判例検索β > 平成29年(わ)第633号
強盗殺人、傷害、窃盗、覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号平成29(わ)633
事件名強盗殺人,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日平成31年2月26日
裁判所名・部千葉地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2019-02-26
情報公開日2020-06-04 22:39:09
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平成29年

第633号

強盗殺人,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事


平成31年2月26日

千葉地方裁判所刑事第2部判決

主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中460日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,Xと共謀の上,平成25年2月20日午前3時40分頃から同日午前4時57分頃までの間,千葉県松戸市(以下省略)所在のa駐車場において,同所に駐車していたB所有の普通乗用自動車1台(時価約27万2000円相当)を窃取した。
第2被告人は,前記Xと共謀の上,同日午前3時40分頃から同日午前4時57分頃までの間,同市(以下省略)所在のb駐車場において,同所に駐車していたD所有の普通乗用自動車1台(時価約53万1000円相当)を窃取した。第3

被告人は,普通乗用自動車を窃取しようと考え,前記X及びYと共謀の上,
同月22日午前6時54分頃,同県柏市(以下省略)所在の月極駐車場において,同所に駐車していたE(当時31歳)所有の普通乗用自動車1台(時価約65万6000円相当)を窃取し,被告人が同所から同市(以下省略)所在のc前路上まで同車を運転走行した際,これを発見して同車の前方に立ちふさがった前記Eに対し,同車を取り返されることを防ぐとともに,逮捕を免れるため,殺意をもって,同車を前進させて同人に衝突させて同人をボンネット上に乗り上げさせ,さらに,同車にしがみついていた同人を転落させるため,その頃,同所から同市(以下省略)所在のF方付近路上に至るまでの約55mの間に,同車の速度を時速約11kmから時速約40kmまで加速し,更に急制動をかけて,前記Eをボンネット上から同車前方の路上に放出する暴行を加えてその後頭部等を路面に衝突させ,よって,同月28日午前1時頃,同市(以下省略)所在の甲病院において,同人を頸髄損傷により死亡させて殺害したが,その際,前記X及び前記Yは,窃盗の犯意を有するにとどまっていた。
第4

被告人に対する傷害被告事件についての平成31年1月15日宣告の部分
判決(以下部分判決という。)の(罪となるべき事実)に記載のとおり。第5被告人は,
法定の除外事由がないのに,
平成25年11月20日頃,
同市
(以
下省略)所在のe当時の被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を加熱し気化させて吸引し,もって覚せい剤を使用した。(事実認定の補足説明)
第1これまでの審理経過等
1事案の概要等
本件は,被告人が,①Xと共謀して自動車を立て続けに2台窃取した事件(以下第1事件ということがある。,②X及びYと共謀して自動車(以下被害)車両という。)を窃取した際,立ちふさがる被害者に被害車両を衝突させるなどして殺害したという事後強盗殺人事件(以下第2事件ということがある。また,事後強盗殺人の趣旨で単に強盗殺人という。,単独で③覚せい剤を使用した)
という事件と④当時の被告人方アパートの住人に傷害を負わせたという事件からなる事案である。
このうち①,③及び④の各事件については,被告人に起訴に係る罪が成立することに争いがないものの,被告人は,②の強盗殺人事件について,差戻前第1審からその後の審理を通じて,被害車両を運転していたのはXであり,被告人は,現場に赴く際に使用した別の車両(以下帯同車両という。
)の助手席に乗車し
ていたにすぎないと述べていることから,被告人に強盗殺人罪が成立するかどうかが争いとなっている。
2差戻前第1審の判決
差戻前第1審は,まず,上記④の傷害事件について,裁判官のみの区分審理により,平成26年12月1日,被告人が有罪であるとする部分判決を宣告した。その上で,上記①ないし③の各事件を含めて裁判員裁判を行い,平成27年7月9日,上記②の強盗殺人事件について,被告人が被害車両を運転していたということが常識的にみて間違いないと認められるほどに証明はなされていないとして,窃盗の共同正犯が成立するにとどまる旨の判断をし,部分判決分を含めて事実関係に争いのなかった他事件と併せて,被告人を懲役6年に処した。その判断
X及びY並びに事件の
数日後に被告人が被害車両を運転していた旨をXから聞いたが,その場にいた被告人は運転者の点につき何も言わなかったなどとするHの各供述について,YとHはI会に所属するXから働き掛けを受け虚偽供述をしている可能性を否定できず,Xについては自身が運転者である場合,虚偽供述をする十分な動機があり,実際に自己の刑責が重くならないよう被告人に働き掛けている上,供述に不自然な点もあり,Xが被害車両の運転席から見た光景を帯同車両の助手席から見ていXである
との被告人供述に不自然な点はなく,弁護士を通じ差し入れられたXからの2通の手紙(以下差戻前第1審にならい本件X書簡ということがある。)による同
人からの圧力等で,裁判前に一旦は虚偽の自白をしたものの,その後Xに裏切られたことに気付いて供述を変更することにしたという供述変遷の理由に関する説明は,全面的に信用できないというものではないなどという内容であった。3控訴審判決
これに対し検察官が控訴したところ,控訴審は,本件X書簡に対する被告人の返信等を取り調べた上で,平成28年8月10日,差戻前第1審による本件X書簡の趣旨やこれに対する被告人の認識に関する認定には明らかな事実誤認があり,Xからの働き掛けによりY及びHが虚偽供述をし,Xが自己の犯罪を被告人に押し付けた可能性の指摘についても,本件捜査公判の手続経緯や本件X書簡の内容と矛盾する明らかに不合理な認定であって,これらの誤りを是正すれば,Y,X及びHの各供述には高い信用性が認められ,被害車両の運転者は被告人であるとの事実が優に認められ,これに反する被告人供述は信用することができないなどと判断し,差戻前第1審による上記判決を破棄し,さらに,差戻前第1審では殺意に関する判断がなされておらず,その判断をした上で量刑をする必要があり,裁判員裁判による審理を経ることが相当であるとして,本件を千葉地方裁判所に差し戻した。その後,被告人らの不服申立てに対し,平成29年3月8日上告棄却決定,同月15日異議申立て棄却決定がそれぞれなされた。4当裁判所における争点及び証拠の整理
上記差戻しを受け,当裁判所は,期日間整理手続を行い,強盗殺人被告事件について,被告人が共犯者と共に被害車両を窃取したこと,被害車両の前に立ちふさがった被害者に被告人かXのどちらかが被害車両を衝突させ,さらに,被害者をボンネット上に乗せたまま加速し,その直後被害者が路上に落下して死亡したことに争いはなく,争点は,①被害車両の運転者の殺意,②被害車両の運転者が被告人なのかどうか,③量刑と整理した。そして,当裁判所における差戻審としての審理としては,まず,公判手続の更新に準じる手続ないしその一環として,差戻前第1審で取り調べられた書証(内容に修正を加えたものを除く。,差戻前)
第1審で実施されたX,Y及びH並びに自動車工学の専門家であるGの証人尋問に加え,被告人公判供述の各内容を録画した更新用記録媒体(職権で採用),控訴
審において主として本件X書簡の趣旨に関してなされた被告人公判供述を記録した公判調書を取り調べることとした。その上で,弁護人から上記②の争点について,控訴審後に入手した新たな証拠を提出する予定である旨の意向が示され,本件X書簡の趣旨を争うべく控訴審判決後にやり取りされた被告人・X間の手紙が証拠請求されたのに対し,検察官からも控訴審で証拠請求が却下されたものを含め被告人・X間の手紙やYからXへの手紙等が証拠請求されたことに加え,当事者双方から被告人・X間の手紙については同意しやむを得ない事由(刑訴法3
16条の32第1項)につき争わないとの意見が述べられたことも踏まえ,当裁判所としても,なお強盗殺人という重大事件の犯人と被告人との同一性が争われており,本件X書簡の趣旨やその被告人の理解について慎重に判断するためには,控訴審で証拠請求が却下されたものも含め検察官及び弁護人から請求された被告人・X間の手紙につきやむをえない事由があるものとしてすべて採用して取り調べる必要があると判断し(ただし,証拠としてはこれらを統合証拠(当審甲24,弁3)の形で取り調べた。なお,被告人・X間以外の手紙については採否留保の上で審理に臨み,結局証拠として採用しなかった。,さらに,最重要)
証人であるX,窃盗の共犯者でありX供述を補完する構造にあると考えられるY及び殺意の認定に関する専門家証人という位置付けとなるGについて,裁判員にとってもより分かりやすい審理となるよう,再度証人尋問を実施し,被告人質問も実施することとした。また,その他判断に必要な書証も取り調べることとした。
5破棄判決の拘束力
当審の行う事実認定の前提として,差戻前第1審の判決を破棄した控訴審判決が示した事実判断のうち,どの部分について当裁判所が拘束されるかについて検討しておく。破棄判決の拘束力は,破棄の直接の理由,すなわち,原判決に対する消極的,否定的判断についてのみ生じるものであり,上記判断を裏付ける積極的,肯定的事由についての判断は,何ら拘束力を有するものではなく(最高裁判所昭和43年10月25日第2小法廷判決)
,控訴審判決時から実質的な証拠関係
の変動がある場合には,上記破棄判決の拘束力は生じないと解されるところ,これを本件についてみると,控訴審判決後にやり取りされた手紙を含め上記の被告人・X間の手紙を統合した証拠を新たに証拠採用し,さらに,それらの手紙の趣旨などに関しXの証人尋問を改めて実施するので,当審における証拠関係は控訴審までのそれとは実質的に異なるものと評価できるであろうから,破棄判決の拘束力は,控訴審で採用した手紙を証拠として取り調べなければならないという点を除き,生じないものと整理し,当事者との間でも認識を共有して審理に臨んだ。そして,当審における証拠調べの結果として,以下のとおり控訴審判決時から実質的な証拠関係の変動があったのは明らかであるから,当裁判所は,上記整理のとおり事実認定に関し破棄判決の拘束は受けないものと判断した。第2被害車両の運転者の殺意の有無
1第2事件に関し関係証拠から認められる事実
被告人は,J会系暴力団員であった平成24年頃から,指定暴力団I会系暴力団に所属し地元で暴力団員としての勇名を馳せていたXと親しく付き合うようになった。Xは,自動車窃盗の常習犯であり,金に困っていた被告人を自動車窃盗に誘い入れた。その後,被告人は,Xと共に自動車窃盗をする中で一,二度,Xの後輩であるYと顔を合わせたことがあった。
インプレッサ等スポーツタイプの自動車を狙っていたXは,平成25年2月20日,被告人と共謀の上,インプレッサ(ハッチバックタイプ)及びインテグラを立て続けに窃取した(判示第1,第2の事実)

