判例検索β > 平成30年(う)第1422号
政治資金規正法違反
事件番号平成30(う)1422
事件名政治資金規正法違反
裁判年月日平成31年3月5日
裁判所名・部東京高等裁判所  第2刑事部
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成27特(わ)2148
裁判日:西暦2019-03-05
情報公開日2019-03-29 10:00:10
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平成31年3月5日宣告

東京高等裁判所第2刑事部判決

平成30年(う)第1422号

政治資金規正法違反被告事件

主文
本件各控訴を棄却する
理由
本件各控訴の趣意は,被告人Aにつき弁護人矢田次男(主任),同熊田彰英及び同吉野弦太作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,論旨は原判示第2の1の事実について事実誤認を主張するもの,被告人Bにつき弁護人佐々木善三(主任)及び同森本哲也作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,論旨は原判示第2の各事実についての事実誤認及び原判示第2の3及び4の各事実についての法令適用の誤りを主張するものである。これらに対する答弁は,検察官瓜生めぐみ作成の答弁書に記載されたとおりであり,論旨は,本件各控訴の趣意にはいずれも理由がないとするものである。
第1

原判決が認定した罪となるべき事実(第2)と論旨の概要

原判決は,罪となるべき事実の第2として,要するに,被告人A(以下Aという。),C(以下Cという。)及びD(以下Dという。)は,いずれも東京都千代田区に所在する政治団体であり,被告人Bは,Aの会長及び代表者であり,かつCの代表者であった者,Eは,Aの副理事長及び会計責任者,Cの会計責任者で,かつ,Dの会計責任者の職務を補佐していた者であるが,被告人Bは,E
と共謀の上,1

いずれもAの役職員として,AがCに対して政治活動に関する寄

附をするに当たり,平成25年1月23日,A名義の銀行口座からD名義の銀行口座を経由してC名義の銀行口座に5000万円を入金した上,同年3月15日,A名義の銀行口座からC名義の銀行口座に4500万円を入金し,もって政党及び政治資金団体以外の政治団体において平成25年中に政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対して5000万円を超える政治活動に関する寄附をし,2
Cが

Aから政治活動に関する寄附を受けるに当たり,平成25年1月23日,A名義の
銀行口座からD名義の銀行口座を経由してC名義の銀行口座に5000万円の入金を受けた上,同年3月15日,A名義の銀行口座からC名義の銀行口座に4500万円の入金を受け,もって政党及び政治資金団体以外の政治団体において平成25年中に政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対して行った5000万円を超える政治活動に関する寄附を受け,3

平成26年3月頃,A事務所において,

政治資金規正法12条1項によりF選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきAの収支報告書につき,真実は,Aの支出に関し,平成25年1月23日,Cに5000万円の政治活動に関する寄附をしたにもかかわらず,Aの平成25年分の収支報告書にその旨記載せず,Dに対して5000万円の政治活動に関する寄附をした旨虚偽の記入をし,これを平成26年3月28日,F選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し,4

平成26年3月頃,A事務所において,政治資金規正法

12条1項によりF選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきCの収支報告書につき,真実は,Cの収入に関し,平成25年1月23日,Aから5000万円の政治活動に関する寄附を受けたにもかかわらず,Cの平成25年分の収支報告書にその旨記載せず,Dから5000万円の政治活動に関する寄附を受けた旨虚偽の記入をし,これを平成26年3月28日,F選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出した,との事実を認定している。
これに対し,被告人Bの論旨は,⑴原判示第2の3及び4について,A及びCの各収支報告書に虚偽記入等があると認定した原判決は,政治資金規正法の解釈及び
適用を誤っており,法令適用の誤りがあるとの主張,⑵①原判示第2の1及び2のDを介して行われたAとCとの間の,いわゆる量的規制に違反した寄附について,被告人BにはEとの間に共謀を認めることはできず,被告人Bに量的規制違反を認めた原判決には事実誤認があるとの主張,②原判示第2の3及び4の収支報告書の記載について,被告人Bに虚偽記入等を認めた原判決には事実誤認があるとの主張
である。被告人Aの論旨は,被告人BがAの役職員として行った原判示第2の1の量的規制違反について,被告人Bの控訴趣意を援用するというものである。
そこで,記録を調査して検討する。
第2

