事件番号 | 平成29(ワ)15776 |
---|---|
裁判年月日 | 平成31年2月22日 |
法廷名 | 東京地方裁判所 |
裁判日:西暦 | 2019-02-22 |
情報公開日 | 2019-04-15 14:00:51 |
同日原本領収 平成29年(ワ)第15776号 口頭弁論終結日 裁判所書記官 商標権侵害行為差止等請求事件 平成30年12月7日 判決原告 モトデザイン株式会社 同訴訟代理人弁護士 深井俊至 同訴訟復代理人弁護士 西川喜裕被 株式会社三交クリエイティブ・ライフ 告 同訴訟代理人弁護士 岩吉和城山康文山内真之瀬悠生島芙美北瀬口貴大白 同補佐人弁理士 波主1美子文 被告は,原告に対し,3万1743円及びこれに対する平成29年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事 第1 実及び理由 請求 1(1)主位的請求 被告は,別紙被告標章目録記載1(1),1(2)又は2の標章を付した腕時計を販売し,引き渡し又は販売若しくは引渡しのために展示若しくは所持して はならない。 (2)予備的請求 被告は,別紙被告標章目録記載1(1),1(2)又は2の標章を付した別紙被告商品目録記載の各商品を販売し,引き渡し又は販売若しくは引渡しのために展示若しくは所持してはならない。 2 被告は,原告に対し,55万3486円及びこれに対する平成29年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 4 訴訟費用は被告の負担とする。 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,別紙原告商標権目録記載の商標(以下原告商標という。)の商標権(以下原告商標権という。)を有する原告が,別紙被告商品目録記載の商品(以下被告商品という。)に付された別紙被告標章目録記載の被告標章1(1)及び1(2)並びに被告標章2(以下,被告標章1(1)及び(2)を併せて被告標章1といい,これらと被告標章2を併せて被告各標章という。) が原告商標と類似することから,被告が被告商品を販売等する行為は,原告商標権を侵害すると主張して,被告に対し,商標法36条1項に基づき,被告各標章を付した腕時計(主位的請求)又は被告商品(予備的請求)の販売等の差止めを求めるとともに,民法709条,商標法38条3項に基づき,損害賠償金55万3486円 (実施料相当額5万3486円及び弁護士費用50万円の 合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年3月1日(被告商品販売終了日の翌日) から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延 損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。) (1)当事者 原告は,雑貨,電子製品,生活用品等の販売等を業とする株式会社である。(甲1,2) 被告は,雑貨,工具,生活用品等の販売等を業とする株式会社であり,東急ハンズ名古屋店(以下被告店舗という。)を運営している。(甲3,4) (2)原告商標権 原告は,別紙原告商標権目録記載のとおり,指定商品を商標法施行令(平成17年7月13日政令第239号による改正前のもの)別表第1(以下 政令別表という。)第14類の区分に属する時計とする登録商標 (原告商標)の商標権を有している。(甲5,6) なお,商標法施行規則別表(以下省令別表という。)は,第14類の九時計,(一)自動車用時計時計において,腕時計ストップウォッチ柱時計置き時計懐中時計目覚まし時計と定めてい る。 (3)被告による被告各標章の使用 被告は,平成28年6月頃から平成29年2月までの間,被告店舗において,モトローラ・モビリティ・エルエルシー(以下モトローラ・モビリティという。なお,モトローラのグループ会社等に属するものの,その正確 な名称が明らかでない場合などに,モトローラの企業グループに属する会社という意味で,単にモトローラということがある。)が製造した被告商品を販売し,同期間の被告商品の売上高は,53万4868円である。(乙231) 被告標章1(1)は, 被告商品1(1), 1(2)及び2(1)~(3)の時計表示の中央 やや上寄りに,被告標章1(2)は,被告商品1(3)の時計表示の中央やや上寄りに,被告標章2は被告商品の背面に,円形の形に沿って,それぞれ付され ている。(甲7~13,15,16) (4)モトローラの商標権 モトローラ トレードマーク ホールディングス エルエルシー (以下 モトローラ・トレードマークという。)は,別紙モトローラ商標権目録記載の各商標(以下モトローラ商標1などといい,併せてモトローラ商標 という。)につき,商標権を有している。(乙8,9,195,196)(5)原告商標権に対する不使用取消審判 ア モトローラ・トレードマークは,平成27年1月28日,特許庁審判官に対し,原告商標は,継続して3年以上我が国国内において使用されていないから, 商標法50条1項により取り消すとの審決を請求した (以下 第一次不使用取消審判請求という。)。特許庁審判官は,平成28年7月19日,原告は,要証期間内に,東京スカイツリーの模型にLEDライトと時計の機能を有する東京スカイツリークロックと称する商品に原告商標を使用していたとして, 請求は成り立たない旨の審決をし, 同審決は, 同年11月25日,確定した。(甲5,60,70) イ モトローラ・トレードマークは,平成29年6月8日,特許庁審判官に対し,原告商標は継続して3年以上腕時計に使用されていないから,商標法50条1項に基づき,原告商標権の指定商品中,第14類腕時計 の登録を取り消すとの審決を請求し(以下第二次不使用取消審判請求という。),同月23日に請求の登録がされた。特許庁審判官は,平成3 0年3月14日,第1回口頭審理を行った。(甲61,乙223)3 争点 (1)原告商標と被告各標章の類否 (2)原告商標の指定商品と被告商品の類否 (3)モトローラ商標使用の抗弁の成否 (4)権利濫用の抗弁の成否 (5)損害の存否及び損害額 第3 1 争点に関する当事者の主張 争点(1)(原告商標と被告各標章の類否)について 〔原告の主張〕 原告商標と被告各標章は,以下のとおり,同一又は類似している。(1)原告商標 原告商標は,太字で英小文字motoを書して成る外観を有し,モトとの称呼を生じるが,特定の観念を生じない。(2)原告商標と被告各標章の類否 ア 原告商標と被告標章1の類否 被告標章1は,太字で英小文字motoを書して成る外観を有し,モトとの称呼を生じるが,特定の観念を生じない。被告は,被告各標章からモトローラのなどの観念が生じ,取引の実情としても被告各標章の呼称がモトローラの略称であることは需要者,取引者(以下需要者等という。)の間に浸透していると主張するが,後記ウのとおり, 被告各標章からモトローラを想起することはない。 そうすると,原告商標と被告標章1とは,外観と称呼がいずれも同一であり,特定の観念を生じないから,両者は同一又は類似している。イ 原告商標と被告標章2の類否 被告標章2は,太字で英小文字motoを書し,その後に空白を置いて,細字で数字360を書して成る外観を有している。 被告標章2のうち,motoと360の間には空白があるので 両者を分離して観察することができるところ,motoは太字で記載されているのに対し,360は細字でそれぞれ記載されているにすぎ ず,また,motoから特定の観念を生じず,一種の造語のように認識されるのに対し,360は一般的に数を示すにすぎない。さらに, 被告商品においては,正面の時計表示の中央やや上寄りの最も目立つ箇所にmotoとの被告標章1が表示されているのであるから,その背面に付された被告標章2についても,需要者等に強く支配的な印象を与えるのはmotoの部分であり,360の部分からは出所識別標識と しての称呼,観念は生じない。 そうすると,被告標章2の要部はmotoの部分である。原告商標と被告標章2とは,要部の外観と称呼がいずれも同一であり,特定の観念を生じないから,両者は類似している。 ウ 被告各標章から生じる観念について 被告は,被告標章1及び2のmotoからモトローラの等の観 念が生じる旨主張するが,以下のとおり,そのような観念は生じない。まず,平成16年にモトローラの携帯電話端末として発売され,ヒットしたと被告が主張するRAZRは,我が国ではM702iS(MOTORAZR FOMA M702iS)として販売されており,moto シリーズではない。 モトローラのオリジナルブランドの携帯電話としては,平成24年10月にMotorolaRAZRM201Mが販売されたが,その後3年間は我が国において新規商品は販売されていない。被告が我が国で販売されたとする MotoX は我が国では販売されていない端末であり, MotoXplayが我が国で販売されたのは平成28年3月である。また,乙17で言及されているMotoGシリーズが我が国で販売されたのは,平成27年12月である(甲56~58)。このように,モトローラオリジナルブランド端末の我が国における販売は実質的には平成27年12月以降であるから,我が国においてmotoがモトロ ーラの略称であることが需要者等に浸透していたとはいえない。この間,モトローラの市場占有率は,iPhoneの登場により急低下し,モトロ ーラ・モビリティは,平成23年にグーグルに買収され,平成26年以降はレノボ傘下の企業となっている(甲59)。 また,本件で問題になっているのは時計であるから,仮にスマートフォンにおいてmotoがモトローラを示すことが周知著名であったとしても,原告商標と被告各標章の類比判断には影響を与えない。被告商品の 我が国における販売が開始されたのは早くても平成28年4月頃以降であり,それ以前にモトローラが時計又はスマートウォッチを販売していた証拠はない。原告は被告商品の販売が商標権侵害に当たるとして本件訴訟を提起しているのであるから,このような侵害品の販売を数年行ったことから,スマートウォッチにおいてmotoがモトローラを示すことが 周知著名であり,motoからモトローラの等の観念が生じると いうことはできない。 〔被告の主張〕 原告商標と被告各標章は,以下のとおり,類似していない。 (1)原告商標の外観,称呼及び観念 原告商標の外観及び称呼並びに原告商標から特定の観念を生じないことは認める。 (2)被告各標章と原告商標の類否 ア 被告標章1と原告商標の類否 (ア)外観 原告商標と被告各標章の外観は, m の文字につき, 原告商標では, 左端の縦線の上端が飛び出しているのに対し,被告各標章では,いずれも, 左端の縦線の上端が飛び出していない。 また, t の文字につき, 原告商標では,縦線の下端部が右に湾曲しているのに対し,被告各標章 では,真っ直ぐである点で異なっている。 (イ)称呼 被告標章1の称呼が原告商標と同一であることは認める。 (ウ)観念 被告商品は,下記ウのとおり,携帯電話端末等で世界的に著名なモトローラ・モビリティが製造した,世界初の円形表示部を持つスマートウォッチであり,被告商品のシリーズ名は,360度の完全な円という意 味を込めて moto360 とされている。 