判例検索β > 平成29年(わ)第2955号
盗品等有償譲受け(予備的訴因:盗品等保管)被告事件
事件番号平成29(わ)2955
事件名盗品等有償譲受け(予備的訴因:盗品等保管)被告事件
裁判年月日平成31年2月13日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第7刑事部
裁判日:西暦2019-02-13
情報公開日2019-03-29 14:00:12
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被告人は無罪


第1


公訴事実の要旨
本件公訴事実の要旨は,主位的訴因が,
被告人は,平成27年10月12日頃から同月14日頃までの間に,大阪市内の甲駐車場において,Aから,同人らが窃取した絵画1枚(評価額約5000万円相当)を,それが盗品であることを知りながら,代金の一部として400万円を支払って買い受け,もって盗品を有償で譲り受けた,予備的訴因が,
被告人は,平成27年10月12日頃から平成29年3月15日までの間,Bらが窃取した乙鉄道株式会社代表取締役E管理の絵画1枚(評価額約5000万円相当)を,それが盗品であることを知りながら,大阪市内のC方において保管するなどし,もって盗品を保管したである。
第2
1
本件の争点とそれに対する当事者の主張
本件の争点
本件において,被告人が,本件公訴事実(主位的訴因)記載の日時・場所において,Aから同記載の絵画(以下本件絵画という。
)を譲り受け,代金
の一部として400万円をAに交付したこと,及び,本件絵画譲受け後,本件公訴事実(予備的訴因)記載の期間,同記載のC方等において保管していたことは関係各証拠によって優に認められ,弁護人らも特に争わない。
本件の争点は,①被告人の本件絵画譲受け時における盗品性の認識の有無,②①で被告人に上記認識があると認められなかった場合の盗品等保管罪の成否,③本件絵画の価額であるが,主要な争点は①で,被告人が本件絵画が盗品であることの認識をいつの時点で有するに至ったかが問題とされている。
2
当事者の主張
検察官は,①被告人は本件絵画譲受け時点において本件絵画が盗品であることにつき少なくとも未必的な認識を有していたと認められ,盗品等有償譲受け罪が成立する,②仮に,被告人が同時点においては本件絵画が盗品であることを認識していなかったとしても,その後に盗品であることを認識し,更に本件絵画の保管を続けていたから,盗品等保管罪が成立する旨主張する。他方,弁護人は,①被告人が本件絵画譲受け時点で盗品であることを認識していたことは立証されておらず,盗品等有償譲受け罪は成立しない,②被告人は,本件絵画入手の際に委託を受けて本犯のために保管を開始したものではないから,盗品等保管罪も成立せず,いずれにせよ被告人は無罪である,また,③本件絵画の価額は,美術館学芸員作成の評価調書(甲6)により評価額5000万円とするのは相当でなく,乙鉄道株式会社の時価調査(甲1による。)
に基づき200万円と評価すべきである旨主張している。
第3

当裁判所の判断
当裁判所は,以下で検討・説示したとおり,①Aの公判供述(以下A供述という。
)に関係各証拠から認められる事実を総合しても,本件絵画譲受け時に被告人が盗品であることを未必的にせよ認識していた事実が立証されているとはいえないから,主位的訴因(盗品等有償譲受け罪)は認められず,②被告人が本件絵画の占有を開始した際に委託を受けた事実が立証されていないから,予備的訴因(盗品等保管罪)も認められないと判断した。以下,その理由を説明する。

1
本件絵画に係る事実経過等
関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。
被告人は,30年以上にわたり古物商,主に絵画等を扱う美術商を営んでいる。
被告人は,平成27年3月中に,3回にわたり,乙鉄道株式会社(以下乙電鉄という。
)丙駅(以下,単に丙駅という。
)構内に展示されて
いた本件絵画(縦約120センチメートル,横約100センチメートル)について,乙電鉄に対して購入希望申出をしたが,本件絵画は売却対象物ではないとして断られた。
被告人は,平成27年(時期については争いがある。,岐阜の美術商を介)
してAと知り合った。
その後,被告人は,Aに対し,本件絵画の入手を依頼したが,Aはこれを入手することができなかった。
Aは,同年夏頃,知人のDに対し,本件絵画を盗んで入手するよう依頼した。
Bは,同年10月10日午後11時49分頃,丙駅構内に掲示されていた本件絵画を額縁ごと壁面から引き剥がして持ち去り,窃取した。その後,Aは,Dを介して本件絵画を受け取った。
被告人は,同月13日夕方,大阪市内の甲駐車場(以下本件駐車場という。
)において,Aから本件絵画を受け取り,売買代金の一部としてAに現金400万円を交付した。
被告人は,同日,本件絵画を受け取った後,自車に本件絵画を積んだ状態で交際していたC方に赴いた。Cは,同日午後8時40分,被告人に対し,LINE(メッセージアプリケーション)で

