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地方自治法に基づく境界確定請求事件
事件番号平成29(行ウ)508
事件名地方自治法に基づく境界確定請求事件
裁判年月日令和元年9月20日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-09-20
情報公開日2019-10-15 14:00:08
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令和元年9月20日判決言渡

同日原本領収

平成29年(行ウ)第508号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

地方自治法に基づく境界確定請求事件

令和元年6月10日
判決
東京都大田区蒲田五丁目13番14号

原告大
同代表者区長

田松原区忠義
東京都江東区東陽四丁目11番28号
被江
同代表者区長

告山主1東﨑区孝明文
原告と被告との中央防波堤埋立地付近における境界を,別紙1の図面のC’,C,F,Gの各点を順次結ぶ東京港臨海道路の道路中心線及び中央防波堤外側その1埋立地の東端線と確定する。

2
訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由

第1

当事者の求めた裁判

1
原告


原告と被告との中央防波堤埋立地付近における境界を,別紙2の図面の01から34までの各点を順次直線で連結した線と確定する。


2
訴訟費用は被告の負担とする。
被告
第1次的申立て

原告と被告との中央防波堤埋立地付近における境界を,中央防波堤埋立地の全ての区域が被告に帰属する線と確定する。
第2次的申立て
原告と被告との中央防波堤埋立地付近における境界を,別紙3の図面のC’,C,D’,Eの各点を順次結んだ線と確定する。

第2

訴訟費用は原告の負担とする。
事案の概要

1
本件は,いずれも東京都(以下都という。)の特別区である原告と被告との間で,東京湾内に所在する中央防波堤埋立地付近における区境界(以下本件境界という。)に争いがあり,地方自治法9条1項の規定による調停によっても本件境界が確定しなかったため,原告が,同条9項に基づき,本件境界の確定を求める訴えを提起した事案である。なお,同法のこれらの規定
は,都の特別区にも適用される(同法283条1項)。
2
前提事実(証拠等を付した以外の事実は当事者間に争いがない。)⑴

中央防波堤内側埋立地埋立ての経緯

東京都知事は,昭和48年3月31日,都に対し,埋立ての場所を東京都江東区有明二丁目地先公有水面中央防波堤内側埋立地,その面積を18
8万4003.28m2等とする公有水面の埋立てを免許した。

東京港港湾管理者の長である東京都知事は,昭和63年3月15日から平成8年11月25日までに,都に対し,埋立区域の位置を東京都江東区青海二丁目地先公有水面(中央防波堤内側埋立地第1工区,第2工区A区,B区,C区,D区),その面積を合計187万8890.76m2等
とする公有水面埋立工事のしゅん功を認可した。
なお,本件係争地域は東京港の港湾区域に含まれており,東京港の港湾管理者は都である(甲3,乙42の1)。

東京港港湾管理者である都は,平成22年12月3日,国土交通省関東地方整備局から出願のあった東京都江東区青海三丁目南側地先の公有水面の埋立てを承認し(乙58の1),平成24年6月28日,設計概要の変更を承認した(乙58の2)。

国土交通省関東地方整備局長は,平成25年3月29日から平成26年3月18日までに,埋立ての場所を東京都江東区青海三丁目南側地先,しゅん功面積を合計1万3708.00m2等とする公有水面埋立工事のしゅん功を東京港港湾管理者である都に通知した(甲88,乙58の3・
4)。
これにより,上記イのしゅん功区域と合わせた中央防波堤内側埋立地の面積は合計189万2598.76m2となった(以下,この189万2598.76m2の区域を中央防波堤内側埋立地という。)。


中央防波堤外側埋立地埋立ての経緯

東京都知事は,昭和49年7月22日,都に対し,埋立ての位置を東京都江東区有明二丁目南側地先公有水面,埋立ての面積を313万
9511.70m2等とする公有水面の埋立てを免許した(乙20の2)。

東京港港湾管理者である都(平成11年法律第87号による港湾法改正前は,東京港港湾管理者の長である東京都知事)は,平成9年7月17日
から平成28年4月28日までに,都に対し,埋立区域の位置を東京都江東区青海二丁目南側地先中央防波堤外側公有水面(第1工区,第2工区A区,B区イ,B区ロ1分区),その面積を合計192万2403.15mウ2
等とする公有水面埋立工事のしゅん功を認可した。

上記アで埋立てが免許された面積のうち121万7448.40m
2
は,本件口頭弁論終結時点においても未しゅん功であり,法的には公有水面である。
上記イのしゅん功区域と未しゅん功部分とを合わせた中央防波堤外側埋立地の面積は,313万9851.55m2となる(以下,この313万9851.55m2の区域を中央防波堤外側埋立地といい,中央防波堤内側埋立地と併せて中央防波堤埋立地という。)。


中央防波堤埋立地の範囲
中央防波堤埋立地の範囲は,おおむね別紙2の図面の桃色線で囲まれた部分と一致する。このうち,水路(以下東西水路という。)を挟んだ北側の区画が中央防波堤内側埋立地であり,南西側の区画である中央防波堤外側その1埋立地(以下外側その1埋立地という。)と南東側の区画である
中央防波堤外側その2埋立地(以下外側その2埋立地という。)とを併せた区画が中央防波堤外側埋立地である。外側その1埋立地と外側その2埋立地の間の桃色線外の部分は新海面処分場埋立地A区であり,中央防波堤埋立地を構成しない。


各暫定合意

いずれも都の特別区である原告,被告,中央区,港区及び品川区の関係5区は,昭和48年10月27日,中央防波堤内側埋立地における事務処理に関する覚書(甲24)を締結し,中央防波堤内側埋立地における特別区の処理すべき事務は,暫定的に被告において処理するものとすること,この措置は,中央防波堤内側埋立地の帰属決定までの暫定措置として
行うものであり,これによって今後の帰属決定問題には何ら影響を及ぼすものではないことを合意した(以下,この合意を暫定合意1とい
う。)。
被告は,暫定合意1に基づき,現在まで中央防波堤内側埋立地における特別区の処理すべき事務を行っている。


上記関係5区は,昭和63年7月1日,中央防波堤外側埋立地の事務処理等に関する覚書(甲25)を締結し,中央防波堤外側埋立地における特別区の処理すべき事務は,暫定的に被告において処理するものとすること,この措置は,中央防波堤外側埋立地の帰属決定までの暫定措置とし
て行うものであり,これによって今後の帰属決定問題には何ら影響を及ぼすものではないことを合意した(以下,この合意を暫定合意2といい,暫定合意1と併せて各暫定合意という。)。
被告は,暫定合意2に基づき,現在まで中央防波堤外側埋立地における特別区の処理すべき事務を行っている。


調停の経緯

中央防波堤埋立地の帰属に関しては,上記関係5区の間で争いがあったが,中央区,港区及び品川区は,平成14年12月5日までに帰属主張を取り下げた(甲28)。
原告及び被告は,平成29年7月18日,地方自治法9条1項に基づき,東京都知事に対し,東京都自治紛争処理委員による調停を申請した。

東京都自治紛争処理委員は,平成29年10月16日,当事者双方に調停案を提示し,その受諾を勧告した(以下,この調停案を本件調停案という。)。
本件調停案による境界線は,別紙4の1の調停案及び別紙4の2の図面のとおりであった。
これによれば,中央防波堤埋立地合計約503.2haのうち,原告帰
属地は約69.3ha(13.8%),被告帰属地は約433.9ha(86.2%)となる。

被告は,平成29年10月25日,本件調停案を受諾したが,原告は,同月30日,本件調停案を受諾しない旨を東京都自治紛争処理委員に通知し,同日,本件訴えを提起した。


東京都自治紛争処理委員は,平成29年11月13日,調停を打ち切った。

3
争点及び当事者の主張
争点は,本件境界の位置である。

(原告の主張)


最高裁昭和61年5月29日第一小法廷判決・民集40巻4号603頁が判示するように,市区町村の境界を確定するに当たっては,当該境界につきこれを変更又は確定する法定の措置が既にとられていない限り,まず,江戸時代における関係町村の当該係争地域に対する支配・管理・利用等の状況を調べ,そのおおよその区分線を知り得る場合には,これを基準として境界を確定すべきものである(以下,この境界確定手法を前段の手法とい
う。)。
そして,上記区分線を知り得ない場合には,当該係争地域の歴史的沿革に加え,明治以降における関係市区町村の行政権行使の実状,国又は都道府県の行政機関の管轄,住民の社会・経済生活上の便益,地勢上の特性等の自然的条件,地積などを考慮の上,最も衡平妥当な線を見いだしてこれを境界と
定めるのが相当である(以下,この境界確定手法を後段の手法という。)。


前段の手法に基づく主張

江戸時代の町村の海面上の境界は,江戸幕府が定めた武家諸法度により定められていたところ,幕府の判決の要旨を編集した律令要略(寛保元年
(1741年))の山野海川入会の項目には,村並之猟場は,村境を沖え見通,猟場之境たり,磯猟は地附根附次第也,沖は入会と規定され(甲4),磯漁の行われる海面は地先水面として村の行政領域であり,磯漁場の境が村境とされていた。

江戸時代,江戸内湾の磯漁場は,武州品川洲崎一番ノ棒杭と武州深川洲崎松棒杭を結んだ線(見通し線)を境として,その北側が江戸前海,その南側が羽根田海とされていた。

武州品川洲崎一番ノ棒杭は現在の港区台場付近に,武州深川洲崎松棒杭は現在の江東区辰巳付近にあったから,その2点を結んだ線は,おおよそ別紙5の図面の赤破線である。


羽根田海は,羽田浦と大井御林浦の二つの浦が支配・管理し,江戸前海は深川浦,芝金杉浦,本芝浦,品川浦の四つの浦が支配・管理していた。羽田浦は現在の原告に,深川浦は現在の被告に含まれる。

羽根田海は磯漁場であるところ,本件係争地域の慣習では水深が7尋(約10m)より浅い場所が磯であり,本件係争地域の水深は7尋より浅いから,本件係争地域は磯であり,羽根田海に含まれる。