原判決が認定した前提となる事実について

1

原判決は,証拠上認められる事実として,概要,以下の事実を摘示している。Aは,歯科医師である会員の診療環境向上を目指し,もって国民歯科医療の
発展に寄与することを目的として,設立された政治団体である。Aは,その政治活動の一環として,参議院選挙の比例代表選挙に際し,G及びAを代表する国会議員を送り出し,かつ,その政治的発言力を確保すべく,Aが会員から選考した職域代表候補者,又は選考は経ていないが政党の公認を得た会員をAとして支援することを決した準職域代表候補者につき,高得票で高位当選させるため,その氏名を冠し
た中央後援会を設立し,選挙に必要な資金を政治活動に関する寄附として注入し,支援活動を行ってきた。なお,政治資金規正法の改正により,平成18年1月1日以降,同一の政治団体間の寄附は,各年中において5000万円を超えることができなくなった(以下,この規制を5000万円ルール又は量的規制という。)(原判決5,6頁)。



被告人Bは,平成18年4月から平成25年6月まで,Hの会長とIの会長
を務めるとともに,平成21年4月1日から平成23年3月31日までAの理事長を務め,同年4月1日から平成27年6月30日までの間,Aの会長かつ代表者を務めた。また,Eは,平成16年6月から平成27年7月1日まで,Aの副理事長として会計責任者を務めた(原判決13,14頁)。


Aは,平成22年の参議院比例代表選挙(以下平成22年選挙という。)
においては,J党公認を得たA会員のKを準職域代表候補者として支援することとした。また,平成25年の参議院比例代表選挙(以下平成25年選挙という。)においては,既に平成19年の同選挙(以下平成19年選挙という。)にAの職域代表候補者としてL党公認で立候補し,当選していたMを,再度職域代表候補者として擁立し,再選を目指すこととした(原判決6,7頁)。


Aは,平成19年選挙に向けて,Mの社会活動及び政治活動を後援すること
等を目的として,平成18年4月14日,政治団体であるCを設立した(原判決15頁)。また,Aは,平成22年3月11日には,Kの社会活動及び政治活動を後援すること等を目的として,政治団体であるDを設立し,同月15日には,J党の公認候補として出馬するKに係る同党の支部組織で,同党からの政党交付金や公認料の受入れなどをするためにAにおいて同党の要請を受けて設立手続や口座開設を行って,政治団体であるJ党参議院比例区N(以下Nという。)が設立された(原判決19,20頁)。
C及びDの役員は,Aの役員がそのまま充てられており,平成23年4月1日から平成27年6月30日までの間はいずれも被告人Bが代表者を務めた。Cの会計
責任者は,その設立時から平成27年6月30日までの間,Eが務めている(原判決16,19,20頁)。


中央後援会への資金移動等


平成19年選挙について

Aは,Cの活動資金について,1億5000万円の予算を計上し,5000万円ルールの下で,AからCに年をまたいで各5000万円を直接寄附するとともに,Aから各都道府県Oに各120万円の特別助成金を送金し,各都道府県Oから各100万円ずつ,合計4700万円の寄附がCにされた(原判決16,17頁)。イ
平成22年選挙について(別紙1参照)

Aは,Dの活動資金について,①平成22年3月30日,Dの口座に5000万円を寄附として振込送金し(以下①の資金移動と表記することがある。以下②,③も同様。),②同日,Nの口座に5000万円を寄附として振込送金し,さらに,③同年5月13日,Nの口座からDの口座に5000万円が寄附として振込送金された(原判決6頁)。

平成25年選挙について(別紙2参照)

