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損害賠償等請求事件
事件番号平成27(ワ)15736
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日平成31年4月19日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2019-04-19
情報公開日2019-06-25 03:34:25
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平成31年4月19日判決言渡
平成27年

第15736号

口頭弁論終結日

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償等請求事件

平成31年2月13日
判主1決文
被告らは,原告株式会社レプロエンタテインメントに対し,連帯して,550万円及びこれに対する平成27年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,原告Aに対し,連帯して,110万円及びこれに対する平成27年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,これを20分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。

5
この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
請求
被告らは,原告株式会社レプロエンタテインメントに対し,連帯して,6600万円及びうち5500万円に対する平成27年4月28日から,うち1100万円に対する平成28年7月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,原告Aに対し,連帯して,6600万円及びうち5500万円に対する平成27年4月28日から,うち1100万円に対する平成28年7月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告らは,被告株式会社文藝春秋発行の週刊誌週刊文春誌上に,別紙1謝罪広告目録1記載の謝罪広告を,別紙2謝罪広告条件目録記載の条件で,1回掲載せよ。
4
被告らは,被告株式会社文藝春秋が運営する週刊文春WEBのウェブページ上に,別紙3謝罪広告目録2記載の謝罪広告を,別紙2記載の条件で,1回掲載せよ。

第2
1
事実関係
事案の概要
本件は,
芸能事務所である原告株式会社レプロエンタテインメント
(以下
原告会社という。
)及びその代表取締役である原告A(以下原告Aという。

が,被告株式会社文藝春秋(以下被告会社という。
)が発行する週刊誌週刊文春
(以下本件雑誌という。
)及び被告会社が運営するウェブページに
掲載された,原告会社に所属していた女性タレントであるB(以下Bとい
う。
)に関する記事(その内容は,本件雑誌については別紙4のとおりであり,ウェブページについては別紙5のとおりである。
以下では,
これらを併せて
本件記事という。,並びに,本件雑誌に掲載された,Bとエッセイストである)
C(以下Cという。
)の対談記事(その内容は,別紙6のとおりである。以

本件対談記事
という。によって,

原告らの名誉が毀損されたと主張して,

被告会社及び本件雑誌の編集長であった被告D(以下被告Dという。)に対
し,不法行為に基づく損害賠償請求(被告会社については共同不法行為(民法719条1項)に基づく請求と使用者責任(民法715条1項)に基づく請求の選択的併合)として,各原告について,損害金6600万円及びうち5500万円に対する不法行為の日以後の日である平成27年4月28日(本件記事
が掲載された本件雑誌の発売日)から,うち1100万円に対する平成28年7月14日(本件対談記事が掲載された本件雑誌の発売日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる。


原告会社は,各種興業,芸能人の出演斡旋,催物の企画及びタレントを発掘・養成するための教室の経営等を目的とする会社であり,多数のタレントが所属する芸能事務所である。
原告Aは,原告会社の代表取締役であり,一般社団法人日本音楽事業者協
会(以下音事協という。)の常任理事を務める者である。


被告会社は,雑誌や書籍の発行・販売等を目的とする会社であり,本件雑誌を発行している。
本件雑誌の発行部数は,
平成27年1月から3月までが67万1667部,
同年4月から6月までが68万4750部,同年7月から9月までが66万
1000部である。
被告Dは,本件記事及び本件対談記事(以下では,併せて本件記事等という。
)が本件雑誌に掲載された当時,被告会社の従業員であり,本件雑誌の編集長であった者である。
E(以下Eという。
)は,被告会社の従業員であり,平成24年4月以

降,本件雑誌の編集部のデスクであった者である。
(甲5,11,12,乙9,証人E)


Bは,平成5年生まれの女性タレントであり,平成18年9月21日に原告会社と専属芸術家契約を締結したものの,これといっためぼしい仕事はな
かったが,日本放送協会(以下NHKという。)が制作した平成25年前期の連続テレビ小説あまちゃんの主演女優に抜擢された。あまちゃんは,平成25年4月1日から同年9月28日までの間,NHKテレビで放送された。
F(以下Fという。
)は,かつてBを含む原告会社の所属タレントに対

し演技指導等を行っていた者であり,Bと親しく交際していた。
(乙3,4)


被告会社は,平成27年4月28日,本件雑誌の同年5月7日・14日ゴールデンウィーク特大号を全国で発売した。
これには,
衝撃スクープ国民的アイドル女優はなぜ消えたのか?B本誌直撃に悲痛な叫び『私は仕事がしたい』と題する本件記事が掲載されたが,その中には,別紙7摘示事実一覧表の問題となる表現欄記載の表現
①から③までが含まれていた(以下では,本件記事中,冒頭の頁に白黒を反転させた大きな文字で記載されたB本誌直撃に悲痛な叫び『私は仕事がしたい』という横書き3行をタイトルと,その下の『あまちゃん』時代は月給5万円『パンツも買えない』から始まる横書き4行をタイトル下部と,その下の朝ドラとして,かつてない熱い支持を得たから始ま
る縦書き6行をリード文と,本件記事中のその他の記載を本文とそれぞれいう。。

また,被告会社は,本件雑誌のウェブサイトである週刊文春WEBの平成27年5月7日・14日ゴールデンウィーク特大号のウェブページ(URL:http://shukan.bunshun.jp/articles/-/5061。以下本件ウェブページ
という。
)上に,別紙7摘示事実一覧表の問題となる表現欄記載の表現④を掲載した。
(甲3,4)


被告会社は,平成28年7月14日,本件雑誌の同月21日号を全国で発売した。

これには,
Cのこの人に会いたい第1123回と題する本件対談記事
が掲載されたが,その中には,別紙7摘示事実一覧表の問題となる表現欄記載の表現⑤及び⑥が含まれていた。(乙1)
3
争点


本件記事等の掲載によって,原告らの社会的評価が低下したか否か(名誉毀損該当性)


本件記事等が,事実の公共性や目的の公益性を備えたものである上,摘示された事実等が真実であり(真実性)
,又は,被告らにおいて真実と信じるに
ついて相当の理由(相当性)があったか否か(真実性・相当性等の抗弁の成否)



原告らの損害



原告らの名誉回復のために謝罪広告の掲載が必要か否か(謝罪広告の掲載の要否)

