判例検索β > 平成30年(ろ)第838号
不正競争防止法違反
事件番号平成30(ろ)838
事件名不正競争防止法違反
裁判年月日平成31年2月8日
裁判所名・部東京簡易裁判所
裁判日:西暦2019-02-08
情報公開日2020-06-04 22:39:46
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平成31年2月8日宣告
平成30年(ろ)第838号不正競争防止法違反被告事件
主文
被告人A株式会社を罰金3000万円に,被告人Bを罰金200万円にそれぞれ処する。

被告人Bにおいて罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人A株式会社(以下被告会社という。)は,ゴム製品,合成樹脂製品その他化学製品の製造,販売等の事業を営むもの,被告人Bは,被告会社代表取締役社長として同社の業務を統括していたものであるが,被告人Bは,被告会社C製作所品質保証室品質保証グループDらと共謀の上,同社の業務に関し,被告会社がE,Inc.を介してF,Inc.から受注して製造した半導体製造装置部品であるシリコン
ゴム製のG4110枚につき,平成29年5月24日頃から同年9月26日頃までの間に和歌山県有田市ab番地被告会社C製作所において検査した結果では各GがFとの間で合意した硬さについての仕様を満たしていなかったにもかかわらず,同仕様を満たした旨記載した内容虚偽の検査成績書を作成した上,別表(省略)記載のとおり,前記Dにおいて,同年6月26日頃から同年10月16日頃までの間,20回に
わたり,同製作所に設置されたパーソナルコンピュータを用い,同検査成績書に記載された内容虚偽の数値に基づいて,各Gが同仕様を満たした旨の内容虚偽のデータをFが使用する統計的工程管理システムに入力してアップロードし,東京都港区cd丁目e番f号gH株式会社において,Fの本邦内業務を担当するHの従業員が同データを閲覧できる状態にし,もって取引に用いる通信に商品の品質について誤認させるよ
うな虚偽の表示をした。
(証拠)省略

(法令の適用)


被告会社につき

包括して不正競争防止法22条1項3号,21条2項
5号

被告人Bにつき

包括して刑法60条,不正競争防止法21条2項5号

刑種の選択
被告人Bにつき

罰金刑を選択

労役場留置
被告人Bにつき
刑法18条

(量刑の理由)
1本件は,被告会社代表者であった被告人Bが,同社従業員らと共謀して,同社が顧客から受注して製造したシリコンゴム製の半導体製造装置部品について,品質検査の
数値を改ざんして,
内容虚偽のデータを顧客が使用する統計的工程管理システムにア
ップロードし,商品の品質について誤認させる虚偽の表示をした事案である。
2【犯行に至る経緯】
⑴被告会社は,航空機等の部品に組み込まれる航空宇宙分野用のゴム製品及び本件のような半導体製造装置等に組み込まれる一般工業用のゴム製品等を製造・販売することを業としており,I株式会社の100パーセント子会社である。⑵被告会社C製作所では,製品については,品質保証室の検査グループにおいて,
顧客から指定された高さ,幅,厚み等の寸法検査と硬さ,引っ張り強さ等の物性検査が,シリコンゴムの試験片で抜取り検査によって実施され,検査数値及び合格・不合格の判定を記載した検査成績書が作成され,
合格の場合は顧客の要望によりこ
れを交付して出荷していた。検査の結果,不適合品が発生した場合は,本来は,再審手続により,①修理(再加工),②廃却,③顧客の承認を得てそのまま出荷する
などの措置が取られることになっていた。
ところが,被告会社では,受注獲得を優先する余り,顧客仕様による製造が可能
か否かを慎重に検討することなく受注していたため,
不適合品が多発する事態が生
じたことから,同社C製作所においては,本来の再審手続によることなく,検査結果が不適合であっても,
技術開発部が機能上の問題がない旨のコメントを付すこと
により,
顧客の了承を得ずにそのまま出荷を認める
社内再審
が横行すると共に,
これと並行して,検査グループ内においても,製造部門や営業部門から,不良率を上げないようにとか,納期厳守等の圧力を受け,遅くとも20年以上前から,歴代の検査場長において,
不適合品であっても技術開発部から機能上問題がないとの意
見が得られて合格として出荷が認められた前例について,仕様値,許容値等を記載したメモ等をファイルに綴り,シルバーリストと称して引き継いで管理し,勝
手に,
検査結果が不適合であってもシルバーリストの前例と同程度の検査数値であれば,
顧客仕様を満たすよう検査数値を改ざんした内容虚偽の検査成績書を作成して提出するなどし,顧客の承認を得ることなく出荷する扱いが常態化していた。そして,平成20年11月頃には,当時の検査場長が,従前のシルバーリストをパーソナルコンピュータでデータベース化して検査グループの共有フォルダに保存し
て管理するようになった。また,平成24年7月17日付で技術開発部から品質保証室宛に送付された技術連絡書(甲8の10頁及び添付資料2参照)によれば,①硬さの検査規格を,
現行の45±5から社内管理値として37~47と変更するこ
と,②顧客から試験データの開示を求められた場合は,顧客規格値範囲内で報告することとし,検査規格変更の理由は,ブレンドして使用する原料のシリコンゴムの
硬度が原因で40以下になるおそれが十分あるが,
硬さが37程度でも40程度の
ものとモジュラスは大差なく,
過去にも同様の硬さのものを出荷したことがあるが
問題となっていないので,硬さ37でも顧客が使用できるからとしており,硬さが不合格となるおそれがあることを承知の上で,
品質保証室の品質保証グループと検
査グループによる検査数値改ざんと不適合品の出荷にいわばお墨付きを与えてい
たことが認められる。
3【本件の共謀状況等】

