判例検索β > 平成27年(ワ)第29819号
正社員の地位確認等請求事件
事件番号平成27(ワ)29819
事件名正社員の地位確認等請求事件
裁判年月日平成30年9月11日
裁判所名東京地方裁判所
分野労働
裁判日:西暦2018-09-11
情報公開日2019-02-14 10:01:08
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平成30年9月11日判決言渡
本訴平成27年(ワ)第29819号正社員の地位確認等請求事件(以下甲事件本訴という。),反訴平成28年(ワ)第32270号損害賠償反訴請求事件(以下甲事件反訴という。),平成27年(ワ)第21599号雇用関係不存在確認請求事件(以下乙事件という。)
主1文
甲事件本訴の訴えのうち,本判決確定の日の翌日以降の賃金及びこれに対す
る遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2
原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3
被告は,原告に対し,平成27年▲月から本判決確定の日まで,毎月20日
限り1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4
被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成27年9月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告のその余の甲事件本訴請求をいずれも棄却する。
6被告の甲事件反訴請求を棄却する。
7乙事件の訴えを却下する。
8
訴訟費用は,甲事件本訴反訴及び乙事件を通じ,これを4分し,うち3を原
告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
(本訴)
⑴ア
主位的請求
(ア)原告が,被告に対し,正社員として労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。(イ)a主位的請求中の主位的請求
(a)被告は,原告に対し,448万8000円及び別紙別表1中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(b)被告は,原告に対し,平成27年▲月から毎月20日限り,48
万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
b
主位的請求中の予備的請求
(a)被告は,原告に対し,337万4800円及び別紙別表2中差額欄記載の額に対する各支払日欄の日の翌日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
(b)被告は,原告に対し,平成27年▲月から毎月20日限り,41万2800円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

予備的請求
(ア)主文2項と同旨。
(イ)被告は,原告に対し,平成27年▲月から毎月20日限り,10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。



被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(反訴)
原告は,被告に対し,330万円及びこれに対する平成27年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2乙事件
原告が,被告に対し,平成27年9月2日以降,雇用契約上の権利を有する地位にないことを確認する。第2事案の概要
1事案の要旨


訴え提起前の経緯
原告は,平成20年7月,被告との間で無期労働契約を締結し(以下本件正社員契約という。),被告から正社員として雇用された。原告は,平成25年▲月▲日,子を出産し,その後,育児休業を開始したが,育児休業終了日である平成26年9月1日,被告との間で,期間1年,1週間3日勤務の契約社員となる有期労働契約(以下本件契約社員契約という。)を内容とする雇用契約書を取り交わした(以下,これにより原告
と被告との間で成立した合意を本件合意という。)。原告は,同月2日,1週間3日勤務の条件で被告に復職したが,その後間もなくから,被告に対し,正社員に戻すよう求めた。しかし,被告は,これに応じなかった。⑵

乙事件
被告は,原告に対し,平成27年7月頃,本件契約社員契約を更新しない
旨通知し,同年8月,乙事件の訴えを提起した。
乙事件は,被告が,原告に対し,本件契約社員契約は,同年9月1日,期間の満了により終了すると主張して,原告が被告に対して同月2日以降雇用契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めた事案である。⑶

甲事件本訴
他方,平成27年9月1日,本件契約社員契約の期間満了日とされていた日が経過し,原告は,同年10月,甲事件本訴を提起した。
甲事件本訴は,原告が,被告に対し,


本件合意によっても本件正社員契約は解約されておらず,又は,本件合意が本件正社員契約を解約する合意であったとしても,本件合意は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下均等法という。)及び育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成28年法律第17号による改正前のもの。以下育介法という。)に違反する,原告の自由な意思に基づく承諾がない,錯誤に当たるなどの理由により無効であり,本件正社員契約はなお存続すると主張して,本件正社員契約に基づき,正社員としての労働契約上
の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,平成26年9月分から平成27年8月分までの未払賃金(ただし,別紙別表1のとおり,本件正社員契約に基づく賃金と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額。)合計448万8000円及び平成27年▲月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月48万円並びにこれらに対する各支払日の翌日から
支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(主位的請求中の主位的請求)


仮に本件合意によって本件正社員契約が解約されたとしても,原告と被告は,本件合意において,原告が希望すればその希望する労働条件の正社員に戻れるとの停止条件付無期労働契約を締結したと主張して,原告の希
望した所定労働時間の短縮された無期労働契約(以下本件時短正社員契約という。)に基づき,正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,平成26年10月分から平成27年8月分までの未払賃金(ただし,別紙別表2のとおり,本件時短正社員契約に基づく賃金〔本件正社員契約に基づく賃金に0.86を乗じた金
額。〕と本件契約社員契約に基づく既払賃金との差額。)合計337万4800円及び平成27年▲月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月41万2800円並びにこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(主位的請求中の予備的請求)



仮に原告の被告に対する正社員としての地位が認められないとしても,被告がした本件契約社員契約の更新拒絶は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないと主張して,本件契約社員契約に基づき,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,平成27年▲月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年
6分の割合による遅延損害金の支払を求め(予備的請求)


被告が原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であると主張して,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びにこれに対する不法行為の後の日(本件契約社員契約の期間満了日の翌日)である平成
27年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
た事案である。


甲事件反訴
さらに,原告は,平成27年▲月,甲事件本訴を提起した日に,記者会見
を行った(以下本件記者会見という。)。
甲事件反訴は,被告が,原告に対し,原告は,本件記者会見の席において,内容虚偽の発言をし,これにより被告の信用等が毀損されたと主張して,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びにこれに対する不法行為の日(本件記者会見の日)である同年▲月▲
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2
前提事実(争いのない事実又は後掲の証拠〔枝番のあるものは特に断らない
限り枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴

当事者等

被告は,(省略)スクールであるAと,(省略)スクールであるDの運営等を主たる事業とする株式会社である。原告が在籍していた当時,被告の従業員は約20名弱であり,このうち原告と同じコーチ職の従業員は約12名であった。
被告代表者は,昭和49年▲月生まれの女性である。被告は,被告代表者の亡夫が設立した会社であり,被告代表者は,平成23年に夫が死亡し
た後,被告の監査役となり,平成26年4月,被告の代表取締役となった。被告代表者には,亡夫との間に,未成年の2人の子がある。

原告は,昭和56年▲月生まれの女性である。原告は,子供向け英会話スクールの講師等を経て,平成20年7月9日,被告との間で期間の定めのない雇用契約(本件正社員契約)を締結し,以後,Aにおいてコーチと
して勤務していた。
平成24年11月当時の本件正社員契約における原告の労働条件は,次のとおりであった。
(ア)所定労働時間
1日7時間(完全フレックス制)

(イ)賃金等
1か月48万円(ただし,本給35万3640円,定額時間外手当12万6360円の合計。)
(ウ)支払日等
毎月末日締め翌月20日払い

(甲1,甲7)


育児休業及び復職

原告は,平成24年11月,出産のために産前休暇を取得し,平成25年▲月▲日に子を出産した後,産後休暇及び育児休業(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年▲月▲日。)を取得した。


平成26年▲月▲日の時点で,原告が子を入れる保育園はまだ見つからず,決まっていなかった。原告と被告代表者は,同月22日,当時Aの責任者であったFも同席して面談をした。被告代表者は,原告に対し,上記面談の席で,被告において,育児休業終了後の復職時の就業形態として,育児休業開始前と同じ1週間5日勤務・所定労働時間1日7時間の正社員のほか,所定労働時間
を1日4時間ないし6時間に短縮した正社員(時短勤務),1週間3日又は4日勤務の契約社員(1年更新)があることを説明した。また,被告代表者は,原告に対し,上記面談の席で,上記就業形態が記載された【A】コーチの就業形態:2014年4月以降と題する書面(甲5。以下本件説明書面という。)を交付した。本件説明書面中には,上記
就業形態のほか,補足説明として,契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です時短勤務または契約社員が正社員(フルタイム)に復帰する時は,正社員時に期待されていた役割に戻すことを前提としますとの記載がされていた。上記面談を受けて,原告は,Fに対し,同年▲月▲日,育児休業を同年
▲月▲日まで延長し,育児休業終了後は所定労働時間を短縮した正社員として1週間5日勤務で復職したいが,子を入れる保育園が決まらなければ1週間3日勤務での復職となるかもしれないとの旨連絡をした。
(甲5,甲6)

原告からの上記連絡を受け,原告の育児休業期間は6か月延長(終了日は子が1歳6か月に達する日の前日である平成26年9月1日。)された。しかし,その後も子を入れる保育園は決まらず,原告は,平成26年7月20日,被告代表者らと面談した席で,被告代表者に対し,同年▲月▲日から3か月間の休職を認めるよう求めた。

これを受けて,被告代表者は,原告に対し,遅くとも同年8月23日に行われた面談時までに,上記休職は認められない旨回答した。また,被告代表者は,原告から休職が認められず復職できない場合は解雇となるのかとの旨尋ねられたのに対し,自己都合による退職となる旨回答した。原告は,Fに対し,同月26日,1週間3日勤務の就業形態で復職したいとの旨申し入れた。

原告は,育児休業終了日である平成26年9月1日,F,被告から委任を受けた社会保険労務士G(以下G又はG社労士という。)も同
席して被告代表者と面談をし,被告代表者から,労働条件等として次の旨記載のある雇用契約書(甲8。以下本件雇用契約書という。)を示され,被告代表者と読み合わせをした上で,これに署名し,被告に対してこ
れを交付した(本件合意)。
(ア)契約期間
期間の定めあり(平成26年▲月▲日から平成27年9月1日まで)(イ)雇用形態
契約社員

(ウ)始業・終業の時刻及び休憩時間
原則水・土・日曜日,各4時間勤務
(エ)賃金
月額10万6000円(クラス担当業務7万6000円,その他業務3万円)

(オ)支払日等
毎月末日締め翌月20日払い
(カ)服務規律
就業規則24条(服務心得)を理解し,遵守すること。
(キ)備考

a
クラス運営に支障が出ないよう,労働者側が育児のバックアップ体制を確立するものとする。b

労働者側の都合により,クラス担当ができなかった場合は,翌月の給与支払額から1回当たり8800円を減じる。
(甲8)


原告は,平成26年▲月▲日付けで,被告に復職し,同月3日から就労を開始した。



復職後の経緯

原告は,平成26年9月9日,Fに対し,子を入れる保育園が見つかったとして,原告を正社員に戻すよう求めた。さらに,原告は,同月10日,被告代表者に対し,同年10月1日から所定労働時間を短縮した正社員としての勤務を希望する旨申し入れた。

しかし,被告代表者は,現段階での正社員への契約変更は考えていないとの旨回答した。

原告と被告代表者は,平成26年9月19日,当時原告の上長であったH,G社労士も同席して面談をした。被告代表者らは,原告に対し,上記面談の席で,原告を直ちに正社員に戻すことはない旨述べた。


原告は,被告に対し,その後も原告を正社員に戻すよう繰り返し求めたが,被告は,これに応じなかった。



提訴に至った経緯等

被告は,平成27年5月29日,東京地方裁判所に対し,原告を相手方として,原告の正社員としての地位が存在しないことの確認を求める労働
審判を申し立てた(
(省略)
。以下本件労働審判という。。本件労働審

判については,同年6月30日,第1回手続期日が開かれ,同年7月17日,第2回手続期日が開かれたが,被告は,同年8月1日,本件労働審判の申立てを取り下げた。
(当裁判所に顕著な事実)


また,被告は,原告に対し,平成27年7月11日頃,同月12日以降自宅待機を命じ,同月31日頃,本件契約社員契約を限り期間満了により終了するとの旨通知し(以下本件雇止めという。),同年8月3日,乙事件の訴えを提起した。
(甲30,甲32)

他方,原告は,平成27年▲月▲日,甲事件本訴を提起するとともに,同日,(省略)において,本件記者会見をした。原告及び原告訴訟代理人弁護士らは,本件記者会見において,被告の名称を公表して,甲事件本訴を提起した旨述べるとともに,次の旨発言した(以下本件発言と総称する。)。
(ア)平成26年▲月に育児休業期間終了を迎えたが,保育園が見つからな
かったため休職を申し出たものの認められず,被告から1週間3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた。
(イ)やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ,1年後に雇止めされた。
(ウ)子供を産んで戻ってきたら,人格を否定された。

(エ)上司の男性が,俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させると発言した。(オ)原告が労働組合に加入したところ,代表者があなたは危険人物ですと発言した。

これに対し,被告は,平成28年9月26日,甲事件反訴を提起した。
3争点


本件合意の解釈及びその有効性
アイ
本件合意は均等法や育介法に違反し又は錯誤等により無効であるか。

本件合意は停止条件付無期労働契約の締結を含むものであるか。

本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意であるか。



本件契約社員契約の更新の有無本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものであるか。


被告による不法行為の有無
被告が原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連してした行為は違法であるか。



原告による不法行為の有無
原告が本件記者会見の席においてした発言は内容虚偽のものであり,これにより被告の信用等が毀損されたか。

第3争点に対する当事者の主張
1争点⑴(本件合意の解釈及びその有効性)
(被告の主張)


本件正社員契約の解約

原告は,育児休業終了日である平成26年9月1日までに子を入れる保育園が決まる見込みがなく,1週間5日勤務の正社員として復職することができないことから,1週間3日勤務の契約社員として復職することとし
て,同日,被告との間で,本件合意をした。すなわち,原告は,被告との間で,本件合意において,本件契約社員契約を締結すると同時に本件正社員契約を解約するとの合意をしたものである。

本件合意は,本件正社員契約とは異なる労働条件の労働契約である本件契約社員契約を締結し直す合意であって,本件正社員契約を存続させると
の合意ではない。本件契約社員契約の締結を無期労働契約を継続して正社員のまま勤務時間を短縮する旨の合意であったと解することはできない。⑵

本件合意の有効性

均等法及び育介法に違反しないこと
(ア)原告は,育児休業終了に当たり,1週間5日勤務の正社員として復職できない状況にあり,仮に本件合意により本件契約社員契約を締結して1週間3日勤務の契約社員として復職することができなければ,自己都合により退職するか,就労できずに解雇され得る立場にあった。したがって,本件契約社員契約の締結を伴う本件合意は,均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱いに当たらない。
(イ)また,本件合意は,原告が育児休業を取得したことではなく,原告が
育児休業終了時に復職できないことを理由としてされたものであるから,育介法10条の定める育児休業の取得等を理由とする取扱いではない。イ
真意に基づく同意の存在及び錯誤の不存在
(ア)原告は,平成26年2月22日に被告代表者と面談して本件説明書面
(甲5)を交付された後,Fに対して同月26日送信した電子メールにおいて,既に,子を入れる保育園が決まらない場合には契約社員として復職するとの意向を示していた。そして,被告代表者の原告に対する本件合意の内容に係る説明に不足はなく,原告は,本件契約社員契約の内容や,正社員としての契約への変更は被告との合意により可能である旨
を理解した上で,本件雇用契約書に署名した。したがって,本件合意は,原告の真意に基づく同意により成立したものである。
(イ)また,原告は,被告代表者らから,本件合意の際,原告が正社員に戻るためには被告との合意が必要であるとの旨説明を受け,その旨認識した上で,本件雇用契約書に署名し,本件正社員契約の解約と本件契約社
員契約の締結を内容とする本件合意をしたものであるから,この点において,原告に錯誤はない。
仮にこの点において原告に錯誤があったとしても,被告代表者は,原告に対し,本件合意に当たり,原告が正社員に戻るためには被告との合意が必要であること,すなわち,原告がその旨希望したからといって直
ちに正社員に戻れる訳ではないことを説明したから,原告には,上記錯誤に陥ったことにつき,重大な過失がある。⑶

停止条件付無期労働契約の不存在
本件合意により本件契約社員契約が締結された後,原告が正社員に戻るためには,原告と被告が改めてその旨合意することが必要なのであって,原告が希望すれば一方的に正社員としての無期労働契約が成立するものではない。本件雇用契約書中にも,そのような記載はない。

(原告の主張)


