判例検索β > 平成30年(わ)第271号
傷害致死、凶器準備集合、出入国管理及び難民認定法違反
事件番号平成30(わ)271
事件名傷害致死,凶器準備集合,出入国管理及び難民認定法違反
裁判年月日平成31年3月1日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  岡崎支部
裁判日:西暦2019-03-01
情報公開日2020-06-04 22:38:54
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平成30年(わ)第271号傷害致死被告事件等
主文
被告人3名を,それぞれ懲役3年6月に処する
被告人Aに対し,未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
被告人B及び被告人Cに対し,未決勾留日数中各130日をそれぞれその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

平成30年3月10日,愛知県知立市内のアパート(以下本件アパートという。)において,約20名のベトナム人が集まったパーティ(以下本件パーティという。)が開催されていたところ,Facebookメッセンジャーの音声通信機能を利用した通話(以下,単に通話という。)により,被告人Bが,かねてより在留カードの貸し借りをめぐりトラブルになっていたDから後記f駅まで出向くよう呼び出されたことを受け,本件パーティに参加していた被告人Aは,同じく本件パーティに参加していた被告人C並びにE,F,G,H,I,J及びK(以下,被告人3名以外の上記7名を併せて本件共犯者らという。)とともに,被告人Bに同行して後記f駅に向かったが,後記f駅において被告人3名及び本件共犯者らがDから殴るなどの攻撃を受けた際には,これに反撃し,被告人B,被告人C及び本件共犯者らと共同して,Dの身体等に危害を加える目的で,同日午後10時33分頃から同日午後10時54分頃までの間に,同市a町bc番地de株式会社f駅(以下f駅という。)及びその周辺(以下,f駅とその周辺を併せてf駅付近という。)において,金槌を準備して集合した。

第2

被告人Bは,前記第1記載の経緯で被告人A,被告人C及び本件共犯者らとともにf駅においてDと会うに当たり,被告人3名及び本件共犯者らがDから殴るなどの攻撃を受けた際には,これに反撃し,被告人A,被告人C及び本件共犯者らと共同して,Dの身体等に危害を加える目的で,前記日時頃,f駅付近において,伸縮可能で,伸ばした際に全体が50ないし60センチメートルの長さになり,持ち手部分がゴム製で,先の部分が金属製の棒(以下,本件棒という。)を準備して集合した。第3

被告人Cは,前記第1記載の経緯で被告人A,被告人B及び本件共犯者らとともにf駅においてDと会うに当たり,被告人3名及び本件共犯者らがDから殴るなどの攻撃を受けた際には,これに反撃し,被告人A,被告人B及び本件共犯者らと共同して,Dの身体等に危害を加える目的で,前記日時頃,f駅付近において,
金属部分の長さが約10センチメートルのはさみ
(以下,
単に
はさみという。)を準備し,被告人Bが本件棒を,Kが包丁様の物を準備しているのを知って集合した。

第4

被告人A,被告人B及び被告人Cは,前記第1記載の経緯で本件共犯者らとともにf駅においてDと会うに当たり,遅くとも同日午後10時52分までの間に,本件共犯者らとの間で,被告人3名及び本件共犯者らがDから殴るなどの攻撃を受けた場合には,これに反撃して同人を殴るなどの暴行を加えることについて暗に意思を相通じ,同時刻頃,f駅ホーム(以下,単にホームという。)において,電車から降車してきたD(当時27歳)が被告人Aに対して辛子成分入り液体をスプレーで吹きかけ,模造刀で切り付ける暴行を加えたことをきっかけに,Dに対し,本件共犯者らのうちホーム上にいた複数の者がDに襲いかかり,その頃から同日午後10時54分頃までの間に,本件共犯者らのうち何者かが多数回にわたり,その頭部,顔面,両腕,両足等を棒様のもの等で殴り,その背部や頚部等を刃物様のもので突き刺すなどの暴行を加え,ホーム上でうつ伏せに倒れ込んでいたDに対し,被告人Aがその背部を金槌で四,五回殴打し,被告人Bがその右手を本件棒で5回程度殴打し,被告人CがDを取り囲んでいる他の被告人又は本件共犯者らの背後からDの腰付近を目がけて足の裏で蹴りつける暴行をそれぞれ加え,よって,これら一連の暴行により,Dに対し,頭部挫創,くも膜下出血,背部刺切創及び両肺等切損等の傷害を負わせ,同月11日午前零時6分頃,同県刈谷市g町h丁目i番地j病院において,同人を前記両肺等切損による失血及び血胸により死亡させた。第5