さらに,Xは,インプレッサを探すよう指示していたYから連絡を受け,同月22日朝,Y及び被告人と共に,Yが見つけたインプレッサSTi(この自
の自動車が上記帯同車両を指す。
)に乗車して判示第3の月極駐車場に向かっ
た。同日午前6時54分頃,Yが運転席で待機する帯同車両の後方で,犯人が運転する被害車両が被害者に衝突し,同車のボンネット上に被害者を乗り上げさせたまま走行し,その後被害者は路上に転落した。被害者は,頸髄損傷の傷害を負い,救急搬送された後,同月28日午前1時頃死亡した。その後,この頸髄損傷は,頸部を軸にして頭部が後方から前方に移動した過屈曲によって生じた可能性が高いとの鑑定意見が出された。
被害者は,上記月極駐車場に隣接するアパート1階に居住しており,本件の際,靴を履かずに戸外に出てきたと認められる。そして,遺体の前額部に線状の傷,後頭部に表皮剥奪及び皮下出血があり,その皮下出血の下の頭蓋骨が骨折し,脳全体に損傷が見られたほか,左下肢の膝の周囲,右下肢の下腿前面,足の裏に多数の変色部が,左手指に2本の表皮剥奪,背中の一部に表皮剥奪がそれぞれ認められた。また,着衣の背中左側部分に汚れがあり,スラックスの右膝部分に被害車両のグリルフロントフードのものと認められる青色塗膜,左膝部分にボンネット部分のものと認められる青色塗膜が付着していた。さらに,スラックス背部のベルト穴及びベルトのうちそれらのベルト穴周辺に着用されていたと考えられる部分並びに靴下足裏部分に擦過痕が存在した。遺体には,車に轢過されたと思われる損傷はなかった。
犯行現場周辺の状況を見ると,判示第3の月極駐車場東側は幅員約4.7ないし6mの道路に通じているところ,被害者が居住していたアパート出入口付近の道路上には,左右に散らばって被害車両のグリルフロントフードの破片が複数落ちていた(以下捜査報告書(当審甲23)にならいA地点ということがある。。また,その道路を東に進むと緩やかに右にカーブしており,その先の直)
線部分右手にグリルフロントフードの破片が落ちていた。更に進むとその先で再度緩やかに右にカーブし,そのカーブ先付近に被害者が倒れており,その手前数メートルの間の道路上には,多数のグリルフロントフードの破片が被害車両の進行方向から見て道路左側から中央部分にかけて落ちており,被害者転倒位置の直前には幅約3.5cm,長さ90cmの線状痕が認められた(以下上記と同様にC地点ということがある。。

被害車両の速度は,A地点を通過した直後の時速が約11km,その3秒後に一つ目の緩やかな右カーブに差し掛かった地点での時速が約39km,更にその3秒後に二つ目の緩やかな右カーブに差し掛かった地点での時速が約33kmであったことが判明した(なお,判明した時速は,3秒ごとの速度を表示する被害車両のカーナビゲーションシステムが各3秒の最後の1秒間の平均速度を計測・記録したものである。。