平成28年8月頃,Iの子会社である株式会社Jにおける検査数値の改ざんによる不適合品出荷等が発覚したことを端緒として,Iによるグループ各社に対する臨時品質監査が実施され,同年12月頃,同監査により,被告会社C製作所は,本件とは別の顧客への出荷について問題の指摘を受け,社内再審で出荷したことが発覚した。平成29年1月末頃,その報告を受けた被告人Bは,
同年2月始め,Iの金属事業カンパニーバイスプレジデントKに報告すると共に,当該顧客に告知・説明し,その対応に追われる事態となった(以下先行問題という。)。⑵
このことが契機となって,同年2月上旬頃,検査場長は,上司の品質保証室長に対し,シルバーリストの存在と運用について報告し,技術部門は機能的には問題はないとの意見であり,顧客からのクレームは受けていない旨説明した。品質保証室長は,先行問題についての対応が決着していない段階で,シルバーリストに記載された多数の製品,顧客相手に対応することは被告会社のマンパワーでは無理であり,社内では機能上の問題はないと判断されているこ
と,顧客からのクレームも受けていないことから,当面の間は,シルバーリストに基づいて不適合品の出荷を続けながら,シルバーリストの対象を新たに増やさないように厳格に管理し,不適合品の出荷については同室長自身がチェックする体制にして,その間に不適合品発生の原因究明や改善策の検討を進めるべきであると判断し,同年2月上旬頃,上司のC製作所長に報告・相談して,
自身の方針案について了承を得た上で,更に常務取締役であるシール事業部長及び社長の被告人Bに報告して,当面の方針について具申したところ,シール事業部長も了承し,被告人Bも包括的に了承した上で,①シルバーリストの全容を早急に調査し,②シルバーリストの対象が増えないよう厳格に管理すること,③不適合品発生の原因究明及び改善の準備,④顧客に対し,仕様を緩和し
てくれるよう交渉していくことを指示した。また,シール事業部長も,別途,被告人Bにシルバーリストの件を報告したところ,当面の方針案が了承され
た。その結果,その後も,シルバーリストによる運用が継続された。⑶

