判例検索β > 平成30年(ネ)第2158号
事件番号平成30(ネ)2158
裁判年月日令和元年6月14日
法廷名大阪高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名京都地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)815
裁判日:西暦2019-06-14
情報公開日2019-07-22 16:00:10
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主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

当事者の求めた裁判

1
控訴人


原判決を取り消す。



被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成27年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


2
訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
被控訴人
主文同旨

第2

事案の概要

1
本件は,京都拘置所に勾留中に起訴された控訴人が,刑事事件の第1回ない
し第5回公判期日に出頭した際,護送を担当した刑務官らにより手錠及び腰縄(以下手錠等という。
)を施され,入廷及び退廷の時に,これを解かれな
い状態であったことについて,①控訴人の公判を担当した裁判官が,上記各公判期日において,控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないよう適切に法廷警察権を行使しなかったこと,②控訴人の護送をした刑務官らが,上記各公判期日において,控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないよう,入廷前に手錠等を外し,退廷後に手錠等を施す等の適切な措置を採らなかったこと,③京都拘置所首席矯正処遇官が勤務要領(手錠等の取扱いを含む。
)を発出したことが,いずれも国家賠償法1条1項の適用上違法
であり,これによって控訴人に精神的損害が生じた旨主張して,被控訴人に対し,同項に基づく損害賠償請求として,10万円及びこれに対する最初の違法行為(第1回公判期日)以降の日である平成27年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。原審は,控訴人の請求を棄却し,控訴人が控訴した。
2
関係法令等,前提事実(当事者間に争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実),争点及びこれに関する当事者の主張は,後記3で当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決事実及び理由の第2事案の概要の2ないし4のとおりであるから,これを引用
する。
ただし,3頁26行目の本件刑事事件を本件各公判期日と,13頁各改める。
3
当審における控訴人の補充主張


本件裁判官の法廷警察権行使の違法について

刑訴法287条1項違反について
刑訴法287条1項にいう公判廷は,場所的概念として解釈される
べきである。
仮に,公判廷を実体的審理の開始から終了までと解するとしても,同項の趣旨は,身体拘束が防御活動を保障された被告人の心理面へ及ぼす影響に着目するとともに,手続の公正を外形的にも確保することにあるところ,被告人は,実体的審理の開始前後に手錠等を施された姿を傍聴人に見られることにより,屈辱感,羞恥心等の心理的影響を受けた状態でその後の審理に臨まなければならなくなることに加え,被告人が犯罪者であるかのような印象を与えることになるなど外形的な手続の公正に反する。したがって,公判廷における身体不拘束の原則は,実体的審理の開始前及び終了後にも及ぼされなければならない。

人格権侵害(憲法13条,自由権規約7条,10条違反等)について被告人が公判廷において手錠等により身体の拘束を受けている状態が公表されることは,被告人を侮辱し,名誉感情を侵害するものであるところ(最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁),被告人が公開の法廷において手錠等により身体の拘束を受けている姿を法廷内の人々の目にさらすことは,公表と同じであり,被告人を侮辱し,名誉感情を侵害するものとして人格権の侵害に当たることは明らかである。したがって,比例原則に従い,被告人の名誉感情が害されるその具体的内容や程度の検討,及びそれに応じた代替手段が検討されるべきであったが,本件ではそれがされなかった。
被告人が手錠等を施された姿を法廷内の人々の目にさらすことは,品位を傷つける取扱いとして,自由権規約7条,10条に違反するとともに,拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下拷問等禁止条約という。)16条に違反し,また,非収容者に対する処遇最低基準を定め,手錠等の拘束具の使用について比例原則が採用されている,国連被拘禁者規則33条及び改訂決議47条,48条にも違反する。

