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課徴金納付命令取消請求事件
事件番号平成29(行ウ)163
事件名課徴金納付命令取消請求事件
裁判年月日令和元年9月27日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-09-27
情報公開日2019-10-16 12:00:11
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令和元年9月27日判決言渡

同日原本領収

平成29年(行ウ)第163号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

課徴金納付命令取消請求事件

平成31年4月26日
判主1決文
金融庁長官が平成29年3月14日付けで原告に対してした課徴金2106万円を国庫に納付することを命ずる決定を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文1項と同旨

第2

事案の概要
本件は,金融商品取引法(以下金商法という。)159条2項1号(現実取引による相場操縦の禁止)に違反したとして,同法174条の2第1項,185条の7第1項に基づき,課徴金2106万円を国庫に納付することを命
ずる決定(以下本件決定という。
)を受けた原告が,本件決定が認定した違
反事実に係る取引(別表着色部分の取引。以下本件各対象取引という。)を
したのは原告ではないなどと主張して,
本件決定の取消しを求める事案である。
1
関係法令の定め


金商法159条2項柱書きは,何人も,有価証券の売買,市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引(以下有価証券売買等という。
)のうち
いずれかの取引を誘引する目的をもって,同項各号に掲げる行為をしてはならない旨定めており,同項1号は,当該行為として,有価証券売買等が繁盛であると誤解させ,又は取引所金融商品市場における上場金融商品等若しく
は店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み,委託等若しくは受託等をすることを掲げる。


金商法174条の2第1項は,同法159条2項1号の規定に違反する一連の有価証券売買等又はその申込み若しくは委託等(以下相場操縦違反行為という。)をした者(以下違反者という。
)があるときは,内閣総理
大臣は,同法第6章の2第2節(審判手続)に定める手続に従い,当該違反
者に対し,同法174条の2第1項各号に掲げる額の合計額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨定めている。2
前提事実(当事者間に争いがない事実)


当事者
原告は,自己資金により株式の売買等を行って収益を得ることを業とする
外国法人である。


本件における株式の売買等

外国法人であるElite

Vantage

Placement

L
td.
(以下エリート・バンテイジという。
)の中華人民共和国上海直
轄市に所在する支店(以下上海支店という。
)に所属する4名のトレー
ダー及び同国河南省鄭州市に所在する支店(以下鄭州支店という。)に
所属する13名のトレーダー(以下本件各トレーダーという。
)は,別
表着色部分のとおり,平成26年4月9日から同年5月23日までの間,合計28取引日にわたり,株式会社東京証券取引所が開設する取引所金融
商品市場(以下東証という。
)並びにSBIジャパンネクスト証券株式
会社(以下ジャパンネクストという。
)及びチャイエックス・ジャパン
株式会社(以下チャイエックスという。
)が開設していた私設取引シス
テム(以下PTSという。
)において,Morgan


Co.

International

Stanley

Plc(以下MSIPと

いう。,モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社(以下MSMS)
という。等を介し,

東証第一部に上場されている日本海洋掘削株式会社等
の合計45銘柄の株式(以下本件各株式という。
)の売買及びその委託
(本件各対象取引)を行った。

PTSは有価証券を取引所金融商品市場の外で売買するシステムであり,本件各対象取引が行われた当時,
ジャパンネクスト及びチャイエックスが,
金商法所定の認可を受けて,PTSを開設していた。両社のPTS(以下
本件PTSという。
)においては,東証を含む取引所金融商品市場に上
場する株式等の売買をすることができた。


本件決定
内閣総理大臣の権限の委任を受けた金融庁長官は,金商法所定の審判手続を経て,平成29年3月14日付けで,原告に対し,同法185条の7第1
項に基づき,本件各対象取引が相場操縦違反行為であるとして,課徴金2106万円を国庫に納付することを命ずる決定(本件決定)をした。本件決定が認定した違反事実は,大要,次のとおりであった。すなわち,原告は,原告の株式売買業務に従事していた本件各トレーダーにおいて,原告の業務に関し,本件各株式につき,PTSを利用した本件各株式の売買を
誘引する目的をもって,東証の午前立会時間終了後から午後立会時間開始前までの注文受付時間に,東証で成行又は直前の寄前気配値段よりも上値の価格帯に約定させる意思のない大量の買い注文を発注して寄前気配値段を引き上げた上で,本件PTSで売り注文を発注し,その売り注文の一部に自己の買い注文を対当させて株価を引き上げて残りの売り注文を自己に有利な価格
で約定させるなどの方法により,本件各対象取引を行い,もって,自己の計算において,本件各株式の売買が繁盛であると誤解させ,かつ,取引所金融商品市場における本件各株式の相場を変動させるべき一連の売買及び委託をしたものである。
3
争点


原告は本件各対象取引をした者であるか


本件各対象取引は別表の各No.ごとに一連のものであるか



本件各対象取引は相場を変動させるべき行為であるか



本件各対象取引は取引を誘引する目的をもって行われたか

4
争点に関する当事者の主張の要旨


争点⑴(原告は本件各対象取引をした者であるか)(被告の主張)

原告は法人であるところ,法人が有価証券の売買やその委託をした者であるというためには,当該行為が当該法人の業務として行われることが必要であり,かつ,それで足りるというべきであって,以下の社会的実態からすれば,本件各トレーダーは原告の業務として本件各対象取引を行った
と認められ,原告は本件各対象取引をした者に当たるというべきである。イ
資本関係・契約関係
原告とエリート・バンテイジはグループ会社であり,当該グループには他にTrue

