件審査請求が
なされたものといえる。したがって,Eは,原告らに対し,直ちに本件各書類について市長等倫理条例施行規則3条に基づく形式的審査を行い,形式的要件
を満たしている場合には,直ちに本件各書類を倫理審査会に提出して,審査を請求すべき職務上の法的義務を負っていた。

しかるに,
Eは,
市長には倫理審査請求について内容的要件審査権限がなく,
審査の必要性を判断する権限もないにもかかわらず,自分が平成28年3月4日の記者会見で倫理責任を認め,かつ自ら処分を受けたことを公表した以上,本件審査請求について倫理審査会を開催する必要性はないとの誤った判断に基づき,
本件各書類を受付しないこととし
(前記1⑺⑻)上記判断に基づき,,

企画管理部企画調整課長をして,同年11月18日に本件各書類が被告事務所に到達した時点で
受け付けたものではない
との留保をさせ
(前提事実⑹)

同月25日,企画管理部長をして本件返却を行わせ,その理由として必要性がない旨表明させた
(前提事実⑺)これらの行為は,

Eの意思に基づく一連の行
為とみるべきである。市長等倫理条例によって職務上負っている義務に違反す
る。原告らの適正な手続に対する合理的な期待を侵害する行為である。同条例に違反するのみならず,
国家賠償法1条1項にいう違法な行為というほかない。3争点3(故意又は過失)について上記2のとおり,市長等倫理条例及び行政手続条例の趣旨に鑑みれば,行使要件である連署を集めた市民から形式上の要件を満たした倫理審査請求があった場合には,
市長がこれを受付しないで書類を返却することが許されないことは明らかである。しかも,本件審査請求では,市長等倫理条例3条1項1号違反の疑いがある行為として,Eが平成28年3月4日に倫理責任を認め,自らに対する減俸処分の対象とした行為(前記1⑷)以外に,同市長が,職員倫理審査請求会の開催直前に,理事を通じて想定問答の作成を指示して口裏合わせをさせ,当該部長らに虚偽の回答をさせた疑いが指摘されているが
(同⑹ア)Eは,

新た


疑い
についても,
自らの見解に基づき審査の必要性がないと判断し
(同イ)

正規の行政手続である倫理審査会の審査を回避したことが認められる。以上の事実を総合すると,Eが本件各書類を受け付けず,本件返却を行った過程には看過しがたい過誤があり,Eは,その職務を行うについて,故意または過失によって違法に損害を加えたものというべきである。

4争点4(損害の発生及び損害額)について


前記1の認定事実によれば,原告らは,有志の会として署名活動を行い,市民約1900名の署名を集めた上で本件審査請求を行ったにもかかわらず,Eの上記違法行為によって,
市長等倫理条例及び同施行規則に基づく適正な手続
を受けることへの合理的な期待が裏切られ,
精神的苦痛を被ったと認められる。
かかる事情のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告らの被った精
神的苦痛に対する慰謝料としては,原告らそれぞれにつき各9万円と認めるのが相当である。また,本件事案の内容や訴訟経過,上記慰謝料の認容額その他一切の事情を考慮すると,
弁護士費用として1万円を本件と相当因果関係のあ
る損害と認めるのが相当である。


被告は,Eが自らの倫理責任を認めて処分を受け,市長を辞職した以上,原告らが本件審査請求で求めた利益はすべて達成され,
損害はない旨主張する。しかし,原告らの損害は,適正な手続を受けることへの合理的な期待を裏切られたことによる精神的苦痛であり,被告の主張する事情は,かかる意味での原告の精神的苦痛の有無及び程度を左右する事情とはいえない。第4結論
以上の次第で,原告らの本件各請求は,いずれも被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害金合計10万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成29年7月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,それぞれその限度で認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきである。

よって,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

牛多麻子山濵誠裕輝
(別紙)
倫理条例等の定め

⑴市長等倫理条例(甲71)
1条(目的)
この条例は,市政が市民の厳粛な信託によるものであるため,特に重い責務を果たすべき市長,副市長及び教育長(以下市長等という。
)には,より高い倫
理の保持が求められることにかんがみ,市長等の倫理の保持に資するため必要な措置を講ずることにより,
市政に対する市民の信頼を確保することを目的とする。

2条(市長等の責務)
市長等は,市民全体の奉仕者として市政に携わるに当たっては,その権限を市民のために行使すべき責務を負っていることを強く自覚し,その使命の達成に努めなければならない。
3条(倫理基準の遵守等)

1項

市長等は,次に掲げる倫理基準を遵守しなければならない。

1号

市民全体の奉仕者として,その品位と名誉を損なうおそれのある行為を慎み,
その権限又は地位のもたらす影響力を私的な目的のために行使しないこと。

2号

常に市民全体の利益のみを指針として行動するものとし,その権限又は地位を利用して不当に金品を授受しないこと。

3号

市民全体の利益の実現のために全力を尽くさなければならず,特定の者に対してのみ有利又は不利な取扱いをする等の不当な取扱いをしないこと。

2項
市長等は,倫理基準に違反する事実があるとの疑惑をもたれたときは,自ら誠実な態度をもって疑惑の解明に当たるとともに,
その責任を明らかにす
るよう努めなければならない。4条(審査の請求)
1項

地方自治法(昭和22年法律第67号)第18条に定める選挙権を有する者は,市長等が前条第1項の規定に違反する疑いがあると認めるときは,その総数の50分の1以上の連署をもって,その代表者から,これを疑うに足りる事実を証する書面を添付した審査請求書を提出して,市長に審査を請求
することができる。
2項

