判例検索β > 平成28年(ワ)第435号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)435
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成31年4月25日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨道立高校の生徒の自殺について,原告(生徒の母)が,被告(北海道)に対し,①自殺は部活動の顧問教諭が不適切な指導により生徒を追い詰めるなどした結果である,②学校が原因調査のための学内アンケートを廃棄するなどしたと主張して,国家賠償法1条1項等に基づいて損害賠償請求をした事案について,①顧問教諭の指導が違法とはいえず,自殺の予見可能性があったともいえないとして,自殺について被告の責任を認めず,これに係る請求を棄却する一方,②アンケート廃棄について慰謝料等110万円及び遅延損害金の限りで請求を認容した事案。
裁判日:西暦2019-04-25
情報公開日2019-06-25 03:33:03
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主1文
被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成28年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを80分し,その79を原告の,その余を被告の各負担とする。

4
この判決の第1項は,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が80万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,原告に対し,8409万4451円及びこれに対する平成28年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。

3仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,被告が設置運営する甲高等学校(以下本件高校という。)に在学
していた亡X(以下本件生徒という。
)が自殺したことについて,本件生徒
の母であり相続人である原告が,被告に対し,いずれも国家賠償法1条1項又
は在学契約の債務不履行に基づいて,
被告の教員らが①安全配慮義務を怠って,
本件生徒に対するいじめを放置し,かえって不適切な指導によって本件生徒を追い詰め,指導後も本件生徒を放置したことにより本件生徒が自殺するに至ったと主張して,損害賠償金(逸失利益及び慰謝料として7909万4451円〔本件生徒から相続したもの7609万4451円,原告固有のもの300万
円〕並びに弁護士費用)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年3月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求めるとともに,②本件生徒の自殺の原因を調査するために全校生徒を対象に行ったアンケートの回答原本を廃棄するなどして,原告に対する調査報告義務を怠ったと主張して,損害賠償金(慰謝料として200万円及び弁護士費用〔①の弁護士費用と②の弁護士費用との合計額は300万円〕)及びこれに対
する上記と同様の遅延損害金の支払を求めている事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない。



当事者等

本件生徒は,平成▲年▲月▲日に出生し,平成24年4月に本件高校に入学して本件高校の吹奏楽局(以下吹奏楽局という。
)に入部し,平

成25年3月3日に自殺により死亡した。

原告は,本件生徒の母である。


本件高校は,被告が設置運営する高等学校である。
E
(以下
E教諭
という。は,

本件生徒の自殺時,
本件高校の教諭
(被
告の公務員)であり,吹奏楽局の顧問であった。F(以下F教頭とい
う。
)は,本件高校の教頭(被告の公務員)であった。

G(以下G主事という。
)は,本件生徒の自殺時,北海道教育委員会
石狩教育局の指導主事(被告の公務員)であった。



本件生徒の自殺等

本件生徒は,平成25年1月28日頃,吹奏楽局の1年生男子局員である生徒Cに対してまぁ死なないように夜道ゎ気をつけなさいな
(乙3
4〔5~6頁〕
)などの,吹奏楽局の局員である生徒Dに対して生徒A(吹奏楽局の1年生女子局員)明日殺す(乙34〔4頁下段〕
)とのメー
ルを送信した(以下,併せて本件メールといい,本件生徒が本件メールを送信したことを本件メール事件という。。


E教諭らは,同年2月1日,本件生徒に対し,本件メール事件に関して注意等の指導を行った(以下2月1日の指導という。。



本件生徒は,平成25年2月27日,いずれも吹奏楽局の1年生男子局員である生徒B及び生徒Cに対し,

生徒Aと性交渉を持った。,

先輩が援助交際している。

と,具体的な名前を挙げて話した(以下,併せて本件発言といい,本件生徒が本件発言をしたことを本件発言事件とい
う。。

E教諭は,同年3月2日,吹奏楽局の2年生女子局員4人の面前で,本件生徒に対し,本件発言事件に関して注意等の指導を行った(以下3月2日の指導という。。)

本件生徒は,
平成25年3月3日朝,
一旦は本件高校に登校したものの,
E教諭に会ったり,吹奏楽局の部室(音楽室)に顔を出したりすることなく下校し,同日午後,札幌市営地下鉄東豊線の元町駅ホームから飛び降りて自殺した。



アンケートの実施等

本件高校は,平成25年3月4日,吹奏楽局の局員(以下,単に局員ということがある。
)を対象として,本件生徒の自殺の原因等に関するア
ンケートを実施した(以下局員アンケートという。。

局員アンケートの回答結果は,本件訴訟の文書提出命令申立事件に係る抗告審手続において,初めて原告に開示された。


本件高校は,平成25年3月11日,全校生徒を対象として,本件生徒の自殺の原因等に関するアンケートを実施した(以下全校アンケートといい,局員アンケートと併せて本件各アンケートという。。

被告は,全校アンケートの回答結果の一部を転記したものを原告に開示したが,回答原本は,F教頭が平成26年3月27日に廃棄したことにより,原告に開示されなかった。

3原告の主張


安全配慮義務違反について


被告による安全配慮義務違反
公立高校の教員は,在学契約に基づいて,学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれがある危険から生徒を保護し,安全の確保に配慮すべき義務を負っており,特に,生徒
の生命,身体,精神,財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるような場合には,
そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防
止するため,
その事態に応じた適切な措置を講ずるべき一般的な安全配
慮義務を負っている。
しかるに,E教諭は,3月2日の指導において,本件生徒が友人であ
る生徒B・Cに個人的に話したものにすぎず,本来,指導の必要すらない本件発言について,これを本件生徒が吹聴しているものと思い込み,上級生局員4人の面前で,
本件生徒に反論の機会すら与えずに厳しく叱
責し,他の局員に一切メールをしないことなどの苛烈な制裁を科した。これは,典型的なパワーハラスメントであり,体罰等に該当する違法
行為である。仮に,3月2日の指導を行うこと自体は生徒指導として許されると解しても,生徒指導の基本である,指導を受ける生徒に対し過度に肉体的・精神的負担を及ぼさないように配慮する義務に反しており,違法である。
また,E教諭は,3月2日の指導によって本件生徒に大きな肉体的・
精神的負担を与えたにもかかわらず,その後,本件生徒の心情を確認したり,保護者である原告に対して,情報共有や見守りの必要性などを連絡したりすることを一切しなかった。
これは,3月2日の指導について,事後的に適切な処置をとるべき義務に違反しており,違法である。

さらに,本件高校の教員らは,E教諭による本件生徒に対する指導等に問題がないか,
本件生徒にどのような悪影響を及ぼすかについて確認

し,改善すべき義務を負っていたのに,3月2日の指導及びその後のE教諭の対応について全く把握しておらず,これらの義務を怠った。イ
自殺との相当因果関係及び予見可能性
3月2日の指導は,元々局員からいじめを受け,孤立していた本件生徒
を,局員4人の面前で犯罪者扱いし,吹奏楽局から排除しようとした過酷なものであって,自殺と相当因果関係が認められるし,E教諭ら本件高校の教員にとって,本件生徒の自殺は十分に予見可能であった。