North

Vantage

ノース・バンテイジ」という。
)とThe

Inc.
(以下トゥルー・TwoCitiesTrust(以下「トゥー・シティーズ・トラストという。)が属している。
トゥー・シティーズ・トラストは原告代表者を唯一の受益者とする信託であり,原告とエリート・バンテイジの全株式を保有している。トゥルー・ノース・バンテイジは,
原告の完全子会社である。
原告代表者はエリート・
バンテイジ及びトゥルー・ノース・バンテイジの唯一の取締役である。つまり,原告代表者は,グループ会社である原告,エリート・バンテイジ及びトゥルー・ノース・バンテイジの役員を兼任し,これらの会社の直接・間接の株主であるトゥー・シティーズ・トラストの受益者であったのであり,各グループ会社を実質的に支配し得たことを踏まえれば,本件各トレ
ーダーは原告の業務を行っていたといえる。
原告は,自己資金により株式売買等を行って収益を得ることを業とする会社であるにもかかわらず,自らトレーダーを雇用せず,エリート・バンテイジとの間でトレーダー業務契約(以下本件トレーダー業務契約という。
)を締結し,エリート・バンテイジがトレーダーを雇用する旨の同契約の定めに基づき,エリート・バンテイジが本件各トレーダーと雇用契約(以下本件各雇用契約という。
)を締結していた。しかし,このよ

うなトレーダーの雇用は,本件トレーダー業務契約の定めにあるとおり,原告のために原告の資金で取引する目的で

,行われたものであっ
て,上記グループ会社間における役割分担にすぎず,これをもって本件各対象取引が原告の業務として行われたものではないとはいえない。また,本件と同様にエリート・バンテイジに雇用されたトレーダーによ
る相場操縦違反行為について,原告に対し課徴金の納付を命ずる平成26年3月24日付け決定(以下別件決定という。
)がされた事件におい
て,原告は違反事実を応諾し,当該相場操縦違反行為が原告の行為であることを争っていなかったこと等からしても,本件各雇用契約は形式的なものであるというべきである。


システムの提供
原告は,エリート・バンテイジに対し,ピープロエイト・トレーディング・プラットフォーム(以下PPrо8という。
)というシステムを
提供しており,
このシステムにより,
本件各トレーダーが入力した取引は,
原告が手配した各契約関係を通じて,そのまま東証及び本件PTSに取り
次がれ,これが原告と契約した証券会社の原告の口座に原告の取引として記録される。そうすると,原告は自らの取引を本件各トレーダーに委託したものと評価できる

取引の事後的監視
本件各トレーダーの取引は,トゥルー・ノース・バンテイジに所属する職員等により,
取引監視システムを用いて事後的に監視されていた。
また,
原告においても,本件各トレーダーの取引に対する事後的監視が行われており,原告代表者は,本件各トレーダーの購買力や損失限度に関してグループとしての最終決定権を持っているほか,トレーダーに対する処分,制限,停職,解雇等の権限を有する。

経済的利益の帰属
課徴金制度は,違反行為の抑止及び規制の実効性の確保のため金銭的負担を課す行政上の制裁であり,その課徴金の額は違反行為によって得た又は得られた可能性がある利得の額を志向していると解されることからすれば,違反行為によって現実の利得を得た者が誰かという観点は重要であるといえる。この点,本件各対象取引における原資は原告保有の資金であ
り,原告の資産運用業務の一環として本件各対象取引が行われたことからすれば,本件各対象取引に基づく利得は,原告に帰属していたというべきである。
(原告の主張)

法人が有価証券の売買やその委託をした者として違反者となるためには,①法人の役職員が法人の業務として当該行為を行った場合,すなわち,当該役職員の行為が客観的に当該法人の業務の一環と評価できる場合であること,②実行行為者たる個人はその手足にすぎないと認められる場合,すなわち,法人が当該実行行為者である個人による行為を実質的に支配している場合であること,③当該法人に関し,当該従業員に対する選任・監督
その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失が認められること,以上の要件を充足する必要があると解すべきである。イ
上記①の要件を満たさないこと
本件トレーダー業務契約及び本件各雇用契約によれば,本件各トレー
ダーは,エリート・バンテイジの従業員であって原告のそれではなく,原告は本件各トレーダーに対し,業務上の指揮命令権限を有さず,監督義務も負っていない。
トレーダーの売買管理は,次のとおりである。すなわち,第1に,トレーダーの売買はすべてPPro8で行われる。第2に,各トレーダー拠点のオーナー兼マネージャーは,当該拠点に所属するトレーダーが発注した全ての取引について,PPro8を使って監視する義務を負う。
第3に,全世界のトレーダー拠点に所属する全トレーダーからPPro8を通じてされた注文は,原告の完全子会社であるトゥルー・ノース・バンテイジに雇用されているリスク・アナリストによってモニターされる。第4に,リスク・アナリストがさらに調査や処分が必要と判断した場合,トゥルー・ノース・バンテイジのシニア・リスク・アナリストに
勧告し,シニア・リスク・アナリストは,追加措置不要,注意警告又は取引停止については自ら最終決定し,トレーダーの解雇又はオフィスの閉鎖については最高業務執行責任者(以下COOという。
)及び社長
の最終判断を仰ぐ。
このように,株式の売買等に係る投資判断及びその注文はあくまでも
本件各トレーダーが行うものであり,かつ,売買管理も第一次的には本件各トレーダーの所属する上海支店及び鄭州支店のオーナー兼マネージャーが行うこととなっており,原告が本件各トレーダーの行為について指示等を行うことはなかった。
したがって,本件各対象取引は,客観的にみて,エリート・バンテイ
ジに雇用された本件各トレーダーにより,エリート・バンテイジの業務として行われたものであり,原告の業務として行われたものではない。ウ
上記②の要件を満たさないこと
トレーダーの報酬は,原告がその純取引収益からエリート・バンテイジ
に支払う月額手数料を原資として支払われる。すなわち,原告が,毎月エリート・バンテイジに月額手数料を支払い,エリート・バンテイジが,各トレーダー拠点のトレーダー及びオーナー兼マネージャーに報酬の支払を行う。各トレーダーへの配分はオーナー兼マネージャーの推奨に従って定まるところ,各トレーダーに支払われるべき報酬総額はまとめてオーナー兼マネージャーに支払われた上で,その中からオーナー兼マネージャーの裁量によりトレーダーへの配分が行われる。

