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建造物侵入、窃盗、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反被告事件
事件番号平成30(う)540
事件名建造物侵入,窃盗,特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反被告事件
裁判年月日平成30年9月5日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第71巻2号1頁
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成28刑(わ)2157
判示事項警察官がマンション内のゴミステーションに捨てられたごみ袋の任意提出を受けて領置し,これを開封してその内容物を確認するなどした捜査手続が適法とされた事例
裁判要旨マンション各階に設けられたゴミステーションに捨てられたごみ袋の占有が,遅くとも,マンション管理会社から清掃業務の委託を受けた清掃会社がゴミステーションから回収した時点で,それを捨てた者からマンション管理会社等に移転しており,警察官が,マンション管理会社の協力を得るなどした判示事実関係の下では,その所持者から上記ごみ袋の任意提出を受けて領置し,これを開封してその内容物を確認するなどした捜査手続(判文参照)は,適法である。
裁判日:西暦2018-09-05
情報公開日2019-03-01 14:00:10
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平成30年(う)第540号

建造物侵入窃盗,特殊開錠用具の所持の禁止等に

関する法律違反被告事件
平成30年9月5日

東京高等裁判所第3刑事部判決

主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,原判示第1の犯罪事実に関する訴訟手続の法令違反及び事実誤認並びに原判示第2の犯罪事実に関する事実誤認の主張である。第1
1
原判示第1の犯罪事実に関する訴訟手続の法令違反の主張について原判決認定の犯罪事実とその認定に用いられた証拠

原判示第1の犯罪事実の要旨は,被告人が,金品窃取の目的で,平成28年5月15日頃,B所在の短期大学の本館内に無施錠の5階非常口ドアから侵入し,現金392万1867円を窃取したというものである。原判決は,これを認定した証拠として,被害届抄本等のほか,紙片1片(原審甲74。以下本件紙片という)を挙げている。
2
弁護人の主張

その骨子は,原判決が被告人を本件犯人と認定する証拠とした本件紙片は,その領置手続が違法であり,違法収集証拠として排除されるべきであるのに,これを証拠として採用して事実認定をした原裁判所の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというものである。
3
原裁判所の判断の要旨

(1)

原裁判所は,本件紙片の証拠調べ決定において,以下のとおり判断した。

C(以下本件マンションという)におけるごみの取扱い等について,原
審証拠によれば,被告人は,平成28年5月当時,本件マンションD号室を所有して居住しており,その住戸は,地上20階,地下2階建ての分譲マンションである本件マンションのE階に位置していること,本件マンションには,ごみに関連する施設として,各階にごみの集積場所であるゴミステーションがあり,地下1階にごみ置場が設けられ,これらは,本件マンションの管理規約において,住戸の区分所有者のみの共用部分と位置付けられていること,同管理規約において,清掃及びごみ処理は管理組合の業務とされ,管理組合は,マンション管理会社に対し,ごみの仕分・整理・搬出等の清掃業務を含む本件マンションの管理業務を委託し,清掃業務については,そのマンション管理会社から更に委託を受けた清掃会社が,各階のごみの搬出作業を含む日常清掃を行っていたことが認められる。