本件正社員契約の存続

原告は,本件合意の際,被告代表者から,その趣旨について,正社員への再変更が前提である,契約社員と正社員は福利厚生の点で同じであるが退職金の支払にのみ僅かな違いが出るとの説明を受けた。他方,被告
代表者らも,本件合意の際,原告に対して本件正社員契約が終了するとの説明をせず,本件合意の後,被告において原告に対して退職金の支給など本件正社員契約の終了に伴う措置は採られていない。以上によれば,原告と被告のいずれにも,本件合意により本件正社員契約が終了するとの認識はなかったものである。


また,被告において,契約社員は正社員に復帰させることが前提とされており,契約社員と正社員とで業務内容に違いはなく,本件説明書面(甲5)に基づき,時短勤務の正社員又は契約社員がフルタイム勤務の正社員に復帰するときは正社員時に期待されていた役割に戻すことを前提とするとの説明がされるなど,契約社員と時短勤務の正社員とは同列に扱われて
おり,契約社員について契約期間である1年間で契約の存否を見直すことは想定されていなかった。

以上によれば,本件合意は,正社員としての無期労働契約を継続したまま一時的に勤務日数及び勤務時間を減らすという合意にすぎず,本件合意によっても,本件正社員契約は解約されず,潜在的に存続している。


本件合意の無効仮に本件合意が本件正社員契約の解約を含む合意であったとしても,次の理由により,無効である。

均等法及び育介法違反
(ア)育児休業の取得等を契機として無期労働契約から有期労働契約への労働契約内容の変更を強要することは,原則として,均等法9条3項及び
育介法10条の定める妊娠・出産・育児休業の取得等を理由とする不利益な取扱いに該当するものとして,無効である。
(イ)本件において,本件合意により,原告は,期間の定めのない労働契約上の地位を失い,正社員として月例給与や賞与の支払を受ける権利等も失ったのであって,このような処遇は,原告にとって不利益な取扱いに
当たる。原告は,本件合意当時,約40日の年次有給休暇を有しており,本件合意をせずに育児休業が終了しても,直ちに欠勤等により正社員たる地位を失うおそれはなかった。
そして,上記不利益の程度に加え,原告は,本件合意に当たり,被告から正社員に復帰するための条件等はもとより,本件契約社員契約の更
新拒絶事由等についても説明を受けておらず,かえって,希望すれば確実に正社員に戻れると認識していたからこそ本件雇用契約書に署名したのであり,仮に正社員に復帰するために課される条件があるとか,本件契約社員契約が更新されない可能性があるなどの説明を事前に受けていれば本件契約社員契約への変更を承諾することはあり得なかったから,
原告は真意により本件正社員契約の解約を承諾したものではない。(ウ)したがって,原告は,育児休業終了の日にした本件合意において,被告から,本件正社員契約から本件契約社員契約への労働契約内容の変更を強要されたものである。

自由な意思に基づく同意の不存在又は錯誤
(ア)前記ア(イ)のとおり,本件合意は原告にとって不利益な労働条件の変更を内容とするものであり,原告が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由はない。
(イ)また,原告は,被告代表者らの説明により,本件契約社員契約は原告が正社員として復職するための一時的なつなぎであり,原告が希望すれば自動的に正社員に戻れると認識して本件合意をしたものであって,原
告がその希望により正社員に戻ることができることは,本件合意の内容となっていた。あるいは,これが原告が本件合意を締結する動機であったとしても,被告に対して明示的又は黙示的に表示されていた。
そして,本件合意において,原告が,正社員に復帰するためには原告の希望以外の条件が課されるとの旨認識していたとすれば,本件合意を
承諾することはなかったものであり,無条件で正社員に戻れることは,本件合意の要素であった。


停止条件付無期労働契約の成立
仮に本件合意が本件正社員契約の解約を含む合意であったとしても,本件合意は,原告が正社員への復帰を希望することを停止条件とする無期労働契
約を含む合意であったというべきである。
そして,原告は,被告に対し,所定労働時間1日6時間の就業形態で正社員に復帰したいとの意思表示をしたから,上記停止条件は成就し,所定労働時間1日6時間の正社員(時短勤務)としての無期労働契約(本件時短正社員契約)に基づく権利を有する地位にある。

2争点⑵(本件契約社員契約の更新の有無)
(原告の主張)


仮に原告が被告に対して正社員としての労働契約上の権利を有する地位にないとしても,本件契約社員契約は,育児休業が終了した社員が正社員に復
帰するまでのつなぎの制度であり,雇止めを想定していないものであって,期間の定めのない,あるいはそれと同視し得る労働契約であり,少なくとも,原告において契約期間満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる労働契約である。


そして,本件合意の経緯からすれば,原告が被告に対して正社員への復帰を強く求め,労働局に相談したり,労働組合に加入して団体交渉を求めたり,マスコミに訴え出たりしたのは,当然のことであって,非難されるべき理由
はない。また,原告の正社員復帰について譲歩しなかったのは原告ではなく被告であった。原告が被告の他の従業員に対して批判したり被告の秩序を害したりする言動をしたことはなく,マスコミに対して虚偽の事実を述べたこともない。原告が被告代表者の許可なく被告代表者らとの会話を録音したのは,証拠を残して自己防衛をするためのやむを得ない行為であった。原告が
被告代表者の注意や指導に従わなかったのは,注意や指導が不適切であり間違ったものであったからである。原告が被告において就労中に私用の電子メールを第三者に送信したのは1回だけで,その他の私用の電子メールは,原告が個人的に使用していたメールアドレスに送信したものであって,個人的な備忘録にすぎず,その内容も原告の内心を書き留めたものにすぎない。
したがって,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない。


なお,原告は,本件雇用契約書に署名をして復職後被告から自宅待機命令を受けるまでの間,契約社員としての業務を誠実に果たしてきたのであるから,原告が正社員として復帰することにこだわっていたことによっても,原
告に契約社員として就労する意思がなかったとはいえない。
(被告の主張)


原告は,被告に対して,本件契約社員契約を正社員としての契約に変更するよう要求し続けており,本件契約社員契約の更新を申し込んだことはなく,本件契約社員契約に基づき契約社員として就労する意思もなかった。


また,原告は,本件契約社員契約締結の直後から被告代表者の説明を無視し被告に対して正社員に戻すよう要求し続けて自己の主張に固執し,被告の他の従業員に対して被告を誹謗中傷する言動をし,マスコミに対して被告からマタニティハラスメントを受けたとの虚偽の事実を吹聴し,被告事務所内において無断録音を繰り返し,被告代表者らからの注意指導を受けてもこれに従うことを拒否し,被告代表者から退社するよう命じられてもこれに従わ
ず被告代表者を追いかけるなどの異常な行動をし,就業時間内に業務外の電子メールを作成・送信した上で電子メールを削除したことがないと虚偽の説明をし,被告に対して社会的制裁を加えることを目的として被告に在籍している旨明言して,被告の社内秩序を侵害し,被告との信頼関係を毀損した。このように,被告からの指示や指導に一切従わない姿勢を示し,被告の服
務心得に多数回違反した原告に,改善の余地はない。
3争点⑶(被告による不法行為の有無)
(原告の主張)

被告は,妊娠,出産,育児休養を経た原告を嫌悪し,原告を被告から追放するために,一連の嫌がらせを重ねて,雇止めとし,その後も嫌がらせを重ねて,原告に復職を断念させようとした。被告の次の行為は,それぞれが違法であるとともに,全体としていわゆるマタニティハラスメントに当たるものであり,原告はこれによって非常に大きな不利益を被った。

正社員から契約社員への契約変更,正社員に戻すことの拒否,雇止め被告は,原告に対し,平成26年9月1日,本件合意により本件契約社員契約の締結を強要して,均等法9条3項及び育介法10条に違反する不利益な取扱いをした。
また,被告は,正社員に戻すよう申し出た原告に対し,同月19日の面談以降になって初めて,夜間のクラスを複数担当し,子の具合が悪くなっ
ても欠勤しない体制を整えるよう求めるなど,無理難題を突きつけ,契約社員として就労を継続して正社員として就労が可能であることを実証するよう求めるなどして,原告の申出を拒否し,原告を正社員に戻すために行うべき検討や調整等を怠った。
さらに,被告は,平成27年9月1日限り,本件雇止めをして,原告を職場から追放し,妊娠,出産,育児休業等を理由として原告に不利益な取扱いをした。


原告をクラスの担当から外したこと
被告は,平成26年9月19日の面談において,原告が労働局に相談に行ったことを知るや,原告にクラスを担当させることはできないとして,合理的な理由なく,原告を既に担当することが決定していたクラスの担当から外し,職場環境配慮義務を怠って,以後,原告に一度もクラスの担当
をさせず,原告の能力向上の機会や仕事のやりがいを奪った。

業務改善指導に関する書面17通の交付
被告代表者は,原告に対し,原告が労働局や労働組合に相談に行った後の平成26年10月25日から同年11月1日までの間,面談と称して,原告の面前で業務改善指示書等を読み上げ,署名をするよう繰り返し迫っ
た。被告代表者が原告に署名を要求した業務改善指示書等の数は合計17通に及び,その内容は,労働条件等に関する発言等を取り上げたものであって,業務に関連するものはほとんどなく,事実に反する・評価を誤っている・同内容のものが繰り返し発出されている・復職前の事実を取り上げているなど不合理なものであり,被告代表者の上記行為は,指導ではなく
いじめに当たるものであった。原告は,これによって,身に覚えのないことや不必要なことについての注意を受けて不快であったばかりでなく,別室に呼び出されて長時間にわたって署名を強要されて恐怖すら覚えた。エ
面談におけるマタハラ発言
被告代表者及びHは,原告に対し,平成26年9月19日,同月24日,同年10月29日の面談において,妊娠・出産する女性労働者の人格を無視した発言や,マタニティハラスメントを意図した発言,育児休業終了後のキャリアについての価値観を押しつける発言をし,育介法に関する誤った理解を植え付けるような発言をするなどした。原告は,これによって,自己の選択を否定されたような気持ちになり,深く傷ついた。

労働局への相談及び労働組合加入に対する嫌がらせ
被告代表者は,原告が労働局に相談したことや労働組合に加入したことを嫌悪し,原告に対し,労働局に相談したことにより正社員に戻ることができなくなるかのような発言をし,労働組合加入の経緯等を問い詰めたり,原告を危険人物呼ばわりしたりした。被告代表者の上記態度は,労働者が正当な権利行使をすることを萎縮させるばかりでなく,労働者の人格
をも攻撃するものであり,極めて悪質である。

原告を問題社員化するための注意指導
被告は,前記ウに述べた業務改善指示書等交付のほか,原告のみに対して,執拗に注意指導を重ねた。注意指導の対象となった行為は,いずれも原告が行ったものではないか,業務上の必要性が乏しいにもかかわらず原
告の行動のみを殊更問題とするものであって,上記注意指導は,単なる嫌がらせ・人格攻撃であった。
また,被告は,原告に対し,平成27年4月頃,労働者名簿作成と慶弔金支給を口実に,子の保育園の連絡先を提出するよう執拗に迫った。原告は,被告の執拗かつ卑劣な介入が私生活にも及ぶのではないかという不安
を抱いた。

職場での孤立化
被告は,原告に対し,平成27年6月,被告社内のサーバーへの接続を遮断し,社内行事への参加の機会を与えなかったり,ミーティングの内容を共有させなかったりし,他の従業員に誤った情報を流すなどした。

職場からの追放被告は,原告に対し,平成27年6月10日,早退を命じ,さらに,同年7月11日頃,自宅待機を命じて,原告を職場から排除した。

監視の継続
被告は,原告を自宅待機とした平成27年7月12日以降,原告のメールアドレスに対し送信された電子メールを閲読し,第三者に対して原告に
不利益な情報を提供するなどして,原告のプライバシーを侵害し,名誉を毀損し,人格権を侵害した。

公式ウェブサイトへの情報掲載
被告は,平成27年10月23日から平成29年4月まで,被告の公式ウェブサイトに,被告の一方的な見解を内容とし,原告が自らの意思で契
約社員を選択しながら正社員復帰を主張して職場内外で数々の問題行動に及んだ人物であるとの悪印象を与える,原告を誹謗中傷する内容の記事を掲載した。


原告が被告の上記一連の不法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料としては少なくとも300万円が相当である。また,本件に要した弁護士費
用としては少なくとも30万円が相当である。
(被告の主張)


使用者が労働者の子の養育を容易にするために講ずるべき措置や労働者の職業生活と家庭生活との両立に寄与するための支援措置として,法律の定め
を超えた措置を講じなくとも,不法行為に当たることはない。
⑵ア

本件合意は,均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱い
に当たるものではない
原告が正社員に戻るためには,被告との合意が必要であり,被告代表者は原告に対して本件合意に当たりその旨説明していた。原告が希望すれば正社員に戻れると考えていたとしても,それは原告の思いこみにすぎず,法的保護に値する期待権は発生していない。また,本件契約社員契約を締結した直後であるのに原告を正社員に戻すことは,スケジュールの再調整等,被告の業務に支障を生じ,時間を要することであったし,そもそも原告は,被告に対して正社員に戻すよう申し出た当時も,正社員として1週間5日労務の提供することができない状況にあった。原告が正社員に戻れなかったのは,その言動により被告との信頼関係を破壊した結果である。
本件雇止めには,客観的に合理的な理由があったものである。

被告は,原告が平成26年9月19日の面談において担当クラスを欠席してもよいと考えている旨明らかにし,被告を信用できない,契約に不満があるなどと発言したので,原告にクラスを担当させることはできないと判断したものである。


被告は,原告が育児休業終了後復職した直後から,数々の問題を起こし,被告の企業秩序を乱し,口頭指導によってもその態度が一向に改善されなかったことから,労働局の指導により,原告に対し,その目的を説明した上で,業務改善指示書等を交付したものである。


被告代表者らは,原告に対し,平成26年9月19日の面談において,時短勤務の正社員であってもクラスを担当することが前提であることから1週間3日勤務を継続して十分に可能でクラスの運営に支障がないことを確認できた段階で1週間5日勤務の正社員に変更する方がよいのではないかと助言し,極力欠勤しないような体制を求めたのにすぎない。また,Hの原告に対する面談時の発言を差別的表現とするのは曲解である。

被告代表者らは,原告に対し,原告が労働局に相談したことや労働組合に加入したことで正社員に戻ることが困難になるとは一言も言っていない。

被告の原告に対する注意指導は,いずれも合理的で必要なものであった。子の保育園の連絡先は,保育園から被告に電話連絡等があったときの対応のために被告において把握する必要があったものである。


被告は,原告に対し,平成27年6月10日,原告が被告代表者らの録音禁止等の注意指導に従わない姿勢を明らかにし,被告に対して提出していた機密保持の誓約書を撤回すると述べたことから,原告を顧客情報や機密情報に触れる業務に従事させないために,当日の就労を免除して退社させた。また,被告は,これを踏まえて原告につき被告社内のサーバーへの接続を一部制限したが,2,3日後には原告専用のサーバーを作成し,原
告の業務に支障を生じさせなかった。

被告は,原告が業務時間中に業務外の電子メールを送信し,退社を命じても従わず,会話の録音をしない旨誓約したのに被告事務所内で録音をし,被告代表者を執拗に追いかけ回したりしたことから,事実調査のため,翌日以降の自宅待機を命じたものである。なお,被告は,原告に対し,自宅
待機中も賃金を支払っていた。

被告は,原告が平成27年▲月▲日甲事件本訴を提起するとともに本件記者会見を行い,被告の実名を公表して,育児休業を理由に契約社員となることを強要されたなどと事実無根の内容を話し,マスコミによりその内容が報道されたことから,被告社内の混乱を収め対外的な信頼の毀損を低
減するため,公式ウェブサイトに外部に対して被告の立場から事実関係及び被告の認識を説明する記事を掲載したものである。その内容はいずれも真実であり,これは,原告の一方的かつ不当な言動に対する正当な対抗言論である。また,被告は,上記記事中に原告の実名を記載していない。4争点⑷(原告による不法行為の有無)
(被告の主張)


本件発言は,一般人の感受性を基準とすれば,被告代表者らが被告全体として妊娠・出産・育児休業を経て復職する女性従業員に対していじめや嫌がらせ・退職強要などといったマタニティハラスメントを行う企業であるとい
う評価を被告の従業員や顧客を含めた社会一般に与え,被告の社会的評価すなわち名誉や信用を毀損するものである。⑵