4
当事者の主張


争点⑴(名誉毀損該当性)について

原告らの主張
本件記事等のうち別紙7摘示事実一覧表の問題となる表現欄記載の表現①から⑥までは,それぞれ,同表の摘示事実欄記載のとおりの事実を摘示することによって,同表の名誉毀損となる理由欄記載のとお
り,原告らの社会的評価及び営業上の信用を著しく低下させたから,名誉毀損に当たる。
被告Dは,本件当時,本件雑誌の最終的な編集権限を有する編集長であり,名誉を毀損する違法な記事を掲載しない注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,上記のとおり名誉毀損表現を含む本件記事等を本
件雑誌及び本件ウェブページに掲載した。
被告会社は,
名誉を毀損する違法な記事の掲載された雑誌を販売したり,
このような記事をウェブサイト上に掲載したりしない注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,本件記事等が掲載された本件雑誌を全国で販売し,本件ウェブページをインターネット上に公開して閲覧可能な状
態にした。
被告Dと被告会社の上記各行為は客観的関連共同性があるから,共同不法行為(民法719条1項)が成立し,また,被告Dは被告会社の被用者であり,被告Dの上記不法行為は被告会社の事業の執行についてされたものであるから,被告会社は使用者責任(民法715条1項)を負う。イ
被告らの認否・反論
表現①から⑥までが事実の摘示であること及び原告らの社会的評価を低下させるものであることはいずれも否認する。具体的には以下のとおりである。
表現①について
表現①は,原告会社の車の用意の仕方は配慮が足りないなどの評価を
加えたものではないから,原告らが撮影や打合せの際にBに車を用意する等の配慮をしなかった事実を摘示したものではない。また,月給が5万円あれば下着の購入が可能であることは一般の読者が普通に理解するところであるから,表現①は,原告会社がBを下着も買えないほどの厳しい経済状態で働かせた事実を摘示したものではないし,表現①におい
て,原告会社がBに関し月給5万円のほかには一切費用を負担していなかったとは言及されていないから,これを読んだ一般の読者がそのように誤解する余地もない。さらに,Bのマネージャーの交代が原告の意向によるという事実を摘示したものでもない。
また,芸能人の下積み時代が多忙であるにもかかわらず貧しく過酷な
場合があることは一般の読者にもよく知られた事柄であるから,表現①を読んだ一般の読者は,芸能人の下積み時代の過酷さの例証として理解するにとどまり,これを超えて,原告会社について,所属するタレントに対して過酷な処遇をするいわゆるブラックな芸能事務所であるという印象を抱くことはなく,
原告らの社会的評価を低下させるものではない。

表現②について
表現②は,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れないようにしている事実を摘示したものではなく,原告会社がBに仕事を入れない理由が合理的なものであるか否かの評価は何ら報じていない。
また,これを読んだ一般の読者が,原告会社が,所属タレントであるBに対し,合理的な理由なく仕事を与えないなどの悪質な嫌がらせを行っているという印象を抱くことはなく,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
表現③について
表現③は,原告AがBの話を頭ごなしに否定して全く聞こうとしなかった事実を摘示したものではない。リード文中の

社長による『パワハラ』発言とは―。

という記載は,原告Aがパワーハラスメント(以下パワハラ
という。
)と評価される発言をしたことを報じるものであっ
て意見ないし論評の表明にすぎず,原告AがBに対しパワハラをした事実を摘示したものではない。
また,これを読んだ一般の読者が,原告Aについて人の話を聞こうと
しない独善的な人物であるという印象を抱くことはなく,原告Aが負け犬などと述べた点についても,押し問答の末に感情が高ぶることは普通に見られるところであるから,原告Aの社会的評価に特段の影響を及ぼすものではない。
さらに,表現③は,原告Aに関する記述であって,原告Aとは別異の
法人格を有する原告会社の社会的評価に影響を及ぼすものではない。表現④について
表現④は,原告AがBに対しお前は負け犬と述べた事実を摘示したものではなく,これについて辛辣な言葉という評価を加えたものでもないし,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れていないという事
実を摘示したものでもない。また,本件ウェブページには原告らを特定する記載はないから,これを読んだ一般の読者が原告らに関する記述であると直截的に理解することはない。
また,表現④を読んだ一般の読者が,原告Aについて,所属タレントに対し大声で負け犬などと叫ぶ高圧的な人物であるという印象を抱くことはないし,原告会社について,所属タレントであるBに対し合理的な理由なく仕事を与えないなどの悪質な嫌がらせを行っているという
印象を抱くこともないから,表現④は,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
表現⑤について
表現⑤は,BやCの考えを掲載したものにすぎず,Bがマネージャーにも相談ができない環境に置かれていた事実や,原告会社が万全のケア
をすることができていなかった事実を摘示したものではない。
また,表現①と同様,表現⑤を読んだ一般の読者は,芸能人の下積み時代の過酷さの例証として理解するにとどまるから,原告会社の社会的評価に影響を及ぼすことはないし,ましてや氏名等に一切言及のない原告Aの社会的評価に影響を及ぼすことはない。

表現⑥について
表現⑥は,BやCの考えを掲載したものにすぎず,原告会社が,あまちゃん以降,Bに対し,仕事を入れずに干していた事実を摘示したものではない。
また,表現⑥からは,Bを干した主体が誰であるかは明らかではない
ため,これを読んだ一般の読者が,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を与えなかったと理解することはないから,原告会社の社会的評価に影響を及ぼすことはないし,ましてや氏名等に一切言及のない原告Aの社会的評価に影響を及ぼすことはない。


争点⑵(真実性・相当性等の抗弁の成否)についてア
被告らの主張
本件記事等は,事実の公共性や目的の公益性を備えたものである上,摘示された事実等は真実であるから
(真実性)被告らの行為には違法性がな

いし,少なくとも被告らにおいて真実と信じるについて相当の理由(相当性)があったから,被告らの行為には故意又は過失がない。具体的には以下のとおりである。
事実の公共性
BはNHKの連続テレビ小説あまちゃんの主人公を演じたことに
より国民的人気女優となっていたが,本件記事が掲載された当時,Bについて,洗脳騒動が報道されるなどして,公衆の正当な関心が寄せられ
ていた。
Bのような芸能人の活動状況や所属する芸能事務所との関係性は,芸能人と所属事務所の関係等について国民が意見を形成するに当たって有用な情報であり,国民が正当な関心を寄せる事項であるから,原告会社の内部問題にとどまるものではなく,公共の利害に関する事実に係るも
のである。
目的の公益性
被告らは,Bの活動状況や所属する芸能事務所との関係性について報じることは公衆の正当な関心に応えるものであると判断して本件記事等を報じたものであって,もっぱら公益を図る目的に出たものである。
真実性・相当性
本件記事等において摘示された事実は,いずれも真実である。
また,本件対談記事はBとCが対談で実際に話した内容をそのまま記事にしたものであり,同人らが述べていない内容を記事にしたものではない。