したがって,本件係争地域は,現在の原告に含まれる羽田浦が数村入会により支配・管理・利用等していたが,被告に含まれる浦・村は全く利用していなかった。

仮に本件係争地域が沖であった場合であっても,本件係争地域は,文化13年(1816年)に羽田浦を含む関係44浦(ただし,被告に含まれ
る浦・村は参加していない。)が取り決めた江戸内湾漁業議定一札之事の規約に基づき,羽田浦を中心とした数村入会(ただし,被告に含まれる浦・村は参加していない。)として,排他的に支配・利用され,また自主的な管理のもとにあった。

江戸時代における江戸前海と羽根田海の境は上記ウのとおり別紙5の図面の赤破線であり,本件係争地域はこのおおよその区分線よりも遥かに南に位置していることが分かるから,本件では,おおよその区分線が本件係争地域よりも北にあるといった程度の特定があれば,おおよその区分線を知り得る場合に当たる。

本件では,そのおおよその区分線よりも南側にある江東区青海地
区,若洲地区等が被告に編入されたことにより先行境界が侵されていることになるので,中央防波堤埋立地は全て原告に帰属させ,被告の現在の水際線と中央防波堤埋立地との間で等距離にある点を結んだ,別紙2の図面の01から34までの各点を順次直線で連結した線を新たな境界とすべきである。



後段の手法に基づく主張

後段の手法により境界を定める場合には,地先の尊重の趣旨から,等距離線を一つの目安とすべきである。もっとも,等距離線をそのまま境界とすると使いにくく,住民の社会・経済生活上の便益を図れないことから,等距離線を引いた上で,その地積を参考にして,分かりやすい境界を引くべきである。

そして,等距離線の基礎となる水際線の基準時につき,①等距離線主義の理由となる地先の尊重の根拠は磯漁等の生活実態にあること,②埋立て後の水際線を基準とすると,本来であれば明治初期に確定しているはずの境界が後発的事情である埋立てによって変動することになり,将来の埋立て事務に支障を来す可能性,帰属協議の時点によって境界線が異なる
可能性,埋立工事が終わるまで帰属協議が調わず帰属決定が遅延する可能性などが生じること,③人工島(埋立地)が領海等の境界確定に影響を及ぼすことを否定する海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号。以下海洋法条約という。)の趣旨を考慮すべきであること,④

普通地方公共団体の区域は,従来の区域による。

とする地方自治法5
条1項の規定の趣旨から,郡町村の区域名称は総て旧に依るとする郡区町村編制法(明治11年太政官布告第17号)が定められた明治11年以降これに近接する時点の水際線を基準とすべきであること,⑤江戸時代末期又は明治当初の水際線を基準とすることがこれまでの裁判例と整合することなどから,江戸時代末期又は明治当初の水際線を等距離線の基礎と
すべきである。
明治11年に近接した時期に作成された地図としては明治13年に測量された2万分の1迅速測図があり,これが技術的に利用できる最古の地図であることから,この図の水際線から原告と被告との間の等距離線を引くと,別紙6の図面の赤線となる。


江戸時代の海面利用の状況
等距離線主義を修正すべき理由として,まず,上記⑵のとおり,江戸時代において,被告は本件係争地域を全く利用しておらず,原告は本件係争地域を支配・管理・利用等していたから,本件係争地域は全て原告に帰属させるべきである。

海苔養殖における海面利用の歴史及び行政的関与
明治以降,都は,本件係争地域において,海苔の養殖を行う漁業協同組合(以下漁協という。)に区画漁業権を設定していたところ,昭和37年時点の海苔篊の柵数について原告に所在する漁協と被告に所在する漁協とを比較すると,原告89.4%に対し被告10.6%であって,原告の利用割合が圧倒的に多かった。

また,原告は,昭和24年から昭和40年にかけて,大田区水産業振興対策委員会(昭和38年以降は大田区水産対策委員会)を設置し,本件係争地域についても行政的な関与を行ってきた。

周辺との一体的な利用の必要性
物流拠点としての活用
東京国際空港(以下羽田空港という。)を擁する大田区空港臨海
部の対岸に位置し,海運を利用すればすぐに接続できる中央防波堤埋立地は,大田区空港臨海部と一体として利用することで,有効に活用できる。特に外側その1埋立地の港湾地区及びそのバックヤードは大田区空
港臨海部と一体として活用する利点が大きい。
原告は,このような状況を踏まえ,平成29年3月にはおおた都市づくりビジョンを策定し,中央防波堤埋立地の将来的な利活用を重点プロジェクトとして位置付けている。
舟運を利用した賑わいの創出及び回遊性の向上

中央防波堤内側埋立地に整備される海の森公園及び海の森水上競技場は,令和2年に開催予定の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下東京2020大会という。)の会場となっているところ,羽田空港を利用する観光客等が,舟運を利用してこれらの施設を回遊し,憩うことができるよう,原告に所在する大森ふるさとの浜辺公園,天空橋船着場等をこれらの施設と一体的に活用することで,東京2020大会の円滑な実施と大会後の施設の有効活用に資することができ,住民の社会・経済生活上の便益を図ることができる。
スポーツ拠点間の連携による総合的なスポーツエリアの創出
大田区空港臨海部に立地する大森ふるさとの浜辺公園,大田スタジアム,大井ふ頭中央海浜公園などのスポーツ,レジャー拠点と本件係争地
域に整備される海の森公園及び海の森水上競技場とを一体的かつ有機的に活用することにより,多くの都民が利用できる総合的なスポーツエリアを形成することが可能になる。
大田区企業立地促進基本計画
原告と都は共同で大田区企業立地促進基本計画を策定しているとこ
ろ,その中で,中央防波堤埋立地が原告に帰属後は,中央防波堤埋立地についても,当該基本計画に取り込むことを想定している。
環境関連施設の一体的運用
都は,中央防波堤内側埋立地及び大田区城南島においてスーパーエコタウン事業を行い,一体的に活用している。中央防波堤内側埋立地にあ
る破砕ごみ処理施設で処理した廃棄物は,大田清掃工場が最大量を受け入れている。大田区京浜島にある京浜島不燃ごみ処理センターは,中央防波堤内側埋立地にある中防不燃ごみ処理センターと一体的に運用されている。
廃棄物処理が円滑に行われ,廃棄物処理事業を安定稼働させるために
は,中央防波堤内側埋立地と原告の京浜島,城南島地区とが一体として管理・運用されるべきである。
公有水面上に設置された施設の帰属
中央防波堤埋立地に隣接する公有水面上には,埠頭部分,換気所,トンネル等の施設が存在しているところ,これら公有水面上に設置された施設に接する土地を二つの特別区に帰属させた場合,これらの施設の利用者は,利用上の制約を受け,住民の利便性を害する。

羽田空港及び東京港の機能強化の必要性
中央防波堤外側埋立地(外側その2埋立地)には,羽田空港の重要な施設であるLDA(LocalizerTypeDirectionalAids)装置が設置されている。これは,原告の行政区域内にある羽田空港の運用と密接に関連するものであり,空港機能の一体的な運用を図るには行政上同一自治
体に帰属させることが重要である。
また,中央防波堤埋立地は羽田空港を離着陸する航空機の航路の真下にあって,騒音を最も受ける位置にあり,LDA装置の整備が騒音低減に最も有効であるとの指摘もあることから,この地域の環境行政を空港管理と一元化することが必要である。航空機の飛行経路の見直しに伴い
防音対策の実施が必要な地域の大半が,原告の行政区域及び中央防波堤埋立地であることから,地域住民との調整(移転・補償を含む。)や土地利用・施設配置上の配慮を円滑かつ迅速に推進していくためには,同一自治体が一元的に行うことが有効である。また,国や都との調整に当たっても,調整の円滑化・迅速化を図るためには,地元の窓口を一元化
することが有効である。

本件係争地域における一体性確保の必要性
東京港の物流システムが滞ることなく機能するためには,船舶からコンテナを降ろして陸上輸送するまで,あるいは陸上輸送してきたコンテナを
船舶に積載するまでの各過程が円滑に行われなければならない。したがって,外側その1埋立地のうち,別紙4の2の図面のC-D線を挟んで西側の埠頭地区(Y1~Y3バース)と東側のバンプール地区(コンテナを蔵置するスペース)とは一体として同一の自治体が管理することが妥当である。
衛生行政の面からも,例えば外国貨物の搬入に伴い感染症等が発生した場合には特に迅速な対応を要するところ,埠頭地区とバンプール地区が
別々の特別区に帰属すると,同一の事態に対しそれぞれの保健所が対応することになってしまうから,衛生行政の面からも帰属を分けるべきではない。
また,外側その1埋立地のうち,東西水路と東京港臨海道路の間にある中防外新車両待機場は,コンテナ車両の路上待機を解消するための待機場
であり,その機能に照らせば,埠頭地区と一体として管理されるべきである。

このように,明治当初の水際線を基準に等距離線を引き,その修正要素として考慮すべき事項を考慮すれば,中央防波堤埋立地は全て原告に帰属させるべきであり,最も衡平妥当な線は,中央防波堤埋立地と現在の被告
の行政区域(水際線)との中間線である,別紙2の図面の01から34までの各点を順次直線で連結した線である。
(被告の主張)

前段の手法により得ないこと

江戸時代,一定の村ないし浦の地先の磯海面については,磯猟は地附根附次第也と定められていたとおり,磯漁の裏付けとして当該村ないし浦が当該海面を管理するという意味での漁業権界は観念できるが,それを超えて村界に相当する境界は存在しなかったと考えられる。また,磯の先の沖については,沖は入会と定められていたとおり,関係村ごとの海
域の区分自体が想定されておらず,その相互間の境界を観念することはできない。

原告がその主張の根拠とする,羽根田海の範囲に関する文政2年(1819年)の日本橋肴問屋の返答書(甲33)の記載をどのように理解するとしても,武州品川洲崎一番ノ棒杭と武州深川洲崎松棒杭を結ん
だ線(見通し線)の外側(南側)の全てが羽根田海に属することなどあり得ない。


