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処分取消請求事件
事件番号平成27(行ウ)278
事件名処分取消請求事件
裁判年月日平成29年9月28日
裁判所名大阪地方裁判所
分野行政
裁判日:西暦2017-09-28
情報公開日2019-06-25 03:44:29
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平成29年9月28日判決言渡
平成27年(行ウ)第278号

処分取消請求事件

主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
大阪府公安委員会が平成27年2月4日付けで原告に対してした犯罪被害者等
給付金を支給しないとの裁定を取り消す。
第2

事案の概要
本件は,犯罪行為により死亡したAことB(以下本件犯罪被害者という。)

の遺族である原告が,大阪府公安委員会に対し,犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下犯給法という。
)10条1項に基
づき,犯罪被害者等給付金(遺族給付金)の支給裁定の申請をしたところ,大阪府公安委員会から平成27年2月4日付けで犯罪被害者等給付金を支給しない旨の裁定(以下本件裁定という。
)を受けたため,被告を相手に,本件裁定の取
消しを求める事案である。
1
関係法令の定め等
(1)

犯給法3条は,国は,犯罪被害者があるときは,同法の定めるところによ
り,犯罪被害者又はその遺族(これらの者のうち,当該犯罪被害の原因となった犯罪行為が行われた時において,日本国籍を有せず,かつ,日本国内に住所を有しない者を除く。に対し,

犯罪被害者等給付金を支給する旨規定す
る。同法4条は,犯罪被害者等給付金は,同条各号に掲げるとおりとし,それぞれ当該各号に定める者に対して,一時金として支給する旨規定し,同条1号は,
遺族給付金を掲げて,
犯罪行為により死亡した者の第一順位遺族
(同
法5条3項及び4項の規定による第一順位の遺族をいう。を定め,)
同法5条
1項は,遺族給付金の支給を受けることができる遺族は,犯罪被害者の死亡の時において,同項各号のいずれかに該当する者とする旨規定し,同項1号は,犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)を,同項2号は,犯罪被害者の収入によって生計を維持していた犯罪被害者の子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹を,同項3号は,同項2号に該当しない犯罪被害者の子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹を,それぞれ掲げ,同条3項は,遺族給付金の支給を受けるべき遺族の順位は,同条1項各号の順序とし,同項2号及び3号に掲げる者のうちにあっては,それぞれ当該各号に掲げる順序とし,父母については,養父母を先にし,実父母を後にする旨規定する。
(2)

犯給法6条は,
同条各号に掲げる場合には,
国家公安委員会規則で定める

ところにより,犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができる旨規定し,同条1号は,犯罪被害者と加害者との間に親族関係(事実上の婚姻関係を含む。
)があるときを,同条2号は,犯罪被害者が犯罪行為を誘発
したとき,その他当該犯罪被害につき,犯罪被害者にも,その責めに帰すべき行為があったときを,
同条3号は,
同条1号及び2号に掲げる場合のほか,
犯罪被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情から判断して,犯罪被害者等給付金を支給し,又は同法9条の規定による額を支給することが社会通念上適切でないと認められるときを,それぞれ掲げる。
犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律施行規則(以下犯給法施行規則という。
)4条は,犯罪被害について,犯罪被
害者又は第一順位遺族に同条各号のいずれかに該当する行為があったときは,犯罪被害者等給付金を支給しないものとする旨規定し,同条1号は,当該犯罪行為を教唆し,又は幇助する行為を,同条2号は,過度の暴行又は脅迫,重大な侮辱等当該犯罪行為を誘発する行為を,同条3号は,当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為を,それぞれ掲げる。
大阪府公安委員会による犯罪被害者等給付金の支給についての裁定に係る審査基準及び標準処理期間(乙39)は,犯罪被害者等給付金の支給についての裁定の基準について定めるところ,同別紙の第4いことができる場合3規則第4条関係
⑶給付金を支給しな第3号についてア
は,

において,
関連するとは,犯罪被害者又は第一順位遺族の著しく不正な行
為がなければ当該犯罪行為もなかったという条件関係があることをいう旨定め,
イにおいて,
著しく不正な行為とは,犯給法施行規則4条1号及
び2号に規定する行為以外の行為で,違法性の強いものをいい,例えば,ノミ行為,賭博行為,麻薬又は覚せい剤の取引行為等である旨定める。(3)

犯給法10条1項は,犯罪被害者等給付金の支給を受けようとする者は,
国家公安委員会規則で定めるところにより,その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会(以下公安委員会という。
)に申請し,その裁定を受けな
ければならない旨規定し,同法11条1項は,同法10条1項の申請があった場合には,公安委員会は,速やかに,犯罪被害者等給付金を支給し,又は支給しない旨の裁定(支給する旨の裁定にあっては,その額の定めを含む。以下同じ。
)を行わなければならない旨規定する。
犯給法施行規則20条1項は,公安委員会は,犯罪被害者等給付金の支給に関する裁定を行ったとき,同法13条3項の規定により申請を却下したとき,又は仮給付金を支給する旨の決定を行ったときは,速やかに,犯罪被害者等給付金支給裁定通知書
(様式第4号)犯罪被害者等給付金支給裁定申請

却下通知書(様式第5号)又は仮給付金支給決定通知書(様式第6号)により,その内容を申請者に通知しなければならない旨規定する。
行政手続法8条1項本文は,行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない旨規定し,同条2項は,同条1項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければならない旨規定する。
(4)

犯給法21条は,
同法11条1項の裁定の取消しを求める訴えは,
当該裁

定についての審査請求に対する国家公安委員会の裁決を経た後でなければ,提起することができないと規定する。
行政事件訴訟法(以下行訴法という。
)8条2項は,同条1項ただし書
の場合(審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない場合)においても,同条2項各号の一に該当するときは,
裁決を経ないで,
処分の取消しの訴えを提起することができる旨規定し,
同項1号は,
審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないときを,
同項2号は,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるときを,同項3号は,その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるときを,それぞれ掲げる。
行政不服審査法(平成26年法律第68号による全部改正前のもの。以下同じ。14条1項本文は,