本件記事等において摘示された事実の中に仮に真実でない部分があるとしても,それについて,被告らは,当事者であるBやその関係者に対し複数回かつ長時間の取材をしたほか,原告会社からその公式な見解ないし立場を説明するという重要な役割を任された従業員G(以下Gという。や芸能界のテレビ関係者に対する取材をした上で本件記事等の)
掲載に至ったものであり,被告らにおいて真実と信じるについて相当の理由があった。

また,
配慮厳しい過酷合理的な理由なくパワーハラ,,,,スメント辛辣等の概念は,事実ではなく意見ないし論評の表明で,
あるが,これらが前提とする事実のうち重要な部分は真実であり,少なくとも被告らにおいて真実であると信じるについて相当の理由があった。イ
原告らの認否・反論
本件記事等において摘示された事実の公共性,
目的の公益性及び真実性

相当性についてはいずれも否認する。具体的には以下のとおりである。事実の公共性
公共の利害に関する事実とは,その事実が多数一般の利害に関係する
ことから上記事実につき関心を寄せることが正当と認められるものであって,多数人の単なる好奇心の対象となる事実をいうものではないところ,
Bと原告会社の間の問題は多数一般の利害に関係するものではなく,公衆の正当な関心があったとはいえないから,事実の公共性は認められない。

目的の公益性
本件記事は,公共にとって何らかの利益になるものではなく,ゴールデンウィーク特大号としてインパクトのある記事を掲載する必要に迫られた被告らが,
Bの知名度を利用して販売部数を伸ばそうとする意図で,
不十分な取材に基づいて掲載したものにすぎないから,目的の公益性は
認められない。
真実性・相当性
摘示事実1については,原告会社は,Bに関し,月給のほか,賞与,寮の家賃,食費,光熱費,交通費及びレッスン費その他の様々な費用を年間合計360万円程度負担していた上,活躍に応じて月給や賞与を増額していたのであり,
この事実は被告会社の記者も認識していた。
また,
Bのマネージャーの交代は原告らの意向によるものではないし,原告会
社はBの移動に車が必要なときはNHKへの依頼も含め臨機応変に対応して必要な配慮をしていたところ,これらの点について,被告会社の記者はGに質問しておらず,裏付け取材が不十分である。
摘示事実2については,Bのスケジュールの関係で仕事を入れる時間がなかったり,Bが断ったりしたことなどによるものであって,原告会
社が合理的な理由なく仕事を入れなかったことはなく,また,この点について,
被告会社の記者は裏付け取材をしていない。進撃の巨人
映画
については,同映画の監督が原告会社を通さずにBに接触したことについて原告会社が抗議をしたため,
制作会社である東宝株式会社
(以下
東宝という。
)から正式な出演依頼がされなかったものであって,原告会

社が合理的な理由なく仕事を入れなかったものではない。また,Bは人形劇等複数の仕事を自ら断っており,この事実は被告会社の記者も認識していた。
摘示事実3について,原告Aは負け犬などという発言を含めパワ
ハラをしておらず,Bとの話合いにはとにかく話をよく聞きたいという
真摯な姿勢で臨んでいた。また,この点について,被告会社の記者はGに質問しておらず,裏付け取材が不十分である。
摘示事実4については摘示事実2及び3と同様の理由で,摘示事実5については摘示事実1と同様の理由で,また,摘示事実6については摘示事実2と同様の理由で,いずれも真実性・相当性がない。



争点⑶(原告らの損害)について

原告らの主張
慰謝料・無形損害
本件記事等は,原告会社が新たな所属タレントを獲得することを困難にするなど原告会社のビジネスモデルを根幹から揺るがし,原告らの社会的評価及び営業上の信用を著しく低下させて原告らに多大な損害を被
らせたものであって,これを金銭に換算すると,各原告に関して,摘示事実1から4までの摘示について5000万円,摘示事実5及び6の摘示について1000万円を下回ることはない。
弁護士費用
本件訴訟の追行には,高度の技術的・専門的訴訟追行能力を要するた
め,弁護士への委任が必要不可欠であり,各原告が負担すべき弁護士費用が600万円を下回ることはない。

被告らの認否
争う。



争点⑷(謝罪広告の掲載の要否)について

原告らの主張
本件記事等による原告らの社会的評価の低下の深刻さに鑑みると,原告らの被害は金銭賠償のみでは到底回復されず,本件雑誌及び本件ウェブページ上に謝罪広告を掲載させることで,本件記事等が真実に反することを周知徹底させることが必要不可欠である。


被告らの認否
争う。

第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実,証拠(甲9,乙7,9,原告A及び証人Eのほかは,掲記のとおり)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


B及び原告会社に関する事実関係

原告会社は,Bとの専属芸術家契約締結後あまちゃんの撮影が開始されるまで,Bに関し,月給5万円を支給するほか,寮の家賃,食費,光熱費,交通費(Bが帰省する際の交通費やBの両親が上京する際の交通費を含む。),ヘアメイク・スタイリング費,撮影現場への差入れの費用そ
の他の直接経費として,年間合計約360万円を負担していた。

原告会社は,あまちゃんの放送が開始されて約3か月の時点で,Bについて,月給を20万円に増額し,賞与も支給するようになった。Bは,原告会社が用意した住居に居住しており,2回転居したが,最終的な住居の家賃は月額約30万円であり,
原告会社がこれを負担していた。

原告会社は,
あまちゃん
の放送が終了した後の平成25年の冬には,
Bに対し,賞与として,200万円を支給した。

原告会社は,所属するタレントがリハーサルや打合せに参加する際に,必ず車を用意するわけではなく,帰宅時間が深夜になったり撮影が長時間に及んだりする場合に用意するという方針であり,あまちゃんの撮影
中のBについても同様の対応をとっていたが,制作側であるNHKが,Bのために,タクシーチケットを用意したり,車を手配したりすることがあった。
また,Bのマネージャーは,平成23年頃からあまちゃんの撮影が終了するまでの間に,6人交代しているが,Bからマネージャーと合わな
いとして交代を求めたこともあれば,マネージャーから担当を変えてほしいという申入れがされたこともあった。

あまちゃんの放送は,平成25年9月28日に終了した。
原告会社は,Bに対し,新たな作品への出演を提案していたが,Bは,
同日,マネージャーに対し,

原作どちらも読ませていただきました。H監督のはやりたくないです。そして,海月姫以外は出来ない気がしてます。

というメールを送信した。
Bは,平成26年に映画海月姫及び同ホットロードの主演を務
めたが,同年中に上記以外の作品には出演していない。
なお,ホットロードへの出演は,あまちゃんへの出演が決定す
る前に決定していた。