調査報告義務違反

学校での出来事に起因して生徒が自殺した場合,学校は,調査により事案を解明し,遺族に報告するという重大かつ不可欠な責務を負う。遺族にとって,学校の中で何が起きたかを知ることは,在学契約に基づく固有の権利でもある。


本件高校の教員ら及び北海道教育委員会のG主事らは,本件各アンケートを通じて,本件生徒に対するいじめや,E教諭による本件生徒への体罰
等(3月2日の指導)の事実を把握していたにもかかわらず,本件各アンケートの回答結果を原告ら遺族に詳しく説明することをしなかった。のみならず,本件高校の教員らは,G主事の指示のもとに,組織ぐるみでこれらの事実を隠ぺいし,全校アンケートの回答原本を廃棄した。これらの本件高校の教員ら及び北海道教育委員会のG主事らの行為は,
上記調査報告義務違反に当たる。


損害額

安全配慮義務違反による損害
本件生徒の損害
a
死亡による逸失利益

5409万4451円

b
死亡慰謝料

c
原告は,上記の本件生徒の損害賠償請求権を全額相続した。

2200万円

原告固有の慰謝料

300万円

調査報告義務違反による損害
被告は,本件生徒の自殺の原因を知るための重要な手掛かりとなる局員アンケートの回答結果について,本件訴訟に至るまで原告に開示しなかっ
た上,あろうことか,全校アンケートの回答原本を廃棄した。
これによる原告の苦痛を慰謝するための慰謝料は200万円を下らない。ウ
弁護士費用
上記ア・イと相当因果関係を有する弁護士費用は300万円が相当である。

4被告の主張


安全配慮義務違反について

安全配慮義務違反がないこと
3月2日の指導は,本件生徒が本件発言をした事実を本人に確認した上で,
二度とそのような不適切な発言をしないようにと指導したもので

あって,何ら違法ではないし,局員4人を立ち会わせたことも含め,その態様に不適切な点はない。
3月2日の指導後のE教諭の行動(原告に3月2日の指導について連絡しなかったことなど)にも,何ら非難されるべき点はない。

相当因果関係及び予見可能性がないこと
本件生徒の自殺は,複雑かつ多岐にわたる要因から,本件生徒が自らの意思によって選択した行為であるというほかなく,3月2日の指導と相当因果関係があったということはできないし,E教諭ら本件高校の教員にとって予見可能であったということもできない。


調査報告義務違反について

本件高校の教員らは,本件生徒の自殺の原因等について,本件各アンケートの他,関係生徒への聞き取り調査などを行い,原告に対しても,その
感情に寄り添って,可能な限り誠実な対応を行ってきた。
本件高校の教員らが,原告に対して局員アンケートの回答結果を見せることを約束したとの事実はなく,アンケート回答者に対して,アンケートの回答結果を原告に開示することを約束して局員アンケートを行ったとの事実もない。被告が局員アンケートの回答結果を開示しなかったのは,アンケート回答者らのプライバシー保護などの正当な理由によるものである。

全校アンケートの回答原本の廃棄は,F教頭の過誤であり,文書管理上不適切であったことは認めるが,回答結果はすべて転記した上で,その内
容を平成25年3月24日に原告に説明しており,隠ぺいの意図に基づくものではない。

G主事は,本件生徒の自殺の背景の確認等について,本件高校の教員らに適切な指示を行ったものであって,本件各アンケートの回答結果の隠ぺい等を指示したとの事実はない。



損害額について
争う。

第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実に各掲記の証拠等を総合すると,以下の事実が認められる。⑴

入部当初のつまずき

本件生徒は,平成24年4月,本件高校に入学した。
本件生徒は,中学校で吹奏楽をしており,本件高校における吹奏楽の活動に魅力を感じて同校への入学を志望したものであり,吹奏楽への強い期待を持って,吹奏楽局に入部した。
(前提事実⑴ア,甲50〔1頁〕



本件生徒が入部した当時,吹奏楽局には,1年生18名前後(うち男子5名)
,2年生16名,3年生16名が在籍していたが,その後,1年生
の男子局員のうち2名が退部した結果,1年生の男子局員は,本件生徒,生徒B・Cの3人だけになった。
吹奏楽局には多くの規則があったが,顧問のE教諭は,①局内での恋愛の禁止と,②ブログなどのSNSの禁止を特に厳守するよう,指導していた。
(甲1,証人C・1~3頁〔生徒Cであり,以下証人Cという。,〕
弁論の全趣旨〔被告・第一準備書面・2頁〕


本件生徒は,熱心に部活動に取り組んでいたものであるが,同学年の局員からは,上から目線であるといった反感を買うことがあった。
(甲41
〔7,9,13,14,18頁〕
,44,45,乙36〔5頁〕


⑵心臓の持病の悪化
本件生徒は,小学校5年生の頃から,心臓に持病(三尖弁閉鎖不全)があり,定期的に丙病院を受診して,経過観察を受けてきた。
本件生徒は,平成24年10月12日,部活動練習中,全身の倦怠感,虚脱感を感じ,丁病院に救急搬送されたことがあった他,その後も,部活動中
に具合が悪くなり,
2度ほど,
E教諭に自宅まで送ってもらうことがあった。
(乙1〔3頁〕
,10〔2頁〕
,36〔6頁〕
,39〔4頁〕
,原告本人〔31
~32頁〕



1年生部活におけるつまずき
吹奏楽局では,平成24年10月下旬,2年生及び3年生が不在の間,1
年生のみで部活動を行う1年生部活を行った。本件生徒は,2年生局員からコンサートマスターに指名されたが,
生徒Aを含む女子局員から反発さ
れることがあった。
(甲48〔2頁〕
,50〔2~3頁〕



部活動の欠席と退学の相談
本件生徒は,平成24年12月6日,学級担任のH(以下H教諭とい
う。
)に,
学校を辞めるにはどうすればよいですか?と質問した。
H教諭が,本件生徒に対し,その理由を聞いたところ,本件生徒は,部活
動が多忙であること,先輩が引退した後,部活動の方向性が変わり,自分の思っていた方向との違和感があったこと,本件高校を選んだのは,中学校時代に家庭不和があり,荒れていた時期があったが,その時に救ってくれたのは中学校の音楽の先生であり,音楽にのめり込んだのがきっかけであったことなどを話した(本件生徒は,原告に対しても,部活動が自分の思っていたのと違うようになってきたことを理由として,学校を辞めたいと話したことがあった。。