審査請求は処分があったことを知った日の翌日か
ら起算して60日以内(当該処分について異議申立てをしたときは当該異議申立てについての決定があったことを知った日の翌日から起算して30日以内)にしなければならない旨規定し,同項ただし書は天災その他審査請求をしなかったことについてやむを得ない理由があるときはこの限りでない旨規定する。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定することができる事実。以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。)
(1)

本件犯罪被害者は,
平成24年▲月▲日午前零時25分頃,(以下
C
本件加害者という。
)によって殺害された。
なお,本件加害者は,平成26年▲月▲日,神戸地方裁判所において,本件犯罪被害者を殺害した行為(以下本件犯罪行為という。
)を含む1
3の犯罪行為をしたとして無期懲役に処する旨の有罪判決の言渡しを受け,同判決は,平成27年1月9日,確定した(甲12~14,乙18)。
(2)

原告は,
本件犯罪被害者の母親であり,
犯給法4条1号にいう第一順位

遺族(以下,単に第一順位遺族という。
)に該当する。
(3)ア

原告は,平成25年9月30日,大阪府公安委員会に対し,本件犯罪
行為による本件犯罪被害者の死亡(以下本件犯罪被害という。
)につ
いて,遺族給付金支給裁定の申請をした(乙20)

なお,
原告は,
平成25年3月18日付けで,
本件原告訴訟代理人
(以
下原告代理人という。
)に対し,大阪府公安委員会に対する犯罪被害
者等給付金申請及びそれに関する一切の行為について委任していた(甲11,乙6)ものの,上記申請は原告本人名義で行った。

大阪府公安委員会は,平成26年10月15日付けで,原告に対し犯罪被害者等給付金を支給しないとの裁定(以下当初裁定という。
)を
し,原告代理人は,同月20日,当初裁定に係る通知書を受領した(甲1,2,弁論の全趣旨)



原告は,平成26年12月8日付けで,原告代理人に対し,国家公安委員会に対する審査請求及び同請求に関する一切の行為について委任し,原告代理人は,同日付けで,国家公安委員会に対し,原告を代理して当初裁定について審査請求をした(甲2,10)


(4)ア

大阪府公安委員会は,
平成27年2月4日付けで,
当初裁定に係る通

知書による裁定理由の提示に不備が認められたことを理由として,当初裁定を取り消すとともに,改めて,原告に対し犯罪被害者等給付金を支給しないとの裁定(本件裁定)をした(乙1,2)


被告担当者は,平成27年2月5日,原告代理人に電話を架け,当初裁定に係る通知書には理由提示の不備があったことから当初裁定は取り消され,改めて本件裁定がされたことを説明した上で,当初裁定の取消し及び本件裁定に係る各通知書を大阪府警察本部庁舎に受け取りに来るか,郵送により受け取るかを確認したところ,原告代理人は,当初裁定について審査請求中であり,国家公安委員会からの連絡があれば受け取ることも検討するが,直ちに受け取ることはできないといった趣旨の回答をした(弁論の全趣旨)


被告担当者は,平成27年2月25日,当初裁定の取消しに係る同年2月4日付け犯罪被害者等給付金支給裁定取消決定通知書(甲8)及び本件裁定に係る同日付け犯罪被害者等給付金支給裁定通知書(甲9。以下本件裁定通知書といい,当初裁定の取消しに係る通知書と併せて本件各通知書という。
)を,大阪府警察本部府民応援センター被害者
支援第2係が差出人として記載された封筒に入れて原告代理人事務所にあてて郵送し,同封筒は同月26日に同事務所に届けられたが,原告代理人はこれを受け取らず,被告に返送された(乙4)



被告担当者は,
平成27年3月2日,
犯罪被害者等給付金支給裁定取消決定通知書及び犯罪被害者等給付金支給裁定通知書にかかる内容証明在中と記載した封筒(前記同様の差出人を記載したもの)に,本件各通知書を入れて原告代理人事務所にあてて再度郵送し,同封筒は同月3日に同事務所に届けられたが,原告代理人はこれを受け取らず,被告に返送された(乙5)


(5)ア

原告は,平成27年6月15日,当庁に対し,当初裁定について取消
しの訴え(当庁平成27年(行ウ)第189号事件。以下当初の訴えという。
)を提起した(顕著な事実)

原告代理人は,同年8月19日,上記第189号事件における被告提出の書証(乙1,2)として本件各通知書の正本の写しをファクシミリで受領した(乙7)


原告は,平成27年8月25日,当庁に対し,本件裁定の取消しを求めて本件訴えを提起し,当裁判所は,本件の口頭弁論を上記第189号事件の口頭弁論に併合した(顕著な事実)


被告担当者は,平成27年10月23日頃,本件各通知書を原告本人に送付し,原告本人は,同月25日,これを受領した(甲7,弁論の全趣旨)

本件裁定通知書(甲9)の理由欄には,本件犯罪被害者の行為等に,犯給法6条及び犯給法施行規則4条3号に該当する行為があったので,犯罪被害者等給付金を支給しないこととした旨の記載及び別紙参照との記載があり,同通知書別紙には,
規則第4条第3号に該当

犯罪被害,者は,加害者との覚醒剤の精製方法の伝授を巡ったトラブルにより犯罪行為を受けたものと認められる。前記犯罪被害者の覚醒剤精製行為は,「

当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為と認められる。との記載があ」
った。


原告は,平成27年10月28日付けで,国家公安委員会に対し,本件裁定について審査請求(以下本件審査請求という。
)をした。

(6)

原告は,平成29年6月21日,当初の訴えを取り下げ,被告は,同月
27日の本件口頭弁論期日において,これに同意した(顕著な事実)。
(7)

国家公安委員会は,
上記(3)ウ及び(5)エの各審査請求に対し,
未だ裁決

をしていない(弁論の全趣旨)

3
争点
(1)
(2)

本件裁定につき理由提示の不備の違法があるか

(3)
4
本件訴えが審査請求前置に関する要件を満たすか(本案前の争点)
本件犯罪被害につき犯罪被害者等給付金の不支給事由があるか

争点に対する当事者の主張
(1)