被告標章1は円形の表示 部に付されており,この被告標章1は円形の表示部と一体不可分となり,モトローラの製造,販売に係る円形表示部を有するスマートウォッチであることを示している。そのため,被告商品に付された被告標章1からはモトローラが想起されるのであり, モトローラの, モトローラ・ブランドの,モトローラの品質保証が及んでいるという観念が生じる。 (エ)取引の実情 モトローラ及びモトローラ標章は携帯電話端末,スマートフォン及びその付属品たる腕時計型情報通信端末において周知著名であり,被告各 標章の称呼であるモトがモトローラの略称であることは被告商品のような情報通信端末の需要者等の間に浸透しているから,被告商品に付されたmotoの標章に接した需要者等は,それがモトローラの商品であると理解するのであって,原告の製造又は販売に係る商品であると誤認混同するおそれはない。 (オ)類否 以上のとおり,被告標章1と原告商標は,外観及び観念が大きく異なり,取引の実情に照らしても混同が生じるおそれはないので,両者は類似しない。 イ 被告標章2と原告商標の類否 (ア)分離観察の可否 被告標章2は, moto360という商品シリーズ名を表示する ものである。被告標章2のmotoと360は,同様かつ同じ 大きさのフォントで記載されており,いずれも,黒字の背景に白っぽい字で,まとまりよく,一体的に構成されている。被告標章2は,被告商品の背面において,円形の形に沿って文字がやや湾曲して配置されてい る。被告標章2に接した需要者等は,motoと360を一体 的に把握するので,分離観察になじまない。 (イ)一体的に観察した場合の類否 外観に関し,被告標章2は,英小文字motoに数字360 が続けて記載されているのに対し,原告商標は,英小文字moto のみから成るので,外観が異なる。 称呼に関し,被告標章2は,moto360が常に一体不可分の ものとして把握,認識されるものであるから,被告標章2からは,その構成全体に相応して,モトサンビャクロクジュウ,モトサンロクゼロ又はモトサンロクマルとの称呼のみが生ずるのに対し,原告 商標からはモトという称呼が生じる。 観念に関し,被告標章2からは,モトローラ又はそのブランド,製品,360度の円形という観念を生じ,両者併せてモトローラの円形のスマートウォッチという観念を生じるのに対し,原告商標からは特定の観念は生じない。 以上のとおり,被告標章2と原告商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても異なるので,両者は類似しない。 (ウ)分離観察した場合の類否 仮に,被告標章2を分離して観察するとしても,上記アと同様の理由から,被告標章2と原告商標は類似しない。 ウ 被告各標章から生じる観念について 被告各標章からモトローラ等の観念が生じる根拠となる事実について敷衍すると,以下のとおりである。 モトローラの前身は1920年代に米国で設立され,昭和22年(1947年)に社名変更によりMotorolaを商号として,電子機器等を中心に製造,販売し,1980年代から90年代にかけて携帯電話端末で 世界各国のトップシェアを誇った。我が国においても子会社として昭和50年(1975年)にモトローラ株式会社が設立され,携帯電話端末をドコモなどに供給し,平成16年に発売したRAZRは薄型携帯電話のトレンドを起こし,1億台以上が販売された(乙3)。RAZRは我が国でも平成18年にドコモのM702iS等として販売され(乙4), 著名なプロサッカー選手を起用するなどして大々的に宣伝広告が行われた(乙4,5,17)。 モトローラは,平成12年頃,携帯電話端末等の各種電子部品を製造,販売するに当たりモト/Motoという呼称の使用を開始し,平成17年頃に薄型スマートフォンに MotoQ という名称を使用していた (乙152~154)。モトローラ・モビリティは,レノボ傘下となってからもスマートフォン事業等を展開し,平成25年8月にAndoroidスマートフォンであるMotoXを,平成28年6月には同様のAndroidスマートフォン MotoZ 及びその追加デバイスである MotoModsを我が国において販売するなど, motoをシ リーズ商品の商品名の一部として一貫して使用し,このことは,多数のメディアに取り上げられている(乙3~7,17,24~188)。さらに,グループ会社であるモトローラ・トレードマークがMOTOなどの商標を複数保有していること(乙8,9)も考慮すると,需要者等は,motoからモトローラを想起する。 2 争点(2)(原告商標の指定商品と被告商品の類否)について 〔原告の主張〕 被告商品は,以下のとおり,指定商品である時計 (第14類)に該当し, 又はこれと類似する。 (1)被告商品が時計に当たること 被告商品は,以下のとおり,第14類の時計に当たり,第9類の腕時計型携帯情報端末ではない。ア 被告商品が時計としての機能を有し,手首に装着できる商品であることについては,当事者間に争いがないところ,①被告商品を製造したモトローラ・モビリティのウェブサイト(平成28年当時)には,時計表示の被 告商品の写真が掲載されるとともに,あなたの時間を刻む時計を選ぶなどと表記され(甲7,10,11),②被告商品を取り扱うAmazon,楽天ブックス等の正規販売店による広告においても,時計表示の被告商品の写真が掲載され,ウォッチフェイスを自由に変更してなどと表記され,需要者等も同商品についてスマホと連動した時計,卓上腕時計などとコメントし(甲8~13),③上記正規販売店以外の販売業者によっても 腕時計 として宣伝広告, 販売されており (甲81~96) , ④モトローラ・モビリティが作成した被告商品のユーザーガイドでも,被告商品を一貫して時計と表現して説明を行い,新型の時計Moto360(第2世代)では…卓上時計としても使えますなどと記載されて いる(甲15)。 このように,被告商品は,その外観が腕時計であり,実際に時計としての機能を備えている上,時計としてのデザインを重要なアピールポイントとし,被告商品の製造者,正規販売店等も同商品を時計と呼称し宣伝広告をしており,その利用者も時計と認識しているのであるから,被告商 品は,腕時計又は卓上時計に該当し,原告商標の指定商品である時計に該当する。 イ 被告は,被告商品はスマートウォッチであり,これは主として手首に装着して使用することが想定された携帯情報端末であるから,腕時計とは全く異なると主張するが,スマートウォッチは,①雑誌等においても腕時計として扱われており(甲30~42),②時計メーカーがスマートウォッチを製造,販売しており(甲32~34,43~47),③スマート ウォッチにおいて時計機能は主要な機能であり(甲33,46,48),④スマートウォッチとそれ以外の時計の需要者層は重複し,⑤スマートウォッチが時計売場で販売され,またインターネット上の販売サイトでも時計と一緒に表示されていることが多い(甲53,54)など,その主たる機能は時計であり,需要者等からも時計と認識されている。 ウ 被告は,腕時計型携帯情報端末は,第9類の腕時計型携帯情報端末であって,第14類の時計には含まれないと主張するが,ある商品に時刻を表示するという機能以外の機能が付加されていても,当該商品において時刻表示機能が主要な機能であれば,当該商品は第14類の時計に該 当すると解すべきである。被告商品の主要な機能は時刻表示機能であり,スマートフォンとの連携等の機能は付加機能であるから,同商品は第14類の時計に該当することになる。 実際に,モトローラ・トレードマークも,モトローラ商標1及び2の商標登録出願において, 指定商品を第14類の スマートウォッチ,腕時計,時計等として出願しており(甲27,28),スマートウォッチを時計と認識していたものである。また,他社の販売するスマートウォッチを見ても,FOSSILQ,WENAを販売している会社は,指定商 品に第14類の携帯情報端末付き時計等を含む商標権を保有している(甲97~102)。 被告は,平成29年1月1日以降の出願に適用される類似商品・役務審査基準が,第14類に腕時計型携帯情報端末を含まないと明記してい ることを根拠にして,被告商品は第14類の時計に当たらないと主張するが,同基準において第14類に含まれないとされたのは,従来の解釈において第9類の携帯情報端末には該当するが,第14類の時計 には該当しないとされる商品であり,携帯情報端末付き時計などの指定商品であれば,従前から第14類に含まれ,同基準においても第14類 に該当することに変わりはない。このため,上記審査基準の改定は,本件における指定商品の類否の判断に影響を及ぼさない。 (2)被告商品が時計と類似すること 被告商品が仮に第14類の 時計 に該当しないとしても, 以下のとおり, 同商品は時計に類似する。 ア 指定商品の類否は,商品自体が相互に誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかにより判断すべきではなく,営業主による商品の製造,販売に関する諸事情を考慮し,同商品に同一又は類似の商標を使用するときに同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるかどうかにより判断すべきであり,本件に即していうと,被告商品に原告商標と同一又は 類似の商標を使用した場合に原告の製造又は販売に係る商品(ライセンス関係にある商品を含む)と誤認されるおそれがあれば,指定商品が類似していることになる。 イ 以下の要素を総合考慮すれば,被告商品に原告商標と同一又は類似の標章が付されるならば,被告商品は,原告の製造又は販売に係るもの(ライセンス関係にある商品を含む)と誤認させるおそれがあると認められる。 (ア)生産部門 スマートウォッチとそれ以外の腕時計の双方を製造,販売している企業が多数あり(甲32~34,43~47),シチズンやカシオなどの大手ないし著名な時計メーカーから,大手ないし著名とはいえない中国の企業まで様々な企業がスマートウォッチを製造している(甲105) 実態に照らすと,生産部門は共通するということができる。時計やスマートウォッチを作る技術が自社にない場合でも, 製造委託によって製造, 販売は可能であるから,原告自身にスマートウォッチを製造する技術があるか否かは,類否の判断と関係がない。 (イ)販売部門 スマートウォッチは店舗の時計売場やインターネットの腕時計のカテゴリーで販売されることが多く(甲53),ファッション雑誌や腕時計の専門誌等においても,通常の腕時計とともに紹介されており(甲30~42),腕時計として扱われている。原告が調査したところ,17の 時計店でスマートウォッチと腕時計が扱われていた(甲109)。このように,販売部門は共通する。 (ウ)原材料及び品質 腕時計にはアナログ時計だけではなく,スマートウォッチと同様に液晶ディスプレイを備えたデジタル時計も多数存在する上,スマートウォ ッチにもアナログ時計と同じ盤面を採用し,アナログ時計の典型として被告が主張する文字盤,針等の部品が採用されたものがあるから(甲97,98),需要者等は,スマートウォッチであるかデジタル時計であるか見分けることは困難である。このように,腕時計とスマートウォッチの原材料及び品質は共通している。 (エ)用途 上記のとおり,スマートウォッチにおいても時刻の表示が主要な機能であり,それ以外の機能は付加機能である。多機能商品において主要な機能は一つとは限らず,仮にスマートフォンとの連携機能が主要な機能の一つであったとしても,スマートウォッチにおいて時計機能が主要な 機能であることに変わりはない。 (オ)需要者の範囲 電子機器メーカーだけでなく,ファッションブランドや時計メーカーもスマートウォッチを販売していること(甲36,43,49~52)や, 上記のとおり, 雑誌等で腕時計と一緒に紹介されていることからも, スマートウォッチの需要者層はテクノロジー好きの者に限られず,腕時計に興味のある者やスポーツに興味がある者など多種多様であり,スマ ートウォッチとそれ以外の時計の需要者層は重なる。 スマートウォッチの価格は7万円台から33万円までであるが(甲32,37,43~45,50,51),腕時計も数千円から数十万円のものが一般に販売されており,価格帯は同様に千差万別であるから,スマートウォッチとそれ以外の時計の価格帯は重なる。 〔被告の主張〕 以下のとおり,被告商品は時計に当たらず,類似もしていない。 (1)被告商品は時計に当たらないこと 被告商品は,以下のとおり,いわゆるスマートウォッチといわれる商品であり,第9類の腕時計型携帯情報端末に当たり,第14類の時計ではない。 ア 被告商品は,主に手首に装着して使用することを想定した携帯情報端末であり,スマートウォッチと呼ばれる商品である。スマートウォッチは,スマートフォンの利用をより快適にすることを主目的として使用され,ス マートフォンの付属品であるから,腕時計のように時刻を示すための目的で購入,使用されるものではない。 スマートウォッチはタッチパネルを搭載した画面を有し,その操作によって様々な機能を使用することができる。スマートフォンと連携して使用する場合には,当該画面を見ることで,スマートフォンを取り出すことな く,スマートフォンによる着信やメールの通知を確認できるほか,スマートウォッチ単独でインターネットに接続して使用することや,使用者の目 的に応じてアプリをインストールすることもできる。 また,スマートウォッチ,スマートバンド,スマートグラス等のウェアラブルデバイスについては独自の市場が形成されており,平成28年5月の時点における同年の国内市場見通しは,ウェアラブルデバイス全体で358万台であり,そのうちスマートウォッチは140万5000台とされ, 他のウェアラブルデバイスと比較しても独自の市場を形成している(以上,乙2,10,17)。 このように,スマートウォッチは,スマートフォンとの連携機能及び通信機能といった携帯情報端末としての機能が主要なものであり,時刻表示機能は付随的なものにすぎず,腕時計とは異なる商品カテゴリーに属する ものであるから,第14類の時計に該当しない。 イ 原告は,被告商品の外観及び主要な機能は時計であり,需要者等もそのように認識している等と主張するが,被告商品の需要者等はスマートフォンとの連携機能や通信機能に着目して同商品を購入するのであり,時計としての機能は付随的なものにすぎない。 ウ 省令別表第14類6(1)に定める時計には, 腕時計中時計自動車用時計ストップウォッチ柱時計置き時計懐目覚まし時計があ るとされ,携帯情報端末が付属するものは一切含まれていない。また,政令別表第14類は, 貴金属,貴金属製品であって他の類に属しないもの,宝飾品及び時計であるところ,これらはいずれも,本来,電気や電子回路を必要とせず, 宝飾品を中心に装飾性を有する商品であり, 他方で, 様々 な電子機器は全て第9類に位置付けられている。そうすると,第14類の時計は,携帯情報端末が付属するものを含まないと解すべきである。なお,平成29年1月1日以降の商標登録出願に適用される特許庁の類 似商品・役務審査基準では,腕時計型携帯情報端末(第9類)が第14類に含まれないことが明記されており (乙18)本件における , 時計 の意義の解釈の際も参酌すべきである。 原告は,モトローラ・トレードマークのモトローラ商標1及び2の出願における指定商品の記載や,FOSSILQ,WENAの例を挙 げ,スマートウォッチが時計に該当すると主張するが,モトローラ・トレードマークがスマートウォッチと腕時計を並べて商標登録出願した のは,特許庁が商品をどのように区分するのか不明であることを考慮して広めに出願したにすぎず,スマートウォッチを時計と認識していたものではない。また,FOSSILやWENAの商標は,指定商品に第 9類も含んでおり,原告が指摘するこれらの商標に係る商品は,第9類の商品というべきである。 (2)被告商品は時計と類似しないこと 以下のとおり,需要者等が, motoを付した被告商品を原告の製造又 は販売に係るものと誤認するおそれは存在せず, 被告商品と第14類の 時計 は類似しない。 ア 生産部門 スマートウォッチと時計は製造業者が異なる。時計の製造業者でスマート ウォッチに参入しているのは大手ないし著名企業に限定され,原告はそのような企業ではない。これは,スマートウォッチは,スマートフォンとの連携や,通信機能,ソフトウェアやアプリのインストールやアップデートを行う必要があるため,時計の製造とは異なる能力が要求されるからである。他方 で,スマートウォッチの製造業者が,時計,とりわけ針を有する機械式のアナログ時計を生産することは必ずしも容易ではない。このため,生産部門は異なる。 イ 販売部門 スマートウォッチと時計は,販売場所も異なり,被告店舗においても,被告商品は10階の腕時計売場ではなく,8階の携帯電話売場で販売していた (乙2)。被告商品は,電子機器等の販売を行い,時計の販売を行っていない業者が取り扱い,また,通信販売サイトの家電・カメラ・AV機器等の腕時計と異なるカテゴリーで販売されている(甲10~13)。原告が提出した雑誌は,商品を販売する通販雑誌ではないから,販売部門に当たらない上,そもそもこれらの雑誌に被告商品は掲載されていない。スマートウォ ッチは,電子機器としての品質,性能が重視され,時計専門店では取り扱われない傾向にあり(乙199,202~221),被告が時計店12店を対象に調査を行ったところ,スマートウォッチを取り扱っていない店舗は11店であった(乙19)。このように,販売部門は異なる。 ウ 原材料及び品質 被告商品は,AndroidWearというOS(オペレーティング・システム),TexasInstrumentOMAP3というCPU,RAM,ROM,ディスプレイ,心拍センサー,光センサー等から構成される(乙22)。他方で,第14類の時計に含まれる腕時計は,その典型であるアナログ時計であれば,文字盤,針,ムーブメント,金属のピン,カレンダー板,コイルブロック,歯車,ストッ プレバーといった部品等から構成され, デジタル時計であれば, 液晶パネル, 反射板,回路スペーサー,回路ブロック,コネクター等から構成される(乙23)。このように,被告商品は,第14類の時計と部品の構成が大きく異なり,原材料及び品質が異なる。 エ 用途 時計とスマートウォッチの用途は時刻を示す点は共通するが,スマートウォッチはスマートフォンとの連携機能が主たる部分を占め (甲33, 46) , 時計とは大きく異なる。第9類の電気通信機械器具や電子応用機械器具には,時計機能が含まれることがあり,スマートフォンやパソコン,携 帯型オーディオプレイヤーを時計代わりに使用する例があるほか,ラジオ,電子計算機,扇風機,写真立て,洗濯機,電子レンジ,クーラー,空気清浄 機等の様々な電子機器にも時計は付属的に組み込まれているが,需要者はこれらの製品を時計と理解することはない。このため,用途は異なる。オ 需要者の範囲 スマートウォッチの需要者層は,スマートフォンをより快適に使用しようとするテクノロジー好きの者,あるいは,日常生活における情報端末機器の 位置付けが大きく, かつ, 新しい情報端末機器に興味, 関心がある者が多い。 他方で,腕時計は,老若男女にかかわらず幅広く用いられるものであり,腕時計の需要者層に顕著な特徴を見出すことはできないから,両者が同一のグループに属するとはいえない。価格帯をみても,スマートウォッチの最多価格帯は2万円から3万円であるのに対し,時計は千差万別であり,大きく異 なる。このため,需要者の範囲が異なる。 3 争点(3)(モトローラ商標の使用の抗弁の成否)について 〔被告の主張〕 被告各標章の使用は,以下のとおり,モトローラ商標の専有権の範囲内の使用であるから,原告商標権を侵害しない。 被告標章1は,モトローラ商標1又は3と,被告標章2はモトローラ商標2又は4とそれぞれ称呼・観念は同一で,外観も実質的に同一であるから,被告標章1の使用はモトローラ商標1又は3の,被告標章2の使用はモトローラ商標2又は4の使用に当たり,いずれも,モトローラ・トレードマークが商標法 25条により専有権を有する範囲内の使用である。被告商品はモトローラ・モビリティが製造したものであり,これを適法に買い受けた被告は,この使用権を主張することができるから,原告の商標権を侵害しない。 原告は, モトローラ商標の指定商品と被告商品は同一ではないと主張するが,被告商品は,モトローラ商標の指定商品である第9類の腕時計の機能を有するスマートフォン,携帯情報端末,モバイルコンピュータに該当する。また,モトローラ商標の指定商品である第9類は,第14類の時計と類 似しないのであるから,これらの商標について無効理由は存在しない。〔原告の主張〕 被告各標章の使用は, 以下のとおり, モトローラ商標の使用といえず, また, そもそもモトローラ商標は無効であるから,登録商標の使用の抗弁は失当である。 被告標章1は太字・英小文字のmotoであり,モトローラ商標1は細字で英大文字のMOTOであり,外観が相違し,実質的に同一でもない。被告標章2の moto360 とモトローラ商標2の MOTO360 も同様である。モトローラ商標の指定商品は腕時計の機能を有するスマートフォン等であるところ,被告商品は腕時計であり,指定商品に該当しない。 そうすると,被告各標章の使用はモトローラ商標の使用といえない。モトローラ商標はいずれも原告商標と同一又は類似であり,指定商品も同一又は類似する。モトローラ商標1及び2の優先日は平成26年3月14日,登録日は平成28年12月22日であり,モトローラ商標3及び4の出願日は平成29年8月29日,登録日は同年11月10日であり,いずれも原告商標の 登録日(平成18年10月13日)に後れるから,無効理由がある(商標法4条1項11号,46条1項1号)。 したがって,登録商標の使用の抗弁は失当である。 4 争点(4)(権利濫用の抗弁の成否)について 〔被告の主張〕 原告は,第二次不使用取消審判請求の要証期間内に,原告商標を腕時計について使用したと主張するが,以下のとおり,原告の主張する行為は,そもそも架空のものであるか, 又は不使用取消審判を免れるための名目的なものであり, 使用に当たらないので,原告商標の指定商品中腕時計は,不使用取消 審判によって取り消されるべきものであって,そのような原告商標権に基づく権利行使は,権利の濫用として許されない。 (1)原告が主張する使用行為は商標法2条3項が定める使用に当たらないこと ア 腕時計の商品化の経緯について 原告は,それまで原告商標を使った腕時計の販売をしていなかったにも かかわらず,平成29年に至って突如として原告商標を腕時計の盤面に表示したものを商品化しているが,これは,被告に対して権利行使をするに当たり,専ら訴訟対策を目的とするものと考えるのが自然である。(ア)デザインの制作依頼について 原告は,外部のデザイナーに腕時計のデザインを依頼したと主張する が,原告がそのデザインに従って腕時計の製造をせず,わざわざ異なるデザインの腕時計を下請先に発注し,販売することにしたのは不自然である。これは,原告が真に腕時計を商品として販売する意思を有していなかったことを示している。 (イ)原告の腕時計の発注及び納付 原告は,原告の腕時計の製造に係る見積書等であるとして甲121等を提出しているが,同見積書には商品の単価等は記載されておらず,有効期限の記載もない。また,見積書を見ても,発注したものが腕時計そのものであるかは明らかではなく,サンプル製作と記載されていることによれば,実物と似せて作られた模型(いわゆるモックアップ)の 可能性もある。甲122の下請先からのメールに添付された腕時計の写真は,文字盤上のmotoの文字が不自然に明瞭であり,デジタル画像を合成して作出された可能性があり,甲122のメールに本文がないのも不自然である。 また,原告は,原告代表者が2回にわたり合計47個のサンプルを台 湾から我が国に持ち込んだと主張するが,そのことについて何らの裏付け証拠も出ていない。原告代表者が台湾の撮影業者から受け取ったとい う原告の腕時計の写真が原告ウェブサイトに掲載された写真と同一のものであることを示す証拠はなく,当該業者から受け取ったという甲144の領収書は手書きであり,事後的に作成された疑いがある。 イ 原告ウェブサイトにおける原告商標を付した腕時計の広告について原告ウェブサイトにおいて掲載された原告の腕時計の画像(甲62)は 不鮮明であり,文字盤上の文字の確認ができない。商標の使用が広告といえるためには,商品との具体的関係において使用されることが必要であるところ,原告の腕時計の画像は,装飾としてウェブページに載っているだけで,商品名,商品番号,値段等の,広告であれば当然含まれるべき情報が一切表示されておらず,イメージ画像の域を出ていない。仮に発売予定 の商品であれば,現在販売中の商品と誤認されないよう2018年夏頃発売予定といった記載をするのが通常であるが, そのような記載はなく, 商品との具体的関係において原告商標が使用されたとはいえない。原告ウェブサイトに腕時計の写真が掲載されたのは早くとも平成29年1月以降であり,原告が被告に最初に警告書を送付したのが同年2月9日 付けであること(甲23)を踏まえると,原告は,被告から不使用取消審判が請求される可能性を察知し,不使用取消審判を免れる目的のみで原告ウェブサイトに腕時計の写真を掲載したものである。 したがって, 原告ウェブサイトに腕時計の写真を掲載したことをもって, 原告商標を腕時計の広告に使用したとはいえない。 ウ A社との取引について 宛先がA社であると主張されているメール(甲63の1)及び宅配伝票(甲63の2)は,いずれも宛先がマスキングされており,メールの宛先と宅配便の送付先の同一性を確認できない上,メールやサンプルが実際に 送られたかは疑わしい。また,仮にサンプルが送られていたとしても,実際に商取引に発展する可能性はなく,不使用取消審判を免れるために原告 が一方的に送ったものである疑いや,モックアップにすぎないのではないかという疑いが払拭できない。 また,上記メール及び宅配伝票の宛先は~株式会社といういわゆる後株であるが,同じメールに添付された見積書では株式会社~と前株となっており,同一の送付先のはずであるのに整合しておらず,不自然で ある。原告は,メールに添付された見積書は,送付されたサンプルに係るものではないとするが,送付するサンプルと関係のない見積書を添付するというのも不自然である。原告は,上記メールと宅配伝票の宛先が同一であることの証拠として事実実験公正証書を提出するが,公証人によっても,A社が実在する会社であるのかは確認されていない。 したがって,A社との取引をもって,原告商標を腕時計の広告に使用したとはいえない。 エ ヤフーオークションへの出品について ヤフーオークションへの出品は,原告従業員個人のIDを用いて,1回だけ行われたものであり,落札者が原告関係者であり,原告の依頼を受け て落札したなど,架空の取引である可能性がある。会社の業務として出品するのであれば,原告の社名を表示するなどするのが通常であるのに,本件においてはされておらず,原告の職務として行われたものかは明らかではない。出品された腕時計の画像と称する甲119をみても,腕時計の文字盤の記載は明らかではない。また,原告がオークション出品時の腕時計 の拡大画像であるとする甲132は,その拡大画像であることを客観的に示す証拠はない。 したがって,上記ヤフーオークションへの出品をもって,原告商標を腕時計の広告に使用したとはいえない。 オ 第二次不使用取消審判の請求登録日以降の事情 原告は,上記のほかに,B社,C社及びD社との各取引並びにギフトシ ョーへの出品行為を主張するが,いずれも原告商標の使用を基礎づけるものではない。 (2)駆け込み使用に当たること 原告ウェブサイトへの掲載行為のうち平成29年3月23日以降の行為,A社との取引及びヤフーオークションへの出品行為は,第二次不使用取消審判請求がされる前の3か月以内に行われたいわゆる駆け込み使用であり,不使用取消審判を免れる使用に当たらない(商標法50条3項)。 本件では,原告とモトローラ・トレードマークとの間で第一次不使用取消審判が請求されたことがあることに加え,平成29年2月9日付けで原告か ら被告に対し警告書が送付されていること(甲23),被告から連絡を受けたモトローラ・トレードマークは, 同年3月17日付けで, 原告代理人に対し, 当職らは,モトデザイン株式会社が商標「MOTOを用いて腕時計の販売を行っていることについて疑いがあると考えています。モトデザイン株式会社のウェブサイトでは腕時計の画像と共にmotoの語が使用されて いますが,当該使用は本件対応のみを目的とする不自然かつ名目的なものに見受けられ…」との記載のあるご回答と題する書面(乙15)を送付していることから,原告は,遅くとも同年2月初めには,原告と被告との間で原告商標の腕時計に関する紛争が生じ,原告商標に関し不使用取消審判が提起され得ることを知っていた。 したがって,第二次不使用取消審判請求前3か月以内に行われた原告の行為は駆け込み使用に当たり, 商標法における 使用 ということはできない。 〔原告の主張〕 以下のとおり,原告は,第二次不使用取消審判請求の要証期間(平成26年6月24日から平成29年6月23日まで)内である平成29年2月23日か ら同年6月23日までの間,原告商標を腕時計に付した商品の広告,譲渡及び引渡し並びに同商品の取引書類での原告商標の使用をすることにより,原告商 標を腕時計に使用しているから,指定商品中腕時計について審判によって取り消されるべきものとはいえない。 仮に取消審判が成立したとしても,被告商品は,卓上時計としても使用されており,腕時計を除く時計と同一又は類似するから,差止請求が認められることに変わりはない。また,取消しの効果が生じるのは請求登録日である平成29年6月23日であるところ,本件の損害賠償請求は,それ以前の被告商品の販売行為に対するものであるから,同請求に影響を及ぼすものではない。(1)原告の原告商標の使用行為は商標法2条3項の使用に当たることア 腕時計の商品化の経緯について (ア)デザインの制作依頼 被告は,原告が平成29年に原告の腕時計を商品化したのは専ら訴訟対策を目的としたものであると主張するが,原告は,平成23年にデザイナーのE氏に腕時計のデザインを依頼し (甲112~114, 120) , 過去にも腕時計の販売を検討していたのであり,突如として商品化した ものではない。E氏には置時計のデザインも依頼し,実際に商品化している。原告は,置時計の販売が一段落したので,以前から構想していた腕時計の販売に取り組み,その商品化に至ったものであるから,訴訟対策目的などではない。 (イ)原告の腕時計の発注及び納付 原告代表者は,腕時計の製造,販売に取り組むこととし,平成28年12月,下請先から,同月8日付け見積書(甲121)とデザイン画像(甲122)を受け取って,合計16個の腕時計を発注し,平成29年1月10日にその納入を受けた(甲123)。同見積書にサンプル製作と記載されているのは,少数生産したものという意味であり,いわ ゆるモックアップではなく, 腕時計の機能を有する商品である。 原告は, 同年3月2日,腕時計を下請先に大量生産してもらう場合の見積りも受 領している(甲143)。 原告代表者は,原告の腕時計を原告のウェブサイトやカタログ等に広告として使用するため,サンプルを台湾の撮影業者に持ち込んで写真撮影をし,平成29年1月12日に19枚の写真を受領した(甲126,144)。原告は,これらの写真を元にウェブサイト掲載用の写真(甲 127)を作成した。 イ 原告ウェブサイトにおける原告商標を付した腕時計の広告について原告は,平成29年1月23日から同年6月23日までの間,自社のウェブサイト内のmoto時計のページ上部に,左側から中央にかけて腕時計4本が並び,右端に原告商標及び商標表示が記載された写真(甲1 27)を掲載した(甲62,120,乙1)。原告各腕時計の腕時計の文字盤の3時の左横又は12時の下には原告商標が付されているほか,4つの腕時計の写真の右側には,原告商標及び原告の商標登録表示が記載されている。 このように,原告ウェブサイトにおいて腕時計の画像を大きく目立つ位 置に掲載しているのは,腕時計の広告のためであり,広告に商標が付されている以上は,特段の事情がない限り,同一商標を付した商品の販売等が予定されていると推認するのが相当である。ウェブサイトに商品名等が表示されていないのは,原告の腕時計は販売を開始した段階であり,値段等は個別の商談で取引先に提示して協議の上決定していたからであり,ウェ ブページやパンフレットにおいて値段等を公表して大量生産による販売を行う時期ではなかったからである。 したがって,原告ウェブサイトに原告商標を付した原告の腕時計の写真を掲載した行為は広告に当たり,商標法2条3項8号の使用に該当する。ウ A社との取引について 原告は,腕時計の販売のため,A社に対し,平成29年5月12日付け メール(甲63の1)を送信し,原告ウェブサイトに写真が掲載された腕時計(左から4番目)の写真を添付するとともに,腕時計のサンプルを送付する旨の連絡を行った。なお,添付された見積書は,腕時計ではない別商品に関するものである。 これに基づき,原告は,A社に対し,腕時計のサンプルを送付した。甲 63の2は,A社に原告の腕時計のサンプルを送付するための宅配伝票であり,平成29年5月12日から数日以内に原告の腕時計がA社に届いたものと考えられる。原告は,実際の取引先会社名が営業秘密であるため,甲63の2の会社名,担当者氏名などについてマスキングをしたが,マスキング部分の確認のため事実実験公正証書(甲118)を作成しており, これによれば,メールの宛先と宅配便の送付先の企業名と人物名は一致する。