本件発言の内容は真実ではなく,原告がこれを真実と信じたことについての相当性もない。また,甲事件本訴は一民間企業である被告とその従業員である原告との間の個別労使紛争にすぎないこと,原告は被告に社会的制裁を加える意図で本件発言をしたものであることから,本件発言の内容及び原告の目的に公益性はない。



本件発言により,被告の経営や営業活動には,マスコミや受講者等への対応を強いられるなどの支障が生じた。本件発言の内容や態様,原告の意図等を考慮すれば,被告の被った損害の額は少なくとも300万円に弁護士費用30万円を加えた合計330万円が相当である。

(原告の主張)


本件発言は,甲事件本訴に係る訴状の記載内容を説明し,原告の心情を述べたものにすぎず,これによって被告の社会的評価を著しく低下させるものではない。また,マタニティハラスメントとは,特定の具体的事実を指す言葉ではなく,法的な評価を含む言葉であって,原告の発言は,事実の摘示ではなく意見又は評論に当たるものである。これに対して,被告は,本件記者
会見後,被告代表者が記者会見を行い,被告の公式ウェブサイトに記事を掲載するなどして,その見解を表明している。


本件発言の内容は,いずれも真実である。また,本件発言は,育児休業終了時の労働者の取扱いという社会的に関心が高い事柄に係る労働事件である甲事件本訴の提起に関する本件記者会見における発言であって,公共の利害
に関する事実に係るものであり,原告は育児休業から復職する者が安心して働き続けることを求めるために本件発言をしたものであるから,公益の目的でされたものである。さらに,本件発言は,その内容において,意見ないし論評としての域を逸脱するものではない。


被告がマスコミに対して行った対応は,訴えを提起させた旨報道された企業が通常行うであろう範囲にとどまるものであって,損害には当たらない。第4当裁判所の判断1認定事実
前提事実のほか,証拠(後掲のもののほか,甲50,乙55,乙61,乙90ないし92,乙97,証人H,証人G,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


被告の就業規則等の定め
平成26年4月1日までに制定され,同日から施行された被告の就業規則等には,次の旨の定めがある。

労働時間及び休憩時間
(ア)所定労働時間は,原則1日7時間・1週間35時間以内とし,1か月
を平均して140時間以内とする(就業規則8条1項)。
(イ)始業・終業の時刻及び休憩時間は,原則として管理部は始業午前11時・終業午後7時・休憩1時間とし,管理部以外はフレックスタイム(フレックスタイム運用規程参照)とする。なお,契約社員の始業・終業時刻及び休憩時間は個別の雇用契約で決定する(同8条2項)。
(ウ)フレックスタイム
a
フレックスタイム制の適用対象者は,Dコーチ,Aコーチ,その他会社が指定する特定の者とする(フレックスタイム運用規程2条)。
b
フレックスタイムの清算期間は毎月1日から末日までの1か月間,標準となる1日の労働時間は休憩時間を除き7時間とし,清算期間に
おける所定労働時間は次の算式による。
清算期間所定勤務日数×7時間(同3条ないし5条)
c
コアタイムは設定せず,社員の選択により就業できるフレキシブルタイムは午前9時から午後11時までとする(同6条及び7条)。

育児休業
(ア)育児休業社員は,別途定める育児・介護休業規程により,その子が1歳に達するまでの間,育児休業を申し出ることができる(就業規則19条)。(イ)育児休業の対象者
a
育児のために休業することを希望する従業員であって,1歳に満たない子と同居し,養育する者は,育児・介護休業規程の定めるところ
により育児休業をすることができる(育児・介護休業規程2条1項本文)。
b
次のいずれにも該当する従業員は,子が1歳6か月に達するまでの間で必要な日数について育児休業をすることができる。なお,育児休業を開始しようとする日は,原則として子の1歳の誕生日に限るもの
とする(同条4項柱書)。
(a)従業員(中略)が原則として子の1歳の誕生日の前日まで育児休業をしていること(同項1号)。
(b)次のいずれかの事情があること
保育所に入所を希望しているが,入所できない場合(同項2号

(ア))(後略)
(ウ)育児休業の期間等
子が1歳に達した場合にはその日,前記(イ)bの場合は子が1歳6か月に達した日に,育児休業は終了するものとする(育児・介護休業規程5条5項5号)。


所定労働時間の短縮措置
(ア)3歳に満たない子を養育する従業員は,申し出ることにより,前記ア(ア)及び(イ)の所定労働時間について,午前11時から午後4時まで(うち休憩時間1時間)の4時間に変更することができる(育児・介護休業
規程15条1項)。
(イ)前記(ア)にかかわらず,1日の所定労働時間が6時間以下である従業員からの育児短時間勤務の申出は拒むことができる(同条2項2号)。エ
子の看護休暇
(ア)小学校就学の始期に達するまでの子がいる労働者が申し出た場合,病気又はけがをした子の看護のために,(中略)年次有給休暇とは別に看護休暇を取得することができる(就業規則17条1項本文)。

(イ)看護休暇の日数は労働者1人当たり1年間で5日を限度とする(同条3項本文)。

休職
社員が以下の各号の一に該当するときには休職を命ずることがある(就業規則38条1項柱書)。

(ア)業務外の傷病による欠勤が連続1か月以上に渡ったとき(同項1号)。(イ)家事の都合その他やむを得ない事由により1か月以上欠勤したとき(同項2号)。
(ウ)前各号のほか,特別の事情があって,会社が休職をさせることを必要と認めたとき(同項3号)。


服務心得
社員は服務に当たって以下の事項を守らなければならない(就業規則24条柱書)。
(ア)社員は会社の方針及び自己の責務をよく認識し,その業務に参与する誇りを自覚し,会社及び所属部門の上長の指揮と計画の下に,全員よく
協力,親和し,秩序よく業務の達成に努めなければならない(同条1号)。(イ)社員は業務組織に定めた分担と会社の諸規則に従い,上長の指揮の下に,誠実,正確かつ迅速にその職務に当たらなければならない(同条2号)。

懲戒解雇
以下の各号の一に該当する場合は懲戒解雇に処する。ただし,情状によっては諭旨退職・減給又は出勤停止にとどめることがある(就業規則31条柱書)。
出勤常ならず改善の見込みがないとき(同条2号)。

解雇
社員は以下の事由により解雇されることがある(就業規則34条1項柱
書)。
勤務成績が不良で,就業に適さないと認められたとき(同項2号)。ケ
一般退職
社員が以下の各号の一に該当する場合には,当該事由の発生した日をもって退職とする(就業規則36条1項柱書)。

(ア)期間を定めて雇用した者の雇用期間が満了したとき(同項3号)。(イ)欠勤し,連絡は取れるが業務に従事する意思表示がなく欠勤初日から歴日で30日間経過したとき(同項7号)。

自宅待機
本規則に違反する行為があった場合又はその疑いがある場合,若しくは
会社や取引先等に対する秩序維持等の業務上の必要性があると認められる者については,事実調査等のために必要がある場合には,必要な期間について自宅待機を命ずることがある(就業規則32条1項本文)。
(甲7)


被告のクラス日程
Aにおいて,コーチが担当するクラスは,平日(月曜日ないし金曜日)に夜(午後7時30分開始・午後10時終了)の時間帯と,週末(土曜日及び日曜日)に朝(午前10時開始・午後0時30分終了),昼(午後1時30分開始・午後4時終了),夜(午後4時30分又は午後5時開始・午後7時
又は午後7時30分終了)の各時間帯に設定されていた。また,平成26年▲月当時,開講されていたクラスの概数は,平日夜は月曜日2ないし3コマ,火曜日5コマ,水曜日3コマ,木曜日3コマほど,週末は土曜日朝が5コマ,同昼が2コマ,同夜が3コマ,日曜日朝が4コマ,昼が4ないし5コマ,夜が2コマほどであった。
(甲48,乙76,乙86)


本件説明書面の交付とその内容
被告代表者が原告に対して平成26年2月22日に行った面談の席上で交付した本件説明書面(甲5)中には,育児休業終了後の復職時の就業形態について,前提事実⑵イのほか,次の旨の記載があった。原告は,上記面談において,被告代表者から,上記記載内容につき説明を受けた(なお,原告の
陳述書〔甲50〕及び本人尋問における供述中には,原告は,当初,補足説明として

正社員への契約再変更が『可能』です。

と記載された説明書面を示され,被告代表者が説明をしながら可能を前提に訂正したとの記載部分及び供述部分〔以下併せて供述等という。〕があるが,これを裏付けるに足りる客観的証拠がないことに照らし,採用しない。)。

正社員
勤務日数

1週間5日

所定労働時間

1か月140時間(1日7時間×20日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務(通常1週間4ないし5コマ),
②説明会担当,③その他付随する業務,④各種プロ
ジェクトのメンバー/リーダー

正社員(時短勤務)
(ア)勤務日数
所定労働時間

1週間5日
1か月120時間(1日6時間×20日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務(1週間3ないし5コマ),②説明会担当,③その他付随する業務,④各種プロジェクトのメンバー/リーダー
補足

1週間4コマが標準・1週間3コマは必須
1週間3コマの場合は,コーチ業務以外(上記
②③)の業務が必須

給与額

正社員(フルタイム)の給与に0.86を乗した
額を目安とする。

(イ)勤務日数
所定労働時間
1週間5日
1か月100時間(1日5時間×20日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務(1週間2ないし4コマ),(以下

上記②ないし④と同じ。)
補足

1週間3コマが標準・1週間2コマは必須
1週間2コマの場合は,コーチ業務以外(上記
②③)の業務が必須

給与額

正社員(フルタイム)の給与に0.72を乗した
額を目安とする。

(ウ)勤務日数
所定労働時間
1週間5日
1か月80時間(1日4時間×20日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務(1週間1ないし3コマ),(以下

上記②ないし④と同じ。)
補足

1週間2コマが標準・1週間1コマは必須
1週間1コマの場合は,コーチ業務以外(上記
②③)の業務が必須

給与額

正社員(フルタイム)の給与に0.58を乗した額を目安とする。ウ
契約社員(1年更新)
(ア)勤務日数

1週間4日

所定労働時間

1か月64時間ないし112時間(1日4時間ないし

7時間×16日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務,②説明会担当,③その他付随する
業務,④各種プロジェクトのメンバー
補足

コーチ業務を必須とする。
具体的な業務内容は契約時に決定する。

給与額

契約時に決定する(担当クラス数と業務内容に応じて
決定する。)

(イ)勤務日数

1週間3日

所定労働時間

1か月48時間ないし84時間(1日4時間ないし7

時間×12日)

業務内容
期待される役割

①コーチ業務,②説明会担当,③その他付随する
業務,④各種プロジェクトのメンバー
補足

コーチ業務を必須とする。
具体的な業務内容は契約時に決定する。

給与額

契約時に決定する(担当クラス数と業務内容に応じて
決定する。)
(甲5)


本件合意の成立と原告の復職

平成26年9月1日,被告代表者は,F,G社労士が同席した面談の席で,原告に対して,本件雇用契約書(甲8)を示し,これを読み上げた。原告は,子が入る保育園が決まれば1週間5日勤務の正社員に復帰したいとの意思を示した。これに対し,Fは,クラススケジュールの問題がある旨述べ,また,G社労士は,正社員としての労働契約に変更するには被告との合意を要する旨述べた。この際,原告が被告代表者らに対して本件雇用契約書中の記載内容等につき他に質問をした事項はなかった。

これらのやりとりの後,原告は,本件雇用契約書に署名をした。

原告は,平成26年▲月▲日付けで復職し,同月3日から就労を開始した。原告は,同日,被告の代表者ら従業員らに対して,育児休業を終えて復職した,自分の希望としては1週間5日勤務で復職したかったが子を保
育園に入れることができなかったため1週間3日・1日4時間勤務での復職となった,子を保育園に入れられ次第また1週間5日勤務したいとの旨記載した電子メールを送信した。これを受けて,被告代表者やHは,原告に対して,電子メールを返信したが,これらの電子メールの中に,原告が送信した上記電子メールの内容に疑義を差し挟むような内容の記載部分は
なかった。
また,原告は,同月7日,Hに対して,被告代表者又はFから聞いているかもしれないが,保育園に子を入れることができ次第,1週間5日勤務の正社員として働くことになる,まだいつになるか分からないが,その際は今よりも被告に貢献できるようになるかと思うとの旨記載した電子メー
ルを送信した。これを受けて,Hは,同日,被告代表者及びFに対し,上記電子メールを転送するとともに,契約社員としてしかるべきパフォーマンスを発揮した場合に正社員に戻るという認識と原告の認識との間で困惑しているとの旨伝えた。
なお,原告は,同日,Hに対して,被告のあるコーチの能力に問題があ
るとの旨話し,危機感すら感じるとの発言をしたことがあった。
(甲9,甲10,乙77)ウ

原告は,復職後,平成26年9月21日(日曜日)からコーチ業務として毎週日曜日午前10時開始のクラス1コマを担当することが決まった。


原告の正社員復帰の申出と被告の対応

原告は,Fに対し,平成26年9月8日,電子メールを送信して,同年10月から保育園に空きが出るとの電話連絡があったとの旨連絡した。ま
た,原告は,同年9月9日,Fと電話で話をし,同年10月から1週間5日勤務の正社員として就労したいとの旨申し出たが,Fは,本件契約社員契約を締結したばかりであるとの旨指摘した。原告は,Fに対し,上記電話での会話後,本件説明書面中には契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載があり,原告は,この文言を
もとに,子を入れる保育園が見つかるまで暫定的に1週間3日勤務での復職を希望したまでであるとの旨記載した電子メールを送信した。
(甲11)

被告代表者と原告は,平成26年9月19日に面談をすることとなった。この面談に先立ち,原告は,被告代表者に対し,同月10日,①本件説明書面に補足説明として記載されている契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの内容に基づいて契約の変更を希望する,②就業形態は1週間5日勤務,所定労働時間1日6時間・1か月120時間の正社員(時短勤務)を希望する,③時短勤務の開始は同年
10月1日から,その終了は子が3歳になる年度末に当たる平成28年3月31日まで,勤務時間は午前9時から午後4時までを希望する,④担当予定の日曜日のクラスは担当するつもりであり,その他の調整については双方にとって不利益がないよう話合いで合意に至ればと思うとの旨記載した電子メールを送信した。

これに対し,被告代表者は,被告の方針としては現段階での正社員への契約変更は考えていない,詳しくは同月19日の面談の際に伝えるとの旨記載した電子メールを直ちに返信した。(甲12)

原告は,その後,被告の他の女性従業員に対し,被告から正社員に復帰させてもらえないでいるとの旨話したことがあった(なお,原告が上記女性従業員に対してこの際会社にいじめられている,あなたも妊娠を考えて
いるなら気をつけた方がいいなどと発言したとの事実を認めるに足りる的確な客観的証拠はない。被告代表者の陳述書〔乙92〕中には,被告代表者及びHは,それぞれ別の被告女性従業員から,原告から会社にいじめられている,気をつけた方がいいと話しかけられたとの相談を受けたとの記載部分があるが,被告代表者及びHが同一の被告女性従業員から上記相談
を受けたとの被告の主張と合致しない〔弁論の全趣旨〕ことから,Hの陳述書〔乙91〕中の同旨の記載部分共々,採用しない。)。