争点(1)(本件訴えが審査請求前置に関する要件を満たすか)について
(原告の主張)

本件裁定は,当初裁定と全く同一の事件に係る行政処分であって,いずれの結論も犯罪被害者等給付金の不支給であり,原告にとって不利益処分である。本件裁定がされたのは,当初裁定に理由提示の不備があったためであり,専ら被告側の事情による。そうであるところ,前記前提事実のとおり,原告は,平成26年12月8日付けで当初裁定について審査請求をし,同日から3か月を経過しても裁決がなかったため,当初の訴えを提起した。そうすると,原告が当初の訴えを提起して当初裁定についての取消訴訟が裁判所に係属しているのに,同一事件に係る行政処分である本件裁定についても審査請求を経ることを要求するのは,専ら被告側の事情により不当に煩雑な手続の履践を原告に強制することとなって不合理である。以上によれば,本件裁定について審査請求を経ないで本件訴えを提起したことは,行訴法8条2項3号にいう裁決を経ないことにつき正当な理由があるときに該当するというべきである。イ
また,原告は,平成27年10月25日に本件各通知書を受け取って本件裁定があったことを知り,その後,同月28日付けで本件裁定について審査請求をした。そうすると,仮に,本件訴えが訴え提起時には審査請求前置を欠くものであったとしても,上記審査請求に対して裁決がされないまま3か月が経過したことにより,行訴法8条2項1号に該当することとなったのであるから,上記瑕疵は治癒され,本件訴えは適法になったというべきである。


被告は,本件裁定は平成27年2月26日か,遅くとも同年3月3日には原告に到達したものというべきであると主張するが,当初裁定については国家公安委員会に審査請求中であったのであり,原告代理人としては,その時点において,大阪府公安委員会からおよそ書面を受け取る理由はないことから,その内容を問わず同委員会からの書面は受け取らない方針をとっていたものであり,上記両日に配達されてきた封筒の表記を確認しておらず,その在中物が本件各通知書であったと認識した事実はない。仮に,原告代理人において在中物が本件各通知書であったと認識し得たとしても,本件各通知書を受け取っていない以上,法的に本件各通知書が原告に到達したことにはならないというべきである。また,原告と原告代理人との間の平成26年12月8日付け委任契約(甲10)に基づく原告代理人の受任の範囲は,当初裁定についての審査請求手続において通常予定されている手続一切に限定されており,当初裁定の取消し及びそれに伴う本件裁定に係る各通知書の受取については,受任の範囲外であった。また,原告は,原告代理人との間の平成25年3月18日付け委任契約(甲11,乙6)により原告代理人に対し大阪府公安委員会に対する犯罪被害者給付金申請及びそれに関する手続一切について委任したが,
その際,
裁定がされた後にそれが取り消され,
改めて裁定がされるというようなことは想定されていなかったのであり,同委任契約は当初裁定に係る通知書を受領したことにより終了していたものと考えられる。したがって,原告代理人には本件各通知書を受け取る権限はなかった。
さらに,
当初裁定の取消しに係る通知を受け取ると,
既に行った審査請求の効力が失われることになることからすれば,不服申立ての取下げを特別委任事項とした行政不服審査法12条2項ただし書の類推適用により,上記通知を受け取る行為についても,特別の委任を受けなければならないと解すべきところ,原告は,原告代理人にこのような特別の委任をしていない。以上によれば,原告代理人には本件各通知書を受け取る権限がなかったから,本件裁定が平成27年2月26日及び同年3月3日に原告に到達したものということはできない。(被告の主張)

原告は,本件訴えを提起した平成27年8月25日の時点において,本件裁定についての審査請求をしていなかったのであるから,本件訴えは審査請求前置の要件を満たさない不適法な訴えである。
原告は,本件裁定について審査請求を経ないで本件訴えを提起したことにつき正当な理由(行訴法8条2項3号)があると主張するが,そもそも審査請求は無料でできる上,本件裁定について審査請求期間を徒過したのは,原告代理人が何ら正当な理由なく本件各通知書の受取を拒否したからであって,これは原告の責任であるから,上記正当な理由は認められない。

原告は,原告代理人が平成27年2月26日及び同年3月3日に本件各通知書在中の封筒の受取を拒否した際には,その在中物が本件各通知書であるとは認識しておらず,原告が本件裁定を知った日は原告本人が本件各通知書を受け取った平成27年10月25日であるとして,同月28日付けで本件裁定について審査請求をしたことなどにより,本件訴えは適法になったと主張するが,審査請求なくして提起された不適法な訴えが,後に審査請求がされたからといって瑕疵が治癒されるものではない。
また,原告代理人は,予め当初裁定の取消し及び本件裁定について電話連絡を受けた後,平成27年2月26日に原告代理人事務所に配達された本件各通知書の入った封筒の受取を拒否したところ,同封筒には在中物について表記されていないにもかかわらずその受取を拒否していることに鑑みれば,原告代理人は,送り主の表示(大阪府警察本部府民応援センター被害者支援第2係)から,在中物が本件各通知書であることを認識していたものと考えられる。さらに,本件各通知書の入った封筒は同年3月3日にも原告代理人事務所に配達され,その受取が拒否されているが,
このとき配達された封筒の表面には,
犯罪被害者等給付金支給裁定取消決定通知書及び犯罪被害者等給付金支給裁定通知書にかかる内容証明在中と記載されており,在中物が本件各通知書であることは一見して容易に認識できるはずである。したがって,本件裁定は,同年2月26日か,そうでなくとも同年3月3日には,原告に到達したものというべきである。
さらに,原告代理人は,平成27年8月19日,被告提出の書証として本件各通知書の正本の写しを受領しているのであるから,遅くとも,この時をもって本件裁定が原告に到達したものということができる。原告は,原告代理人には本件各通知書を受け取る権限がなかったなどと主張するが,原告の原告代理人に対する平成25年3月18日付け委任状(甲11,乙6)によれば,委任事項は大阪府公安委員会に対する犯罪被害者給付金申請及びそれに関する手続一切の件とされており,通知書の受取が申請に関する手続に含まれることは明らかである。また,原告は,審査請求の取下げを特別委任事項とした行政不服審査法12条2項ただし書の類推適用により,本件裁定の取消処分に係る通知を受け取る行為についても特別の委任を受けなければならないなどと主張するが,審査請求の取下げと行政処分に係る通知書を受け取る行為は全く別の行為であるから,原告独自の解釈に基づく主張といわざるを得ず,失当である。
さらに,本件訴えは本件裁定の取消しを求めるものであるから,原告は本件訴えの提起時である平成27年8月25日には当然に本件裁定の存在を知っていたことになる。
以上によれば,本件裁定についての審査請求は,いずれにせよ,原告が本件裁定があったことを知った日の翌日から起算して60日を経過した後にされているところ,本件において,この審査請求期間の徒過につきやむを得ない理由(行政不服審査法14条1項ただし書)があるとも認められない。
したがって,上記審査請求は不適法なものであるから,同審査請求がされたからといって,本件訴えが適法になることはない。
(2)

