判例検索β > 平成29年(わ)第672号
窃盗
事件番号平成29(わ)672
事件名窃盗
裁判年月日平成31年2月20日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2019-02-20
情報公開日2020-06-04 22:39:25
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主文
被告人を懲役8年に処する
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は,分離前の相被告人A,同B,同C,同D,E,F及び氏名不詳者らと共謀の上,平成28年7月8日午前9時27分頃,福岡市a区bc丁目d番e号Gビル(以下本件ビルという。
)1階エレベーター前エントランス(以下本件エントランスという。)において,H,I及びJ(以下,この3名を被害者らと
いう。
)管理の金塊合計160個(重量約160キログラム。時価合計約7億5840万円。以下本件金塊という。
)在中のキャリーケース5個(以下本件キャリーケース
という。並びにI所有又は管理の現金約130万円及び財布1個等在中)
のショルダーバッグ1個
(時価合計約24万円相当。本件ショルダーバッグ
以下
という。
)を持ち去り窃取した。
(事実認定の補足説明)
1
弁護人の主張等
関係証拠によれば,被告人が,判示日時,場所において,A,E,B,C及び
D(以下,この6名を実行犯らという。)とともに,被害者らが運んでいた本件金塊在中の本件キャリーケース(以下,これらを併せて本件キャリーケース等という。)を持ち去った事実(以下本件持ち去り行為という。)が認められ,この点に争いはない。
弁護人は,本件持ち去り行為につき被告人に窃盗罪は成立せず,被告人は無罪である旨を主張し,その理由として,本件キャリーケース等については,①持ち去ることについて被害者らの同意があった,②少なくとも,被告人は,持ち去ることについて被害者らが同意していると認識していたから,窃盗の故意がない旨を主張し,本件ショルダーバッグについては,③被告人は窃盗を共謀していない旨を主張する。
2
被害者らの同意について(前記①)


関係証拠によれば,本件持ち去り行為及びその前後の状況として,以下の事実が認められる。

実行犯らは,レンタカー2台(車種はノアとスイフト。以下,それぞれ,本件ノア,本件スイフトという。)を借り,POLICEと記
載されたワッペンが付けられるなどしたベストなど,警察官のように見える服装をして,本件ノアと本件スイフトに分乗し,平成28年7月8日午前8時ないし午前8時半頃,本件ビル付近に着き,周辺の道路を周回するなどした後,本件ビルの出入口が面する道路上に本件ノア及び本件スイフトを停車させた。


被告人,
E,
C及びDは,
被害者らの乗った自動車
(車種はアルファード。
以下本件アルファードという。)が本件ビル前に到着し,被害者らが本件アルファードから本件キャリーケース等を降ろして本件ビルに向かうのを確認すると,
同日午前9時26分頃,
本件ノア及び本件スイフトから降りて,
本件ビル内に入り,被告人及びEが,被害者らに対し,警察だ,分かっているんだろうな,中身を見せろなどと声を掛けるとともに,キャリーケースを開けるよう求め,被害者らがIのキャリーケースを開けて金塊等の在中品を見せると,これは密輸品だと言うなどした。また,本件アルファード内には,被害者らとともに本件金塊の買付場所から乗車してきたK及びLが残っていたが,Bは,K及びLに対し,警察だ,降りろと声を掛け,K及びLを降車させた。


E,B,C及びDは,被害者らから,本件キャリーケース等と本件ショルダーバッグを持ち去り,同日午前9時30分頃,本件ビルを出て,小走りで本件ノアに戻り,これらを積み込んだ。他方,被告人は,本件エントランスに残り,被害者らに対し,中身を調べてくるから,おまえらはここで待ってろなどと言って,被害者らをその場に留めた後,本件ビルから出て,本件ビル付近でAの運転する本件スイフトに乗車した。

実行犯らは,本件ノア及び本件スイフトに乗り,逆走するなどしながら本件ビル付近から離れ,同日午前9時40分頃,福岡市内から高速道路に乗り入れて東方面に進行した。その途中,山口県下関市内で高速道路を降り,同市内の河川敷において,本件キャリーケース及びI名義のパスポート,健康保険被保険者証,
キャッシュカード等が入った本件ショルダーバッグのほか,
実行犯らが警察官のように見えるために着用していた衣類を投棄した。