被告が指摘する前株と後株の違いは誤記にすぎないところ,真に訴訟目的であれば,些細な誤記などしないはずであり,かかる誤記があることは,かえって架空の取引ではないことを裏付けるものである。 以上のとおり,原告は,腕時計の取引書類に原告商標を付して頒布ない し電磁的方法により提供し,また,原告商標の付された腕時計の譲渡,引渡をしているから, 腕時計について原告商標を使用 (商標法2条3項8号, 2号)している。 エ ヤフーオークションへの出品について 原告の従業員であるF(以下Fという。)は,平成29年5月19日,原告の職務の一環として,自己の個人IDを用い,商品名がmoto時計腕時計であり,腕時計の画像(その拡大画像は甲132)が付 された商品を5000円でヤフーオークションに出品したところ,同年6月21日,同商品は同金額で落札され,同月22日,落札者から支払がなされた(甲64)。 このオークションの商品説明欄には,moto時計限定販売アイテム腕時計シンプルデザインで存在感のある大き目の腕時計等と記 載され,新品であることが表示されている(甲119)。そして,このオークションによる原告の売上げは,平成29年6月26日付けで原告の台帳に売上げとして計上された(甲133)。 このように,原告は,原告商標が付された腕時計の広告を電磁的方法に より提供し,これを譲渡したから,原告は,腕時計について原告商標の使用(商標法2条3項8号,2号)をしている。また,上記の出品に係るヤフーとの間の取引連絡(甲64,119,131)においてmoto時計腕時計と記載するなどして,腕時計の取引書類について原告商標を 使用した(同項8号)。 これに対し,被告は,上記の出品が架空の取引であると主張するが,ヤフーオークションは公開されており,誰でも閲覧,入札が可能であり,被告側の関係者が落札すれば,直ちに架空であることが露見してしまうのであるから,原告がそのような危険を冒して架空の取引などするはずがない。オ 第二次不使用取消審判の請求登録日以降の事情 以下の各行為は,請求登録日以後の事実であるが,上記の各使用行為が名目的なものではなく,原告の腕時計の販売が実際に予定され,実質的な広告であることを基礎づける事情である。 (ア)原告は,平成29年6月30日付けメールで,B社に対し,腕時計の 商談について検討を依頼するとともに,原告の腕時計の写真ファイルを送付し, サンプルが必要であれば再度手配する旨を伝えた (甲117) 。 (イ)原告は,下請先に,平成29年6月25日付け見積書(甲124)に基づき,腕時計合計31個を発注し,同年8月20日にその納付を受けた(甲125)。 (ウ)原告は,平成29年9月6日から8日にかけて東京ビックサイトで開催されたギフトショーに原告の腕時計を出品した(甲114,135, 136)。 (エ)原告は,平成29年12月上旬に,C社及びD社に対し,原告の腕時計のサンプル2点を譲渡した(甲128~130,145~148)。(2)駆け込み使用に当たらないこと 上記のとおり,原告は平成23年から腕時計の商品化を検討しており,原 告が第二次不使用審判請求を知ったのは,本訴における平成29年6月26日付け答弁書を受領したときである。このため,それより以前に行われた原告ウェブサイトへの掲載行為,A社との取引及びヤフーオークションへの出品は,いずれも駆け込み使用に当たらない。 5 争点(5)(損害の存否及び損害額)について 〔原告の主張〕 (1)損害額 ア 被告による原告商標権の侵害について,原告が受けるべき金銭の額に相当する額(商標法38条3項)は,以下のような本件の事実関係を踏まえれば, 被告商品の売上高の少なくとも10パーセントの割合の金額である。 すなわち,原告商標は原告のハウスマークないしコーポレートブランドとして主力の時計事業に長年使用してきたものであり,他社にライセンスすることは通常ないものである。また,被告ら侵害者側は,原告商標の存在を知りながら,原告商標権を侵害しないための方策を何ら講じることなく被告商品の販売を強行したものである。さらに,第14類の商品におけ る平均ロイヤリティ率は7パーセントであることを踏まえれば,料率は少なくとも10パーセントと認められるべきである。 原告は,被告による原告商標権の侵害により,少なくとも5万3486円(53万4868円×10%,1円未満切捨て)の損害を被った(商標法38条3項)。 イ 被告の原告商標権の侵害により,原告は本件訴訟提起を余儀なくされて おり,原告が被った弁護士費用相当額の損害は,50万円を下らない。ウ よって,原告は,被告に対し,55万3486円及びこれに対する平成29年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。 (2)損害不発生の抗弁について 被告は,原告商標は,腕時計はもとより置時計についても使用されておらず,顧客吸引力を全く有さないから,原告に損害が発生していないと主張するが,原告は,原告商標を,原告の企業ブランド商標として主力事業である時計事業に長年にわたり使用してきたものであり,原告が販売する商品への高い信頼が蓄積され,高い顧客吸引力を有するから,原告商標と同一又は類 似の被告各標章の被告商品への使用が,被告商品の売上げの向上に大きな影響を持ったことは明らかであり,損害不発生の抗弁は成り立たない。〔被告の主張〕 (1)損害不発生の抗弁 登録商標に類似する標章を第三者がその製造,販売する商品につき商標と して使用した場合であっても, 当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず, 登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないと解される。 本件では, そもそも時計に原告商標が使用されていたかどうかが疑わしく, 仮に原告の主張が正しいとしても,原告は東京に本社を有するのに対し,被告商品は名古屋の被告店舗で販売されたものである。原告商標が名古屋において一般需要者の間に知名度があった旨の主張立証は一切なく,原告商標が顧客吸引力を有していなかったことは明白であるから,被告商品の販売等によって,原告に得べかりし利益としての実施料相当額の損害が生じたという ことはできない。 したがって,損害の発生は認められない。 (2)原告が受けるべき金銭の額の料率について 仮に損害が発生しているとしても,原告商標は,腕時計はもとより置時計その他の商品にも実質的に使用されていると認め難く, 原告商標に, 時計 その他の商品に関する原告の信用が化体し,顧客吸引力があると認めることはできないから,原告が受けるべき金銭の額の料率は0.1%を上回ること はない。 第4 1 当裁判所の判断 争点(1)(原告商標と被告各標章の類否)について (1)商標の類否の判断基準 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用され た場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁判所昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。 (2)原告商標と被告各標章の類否 ア 原告商標の外観,称呼及び観念 原告商標は,別紙原告商標権目録記載のとおり,motoという欧文字の小文字から成る外観を有する。このうち,mの文字の左端の縦線の上端が飛び出しており, t の文字の縦線が下端部まで直線である。 原告商標からは,モトとの称呼が生じる。 原告商標から特定の観念が生じるかについて検討するに,motoという単語は,一般的な英和辞典に記載がなく(甲21),また,我が国 語の もと についても, これに当たる漢字としては 下許本 , , , 元,原,基,旧,故等があり,その意味も,物の下,起源,はじめなど,様々なものがあると認められる(甲22)。 以上によれば,motoは需要者から一種の造語のように認識され るものであり,原告商標から特定の観念が生じるとは認められない。イ 被告標章1の外観,称呼及び観念 (ア)被告標章1は,別紙被告標章目録記載のとおり,motoという欧文字の小文字が横書きされて成る外観を有する。このうち,mの 文字の左端の縦線の上端は飛び出しておらず,tの文字の縦線の下端部は右に湾曲している。被告標章1からはモトとの称呼が生じると認められるが,特定の観念が生じるとは認められない。 (イ)これに対し,被告は,モトローラはスマートフォン及びその付属品たる腕時計型情報通信端末において周知著名であり,被告標章1の称呼で あるモトがモトローラの略称であることは,被告商品のような情報通信端末の需要者に既に浸透しているから,被告商品に接する需要者等は,被告標章1からモトローラの,モトローラ・ブランドの, モトローラの品質保証が及んでいるとの観念を生じると主張する。この点について,証拠(乙3,4,17)によれば,モトローラが平 成16年に発売した携帯電話 MotorolaRAZR は世界的な ヒット商品となり,我が国においても平成18年に我が国における子会社であるモトローラ株式会社が上記携帯電話をベースとしたM702iSの販売を開始したとの事実が認められるが,同商品の品名はmotoの文字を含まず,同商品の販売によりモト又はmoto がモトローラのを意味するとの認識が需要者に浸透したと認めることはできない。 その後,モトローラは,Motoを冠した携帯電話として,MotoGを平成27年12月に,MotoXplayを平成2 8年3月に,MotoZ,MotoModsを同年頃に,そ れぞれ我が国で発売し, MotoZなどの商品について,同年12 月から平成29年1月にかけて宣伝広告活動を行ったことが認められる (甲57,58,乙17)。 しかし,上記各商品の我が国における販売数や市場シェアは明らかではなく,また,モトローラによる上記スマートフォン等の我が国における販売は平成27年12月以降であり,被告商品の販売が開始された平成28年7月までの間にmotoがモトローラの略称であることが 需要者等において広く浸透したと認めるに足りる証拠も存在しない。被告は,モトローラがスマートフォン及びその付属品において周知著名であることを示すものとして,新聞,雑誌等(乙3~7,24~188)の記載を挙げるが,このうち,モトローラ,Motorolaとのみ表記し,略称のmotoの記載がないものについては, そもそも,そのような記載からmotoがモトローラを意味すると読み取ることはできない上, MotoZなどのモトシリーズスマー トフォンや被告商品の販売開始などを紹介する内容のものについては,同商品の我が国における販売数やシェアが明らかではないから,これらの記載からmotoがモトローラの略称として需要者の間に浸透し ており,motoからモトローラのという観念が生じるに至っ ていたとの事実を認めることはできない。 以上によれば,motoという文字標章が,需要者の間でモトロ ーラを示すものとして広く認識されているとは認められないから,被告標章1から モトローラの などの観念が生じるということはできない。 ウ 被告標章2について (ア)被告標章2の外観,称呼及び観念 a 被告標章2は,別紙被告標章目録記載のとおり,motoとい う欧文字の小文字と360という数字が,間に空白が置かれて横 書きされ,かつ,これらが円形に沿ってやや上方に湾曲して配置されて成る外観を有する。