争点(2)(本件裁定につき理由提示の不備の違法があるか)について
(原告の主張)
理由提示の程度については,単に当該処分の根拠規定を示すのみでは不十分であり,どのような具体的事実に基づいてどのような法的理由(処分の要件)により当該処分が行われたかを処分の名宛人において十分に認識し得る程度に示すことが必要である。
しかし,本件裁定通知書に記載された理由では,犯給法6条各号のいずれが適用されるのかという点すら示されていない。被告は,本件訴訟において本件裁定の根拠規定を明らかにする必要に迫られて犯給法6条2号及び3号のいずれにも該当する旨の主張をするに至ったが,本件裁定通知書にはその旨は何ら示されていない。そもそも,犯給法6条3号は前二号に掲げる場合のほかと規定しており,条文の構造上,同条1号及び2号が適用される場合以外に適用されることが予定されているものであり,同条2号と3号とは選択的な適用関係にあるというべきであるから,2号及び3号の適用を主張する被告の主張自体が誤りである。
また,本件裁定通知書別紙の加害者との覚醒剤の精製方法の伝授を巡ったトラブルにより犯罪行為を受けたという記載は,
甚だ抽象的であり,
その具体的内容は不明というほかない。
以上によれば,本件裁定通知書の理由提示には不備があるから,本件裁定は,行政手続法8条1項に違反して違法である。
(被告の主張)
本件裁定通知書には犯給法6条のみが掲げられ,同条各号のいずれに該当するかは記載されていないが,同条の委任を受けて定められている犯給法施行規則4条3号が掲げられ,同号に該当する理由が記載されており,同記載からは,同法6条1号(犯罪被害者と加害者との間に親族関係があるとき)に当たらないことは自明であり,同条2号,3号に該当するものと読むことができる。したがって,本件裁定通知書に同法6条各号のいずれに該当するかが記載されていないことをもって,理由提示の不備があり違法であるということはできない。
(3)

争点(3)(本件犯罪被害につき犯罪被害者等給付金の不支給事由がある
か)について
(被告の主張)

本件犯罪被害者は覚せい剤取締法違反の犯歴を有し,本件犯罪被害者を殺害した本件加害者とは,
本件犯罪被害者が精製した覚せい剤ピー(プルと呼ばれるストロー入り覚せい剤)の取引等を通じて知人関係にあった。


本件犯罪被害者は,本件加害者から覚せい剤精製資金として融資を受けた10万円の返済をすることができず,返済方法を本件加害者に提示するものの,いずれも失敗に終わり,返済を迫る本件加害者から逃げ回っていて,本件加害者を怒らせていた。


本件犯罪被害者は,本件加害者が本件犯罪被害者の精製する覚せい剤に関心があることに着目して,覚せい剤の精製方法を教えることを自ら申し出て借金の返済を免れようとし,本件加害者の前で覚せい剤精製の実演を行ったが,覚せい剤の精製に失敗した上に,その精製過程において本件加害者に精製方法の一部しか言わなかったり本件加害者を馬鹿にするような発言をしたりして,本件加害者の怒りに油を注いだ。


上記アからウまでのような事情の下で本件犯罪被害者に激怒した本件加害者は,他の共犯者らと共に本件犯罪被害者を痛め付け,遂には本件犯罪被害者を殺害するに至ったものである。


以上からすれば,本件犯罪被害については,本件犯罪被害者にもその責めに帰すべき行為があったと認められ(犯給法6条2号)
,また,覚せ
い剤取締法違反(同法30条の8の製造の禁止)に該当する犯罪行為である覚せい剤の精製行為を自ら申し出て行っていることに照らせば,犯罪被害者等給付金を支給することが社会通念上適切でないとも認められる(犯給法6条3号)
。そして,これら本件犯罪被害者の行為は,本件犯
罪行為に関連する著しく不正な行為でもある
(犯給法施行規則4条3号)

すなわち,上記アからエまでの事実のうち本件犯罪被害者による行為の全てが犯給法6条2号の犯罪被害者の責めに帰すべき行為に該当し,本件犯罪被害者と本件加害者とが覚せい剤を精製し密売する者とこれを購入する元暴力団関係者という関係にあったこと及び本件犯罪行為が本件加害者から覚せい剤精製資金として借りた金銭の返済に端を発し,覚せい剤の精製方法の伝授を巡ったトラブルにより発生したものであることが同条3号の犯罪被害者等給付金を支給することが社会通念上適切でないと認められる事情に該当する。また,本件犯罪被害者が借金の返済を免れようと覚せい剤の精製方法を教えることを自ら申し出て覚せい剤の精製を実演した行為が犯給法施行規則4条3号の犯罪行為に関連する著しく不正な行為に該当する。
したがって,本件犯罪被害については,犯給法6条2号及び同条3号並びに犯給法施行規則4条3号の定める犯罪被害者等給付金の不支給事由がある。
(原告の主張)