本件紙片の押収経緯について,警視庁刑事部捜査第三課に所属し本件捜査を
担当した警察官であるFの原審証言によれば,平成25年10月頃から,中野警察署管内で会社の事務所等を狙った侵入窃盗事件が多発し始めたことなどから,平成27年1月に捜査本部が立ち上げられ,Fも捜査本部に加わったこと,手口の分析から容疑者として被告人が浮上し,その行動確認をすることになり,それぞれの管理者の承諾を得て本件マンションの周囲にある建物に本件マンションの正面出入口と車両出口に向けた監視カメラを設置し,さらに,被告人の住戸のあるE階のエレベーターホールを見ることができる監視カメラも設置し,また,本件マンションに設置された防犯カメラ画像について,上記マンション管理会社の本件マンション担当者と交渉し,同社に対し捜査関係事項照会を行うことにより見せてもらえることになったこと,警察官らは,これらを利用して被告人の行動確認を行ったが,被害現場付近に至って失尾するなどしていたことから,同年7月頃,捜査方針について検察官に相談したところ,被告人については確固たる証拠がなければ起訴は難しいと言われたこと,そこで,監視カメラの設置を追加するとともに,改めて捜査方針を検討し,被告人が出すごみについて捜査することになり,上記マンション管理会社に連絡したところ,上記担当者から,本件マンションの管理員や清掃員と方法を検討するようにとの指示を受けたこと,平成28年4月,本件マンション管理責任者であるGやごみ回収の責任者であるHと打合せを行い,本件マンションでは,居住者が各階のゴミステーションにごみを捨て,これを清掃員が各階から集めて地下1階のごみ置場に下ろし,分別して捨てられたごみは,分別の種類ごとにバッカンと呼ばれる大容量の容器に入れ,分別されていないごみは,清掃員が分別してバッカンに収めるという方法で,ごみの回収作業が行われていることが判明したこと,そこで,Hらと相談の上,E階のごみについては,他の階のごみと混ざらないように専用のバッカンで回収してもらい,そのバッカンに回収されたごみを地下1階のごみ置場に下ろし,警察官が警備室を通ってごみ置場に行き,清掃員立会いの下でそれを確認するという方法で,ごみの捜査を行うことになったこと,5月16日正午頃,FはI警察官と共に本件マンションの警備室で管理員の了解を得て地下1階のごみ置場に行き,E階のごみとして回収されたごみの捜査をしたこと,途中でHの代わりに上記マンション管理会社の管理員であるJが立ち会い,その外見から分別されていないと思われるごみ4袋について1つずつ開封したところ,1つの袋から,被告人の名前が記載された宅配便の配達伝票及びクリーニングの納品票と共に,本件紙片や同月9日に乗車したタクシーのレシートが発見されたため,Jからこのごみ袋全体の任意提出を受け,これに対応する領置調書を作成し,次いで,いったんこのごみ袋をJに返還した上で,本件紙片及び上記タクシーのレシートのみをJから任意提出を受け,これに対応する領置調書を作成したことなどが認められる。ウ
上記のような本件マンションにおけるごみの回収・搬出方法からすると,ご
みを捨てる者としては,各階のゴミステーションに捨てた時点で当該ごみに対する所有権を放棄し,それ以降のごみの占有・管理は,ごみの回収・搬出の任に当たる清掃会社に委ねられたものと解される。
そうすると,本件紙片が在中していたごみ袋を含むごみ4袋については,その内容を確認するために開封作業を行う時点で,立ち会っていたJから提出を受けていたことになり,任意提出書や領置調書が作成されていないという手続上の形式的な瑕疵は存在するが,これらのごみ4袋は,ゴミステーションに捨てられた時点で,その所有権が放棄され,上記清掃会社の占有・管理に委ねられ,Jはその清掃会社の従業員でごみ回収責任者であるHからごみの処分権限を委ねられたといえるから,刑事訴訟法221条に基づき,その所持者が任意に提出した物として警察が領置したものと認められ,警察がこれらのごみ4袋を開封しその内容物を確認した行為については,留置継続の要否を判断するための必要な処分(同法222条,111条2項)として行われたものといえる。
したがって,警察が上記ごみ4袋を領置した手続については,所有や占有の観点から違法と評価される理由はなく,また,ごみ袋を開封して内容物を調べた手続についても,その外観からだけでは留置を継続すべき証拠物とそうでない物との区別ができないから,留置継続の要否を判断するための必要な処分といえ,対象物を損壊,費消するものではないことからしても,所有や占有の観点から違法と評価すべき理由はない。
さらに,自分の捨てたごみがそのまま回収・搬出されて他人にその内容を見られることはないという居住者の期待という観点からも,ごみとして何かを捨てるという行為が,不可避的に第三者による接近を許す機会や第三者に処分を委ねる機会の存在を伴うことなどを考慮すると,その期待の要保護性は高いとはいえず,捜査の必要がある場合に,ごみの領置や必要な処分としてのごみの内容物の確認を妨げるものではないと解され,本件紙片の領置に至る一連の捜査手続を違法と評価すべき理由はない。
以上のことなどからすると,本件紙片は,違法収集証拠といえず,証拠として取り調べる。
(2)

さらに,原裁判所は,原判決において,本件紙片の証拠調べ決定後に行わ
れたJの原審証言を踏まえても,原審証拠によれば,警察とGやHとの間でごみの確認捜査に関する話合いが行われ,HにおいてE階のごみを取り分けて回収することやそれをごみ置場において警察が確認する取扱いが合意されたこと,G及びJ,更にはHも,ごみの捜査への立会いに伴い,必要に応じてごみを警察に引き渡すことを捜査協力の一環として当然のことと理解していたものと認められ,Jは,Hからごみの処分権限を委ねられていたものといえるから,原決定の判断を変更すべき理由はなく,本件紙片を違法収集証拠として証拠排除しないとした。4
当裁判所の判断