原告と被告代表者,H及びG社労士は,平成26年9月19日に行われた面談において,次のようなやりとりをした。

(ア)原告は,子を入れる保育園が見つかったので1週間5日勤務の正社員に復帰したい,本件説明書面に記載のあった就業形態のうち所定労働時間を1日6時間に短縮した正社員(時短勤務)を希望するとの旨述べた。これに対し,被告代表者は,所定労働時間1日6時間の正社員(時短勤務)の場合1週間3コマ以上のクラスを担当することになるが,夜間
の勤務は可能であるのかとの旨尋ね,原告は,土曜日と日曜日の出勤により1週間4コマのクラスを担当できると思ったとの旨答えた。これを受けて,被告代表者は,原告に土曜日と日曜日のクラスのみを担当させることはできないことも十分あり得る,正社員であればママコーチだからといって全てが優先されるということではない,他のコーチと違い1
週間3日勤務なので特定の曜日を優先して担当する1週間3日勤務という形態の方がよい,正社員であれば当然一人の要望だけを聞いてはいられないとの旨述べ,Hは,原告に土曜日と日曜日のクラスのみを担当させるのは難しい,正社員であれば他の正社員と同じ前提で働けることが条件である,他のコーチとバランスを取ることが難しくなる,正社員として戻ったけれども育児休業明けだからといって優遇しては組織のバランスが崩れてしまうとの旨述べた。
(イ)さらに,原告が,正社員としてフルコミットできると言えば正社員に戻れるかと尋ねたところ,被告代表者は,なぜ正社員に戻れるのか,なぜ正社員として就労できるのかを説明してもらい,心配ないと判断できれば原告を正社員に戻すことができるが,子を保育園に入れておけない
場合も生じ得るので,バックアップ体制が相当しっかりしていないと難しいとの旨述べた。また,Hは,クラスには穴を空けないということが大前提であるから,クリティカル(判決注・非常に重大という意味。)にとらえてもらいたいとの旨述べた。
(ウ)原告は,フレキシブルタイムは午前9時から午後11時までであるか
ら,午前9時から午後4時まで勤務し,サポート業務を行うことを想定していたとの旨述べ,Hは,それでは他のコーチが就労している時間と重ならなくなる,正社員として働くということはサポート業務だけではなくリーダーとしての業務も行うことになるとの旨述べた。
(エ)さらに,原告は,Hから例えば平日夜のクラスを2コマ,土曜日に1
コマ,日曜日に1コマ担当することができるかと尋ねられたのに対し,平日の夜に就労できるかについては改めて検討する必要があるとの旨答えた。これを受けて,G社労士は,正社員の場合,就労時間が全て原告の希望どおりとなるかは分からない,被告の指示を拒否することは当然できない,例外は作りたくないとの旨述べ,さらに,正社員は,例えば
保育園から子が熱を出したので迎えに来るように言われたときでも,クラス担当に穴を空ける理由にはならないなどの旨述べ,子を保育園に入れてみないと分からないので,子を保育園に入れてしばらく契約社員として勤務してみた上で,1週間5日勤務が可能であるとの申出があれば,話が円滑に進むとの旨述べた。
(オ)これに対し,原告は,正社員に戻す前提であれば子を保育園に入れて勤務してみてもよいが,1週間5日勤務が可能であると言っているのに直ちに正社員に戻すことはないというのでは最初の話と違うとの旨述べた。これを受けて,G社労士及びHは,合意がなければ正社員には戻れないとの旨述べた。
さらに,原告が,契約社員として働くことを拒否したらどうなるのか
との旨尋ねたところ,G社労士は,自己都合による退職になるとの旨答えた。
(カ)原告は,子を保育園に入れれば1週間5日勤務・1か月120時間勤務は可能であるとの旨述べた。これに対し,被告代表者は,他の正社員と同じ働き方ができることが正社員に復帰する条件である,保育園に子
を入れる時間が平日のクラスの時間とずれているとの旨述べた。また,原告は,コーチ業務として平日夜のクラスを担当する代わりに他の業務を担当することができないかを尋ねたが,被告代表者は,コーチ業務以外への担当業務の変更は考えていないと答えた。
さらに,原告が,夫が保育園に子を迎えに行くなどして夜間のクラス
を担当することができれば正社員への復帰が可能かと尋ねたところ,被告代表者は,子が保育園で具合が悪くなったときに大丈夫であるかが問題であると旨答え,さらに,原告が,そのときは両親に協力を求めるということであればどうかと尋ねたところ,被告代表者は,必ず両親が協力できるのかが問題であると答えた。さらに,G社労士は,子を保育園
に入れていられない際の解決手段として,きちんと説得力のあるものを提示してもらわないと難しい,それが最低条件であるとの旨述べた。その後,原告が,夫や両親の協力を得られるとの旨述べても,被告代表者やG社労士は,同様の回答をし,原告に,1週間3日勤務を継続することを勧めた。
(キ)被告代表者は,原告から,後日正社員に復帰させるか否かを判断してくれるのかとの旨尋ねられたのに対し,それは信頼関係だと思っている,信頼関係を築いて初めて最終的なゴールにたどり着けるなどと述べた。これに対し,原告は,家族の協力を得ると言っているのに正社員に復帰できないのであれば,後日やはり正社員に戻れないという結果になるように思われ,信頼しきれないとの旨述べた。被告代表者は,原告を正社
員に戻すのは,問題がないか否かある程度の時間見て,被告が判断するとの旨述べ,原告が,同年12月までには正社員に戻れるかとの旨尋ねたのに対し,それは分からないと回答した。
(ク)その後,原告は,本件合意では正社員に戻ることが前提とされている,正社員として1週間5日勤務させてほしい,勤務できると言っているで
はないか,契約期間は仮のものと捉えている,正社員に戻れると信じて1週間3日勤務の契約をしたなどの旨述べ,被告代表者は,子が入る保育園が決まったからといって直ちに正社員に戻るということはない,1週間3日勤務でやってみないか,期間1年として本件契約社員契約を締結している,正社員に戻す時期は確定できないなどの旨述べた。

(ケ)G社労士は,1週間5日勤務に戻ったとして,子の養育態勢がしっかりしていなくてやはり無理となった場合,頻繁に繰り返せば,指導,減給となり,最後は,辞めてもらわないとならないという話になってしまう可能性もあるとの旨述べた。原告は,それでも構わない,そのときは自分がいけないと反省する点があるので,1週間5日勤務で問題が生じ
たらいつでもクビにしていただいて,ということになるとの旨述べた。また,G社労士は,現段階で担当させる業務があるかという問題もあるとの旨述べ,原告は,業務がないから正社員に戻せないということはおかしいとの旨述べた。この点について,被告代表者は,原告の復職に応じてコーチのスケジュールを調整した,コーチのスケジュールは3,4か月先まで組んでいるとの旨説明した。原告は,4か月後まで待ってもよいが,スケジュールのみの問題とは思えない,正社員に戻れるのがいつ頃かのめどがあってもよいはずだと思うとの旨述べ,被告代表者及びHは,複合的な問題である,同年12月からというのは無理であるので,1週間3日勤務を行ってほしいとの旨述べた。
(コ)G社労士は,被告は,正社員に戻れないという話は一切しておらず,
今は戻れないと言っているのみであって,子を保育園に入れて1週間3日勤務を継続することを提案しているものであるとの旨,補足して説明した。これに対し,原告は,正社員として働ける時期を尋ねたが,G社労士は,いつからということはない,原告から1週間3日勤務でスケジュール調整が可能な期間就労するという提案があり,1週間3日勤務を
継続して,大丈夫であれば,1週間5日勤務に変更しようかという話合いが可能となるが,正社員に戻してほしいという希望を述べるだけであれば,話合いではないとの旨述べた。原告が,被告の状況を踏まえていつごろ正社員に戻れるかという目安でもあればとの旨述べたが,G社労士は,最低4か月は無理であると既に回答しているので,原告から最低
限5か月は子を保育園に入れて1週間3日勤務で就労してみるという提案があってもよいはずである,ただし,正社員に戻れる時期を確定はできないとの旨述べた。
(サ)Hは,原告が被告代表者らの説明が納得できない,労働局に相談するとの旨述べたのを受けて,そういう状況で新設のクラスを持つのは難し
いと思うとの旨述べ,この点については追って連絡する旨述べた。(シ)原告は,正社員に復帰することにつき,今は駄目だということは分かるが,こういう状態だったら戻れると,もう少し明確に提示されれば納得がいく,正社員としての勤務が可能であるか実証せよということであったり,その期間等が不明であったり,分からないと言われたりすれば,結局1年間1週間3日勤務で就労しなければならないのかと思ってしまい,正社員に戻れる可能性の方が低いのではないかと理解しているとの旨述べた。これに対し,G社労士は,被告としては1年間は見ている,正社員への契約の再変更も契約期間終了時のことであるとの旨述べた。これを受けて,原告は,子を入れる保育園が見つかれば1週間5日勤務に戻れるというつもりであったとの旨述べ,G社労士は,それは前提の
一つにすぎないとの旨述べた。
(ス)被告代表者は,原告が労働局に相談しているなどの旨発言したのに対し,そういうことをするとほんとに会社としてもどんどんあれになるあまり波風を立てないで戻ってこれたらいいと思っているんですね私の感覚では戻るということは波風を立てないということが一番クレバーだよ

それをされるとI(判決注・原告のこと。)がどんどん戻りにくい関係になっていくよ

Iが思っているのとは逆の方向に行くかもしれない

労働局と会社が話すことがあったとしても,会社の方針をお伝えするだけなので。状況が何かが大きく変わるというようなことではないですから

などと発言した。
(セ)被告代表者は,原告がもう一度労働局に相談するなどと述べたことに対し,原告の権利の主張は通らないと思う,溝をどんどん深くしてもいいことはないとの旨述べた。これに対し,原告は,できれば穏便にとは思うが,正社員として働きたいというのを駄目だと言い,こうなったら正社員に戻るというものも実際ないではないかなどと述べ,被告代表者
は,こういう関係が悪化させる,1週間3日勤務という契約を締結してまだ1か月たっていない,これを更に変えるには大きなエネルギーがいるとの旨述べた。さらに,原告は,正社員に復帰する時期が4か月後あるいは1年後というのは長すぎるとの旨述べ,被告代表者は,溝が深くなれば深くなるほどそうなるなどと述べた上で,被告の他の社員に対して言うことではないとの旨述べた,これを受けて,原告は,今後は言わないようにすると述べた。


Hは,原告に対し,上記面談後,同日中に電子メールを送信して,原告が担当する予定であった平成26年9月21日のクラスのコーチを変更する旨連絡をした。被告は,以後,原告にクラスを担当させなかった。(甲13,甲14)


原告は,平成26年9月21日,被告の従業員に対し,Hから産休コーチが帰ってくると組織のバランス(なお,組織の規律と発言したとの事実を認めるに足りる的確な客観的証拠はない。)が乱れると言われたとの旨話した。


平成26年9月24日のやり取り
原告とHは,平成26年9月24日,面談をした。原告は,この面談の席で,本件説明書面(甲5)には本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提と書いてあるのに,それが被告の判断によるということになり,いつになるか分からないというのは間違っているとの旨述べて,同月19日の面談時と同じ主張をし,Hは,被告の立場は変わらないので,原告が歩み寄る
ことが必要であるなどの旨述べて,再検討を促した。
原告とHとの間では,この面談において,次のやりとりがあった。(原告)(判決注・労働局に)相談をしました,で,まあ,恐らく会社と労働局が話し合うことになると思うんですね。それを踏まえて,それでも正社員に戻すことができないということになれば,そのとき,考えたいなというふうには思ってはいます。(中略)やるだけやってみて。(H)

I,でもこれK(判決注・被告代表者のこと。)も前言ったと思うけれども,やるだけやってみて,あと自分の首締めることになるかもしれないよ。

(原告)

そうですね,そうですね。

(H)

それはもう覚悟の上っていうことでやってるんだよね。だったらいいと思いますけれど。

(原告)

うーん。要は,会社と労働局の方とちょっと話していただきたいっていうのがあります。

(中略)

(H)

Iは覚悟の上でこの行動とってるってことだね。

(原告)

そうですね。一番,覚悟というより,自分の首を絞めるというよりかは,M(判決注・被告のこと。)が少しでもより良いものになればいいなという思いが強いです。あのう。

(H)

I,でもそれは絶対みんなの前で言わない方がいいよ。


(原告)みんなの前で言うつもりはないんですけれども,やはり育休中の他のコーチが数名いるのと,これからも潜在的にいるということを考えると。私が今置かれている立場になって,O(判決注・Hのこと。)も,例えば,Q(判決注・Hの妻のこと。)とかに置き換えて考えてみると,また違う考え方ができるんじゃないかなと思うんですけれども。(H)

それはケースバイケースだよ,I。俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

(原告)

あ,まあ,そう。


(H)それはそうじゃない。それはIがMのためにと思っているかもしれないけれども,それはI一人の考えかもしれないということを忘れちゃ駄目だよ。それはMのためだってIも言っているけれども,それはMのためと思っているのはIの考え方だよ。他の人がそれに対して,全員が同意すると思う。(原告)「うーん。
(甲15)


その後の面談,団体交渉,業務改善指導書の交付等

原告は,平成26年9月19日の面談を受けて,同月22日,東京労働局長に対し,速やかに正社員に戻してほしいとの旨及び退職勧奨を受けているので今後これをしないでほしいとの旨,個別労働関係紛争の解決につき援助を求めた。被告代表者とG社労士は,同年10月6日,東京労働局において事情聴取を受け,同月8日,Hから原告に対し,同月18日に被
告代表者とHにおいて面談を行う旨伝えた。
原告は,上記面談を承諾する旨回答した後,同月9日までに,労働組合であるT(以下本件組合という。)に加入し,本件組合は,被告に対し,同日付けで,本件契約社員契約を正社員としての労働契約に変更すること,勤務時間を午前11時から午後4時までのうち1日6時間とするこ
となどを求めて,団体交渉を申し入れた。被告と本件組合は,上記団体交渉を同月30日に行うことを合意した。
(乙39,乙41,乙44)

原告と被告代表者,Hは,平成26年10月18日,面談をした。この面談の席で,原告は,被告から正社員に戻れるのか否かやその時期が不明なままであるとの旨述べ,被告代表者は,原告の希望どおりには行かないと述べ,仕事を預けて大丈夫だという信頼関係が構築されてこそであるなどと述べたが,具体的な時期等を明言することはなかった。また,Hは,原告が正社員に戻るまでの期間は最長1年間という気がしているとの旨述
べ,また,原告を早期に正社員に戻すことができない理由として,原告には子の出産により2年間クラスを持っていないブランクがあるので,いきなりクラスを持たせることにはどのくらいのリスクがあるか分からないので,上記期間の中で,徐々に慣らしていくことが絶対に必要であるとの旨述べ,被告代表者もこれに同調した。さらに,被告代表者は,原告をクラス担当から外した理由について,原告が労働局に行ったり本件組合に加入したりしたからではなく,他に問題があったからであるとの旨述べ,この際,

あなたが組合とかって関係なく,危険であるというところで。

と発言した。その他,原告は,ずっと契約社員のままで飼い殺されるんじゃないかと思っているとの発言をし,被告代表者は,そうは考えてはいない,被告としても原告にクラスを担当してもらった方がよいとの旨述べた。(甲37)

ウ(ア)Hは,原告に対し,平成26年10月22日,①他のコーチのクラス運営について,危機感すら感じるとの旨発言したこと,②同年9月21日,他の就業員に対して,同月19日の面談で,産休コーチが帰ってくると組織の規律が乱れると言われたとの事実と異なる内容を話したこと,③勤務時間について希望を過度に主張したことについて,これらの言動を慎み,勤務態度を改善するようになどの旨記載のある同日付け業務指導書(甲16の1)を交付した。
(イ)また,被告代表者は,原告に対し,平成26年10月25日,平成26年9月13日ないし同年10月25日付けの業務改善指示書等合計1
6通を示し,翌日までに,各書面中の文書の趣旨を理解し,改善向上に努めますとの旨記載のある欄に署名して提出するよう求めた。各書面の記載内容は,次のとおりであった。


平成26年9月13日付け業務改善指示書(甲17の1)
就業規則24条を遵守し,上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に
勤務し,同僚社員と協調融和し会社の規律を乱すような言動を慎むよう,指導する。②

同年9月14日付け注意指導書(甲17の2)
社内の職場の秩序を乱しかねない発言を繰り返しており,今後繰り返される場合は就業規則に基づく制裁処分を行うことになるので,その旨厳重に指導する。



同年9月17日付け業務改善指示書(甲17の3)
本件合意時に,希望しても直ちに1週間5日勤務の正社員に戻れるのではなく,合意が必要であるとの説明をしたのに,復職時に,全従業員に対して,保育園が決まり次第正社員として1週間5日勤務することになっていると伝えて,職場を混乱させ秩序を乱したことを受け,秩序を乱す言動を禁止する。また,保育園に対して提出した書面に1
週間5日勤務と記載したのだとすれば,被告が許容した内容ではなく,偽造を行ったものであるから,今後,会社に関する全ての文書を作成するに際し,内容をねつ造したり偽造したりすることを厳しく禁ずる。④

