判例検索β > 平成30年(ろ)第836号
不正競争防止法違反
事件番号平成30(ろ)836
事件名不正競争防止法違反
裁判年月日平成31年2月6日
裁判所名・部東京簡易裁判所
裁判日:西暦2019-02-06
情報公開日2020-06-04 22:39:48
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平成31年2月6日宣告
平成30年(ろ)第836号

不正競争防止法違反被告事件
主文
被告人A株式会社を罰金3000万円に処する
理由
(罪となるべき事実)
被告人A株式会社(以下被告会社という。)は,アルミニウム等の非鉄金属及びその合金の製品の製造及び販売等の事業を営むものであるが,同社生産技術本部品質保証部長であったBらにおいて,同社の業務に関し
第1

別紙1記載のとおり,
平成28年1月12日頃から同年4月1日頃までの間,
静岡県裾野市ab番地被告会社C製作所において,被告会社がD株式会社を介してE株式会社(以下Eという。
)から受注して製造・販売したアルミニウ
ム合金条合計約9万5396キログラムにつき,C製作所で検査した結果では各製品がEとの間で合意した伸びについての仕様を満たしていなかったにもかかわらず,同仕様を満たした旨記載した内容虚偽の検査成績書合計20通を作成した上,同年1月15日頃から同年4月4日頃までの間,20回にわたり,運送業者を介し,大分県中津市cd番地e株式会社FG工場において,同検査成績書20通をEから受入検査業務の委託を受けた前記株式会社Fの従業員に交付し,