被害車両と帯同車両は,その後いったん松戸駅付近に駐車された。その後,その日の夕方,X,Y,H及びKなる人物が,被害車両を含め盗んだ車両3台を千葉県袖ケ浦市内のヤードまで運搬し,それらの車両を売却した。2被害車両及び被害者の挙動に関する検討
財団法人L研究所で長年勤務した経験を有するGは,被害車両のカーナビゲーションシステムのデータから分かる平均速度,被害車両の損傷及び破片の飛散状況や被害者の負傷状況等から推定される被害車両及び被害者の挙動等について,差戻前第1審及び当審の公判廷において,大要次のとおり鑑定結果を証言している。すなわち,①被害者は,A地点付近において,時速約11km前後で走行していた被害車両の前面に立位で正対した状態で同車と衝突し,ボンネットに前屈みで倒れ込んで前額部をグリルフロントフードに衝突させて,②更に被害車両のボンネットに乗り上げ,左手でワイパーブレードを掴んでしがみつく態勢となり,③その後,被害車両は,約3秒間で時速約40kmもしくはそれ以上の速度に急加速し,さらに,急制動により時速約25kmまで急減速したため,被害者が転倒していた地点より約12m手前の地点で被害者及び損壊したグリルフロントフードの破片が前方に放出された,被害者は,足から落下し,さらに,背部左側を地面に打ち付け,ベルトの背部着用部分を地面に擦過し,後頭部を強打して左肩を支点に後ろ向きに回転して停止した,というのである。
Gは,これまで約700件以上の交通鑑定に携わってきた豊富な経験を有する自動車工学の専門家であり,上記鑑定も,これまで蓄積された学識及び経験を基に行われたと認められる上,更にその鑑定経過は被害車両と同型の車両を用いた実験を行いその分析結果を鑑定に取り入れるなどして鑑定の信頼性や正確性が適切に担保されるよう配慮したものとなっている。また,その鑑定内容を見るA地点付近路上に被害車両のグリル
フロントフードの破片が複数落ちているがその手前には落ちておらず,被害者の前額部の傷とグリルフロントフード上部先端の破損状況とが一致していることにおり,カーナビゲーションシステムの解析からA地点通過直
後の被害車両の速度が時速約11kmであり,そのような低速で衝突したことから被害者がボンネットに倒れ込んだと考えられると説得的に説明するなど,種々
おり,被害者が着用していたスラックスの膝部分に被害車両のグリルフロントフードやボンネット部分の塗膜が付着していたことなどから,被害者が被害車両のボンネットに乗り上げた状態となり,被害者の左手指に表皮剥奪があり,それが2本あるという特徴的な形状からワイパーブレードを掴んだものと推定したと,いずれも客観的事実から納得のできる分析検討を行っている。さらに,③についC地点に落下していたグリルフロントフ
ードの破片が一つを除いていずれも自動車に轢過された形跡がなく,被害者にも轢過された形跡がないことから,被害者及びグリルフロントフードの破片は被害車両のかなり前方に放出されたと認められる。そして,いわゆる慣性の法則や上記実験結果に基づき,自動車を単に加速しただけではボンネットに乗っている人や物が前方に放出されることはなく,放出されるには,相当程度加速した自動車が急制動してボンネット上の人や物の慣性による運動速度との間に差が生じ
C地点のグリ
ルフロントフードの散乱状況からして,被害車両が走行中に順次破片が落下したのではなく,被害車両から一度に前方に放出され扇状に飛散したと考えられる点からすると,加速した被害車両が急制動をかけたことにより,被害車両とボンネット上の人や物との運動速度に相応の差が生じたことで,ボンネット上の被害者とグリルフロントフードの破片が前方に放出されたと考えるのが自然で合理的であるなどと,物理法則や経験則に沿った説明をしている。しかも,その説明は,Gが実施した実験結果によって補強されている。そして,放出後の被害者の挙動についても,被害者の着衣の汚れや負傷の状況,道路上に遺された線状痕と被害者着用のベルト及びスラックスのベルト穴の擦過痕との整合といった客観的事実から,合理的な推認を展開していると評価できる。以上からすると,Gの上記鑑定結果は,Gが述べるように時速約40kmから25kmまで減速したかは定かではないが,客観的な事実関係を総合的かつ合理的に検討して導き出された全体として信用できるものと評価することができる。
これに対し弁護人は,弁論では殺意の有無につき具体的な主張をしていないものの,当審におけるG

スポーツタイプの車である被

害車両の性能からして,アクセルを踏み込まなくても,3秒間で時速約11kmから時速約40kmに加速することは容易であり,急加速とは評価できないので
両の速度は,3秒に1回しか記録されず,しかも記録前の1秒間の平均値であって,Gが指摘する速度変化より緩やかで時速にして約5kmほどの減速であった可能性があり,その程度の減速であればエンジンブレーキで生じることもあり得C地点の
グリルフロントフードの破片の散乱状況も,右カーブを曲がる際に被害者が被害車両左側から横に落ちれば当然轢過されることはなく,道路上に遺された線状痕も本件により生じたものとは確定できない上,グリルフロントフードの破片も事件直後に現場に赴いた近隣住民により動かされていたなどの可能性があるから,扇状に広がって散乱したとは言えないので,一度に被害者と破片が前方に放出されたとする鑑定意見が根拠とする前提には別の可能性が存在するなどとして,G鑑定意見と異なる被害車両や被害者の挙動があり得るのではないかとの疑問を差し挟もうとする反対尋問を行っているので,これらの点につき検討する。カーナビゲーシ
ョンシステムが計測・記録したとおり3秒間のうちに時速約11kmから時速約39kmまで加速するためには,やはり相当の力でアクセルを踏み込む必要があGが実施した被害車両と同型の車
両を用いた実験では,C地点手前と同じカーブを時速約40kmで曲がっても遠心力でボンネット上の人や物は放出されなかったというのであるし,時速約40kmまで加速していた被害車両から被害者がアスファルトの路上に,しかも,住宅の塀等が迫っている進行方向左側に自ら飛び降りたというのも甚だ不自然であ
と必ずしも整合しないと考えられる。他方で,C地点に遺された線状痕は,被害者が転倒していた位置の間近に印象されており,被害者のスラックスのベルト穴やベルトに擦過痕が認められることからすると,本件の際に生じたものと考えるのが合理的であり,そうだとすると,被害者が被害車両左側から落下したというのは,やはり考え難い。また,事件後にグリルフロントフードの破片が一部動かされた可能性も,数十cm動かしたという程度であって,以上によれば,被害者及びグリルフロントフードの破片は,被害車両から前方に放出されたとするG鑑定の結論は揺るがず,そうであれば,被害車両の減速もエンジンブレーキによるものとは考えられないから,運転者が急制動をかけたことによって被害者及びグリルフロントフードの破片が放出されたと認められるという点でも,G鑑定の結論は正当である。
以上によれば,弁護人がGの鑑定結果に差し挟もうとする疑問は,いずれも当を得ておらず,採用できない。
3被害車両の運転者の殺意
以上からすると,被害車両の運転者は,時速約11kmの速度で前方に立っていた被害者に被害車両を衝突させ,更にボンネットに乗り上げさせてしがみつくような態勢をとらせたまま,その後3秒間にわたって時速約40kmまで被害車両を加速し,被害者の転倒地点から約12m手前の地点で被害車両を急制動させて被害者を前方に放出させたものと認められる。
そもそも,自車前方に人が立っているのにそのまま進行し衝突させること自体,その人に重大な危害を与えかねない危険な行為である。そして,被害者の前額部に傷の跡がくっきりと残っており,被害車両のグリルフロントフードが粉々に破壊されていることからすると,その衝突はかなり強い衝撃であったものと推認できる。さらに被害者がボンネット上にしがみついていることを認識しながら,被害車両を減速,停止させるどころか,あえてわずか数秒で時速約40kmまで加速して,更に急制動をかけた行為は,路面がアスファルトで道路の両脇には住宅の塀等があることも併せ考えると,非常に不安定な態勢の被害者がボンネット上から落下し,受け身なども取れないまま路面に頭を強く打ち付けたり,被害車両や対向車両に轢過されたりするなどして死亡する危険性が十分にあることは明らかである。しかも,被害者が放出されたと推定される地点及びいわゆる空走距離区間となるその地点から手前約7ないし8mの間の道路状況は,緩やかに右にカーブしているが,見通しは良く,事件当時の天候は晴れで周囲は早朝とはいえ明るかったというのであるから,単に被害車両を進行させるだけであればブレーキを踏んで急制動する必要など全くなく,そのような行為は,被害車両の運転者がボンネット上の被害者を振り落とそうとしたものとしか考えられない。そうすると,進路前方に立つ被害者に低速とはいえ被害車両を衝突させ,衝突後もボンネット上に被害者がしがみついている状態のまま減速,停止することなく,数秒で加速し,急制動をかけたという一連の被害車両の動向は,被害車両の運転者が,被害車両の取返しを防ぐとともに逮捕を免れて逃走するために,ボンネット上にしがみついている被害者を路上に振り落とすという,人が死ぬ危険性が十分にある行為をそれと分かってあえて行ったものと評価でき,被害車両の運転者には人が死ぬかもしれないがそれでも構わないという未必的な殺意があったことが優に認められる。
なお,弁護人は,被害車両の運転者の殺意について争うものの,弁論ではその点に関する主張は展開していない。弁護人が殺意の立証に関して行った訴訟活動は,既にみたG
討したとおりである。
4小括
以上より,被害車両の運転者には,殺意があったと認められ,強盗殺人罪が成立することになる。
第3被害車両の運転者が被告人かどうかについて
1本件の証拠構造及び被告人とXとの間の手紙のやりとりの位置付け本件では,被告人が被害車両を運転していたことを客観的に裏付ける証拠は存在しないが,直接証拠として共犯者X及びYの供述が存在し,両名の供述を補強するHの供述が存在する。
すなわち,差戻前第1審において,X及びYは,要旨,
被告人が被害車両のエンジンをかけて運転を開始した。その際,帯同車両の運転席にYが,助手席にXが座っていた。帯同車両が先に出発し,すぐ後ろに被害車両がついて来ようとしたが,Xが後ろを振り向くと,アパートから人が出て来るのが見えて,Yに『人が出てきた。』と伝えた。その人が被害者であり,その後被害車両から落ちた。と供述し,Hは,
第2事件の二,三日後,Xの車の中で,X及び被告人と本件についての話をした。Xに被害車両を運転していたのかと尋ねると,Xは運転していたのは被告人であると答え,被告人はその会話を聞いていたが何も言わなかった。その後,被告人は,『被害者が車から落ちて後ろを振り返ると起き上がったのでそのまま逃げた』と言ったので,本件車両を運転していたのは被告人だと思った。と供述した。他方,当審において,要旨,Xは,