本件犯罪被害者に覚せい剤を精製する能力はなかった。本件犯罪被害者は,本件加害者らに逮捕・監禁され,暴行を加えられていたため,覚せい剤の精製を実演するかのように振る舞い,時間稼ぎ等をする中で身体解放される可能性を追求していたにすぎない。兵庫県神戸水上警察署に任意提出された紙袋在中のストロー片,ガストーチ,無水エタノール等は,本件犯罪被害者が熱帯魚の飼育や水草の人工活着に用いるための道具であって,覚せい剤の精製とは関係がない。

上記のとおり本件犯罪被害者が覚せい剤を精製する能力がない以上,本件犯罪被害者が精製した覚せい剤取引を通じて本件加害者と知人関係にあったという事実はない。


本件犯罪被害者が本件加害者から覚せい剤精製資金として10万円の融資を受けていたという事実はない。仮に本件犯罪被害者が本件加害者に借金があるとしても,恐喝まがいに一定の金員を支払うよう求められていたにすぎない。


本件加害者は,共犯者らと共謀し,本件犯罪被害者に一定の金員を支払わせ,また,覚せい剤の精製方法を入手する目的で,本件犯罪被害者を監禁,脅迫,傷害に及んだ挙句,一連の犯跡を隠滅するため本件犯罪被害者を殺害したのである。そうすると,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製を実演するとの申出等がなくても本件犯罪被害者は殺害されていたものと考えられ,本件犯罪被害者の行為と本件犯罪被害との間に条件関係があったともいえない。


以上のとおり,本件犯罪被害につき,被告が主張する犯罪被害者等給付金の不支給事由は,いずれも認められない。

第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件訴えが審査請求前置に関する要件を満たすか)について(1)

本件裁定について適法な審査請求がされたか(行訴法8条2項1号該当
性)について

前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,①大阪府公安委員会は平成27年2月4日付けで当初裁定を取り消すとともに,本件裁定をしたこと,②被告担当者が,同月5日,原告代理人に電話を架け,当初裁定が取り消され,改めて本件裁定がされたことを説明した上で,本件各通知書を大阪府警察本部庁舎に受け取りに来るか,郵送により受け取るかを確認したのに対し,原告代理人は,直ちに受け取ることはできないといった趣旨の回答をしたこと,③本件各通知書在中の封筒(差出人として大阪府警察本部府民応援センター被害者支援第2係が記載されたもの)が同月26日及び同年3月3日に原告代理人事務所に届けられたが,原告代理人はその内容を問わず大阪府公安委員会からの書面は受け取らない方針をとっており,上記各封筒の受取をいずれも拒否したことが認められる。そうすると,原告代理人は,
当初裁定が取り消され,
改めて本件裁定がされたことに加え,
当初裁定の取消し及び本件裁定に係る各通知書(本件各通知書)が原告代理人事務所に送付されることを認識しながら,あえて被告担当部署から送付されて来た本件各通知書在中の封筒の受取を拒否したものと認められる。また,前記前提事実によれば,原告は原告代理人に対し,平成25年3月18日付けで大阪府公安委員会に対する犯罪被害者等給付金の申請及びこれに関する一切の行為について,平成26年12月8日付けで国家公安委員会に対する審査請求及びこれに関する一切の行為について,それぞれ委任し,
代理権を授与していたものであるところ,
当初裁定を取り消し,
改めて原告による遺族給付金裁定の申請に対し支給しないとの裁定をした各行政処分を受領する行為は,大阪府公安委員会に対する犯罪被害者等給付金の申請に関する行為又は国家公安委員会に対する審査請求に関する行為に含まれるといえるから,原告代理人は,本件各通知書が送付されてきた平成27年2月26日当時,本件各通知書を受領する権限を有していたものというべきである。
以上によれば,本件裁定通知書は,同日,原告の了知し得べき状態に置かれたものというべきであるから,これにより本件裁定は行政処分として有効に成立したものと認められる(最高裁判所昭和29年8月24日第三小法廷判決・刑集8巻8号1372頁,同裁判所昭和57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1146頁,同裁判所平成10年6月11日第一小法廷判決・民集52巻4号1034頁参照)
。そして,これに先立
つ平成27年2月5日に原告代理人が被告担当者から本件裁定がされたことを電話で知らされていたというのであるから,本件裁定が効力を生じた同月26日をもって行政不服審査法14条1項本文の処分があったことを知った日に該当するものというべきである。イ
これに対し,原告は,原告代理人は上記各封筒の在中物が本件各通知書であることを認識していなかったし,仮にこれを認識し得たとしても,本件各通知書を受け取っていない以上,法的に本件裁定が原告に到達したことにはならないなどと主張する。しかしながら,既に認定・説示したとおり,原告代理人は,平成27年2月26日に本件裁定通知書が原告代理人事務所に届けられたにもかかわらず,
殊更にその受領を拒否したにすぎず,
このような事情の下では,本件裁定通知書は,同日,原告の了知し得べき状態に置かれたものというべきであり,これにより本件裁定は有効に成立したものと認められるから,原告の上記主張は採用することができない。また,原告は,当初裁定の取消し及びこれに伴う本件裁定に係る各通知書の受取については原告による委任の範囲外であるなどとして原告代理人に本件各通知書の受領権限はなかった旨主張する。しかしながら,当初裁定のようないわゆる拒否処分について審査請求がされた場合に,処分行政庁が,裁決を待たずに自らその瑕疵を認めて当初の処分を取り消し,改めて行政処分をすることは,特段の事情がない限り制限されず,むしろ,行政の適法性を確保する観点からはそのような処理(職権による取消し及び再度の行政処分)
をすることが求められるものと解され,
現に実務上も,
このような処理がされることが少なくないことに照らせば,当初の処分の申請及びこれを拒否する処分に対する審査請求について代理権を付与された者は,職権による取消し及び再度の行政処分を受領する権限を有するものと解するのが相当であり,この理は,本人又は代理人が職権による取消し及び再度の行政処分がされることを想定していなかったとしても左右されないものというべきである(なお,本件において,大阪府公安委員会が理由提示に不備があったとして当初裁定を取り消したことが違法であるというべき事情は見当たらない。。原告は,当初裁定の取消しを受領)
する行為については,行政不服審査法12条2項ただし書の類推適用により,特別の委任が必要である旨主張するが,職権による取消処分を受領する行為は,不服申立ての取下げとは異なり,単なる事実行為であって,不服申立ての効力を失わせること自体を目的とする行為でないことなどからすれば,類推の基礎を欠くものというべきであり,独自の見解というほかない。したがって,原告代理人に本件裁定通知書を受領する権限がなかった旨をいう原告の前記主張は採用することができない。