Aは,Cの活動資金について,⑥平成25年1月23日,Aの口座からDの口座に5000万円を寄附として振込送金し(以下⑥の資金移動と表記することが
ある。以下⑦,⑨も同様。),⑦同日,Dの口座からCの口座に5000万円が振込送金され,⑨同年3月15日,AからCの口座に4500万円を寄附として振込送金した。
その上で,Aの平成25年分の収支報告書には,支出として⑥の資金移動に対応するDへの5000万円の寄附及び⑨の資金移動に対応するCに対する4500万円の寄附の記載があり,Cの同年分の収支報告書には,収入として,⑦の資金移動に対応するDからの5000万円の寄附,⑨の資金移動に対応するAからの4500万円の寄附の記載がある(原判決7,8頁)。
2
以上の原判決の認定,判断は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則
等に照らして不合理なところもない。
第3

収支報告書の虚偽記入等に対する法令適用の誤りの論旨について

1
原判決の認定理由の骨子について



原判決(53頁以下)は,まず,政治資金規正法は,政治活動が国民の不断
の監視と批判の下に行われるようにするために,政治資金の収支の公開や政治資金の授受の規正を講ずることにより,政治活動の公明と公正を確保することを目的としており(同法1条),この目的を達成するため,同法は,政治団体の会計責任者に対し,政治資金の収支の公開の基礎となる収支報告書の提出を義務付け(同法12条),同報告書によって政治資金の収支等を国民の前に明らかにすることを最重要視しているとする。そして,この趣旨は,政治団体として届出をする前に寄附又
は受寄附をしたり(同法23条),収支報告書等の提出を怠り,又はこれらに一定の記載をせず,若しくは虚偽の記入をしたり(同法25条1項各号)して,政治資金の収支について,国民の不断の監視と批判の下にさらすこと自体を免れる行為について,同法違反の罪のうちで最も重い法定刑を定めていることからも明らかである(同法第6章参照)とする。また,同法では,本人の名義以外の名義又は匿名で
政治資金に関する寄附をしてはならないとして(同法22条の6),寄附主体を偽る行為をも規制しているが,その趣旨も,寄附の量的制限,質的制限の実効性確保
のみにとどまらず,国民の前に実態に即した政治資金の収支を公開することによってこそ,政治活動の公明と公正を確保することができるという同法の本来的目的達成にあると考えられるとする。
原判決は,このような政治資金規正法の趣旨及び同法における収支報告書の重要性に鑑みれば,同法は,収支報告書に記載すべき政治資金の収支について,形式と実態がかい離するなどということ自体およそ想定も許容もしていないと解されるとする。


そして,原判決(82頁)は,⑥,⑦及び⑨の各資金移動のうち,⑥及び⑦
の各資金移動については,その実態は,平成25年1月23日にAからCに5000万円の寄附が行われ,Cは同日Aから5000万円の寄附を受けたものであり,これが,Dを経由する⑥及び⑦の各資金移動の形をとり,Dとの間の資金移動のみが収支報告書に記載されたのは,AとC間の平成25年中の寄附,受寄附が⑨の資金移動と合わせて5000万円を超え,量的規制に抵触するのを外形上回避しようとしたことに尽きるとする。

したがって,平成25年分のA及びCの収支報告書の内容は,記載すべき事項を記載しなかったもの,また,虚偽の記入をしたものに当たると判断している。2
以上の原判決の認定は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則等に照
らして不合理なところはなく,政治資金規正法上の虚偽記入等に当たるとした解釈,適用にも誤りはない。
3
所論について