このように,本件各トレーダーは,自らの判断により本件各対象取引を行い,実績ベースで利益の配分を受けているのであるから,本件各トレーダーが原告の手足にすぎないとは認められず,原告が本件各トレーダーに対し,指揮命令権限や監視義務を負っていないこと等も踏まえれば,原告が本件各トレーダーを実質的に支配していたとはいえない。


上記③の要件を満たさないこと
各トレーダーは,エリート・バンテイジに雇用され,身元確認手続をとられ,過去に解雇された者等の不適格者でないことを原告が確認した上で,トレーダーIDを付与されている。エリート・バンテイジは,本件トレーダー業務契約に基づき,各トレーダーが証券法を遵守することを確保する
最大限の努力義務を課されている。全てのトレーダーは,エリート・バンテイジとの間でトレーダーコンプライアンス契約を締結し,相場操縦違反行為やインサイダー取引等を禁止されている。このように,原告は各トレーダーの違法行為を防止するための種々の注意を尽くしており,過失は認められない。


以上のとおり,本件では上記①ないし③の要件をいずれも満たさないから,原告が,本件各対象取引につき,これをした違反者として課徴金納付命令の対象となる余地はない。


争点⑵(本件各対象取引は別表の各No.ごとに一連のものであるか)(被告の主張)

本件各対象取引に共通する特徴
株式の買い仕込み
本件各トレーダーは,多少の例外を除いて,東証の前場(午前9時から午前11時30分)において,対象株式を買い付けた(別表取引評価欄に買い仕込みとあるもの)。
東証における大量の買い注文

次に,本件各トレーダーは,東証の場間(午前11時30分から午後0時30分)において,当該対象株式につき,直前の寄前気配値段よりも高い値段での(又は値段を指定しない成行での)大量の買い注文を行い(別表取引評価欄に買い見せ玉(発注)とあるもの)
,寄前気
配値段を引き上げた。

本件PTSにおける有利な価格での約定
上記

の直後,本件PTSにおいて,引き上げた寄前気配値段よりわ

ずかに下値で売り注文を出し,①他の投資者の買い注文と約定させる方法(別表取引評価欄に売抜けとあるもの)
,又は②その売り注文
の一部に本件各トレーダーの買い注文を対当させ(別表取引評価欄

対当売買
とあるもの)さらに売買が繁盛であると見せかけた上で,

残りの売り注文と他の投資者の買い注文を約定させる方法によって,上記売り注文のうち一部を有利な価格で約定させた。
東証に発注していた買い注文の取消し
上記

上記

の後,東証の後場(午後0時30分から午後3時)開始前に,
の買い注文から最大でも約17分の間に,これを取り消した(別

表取引評価欄に買い見せ玉(取消し)とあるもの)


本件各対象取引は本件各トレーダーが役割を交代しながら行っていたこと
別表の全取引にはそれぞれ複数のトレーダーが関与しており,多くの場合,東証において買い見せ玉の

本件
PTSにおいて有利な価格で約定させる取引
ーは異なっているが,別表の各No.ごとの取引はそれぞれ上海支店か鄭州支店のいずれかの支店のみで行われ,支店をまたがった取引は行われていない。別表の全取引のうち約3分の1は,同一取引日において,共通する2名以上のトレーダーが,買い見せ玉の

と有利な価格で約定させる取引

担当する者
を担当する者とで,その役割

を交代して取引を行っている。

金商法159条2項1号の一連の有価証券売買等又はその委託等とは,社会通念上連続性の認められる継続した複数の売買等をいうところ,以上の取引態様によれば,17名もの本件各トレーダーが,それぞれ何ら
の意思連絡なく個人の判断で偶然本件各対象取引を行ったとは考え難く,支店ごとに意思連絡の上行ったものと認められるから,本件各対象取引は別表の各No.ごとに一連のものである。

原告は,パターンA及びパターンBの存在を指摘するが,本件各対象取引は,東証の場間中という比較的参加者が限られた短い時間の中で連続的
に実行されているものであり,別表の各No.ごとの取引全てにおいて前記アのとおりの取引がされていなければ,本件各トレーダーの意思連絡が否定されるものではない。また,パターンA及びパターンBに当たる取引は,本件各対象取引全体から見れば比較的少額の取引であるから,本件各対象取引の一連性を否定する根拠にはならない。

(原告の主張)

