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鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件
事件番号平成29(行ヒ)423
事件名鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件
裁判年月日令和元年10月17日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果その他
原審裁判所名高松高等裁判所
原審事件番号平成28(行コ)26
原審裁判年月日平成29年8月3日
判示事項1 市の経営する競艇事業の予算に違法な内容が含まれていた場合において,市長が市に対し当該予算を調製したことを理由として不法行為に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例
2 市の経営する競艇事業の管理者が違法な補助金の交付を決定した場合において,当該管理者を補助すべき立場にある職員が市に対し上記の決定に関与したことを理由として不法行為に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例
裁判日:西暦2019-10-17
情報公開日2019-10-17 16:00:05
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平成29年(行ヒ)第423号

鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損

害賠償等請求事件
令和元年10月17日

第一小法廷判決

主1文
原判決中,上告人鳴門市長に対する請求に関する部
分を破棄し,同部分につき,被上告人らの控訴を棄
却する。

2(1)

原判決中,上告人鳴門市公営企業管理者企業局長
に対し,Aに対して損害賠償請求をすることを求
める請求に関する部分を破棄する。

(2)

第1審判決中,Aに対して損害賠償請求をするこ
とを求める請求のうち,同人による補助金の交付
決定への関与を違法な財務会計上の行為として損
害賠償請求をすることを求める請求に関する部分
を取り消し,同請求に係る訴えを却下する。

(3)

Aに対して損害賠償請求をすることを求める請求
に関する被上告人らのその余の控訴を棄却する。

3
上告人鳴門市公営企業管理者企業局長のその余の上
告を棄却する。

4
上告人鳴門市長に対する請求に関する訴訟の総費用
は被上告人らの負担とし,上告人鳴門市公営企業管
理者企業局長に対する請求に関する訴訟の総費用は,
これを2分し,その1を同上告人の負担とし,その
余を被上告人らの負担とする。

由第1
1
本件の事実関係の概要等
本件は,鳴門競艇従事員共済会(以下共済会という。)から鳴門競艇臨
時従事員(以下臨時従事員という。)に支給される離職せん別金に充てるため,鳴門市(以下市という。)が平成22年7月に共済会に対して補助金(以下本件補助金という。)を交付したことが,給与条例主義を定める地方公営企業法38条4項に反する違法,無効な財務会計上の行為であるなどとして,市の住民である被上告人らが,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人市長を相手に,当時の市長の職に在った者に対して損害賠償請求をすることを求めるとともに,上告人鳴門市公営企業管理者企業局長(以下上告人管理者という。)を相手に,当時の市の企業局長及び企業局次長の各職に在った者らに対して損害賠償請求をすること等を,それぞれ求める住民訴訟である。
第1次控訴審は,本件補助金の交付が実質的に臨時従事員に対する退職金支給としての性格を有していることは否定できないものの,臨時従事員の就労の実態につき,退職手当を受領するだけの実質が存在すること等からすれば,給与条例主義の趣旨に反するとはいえないなどとして,被上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとしたが,第1次上告審は,本件補助金を交付した当時,臨時従事員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく,本件補助金の交付は,給与条例主義を潜脱し,地方自治法232条の2に違反する違法なものというべきであるなどとして,第1次控訴審判決を破棄し,本件を原審に差し戻した(最高裁平成25年(行ヒ)第533号同28年7月15日第二小法廷判決・裁判集民事253号71頁)。
2
(1)

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
市は,鳴門市公営企業の設置等に関する条例(平成16年鳴門市条例第3
8号)により,モーターボート競走法に基づくモーターボート競走の開催及びこれに附帯する業務を行うため,競艇事業を設置し,同事業に地方公営企業法の規定の全部を適用している。市は,上記の条例により,競艇事業を含む公営企業の各事業を通じて管理者1人を置き,その職名を企業局長としている。企業局長は,鳴門市企業局補助金等交付規程(平成17年鳴門市企業管理規程第9号)に基づく補助金等の交付決定をする権限を有している。平成22年当時,Bは市長,Cは企業局長,Aは競艇事業担当の企業局次長(以下,単に企業局次長という。)の各職に在った。(2)

臨時従事員の採用は,鳴門競艇臨時従事員就業規程(平成17年鳴門市企
業管理規程第27号)に基づき,企業局長が,選考に合格して登録名簿に登録された採用候補者に対し,個々の就業日を指定した採用通知書により通知する日々雇用の形式により行われていた。臨時従事員の身分については,地方公務員法22条5項の臨時的任用による同法3条2項の一般職の地方公務員であると理解され,これを前提とする運用がされていた。
(3)