無事帰れましたか。言ってくれてありがと!xは悪く無いから大丈夫だよ。でも,すべて収まる解決しないと。(後略)

というメッセージを送信した。被告人は,同月14日,Cから紹介された弁護士の事務所に赴き,法律相談を受けた。
被告人は,同月17日,21日及び29日の3回にわたり,乙電鉄のお客様センター担当者と電話でやり取りし,いずれも氏名は明かさず,本件絵画を取り戻す協力ができる,買い戻すつもりはないか等の話を持ちかけたが,乙電鉄は応じなかった。
被告人は,平成28年8月,Aに対し,本件絵画譲渡の件における解決金として300万円を交付し,Aは,今後本件絵画譲渡の件において,いかなる請求等もないことを確約する趣旨の文言が印刷された念書を被告人に交付した。
平成29年3月15日,C方の捜索差押が実施され,同人方から本件絵画と窃取時に取り付けられていた額縁が発見され,差し押さえられた。2
A供述について
概要
Aは,本件絵画につき,Dに盗んで入手することを頼み,被告人に譲り渡すことになった経緯やその後の状況について,要旨,以下のような供述をする。
平成27年7月頃,被告人から本件絵画の入手を頼まれ,人を使って頼みに行ったが入手できなかった。
同年8月か9月頃,被告人と直接会って,本件絵画を入手できなかったことを伝えた際,被告人に対し,本件絵画を盗んででも欲しいのか聞き,被告人はこれを肯定した。このときに,手の人差し指を曲げて盗むという動作をした。被告人は本件絵画が入手できた場合,Aに3000万円か4000万円ぐらいの金を渡すと言ってきた。
知人のDに本件絵画を取ってきたら金になるという趣旨のことを言い,本件絵画を盗むように頼んだ。
Dから,D以外の者が本件絵画を盗んできた旨を聞き,Dはその3日ぐらい後に本件絵画を車に積んで本件駐車場まで持ってきた。
同年10月10日頃,被告人に電話で本件絵画が手に入ったことを連絡し,被告人が本件駐車場まで来た。被告人は,Dの車に積んであった本件絵画を調べてから,自分の車に積んだ。お金はどうするのか被告人に聞くと,被告人はちょっと待ってと言って車でその場を離れ,小1時間ほどして戻ってきた。被告人は400万円を持ってきて,それをもらった。
後日,本件絵画の件に関して更に600万円を被告人から受け取った。信用性の検討
A供述は,本件絵画の入手を希望し,自らに依頼してきた被告人との合意の上で,Dに本件絵画を盗んで入手するように頼んだというもので,その概要は前記認定の事実経過と相応に整合している。しかし,本件絵画窃盗におけるAの立場や役割からして,自己の責任を軽減又は転嫁するため,本件絵画の入手を依頼されていた被告人を関与者として引き込む危険があるといえるから,A供述の信用性は慎重に検討する必要がある。
A供述の内容は全体的にあいまいで,具体的な記憶に基づかないと思われるところもある。特に,被告人と直接会って,本件絵画を盗んででも手に入れることに関するやり取りについて,Aが何らかの動作をしたことは明確に述べるも,それが具体的には指を使った盗むという動作であることやそれに対する被告人の反応についての供述はあいまいなところがあり,盗んででも本件絵画を入手することについて被告人が合意又は了承したとAが考えた理由についても具体的に述べていない。なお,検察官は,Aにはあえて犯罪に及んでまで被告人のために本件絵画を入手する動機はない旨主張するが,Aと被告人との間で,被告人が本件絵画を入手できれば被告人がAに相応の金銭を支払う旨の合意があったことは争いなく,Aとしても被告人に本件絵画を入手させることは自らの経済的利益獲得につながることになるから,Aに固有の本件絵画入手の動機がなかったとは言い難い。また,A供述には,細部についても動揺や変遷,関係証拠(信用性を特に疑うべき事情が見当たらないDの公判供述を含む。