第2

別表2記載のとおり,平成28年1月29日頃から同年12月2日頃までの間,前記C製作所において,被告会社がH株式会社(以下Hという。)から
受注して製造・販売したアルミニウム条又はアルミニウム合金条合計約12万9954キログラムにつき同製作所で検査した結果では各製品がHとの間で合意したクロム付着量についての仕様を満たしていなかったにもかかわらず,同仕様を満たした旨記載した内容虚偽の検査成績書合計42通を作成した上,同年2月1日頃から同年12月5日頃までの間,42回にわたり,運送業者等を介し,神奈川県平塚市fg丁目h番i号HI工場において,同検査成績書42通をHの従業員に交付し,
もって取引に用いる書類に商品の品質について誤認させるような虚偽の表示をしたものである。
(証拠の標目)
:省略
(法令の適用)
被告会社の判示第1及び第2の各所為はいずれも包括して不正競争防止法22条1項3号,21条2項5号に該当するところ,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告会社を罰金3000万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は,G株式会社(以下Gという。
)の子会社としてアルミニウム等の非鉄
金属及びその合金を加工した製品の製造,販売を行う被告会社が,顧客との取引に用いる書類に,販売する商品の品質について誤認させるような虚偽の表示をした不正競争防止法違反の事案である。
被告会社は,受注獲得を優先し,自社の工程能力を顧みることなく顧客の求める仕様で受注したため,製品の量産段階で顧客仕様を満たさない不適合品が多数発生する事態を招いた。その上で,これら不適合品について,正規の手続きに則った措置を採ると,多くの時間や費用を要し,収益に悪影響を及ぼしかねず,また,その情報が顧客に伝われば,取引を打ち切られるおそれがあったことから,遅くとも昭和50年前後から,顧客の承認を得ることなく適合品扱いで出荷する社内特採が横行した。このため,平成14年,不適合品の出荷に一定の歯止めをかける方策として,社内特採の継続を認めつつ,その対象製品,検査項目及び検査数値の範囲をリスト化して管理しようとして,
非公式の内規である特採処置実施規定
(以下
特採規定という。
)が制定された。しかし,その後も,特採規定に掲載されていない製品でも,不適合品が発生すると社内特採での出荷を認めた上,当該不適合品を新たに追加掲載していたため,特採規定の制定は,社内特採の対象製品の増加にお墨付きを与えたに過ぎなかった。このような不正については,遅くても平成20年頃から,代々の代表取締役社長をはじめとする被告会社の役員に報告されていたが,被告会社の役員は検査成績書の検査数値の改ざんを止めることなく,同不正は継続して行われていた。その後,被告会社は,対象製品の削減を進めたものの,相当数の対象製品が残ったことから,結局,多数の製品について,不適合品の出荷及び検査数値を改ざんした内容虚偽の検査成績書の交付を継続した上,特採規定所定の各部署の手続きを経て本件に及んでいる。このように,被告会社による不正は,特採規定により不適合品の出荷を管理し,また,被告会社の各部署の社員が関与していた上,被告会社の役員までが承認した検査成績書の検査数値の改ざんが40年以上の長期にわたって継続的,常習的に行われたものであるから,本件犯行は,個々の行為者の不正に留まらない会社ぐるみの組織的な犯行といえ,企業の社会的責任,企業倫理に関わるものといえる。
被告会社は,起訴されているだけでも,2社から発注を受け,製品出荷の際の所定の検査によって,各社との間で合意した製品としての仕様(以下顧客仕様という。を満たしているとは認められないことが明らかになった不適合品を,)
判示第
1の納入先の株式会社Fに対しては,合計9万5396キログラムを4か月近く20回にわたって,判示第2のHに対しては,合計12万9954キログラムを約10か月間42回にわたって,その仕様を満たしている旨記載した検査成績書合計62通を次々と作成した上,その都度これらの検査成績書を各納入先の従業員に対して交付し,いずれも適合品として納入しているのであり,その出荷額も判示第1については合計約3700万円,判示第2については合計約4400万円であり,被告会社の得た不法収益は多額に及ぶ。
そして,被告会社が出荷したいずれの製品も顧客各社が製造する製品の原材料となるものであり,その伸びやクロム付着量は製品の性能に関わる重要な項目であるところ,これらが顧客仕様を満たしているか否かは,製品を目視しただけでは判断できず,
被告会社から交付を受けた検査成績書の検査数値を見て判断するほかない。したがって,このような検査数値を改ざんし,顧客仕様を満たしているかのように偽装することは,顧客の信頼を裏切るものであることはもとより,同業他社との公正な競争を害するばかりか,業界全体の社会的信用を失墜させるなど,社会的影響は大きいといえる。さらに,本件不正が発覚した後,本件発注会社2社とも,被告会社から納品された製品を使用して製作した製品の安全性等の検証や,この製品の顧客に対し,その説明などの対応を強いられることになり,その負担や損害も無視できないなど,被告会社の責任は重い。
他方,特採規定の制定は,社内特採の拡大を防止し,段階的に減少・解消させていくために作成された内規であり,被告会社の品質保証部が,平成20年から平成24年にかけて,当時の代表取締役社長に対し,不適合品出荷について個別に報告を行った際にも,特採規定の存在が示されたわけではなく,平成25年以降は代表取締役社長に対する報告自体もなされなくなったもので,本件不適合品の出荷は,経営陣の主導によるものではなかったことが認められる。実際,被告会社は,平成18年6月以降は特採規定の対象製品減少に向けて取り組み,特採規定の対象製品数は同規定制定当初は100件程度あったものが,
平成27年度には約3分の1に,
平成28年10月末の時点の出荷先は2か所となっていた。
被告会社は,平成28年11月,当時の代表取締役社長自ら本件不適合品出荷の事実をGに報告した上,その強力な指導を受けて,特採規定を廃止し,平成29年1月から不適合品の出荷を完全に停止した。同年3月以降,各顧客に対し同事実の説明を開始するとともに顧客側の品質監査を受けるなどして,いずれの顧客からも安全性についての確認を受けた。そして,被告会社が過去に出荷した不適合品については,そのすべてにおいて,最終製品には影響しないことが確認されている。また,被告会社は,本件に関し,その根本原因は,工程能力改善の設備投資などを十分行ってこなかったという経営陣側の問題に求められると判断して,代表取締役ほか関連する役員について,報酬の一部を返上する社内処分を行い,さらに,本件起訴を受けて,経営責任を一層明確にするために,当時の代表取締役社長は辞任し,すべての社内取締役は報酬の一部を自主返納した。さらに,被告会社は,網羅的で実効性のある再発防止策として,内部組織を見直し,適正な受注判断を行うことができる仕組みの構築などの11項目の再発防止策を策定し,同社の全役職員を対象とした品質管理やコンプライアンスに関する研修を行い,品質保証体制強化会議の新設など再発防止策を着実に推進するための内部体制を整備し,親会社であるGもその推進等に積極的に関与している。加えて,平成29年11月のGの本件公表の結果,顧客からの厳しい叱責を受け,ISO(国際規格)の約7か月間の一時停止措置やJIS(日本工業規格)の取消措置を受けるなどし,報道等においても,検査数値改ざんの裏マニュアル存在などといった形で報道され,社会一般の厳しい非難を浴びせられることとなり,一定の社会的制裁を受けていると評価できることなど,被告会社に有利な情状も認められる。
以上の諸事情を総合考慮して主文のとおり量刑した。
(求刑

罰金3000万円)

平成31年2月6日
東京簡易裁判所刑事第1室

裁判官

小林裕行
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