その後,Aは,知人に依頼するなどして,同月11日及び同月15日の2回にわたり,本件金塊のうち合計90キログラムを買取業者に売却して4億3000万円余りの現金を得た。この現金から,被告人,A及びEがいずれも9000万円ないし1億円を,C及びDがその残額の大半を分割して,B,
それぞれ得た。


また,
Aは,
平成29年3月頃,
Mとの間で,
互いの代理人弁護士を介し,
本件持ち去り行為について,本件持ち去り行為の関与者が,Mの経営する会社に対し,合計1億6000万円の示談金を支払うことなどを内容とする示談を試みたが,合意には至らなかった。



上記⑴の事実経過に照らせば,実行犯らの一連の行為については,被害者らが本件ビルに到着するのを待ち構え,被害者らに対し,被害者らが金塊の密輸に関与しているとの嫌疑を持った警察官による職務の執行を装い,被害者らをしてその旨を誤信させ,被害者らを本件エントランスに足止めして時間稼ぎをしながら,
本件キャリーケース等を持ち去って,
自動車で犯行現場から逃走し,
その途中,犯行現場からかなり離れた場所で,犯行に用いた物や被害品のうちの一部を投棄するといった証拠の隠滅行為に及んだ上,被害品の相当量を直接処分して高額の利益を得,その後,これによる法律上の責任を免れるため,相応に多額の負担を覚悟して示談の成立を目指したものと評価するのが自然かつ合理的であり,本件持ち去り行為が被害者らの意思に反する財物の窃取行為であったことが強く推認される。
本件キャリーケースの中には,施錠されており,在中の金塊を取り出すために,
実行犯らがその鍵部分を破壊する必要があったものが含まれていたことや,上記のとおり,Iにとって,面識のない他人から持ち去られたり,遠隔地に投棄されたりすることを容認することなど到底考えられない,重要な身分証明書等が入った本件ショルダーバッグが,本件キャリーケース等とともに持ち去られ,本件キャリーケースとともに投棄されたことは,この推認を強めるものである。
また,関係証拠によれば,実行犯らは,本件持ち去り行為によりその占有を取得した本件金塊の半分を超える量を,被害者ら及びその関係者に返還したりせずに,直接換金した上で合計4億円余りもの非常に高額の利益を得たことが認められる一方で(上記⑴オ),出資者から受けた出資金等を元手として購入した金塊を売却し,売却額と購入額の差額を利益として得る事業を行っていたM,Mに依頼されて,本件ビルまで本件金塊を持ち運ぶことを担った被害者ら並びにK及びL,更にはMの経営する会社及びその代表取締役であり本件持ち去り行為につき提出された被害届の作成名義人(N)のいずれもが,本件持ち去り行為の当時,盗難被害に関する保険に加入するなどしておらず,被害者らはもとより,Mら本件金塊の買い付けや転売に関わる者が,本件持ち去り行為によって何らの利益も得ていないことが認められることも,上記の推認を更に強めるものである。
以上の事情を踏まえると,本件持ち去り行為を同意していない旨の被害者らの各公判供述には高い信用性が認められ,本件持ち去り行為は被害者らの同意なく,その意思に反して行われた窃取行為と認められる。