(甲7の1,乙3,4,8)

Bは,平成26年3月,原告会社に対し,同年6月末の期間満了をもって専属芸術家契約を更新しないことを希望する旨の通知をしたが,原告会社はこれを受け入れず同年7月以降の契約更新を求めた。
Bは,弁護士に依頼して,原告Aをはじめとする原告会社の関係者と協
議を行い,原告会社を退社したい旨を伝えていたが,
協議は難航していた。

この頃,進撃の巨人の監督が,同映画にBを起用するという構想の下,原告会社を通さず,Fを介して,Bに接触するという出来事があった。この件について,原告会社が,業界の一般的な慣行に反するとして,上記映画の制作会社である東宝に抗議したところ,東宝から原告会社に謝罪
があり,結局,上記映画について,東宝から,原告会社に対し,Bへの出演依頼がされることはなかった。

Bのマネージャーは,平成26年5月7日,Bに対し,
TBSの件は,Bの意向はわかりました。ただ,仕事を取ってきて決めて行く作業はみんなでやっていることなので,すぐにやりませんということにはできません。Bの意向を踏まえた上で再度話をするかもしれませんので。人形劇は作品では無い仕事で,そもそもすべての作品を確認しますというスタンスでやってないと思うんだが。すくなくとも理由くらいは聞かせて下さい。同じく意向としては聞くつもりでいますが,なにもなくただやりませんというのは関係性としてどうかと思うのですが。進撃の件ですが,社内確認をしましたが,以前Iさんから説明があった通り,うちが断ったのではなく,東宝が取り下げたというのが事実です。というメールを送信した。これに対し,Bは,同日,事務所はいつも,私の意向を丸無視で仕事を進めていますよ。レプロさんが私にすり寄ってくださったことは一度もありません。あまちゃんを演じた,死を描かずに絆を確認するというテーマの中に生きた私が,戦争ものに出るというのは出来ません。絶対に出来ません。やると言われても私は現場に行きません。行ったとしても,怒りでどうにかなって,所構わず怒鳴り散らします。では,そちらの意向を聞かせてください。何故,戦争ものなのか。何故,人形劇なのか。私の意見は毎回毎回言わせていただいています。頭に入っていないのなら関係性もなにもないですよ。何もなくただやりますというのは関係性としてどうかと思いますよ。というメールを返信した。(甲7の2)

NHKは,原告会社に対し,Bについて,人形劇への声優としての出演及び戦争を題材とした特別ドラマへの出演を依頼したが,いずれについても,上記メールのとおりBが出演を承諾しなかったため,原告会社は出演
依頼を断った。
(甲7の2,乙4,8)

Bは,
平成27年1月21日,株式会社三毛andカリントウ
(以下
三毛andカリントウという。)を設立した。

同社は,絵本・写真集・小説・イラストの出版物の企画・制作・出版・販売等のほか,タレント・俳優等の養成及びそのマネージメントに関する業務並びに芸能プロダクションの経営等を目的とする会社であり,Bが代表取締役を,Fが取締役をそれぞれ務めている。
原告Aは,同社の設立について,同年春頃インターネットを通じて初め
て知り,原告会社とBの間の専属芸術家契約に明らかに違反するものと認識した。
(甲8)

本件記事が掲載された本件雑誌が発売される前頃,様々なマスメディアにおいて,BがFに洗脳されて原告会社を独立しようとしているという報道がされており,上記の本件雑誌が発売される直前には,スクープ!!B洗脳騒動と題する記事がスポーツ新聞に掲載されるなどした。
(争いのない事実)

Bは,平成30年10月上旬頃,原告会社に対し,謝罪をした上,もう一度マネジメントを依頼したい旨を申し入れ,原告会社の関係者と面談した。
(甲10)



本件記事に関する取材状況

Fは,平成26年8月頃,被告会社の従業員であるJの紹介でEと接触した。これが,本件記事に関する被告会社の取材の端緒となった。

Eは,同年8月27日,F及びその関係者であるK(本名:K’。以下Kという。)と面談した。

その際,F及びK(以下,併せてFらという。)は,Bが原告会社を退社する意向を有していたため,同年5月17日に原告Aと面談したこと,Bの撮影現場への往復について,原告会社が車を用意せず,NHKが用意したことがあったこと,Bはあまちゃんの撮影が多忙で衣服の洗濯が間に合わないことがあったこと,Bの月給が5万円であったこと,B
のマネージャーが次々と交代したこと,進撃の巨人の監督がBの起用を検討していたが,出演は実現しなかったことなどについて話をし,取材時間は3~4時間に及んだ。

Eは,同年10月30日,Fらと面談した。
その際,Fらは,Bの置かれた状況について,上記イと同様の話をした。

Eは,平成27年4月3日,Fらと面談した。
同面談には,途中から,Bも合流した。
同面談において,Fらは,Bと原告会社やマネージャーとの関係等について話をし,その中で,Bが三毛andカリントウを設立し,Bが代表取締役に,Fが取締役にそれぞれ就任したという話が出た。
このような取材を踏まえ,
Eが,本件雑誌の編集長である被告Dに対し,

Bの現状や従前の状況を伝えたところ,被告会社において,朝の連続ドラマの主演を務めたBはなぜ消えたのかという観点から取材をすることが決定され,本件雑誌の編集部の記者で構成される取材チームが立ち上げられた。

E及び被告会社の記者であるL(以下L記者という。)は,同年4月10日,Fらと面談した。
その際,Fらは,あまちゃん撮影時にNHKがBに車を用意するようになった経緯,Bの月給が5万円であったこと,進撃の巨人の監督がBの起用を検討していたが,出演は実現しなかったこと,Bとマネージャーや原告Aとの面談内容等について話をし,取材時間は3~4時間に及
んだ。

Eは,同年4月14日,Fらと面談した。
その際,Fらは,Bの仕事についてのBと原告会社の間のやり取りや原告会社の仕事の入れ方,Bが三毛andカリントウを設立した目的等について話をした。


Eは,同年4月17日,B及びFらと面談し,それまでに聴取していた事実関係を確認した。
その際,Bは,Bの仕事についてのBと原告会社の間のやり取りや原告会社の仕事の入れ方(平成26年のクリスマス頃,Bが,担当マネージャ
ーであるGから,(原告会社としてはBとの)契約は続いている認識ですので,仕事を入れていきたいですがいいですか?などという内容のメールを受信したこと),Bの撮影現場への往復について,原告会社が車を用意せず,Bが電車で通ったことがあったこと,Bの月給が5万円であったこと,Bはあまちゃんの撮影が多忙で衣服の洗濯が間に合わないことがあったこと,進撃の巨人の監督がBの起用を検討していたが,出演は実現しなかったこと,Bが原告会社を退社する意向を有していたた
め,平成26年5月17日に原告Aと面談したことなどについて話をし,取材時間は約5時間に及んだ。