これに対して,H教諭が,

選択肢として学校を辞めることしかあるわけではないはずだ。部活のためだけに入学したわけではないであろう。などと


諭したところ,本件生徒は,

話せて気が楽になった。焦って決断しないで,ゆっくり考えてみようと思う。

と答えた。(甲50〔3~4頁〕
,乙10〔2
頁〕
,弁論の全趣旨〔被告・第一準備書面・4,27頁〕



腎疾患による入院手術と部活動の欠席

本件生徒は,平成24年12月22日から平成25年1月2日まで,腎疾患のため,丙病院に入院して,尿道の手術を受けた。
この間,
1年生局員が1回,
生徒Aが2回,
本件生徒の見舞いに訪れた。
また,本件生徒は,平成24年12月31日夜から翌平成25年1月1日未明にかけて,
生徒Bら1年生局員6名とともに初詣に出掛けるなどした。
(甲50〔3頁〕
,乙1〔3頁〕
,乙10〔3頁〕
,証人C〔35~36頁〕



本件生徒は,平成25年1月2日に丙病院を退院したが,退院後も,部活動を休み続けた上,同月15日に冬休みが明けて学校が再開した後,同月17日及び同月25日には学校を欠席し,同月26日に予定されていた札幌市民吹奏楽祭にも参加しない旨を局員に連絡した。
E教諭が,同月18日,本件生徒と面談して,部活動を休んでいる理由
を質問したところ,
本件生徒は,
深刻な表情で

とても親しかった友人(中学時代の彼女)が乙県に転校して,その後自殺したのでショックで立ち直れなかった。

と答えた。E教諭は,これを聞いて,

じゃあ,気持ちが落ち着いたらまた出て来なさい。

と言った。(乙10〔3頁〕
,36〔7~
8頁〕


本件メール事件

吹奏楽局は,平成25年1月26日,札幌市民吹奏楽祭に参加した。本件生徒は,この時も部活動を休んでいたが,会場内で演奏を聞いた上で,局員数名に対し,

課題は残るがまあまあだったな。

という趣旨のメールをした。
(乙1〔1頁〕
,10〔3頁〕



本件メールを受けた生徒Bは,
平成25年1月27日,
本件生徒に対し,
てめぇに俺たちの努力のなにが分かる無理だからといって部活から,自分から,皆から逃げていたお前にいままでのお前の行動でどれだけ,の人に迷惑かけたかわかってるのか?どれだけの人が悩んでたかわかってんのか?演奏だぁ?それなのにお前は知らないくせにまだ課題の残っているふざけんじゃねぇよそれにさ,内容は知らんけど生徒,Aにも別にメール送ってんだろ?あいつだって精一杯やってるのに,,部外者がつべこべ言うんじゃねぇてめぇは自分が一番できて他の人は,出来てないとか考えてるんじゃねぇのか?そんな感じで思ってるから誰もついてきてくれないんだ最終的にてめぇがいても只の迷惑で邪魔だ,から消えるんだったらとっとと消えろ消えたくないんだったら変わって見せろなどと記載したメール(乙34〔1~2頁〕)を送信した。
これに対して,本件生徒は,生徒Bに対し,
お前ゎアイツの裏の顔知らないからそんな甘えたこと言えるんだよ迷惑だの困惑だのほざいてん,ぢゃねぇよ甘ったれんのいい加減にしろ,温室育ち48時間寝ずに部活の対処方法考えるはめになったよ俺ゎお前のせいで見学旅行で先輩に生徒Bを頼むだなんて超低レベルな金管の課題出されたよれだけ俺が迷惑したと思ってんの??お前にど俺の人生の目標までぶち壊しやがってよ!!!!本当ざけんなやに生きる目標ないからこのまま死んでやろうか??でも生温い環境に浸かってろに顔出すかよ!!!!この部活もろとも消え失せろ本当に腹立ったあ??俺いつま二度とこんなカス部活勝手に地区敗退でもしてろやなどと記載したメ
ール(乙34〔2~4頁〕
)を送信した。
生徒Bは,本件生徒他1名を除く1年生局員が参加しているLINEのグループトークに上記2通のメールを貼り付けた上で,より挑発的な内容の返信メールの案を書き込んだ。これに対して,他の局員から,

もうやめた方がいいんじゃないか。

という意見が複数書き込まれ,結局,生徒
Bは,挑発的な内容の返信メールを本件生徒に送信することはしなかった。上記グループトークに本件生徒が参加していないのは,本件生徒がスマートフォンを持っておらず,LINEを使えなかったためであって,他の1年生局員が本件生徒を殊更に排除したものではなかった。
(甲48〔2
~3頁〕
,乙34〔1~4頁〕
,39〔9頁〕
,証人C〔37~40,53

頁〕


本件生徒は,平成25年1月28日,学校を無断で休んだ上,生徒Cに対し,自身の個人情報がネット上に流出しているとして,局員に対する怒りを示し,
まぁ死なないように夜道ゎ気をつけなさいなが直接手を下すだなんて十分貯めたからねから甘い考えゎしなさんな金ならここ2週間で依頼金としてゎ5万で十二分かと精々生き残ってみろよを少しゎ理解したらいいさもっとも,俺まぁそゆことだ常に毎日,生死の境目にいる俺の気持ちって1年に伝えときぃや・wなどと記載し
たメール(乙34〔5頁〕
)や,(注・生徒Cを襲う)日にちゎ向こうに
任せるからいつ狙われてもおかしくないので怒らしたらこうなるよ??よろしく俺を本気で毎晩怯えてなさいなどと記載したメール
(乙34〔6頁〕
)を送信した。生徒Cは,同メールを生徒D他数名に見
せた。
また,本件生徒は,この頃,生徒Dに対し,
生徒A明日殺すと記載し
たメール(乙34〔4頁下段〕
)を送信した。本件生徒が生徒Aの殺害を
予告するかのようなメールを送信したことを知った1年生女子局員の一部は,
何日間も生徒Aとの集団下校を余儀なくされた。
(本件メール事件。
乙10〔3頁〕
,34〔4~6頁〕
,39〔5~6頁〕
,証人C〔40~4
1頁〕



2月1日の指導

H教諭は,平成25年1月29日,本件生徒が本件メールを送信した旨を聞いた。
また,H教諭は,同日,本件生徒から相談を受けた。H教諭が,本件メールについては知らないものとして対応したところ,本件生徒は,市民吹奏楽祭を観に行き,感想をメールした。自分は部活に戻りたい気持ちがあり,そのためには他の局員とまた馴染んでいく必要を感じたため,何度かメールのやりとりをしていた。その後,メールの返信では,部活に戻れない自分のことを励ましていてくれると思っていたのに,実はそうではなくてバカにしていたのではないか,と疑うように思っている。また,インターネット上に,自分自身の個人情報が流出しているのではないかと考えた。理由は,変なメールが突然来るようになったから。ただし,自分の個人情報が書かれたサイト等を自分で見たわけではない。などと話した。H教諭は,翌30日,改めて本件生徒と面談して本件メールについて事実確認を行った。本件生徒は,H教諭が本件メールについて知っていることに気付いて落胆し,