市は,地方公営企業法38条4項の規定に基づき,企業職員の給与の種類
及び基準を定めることを目的として,鳴門市企業職員の給与の種類及び基準に関する条例(昭和41年鳴門市条例第59号。以下給与条例という。)を制定している。給与条例は,企業職員で常時勤務を要するもの等を職員として,勤務期間6月以上で退職した場合等に退職手当を支給する旨を定め(2条1項,3項,15条),非常勤職員については,職員の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で給与を支給する旨を定めている(18条)。
鳴門競艇臨時従事員就業規程(平成25年鳴門市企業管理規程第3号による改正前のもの)は,臨時従事員の賃金は日給とし,基本給及び手当を支給する旨を定め,その種類,金額等は,鳴門競艇臨時従事員賃金規程(平成17年鳴門市企業管理規程第28号。平成25年鳴門市企業管理規程第1号による改正前のもの。以下賃金規程という。)において定められていたところ,賃金規程上,臨時従事員の賃金の種類として,基本給,職務給,記録手当,時間外手当,調整手当,通勤手当及び特別手当が定められ,退職手当は定められていなかった。
(4)

競艇事業の雇用において臨時的任用による採用が繰り返されてきたことを背景として,全国のモーターボート競走場(以下,単に競走場という。)では,臨時的任用により採用された従事員によって労働組合が結成され,団体交渉が行われた結果,昭和40年頃,各労働組合と競艇事業の施行者である地方公共団体との間で労働協約が締結され,上記従事員に対して離職せん別金が支給されるようになった。市においても,臨時従事員で結成された労働組合(以下本件組合という。)との間で同様の労働協約が締結され,その頃から,離職せん別金の支給が行われていた。なお,平成15年度までは,全国の24競走場の全てで離職せん別金が支給されていたが,その支給を条例により制度化しているのは1競走場であった。その後,6競走場で経営合理化のために離職せん別金の支給自体が廃止され(施行者の民間会社への委託によるものを含む。),平成22年度において,離職せん別金を支給しているのは18競走場であったが,このうち,その支給を条例により制度化しているのは2競走場であった。
(5)ア

共済会は,臨時従事員の相互共済により福利厚生及び互助融和を図るこ
とを目的として,臨時従事員で法定月間開催日数以上雇用される者(会員)と市企業局の職員(特別会員)とで組織される団体である。共済会は,鳴門競艇従事員共済会規約(以下共済会規約という。)に基づく事業の一つとして,懲戒による離職の場合を除き,離職又は死亡により登録名簿から抹消された会員又はその遺族に対し,離職時の基本賃金(日額賃金)に在籍年数及びこれを基準とする支給率を乗ずるなどして算出した離職せん別金を支給していた。なお,共済会規約は,企業局次長の職に在る者を会長とする旨を定めており,平成22年当時の会長は,企業局次長であるAであった。

鳴門市企業局補助金等交付規程(平成25年鳴門市企業管理規程第4号によ
る改正前のもの)及び鳴門市競艇従事員共済会離職せん別金補助金交付要綱は,鳴門市競艇従事員共済会離職せん別金補助金(以下離職せん別金補助金という。)の申請,決定等に関し必要な事項を定めていたところ,上記の要綱において,離職せん別金補助金は,共済会が臨時従事員の離職に伴い支給する離職せん別金に要する経費を補助の対象とし,その額は,離職せん別金に係る計算式と連動した計算式により算出された金額の範囲内とされていた。
(6)ア

行政実例においては,臨時的任用により採用され常用の身分関係のない
競艇事業等の従事員に対し,永年勤続に対する功績報償としての退職手当に相当する退職金を支給する義務はないとされている(昭和48年12月14日自治公一第59号全国モーターボート競走施行者協議会会長あて公務員第一課長回答,昭和36年5月24日自治丁公発第40号全国競輪施行者協議会会長あて自治省公務員課長回答)。

平成18年3月の市議会の予算特別委員会総務分科会において,委員から離
職せん別金補助金につき改善を求める発言がされた際,市企業局の担当者は,総務省から離職せん別金補助金は退職金ではないかと指摘され,その改善を指導されており,本件組合との交渉の中で検討していきたい旨を回答した。また,平成20年3月の市議会の予算決算委員会第一分科会において,委員から,離職せん別金補助金は40年以上前にできた制度であり,競輪事業において臨時的任用により採用された従事員に対する退職金が問題とされた例もあるから考えなければならないとの指摘があった。