被害車両を運転していたのが誰かについては言いたくないが,自分ではない。この点につき差戻前第1審の証言を変えるつもりはない。Hと事件後に第2事件について話をしたことはない。などと述べた。

また,
Yは,

差戻前第1審の証人尋問では,基本的に当時の記憶の通りに供述したが,被害車両の運転者については言いたくない。

と述べ,その理由を問われ,当初は理由を述べられなかったが,その後

差戻前第1審の証言が偽証罪に問われるおそれがあるので言いたくない。

旨を述べた。一方,被告人は,差戻前第1審からその後の審理を通じて,
被害車両の運転者はXであり,自分ではない。本件で逮捕・起訴された後,Xから手紙で被害車両の運転者についてXの身代わりとなるよう指示され,起訴後の取調べでいったんは自白したが,その後Xに裏切られたと思い,真実を話すことにした。などと述べている。差戻前第1審のX及びYの各供述内容は,被害車両を運転していたのが被告人であるという点で合致しており相互に信用性を高め合っているともみられる上,Hの供述によって信用性を補強されているとはいえる。しかし,被告人が差戻前第1審からその後の審理を通じて,被害車両の運転者はXであると供述している中で,Xには,自分が被害車両の運転者であれば,自己の犯罪を被告人に押しつけるために虚偽の供述をする極めて高い動機があるといえる上,Y及びHについても,I会に所属し地元では名の知れた暴力団員であるXとの関係に鑑みると,Xから働き掛けられていたり,Xと被告人を天秤にかけたりしてXをかばい,被告人に責任を負わせる虚偽供述をする可能性が存在する。さらに,上記のとおり,当審において,Xは,被害車両の運転者について,自身であることは明確に否定し,実質的には差戻前第1審での証言のとおり被告人であると供述しているとは解されるものの,この点を明言せず,Yもこの点を供述せず,むしろ,差戻前第1審での証言が偽証に当たり得るかのごとき供述をしている。さらに,Xは,Hとの間での事件に関するやり取りについても否定する供述をした。しかも,Xは,捜査段階において,弁護士の協力を得て接見禁止を掻い潜り,被告人に対し,いかなる罪責に関するものかはおくとしても,何らかの罪責を軽減する供述をするよう働き掛ける手紙を出しており,両者の間で手紙のやり取りが行われている。このような本件の証拠構造の下では,X,Y及びHの各供述の信用性について慎重に判断する必要がある上,これらと被告人供述とを単に対比して検討するだけでは信用性を決し難く,Xと被告人との間の手紙のやり取りの趣旨,すなわち,Xが述べるように常習的に行っていた一連の自動車窃盗の首謀者としての立場や役割を被告人に負うよう働き掛けたのか,あるいは,被告人が述べるように被害車両の運転者であるXの身代わりとなって強盗殺人の罪責を被告人に負うよう働き掛けたのか,それについて被告人がどのように理解していたのかについて,検討することが極めて重要となる。2第2事件後の事実関係
Xは,第2事件直後,架空の外国人が被害車両を運転していたよう装うため,外国人名義の携帯電話を用意し,その携帯電話を自分のいる場所とは違う場所に放置した上で着信を残すなどして,そのような外国人が存在するよう見せ掛ける工作をし,さらに,被告人及びYにもそのような口裏合わせをした。もっとも,両名は,その供述によれば,必ずしも本気にはしていなかった。平成25年11月19日,別件の窃盗事件で勾留されていたYは,検察官に対し,被告人及びXと共に第2事件に関与したことや,その際被害車両を運転していたのは被告人であることを供述した。
同年12月8日,第2事件について,被告人が強盗殺人罪で,X及びYが窃盗罪でそれぞれ勾留され,同月9日,Hが盗品である被害車両を運搬した罪で勾留された。
被告人及びXは,
起訴前の勾留中一貫して黙秘した。
同月27日,
被告人,
X,Y及びHはそれぞれ勾留罪名で起訴された。
平成26年2月13日,Xは,第2事件に関する窃盗等被告事件の第1回公判期日において,公訴事実を認め,被害車両の運転者は被告人であり,被害車両の売却代金のほとんどは被告人が受け取ったと供述した。
翌14日,被告人及びXは,それぞれ第1事件で窃盗罪により勾留された。同月21日頃,Xは,被告人に対し,
柏の件,再逮捕の件は,全てM主導で行なった事件であり,私Xが『実はMの言いなりである』という旨の供述をすること。※Mはどうしても長期刑を避けられないので,せめて私が少しでも早く出て,サポートに回れるように,という合理的な判断をしてほしい。などと記載した手紙(手紙4-1から3。以下被告人・X間の手紙のうち捜査報告書(当審甲24)にある手紙はその番号により示す。
)を送った。これに対し,被告人からは,

事件の件ですが(中略)すでにそうしています。

などと記載した手紙(手紙5-1)が返送された(なお,手紙4-3で1,2,3と段落立てをして,

3・・・私の社会復帰後には,Yらの親,兄弟,女房,子供は安穏な生活など,間違ってもさせない。

との記載があるところ,手紙5-10にこれに対応する記載として

手紙の最後のページを見ました。1,2,3とも自分のことを心配してくれている事やX先輩の優しさが伝わりうれしく思います。しかし3についてYの親・・・。などのところはダメです。

との記載があることから,手紙の作成時期から見ても,被告人の手紙5はXの手紙4への返信と認められる。。

さらに,Xから被告人に対し,同月23日頃,
先日の手紙についてお前の考えを聞かせろよ本当に悪いけど,今回こうなった以上はもうMを悪者にして,,俺だけでも早く出れる方向にした方が賢い選択だろ…?などと記載した手紙(手紙6-1から2。この手紙と手紙4が上記本件X書簡を指す。
)が出された。
同月28日,被告人は,第1事件に関する取調べにおいて,自動車を盗んだのは自分であり,Xは盗みに行くことすら知らなかったと供述した。その後,同年3月5日,被告人とXは,第1事件で窃盗罪により起訴された。
同月中旬頃,被告人からXに対し,