その後,シール事業部長から被告人Bに対し,先行問題の対応に追われているので,シルバーリストに関する調査,検討は先行問題が一段落してからにしてほしいとの申出があり,被告人Bは先送りすることを了承した。その後,先
行問題が一段落した同年5月頃,不適合品発生に対応するため,被告人Bの指示により,C製作所にシール事業部長をリーダーとする品質改善プロジェクトが立ち上げられ,不適合品発生の原因及び再発防止策等を検討して,8月の夏休み前くらいまでに報告するようにとの指示を受けたが遅々として進まず,中間報告が提出されたのは,同年10月半ば頃であり,その内容も不十分なもの
であったことから,被告人Bは,再度同年11月初旬までには顧客対応を開始できるよう検討することを指示した。その直後,被告人Bは,ソフトランディングを諦めて,同年10月23日,シール事業部長とC製作所長に対し,不適合品の出荷停止を指示した。その数日後,被告人Bは,IのKに対し,シルバーリストによる不適合品出荷問題を報告し,同年11月に入って顧客に対して
も告知・説明を始めたところ,同月23日,Iは,記者会見を開いて被告会社の検査数値の改ざんによる不適合品出荷問題を公表した。
4【本件の犯行状況等】
被告会社は,15年ほど前から本件の顧客であるFとの間で,Fが製造する半導体製造装置に組み込むゴム製部品を製造して納品する継続的取引を行うよ
うになり,半導体原材料板(ウエハ)の研磨装置にウエハを固定する吸着用パッドであるGの製造を継続して受注し納品するようになった。被告会社は,Fに対し,
Gを主力とした製品を月々1億数千万円から2億円前後,
年間約十数億円
を製造,販売した。
Gの品質検査については,Fとの取決めで,被告会社は,顧客仕様に基づき
製品の外径等の寸法検査と硬さなどの物性検査を行うことになっており,しかも5年ほど前から,検査結果をすみやかにFが使用する統計的工程管理システム
にアップロードすることにより,Fの従業員が閲覧できるようにして,リアルタイムでF側が工程管理をする方法が採用されていた。ところが,C製作所品質保証室検査グループにおいては,顧客仕様上の硬さの数値は45±5の範囲であったにもかかわらず,シルバーリストに基づいて,数値が37以上であれば,顧客仕様の範囲内である40に書き換えて内容虚偽の検査成績書を作成し,品質保証室品質保証グループにおいて,
同成績書の虚偽の数値をFが使用する統計的工
程管理システムにアップロードして,不適合品を出荷する運用が常態化していた。このような状況のなかで,品質保証グループ担当者は,検査グループが作成した検査成績書の硬さの数値が虚偽であることを知りながら,本件犯行に及んだ。
5以上の経緯,共謀状況及び犯行状況等によれば,被告会社C製作所においては,安全性及び品質コンプライアンス(顧客仕様)よりも,受注獲得を優先し,納期厳守による利益を優先する余り,工程能力を超える受注が増加し,品質検査の結果,不適合品が多発する事態が生じたことから,遅くとも20年以上前から,現場限りでの勝手な慣習として社内再審及びシルバーリストに基づく不適合品出荷が常態化していた。
ところが,Jの不適合品出荷問題を端緒として,被告会社C製作所における単発の社内再審による不適合品出荷が発覚し,
その直後の平成29年2月上旬頃,
被告人Bは,
部下からシルバーリストに基づく不適合品出荷の実態についての報告を受けたにもかかわらず,部下の意見具申を容れて,当面の間は,従来どおりシルバーリストに基づいて,検査数値の改ざんによる不適合品の出荷を続けることを包括的に承認
し,その間に不適合品発生の原因究明や改善策の検討を進めるよう指示して,顧客と親会社のIに告知・報告することはしなかった。その結果,同年10月23日に不適合品の出荷停止を指示するまでの間,依然としてシルバーリストによる運用が続き,本件犯行はその一環として約4箇月近くの間に20回にわたって合計4110枚のGについて行われたものであり,その売上額は少なくとも約6165
万円の高額に上る。したがって,本件は組織的かつ継続的な犯行であり,常習性が認められる。加えて,本件犯行が発覚したことから,Fでは,被告会社から納品
された製品の在庫について,追加検査をさせた結果,合格品が少ないため,世界に散在する顧客との間で半導体製造装置の納期を調整する困難な作業を負担せざるを得なかったという実害も生じている。このように本件犯行は,長年にわたる重要な顧客であるFの信頼を裏切る行為であるだけでなく,業界全体に対する社会的信用を失墜させ,取引における競合他社との公正な競争を害する行為であるから社会的影響も大きい。
また,
被告人Bは,
先行問題の対応の最中であるため,
シルバーリストの多数の製品と顧客相手に対応することは無理であり,社内では機能上の問題はないと判断されており,顧客からのクレームも受けていないことから,部下の具申を容れて,シルバーリストに基づく運用の継続を包括的に承認
したものであり,規格についての顧客との合意を軽視した一方的で身勝手な犯行動機に酌量すべき余地はない。したがって,被告会社の刑事責任は重い。また,被告人Bについても,前述したとおり被告会社代表取締役社長として,部下からシルバーリストによる検査数値の改ざんと不適合品出荷についての報告を受けた時点で,経営者のトップとして,大所高所の見地に立って,直ちに不適合品
の出荷の停止を指示し,親会社のIに報告し,Fを始めとする顧客に告知して説明する権限と義務があったというべきであるから,それをしなかった点で,起訴されなかったほかの共犯者の責任と比べても,その刑事責任は重い。この点,弁護人は,被告人Bがシルバーリストによる運用について報告を受けた時点では,先行問題の対応で
C製作所の従業員が疲弊しており,苦渋の決断として部下の当面の方針案を承認し
たのであるから,酌量すべきであると主張する。確かに,被告会社が先行問題の対応に忙殺されていたなかでの苦渋の決断であったことは理解できるが,シルバーリストの対象製品と顧客は,部下からの第一報の時点でも数十社に及ぶことが分かっていたのであるから,被告会社が単独で顧客対応することはそもそも不可能であることが明らかである。したがって,直ちに不適合品出荷の停止を指示し
て,顧客に対して告知・説明し,親会社のIに報告・相談して応援を要請するほか選択の余地がなかったというべきであるから,先行問題の対応は言い訳にはなら
ない。なお,C製作所における社内再審やシルバーリストに基づく運用については,長年にわたって現場限りで勝手に行われてきた慣習であり,管理職はまったく把握していなかったとのことであるが,もしそれが事実であれば,被告会社におけるガバナンスには根本的な欠陥があったといわざるを得ない。6他方で,被告会社については,①平成29年11月23日に不適合品の出荷を公表する前後から,不適合品を出荷したFら全218社の顧客に対して告知・説明を開始し,平成30年2月中には全て完了したこと,②出荷した不適合品の安全性を確認するため,
シルバーリストの対象製品について再測定等を行って安全性について検証を行い,その結果をFらの顧客に報告し,顧客に対し,出荷した不適合品の安全性に問
題がないかの確認を依頼した結果,
全218社から安全性に問題がない旨の確認を受
けたこと,③顧客から,不適合品の交換を求められた場合は,無償で応じており,交換作業に掛かる実費負担にも応じているほか,
不適合品出荷問題に対応するため顧客
に生じた各種費用についても,請求に応じて支払っており,これまでに顧客に支払った総額は約1億1780万円に上り,
引当て計上済の支払予定額は4億3700万円