以上によれば,原告が平成27年10月28日付けでした本件裁定についての審査請求は,行政不服審査法14条1項本文の定める審査請求期間(同年2月26日の翌日から起算して60日以内)を経過した後にされたものであるところ,
既に認定・説示したところに照らせば,
本件において,
同項ただし書のやむを得ない理由があるということはできない。
したがって,本件裁定について適法な審査請求がされたものと認めることはできず,行訴法8条2項1号に該当するとは認められない。

(2)

本件裁定についての国家公安委員会の裁決を経ていないことにつき正当
な理由があるか(行訴法8条2項3号該当性)について
前記前提事実に加え,
上記(1)で認定説示したところによれば,

①原告は,
平成26年12月8日付けで当初裁定について適法に審査請求をしたこと,②平成27年2月26日に,同月4日付けでされた当初裁定の取消し及び本件裁定の効力が生じたが,原告においては本件各通知書の受取を拒否して当初裁定の取消し及び本件裁定の各効力の発生を争い,当初裁定についての審査請求を取り下げることも本件裁定についての審査請求をすることもせず,他方で,国家公安委員会においても当初裁定についての審査請求に対し裁決をしなかったこと,③そのような状況の下で,原告は同年6月15日に当初裁定の取消しを求めて当初の訴えを提起したことが認められる。これらの事情によれば,当初の訴えは,既に効力の消滅した当初裁定の取消しを求めるものである点において訴えの利益を欠く不適法な訴えであったというべきものの,審査請求前置に関する要件については欠くところがなかったものということができる(行訴法8条2項1号)
。そうであるところ,当初裁定は理由
提示の不備という処分行政庁側の責めに帰すべき事由により取り消されたものである上,当初裁定と本件裁定とは原告による申請に対し犯罪被害者等給付金を支給しないという内容において同一の処分であることからすると,当初裁定について適法に審査請求をしていた原告において,同一内容の本件裁定について改めて審査請求をすることは無意味と考えるとしてもやむを得ない面もあり,本件裁定についても改めて審査請求を経なければその取消しの訴えを提起することができないとすることは,原告に対し殊更に煩雑な手続の履践を強制することになって不合理であるというべきである。
したがって,
本件裁定についての国家公安委員会の裁決を経ていないことについては,行訴法8条2項3号にいう正当な理由があるものというべきである。(3)

小括
以上によれば,本件訴えは,審査請求前置に関する要件を満たす適法なも
のということができる。
2
争点(2)(本件裁定につき理由提示の不備の違法があるか)について(1)

行政手続法8条1項本文が,いわゆる拒否処分をする場合に同時にその
理由を申請者に示さなければならないとしているのは,拒否処分の性質に鑑み,拒否事由の有無についての行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
(2)

そこで,本件裁定通知書に記載された理由が行政手続法8条1項本文の趣旨に照らして不十分なものかを検討するに,原告は,まず,本件裁定通知書には,
犯給法6条各号のいずれが適用されるかが記載されていないとして,理由提示に不備がある旨主張する。犯給法11条1項に基づく犯罪被害者等給付金を支給しない旨の裁定について見ると,同法6条は犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができる場合を各号に掲げつつ,その基準等を国家公安委員会規則の定めるところに委任し,この委任を受けた犯給法施行規則が2条から10条までにおいて,同法6条の規定する場合の区分に応じ,犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しない場合の事由を細分化してより具体的に規定するとともに,犯罪被害者等給付金の全部を支給しない場合,犯給法9条の規定による額に3分の2を乗じて得た額を支給しない場合及び同条の規定による額に3分の1を乗じて得た額を支給しない場合の基準等を具体的に定めている。以上に加え,大阪府公安委員会による犯罪被害者等給付金の支給についての裁定に係る審査基準及び標準処理期間(乙39)においては,犯給法施行規則の各規定が準拠した犯給法の規定が示されるとともに,犯給法施行規則の各規定の解釈についての説明が加えられていることが認められる。以上のような犯給法6条の定め等に照らせば,犯罪被害者等給付金の全部又は一部の不支給事由の有無の判断は,犯給法施行規則の各規定に該当するかどうかの判断に基づいて行われることが予定されているものと解され,犯罪被害者等給付金を支給しない裁定をするに当たっては,犯給法施行規則における根拠条文及び当該条文に該当する事実を提示すれば,犯給法の該当条文も明らかになるものと解されるのであって,行政手続法8条1項本文の趣旨に照らして,必ずしも犯給法6条各号のいずれに該当するかを記載するまでの必要はないものと解するのが相当である。本件裁定においても,本件犯罪被害者の不正な行為が犯給法施行規則4条3号に該当することが示されており,これにより犯給法6条2号に該当することが示されているというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
次に,原告は,本件裁定通知書に記載された事実関係が抽象的である旨主張するが,前記前提事実によれば,本件裁定通知書には,

犯罪被害者は,加害者との覚醒剤の精製方法の伝授を巡ったトラブルにより犯罪行為を受けたものと認められる。「前記犯罪被害者の覚醒剤精製行為は,当該犯罪行為に

関連する著しく不正な行為と認められる。
」と記載されていたことが認めら
れるところ,これらの記載からは,大阪府公安委員会においていかなる事実関係を認定して本件裁定をしたかを了解することができるものと考えられるのであり,上記のような行政手続法8条1項本文の趣旨を没却するほどに抽象的であるとは到底いえない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(3)

以上によれば,本件裁定につき理由提示の不備の違法があるということ
はできない。
3
争点(3)
(本件犯罪被害につき犯罪被害者等給付金の不支給事由があるか)に
ついて
(1)