このうち,mの文字の左端の縦線の上端は 飛び出しておらず,tの文字の縦線の下端部が右に湾曲している ことは被告標章1と同様である。被告標章2からは,モトサンビャクロクジュウ,モトサンロクマル又はモトサンロクゼロとの称呼が生じると認められるが,特定の観念が生じるとは認められない。 b これに対し,被告は,motoからモトローラのといった 観念が,360から360度の円形という観念がそれぞれ生 じ,両者を併せてモトローラの円形のスマートウォッチとの観念 が生じると主張するが,motoからモトローラのという観 念が生じると認められないのは, 前記判示のとおりであり, また, 360は単なる数字の記載であるから360度の円形が想起され るということはできない。 (イ)被告標章2の要部 上記のとおり,被告標章2は,motoの部分と360の部 分の間に空白があるほか,前者が欧文字,後者が数字であり,両者には意味の上での関連性がなく,これらの文字の結合によって,全体から特定の観念が生ずるということもできない。そして,motoの語は一般に使用されていない造語である一方で,360の部分は単なる数字にすぎないこと,被告標章2は,文字盤に被告標章1が付された被 告商品の裏面に付されており,被告商品を見る者は,通常文字盤にある被告標章1(moto)を見てから被告標章2を見ると考えられること に照らすと,motoの部分がより需要者等に強い印象を与えると認められる。 そうすると,被告標章2の要部は,motoの部分というべきで ある。 エ 原告商標と被告各標章の対比 原告商標と被告標章1の称呼及び被告標章2の要部の称呼はいずれもモトであり,特定の観念が生じない点も一致している。また,被告標章1の外観及び被告標章2の要部の外観につき,motoという欧文字の小文字から成る点も一致している。被告が指摘するmの左端の縦線の上端が飛び出しているか否か,tの縦線の下端部が湾曲している か否かといった形態の相違は,一般的に存在するフォントの種類の中に,原告商標及び被告各標章のいずれの形態も含まれていること(甲55)に照らすと,些細な相違にすぎないというべきであり,外観も一致していると認められる。 したがって,原告商標と被告標章1及び被告標章2は類似している。 2 争点(2)(原告商標の指定商品と被告商品の類否)について (1)指定商品の同一性について 原告商標の指定商品は 時計 であるところ, 前記のとおり, 省令別表は, 第14類の九中時計時計 (一)時計について, 腕時計自動車用時計ストップウォッチ柱時計置き時計懐目覚まし時計と定め ている。 他方,政令別表第9類は…情報処理用の機械器具…を含むところ,平成28年12月12日経済産業省令第109号による商標法施行規則別表の改正により,同類に三十一腕時計型携帯情報端末スマートフォン が追加されている。特許庁の類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2017版対応〕 (平成29年1月1日適用)によると,第14類には腕時計 型携帯情報端末は含まないとされている(甲103,104,乙18)。被告商品は,いわゆるスマートウォッチ(又はウェアラブルウォッチ)と呼ばれる商品であり, AndroidWearというオペレーティン グシステムを搭載し, スマートフォンと連携させることにより, 電子メール の受信等の表示, 音声コマンドによる検索サイトの利用等をすることができ るほか, スマートフォンにインストールされたアプリケーションの操作をすることなどができる(甲7~15,107,乙12,13)。 このような被告商品の内容や性質に照らすと, 被告商品は, その指定商品 の区分としては,第9類の情報処理用の機械器具に該当し,第14類の 時計には該当しないと解するのが相当である。 (2)指定商品の類似性について ア 指定商品の類似性の有無については,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売に係る商 品と誤認されるおそれがあると認められるか否かにより判断すべきであり(最高裁昭和33(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁),商品の品質,形状,用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく,その用途において密接な関連を有するかどうか,同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかなどの取引の実 情をも考慮することが相当である(最高裁昭和37年(オ)第955号同39年6月16日第三小法廷判決・民集18巻5号774頁)。 イ そこで検討するに, 本件においては, 以下の事実を認めることができる。 (ア)時計としての機能 スマートウォッチ及び被告商品が時計としての機能を有することについては,当事者間に争いがない。 (イ)製造業者 いわゆるスマートウォッチと呼ばれる商品は,アップル社,韓国LG電子,サムスンなどのIT企業に限らず,セイコーウォッチ,フォッシル,タグ・ホイヤー,シチズン,スカーゲン,フレデリック・コンスタント,カシオ計算機などの時計メーカーによっても製造,販売されている(甲30,43,47,52,乙173)。 そして,スマートウォッチ市場には,平成28年頃から時計メーカーの参入が続き(甲43~46),平成28年9月21日付け東京読売新聞(甲52)は,時計メーカー参入続々スマートウォッチIT企業と差別化との表題の下, 米アップルなどのIT企業だけでなく,腕時計メーカーが相次いで参入していると報じている。(ウ)販売状況 a 小売店における商品の展示状況 平成29年7月から10月の時点において,ビックカメラ有楽町店 の3階健康家電売場にウェアラブルウォッチのコーナーが,6階に時計売場がそれぞれ設けられているが,シチズン,カシオ,タグ・ホイヤー,フォッシルなどのブランドの商品が展示された6階時計売場のショーケースでは,同ブランドのスマートウォッチとそれ以外の腕時計が並べて陳列されている(甲53,109,乙19)。他方,同年 6月の時点において,被告店舗では,被告商品は8階の携帯電話用品売場で販売され,腕時計は10階の腕時計売場で販売されていた(乙2)。 原告及び被告の行った調査を総合すると,平成29年9月及び10月の時点において,東京,神奈川,千葉,埼玉,大阪,京都に所在す る28の時計店のうち,スマートウォッチと通常の腕時計の両方を取り扱っている店舗は17店であった(甲109,乙19。なお,タイ ムステーションNEOの堺鉄砲町店とトレッサ横浜店は同一店舗として計算している。)。 b ネットショッピングにおける商品の区分 平成29年7月の時点において,ビックカメラのインターネット通販サイトでは, カシオのスマートウォッチが 国内メーカー腕時計(男性向け)のカテゴリーで, 通常の腕時計とともに販売されている (甲 54)。また,アマゾンのウェブサイトにおいて,被告商品は家電・カメラ・AV機器というカテゴリーで扱われている(なお,腕時計はAmazonFashionというカテゴリーで扱われてい る。)が,moto腕時計で検索すると被告商品が表示される (甲11~13,81~88,乙21)。さらに,ヤフーショッピングのウェブサイトでは,被告商品は腕時計・アクセサリーカテゴ リーの中のスマートウォッチに分類され(甲89~93),楽天 市場のウェブサイトには被告商品を腕時計と分類している店舗が ある(甲96)。上記の3つのウェブサイトには,被告商品をスマートウォッチ腕時計と表示しているものがある(甲82,83, 89~95)。 (エ)被告商品の説明,使途等 a 被告商品を製造したモトローラ・モビリティのウェブサイト(平成 28年当時) には, 時計表示の被告商品の写真が掲載されるとともに, あなたの時間を刻む時計を選ぶなどと表記されている(甲7,1 0,11)。 b モトローラ・モビリティが作成した被告商品のユーザーガイドの表 紙には時計表示がされた被告商品の写真が掲載されるとともに,その概要ページには,被告商品を新型の時計Moto360(第2世代)と紹介した上で,その初期画面が時計表示であることが説明さ れ,さらに, 卓上時計としても使えます, お客様の時計は, 時計にどのような機能があるのか探索してみてください,1台の時計にさまざまな表情などの記載が存在する(甲15)。c シネックスインフォテック,Amazon,楽天ブックス等の正規 販売店及び正規販売店以外の販売業者による被告商品の広告には,全 て時計表示の被告商品の写真が掲載されている(甲8~13,81~96)。また,シネックスインフォテックは,被告商品について,スマートフォンに対応しており,腕に付けた時計に必要な情報をタイムリーにお知らせします,ウォッチフェイスを自由に変更して時計の雰囲気を変えなどと紹介している(甲8)。 (オ)原材料及び品質 被告商品は,1.56インチLCDゴリラガラス3採用のディスプレイ,筐体(本体ステンレススチール,裏面プラスチック),心拍センサー, 光センサー, バッテリーと, Android WearというOS, CPU,RAM,ROMなどから構成される(乙22)。 通常のアナログ時計は,地板,歯車,電池,コイルブロック,巻真等で構成され,デジタル時計は地板,液晶パネル,反射板,回路スペーサー回路ブロック,電池絶縁版等から構成される(乙23)。 (カ)需要者の範囲 a 雑誌における取扱い スマートウォッチの雑誌における取扱いについてみると,スマートウォッチは,Men’sJOKERINEBOYS,WATCH誌,「Men‘sWATCH,時計FNAVIといった腕時計専門雑 NON-NO」,AERASTYLEMAGAZINEなどのファッション雑誌や,mono(モノ・マガジン),MonoMax(モノマックス),日経TRENDYなどの雑誌における腕時計特集において,通常の腕時計とともに紹介されている(甲30~42,44~49)。 また,時計FINEBOYSVOL.12(平成29年5 月発行)ゼロからわかる!腕時計の100識 の という小冊子の 「時計のタイプを知る。」 という項目において,スマートウォッチは,デジタルウォッチ,デザインウォッチ等と並び,腕時計のタイプの一つとして紹介されている(甲31)ほか,AERAAGAZINESTYLEMVol.35(平成29年7月発行)の腕時計に 関するアンケートでは,どの種類の時計が欲しい?という質問の 選択肢として,機械式時計,クォーツ等と並び,スマートウォッチが 挙げられている(甲33)。 b 価格 被告商品は,アマゾンのウェブサイトで3万8000円から4万4000円程度の価格帯で販売されているが(甲10~13),スマートウォッチ一般の値段は商品によって様々であり(甲32,37,4 3,45,51,105),高価格のものは30万円を超えている(甲51)。他方,通常の腕時計の価格も,数千円台のもの(甲31)から100万円を超えるもの(甲33)まで様々である。 