判例検索β > 平成30年(わ)第692号
死体損壊
事件番号平成30(わ)692
事件名死体損壊
裁判年月日平成30年12月11日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第2部
裁判日:西暦2018-12-11
情報公開日2019-02-26 10:01:10
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主文
被告人を懲役1年6月に処する
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aと共謀の上,平成30年2月24日午後6時57分頃から同月25日午前8時48分頃までの間に,愛知県稲沢市内の土地において,前記Aがあらかじめ切断するなどしていた被害者(当時28歳)の死体の頭部,上腕部及び胸部等を同所に設置されたドラム缶に入れて焼却し,もって死体を損壊した。
(証拠の標目)
記載省略
(事実認定の補足説明)
1
争点
本件では,死体損壊の客観的事実には争いがなく,争点は,被告人に死体損壊の故意が認められるか否かである。当裁判所は,被告人に少なくとも未必的故意があったと認めたので,その理由について説明する。

2
前提となる事実
次の事実は当事者間に争いがなく,証拠によって優に認めることができる。A,被告人及び被害者との関係
Aは,人材派遣会社の実質的経営者であり,被告人は,大学在学中の平成29年10月頃から同社で働いていた。被害者は,Aの知人で,被告人も面識があった。
A及び被告人による死体損壊事実
Aは,平成30年2月17日から同月22日にかけて,刃物店で洋出刃
包丁等4本の刃物を購入し,同月23日,名古屋市内のマンションa303号室内に呼び寄せられた被害者に対し,Bらと共に暴行を加えた上,被害者を車に乗せて立ち去った。
本件犯行後に同市c区所在のマンションb101号室から採取された血痕のDNA型が,被害者のそれと一致した。マンションbは,被告人がAの指示で賃貸借契約を結んだマンションである。
被告人は,同月24日から同月25日にかけて,Aの指示で,マンションbから判示ドラム缶(以下本件ドラム缶という。)及びその付近の自宅まで3回にわたって自宅のトラック及びハイエース(以下,単にトラック等という。)で荷物を運び,Aとともに,これらを本件ドラム缶で焼却するなどした(本件犯行)。本件犯行後に本件ドラム缶周辺から採取された残焼物や土砂には,人の頭部,上腕部及び胸部の骨片が混ざっていた。
これらの事実によれば,判示のとおり,被告人とAが,同人においてあらかじめ切断するなどしていた被害者の死体の頭部,上腕部及び胸部等を本件ドラム缶に入れて焼却したことが認められる。
本件犯行前後の被告人の行動等

同月13日,Aが,会社事務所において,Cの前で前記Bと電話している際に,被告人はその場に立ち会っていた。このとき,Aは,怒った様子で,被害者を探している,情報があれば回してほしいなどと言っており,被告人は,Aの指示で,前記Cと被害者との間のライン履歴を確認した。


同月20日,被告人は,Aの指示で部屋を探し,マンションbの賃貸借契約を締結した。


同月21日,Aと被告人は,冷蔵庫1台を購入し,マンションbに運んだ。


同月23日夕刻,被告人は,交際相手や会社の管理職に対し,Aの指示で動くことになったこと,Aから3日間誰にも連絡を取るなと言われたことなどを伝え,ホテル等で待機した。


同月24日午後,被告人は,Aの指示で2t車くらいのレンタカーを探したが見つからず,自宅のトラックで,Aの指示に従ってマンションbに向かった。その途中,Aの指示で,冷凍庫1台を購入し,マンションbに運んだ。


同日夕方のマンションb到着後,同月25日朝までの間,被告人は,Aの指示で,マンションbから出たごみなどの荷物をトラック等に積んで自宅付近の本件ドラム缶まで運ぶことを3回繰り返した。
本件ドラム缶は,被告人の自宅の約117m先にある家族の所有地に設置され,家族が野焼きに使用していたものであり,その周辺は田畑で,最も近い民家から約56m離れている。被告人は,マンションbから出たごみを燃やしたいというAの要望を受けて,本件ドラム缶の提供を申し出て,Aが立ち会う中,本件ドラム缶でこれらのごみを焼却した。


同月25日午前9時頃,Aと被告人は,稲沢市内のホームセンターに行き,厨房ブリーチ5kg2個及びキッチンハイター業務用等を
購入した。
その後,同日夕方までの間,被告人は,Aの指示で,マンションbから自宅に運んだ冷蔵庫を洗うなどした。本件犯行後,冷蔵庫及び冷凍庫が被告人の自宅の倉庫で発見され,冷蔵庫内から採取された血痕のDNA型が被害者のそれと一致した。


同日夜,被告人は,交際相手と食事に行った際,Aの依頼で行っていた作業(本件犯行)について,中国人によるスロット台の改造で出た部品等を片付けていたと説明し,その中に肉のようなものもあった旨話し
た。また,このとき,被告人は,交際相手に対し,Aから,何かついているといけないので服や靴,携帯電話を捨てて車を掃除しておくよう言われた旨話した。