上記のとおり,犯給法6条の委任を受けた犯給法施行規則は2条から1
0条までにおいて,同法6条の規定する場合の区分に応じ,犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しない場合の事由を細分化してより具体的に規定するとともに,犯罪被害者等給付金の全部を支給しない場合,犯給法9条の規定による額に3分の2を乗じて得た額を支給しない場合及び同条の規定による額に3分の1を乗じて得た額を支給しない場合の基準等を具体的に定めているところ,そのうち同規則4条は,犯給法6条2号(第一順位遺族に係る行為については,同条3号)の規定に依拠するものであり,犯罪被害者及び第一順位遺族に当該犯罪被害を招来することが社会通念上相当であると認められる程度の積極的な行為があったとき及び当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為があったときは,その責めに帰すべき程度の重大さに鑑み,犯罪被害者等給付金の全部を支給しないこととしたものと解される。そして,以上のような同規則4条の趣旨からすれば,同条3号の当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為とは,ノミ行為,賭博行為,麻薬又は覚せい剤の取引行為等の違法性の強い行為で,当該犯罪行為の発生と条件関係にあるものをいうものと解するのが相当である。
(2)

証拠(甲12~19,21,乙8~18,22~30,35,36)によ
れば,
①本件犯罪被害者と本件加害者とは本件犯罪被害者が本件加害者にピープル
と呼ばれるストロー入りの覚せい剤を密売する関係にあったところ,本件犯罪被害者は自らが密売する覚せい剤を精製するための費用の名目で本件加害者から10万円を借り受けたものの,これを返済することができず,本件加害者からの連絡に応じないなど借金の返済を免れようとしていたこと,②そのような中,本件犯罪被害者は,平成24年▲月▲日午前1時過ぎ頃,本件加害者に呼び出されて大阪府東大阪市内の路上に停車中の自動車内で逮捕され,その後,自動車内並びに大阪市〇〇区内の貸倉庫及び同市△△区内のマンションの一室に監禁されていたところ,その間,本件加害者及びその共犯者らから暴行・脅迫を加えられながら上記借金の返済を求められ,借金の返済の代わりとして覚せい剤の精製を実演してその精製方法を本件加害者らに教えることとなり,上記貸倉庫内においてその実演を試みたものの覚せい剤の精製に失敗したこと,③本件加害者は本件犯罪被害者が覚せい剤の精製に失敗したほか,監禁されていた上記大阪市△△区内のマンションの一室において見張りをしていた上記共犯者のうちの一名に対し暴行を加えて逃走を図ったこと,本件犯罪被害者が上記借金の肩代わりをしてくれる者として挙げた知人に連絡をしたものの肩代わりを拒否されたことなどに立腹し,同月▲日午後9時46分頃から同日午後10時15分頃までの間に自動車内において本件犯罪被害者に対し殺意をもってけん銃で弾丸1発を発射して同人を仮死状態にし,同人が死亡したものと誤信したまま神戸市□□区内の海中に自動車ごと転落させて殺害したことが認められる。
これに対し,
原告は,
本件犯罪被害者には覚せい剤を精製する能力はなく,
そうである以上,本件犯罪被害者が本件加害者と覚せい剤取引を通じて知人関係にあったという事実も,本件犯罪被害者が本件加害者から覚せい剤精製費用の名目で10万円を借りていたという事実もないと主張する。本件加害者及びその共犯者らの供述によれば,本件加害者及びその共犯者らは本件犯罪被害者が自ら覚せい剤の精製をする能力を有していたものと認識しており,本件犯罪被害者自身もそのように振る舞っていたことは認められるものの,現実に本件犯罪被害者が自らピープルと呼ばれる覚せい剤を精製する能力を有していたかについては,本件においてこれを直接に示す的確な証拠はなく,疑問の余地がないではない。しかしながら,上記のとおり,本件加害者は本件犯罪被害者が覚せい剤の精製をする能力を有していたものと認識しており,本件犯罪被害者自身もそのように振る舞っていたことなどからすれば,仮に客観的には本件犯罪被害者に覚せい剤を精製する能力がなかったとしても,そのことによって直ちに本件犯罪被害者が本件加害者と覚せい剤取引を通じて知人関係にあったという事実や本件犯罪被害者が本件加害者から覚せい剤精製費用の名目で10万円を借りていたという事実が否定されることにはならない。そして,上記各証拠によれば,本件加害者及びその共犯者らが捜査官に対し上記認定に沿う供述をしているのみならず,本件犯罪被害者及び本件加害者の共通の知人で,本件犯罪被害者に対する逮捕・監禁及び殺人等の一連の加害行為に関与していないDも,捜査官に対し,内妻から本件犯罪被害者を覚せい剤の密売人として紹介されたこと,平成24年▲月初旬頃に本件犯罪被害者が本件加害者から覚せい剤精製費用の名目で10万円を借り受ける場に居合わせたことを供述しているところ
(乙14)上記のよ

うな立場にあるDが殊更に虚偽の供述をするとは考え難く,現に本件加害者の所持品からは本件犯罪被害者名義の借用証書も発見され,上記共犯者のうちの一名(E)も本件加害者から本件犯罪被害者に対する貸金の証拠として上記借用書を見せられたことがあった旨供述しているというのである(乙23)
。また,証拠(乙17,29,35)によれば,本件犯罪被害者は,覚せい剤を大量に密売したことに関し平成14年に覚せい剤取締法違反の罪で懲役7年に処せられたほか,平成22年には覚せい剤の自己使用により再度覚せい剤取締法違反の罪で懲役1年8月に処せられたことがあり,さらに,本件犯罪行為の直前である平成24年▲月末頃には母親(原告)及び弟(証人FことG)に覚せい剤を所持しているところを現認されていたというのであるから,本件犯罪被害者が,本件犯罪行為の当時,覚せい剤の密売をしていたとしても何ら不自然・不合理ではないということができる。以上に説示したところからすれば,本件加害者及びその他の関係者らの供述調書を含む上記各証拠に基づき,本件犯罪被害者が覚せい剤の取引を通じて知り合った本件加害者から覚せい剤精製費用の名目で10万円を借りていた事実を認めるのが自然かつ合理的というべきであって,
これを否定する原告の上記主張
(本
件加害者及びその他の関係者らの供述調書の信用性を否定する旨の主張を含む。
)を採用することはできない。
他方で,被告は,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製方法やその手順について具体的に淀みなく説明しているなどとして,本件犯罪被害者に覚せい剤を精製する能力があったことは明らかであると主張するが,被告の指摘する捜査報告書(乙16)によっても,本件犯罪被害者に覚せい剤を精製する能力があったと認めるに足りるほどにその方法や手順について具体的に淀みなく説明しているとまで認めることはできない。むしろ,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製に失敗し,結局,本件加害者によって殺害されているなど前記認定の経緯等からすれば,本件犯罪被害者に覚せい剤を精製する能力がなかった可能性も否定することができないというべきである。また,被告は,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製方法を本件加害者に教示することを自ら申し出たと主張し,
兵庫県神戸水上警察署長作成の犯罪被害給付関係事項回答書
(乙
22)にもそれに沿う記載があるが,本件において同記載の基礎となった関係者の供述調書等は提出されておらず,前記各証拠から認められる本件加害者及びその共犯者らの供述によっても,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製方法を教えることとなった経緯は判然としないことなどからすれば,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製方法を本件加害者に教示することを自ら申し出たとまで認定するのは困難というべきである。
(3)