本件各トレーダーが意思を通じ合って本件各対象取引を行ったという直接的・客観的な証拠はなく,本件においては本件各トレーダーに対する聴取も行われていない。


被告は,本件各対象取引が,①株式の買い仕込み,②東証における大量の買い注文,③本件PTSにおける有利な価格での約定,④東証に発注していた買い注文の取消しという取引手法を繰り返していることを主張するが,実際には,以下のとおり,当該主張を前提とすると明らかに説明が付かない取引行為が,全142回のうち実に計61回も存在する。
パターンA
上記②の買い注文の後,一旦,対象株式の残高(ポジション)がゼロ
又はゼロに近い数字になったにもかかわらず,上記④の買い注文の取消しの直前に,再度対象株式の買付けが行われ,当該買い注文の取消しの後,当該再度買い付けられた対象株式が,当該買付けの価格より安く売り付けられているパターン
パターンB

パターンA以外で,上記④の買い注文の取消しが行われた段階で,対象株式の残高(ポジション)が残っており,当該残りの対象株式が,当該買い注文の取消しの後,買付時の価格より安く売り付けられているパターン
本件各トレーダーが役割分担をし,意思を通じ合っていたとしたら,な
ぜ,上記各パターンのような,自らの利益に反する行為を行うのか全く不明であり,経験則に照らし明らかに不合理である。当該61回の取引については,本件各トレーダーの意思連絡及び役割分担があったと認定することはできず,そうなると,他に合理的な理由がない限り,残りの81回の取引についても,意思連絡及び役割分担があるとは認められない。

本件各対象取引が一連の有価証券売買等又はその委託等に当たるためには,本件各対象取引が,実行行為者である本件各トレーダーの取引方針の一環として行われたものであるといえる必要があるが,以上のことからすれば,そのようにはいえない。



争点

(本件各対象取引は相場を変動させるべき行為であるか)

(被告の主張)

金商法159条2項1号の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその委託等とは,その一連の売買等が全体として客観的に相場を変動させる可能性のあるものをいうところ,以下のとおり,本件各対象取引がこれに当たることは明らかである。


買い見せ玉の発注が相場を変動させるべき行為であること
本件の買い見せ玉取引(前記⑵(被告の主張)ア

)は,当初より約定

の意思がなかったものと認められるから,このような取引は,あたかも取引が活発であると見せかけ,第三者の取引を誘引する注文であるといえる。そして,こうした買い見せ玉は,他の投資者に大量の取引がされているかのように誤解させ,銘柄の価格や出来高を上昇させる可能性があり,実際
に本件各株式の寄前気配値段が上昇していることからも,相場を変動させるべき行為に当たることは明らかである。

本件PTSでの取引も含めて全体が相場を変動させるべき行為であること
また,上記イによる寄前気配値段の上昇に加え,その後本件PTSにお
いて対当売買等(前記

を行うことは,本件PTS

における当該銘柄の出来高を増加させ,相場を変動させる可能性がある取引でもある。したがって,本件PTSでの取引も含めて本件各対象取引全体が相場を変動させるべき行為に当たる。
(原告の主張)

本件各対象取引が相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその委託等に該当するためには,本件各対象取引が,少なくとも取引所金融商品市場における相場を変動させる可能性のあることが必要と解すべきであるところ,本件PTSにおける取引は取引所金融商品市場外のものにとどまるから,本件各対象取引はこれに当たらないというべきである。


争点

(本件各対象取引は取引を誘引する目的をもって行われたか)
(被告の主張)

金商法159条2項柱書きの取引を誘引する目的とは,人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず,投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的のことをいい,この目的があるという
ためには,投資者を積極的に誘い込む意図までは必要でなく,投資者に誤解を与え,それに基づいて取引に参加する可能性があるものであることを認識しながら,相場変動の意図に基づいて取引を行ったことが認められれば足りる。
以下の取引態様からすれば,本件各対象取引が上記の誘引目的をもって
行われたことは明らかである。

東証における取引
本件各対象取引では,東証で約定できない時間帯である場間において大量の買い注文(買い見せ玉)を行っているところ,このような行為は,それ自体,株価の下げ止まりや上昇に資し,株価を高値に誘導するものであ
る上,本件ではこれらは成行又は寄前気配値段よりも高指値で行われており,一層,寄前気配値段を上昇させるものであって,経済的合理性に反する。また,これらを発注後すぐに場間において取り消すというのも,約定可能性が全くないのであるから,経済的合理性のない取引といえる。ウ
本件PTSにおける取引
本件各対象取引中の本件PTSにおける取引も,上記イ及び前記⑵(被告の主張)のとおり,強く誘引目的が推認される買い見せ玉取引と同じ銘柄につき短時間で連続して行われており,本件各トレーダーが意思連絡の上,同一の取引方針のもとで行った一連の取引であるから,全体として誘
引目的に基づくものと推認される取引である。本件各対象取引のうち対当売買は,一般に経済的合理性のない仮装取引であり,取引が繁盛であると見せかけることにより,他の投資者を誘い込む意図が強く推認される取引態様である。
また,本件PTSにおける東証の寄前気配値段よりもわずかに下値での売り注文については,他の投資者は,買い見せ玉により形成された当該銘柄の買い需要が高まっているとの誤解を前提に,本件PTSにおける価格
の方が割安と考え,本件PTSで当該銘柄を買うことに誘い込まれるから,本件PTSで当該銘柄を買うことに誘い込む意図が推認される。
さらに,本件各対象取引により本件PTSにおいて有利な価格で約定に至っているという事情も考慮すると,買い見せ玉の発注及び本件PTSにおける取引という本件各対象取引の全体が,他の投資者を本件PTSにお
ける取引に誘い込む目的に基づくものであるといえる。
(原告の主張)
前記⑵(原告の主張)のとおり,本件各対象取引につき,本件各トレーダーの意思連絡は認められず,一連の有価証券売買等又は委託等には該当しないため,これらの行為の類似点や外形のみから,本件各トレーダーの誘引目
的を認めることはできない。そうすると,被告は本件各トレーダーの主観を立証する必要があるが,これがされていない以上,本件各トレーダーについて誘引目的を認めることはできない。
また,前記⑴(原告の主張)のとおり,本件各取引が原告の業務として行われたと認めることができない以上,原告について誘引目的が認定されるこ
ともない。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実のほか,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が
認められる。