武州品川洲崎一番ノ棒杭及び武州深川洲崎松棒杭の正しい所在
位置は確認できない。仮に原告の主張のとおりとしても,著しく精度を欠く曖昧なもので,およそ境界確定の基準となるべき区分線にはなり得ない。
江戸時代,本件係争地域付近には,南側から北方向に弧状をなして,羽
田浦,大森,大井御林浦,品川浦,本芝浦,金杉浦が順次隣接し,さらに湾頭から東方向に佃,深川,葛西,行徳の各浦が連なる形状であったから,各浦の磯付漁場もそれに対応して一定の範囲で弧状をなして連続して存在するはずであり,原告に属する羽田浦・大森と被告に属する深川との間には,現在の品川区,港区及び中央区に属する各浦が存在し,それぞれ
の磯付漁場の間にも現在の他区に属する各浦の磯付漁場が介在しているので,羽田浦・大森と深川との間に海上境界を観念する余地はない。エ
羽根田海が羽田浦の磯漁場であったとしても,磯漁場の範囲を水際線からの距離ではなく水深という基準で特定する法的根拠に乏しいことからみ
ても,原告のいう羽根田海に本件係争地域が含まれているとは到底認め難い。
羽根田海の範囲は,武州品川洲崎一番ノ棒杭の南に位置する御林町浦境の一の澪杭跡と東南棒杭跡を結んだ線の内側の水際に沿ったごく一部の海域に限定され,はるか沖合の本件係争地域は含まれないと判
断するのが合理的である。
本件係争地域は,磯でなく沖であり,その漁業権は内湾全漁民
の入会(総有)であって,羽田浦のみが本件係争地域を利用していた事実はない。

以上によれば,本件は江戸時代における関係町村の当該係争地域に係るおおよその区分線を知り得る場合に当たらない。



後段の手法に基づく主張

後段の手法により境界を定める場合には,等距離線主義を基本とし,当該係争地域の歴史的沿革に加え,明治以降における関係市区町村の行政権行使の実状,国又は都道府県の行政機関の管轄,住民の社会・経済生活上の便益,地勢上の特性等の自然的条件,地積などの要素を考慮の上,当該
事案の具体的諸事情を勘案しながら,等距離線主義による境界線及びこれによる地積割合に必要な修正変更を加え,最も衡平妥当な線を見いだして境界を定めるべきである。
そして,その等距離線の起点となるべき水際線について,江戸時代末期や明治当初の水際線によるときは,これまで全く争いのなかった既存の陸
上境界と齟齬を来すことになってしまう等の問題があることからすれば,公有水面上の境界を顕在化,具体化する必要が現実化した時点の水際線とすべきである。
本件において公有水面上の境界を顕在化,具体化する必要が現実化した時点とは,公有水面上の境界の争論が発生した時点であり,原告及び被告
が調停を申請した平成29年7月18日時点であるから,同日時点の水際線を基礎とすべきである。
この水際線を基準とする等距離線は,別紙7の図面の赤実線のとおりである(赤破線部分は中央防波堤埋立地に含まれない新海面処分場埋立地に係る部分である。)。

この等距離線による中央防波堤埋立地内の原告帰属地と被告帰属地の地積割合は,原告約10.7%:被告約89.3%となる。

本件係争地域の歴史的沿革
a
明治以来累積されてきた都のごみ問題の解決のために東京湾が埋め立てられ,その過程で,被告が最大の,かつほとんど唯一といっても差し支えないほどの負担と犠牲を甘受することによりごみ問題が進展してきたという歴史的流れがあり,中央防波堤埋立地の造成と廃棄物等の搬入
は,その流れの一環として,被告に対し更なる負担と犠牲を強いる事業と評価すべきである。
被告は,東京湾岸の埋立ての歴史的経緯を踏まえ,唯一,ごみ問題の負担を引き受けてきた地元区として,都と協議を重ね,その内容について将来を見据え,条件を付けながら中央防波堤埋立地の埋立てに了承・
同意してきた。このような被告区民の負担や犠牲なくして中央防波堤埋立地は造成され得なかった。こうした埋立地の造成に係る被告の寄与・関与度は,等距離線を修正し,被告の帰属範囲を広げる方向で検討すべき本件係争地域の歴史的沿革の重要な考慮要素というべきである。b
原告は,原告が本件係争地域で大規模な海苔養殖業を営んでいたという歴史的事実を考慮すべきであると主張するが,漁業権の法的性質とこれに関する司法判断,補償を受けての漁業権の放棄の事実等に照らすと,本件係争地域の歴史的沿革に係る考慮要素とはなり得ない。


明治以降における関係区等の行政権行使の実状,国又は都の行政機関の管轄
被告は,中央防波堤埋立地における特別区の処理すべき事務について,45年以上にわたって,建築確認申請,食品衛生営業許可,たばこ税・軽自動車税の賦課徴収等に関する事務を行ってきた実績がある。平成14年に始まった都のスーパーエコタウン事業の推進に当たって
も,中央防波堤内側埋立地に整備されたPCB廃棄物処理施設やガス化溶融等発電施設等に関する事業経過について,適宜,被告区議会清掃港湾・臨海部対策特別委員会において協議が行われている。PCB廃棄物処理施設の安全な運営を図るために設置されている東京臨海リサイクルパワー微量PCB廃棄物処理事業地域環境委員会の構成員は,他の特別区の関係者は含まれておらず,実質的に被告のみが関わって協議を行っている。東京2020大会に向けた準備やその後を見据え,中央防波堤埋立地に
建設される競技会場の建設に係る指導・相談等に関する事務も行っているほか,警察や消防といった広域的な行政においても,中央防波堤埋立地と被告とが一体的に捉えられている実情もある。
このような事務処理が各暫定合意を契機にされたものであるとしても,被告が各暫定合意で予定された暫定的に処理する事務の範囲を著しく
超える事務処理を長期間(暫定期間とはいえない期間)引き受けてきた現実を考慮すると,公平性の見地に鑑み,その実質を直視して,一定の評価を与えるべきものである。

住民の社会・経済生活上の便益及び地勢の特性等の自然的条件,地積などa
後段の手法で考慮すべき住民の社会・経済生活上の便益及び地勢の特性等の自然的条件,地積などに関し,本件調停案は,現在の行政区域との連続性(中央防波堤埋立地と各区とを結ぶ道路・橋梁や社会・経済活動上の基盤となるパイプラインの状況)という観点を示している。
中央防波堤埋立地は,埋立免許当初から被告の地先(東京都江東区有明二丁目地先,東京都江東区有明二丁目南側地先)と表示されており,客観的にみても,中央防波堤埋立地は被告の地先として被告に帰属させるのが最も自然である。
埋立処分が開始された当時,中央防波堤内側埋立地への陸上経路は,
13号その2埋立地(現在の江東区青海地区)を経て,現在の第二航路海底トンネルの箇所に架けられていた旧中防大橋しかなかった。
現在においても,中央防波堤内側埋立地に直接アクセスできる道路は,江東区青海地区と中央防波堤内側埋立地を結ぶ第二航路海底トンネルのみであるとともに,中央防波堤内側埋立地への通勤等に利用されている公共交通機関は唯一,被告区域を通過していることからも,被告と中央防波堤埋立地は社会生活上も密接に関連している。
中央防波堤外側埋立地へのアクセスについても,中央防波堤内側埋立地から現中防大橋や旧中潮橋を経由するしかなく,全ての廃棄物処理車両は被告区域を通過してきた。
平成14年4月には原告側から中央防波堤外側埋立地に通じる臨海ト
ンネルが開通したが,その役割は,物流関連車両の通行を円滑にするためのものであり,廃棄物処理車両の通行に限定されていた第二航路海底トンネルのそれとは大きく異なるものであった。
平成24年2月には江東区若洲地区から中央防波堤外側埋立地に通じる東京ゲートブリッジが架設され,被告から徒歩や自転車等によって中
央防波堤埋立地にわたることのできる唯一の経路となっているため,被告区民にとって中央防波堤埋立地はより身近な存在となった。
令和2年開通予定の東京港臨港道路南北線の整備によって,被告と中央防波堤埋立地との関係性はより一層密接になる。
加えて,都の新規恒久施設の施設運営計画においては,中央防波

堤埋立地に関して被告区域内からのバス路線の拡充・シャトルバスの導入が検討されている。
このように,中央防波堤埋立地と被告,さらには都心部とは密接につながっており,また,公共交通機関の整備等,アクセス面においても被告が圧倒的に優位にあることから,住民の社会・経済上の便益や臨海部
の更なる発展のためには,中央防波堤埋立地は被告に帰属させることが最も合理的かつ効果的である。
以上のとおり,現在の行政区域との連続性の観点からは,中央防
波堤埋立地と被告との一体性・緊密性は,様々な面で他区(原告を含む。)とは比較にならないくらい大きく,中央防波堤埋立地はこれを分断せずに連続性を保持し,一体的なものとして全て被告に帰属させるべきである。

b
本件調停案は,同一用途同一自治体という観点も示している。
(a)

中央防波堤内側埋立地と中央防波堤外側埋立地の間の東西水路の

うち東側締切堤から西側締切堤までは,両岸に整備される関連施設を含め一体として,東京2020大会のボート及びカヌーの競技会場として整備された海の森水上競技場を構成しており,一括して同一
の自治体,本件においては現在の行政区域との連続性に勝る被告に帰属させるべきである。
また,東西水路のうち西側締切堤以西の公有水面部分も,自然的地勢からみれば,中央防波堤内側埋立地と中央防波堤外側埋立地の間の
連続した水面の一部なのであり,将来の利用形態が現状のままで確定しているものでもないのであるから,原則としてその地勢と将来性を尊重し,同一用途同一自治体の要請の見地に適合する東側部分帰属先と同一の自治体,すなわち被告に帰属させるべきである。
本件調停案は,道路,水路等の中心線による区分という観点か

ら,中防大橋西側の東西水路中心線(別紙4の2の図面のA-B線)を境界線としているが,これでは海の森水上競技場や西側締切堤
以西の東西水路の帰属が分断され,同一用途同一自治体の観点と相容れないものである。
(b)

外側その1埋立地にある中防外コンテナ埠頭が東京港の大型船舶

に対応する中核的な埠頭として円滑に機能していくためには,埠頭背後の機能強化やコンテナを運搬するバンやシャーシーのプールの確保等のロジスティック機能の強化が不可欠であり,コンテナ埠頭部分とその背後のロジスティック機能部分を全て一体的に被告に帰属させて開発機能させていくことが,同一用途同一自治体の要請に適合するものといえる。
本件調停案は,道路,水路等の中心線による区分という観点か