上記認定事実によれば,本件犯罪被害者は本件加害者に覚せい剤を密売
するという違法性の高い行為をし,そのような関係の中で,覚せい剤の精製に必要な経費の名目で本件加害者から金員を借り受けたことが本件犯罪行為の発端となっており,その後,本件犯罪被害者がその返済を免れようとするなどしたことから本件加害者の怒りを買って本件犯罪被害を受けたということができるから,本件犯罪被害者が覚せい剤の取引を通じて知り合った本件加害者から覚せい剤精製費用の名目で10万円を借りた行為は犯給法施行規則4条3号にいう当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為に該当するものというべきである。
(4)

以上の点に関し,被告は,本件犯罪被害者が逮捕・監禁された後に自ら申
し出て覚せい剤の精製行為をしたことのほか,その精製過程においてあえて本件加害者に精製方法の一部しか言わなかったり本件加害者を馬鹿にするような発言をしたりしたことが犯給法6条及び犯給法施行規則4条3号の定める不支給事由に該当する旨主張するところ,大阪府公安委員会も同見解に基づいて本件裁定をしたことがうかがわれる。これに対し,原告は,本件犯罪被害者は覚せい剤の精製を実演するかのように振る舞い,時間稼ぎをして身体解放される可能性を追求していたにすぎない旨主張するほか,本件加害者は本件犯罪被害者が覚せい剤の精製を実演したかどうかにかかわらず本件犯罪被害者を殺害していたものと考えられ,本件犯罪被害者の行為と本件犯罪被害との間に条件関係があるといえない旨主張する。
この点については,本件において本件犯罪被害者に覚せい剤の精製能力があった事実及び犯罪被害者が自ら申し出て覚せい剤の精製行為をした事実を認定し難いことは上記説示のとおりであるから,本件裁定には,その基礎となる事実関係に誤認があるというべき余地がある。また,上記認定の本件犯罪行為に至る経緯等に照らせば,原告の主張するとおり,本件犯罪被害者が覚せい剤の精製を実演したのは,本件加害者らによって逮捕・監禁され激しい暴行を加えられる中で,時間稼ぎ等をするために行ったものとも考えられるほか,本件犯罪被害者が逮捕・監禁された後にどのような対応をしていたかにかかわらず本件加害者が本件犯罪被害者を殺害した可能性も考えられ,そうであるとすれば,本件犯罪被害者による逮捕・監禁後の行為を取り上げて,本件犯罪被害者に本件犯罪行為に関連する著しく不正な行為に該当するというのは相当でないというべき余地がある。
しかしながら,上記認定・説示のとおり,そもそも,本件犯罪行為は本件犯罪被害者が本件加害者に覚せい剤を密売するという取引関係の中で覚せい剤の精製に必要な費用の名目で本件加害者から金員を借り受けたことに端を発しているのであって,そのような違法な行為がなければ本件犯罪行為にも至らなかったという意味で条件関係が認められる。したがって,本件犯罪被害者が逮捕・監禁された後にどのような行為をしたか,及び当該行為をいかに評価すべきかにかかわらず,本件犯罪被害者には犯給法施行規則4条3号にいう当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為があったものと認めることができる。また,本件における被告の主張及び証拠関係等に照らせば,本件犯罪被害者が本件加害者に覚せい剤を密売するという取引関係の中で覚せい剤の精製に必要な費用の名目で本件加害者から金員を借り受けた事実が本件裁定の基礎となっていることは明らかであるところ,同事実を前提として,その借金の返済を巡るやり取りの中で本件犯罪被害者が違法に覚せい剤の製造に該当する行為をしたことなどを含めて犯給法6条及び犯給法施行規則4条3号の不支給事由に該当すると認めることが,社会通念に照らし全く許容されないものではない。そして,以上に述べたところからすれば,大阪府公安委員会が本件犯罪被害者に覚せい剤の精製能力があった事実及び本件犯罪被害者が自ら申し出て覚せい剤の精製行為をした事実を認定したことについても,
本件裁定の基礎を欠くような重大な事実の誤認とまではいえない。そうすると,大阪府公安委員会が本件犯罪被害者の逮捕・監禁後の覚せい剤精製行為等を含めて犯給法施行規則4条3号に該当するとして本件裁定をしたことをもって,本件裁定が違法であるということはできない。(5)

以上によれば,
本件犯罪被害者には犯給法6条2号,
犯給法施行規則4条

3号の不支給事由が認められ,他に,本件において,本件裁定が違法であるというべき事情は見当たらない。
なお,既に認定・説示したところによれば,本件犯罪被害につき犯給法6条3号の不支給事由がある旨をいう被告の主張は,犯給法6条及び犯給法施行規則4条の解釈を誤ったものとして採用することができないが,これによって,本件裁定が違法となるものでないことは明らかである。
4
結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

山田明
裁判官

森田亮
裁判官

石川舞子
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