)の内容と整合しない部分がみられる。A供述
は,本件から約2年半経過後になされ,高齢や時間の経過からくる一定の記憶の減退や混乱があっても不自然でないが,核心部分についての供述に具体性や迫真性を欠いたり,裏付け証拠がなかったりすることはその信用性を減殺する事情となる。また,Aは,被告人以外の者らと共謀した上での本件絵画の窃盗の罪により既に執行猶予付き有罪判決を受けているが,供述内容や供述態度からして,自らが罪に問われたことや本件絵画に係る被告人との金銭トラブルに関して被告人に悪感情を持っているのは明らかであり,Aが虚偽事実を述べて被告人を罪に陥れる動機があることは否定できない。更に,Aは,自己に不利益とも思われる事項の一部について証言を避けるような態度も窺われる。
このような供述内容等を総合考慮すると,A供述の信用性は高いとはいえない。
3
Cの公判供述について
概要
平成27年10月当時,被告人と交際しており,不倫関係にあった。被告人が10月13日にC方に来たとき,それまでにない浮かない顔をしており,絵を買ってしまったが,その絵が後で見たら引きちぎったような何かがあるから盗まれた絵なのかもしれないと聞かされた。お金を返してもらって絵を返したらいいという話をして,被告人に頼まれ,知り合いの弁護士を紹介した。弁護士は対応してくれず,その後,絵を返しても多分Aから金を返してもらえないだろうという話になった。
Cから,実家で本件絵画を預かるという話をし,被告人が本件絵画をCの実家に置いていった。その後,Cの自宅で保管することにした。
自宅で本件絵画を保管している間に,被告人が,本件絵画をCが持っているものとしてオークションにかけようとしたことがあった。
信用性の検討
C供述に関し,被告人とのやり取りについては,LINEのチャットの内容等の客観的証拠と整合し,これに裏付けられている部分も多い。供述内容にあいまいな点や捜査段階から変遷していると思われる点もあるが,記憶がある部分とそうでないところを区別し,供述変遷の理由も不合理なものとはいえない。Cはかつて被告人と不倫関係にあったが,現在は解消されているほか,Cは本件絵画の保管により既に執行猶予付き有罪判決を受けており,殊更に被告人に有利又は不利な虚偽供述をする動機や必要性は見当たらない。このような供述内容等を考慮すると,C供述の信用性は基本的に高いといえる。
4
小括
以上によれば,本件絵画を盗んで入手することにつき被告人との間に合意があったことを主要な内容とするA供述は全体的に信用性が高いとはいえず,これに依拠して,直ちに上記のような内容の合意があったことを認めることはできない。また,引渡し前に被告人が本件絵画を確認していた旨の供述はあるが,その確認状況は具体的に述べられていないことなどからして,A供述によって,他に譲受けの時点で被告人が本件絵画を盗品であると未必的にせよ認識していたことが推認されるような事情は明らかに認められない。
他方で,被告人が,本件絵画を譲り受けた当日に,Cに本件絵画が盗品であるかもしれない旨打ち明けていることは優に認められる。これは,被告人が本件絵画を譲り受けた時点でそれが盗品であると認識していたことを推認させる事実になりうる。もっとも,C供述から認められる被告人がそれを打ち明けたときの様子やその後の行動を併せ考慮すると,本件においては,同事情が本件絵画譲受け時点で被告人が盗品であることの認識を有していたことを推認させる力は必ずしも強くない。