ら,中防外1号線の道路中心線(別紙4-2の図面のB-C-D線)を境界としているため,上記の埠頭部分を切り出して原告に帰属させ,他方ロジスティック機能のほとんどを担う残りの部分を被告に帰属させるよう分断したものとなっているが,そのように分断すべき理由は乏しいというべきである。

さらに,D点は,中防外1号線が建設途上であるため,現実には具体的に特定できないから,境界線の起点として用いることは不適当である。

調停申立時の水際線による等距離線を基礎に,上記の修正要素を考慮すると,第1次的には,中央防波堤埋立地はその全てが被告に帰属するよう
境界を確定するのが相当である。

仮にこれが認められない場合でも,後段の手法による場合の考慮要素を総合評価すると,原告に対する被告の優位性は顕著であるから,被告に帰属すべき土地の範囲は,等距離線による地積割合(原告10.7%:被告
89.3%)よりも被告寄りに圧倒的に多くなるべきはずである。また,外側その1埋立地はコンテナ埠頭等に利用されているのに対し,外側その2埋立地は,全体的に廃棄物が地上に露出している箇所があちこちに見られる荒涼とした荒地であり,有毒ガスや火災の発生のおそれが残り,土壌としても脆弱で,大きな建造物の建設は難しく,土地としての利用価値は
低い。境界線を定めるに当たっては,両部分の土地の利用価値に関する適正な評価を踏まえることが不可欠である。
このような見地に立つ限り,よほど合理的な理由が示されない限り,等距離線による地積割合を逸脱する地積の分配は許されないものというべきであるから,中央防波堤埋立地の一部を原告に帰属させるとしても,Y1バース及びそこから東京港臨海道路中心線までの部分(別紙3の図面のC’,C,D’,Eの各点を順次結んだ線により囲まれた部分)を原告の帰属とすべきである。
なお,埠頭部分東側のバンプール及びシャーシープール等として活用されている部分は,特定のバースに属するものではないから,埠頭部分と同一区に帰属する必然性はなく,別々の特別区に帰属しても格別の不都合は
生じない。
また,Y1・Y2バースの境界線上には,東京港埠頭株式会社が所有する中央防波堤外側ふ頭共用管理棟が存在し,Y1バース及びY2バースの各借受者が入居し,それぞれのコンテナヤードの管理を行っているが,各借受者の使用領域は左右対称に区分して配置されており,D’-E
線を境界としても埠頭の管理業務自体に支障はない。
そして,Y1バースを原告に帰属させる場合,中防大橋の西側の東西水路南側沿岸部分(東西水路と東京港臨海道路の間の土地)は,中央防波堤外側車両待機場と称し,東京港における運搬車両の渋滞対策の一環として,一般道での交通渋滞を防止する機能を果たしており,現在の使用状
態に加え,境界線の客観性・具体性確保の見地から,当該部分は被告の区域とし,原告との境界は東京港臨海道路の中心線に設定するのが適当である。
本件調停案は,原告に13.8%,被告に86.2%を帰属させる案となっているが,Y1バースに加え,Y2バースまで原告に帰属させること
は疑問であり,Y3バースについては一層このことが妥当する。
したがって,第2次的には,別紙3の図面のC’,C,D’,Eの各点を順次結んだ線を本件境界とすべきである。
第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,市区町村の境界を確定するに当たっては,当該境界につきこれを変更又は確定する法定の措置が既にとられていない限り,まず,江戸時代における関係町村の当該係争地域に対する支配・管理・利用等の状況を調べ,そ
のおおよその区分線を知り得る場合には,これを基準として境界を確定すべきであり(前段の手法),上記区分線を知り得ない場合には,①当該係争地域の歴史的沿革に加え,②明治以降における関係市区町村の行政権行使の実状,③国又は都道府県の行政機関の管轄,④住民の社会・経済生活上の便益,⑤地勢上の特性等の自然的条件,⑥地積などを考慮の上,最も衡平妥当な線を見いだ
してこれを境界と定めるのが相当である(後段の手法)と解する(最高裁昭和61年5月29日第一小法廷判決・民集40巻4号603頁参照)。中央防波堤埋立地付近における関係区等の境界について,これを変更又は確定する法定の措置はとられていないから,江戸時代におけるおおよその区分線を知り得る場合には前段の手法に,知り得ない場合には後段の手法によるのが
相当である。
2
前段の手法によることができず,後段の手法によるべきこと
⑴ア

原告は,本件は江戸時代におけるおおよその区分線を知り得る場合であり,その区分線は,江戸前海と羽根田海との区分線であり,武州深川洲崎松棒杭と武州品川洲崎一番ノ棒杭を結んだ線であり,具体的には別紙5の
図面の赤破線で示した線であると主張する。

しかし,原告の主張によっても,江戸時代,羽根田海は,羽田浦(現在の原告に含まれる。)と大井御林浦(現在の品川区に含まれる。甲72の8,甲89の1)という二つの浦(幕府から専業的な漁業従事者として認
められた者が暮らす集落。甲72の8,乙32)が共同で支配・管理し,江戸前海は,深川浦(現在の被告に含まれる。),芝金杉浦(現在の港区に含まれる。甲72の8・11,甲89の1。なお,甲91には芝金杉とあるところ,甲72の8には,金杉は芝浦に付属した村で,文化13年(1816年)に本芝浦から独立した旨の記載があり,明治初期には金杉となっていたものと推測される。),本芝浦(現在の港区に含まれる。甲72の11,甲89の1),品川浦(現在の品川区に含まれ
る。)の四つの浦が共同で支配・管理していたというのであるから,これら羽根田海や江戸前海の海面を特定の町村(浦を含む。以下同じ。)が排他的に支配・管理・利用していたものと認めることはできず,羽根田海と江戸前海との区分線が,羽田浦と他の町村との区分線を構成していたということはできない。


また,文政2年(1819年)に江戸幕府が江戸前海の範囲などに関して日本橋肴問屋に問い合わせた返答書には,江戸前と唱ヘ候場所は,西の方武州品川洲崎一番の棒杭と申[す]場所,羽根田海より江戸前海へ入口に御座候,東の方武州深川洲崎松棒杭と申[す]場所,下総海より江戸海へ入口に御座候,右一番棒杭と松棒杭を見切[り]に致し,夫より内を江戸前海と古来より唱へ来り候,西の方一番棒杭より外は,羽根田海と唱へ,東の方松の棒杭より外は下総海と唱へ申[し]候との記載があり(甲33,91),原告は,この記載から,武州深川洲崎松棒杭と武州品川洲崎一番ノ棒杭を結んだ線よりも北側が江戸前海,南側が羽根田海
であると主張する。
しかし,上記記載によれば,武州深川洲崎松棒杭と武州品川洲崎一番ノ棒杭の見切り線より内は江戸前海,東の方松の棒杭より外は下総海,西の方一番棒杭より外は羽根田海であるというのであるから,武州深川洲崎松棒杭よりも東方が下総海,武州品川洲崎一番ノ棒杭よりも西方が
羽根田海であり,武州深川洲崎松棒杭以西,武州品川洲崎一番ノ棒杭以東の上記見切り線より外の海域(本件係争地域を含む。)は,下総海,江戸前海,羽根田海のいずれにも含まれない外海であると解する余地もある。したがって,上記記載をもって,現在の中央防波堤埋立地がある本件係争地域が,羽田浦が大井御林浦と共同して,あるいは羽田浦を含む関係44浦(被告に含まれる浦・村が参加していない。)が共同して支配・管理・利用していたという海域(羽根田海ないしその沖の海域)に含まれていた
ことを認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。エ
したがって,羽根田海と江戸前海との区分線をもって,中央防波堤埋立地付近の境界を定める際の基準となるべき江戸時代におけるおおよその区分線ということはできず,他にこれに当たる区分線を見いだすこともできない。



以上によれば,本件は江戸時代のおおよその区分線を知り得ない場合に当たるから,本件においては,江戸時代の町村界から引き継がれて明治の時代に設定された公有水面上の境界線を再発見して現地に復元するのではなく,後段の手法により,前記のとおりの諸般の事情を考慮の上,最も衡平妥当な線を形成的に創設することが求められている。
3
本件係争地域の歴史的沿革


中央防波堤埋立地の埋立てに至るまでの歴史的沿革は,次のとおりである。

東京湾の公有水面の埋立ては,江戸時代に始まり,明治の時代から昭和の時代にかけても進められ,順次,現在の原告,被告あるいは東京湾に面
する江戸川区,中央区,港区,品川区等に編入されていった(甲55,乙2の1,乙13~15)。

他方で,明治の時代から昭和37年にかけて,現在の原告,被告あるいは品川区,港区,中央区,江戸川区等に所在する漁協が,本件係争地域を
含む東京湾内において海苔の養殖を行っていた。本件係争地域に漁業権を有していた漁協のうちでは,原告に所在する漁協の割合が高かった。(甲5,7~15,甲72の8~72の25,72の27)

従前の東京湾の埋立地は,おおむね一つの特別区の地先前面に位置している事例が多かった関係上,その帰属については,地先前面,埋立地の機能維持及び住民の利便等を基準として,一つの埋立地は一つの特別区に帰属させるという一島一区方式によることが多かった(乙41・16~17
頁)。

都が昭和14年から昭和43年にかけて埋立免許を取得し,昭和47年以降埋立てがしゅん功された東京湾内の大井ふ頭埋立地の帰属について,原告と品川区との間に争いがあり,両区が調停を申請し,昭和54年3月20日,陸上境界延長線を基礎とする調停案を両区が受諾し,一部が品川
区に,一部が原告に編入された(乙41)。品川区に編入された部分が現在の品川区八潮地区であり,原告に編入された部分が現在の大田区東海地区及び大田区城南島地区である(乙52)。