平成22年2月の市議会の産業建設委員会において,委員から離職せん別金
の支給を問題視する発言がされたのに対し,当時の企業局次長(Aの前任者)は,離職せん別金は退職金ではないが,その支給について法的な根拠があるわけではなく,本件組合との団体交渉の結果によるものである旨を説明した。また,同年3月の市議会の予算決算委員会第一分科会において,委員から離職せん別金補助金についての説明を求められたのに対し,市企業局の担当者は,離職せん別金は共済会の制度として支給しているものであり,違法性はないと考えているが,その支給が好ましくないと指摘されていたこともあり,本件組合に対して見直し案を提示している旨を回答した。
(7)ア

市長であるBは,平成22年度の競艇事業の予算(以下本件予算という。)を市議会に提出し,市議会の議決を得た。本件予算には,共済会に対して離職せん別金補助金を支出することがその内容として含まれていた。イ
共済会の会長であるAは,平成22年6月30日,企業局長であるCに対
し,離職せん別金補助金1億0457万3722円(本件補助金)の交付を申請し,Cは,同年7月7日,その交付を決定した(以下,この決定を本件交付決定という。)。Aは,企業局次長として,本件交付決定の決裁に関与した。ウ
本件補助金は,平成22年7月30日,専決権者である競艇企画管理課長の
支出命令により,共済会に対して交付された。共済会は,同年6月30日付けで登録名簿から抹消された臨時従事員32名に対し,本件補助金の全額を用いて,合計1億0818万2222円の離職せん別金を支給した。上記離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合は約97%であった。
(8)

市と本件組合との間の交渉の結果,平成25年3月末をもって離職せん別
金を廃止する労働協約が締結され,同年4月以降,市において,臨時従事員に対する離職せん別金は支給されていない。
3
原審は,上記事実関係等の下において,上告人市長を相手に当時の市長であ
ったBに対して損害賠償請求をすることを求める請求並びに上告人管理者を相手に当時の企業局長であったC及び当時の企業局次長であったAに対して損害賠償請求をすることを求める各請求につき,要旨次のとおり判断して,これらをいずれも認容した。
(1)

Bは,市長として,違法な本件補助金の交付を予算に計上しないようにす
べき職務上の義務を負っていたというべきである。Bは,これを怠り,本件予算を調製したことによって,本件補助金相当額の損害を市に与えたものであり,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
(2)

Cは,企業局長として,違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義
務を負っていたというべきである。Cは,これを怠り,本件交付決定をしたことによって,本件補助金相当額の損害を市に与えたものであり,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。(3)

Aは,共済会の会長として本件補助金の交付を申請しながら,企業局次長
として本件交付決定の決裁に関与したところ,企業局長を補助すべき立場にある企業局次長として,違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を負っていたというべきである。Aは,これを怠り,本件補助金相当額の損害を市に与えたものであり,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
第2

上告代理人橋本勇ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを
除く。)について
原審の前記第1の3(2)の判断は是認することができるが,同(1)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
1
(1)

当時の市長に対して損害賠償請求をすることを求める請求について地方公営企業法は,同法8条1項各号により地方公共団体の長の権限とし
て留保された事項及び法令に特別の定めがある事項を除き,管理者が,地方公営企業の業務を執行し,当該業務の執行に関して当該地方公共団体を代表するものとしている(同条)。そして,同法は,管理者と地方公共団体の長との関係について,地方公共団体の長は,住民の福祉に重大な影響がある地方公営企業の業務の執行に関しその福祉を確保するため必要があるとき又は当該管理者以外の地方公共団体の機関の権限に属する事務の執行と当該地方公営企業の業務の執行との間の調整を図るため必要があるときには,管理者に対し,地方公営企業の業務の執行について必要な指示をすることができるものとしている(16条)。これらの規定に鑑みれば,地方公共団体の長の管理者に対する一般的指揮監督権は排除されており,地方公営企業の業務の執行は,原則として管理者に委ねられているということができる。
また,地方公営企業法は,地方公営企業の経理はその事業ごとに特別会計を設けて行うものとし(17条),その経費は原則として当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てなければならないとしている(17条の2第2項)ところ,同法は,地方公営企業の予算について,毎事業年度における業務の予定量並びにこれに関する収入及び支出の大綱を定めるものとしており(24条1項),地方公営企業の予算は,当該地方公営企業を効率的に経営し,その経済性を発揮するという観点から,収入及び支出の大枠を定めるものにすぎない。そして,地方公共団体の長の権限として,地方公営企業の予算を調製することが留保されているものの(8条1項1号),管理者は,予算の原案や予算に関する説明書を作成して,地方公共団体の長に送付することとされ(9条3号,4号),地方公共団体の長は,管理者が作成した予算の原案に基づいて,地方公営企業の予算を調製し,議会の議決を経なければならないものとされている(24条2項)。
そうすると,地方公共団体の長は,地方公営企業の予算を調製するに当たり,当該地方公営企業の業務執行の権限を有する管理者が作成した予算の原案を尊重することが予定されているというべきである。このことは,地方公共団体が経営し,条例により地方公営企業法の規定を適用する企業についても同様である。(2)

