判例検索β > 平成29年(わ)第1647号
強盗殺人、死体遺棄、電子計算機使用詐欺
事件番号平成29(わ)1647
事件名強盗殺人,死体遺棄,電子計算機使用詐欺
裁判年月日平成31年2月6日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2019-02-06
情報公開日2020-06-04 22:39:50
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平成29年

1647号,第2179号

強盗殺人死体遺棄,電子計算機使用詐欺

告事件
判決主文
被告人を無期懲役に処する
未決勾留日数中420日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,Aと共謀の上,
1B(当時53歳)を殺害して同人から金品を強取しようと考え,平成29年6月18日午後6時56分頃から同日午後7時22分頃までの間に,滋賀県犬上郡a町内又はその周辺において,同人に対し,同人を自動車のトランクに無理矢理入れるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,その頃,同町内又はその周辺において,その所有又は管理する現金約5万円,商品券11枚(額面合計1万1000円),スマートフォン,タブレット端末及びノート等42点(時価合計約6万8178円相当)を強取した上,同日午後7時40分頃から同日午後8時頃までの間に,同町大字b字cd番e付近f川河川敷又はその周辺において,同人に対し,殺意をもって,地面に仰向けに倒した同人の胸部に馬乗りになってその頸部を両手で絞め,その頸部にUSBケーブルを巻き付けて絞めるなどし,よって,その頃,同所において,同人を頸部及び胸部圧迫による呼吸障害等により死亡させて殺害し
2同日午後10時53分頃から同日午後11時1分頃までの間に,同町大字b字gh番iの別荘において,同別荘建物脇にキャリーバッグに入れた前記Bの死体を置いて隠匿し,さらに,同月20日午前10時5分頃から同日午前11時41分頃までの間に,同別荘敷地内において,油圧ショベルを用いて地面に穴を掘って,前記状態の同死体を土中に埋め,もって死体を遺棄し
第2

被告人は,不正に入手した,インターネット上で流通するビットコイン等の仮想通貨の交換業を営むC株式会社が運営する取引システムに設けられた前記B名義のユーザー口座に係るパスワード等の情報を用いて,財産上不法の利益を得ようと考え,
1
同年7月3日午前零時35分頃,岐阜県大垣市j町k番地lmの当時の被告人方において,自己のスマートフォンを操作して,インターネットを経由し,前記C株式会社が仮想通貨の送信等の事務処理に使用する電子計算機であるサーバコンピュータに対し,前記B名義のユーザー口座のパスワード等を用いて,同口座内のビットコイン0.46BTCを前記取引システムに設けられた被告人が管理する被告人名義のユーザー口座に送信する旨の虚偽の情報を与え,同サーバコンピュータに記録された同口座の残高を0.46BTC増加させて,財産権の得喪及び変更に係る不実の電磁的記録を作り,よって,ビットコイン0.46BTC相当の財産上不法の利益を得
2
同月5日午後10時4分頃,前記当時の被告人方において,自己のスマートフォンを操作して,インターネットを経由し,前記サーバコンピュータに対し,前記B名義のユーザー口座のパスワード等を用いて,同口座内のビットコイン0.79BTCを前記被告人名義のユーザー口座に送信する旨の虚偽の情報を与え,同サーバコンピュータに記録された同口座の残高を0.79BTC増加させて,財産権の得喪及び変更に係る不実の電磁的記録を作り,よって,ビットコイン0.79BTC相当の財産上不法の利益を得

たものである。
(弁護人の主張に対する判断)
1
争点
弁護人は,被告人は本件犯行当時,解離性障害により責任能力がなかった合理的疑いがあるから無罪である旨主張する。当裁判所は,被告人には完全責任能力があり有罪であると認めたので,その理由について説明する。