これに対し,所論は,Eの目的・意図が寄附の量的制限への抵触を避けるこ
とにあったとしても,収支報告書は,政治資金の流れを広く国民に公開し,その是非についての判断は国民に委ねるという考え方に基づくものであるから,その記載の対象はあくまで客観的な事実であって,寄附の目的等の解釈の余地がある要素を取り込むことは法の趣旨に反する,本件各収支報告書は,いずれも客観的帳票類に基づいて作成されたものであり,その記載を虚偽記入等と認定した原判決には,法
令適用の誤りがある,などという。
しかし,原判決が説示するとおり,政治資金規正法は,政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするために,政治資金の収支の公開や政治資金の授受の規正を講ずることにより,政治活動の公明と公正を確保することを目的としており(同法1条),収支報告書は,この目的を達成するために,政治資金の収支等を国民の前に明らかにするものである。量的規制違反を免れるため,他の政治団体を形式的に介在させることによって,実質的な寄附者を偽るような行為を許すことが,かかる法の趣旨に反することは明白であり,いくら実態とかい離した迂回寄附であろうと,形式的な資金移動と合致さえしていれば,虚偽記入にはならないと
いうのでは,法が目的とする政治活動の公明と公正は確保しえない。所論は,A,C及びDの各収支報告書の記載から判明する事実を一体として考察すれば,AからCへの5000万円の資金の流れが把握できるのであるから,正に原判決が実態として認定した資金移動が正確に記載されているといえ,そこに形式と実態のかい離は存在せず,法の趣旨に合致している旨も主張する。しかし,公開された
収支報告書を全て精査すれば資金の流れを最終的には把握できるとしても,他の政治団体を形式的に介在させる資金移動は,資金移動の実態の把握を困難にし,量的規制違反の事実についてもその把握を困難にするものである。客観的な資金移動に合致してさえいれば,いかに実態を覆い隠すべく巧妙に迂回して寄附を行ったとしても,収支報告書の記載上は許容されることとなる所論の見解が,政治活動の公明
と公正を確保することを目的に,政治資金の収支を国民の前に明らかにすべきとした法の趣旨にそぐわないことは明らかである。本件各収支報告書の記載について,虚偽記入等と認めた原判決に法令適用の誤りはなく,所論は採用できない。⑵

所論は,収支報告書の虚偽記入等は,故意犯を処罰するものであるところ,
仮に,収支報告書に実態に応じた資金移動を記載すべきであったとしても,収支報告書の作成事務担当者や会計責任者であるEは,客観的な資金移動の内容を正確に記載しただけで,虚偽記入等の認識が全くなく,過失があったにとどまるから,虚
偽記入等にあたるとした原判決には,法令適用の誤りがある,という。しかし,⑥及び⑦の各資金移動は,5000万円ルールに抵触することを形式上回避するために実行されたもので,AからCに対する一連一体の寄附である。そうすると,収支報告書においては,前記のとおり,かかる実態に基づいて,収支の記載をすべきことになる。Eは,上記資金移動の趣旨を知りつつ,会計責任者として,本件各収支報告書を作成しているのであるから,かかる実態を糊塗する形式的な資金移動のみを収支報告書に記載することについて,事実を認識していたということができ,故意として欠けるところはない。本件各収支報告書の記載について,虚偽記入等と認めた原判決に法令適用の誤りはなく,所論は採用できない。


その他所論の指摘を検討しても,本件各収支報告書の記載が,政治資金規正
法の虚偽記入等に当たると判断した原判決に法令適用の誤りは認められない。第4
1
量的規制違反に対する事実誤認の論旨について
原判決が,⑥及び⑦の各資金移動について,被告人BがEと共謀して行った
量的規制に違反する寄附であると認定した理由の骨子は以下のとおりである。⑴

平成25年1月23日に行われた⑥及び⑦の各資金移動は,一体としてAか
らCに対する寄附であると認められる。そして,Aは,上記の寄附に加えて,最終的に同年3月15日,Cに対し,⑨の資金移動をしており,これにより確定的に1年間の寄附の上限である5000万円を超える寄附を行ったと認められる(原判決80頁)。