原告のグループ関係等(乙12~16)
トゥー・シティーズ・トラストは,原告代表者を唯一の受益者とする信託であり,原告及びエリート・バンテイジの各全株式を保有し,原告は,外国法人であるトゥルー・ノース・バンテイジの全株式を保有しているところ,これら及びこれらの関係会社はグループ関係にあり,バンテイジグループ」・を構成している。このうちエリート・バンテイジのみが,有価証券の売買等を行うトレーダーを雇用している。原告代表者は,エリート・バンテイジ及びトゥルー・ノース・バンテイジの唯一の取締役である。⑵本件トレーダー業務契約(乙12・別紙6)原告とエリート・バンテイジは,2013年(平成25年)1月1日,本件トレーダー業務契約を締結し,次の事項を合意した。アエリート・バンテイジは,原告のために,①個々のトレーダー及びその管理者を,同契約所定のトレーディングシステムを使って原告の資金で取引する目的で,雇用し,②トレーダーが,本事業に適用される全ての法律(証券法を含む。及び適時有効な原告の全ての危機管理手続を常に遵守す)ることを確保するために,合理的な最大限の努力を尽くす。イ提供した業務の報酬として,原告はエリート・バンテイジに対し,同契約所定の計算式に従って,月額手数料を支払う。⑶本件各雇用契約(乙12・別紙8)エリート・バンテイジは,本件トレーダー業務契約に基づき,本件各トレーダーとの間で,本件各雇用契約を締結し,次の事項を合意している。アトレーダーは,エリートバンテイジ及び/又はその関係会社のために,・同契約所定のオフィスから,証券,先物及びその他資産の売買の発注を行い,取引を執行する。イトレーダーは,エリート・バンテイジ及び上記オフィスの責任者である監督者に適時使用を許可され,上記オフィスにおいてのみアクセス可能な,取引執行システムのみを使用する。ウエリート・バンテイジは,トレーダーに対し,毎月最終日に,前月について上記監督者が推奨する額を,同契約に従って提供された役務の対価として支払う。⑷トレーダーロケーション契約(甲40の1~3)エリート・バンテイジは,各トレーダー拠点のオーナー兼マネージャーとの間で,トレーダーロケーション契約(以下「本件各トレーダーロケーション契約という。)を締結し,次の事項を合意している。

オーナー兼マネージャーは,そのトレーダー拠点で業務を行うトレーダーを訓練し,監督するとともに,トレーダーが,バンテイジ・グループの
事業に適用される全ての法律(証券法を含む。
)及びエリート・バンテイ
ジが通知する全てのバンテイジ・グループのリスク手順を常時遵守することを確保する。

当該トレーダー拠点のトレーダーは,独立契約者として,エリート・バンテイジの業務を行い,エリート・バンテイジにより報酬を支払われる。
しかし,そのオーナー兼マネージャーは,その拠点から業務を行う各トレーダーの全ての行為及び不作為について,エリート・バンテイジに対し完全に責任を負う。

オーナー兼マネージャーは,次のとおり,月額手数料の支払を受ける権利を有し,当該支払は,エリート・バンテイジ又はその支払代理人のいずれかにより行われる。
トレーダー拠点月額グロス収入(当該拠点からのバンテイジ・グループによる証券取引から特定の歴月において得られたグロス収入又は生じた損失から,一定の関連費用を控除した額)から,相応する歴月の契約
ごとの減算額(アメリカ及びカナダ以外の国の銘柄の取引については17%相当額)及び当該拠点に帰し得る費用等の額を控除した額がプラスの場合に,その支払を受けるものとする。
特定月の月額手数料の支払は,1か月遅れて支払われるものとする。特定月の月額手数料がプラスであり,当月の見込月額手数料がプラスの場合には,
特定月の月額手数料は,
当月末に完全に支払われる。
しかし,
特定月のトレーダー拠点月額グロス収入がマイナスである場合,当月の
同収入がマイナスと見込まれる場合又はこれら両方の場合には,当該損失は支払われ得る当月又はその後の特定月の月額手数料から控除されるものとする。

トレーダーに対する売買管理等

バンテイジ・グループにおけるトレーダーの売買管理体制(甲38の1,2,乙12・別紙12,乙13,16)
トレーダーは,全ての発注につき取引用のシステムであるPPrо8を使う義務を負い,当該トレーダーが所属するオフィスのオーナーは,当該トレーダーの発注した取引についてPPrо8を使って監視する義務を
負う。PPrо8で行われた全ての発注は,さらにトゥルー・ノース・バンテイジに雇用されてトロント,ブダペスト及びサンノゼのオフィスに所属しているリスク・アナリストによって監視される。
これに加え,
リスク・
アナリストは,監視ツールであるGingerによって発出されたアラートの審査,審査対象取引の経済合理性や取引戦略についてのオーナー兼マ
ネージャーへの問い合わせを行い,処分が必要な場合は,どのような処分が相応しいかをトゥルー・ノース・バンテイジに雇用されているシニア・リスク・アナリストに勧告する。当該勧告がされた場合,シニア・リスク・アナリストによって審査され,審査終了後,シニア・リスク・アナリストは,当該ケースの最終処分について勧告を行う。警告や取引停止など追加
的な処理が必要でない場合は,シニア・リスク・アナリスト自身が処理することが多い。トレーダーの解雇やオフィスの閉鎖を伴う勧告をする場合は,トゥルー・ノース・バンテイジに雇用されているCOO及び同社の社長に最終判断を仰ぐ。シニア・リスク・アナリストは,全リスク・アナリストの監督責任を負い,COOと社長は,シニア・リスク・アナリストの監督責任を負う。