L記者は,平成27年4月18日,Bの母と面談した。
その際,Bの母は,Bの撮影現場への往復について,原告会社が車を用意しないことがあったことやBのマネージャーが次々と交代したことにつ
いて,Bから話を聞いているなどと述べた。

被告会社の記者であるM(以下M記者という。)及びN(以下N記者という。)は,同年4月22日及び同月23日,原告Aに対する取材を試みたが実現しなかった。

M記者及びN記者は,同年4月23日,原告会社の代理人である矢田次男弁護士から,しかるべき立場の人間に説明させる旨の連絡を受けて,同月24日,Gと面談した。
その際,Gは,概要以下のような話をし,取材時間は約1時間に及んだ。原告会社は,Bについて,
あまちゃん,ホットロード及び海月姫の仕事の後はテレビの仕事を組み立てていこうと,平成27年,28年に向けたドラマを仕込んでいったが,Bが,自分のファンは,そういうものを求めていないのではないか,あまちゃんで自分が演じた役柄のイメージを求めているのではないかという理由でやりたくない旨を主張したため,実現できていないこと。

原告会社としては,Bについて,息の長い芸能活動をしてほしいという考えから,活躍したからといって月給をいきなり大きく増額することはせず,活躍した年にはボーナスに反映するなど,頑張りと成果に応じて段階的に報酬を増額しているのであり,業界の中ではしっかりしている方だと思っていること。
あまちゃん撮影当時のBの月給が5万円であったか否かは覚えて
いないが,金額としてさほど多くはなかったこと。
原告会社としては,
あまちゃん以前からBに力を入れており,
あまちゃん
に向けて右肩上がりになるように仕事を入れて,
集大成が
あまちゃんであったこと。
テレビドラマ学校のカイダンへの出演依頼については,Bが拒否

したし,原告会社も内容面を考慮して出演しないことにしたこと。進撃の巨人にBが主役級で出演するという話があり,原告会社が
断ったものであるが,その理由の説明は難しいこと。
進撃の巨人の監督がFの手引きで原告会社を通さずにBと会って
いたということがあり,それについて,同映画の制作会社である東宝が
原告会社に謝罪してきたこと。
Bに対して,NHKの人形劇への声優としての出演依頼があったが,内容面及びBの意向を理由に原告会社が断り,同じく戦争を題材とした特別ドラマへの出演依頼があったが,Bが応じなかったこと。
原告会社としては,Bに仕事を入れたいと考えており,進めているも
のもあるが,現在,Bの独立騒動がありそれがインターネット上に出るなど混乱しているため,仕事の話ができる状態ではなく,困惑していること。
Bの月給は5万円より増額されて,相応の報酬は支払っており,その金額は100万円とか200万円といったものではないが,具体的な給
与額については,個人の給与であるので答えられないこと。
悪徳芸能事務所がタレントを馬車馬のように働かせているとか,報酬を支払わずに搾取しているという見方をされるが,そのようなことはなく,タレントに長く活躍してほしいという思いを一番にしながら,報酬についても相応のものはきちんと支払っているし,Bに対し,寮を用意したり,レッスンを無償で提供したりしてきていること。
原告会社としては,Bに仕事を入れてあげたいし,もっといい女優に
なれるようにやっていくつもりであるが,本人がなかなか思うように仕事をしないところ,その根源は本人ではなく周囲の人間の影響であると考えており,その点は原告会社もどうにか解決したいと思っていること。
あまちゃんの現場においては,マネージャーも大変であるが頑張

っていたし,原告会社は誠実に仕事に向き合っていたと思うこと。(乙8)

Eは,同年4月23日及び同月24日,本件記事を執筆した上,BやFらの確認を受ける作業を繰り返し,記事の内容に誤りがない旨の回答を得た。

そこで,被告Dは本件記事を掲載することを決定し,被告会社はこれを本件雑誌及び本件ウェブページに掲載した。
(甲3,4)
2
争点⑴(名誉毀損該当性)について


名誉毀損とは,摘示された事実が対象の社会的評価を低下させることであ
り,ある表現における事実の摘示(又は意見ないし論評の表明)が対象の社会的評価を低下させるかどうかは,当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その意味内容を解釈して判断すべきである(最高裁
31年7月20日第二小法廷判決・民集10

巻8号1059頁参照)。


表現①について
被告らは,月給が5万円あれば下着の購入が可能であることは一般の読者が普通に理解するところであるから,表現①は,原告会社がBを下着も買えないほどの厳しい経済状態で働かせた事実を摘示したものではないし,また,
表現①において原告会社がBに関し月給5万円のほかには一切の費用を負担していなかったとは言及されていないから,これを読んだ一般の読者がそのように誤解する余地もない旨主張する。
しかしながら,本件記事のタイトル下部には『あまちゃん』時代は月給5万円『パンツも買えない』と大きな文字で記載され,リード文には彼女が苦しんだ過酷な待遇と記載されているのであるから,これらと併せて
表現①を読んだ一般の読者は,あまちゃん撮影当時,原告会社は,Bに月給5万円を支給するのみで,ほかにはBのために一切費用を負担しておらず,そのため,Bは下着も買えないような厳しい経済状態に置かれていたと理解するものと考えられる。
そうすると,表現①は,あまちゃん撮影当時,原告会社は,Bに月給
5万円を支給するのみで,ほかにはBのために一切費用を負担しておらず,そのため,
Bは下着も買えないような厳しい経済状態に置かれていた事実
(以
下摘示事実アという。)を摘示したものと認められる。
そして,
一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,摘示事実アは,原告会社が所属タレントに過酷な待遇を強いる芸能事務所であるという印象
を与えるものであるから,原告会社の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。
被告らの上記主張は採用することができない。
なお,表現①は,原告会社において,所属するタレントがリハーサルや打合せに参加する際には車を用意せず,また,経験の浅いマネージャーをあまちゃんの現場に出してトラブルを発生させた事実及びBのマネージャーが頻繁に交代した事実も摘示しており,原告らはこれらも名誉毀損に当たると主張するが,これらについては,それ自体で直ちに原告会社の社会的評価を低下させるとは認められないから,名誉毀損に当たるとはいえない。⑶

表現②について
被告らは,表現②は,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れないよ
うにしている事実を摘示したものではなく,原告会社がBに仕事を入れない理由が合理的なものであるか否かの評価は何ら報じていないから,これを読んだ一般の読者が,原告会社が,所属タレントであるBに対し,合理的な理由なく仕事を与えないなどの悪質な嫌がらせを行っているという印象を抱くことはない旨主張する。