ウ 上記認定事実によれば,スマートウォッチの市場には時計メーカーも参入し,IT企業のみならず,時計メーカーも腕時計等の時計に加えてスマートウォッチを製造,販売しているとの事実が認められる。このように,腕時計とスマートウォッチでは製造業者が共通し,時計メーカーが時計製造で培った技術を活かし,スマートウォッチ市場に参入している状況が看取される。 また, 販売状況を見ても, ビックカメラ有楽町店の例に見られるように, スマートウォッチと時計の売り場が共通している店舗もあり,原告及び被 告の行った調査結果によれば,時計店の中にはスマートウォッチと腕時計の両方を取り扱っている店が相当程度あることがうかがわれ,ネットショッピングにおいても,スマートウォッチと腕時計のカテゴリーの区別は截然とせず,スマートウォッチを腕時計・アクセサリーの一つに分類しているショッピングサイトも存在する。そうすると,スマートウォッチと 腕時計は,その販売分野においても共通若しくは近接しており,同一のウェブサイトや売り場で一緒に販売されていることも少なくないということができる。 さらに,上記のとおり,スマートウォッチが時計としての機能を備えていることは争いがないところ,証拠に現れているスマートウォッチの初期 画面はいずれも時計であり,被告商品を製造したモトローラ・モビリティのウェブサイト及び同商品の取扱説明書においても,時計表示の被告商品の写真が掲載されるとともに,同商品が時計である旨の記載がされ,同商品を販売するインターネットサイトにおいても同様の説明がされていると認められる。そうすると,スマートウォッチは,時計表示が付随的 な機能にすぎない他の家電製品とは異なり,その主たる用途・使途は時計として使用することにあるというべきである。 加えて, 上記イ(カ)によれば, スマートウォッチの購入者は特定の層では なく,時計に関心を有する一般消費者であり,ネットショッピングや小売店などで腕時計を購入しようとする一般の消費者にとって,スマートウォ ッチは,通常の腕時計等と並んで購入対象となるものであると認められる。また,スマートウォッチと時計とで販売価格が大きく異なるとは認められないことも考え併せると,スマートウォッチと腕時計の需要者層は重複しているということができる。 エ 以上のとおり,スマートウォッチと腕時計の製造業者の同一性,商品の広告・販売状況,商品の用途,需要者の範囲等の事情を総合的に考慮する と,原告商標の指定商品である腕時計及び被告商品に同一又は類似の商標を使用した場合には,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるというべきである。 したがって,被告商品は,原告商標の指定商品のうち腕時計と類似の商品であるということができる。 3 争点(3)(モトローラ商標使用の抗弁の成否)について 前記1及び2で判示したとおり,原告商標と被告各標章は類似し,かつ,原告商標の指定商品である腕時計と, モトローラ商標の指定商品である第9類に 属する被告商品とは類似する。そして,前記前提事実のとおり,モトローラ商標の出願日又は優先日は,いずれも原告商標の出願日に後れているから,モト ローラ商標は,商標法4条1項11号,46条1項1号により,いずれも無効にされるべきものである。 このような無効事由のある登録商標に基づく専有権 の主張は,権利の濫用であって理由がなく,被告が主張するモトローラ商標使用の抗弁は,成立しない。 4 争点(4)(権利濫用の抗弁の成否)について 原告は, 被告が第二次不使用取消審判請求の登録日 (平成29年6月23日) 前3年以内の要証期間内に原告商標を腕時計について使用していないので,原 告商標の指定商品のうち腕時計は不使用取消審判によって取り消されるべきものであり, そのような原告商標権に基づく権利行使は権利の濫用として許 されないと主張するので,以下,検討する。 (1)認定事実 ア 原告は,平成29年1月23日から6月23日までの間,自社のウェブサイト内のmoto時計のページ上部に,左側から中央にかけて縦に並ぶような形で4本の腕時計の写真を掲載し,その右端に原告商標等を表 示した。同ウェブサイトには,写真が掲載された腕時計の商品名,商品番号,値段等の情報は表示されておらず,これらの時計の広告や商品説明, 同各商品を購入するための表示等も存在しない (甲62, 120, 乙17) 。 イ モトローラ・モビリティは,平成29年3月17日付けご回答(乙15)を原告代理人に送付し,同書面において,当職らは,モトデザイン株式会社が商標「MOTOを用いて腕時計の販売を行っていることについて疑いがあると考えています。モトデザイン株式会社のウェブサイト では腕時計の画像と共にmotoの語が使用されていますが,当該使用は本件対応のみを目的とする不自然かつ名目的なものに見受けられ…」などと主張した。モトローラ・トレードマークは,同年6月8日,特許庁審判官に対し,第二次不使用取消審判請求をした。 ウ 原告は,平成29年5月12日,A社宛てに,見積及び腕時計サンプル発送致しますとの件名のメール(甲63の1)を送信した。同メールには, 「moto腕時計について,本日サンプルを送付致しますので,併せてご確認のうえご検討下さい。」 ,「添付ファイルにて,先に商品写真を送付致します。」 と記載され,文字盤にmotoの表記がある腕時計の写真及び腕時計とは別の商品についての見積書が添付されていた。また,同日受付で,品名にmoto腕手時×1点サンプルと記載された宅配伝票(甲63の2)が作成されている。 エ 原告の従業員であるFは,平成29年5月19日,自己の個人IDを用いて,商品名がmoto時計腕時計であり,腕時計の画像が付され た商品を5000円でヤフーオークションに出品したところ,同年6月2 1日,氏名不詳者が同金額で落札し,同月22日,同人から支払がなされた(甲64)。 (2)原告商標の使用の有無 ア 腕時計の商品化の経緯について (ア)原告は,原告のウェブサイトに表示された腕時計の製造の経緯について,平成28年12月に台湾の下請先との間で原告の腕時計のデザイン について協議し,見積書(甲121)及びデザイン画像(甲122)を受領した上,平成29年1月にサンプル16個を原告代表者が受け取り,我が国に持ち込んだと主張する。 しかし,原告が下請先から受領したとする画像(甲122)は,腕時計本体の写真がやや不鮮明であるのと対照的に, 文字盤上の moto の文字又は文字盤全体が不自然なほど鮮明で浮き上がっているように見えるものであり,画像データを加工等して作成された画像である可能性が高い。そして,同画像が添付されたメールには本文がなく,これらの画像の作成の目的,方法等も明らかではない。 加えて,上記見積書には,製品明細としてステンレスイアガラス日本製ムーブメントサファ手作箱及び説明書,注意事項 として腕時計サンプル製作との各記載があり,数量が合計16 個である旨の記載があるが,同見積書には商品の単価やサンプル製作納期の記載がないなど不自然な点も少なくなく,製品明細に記載されたとおりの腕時計サンプルが製造されたことを示す写真等の客観的な証拠も存在しない。また,原告は,同見積書に記載された腕時計の納品を受けた際に受領した見積書(下請先によるサンプル製作費の受領をした旨の記載がある。)も存在すると主張するが(甲123),同見積書にも商品の単価等の記載はない。 そうすると,上記各証拠に基づき,腕時計のサンプルが製造され,原告に納入されたとの事実を認めることはできないというべきである。(イ)原告は,下請先の製造した腕時計のサンプルを台湾の撮影業者に持ち込んで写真撮影をし,平成29年1月12日に19枚の写真を受領した上(甲126,144),これらの写真を元にウェブサイト掲載用の写 真(甲127)を作成したと主張する。 しかし,甲126は納品書であり,納入された写真の画像等は添付さ れておらず,また,甲144は手書きの領収書であり,この書類からも納入された写真は明らかではない。この点,原告は,これらの納入された写真に基づいて甲127の原告ウェブサイトの腕時計の写真を作成したとするが,甲127の写真が台湾の撮影業者の撮影した写真に基づくものであることを客観的に裏付ける証拠はない。 上記(ア)のとおり, 腕時計のサンプルが実際に製造・納入されたとは認 められないところ,同サンプルを台湾の撮影業者が撮影し,その写真を納入したとの事実も認めることはできない。 (ウ)以上によれば,原告が,原告ウェブサイトに表示された腕時計を製造し,販売用に保有していたと認めることはできない。 イ 原告ウェブサイトにおける原告商標を付した腕時計の広告について原告ウェブサイトにおける腕時計の写真の掲載について,原告は,これらの腕時計の広告のためであり,その当時,原告は腕時計の販売を開始した段階であり,値段等は個別の商談で取引先に提示して協議の上決定して いたと主張する。 しかし,甲62の原告ウェブサイトの写真は,画像が不鮮明であり,腕時計の文字盤にmotoの表記があるとは確認できない。原告は,ウェブサイトに掲載した写真を拡大したものであるとして甲127を提出するが,その作成時期,作成経緯は明らかではなく,これが原告ウェブサ イト上の写真と同じものであることを裏付ける客観的な証拠はない。また,原告ウェブサイトにおける腕時計の写真は,同画像上をクリックしても同商品に係る販売サイトに移動することはなく,また,同各腕時計の品名,品番,価格,商品説明等についての記載や,原告の腕時計が将来発売予定であることや個別の商談により購入が可能であることを説明す る記載もない。他方で,上記写真の下部には人気商品として5点の置時計の画像が表示されているが,これらの商品については,品名,品番, 値段等の表示がされている。 以上のようなウェブページの体裁,記載からは,甲62の画像に対応する原告の腕時計が実際に製造され,商品として購入できる実態があったことを推認することはできないというべきである。 ウ A社との取引について 原告は,原告の製造した腕時計についてA社との間で商談をしており,同社に対してメールで腕時計のサンプルの写真を添付して送信するとともに,サンプルの現物を郵送したと主張する。 しかし,上記メール(甲63の1)に添付された腕時計の写真は,他の部分が鮮明で実際の時計を撮影したように見えるのと対照的に,文字盤部 分の画像が不自然,不鮮明であり,motoの文字及び針のみが浮き上がるようにも見えるものであって,文字盤部分について何らかの加工が行われたのではないかとの疑いを払拭できない。 また,A社への郵送の証拠としてmoto腕手時×1点サンプルと記載された宅配伝票(甲63の2)が提出されているが,宛先がマスキン グされており,事実実験公正証書(甲118)をもってしても,A社の実在性や原告とA社との関係は明らかではない。 したがって,これらの証拠によって,文字盤にmotoの表記のある原告の腕時計についての商談が行われ,そのサンプルがA社に郵送されたとの事実を認めることはできない。 エ ヤフーオークションへの出品について 原告は,原告従業員であるFが,原告の業務として,ヤフーオークションに原告の腕時計を出品し,落札者に原告の腕時計の現物を郵送したと主張する。 しかし,オークションの画面である甲64の1,甲119を見ても,出品された腕時計の画像が不鮮明であり,文字盤にmotoの表記があ るか確認できない。