原裁判所が判断の基礎とした事実の認定については,おおむね経験則等に照らして不合理なところはなく,本件紙片の領置に至る一連の捜査手続に違法はないとしてその証拠能力を認めて証拠調べをし犯罪事実の認定に用いた原裁判所の訴訟手続に法令違反はない。
以下,弁護人の主張を踏まえて補足して説明する。
(1)

本件マンションにおけるごみの取扱いについて,原審証拠によれば,本件
マンションには,各階にゴミステーションがあり,地下1階にごみ置場が設けられており,そのごみ処理は管理組合の業務とされ,管理組合はマンション管理会社に対しごみの回収・搬出等の清掃業務を含む本件マンションの管理業務を委託し,そのうち清掃業務については,そのマンション管理会社から委託を受けた清掃会社が行っていたこと,本件マンションでは,居住者が各階のゴミステーションにごみを捨て,これを上記清掃会社の清掃員が各階から集めて地下1階のごみ置場に下ろすなどして,ごみの回収・搬出作業を行っていたことが認められる。このような本件マンションにおけるごみの取扱いからすると,居住者等は,回収・搬出してもらうために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり,当該ごみの占有は,遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で,ごみを捨てた者から,本件マンションのごみ処理を業務内容としている管理組合,その委託を受けたマンション管理会社及び更にその委託を受けた清掃会社に移転し,重畳的に占有しているものと解される。
このことを踏まえて,本件紙片を領置するに至った捜査過程について見ると,原審証拠によれば,平成25年10月頃から警視庁管内で会社事務所を狙った侵入窃盗事件が多発し始め,警察が捜査していたところ,翌年に中野警察署管内で発生した侵入窃盗事件について,手口から容疑者として被告人が浮上し,被告人の行動確認をすることになり,本件マンションの管理組合が管理業務を委託している上記マンション管理会社に対し捜査関係事項照会を行って本件マンションに設置された防犯カメラの画像を見せてもらっていた状況で,被告人の出すごみの捜査をすることになり,上記マンション管理会社の指示を受けて,本件マンションにおける同社の管理責任者や上記清掃会社のごみ回収責任者とやり方を協議し,被告人の住戸のあるE階のごみについては,他の階のごみと混ざらないように専用のバッカンに入れて地下1階のごみ置場に下ろし,警察官が管理員のいる警備室を通ってそのごみ置場に行き,上記ごみ回収責任者等が立ち会ってそのごみの確認をするという方法で,平成28年4月8日頃からごみの捜査を行っていたこと,5月16日も,警察官らが警備室で管理員の了解を得て地下1階のごみ置場に行き,E階から回収されたごみのうち,外観から被告人の出したごみの可能性のあるごみ4袋について,上記マンション管理会社の管理員が立ち会って,1袋ずつ開封していき,そのうちの1袋から本件紙片等が発見されたため,立ち会っていた管理員からそのごみ1袋の任意提出を受けて領置した上,そのごみ1袋をその管理員にいったん還付し,改めてその管理員から本件紙片等のみの任意提出を受けて領置したことが認められる。このように,本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は,上記マンション管理会社や清掃会社が占有するに至っていたものであり,本件紙片等を領置するに至ったごみの捜査は,本件マンションの管理業務の委託を受けている上記マンション管理会社が,法律に基づいた権限により行われている公益性の高い犯罪捜査に協力している状況で,更にごみの捜査にも協力することにし,同社の従業員や同社から委託を受けてごみの回収・搬出を行っている上記清掃会社の従業員と協議して行われたものであるから,本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は,その所持者が任意に提出した物を警察が領置したものであり,警察がそのごみ4袋を開封しその内容物を確認した行為は,領置した物の占有の継続の要否を判断するために必要な処分として行われたものであるといえる。
(2)