しかしながら,別紙4のとおり,本件記事の冒頭の頁の上部には衝撃スクープ国民的アイドル女優はなぜ消えたのか?と記載されている上,タ
イトルには,頁全体の約3分の1のスペースに,非常に大きくかつ白黒を反転させて強調された文字で
B本誌直撃に悲痛な叫び『私は仕事がしたい』
と記載され,更に,タイトル下部にはマネジャー『仕事は入れない』と記載されているのであるから,これを読んだ一般の読者は,Bが仕事をすることを望んでおり,かつ,Bへの出演依頼があるにもかかわらず,原告会社が合理的な理由なくこれを断っており,そのため,Bにおいて,仕事をしたいという望みが叶わず,悲痛な思いを抱いていると理解するものと考えられる。

そうすると,
表現②は,
Bが仕事をすることを望んでいるにもかかわらず,
原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れないようにしている事実(以下摘示事実イという。)を摘示したものと認められる。
そして,
一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,
摘示事実イは,
原告会社が所属タレントであるBに対し合理的な理由なく仕事を与えないな
どの悪質な嫌がらせを行っているという印象を与えるものであるから,原告会社の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。
被告らの上記主張は採用することができない。


表現③について
被告らは,表現③は,原告AがBの話を頭ごなしに否定して全く聞こうとしなかった事実を摘示したものではなく,リード文中の

社長による『パワハラ』発言とは―。

という記載も,原告AがBに対しパワハラをした事実を摘示したものではないから,これを読んだ一般の読者が,原告Aについて人の話を聞こうとしない独善的な人物であるという印象を抱くことはなく,原告Aが負け犬などと述べた点についても,押し問答の末に感情が高ぶることは普通に見られるところであるから,原告Aの社会的評価に特段の影
響を及ぼすものではない旨主張する。
しかしながら,
本件記事のタイトル下部には
事務所社長『お前は負け犬』
と記載されている上,リード文には

社長による『パワハラ』発言とは―。

と記載され,更に,本文には,原告Aにおいて,原告会社を退社する意向を有するBに対し,全部,お前の妄想だよ,

お前の勘違いだよ。辞めたい理由をもっと分かるように説明しろ

と述べただけでなく,帰ろうとするBを廊下まで追いかけ,激昂して,

負け犬。お前はそんなんだからダメなんだな。逃げたな

と吠えた旨が記載されているのであるから,これを読んだ一般の読者は,原告Aが,Bに対し,上記の暴言を吐くなどしてパワハラに及んだと理解するものと考えられる。

そうすると,表現③は,原告AがBに対し負け犬などの暴言を吐くなどしてパワハラに及んだ事実(以下摘示事実ウという。)を摘示したものと認められる。
そして,
一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,
摘示事実ウは,
原告Aについて,所属タレントに対し独善的かつ高圧的に人格を否定する言
動に及んでパワハラをする人物であるという印象を与えると同時に,原告会社について,所属タレントの退社を防止するためにパワハラを用いる芸能事務所であるという印象を与えるものであるから,原告らの社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。
なお,被告らは,リード文中の

社長による『パワハラ』発言とは―。

という記載は,原告Aがパワハラと評価される発言をしたことを報じるものであって意見ないし論評の表明にすぎず,事実を摘示したものではない
旨主張する。
しかしながら,パワハラという表現が評価的要素を含むものとして,事実の摘示ではなく,
意見ないし論評の表明に当たるとしても,
表現③には,
これと併せて負け犬などの原告Aの具体的な発言内容等が摘示され,意見ないし論評の前提となる重要な事実が摘示されているところ,リード文中
の上記記載は,これらと相まって,原告らの社会的評価を低下させるものと認められる。
被告らの上記主張は採用することができない。

表現④について
被告らは,表現④は,原告AがBに対しお前は負け犬と述べた事実を摘示したものではなく,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れていない事実を摘示したものでもないから,これを読んだ一般の読者が,原告Aについて,所属タレントに対し大声で負け犬などと叫ぶ高圧的な人物であるという印象を抱くことはないし,また,原告会社について,所属タレント
であるBに対し合理的な理由なく仕事を与えないなどの悪質な嫌がらせを行っているという印象を抱くこともない旨主張する。
しかしながら,表現④のうちB本誌直撃に悲痛な叫び『私は仕事がしたい』及びマネジャー『仕事は入れない』という記載については,表現②と同様,摘示事実イを摘示して,原告会社の社会的評価を低下させるもの
と認められる。
また,表現④のうち事務所社長『お前は負け犬』という記載については,表現③と同様,摘示事実ウを摘示して,原告らの社会的評価を低下させるものと認められる。
なお,
被告らは,
本件ウェブページには原告らを特定する記載はないから,
これを読んだ一般の読者が原告らに関する記述であると直截的に理解することはない旨主張するが,原告らの固有名詞が記載されていないとしても,B
の名前が示された上で事務所社長などと記載されている以上,一般の読者は原告らを特定することができるのであって,被告らの上記主張は採用できない。

表現⑤及び⑥について
表現⑤の中には,あまちゃん撮影当時のBの月給が5万円であったことや,Bの財布に1円玉しか入っていないことがあったことについての記載がある。
また,表現⑤及び⑥の中には,Cの発言として,

NHKの朝ドラのヒロインだよ。普通は事務所が万全のケアをするもんなんじゃないの

私がBさんをマネジメントする立場だったら,『あまちゃん』で大ブレイクしたわけだから,もっとバンバン仕事を入れちゃうけどねえ。

などの原告会社のBへの対応に疑問を呈し批判するニュアンスを含む記載もある。たしかに,一般の読者が上記各記載を読むに当たって本件記事(表現①及び②)を念頭に置いているとすれば,上記各記載は,摘示事実ア及びイを摘
示して,原告らの社会的評価を低下させるものとみる余地がないではない。しかしながら,本件対談記事は,CとBの対談を書き起こしたものであるから,Cの発言部分を読んだ一般の読者は,基本的に,C個人がそのような認識を有していると理解するにすぎないと考えられる。
また,
本件対談記事の全体の内容や論調からすれば,
一般の読者としては,

その主眼は,トラブルに巻き込まれたBをCが明るく励ますことにあって,原告らを非難することにあるわけではないと理解するのが自然である。さらに,本件対談記事は,本件記事が掲載されてから約1年3か月後に本件雑誌に掲載されたものであり,一般の読者が本件対談記事を読むに当たって本件記事を念頭に置いていることは,稀なことと考えられる。
上記の諸点に鑑みれば,
表現⑤及び⑥について,
本件記事とは別個独立に,
原告らの社会的評価を低下させるものと認めることはできない。