2
前提事実
次の事実は当事者間に争いがなく,証拠によって優に認められる。⑴被告人は,知人を介して知り合った被害者B(以下被害者という。)から,同人が携わっていた仮想通貨ビットコイン関連のネットワークビジネスの誘いを受けるなどしていたが,平成29年6月上旬以降,インターネットで死体埋めるなど
と検索するとともに,被害者に連絡し,同月12日に会う約束を取り付けた。一方で,被告人は,親しい友人であるAに対し,

殺したい女性がいる。2000万円くらいビットコインを持っている。勧誘がしつこくてむかつく。

などという話をした上で,殺害への協力を求め,同月12日に実行する予定になったが,当日,Aがおじけづいて仕事を口実に被告人に断りの連絡を入れたことから,被告人は被害者との面会約束を取り消した。
⑵被告人は,同月18日,被害者に会い,車内で気付かれないように被害者に催涙スプレーをかけて目を見えなくした上で,事情を知らせないままAを呼び出し,被害者に気付かれないように乗車させ,AとLINEのメッセージで人気のない場所についてやり取りした。被告人は,病院に着いたふりをして被害者を下車させ,Aとともに被害者を車のトランクに押し込んだ後,
走行中の車内で被害者のバッグ等を物色した。
そして,
殺害現場で,
被告人が車のトランクから出てきた被害者を倒し,「やれ。Aに」などと言い,Aが被害者に馬乗りになって両手で首を絞めるなどして被害者を殺害した(USBケーブルで首を絞めた点については,被告人がAと一緒に行ったのか,A一人で行ったのか争いがある。)。被告人は,被害者と会う前に買ったクラフトテープを被害者の顔が見えないように巻き付け,Aとともに結束バンドで被害者の手足を拘束し,あらかじめ用意したキャリーバッグに被害者を入れて親族が管理する別荘に運んだ。その後,被告人は油圧ショベルを手配し,同月20日,被害者の遺体が入ったキャリーバッグを同別荘敷地内の土中に埋めた。
⑶被告人は,被害者のバッグ内の現金及び商品券の売却代金をAと分けたほか,同年7月3日以降2回にわたり,同バッグ内のノートに記載されたパスワード等を用いて被害者名義口座のビットコインを自己名義口座に移し,これらを換金した。なお,被告人は,被害者が1BTC程度は持っていると思っていたほか,被害者がビットコインの取引に必要なパスワード等をノートに記載していることを知っていた。3
検討
前記2の事実によれば,被告人が,被害者が持つビットコイン等の財産を奪うという利欲的目的で被害者の殺害を企て,Aを犯行に引き込み,被害者を呼び出し,状況に応じた行動をとって被害者の所持金品を奪うとともに被害者を殺害し,あらかじめ用意したキャリーバッグに遺体を入れ,事前にインターネットで調べた情報に基づき,犯行発覚を避けるべく重機を使って遺体を埋め,被害者の所持品から入手したパスワード等を用いて,かねて計画のとおり被害者のビットコインを自分のものにしたことが明らかである。このように,本件は利欲的動機に基づく計画的な犯行で,被告人が,被害者を殺害してビットコイン等の財産を奪うという目的達成に向けて,一貫して合理的に行動していることからすると,被告人の責任能力に問題はなく,完全責任能力があったものと認められる。