公平な裁判を受ける権利,無罪推定の権利等の侵害(憲法31条,37
条,自由権規約14条2項違反等)について
無罪推定の権利保護のためには,原則として,形式的にも無罪の推定を受ける者として一般人と同様に扱われるべきであるから,可能な限り被告人の人格権を尊重するよう訴訟指揮権や戒護権が行使されるべきであったにもかかわらず,本件裁判官が,他にとり得る代替手段等について検討しないまま,漫然と手錠等を施したまま入退廷させた行為は無罪推定の権利(憲法31条,37条,自由権規約14条2項)を侵害するものである。また,手錠等を施したまま入退廷させる行為は,当事者追行主義及び適正手続に反し,当事者対等主義(憲法31条,32条,34条,37条等)に反するし,また,被告人が犯罪者であるとの先入観を傍聴人が抱くことになり,裁判が公正に行われていることを国民に監視させるという裁判公開の原則(憲法82条1項)の趣旨にも違反する。


平等権侵害(憲法14条1項違反)について
手錠等の戒具を使用するに際しては,刑事収容施設法78条1項の要件として,戒具を使用する必要性,相当性を個別具体的に判断する必要があるところ,身体拘束を受けている刑事被告人について,身体拘束を受けているとの一事をもって,その他の市民や身体拘束を受けていない刑事被告人とは異なり,上記の要件を個別具体的に検討することのないまま手錠等の戒具が使用され,さらに,手錠等を施された姿を傍聴人の目にさらす扱いを受けることは,憲法14条1項により保障される平等権の侵害に当たる。

第3

当裁判所の判断

1
当裁判所は,原判決と同様に,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2で当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。⑴

15頁12行目の保証を保障と改める。



16頁11行目の被収容者を護送する場合,から同頁14行目の末尾
までを削除する。


16頁23行目の末尾の次に,改行の上,次のとおり加える。

そして,上記のとおり,同法78条1項では,被収容者を護送する場合には,その逃走等を防止する十分な人的,物的設備がなく,逃走等のおそれが類型的に高まることから,捕縄又は手錠を使用するための要件として,逃走のおそれ等の同項各号所定の要件を満たすことは要求されておらず,ただ,刑務官は,捕縄又は手錠を使用するか否か,あるいはこれらを併用するか否かにつき裁量を有することから,同項の上記の趣旨に鑑み,明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。したがって,同項の解釈としては,控訴人が主張するように,被収容者を護送する場合,手錠等を使用するための要件として,積極的に手錠等を使用する必要性,相当性が要求されるのではなく,明らかに必要性,相当性を欠く場合にのみその使用が許されないものと解するのが相当である。⑷