そして,被告人Bは,平成19年選挙の頃から,Aが中央後援会に選挙に向
けた資金を移動する上で5000万円ルールの存在に苦慮していることを理解しており,平成22年選挙の際には,理事長として出席した会議等を通じ,①ないし③の各資金移動に係る事情を知る立場にあり,これに格別異論を唱えていなかった。その上で,平成25年選挙に係るCへの資金移動についても,その当時Aの会長という立場にあり,その面前で行われた各種会議等におけるEの説明に対しても,何ら異論等を差し挟んだことがなかった。加えて,当時Aの理事長であったPの原審
証言によれば,被告人Bは,Eから,平成25年選挙に関してCに立てた1億5000万円の予算をAからCに移動させるための方策として,うち5000万円をDを介して寄附することについて相談を受け,これを採用するとの判断を下し,それを伝えていたと認められるとする。そして,被告人Bは,遅くともその時点において,5000万円ルールへの抵触を外形的に回避するためこのような迂回寄附を行うことに関し,Eとの意思連絡を成立させ,会長として了解を与えたと認められるとする(原判決80,81頁)。
2
以上の原判決の認定,判断は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則
等に照らして不合理なところもない。
3
所論について



⑥及び⑦の各資金移動の趣旨についての被告人Bの認識について

原判決は,被告人Bが,Aの各種会議等においてEの説明を何度も聞いてい
た上,それに異論等を差し挟んでもいないことなどを指摘し,被告人Bは,平成19年選挙における各都道府県Oを介したCへの資金移動が5000万円ルールとの抵触を回避するために行われたこと,平成22年選挙における②及び③の各資金移動が迂回寄附であることを,いずれも認識していたと認められるとする。そして,被告人Bのこのような事前の認識に加えて,平成25年選挙においても,会議等で,Cに対する資金移動の方針及び⑥及び⑦の各資金移動についての説明を聞きながら,それに異論を差し挟んでいないことからすると,被告人Bは,⑥及び⑦の各資金移
動の趣旨についても理解していたなどと推認する。

これに対し,所論は,被告人Bは,平成19年選挙の際には,その関与は極
めて限定的かつ受動的であったし,平成22年選挙の際には,理事長ではあったが,会計責任者のEに全幅の信頼をおいており,問題意識をもって同人の説明を聞いていなかったので,資金移動の趣旨を理解していなかった,平成25年選挙の際の会議等における説明でも同様であり,⑥及び⑦の各資金移動についてEが会議等で説明した際に異論を差し挟んでいないのも,そもそもEが問題となるような資金移動
を行うなどとは微塵も思っていなかったからであり,被告人Bが⑥及び⑦の各資金移動の趣旨を理解していたことを推認させるものではない,などという。しかし,被告人Bは,平成19年選挙当時は,Iの会長であり,同会長として出席した会議において,5000万円ルールに関連して,各都道府県Oを経由した寄附について説明を受けており(原審甲134・5冊770丁,同甲183・13冊5113丁),その内容が記載されたCから送付されたお願い文書に決裁印も押している(原審甲185・13冊5118,5119丁)。被告人B自身もこの機会に5000万円ルールについて意識するようになった旨も供述している(原審被告人B18冊1696,1766丁)。平成22年選挙当時には,被告人Bは,Aの
理事長という立場にあったが,この時も,平成19年選挙と同様に,中央後援会の活動費については,5000万円ルールとの抵触が問題となっており,各種会議において,Eら会計責任者がこれについて説明をしており,被告人Bは何度もこれらの説明を聞いている。その中には,原判決が指摘するとおり,被告人B自身が,5000万,5000万と発言するなど(原審甲140・6冊1312,13
13丁),資金移動の趣旨を理解していたとみて自然な事実もある上,被告人Bが司会進行していたDの役員会において,Dの会計責任者であったQが,NからDへの5000万円の寄附(③の資金移動)について,

本当はAから寄附する5000万でございますので,政治団体,一つの政治団体から一か所に許される年間の限度が5000万だということですので,このような形をとらせていだたいております。