被告人Cは,ベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であり,平成23年7月15日,同国政府発行の旅券を所持し,大阪府泉南郡k町所在のl空港に上陸して本邦に入ったものであるが,在留期間は平成25年7月25日までであったのに,平成30年4月1日まで,在留期間の更新又は変更を受けないで本邦から出国せず,愛知県内等に居住するなどし,もって在留期間を経過して本邦に残留した。

(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1
争点
本件の主な争点は,以下のとおりである。


判示第1ないし第3の各事実(凶器準備集合)について
共同加害目的の有無
判示第4の事実(傷害致死)について
①共謀の存否(被告人3名)
,②共同実行の事実の有無(被告人B及び被告
人C)
,③正当防衛の成否(被告人A)及び④誤想防衛の成否(被告人C)
2
争点判断の前提となる事実関係


関係各証拠によれば,以下の事実関係が認定できる。

被告人B及びLは,在留カードの貸し借り等をめぐってDとトラブルになっていたところ,平成30年3月10日昼過ぎ(以下,時刻のみの記載は同日の出来事である。,m駅付近において,Lは,Dと会った際,同人から模)
造刀で切り付けられるなどしてけがを負う被害に遭った。
Lは,前記被害に遭った後,m駅からほど近い友人の住む本件アパートに逃げ込んだが,同日,本件アパートでは,午後7時頃から約20名のベトナム人が集まる本件パーティが開催されており,被告人3名及び本件共犯者らは,いずれも本件パーティに参加していた。そして,被告人3名は,本件パーティの開始前までの間に,L等から話を聞いたり,Lの治療跡を確認したりして,Lが前記被害に遭ったことを知った。

本件パーティ中である午後9時15分頃,本件アパートにいたLにDから通話があり,Dは,ベトナム語特有の表現によりLを執拗に侮辱したり罵倒したりするなどしたが,
これに対して,
Lは,
Dにひたすら謝り続けていた。
LとDとの上記会話は,Lが通話途中からスピーカーモードにした上,本件パーティの参加者が通話内容を聞くため静かにしていたことから,本件パーティの他の参加者にも当該通話の内容が聞こえる状況であった。


前記通話において,DがLに対して被告人Bに連絡を入れさせるよう要求してきたため,同通話の終了後,本件アパートにおいて,本件パーティの参加者のいる中で被告人BもDと通話を開始したが,被告人Bが同通話の当初からスピーカーモードにしていたことから,本件パーティの他の参加者にも同通話内容が聞こえる状況であった。同通話において,Dは,被告人Bに対してもLと同様に執拗に侮辱したほか,周りで通話の様子を聞いていた他のパーティ参加者に対しても侮辱する言葉を述べた上,酒に酔ったような口調で

全員出てこい。,

殺してやる。

などとも怒鳴っていた。Dは,この通話の中で被告人Bを含む本件パーティの参加者に対してm駅まで来るよう要求したが,本件パーティの参加者の提案の結果,最終的に本件アパートから近いf駅で被告人BはDと会うこととなった。


本件アパートにおける被告人BとDとの通話が終わり,午後9時半過ぎ頃に本件パーティが終わると,本件パーティの参加者の一部が

みんなで行こう。

などと言いながら立ち上がり,被告人Cも

みんなが行くなら俺も行くよ。

などと言いながら立ち上がった。本件パーティに最後まで残っていた参加者のうち,被告人3名及び本件共犯者らを含む十数名のベトナム人は,本件アパートを出た後,歩いてf駅に向かったが,被告人Bは,本件アパートを出る際,Fの持っていた手袋を取り上げた。また,被告人Bは,本件アパートを出た後,午後9時52分頃,再度Dに電話し,みんなたくさん駅に向かっている。