小括
以上によれば,本件記事において摘示された摘示事実アからウまでは,原告らの社会的評価を低下させるものと認められるが,本件記事中のその余の部分及び本件対談記事は,原告らの社会的評価を低下させるものとは認められず,名誉毀損に当たるとはいえない。

3
争点⑵(真実性・相当性等の抗弁の成否)について⑴

民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,上記行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当であり,また,上記事実が真実であるこ
とが証明されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには,
上記行為には故意若しくは過失がなく,
結局,
不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁
815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。

そこで,以下では,摘示事実アからウまでが真実であるか(真実性),また,被告らにおいてこれらを真実と信じるについて相当の理由(相当性)があったか否かについて検討する。

摘示事実アについて

真実性について
前記認定のとおり,あまちゃん撮影当時,原告会社は,Bに関し,月給5万円を支給するほか,寮の家賃,食費,光熱費及び交通費その他の様々な費用を負担していたものである。
そうすると,あまちゃん撮影当時,原告会社は,Bに月給5万円を支給するのみで,ほかにはBのために一切費用を負担していなかったとは認められないし,Bが下着も買えないような状態になった原因が,原告会
社から支給される月給が低額であるなど原告会社の提供する待遇が劣悪であったことにあるとも認められない。
したがって,摘示事実ア(あまちゃん撮影当時,原告会社は,Bに月給5万円を支給するのみで,ほかにはBのために一切費用を負担しておらず,そのため,Bは下着も買えないような厳しい経済状態に置かれてい
た事実)について,真実性を認めることはできない。

相当性について
前記認定のとおり,Gは,被告会社の記者による取材に対し,あまちゃん撮影当時のBの月給がさほど多額ではなかったことを肯定する一方
で,原告会社としては,Bについて,息の長い芸能活動をしてほしいという考えから,活躍したからといって月給をいきなり大きく増額することはせず,活躍した年にはボーナスに反映するなど,頑張りと成果に応じて段階的に報酬を増額して相応のものはきちんと支払っているし,寮を用意したりレッスンを無償で提供したりもしている旨を説明しており,Eにおい
ても,原告会社が,Bに関し,月給5万円のほかにも賞与を支給し,寮の家賃,食費やレッスン代等も負担しており,その後月給を増額したことについても認識していたことが認められる
(証人E
〔24,
29,
30頁〕。

したがって,摘示事実アについて,相当性を認めることはできない(むしろ,
被告らは,
一般の読者が摘示事実アを認識するよう仕向けるために,

あえて本件記事において原告会社がBに関し月給5万円を支給するほかにも様々な費用を負担していた事実には一切触れなかったものと推認される。)。


摘示事実イについて

真実性について
前記認定のとおり,
Bは,
平成25年9月28日,
マネージャーに対し,

原作どちらも読ませていただきました。H監督のはやりたくないです。そして,海月姫以外は出来ない気がしてます。

というメールを送信し,また,平成26年5月,マネージャーから,仕事を取ってきて決めて行く作業はみんなでやっていることなので,すぐにやりませんということにはできません。(中略)すくなくとも理由くらいは聞かせて下さい。同じく意向としては聞くつもりでいますが,なにもなくただやりませんというのは関係性としてどうかと思うのですが。というメールを受信したが,これに対し,あまちゃんを演じた,死を描かずに絆を確認するというテーマの中に生きた私が,戦争ものに出るというのは出来ません。絶対に出来ません。やると言われても私は現場に行きません。行ったとしても,怒りでどうにかなって,所構わず怒鳴り散らします。では,そちらの意向を聞かせてください。何故,戦争ものなのか。何故,人形劇なのか。というメールを返信しているのであり,原告会社としては,NHKの人形劇や戦争を題材とした特別ドラマへの出演依頼を提示したにもかかわらず,Bの承諾を得られなかったため,上記の出演依頼を断ったものであるから,
原告会社の対応に合理的な理由がないと認めることはできない。
また,上記以外で原告会社がBへの出演依頼を断った事例についても,作品や役柄等の内容面に問題があったり,あるいは,Bの独立騒動や洗脳騒動が発生し混乱して仕事を入れられる状況にはなかったなどの相応の事情が存したものであるから,原告会社の対応に合理的な理由がないと認め
ることはできない。
なお,進撃の巨人については,制作会社である東宝から原告会社に対しBへの出演依頼がされた事実が認められないから,これを原告会社が断った事実も認めることはできない。
以上に対し,被告らからBやFの陳述書の提出も尋問の申請もされておらず,ほかに原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れないようにしている事例があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって,摘示事実イ(Bが仕事をすることを望んでいるにもかかわらず,原告会社が合理的な理由なくBに仕事を入れないようにしている事実)について,真実性を認めることはできない。

相当性について
前記認定のとおり,被告会社の記者は,B及びFらに対し複数回の取材を行い,そこで得た情報に基づいて本件記事を執筆したものである。しかしながら,被告会社の記者が取材を開始した平成26年8月の時点では,原告会社を退社する意向を有するBと原告会社の協議は難航し両者の関係は悪化している状態であったし,Fにしても,Bと親しく行動を共
にする仲であり,その後,Bが代表取締役を務める三毛andカリントウの取締役に就任したという両者の関係性に照らせば,中立な第三者と評価することはできない。
このように,B及びFらから得た情報はあくまで対立する当事者の一方の言い分にすぎず,このことを被告会社の記者は認識していたのであるか
ら,他方当事者である原告らに関する記事を執筆するに当たり上記情報を基礎にしたからといって,被告らにおいて摘示事実イが真実であると信じるについて相当の理由があったと認めることはできない。
ところで,前記認定のとおり,被告会社の記者がGに取材をした際,Gは,進撃の巨人への出演依頼について,

