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傷害幇助被告事件
事件番号平成31(わ)244
事件名傷害幇助被告事件
裁判年月日令和元年6月26日
裁判所名・部千葉地方裁判所  刑事第5部
裁判日:西暦2019-06-26
情報公開日2019-08-26 16:00:14
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平成31年(わ)第244号
令和元年6月26日

傷害幇助被告事件

千葉地方裁判所刑事5部判決

主文
被告人を懲役2年6月に処する
この裁判確定の日から5年間その刑の全部の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成20年2月,勤務していた会社の同僚であったAと婚姻し,長女のVをもうけたが,Aからの監視束縛が強いことなどを嫌って別居し,平成23年10月,Aと離婚した。被告人は,平成26年春頃以降精神状態が悪化し,双極性感情障害と診断され,入院治療を受けた(精神障害2級)。その後,被告人は,Aと復縁し,平成28年8月頃,Vを連れてAとの同棲を始め,二女を妊娠したことを機に,平成29年2月Aと再婚し,同年6月に二女を出産した。その後,被告人の精神状態が悪化して入院した際に,Aは,V及び二女を連れて沖縄県から千葉県野田市内に転居した。被告人は,同年9月下旬頃,Aの後を追い,同市(以下略)の同人方(以下本件居室という。)においてA,V及び二女と生活を始めた。被告人は,同年10月初め頃以降,Vから,Aから夜中に廊下で立たされたり,叩かれたり蹴られたりした被害を打ち明けられたが,時間が経てば解決する,事実を確認した場合には暴力が激化するなどと考え,Aに事実を質さなかった。同年11月6日,Vが小学校のいじめにかんするアンケートに,Aからの暴力被害について助けを求める内容の記載をしたことを契機に,Vは,翌7日から同年12月末頃までの間,B児童相談所に一時保護された。この頃以降,Aは,学校やC教育委員会等の関係機関に対し,自己の行動を正当化する高圧的な言動を繰り返し,一時保護を解除させたり,前記アンケート写しを入手し,被告人に指示してVにアンケートの記載を否定させる書面等を作成させたりした。
Vは,Aの生家で生活することになったが,その間,Aが児童相談所の職員とVとの単独面談をさせないよう働き掛けるなどした結果,虐待の事実が児童相談所に把握されないまま経過し,平成30年3月頃以降,Vは再び,本件居室で生活することとなった。同年の夏頃から同年末頃にかけて,Aは,Vに対し,風呂場で濡れた肌着のまま長時間立たせる,屈伸や足踏みを続けさせる,トイレに行かせずに失禁させるなどの仕打ちを激化させ,Vを床に打ち付けるなどの暴力を振るって負傷させることを続けた。被告人はこれを認識し,心身ともに疲弊しているVを案ずる一方,自らが通報するなどした場合,家族関係が壊れることとなり,また,Aの暴行を止めた際に暴行を受けたこともあり,同人を制止しても無駄だなどと考えて,警察に通報するなどの対応をとることはなかった。
(罪となるべき事実)
Aは,平成31年1月22日午後10時頃から同月24日午後9時50分頃までの間,本件居室において,V(当時10歳)を飢餓状態にするとともに強度のストレスを与え続けることにより強度に衰弱させる虐待を加えようと考え,Vに,食事を与えないとともに,長時間,リビング及び浴室に立たせ続けたり,肌着のみの状態で暖房のない浴室に放置したりするなどして十分な睡眠を取らせず,かつ,その間,同日午後1時頃,浴室において,水に濡れた肌着とパンツのみを着用させたVに,