とはっきりと説明をしている(原審甲144・6冊1578丁)。被告人Bが,平成19年選挙及び平成22年選挙における上記の各資金移動の趣旨を認識していたとする原判決の認定は関係証拠の内容に沿うものであり,不合理なところはない。そして,平成25年選挙においても,Eは,被告人Bが出席する平成24年10月4日の第7回常任理事会において,中央後援会の予算として1億5000万
円が必要であるが,5000万円ルールがあるので,資金移動に関してテクニックの問題がある旨の説明をしており(原審甲156・9冊3349丁),これまでも
同様の問題があったことを認識していた被告人Bにおいて,平成25年選挙においても,5000万円ルールの下で説明可能な方法での資金移動を行う方針であることを認識していたとした原判決の認定に不合理なところはない。そして,このような認識を有していた被告人Bは,⑥及び⑦の各資金移動が行われた後の会議のうち,平成25年5月15日開催の第1回監事会については,所論が指摘するとおり,いずれかの段階で途中退席したことがうかがわれ,同会議でEの説明を聞いていたとは認められないものの,自身が議長を務めた同月31日の第2回理事会では,Eが,Cの会計報告として,5000万円ルールとの関連で,Aからの5000万円をD経由で入れている旨の説明を,Dの会計報告として,Aからの5000万円の収入
は,Cに移すために一旦入れたものである旨の説明を,Aの政治活動運営会計の報告として,その支出について,Cに対して,直接のものが9000万円,D経由のものが5000万円の合計1億4000万円ある旨の説明を異論等差し挟むことなく聞いている(原審甲164・11冊4180,4181,4185,4186丁)。原判決が,被告人Bが,Eの説明に異論を差し挟んでいないことを指摘し,
Dを介して行われた⑥及び⑦の各資金移動の趣旨を理解していたものと推認したことに,不合理なところはない。所論は採用できない。


P証言の信用性について


当時Aの理事長であったPは,原審において,Eから,AからCへ資金を移
動させるに際し,うち5000万円についてDを迂回させるという案を事前に聞いていた,寄附が実行された平成25年1月23日より前に,被告人Bからも上記案についてEから説明を受け,実行することに決めた旨の発言を聞いたと証言している。原判決(74,75頁)は,P証言の信用性について,P証言は,①平成24年11月27日にAからMの資金管理団体であるR(以下Rという。)に3000万円が振り込まれたがすぐに返金されたとの機微にわたることを含め,理事長
として知り得たことを具体的に叙述するものであること,②P証言のうちEが5000万円の経由団体を考えなければならないと述べていたとのくだりは,Eが50
00万円の経由先が悩ましいと会議で発言していた時期と整合し,その悩みの中,Rを経由先とできず,Dを経由することにしたという流れは自然な脈絡の中での説明であり,その後の会議でのPの発言の趣旨を解き明かす生々しさを伴うものであること,③Rへの振込みと返金の経緯は,Mらの供述と整合するものであることなどを指摘する。

