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収賄
事件番号平成31(う)740
事件名収賄
裁判年月日令和元年8月8日
裁判所名・部東京高等裁判所  第6刑事部
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成30刑(わ)1752
裁判日:西暦2019-08-08
情報公開日2019-10-01 16:00:06
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令和元年8月8日宣告
平成31年

740号

東京高等裁判所第6刑事部判決
収賄被告事件
主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,弁護人中島義則(主任),同近藤早利及び同立山純子作成の控訴趣意書及び同中島作成の釈明書に対する補充意見と題する書面各記載のとおりであり,論旨は,事実誤認及び量刑不当である(以下,略称等は原則として原判決のそれによる。)。
1事実誤認の論旨について
論旨は,被告人はAに対して有利かつ便宜な取り計らいをしていないのに,そのような取り計らいをしたと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,被告人は,静岡県伊東市長と
して,同市議会への補正予算案の提出及び同市の財産の取得等の職務に従事していたが,不動産売買業等を営むB社の所有する本件土地を同市において取得するための費用を計上した補正予算案を同市議会平成27年6月定例会に提出し,同予算案可決後に同市において本件土地を購入するなど有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼の趣旨の下に供与されることを知りながら,
①平成27年8月21日頃,B社代表取締役Aから,現金300万円の供与を受け,②同日,Aから,B社従業員を介し,不動産仲介業等を営むC社名義の預金口座に,架空の一般媒介契約等に基づく報酬の支払を装って,合計1200万円余りを振込送金させた上,同月24日頃及び同年9月3日頃の2回にわたって,C社の実質的経営者Dをして,同口座から出金,持参させ,現金合計
1000万円の供与を受けたというものである。
所論は,被告人は,伊東市にとって本件土地が有用かつ希少なものであることに着目し,将来の市政に役立つと考え,通常かつ一般的な適法行為であるAとの交渉及び補正予算案提出の指示等を行い,相場よりも安い価格で本件土地を取得したものであって,Aに相応の利益をもたらすためにしたわけではない,という。
しかし,原審証拠によれば,本件土地を伊東市において購入することを希望するAに対し,市のトップである被告人が自らAとの交渉に当たるとともに補正予算案提出等の指示をし,その予算案可決後に伊東市が本件土地を購入し,資金繰りに必ずしも余裕があったわけではないAに相応の経済的利益をもたらしたと認められ,これらがAへの有利かつ便宜な取り計らいであることは明ら
かで,被告人もそのことを認識していたと認められるから,原判決の認定に誤りはない。所論が主張する事情は,上記認定,判断を左右しない。2量刑不当の論旨について
論旨は,被告人を懲役2年の実刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,刑の執行を猶予すべきである,というのである。