このようなごみの捜査を行う必要性について見ると,原審証拠によれば,
被告人は,平成25年10月頃から警視庁管内で会社事務所等を狙った侵入窃盗事件が多発し始めていた状況の中,中野警察署管内で発生した侵入窃盗事件の手口からその容疑者と目され,行動確認のための捜査が行われたが,本件マンションには出入口が多数あって被告人が本件マンションを出るのを把握することが遅れて追尾できなかったり,被害発生現場付近まで追尾できるようになってもその付近における被告人の行動から失尾してしまったりするなどの状況から,被告人に対し学校,会社事務所等を狙って多発していた侵入窃盗事件の嫌疑が高まっていたものであり,上記のようなごみの捜査を行う必要性は高かったといえる。また,被告人の捨てたごみの中には,被告人に対する嫌疑がある侵入窃盗事件の被害品の一部や犯行時に犯行現場付近に存在したことを示すような証拠等が混ざっている可能性があるから,上記のようなごみの捜査を行う合理性もあったといえる。
さらに,上記のようなごみの捜査の相当性について見ても,Fの原審証言によれば,上記のようなごみの捜査は,本件紙片を領置した日だけでなく,4月8日頃から被告人逮捕の前日である8月1日頃まで行われていたことが認められるが,上記のとおり,被告人が警察に検挙されないようにする行動を取っていると推測される状況があったことからすると,上記のような証拠になり得る物がごみとして出されるのをとらえるために,ある程度の期間にわたって上記のようなごみの捜査をすることもやむを得なかったといえる。しかも,上記のとおり,警察は,被告人の住戸のあるE階のごみの中から,外観から被告人が出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込んでおり,領置して開封するごみ袋を極力少なくする配慮をしていたのである。これらのことからすると,上記のようなごみの捜査は,相当な方法で行われていたといえる。
本件マンションの居住者等は,ゴミステーションに捨てたごみが清掃会社によりそのまま回収・搬出され,みだりに他人にその内容を見られることはないという期待を有しているものといえるが,このことを踏まえても,本件紙片を領置するに至った捜査は,上記のような必要性があり,その方法も相当なものであったのであるから,警察がその所持者から本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋の任意提出を受けて領置した上,それらのごみ袋を開封してその内容物を確認し,証拠となり得る物と判断した本件紙片等について,改めて任意提出を受けて領置した捜査手続は適法なものといえる。
(3)

弁護人は,本件におけるごみの捜査は,集合住宅の共用部分という私的領
域に排出された物に対して行われており,最高裁平成20年4月15日決定(刑集62巻5号1398頁)が,ごみの占有放棄の重要な要件として公道上のごみ集積所への排出を要求していることからすると,ごみの占有放棄を前提として本件紙片の領置手続を合法とした原裁判所の判断は誤っていると主張する。しかし,上記最高裁決定は,遺留物に関するものであり,所持者が任意に提出した物に関する本件とは事案を異にするものである。
また,弁護人は,本件マンションはオートロック式であり,部外者の立入りが制限されているため,公道に捨てられた場合と比較して第三者がごみにアクセスする可能性が低いことなどに照らしても,プライバシー保護の程度は高いなどとして,本件紙片の領置手続は違法と判断されるべきであると主張する。しかし,本件における上記のようなごみの捜査の必要性の高さやその方法の相当性に照らすと,上記のとおり,本件紙片を領置するに至る捜査手続は適法といえる。
(4)

以上のとおり,本件紙片の領置に至る捜査手続は適法であって,そのほか
に弁護人が主張する点を踏まえて検討しても,同様の判断により本件紙片の証拠能力を認めて証拠調べをし犯罪事実の認定に用いた原裁判所の訴訟手続に法令違反はない。
第2
1
原判示第1の犯罪事実に関する事実誤認の主張について
弁護人及び被告人の主張

その骨子は,本件マンションの被告人以外の居住者,第三者,警察官等が,ごみに本件紙片を混入した可能性があり,被告人が本件犯人であることについて合理的な疑いは払しょくされていないから,被告人が本件犯人であると認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものである。2
原判決の判断の要旨