同月27日,被告人は,Aの指示で,名古屋市c区内のドラッグストアでパイプユニッシュ2個及びキッチンハイター大1500ml
等を購入し,排水管等も含めてマンションbを掃除し,壁紙をはがした。同日,被告人は,Aの指示で,リフォーム業者を探し,同年3月1日,リフォーム業者がマンションbに壁紙張り替えの見積もりに行ったところ,玄関,キッチン,リビング,クローゼット内まで壁紙がすべてはがされていた。このとき,被告人は,リフォーム業者に対し,床材も全部はがして張り替え,古い床材は自分で処分するのでそのままにするよう指示した。
同月14日,マンションbに警察が来たことを聞いた被告人は,リフォーム業者に対して,警察には何も言わないよう口止めをした上,費用を倍額支払うのでマンションbの床をめくるよう依頼したが,断られた。
3
検討
検察官の主張について
検察官は,被告人が,本件犯行前に,Aが被害者に対する殺意を有し,暴力的な手段を用いて連行しようとしていたことを知っていて,Aから本件犯行の計画を聞いており,Aとの間で事前共謀が成立していた旨主張する。
しかし,前記2

アのとおり,Aが被害者に腹を立ててその行方を捜

していることを被告人が知ったにしても,そこから直ちにAの殺意や暴力的手段による連行の企てを知っていたとはいえない。検察官は,これに先立つ平成29年12月29日頃,会社の従業員がAの指示で被害者を拉致しようとしたことを,被告人が別の従業員から聞いて知っていた
旨主張するが,その依拠する証拠によっても,被告人は夜中に電話で1分ほど話を聞いたにすぎず,聞いたのかもしれないが記憶がない旨の被告人の弁解を無下に排斥することはできない(なお,被告人が会社の従業員から拉致計画を聞いた直後にAに電話をし,Aが前記従業員に心配するなと電話をしてきた事実はあるが,そこから直ちにAや被告人の意図ないし認識が明らかになるものでもない。)。また,検察官は,本件犯行当時,被告人はAの腹心といえる立場にあった旨主張するが,本件犯行に関して,被告人は,Aの指示で使い走りをしていたが,本件犯行に先立つ被害者の呼出しや暴行については一切関知しておらず,Aからすべてを打ち明けられるような関係にあったとまで認めるに足りる証拠はない。
検察官が主張する事前共謀は認められない。
本件犯行時の被告人の認識について

本件ドラム缶で被害者の死体を焼いた際には,独特の異臭がしたはずである。現に,近隣住民によれば,本件犯行当夜の平成30年2月24日深夜から翌25日未明にかけて,屋外で不快な異臭がした。被告人の携帯電話の解析結果によれば,被告人は,同月24日18時57分頃から19時26分頃まで,22時27分頃から翌25日零時21分頃まで(うち合計22分程度は自宅),5時4分頃から8時14分頃まで,死体を焼いている本件ドラム缶付近にいたのであるから,当然,異臭に気付いたはずである。被告人は,異臭はしなかった旨供述するが,不合理で信用できない。
また,前記2

のとおり,被告人は,同月25日夜,交際相手に

対して,肉のようなものがあった旨話している。
これらの事実からすれば,少なくとも,被告人が,本件犯行時に,燃やしているものが死体かもしれないという程度には十分認識するこ
とができたものと認められる。
なお,被告人は,マンションbと本件ドラム缶を3回往復したうちの3回目にはマンションb室内に入ったというのであり,後日,Aの指示で壁紙を全部はがしたり,床の張り替えを依頼したりしていることからすれば,同室内に血痕が残っていた可能性は高く,被告人がこれを目にしていれば,マンションbから運んで燃やしているものに死体が含まれていることを容易に認識できたはずである。もっとも,当時の室内の血痕の状況は不明であり,本件犯行が事前共謀に基づくものでない以上,目につくような血痕はAがぬぐい取っていた可能性も否定できない。したがって,被告人が本件犯行の際にマンションbに立ち入ったことをもって,被告人の認識を裏付ける事情とすることはできない。

加えて,前記2

のように,被告人は,Aから,3日間誰にも連絡

を取らずホテルで待機するという特異な指示を受けた上,Aの指示で,冷蔵庫及び冷凍庫を順次購入し,Aが直前に被告人名義で借りたマンションbに,これらを一旦運んだ後,同室から出たごみを燃やし
たいとのAの特異な要望により,今度はこのごみとともに冷蔵庫
及び冷凍庫をマンションbから自宅に運び,Aと一緒に本件ドラム缶で一晩かけてこのごみを焼き,服や靴,携帯電話機を捨てて車を
掃除し冷蔵庫を洗うようAから指示を受け,ごみの焼却直後にA
と一緒にホームセンターで多量の洗剤等を購入している。このような本件犯行前からの一連の事情と前記アの事情を併せ見れば,被告人において,マンションbから運んで燃やしたものが普通のごみであ
るとは考え難く,死体ではないかという疑いを持つのが当然だといえる。
そして,その後も,被告人はAから,賃貸借契約を結んだばかりの
マンションbについて,壁紙を全部はがしたり,ホームセンターで購入した洗剤等に加えてドラッグストアで洗剤を買い足し排水管まで掃除をしたり,リフォーム業者に床をめくって張り替えるよう依頼して古い床材はこちらで処分するなどという特異な指示を受けながら,理由を聞くこともなくこれに従い,マンションbに警察が来たことを聞くや,Aの指示でリフォーム業者に口止めをし,費用を倍額払うので床をめくるよう依頼している。このことは,被告人が,本件犯行時に,マンションbから運んで本件ドラム缶で焼いたごみが死体である
ことを認識,認容した上で,Aの指示に従って,マンションb内の血痕等の隠ぺい工作を行ったこととよく整合する。