私は言われた条件をきちんとやりました。(手紙7-1)「近日中に任意での検事調べに行きます。「一応犯人性も争っ



てみるつもりでしたが共犯者のうち2人が喋ってしまった今となっては犯人性を争うのは厳しいので自供し情状をよくしようとの方進
(原文ママ)
に変わりました。

一番のキーマンであったX先輩には喋らないで下さいと再三お願いしていました。(手紙7-7)などと記載した手紙を送った(なお,この手紙には「X先輩は

俺が男義出して長いこと行っても誰も得はしないと言いますが」との記載があり,これはXの手紙6-2に俺が変な男気出して,無駄に長く務めたって,誰も得しないよに対応するものと考えられ,被告人の手紙7はXの手紙6への返信と認められる。。

同月18日,被告人は自ら申し出て,第2事件につき検察官による任意の取調べを受け,自身が被害車両を運転していたことを認め,殺意については否認する供述をした(以下本件自白という。。

同年5月29日,
Xは,
第1及び第2事件の窃盗罪等で懲役5年に処せられ,
その後Xが控訴を申し立てたが,同年9月4日の控訴棄却の判決を受け,同判決は自然確定した。一方で被告人は,差戻前第1審において,同年5月9日,第1回公判前整理手続期日で第2事件につき認否を留保し,同年6月16日,被害車両の運転者が被告人であったことは認め,殺意を争う旨の予定主張書面を提出したが,同年11月25日,この予定主張をすべて撤回し,被告人は被害車両に終始乗車していないとする新たな予定主張書面を提出した。
被告人は,上記第1の2記載のとおり,差戻前第1審において,平成27年7月9日,第2事件につき,窃盗の共同正犯の限度で有罪との判決を受けたが,検察官が控訴した。差戻前第1審の判決後,Xは検察官の求めにより,第2事件での逮捕以降被告人との間でやり取りした手紙を任意提出し,検察官はこれを領置した。3検討
本件X書簡の趣旨及び被告人の理解について
Xが本件X書簡で被告人に対し,何らかの罪責をかぶるよう働き掛けたことは間違いない。問題はその罪責の中身が何かである。
アXの置かれていた状況等からの検討
Xは,本件X書簡,中でもその

行っ

ていた一連の自動車窃盗に関する首謀者としての立場や役割を被告人にかぶるよう働き掛けたものであると述べている。この点,本件X書簡が作成された時期に照らせば,同書簡中の柏の件
柏のインプの件とは第2事件,
再逮捕の件と
は第1事件を指すものと解される。そして,Xは,この時期,第2事件について窃盗罪の限度で起訴され,その第1回公判期日において,捜査段階における黙秘から一転して公訴事実を認め,被告人が被害車両の運転者であったことなどを供述し,その翌日,第1事件で勾留されたところ,本件X書簡はその勾留中に作成されたものである。このような当時のXが置かれた立場からすると,第1事件で勾留され一連の自動車窃盗がどの位起訴されるか予想がつかない状況下にあり,その関心は自動車窃盗での追起訴の見込みや,首謀者としての立場や役割など量刑を左右する事情にあったと考えられる一方,第2事件について強盗殺人罪で起訴された被告人には法定刑からして極めて重い量刑が予想される中で,自動車窃盗に関する首謀者としての立場や役割を舎弟分である被告人に対しかぶるよう働き掛けたというのは,
本件X書簡の記載やその字義に沿った解釈と極めてよく整合し
ている。実際のXの行動としても,Xが自身の公判において,第2事件の窃盗につき首謀者としての立場や役割を認定されることを避けるべく,被告人が盗んだ車を売って得た金のほとんどは被告人が得たと供述をしていたこととも合致している。イ被告人の手紙からの解釈
そして,このような手紙の趣旨の解釈は,受け手である被告人の手紙の記載によっても裏付けられる。すなわち,Xの手紙4の返信である被告人の手紙5の

X先輩を助けると言うと言葉がすぎますが1件でも少なく出来はしないかと毎日考えています。(手紙5-2)「

,(捜査3課に対し)主犯は俺でありXの話も断れるとず
い分前から俺は言ってます。なので(中略)主犯は私で自分は使われていただけと主張してください。(手紙5-3)といった,明らかに自動車窃盗を念頭に置いて」
いると解される記載とも整合するし,同手紙には俺が主導も何もX先輩はその犯行現場にすら来ていないのですから(中略)真実を話せばきっとX先輩は不起訴でのとおり,第1事件について,Xをかばって,記載と整合する,事実とは異なる供述を取調べでしていたのであり,この時期がXと被告人が第1事件で勾留されている時期であることも考え併せると,Xと被告人は,Xの自動車窃盗に関する追起訴をできる限り防ぐとともに,Xの首謀者としての立場や役割を否定すべく,手紙でやりとりをしていたものとみるのが自然な手紙の解釈である。しかも,このような手紙の解釈は,その後,Xの第1審判決が言い渡されるまでの間,被告人からXに送られた多数の手紙とXの返信の中に,Xと被告人との間で常習的で膨大な自動車窃盗事件をどのように背負い合うか,そこでの両者の立場や役割についての記載,例えば,「どうして一人で500件も出すなんて言ってんですか?(中略)これだけ余罪を出すのであれば俺に条件を出してまで首魁を逃れた意味もないし,あまりにも余罪が多いと職業窃盗になってしまいますよ。(手紙8-6)といった記載が,随所に見られることともよく整合する。
ウXと被告人の状況の相違
これに対し,被告人は,本件X書簡につき,被害車両の運転者の身代わりとなるよう依頼されたものと理解したと供述しているが,そもそも,本件X書簡を作成した当時のXは,既にみたとおり,窃盗の限度で起訴された第2事件についての第1回公判期日で公訴事実を認めていた一方で,被告人は,第2事件について強盗殺人で起訴されていたが黙秘を貫いており,第1回公判前整理手続期日も未了であったのであって,Xにとって,第2事件について強盗殺人罪に問われる危険は何ら切迫しておらず,既に強盗殺人罪で起訴されている被告人に対しこのタイミングで強盗殺人罪について自分の身代わりとなるよう働き掛けなければならなかったような事情は全く見受けられない。
エXからの指示と被告人の行動との関係
また,本件X書簡に対する返信である被告人の手紙5及び7の記載を見ると,被告人の手紙5はその作成時期からして,手紙7はその中に

近日中に任意での検事調べに行きます。

との記載(手紙7-7)の本件自白の前に作成されたものであるところ,被告人はこの時点では第2事件についていまだ黙秘をしている状況にあるのに,

事件の事ですが(中略)すでにそうしています。(手紙5-1)「私は言われた条件をきちんとやりました。(手紙7



-3)などと記載している上,被告人が一連の自動車窃盗の首謀者はXではなく自分であると捜査機関に供述している旨も縷々記載しており,Xからの指示あるいは条件が,Xの身代わりとして強盗殺人の犯人であると認めることを意味するとは考え難い記載となっている。このような手紙の解釈は,被告人が,Xからの指示あるいは条件を果たした場合,
私が1年か2年か分かりませんが長く行く分にはどうでもいいと言う事ですか?(手紙7-3)という,法定刑が死刑又は無期懲役しか
定められていない強盗殺人の身代わりとなった場合の不利益とはおよそ考えられない一方,強盗殺人の犯人が一連の自動車窃盗の首謀者としての立場や役割をかぶった場合の不利益として納得しやすい記載があることや,手紙が作成された時期をみても,いまだ検事による取調べを終えておらず,強盗殺人の犯人の身代わりという条件をきちんと履行したと記載するのは無理な時期であることからも強く補強されているというべきである。
オ被告人のX及びYに対する態度,本件自白に至った経緯についての手紙の記載
しかも,被告人は,Xの手紙4の