別の日に話をしよう。


などと提案したが,Dはそれでも

全員来い。名古屋に住むつもりなら,出てこい。

などと言い,被告人Bの提案を受け入れなかった。オ
被告人Aは,本件アパートからf駅に向かう道中において,道路沿いの工事現場で金槌を発見し,これを拾って携帯した。


被告人Cは,
Gからマスクと手袋を数個買ってくるよう頼まれたことから,
本件アパートからf駅に向かう途中,Kとともにコンビニエンスストアに立ち寄り,マスク3袋(一袋4枚入り)と手袋4双を購入し,購入したマスクと手袋は,f駅に到着した後,KがGほか数名に対して配布した。

被告人Bは,f駅に到着後,本件共犯者らのうち面識のなかった者から本件棒を渡され,本件棒を振ることにより伸縮することを確認した上で,本件棒を短くした状態にして服の右袖の中にしまった。
被告人Cは,f駅に到着後,付近の民家の駐車場においてKと煙草を吸っていたが,その際,Kからはさみと手袋を受け取り,手袋を装着し,はさみを服の右袖の中に入れた。


被告人Aは,午後10時38分頃,改札口を通過してf駅構内に入り,その後に続いて同構内に入った本件共犯者らのうち3名とともに同駅ホームに設置されたベンチに4人が座りDの到着を待った(以下,被告人Aを含む上記4名を被告人Aらという。。



Dは,午後10時52分に同駅に到着した電車から降りてホームに姿を現すと,模造刀を手に持って示しながら,ベンチに座っていた被告人Aらに対し,順に

お前がBか。

と尋ねてきたが,最後に尋ねられた被告人Aが「違う。」と答えると,被告人Aに対し,いきなり辛子成分入りの液体をスプレーでその目に吹きかけ,
模造刀でその左肩を切り付ける暴行を加えてきたため,
被告人A以外の3名がベンチから立ち上がりDに襲い掛かった。
被告人Aは,その後,うつぶせに倒れて動かないDの背中を金槌で殴打した。

一方,被告人B及び被告人Cは,f駅構外でDの到着を待っていたが,ホーム方向から聞こえた騒ぐ声や物音などから,Dが電車でホームに到着しけんかが始まったのではないかなどと考え,午後10時53分頃から午後10時54分頃の間に,本件共犯者ら3名とともに相次いで改札口を通って同駅構内に入った。
被告人Cは,Dを円形に取り囲んでいる他の被告人ら及び本件共犯者らのすぐ背後に近づき,円形に取り囲んだ同人らの間から中に向かって左足で蹴りつける動作をしたが,Dの身体には当たらなかった。