4
弁護人の主張について
これに対し,弁護人は,被告人には解離性障害の疑いがあり,犯行動機が理解できず,行為の善悪の判断が異常であり,犯行時の人格が普段の人格とは異質であるから,責任能力がなかった合理的疑いがある旨主張する。
この点につき,司法ソーシャルワークを専門とする大学教授である証人D(以下Dという。)は,心理検査の結果等から解離性障害の疑いがある旨供述する。しかしながら,被告人には精神障害による入通院歴はなく,生育歴に解離性障害を疑わせるようなエピソードも見当たらず,被告人に本件犯行時の記憶の欠落はなく,Aの供述においても本件犯行時の被告人に普段と異なる様子はなかったことなどからすると,Dの見解には疑問があり,たやすく信用することはできない。また,D自身,事件当時の被告人の心理状態は不明であり,解離性障害の疑いが犯行にどのように影響したのかについては述べることができないというのであるから,仮に心理検査の時点で解離性障害の疑いがあったとしても,本件犯行との結び付きを欠いており,責任能力に疑いを生ずるものとはいえない。
また,弁護人は,被告人の犯行動機の一つに利欲目的があったことは認めた上で,被告人が,①初対面のときから被害者に殺意を抱いた,②被害者は魔物であり,倒すのは正しいことで,
取得したビットコインはその報酬であるなどと述べている点をとらえて,犯行動機が理解不能で,行為の善悪の理解が異常である旨主張する。かかる被告人の動機に関する供述の真偽は置くとしても,前記①については,被害者から誘いを受けたネットワークビジネスに関して周囲から詐欺の可能性を示唆されたことや,被害者に対する被告人のいら立ちないし嫌悪感の反映とみることができる。前記②については,被告人の説明によれば,自分が主人公で,仲間であるAと協力して,敵である被害者を倒して報酬を手に入れるというもので,本件犯行をゲームに例えているにすぎず,結局のところ,いずれも犯行動機の異常性や,行為の善悪の理解の異常をうかがわせるものでないことは明らかである。
なお,弁護人は,犯行時の人格の異質性を主張するが,A並びに被告人の雇用主及び友人らの供述に照らして,人格の異質性はうかがわれない。
したがって,弁護人の主張は採用できず,他に責任能力を疑わせるような事情も見当たらない。
5
結論
以上のとおり,被告人につき,本件犯行当時,責任能力がなかったり,著しく低下していたりした疑いはなく,完全責任能力があったものと認められる。
(量刑の理由)
本件は,被害者の保有するビットコイン等の財産を手に入れるため,Aと共謀の上,被害者を車のトランクに押し込み,金品を奪った上で,被害者を殺害し,犯行発覚を免れるためその死体を土中に埋めた後,被害者から奪ったノートに記載されたパスワード等を利用して,被告人が単独で,被害者名義の口座から被告人名義の口座にビットコインを移して財産上不法の利益を得たという,強盗殺人死体遺棄,電子計算機使用詐欺の事案であり,利欲的で計画性の高い凶悪な犯行である。
被告人は,死体の処理方法等をインターネットで検索し,Aを犯行に引き込み,死体を入れるためのキャリーバッグを用意した上で被害者を呼び出し,催涙スプレーを用いるなどして被害者を車のトランクに押し込み,所持金品を奪ってパスワード等を入手し,Aに指示して殺害行為の大半を実行させた上,重機を借りて土中深くに死体を埋めるなどしており,本件犯行を自ら計画し,主導したものであり,まさに本件の主犯である(なお,信用できるAの供述によれば,被告人自身もAと一緒にUSBケーブルで被害者の首を絞めたことが認められる。)。当初の犯行予定日に,おじけづいたAが仕事を口実に犯行への参加を渋り犯行をやめるよう懇願したにもかかわらず,
被告人は犯行を断念することなく,
数日後に被害者を呼び出した上,
事情を告げぬままAを呼び出して本件犯行に至っており,
犯意は強固で人命軽視の態度が甚だしく,強い非難に値する。
強度の暴行により命を奪われた被害者の苦痛や恐怖,絶望感は計り知れず,結果は重大であり,遺族が被告人に対する厳重処罰を求めるのも当然である。被告人は,本件犯行のうちUSBケーブルの点を除く事実関係についてはほぼ認めているが,反省が深まっているとはいえず,被告人が若年であることを踏まえても,刑を定めるに当たって酌むべき事情は乏しいと言わざるを得ない。
以上の事情に基づき,被害者1名の強盗殺人の事案の量刑傾向も踏まえると,被告人を,主文のとおり,無期懲役刑に処するのが相当である。
(求刑無期懲役)
平成31年2月7日
名古屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

齋藤千恵
裁判官

近藤和

裁判官



真理子

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