今は書きすぎたと反省している。生徒B・Cに謝りたいと思っている。

と話した。この際,なぜ本件メールを送ったかと
いう点についての調査検討はされなかった。
(乙1
〔1~2頁〕乙10

〔3
~4頁〕


本件高校の教諭らは,平成25年1月31日,職員会議において,本件メール事件の扱いを議論した。その結果,本件生徒が実際には生徒A・Cに危害を加える意図はなく,本件メール事件は,それ以前からの人間関係がうまくいっていなかったことが一因となって,衝動的に脅迫メールを送
信したものであり,本件生徒には謝罪する用意があることなどから,停学等の処分を科すことなく,反省文等を通じて指導を行うこととされた。E教諭は,同日,本件生徒以外の局員によるミーティングを行い,局員同士では必要最小限以外のメールのやりとりをしないようにと強く指導した。同ミーティングにおいて,ほとんどの女子局員が本件生徒の吹奏楽
局への復帰に反対したが,生徒Bが泣きながら土下座して,
全部僕が悪いんです!僕が部活を辞めます!と発言し,また,

切り捨てるのはよくない。

という2年生男子局員の意見もあり,最終的には,本件生徒を再度吹奏楽局に迎え入れることが決まった。
(甲48〔4頁〕
,乙36〔9
~10頁〕



F教頭らは,平成25年2月1日,本件生徒及び原告と面談した。F教頭らが,

今回のことは見過ごすことのできないことである。メールにあのような表現(殺す)を書き込んではいけない。しっかり反省し,信頼の回復に努めてほしい。

などと説諭したところ,本件生徒は真摯な様子で「はい。」と答え,原告は何度も

申し訳ない。

と謝罪した。
その後,E教諭らが本件生徒及び原告と面談したところ,本件生徒は吹奏楽局への復帰を希望した。そこで,E教諭は,本件生徒に対し,局員に受け入れてもらうためにどうしたらいいかを考えること,翌日の吹奏楽局の全体ミーティングで皆に謝罪し,今後の決意表明を行うことを指導した(2月1日の指導)(乙36〔10~12頁〕

,37〔3頁〕



本件生徒は,平成25年2月2日,吹奏楽局の全体ミーティングで,本件メール事件について謝罪した上で,

人一倍努力する。と決意表明した。

局員から本件生徒の復帰に反対する発言はなく,本件生徒は吹奏楽局に復帰することとなった。
(甲48〔4頁〕
,乙36〔12頁〕



その後の局員との関係
本件生徒は,吹奏楽局に復帰し,生徒B・Cとも仲良く付き合うようにな
ったが,女子局員の中には多少よそよそしい雰囲気が見られた。
本件生徒は,平成25年2月14日,生徒指導部長のI(以下I教諭という。
)との面談において,

男子局員とは本件メール事件以前のように普通に話せるようになったが,女子局員からは警戒され,関係がぎくしゃくしている。

と話したが,女子局員との関係について,特に困っている,深刻
な問題であるというような様子はなかった。
本件生徒は,同月18日,吹奏楽局副顧問のJとの面談においても,上記と同様の話をした上で,

女子に対しては相当ひどいことをしてしまい,恐怖を与えたのですぐに許されるものだとは思ってはいない。

と話した。(甲
48〔4頁〕
,乙38〔3頁〕
,39〔2,7~8頁〕
,原告本人〔10頁〕




期末試験の無断欠席
本件生徒は,平成25年2月20日,期末試験を無断欠席した。
H教諭が原告に電話したところ,原告は,

前夜,本件生徒が試験勉強をしていなかったことを叱責したところ,本件生徒が翌朝まで部屋から出てこなかった。

と述べた(原告は,本件生徒が試験勉強をしていなかったので注
意したところ,原告の制止を振り切って家を出て,夜中まで帰宅しなかったと供述する。。

本件生徒は,翌21日に登校したが,H教諭から,

追試は受けられない。


と告げられた。本件生徒は,生徒B・Cに対し,前日の欠席理由について,

母親と口論になって,母親に包丁を突き付けられて,怖くて学校に行けなかった。

と述べた(原告は,本件生徒に包丁を突き付けたという事実はなかったと供述する。。
)(乙1〔2頁〕
,10〔5頁〕
,36〔13頁〕
,証人C
〔45頁〕
,原告本人〔12~13頁〕


本件発言事件
本件生徒は,平成25年2月27日,生徒B・Cに対し,

生徒Aと性交渉を持った。,

先輩が援助交際している。

などと述べた(本件発言事件)。

生徒B・Cは,翌28日,E教諭に対し,本件生徒が本件発言を行ったことを報告した。
(甲48〔4~6頁〕
,乙36〔13頁〕
,証人C〔13~1
4頁〕


3月2日の指導
E教諭は,平成25年3月2日,本件生徒を呼び出し,吹奏楽局で主導的
役割を果たしていた2年生女子局員4名(いずれも,本件生徒が本件発言を行ったことを知っていた。を同席させて,

本件発言について事実確認を行っ
た。
E教諭が,
ここでは他の部員もいるので具体的なことは言えないが,言葉に出せないような凄いことを吹聴していると聞いた。自分の娘についてそういうことを言われたら,俺なら黙っていない。お前の家に怒鳴り込んで行く。名誉毀損で訴える。何のことか分かっているな。と質問したところ,本件生徒は,本件発言のことを質問されていることを理解した上で,

分かっています。

と答えた。E教諭が重ねて

そういう凄いことを言ったと認めるのだな。

と質問すると,「認めます。」と答えた。

E教諭が,さらに,

今後どうするか。(吹奏楽局を)辞めるか,条件を受け入れて続けるか。

と質問したところ,本件生徒は,

続けたいです。


答えた。E教諭は,本件生徒に対し,(パートからの連絡に対する返信を含め,)局員には一切メールをしないこと及び1年生局員をこれ以上振り回さないこと(嘘をついたり吹聴したりして迷惑や心配をかけないこと)
という条件を示した上,その他の条件は2年生局員に翌日までに決めてもらう旨を告げて,本件生徒を帰らせた。
帰宅後の本件生徒の様子について,家庭から本件高校に対する連絡はなかった。
(3月2日の指導。甲4,5,50〔9頁〕
,乙36〔13~16頁〕

証人E〔14頁〕


本件生徒の自殺

本件生徒は,平成25年3月3日朝,本件高校に登校したものの,吹奏楽局の練習が行われている音楽室に顔を出さずに下校した。
E教諭は,本件生徒が登校していることを局員から聞いていた。
E教諭は,同日午前10時頃,音楽室に入った際,本件生徒が音楽室に顔を出さなかったことを知り,局員に対し,