本件補助金は,実質的には,市が共済会を経由して臨時従事員に対し退職
手当を支給するために共済会に対して交付したものというべきであり,その交付は,地方自治法204条の2及び地方公営企業法38条4項の定める給与条例主義を潜脱するものであるといわざるを得ないから(前掲最高裁第二小法廷判決),本件予算は,共済会に対する離職せん別金補助金の支出という違法な内容を含むものであったということができる。しかしながら,上記支出が違法であるのは,臨時従事員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する条例上の根拠がないこと等によるものであり,本件予算の項目や明細から上記支出が違法であることが明らかであったわけではなく,Bが,本件予算の調製に当たり,上記支出が違法であると現実に認識していたともうかがわれない。また,離職せん別金補助金を交付するか否かは企業局長が決定するものであって,競艇事業における収入及び支出の大枠を定めたものである本件予算の調製により本件補助金が交付されたという直接の関係にあるということもできない。以上によれば,当時の市長であるBが,市に対し,共済会に対して離職せん別金補助金を支出する内容を含む本件予算を調製したことを理由として,不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
(3)

以上と異なる見解に立って,当時の市長であるBに対して損害賠償請求を
することを求める請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。2
(1)

当時の企業局長に対して損害賠償請求をすることを求める請求について臨時従事員に対する離職せん別金の支給は,昭和40年頃から長年にわた
って行われており,離職せん別金補助金の申請,決定等について,鳴門市企業局補助金等交付規程や鳴門市競艇従事員共済会離職せん別金補助金交付要綱が定められていたことに照らせば,市企業局は,組織として,臨時従事員に対して離職せん別金が支給されることを前提として市の競艇事業を運営してきたということができる。
しかしながら,地方公営企業の管理者は,地方公営企業の業務を執行し,当該業務の執行に関して地方公共団体を代表し(地方公営企業法8条),業務に関して企業管理規程を定める権限も付与されている(同法10条)のであるから,管理者である企業局長は,市の競艇事業に関する企業管理規程や従前の運用にかかわらず,その業務の執行の適正を確保すべき地位にあるというべきである。また,臨時的任用により採用され常用の身分関係のない競艇事業等の従事員に対しては,退職手当を支給する義務はないとした行政実例があり,市企業局の担当者の説明によれば,総務省は,離職せん別金補助金が退職金ではないかと指摘して,その改善を指導していたというのである。これらに加え,市議会の委員会においても,繰り返し,離職せん別金の支給を問題視する発言や離職せん別金補助金の改善を求める発言がされ,平成22年3月にも,離職せん別金補助金についての説明を求められていたこと等も併せ考えると,本件交付決定当時,企業局長であるCが,共済会に対して離職せん別金補助金を交付することに法律上の問題はないものと信ずべき状況にあったということはできない。さらに,本件における離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合は約97%に及んでいたのであり,離職せん別金補助金は,その形式及び内容に照らし,市が条例上の根拠がなければ本来支給することのできない退職手当を,共済会を経由して臨時従事員に支給するためのものであると評価されてもやむを得ないものであったということができる。本件交付決定の当時,多数の競走場において,市と同様に離職せん別金が支給されていたとはいえ,その支給を条例により制度化している競走場もあったというのであり,当時の企業局長であるCにおいて,離職せん別金補助金の適法性を改めて確認したならば,臨時従事員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する条例上の根拠がないことを認識することは十分に可能であったというべきである。
これらの事情に照らせば,当時の企業局長であるCには,本件交付決定について,その適法性を確認して違法な支出を回避すべき職務上の注意義務を尽くさなかった過失があったというべきである。Cは,違法な本件交付決定をしたことにより,市に対して本件補助金相当額の損害を与えたものであり,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
(2)