2柏の件に関しては(中略)Mも無期だけは避けられるよう“不運な事故”であるという主張を公判ではしてほしい。

との記載(手紙4-3)に対し,返信である被告人の手紙5では

1,2,3とも自分の事を心配してくれている事やX先輩の優しさが伝わりうれしく思います。しかし3についてYの親…。などのところはダメです。(手紙5-10)などとXへの感謝

を表す記載とともに,最初に捜査機関に自供したことで被告人の強盗殺人罪による逮捕のきっかけを作ったYに対する怒りを露わにし報復まで示唆するXを,宥めるのような記載までしていたにもかかわらず,Xが自身の公判で強盗殺人の犯人が被告人であると供述したことが分かると,被告人の手紙7では

私は散々自供はしないで下さいとお願いしましたが,X先輩は公判で自供し自分の事だけのみならず私の事まで供述し,これが時間の差があるにせよYと何の違いがあるのか私には分かりません。

(手紙7-5)
とXのことを責める記載をした上で,
上記2

のとおり,

Xがそのような供述をしてしまったことから,仕方なく犯人性の否認から殺意の否認に方針変更することとし,検察官の任意の取調べを受けることとした旨の記載をしている。Xから強盗殺人の身代わりを依頼されていたのであれば,それを了承していた被告人が,いわばその依頼どおりの供述を自らの公判でしたXのことを責めXから外国人
が被害車両を運転していたことにしようとの口裏合わせがあったにもかかわらず,勝手に被告人を強盗殺人の犯人に仕立て上げたことになるYについて,怒るXを宥めていたというのも,Yの自供により強盗殺人の犯人に仕立て上げられた被告人が,それにより強盗殺人の犯人を免れることになるXを宥めるという構図になり,およそちぐはぐで納得し難いものである。また,強盗殺人の犯人性を認める取調べに赴く理由の記載についても,Xの裁判での供述を知るなどして共犯者2人が既に供述してしまっているという自身が置かれた状況を認識し,利害得失を考慮した上で,犯人性を争うのは厳しいので,その点は自供して情状を良くしようとの方針に変更することを自ら決断したとの趣旨に読むのが字義にかなった読み方なのであって,従前Xから身代わりの指示があったということと真っ向から相反する記載をしていると評価せざるを得ない上,実際にこれに沿うようにこの直後に被告人が検察官に対し本件自白をしたという経緯は,被告人の手紙の真実性を高めるとともに,後述する本件自白の信用性も高めるものであると言える。
カ強盗殺人に関する記載と窃盗に関する記載との対比
しかも,既にみたとおり,その後,被告人がXに送った多数の手紙やXの返信には,数多ある自動車窃盗を被告人とXでどう背負うかについての記載が随所にみられる一方,強盗殺人については,Xが殺意はなく事故であった事を裁判官や員に理解してもらう(弁3資料3-4)とか,被告人が有期にするにしても殺意をどうにか取らないと厳しいようです(手紙12-9)とか記載するなど,被告人が犯
人であることを前提とした記載がほとんどなのであって,この点もXが被告人に強盗殺人の犯人の身代わりを働き掛けたこととは整合しづらい事実関係と評価できる。
キ強盗殺人の身代わりの重さ
加えて,そもそも強盗殺人の犯人の身代わりを引き受けるということ自体,その極めて重い罪責と見合うだけの見返りや人的関係がない限り,通常考え難い事態であるところ,本件自白以前に作成された被告人の手紙2(平成26年2月中旬頃の手紙)の強殺では死刑又は無期となりますの記載などからみて当初から強盗殺人が重大な罪であることを十分に認識していたと認められる被告人が,生粋の暴力団員として名を馳せていたXにいかに心酔していたとしても,Xに依頼している数百万円程度の見返りでそのような身代わりを引き受けたというのは到底理解し難い話である上,まして,その被告人からの依頼を,もし強盗殺人の犯人であればそれをかぶらせている被告人に対し弱みがあるはずのXが,にべもなく突っぱねていることからしても,およそ納得できるものではない。
ク小括
以上からすれば,本件X書簡の趣旨は,Xが述べるとおり一連の自動車窃盗の首謀者としての立場や役割を,強盗殺人罪で起訴されていた被告人に負わせるべく働き掛けたものと認められ,被告人が述べるように強盗殺人の犯人の身代わりを依頼されたものという疑いはなく,Xは,被告人が被害車両の運転者であり,強盗殺人罪で逮捕・起訴されてしまったため,そのまま強盗殺人罪で有罪となるにせよ,殺意が認められずに強盗致死罪の認定にとどまったにせよ,どのみち相当重い量刑が予想されるのであるからこそ,一連の自動車窃盗の首謀者としての立場や役割をかぶっても大きな影響がないであろうという発想から,被告人に対してそのような指示をしたものと考えられる。そして,既に見てきたとおり,被告人もこのようなXの意図を本件X書簡の字義どおりに理解し,その意図に沿った返信を記載するなど,
謀者としての立場や役割についてXの働き掛けに沿った内容の供述を捜査機関にしていたと認められ,被告人はXからの働き掛けではなく自らの自発的,自律的な判断により強盗殺人犯人についての本件自白に至ったものと強く推認される。本件X書簡の趣旨等に関する弁護人の主張について
これに対し弁護人は,本件X
手紙からは書き手の内心は分からず,複数の解釈の余地があること,証拠として提出されていない被告人・X間の手紙がある可能性もあり,手紙から真意を読みXは,本件X書簡において,被害車両の運転者については
Yの秘密の暴露などないのにこれがあると記載し,これにより黙秘している被告人に対して強盗殺人の犯人性を争うのを諦めるよう促したものといえ,それはX
約束は,一連の自動車窃盗の首謀者であるとの立場や役割を負うことと被害車両の運転者の身代わりになることの双方を含んでおり,これを既に完全に履行したという趣旨で記載したものではなく,一部履行し始めたあるいは近日中に予定されX
の一審判決後控訴中にXに宛て出した手紙(手紙21-1から4)の中で,

Y君やHさんはどうして俺が強殺で捕まってるのか,と聞いています。Eさんを撥ねたのはX先輩だと言うのです。「X先輩が自分のことをだまして利用しているなら自分

も他の人に本当のことを言わなければなりません。X先輩,54万5千円どうすればいいですか!?」

捜査員も弁護士もX先輩をかばっているなら本当の事を言えっていいます。

などと記載しており,Xが真犯人でなければ,このように真実を話すなどとして要求めいた記載をすることはできないなどと主張する。
るような面を伴うことは否定しないが,それを踏まえて慎重に手紙の趣旨をみても,既に検討したとおり,Xと被告人とは,互いに手紙の趣旨を理解して,脈絡を保ったやり取りをしており,実際にそれに沿った行動もしている上,手紙の趣旨が不明であるとして相手方に問い直すような部分なども格別みられず,本件X書簡の趣旨や被告人の理解について上記以外の解釈
件X書簡の該当部分をみると,Xが自身の公判で黙秘から自白に転じた理由としてYの秘密の暴露があったことをいわば自己弁護的に挙げているようにも解釈できる上,Yの捜査段階の供述が被害車両等を処分したヤードへの通行ルートに関する客観的証拠により裏付けられていて,それを秘密の暴露と記載したというXの供述もあながち不自然とも言い難いことを併せ考えると,被告人に虚偽の自白を迫るためにありもしない秘密の暴露があるとあえて仄めかしたとは考えられな
検事の取調べ(平成26年3月18日)の約4週間前に作成されており,取調べの申し出さえしていないのは明らかであるところ,この中で被告人は,Xから働き掛けられたことを既に行っていることを記載している上,被告人の手紙7でも,働き掛けられた条件を履行した旨を記載しており,検事の取調べを申し出たというだけでこのような記載をしたとの弁護人の主張は,手紙の書かれた時期や字義に反
の手紙)の頃は,Xは東京拘置所に移送されて以降被告人への返信ができない状況にあり,被告人としては,Xからの返信が途絶えていた時期と考えられるところ,殺意を争うのに必要な鑑定費用を工面してくれるどころか,返信さえしてくれないXに対して不満や不安を募らせており,その約4日後の手紙22(同月16日頃の手紙)により,Xに対し,判決が確定したら,被害車両の運転者が被告人ではなかったと供述するよう依頼する前提として,Xの注意を喚起し,返信を出さざるを得ないような手紙を送ったものともみることが十分可能であり,いずれにせよ,上記のとおりの本件X書簡の趣旨及び被告人の理解に関する上記の解釈に疑問を差し挟むものとは言えない。
以上によれば,弁護人の上記主張は採用できない。
被告人の手紙中の自認の記載及びそれに関する弁護人の主張についてそして,上記の本件X書簡の趣旨及び被告人の理解に基づいて更に被告人のXに対する手紙を検討すると,
その随所に見られる,
私は間違ってでも人を殺めてしまっているのでどんな措置や処置をされても仕方ない(手紙14―7)