これでXはもうダメだな。,



もうXには関わらないで練習に集中だ。

と告げた。(乙36〔16~1
7頁〕


本件生徒は,平成25年3月3日午後1時41分,生徒Cに対して,昨日先生に言われました傷,名誉棄損などなど俺が嘘をついて部員に迷惑かけてて色々言われた先生が何のことを言ってるのか言ってるのか正直に言う全く心当たりがないサッパリ分からない先生が何のこと,俺の予想ゎ以下の四つです際(また,性行為のことも)ネット中・○○(注・生徒A)との交・俺が逆援をしていること・〇〇(注・先輩局員)が出会い関連のことをしていること・俺が家出をし,テストを無断欠席したこと以上の四つのことゎ生徒Bと生徒C)に話したことだよね二人ゎ俺の話を聞いてくれたか,ら今度ゎ俺が聞く番だ,って思ってたて局長,インペクに伝わっていでも実際ゎ違ったんだねそし,先生にいった訳だ何を言ったのか,何を思って報告したのかかったかなぁ??ついこの前○○と○○(注・俺,言ったよねいつかゎ部員に話さなきゃいけないってに言っちゃったのかな??信じなきゃよかった俺ゎ何もかも分からな言わなそれを先二人を信頼してた俺が馬鹿だったんだね生まれなきゃよかったまた丸きり嘘でもない,確かに〇〇(注・先輩局員)が援交をしたとゎ思わないただ出会い関連サイトに手を出しているのゎ事実だよね??ってか犯罪者呼ばわりさ,れた俺の方が名誉棄損だよね,
○○(注・生徒A)との交際のことれも事実だしね付き合ってましたよ性行為もしましたよこ全部しましたよもし二人が俺がしてないことを先輩方に言って,こんな状況になってしまったとしたらそれゎ間違いなく一体誰が得をするのかな??○○(注・生徒B)しかいないよね??すれば一方的に好きな人を○○(注・生徒B)から違う男にとられてしまった訳だし仇だよね死んでほしいよねさ消えてほしいよね安心してもうそろ死ぬから潰す方法ってのゎこゆ事かななどと記載したメールを送信した。
また,本件生徒の携帯電話には,記載した日時は不明ながら,
これが遺書になるかもしれない色々言われましたただ,書いてみたくて書きました今日先生に自分ゎ始め,テストの無断欠席だと思ってましたころが用件ゎ違く自分が嘘をつき名誉棄損したという内容ですとも言われましたット中傷,嘘正直言って心当たりがありませんこれらのキーワードから推測するにBに相談といいますか話をしましたない家出です犯罪だ名誉棄損,娘,ネ自分ゎ生徒Cと生徒生徒Aとの交際テストを受けて逆援(その際にバス内で先輩がそのような文章をうっていたと報告)以上のことを話しましたと自分ゎ何か間違いましたか?その後このような事態になったわけ犯罪を犯した覚えゎございません何が嘘なのか教えて下さいとの文章が保存されていた。本件生徒は,同日午後,自殺した。
(甲6,36)

本件各アンケートの実施及び原告に対する説明

F教頭は,平成25年3月4日,本件生徒の自殺の原因を調査するために,局員に対してアンケートを実施した(局員アンケート)
。その際,F
教頭は,局員に対して,

自殺直後ではありますが,死につながる原因やきっかけがあったかどうか学校として知りたいので,協力してほしい。

と説明したが,局員アンケートの回答結果を原告に見せる旨の説明はしなかった。
局員アンケートの回答結果の中には,Xと同輩の1年生の対応は先生に「かかわるなといわれたせいか,帰りなどは孤立していて,何度か話かける機会もありました。ちょっと1年生のさけかたは,やりすぎだったかもしれません。(甲41〔11頁〕,

)この事件(注・本件メール事件)が終わって部活に戻ってきたXをみんなはとまどいながらも受け入れた。私は受け入れられず,一言も話さなかった。それからのXのことは何も知りません。何人かの局員は先生と話していましたが,私はもうXと関わりたくなかったので何の話かも聞きませんでした。,

Xは何でも物事を大げさにとらえて,なおかつ誤解する人だったので理解してもらえることが少なかった。(甲41〔18頁〕,

Xは部活に残ることになったけど,本心として残るのはやめてほしかった。(甲41〔21頁〕

)など,特に

本件メール事件以後,本件生徒に抵抗感を抱いている局員が少なからずいたことを示すものがあるが,吹奏楽局内で本件生徒に対するいじめがあったことを具体的に示すものは見当たらない。
局員アンケートを実施することについては,原告には事前に伝えられておらず,局員アンケートの回答結果は,本件訴訟の文書提出命令申立事件
に係る抗告審手続において,初めて原告に開示された。
(甲41,乙37
〔4頁〕
,原告本人・25~26頁)

K教頭らは,平成25年3月8日,原告の自宅を弔問し,全校アンケートを実施することについて,原告の意向を確認した。原告は,全校アンケートの実施を承諾し,その結果を見たいと述べた。
(乙2〔5~6頁〕
,弁

論の全趣旨〔被告・第一準備書面・30頁〕


本件高校は,平成25年3月11日,本件高校の1年生及び2年生全員(3年生が卒業していたため,これが全校生徒となる。635名)を対象にアンケートを実施した(全校アンケート)

F教頭は,I教諭に指示して,全校アンケートの回答結果のうち,具体的な記載があったものを転記させた。
上記のとおり転記された全校アンケートの回答結果によれば,約15名の生徒から,本件生徒がいじめられていた,あるいは,悩んでいるように見えたなどとの回答があった。
(甲12,乙12,乙37〔8~9頁〕
,3
8〔5頁〕
,弁論の全趣旨〔被告・第二準備書面・44~45頁,同・平
成29年1月11日付け求釈明に対する回答・3頁〕



本件高校の教員らは,平成25年3月11日から同月18日にかけて,全校アンケートに具体的な回答を記載した約15名の生徒に対し,個別の聞き取り調査を実施した。
その結果,本件生徒に対するいじめを見聞きした旨の回答は,いずれも伝聞や推測,友人間のトラブルに関するものであり,本件高校において本
件生徒に対するいじめがあったことを具体的に示す事実は確認されなかった。
(甲12,乙12,31,弁論の全趣旨〔被告・平成29年1月11日付け求釈明に対する回答・3頁〕


F教頭らは,平成25年3月24日,原告宅を弔問した。
F教頭は,原告に対し,関係教職員・局員・本件高校生徒に対する聞き
取りを行った結果として,E教諭が3月2日の指導を行った理由を説明した上で,本件生徒の自殺の原因としては,健康への不安,期末試験欠席に伴う留年への不安,家庭内での悩み,吹奏楽局内での人間関係など様々な要因が考えられると説明した。その際,F教頭は,原告に,全校アンケートの回答原本を持参したと告げることや,同原本を原告に開示することを
しなかった。
(乙4〔別紙2〕
,37〔6頁〕