以上によれば,当時の企業局長であるCに対して損害賠償請求をすること
を求める請求を認容した原審の判断は是認することができ,これに関する論旨は理由がない。
3
当時の企業局次長に対し,怠る事実に係る相手方に対するものとして損害賠
償請求をすることを求める請求について
(1)

被上告人らは,当時の企業局次長であるAが本件交付決定に当たりその責
任を十分に果たさなかったなどとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人管理者を相手に,Aに対する損害賠償請求権の不行使が違法な怠る事実であるとして,怠る事実に係る相手方に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求と,Aが本件交付決定の決裁に関与したことが違法な財務会計上の行為であるとして,これを行った当該職員に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求とを選択的に申し立てているところ,原審は,そのうち,怠る事実に係る相手方に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求を全部認容したものである(前記第1の3(3))。しかしながら,離職せん別金補助金の交付決定をする権限を有するのは企業局長であり,本件交付決定についても,当時の企業局長であるCが,その権限に基づいて判断したものである。当時の企業局次長であるAは,本件補助金を交付するか否かを決定する権限を有しないのであるから,企業局次長が企業局長による適正な職務執行を補助すべき立場にあることをもって,直ちに本件交付決定がされることを回避すべき義務を負っていたということはできない。Aは,共済会の会長として本件補助金の交付を申請しているが,Aが共済会の会長であったのは,共済会規約が企業局次長の職に在る者を会長とする旨を定めていたからであるにすぎない上,Aが本件補助金の違法性を認識しながらあえてその交付申請をしたといった事情はうかがわれない。また,Aが本件交付決定の決裁に関与したためにCが本件補助金を交付するか否かについての判断を誤ったといった事情もうかがわれない。以上によれば,当時の企業局次長であるAが,市に対し,本件交付決定に関与したことを理由として,不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
(2)

以上と異なる見解に立って,当時の企業局次長であるAが本件交付決定の
決裁に関与した行為につき損害賠償義務を負うとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,怠る事実に係る相手方に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。第3

当時の企業局次長に対し,当該職員に対するものとして損害賠償請求をす
ることを求める請求について
被上告人らが,上告人管理者を相手に,Aに対して損害賠償請求をすることを求める請求のうち,当該職員に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求については,住民訴訟の対象とされる事項は,地方自治法242条1項に定める公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担又は公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実に限られており(同法242条の2第1項),Aが本件交付決定の決裁に関与したことがこれらの行為又は事実に当たらないことは明らかであるから,本件訴えのうち上記請求に係る部分は不適法というべきである。
第4