都が昭和38年から昭和42年にかけて埋立免許を取得し,昭和49年以降埋立てがしゅん功された東京湾内の13号埋立地について,被告,港区,品川区の間で争いがあり,3区が調停を申請し,昭和57年10月12日,当時の水際線からの等距離線を基礎とする調停案を3区が受諾し,それぞれ一部が3区に編入された(乙3・94頁,乙4)。品川区に編入された部分が現在の品川区東八潮地区であり,港区に編入された部分が現
在の港区台場地区であり,被告に編入された部分が現在の江東区青海地区である(乙13,52)。
原告及び中央区も当初は帰属を主張していたが,原告は,調停申請前の段階で,今回の決定が将来の埋立地発生に伴う帰属決定の方法に影響することのないよう十分配慮されたい旨の意見を付した上で,帰属主張を取り
下げ,中央区も,調停申請前の段階で,帰属主張を取り下げた(甲64,65)。

都は,被告に帰属する東京湾内の14号埋立地(江東区夢の島地区)や15号埋立地(江東区若洲地区)に都内のごみの埋立処分を継続してきたが,23区から夢の島に集められたごみによる悪臭やハエの大発生,ごみ運搬車による汚汁や交通渋滞などの問題が発生し,被告は多大な負担を強いられてきた(乙13,16,50)。

都は,昭和46年8月5日,15号埋立地の延伸(昭和50年度までのごみの埋立て継続)を申し入れた(乙13,14,16)。
被告は,延伸計画に反対し,都は,昭和46年11月25日,15号埋立地の延伸計画を中止し,中央防波堤の内側に埋立地を作ることを計画する旨を被告に伝えた(乙16)。

なお,本件係争地域には,昭和39年から昭和47年にかけて,中央防波堤が建設されていた(甲92)。
都は,昭和47年5月,港湾問題都区協議会において,埠頭用地・都市開発用地などの需要に対処するためとして,その一部につき一般廃棄物(ごみ)を埋立材料として,中央防波堤内側に埋立地を計画することを提
案した(甲67,乙18)。
被告は,昭和47年6月17日,関係各区のごみの自区内処理が進展しない場合には事業を中止し被告と再協議することなどを条件に,中央防波堤内側埋立地の埋立てに同意した(乙16,18)。

東京都知事は,昭和48年3月31日,都に対し,中央防波堤内側埋立地に係る公有水面の埋立てを免許した(前提事実⑴ア)。

原告,被告,中央区,港区及び品川区は,昭和48年10月27日,中央防波堤内側埋立地における事務処理に関する覚書を締結し,中央防波堤内側埋立地における特別区の処理すべき事務は,暫定的に被告にお
いて処理するものとすること,この措置は,中央防波堤内側埋立地の帰属決定までの暫定措置として行うものであり,これによって今後の帰属決定問題には何ら影響を及ぼすものではないことを合意した(暫定合意1。前提事実⑷ア)。

都は,昭和48年12月,港湾問題都区協議会において,中央防波堤内側埋立地埋立て後のごみ処分場として,中央防波堤外側埋立地の埋立てを提案した(甲67,乙13,14,18)。

被告は,昭和49年3月6日,ごみの自区内処理の進展等を条件に,中央防波堤外側埋立地の埋立てに同意した(乙17)。

東京都知事は,昭和49年7月22日,都に対し,中央防波堤外側埋立地に係る公有水面の埋立てを免許した(前提事実⑵ア)。

原告,被告,中央区,港区及び品川区は,昭和63年7月1日,中央防波堤外側埋立地の事務処理等に関する覚書を締結し,中央防波堤外側埋立地における特別区の処理すべき事務は,暫定的に被告において処理するものとすること,この措置は,中央防波堤外側埋立地の帰属決定までの暫定措置として行うものであり,これによって今後の帰属決定問題には何ら影響を及ぼすものではないことを合意した(暫定合意2。前提事実⑷
イ)。

東京港港湾管理者の長である東京都知事は,昭和63年3月15日から平成8年11月25日までに,中央防波堤内側埋立地に係る埋立工事のしゅん功を認可し(前提事実⑴イ),そのしゅん功認可を告示した(甲1の1~1の5)。


東京港港湾管理者である都は,平成22年12月3日,国土交通省関東地方整備局から出願のあった公有水面の埋立てを承認した(前提事実⑴ウ)。
国土交通省関東地方整備局長は,平成25年3月29日から平成26年
3月18日までに,埋立工事のしゅん功を東京港港湾管理者である都に通知し,これにより,当該埋立地は中央防波堤内側埋立地の一部となった(前提事実⑴エ)。

東京港港湾管理者である都ないしその長である東京都知事は,平成9年7月17日から平成28年4月28日までに,中央防波堤外側埋立地のうち第1工区,第2工区A区,B区イ,B区ロ1分区につき,しゅん功を認可し(前提事実⑵イ),そのしゅん功認可を告示した(甲2の1~2の
4)。

原告,被告,中央区,港区及び品川区は,中央防波堤埋立地の帰属につき協議を重ね,平成14年12月5日までに,中央区,港区及び品川区は帰属主張を取り下げた(甲28)。



以上によれば,中央防波堤埋立地は,原告あるいは被告に帰属するという前提で埋め立てられたものではなく,埋立て当初から帰属に争いがあったものと認められ,このような中央防波堤埋立地の埋立てに係る歴史的沿革は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。

⑶ア
原告は,江戸時代末期,本件係争地域は羽根田海に含まれ,現在の原告に含まれている羽田浦が中心となって支配・管理・利用していた反面,現在の被告に含まれている深川浦は利用していなかったのであり,このことは,後段の手法を用いる場合にも歴史的沿革として考慮されるべき旨主張する。
しかし,前記2⑴イ・ウのとおり,原告の主張によっても,羽根田海は
現在の原告に含まれる羽田浦と現在の品川区に含まれる大井御林浦が共同で支配・管理・利用していたというのであり,その支配・管理・利用につき羽田浦が中心となっていたとしても,羽根田海の海面が羽田浦に帰属していたということはできないし,現在の中央防波堤埋立地のある本件係争地域が,羽田浦が他の浦・村(被告に含まれる浦・村は含まれていな
い。)と共同して支配・管理・利用していたという海域に含まれていたことを認めるに足りる的確な証拠もないのである。
したがって,江戸時代における地先海域の支配・管理・利用関係が,中央防波堤埋立地付近における境界を創設的に設定するに当たり,原告に有利に考慮すべき事情であるとはいえない。

また,本件係争地域に対する原告に所在する漁協による漁業権の行使の実状は,原告に所在する漁協の昭和37年頃までの本件係争地域に対する
関わり合いを示すものとはいえるものの,漁業免許上の漁業区域は,漁協の所在地と連動しているわけではなく,本件係争地域についても,原告に所在する漁協のほか,被告に所在する漁協や他の特別区に所在する漁協も漁業権を行使していたのであるから,そのことから,本件係争地域を当然に原告に帰属させるべきことになるとはいえないし,後記⑷のとおり,被
告側においても,都内のごみの埋立処理に関し多大な負担を強いられてきた経緯があり,被告に帰属する15号埋立地の延伸の代替策として中央防波堤埋立地の埋立てが始まったという形で本件係争地域に関わってきたという経緯があることに鑑みれば,上記のような漁協による関わり合いは,本件係争地域に創設的に境界を設定するに当たり,被告との関係におい
て,特に原告に有利に考慮すべき事情であるともいえない。


他方,被告は,中央防波堤埋立地の埋立てに至るまでの被告と都との協議経過や,被告が東京湾岸の埋立て,特に中央防波堤埋立地の埋立てに了承・同意してきた経緯を歴史的沿革として考慮すべき旨主張する。

しかし,被告が,従前,都内のごみ処理のために被告に帰属する(中央防波堤埋立地以外の)埋立処分場への埋立てを了承・同意してきた経緯があり,中央防波堤埋立地の埋立てに関しても都から了承・同意を求められ,了承・同意をしていたとしても,それは中央防波堤埋立地が被告に帰属するという前提で了承・同意を求められたものとはいえない。

また,被告がこれまでごみ問題により多大な負担を強いられてきた経緯があり,被告に帰属する15号埋立地の延伸の代替策として中央防波堤埋立地の埋立てが始まったという形で本件係争地域に関わってきたという事情があるとしても,そのことと中央防波堤埋立地の帰属との間に論理必然的な関係があるわけではない。
したがって,被告の主張する中央防波堤埋立地埋立てまでの経緯から,本件係争地域を当然に被告に帰属させるべきことになるとはいえないし,前記
⑶イのとおり,原告側においても,原告に所在する漁協の漁業権の行使という形でその住民が本件係争地域に比較的強い関わり合いをもっていたという経緯があることに鑑みれば,上記のような埋立ての経緯が,本件係争地域に創設的に境界を設定するに当たり,原告との関係において,特に被告に有利に考慮すべき事情であるともいえない。



以上によれば,本件係争地域の歴史的沿革は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。

4
明治以降における関係区等の行政権行使の実状


明治11年に郡区町村編制法が施行されると,東京府に15区6郡が置かれ,現在の原告に相当する区域には荏原郡が,その下には羽田村などの村が置かれ,現在の被告に相当する区域には深川区などが置かれた(甲7,74,甲89の1・2,乙13)。
明治13年時点で,東京湾沿岸には,南側から北方向に弧状をなして,鈴木新田(現在の原告に含まれる。以下,括弧内は現在の帰属を示す。),羽
田村(原告),糀谷村(原告),大森村(原告),不入斗村(原告),大井村(品川区),南品川宿(品川区),北品川宿(品川区),芝区(港区),京橋区(中央区),深川区(被告)が存在していた(甲89の1・2)。明治22年に市制及び町村制が施行されると,東京府の15区の上に東京市が成立し,昭和7年には荏原郡を含む5郡が東京市に編入され,現在の原
告に相当する区域には大森区と蒲田区が置かれることとなった(乙13,弁論の全趣旨)。
昭和18年には都制が施行されて東京府は東京都となり,昭和22年には35区が23区に再編され,大森区と蒲田区が合併して原告(大田区)が,深川区と城東区が合併して被告(江東区)が誕生し,また同年の地方自治法の施行により,都の区は特別地方公共団体たる特別区となった(乙13,弁論の全趣旨)。