以上の事実によれば,被告人は,少なくとも本件犯行時に,死体かもしれないと認識しながら,あえてこれを焼却した,すなわち死体損壊の未必的故意を有していたものと認められる。
弁護人の主張について
これに対し,被告人は,マンションbから運んで燃やしたごみの

中身について,中国人が関与するスロット台の部品だとAから聞いており,逮捕されるまで死体とは知らなかった,知っていれば本件ドラム缶やトラック等を提供しなかった旨弁解し,弁護人も,被告人には死体の認識がなかったので死体損壊の故意がなく無罪である旨主張する。確かに,マンションbから運んで燃やすものが死体であると事前にわかっていれば,よほどの事情がない限り,被告人が,あえて本件ドラム缶やトラック等を提供することはなかっただろうといえる。しかし,被告人が,事情を知らされないままに本件ドラム缶やトラック等を提供した後,本件犯行時に,異臭と肉のようなものを見たことで,死体かもしれないと認識したが,もはや後戻りできず,そのまま焼却を続け,Aの指示に従って冷蔵庫の洗浄,マンションbの清掃及びリフォーム等の隠
ぺい工作を行ったということは,十分あり得ることで,前記2

の本件

犯行前後の経緯にも整合的である。逮捕されるまで死体とは知らなかっ
不自然で信用できない。
また,マンションbから運んで燃やしたごみの中身は,中国人が
関与するスロット台の部品だとAから聞いていたという点については,Aが,被告人に対してそのように虚偽の説明をしたことはあったかもし
ある上,機械の部品を燃やすのと死体を燃やすのとでは,臭いや残焼物の状況が明らかに異なるはずであるから,本件犯行時には,Aの前記説明が虚偽であることが,被告人にも容易に理解できたはずである。したがって,被告人の上記弁解供述は,故意の認定を妨げるものとはいえない。
弁護人は,被告人が,本件犯行時や犯行直後に,交際相手や家族と普通にやり取りをしていることや,Aに服や靴等の処分を指示されながら処分しなかったことは,被告人に死体の認識がなかった証左である旨主張する。しかし,犯罪を犯した者は,周囲に気取られないよう平静を装うのが通常であろうし,犯行前後で犯人の言動に明らかな変化が生じたり,周囲の者が変化を感じたりするとは必ずしもいえない上,死体かもしれないという程度の未必的認識である場合には,被告人の態度が普段と変わらず,被告人において服や靴等を処分する必要性を感じなかったとしても不思議ではない。
その他,弁護人指摘の諸事情を検討してみても,前記認定判断を左右するような事情は見当たらない。弁護人の主張は理由がない。
4
結論
以上のとおり,被告人は,少なくとも本件犯行時において,死体損壊
未必的故意を有していたものと認められる。
そして,Aが,本件犯行時,一晩かかった本件ドラム缶での死体焼却に被告人とともに立ち会った上,明らかな各種隠ぺい工作を被告人に指示し,被告人が理由も聞かずに応じていることからすると,遅くとも本件犯行時に,Aと被告人との間で死体損壊の黙示の共謀が成立していたことが優に認められる。
(法令の適用)
罰条
刑法60条,190条

未決勾留日数の算入

刑法21条

刑の全部執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
共犯者が切断するなどした死体を骨片に至るまで焼却しており,本件犯行における死体損壊の程度は顕著である。被告人は,犯行手段を提供し,共犯者とともに実行行為を行ったもので,本件犯行に不可欠な重要な役割を果たしており,その責任は軽くない。しかしながら,被告人は,死体損壊の故意を否認しており,自らの行為に向き合うことができておらず,反省の態度は乏しい。死者の遺体に別れを告げることもできなかった遺族が,被告人ら関係者に対する厳重処罰を求めるのも無理はない。
他方で,被告人は,当時の勤務先の実質的経営者である共犯者の指示に従っているうちに本件犯行に関与することとなり,本件犯行時に,燃やしているのは死体かもしれないという未必的認識を有するに至ったものの,もはや後戻りできず犯行を遂行し,共犯者の更なる指示に従って隠ぺい工作を行うなど,共犯者に利用された側面が強く,その立場は明らかに従属的で,犯行への関与は受動的といえる。また,被告人に前科は見当たらない。そうすると,被告人に対しては,主文の刑に処した上,刑の執行を猶予して社会内における更生の機
会を与えるのが相当である。
(求刑

懲役2年6月)
平成30年12月11日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判官齋藤千恵
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