PPrо8(乙26)
PPrо8を使用した取引の流れは次のとおりである。
トレーダーは,PPrо8に取引の内容を入力すると,当該システム経由でMerlito
ited

by

Securities

Company

Shares(以下メルリト証券という。
)に発注

の依頼がされる。メルリト証券は,原告とのGeneral

Lim

Servi

ce契約に基づき,MSIP及びその関連会社であるMSMSが提供するDMAサービス(顧客が直接市場に発注できるサービス)を利用して発注し,当該注文は東証や本件PTSに取り次がれる。当該注文が約定した場合,MSMSはMSIPを顧客として認識し,MSIPの口座上は,発注者をメルリト証券,最終顧客を原告として記録される。MSIPは,原告
との契約に基づき,原告の口座の管理等を行っている。

Ginger(甲39の1,2)
監視監督者及び当該監督者が指定する職員は,日常的に,バンテイジ・グループの全取引活動をモニターし,このモニタリングの大部分は,Gi
ngerを使用して行われる。Gingerは,ほぼリアルタイムのアラートベースの監視ツールであり,アラートは,潜在的に疑わしい様々な行動タイプの既定義のパラメーターに基づいて発せられる。アラートの種類には仮装売買,見せ玉等がある。仮装売買アラートは,取引日中に,仮装売買になり得る事例(バンテイジ・グループのトレーダーが,同一価格及
び時間又は既定義の時間枠で,買い及び売りを執行したと思われる場合)の出来高が,バンテイジ・グループのその銘柄における全体的な活動の重大な割合を占める場合に発せられる。見せ玉アラートは,トレーダーが繰り返し大量の注文を入力し,取り消した場合に発せられる。
2
争点⑴(原告は本件各対象取引をした者であるか)について⑴

金商法159条2項は,相場操縦違反行為等の行為をすることを何人に対しても禁止していることからすれば,同法174条の2第1項の違反者
には法人も当たり得ると解されるところ,法人が同項の違反者に当たるためには,当該法人の役員,従業員若しくは当該法人による指揮監督,雇用管理等の具体的な事情によりこれらの者と同視し得る者,又は当該法人からの具体的な指示を受けた者が,当該法人の計算で当該相場操縦違反行為を行ったことを要すると解すべきである。

原告とエリート・バンテイジの法人格は別であるところ,本件各トレーダーは,エリート・バンテイジとの間で本件各雇用契約を締結しており(前記認定事実⑶)
,原告との間で雇用契約を締結していない(弁論の全趣旨)こと
からすれば,本件各トレーダーが原告の従業員に当たるということはできない。また,原告から本件各トレーダーに対し,本件各対象取引を行うべき旨
の具体的な指示があったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件においては,原告による指揮監督,雇用管理等が本件各トレーダーに及んでいるなど本件各トレーダーを原告の従業員と同視し得べき具体的な事情があるか否かが検討されなければならない。


本件各トレーダーの雇用形態

本件各トレーダーは,原告のために,原告の資金で取引を行うことを職務とするものであり(前記認定事実⑵)
,そのため,本件各トレーダーは,
原告が提供するPPrо8という取引用のシステムを使用して取引を行うことが義務付けられ,このシステムにより本件各トレーダーが入力した
取引は,原告と契約したメルリト証券を介して東証や本件PTSに取り次がれ,これがMSIPの管理する原告の口座に原告の取引として記録されることになっている(前記認定事実⑶イ,⑸ア・イ)。
原告は,このような役割を担う本件各トレーダーを自ら雇用せず,エリート・バンテイジとの間で本件トレーダー業務契約(前記認定事実⑵)を締結し,本件各トレーダーの雇用と同人らによる取引の執行をエリート・バンテイジに委託しているが,これは,原告代表者の供述(原告代表者本人・22~25頁)によれば,①取引に必要な市場データの入手に関する金融商品取引所との契約を原告自らが締結し,その取引所との間で紛争が生じた場合,原告の資金が紛争の解決金等に引き当てられるリスクがあるため,そのリスクを回避すること,②トレーダーを管理するオーナー兼マ
ネージャーに支払われる月額手数料の計算方法にネッティング(損失控除)が採用されており,原告自らがその支払を行うと,財務諸表に関する外部監査が難しくなって,証券会社の承認が得られず,原告が証券会社との間で各種サービスの提供に関するプライムブローカー契約を締結することができなくなるリスクがあるため,そのリスクを回避すること,③ト
レーダーを原告自らが雇用し,その雇用契約に関して紛争が生じた場合,上記①と同様のリスクがあるため,そのリスクを回避することなどがその理由であることが認められる。
そして,前記認定事実⑵~⑷及び原告代表者の供述(原告代表者本人・6,7,28,29頁)によれば,本件各トレーダーによる取引から得ら
れる利益の分配に関しては,原告は,エリート・バンテイジに対し,本件トレーダー業務契約に基づく月額手数料として,取引利益総額からその17%に相当する金額のうちの一部を控除した残りの金額(取引利益総額の83%を超える金額)を支払い,エリート・バンテイジは,その支払を受けた金額の中から,オーナー兼マネージャーに対し,本件各トレーダーロ
ケーション契約に基づく月額手数料(取引利益総額の83%に相当する金額から各拠点の費用等を控除した金額)を支払い,本件各トレーダーは,オーナー兼マネージャーが支払を受けた金額の中から,本件各雇用契約に基づく月額手数料(オーナー兼マネージャーが推奨する金額)の支払を受ける約定であったことが認められる。