明治の時代に至り,公有水面も行政権の対象区域であるという観念が広まり,観念的には,東京湾沿岸町村の行政権が公有水面に及ぶことになり,その行政権が昭和22年に誕生した原告と被告にも引き継がれていると解される。しかし,昭和22年に特別区が地方公共団体となった後も,平成10年の地方自治法改正まで特別区の権能は制約されていたこともあって,特別区
が公有水面上に行政権を行使する余地は極めて少なく,公有水面埋立てに当たっても特別区に意見を徴する必要はないとされ,埋立地からの固定資産税等も都税とされ財政的なメリットもなかったため,特別区の公有水面上の行政権界が意識されることはほとんどなかった(乙41・151頁)。本件係争地域についても,埋立て前に関係区が行政権を行使した形跡はな
く,明治以降埋立てまでの関係区の行政権行使の実状は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。


埋立て後,中央防波堤埋立地において特別区の処理すべき行政事務は専ら被告が行っていたが,これは,関係5区が今後の帰属決定問題に影響を及ぼすものでないことを確認した上で合意した各暫定合意に基づくものであるか
ら,これを被告に有利に考慮することは相当でない。


前記のとおり,昭和37年頃まで,本件係争地域を含む東京湾内において海苔の養殖が行われていたが,これは漁協による漁業権の行使であって,原告あるいは被告による行政権の行使ではないから,明治以降における関係区
等の行政権行使の実状として考慮することはできない。原告が,水産行政権の行使として,被告に所在する漁協による本件係争地域における海苔養殖業について何らかの関与をしたことがあったとしても,行政区域に対する行政権の行使とはいえない。
なお,漁業免許は,旧々漁業法(明治34年法律第34号),旧漁業法(明治43年法律第58号)においては行政官庁が(甲6),現行漁業法(昭和24年法律第267号)においては都道府県知事が与えるもの
とされ,特別区あるいはその前身である区や村に免許権限は与えられていなかった。


以上によれば,明治以降における関係区等の行政権行使の実状は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。

5
国又は都の行政機関の管轄


都の行政機関である警視庁に所属する東京湾岸警察署は,江東区青海に所在し,中央防波堤埋立地を管轄しているが,同署は,同時に,江東区に帰属する青海地区のほか,港区に帰属する台場地区,品川区に帰属する東八潮地区,大田区に帰属する東海地区なども管轄しており,中央防波堤埋立地の帰属につき原告あるいは被告に帰属するという前提をもって管轄しているわけ
ではない(甲70)。


都の行政機関である東京消防庁に所属する臨港消防署は,中央区晴海に所在し,中央防波堤埋立地を管轄しているが,同署は,同時に,中央区に帰属する晴海地区なども管轄しており,中央防波堤埋立地の帰属につき原告,被告あるいは中央区に帰属するという前提をもって管轄しているわけではない
(甲70)。


中央防波堤埋立地は,その帰属が決まっていないため,土地の登記をすることができず,国の行政機関である東京法務局の支局・出張所管轄は決定していない(弁論の全趣旨)。



中央防波堤埋立地に係る国税は江東西税務署が,都税は江東都税事務所が管轄しているが,これは,中央防波堤埋立地が江東区青海三丁目地先と表示されていることによるものであり,国や都が中央防波堤埋立地が被告に帰属する前提で管轄を決定しているものではない(乙21,弁論の全趣旨)。


以上によれば,国や都の行政機関が,中央防波堤埋立地につき原告又は被告のどちらかに帰属する前提をもって管轄しているといった事実はなく,中
央防波堤埋立地の中に境界線が引かれ管轄が分かれている事例もないと認められる。
したがって,国又は都の行政機関の管轄は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。
6
住民の社会・経済生活上の便益


住民の社会・経済生活上の便益のうち,被告が各暫定合意に基づき中央防波堤埋立地の行政事務を行ってきたことに基づくものは,各暫定合意の趣旨から,住民の社会・経済生活上の便益として被告に有利に考慮するのは相当でない。



陸地からのアクセス

現在,中央防波堤埋立地へのアクセスとしては,①第二航路海底トンネル(中防トンネル),②東京ゲートブリッジ,③臨海トンネルが存在する(甲3,87,乙2の5,乙42の1,乙55)。


第二航路海底トンネル(中防トンネル,青海縦貫線)は,昭和55年10月に開通した海底トンネルであり,13号その2埋立地(昭和55年時点では帰属未定地。昭和57年,被告,港区及び品川区の調停により帰属確定。現在の江東区青海地区)と中央防波堤内側埋立地を結んでいる。第二航路海底トンネル開通前は,昭和48年11月に建設された旧中防大橋が同様に13号その2埋立地と中央防波堤内側埋立地を結ぶ橋梁とし
て架設されていた。
現在でも,中央防波堤内側埋立地に直接(中央防波堤外側埋立地を介さずに)アクセスできる道路は,この第二航路海底トンネルのみである。この第二航路海底トンネルを通って,江東区青海に所在する東京テレポート駅と中央防波堤内側埋立地に所在する中央防波堤停留所とを結ぶ都営バスが運行している。中央防波堤埋立地にアクセスできる公共交通機関は,この都営バスのみである。

(甲3,94,乙2の5,乙22,乙42の1,乙55,65,弁論の全趣旨)

東京ゲートブリッジ(東京港臨海道路(Ⅱ期区間))は,平成24年2月に開通した橋梁上の道路であり,江東区若洲地区と外側その2埋立地とを結んでいる(乙23,乙42の1,乙55,65)。


臨海トンネル(東京港臨海道路(Ⅰ期区間))は,平成14年4月に開通した海底トンネルであり,大田区城南島地区と外側その1埋立地とを結んでいる(甲3,87,乙2の5,乙42の1,乙55,65,弁論の全趣旨)。


中防大橋は,平成14年4月に開通した橋梁で,第二航路海底トンネルの道路と接続し,中央防波堤内側埋立地と外側その1埋立地とを結んでいる(甲3,87,乙2の5,乙55,弁論の全趣旨)。


旧中潮橋は,昭和52年10月に開通した橋で,中央防波堤内側埋立地と外側その2埋立地とを結んでいた。平成28年から平成29年にかけて撤去され,現在はほぼ同じ位置に東西水路横断橋(仮称)が設置されてい
るが,供用は開始されていない。
(乙55,乙64の2,弁論の全趣旨)

臨港道路南北線は,令和2年開通予定の道路であり,海底トンネルで10号その2埋立地(江東区有明四丁目地区)と中央防波堤内側埋立地とを
結び,東西水路横断橋とつながる予定である(甲20,乙2の5,乙23,24,38,乙44の1,乙55,乙64の4~6,乙65)。ク
以上のとおり,中央防波堤内側埋立地及び外側その2埋立地と陸地とを直接結ぶアクセスは専ら被告側に集中しており,中央防波堤埋立地にアクセスできる公共交通機関も被告を発着地とするものに限られていることは,被告に有利な事情といえる。もっとも,その公共交通機関は都が運営する都営バスであり,区をまたいで運行するバスも多数存在することは公
知の事実であり,原告も臨海トンネルを通じて外側その1埋立地と直接つながっているのであるから,それほど決定的な事情とはいえない。⑶

LDA装置
中央防波堤埋立地のうち,外側その2埋立地には,平成23年頃から,羽
田空港の施設の一部であるLDA装置が設置されている(甲17,87,乙55)。
LDA(LocalizerTypeDirectionalAids)は,航空機を着陸させるために,計器着陸装置を用いて空港に進入させる方式の一つであり,LDA装置は,羽田空港に進入する航空機のための電波を発信する計器着陸装置であ
る(甲17)。
LDA装置は,羽田空港の施設の一部であり,羽田空港は大田区羽田空港地区に所在しているが,羽田空港を設置・管理しているのは国(国土交通大臣)であり(空港法4条1項2号),中央防波堤埋立地のLDA装置を設置・管理しているのも国(国土交通省東京航空局)で(乙21),所在地を
管轄する特別区が何らかの規制や管理を行っている証拠はないから,LDA装置の所在する中央防波堤埋立地の帰属を,羽田空港の所在地の帰属と一致させる必要はない。
他方,中央防波堤埋立地に所在するLDA装置は,羽田空港に設置された羽田LDA装置と区別して江東LDA装置と呼称されていることが
認められるが(甲17),これは,国が都から賃借した土地の表示が江東区青海二丁目地先となっていたためであり(弁論の全趣旨),国の行政機関である国土交通省が,中央防波堤埋立地が被告に帰属することを前提としているものではない。
そうすると,中央防波堤埋立地にLDA装置が存在することは,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。


現在の利用状況
中央防波堤埋立地には,都(東京都環境局)が設置・管理する中防合同庁舎,排水処理場,浸出水集導施設,調整池など,廃棄物の埋立処分に必要な施設が整備されている(甲23,87,乙19,40,55,56)。このほか,民間企業の物流施設等が存在するが,住居等は存在しない(乙21,乙38・3頁)。

後記海の森水上競技場及び海の森クロスカントリーコースの会場
予定地上にある施設については,会場整備工事に先立ち移設・撤去される予定である(乙19)。
中央防波堤埋立地内で行われる廃棄物処理行政に当たり,都は廃棄物の通過する被告と必要な連携を行っているものと推認されるが,被告が廃棄物の
通過地を管轄しているという事実及び中央防波堤埋立地における特別区の事務を暫定的に行っているという事実を超えて,中央防波堤埋立地を被告に帰属させなければ住民の社会・経済生活上の利便が損なわれる,あるいは被告に帰属させれば住民の社会・経済生活上の利便が顕著に増進するとまで認めるに足りる証拠はない。

