判例検索β > 平成30年(わ)第596号
生命身体加害誘拐、逮捕監禁、傷害
事件番号平成30(わ)596
事件名生命身体加害誘拐,逮捕監禁,傷害
裁判年月日平成31年3月28日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第4部
裁判日:西暦2019-03-28
情報公開日2020-06-04 22:37:28
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主文
被告人を懲役3年に処する
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,A,B及びCと共謀の上,
第1

D(当時28歳)を生命又は身体に対する加害の目的で誘拐しようと企て,
平成30年2月23日午後1時10分頃から同日午後1時50分頃までの間,名古屋市(住所省略)EF店において,被告人が資金運用の依頼名目で呼び出していた前記Dに対し,

同居人がDさんと会って話をしたいと言っているので,会ってもらえませんか。

などと虚偽の事実を言って,前記Dにその旨誤信させ,よって,同日午後2時3分頃,前記A,前記B及び前記Cが付近で待機している同市(住所省略)ab号室まで被告人が前記Dを同行した上,同室内に同人を入室させ,もって生命又は身体に対する加害の目的で同人を誘拐し,第2

同日午後2時8分頃から同日午後2時49分頃までの間,前記ab号室にお
いて,同人に対し,その両手首及び両足首を紐様のものでそれぞれ緊縛するなどした上,同人を黒色手提げバッグ内に詰め込むなどし,同人を同室内から脱出することを不可能にさせ,もって同人を不法に逮捕監禁し,
第3

同日午後2時8分頃から同日午後2時35分頃までの間に,同所において,
同人に対し,その顔面を拳で複数回殴る暴行を加え,よって,同人に全治約3週間を要する顔面打撲等の傷害を負わせた。
【事実認定の補足説明】
1
争点
被告人及び弁護人は,第1(生命身体加害誘拐)の犯行について,被告人は
生命身体加害目的を有しておらず,共犯者と共謀した事実はないから無罪であり,第3(傷害)の犯行について,被告人には正犯意思がなくその罪責は幇助犯にとどまると主張する。
2
前提となる事実
関係証拠によれば,第1,第3の各犯行に係る外形的事実,すなわち,被告
人が,AやBの指示ないし意向に従って,資金運用の依頼名目で呼び出したD(以下被害者という。
)に対し,同居人が話をしたいと言っているので会ってほし
い旨嘘を言い,その旨誤信した被害者を,当時被告人とCが同居していたab号室(以下被告人方という。
)まで同行して誘拐したこと,また,その後,同所に
おいて,共犯者が被害者に対してその顔面を拳で複数回殴る暴行を加え,被害者に顔面打撲等の傷害を負わせたことはいずれも明らかと認められる。また,これらの前後を含む一連の経過の中での被告人の関与等について,関係証拠によれば次の事実が認められる。


被告人は,Bの指示により,平成30年2月14日から,元々知り合いで
あった被害者に最近初期金額の少ない利益出るビジネスありますか?などとのLINEメッセージを送信して被害者との接触を図り,同月15日,被害者に会って話をする約束を取り付けた。この間,被告人が,被害者とのLINEメッセージのやり取りを撮影したスクリーンショットをBに送信し,BがそれをAに転送するなどした。


被告人は,同月18日,名古屋市(住所省略)EF店において,被害者と
会って仕事の内容等を聞き出し,その後,被告人とBは,その結果を報告するため,ショッピングモールの駐車場でAと会い,その際,Aから,被害者の誘い出しに成功したら報酬を支払うなどとの趣旨を告げられた。


被告人は,同月22日午後11時30分頃,Cにガラステーブルだけ外に出しといてだって割れるからなどとのLINEメッセージを送信し,これ
に対し,Cは,
おけ
ほかなにかやっておくことある?などと返信して,その
後,被告人方に置かれていたガラステーブル(以下本件ガラステーブルという。
)をベランダに移動させた。


被告人は,被害者に対し,再び投資の話を聞きたいなどと申し向け,同月
23日,前記EF店で被害者と会い,被害者を被告人方に連れ出そうとしたものの,一旦被害者に断られ,Bに電話でその旨連絡した際,Bから,同居人が話を聞きたがっていると嘘を言って被害者を被告人方に連れてくるよう指示され,その指示どおり前記誘拐に及んだ。