原告は,オークションの画面では出品した物の画像を拡大してみることができるとして,拡大した画像が甲132であると主張するが,甲132が上記画面と同一のものであることを裏付ける客観的な資料は提出されていない。 また,上記の出品はF個人のIDを用いて行われたものであるところ, Fは会社の業務の一環として原告の腕時計を出品したと主張するが,原告が販売している商品をその従業員が個人のIDを用い,オークションを利用して1個のみを販売し,しかも,同出品の際の商品説明欄(甲119)に製造者である会社名の記載すらしないというのは,法人による営業活動としては不自然・不合理であるといわざるを得ない。 さらに,原告は,落札者に原告の腕時計を郵送した証拠として,宅配伝票(甲149)及び落札者が受取確認をした旨のメール(甲150)を提出するが,原告は,落札者の氏名を明らかにしておらず,落札者の実在性や原告との関係は明らかではない。 以上によれば,原告商標の付された腕時計が上記オークションに出品さ れ,原告と関係のない第三者が落札し,同商品が落札者に郵送されたとの事実を認めることはできない。 オ 第二次不使用取消審判の請求登録日以降の事情について (ア)原告は,平成29年6月頃にB社に対し,原告の腕時計のサンプルを 提供し,原告の腕時計の写真(甲117の1)を添付したメールを送信したと主張する。 しかし,上記写真は,ケースに入った原告の腕時計を写真撮影した画像と見受けられるが,背景が真っ白であり,どのように撮影されたのかも明らかではない上,箱に時計が収まっている画像としては立体感を欠 き,コンピュータを用いた何らかの画像処理がなされた可能性が否定できない。 また,同写真左上には,四角い白い物体が同梱されているように見えるところ,B社へのサンプル郵送及びメール送信を担当したFは,第二次不使用取消審判請求における証人尋問において,この物体が何であるか質問され,分からない旨答えている(乙226の25頁)。同人が原告において原告の腕時計に係る業務を主に担当しており,その取引が多 数回行われていたわけではないことに照らすと,同梱した物体が何であるか分からないというのは不自然であるといわざるを得ない。 (イ)原告は,平成29年9月に開催されたギフトショーに原告の腕時計を出品したと主張するが,原告のブースを撮影した写真を見ると,腕時計が展示されていることは見受けられるものの,これらの腕時計の文字盤 にmotoの表記があるかどうかは確認できない(甲114,120)。 (ウ)原告は,平成29年12月にC社及びD社に対し,原告の腕時計を販売し,郵送したと主張するが,これに関する証拠(甲145~148)をみても,実際にこれらの顧客に腕時計が販売されたかどうか,また, 販売されたのが原告商標の付された時計であるかどうかは明らかではない。 (エ)以上によれば,原告が使用行為と主張する各行為の後の時点においても, 原告の腕時計が実際に製造され, 販売されていたとは認められない。 カ 以上によれば,文字盤にmotoの表示がある原告の腕時計が平成28年12月から平成29年1月頃に製造され,原告に引き渡されたと認めることはできず, これを前提とする原告ウェブサイトへの腕時計の掲載行為, A社との取引及び上記オークションへの出品行為は,いずれも商標法にいう使用に該当するとは認められない。 (3)そうすると,要証期間内において,原告商標が腕時計について使用されたとは認められず,原告商標の指定商品中腕時計は,不使用取消審判によ り取り消されるべきものであるということができ,前記のとおり,第二次不使用取消審判は既に請求されている状況にある。 なお, 原告は, 被告商品は, 腕時計を除く時計とも同一又は類似するから,差止請求が認められることに変わりはないと主張するが,審判により取り消された後の 「時計(腕時計を除く。)」 との指定商品との関係では,被告商品は類似しないので,この点についての原告主張は理由がない。 したがって,原告による差止請求は,権利の濫用として許されないというべきである。 もっとも,商標法54条2項により原告商標権の指定商品中腕時計が消滅する効果が発生するのは,平成29年6月23日(審判請求登録日)で あるところ,原告が損害賠償を求めている期間は,平成28年7月から平成29年2月までであるので,損害賠償請求との関係では,権利濫用の抗弁は失当である。 5 争点(5)(損害の存否及び損害額)について (1)被告商品に係る売上高が53万4868円であることは争いがない。原告が受けるべき利益の額としての料率に関し,経済産業省知的財産政策室作成に係る ロイヤルティ料率データハンドブック (甲79) によれば, 第14類の平均の使用料率は7パーセントとされているが,その基礎となる件数は2件にとどまり,原告が腕時計について他の事業者に原告商標の使用 を許諾したことがあると認める証拠はない。 また,原告が平成24年頃から販売している置時計や東京スカイツリーCLOCKという名称の置時計には原告商標が使用されているものの, 東京スカイツリーCLOCK以外の商品は全てMONDOというブランドで販売されており (甲155, 157~169, 181~184, 190, 191),原告商標が被告店舗の存在する名古屋市において大きな顧客吸引力を有しているとは認め難い。 このような事情に加え, 本件に現れたその他一切の事情を総合考慮すると, 原告が受けるべき利益の額としての料率は5パーセントと認めるのが相当である。 そうすると,商標法38条3項により原告が受けるべき利益の額は,2万6743円(1円未満切捨て)と認められる。 弁護士費用としては,上記認容額,本件事案の概要,性質等に照らし,5000円をもって相当と認めるから,同弁護士費用を加算すると,合計3万1743円となる。 (2)被告は,原告商標に全く顧客吸引力が認められないから,損害が発生しているとはいえないと主張する。 しかし,原告は,平成19年頃から原告商標を自社のマークとして使用し(甲66),平成24年頃から販売している各種の置時計の底面,外箱及び説明書等に原告商標を使用していることが認められ(甲155,157~169,181~184,190,191),上記の置時計の販売数は,平成24年4月から平成29年3月までの5年間で合計17万台 (甲155の1) であり,原告が販売する置時計は,被告店舗が所在する名古屋の店舗でも販売されていることが認められる(甲175~180)。 このような原告における原告商標の使用状況及び原告が販売する商品の販売状況に照らすと,原告商標に全く顧客吸引力がなく,被告の行為により原告に損害が全く発生していないとまで認めることはできないから,被告の上 記主張は採用できない。 6 結論 以上のとおり,原告の請求は,損害賠償金3万1743円及びこれに対する不法行為の後である平成29年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないから,原告の請求を上記の限度で認容し,その余を棄却することとして,主 文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文遠山敦士今野智紀 裁判官 裁判官 別紙 被告標章目録 1(1) 1(2) 2 別紙 原告商標権目録 登録番号 出願日 平成18年3月24日 出願番号 商願2006-26474 登録日 平成18年10月13日 更新登録日 第4995373号 平成28年11月15日 商標 商品の区分 第14類 指定商品 時計 別紙 被告商品目録 時計の機能を有し,手首に装着することができる以下の各商品名の各商品1 moto360(2ndGen.) moto360(2ndGen.)との商品名の商品には以下の3種類がある。(1)シルバー/コニャックレザー (2)ブラック/ブラックレザー (3)ローズゴールド/ブラッシュレザー 2 moto360sport moto360sportとの商品名の商品には以下の3種類がある。(1) ホワイト (2) ブラック (3) オレンジ 別紙 モトローラ商標権目録 1 モトローラ商標1 登録番号 第5908902号 出願日 平成26年9月16日 出願番号 2014-077845 登録日 平成28年12月22日 商標 商品の区分 第9類 指定商品 腕時計の機能を有するスマートフォン・携帯情報端末・モバイルコンピュータ 2 モトローラ商標2 登録番号 出願日 平成26年9月16日 出願番号 第5899281号 2014-077844 登録日 平成28年11月25日 商標 商品の区分 第9類 指定商品 腕時計型スマートフォン,身体の一部に着用可能な携帯型電子応用機械器具・電気通信機械器具,身体の一部に着用可能なコンピュー タ周辺機器,通信機能を有する電話機用・携帯電話機用・スマートフォン用・タブレット型コンピュータ用・コンピュータ用・ハンドヘルド型又は携帯型電子応用機械器具用の個人識別用コンピュータソフトウェア・個人識別用データを記録した記録媒体・個人識別用装置,身体の一部に着用可能なデータ送受信用装置,身体の一部に 着用可能なデータの処理用・送信用・収集用・保管用・記録用・受信用・検索用の装置,腕時計の機能を有するスマートフォン・携帯情報端末・モバイルコンピュータ 3 モトローラ商標3 登録番号 出願日 平成29年8月29日 出願番号 2017-114374 登録日 平成29年11月10日 商標 moto(標準文字) 商品の区分 第9類 指定商品 第5994601号 腕時計型スマートフォン,身体の一部に着用可能な携帯型電子応用機械器具・電気通信機械器具,身体の一部に着用可能なコンピュー タ周辺機器,通信機能を有する電話機用・携帯電話機用・スマートフォン用・タブレット型コンピュータ用・コンピュータ用・ハンドヘルド型又は携帯型電子応用機械器具用の個人識別用コンピュータソフトウェア・個人識別用データを記録した記録媒体・個人識別用装置,身体の一部に着用可能なデータ送受信用装置,身体の一部に 着用可能なデータの処理用・送信用・収集用・保管用・記録用・受信用・検索用の装置,腕時計の機能を有するスマートフォン・携帯情報端末・モバイルコンピュータ,スマートフォン,腕時計型携帯情報端末,電気通信機械器具及びその部品・附属品,電子応用機械器具及びその部品・附属品 4 モトローラ商標4 登録番号 出願日 平成29年8月29日 出願番号 2017-114375 登録日 平成29年11月10日 商標 moto 商品の区分 第9類 指定商品 第5994602号 腕時計型スマートフォン,身体の一部に着用可能な携帯型電子応用 360(標準文字) 機械器具・電気通信機械器具,身体の一部に着用可能なコンピュータ周辺機器,通信機能を有する電話機用・携帯電話機用・スマートフォン用・タブレット型コンピュータ用・コンピュータ用・ハンドヘルド型又は携帯型電子応用機械器具用の個人識別用コンピュータソフトウェア・個人識別用データを記録した記録媒体・個人識別用装置,身体の一部に着用可能なデータ送受信用装置,身体の一部に 着用可能なデータの処理用・送信用・収集用・保管用・記録用・受信用・検索用の装置,腕時計の機能を有するスマートフォン・携帯情報端末・モバイルコンピュータ,スマートフォン,腕時計型携帯情報端末,電気通信機械器具及びその部品・附属品,電子応用機械器具及びその部品・附属品 |