そうすると,中央防波堤埋立地の現在の利用状況は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。


将来の利用計画等

都の計画
令和2年に開催予定の東京2020大会のボート及びカヌー会場として利用するため,都は,東西水路を含む区域に海の森水上競技場の整備を計画している(乙19,24,38,乙39の1)。
また,その北側の中央防波堤内側埋立地東側には,馬術(クロスカントリー)競技のための海の森クロスカントリーコースの整備を計画している(乙19,38)。
都は,これら東京2020大会施設への交通利便性の向上のため,臨
港道路南北線(前記⑵キ)の整備,東京ゲートブリッジを通る都営バス路線の拡張などを検討している(乙24)。
東京2020大会後は,海の森水上競技場を国際大会が開催でき
るボート・カヌーの競技場及び選手の育成・強化の拠点とするほか,多目的な水面利用を図り,都民のレクリエーションの場,憩いの場とする
ことが想定されている(乙38)。
都は,令和元年5月30日,上記海の森水上競技場の予定地域
を,東京都立海の森公園の区域として指定した(乙62)。
都は,平成26年9月,東京港第8次改訂港湾計画を策定した。そこでは,外側その1埋立地にY1~Y3バースのコンテナ埠頭を整備する
こととされ,東京港港湾計画図(8次改訂)においては,中央防波堤埋立地の用地区分が,埠頭用地,緑地,港湾関連用地,廃棄物処理施設用地,交通機能用地,工業用地などに区分されている。
(乙28,乙42の1,乙44の1)
中央防波堤外側埋立地の南側(外側その1埋立地と外側その2埋立地
との間の部分を含む。)には,新海面処分場埋立地の埋立てが計画されている。新海面処分場埋立地は,現在は埋立てがしゅん功していないため法的には公有水面であるが,その帰属は未定である。
(甲87,乙13,14,19,55,56)

原告の計画
原告は,平成27年4月1日,企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律(平成19年法律第40号。平成29年法律第47号による改正により題名を地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律と変更する前のもの)に基づき,都と共同して,平成27年度から平成31年度までの大田区企業立地促進基本計画(第二次)を策定し,国の同意を得
た。そこでは,大田区全域を同法所定の集積区域(自然的経済的社会的条件からみて一体である地域のうち企業立地及び事業高度化を重点的に促進すべき区域)と定め,将来的には,中央防波堤埋立地についても,帰属確定後,上記基本計画に取り込むことを検討することとしている。(甲22)

原告は,平成29年3月,おおた都市づくりビジョン~2030年代の都市の将来像を見据え~を策定し,そこでは,中央防波堤埋立地の帰属が未決定であることを前提に,帰属問題の早期解決を図り,中央防波堤埋立地のポテンシャルを最大限に活かすため,羽田空港と中央防波堤埋立地を含む大田区臨海部の機能が一体的に活用されるまちづくり
を関係機関と連携しながら進めるなどとしている(甲21)。

被告の計画
被告は,平成27年6月,江東区オリンピック・パラリンピックまちづくり基本計画を策定し,そこでは,中央防波堤埋立地を,江東区有明北,有明南,豊洲,辰巳,夢の島,新木場,若洲地区と併せて江東湾岸エリアと総称し,その江東湾岸エリアのうち,若洲地区と中央防波堤埋立地とを併せてオアシスゾーンとして,屋外スポーツやレジャーの拠点として,交通ネットワークの充実を図り,都心近傍で豊かな自然を感じられるパークエリアを目指すなどとしている(乙29)。

以上のことからすると,都による中央防波堤埋立地の将来の利用計画は,必ずしも原告又は被告のどちらかの帰属を前提とするものではないし,原告及び被告の計画は,いずれも自己に帰属した場合を仮定しての計画であり,どちらかに帰属させた方が利便性の向上が明らかであるとか,どちらかに帰属させると利便性が損なわれるとかといった事情までは認められないから,中央防波堤埋立地の将来の利用計画は,原告にとっても被告にとっても特段有利に働くものではない。

もっとも,将来の利用計画において一体的に利用されることが想定されている区域は,同一の特別区に帰属させた方が利便性は向上するといえ,その限度で境界線を確定する際の考慮要素とするのが相当である。⑹

以上によれば,住民の社会・経済生活上の便益の観点からは,交通アクセスの面で被告に有利な事情といえるが,それほど決定的な事情とはいえな
い。
7
地勢上の特性等の自然的条件
本件のような離島状の係争地域がどちらの陸上区域に近いかは地勢上の特性等の自然的条件の一種として考慮要素となるといえるが,陸上区域からの近接性を考えるに当たり,現在あるいは紛争発生時の水際線を基準に考えるべき
か,江戸時代から明治初期の水際線を基準に考えるべきかは争いがあるから,後に改めて検討することとする。
それ以外の地勢上の特性等の自然的条件につき,特に原告あるいは被告に有利に考慮すべき事情は存在しない。
8
地積
隣接する両土地の公法上の境界(筆界)が同時に市区町村界を構成するような場合には,認定線をもって境界とした場合の両土地の登記記録上の地積との異同は,市区町村界認定の資料としても考慮要素となる。
しかし,中央防波堤埋立地内の土地については,その帰属が決まった後に初
めて登記をすることが可能となる(前記5⑶参照)のであるから,土地の地積は問題とならない。
なお,水際線からの等距離線によった場合の地積割合については,等距離線の基礎とする水際線の基準時に争いがあるため,後に改めて検討する。それ以外に,地積について特に原告あるいは被告に有利に考慮すべき事情は存在しない。
9
現在の水際線からの等距離線主義によるべきこと


以上によれば,本件は,後段の手法を用い,①当該係争地域の歴史的沿革に加え,②明治以降における関係市区町村の行政権行使の実状,③国又は都道府県の行政機関の管轄,④住民の社会・経済生活上の便益,⑤地勢上の特性等の自然的条件,⑥地積などを考慮の上,最も衡平妥当な線を見いだしてこれを境界と定めるべきところ,①本件係争地域の歴史的沿革,②明治以降
における関係区等の行政権行使の実状,③国又は都の行政機関の管轄,④住民の社会・経済生活上の便益,⑥地積などの事情は,いずれも直ちに境界を定められるほど決定的な事情とはいえないから,⑤地勢上の特性に基づき,等距離線(両区の水際線への最短距離が等しい点を結んだ線)を基礎として,これを適宜修正して境界線を確定するのが相当である。



本件における等距離線の基礎となる水際線は,現在,行政区域として確定している水際線とするのが相当であり,これによる等距離線は別紙7の図面のとおりである。

⑶ア
水際線の基準時につき,原告は,①等距離線主義の理由となる地先の尊重の根拠は磯漁等の生活実態にあるところ,近代的自治体が創設された明治期以降に造成された埋立地は海苔の養殖や磯漁が行われていたという生活実態がなく,地先の尊重の根拠を欠いている,②埋立て後の水際線を基準とすると,本来であれば明治初期に確定しているはずの境界が後発的事情である埋立てによって変動することになり,将来の埋立て事務に支
障を来す可能性,帰属協議の時点によって境界線が異なる可能性,埋立工事が終わるまで帰属協議が調わず帰属決定が遅延する可能性などが生じる,③人工島(埋立地)が領海等の境界確定に影響を及ぼすことを否定する海洋法条約の趣旨からも,埋立地の海岸線を等距離線の基点とすべきではない,④地方自治法5条1項の規定の趣旨から,江戸時代末期又は明治当初の水際線を基準とするのが論理的である,⑤江戸時代末期又は明治当初の水際線を基準とすることがこれまでの裁判例と整合する,などとし
て,等距離線の基準は,江戸時代末期又は明治当初の水際線とするのが妥当であり,具体的には明治13年に測量された2万分の1迅速測図の水際線(甲72の45・46)を基準とすべきであると主張する。

しかし,①の点については,当裁判所の理解する等距離線主義とは,当該公有水面に接続する陸地の地先は当該陸地の区域にできるだけ含ましめ
るべきであるという意味での地先の尊重の考え方を基礎とするものであり,本件においても,帰属が確定した既存の埋立地に近い埋立地又は公有水面は,原則として当該既存埋立地を管轄する特別区に帰属させるのが相当であり,明治期以降に造成された埋立地が地先の尊重の基礎を欠くとはいえない。


②及び④の点については,前段の手法によることができず,後段の手法を用いて境界線を確定する場合には,江戸時代の境界線は不明であることを前提に,最も衡平妥当な境界線を創設的に形成するのであるから,明治期以降口頭弁論終結時までに生じた事情を考慮することは別段不合理なこ
とではない。
東京湾においては,江戸時代末期又は明治以降も埋立工事が何度も行われ,埋立地はそれぞれの特別区に適法に編入され,その陸上境界に関する限りは境界を変更又は確定する法定の措置がとられているのであるから,等距離線の基礎となる水際線は,そのような適法に確定された陸上境界を
前提に,当該係争地域である帰属未確定の埋立地等が存在しないとした場合の現在の水際線として争いのない線とするのが相当であり,本件においては,現在,行政区域として確定している水際線とするのが相当である。エ
③の点について,海洋法条約が排他的経済水域における人工島が領海に影響を及ぼさないことを規定している(60条8項)としても,そのことから直ちに,特別区の境界確定に当たっても明治期以降の埋立地を考慮すべきでないということにはならない。

前段の手法による場合には当然明治以降の埋立地は考慮できないが,後段の手法による場合には,明治以降における関係市区町村の行政権行使の実状,明治以降の国又は都道府県の行政機関の管轄,現在の住民の社会・経済生活上の便益,明治期までに限らない地勢上の特性等の自然的条件(例えば,河川を境界線とする場合,明治期の河川の位置ではなく現在の
河川中心線をもって境界とする等)を考慮することが相当と解されるのであるから,埋立地に関してのみ明治以降の埋立てを考慮しないとする理由はなく,明治期から現在までの埋立てを前提に境界を定めるのがむしろ妥当である。

⑤の点について,原告のいう裁判例は,大阪高裁平成8年11月26日判決・行政事件裁判例集47巻11・12号1155頁を指すと解されるところ,同判決は,後段の手法を用いて境界線を確定する場合において等距離線の基礎を江戸時代末期又は明治当初の水際線とすべき旨を判示したものではないと解されるから,江戸時代又は明治当初の水際線を等距離線の基準とすることが上記大阪高裁判決と整合するということはできない。

以上のとおりであるから,江戸時代末期又は明治当初の水際線を基準とすべきという原告の主張は採用できない。

10

等距離線主義を修正すべき事情
現在,行政区域として確定している水際線からの等距離線(別紙7の図面)による中央防波堤埋立地内の原告帰属地と被告帰属地の地積割合は,原告約10.7%:被告約89.3%となる(甲30別図2)。