被告は,
これらの仕組みは,
グループ会社間における役割分担にすぎず,
原告代表者が各グループ会社を実質的に支配し得たこと,取引の利益が原
告に帰属することからすれば,本件各トレーダーは原告の業務を行っていたといえる旨主張する。
しかし,自己の資金を運用する原告の立場から見た場合,上記の仕組みは,上記のとおりの各種のリスクを回避する目的に資する点において経済的合理性のないものであるとはいえず,また,かかる仕組みの中でのそれ
ぞれの業務の内容に応じて,原告の計算による取引利益が各関係者間で相応に分配されることになっていることからすれば,これらの仕組みを構成する本件トレーダー業務契約,本件各雇用契約及び本件各トレーダーロケーション契約が,実質を伴わない形式的なものであるということはできない。

また,前記のとおりのバンテイジ・グループの資本関係や役員関係(前記認定事実⑴)からすれば,このようなグループ関係の存在が上記の仕組みの構築を容易にした面があることは否定できないものの,このことから直ちに,上記各契約の実質性が否定されるものではない。
したがって,あたかも上記各契約が否認されるべきものであり,原告と
本件各トレーダーとの間に直接の雇用関係があるかのようにいう被告の主張は採用することができず,上記各契約の内容等に即して,原告による指揮監督,雇用管理等が本件各トレーダーに及んでいたかなどの諸事情について検討を加えるのが相当である。

なお,
被告は,
別件決定に係る事件において,
原告が違反事実を応諾し,
エリート・バンテイジに雇用されたトレーダーによる相場操縦違反行為が原告の行為であることを争っていなかったこと(乙21,弁論の全趣旨)からすれば,本件各雇用契約は形式的なものである旨主張する。
しかし,別件決定において原告が納付を命ぜられた課徴金の額は6万円であったところ(乙21)
,原告代表者は,課徴金の額がこのように極め
て少額であり,かえってこれを争った場合のコストのほうが大きくなるこ
と等を考慮して,
課徴金の支払に応じた旨供述しており
(甲38の1,,
2
乙16・16頁)
,かかる供述が不合理であるとはいえないから,被告の
上記主張は採用することができない。

本件における契約関係

前記のとおり,原告とエリート・バンテイジは,本件トレーダー業務契約において,エリート・バンテイジが,個々のトレーダー及びその管理者を雇用し,そのトレーダーが証券法等の法律及び原告の全ての危機管理手続を常に遵守することを確保するために,合理的な最大限の努力を尽くす旨を合意し(前記認定事実⑵ア)
,エリート・バンテイジと本件各トレー

ダーは,本件各雇用契約において,トレーダーは,同契約所定のオフィスから証券等の売買の発注を行い,その際,エリート・バンテイジ及び当該オフィスの監督者(オーナー兼マネージャーを指すものと解される。)が
使用を許可し,同オフィスにおいてのみアクセス可能な取引執行システム(PPrо8を指すものと解される。
)のみを使用することができ,エリ

ート・バンテイジは,トレーダーに対し,当該監督者の推奨する額を役務の対価として支払う旨を合意し(前記認定事実⑶),エリート・バンテイ
ジと各オーナー兼マネージャーは,本件各トレーダーロケーション契約において,オーナー兼マネージャーは,当該トレーダー拠点のトレーダーを訓練・監督し,当該トレーダーが証券法等の法律及びエリート・バンテイ
ジが通知する全てのリスク手順を常時遵守することを確保し,当該トレーダーの全ての行為及び不作為について,エリート・バンテイジに対し完全に責任を負う旨を合意していること(前記認定事実⑷)が認められる。このような各契約の内容からすれば,本件各トレーダーに対する直接の指揮監督権限は,エリート・バンテイジが雇用するオーナー兼マネージャーが有していたと認められ,また,本件各トレーダーが取引を行う場所及びシステムの提供並びに本件各トレーダーに対する報酬の支払などの雇用管
理は,
エリート・バンテイジがすることとされていたと認められる。
他方,
上記各契約の内容に鑑みれば,原告による本件各トレーダーに対する指揮監督及び雇用管理は及んでいなかったと認められる。

被告は,原告代表者が,グループ会社である原告,エリート・バンテイジ及びトゥルー・ノース・バンテイジの役員を兼任し,これらの会社の直
接・間接の株主であるトゥー・シティーズ・トラストの受益者であること(前記認定事実⑴)により,原告代表者による指揮監督や雇用管理が本件各トレーダーに及んでいたかのような主張をする。
しかし,原告代表者が各グループ会社に対し強い影響力を発揮し得る地位にあるとしても,原告とエリート・バンテイジの法人格は別である上,
原告がエリート・バンテイジの株式を保有する関係にもないから,原告代表者が,原告代表者としての地位に基づき,エリート・バンテイジが雇用するトレーダーに対し直接・間接の指揮監督等の権限を行使することはできず,また,上記影響力を背景とした事実上の指示をしていたというような事情もうかがわれない。