弁護人は,①Mらが行っていた取引は,密輸品である金塊を売買していたものであることは明らかであり,密輸品であるとの認識はなく,本件金塊に関する取引を不正なものと認識していなかったとする被害者らの供述は信用できない,また,②実行犯らの格好は,間違いなく警察官であると認識するようなものではなく,Iは,実行犯らに警察手帳の提示を求めておらず,Mから偽警官が現れることがあるとの注意を受けていた被害者らが,厳重に警戒した事情は窺われない,③被害者らが,本件持ち去り行為から1時間程度経過してから警察署に行って通報したのは不自然である,④福岡市の地理に疎い実行犯らが,本件金塊の取引の内容等を把握していたのは,同取引の主体であるMらから情報を得ていたと考えるのが自然である,などとして,実行犯らを実際の警察官と認識して抵抗せずに本件金塊を渡して奪われた旨の被害者らの供述は信用できず,本件キャリーケース等の持ち去りに被害者らの同意があったと考えるのが自然である旨を主張する。
しかし,①については,本件金塊が密輸品であるかどうかは別として,仮に密輸品であったとしても,そのことと被害者らが本件持ち去り行為を同意していないこととは矛盾するものでないから,本件持ち去り行為を同意していなかった旨の被害者らの供述の信用性に影響を及ぼすものではない。
②については,
本件持ち去り行為がごく短時間のうちに遂行されたことに加え,実行犯らが着用していたベストには,概ね水平にPOLICEと記載されたワッペンが付けられており,機捜という警察官のものと見られる刺しゅうも施されていたことなどに照らせば,実行犯らを警察官であると認識して疑わず,抵抗しなかったとの被害者らの供述は何ら不自然ではない。③については,本件持ち去り行為の直後に,被害者らの一人であるHが上位者であるMに連絡したことに加え,被害者らが,警察署に行くまでの間,本件ビルの周辺に防犯カメラがないかを確認したり,実行犯らに奪われたIの携帯電話機の位置情報で探索しようとしたりしたことに照らすと,
弁護人が指摘する被害者らの行動は,
突然,
大量の金塊等を奪われるという被害に遭った者の行動として不自然なものではない。④については,本件金塊に関する取引の情報が外部者に与えられていたとしても,
それが直ちに被害者らの同意があったことに結び付くものではない。かえって,関係証拠によれば,被告人,A,E及びBが,本件持ち去り行為に先立ち,二度にわたり,名古屋から福岡を訪れ,Fからもたらされた情報に基づき,本件ビル周辺で金塊を運んでいる者を探したが,いずれも接触することなく終わったこと,それにもかかわらず,本件持ち去り行為の際を含め,Aら実行犯らが金塊を持ち去られる側の関係者に直接連絡をとることをしなかったことが認められるが,これらの事実は,Fを介して実行犯らにもたらされたとされる情報が,本件金塊の処分権限を有する者の意思に反して漏えいされたものであることを窺わせるものといえる。以上のほか,弁護人が種々主張する点を踏まえてみても,上記⑵の認定に疑問は生じない。3
被害者らの同意があるとの認識について(前記②)


前記2⑴で認定した本件持ち去り行為及びその前後の一連の状況に照らすと,
当該行為の客観的な態様,すなわち,被害者らが金塊の密輸に関与しているとの嫌疑を持った警察官の職務の執行を装い,
被害者らをしてその旨を誤信させ,
本件キャリーケース等を持ち去って,自動車で犯行現場から逃走したといった態様自体から,このような行為を実行した被告人において,本件持ち去り行為が被害者らの意思に反する財物の窃取行為と認識していたこと,すなわち,本件キャリーケース等を持ち去ることにつき被害者らの同意があると認識していなかったことが強く推認される。
被告人自身,被害者らに対し,密輸しているだろうなどと言った旨を自認しているように,被告人は,現場において,積極的に警察官を装う言動をとっていること,また,被告人は,他の実行犯らが本件キャリーケース等を持ち去った後も,一人,本件エントランスに残り,前記2⑴ウのとおり,被害者らをその場に留める行動をとったこと,さらに,被告人は,前記2⑶のとおり,A,E及びBとともに,本件持ち去り行為に先立ち,二度にわたり,名古屋から福岡を訪れ,本件ビル周辺で金塊を運んでいる者を探したものの,いずれも接触することなく終わっていたことは,上記の推認を強める事情となる。⑵

弁護人は,

Aから,『密輸した金塊を取り扱っている人から金塊を運んできてほしい。相手とも同意がとれていて,犯罪にならない。金塊の半分を報酬としてもらえる。金塊は120キロある』と聞いていた