でもまあ普通にうちが断っているんですけどね。

などと発言し,原告会社がBへの出演依頼を断った事実があったことを認めるかのような態度を示している。
しかしながら,Gは,上記発言に引き続き,上記映画の監督が,業界の一般的な慣行に反して,原告会社を通さずにBに接触していたことが判明したため,制作会社である東宝が原告会社に謝罪するなどの経緯があり,結局,東宝からBへの出演依頼はされなかったという事実関係を説明しているのであるから,Gの上記発言は,原告会社が合理的な理由なくBに仕
事を入れないようにしている事実の裏付けになるものではない。
また,一般に,芸能事務所は,多大な投資をして発掘し育成したタレントを売り出し利益を上げることによって投資を回収するというビジネスモデルを採っているから,人気の出たタレントについては,通常,積極的に仕事を入れようとするものと考えられるところ,このような経験則を踏ま
えれば,被告らにおいて,仮に原告会社がBに仕事を入れていないという事実を把握したとしても,それについて合理的な理由はないと速断すべきではなく,何らかの理由があるのではないかと考えて調査し検証すべきであるにもかかわらず,被告らは,そのような調査や検証を行うことなく,短絡的に,原告会社がBに仕事を入れていないことについて合理的な理由
はないと決めつけたものといわざるを得ないから,被告らにおいて摘示事実イが真実であると信じるについて相当の理由があったと認めることはできない。
したがって,摘示事実イについて,相当性を認めることはできない。⑷

摘示事実ウについて

真実性について
被告らは,原告AがBに対し

負け犬。お前はそんなんだからダメなんだな。逃げたな

などと発言した旨主張する。しかしながら,Eは,上記発言について,原告らと対立関係にあるBの
発言のみに依拠して執筆したにすぎないところ(証人E〔36頁〕),この点に関して,
被告らからBの陳述書の提出も尋問の申請もされておらず,
ほかに摘示事実ウが真実であると認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,摘示事実ウについて,真実性を認めることはできない。イ
相当性について
上記のとおり,Eは,表現③について,原告ら側の人間である原告AやGに対し確認することなく,原告らと対立関係にあるBの発言のみに依拠
して執筆したにすぎないから(証人E〔36頁〕),被告らにおいて摘示事実ウが真実であると信じるについて相当の理由があったと認めることはできない。
なお,被告らは,リード文中の

社長による『パワハラ』発言とは―。

という記載は,原告Aがパワハラと評価される発言をしたことを報じ
るものであって意見ないし論評の表明にすぎない旨主張する。
しかしながら,
パワハラ
という表現が評価的要素を含むものとして,
事実の摘示ではなく,意見ないし論評の表明に当たるとしても,表現③には,これと併せて負け犬などの原告Aの具体的な発言内容等が摘示され,意見ないし論評の前提となる重要な事実が摘示されているところ,こ
れについて真実性も相当性も認められないのは上記説示のとおりである。被告らの上記主張は採用することができない。


小括
以上によれば,本件記事のうち摘示事実アからウまでを摘示した部分につ
いては,いずれも真実性及び相当性を認めることができない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,上記部分については名誉毀損が成立するというべきである。
被告らは,報道機関としての使命を忘れ,報道しようとする内容が真実であるか否かについて客観的な見地から調査し検証することをおろそかにし,
裏付けもないまま,単なる主観的な主張にすぎない内容を訴え流布させることを優先して,
本件記事の報道に及んだものと断ぜざるを得ない
(証人E
〔2
6,27,30頁〕)。
以上の次第で,摘示事実アからウまでを摘示した表現①から③までを執筆し掲載することを決定した被告Dには不法行為(民法709条)が成立し,これは被告会社の事業の執行についてされたものであるから,使用者である被告会社には使用者責任
(民法715条1項)
が成立するというべきである。

4
争点⑶(原告らの損害)について
原告らは,本件記事が本件雑誌及び本件ウェブページに掲載され,摘示事実アからウまでを摘示されたことによって,名誉を毀損され,多大な精神的苦痛を被ったものと認められる。

本件雑誌は,一般に内容の真実性が高いという評価を得ており,発行部数も多く,とりわけ本件記事が掲載された本件雑誌の発売前にはBに関する報道が世間の注目を集めていたから,本件記事が掲載されること(が宣伝されること)によって本件雑誌の販売部数ひいては被告会社の売上や利益が増加したものと推認されるし,本件雑誌の発売に併せて本件ウェブページも公開されたこと
からすれば,本件記事が大衆に与える影響力は大きかったものと推認される。そして,芸能事務所である原告会社について,所属タレントに対し,低額の報酬しか支給せず,合理的な理由なく仕事を与えないなどの評価が世間に広まれば,原告会社の信用は大きく傷付き,タレントを発掘し育成するという業務に大きな支障が生じることになるから,原告会社の被った無形損害は重大であ
る。
また,原告Aについては,原告会社の代表取締役であり音事協の常任理事を務める者でもあるから,原告会社の所属タレントに対し人格を否定する言動に及んでパワハラをする人物であるという評価が世間に広まれば,原告Aの名誉や信用は傷付き,業務にも支障が生じるものと考えられる。

以上のほか,本件記事の内容,表現や体裁等を含め本件に顕れた一切の事情を総合勘案すると,原告会社が名誉を毀損されたことによる損害額は500万円,原告Aの同損害額は100万円と認めるのが相当である。
また,弁護士費用については,原告会社について50万円,原告Aについて10万円と認めるのが相当である。
5
争点⑷(謝罪広告の掲載の要否)について
被告らの名誉毀損行為によって原告らが被った損害は重大ではあるものの,
本件記事のうち名誉毀損が成立すると判断される表現の中にはその部分に限って見れば真実であるものもある上
(例えば,
Bの月給が5万円であったこと)

被告会社の記者から取材を受けたGの発言の中には誤解を招きかねない部分(例えば,進撃の巨人への出演依頼を原告会社が断ったかのような発言を一旦はしたこと)があるなど,被告らによる名誉毀損行為が極めて悪質とまで
はいえず,また,原告会社は大手の芸能事務所であり,原告Aはその代表取締役かつ音事協の常任理事を務める者でもあるから,自ら名誉の回復を図ることが一定程度は可能であることなどを考慮すれば,毀損された原告らの名誉を回復する手段としては,上記認定の金銭賠償をもって足り,それに加えて,謝罪広告の掲載を認める必要性まで認めることはできない。

6
まとめ
以上によれば,被告らは,原告らに対し,本件雑誌及び本件ウェブページに本件記事を掲載したことによる名誉毀損を理由とする不法行為(被告会社については使用者責任(民法715条1項)
)に基づく損害賠償として,連帯して,

原告会社については550万円,原告Aについては110万円,及び上記各金員に対する不法行為の日以後の日である平成27年4月28日(本件記事が掲載された本件雑誌の発売日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。
なお,原告らの被告会社に対する,使用者責任(民法715条1項)に基づ
く請求と選択的併合の関係にある共同不法行為(民法719条1項)に基づく請求については,これによって使用者責任に基づく請求を超える金額が認容されるとは認められないから,判断する必要がない。
第4

結論
よって,原告らの請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第34部

裁判長裁判官

中園浩
裁判官

田中一邦郎治
裁判官一花有香里は,研修のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官

中園浩一郎
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