原判決の判断の概要
原判決は,市の行財政を適切に運営し,地域への発展に貢献することが期待された地方公共団体の首長が,市への土地売却の話が自身に持ち掛けられて自ら交渉窓口となるなどしたことから,売主側に賄賂の供与を要求したこと自体,その地位を私利私欲のために悪用したものとみるほかない上に,合計13
00万円という,同種事案と比べてもかなり高額に上る現金を賄賂として収受していることも併せ考慮すると,本件犯行は,地方行政における公務の公正とこれに対する社会の信頼を大きく失墜させる,悪質性の強いものであるとした。加えて,被告人は,収受する賄賂の具体的金額を決めただけでなく,その大部分については,被告人が仲介業者に貸付金のあることを奇貨として,架空
契約を偽装してその仲介業者をう回させることで犯行発覚を防ぐ手段を講じるなど,自ら計画し,他者に積極的に働き掛け,自身に逆らえない本来無関係の仲介業者まで巻き込むなど,まさに本件贈収賄を首謀したものであって,その手口にも巧妙かつ狡猾なところがあるとした。このほか,犯行に至る動機や経緯にも特段酌むべきところは見出し難いとした。これらの犯情に照らすと,被告人の刑事責任は相当に重いとした上で,被告人に前科前歴がなく,収賄の事実自体は認め,伊東市長として在職していた全期分の退職金全額の返納を申し入れるなど,反省の態度を示していること,3期12年間にわたり市長を務めて市政に一定の貢献をしたこと,高齢で健康面に不安を抱えていること,相応の社会的制裁を受けていることなどの酌むべき事情を最大限に考慮しても,本件が刑の執行を猶予すべき事案であるとは認め難く,前記実刑に処するとし
た。
当裁判所の判断
原判決の上記量刑判断は相当であって,当裁判所としても是認できる。ア
所論は,①被告人は,捜査段階や原審公判において,賄賂性を明白
に認めていたにもかかわらず,原判決は,被告人の悪質性を過度に強調するために,被告人が賄賂性の認識を否認し続けていると曲解して認定し,これを前提に量刑判断をした,という。
しかし,①については,被告人は,捜査段階において,賄賂性の認識を認める供述をし,原審第1回公判期日の罪状認否においても,本件公訴事実を認める旨の供述をする一方で,原審公判における被告人質問においては,仲介業者
を介して受領した現金合計1000万円について,仲介業者が本件土地売買に関して行った媒介業務の対価としてB社から得た利益の一部を,仲介業者の実質的経営者であるDに対する貸付金の返済として受領したというのが本件当時の認識であったなどとし,賄賂性の認識がなかったかのような供述をしたことから,原判決は,本件当時,被告人が賄賂性の認識を有していたと認定したこ
とについて補足説明を加えたものである。被告人のそのような供述状況を踏まえれば,原判決は誠に的確に説明を加えたものであって,被告人が賄賂性を明白に認めていたとする所論は失当というほかない。他方で,原判決が,量刑の理由においては,被告人が収賄の事実自体は認めるなどして反省の態度を示していると説示しているところからすると,被告人が捜査段階や原審第1回公判期日の罪状認否では本件を認めていたことを踏まえて,被告人に反省の態度があることを量刑上有利な事情として考慮していることが明らかであって,このことからすると,賄賂性の認識に補足説明を加えたのは,被告人の供述状況を踏まえて,念のためにしたものと理解できるから,原判決において,被告人が賄賂性の認識を否認し続けていると曲解したとする所論も失当である。イ
次に,所論は,②被告人は,本件犯行を計画していないし,首謀も
していない,③被告人は,自身に逆らえない本来無関係の仲介業者を巻き込んだものではない,④被告人は,当初から賄賂を取得するために本件土地の購入を決め,伊東市に購入させたのではなく,被告人がリーダーシップを発揮したことで,伊東市は有用かつ希少な本件土地を取得できたのであるから,動機や経緯に特段酌むべき事情がないとした原判決の認定は誤りである,⑤被告人が
収受した1300万円の賄賂のうち1000万円については,仲介業者に対する貸付金の返済として受領しており,仲介業者に対する1000万円の債権を失っているから,被告人の受けた実質的利益は300万円でしかない,という。
しかし,②については,原審証拠によれば,収受する賄賂の具体的金額を決
めたのも,仲介業者に貸付金のあることを好機として,架空契約を偽装してその仲介業者にう回させることで犯行発覚を防ぐ手段を講じたのも被告人であることは明らかであるから,このことの評価として,本件犯行を計画し,首謀したのが被告人であるとした原判決の説示は当を得たものである。架空契約の契約書作成や形式の選択に被告人が関与していないことは所論の指摘するとおり
であるが,そのことは上記評価に影響しない。この点に関連して,所論は,平成26年12月下旬に本件土地の売買代金を1億9000万円であるとすることを被告人とAとの間で合意し,被告人が補正予算案提出前の早期の段階から賄賂を収受する計画をしていたかのようにいうAの原審証言は信用できないと主張する。しかし,原判決が指摘する計画性は,そのように相当以前からのことを指しているのではなく,被告人が関係者にう回工作を働き掛けた平成27年7月上旬のことを踏まえて指摘したものであるから,前提を欠いている。③については,被告人は,市長という立場や仲介業者との従来の関係を背景に同仲介業者は自己の意向に沿って動くと考え,同仲介業者に偽装工作の片棒を担がせたのであり,原判決も,そのような趣旨をいっていると解され,評価に誤りはない。その仲介業者が自らの利益も考えて被告人の指示に従っていたこと
や,秘密裏に被告人との会話を録音していたことなどは,そうした評価を左右するものではない。④については,原判決も,伊東市にとって本件土地が有用であることなどは否定していないと解されるが,そのことを考慮しても,動機等に特段酌むべき事情がないとした原判決の認定,評価に誤りはない。⑤については,1000万円については仲介業者に対する貸付金の返済として受領し
たとする被告人の原審公判供述が,本件の事態の推移に照らして到底信用できないことは原判決が正しく説示するとおりであって,失当である。ウ
このほか,所論は,⑥被告人の市長としての数々の実績,被告人
の年齢と健康状態,社会的制裁を受けていることに加えて,⑦原判決後,多数の伊東市民から刑の減軽の嘆願があったことや,被告人が心から反省し真摯な謝罪の意を込めて伊東市社会福祉協議会に300万円の贖罪寄附をしたこと,家族による監督を期待できることなどの事情を考慮すれば,原判決の量刑は著しく重い,という。
しかし,⑥については,原判決も考慮済みである。被告人の抱える疾病の中には,服薬量を精緻にコントロールする必要のあるものがあるとしても,原判
決の量刑を左右しない。⑦についても,原判決の量刑を左右するものではない。
このほかに弁護人が主張する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。量刑不当の論旨も理由がない。
3よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
令和元年8月8日
東京高等裁判所第6刑事部

裁判長裁判官

大熊一之
裁判官

浅香竜太
裁判官

小寺健太野
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