同年9月20日付け業務改善指導書(甲17の4)
同月19日の面談の場で,労働契約が信頼関係の上に成立すると何
度も指導されたが,会社のことは信頼できないと何度も回答し,信頼関係を構築するための努力を著しく欠く言動を繰り返したことは,就業規則24条1項1号に違反するものであり,今後こうした言動が繰り返されるときは,厳重に指導を行う。


同年9月20日付け業務改善指導書(甲17の5)
同月19日のミーティング時に,クラスを担当しているときに保育園から呼び出されるなどした場合の対応を確認したところ,そのときは会社を辞めればいいんですよねといった内容を回答したことにつき,被告の指導と計画の下に,全員よく協力をし,親和し,秩序よく業務の達成に努めなければならないことを指導する。



同年9月21日付け業務改善指導書(甲17の6)同年7月27日及び同年8月23日の面談で,原告自らが退職の意向を示し,被告は退職勧告をしていないのに,被告から退職勧奨を受けているかのように他言しているので,今後虚偽を吹聴することを禁止する。


同年9月24日付け警告書(甲17の7)
同年7月27日及び同年8月23日,育児休業終了後の休職は認められない旨伝えたのに,退職をする覚悟である,解雇ということか,私が必要ないということかなどと迫り,被告の方針に従う姿勢を見せなかった。また,被告は退職勧奨をしていないのに,退職勧奨をされた旨他者に述べ,被告のクラス担当者を割り当てるスケジュールの混
乱を招き,他のコーチに対しても混乱と不安を与えるに至っている。これらの行為は就業規則24条1項1号に違反するので,厳重に注意するとともに,今後同様の違反をした場合には就業規則にのっとり厳正な処分を行わざるを得ないので,警告する。


同年9月27日付け注意指導書(甲17の8)
録音機器をオフィスに持ち込み秘密に録音をすることを禁ずる。



同年10月1日付け警告書(甲17の9)
同年9月,社外に対して,被告代表者が社員を圧迫し,次々に離職に追い込んでおり,次は自分がターゲットにされているといった虚偽の情報を吹聴し,被告の名誉を傷つけ,信用力を失墜させる行為をし
た。この行為は就業規則24条1項1号に違反するので,厳重に注意するとともに,今後同様の違反をした場合には就業規則にのっとり厳正な処分を行わざるを得ないので,警告する。

同年10月8日付け業務改善指導書(甲17の10)
私は今会社にいじめられている,あなたも妊娠したいなら気をつけた方がいいよ,経営陣が産休明けの社員が戻ってくると社内規律が乱れると言っているとの内容の発言をして,社内の秩序を乱し,社内不和を生じさせた。就業規則24条を遵守しない行為であり,今後このような言動を繰り返した場合には,就業規則に基づき制裁処分を行うことになるので,その旨厳重に指導する

同年10月15日付け業務改善指導書(甲17の11)
同月7日に労働局から受けた報告によれば,同月6日,労働局から,自己の希望を会社に伝えるだけでなく会社に歩み寄る必要があるのではないかとの助言を受けたのに,私の主張は変わらないと回答した。自己の都合を一方的に主張し,被告の秩序に基づく意向には一切耳を傾けない姿勢は,努力が不足しているといわざるを得ない。希望を主
張しすぎることは職場秩序を乱すことになるので,社内秩序を重んじる言動を取るよう指導する。

同年10月18日付け注意指導書(甲17の12)
同年7月27日から同年8月23日まで,育児休業終了後の休職を認めるよう主張し続けた際に,会社の融通が利かなくなったと発言し,
指導を受けたのに,経営者及び上司に暴言を吐き,風紀を乱す言動をし,会議時間を大幅に延長せざるを得なくなった結果,その後の社外会議を延期するなど役員の業務に支障を生じさせた。この行為は,就業規則24条1項1号及び2号に違反するので,厳重に注意する。⑬
同年10月18日付け業務改善指示書(甲17の13)
職場メンバーから,親和を乱す言動が多く報告されており,改めて職場の和を乱すことを禁止し,改善の向上を強く求める。


同年10月25日付け勤務改善指示書(甲17の14)
上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に勤務すること。同僚社員と協調融和し会社の規律を乱すような言動を慎むこと。


同年10月25日付け業務改善指導書(甲17の15)コーチのスケジュールの管理状況を熟知しており,同年9月1日,希望しても直ちに正社員に戻ることはできない旨説明したのに,同年10月18日までのミーティングで,直ちにクラスを持つことが当然の権利であるように主張を繰り返すことは,被告の方針及び自己の責務を認識せず,社内全員で協力,親和し,秩序よく業務を達成する努
力が不足している。
また,同年7月27日に退職の意向を示したが,これを撤回し,同年8月23日に再度退職の意向を示したが,同月26日,契約社員での復職を希望したので,被告はできる限りのスケジュール変更をしたのに,復職初日から被告の諸規則に従わない言動が見受けられ,被告
は,改善努力を求めるに至っている。
現場に対して自身の就業時間を指定するなど,業務組織に定めた分担と会社の諸規則に反し,上長の指揮と計画下に秩序よく業務の達成のための努力が不足しており,就業規則24条1項2号に違反しており,被告は,強く指導を行った。


同年10月25日付け警告書(甲17の16)
同年9月14日,同月20日,同月27日,同年10月1日,同月8日,同月18日の注意指導書に基づき何度も指導を行っているが,改善方法について提示もなく,改善努力が不足している。同月18日
のミーティング時に,クラスを持たせてもらえない現状は会社に飼い殺しにされているようだと発言したのに対し,再度指導し,その他の指導も行った。上記発言について,原告の行っている業務は飽くまで契約書に記載されている業務であり,他のコーチもクラス担当以外で行っている業務であって,業務に勝手に序列をつけて文句を言う姿勢
は,誠実に職務に当たっているとは判断できず,今後このような言動は一切慎むよう厳重に警告する。なお繰り返すようであれば,就業規則に基づき制裁処分を行う。(ウ)被告代表者は,原告に対し,平成26年10月26日,再度,前記(イ)①ないし⑯の業務改善指示書等を示して交付し,これらを読み上げて,複数回,署名をして提出するよう求めた。原告は,内容に納得できないとして,これを拒否した。原告は,上記各業務改善指示書等に署名する
か否か,持ち帰って検討することとなった。
(エ)平成26年10月29日,原告は,前記(イ)①ないし⑯の業務改善指示書等のいずれにも署名をせず,これらを被告代表者に返却した。これを受けて,被告代表者は,原告に対し,次の旨記載のある同日付け業務改善指導書(甲19)を交付した。

・同月26日に業務改善指導を行ったが,その内容に関して納得できないので署名をしない,指導・指示している内容を拒絶すると回答し,改善の見込みがないことを受け,改めて厳重に指導を行う。
・同月26日に,翌出勤日である同月29日には改善向上に関する資料を提出すると口頭で約束していたが,いまだ提出されていないこと
を受け,具体的な改善事由及び改善方法の提示を求める。
・上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に業務を遂行すること。
また,原告と被告代表者は,面談をした。この面談の席で,原告は,上記各業務改善指示書等には内容に納得がいかないので署名しない旨述べるとともに,自身の行動に問題があるとは思わないなどの旨述べ,被
告代表者は,なぜ指示に従わないのか,改善をしないということかなどの旨尋ねるとともに,自分の下で働きたいのかとの旨繰り返し尋ね,また,原告は9月19日の面談の前から問題を起こしていたとの旨述べた。(甲16の1,甲17,甲19,甲33,甲52,甲53,乙57,乙58)エ
平成26年10月30日,原告,被告代表者,本件組合の関係者が出席して,団体交渉が行われた。原告及び本件組合は,原告を正社員に戻すよう要求したが,被告代表者らは,直ちには応じられない,現状ではクラスを担当させることもできないとの回答をした。
また,本件組合は,被告代表者らに対し,上記団体交渉に先立ち,同月28日付け抗議申入書(甲18)を送付することにより,被告が原告に対して業務改善指示書等を交付したことについて抗議をし,以後このような
行為をしないよう申し入れ,上記団体交渉の席上においても,本件組合の関係者が,口頭により,同旨の申入れをした。
(甲18,乙23)

被告代表者は,平成26年11月1日,原告と面談し,次の旨記載のある同日付け業務改善指示書(甲20)を交付した。

・改めて厳重に指導を行うとともに,一日も早く,具体的な改善事由及び改善方法を提示し,数々の指導に関して改善を行うよう業務改善指示を行う。
・本業務改善指示書は,これまでと同様,原告が労働局に行ったことや本件組合に加入したことによって発生している内容のものではない。
・上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に業務を遂行すること。
(甲20)

被告は,その後,本件組合との間で団体交渉の日程調整等の書面をやりとりする中で,平成26年11月19日頃,同年9月19日に行われた面談以降の原告の言動を挙げつつ,原告が被告の指示命令に素直に従おうと
せず,正社員に戻りたいとの自己の主張のみを押し通そうとして,被告との間の信頼関係を構築する努力を全くせず,原告と被告との間の信頼関係が既に破綻状態となっている状況で,雇用契約を正社員に変更することは不可能であるとの旨等記載した回答書(甲21,乙28)を送付した。(甲21,乙28)


平成26年12月2日,原告,本件組合の関係者,F・Hら被告の関係者が出席して,団体交渉が行われたが,特段の合意には至らず,以後,団体交渉は一旦中断した。
(乙34)

被告は,本件組合から同年9月19日実施の面談において原告を正社員に復帰させない旨通告した理由等の説明を求められたのに対し,同年12
月12日頃,原告が育児休業明けに職場復帰した当日である同年▲月▲日に被告の全従業員に対して保育園が決まり次第1週間5日勤務で働くことになっているなどと誤った内容の挨拶をし,正社員化への既成事実を作ろうとして不誠実な態度を取ったほか,自己中心的な要求を行って被告の労務管理担当を混乱させるとともに,被告の女性従業員に対して私会社にいじめられているからあなたも妊娠を考えているなら気をつけた方がいいよなどと発言し事実でないことを吹聴して,いたずらに女性従業員の不安心理をあおり,企業秩序を乱す言動を行ったことなどを総合判断して,同月10日の段階で,原告を信頼してコーチとしてクラスを受け持たせ正社員に契約変更することは現段階ではできないと決定し,同日中にそ
の旨電子メールを送信して伝え,さらに同月19日,面談の席でその旨通告したとの旨等記載した回答書(乙48)を送付した。
(甲62,乙48,乙78)

自宅待機命令に至るまでの経緯

平成26年12月2日,前記⑺カの団体交渉の席上で,被告の関係者は,インターネット上の口コミサイトで原告らしきコーチを批判する記載がされているとの旨述べ,原告は,これを否定するとともに,当該コーチが誰であるかを知っているかのような発言をした。そこで,被告代表者は,原告に対し,同月3日,当該コーチが誰であるかを尋ねたところ,原告は,
特定のコーチの名を挙げて回答した。その後,被告代表者は,原告が虚偽の回答をしたとして,注意をした。また,被告代表者は,原告に対し,同月3日,被告代表者が送信した電子メールに返信をしないことや,書類の提出の仕方について注意をした。(乙34,乙46)

原告は,平成26年12月13日,Hに対し,子がノロウイルス感染症と診断されたため同日及び同月14日は欠勤する,本来電話で連絡するべ
きところ,午後1時15分出勤予定とのことで,原告の出勤予定時刻後となるので,電子メールにて連絡するとの旨記載した電子メールを送信して,欠勤の連絡をした。これを受けて,Hは,同日午前10時48分頃,了解したとの旨記載した電子メールを返信し,同日午後1時16分頃,被告の全従業員向けに,上記の旨告知する電子メールを送信した。

被告代表者は,原告に対し,同月17日,欠勤については電話連絡により承認を取るよう注意指導をした。これに対し,原告は,Hの出勤時刻前なので電子メールで連絡をした旨述べた。さらに,被告代表者は,同月27日,原告の面談をして,上記の件につき,バックアップ体制がないなどとして,欠勤する際には必ず電話連絡により指示を受けるよう,再度,指
導をした,
(甲24,甲25)

被告代表者は,平成27年3月24日頃,原告が子を入れる保育園が決まったと聞き,原告に対し,同日,今後の呼出し等に備えて保育園の連絡
先を教えるよう求めた。これに対し,原告は,同月25日,緊急連絡先としては夫又は両親としたいと回答するとともに,保育園の連絡先を教える必要性について尋ねた。これを受けて,被告代表者は,原告に対し,同日以降,複数回,保育園の連絡先を教えるよう求めた。しかし,原告は,被告代表者に対し,同年4月4日,家族と話し合った結果,保育園の連絡先
は被告には伝えたくないという結論に至った,その理由は,必要性が明確でないこと,子の個人情報をむやみに公開したくないことであるとの旨回答した。これに対し,被告代表者は,被告の就業規則では子の入園時に慶弔金を支給するので,保育園の連絡先を被告に報告するのは当然のことであるとの旨応答した。
また,被告代表者は,原告に対し,同月5日までに,労働者名簿に記入をして提出するよう求めたが,原告は,直ちにこれに応じず,その必要性
等の説明を求めた。被告代表者は,原告に対し,同日,電話で,労働者名簿作成の必要性等について説明したところ,原告は,必要事項を記載した労働者名簿を提出した。
(乙50)

平成27年4月18日,被告代表者が,本件組合から被告の不当労働行為を指摘する記載をした書面の送付を受けたことから,原告に対し,被告事業所内において,その趣旨を尋ねたところ,原告は,これに応対しながら,録音を開始した。被告代表者は,原告に対し,録音を止めるよう述べたが,原告は,これは私の記録として取りたいんですなどと述べて,録音を止めなかった。そこで,被告代表者が,スタッフルームでは録音をしな
いよう述べるなどして,録音の中止を複数回強く命じた。しかし,原告は,繰り返し反論をするなどして,録音を止めようとしなかった。
(甲43)

原告は,平成27年▲月頃までに,本件についてマスコミから取材を受け,その結果,インターネット上のニュースサイトなどで,(省略)との題名で,原告及び被告を匿名とし,東京都内の教育関係企業で働く女性が直属の男性上司から俺なら俺の稼ぎだけで食わせる覚悟で嫁を妊娠させると言われた,育児休業終了後に子が保育園に入れば正社員に戻すとの条件で1週間3日勤務の契約社員として復帰し,その後保育園が決まった
のに,上司は正社員に戻すことを渋り,押し問答の末に上記発言が出た,女性は社長とも話し合ったが,産休明けの人を優先はしないなどと言われ,嫌なら退職をと迫られた,まさに社を挙げてのマタハラで,労働局の指導も会社は無視,女性の後に育休を取った複数の社員も嫌がらせを受けて退職したとの旨,複数の他の事例とともに報道された。原告は,被告の従業員に対し,上記報道記事を見せた。
被告は,被告訴訟代理人弁護士らにおいて,原告に対し,同月4日,内
容証明郵便を送付して,本件労働審判を申し立てたことを通知するとともに,上記報道記事記載の原告の発言は事実と大きく異なり真実に反するものであり,以後,マスコミを含む外部の第三者に対して本件に関する不用意な発言を厳に控えるよう強く要請するとの旨通知した。
(甲27,乙98)


原告は,以前から,被告代表者らに告げずに被告代表者らとの会話を録音していた。
原告と被告代表者は,平成27年6月6日,面談をした。この面談の席で,原告は,上記事実を認めた。被告代表者は,上記録音を禁止する旨命じたが,原告は,被告代表者との会話は録音したいと述べるなどして,こ
れを拒否した。被告代表者は,原告が平成26年9月1日に署名をして被告に提出した誓約書(甲29。被告から開示を受けた情報及び知り得た情報のうち被告の経営上の情報,ノウハウ,顧客・取引先に関する情報等を被告の許可なく被告内外で開示・漏えい・使用しないなどの旨が記載されている。)を引用して,録音の禁止を命じたが,原告は,上記誓約書の効
力に疑問を述べるなどして,受け入れなかった。
なお,この前後を含め,本件への対応を除き,原告が上記録音をしたデータやその内容,特に,被告の業務上の秘密に係る事項等を第三者に対して漏えいしたとの事実は認められない。
(甲29)