しかし,まず,この等距離線によるときは,都の港湾計画において一体的に利用されるべき外側その1埋立地内の埠頭用地(Y1~Y3バース。乙42の1の東京港港湾計画図(8次改訂)で埠頭用地52.7haとして灰色に塗られている部分。その西側の埠頭用地3.2haとして灰色に塗られている部分,埠頭用地2.0haとして白地に赤斜線で示されて
いる部分を含まない。これらの部分は,桟橋であって外側その1埋立地を構成しない。乙55・31頁参照)が南北に分断されることとなるが,これらの埠頭用地は同一用途で一体的に利用されることが予定されているのであるから,同一の特別区に帰属させるのが相当であり,水際線により近い部分が比較的多い原告に帰属させるのが相当である。



次に,埠頭用地の東側の港湾関連用地(乙42の1の東京港港湾計画図(8次改訂)で港湾関連用地19.2haとして黄緑色に塗られている部分及び港湾関連用地10.8haとして朱色に塗られている部分。これらの間の中防外3号線及び埠頭用地との間の中防外1号線を含む。その更
に東側は新海面処分場埋立地A区であり,中央防波堤埋立地を構成しない。)も,等距離線によれば南北に分断されることとなるが,本件調停案は,この港湾関連用地のうち,中防外1号線の道路中心線であるC-D線を境界として,その東側の全部を被告に帰属させている。
この港湾関連用地は,現在,コンテナ関連施設であるバンプール(埠頭に
陸揚げされた空コンテナの一時保管場所)やシャーシープール(コンテナを載せるトラックの台車置き場)等として利用されている(乙46,弁論の全趣旨)。
このバンプール及びシャーシープールは,青海・大井・品川の各コンテナ埠頭への貨物などを含め,東京港全体のコンテナに利用される機能を果たす
もので,必ずしも外側その1埋立地のコンテナ埠頭(Y1~Y3バース)と一体的に利用されるものではないが(弁論の全趣旨),平成29年11月に供用を開始したY1バース,令和元年度に供用開始予定のY2バース,令和6年度に完成予定のY3バース(乙55・27頁,乙57の2)で取り扱うコンテナに利用されることもあり得る。
外側その1埋立地のコンテナ埠頭は,東京港の大型船舶に対応する中核的な埠頭として円滑に機能していくことが期待されており,そのためには,埠
頭背後の機能強化やコンテナを運搬するバンプールやシャーシープールの確保等のロジスティック機能の強化が不可欠であり,コンテナ埠頭部分とロジスティック機能部分の協力連携が必要となる(乙28,乙45・28頁,弁論の全趣旨)。
また,外国貨物の搬入等に伴い感染症等が発生し,特別区に設置される保
健所の迅速な対応が迫られる場合には,コンテナ埠頭と隣接するコンテナ関連施設とを同一区の保健所が対応する方が迅速な対応が可能となるとも考えられる。
さらに,本件調停案が境界線の基準点とするD点は中防外1号線の道路中心線と外側その1埋立地南東側埋立法線との交点とされているが(甲3
0),中防外1号線は,現在,Y2バースの南東端手前でUターン(折り返し)しており,外側その1埋立地南東側埋立法線まで延びておらず(甲87,乙43の1・2,乙55,65),中防外1号線の当該区間の工事が完成するまでは,D点を現地で特定することはできない状況にあることが認められる。

これらの事情を総合すると,この港湾関連用地は,その西側の埠頭用地(Y1~Y3バース)と同一の特別区に帰属させるのが相当であり,原告に帰属させるのが相当である。

他方,東西水路は,等距離線より被告側に位置しているが,本件調停案は,東西水路の中防大橋から西側の部分につき,その中心線を境界線として,北側半分を被告に,南側半分を原告に帰属させている。
しかし,都による東京2020大会に向けた整備計画において,中防大橋の西側約65mの位置に西側締切堤,水門,排水施設を整備する計画となっており,そこから東側の東西水路は全て海の森水上競技場の計画地であり(乙38,乙39の1,乙61),また,当該部分は,都から,東京都立海の森公園の区域としても指定されている(乙62)。

そうすると,これら海の森水上競技場の計画地となっている部分は,同一用途で一体的に利用されることが予定されているのであるから,同一の特別区に帰属させるのが相当であり,水際線がより近い被告に帰属させるのが相当である。
さらに,西側締切堤よりも西側の東西水路についても,西側締切堤の東西
で帰属を分割する理由は乏しく,自然的地勢からみれば中央防波堤内側埋立地と中央防波堤外側埋立地との間の連続した水面(運河)を構成しているのであるから,これらを一体として被告に帰属させるのが相当である。⑸
以上によれば,東京港臨海道路の外側その1埋立地部分を挟んで,南側の埠頭用地及び港湾関連用地部分が原告に,北側の東西水路部分が被告にそれぞれ帰属すべきこととなるが,その間に存在する各区域(東京港臨海道路を含む。)の帰属が問題となる。

これらの区域は,等距離線より被告側に位置しているが,他方で臨海トンネルにより原告(大田区城南島地区)と直接つながっている区域でもある。


このうち,東京港臨海道路と埠頭用地及び港湾関連用地との間の区域(乙42の1の東京港港湾計画図(8次改訂)で交通機能用地10.0haとして黄緑色に塗られている部分。その中間にある中防外1号線部分を含む。)は,原告に帰属すべき埠頭用地及び港湾関連用地と東京港臨海道路とに挟まれた細長い区域である。


他方,東西水路と東京港臨海道路との間の区域(乙42の1の東京港港湾計画図(8次改訂)で港湾関連用地7.4haとして黄緑色に塗られている部分。その中間にある中防大橋から続く青海縦貫線部分を含む。)は,被告に帰属すべき東西水路の南岸の区域である。
この区域のうち,中防大橋から西側の部分は,東京港における車両の渋滞対策の一環として,江東区青海地区に所在するコンテナ埠頭へ出入りす
る車両を一時的に待機させる中央防波堤外側車両待機場として活用されており,西端部には,上記車両待機場への出入車両に整理券(チケット)を配布し,順次青海コンテナ埠頭へ進入する順序を管理し,一般道での車両の待機を防止するためのチケット発券場が設置されている(乙46,弁論の全趣旨)。

現状においては,この車両待機場は埠頭用地(Y1~Y3バース)と一体として利用されているわけではなく(弁論の全趣旨),埠頭用地と同一の特別区に帰属させる必要があるとはいえない。
また,この部分のうち,西側締切堤の南側の一部は,都から,東京都立海の森公園の区域として指定されているところ(乙62),同公園の区域
として指定されている他の部分は,上記⑷のとおり,被告に帰属させるのが相当な部分である。

これらの事情を総合すると,東京港臨海道路を挟んで,上記イの区域は原告に,上記ウの区域は被告にそれぞれ帰属させるのが相当であり,そうすると,東京港臨海道路が境界を構成することになるから,東京港臨海道
路の道路中心線を境界として,その南側を原告に,その北側を被告に帰属させるのが相当である。


その余の中央防波堤内側埋立地の全部及び外側その2埋立地の全部は,水際線がより近い被告に帰属させるのが相当である。



被告は,外側その1埋立地と外側その2埋立地との間には土地としての利用価値の差があり,これを踏まえて境界線を定めるべきと主張する。しかし,等距離線を基礎としてこれに各種考慮要素による修正を加えて最終的な境界線を定めるに当たり,分割された両土地の効用ないし利用価値が等しくなるよう分割すべき要請があるものとは解されない。
現状,中央防波堤外側埋立地のうち外側その1埋立地は,埠頭用地,バンプール,シャーシープール等に利用されているのに対し,外側その2埋立地
は,廃棄物が地上に露出している箇所があちこちに見られる荒涼とした荒地であり,調整池やLDA装置以外にこれといった施設が存在していないことが認められるが(甲87,乙55,56),先に埋め立てられた中央防波堤内側埋立地には,現在,各種施設が存在し(乙56),東西水路と一体的に東京2020大会の競技場の整備も予定されているのであり,このような中
央防波堤内側埋立地の効用は外側その1埋立地と比べても遜色はなく,被告はその中央防波堤内側埋立地と東西水路を全部取得する上に,外側その2埋立地も全部取得するのであるから,中央防波堤外側埋立地のみの分割結果を取り出して被告に不利であるかのような評価は当を得たものとはいえない。⑻

そうすると,原告に帰属させる区域の北端は東京港臨海道路の道路中心線となるから,その北端線をC’-F線とする(別紙1の図面のとおり)。C’点は,東京港臨海道路の道路中心線と外側その1埋立地南西側埋立法線との交点である。
F点は,東京港臨海道路の道路中心線と外側その1埋立地東端線との交点である。

C’-F線は,東京港臨海道路の道路中心線であり,本件調停案のC点(青海縦貫線の道路中心線と東京港臨海道路の道路中心線との交点)を通る線である。

また,原告に帰属させる区域の東端は,外側その1埋立地の東端線(新海面処分場埋立地A区との境界線)となるから,その東端線をF-G線とする(別紙1の図面のとおり)。
G点は,外側その1埋立地の南東端である。
F-G線は,外側その1埋立地の東端線である。

これによる原告に帰属する土地の地積は,外側その1埋立地の総面積約114.6
ha(甲30別図2)から,東京港臨海道路と東西水路の間の港
湾関連用地約7.4ha(乙42の1),東京港臨海道路の交通機能用地約
3.6+約2.3ha(乙42の1)の北半分約3.0haを除いた約104.2aであり,被告に帰属する土地の地積は中央防波堤埋立地約h
503.2
haから原告帰属地約104.2haを引いた約399.0ha
であるから,原告帰属地と被告帰属地の割合は,約20.7:約79.3(%)となる。

これは,等距離線による地積割合(原告約10.7:被告約89.3(%))よりも原告に有利な割合となっているが,等距離線を基礎としてこれに各種考慮要素による修正を加えた結果であり,なお相当性を失わないものと解する。
11

よって,本件境界を主文第1項のとおり確定することとし,主文のとおり
判決する。

東京地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官

古田孝夫
裁判官

西村康夫
裁判官

永田大貴
当事者の表示中,代理人の記載省略

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