5
被告人の公判供述(以下被告人供述という。

概要
平成27年3月に本件絵画のことを知り,翌日見に行ってすぐに駅長室で購入の交渉を始めたがうまくいかなかった。同年7月に岐阜の美術商の紹介でAと知り合い,同年8月初旬にAから連絡を受けて会った際,本件絵画が購入できたら結構な利益になるという話をすると,Aは興味を示し,自分の政治的な力を利用できるかもしれないという話をしていた。同年9月初旬頃,Aから本件絵画が入手できるかもしれないと聞き,出せるのは3000万円,乙電鉄側には代わりの絵も用意するということで交渉してほしいと伝えたが,同月後半頃に,やはり難しいという話を聞いた。
同年10月11日にAから電話があり,いい話があるので早急に会えないかと言われ,13日午後5時半に会うことになった。Aとの約束の場所であるFという丁の戊市場近くの喫茶店に向かい,その手前の路上で待っていたAの誘導に従ってコインパーキング脇の路上に駐車した。Aは同パーキング内の被告人の車の横に停まっていたワンボックスカーを指さし,ここに例の絵が入っていると言った。ワンボックスカーの鍵がかかっていない後ろのドアを開けて車内を見ると,後部の荷物室に寝かせた状態で毛布に包まれてガムテープが巻かれた四角い大きなものが置かれていた。ガムテープをとり,毛布をめくると,絵の右下のサインや年号,絵の部分が見え,本件絵画に間違いないと思った。自車の後ろのドアを開け,後部座席を倒し,毛布を元通りの状態に戻した本件絵画を積んだ。自車をいつも使っているチケットパーキングに移動させ,たまたま車内に積んでいた現金400万円を持ってAのところに戻り,残代金の額や支払方法は喫茶店で話をしようと思っていたが,Aは,手付として400万円を預かることは了承したが,急いでいてこの金も渡してやらないといけないなど言い,その場で別れた。C方に行く約束をしていたので,C方に向かうことにした。その途中,車内で本件絵画が動いたので,ファミリーレストランの駐車場で固定しようとした際,手に釘のようなものが当たったので毛布を開けると左下にビスのついた金具がそのままついており,更に額縁を確かめると固定金具の穴や額全体が変形しているのに気づいた。そのとき,Aから連絡があり,残代金について聞かれたが,本件絵画は盗んできたものではないかと聞くと,口調を荒くして,おまえがどうしても欲しいと言うから取って来たったんやないか,約束だからもらうものはもらう等と言ってきた。
C方に行った後,本件絵画を丁のじいさん(A)から買うことができたが,後から盗まれたものとわかった等をAとのやりとりや盗品とわかった理由なども併せてCに話した。その日は自宅に帰り,翌日,客と会う予定をキャンセルして,Cが紹介してくれた奈良の弁護士に相談しに行った。弁護士に,自分の代理人として乙電鉄と交渉して絵を返してほしいと依頼したが断られた。翌日,Aと会った際は,本件絵画は弁護士を通じて乙電鉄に返すと嘘をつき,Aに渡した金は諦めるから,Aも諦めてくれという話をしたが,Aは了承せず,結局,あと600万支払うことになった。その後,警察沙汰にならないように絵を返そうと意図して,自分で名前を出さずに乙に何回か連絡したが,応じてもらえなかった。その後,Aからの本件絵画の取り返しを防ぐために,本件絵画はCの実家やC方で預かってもらった。
平成28年8月にAに更に300万円を支払い,念書を作成した。その後,海外のオークション会社に本件絵画の売却依頼をしたが,自分としては売る気はなく,乙電鉄に絵を返すとしても真贋や評価が気になっていたからである。
信用性の検討
被告人供述は,本件絵画入手に至る状況や入手時及びその後の状況について具体的に述べた上で譲受け時の本件絵画が盗品であることの認識を否定するものである。被告人がAに300万円を支払った後に本件絵画をオークションにかけようとした理由の説明等,不可解な部分や譲受け時に本件絵画が盗品であることを認識していなかったことと必ずしも整合的とはいえない部分はあるものの,全体として,相応に合理的で,A供述を除く他の関係証拠から認められる事実と直ちに整合しない点があるとはいえない。本件絵画譲受け後にC方に行った後の状況,特にCとのやり取りや翌日の行動等は信用できるC供述と整合し,これに裏付けられている。検察官は,本件絵画譲受け時の状況が被告人自身の述べる通常の美術品取引の状況と異なることや,それまでの経緯から本件絵画が売却対象とされていないことを知っていたことからすると真贋や盗品性について何ら疑問を持たなかったというのは不自然不合理である旨主張するが,本件絵画譲受け時点の被告人とAの関係性等を考慮すると,残代金の支払方法決定については被告人の説明も一応合理的なものであるし,被告人は本件絵画の真贋は確認した旨述べており,それ以上に額縁も含めた本件絵画の状況を確認したと認めるに足りる証拠はなく,その場でそのような確認までしなかったことが不自然であると必ずしも断じ得るものでも,Aが述べるような合意がなければ説明困難とまでいえるものでもない。その他,検察官が指摘する被告人の供述内容や供述経過も被告人として必ずしも合理性を欠くものとはいえず,この点を踏まえても,被告人の公判供述が盗品等有償譲受けの罪で起訴された後にこの罪責を免れるためにする弁解であるとしてその信用性を排斥することはできない。