俺が車を取った後に人が出て来て飛び乗って来たわけです
(手紙18-5)
といった被害車両
の運転者であることを自認するような記載や,
1(注:「話したくない又は黙秘
を指す。
)は自分が乗っていたと何かで特定され認定された時を考えると一番安全ですが,他の証人に対する反論ができませんよね」
(手紙22-6)という,被告人
自身が被害車両を運転していたことが何らかの証拠で特定され得ることを前提としている,自認に類するような記載は,正に当時の被告人の真意に基づくものとして,被害車両の運転者が被告人であったことを強く推認させるものといえる。これに対し弁護人は,被告人の公判供述に沿うなどして,被告人の手紙の中に,このような記載があるのは,手紙の内容を捜査官が読んでいると思っていたからでXではなく自分が強盗殺人の犯人であると記載せ
ざるを得なかったのであると主張する。
しかし,被告人は,捜査官に見られているから,手紙でも強盗殺人の犯人のふりをしなければならなかったと述べるが,一連の自動車窃盗の首謀者がXであることについては,それを前提とする記載を随所でしていて何ら隠そうとしておらず,この点で自己矛盾を来していることに加え,本件自白をした以降に作成された手紙22においても,
3(注:「後の車を運転していたのは○○さんですと証言するこ
とを指す)は証拠上自分とX先輩は別々の車に乗っていたと証明されていましたのでYが乗っていたとは言えませんのでどうしてもX先輩が乗っていたとしか言うしかないのですが,
(中略)
。3とした時は協力してくれますか。(手紙22-7)

などと,Xに対し,強盗殺人犯人はXであり被告人ではないと供述するよう働き掛けているとしか読めない記載をあからさまにしていることからすると,捜査官が読んでいるから真実が記載できなかったという供述は,到底信用し難い。弁護人の主張は採用できない。
X,Y及びHの証言並びに被告人の本件自白の信用性について
以上によれば,Xが被告人に対し,本件X書簡により,一連の自動車窃盗の首謀者としての立場や役割をかぶるよう働き掛けはしたが,本件車両の運転者という強盗殺人犯人の身代わりになるよう働き掛けをしたという事実は認められない。また,上記したとおりの本件X書簡や被告人の返信に見られる,最初に自供したYに対するXの反応やそれに対する被告人の態度等に照らせば,Yに対し,本件車両の運転者につき被告人と供述するよう働き掛けていたとの疑いもないのであって,差戻前第1審のX証言に,Xが被害車両の運転者を被告人に押し付けているという疑いはなく,被害車両の運転者が被告人であったという供述の核心部分は,上記の本件X書簡の趣旨及び被告人の理解や被告人のXへの手紙中の自認の記載等により強く裏付けられることにより,揺るぎなくその信用性が高められているものと評価することができ,それと同旨のYの差戻前第1審の証言も,同様に信用性を揺るぎなく高められているほか,Hの証言の信用性も結果的にはその信用性を高められているものと評価できる。そして,上記にみた被告人のXへの手紙中の自認の記載や,被告人の手紙7に記載された理由により被告人が決意して実際に記載に沿うように本件自白をしたという経緯からすれば,被告人が被害車両の運転者であることを認める部分について,本件自白は,正に真実を自発的に語ったものとして信用できるといえる。
X,Y及びHの証言並びに被告人の本件自白の信用性等に関する弁護人の主張について
アX証言について
これに対し弁護人は,差戻前第1審及び当審のX
2事件の直前,被告人がXに外が明るくなってきたので犯行を中止してはどうかと述べたにもかかわらず,Xがこれを敢行しようとしたのであり,犯行に積極的なのはXであったこと,Xは,事件当日に被害車両をヤードに処分し,事件直後から架空の外国人を真犯人に仕立て上げようとするなど,一人積極的に証拠隠滅を図ろうとしていたほか,被告人の差戻前第1審判決後に被告人との手紙をわざわざ検察官に提出するなど,その対応が必死すぎること,自動車窃盗の実行犯が最もリスクを負うので実行犯が車両の売却代金を受け取ってしかるべきであるのに,被告人は被害車両の売却代金を全く受け取っていないことなどからすると,被害車両の運転者は被告人であるとは認められず,
むしろ真犯人はX

Xは,

被害者が被害車両から落下した後に起き上がったなどと明らかな虚偽を証言しており,運転者が被告人であるとの証言も信用できないなどと主張する。いて,被告人及びXはいずれも,どちらが自動車窃盗の実行行為
を担うかは決まっておらず,その時々で決めていたと供述しており,一連の自動車窃盗の首謀者であるXが犯行に消極的な被告人に実行を命じ,これに被告人が応じたということも十分にあり得ることである。また,被害車両はグリルフロントフードが完全に破損した盗難車両であり,Xは,被害車両から落下した被害者が怪我を負い単なる窃盗事件ではない大事に発展する可能性があることや第2事件後早期にヤードに捜査が入ったことを認識しており,最悪の場合には,被害車両の運転者以外も含め共犯者が全員,その大事での捜査対象となる可能性も考えていたというのであるから,首謀者として犯行に関与した自分に捜査の手が及ばないよう,速やかに被害車両を処分するとともに,架空の外国人を被害車両の運転者に仕立て上げようなどとする動機が十分にあったというべきである。さらに,被告人は,被害車両を処分した際にヤードまで同行していなかったし,第2事件後もXとの間で自動車窃盗に及んでいたというのであるから,その後の窃盗によって利得の分配の帳尻を合わせた可能性も考えられ,被告人が第2事件で利得を得ていないことは,不自然とまでは言えない。Xが被告人からの手紙を検察官に提出した経緯についても,検察官から強盗殺人で逮捕される可能性などを示唆されたというのであり,いくら自身が窃盗罪により有罪判決を受けており,一事不再理効が及ぶ可能性があると考えられるとしても,法律家ではなく法律の素養があるわけではないXが逮捕,起訴や裁判の負担や危険を恐れて手紙を任意提出したというのは,格別不自然なこととは言えず,本件X書簡等に強く裏付けられているX証言の核心部分の信用性を何らXが被害者の挙動について虚偽を述
べていると認められるのはその通りであるが,
Xの手紙の記載等からすると,
Xは,
被告人に殺意が認められずにせめて有期懲役刑で済むよう望み,様々な計略を検討していたことが窺われる(弁3資料3等)ことからすると,被害者の挙動に関して虚偽供述を述べる動機はあるのであって,被害車両の運転者が被告人であるとのX証言の核心部分の信用性は損なわれるものではない。
イY及びH証言について
Yの差戻前第1審及び当審の証言について,当審において差戻
前第1審における証言が偽証に問われ得る旨を述べたことは,とりもなおさず,被害車両の運転者がXであるとの真実を供述したかったことを示しており,H証言の内容についても,それにより有利に働くXさえ当審でその信用性を否定しているなどと主張する。しかし,既に検討したとおり,差戻前第1審のY証言のうち被告人が被害車両を運転していたとの核心部分は,X証言と同様,揺るぎなく信用性が高められている上,既にみたとおりの最初に自供したYに対するXの反応やそれに対する被告人の態度に加えて,Yは,その当審証言によれば,自身の裁判が終わるとXに対し,警察におびえる生活を送りたくないので自供してしまったとして,Xを裏切ったことを謝罪したいとの手紙を送ったというのであるところ(この点はYからXへの手紙を示され記憶喚起をした上で述べたものであり,信用できる。,Yが)
Xの働き掛けを受けて,被害車両の運転者すなわち強盗殺人の犯人が被告人であるとの虚偽の供述をしたのだとすると,むしろYは真犯人であるXを守ったことになり,裏切りを謝罪する必要など全くないから,Xからこのような働き掛けを受けていたとは考えられないのであって,この点からも差戻前第1審のY証言の核心部分の信用性は揺るがないものといえる。Yが当審で証言拒絶をし,拒絶の理由が差戻前第1審証言の一部が偽証になり得るからであるかのごとき供述をした点は,その真意は詳らかではないが,そもそも二度にわたり証言させられることに対する拒絶的な態度や偽証になり得るとの証言拒絶の理由の出方などに照らすと,偽証に当たるおそれがあるとの拒絶の理由を含め全体として当審の証言には信を措けないのであって,いずれにせよ上記のとおり揺るぎなく高められている供述の核心部分の信用性に大きな影響を与えるものではない。H証言の信用性に関する弁護人の主張も,これまでみたとおり結果的に信用性が高められているH証言の信用性を損なうものではない。
ウ被告人の本件自白について
さらに,弁護人は,被告人の本件