であること,
④社外の弁護士等で構成された調査委員会による調査報告書と社内独自の調査結果に基づき,不適合品出荷の原因を取りまとめ,ⅰ組織風土及び品質コンプライアンス意識の改革策として,社長ら経営陣からのメッセージの発出,品質コンプライアンス教育の実施,社内広報誌L新聞への事件関係者の体験談,メッセージの掲載,双方向のコミュニケーションを図るためのM箱の設置,全社を上げての
小集団活動の実施,
コンプライアンス研修や意識調査アンケートへの参加を人事考課
上積極評価する仕組みを導入したこと,ⅱフロントローディングの強化策として,受注時に複数の関係部門で検討する仕組みを構築して,
無理な受注を抑止するようにし
たこと,ⅲ検査データの記録と合否判定の自動化に着手することで,検査データの改ざん防止等を図っていること,ⅳC製作所における品質保証部門の強化策,及びⅴ品
質保証体制の再構築策として,本社に社長直轄の品質保証部を新設し,C製作所の品質保証部門を本社品質保証部の直轄とし,
同製作所の検査グループの人員を2倍以上

に増員するなどしていること,ⅵ技術・品質改善活動の強化,ⅶ製造現場に対するガバナンスの強化,ⅷ内部監査の強化,ⅸ応急措置として,ダブルチェック体制による不適合品出荷の防止,エビデンス保持による材料試験の信頼性確保,品質保証部門による検査モニタリング,以上の9項目の再発防止策を策定し,被告会社代表者をプロジェクトオーナーとし,
プロジェクトリーダーであるシール事業部長の下で推進して
おり,約7割強の進捗を示しており,徐々に成果が出始めていること,⑤Iによる再発防止策のフォローがなされていること,
⑥本件不適合品出荷の判断に関与した役職
員及び監督不行届きが認められた役職員に対し,責任に応じて,懲戒処分及び人事処分を実施していること,⑦マスコミに大きく取り上げられ,厳しい非難を浴びた上,
HSOやIHSなどの公的認証を取り消されるなど社会的制裁を受けていること,⑧
被告会社代表者が法廷において,お客様及び関係機関に対し,御迷惑をお掛けして深くお詫びしたいと述べて謝罪した上で,今後再発防止策を完遂させて,お取引先様の信用を回復するようがんばっていきたいと述べていること,
⑨被告会社としての前科,
前歴がないことなど,酌むべき事情が認められる。

また,被告人Bについても,①調査委員会及び捜査機関による調査・取調べに真摯に応じており,法廷においても,最初に聞いた時に,Iに報告・相談して,手の足らないところを応援して頂いて,この問題を分析し解決していくことを,あの時点でするべきであったと非常に反省しています,
お客様及びその先のお客様に多大な御迷惑
をお掛けして,深くお詫び申し上げますと述べて真摯に反省し,謝罪していること,
②本件を含む不適合品出荷の責任を取って,被告会社代表取締役社長を辞任し,その後,批判を受けて取締役も退任して技術顧問に就任したが,その後更に被告会社を退社していること,③被告会社の生え抜きの代表取締役社長であり,長年被告会社の技術畑等で真面目に勤務してきたこと,④前科・前歴がないことなど,酌むべき事情が認められる。

7そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人両名に対しては,主文の程度の刑を科すのはやむを得ないと判断した。

(求刑被告会社につき罰金3000万円,被告人Bにつき罰金200万円)平成31年2月8日
東京簡易裁判所刑事第1室

裁判官

山中
喜代志

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