被告代表者は,平成27年6月10日,原告と面談したが,原告は,この席で,被告代表者の同意を得ず一方的に録音を開始した。この面談の席で,被告代表者は,①被告事業所内において就業時間中に録音をしたことについて,厳重に注意をするとともに,今後これを一切禁止する,②退職を迫られたなどと被告がいわゆるマタニティハラスメントを行ったかのような明らかに真実と異なる事実を社外の第三者に摘示した
行為について,注意をするとともに,今後このような不用意な発言を第三者に対して行うことを厳に控えるよう指導するとの旨記載した業務改善指導書(甲28)を交付した。これを受けて,原告は,納得がいかないと述べた。さらに,被告代表者は,原告が被告に対して提出していたMスタッフセキュリティチェックリスト(乙62。ボイスレコーダー機能を搭載し
たアプリケーションを使用しての録音は社内情報,顧客情報,関連企業情報の漏えいの恐れがあるため行わないこととの記載がある。)を引用して,録音を禁止する趣旨を説明した。しかし,原告は,前記誓約書を撤回するなどと述べて,被告代表者の命令を拒否した。
被告代表者は,上記面談終了後,原告に被告事業所からの退出を命じた。
また,被告は,原告が被告社内のサーバーにアクセスできないよう遮断する措置を取り,その後,原告を専用のサーバーにのみアクセスさせる措置を継続した。
他方,原告は,本件組合との団体交渉において録音の扱いについて合意に至るまで執務室での録音は差し控えるなどの旨記載し,署名押印をした
同月13日付け確認書(乙65)を作成し,同日,これを被告に提出した。(甲28,乙62,乙65)

平成27年7月11日午後4時50分頃,被告代表者は,原告が業務用のパソコンを用いて団体交渉との記載のある電子メールを作成してい
るのを見つけて,業務に関係のない電子メールではないかとの旨指摘し,上記パソコンを原告が使用していた机上から引き揚げて,被告代表者の机上に持って行った。被告代表者が上記パソコン内を確認しようとしたところ,原告は,一緒に確認をさせるよう求めたが,被告代表者はこれを拒み,原告に対して,被告事業所から退出するよう命じた。しかし,原告はこれに応じず,携帯電話機を用いて一方的に録音を開始した。被告代表者は,原告に対し,繰り返し退出するよう命じるとともに,翌日以降出社しなく
てよい旨述べたが,原告は,理由を尋ねるなどして,これに応じず,別室に移動した被告代表者の後を追うなどした。結局,原告は,同日午後5時30分ないし40分頃,被告事業所を退出した。
なお,原告の使用していた上記パソコン中には,同年6月6日及び同月24日の就業時間中に原告が自身の使用のメールアドレスに送信した本件
組合又は弁護士に相談する内容を下書きした電子メールや,マスコミ関係者と推認される者とやりとりした電子メールが保存されていた。
被告は,原告に対し,上記出来事のあった同年7月11日,①就業時間中に業務に関連のない電子メールを送信するなどの職務専念義務違反行為があったこと,②自らの誓約をほごにして執務室内で録音をしたこと,③
上記各行為に関する事実調査及び処分の検討を行う必要が生じたため,同月12日以降の出勤を認めず,自宅待機を命ずる,④なお,自宅待機期間中の賃金は支払うとの旨記載した自宅待機命令書(甲30)を送付して,翌日である同月12日以降の自宅待機を命じた。
原告は,以後,今日まで,被告において就労していない。

(甲30,甲43)

被告は,その後,原告が被告のメールサーバーにアクセスすることを制限した。また,被告代表者は,以後,原告が被告において使用していたメールアドレスに送信された原告宛ての電子メールを閲読し,平成27年9
月7日,上記メールアドレスに電子メールを送信していた第三者に対し,原告は電子メールを確認できない状況にあった,原告には就業規則違反と情報漏えいが認められたため同年7月に自宅待機処分となり,同年9月1日付けで退職したとの旨記載した電子メールを送信した。
なお,原告が同年7月11日に被告事業所を退出した後に被告のメールサーバー内の電子メールを削除したとの事実を認めるに足りる的確な客観的証拠はない。

(甲40,乙15)


甲事件本訴に対する被告の対応等

平成27年6月30日及び同年7月17日,本件労働審判の手続期日が開かれたが,被告は,同年8月1日,その申立てを取り下げ,同月3日,乙事件の訴えを提起した。他方,原告は,同年▲月▲日,甲事件本訴を提
起して,本件記者会見をした。

被告代表者は,マスコミからの問合せにより,甲事件本訴の提起と本件記者会見を知り,同月23日,被告の公式ウェブサイトに,2015年▲月▲日(▲)の弊社に関する報道につきましてと題して,次の旨記載
のある記事(甲45)を掲載した(以下本件記事という。)。
(ア)本件記者会見をした被告の元従業員(判決注・原告のこと。)は,出産・育児を機に本人の意思に反して正社員から契約社員に職制を変更されその後雇止めをされたことがマタニティハラスメントに当たると主張しているとのことですが,全く事実と反する内容になっております。
(イ)元従業員は当初退職の意向も示されていましたが,最終的に当社(判決注・被告のこと。)の制度の下で職場復帰することを選択し,1週間3日・1日4時間勤務であれば育児と両立して勤務が可能であるとして,自らの意思で契約社員を選択されました。
(ウ)職場復帰に当たり,雇用契約の内容に関して具体的に説明を行い,本
人の承諾を得た上で,契約社員としての雇用契約を締結しております。(エ)ところが,元従業員は,復職前後から約1年間にわたり,職場内外で数々の問題行動に及びました。(オ)元従業員との雇用契約の終了は,飽くまで元従業員の問題行動が理由であり,育児休業の取得その他の出産・育児等を理由とした不利益取扱い(マタニティハラスメント)に当たる事実も一切ございません。(甲45)


原告は,被告に対し,平成28年2月26日頃,本件記事の削除を求めたが,被告は,同年3月4日頃,これに応じない旨回答した。
(甲46,甲47)

2争点⑴(本件合意の解釈及びその有効性)


本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意であるか。

前提事実⑴イ及び⑵エのとおり,本件正社員契約と本件契約社員契約とは,契約期間の有無,勤務日数,所定労働時間,賃金の構成(固定残業代を含むか否か,クラス担当業務とその他の業務に係る賃金が内訳として区別されているか否か。)のいずれもが相違する。また,認定事実⑴及び⑶
のとおり,被告における正社員と契約社員とでは,所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり,また,業務内容について,正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており,各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し,契約社員は上記コマ数の定めがなく,上記リーダーの役割を担わないとの違いがあり,その
担う業務にも相当の違いがある。したがって,本件正社員契約と本件契約社員契約とを同一の労働契約と理解することは困難である。
また,前提事実⑵エのとおり,原告と被告は,本件合意の際,雇用契約書と題する書面(甲8,本件雇用契約書)を作成しているところ,社会通念上,労使間において,労働契約を継続しつつ単に労働条件を変更す
る場合にまで契約書と題する書面を作成して取り交わすことは一般的でないといえる。イ

他方,本件合意が単に本件正社員契約を継続させつつその労働条件を変更するだけの合意であったとの事実を認めるに足りる的確な客観的証拠はない。原告の陳述書(甲50)及び本人尋問における供述中には,原告は,本件合意につき,正社員の地位を失うものではなく,正社員として就労するようになるまでのつなぎにすぎないと認識していたとの供述等があるが,
これは要するに原告の主観をいうにすぎないものであって,原告の上記供述等のみをもって本件合意が本件正社員契約を継続する合意であったと解することはできない。

以上によれば,本件合意は,本件正社員契約を解約するとともに,これと別途の契約である本件契約社員契約を締結する合意であると解するのが
相当である。したがって,本件正社員契約は,本件合意において,原告と被告との合意により解約されたものと認められる。


本件合意は均等法や育介法に違反し又は錯誤等により無効であるか。ア
均等法及び育介法違反の有無
(ア)前提事実⑵及び認定事実⑷のとおり,原告は,育児休業終了日の直前である平成26年▲月の時点においても,同年▲月以降子を入れる保育園が決まらない状況にあった。そして,前提事実⑵ウのとおり,原告は,被告から育児休業終了後の休職は認められないとの旨回答されたのを受けて,被告に対し,1週間3日勤務での復職を求めたものであることに
照らせば,原告が本件正社員契約を継続したままで育児休業期間終了日を迎えた場合,本件正社員契約に基づいて1週間5日・1日7時間の就労をすることは現実問題として不可能又は相当困難であったものと認められる。したがって,原告は,仮に本件正社員契約を継続したまま育児休業終了日を迎えた場合,その翌日から,欠勤を繰り返して自己都合に
よる退職を余儀なくされるか,就業規則の定めにより,自然退職となり(36条1項7号,認定事実⑴ケ(イ)),あるいは,勤務成績不良として解雇されるか(34条1項2号,認定事実⑴ク),さらには出席常ならず改善の見込みがないものとして懲戒解雇される(31条2号,認定事実⑴キ)などの不利益な処分を受けざるを得ない地位にあったものである。
他方,本件契約社員契約の締結により,原告の就労義務は1週間3日・1日4時間に緩和され,これにより原告は,子を保育園に入れなくとも,欠勤することなく就労義務を履行することが可能となり,被告との間の労働契約を継続して,これに基づく地位を保全されたものである。(イ)この点,本件合意時において,原告が子を入れる保育園が早期に決ま
るめどが立っていたとの事実は認められない。したがって,原告が本件合意当時年次有給休暇を有していたとしても,その日数には限度があり,使用者に時季変更権があることを考慮すれば,これをもって原告が本件合意当時本件正社員契約による就労義務をその本旨に従って履行することができたものとは認められない。また,認定事実⑴エのとおり,原告
は,病気又はけがをした子の看護のために看護休暇を取得することができるが,その取得要件は病気又はけがをした子の看護のために限られている上,その日数は1年間で5日が限度とされており,これによっても原告が本件合意当時本件正社員契約による就労が可能であったとは認められない。原告が平成26年▲月中に子を入れる保育園を見つけたとの
事実があったとしても,飽くまで本件合意後の事情にすぎず,本件合意時に原告に対する不利益な取扱いがあったか否かを判断するに当たり,これを考慮することはできない。
(ウ)以上のとおり,本件合意により本件正社員契約を解約して本件正社員契約を締結したことは,原告にとって,労働契約上の地位を維持するた
めに必要であり,本件合意がなければ,これを維持することは不可能又は相当困難であった。すなわち,原告にとって,本件合意により得る法的な地位は,これをせずに育児休業終了を迎えた場合に置かれる地位と比較して有利なものであり,本件合意は,その当時の原告の状況に照らせば,必ずしも直ちに原告に不利益な合意とまではいえず,そうであるからこそ,原告は子を入れる保育園が決まらないという事情を考慮し,被告代表者から本件契約社員契約の内容につき説明を受け理解した上で,
本件合意をしたものと認められる。したがって,これが原告の真意によらない被告の強要によるものとは認められず,本件合意は,原告に対する均等法9条3項及び育介法10条にいう不利益な取扱いに当たらない。以上の次第で,本件正社員契約の解約を含む本件合意が均等法9条3項及び育介法10条により無効であるとは認められない。


自由な意思に基づく同意・錯誤の有無
(ア)次に,前記アに述べたとおり,原告は,本件合意当時,育児休業が終了するのに子を入れる保育園が決まっていない状況にあり,1週間5日・1日7時間の就労義務を履行することが不可能又は相当困難であっ
たものであるから,原告には,その自由な意思に基づいて,上記就労義務を緩和させるために,1週間3日・1日4時間の就労をもってその義務の履行として足りる本件契約社員契約を締結したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められる。このことは,前提事実⑵イ及び認定事実⑶のとおり,原告は,平成26年2月22日,被告代表者と面談を
した席で,契約社員の勤務日数・所定労働時間・業務内容等が記載された本件説明書面(甲5)を示されてその説明を受け,同月26日,Fに対して,育児休業の終了までに子を入れる保育園が決まらなければ1週間3日勤務,つまり本件契約社員契約の労働条件での復職をすることを希望する旨,予備的にとはいえ表明していたことからも明らかである。
(イ)また,前提事実⑵ウ及びエ並びに認定事実⑷アのとおり,原告は,育児休業終了後,休職が認められず(なお,ここで被告が原告に対して上記休職を命じるか否かは,原告に被告の就業規則の定める休職事由〔認定事実⑴オ(ア)(イ)〕がない以上,専ら被告の裁量によるものであった〔認定事実⑴オ(ウ)〕。),1週間5日・1日7時間の就労義務を履行しなければならなかったところ,これが不可能又は相当困難であったことを認識した上で,被告代表者と本件雇用契約書(甲8)の読み合わせをして,これに署名をして本件合意をしたものである。そして,認定事実⑷アのとおり,原告は,この際,Fから,正社員に戻るに当たっては,クラススケジュールの問題がある旨,すなわち,原告が担当するクラスのスケジュール調整をする必要があるので,原告が希望したとしても直
ちに原告を正社員として勤務させることはできない旨説明され(なお,この点について,原告の陳述書(甲50)及び本人尋問における供述中には,原告は,Fから,クラススケジュールのタイミングだけの問題と言われたとの供述等があるが,いずれにしても,原告が希望してもクラススケジュールの調整なしに直ちに正社員に戻すことはできないとい
う趣旨の発言であることに違いはない。),さらに,G社労士から,正社員としての労働契約に変更するためには改めて被告との間で合意をすることが必要であること,すなわち,原告が正社員として勤務するためには,原告がその旨申し出た後,改めて労働条件等について交渉して契約を締結し直さなければならず,原告が希望したからといって直ちに被
告との間での協議を経ずに正社員に戻れるものではないことを説明された上で,本件雇用契約書(甲8)に署名して本件合意をしたものである。本件説明書面(甲5)の補足説明の文言も,育児休業終了後に契約社員として復職した従業員が希望する場合には正社員への契約再変更が前提であるとされており,正社員としての契約に自動的に変更されると
いうものでないことは,文言上明らかである。
原告の陳述書(甲50)及び本人尋問における供述中には,原告は希望すれば直ちにかつ確実に正社員に戻れると思って本件雇用契約書に署名したとの旨の供述等があるが,上記に説示したところによれば,これは,原告がその内心において,原告が希望すれば被告は容易に正社員としての労働契約を締結し直す合意に応じてくれるであろうとの期待を抱いていたということを意味するにすぎず,被告との合意が不要であると
いう意味とは解されないのであって,原告が本件契約社員契約締結後正社員に戻るためには改めて被告との間で契約を締結することを要する旨認識していたとの上記認定を左右しない。また,原告の陳述書(甲50)及び本人尋問における供述中には,本件契約社員契約は原告が正社員として復職するための一時的なつなぎであると認識していたとの供述等が
あるが,原告が将来正社員に戻ることを想定していたのだとすれば,正に本件契約社員契約はそれまでのつなぎにほかならないから,この点で,原告の内心と本件契約社員契約との間に食い違いはない。
(ウ)以上のとおり,原告は,育児休業終了時に子を入れる保育園が決まっていない状況で,その真意により本件合意をしたものと認められ,本件
合意に係る原告の意思表示に錯誤があるとは認められない。したがって,本件正社員契約の解約を含む本件合意は,原告の自由な意思決定により成立したものと認められ,錯誤により無効であるとは認められない。⑶
本件合意は停止条件付無期労働契約の締結を含むものであるか。

本件説明書面(甲5)中の契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載が原告が申し出れば直ちに正社員としての労働契約の効力が生じると解されるものでないことは,前記⑵イ(イ)に説示のとおりである。また,前記⑵イ(イ)に説示のとおり,本件合意の際,G社労士は原告に対して正社員としての労働契約に変更するためには改め
て被告と合意することを要する旨,すなわち,原告が申し出たことのみによってなにがしかの正社員としての労働契約が成立するものではない旨説明し,原告はその旨認識して本件合意をしたものである。さらに,前提事実⑵エのとおり,本件雇用契約書(甲8)中には,契約期間の定めが記載されているが,他方で,契約期間内に原告が正社員としての契約への変更を申し出た場合の法的な帰結については,何らの記載もない。
そもそも,前提事実⑵イ及び認定事実⑶のとおり,被告において,正社
員には所定労働時間7時間の正社員とこれを短縮した正社員(時短勤務)との別があり,さらに,後者には所定労働時間が1日6時間,5時間及び4時間という3つの種類がある。そして,原告の主張によっても,原告が正社員への復帰を希望した場合に停止条件が成就して効力が生じるという無期労働契約が上記のどの労働条件による契約であるのか,労働条件を含
むその契約の内容は,本件合意の時点において,特定されていない。イ
以上によれば,本件合意において,原告と被告が停止条件付無期労働契約を締結したとの事実は認められない。したがって,原告の1週間3日勤務の正社員に復帰したいとの意思表示は,被告に対する本件時短正社員契約の申込みにすぎないものであるから,被告がこれを承諾したとの事実が
ない以上,本件時短正社員契約の成立は認められない。