これに対し,所論は,Rへの振込みと返金に関するP証言は,何ら機微にわ
たることではないし,5000万円の経由先についてのEの供述に関するP証言が,Eの会議での発言時期と整合することは,会議録音の存在及び内容が明らかになった後に証言しているのであるから当然であるし,Rから返金され,Dに送金したというのも客観的証拠関係から分かる単純明快な事実関係であり,P証言の信用性を担保するものではない,などという。
しかし,P証言は,Rへの3000万円の送金が即日返金されている事情について,M本人の意向で行われたことなど,この送金を行ったEからの説明内容も含めて,会務の枢要の立場で知り得た内容を証言しているものであって,その旨指摘す
る原判決に誤りはない。また,Cへの資金移動の経由先としてRに振り込んだが,Mの意向ですぐに返金されたとする内容は,一度振り込むがすぐに返してくださいなどという送金の趣旨に,Mが怒り,すぐに返却したとのMや同人の秘書であるSの供述内容とも整合するものである。Eがこのように5000万円の経由先に苦労している状況や,それを相談されて,Dを経由することになったという流れは,
その後の本件の共謀状況につながる自然な内容であり,このような点を指摘して,P証言の信用性を肯定した原判決に不合理な点はない。所論は採用できない。ウ
また,所論は,Pは,自身の上位者であるA会長の被告人Bを共犯者として
引き込むことによって,自身の立場を会計責任者のEと被告人Bとの間の仲介にすぎないとすることができ,虚偽供述のおそれがあるなどという。しかし,Pは,Eからの経由先をDにするとの提案に対し,それでいくといいと思う旨答えた,自らもそれに了解した旨証言しており(原審P15冊475,
478,479丁),単に仲介をした旨証言しているわけではない。また,Eに対し,組織のリーダーである会長の承認を得るようにとの趣旨で,被告人Bの承認を得てくださいと話し,被告人Bも了承したとする証言内容(同452,475丁)は,Aの常任理事であったQや,常任監事であったTが,5000万円ルールとの抵触を避けるために行う資金移動という内容の重大性からして,理事長や会長の判断を仰ぐのが通常である旨証言していること(原審Q14冊175丁,同T14冊365,366丁)に照らして自然な内容である。原判決(76頁)が,Pは自ら決定過程に加わった者であるとして責任を自認しており,責任転嫁の素振りも見られないとして,Pの虚偽供述のおそれは抽象的なものにすぎないとしたことに
不合理なところはない。所論は採用できない。

所論は,P証言は,被告人Bとの共謀について,当初は,Eを介した順次共
謀であったと供述し,その後,3人の同時共謀であると供述し,さらに当初の順次共謀に供述が戻ったものであり,変遷があり信用性が認められない,という。しかし,そもそもPは,Dを経由先とすることに関するE及び被告人Bとの話は,日常的な話をしている中で行っているので,日時を特定できないとし,資料を見ながら,特定してきたと証言しているのである(原審P15冊587,588丁)。Pの取調べを担当した髙長伯検察官も,E及び被告人Bとの間の共謀に関するPの供述は,そのやりとりの内容は具体的であったが,Eなり被告人BなりとAの役員室で会う機会は日常的な出来事としてあることなので,具体的な日付までは結局記
憶喚起できなかったと証言している(原審髙17冊1357~1359丁)。髙検察官は,当初の順次共謀から,3人での共謀という話が出たのも,当時のスケジュールが分かる資料を見ていた際に,3人が顔をそろえる日があり,もしかしたら3人で話をした可能性があるかもしれませんねという話が出たという程度のことであり,結局供述調書の録取には至らなかったと証言しているのである(同1353~
1355丁)。原判決(78頁)が,共謀についてのP証言の変遷の内実は,取調べの過程で可能性の一つとして検討された仮説にすぎず,重大な変遷とは評価でき
ず,むしろ,被告人B,E及びPの間で,本件資金移動に関して相談,了解が行われたという限りでは一貫しており,変遷がないとも評価できるとしたことは,関係証拠の内容に沿うものであって,不合理なところはない。所論は採用できない。オ
所論は,P証言の共謀状況は,同人,E及び被告人Bのスケジュールに関す
る客観的証拠に反するものである,という。
しかし,そもそも,Pの共謀に関する証言は,その日時の特定という点では,前記のとおり,あいまいな記憶をスケジュール等の資料によって可能な範囲で特定したというものである。また,Pは,当時,東京に住んでおり,基本的には平日は毎日Aに出勤しており,Eとは,同人の診療室がUにあり,15分から20分あれば
Aまで来ることができたので,必要があって電話をすればいつでも会えたという状況にあったというのである(原審P15冊472丁)。このような証拠関係に照らせば,P証言の数日前とは要は事前にということであり,EとPは東京在住でいつでもAに行くことができた旨指摘し,P証言が客観証拠に反するとはいえないとした原判決の判断は,経験則等に照らして不合理とはいえない。所論は採用でき
ない。

