事件番号 | 平成29(行ウ)577 |
---|---|
事件名 | 措置期間継続決定処分取消請求事件 |
裁判年月日 | 平成30年11月14日 |
裁判所名 | 東京地方裁判所 |
判示事項 | 児童福祉法28条2項ただし書に基づく措置期間の更新に係る家庭裁判所の承認の審判が確定した場合における,同条3項本文に基づく措置継続の処分の取消しを求める訴えの利益 |
裁判要旨 | 児童福祉法28条2項ただし書に基づく措置期間の更新に係る家庭裁判所の承認の審判が確定したときは,同条3項本文に基づいてされていた措置継続の処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。 |
裁判日:西暦 | 2018-11-14 |
情報公開日 | 2019-02-27 16:00:26 |
平成29年(行ウ)第577号 措置期間継続決定処分取消請求事件 主文12 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 東京都児童相談センター所長が児童福祉法28条3項本文に基づいてした,Aを児童養護施設に入所させる措置を平成29年3月1日から同措置の期間の更新に係る承認の申立てに対する家庭裁判所の審判が確定するまでの間引き続 き採る旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,東京都児童相談センター所長が,A(平成13年▲月▲日生まれ。以下本件児童という。)について,児童福祉法28条1項1号に基づき, 家庭裁判所の承認を得た上で,同法27条1項3号に基づく児童養護施設に入所させる措置(以下本件入所措置という。)を採り,その措置の期間が同法28条2項本文所定の2年を経過するに当たり,同項ただし書に基づく家庭裁判所に対する当該措置の期間の更新に係る承認の申立て(以下本件承認の申立てという。)をするとともに,同条3項本文に基づき,当該申立てに対 する審判が確定するまでの間, 引き続き本件入所措置を採る旨の処分 (以下 本件処分という。)をしたところ,本件児童の保護者である原告が,本件処分について,同項本文のやむを得ない事情があるとは認められず違法であるとして,その取消しを求める事案である。 被告は,本件訴えの提起後に,本件承認の申立てに対する家庭裁判所の承 認の審判(以下本件審判という。 )が確定し,本件処分の効力は消滅した から,本件訴えについての訴えの利益は失われたとして,本件訴えは不適法であり却下すべきである旨の主張をしている。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により認められる。)(1) 原告について 原告は,本件児童の母であり,本件児童の父とは,平成21年▲月▲日に 本件児童の親権者を原告と定めて離婚し,以降も保護者として本件児童を監護していた者である。 (2) ア 本件入所措置及び本件処分に至る経緯 東京都児童相談センター所長は,平成25年12月25日,本件児童を一時保護し,平成26年1月29日に当該一時保護を解除したが,同年4 月8日,本件児童を再び一時保護した。 イ(ア) 東京都児童相談センター所長は,平成26年8月20日,東京家庭 裁判所に対して,児童福祉法28条1項1号に基づき,本件児童を児童養護施設に入所させる措置を採ることを承認する旨の審判を求める申立てをした。 東京家庭裁判所は,平成27年2月13日,上記措置を採ることを承 認する旨の審判をし,同審判は,同月28日に確定した。 (イ) 東京都児童相談センター所長は,上記(ア)の家庭裁判所の承認を得 て,平成27年3月1日,本件入所措置を採った。 ウ(ア) 東京都知事は,平成28年11月30日付けで,東京都児童福祉審 議会に対し,本件入所措置の期間の更新に係る承認の申立てをすることの適否を諮問したところ,同審議会は,同日付けで,これを適当とする旨の答申をした(乙3)。 (イ) 東京都児童相談センター所長は,平成29年2月27日,東京家庭 裁判所に対して,児童福祉法28条2項ただし書に基づき,本件入所措置の期間をその満了日の翌日である同年3月1日から更新することを承認する旨の審判を求める本件承認の申立てをした。 (ウ) 東京都児童相談センター所長は,児童福祉法28条3項本文に基づ き,平成29年3月1日から本件承認の申立てに対する審判が確定する日までの間,引き続き本件入所措置を採る旨の本件処分をし,同年8月23日付けで,原告に対し,本件処分の通知をした(甲7)。 (3) ア 本件審判の経過等 東京家庭裁判所は, 平成29年10月25日, 本件承認の申立てに対し, 本件入所措置の期間を同年3月1日から更新することを承認する旨の本件審判をした。 イ 原告は,平成29年11月6日付けで,東京高等裁判所に対し,本件審判に対する即時抗告をした。 ウ 原告は, 平成29年12月20日, 本件訴えを提起した (顕著な事実) 。 エ 東京高等裁判所は,平成29年12月21日,上記イの即時抗告を棄却する旨の決定をした。 オ 原告は, 上記エの決定に対し, 特別抗告及び許可抗告の申立てをしたが, 東京高等裁判所は, 平成30年1月29日, 当該許可抗告の申立てに対し, これを許可しない旨の決定をし,最高裁判所は,同年3月19日,当該特別抗告に対して,これを棄却する旨の決定をした。 カ 東京都児童相談センター所長は,平成30年5月23日付けで,原告に対し,本件入所措置の期間を平成29年3月1日から平成31年2月28日まで更新する旨の通知をした(乙25)。 