全校アンケートの回答原本の廃棄
F教頭は,平成26年4月に他校に異動することから,同年3月27日,全校アンケートの回答原本を保管していたロッカーの書類整理を行った。その際,全校アンケートの回答原本の保管を継続する必要性について,L教頭に相談したところ,同人は,回答結果を転記した資料があることから,回答原本は廃棄して構わないと答えた。
F教頭は,上記の経緯を経て,全校アンケートの回答原本を本件高校のシュレッダーで廃棄したが,これは,北海道教育委員会が定めた道立学校文書管理規程に違反する行為だった。
(甲17~19,乙19)
2本件生徒の自殺に関する被告の安全配慮義務違反について



本件生徒に対するいじめの存否について

原告は,吹奏楽局内あるいは本件高校内において他の生徒から本件生徒に対するいじめがあり,本件生徒が孤立していたという事実があったことを前提として,本件高校の教諭らがこのような事態を放置した上,E教諭が3月2日の指導をしたことが直接の原因となって本件生徒が自殺する
に至った旨を主張する。

吹奏楽局内におけるいじめの存否について
本件メール事件以前
本件生徒は,
吹奏楽局の部活動に関して,
他の1年生局員から反発さ
れることがあったが(認定事実⑴ウ,⑶),これは,成長途上にある生

徒同士が部活動のやり方をめぐって衝突した,
あるいは他の1年生局員
が本件生徒のやり方について行かなかったという域を出るものではなく,いじめとはいえない。
本件メール事件
a
本件メール事件のきっかけとなった本件生徒及び生徒Bのメールの応酬は,部活動をめぐるそれぞれの考えや不満をぶつけ合ったものであり(認定事実⑹ア,イ)
,対等な関係性の中でのけんかの域を出る
ものではなく,いじめとはいえない。
b
生徒Bは,本件生徒他1名以外の1年生局員が参加しているLINEのグループトークに,上記応酬を投稿して本件生徒に対する挑発的な返信メールを提案し,1年生局員の中にはこれを煽る者もいた(認
定事実⑹イ)

しかし,本件生徒が参加していないグループトークが存在したのは,本件生徒がLINEを使えなかったためにすぎず,本件生徒を殊更に排除したものではない(同上)
。また,上記グループトークでは,本
件生徒に挑発的な返信メールを送ることについて反対意見を述べる
者が複数おり,結局,本件生徒に対する挑発的なメールの返信はされなかった(同上)
。上記グループトークが本件生徒に対するいじめの
場になっていたかのような原告の主張は採用できない。
c
2月1日の指導は,殺害予告のメールを送信した生徒に対する当然の指導である。原告は,2月1日の指導は本件生徒に対するいじめを
助長するとともに,当該指導自体が本件生徒に不当に精神的苦痛を与えるものであったと主張するが,次のとおり,採用できない。


原告は,本件生徒と生徒Bのうち本件生徒のみを指導したことを
不公平であったと主張するが,両名は,送ったメールの内容の相違から,指導の必要性を異にしており,本件生徒のみを指導したこと
が不公平であったとはいえない。


原告は,必要最小限以上のメール(LINE)をしないように指
導したことをもって,本件生徒を孤立させるものであったと主張するが,本件メール事件がメールのやり取りの中で発生したことに鑑みれば,上記指導は再発防止に一定の合理性があり,また,部活動
への参加や他の局員との対面でのコミュニケーションを制限するものではなかったことによれば,上記指導が本件生徒を孤立させる目的で行われたとも,実際に本件生徒を孤立させるものであったともいえない。


原告は,他の局員全員の前で謝罪等をするように指導したことを
本件生徒に過大な精神的苦痛を与えたと主張するが,本件メール事
件が局員全体を動揺させるものであったことに鑑みれば,部活動への復帰には局員全体との関係修復が必要であり,局員全体に対して謝罪等をするように指導したことには一定の合理性があった。多人数の前で謝罪等をすることには精神的負担を伴うが,それは謝罪等に必然的に伴う精神的負担であり,当時,本件生徒にこれを甘受さ
せることが相当ではない事情があったとも認められない。謝罪等の場において,本件生徒が他の局員からの非難にさらされ,吊し上げのような事態になったなどの事情も認められない(認定事実⑺エ)。
そうすると,他の局員全員の前で謝罪等をするように指導したことが本件生徒に過大な精神的苦痛を与えるものであったとはいえない。
本件発言事件まで
本件生徒は,本件メール事件から本件発言事件まで,特に女子局員から恐れられ,距離を置かれていた(認定事実⑻,⒀ア)。しかし,本件生
徒が生徒A・Cに対する殺害を予告するような内容の本件メールを送信し,それから1か月程度しか経過していないこと(同⑹ウ,⑽)などに
よれば,局員らの上記反応はやむを得ない。本件生徒は生徒B・Cとは仲良く付き合うことができており
(同⑻)他の局員らも本件生徒を避け

ることがあっても,積極的な加害に及んでいたとは認められず,本件生徒が吹奏楽局内で完全に孤立するに至っていたとも認められない。よって,上記の点を本件生徒に対するいじめということはできない。

その他,本件各アンケートの回答結果及び全校アンケート後の聞き取り調査の結果からは,本件生徒が他の局員からいじめられていたことを疑わせるような事情は見当たらない(認定事実⒀ア,エ)
。全校アンケー
トについては,回答原本が廃棄された(同⒁)結果,現在転記されて残されている回答結果以外に,本件生徒の自殺の原因究明に有益な何らかの情報が含まれていた可能性があることは否定できない。しかし,本件生徒と最も密接な時間を共有していたと考えられる局員らが,本件生徒を受け入れられなかったといった率直な内心を含めて,局員アンケートに真摯に回答しながら,本件生徒に対するいじめの存在を疑わせるような回答をしていないこと(認定事実⒀ア)によれば,他の局員から本件生徒に対するいじめがあったとは認められない。

以上によれば,吹奏楽局内で他の局員から本件生徒に対するいじめがあったとは認められない。

本件学校におけるいじめの存否について
本件各アンケートの回答結果及び全校アンケート後の聞き取り調査の結果によれば,
本件生徒が,
本件高校において,
吹奏楽局以外の場,
例えば,

クラス内などにおいていじめを受けていたと疑うに足りる事情は存在しない(認定事実⒀ア,エ)


以上のとおり,本件生徒に対するいじめがあったという原告の上記主張は採用できない。


3月2日の指導について

事実確認が不十分であったとの主張について
原告は,E教諭が性交渉や援助交際などの言葉を用いず,
凄いことという婉曲な表現を用いたために,本件生徒は何について指導を受けているか理解できなかったことなどから,事実確認が不十分であった旨を主張する。