17頁9行目及び11行目の手錠を手錠等と各改める。



17頁21行目の冒頭から18頁22行目の末尾までを,次のとおり改め
る。
前記前提事実のほか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。①控訴人は,本件刑事事件(覚せい剤取締法違反及び道路交通法違反被告事件)につき無罪を主張して争っていた者であり,少なくとも平成27年9月18日の第1回公判期日から平成28年2月26日の第5回公判期日までの間,京都拘置所に勾留されていた。②控訴人は,その陳述書において,今まで100回以上手錠及び腰縄を掛けられてきており,そのこと自体には慣れてしまい受け入れていたが,特に無罪を主張している場合に犯罪者であるかのような手錠及び腰縄の姿を傍聴人に見られるのは嫌であるし,控訴人の両親は既に他界しているものの,もし親や親族が手錠及び腰縄の姿を見たら悲しむであろうから見られるのは嫌であり,手錠及び腰縄の姿を見れば裁判官が予断を抱くのではないかと危惧している旨供述している。(甲27,48)③本件裁判官は,本件刑事事件の弁護人からの申入れに対し,第2回公判期日において,裁判官との間の遮へい等の措置については,法廷警察権の行使に支障が生じるため,応じられず,また,傍聴人との間の遮へい等の措置については,入退廷に充てる時間が増大することにより審理に充てられる時間が減少する等の現実的な支障が生じる一方で,弁護人らが指摘する傍聴人に生じさせる『被告人が有罪であるかのような偏見』等と手錠等との関連性は明らかではなく,前記支障を生じさせてまで実施する必要性が高いとまではいえない旨説明した。(甲1,2)④法廷に入退廷する際の手錠等の使用については,昭和32年5月7日付け矯正局長通達『刑事法廷等における事故の防止について』により,法廷内において被告人が裁判官・検察官又は弁護人に対して暴行を加える等の事故が発生している現況に鑑み,留意点の一つとして,手錠等を使用した場合は,開廷と同時に開錠し,閉廷時に直ちに施錠して退廷させることとされていた。(乙1)⑤その後,被告人から傍聴に来る予定の家族等に手錠等を施された姿を見せたくない旨の申入れがあるなどした場合に,事案に応じ,裁判官の訴訟指揮により,手錠等を開錠した後に傍聴人を入廷させ,傍聴人を退廷させた後に施錠するなどの措置が採られた事案もあった。(甲9,11~15)⑥平成5年7月19日付け最高裁事務総局刑事局長,家庭局長通知により,法廷に入退廷する際の手錠等の使用について,法務省矯正局からは,被告人が法廷外で立ったままの状態で戒具を取り外した場合には逃走のおそれが高いこと等を理由に,戒具の取り外しは被告人席で行うことを原則としてもらいたい旨強い希望があったこと,刑事局においては,被告人の逃走防止のための法廷の構造上あるいは設備上の手当てについても関係局と検討してきたが,近い将来そのための予算上の措置を講ずることは難しい状況であること,今後,特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には,裁判官,被告人及び傍聴人の入退廷の順序に配慮することにより,傍聴人のいないところで開錠し,又は施錠させるという運用を原則とすることが相当であると考えられることなどが通知された。そして,上記通知を受け,同日付け矯正局長通知『刑事法廷における戒具の使用について(通知)』により,法務省矯正局においては,裁判官から特段の事情がある場合に該当する事案として協議の申入れがあった場合には,法廷外における戒具取り外しによる逃走等の保安事故発生の危険性の増大という点につき裁判所の理解を求めるとともに,保安事故の防止に万全を期する観点から,裁判所と十分に協議を尽くすなど慎重に対応することとされた。(甲10)⑦その後,裁判員裁判については,平成21年7月24日付け矯正局成人矯正課長通知『裁判員の参加する刑事裁判の法廷における手錠等の使用について(通知)』により,裁判所は,裁判員に被告人の手錠等を見せないために開廷の前に被告人の手錠等を外すこと(以下『事前開錠』という。)について,弁護人の要望を踏まえて判断すること,事前開錠を行う場合の具体的な手順については,刑務官が被告人の手錠等を施したまま入廷し,裁判体は法廷につながるドアの前で待機し,裁判長が書記官を通じて開錠を指示し,刑務官が開錠した後,直ちに裁判体が入廷すること,閉廷時には,裁判員が退廷し,陪席裁判官が退廷を始めるのと同時に,裁判長が刑務官に手錠等の着用を指示し,裁判長は,被告人の手錠等の着用が完了したのを確認して退廷することを原則としつつも,各裁判所の実情に応じ適宜の方法を採ることは差し支えないとされた。(乙2)⑧刑事事件の公判期日の閉廷後,刑務官が被告人に手錠等を着用しようとした際に,被告人が,刑務官を振り切って法廷から逃走した事案については,少なくとも新聞報道されたものとして,平成25年,平成27年,平成28年に各1件があった。(乙5)控訴人は,本件裁判官が,入退廷時に控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないよう適切な措置を採らなかったことは,控訴人に対する屈辱的な扱いであり,その自尊心や品位を傷つけるものとして憲法13条,自由権規約7条,自由権規約10条等に違反する旨主張する。そして,被告人が手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人に見られることは,被告人にとって屈辱的なことであり,自尊心が傷つけられるなどし,人格的利益や名誉感情が害されるおそれがあることは否定できない。しかしながら,かかる被告人の人格的利益や名誉感情も,これに優越する公共の利益のための必要から,一定の合理的制限を受けることがあることもやむを得ないところ,法廷においては,事故や被告人の逃走等を防止し,円滑な訴訟の運営を維持するため,裁判官の法廷警察権の行使との関係で一定の制約を受けざるを得ない。そして,前記⑴のとおり,裁判官の法廷警察権の行使は,裁判官の広範な裁量に委ねられ,裁判官は,当該刑事被告事件の内容や性質,被告人の状況,傍聴席の状況,法廷等の裁判所庁舎内の設備の状況,護送職員の態勢等諸般の事情を考慮し,入退廷時に被告人に手錠等を使用するか否かを判断することができるものと解するのが相当である。④ないし⑧の認定事実によれば,入退廷時に被告人に手錠等を使用しない取扱いの可否等については,検討が重ねられてきたものの,手錠等の開錠や施錠をする際には逃走のおそれが高いことから,入退廷時に被告人に手錠等を使用しない取扱いを原則とするには,なお,人的物的設備が不十分な状況にあること,裁判員裁判の法廷においても,裁判員の予断排除等の観点から,入退廷時に被告人に手錠等を施された姿を裁判員には見られないようにする措置が採られているものの,裁判官や傍聴人との関係ではかかる措置は採られていないこと,一方で,特に手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には,事案に応じ,裁判官の判断により,傍聴人のいないところで開錠し又は施錠させる措置が採られていることが認められる。そして,現在の法廷等の裁判所庁舎内の設備の状況,護送職員の態勢等諸般の事情を考慮すると,入退廷時に被告人に手錠等を使用しない取扱いをするか否かは,裁判官の法廷警察権の行使として,個別の事案における裁判官の広範な裁量に基づく判断に委ねられているものと解するのが相当である。①ないし③の認定事実によれば,本件では,控訴人は,無罪を主張して本件刑事事件の犯罪事実を争っていた者であるものの,過去にも手錠等を施された経験のある成人男性であって,傍聴席に両親や親族が来ているなどの事情もなく,他方,本件裁判官としては,裁判官や傍聴人との間の遮へい等の措置を採ることは,法廷警察権の行使への支障や時間的な制約等から難しいとの見解を示していたことが認められることからすれば,本件裁判官が,このような本件被告事件の内容や性質,被告人の状況,傍聴席の状況,法廷等の裁判所庁舎内の設備の状況等の諸般の事情を考慮し,裁判官や傍聴人との間の遮へい等の措置を採らなかったことについて,裁判官の法廷警察権の行使として,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものと認めるに足りない。以上によれば,本件裁判官が,入退廷時に控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないようにする措置を採らなかったことが,人格的利益や名誉感情に対する制約として,憲法13条に反するということはできない。そして,自由権規約7条,10条は,憲法13条により保障される以上の権利を保障するものと解することはできないから,本件裁判官の上記行為が自由権規約7条,10条に反するということもできない。⑹