5秒以内に服を脱げ。5,4,3,2,1。

などと申し向けて,5秒以内に脱衣できなかったVの頭部及び身体に直ちにボウルに入れた冷水を数回浴びせかけ,さらに,

シャワーで流せよ。お湯じゃないだろう。なんでお湯なんだ。

などと申し向けてシャワーでその身体に冷水を浴びせかけ,同日午後4時頃,リビングの床にうつ伏せにしたVの背中に座り,その両足をつかんでその身体を反らせるなどの暴行を加え,よって,Vを前記一連の行為による飢餓状態及び強度のストレス状態に起因する全治期間不詳のケトアシドーシス等に陥らせた。【Aによる傷害(正犯)行為】
被告人は,母親としてVを監護すべき立場にあって,Aによる前記一連の行為やAの加虐の意図を認識していたのに,Aの暴行を直接制止したり,警察や行政機関に通報して保護を求めたりしてその行為の継続やVの症状の重篤化を阻止することもせず,
これを放置するとともに,
Aの指示を受けてVに食事を与えないなどし,
もってAの前記犯行を容易にして,これを幇助した。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,AがV(当時10歳)に対して虐待行為を続けていることを知りながら,
これを制止せず,
自らもAの指示に従いVに食事を与えないなどして,
Vを全治期間不詳のケトアシドーシス等に陥らせたAの傷害の犯行を容易にした傷害幇助の事案である。
1正犯者であるAがVに対して敢行した判示の一連の虐待行為は,ほぼ2日間にわたり全く食事を与えず,底冷えする浴室に濡れた下着を着せたまま立たせ続け,冷水を浴びせるなどして十分な睡眠を取らせない執拗,非情なもので,その間,Vはトイレに行くことも許されずに何度も尿を漏らし,最終的には自立することも困難な状況に追い込まれていて,その状態でプロレス技の逆エビ固めまで受けた。常習的に虐待を加え続けた末に行われた犯行であり,本件では年端も行かぬ女児が苦しむ様子も気にかけず,非人間的な虐待行為をためらいもなく加え続けていて,虐待そのものが目的化していたとみるほかない。父からの悪質な虐待を受け,母の助けも得られず衰弱していったVが感じた絶望感は計り知れない。被害者は腹を空かせる中で極めて強度のストレスにさらされ,これに起因するケトアシドーシス等により瀕死の状態に陥っており,結果も重大であり,本件は設定された訴因の正犯行為の枠内でみても,甚だ悪質な傷害事案である。
2被告人は,母として,虐待を受け続けていたVに対して救いの手を差し伸べられる唯一の監護者であり,
かつ,
Aによる一連の行為や虐待の意図を認識していた。
それにもかかわらず,これを制止などせずに放置し,Aの指示に迎合するように食事を与えないなどして,Aの虐待行為を容易にした。被告人による幇助行為が結果発生に寄与した程度は小さくない。すなわち,被告人は,判示犯行に至る経緯のとおり,本件前からAによる虐待を認識し,また,生傷の絶えないVから何度も救いを求められていたのに,家族関係の存続を図るなどとの理由でAからの虐待に苦しむVから目を背け,本件に至っている。そればかりか,被告人は,Aの意に沿うようにVの言動を監視してAに報告するなど,自らの判断によりAに迎合するような行動を選択していたようにうかがえるところもある。そして,Vが一度児童相談所に保護された経過等を見聞きしている被告人において,警察や児童相談所への通報や相談が容易に思いつくはずである。加えて,父により虐待される間,母がこれに手を貸していたこともVの大きなストレスとなっていたはずである。以上によれば,被告人の寄与は小さくなかったといえる。
3しかしながら,Aに迎合する形で本件幇助行為に及んだ被告人について,一概に非難を向けることが困難な事情なども認められる。
被告人は,双極性感情障害にり患していて(精神障害2級)
,精神的に脆弱で,
恐怖や圧力を回避するため自己の意見を述べることが難しく,他者の意見に迎合しやすい性格行動傾向を有していた(弁1号証等)
。被告人の母によれば,Aの意向の
影響で同女も被告人に連絡できない状態にあり,被告人は周囲に相談相手もなく孤立し,高圧的,支配的言動を重ねるAの意向に抗うのが困難な状況に陥っていたことがうかがわれる。現に,Aは,Vが児童相談所に一時保護された際,関係職員を厳しく責め立てるなどして恐怖感を与え,その結果,児童の虐待の訴えをそのまま虐待をした疑いがある親に示すことなど許されるはずがないのに,児童を守るべき同職員をしてアンケートの写しを提供させたり,Aの父母らに働き掛けて同職員がVと単独で面談することを避けさせるなどしている。このように,Aが自己の意向を強く押し通そうとして他者に与える圧力は相当なものであったといえ,Vに対する暴力を止めに入った際に被告人は暴行被害を受けたこともあった。精神的に脆弱な被告人が,寝食を共にしていたAから受けた影響は大きく,悪いことに判示犯行の期間,インフルエンザを患ったAが家に居続けていたため,より一層その支配的な言動や意向の影響を強く受けていたとうかがえ,本件以前の虐待行為の際のように,Aの目が届かないところで,Vに休息を与えたり,いたわったりすることがほとんどできないでいた。
もとより母としてVを守るべき義務を怠りAの犯行を幇助したことに対する非難は免れないが,上記の病状や性格行動傾向を有する被告人が,虐待を加える意図を有するAの支配的言動の強い影響により,その意向に逆らう行動に出ることが相当難しくなっていたことは否定できず,Aに迎合した被告人に対し,一概に強い非難を向けることはできず,相応に非難を減ずべきである。
被告人は,捜査段階から,Vのためを思って,Aが行っていたVに対する過酷な仕打ちやそれに対する自身の関与も含め詳細な事実関係を供述し,客観的証拠のみでは解明困難な家庭内での虐待事案の解明に協力した。なお,この事情は,被告人に有利な事情にはなり得るが,重大な傷害事案において,この事後的な事情自体を考慮するには自ずから限度がある。
⑶加えて,被告人の母が社会復帰後,被告人の精神疾患の治療を支援する旨証言していること,被告人にはこれまで犯罪歴がないことなどの事情も認められる。4以上の諸事情を総合考慮すると,母である被告人が重大な傷害事件に関与した程度に照らすと,被告人を実刑に処することが相応しいようにも思われる。しかしながら,Aの目の行き届かないところではVを安堵させるような関わりをし,Vを傷付けることを積極的に望んでいたとはいえない被告人について,前記のとおりの精神の脆弱さやAの影響にも鑑みると相応に非難を減ずべきであること,Vのことを思って捜査段階から事案の解明に協力していることなどを踏まえると,今後10歳で亡くなった不憫なVの無念さや自責の念と向き合いながら,社会の中で反省,悔悟の日々を送らせる形で更生の道を歩ませる余地があると認め,刑の執行を猶予することとした。もっとも,被告人の精神の脆弱さや帰住環境等を踏まえると,公的機関による指導,助言を受けさせることが必要不可欠であるというべきであるから,その猶予の期間中保護観察に付することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

小池健治,裁判官

谷口吉伸,裁判官
本田真理子)

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