しかしながら,3月2日の指導は,本件生徒が本件発言を行った直後に行われたものであり(認定事実⑽,⑾)
,本件生徒自身,自殺の直前に生
徒Cに送信したメールや,遺書とも取れる文書において,3月2日の指導が本件発言を理由として行われたものであることを理解した上で,本件発言をしたことを前提として,本件発言の内容が真実であることなどから,3月2日の指導が納得できない旨を記載している(同⑿イ)。これらの事実からすると,本件生徒は,E教諭が言った凄いことの内容を正確に理解した上で,E教諭に対して事実を認めたものと認められるのであって,本件生徒が何について指導されているかを理解できなかったとは認められない。
また,本件発言の内容に鑑みれば,生徒A及び先輩局員にとっては,生
徒B・Cに対して発言されることのみでも十分に苦痛であると考えられる上,両名から第三者に拡散される可能性もある(現に両名を介してE教諭や局員らが知るに至っている。認定事実⑽,⑾)から,生徒B・Cに対して発言しただけでも,指導の必要性は認められ,これを吹聴と表現することがおよそ誤りともいえず,生徒B・C以外の局員に本件発言をした
か否かを確認しなかったからといって,事実確認が不十分であったとはいえない。
以上のとおり,E教諭による事実確認が不十分であったとの原告の主張は採用できない。

叱責の態様が過酷であったとの主張について
指導の必要性について
本件発言(本件生徒が生徒Aと性交渉を持ったこと及び先輩局員が援助交際をしていること。認定事実⑽)は,生徒Aのプライバシーを侵害し,先輩局員の名誉を毀損する,明らかに不適切な発言である(このことは,本件発言の内容が真実であるか否かには関わらない。
)から,本件

生徒に対し,本件発言のような不適切な発言を行わないよう指導すべきは,当然のことである。
名誉毀損などと叱責したことについて
原告は,E教諭が,(自分が生徒A・先輩局員の親なら)お前の家に

怒鳴り込んでいく。名誉毀損で訴える。

などと叱責したこと(認定事実⑾)について,本件生徒を犯罪者扱いしたものであって,体罰等に当たる旨を主張する。
しかしながら,本件発言は,E教諭が叱責したとおり,生徒Aや先輩局員のプライバシーや名誉を毀損する犯罪行為ともなり得るものであって,E教諭の発言内容自体が不必要ないし過度に本件生徒に精神的苦痛を与えるものであったということはできない。

2年生局員を立ち会わせたことについて
原告は,E教諭が,2年生局員4名を立ち会わせたこと(認定事実⑾)について,本件生徒の秘密を暴露した点でプライバシーの侵害であり,本件生徒に強い恥辱を与えて自尊感情を破壊するものであったなどと主張する。

しかしながら,上記2年生局員4名は,本件生徒が本件発言を行ったことをもともと知っていたのであって,指導の場に立ち会わせることによって本件生徒のプライバシーがさらに侵害されたということはできない。また,吹奏楽局の局員には,本件生徒が真実本件発言をしたのか,本件生徒の反省状況,本件生徒が今後も吹奏楽局での活動を希望するの
か否かといった点を直接確認する必要があり,吹奏楽局で主導的役割を果たしていた4名の局員を立ち会わせたことをもって,違法ないし相当性を欠くということはできない。

制裁が苛烈であったとの主張について
原告は,E教諭が,今後も吹奏楽局の活動を続けたいのであれば,他の
局員に一切メールをしないこと,1年生局員をこれ以上振り回さないことという条件を守るように指導したことについて,他の局員との関係を完全に断ち切ることを命じたものであって,体罰等に当たる旨を主張する。しかし,本件生徒が本件メール事件を起こした約1か月後に本件発言事件を起こしており,本件生徒がメールにより他の局員と関わることには,依然として不穏当な事態に至る懸念があったこと,他の局員を嘘などで振り回さないというのは当たり前ともいえること,部活動への復帰自体は認めていることなどに照らせば,上記条件が過酷であったとはいえない。エ
以上のとおり,E教諭の3月2日の指導が本件生徒に対する体罰等に当たる,あるいは,生徒指導として許容される限度を超えているなどとの原告の主張は,いずれも採用できず,3月2日の指導が安全配慮義務違反な
いし国家賠償法1条1項の適用上の違法な行為を構成するということはできない。


3月2日の指導後のE教諭の行動について

原告は,E教諭が,3月2日の指導から本件生徒の自殺までの間,本件生徒の自殺を予見できたのに,原告に3月2日の指導について伝える,本
件生徒の所在を確認するなどの適切な措置をとらなかったことを,安全配慮義務違反として主張する。

教育を担う教員等に対しては,生徒の自殺の危険性について,文部科学省等から啓発がされており(甲9)
,教員等には,これらを通して,生徒
の自殺の危険性についての専門的知見を備えることが求められる。よって,
教員等が生徒の自殺の危険性を予見し得たか否かは,教員等がこのような専門的知見を備えていることを前提に判断すべきである。

本件生徒は,平成25年1月以降,部活動を休んだり,期末試験を無断欠席したり,本件メール事件を起こしたりしていた。しかし,これらは,いずれも,直ちに自殺の危険性を示すものとまではいえない。

そして,3月2日の指導自体は,上記⑵のとおり,その態様等に照らして,これを体罰等と評価すべきものとはいえず,上記のような行動をしている生徒を対象としても,当該生徒の自殺の危険性を直ちに高めるような指導とはいえなかった。
確かに,本件生徒は,3月2日の指導の翌日に自殺するに至っており,時系列的に見て,3月2日の指導が自殺のきっかけになっていたことは否定できない。しかし,本件生徒の自殺の原因としては,3月2日の指導の他にも,①健康面での不安(持病である心疾患の他,2か月ほど前には腎疾患で手術を受けており,本件生徒自身,生徒Cに送信したメールに常に毎日,生死の境目にいる俺などと記載している。認定事実⑵,⑸ア,⑹ウ)②期末試験を無断欠席し,

留年の可能性があったこと
(本件生徒は,

平成25年1月以降,期末試験以外にも,学校を無断欠席することがあった。認定事実⑸イ,⑼)
,③音楽を志して本件高校に入学したのに,吹奏楽局の方向性に違和感を抱き,本件高校を辞めることも検討するに至っていたこと(認定事実⑴ア,⑷)
,④本件メール事件以後,吹奏楽局の女子局員
との関係がうまくいっていなかったこと(認定事実⑻。これをもって本件
生徒に対するいじめということができないことは,上記