同日午後2時3分頃,被告人が被害者を連れて被告人方に入った後,Cは,
被告人が被害者に告げていた虚偽の名目に係る同居人を演じて被告人方に入り,それから間もなく,AとBも被告人方に入った。


その後,被告人は,Aの指示を受け,B,Cと共に,被害者の身体を押さ
え付け,自身でその足首を紐様のもので縛り,その衣服をはさみで切断するなどした。


被告人は,同日午後2時49分頃,被害者がBに命じられて自らその中に
入った大型の黒色手提げバッグをCと共に被告人方マンションから運び出し,これをAの自動車の後部座席に乗せた。
3
検討
⑴ア

以上のとおり,被告人は,Bの指示の下,被害者を同行して被告人方に
入室させるその実行役を担ったものであるところ,本件事件の前日には,Cに対し,本件ガラステーブルを片付けておくよう指示しており,これは,Bらの指示をCに伝達したものと解される。この指示が,被害者を被告人方に連れてくれば,抵抗する被害者に対し,Bらが暴行を加えるなどの事態となる可能性が非常に高いと見込まれることから,そうした事態に備えるため本件ガラステーブルを片付けておく必要があるなどとの趣旨を含意していることは,容易に察しのつくところであったというべきである。
そうすると,被告人は,遅くともCに前記指示をした時点において,被害者を被告人方に誘い入れ,同所で被害者に暴行を加えることについては,当然にあり得べき成り行きとして十分想定していたものと認められ,ひいては共犯者との間で,生命又は身体に対する加害の目的で被害者を誘拐すること,更には,現に被害者に暴行を加えることにつき意思を通じ合っていたものと強く推認されるところである。イ
また,被告人は,本件事件当日,前記のとおり被害者を被告人方に誘い
入れ,AとBが被告人方に入って以降は,被告人の供述によっても,AやBがかなりの勢いで被害者に向かっていくなどする騒然とした状況を目の当たりにしたにもかかわらず,なおもAの指示に従って,被害者の身体を押さえ付け,その足首を紐様のもので縛り,その衣服をはさみで切断するなどし,更には,暴行を受けて顔面が腫れ上がるなどした状態の被害者が入った黒色手提げバッグを,Cと共に被告人方マンションから運び出し,Aの自動車の後部座席に乗せるなど,一貫して,AやBに指示されるがまま,事態の推移に応じた協力をしつつ同人ら共犯者と行動を共にしていたものである。
この間,被告人は,共犯者が被害者に対してその顔面を拳で複数回殴る暴行を加えた場面は見ていない旨述べているものの,いずれかの共犯者が被害者にそのような暴行を加えて顔面打撲等の傷害を負わせたことは証拠上明らかと認められ,その現場は相当に凄惨な状況を呈していたことが窺われるところ,そのような状況の中,これを容認して,被告人が前記のとおり共犯者に協力し,共犯者と行動を共にしていたことは,被害者に対する暴行について,この現場においてはさることながら,前記アのとおり,この現場に臨む以前から,共犯者との間でその旨意思を通じ合っていたことを合理的に推認させる事情である。

なお,被告人は,AやBに加害の意図があることは知らず,ただ同人ら
の指示に従ったにすぎないなどと供述するが,以上に述べたところに照らし,その供述は不自然不合理というほかなく,信用することができない。

以上によれば,被告人は,遅くとも本件事件の前日に,Cに本件ガラス
テーブルを片付けておくよう指示をした時点において,共犯者との間で,第1,第3の各犯行,すなわち被害者を生命又は身体に対する加害の目的で誘拐すること,更には被告人方で被害者に暴行を加えることにつき,共犯者と意思を通じ合っていたものと認められる。
⑵ア

そして,その上で,被告人は,被害者に虚偽の事実を告げて被害者を同
行し,被告人方に入室させるという第1の犯行の実行行為そのものを担当しているのであるから,同犯行について,被告人が実行共同正犯としての罪責を負うことは明らかである。