以上の次第で,本件正社員契約又は本件時短正社員契約に基づく原告の主位的請求中の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない。

3争点⑵(本件契約社員契約の更新の有無)


前提事実⑵エのとおり,本件雇用契約書(甲8)中には契約期間の定めが明確に記載され,原告は被告代表者とその読み合わせをしてこれに署名したものであるから,本件契約社員契約を期間の定めのない労働契約と解することはできない。しかし,前提事実⑵イによれば,本件契約社員契約を含む被告における契約社員(1年更新)の制度は,被告においてもともと無期労働
契約を締結していた従業員が育児休業から復職する際の選択肢として創設されたものと解され,いずれ当該従業員が希望すれば無期労働契約を再締結して正社員に復帰することを想定したものであると認められる。また,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件説明書面(甲5)中には,補足説明として契約社員→子の就学後→正社員に再変更との旨の記載があることが認められ,契約社員としての契約は,例として子の就学時まで継続することが予め想定されているものと認められる。

以上によれば,本件契約社員契約は,労働契約法19条2号の定める,労働者において契約期間の満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる有期労働契約に当たる。

次に,証拠(甲32,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告が原告に対して平成27年7月31日頃本件契約社員契約の更新を拒絶するとの通知(本件雇止め)をしたのに対し,同年8月4日頃,本件組合及び原告の名で抗議及び団体交渉申入書(乙9)を送付し,本件組合を通じて被告の上記更新拒絶に抗議をするとともにその撤回を求めたことが認められる。そして,有期労働契約に係る労働者の更新の申込みは,使用者による雇止めの
意思表示に対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいと解するのが相当であるから(平成24年8月10日付け基発0810第2号労働契約法の施行について第5第5項(2)エ参照),原告は,本件契約社員契約につき更新の申込みをしたものと認められる。
また,弁論の全趣旨によれば,原告は,甲事件本訴につき平成27年12
月2日提出した同日付け訴えの追加的変更申立書により,本件契約社員契約の更新を主張し,以後,予備的請求であるとはいえ,本件契約社員契約に基づく権利を有する地位の確認を求める請求を維持して甲事件本訴を追行したことが認められる。以上によれば,原告は,本件契約社員契約の期間満了の日以降も,その更新の申込みを継続し,被告はその拒絶を継続したものと認
められ,また,現在まで,原告は本件契約社員契約に基づいて就労する意思を有し,労務の提供を継続していたものと認められる。⑶
そこで,本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないか否かにつき,以下検討する。

原告は,被告に対し,平成26年9月9日頃から,一貫して,本件説明書面(甲5)中の契約社員は,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの記載等を根拠として,正社員に戻すよう求め続け,1週間3日勤務の契約社員として当面の間就労するとの被告の提案を受け入れなかった(前提事実⑶及び認定事実⑸ないし⑺)。しかしながら,他方で,この間,被告も,被告代表者において,原告に対し,同月10日以降,一貫して,本件契約社員契約から正社員としての
契約に変更するためには改めて合意が必要であることを根拠として,1週間3回勤務の契約社員として就労を継続するよう求め続け,正社員に戻りたいとの原告の申出を受け入れなかったものである(前提事実⑶及び認定事実⑸ないし⑺)。
このように,原告と被告は,結論として互いに自己の主張を譲らなかっ
たものであるところ,この点,労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結・変更するべき(労働契約法3条1項)労働契約締結に係る交渉段階において,当事者の一方である原告のみが非難されるべきものではない。原告が被告に対して正社員に戻すよう要求し続けたことを本件雇止めの理由とする被告の主張及び被告代表者の姿勢は,要するに,使
用者と労働者との間で労働契約の変更に係る意思の対立が生じた場合,労働者はその主張に固執せず使用者の意向に従うべきというものであるが,労働契約の変更等に係る交渉は,労働者の労務提供に係る場面ではないので,被告代表者や原告の上長らがここで労務指揮権を行使することができるものではなく,原告が被告の指示に従いその意向に合わせた意思決定を
しなければならないと解するべき合理的理由はない。
かえって,原告と被告との間で平成26年▲月から同年12月頃までされた本件契約社員契約を正社員としての労働契約に変更するか否かの交渉過程において,原告は,原告を速やかに正社員に戻すよう要求しつつも,被告代表者らに対して,正社員に戻ることができる時期や条件を尋ねるなどして,交渉の手掛かりを探す姿勢を示していた。これに対し,被告代表者ら被告の関係者は,①平成26年9月19日に行われた面談において,その時期をあるいは信頼関係が築かれたとき,あるいはスケジュールの都合上最低4か月後ないし5か月後,あるいは本件契約社員契約の期間満了時である1年後と述べるなどして言を左右にし,しかも,子が発熱するなどして保育園に入れておけなくなった際にも欠勤しない説得力のある方策
を準備するよう要求し,夜間勤務を含めて他の正社員と同じ就労が可能であることが必要であるとして,結局正社員に復帰させる具体的時期や条件を明確にしないまま,上記の場合にも欠勤せず勤務できるかを確認するためになどとして1週間3日勤務を継続するよう言い渡し(認定事実⑸エ),②同年10月18日に行われた面談においては,原告を早期に正社員に戻
せない理由について,新たに,育児休業等により2年間のブランクがあるので徐々に慣らす必要があるとの説明をし(認定事実⑺イ),③さらに,原告が正社員に戻りたいという申出を維持していること自体を捉えて,職場の秩序を乱すので,社内秩序を重んじる言動を取るように指導するとして,業務改善指導書(甲17の11)を交付し(認定事実⑺ウ(イ)⑪),④
同年11月19日頃本件組合に送付した回答書(甲21,乙28)において,原告を正社員に戻さない理由として,原告が正社員に戻すよう主張していること自体を挙げるとともに,同年9月19日に行われた面談以降の原告の言動を挙げ(認定事実⑺カ),⑤同年12月12日頃本件組合に送付した回答書(乙48)中では,原告の復職当日の言動や同年9月19日の面
談より前の言動を理由に挙げて,同月10日には既にその時点で原告を正社員に戻さないことを決定していたと説明するなどして(認定事実⑺ク),原告との間で正社員としての労働契約を締結し直す時期やそのめどを明確にせず,その条件等としても,子が病気等により保育園に入れられないときすら欠勤しないような方策を準備するよう要求し,結局のところ,信頼関係が築かれれば,説得力ある方策が準備されればなど,要するに,被告がよしとすれば,という回答に終始しているのであって,その説明の内容
も一貫しておらず,原告も納得し得る合理的なものとは認められない。以上によれば,原告が被告に対して正社員に戻すよう求め,その申出を継続したことは,被告から原告との雇用関係の継続を拒み,本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由となり得ない。

次に,原告は,被告の他の女性従業員に対して被告代表者らとのやりとりの内容を話したことはあるが(認定事実⑸ウ及びカ),原告に虚偽の事実を述べ被告を誹謗中傷したと評価するべき具体的な言動は認められない。Hから産休コーチが帰ってくると組織のバランスが乱れると言われたとの原告の発言(認定事実⑸カ)は,平成26年9月19日に行われた面談時
にHが述べた,正社員として戻ったけれども育児休業明けだからといって優遇しては組織のバランスが崩れてしまうとの発言(認定事実⑷エ(ア))を指したものと解され,内容虚偽とはいえない。
そして,被告との交渉経過を被告の他の従業員に対して話すことは,それ自体,労働者が使用者に対して負うべきなにがしかの義務に違反するも
のではないし,直ちに被告社内の秩序を乱すなどの影響を及ぼすものとは解されない。仮にこれにより被告の女性従業員らに動揺等が生じたとすれば,その内容が虚偽又は単なる誹謗中傷でない限り,それは,原告の発言により生じたものではなく,原告が話した被告代表者らの原告に対する言動自体により生じたものと解するのが自然である。

したがって,これも,本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由には当たらない。ウ

原告が取材を受け,その結果インターネット上のニュースサイトに掲載された認定事実⑻オの報道記事について,これが掲載されるに当たり,原告が取材担当者に対してマタハラという言葉を使って被告からマタニティハラスメントを受けたと述べたのか,取材担当者が原告から取材をした結果そう評価したのかは明らかでない。

また,上記報道記事記載の内容のうち,原告に対して直属の上長であるHが原告とのやりとり中で同記事記載の発言をしたこと,被告代表者やHが育児休業終了後の従業員を優先しない旨の発言をしたことはいずれも真実であるし(認定事実⑸エ(ア),⑹),嫌なら退職をと迫られたとの部分も,原告から契約社員としての就労を拒否した場合にどうなるのかを尋ねられ
たG社労士が自己都合による退職になると答えたこと(認定事実⑸エ(オ))を指すものと解され,全くの内容虚偽とまではいえない。その他,同記事中の社を挙げてのマタハラ,労働局の指導も会社は無視などの記載は,評価を含むものであり,上記のとおり,これが原告が取材担当者に対して述べた文言であるとまでは認めるに足りない。

したがって,この点において,本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たる事実は認めるに足りない。

原告が被告代表者の指示を受け入れず,被告事業所内での録音の禁止を拒否して,平成27年6月10日,被告代表者との会話をその同意を得ず
に一方的に録音し,また,その後,当面執務室での録音を差し控えるとの旨自ら約したのに,同年7月11日,再び上記と同じ無断録音行為をしたことは,認定事実⑻カないしクのとおりである。
しかしながら,被告代表者が原告に対して原告が提出していた秘密保持に係る誓約書(甲29)やセキュリティチェックリスト(乙62)を引用
して説明したことからも明らかなように,被告代表者が従業員に対して被告事業所内での録音を禁止することに合理的な理由があるとすれば,そこでの被告従業員らの会話が録音されることにより,被告の経営上秘密を保持するべき情報やノウハウ等の情報が社外に漏えいする危険を防止することにあると解される。そして,原告が被告代表者との上記情報とは無関係のやりとりをその面前で録音したところで,上記漏えいの危険が生じるものではない。したがって,被告代表者が原告に対してこれを禁じる合理的
理由は容易に見いだせない。そして,原告が上記無断録音行為をした際の被告代表者とのやりとりの内容が被告において漏えい防止の必要のある情報に係るものでないことは,認定事実⑻キ及びクから明らかである。他方,一般に労使間の紛争において,その争点に係る労使間の会話の録音が重要な証拠になることは社会通念上明らかであり,原告にこれを後日
証拠化するために録音をする必要があったことは否定できない。また,原告が上記を含む無断録音行為により,現に上記情報が第三者に漏えいされるなど,被告に損害が生じたとの事実もない(認定事実⑻カ)。以上によれば,この点において,原告が被告代表者の指示に従わない行動をしたこと,被告に対して自ら約束したことすら守らなかったこと自体
の当否の問題はあるものの,原告の上記行為自体,本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるものとは認め難い。

労働者は,労働契約及びその内容をなす就業規則に基づき,使用者に対する労務提供の仕方につき使用者の定める服務規律に従う義務を負い,ま
た,使用者は,その企業としての存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠な企業秩序を維持するために必要な事項を就業規則で定め,これに基づいて労働者に指示・命令をできる。しかしながら,労働者は,使用者の一般的な支配に服するものではなく,飽くまで,労働契約の目的上必要かつ合理的な限りで上記企業秩序に服するべきものと解される。被告
の就業規則も,服務心得として,

社員は(中略)上長の指揮と計画の下に(中略)秩序よく業務の達成に努めなければならない。

(24条1号),

社員は(中略)上長の指揮の下に,誠実,正確かつ迅速にその職務に当たらなければならない。

(同条2号)と定めており,上長の指揮に従うことは,業務の達成,職務の執行という場面において遵守するべき心得である旨,明確に限定している(認定事実⑴カ)。被告が被告代表者らにおいて原告に対し平成26年▲月以降発し,原告
が従うことを明確に拒否した注意・指導・指示等は多岐にわたる(認定事実⑺ウ及びオ,⑻ウ)。しかし,その主たる内容は,結局のところ,いずれも原告が被告の主張に反して正社員に戻すよう求め続けたこと,被告代表者らとの面談等における言動,被告代表者らとの交渉過程でのやりとりや原告の主張等を他の従業員やマスコミに対して話したことやその内容に
係る事柄であって,被告の業務や原告の労務提供の在り方とは関わりのない事柄に係るものである。すなわち,被告が被告代表者らがした上記注意・指導・指示等は,要するに,原告を正社員に戻すか否かという労働契約上の交渉において,原告に対し,その主張を曲げ,被告の意向に沿う譲歩をし,他言しないよう要求し,あるいは原告の労務提供の在り方と無関
係な事項を指摘しているものであって,服務規律又は企業秩序の維持のための注意・指導・指示等の範ちゅうに属さず,被告の上記就業規則に基づく注意・指導・指示等であるとも認められないものである。
したがって,原告が被告代表者らの上記注意・指導・指示等を拒否して従わなかったことは,労働契約上の義務に反する行為と評価できないもの
であり,被告が本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるものとはいえない。

平成27年7月11日の原告の行為(認定事実⑻ク)は,被告事業所内において,就労時間中に,自ら被告に対してした約束に反してその執務室
内で被告代表者の同意を得ずに一方的に録音を開始した点,退出を命じた被告代表者の指示に従わず,被告代表者の後を追ったという点で,被告の事業所内の平穏等を害し,その秩序を乱したものといえる。ただし,業務用のパソコンで業務外の電子メールを作成していたと疑われた原告が,その内容の確認や弁解等のために,被告代表者が上記パソコンの内容を確認するのに同席を求めたこと自体には,合理的な理由もある。キ
原告が就業時間中に業務用のパソコンを用いて上記業務外の電子メールの送受信をしたこと(認定事実⑻ク)は,労働契約に基づく職務専念義務に違反する行為といえる。
ただし,被告において,業務用のパソコンを用い,被告から付与されたメールアドレスにより業務外の電子メールの送受信をすることが個別具体的に禁じられていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。また,原告が
上記パソコンを用いて業務外の電子メールの送受信を行っていたとしても,その作成にどの程度の時間を要し,被告の業務にどの程度の支障が生じたのかは明らかでない。なお,認定事実⑻ケのとおり,原告が平成27年7月11日に被告事業所を退出した後に被告のメールサーバー内の電子メールを削除したとの事実は認めるに足りない。


原告が本件組合の関係者や弁護士らに対して送信した電子メール中において被告に対して社会的制裁を加えることを目的として被告に在籍しているなどの旨記載していたとしても,これは,原告がその内心を被告社外の第三者,しかもその加入する労働組合関係者,あるいは自身が相談ないし委任していた弁護士に対して述べたというにとどまり,上記行為は,被告
や本件に無関係の第三者等に対してなされたものではない。
したがって,原告の上記行為をもって,被告との信頼関係を破壊するものと評価することはできず,原告の上記行為は,被告が本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たるものとは解されない。⑷

以上に述べたところによれば,結局,被告が本件契約社員契約の更新を拒絶する客観的に合理的な理由に当たり得る事実は,①平成27年7月11日に被告事業所内において,就労時間中に被告代表者の同意を得ず一方的に録音を開始し,退出を命じた被告代表者の指示に従わず被告代表者の後を追ったこと(前記⑶カ),②就業時間中に業務用のパソコンを用いて上記業務外の電子メールの送受信をしたことの2点にとどまる。そして,原告の上記各行為のみよっても,更新の合理的期待が認められる本件契約社員契約につい
て,被告が本件契約社員契約の更新を拒絶することが客観的に合理的な理由が十分にあるとは容易に解し得ず,雇止めが社会通念上やむを得ないものと解するには足りない。すなわち,本件雇止めは,客観的に合理的な理由を欠くものであり,社会通念上相当であると認められない。
したがって,被告は,本件契約社員契約について,今日まで,原告の更新
の申込みを承諾したものとみなされるのであって,原告の本件契約社員契約に基づく労働契約上の権利を有する地位の確認並びに賃金及び遅延損害金の支払を求める請求(ただし,本判決確定後の将来請求分を除く。)はいずれも理由がある。
4争点⑶(被告による不法行為の有無)