被告人3名及び本件共犯者らは,誰かの「逃げろ。」という発言をきっかけに,いずれも午後10時54分頃,f駅の改札口から出場して逃走した。


上記の事実関係については,当公判廷において取調べ済みの関係証拠により明らかに認定することができ,また,被告人3名も,これらの事実関係自体は基本的に争っていない。
なお,被告人3名の弁護人らは,その所在が不明であることから刑事訴訟法321条1項2号前段により証拠採用決定されたLの検察官調書の全部又は一部の信用性を争っているほか,被告人A及び被告人Cの弁護人らは,強制退去処分により既に外国に送還されたことから同法321条1項2号前段により証拠採用決定されたMの検察官調書謄本及び証人として出廷した際に捜査段階と異なる証言をしたことから同法321条1項2号後段により証拠採用決定されたNの検察官調書の全部又は一部の信用性を争っている。
しかしながら,f駅で発生した本件事件の捜査対象となっていないMにおいて殊更に虚偽の供述をする動機は見出し難く,その供述内容を検討しても不自然な点は見当たらないことからすると,同人の供述調書の記載内容は信用できる。また,Nの検察官調書についても,同人が被告人3名とは友人関係等にあったことや,N自身もf駅で発生した本件事件の捜査対象になっていなかったことなどからすれば,同人において殊更に虚偽の供述をして被告人3名を陥れる動機は見出し難い上,
その供述内容を検討しても具体的で不自然な点はなく,
Mの上記検察官調書とも整合するものであることからも,捜査段階におけるNの供述内容は十分に信用できる。他方で,Nは,当公判廷において証人として出廷した際,捜査段階で供述していたような事実の大半を覚えていないなどと証言しているが,捜査段階において異なる供述をした理由について合理的な説明を何らなし得ていない上,事件に関する質問への具体的な証言を避けようとする証言態度に終始していることからすると,Nの証言内容が捜査段階と著しく異なる理由も,被告人3名の在廷する当公判廷においてNが被告人3名に不利益に働く自己の捜査段階における供述内容を維持することを避けようとしたためであったと解されるから,Nの当公判廷における供述は信用できないことになる。さらに,Lの検察官調書についても,同調書作成当時において,Lはf駅で発生した本件事件について被疑者として捜査対象となっていたことからすると,本件アパート内における出来事について被告人3名に不利益に働く事実を供述すれば,それは同時にLにとっても不利益に働く事実となるものであることはLにおいても当然に理解できたと考えられることからすると,そのような危険を冒してまで殊更に虚偽供述をする理由は考え難い上,その供述内容は具体的であって,信用できるMやNの検察官調書の供述内容ともよく符合する自然なものであるから,
捜査段階におけるLの供述内容は十分に信用できる。
他方で,Lは,刑事訴訟法179条に基づき実施された証拠保全としての証人尋問手続において証人として証言した際,捜査段階で供述していたような事実の大半を覚えていないなどと証言しているが,捜査段階において異なる供述をした理由について合理的な説明を何らなし得ていないことからすると,Lの証言内容が捜査段階と著しく異なる理由も,前記証人尋問手続時点においてL自身が捜査対象から外れた事情も相まって,被告人3名の面前においてLが被告人3名に不利益に働く自己の捜査段階における供述内容を維持することを避けようとしたためであったと解されるから,Lの前記証人尋問手続における供述は信用できないことになる。
3
検討
前記2の事実関係を前提に,以下,被告人3名及び本件共犯者らの本件当時の認識について検討する。


本件パーティに先立ちLがDから模造刀で切り付けられてけがを負う被害に遭ったことを被告人3名も本件パーティの時点で認識していたこと,本件パーティの席上において,Dが,L及び被告人Bとの通話において同人らを執拗に侮辱したり罵倒したりする発言を繰り返し,L及び被告人Bが繰り返し謝罪してもこれを受け入れないばかりか,他のパーティ参加者に対しても