2 本案前の争点及びこれに関する当事者の主張の要旨 本件における本案前の争点は, 本件訴えについての訴えの利益の有無である。 (被告の主張) 児童福祉法28条3項本文による措置継続の終期は,同条2項ただし書の規 定による措置期間の更新に係る承認の申立てに対する審判が確定した日であり,当該審判確定日の経過によって,その効力は直ちに消滅するところ,本件審判は,平成29年12月21日にその即時抗告を棄却する旨の決定がされたことにより確定しているから,本件処分の効力は,同日の経過によって消滅している。 したがって,本件処分の効力は既に消滅し,また,その消滅後において本件処分の取消しにより回復すべき法律上の利益も存しないから,本件訴えについ ての訴えの利益は認められない。 (原告の主張) 児童福祉法28条2項ただし書による措置期間の更新が適法といえるためには,その更新の時点(更新に係る承認の審判が確定した時点)において,当該措置が適法に継続している必要がある。 そのため, 本件処分が取り消されれば, 本件審判が確定した時点での本件児童の入所措置の根拠がなくなり,その結果, 同項ただし書による措置期間の更新はできないこととなり,当該更新は違法となるから,現在も,本件処分の取消しにより回復すべき法律上の利益が存在しており,本件訴えについての訴えの利益が認められる。 第3 当裁判所の判断 1(1) 児童福祉法28条2項は, その本文において, 同条1項1号及び2号ただ し書の規定による措置(家庭裁判所の承認を得て採る同法27条1項3号の入所等の措置)の期間は,当該措置を開始した日から2年を超えてはならない旨を定め,そのただし書において,当該措置に係る保護者に対する指導措置の効果等に照らし, 当該措置を継続しなければ保護者がその児童を虐待し, 著しくその監護を怠り,その他著しく当該児童の福祉を害するおそれがあると認めるときは,都道府県は,家庭裁判所の承認を得て,当該期間を更新することができる旨を定める。 また,児童福祉法28条3項本文は,都道府県は,同条2項ただし書の規 定による更新に係る承認の申立てをした場合において,やむを得ない事情があるときは,当該措置の期間が満了した後も,当該申立てに対する審判が確定するまでの間,引き続き当該措置を採ることができる旨を定める。(2)ア 以上のとおり, 児童福祉法28条3項本文による措置継続は, 同条2項 ただし書の規定による措置期間の更新に係る承認の申立てをすることを前提とし,当該申立てに対する審判が確定するまでの間に限って行うことができるとされているところ,その趣旨は,家庭裁判所に対する承認の申 立てをしてからその申立てに対する審判が確定するまでの間に生じる時間的な間隙を埋め,家庭裁判所が期間更新を承認する措置を間断なく行うことができるようにする点にあると解される。 このような児童福祉法28条3項本文の規定内容及びその趣旨,同条2項ただし書による措置期間の更新と同条3項本文による措置継続との制 度的な関係に鑑みれば,同条2項ただし書の規定による措置期間の更新に係る承認の申立てに対して,これを承認する審判が確定した場合には,その確定の時点において,同条3項本文による措置継続の効力が消滅するとともに,その確定の時点から,期間更新が承認された措置を開始することができる(措置期間を更新する旨の別段の決定等を要しない。)と解する のが相当である。 イ そして,児童福祉法28条2項ただし書による措置期間の更新は,当該措置を継続しなければ著しく当該児童の福祉を害する等のおそれがあると認められる場合になされるものであり,相当期間の継続性が予定されて いるといえるのに対し,同条3項本文による措置継続は,家庭裁判所による審判が確定するまでの間の暫定的なものであって,両者は,上記アのとおりの関連性を有するものの,その趣旨や目的を異にするものであるといえる。このことに加え,同条2項ただし書の規定上,同条3項本文により継続された措置が適法・有効であることが,措置期間の更新ないしその承 認の要件とはされておらず,家庭裁判所による審判において同条3項本文により継続された措置の適法性・有効性が審理・判断されることは予定されていないこと,また,少なくとも同条2項ただし書の家庭裁判所による承認が得られて以降は,措置を採るべき実体的要件が備わっているとの司法判断がされており,当該措置を採ることの正当性が付与されているということができることからすれば,同条2項ただし書による措置期間の更新は,同条3項本文により継続された措置の適法性・有効性を前提とするも のではなく,したがって,仮に,同条3項本文に基づく措置継続の処分が取り消されたとしても,それにより同条2項ただし書による措置期間の更新の適法性・有効性に影響を及ぼすものではないと解される。 そうすると, 同条3項本文による措置継続の効力が消滅した後においては,その措置継続の処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があるということは できない。 (3) 本件においては,前記前提事実(3)エのとおり,本件審判は,これに対す る即時抗告が棄却されたことにより確定しているから,本件処分の効力は消滅しており,また,その後において本件処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があるということもできない。 2 以上によれば,本件訴えは,その訴えの利益が失われたというべきであり,不適法であるから,これを却下することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 古田孝夫 裁判官 中野晴行 裁判官 古屋勇児 |