所論は,原判決は,P証言の内容を否定するE証言は全く信用できないとす
るが,E証言には,他の証拠と相当程度整合する部分があり,その信用性を否定した原判決の判断は誤っているという。
しかし,E証言の内容は,DからCへの送金(⑦の資金移動)は自分が指示したものではなく,Dから直接Mの選挙活動の支援費用を支出しようと思っていたというもので,KとMの所属する政党同士が対立関係にあり,デリケートな問題があるとしながらも,理事長や会長に事前に相談しなかったというものである(原審E16冊1090~1094丁)。上記の証言内容は,原判決が指摘するとおり,⑦の資金移動に関して証拠上受け入れ難い内容を含む上に,会計上の問題にとどまらず
政党間の問題が生じ得るようなデリケートな内容について,会長や理事長に何の相談もしなかったという不自然な内容であって,E証言が信用できないと判断した原
判決に誤りはない。所論は採用できない。


その他所論の指摘を検討しても,量的規制違反について,被告人BにEとの
共謀を認めた原判決の認定,判断は関係証拠の内容に沿うものであって,不合理なところもない。
第5
1
収支報告書の虚偽記入等に対する事実誤認の論旨について
原判決がEとの共謀を認定した理由の要旨

原判決(81頁)は,被告人Bが,当時から政治団体においては,毎年収支報告書を作成し提出すべきことを理解していたはずであることからすれば,Eの提案に係る⑥及び⑦の各資金移動を被告人Bが採用したということは,後に公表すべきことが義務付けられている収支報告書についても,資金移動の実態ではなく外形上の資金移動を記載する旨の指示を含意していたとみるべきであるから,Eとの間でその旨の意思連絡を成立させていたと認められるとする。
2
以上の原判決の認定,判断は,関係証拠の内容に沿うものであって,経験則
等に照らして不合理なところもない。
3
所論について

これに対し所論は,❶客観的帳票類に基づいて資金移動の事実が正確に記載されているので虚偽記入等には当たらない,❷Eの犯意の存在につき誤った認定をしている,❸被告人Bは,Eが本件各収支報告書にどのような記載をするか予測できず,共謀があったとはいえない,❹収支報告書の虚偽記入等についての原判決の論理は収支報告書の作成担当者を混乱し悩ませるものであり,収支報告書の作成実務を大きく混乱させる不当なものである,という。
そこで検討すると,上記❶及び❷の点は,前記第3の法令適用の誤りの論旨において,述べたとおりであり,採用できない。❸のEとの共謀があったとはいえないという点については,被告人Bは,前記のとおり,5000万円ルールとの抵触を
外形的に回避するためにEが提案した⑥及び⑦の各資金移動を採用しているのであるから,両者の間において,後に公表される収支報告書においても,収支報告書上
は,5000万円ルールとの抵触が回避された状態の記載がされることが予定されていたことは明らかである。原判決が,Eの提案に係る⑥及び⑦の各資金移動を被告人Bが採用したということは,収支報告書についても,資金移動の実態ではなく外形上の資金移動を記載する旨の指示を含意していたとみるべきとして,Eと被告人Bとの間に共謀を認めたことに不合理な点はない。❹の収支報告書の作成実務の混乱をいう点については,本件では,5000万円ルールとの抵触を外形上回避するために他の政治団体を介在させた資金移動について,その実態を覆い隠すべく収支報告書において2つの政治団体間のみの形式的な資金移動の記載をしたことが虚偽記入等に当たるとしているのであって,そのような企図や工作がない,あるいは,
そのような企図や工作のもと行われている資金移動であることを認識していない者が刑事訴追をおそれる理由はなく,その旨指摘する原判決の説示(83頁)に不合理なところはない。所論は採用できない。
その他,所論が指摘するところを検討しても,被告人Bに収支報告書の虚偽記入等について,Eとの共謀を認めた原判決の認定,判断は関係証拠の内容に沿うもの
であって,経験則等に照らしても不合理なところはない。
第6

結論

A及び被告人Bの各論旨はいずれも理由がない。
よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
平成31年3月5日
東京高等裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

青柳
裁判官

髙木勤順子
裁判官

溝田泰之
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