全員出てこい。,

殺してやる。

などと述べているところ,その様子は他のパーティ参加者にも十分に聞こえる状況にあったことからすれば,粗暴性の高いDが被告人Bとf駅で会った場合,謝罪の申入れや話合い等に応じずに,被告人Bや同行した本件パーティの参加者に対して攻撃を仕掛けてくる可能性があることは,被告人3名を含む本件パーティの参加者にとっては容易に想定できたはずであり,Dと会えばけんかになることが分かっていたためにLが被告人Bからの誘いを断って本件アパートに残ることを決めたことや,本件パーティの途中で帰宅したNが,
Hからの電話でDとf駅で会うことになっていることを知らされ,Dとけんかになることを避けるために,Hに対して帰るように言ったり,わざわざ被告人Cに電話を掛けて帰るように言う行動を取ったのも,上記判断を裏付けるものといえる。
このような想定の下において,被告人3名及び本件共犯者らはあえてDに会いにf駅に出向いているところ,被告人Bが本件アパートを出る際にFの手袋を取り上げて装着したことや,被告人3名及び本件共犯者らの一部がそれぞれ闘争の際に凶器となり得るものを携帯し,被告人C及びKがGから依頼されてマスク及び手袋を購入した上でこれらを本件共犯者らの一部に配り,被告人C自身もKからはさみを受け取った時点で手袋を装着していることも総合すると,被告人3名及び本件共犯者らは,遅くともDがf駅に到着するまでには,Dが被告人B等に攻撃を仕掛けてきた場合には,両者の間でけんか闘争となることは避けられないと予想し,これに備えて各自が凶器を準備するなどして,Dの攻撃に応戦してDに暴行を加える意思を暗に相通じていたと認定できる。本件において,被告人Aと同時刻頃にf駅のホームに入った本件共犯者らの一部が,被告人AがDから攻撃を受けるやいなや直ちに反撃を開始していること,被告人Bや被告人Cが,Dとけんかとなったことを察知して走って駅のホームに向かい,被告人Bが右袖口に入れていた本件棒を取り出して伸ばした状態で振り上げながら改札口を通過し,ホーム上でうつぶせに倒れて動かないDの身体を複数回殴り,被告人Cが右袖口に入れていたはさみを手に持って改札口を通過し,前同様の状態で共犯者らから暴行を受け続けているDを足蹴にしようとしたこと,被告人AがDの倒れた後に動かない同人の背中を金槌󠄀で複数回殴打しているところ,これらの行動は被告人3名及び本件共犯者らが前記のような意思を相通じていたことの裏付けとなるものである
(なお,
被告人Bは,
捜査段階ではDに対する暴行を行ったことを認めていたのに対し,当公判廷においてこれを否認しているが,この状況を目撃したことを内容とする被告人Aの捜査段階における供述内容は,被告人Aにおいて殊更に虚偽の供述をして被告人Bを陥れる動機は見当たらないことに加え,被告人Aの捜査段階の取調べ状況を録音録画したやり取りを記録した動画データからうかがわれる供述状況や発言内容をみても供述の信用性を疑わせるような事情も見当たらず,被告人A及び被告人Bがf駅の改札口を出入りする状況を撮影した防犯カメラの映像とも整合的であることからも信用性が認められ,また,被告人Bは,捜査段階において,Dの身体を本件棒で複数回殴打した事実を認めているところ,暴行態様に関する同供述内容は,信用性が認められる被告人Aの供述内容とも良く一致する上,上記防犯カメラの映像とも整合的であることからも信用性が認められるから,これらの証拠によれば,被告人BがDに判示第4記載の暴行を加えた事実は優に認定することができる。。



被告人3名は,いずれも捜査段階において,Dとf駅で会った場合にはDから攻撃を受ける可能性を認識した上で,そのような状況が生じた場合には同人を殴り返すなどして応戦するつもりであった旨供述しているところ,かかる供述内容は,被告人3名及び本件共犯者らの行動等に関する前記認定にかかる客観的状況に沿うものである上,被告人3名の捜査段階の取調べ状況を録音録画したやり取りを記録した動画データからうかがわれる供述状況や発言内容をみても供述の信用性を疑わせるような事情も見当たらないことからすると信用性が認められる。これに対し,被告人3名は,当公判廷において,Dに危害を加えるつもりはなかったなどと弁解するが,このような弁解は前記の事実関係に照らし不自然であって,信用することができない。

4
各争点に対する判断
以上の認定を前提に,前記1の各争点について判断する。


判示第1ないし第3の各事実(凶器準備集合)に関する争点について本件において,被告人3名が,強いてDとの間で暴力沙汰を起こすことを望んでいたとまでは認められないものの,前記のとおり,被告人3名は,Dから攻撃を受けることを予想し,攻撃を受けた際には,本件共犯者らと共同して,これに応戦してDの身体等に攻撃を加える目的を有していたものと判断できるから,いずれも共同加害目的を有していたものと認められる。



判示第4の事実(傷害致死)に関する争点について

共謀の存否について
前記のとおり,被告人3名は,Dから攻撃を受けることを予想し,攻撃を受けた際には,これに応戦してDに攻撃を加える意思を有しており,これを他の被告人ら及び本件共犯者らとの間においても暗に相通じていたものと判断できるから,被告人3名にはDに対する暴行の共謀成立が認められる。イ
共同実行の事実の有無について
被告人Aが,Dの背中を金鎚で殴打する暴行を加え,被告人Bが,Dの身体を棒で殴る暴行を加えたと認められることについては,前記のとおりである。
また,関係各証拠によれば,被告人Cは,f駅のホーム上において,うつぶせに倒れているDの周囲を円形に囲んで暴行を加える他の共犯者らの背後から同共犯者らの身体と身体の隙間を通してDの腰付近めがけて相応の強さで足蹴にする動作をした事実が認められるところ,同事実によれば,被告人Cの前記足蹴り行為は,Dの身体に対して危険性のある有形力の行使と判断できるから,被告人Cの足がDの身体に命中しなかったことを考慮してもなお,被告人Cの上記行為は傷害致死罪の実行行為としての暴行に当たるといえる。