結論

以上のとおりであって,原判決中,上告人市長に対する請求に関する部分は破棄を免れず,当該部分に関する被上告人らの請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,当該部分につき,被上告人らの控訴を棄却すべきである。また,原判決中,上告人管理者に対する請求に関する部分のうち,怠る事実に係る相手方に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した部分は破棄を免れず,当該部分に関する被上告人らの請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,当該部分につき,被上告人らの控訴を棄却すべきである。そして,被上告人らが,上告人管理者を相手に当該職員に対するものとしてAに対して損害賠償請求をすることを求める請求に係る訴えは不適法であるから,当該請求を棄却した第1審判決を取り消して,上記訴えを却下することとする。これに対し,上告人管理者を相手にCに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原審の判断は是認することができ,これに関する同上告人の上告は理由がないから,これを棄却することとし,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官池上政幸の補足意見がある。
裁判官池上政幸の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,当時の企業局長であるCの過失について,第1次上告審の判断を踏まえて,次のとおりの意見を補足しておきたい。1
市の競艇事業には,地方公営企業法の規定が適用され,その企業職員の給与
は,給料及び手当とし(同法38条1項),その給与の種類及び基準は,条例で定めなければならない(同条4項)とされている。この規定に基づき,給与条例18条は,企業職員のうち,非常勤職員について,常時勤務を要する職員の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で給与を支給する旨を定めている。しかし,臨時従事員は,個々の就業日として指定された一日を単位とする雇用の形式で採用された企業職員であるから,その就労実態等にかかわらず給与条例15条の定める退職手当の支給要件(勤務期間6月以上で退職した場合等)を満たすものではないとされている以上,常時勤務を要する職員の給与との権衡を考慮しても,臨時従事員に対し,給与条例18条に基づき退職手当を支給することができるとはいい難い。本件交付決定当時,他に臨時従事員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく,同法38条4項が給与条例主義による規定であることを前提とする以上,臨時従事員に対してこれらを支給することは,条例上予定されていなかったというほかない。
他方,地方公営企業等の労働関係に関する法律は,企業職員が労働組合を結成し,労働組合が賃金その他の勤務条件について団体交渉を行い,労働協約を締結する権利を認めており,本件においても,市の企業局長は,本件組合との間で,臨時従事員に対して離職せん別金を支給することを内容とする労働協約(以下本件協約という。)を締結している。しかしながら,条例に抵触する労働協約の内容は,議会による条例の改正等がなされるまで効力を有しない(同法8条4項)のであるから,上述のとおり,臨時従事員に対して離職せん別金を支給することが条例上予定されておらず,給与条例主義を定める地方自治法204条の2の規定が企業職員にも適用されることを前提とする以上,本件協約の内容は,これに抵触して,条例の改正等がなされるまで効力を有しないと解され,市企業局は,本件交付決定当時,本件協約に基づいて離職せん別金を支給すべき義務を負っていなかったものといわざるを得ない。もっとも,以上の点について,総務省等から明確な見解は示されておらず,昭和40年頃に締結され維持されてきた本件協約が効力を有しないと認識することが容易であったとまではいい難く,現に,市の企業局は,そのような認識のないまま,本件協約を継続してきたことがうかがわれる。
2
市の企業局長は,企業管理規程である鳴門市企業局補助金等交付規程や鳴門
市競艇従事員共済会離職せん別金補助金交付要綱を定めて,これに基づき,共済会に対して離職せん別金補助金を交付しており,この交付は,市企業局が,本件組合との団体交渉により締結された本件協約を前提として,臨時従事員に対する離職せん別金を支給するためのものであったということができる。実際,市企業局の担当者は,市議会の委員会において,離職せん別金に関し,本件組合に対して見直し案を提示している旨を回答しており,市企業局としては,本件協約に基づいて離職せん別金を支給すべき労働協約上の義務を負っており,労使間の合意がなければ,その支給を廃止することができないとの理解を前提としていたことがうかがわれる。本件協約に基づく離職せん別金の支給は数十年にわたって継続されており,市企業局は,本件協約を前提として企業管理規程を整備するなどして,組織として離職せん別金補助金の交付を繰り返してきたものであるところ,その間,離職せん別金補助金は,事業年度ごとの競艇事業の特別会計上,事業の収入をもって充てられる経費(管理費)である従事員共済会補助金として計上されており,市議会においても,予算の議決及び決算の認定を受けるなど所要の手続が履践されていたことがうかがわれる。なお,市議会の委員会において,離職せん別金又は離職せん別金補助金に関する質疑応答がされており,これらが離職せん別金補助金の適法性を確認する契機となり得たことは確かであるが,上記委員会において,これらの支給が給与条例主義に違反する旨が直接指摘されていたわけではない。
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市企業局は,競艇事業が共済会に対して離職せん別金補助金を支給し,共済
会が臨時従事員に対して離職せん別金を支給するという形式を用いることによって,臨時従事員に対する離職せん別金を支給するための条例上の根拠の有無を確認しないまま,安易に従前の取扱いを踏襲し,離職せん別金補助金を繰り返し交付してきたといわざるを得ない。競艇事業の管理者であるCにおいても,本件交付決定について,その適法性を確認すべき義務を怠った過失があることは否定し難い。他方において,市企業局は,本件協約に基づき離職せん別金を支給すべき義務を負っているとの理解を前提とし,所要の手続を経ながら,競艇事業に必要な経費として離職せん別金補助金を交付してきたものであり,Cが私利を図るために本件交付決定をしたものではなく,違法な本件交付決定により市の競艇事業に損害を与えることになるとの認識がなかったことも明らかである。そして,上記2の事情をも考え併せると,Cにおいて,本件交付決定当時,臨時従事員に対する離職せん別金の支給には条例上の根拠がなく本件交付決定が違法であることを必ずしも容易に認識し得る状況にあったとはいえず,その帰責性が大きいということもできない。4
以上述べたところによれば,市企業局が長年にわたり組織として運用してき
た離職せん別金補助金制度の誤りについて,本件交付決定当時に企業局長の地位にあったC個人に対して損害賠償責任を追及することには酷な面があるといわざるを得ず,市議会によるこれまでの対応等に照らしても,今後,C個人の上記責任を追及するに当たっては,相応の配慮が望まれるところである。
(裁判長裁判官
木澤克之

深山卓也

裁判官

山口

裁判官

池上政幸

厚)
裁判官

小池


裁判官

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