原判決は,本件の発生について,原審証拠によれば,本件短期大学は,警備会社に警備を委託しており,平成28年5月14日の夜,本館事務室内のセンサーがセットされたが,翌15日午前2時25分頃,何者かが鍵を用いてセンサーを解除したものの,鍵を差しっぱなしにしたため,間もなく警備会社に異状を知らせる信号が発報され,警備会社の警備員が出動してセンサーを解除するなどし,午前4時40分頃,本件短期大学職員が警備員等と共に事務室内を確認したところ,事務室奥の金庫室の施錠が解かれ,金庫室内の金庫の中に入れていた現金が盗まれていたこと,110番通報により臨場した警察官が本件短期大学の敷地内を確認したところ,校庭に設置されたベンチ周辺に,金庫内に保管していた缶箱1個とその中に入れていた封筒51枚が散乱するなどしていたことが認められ,これらのことから,5月15日頃,何者かが金品窃取の目的で本件短期大学本館内に侵入し,現金を窃取したことが認められるとした。
次に,原判決は,本件紙片の領置について,原審証拠によれば,5月16日正午頃,被告人の住戸のある本件マンションE階のゴミステーションに捨てられたごみとして回収されたごみ袋の一つの中に,プラスチック容器等のごみと共に,本件紙片,受取人欄に被告人の名前が記載された宅配便の伝票,被告人の名前が記載されたクリーニングの納品票,タクシーのレシートが入っていたことが認められ,このような本件紙片の発見状況からすると,本件紙片は,被告人方からE階のゴミステーションにごみとして捨てられたものと推認することができるとした。他方で,原判決は,本件短期大学の会計課に勤務する職員の原審証言等の原審証拠によれば,その職員が,5月13日に本件短期大学の券売機から回収した紙幣を券種ごとにまとめ,このうち千円札の束に本件紙片を一緒にして輪ゴムでとめて,オレンジ色封筒に入れて,現金が盗まれた上記金庫に保管したこと,本件後,その金庫には,現金が入っていない状態でそのオレンジ色封筒が残されていたことが認められ,これらのことからすると,上記金庫内に入れられていた本件紙片は,本件犯人により現金と共に持ち去られたものと推認することができるとした。原判決は,以上のことから,本件紙片については,被告人が本件犯行の際に現金と共に上記金庫内から持ち去り,自宅に持ち帰ってこれをごみとして捨てたものであり,被告人が本件犯人であると推認でき,このことなどから,原判示第1の犯罪事実が認定できるとした。
3
当裁判所の判断

原判決の判断は,経験則等に照らして合理的なものであり,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認はない。
以下,弁護人及び被告人の主張を踏まえて補足して説明する。
(1)

原審証拠によれば,本件紙片は,本件短期大学の職員が,券売機から回収
した紙幣を金庫に保管するに当たり,券種ごとに分けるなどした上,券種,枚数,合計金額を記載して,千円札をまとめた束の上に乗せて輪ゴムで束ね,他の券種も同様にし,それらをまとめてオレンジ色封筒に入れていたところ,本件犯人が本件当日未明にそのような状態の現金をその封筒から抜き取って盗み去ったものであること,他方で,本件翌日の正午頃,被告人が単身で居住している被告人方のごみの中に本件紙片が入っていたことが認められ,これらのことからすると,被告人が本件紙片をごみとして捨てたもので,被告人が本件犯人と推認することができる。(2)

弁護人は,被告人の住戸のある本件マンションのE階には12もの住戸が
あり,E階のゴミステーションのごみの中から被告人のごみを選別するのは不可能であり,また,地下1階のごみ置場には施錠もなく,第三者が接近して本件紙片をごみ袋に混入させることも容易であるから,被告人が本件犯人であるとすることには合理的な疑いがあると主張する。
しかし,本件紙片が入っていたごみ袋には,被告人宛ての宅配便の配達伝票や被告人宛のクリーニングの納品書という被告人方のごみであることを示す物が複数入っていたのであるから,被告人以外の第三者が捨てたごみである可能性も,第三者がこれら全てを入手して混入させた可能性もないといえる。
また,弁護人は,本件紙片が入っていたごみ袋を開封してその内容物を確認した際の本件マンションの管理責任者の立会いは極めて形式的なものであり,捜査が行き詰まったことに焦った警察官が,本件紙片をごみ袋に混入させた可能性も否定することができないと主張する。
しかし,原審証拠によれば,本件短期大学の職員が,本件当日午前4時40分頃に本件被害を確認し,その頃110番通報し,K警察署の警察官が本件短期大学に来て,午前6時55分頃から午前8時33分頃まで,現金が盗まれた金庫室等の実況見分が行われ,その際に上記オレンジ色封筒が領置され,午前9時18分頃には,本件短期大学の校庭に遺留されていた缶箱や封筒が発見されて領置されたことが認められるが,このようなK警察署の警察官による捜査が行われている状況において,警視庁の警察官が本件短期大学に行って,勝手に,あるいは本件短期大学の職員の協力を得て,本件紙片を持ってくるということは考えられず,また,K警察署の警察官の協力を得て本件紙片を入手するということはかなりの大事であり,110番通報により捜査をしているK警察署の警察官がそのようなことに協力するとは考えられず,原判決が説示するとおり,警視庁の警察官が,本件当日早朝から翌日正午頃までの間に,本件の発生を知り,被告人にその罪をかぶせるために本件紙片を入手し,本件翌日の正午頃に行われたごみの捜査の際に,ごみ袋に本件紙片を混入させた可能性はないといえる。
以上のことからすると,そのほかに弁護人及び被告人が主張する点を踏まえて検討しても,被告人が本件犯人と推認することができるのであって,同趣旨の判断により原判示第1の犯罪事実を認定した原判決に事実の誤認はない。第3
1
原判示第2の犯罪事実に関する事実誤認の主張について
原判決認定の犯罪事実