Xを

かばいたいとの心情に加え,自身が強盗殺人罪で逮捕・起訴されてしまったことなどからくる諦めの気持ちや,上手くいけば懲役15年程度の刑で済む可能性があると軽く考えていたことも相俟って,金銭の援助や車の名義変更(手紙4―2等)などの約束と引換えに被害車両の運転者の身代わりを要求され引き受けてしまい虚Xについて第2
事件の刑を窃盗罪で確定させようとしたためであり,Xの刑が確定したので,虚偽の本件自白を翻して,Xが真犯人であるという真実を述べることにしたなどと主張する。
しかしなが

の被告人の手紙

7の記載を見ると,既に検討したとおり,Xが被告人の再三の依頼にもかかわらずXが被害車両の運転者が被告人であると供述してしまった点が主たる理由として挙げられており,上記主張・供述とはそぐわない上,被告人は,後々15年程度以内に社会復帰することを目指すとの趣旨を手紙に記載しているものの,上記のとおり無期懲役になる可能性があることも十分に認識しており,にもかかわらず数百万円程度の見返りで,上手くいっても十数年,下手をすれば無期懲役になるリスクを引き受けたというのは,いくら被告人がXに心酔するとともに気持ちに揺れ動くところがあったのだとしても無理があり,被告人の上記公判供述は信用できないとい
を免れるために,Xの判決確定後は一事不再理効によりXに責任が及ばない可能性を考慮するなどして,Xに対し,被害車両の運転者が被告人ではないとの供述をするよう依頼することも十分に考えられ,弁護人の主張するような被告人の供述経過のみで,被告人の本件自白が虚偽で,Xが真犯人であることが裏付けられるとはいえない。
したがって,被害車両の運転者は被告人ではなく,本件X書簡により働き掛けられるなどしたことで本件自白をしたとの被告人の公判供述は信用できず,上記のとおりの被告人の本件自白の信用性は揺るがない。
結語
以上によれば,その他弁護人が縷々述べる点を十分考慮してもなお,被告人が被害車両の運転者であったとの認定は揺るがず,被告人が強盗殺人の犯人であることが優に認められる。
(量刑の理由)
本件は,被告人がXと共に常習的に自動車窃盗を繰り返す中で,①Xと共謀して行った自動車窃盗2件と,②X及びYと共謀して自動車窃盗に及んだ際,被告人が被害車両を衝突させるなどして被害者を殺害した強盗殺人に加え,単独で③傷害,④覚せい剤使用に及んだという事案である。量刑の中心となる②強盗殺人について検討する。その行為態様は,窃盗の実行を担当した被告人が被害車両のエンジンをかけて逃走しようとした際,前方に立ちふさがった被害者に対してそのまま同車を衝突させ,被害者がボンネット上にうつ伏せにしがみつく状態となったのに,あえて同車を数秒で時速約40kmまで加速し,更に急制動をかけて,被害者を前方の路上に放出して死亡させたというものである。被告人は,被害車両の取返しを防ぎ,自身や共犯者の逮捕を免れればよかったのであり,被害者の死亡を積極的に意図していたとまでは認められないが,低速とはいえ自動車を被害者に衝突させ,更にボンネットに乗り上げさせた状態で,自動車を加速し,更に急制動をするという行為は,常識からして,自動車による轢過や転倒,転落の際の打ち所の悪さなどによって被害者が死亡する危険性が十分に高いものであることは明らかであり,立ちふさがる被害者を前にしながらためらうことなくそのような危険な運転行為に及んだその意思決定は,自らの利益を守るためならば人を死亡させることになっても構わないという生命軽視の姿勢の表れであると評価せざるを得ない。そしてこのことは,被告人が事件後にXと交わした手紙においても,その生命を奪っておきながら,被害者が被害車両の前に飛び出してこなければ死亡しなかったなどと,加害者と被害者という立場の違いを無視し,自身の都合のみを優先する身勝手な認識を吐露していることからも明らかであって,人の生命よりも逃走や盗品の確保といった自らの利益を優先する被告人の極めて身勝手な人格態度は,強い非難を免れない。被害者は,車好きであったとのことで,愛車である被害車両を取り返そうとして本件被害に遭い突如命を落としたものであって何ら落ち度はなく,遺族が厳罰を望むのは当然のことである。
確かに,強盗殺人の大本となった一連の自動車窃盗については,Xが首謀者的役割を果たしていたと認められる。しかしながら,被告人は,そうしたXに心酔し,Xと共に強盗殺人のわずか2日前に犯した判示第1及び第2の犯行も含め常習的に自動車窃盗に及んでいた中で,本件強盗殺人を犯すことになったのであって,窃盗未遂罪を含む累犯前科2犯を有し,最終刑の執行終了後約1年3か月で判示第1ないし第3の犯行に及んでいることからも,規範意識の鈍麻が顕著であり犯罪傾向を深化させていたと認められ,そうした思考傾向が上記のとおり自己の利益を生命より優先する意思決定に結び付いたと考えられるから,上記Xの役割に関する評価が殊更被告人の犯情を有利な方向で減ずることにはならない。このような強盗殺人の犯情に加え,上記①の自動車窃盗,③の傷害及び④の覚せい剤使用の犯情も併せ考慮し,さらに,一般情状として,被告人が犯行後に自らの刑事責任を免れようと画策し,未だに不合理な弁解に終始しているなど反省の態度が不十分であるといった被告人に不利な事情,強盗殺人以外については罪を認めているといった被告人に有利な事情もそれぞれ斟酌し,凶器を使用した強盗殺人罪や事後強盗殺人罪の量刑傾向を踏まえ,酌量減軽をする事情はないと判断して,求刑どおり無期懲役に処するのが相当であると判断した。(求刑:無期懲役)
(裁判長裁判官

坂田威一郎,裁判官

大野洋,裁判官
本田真理子)

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