6
主位的訴因について
以上のとおり,A供述と比して,被告人供述の信用性は容易に排斥できないところ,これに関係証拠を併せ考慮すると,本件絵画譲受け後の被告人の行動には,翌日に弁護士に相談に行ったこと等,直後から本件絵画を乙電鉄に返還しようとしていることや,Aにも当初本件絵画入手の対価として提示していた3000万円に至らない1000万円(又は1300万円)しか支払っていないなど,むしろ,譲受け時点で本件絵画が盗品であることを認識していたことと必ずしも整合しない事実が認められる。また,検察官が譲受け時点で本件絵画が盗品であることを認識していたことを推認させる事情の一つとして指摘する本件絵画譲受け直後にCに本件絵画が盗品であるかもしれないことを打ち明けたことについても,本件の事実関係の下では被告人が本件絵画譲受け後に盗品であることを認識して善後策を考えるためになされた可能性を否定しきれないから,この事実をもって譲受け時点で本件絵画が盗品であると認識していたことが強く推認されるというものではない。そして,そのほかに本件絵画譲受けの時点でそれが盗品であることにつき未必的にしろ認識を有していたことを推認させるような事情は見当たらない。
したがって,被告人が,本件絵画譲受けの時点でそれが盗品であることにつき未必的にしろ認識を有していたことをA供述やその他の関係証拠から推認することはできず,被告人が,同時点において,本件絵画が盗品であることを未必的にでも確定的にでも認識していたことを認めるには合理的な疑いが残る。7
予備的訴因について
まず,弁護人は,検察官の平成30年12月21日付け訴因変更請求について,当裁判所が平成31年1月11日にこれを許可する決定をした点につき,本件は公判前整理手続を経ていること等からすると,上記訴因変更請求は時機に後れたものである旨主張する。この点について,訴因の設定は基本的に検察官の専権に係るものであるが,公判前整理手続を経た事件については,その終了後に立証及び防御の対象である訴因を変更することは,当事者が公判においてする予定の主張を明らかにしてその証明に用いる証拠の取調べを請求し,証拠を開示し,必要に応じ主張を追加変更するなどして,事件の争点を明らかにして証拠を整理することにより,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うことができるようにするという公判前整理手続の制度の趣旨を損なう場合もあると考えられ,手続の経過等に照らして特段の理由なく同制度の趣旨を損なうような訴因変更は許されないというべきである。もっとも,本件については,審理経過や新たな訴因の内容等に照らすと,公判前整理手続を経たこととの関係でもその制度趣旨を損なうものではなく,上記訴因変更許可決定は許されると考えられる。
本件において,被告人は,本件絵画につき,Aから買い受けたことにより引渡しを受けた後,平成29年3月15日にこれがC方において発見されるまでの間,C方等において本件絵画を保管していたこと,その保管中に本件絵画が盗品であることを認識するに至ったことは優に認められる。
もっとも,盗品等保管罪における保管とは,委託を受けて本犯のために盗品を保管することをいうと解されるところ,被告人による本件絵画の占有取得及び保管開始は,有償取得である売買によるものであり,委託を受けて本犯のためにしていたものとはいえない。そして,被告人の本件絵画の占有取得及び管理開始が委託を受けたことによるものでなかった以上,被告人が本件絵画が盗品であることを認識した後の保管についても,盗品等保管罪は成立しないというべきである。
第4

結論
以上によれば,本件公訴事実について,本件絵画譲受け時点で被告人において本件絵画が盗品であることを知り,あるいは,少なくとも盗品であるかもしれないと認識していたことが証明されているとはいえないから主位的訴因は認められず,予備的訴因についても同時点で本件絵画の保管についての委託を受けたことが証明されていない。結局,本件公訴事実は,主位的訴因,予備的訴因ともに犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。

(求刑

主位的訴因・予備的訴因ともに懲役2年及び罰金50万円)

平成31年2月13日
大阪地方裁判所第7刑事部

裁判官谷口真紀
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