その要旨は,被告人が,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成28年8月2日午後9時52分頃,東京都新宿区内の地下鉄丸ノ内線新宿三丁目駅地下通路上において,指定侵入工具であるバール1本をバッグ内に隠して携帯したというものである。
2
弁護人及び被告人の主張

その骨子は,被告人が本件バールを所持していたのは,捜査機関による執ようで必要性をはるかに超えた追尾捜査等の過剰な網羅的捜査に対する抗議の意思を示すためであり,このことを認定せず,あるいは,このことが正当な理由になるか判断を避けた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものである。
3
原判決の判断の要旨

原判決は,原審証拠によれば,被告人は,本件当日午後9時43分頃,通常逮捕され,本件現場において逮捕に伴う捜索差押が行われたが,その際,所持していた肩掛けバッグ内からライト,電池,リュックサック,マスクと共に本件バールが発見されたことが認められ,このことからすると,被告人が指定侵入工具である本件バールを隠して携帯していたことは明らかであるとした。
また,原判決は,本件バールの携帯の理由について,原審証拠によれば,被告人がバールを使用するような職業に就いていたことがうかがわれない上,被告人は,尾行してくる警察官にバールを持っていることを見せ付け,自分を逮捕する理由を与えるために本件バールを携帯していたと供述をしているが,原審証拠によれば,被告人は,本件当日午後2時47分頃,本件バール等が入っていた上記肩掛けバッグを新宿三丁目駅近くのコインロッカーに預け入れ,いったん帰宅した後,そのコインロッカーからその肩掛けバッグを取り出し,JR新宿駅方向に歩き出したところで上記のとおり通常逮捕されたものであることが認められ,このような被告人の行動からすると,本件バールを持っていることを警察にアピールしようとするような素振りは全く認められず,被告人の供述は信用できないとした。以上のことから,原判決は,原判示第2の犯罪事実が認められるとした。4
当裁判所の判断

原判決の判断には,経験則等に照らして不合理なところはなく,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認はない。
以下,弁護人及び被告人の主張を踏まえて補足して説明する。
原審証拠によれば,原判示のとおり被告人が指定侵入工具である本件バールを隠して携帯していたことが認められる。
このように本件バールを携帯していたことについて,被告人は,原審公判において,警察から過剰な捜査を受けていたことから,警察に逮捕させようとして本件バールを携帯していたなどと供述しているが,警察による過剰な捜査に対する抗議の意思を示すためであっても,指定侵入工具を携帯する正当な理由にはならない上,被告人が,本件当日の日中,夜間建物に侵入するのに有用なライト,リュックサック,マスク等と共に本件バールが入った肩掛けバッグをコインロッカーに預け入れた上,夜になって,その肩掛けバッグをコインロッカーから持ち出したものであることからすると,その肩掛けバッグに入っているものを使用する目的でそれをコインロッカーから持ち出したものと推認でき,被告人の上記供述は,このことと整合せず,信用できない。以上のことからすると,本件バールを携帯する正当な理由はなかったものと認められる。
したがって,同様の判断をして原判示第2の犯罪事実を認定した原判決に事実の誤認はない。
第4

結論

以上のとおり,本件控訴の趣意はいずれも理由がないので,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入する。
(裁判長裁判官

秋葉康弘

裁判官

矢数昌雄
裁判官

坂田威一郎)

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