また,その後に行われた第3の犯行についても,被告人は,被害者に対
する暴行の実行行為そのものを行ったものではないものの,被告人方において,被害者の身体を押さえ付け,その足首を紐様のもので縛り,その衣服をはさみで切断するなど,被害者に対する物理的な実力行使にも及んでおり,被告人が,共犯者による暴行に必要かつ重要な役割を担ったと評価し得ることは明らかである。これらの被告人の行為は,いずれも共犯者の指示によるものであったとはいえ,被告人は,被害者に対する暴行に向けられたそれらの指示の意味するところを十分認識していながら,特段の抵抗もなくこれに従って行動しており,被告人の犯行への関与には,相応の主体性,積極性も認められる。
加えて,被告人は,前記のとおり,本件事件の前に,Aから,何らかの報酬を得られる旨示唆されていたと認められるところ,この点,Cの供述によれば,被告人は,Cとの会話の中で,本件により何らかの利得を手にする意図を前提とした発言をしていたともいうのである。被告人はこの事実を否認するが,Cは,当時から被告人と同居するなど親しい間柄にあったもので,Cが供述するその他の供述内容にも不合理な点が見当たらないこと等にも照らせば,Cのこの供述は信用することができる。そうすると,被告人は,一定の利欲目的を有して本件に関与したものであることが窺われ,このことも,被告人が単にAやBの犯罪に加担するというにはとどまらず,自己の犯罪を行う意思で犯行に関与したことを推認させる。そうすると,第3の犯行についても,被告人は,自己の犯罪を行う意思,すなわち正犯意思を有してこれに関与したものと認めるのが相当である。4
結論
以上の次第であり,被告人は第1,第3いずれの犯行についても共同正犯としての罪責を免れない。
【法令の適用】
1罰

第1の行為につき

刑法60条,225条

第2の行為につき

刑法60条,220条

第3の行為につき

刑法60条,204条

2
刑種の選択

第3の罪につき,懲役刑を選択

3
併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い
第3の罪の刑に法定の加重〔ただし,短期は第1
の罪の刑のそれによる〕


4
未決勾留日数の算入

刑法21条

5
訴訟費用の処理

刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない)

【量刑の理由】
被告人らは,加害の目的を秘して被害者に虚偽の事実を告げ,被害者を被告人方に誘い入れた上,4人がかりで押さえ付け,手足を縛り,着衣を切断するなどして一方的にその行動の自由を奪い,その間に顔面を複数回殴る暴行を加えて被害者に全治約3週間を要する傷害を負わせ,挙げ句は被害者をバッグの中に詰め込み,そのバッグを被告人方から運び出すなどしたもので,一連の犯行態様は被害者の人格を無視した誠に残忍なものである。被告人らは,相互に密接に連絡を取り合って事前に犯行を計画し,各々の立場に応じた役割を分担しており,一定の計画性も認められる。被害者が抱いたであろう屈辱や恐怖感,無力感は察するに余りあり,バッグ内に詰め込まれた被害者が共犯者に連れ去られた後に死亡していることとも相俟って,被害者の遺族が被告人らの厳罰を望むのも至極もっともなことというべきである。被告人は,共犯者の指示に従った従属的立場であったとはいえ,自身も一定の利欲目的を有し,さしたる躊躇もなくそれらの指示に従い,誘拐の実行行為を始めとして各犯行に主体的かつ積極的な関与をしているのであって,その刑責はCより重く,A,Bに次ぐものである。
そうすると,被告人の刑事責任は重く,被告人が公判廷において事実関係については概ね認め,反省の言葉を述べていること,被害者の遺族に対して合計200万円の弁償金を支払っていること,被告人に前科がないこと,被告人の母が社会復帰後の監督を誓約していることなどの酌むべき事情を勘案しても,本件において被告人に執行猶予を付することが相当であるとはいえず,酌むべき事情はその刑期の面で十分考慮することとし,被告人に対しては主文の期間の実刑を科するのが相当であると判断した。
(求刑-懲役4年)
平成31年3月29日
名古屋地方裁判所刑事第4部

裁判長裁判官

神田大
裁判官

寺本真
裁判官

藤本助依子理
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