本件合意が原告に対する均等法9条3項及び育介法10条の定める不利益な取扱いに当たらないことは,前記2⑵アに説示のとおりである。また,前記2に説示したところの帰結として,原告が正社員に戻るためには,被告との間で,正社員としての勤務につき労働条件等を定めた新たな労働契約を締
結する合意を経なければならないものである。
もっとも,前提事実⑵並びに認定事実⑶及び⑷アのとおり,被告における契約社員(1年更新)としての労働契約は,育児休業終了後の選択肢の一つとして,1週間5日の勤務日数はそのままに所定労働時間のみを短縮した正社員(時短勤務)としての労働契約とともに設けられている制度で
あり,育児休業終了の時点で,本人の希望又は育児環境等の事情等により1週間5日勤務による就労が困難な正社員が,退職を余儀なくされることを避けるための選択し得る就業形態と解される。そして,前提事実⑵イのとおり,上記各労働契約の内容が記載された本件説明書面(甲5)中には,特に契約社員について,本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提ですとの補足説明が記載されている。以上を考慮すれば,原告において,育児休業終了時の事情等によって1週間5日勤務による就労が困難であり,
退職を余儀なくされることを回避するために,本件合意により契約社員(1年更新)の地位となることを選択したものであったとしても,本件合意後に保育園に空きが出て子を入れることが可能となる見込みであるという事情変更を踏まえ,平成26年9月8日から同月10日頃にかけて,被告に対し,その旨知らせるとともに,1週間5日勤務の正社員に復帰することを
希望してその旨申し出た時点で,原告と被告は,被告において労働者が希望する場合の前提と標ぼうする正社員への契約再変更に向けた準備段階に入ったというべきである。
そして,契約準備段階において交渉に入った者同士の間では,誠実に交渉を続行し,一定の場合には重要な情報を相手方に提供する信義則上の義務を
負い,この義務に違反した場合は,それにより相手方が被った損害につき不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。


そこで,被告に上記信義則上の義務違反があったか否かにつき,以下検討する。


まず,前記3⑶アに説示のとおり,原告と被告との間で平成26年▲月から同年12月頃までされた本件契約社員契約を正社員としての労働契約に変更するか否かの交渉過程において,原告は,速やかに正社員に戻すよう求め,希望する労働条件を提示しつつも,被告代表者らに対して,正社員に戻ることができる時期や条件を尋ね,双方に不利益がないよう話し合
って合意に至りたいとの柔軟な姿勢を示すなどして,交渉の手掛かりを探す姿勢を明らかにしていた。他方,前記3⑶ア及びオに説示のとおり,被告代表者ら被告の関係者は,①平成26年9月19日に行われた面談においては,正社員に戻すための合意ができる具体的な時期や条件について,言を左右にするばかりか,子が発熱するなどして保育園に入れておけなくなった際にも欠勤しない準備を要求し,他の正社員と同じ形態での就労が必要などとして,結局明確に
しないままに,1週間3日勤務を継続するよう言い渡し,同年10月18日に行われた面談においては,原告を早期に正社員に戻せない理由として,育児休業等によるブランクを新たに挙げ,さらに,同年11月19日頃本件組合に送付した回答書(甲21,乙28)中において,原告が正社員に戻すよう主張していること自体や,同年9月19日に行われた面談以降の
原告の言動をその理由として挙げ,同年12月12日頃本件組合に送付した回答書(乙48)中では,原告の復職当日の言動や同年9月19日の面談より前の言動をも理由に挙げるなどし,最後まで原告との間で正社員としての労働契約を締結し直すことができる具体的な時期やそのめどについて何ら明確な情報を与えず,その条件等としても,結局のところ,要する
に,被告がよしとすれば,という趣旨の回答に終始し,②かえって,そのような交渉の経過において,原告が正社員に戻りたいという申出を維持していること自体や,そのための具体的かつ建設的な交渉の実施を求める原告の行動や労働局に相談に向かおうとする姿勢そのものを問題視して,原告をクラスの担当から外して,合理的な理由なくその中核的な業務を取り
上げ(認定事実⑸エ(サ)及びオ),正社員に戻りたいとの主張を曲げて被告の意向に沿う譲歩をするよう要求することを主眼として業務改善指導書を頻回に発出して,原告に譲歩を迫るなどの行動に出たものである。イ
被告において,コーチが担当するクラスは様々な曜日及び時間帯に設定されており(認定事実⑵),少なくとも本件契約社員契約の期間終了までの1年間もの長期にわたり,原告に担当させるクラスを調整し準備することができないとは考えられないし,被告にその気があれば,原告に担当させるクラスを準備できる時期を明確にすることは可能であったと推認される。また,コーチングスクールである被告において,コーチが不測の事態で突然授業を担当できなくなれば,急きょ代わりのコーチを探して授業に充てるなどの困難が生じることは容易に推認されるものの,およそ病気やけがなどによる欠勤等は被告に勤めるどのコーチにも生じ得ることであるにもかかわらず,子が病気等により保育園に入れておけなくなるといった事情が育児中のコーチに生じた場合についてのみ,欠勤等を許さないというのは,不合理である。幼年の子がいる労働者につき病気等をした子の看護
のため休暇を取得できる旨就業規則で定めておきながら(認定事実⑴エ),この場合にも家族の援助等により当該コーチが欠勤をしないという方策をあらかじめ整えておくよう要求することに,合理的な理由は見いだせない。ましてや,正社員に戻るのに先立ち,実際に子が病気等になっても欠勤しないで就労できるかを確認するために,希望に反して1週間3日勤務の継
続を求めるなどというのは,もはや論外というべきである。
さらに,正社員としての労働契約を締結するに当たり,担当するクラスの時間帯等について,当初から,被告の指示に全て従うことを条件であるかのように求めることも,そもそも被告が所定労働時間を短縮した正社員(時短勤務)の制度を設けた趣旨に反する。すなわち,被告の就業規則上,
1日7時間勤務の正社員としての労働契約を締結した労働者ですら,3歳に満たない子を養育する場合には,その申出により,時間帯を午前11時から午後4時までに限定して,所定労働時間を短縮・変更することができる(認定事実⑴ウ)。このことに照らせば,育児休業終了後の正社員に対して準備された正社員(時短勤務)としての労働契約を締結するに当たり,
労働時間を上記のとおり調整することを検討すらせず,他の正社員と同様の就労時間,すなわち,被告の就業規則によれば最も遅くて午後11時まで(認定事実⑴ア(ウ)c)という可能性すらある就労を要求するというのは,およそ誠実な対応とは認められない。しかも,被告においてコーチが担当するクラスは,土曜日及び日曜日にも複数のコマが準備されているのであって(認定事実⑵),原告が希望した土曜日や日曜日の朝又は昼のクラスを原告に担当させる調整が不可能であったとは考え難い。これに加えて,
育児休業終了時において,原告にクラスを担当するにつきなにがしかの能力不足があったとの事実を認めるに足りる客観的な証拠はなく,かえって,被告は,育児休業終了後復職した原告に直ちにクラスを担当させていること(認定事実⑷ウ)に照らせば,原告について,育児休業を理由としてその終了後に担当させるクラスを制限することに合理的理由は認められない。
さらにいえば,仮に原告につき長期間授業を担当していなかったことから担当するクラスを制限しその後徐々に増やしていくという措置が必要であったとしても,それは,担当するクラス数を調整すれば足りることであって,勤務日数自体を制限して契約社員としての就労を継続させなければならない理由にはならない。


したがって,被告においては,少なくとも,原告を正社員に戻す時期について,スケジュール調整に必要な時間を考慮して,原告に対しより具体的に示すことができたはずであるが,復帰の時期等について何ら具体的な予定に関わる情報を提供せず,むしろ正社員復帰のために前記に挙げたよ
うなおよそ被告の主観的判断にのみかからしめる条件を付したことは,被告における契約社員(1年更新)の制度趣旨及びその内容に照らせば,不誠実な交渉態度であったといわざるを得ない。
そして,被告は,そのような自身の不誠実な交渉態度を棚上げする一方で,具体的かつ建設的な交渉の実施を求める原告の行動や姿勢等を問題視
して,特段の合理的な理由のないままにクラスの担当を外したほか,労働契約上の指示・命令の外形を用いて,懲戒処分の可能性等をちらつかせ,服務規律や企業秩序の維持と無関係な労働契約の締結に係る交渉場面における譲歩を労働者である原告に迫ったものであり,その態様は,業務改善指導書等の数にして17通もの多数に及ぶばかりか,本件組合から抗議を受けてもこれを止めない(認定事実⑺ウ,エ及びオ)など,使用者の労働者に対する行為として社会通念上許容されないものというほかない。

加えて,被告は,Hにおいて,原告が正社員への復帰を求めたことを契機に行った平成26年9月24日の面談の中で,原告の上記要求に対する被告の立場は同月19日の面談時におけるものと変わりはないとの旨を伝える過程において,原告がHに対して,女性が子を出産した後の働き方について,Hの妻を想定した場合どう考えるかと尋ねたのに対し,Hが

俺は彼女が妊娠したら,俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる。

との旨発言したものである(認定事実⑹)。
この発言は,上記のような原告とHとの間のやり取りの中で,単にHが自身の家庭観に基づく個人的な意見を表明したにすぎないといえなくもないが,そもそも被告において,育児休業終了後の女性の働き方の選択肢を
多様に設けていることを標ぼうしながら,女性が妊娠した場合には仕事を辞めてそのパートナーが責任を持ってその収入で女性と子を養うべきであるとして,暗にそのような覚悟あるいは労働契約関係の帰すうを含めた将来の展望もないままに妊娠した者とその配偶者に落ち度があると批判しているものと捉えられかねない不用意かつ不適切な言動であって,その発言
の場面が,原告が正社員への職場復帰を求めて行われた上長との面談の場であることを踏まえれば,交渉に臨む態度として許容されないものというべきである。

以上のとおり,被告は,原告が正社員への契約再変更を前提とする被告の立場を踏まえて契約社員から正社員への復帰を求めたのに対して,被告は,原告を正社員に戻す労働契約の締結に係る交渉において不誠実な対応に終始して,原告を正社員に復帰させる時期や条件等について具体的かつ合理的な説明を何ら行わなかったものであるから,契約準備段階における交渉当事者間の信義則上の義務に違反したものと認められる。したがって,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,これによって原告が被った損害を賠償するべき義務を負う。

他方,原告の主張するその余の被告の行為については,いずれも個別に取り上げて違法とまで解することができない。


そして,前記⑴及び⑵に述べたとおり,原告の交渉に臨む姿勢に対し,被告において形式的には育児休業終了後の女性の働き方の多様性を甘受するかのような姿勢を標ぼうしつつ,実際には原告のように多様な働き方を希望す
る者が現れた際には,これに誠実に向き合うどころか,むしろ被告の考えや方針の下に原告の考えを曲げるように迫り,これを改めないことを捉えて強引な業務指導改善を行う,原告の中核的な業務であったコーチ業務を奪う,原告の姿勢を批判・糾弾するといった姿勢に終始したことに照らせば,原告の受けた不利益の程度は著しいものといえ,被告の不誠実な対応はいずれも
原告が幼年の子を養育していることを原因とするものであることを併せて考慮すれば,被告が原告に対して支払うべき慰謝料の金額としては,100万円が相当である。
また,弁論の全趣旨によれば,原告は被告に対して上記慰謝料を請求する訴訟の追行を原告訴訟代理人弁護士らに委任したことが認められるところ,
これに要する弁護士費用のうち上記慰謝料額の10%に相当する10万円は被告の原告に対する上記不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。5争点⑷(原告による不法行為の有無)

前提事実⑷ウのほか,証拠(甲50,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告及び原告訴訟代理人弁護士らは,甲事件本訴を提起したことに関連して,このことを広く報道関係者に報告するために,本件記者会見を行ったものと認められる。そして,本件各証拠によっても,原告又は原告訴訟代理人弁護士らが本件記者会見において前提事実⑷ウの発言以外殊更に被告を非難するような具体的発言,あるいは被告にいわゆるマタニティハラスメントに当たる行為があったと述べたりその旨印象を与える発言をしたりしたとの事実は認められない(この点,被告からもその旨の主張はない。)。


次に,本件発言のうち,前提事実⑷ウ(ウ)の発言(

子供を産んで戻ってきたら,人格を否定された。

)は,原告が本件の経緯から受けた感想を述べたものと解され,なにがしかの事実を摘示したものとは認められない。また,その余の発言(

平成26年▲月に育児休業期間終了を迎えたが,保育園が見つからなかったため休職を申し出たものの認められず,被告から1週間3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた。

やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ,1年後に雇止めされた。

上司の男性が,『俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる』と発言した。

原告が労働組合に加入したところ,代表者が『あなたは危険人物です』と発言した。

)は,その内容自体及び発言がされた場に照らせば,いずれも一般に原告が甲事件本訴においてその旨主張しているとの事実を摘示したと理解されるものであって,被告代表者らが上記行為をしたとの事実を摘示したものではないというべきである。すなわち,本件発言は,本件記者会見に出席した報道関係者あるいは同人
らによる報道を見聞した一般人において,甲事件本訴における原告の認識のみを元にした主張や同事件に係る事実経過に対する原告の感想や所見を述べたものと理解されるにとどまるものであって,これが訴訟の一方当事者の一方的な言い分と受け止められるべきものであることは明らかである。したがって,本件発言がそれのみによって被告の名誉や信用が毀損される行為であ
るとは認められない。仮に本件記者会見に係る報道を見聞した者がそれのみにより被告に対する評価を低めたとしても,それは,当該報道機関による報道の仕方によるか,あるいはその者の偏った受け止め方というべきことであって,これが直ちに本件発言の結果であると解することは相当でない。⑶

したがって,その余の点について判断するまでもなく,乙事件の被告の請求は理由がない。

6甲事件本訴のうち将来請求の訴えの必要性
甲事件本訴の訴えのうち本判決確定の日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる判決を求める部分は,労働契約上の権利を有する地位を確認する判決の確定後もなお被告が原告からの労務提供の受領を拒絶してその請求権の存在をあえて争うことが予想されるなど特段の事情が認められな
い限り,あらかじめ請求する必要(民事訴訟法135条)があるとは解されず,訴えの利益がなく,不適法というべきである。
そして,本件において,上記特段の事情を認めるに足りる的確な証拠はない。7乙事件の訴えの利益
確認の訴えは,判決をもって法律関係等の存否を確定することが,その法律
関係等に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要・適切である場合に認められる。被告は,乙事件において,原告が被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めるものであるが,原告と被告との間における上記法律関係の存否については,原告の甲事件本訴における労働契約上の権利を有す
る地位にあることの確認を求める訴えに対する判決により確定されることとなるから,原告と被告との間における雇用契約上の権利義務関係の存否という被告の法律上の地位の危険,不安を除去する方法として,甲事件における原告の上記訴えに重ねて乙事件の訴えに対する判断は必要でない。
したがって,乙事件の訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法である。
8文書提出命令に対する判断
なお,平成26年9月1日の面談時の録音記録に係る原告の文書提出命令申立ては,上記準文書の内容が明らかでないこと及び既に同日の面談の内容につき認定したところに照らし,申立てに係る上記準文書について証拠調べの必要性が認められないから,これを却下する。
9結論
よって,甲事件本訴の訴えのうち,本判決確定の日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分はいずれも不適法であるからこれらを却下し,甲事件本訴のその余の訴えに係る請求は,①本件契約社員契約に基づき,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認,②平成27年▲月から本判決確定の日まで弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000
円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,③不法行為に基づき,慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する不法行為の後の日(本件契約社員契約の期間満了日の翌日)である平成27年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
るからその限りにおいてこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し,被告の甲事件反訴請求は理由がないからこれを棄却し,乙事件の訴えは不適法であるからこれを却下することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第11部

裁判長裁判官

阿部雅彦
裁判官

上田真

裁判官原島麻由は差し支えのため署名押印することができない。

裁判長裁判官

阿部雅彦
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