19頁4行目の上記アのとおり,を削除する。



20頁4行目の冒頭から同頁19行目の末尾までを,次のとおり改める。
⑴国家賠償法1条1項にいう違法とは,個別の国民の権利ないし法益の侵害があることを前提として,公権力の行使に当たる公務員が当該個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいうものと解するのが相当である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。そして,刑務官は,被告人の事故や逃走等を防止するために戒護権を有しているが,法廷においては,開廷中及びこれに接着する前後の時間は,裁判官の法廷警察権が及んでいることから,刑務官は,原則として,かかる裁判官の法廷警察権の行使に従う必要がある。そうすると,本件では,控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないよう,入廷前に手錠等を外し,退廷後に手錠等を施す等の措置を採らなかったことが違法であるか否かは,上記の国家賠償法1条1項の違法性の判断枠組みに即して,本件刑務官らが,本件各公判期日の開廷の前後の時間に,本件裁判官の法廷警察権の行使に従ったことが違法であるか否かを判断するのが相当である。⑵本件刑務官らが,入廷前に控訴人の手錠等を外し,退廷後に手錠等を施す等の措置を採らなかったことが,刑事訴訟法287条1項及び刑事収容施設法78条1項に違反しないことは,前記1⑵及び⑶のとおりである。そして,憲法及び自由権規約との関係については,入廷前に控訴人の手錠等を外し,退廷後に手錠等を施す等の措置を採らなかったという本件裁判官の法廷警察権の行使が,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項との関係に加え,国連被拘禁者規則33条及び改訂決議47条,48条に反しないことは,前記1⑷のとおりであるから,本件各公判期日において,かかる本件裁判官の法廷警察権の行使に従った本件刑務官らの行為もまた,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項との関係に加え,国連被拘禁者規則33条及び改訂決議47条,48条との関係においても,職務上の法的義務に違反するとはいえず,国家賠償法1条1項の適用上違法であるものと認めるに足りない。⑻