したがって,被告の上記主張は採用することができない。


トレーダー採否の判断
証拠(乙14)によれば,原告は過去に不正行為をしたことのある者のリストを有しているが,エリート・バンテイジは,トレーダーを雇用する際,
原告に照会し,当該リストに該当する者でないことを確認した上で雇用していることが認められる。そうすると,トレーダーを雇用すべきか否かについても,原告に対する照会で取得した情報等に基づくとはいえ,雇用主であるエリート・バンテイジが自ら判断していたと認められる。


取引の管理

前記のとおり,バンテイジ・グループでは,トレーダーは全ての発注をPPrо8で行っており,エリート・バンテイジに雇用されている当該ト
レーダー拠点のオーナー兼マネージャー及びトゥルー・ノース・バンテイジに雇用されているリスク・アナリストがPPrо8を使ってこれを監視し,リスク・アナリストは,さらにGingerにより発出されたアラートの審査等を踏まえ,
処分が必要な場合は,
処分の内容についてトゥルー・
ノース・バンテイジに雇用されているシニア・リスク・アナリストに勧告
し,シニア・リスク・アナリストは,その審査終了後,最終処分について勧告等の処理をし,トレーダーの解雇やオフィスの閉鎖等重大な処分の勧告をする場合は,トゥルー・ノース・バンテイジのCOO及び社長に最終判断を仰いでいること(前記認定事実⑸ア)が認められる。このような取引管理の実状からすれば,
トレーダーの取引の管理をしているのは,
専ら,

オーナー兼マネージャー,リスク・アナリスト及びシニア・リスク・アナリストらであり,原告はこれに関与していないと認められる。

被告は,原告は,エリート・バンテイジに対し,PPrо8を提供していたから,原告は自らの取引を本件各トレーダーに委託したと評価できる
旨主張する。
しかし,原告がエリート・バンテイジに対しPPrо8を提供したとしても,前記⑶アのとおり,各契約上,原告によるトレーダーに対する指揮監督及び雇用管理は及んでいないことに加え,PPrо8に原告がトレーダーに対し指示等を与える機能が備わっているとは認められず,PPrо
8の提供によって,トレーダーに対し原告の指揮監督等が事実上及ぶともいえない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。

被告は,①原告においても,本件各トレーダーの取引の事後的監視が行われており,②原告代表者は,グループとしての,本件各トレーダーの購買力や損失限度に関して最終決定権を持っているほか,トレーダーに対す
る処分,制限,停職,解雇等の権限を有する旨主張する。
この点,原告代表者は,本件決定に係る第1回審判期日において,Gingerを使うことができるリスク・アナリスト,シニア・リスク・アナリスト及びCOOは原告に所属していた旨供述しており(乙16・11頁)
,被告の①の主張はこの供述に依拠するものである。しかし,原告
代表者は,同じ期日において,シニア・リスク・アナリスト及びCOOを雇用していたのはトゥルー・ノース・バンテイジであった旨供述しており(乙16・20,21頁)
,本訴訟においても,
雇用について同旨
の供述をするとともに,
所属と述べたのは機能
(役務)の提供先と
いう意味であって,シニア・リスク・アナリストやCOOは原告にもエリ
ート・バンテイジにも機能
(役務)を提供しているが,Ginger
による監視の業務はエリート・バンテイジに提供している機能
(役務)
である旨供述している(原告代表者本人・14~22,31,32頁)。
そして,実際にGingerによる監視をしていたのは,トゥルー・ノース・バンテイジに雇用されているリスク・アナリスト及びシニア・リスク・
アナリストであったことは前記アのとおりである。そうすると,原告代表者の供述によっても,原告ないしその職員が取引の事後的監視をしていたと認めることはできない。
また,原告代表者が別件決定当時にカナダ連邦オンタリオ証券委員会に提出した返答書(乙23の1,2)には,

A氏は,購買力や損失限度に関するバンテイジ・グループの方針だけでなく,個々のトレーダーの購買力や損失限度に関し,(取締役会の承認の対象ではあるものの)最終決定権を持っています。,

さらに,A氏は,さまざまな理由によりトレーダーを処分し,制限し,停職とし,解雇する権限を持っています。

との記載があり,被告の②の主張はこの記載に依拠するものである。しかし,原告代表者はトレーダーを雇用するエリート・バンテイジの唯一の取締役でもあるので(前記認定事実⑴)
,当該記載の趣旨は,原告代表者がエリー

ト・バンテイジの代表者としての地位に基づいて有するトレーダーに対する権限を列挙したものと解する余地があり,原告代表者としての地位に基づき,トレーダーに対し上記権限を行使できるとするものと直ちに解することはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。



小括
以上のとおり,本件における各契約の内容,バンテイジ・グループにおけるトレーダーの取引の管理状況等に鑑みれば,原告に本件各トレーダーに対する指揮監督,雇用管理等の権限はなく,実際にも原告が本件各トレーダーを指揮監督し,又はその雇用管理をするような状況にはなかったといわざる
を得ず,加えて個々のトレーダーの採否もエリート・バンテイジが判断して行っていたことも踏まえると,本件各トレーダーを原告の従業員と同視することはできない。
したがって,原告が本件各対象取引をした者に当たるとはいえない。3
そうすると,本件各対象取引が相場操縦違反行為に当たるか否か(争点⑵~⑷)について判断するまでもなく,本件決定は本件各対象取引につき違反者になり得ない原告に対し課徴金の納付を命ずるものであるといえるから,金商法174条の2第1項に反し,違法である。

第4
結論
以上によれば,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官

古田孝夫
裁判官

西村康夫
裁判官

永田大貴
当事者の表示及び別表については記載を省略

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