旨の被告人の公判供述を踏まえ,被告人が,A及びFから,本件持ち去り行為について,金塊の所有者らの合意を得ており,犯罪にならないなどと説明され,Fを通じて本件金塊の取引に関する情報を得ていたことなどから,本件金塊の所有者らから情報がもたらされていると考え,本件持ち去り行為につき被害者らの同意があると認識したことは自然である旨を主張する。
しかし,そもそも,単に持ち去りに同意している者から金塊を持ち去るといった単純な行為によって,100キログラム以上もの金塊の半分に相当する極めて多額の報酬を得られるなどといった話自体,およそ考え難い荒唐無稽なものである。被告人自身,本件持ち去り行為の当時,100キログラムの金塊が4億円程度に相当することを認識していたと供述していることに照らせば,尚更,上記の話を信じたとは考え難い。また,上記の話は,1時間ほど前から現場付近に待機し,警察官のように見える服装をするなどして,警察官の職務の執行のように装い,被害者らを現場に足止めして時間稼ぎをしながら,本件キャリーケース等を持ち去るといった犯行態様と全くそぐわないものである。以上のほか,弁護人が種々主張する点を踏まえてみても,上記⑴の認定に疑問は生じず,被告人が,本件持ち去り行為につき被害者らの同意があると認識していたとみる余地はない。
4
本件ショルダーバッグの持ち去りについて(前記③)関係証拠によれば,実行犯らのうちの1人が,本件エントランスにおいて,Iに対し,所携の携帯電話機を出すよう求め,Iがこれに従うと,本件ショルダーバッグとともに持ち去ったことが認められる。
このことに,本件持ち去り行為時の状況(前記2⑴アないしウ)や,本件ショルダーバッグがその在中品ごと投棄されたこと(前記2⑴エ)を併せ考えると,Iからの本件ショルダーバッグ等の持ち去りは,具体的な行動によって警察官であると装い,また,通報等のための連絡手段を奪って,本件キャリーケース等の持ち去りという本件犯行の中核的な行為を迅速かつ容易に遂行する目的でされたことが強く推認される。
そうすると,本件キャリーケース等の窃取について共謀を遂げていた被告人を含む実行犯らにおいては,上記の目的で遂行される被害者らの私物の窃取行為についても事前に包括的な共謀があったと推認でき,このことは,仮に,被告人が本件ショルダーバッグの持ち去りを事後的に認識したとしても,左右されるものでない。
(量刑の理由)
本件は,Fが氏名不詳者らから入手した金塊の取引に関する情報に基づき,被告人,A及びEが中心となって,警察官のように見える衣類を事前に調達したり実行役を確保したりするなど,金塊の窃取の実行に向けた準備を行い,本件当日,被告人を含む実行犯らが2台の自動車に分乗して被害者らの到着を待ち構えた上で,警察官による職務の執行を装うなどして被害者らの不意を突き,ごく短時間で被害者らから本件金塊等を奪い取るという巧妙な手口により,計画的かつ組織的に敢行された犯行である。その被害額は,時価合計7億円以上と類例を見ないほど極めて高額であるが,被告人らは,本件金塊の転売により莫大な利益を得ていながら,被害弁償を一切していない。本件は窃盗事案の中でも相当に悪質性が強く,相当長期の実刑をもって臨むべき事案である(なお,本件金塊が正規に日本国内に持ち込まれたものではない疑いがあるとしても,被告人らが利欲的な動機によりこれを奪い取ることを正当化する理由にはなり得ず,法益侵害の程度が低いとする弁護人の主張は採用できない。。

被告人は,警察官のように見える服装をして現場に赴き,Eとともに被害者らに直接声を掛けて一定時間やり取りをし,警察官の職務の執行として金塊を運び出して調べる必要があるかのように装って被害者らにその旨を誤信させ,さらに,他の実行犯らが本件キャリーケース等を持ち去った後も,一人,現場に残り,被害者らを現場に足止めするといった,重要な役割を果たしたものである。また,Bを実行役として本件犯行に引き入れ,さらに,Bを介してC及びDも同様に本件犯行に引き入れた点をみても,その果たした役割は大きい。これに加えて,被告人が犯行後に得た報酬は莫大であり,他の共犯者との比較においても,A及びEと並んで最も高額である上,Aとともに共犯者間での報酬の分配の決定にも関わったというのであるから,被告人は,A及びEに次ぐ主導的立場にあったというべきであり,その刑事責任は重い。
以上の事情に加え,被告人には同種のものを含む前科が複数あること,被告人が虚偽の弁解に終始し,反省の態度がみられないこと,確定裁判の事件と併合審理の可能性があったことなどの一般情状事実をも考慮に容れ,被告人を主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
(求刑-懲役10年)
平成31年2月20日
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

平塚浩司
裁判官

蜷川省吾
裁判官

平岩彩夏
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