20頁22行目の冒頭から同頁24行目の末尾までを削除する。



21頁12行目の末尾の次に,改行の上,次のとおり加える。

したがって,本件指示が刑事訴訟法287条1項及び刑事収容施設法78条1項に違反し,京都拘置所首席矯正処遇官が本件指示を発出したことが国家賠償法1条1項の適用上違法である旨の控訴人の主張は,その前提において採用することができない。
2
当審における控訴人の補充主張に対する判断


控訴人は,前記第2の3⑴アのとおり主張する。
しかしながら,補正の上引用に係る原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1⑵によれば,刑事訴訟法287条1項にいう公判廷とは,当該刑事事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続を開始した時から同手続を終了するまでの間の,当該手続がされている法廷を意味するものと解するのが相当であるところ,同項の趣旨は,このような公判廷において,被告人の身体を拘束されることによる心理面への影響を排除し,自由な防御活動の保障し,手続の公正を期するものと解されるから,同項の規定が,上記の公判廷における身体の不拘束を超えて,実体的審理の開始の前後における身体の不拘束をも保障したものと解することはできない。


控訴人は,前記第2の3⑴イ

のとおり主張する。

しかしながら,法廷は傍聴人に公開された場所であるものの,法廷における被告人の動静等をそのまま新聞,雑誌等に掲載するなどして公表することが社会生活上受忍すべき限度を超える場合もあるのであるから,被告人の姿が法廷において傍聴人に見られることと,上記の公表の場合とを同一に考えることはできない。そして,補正の上引用に係る原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1⑷アによれば,本件の事案の具
体的内容等を検討しても,裁判官や傍聴人との間の遮へい等の措置を採らなかったことが,裁判官の法廷警察権の行使として,裁判官の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法であると認めるに足りないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。

しかしながら,補正の上引用に係る原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1⑷アのとおり,本件裁判官の法廷警察権の行使が,憲法13条,自由権規約7条,10条に反しないことから,品位を傷つける取扱いの禁止につき,これらの条項と同旨の拷問等禁止条約16条に反するということもできない。また,国連被拘禁者規則33条及び改訂決議47条,48条は,本邦における法的拘束力を有しないものであるところ,上記各条項を超えて手錠等の使用を制限するものと解することはできない。⑶

控訴人は,前記第2の3⑴ウのとおり主張する。
しかしながら,補正の上引用に係る原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1⑷アないしウによれば,本件の事案の具体的内容等を検討しても,本件裁判官が,裁判官や傍聴人との間の遮へい等の措置を採らなかったことについて,裁判官の法廷警察権の行使として,裁判官の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものと認めるに足りない。また,本件裁判官の上記の法廷警察権の行使が,憲法31条,32条,34条,37条,自由権規約14条2項に反するということはできず,裁判の公開の原則(憲法82条1項)にも反するということはできないから,控訴人の上記主張は採用することができない。


控訴人は,前記第2の3⑵のとおり主張する。
しかしながら,憲法14条1項の規定は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。そして,補正の上引用に係る原判決事実及び理由の第3当裁判所の判断の1⑷アのとおり,身体拘
束を受けている刑事被告人が,刑事公判期日の入退廷時に,手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人に見られることにより,その人格的利益や名誉感情が裁判官の法廷警察権の行使との関係において一定の制約を受けることは,身体拘束を受けていない被告人やその他の国民とは異なり,身体拘束を受けている刑事被告人の立場に起因する合理的な区別であるというべきである。したがって,本件裁判官が,控訴人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られないよう措置を採らなかったことが,身体拘束を受けていない被告人やその他の国民との関係において,平等権の侵害に当たるということはできない。


その他,控訴人の原審及び当審における主張に鑑み,記録を検討しても,前記認定判断を左右しない。

3
そうすると,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

横田

谷光宏部幸弥田典子
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