市長は,前項の規定による審査の請求がなされたときは,直ちに審査請求書及び添付書類の写しを次条第1項に規定する三木市長等倫理審査会に提出して,その審査を求めなければならない。

5条(市長等倫理審査会の設置等)
1項

市長等の倫理の保持に資するため,
三木市長等倫理審査会
(以下
審査会
という。
)を置く。

2項

審査会は,委員5人以内で組織し,専門的知識を有する者等のうちから市長が委嘱する。

(3項ないし6項省略)
7項

委員は,自己,その配偶者若しくは3親等以内の親族が関係する事案については,議事に加わることができない。

(8項省略)
6条(審査会の審査)
1項

審査会は,第4条第2項の規定により審査を求められたときは,直ちに必要な審査を行わなければならない。

(2項省略)

3項

審査会は,
第4条第1項の規定による審査の請求をした市民の代表者から
事情を聴取し,資料の提出を求め,又は市民その他関係人を参考人として出
席させ意見を聴くことができる。
(7条省略)8条(報告書の提出等)
1項

審査会は,
第4条第2項の規定により審査を求められた日の翌日から起算
して60日以内に,
審査の結果及びその理由を記載した審査報告書
(以下
報告書という。
)を作成し,これを市長に提出しなければならない。

2項

審査会は,前項の規定にかかわらず,事務処理上の困難その他正当な理由により,報告書が提出できないと判断したときは,同項の期間を延長することができる。この場合において,審査会は,当該延長の期間及びその理由を市長に報告しなければならない。

3項
市長は,前項の規定による報告を受けたときは,速やかに当該延長の期間及びその理由を,
当該期間の延長に係る審査の請求をした市民の代表者に通
知しなければならない。

9条(公表)
市長は,前条第1項の規定により報告書の提出を受けたときは,その内容を当該報告書に係る審査の請求をした市民の代表者に通知するとともに,その要旨を公表しなければならない。
10条(市長の措置)
市長は,報告書において,第3条第1項の規定に違反している旨の指摘がされたときは,これを尊重して,市民の信頼を回復するために必要と認められる措置を講じなければならない。

11条(補則)
この条例の施行に関し必要な事項は,規則で定める。
附則1項(施行期日)
この条例は,平成19年4月1日から施行する。
附則2項(経過措置)

第4条第1項の規定は,
この条例の施行の日以後になされた市長等の行為につ
いて適用する。(附則以下省略)
⑵市長等倫理条例施行規則(甲72)
1条(趣旨)
この規則は,三木市長等倫理条例(平成18年条例第48号。以下条例という。
)の施行に関し,必要な事項を定めるものとする。
2条(審査請求の手続)
1項

条例第4条第1項の規定による審査の請求(以下審査請求という。)を
しようとする市民の代表者(以下審査請求代表者という。
)は,審査請求
に係る署名簿(以下審査請求署名簿という。
)及び第5項に規定する疎明
資料を添え,次に掲げる事項を記載した審査請求書(以下審査請求書と
いう。
)を市長に提出しなければならない。
1号

審査請求代表者の氏名及び住所

2号

条例第3条第1項に規定する倫理基準(以下倫理基準という。
)に違
反する疑いがあると認められる者の氏名

3号

違反する疑いがあると認められる倫理基準

4号

審査請求の要旨(1,000字以内)

2項

審査請求書にあっては審査請求代表者が,
審査請求書名簿にあっては審査
請求をしようとする市民が,それぞれ自ら署名し,及び押印しなければならない。

(3項及び4項省略)
5項

条例第4条第1項に規定する事実を証する書面は,
審査請求の要旨を疎明
するに足る書面(以下疎明資料という。
)とする。

6項

審査請求は,審査会(条例第5条第1項に規定する三木市長等倫理審査会をいう。
以下同じ。において審査された事案については,

再び行うことがで

きない。
3条(審査請求の受付等)1項

市長は,
審査請求書を受け付けたときは,
三木市選挙管理委員会
(以下
選挙管理委員会
という。に対し,

当該審査請求名簿に署名した市民が当該審
査請求書が提出された日において,
条例第4条第1項に規定する選挙権を有
する者(以下選挙権を有する者という。
)であることの確認を求めなけれ
ばならない。

2項

選挙管理委員会は,前項の規定により確認を求められたときは,直ちにこれを行い,その結果を市長に報告しなければならない。

3項

市長は,前項の報告を受けたときは,当該審査請求書及び確認した審査請求署名簿並びに疎明資料の写しを審査会に提出し,
その審査を求めなければ
ならない。ただし,次条第1項の規定により却下する場合は,この限りでな
い。
4条(審査請求の却下等)
1項

市長は,審査請求が次の各号のいずれかに該当するときは,当該審査請求を却下することができる。

1号

提出された審査請求署名簿に50分の1以上の選挙権を有する者の署
名がないとき。
2号

倫理基準以外の事項について審査請求したものであるとき。

3号

条例附則第2項に規定する事案以外の事案について審査請求したもの
であるとき。
4号

審査請求書の記載事項に不備があるとき,又は審査請求書に疎明資料の添付がないとき。

2項

市長は,前項の場合において,同項第2号に該当することを理由に当該審査請求を却下しようとするときは,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。

3項

市長は,第1項第4号に該当する場合において,当該不備又は疎明資料の添付が補正できるものであるときは,期間を定めて,当該審査請求代表者にその補正を命ずることができる。4項

市長は,第1項の規定により審査請求を却下したときは,直ちに審査請求却下通知書により当該審査請求代表者に通知しなければならない。
(5条以下省略)
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