正当防衛の成否について
そもそも法治国家において私闘(暴力沙汰)は違法行為として禁じられているところである。本件において,被告人Aは,Dの挑発に応ずることなくf駅に出向かないとの選択をすることによって安全確実にDによる侵害を回避できたにもかかわらず,f駅においてDから攻撃を受ける可能性があることを十分認識しながら,金槌を準備した上で,自ら出向く必要性もないのに敢えてf駅に赴いている。また,被告人AがDから受けた攻撃の内容も,被告人Aの予測を大きく超えるものではなかったものと認められるし,被告人AがDを金槌で殴打した際,Dは既に本件共犯者らのうちの何者かの攻撃を受けてうつぶせに倒れていたのであるから,当該時点において被告人Aが自分の身を守るために防衛行為を行う必要性はなかったといえる。しかるに,被告人Aは,このような状況下において敢えてDに対して暴行を加えたものであるが,前記のようなDの侵害に先立つ事情も考慮に含めた本件全般の状況に照らすと,被告人Aによる暴行が正当防衛として許容される状況にはなかったものといえるから,本件は侵害の急迫性の要件を充たさず,被告人Aに正当防衛は成立しない。

誤想防衛の成否について
本件において,被告人Cは,前記認定にかかる状況において,Dと先にホームに入っていた共犯者らとの間でけんかが始まったことを認識した上で同共犯者らに加勢する目的でホームに向かった点でそもそも急迫性の要件を欠いているといえる。また,信用性が認められる被告人Cの検察官調書によれば,被告人Cは,円形になってDを囲んだ他の共犯者らが倒れた状態のDに対して蹴ったり殴ったりしていることを認識しながら同人を足蹴にしようとしたものであるから,被告人Cは,自己又は他の被告人ら及び本件共犯者らがDから攻撃を受ける可能性が既にないことを認識していたものといえ,この点についての誤信など無かったものと認定できる。したがって,被告人Cにつき誤想防衛は成立しないことになる。

(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
1
本件において量刑の基本となる傷害致死についてみると,同事件は,被告人3名及び本件共犯者らが,被害者1名に対して10名もの多人数で,凶器を用いて多数回の暴行を加えた悪質なものであり,被告人3名も,それぞれ判示のとおりの各暴行を加えるなど,いずれも集団の中で一定の役割を担っていたものといえる(なお,被告人3名が果たした役割については,基本的にその軽重に差はないと考えられるものの,被告人Cについては,同人が凶器を使用していないことや同人の行った暴行が被害者に当たっていない点で,その関与の程度は若干低いといえる。。

もっとも,被告人3名の加えた暴行が,いずれも被害者の死亡結果の直接の原因ではないこと,本件が,被害者において執拗に本件パーティに参加していた者を侮辱したり罵倒したりするなどしたことで被告人3名及び本件共犯者らに怒りの感情を抱かせ,同人らをf駅に呼び出した上,本件現場においても被告人Aに模造刀で切り付けるなどして先に暴行を加えたことがきっかけとなって闘争行為が発生したという事情が存在するところ,これらの事情は被害者側にも相当大きな落ち度があったものと評価でき,この点は被告人3名のために有利に斟酌できる。
2
そこで,以上の各事情に加え,被告人Cについては,前記のとおり同人の関与が他の被告人と比べて若干軽度にとどまる一方で,4年以上にわたり不法残留を続けていた判示第5の出入国管理及び難民認定法違反の犯行に及んでいたことを併せて考慮し,本件と同種事案(被害者1名に対する共犯によるけんか事案で,被害者に落ち度があるもの)の量刑傾向も踏まえると,前科前歴のない被告人3名に対しては,いずれも主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑

被告人3名につきそれぞれ懲役7年)

平成31年3月1日
名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部

裁判長裁判官

鵜飼祐充
裁判官

岩﨑理子
裁判官

西臨太郎
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