のとおりで

ある。,⑤家庭内においても,原告と衝突することがあったこと(認定事)
実⑼。原告が包丁を突き付けたという事実の存否は必ずしも判然としないが,少なくとも,本件生徒が,試験勉強をしないことに関して原告と口論になったこと,原告から包丁を突き付けられたと生徒B・Cに話したこと自体は事実としてあったものと認められる。,⑥生徒B・Cを信頼して本)
件発言をしたのに,
生徒B・CがこれをE教諭らに話してしまったこと
(認
定事実⑽,⑿イ)について,裏切られたと感じた可能性など,複雑かつ多岐にわたる事情が考えられるのであり,
3月2日の指導後の時点において,
3月2日の指導によって本件生徒の自殺の危険性が高まっていたことが明
らかであったとはいえない。この点,原告は,3月2日の指導について,人を自殺へと追い込む理由として十分なものである
などと結論付ける,
精神科医Mの意見書(甲76)を提出するが,同意見書は,3月2日の指導に至る過程などの前提事実(本件生徒が吹奏楽局内で孤立していたか否か,本件生徒の健康状態など)について,必ずしも正確に認識した上でのものとは認められない。
以上によれば,E教諭が教育専門家であることを踏まえても,3月2日の指導後の時点において,本件生徒が自殺に至るという事態を具体的に予見することが可能であったと確実に認めることはできない。
さらに,本件生徒は,平成25年3月3日に部活動に現れなかったものであるが
(認定事実⑿ア)本件生徒が従前も部活動を休みがちであったこ


と(同⑸イ,⑹ア)
,指導を受けて一時的に落ち込み,部活動を休むことに
した可能性も考えられること,家庭からは本件生徒の異変について連絡がなかったこと(同⑾)などによれば,上記欠席が本件生徒の精神状態に不安を抱かせる事情であったとしても,上記欠席を把握した時点から本件生徒の自殺までの時点において,自殺の危険性を具体的に予見することが可
能であったと確実に認めることはできない。
以上のとおり,本件生徒の自殺の危険性について予見可能性があったとはいえない以上,E教諭に,原告が主張する情報提供や所在確認等の義務があったとはいえない。

そうすると,3月2日の指導が自殺のきっかけになっていたとしても,E教諭には,本件生徒の自殺を予見することは不可能であったから,E教諭が本件生徒の自殺を防止するための行動をとらなかったことが安全配慮義務違反であるということはできず,この点に関する原告の主張は採用できない。


本件高校自体の安全配慮義務違反について
原告は,E教諭による3月2日の指導及び指導後の対応に問題があったと
いう事実を前提として,本件高校の教員らにおいて,E教諭による指導等に問題がないかなどを確認し,改善すべき義務を負っていたのに,これを怠った旨を主張する。
しかしながら,上記主張は,上記のとおり,その前提事実(E教諭による3月2日の指導及び指導後の対応に問題があったこと)
の存在が認められず,
採用できない。


小括
以上のとおり,本件生徒が自殺するに至ったことについて,被告の安全配
慮義務違反は認められない。
3調査報告義務違反について


原告は,本件生徒に対するいじめがあったことを前提として,被告がこれ
を組織的に隠ぺいし,本来なすべき調査報告を怠った旨を主張する。しかしながら,本件各アンケートの回答結果や生徒に対する聞き取り調査の結果によっても,本件生徒に対するいじめの存在を疑わせるような事情が見当たらないことは,上記2⑴のとおりであって,原告の上記主張は,その前提を欠く。
なお,
原告は,
本件高校は本件各アンケートの実施に及び腰で,
これを真相究明を阻害するような恣意的,形式的な態様で実施したと主張するが,そのような事実は認められない。
F教頭ら本件高校の教員は,本件各アンケートを実施し,全校アンケートに対していじめ等を見聞した旨を回答した約15名の生徒に対して聞き取り
調査を行った上で,平成25年3月24日,原告に対して,本件生徒の自殺の原因として考えられる事情の説明を行ったものであり
(認定事実⒀オ)そ

の説明内容に誤りがあったとは認められない。また,全校アンケートの回答原本を原告が主張する時期に原告に任意開示することについては,F教頭らにそのような法的義務があったということもできない(この点は,局員アン
ケートについても同様である。。
)なお,
原告は,
E教諭との面談が実現せず,
E教諭から3月2日の指導等について十分な説明がされなかったとも主張するが,F教頭らによる上記説明のほかに,E教諭自らが直接原告に説明すべき法的義務があったとまではいえない。
上記の限りにおいて,被告に,調査報告義務違反があったとは認められない。


もっとも,F教頭が,北海道教育委員会が定めた道立学校文書管理規程に
違反して全校アンケートの回答原本を廃棄してしまったことは,別問題である。
全校アンケートの回答結果については,I教諭が一部を転記した資料は残っているものの
(認定事実⒀ウ)これが全校アンケートに対して具体的な回

答があったものの全部を転記したものであるという保証はなく,転記に際して,本件生徒の自殺の原因に関する有益な情報が漏れた可能性は否定できない。そして,F教頭が,上記規程に従い,全校アンケートの回答原本の保管を継続していれば,例えば,本件訴訟内において,その記載内容が転記されたものと同一であるか否かを確認するなどして,本件生徒の自殺の原因に関
する有益な情報を取得できた可能性があったといえる。
本件各アンケートの回答結果の中に,本件生徒の自殺の原因に関する有益な情報が含まれていたのであれば,
在学関係における信義則上の義務として,
保護者である原告に対して報告すべきものである。しかるに,全校アンケートの回答原本を廃棄したF教頭の行為は,上記のような情報の有無を確認す
る機会を失わせるものであって,原告に対する調査報告義務違反を構成するものと認められる(なお,全校アンケートの回答原本の廃棄が,G主事らを含む関係者によって組織的になされたものであると認めるに足りる証拠は存在しない。また,原告は,本件高校における本件に関する引継ぎが不十分であったと主張するが,これは引継ぎの不十分によって全校アンケートの回答
原本が廃棄されたことを主張するものであるから,上記調査報告義務違反と別個の違法行為を構成するものとはいえない。。



本件においては,F教頭が全校アンケートの回答原本を廃棄してしまった
結果,原告は,全校アンケートの回答結果の中に本件生徒の自殺の原因に関する有益な情報が含まれているか否かを確認する機会を失ったのみならず,全校アンケートの回答結果の中に,本件生徒に対するいじめなど,被告にとって不利益な事実が記載されていたのではないかとの疑念を抱かされ,無用かつ多大な精神的苦痛を受けた。被告による調査報告義務違反による慰謝料の額としては,100万円をもって相当と認める。
これと相当因果関係を有する弁護士費用は10万円をもって相当と認める。第4結論

以上のとおり,原告の請求は,国家賠償法1条1項に基づき,調査報告義務違反に関して,損害賠償金110万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
なお,被告の申立てにより,仮執行について執行開始の時期を定めた上で,
担保を条件とする仮執行免脱宣言を付すこととする。

札幌地方裁判所民事第3部

裁判長裁判官


裁判官木

勝己坂
裁判官

本桃
は,転補につき,署名押印することができない。

裁判長裁判官

髙木勝己
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